JPWO2018043567A1 - ヒト多能性幹細胞を除去する化合物 - Google Patents

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Abstract

本発明は,ヒト多能性幹細胞において抑制されるABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質となる細胞障害性抗がん剤を見出すこと,及び当該薬剤を用いた未分化細胞の効率的な除去方法を提供することを目的とする。具体的には,本発明は以下の式(I)で表される化合物,その合成中間体,当該化合物を用いた幹細胞を分化誘導した細胞集団中の未分化細胞の除去方法,及び当該化合物を有効成分として含有する,ABCB1及びABCG2トランスポーターを発現している細胞に選択的に障害を与える薬剤に関する。

Description

本発明は,iPS細胞やES細胞等のヒト多能性幹細胞を分化誘導した後に残存する未分化細胞を除去する化合物及びその利用方法に関する。
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSCs)は,基礎研究や再生治療の両方において大変貴重な資源となると考えられている。しかし,その臨床応用には多くの制限があり,例えば,移植中に未分化細胞が腫瘍化するリスクが指摘されている(非特許文献1,2)。幹細胞治療の安全性のために,完全な分化または未分化細胞の選択的除去が求められている。選択的な除去のためのいくつかの方法が既に報告されている:幹細胞表面抗原に対する抗体を用いた細胞選択と沈殿(非特許文献3,4);ヒト多能性幹細胞に特異的な細胞障害性抗体(非特許文献5);細胞培養条件の変形(非特許文献6,7);及び,ヒト多能性幹細胞に特異的なlectin−toxin融合タンパク質(非特許文献8)。ステアロイルCoAデサチュラーゼ(SCD1)の低分子阻害剤(非特許文献9)及びサバイビンの低分子阻害剤(非特許文献10)など,いくつかの化学的方法も有効であることが示されている。これらの有望な検討がなされているにもかかわらず,これらの除去方法のいずれも,再生医療の臨床応用段階に至っていない。異なる除去メカニズムを有する新たな化学物質の開発は,単独又は他の方法を補完することにより,腫瘍を起こしやすい未分化細胞の完全な除去を確実にするために求められている。
本発明者らは以前,蛍光分子である京都プローブ1(KP−1)が選択的にhiPSCsを標識することを報告した(非特許文献11,特許文献1)。メカニズムの研究により,その選択は,ヒト多能性幹細胞におけるATP結合カセット(ABC)トランスポーターの異なる発現パターンおよびKP−1のトランスポーター選択性に主に起因することが示された。KP−1の流出を引き起こす,2種類のABCトランスポーター,ABCB1(MDR1)およびABCG2(BCRP)は,ヒト多能性幹細胞において抑制されている。
国際公開第WO2013/05051号公報
K.Miuraら,Nat Biotechnol(2009)27:743−745 U.Ben−Davidら,Nat Rev Cancer(2011)11:268−277 C.Tangら,Nat Biotechnol(2011)29:829−834 K.Schrieblら,Tissue Eng Part A(2012)18:899−909 A.B.Chooら,Stem Cells(2008)26:1454−1463 S.Tohyamaら,Cell Stem Cell(2013)12:127−137 K.Matsuuraら,Tissue Eng Part C Methods(2015)21:330−338 H.Tatenoら,Stem Cell Reports(2015)4:811−820 U.Ben−Davidら,Cell Stem Cell(2013)12:167−179 M.O.Leeら,Proc Natl Acad SciUSA(2013)110:E3281−3290 N.Hirataら,Cell Rep(2014)6:1165−1174
ABCトランスポーターは癌治療における薬物耐性メカニズムにおいて重要な役割を果たす(K.Uedaら,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(1987)84:3004−3008;S.P.C.Coleら,Science(1992)258:1650−1654;J.I.Fletcherら,Nat Rev Cancer(2010)10:147−156)。広範囲の細胞障害性抗癌剤がABCトランスポーターの基質として報告されている。しかし,以前の研究には,そのトランスポーター選択性について矛盾した結果も含まれていた。そこで,本発明者らは最初に,ヒト多能性幹細胞において抑制されるABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質となる細胞障害性抗がん剤を開発することを目的とする。
最初に,本発明者らは,既存の抗がん剤の中からABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質を見出すべく,13種類の細胞障害性抗がん剤について4つの細胞株に対する効果を分析し,トランスポーター選択性を比較した。KB3−1細胞は,検出可能なレベルでABCトランスポーターを発現していない。KB3−1由来細胞(KB/ABCB1(Y.Taguchiら,Biochemistry(1997)36:8883−8889),KB/ABCC1(K.Nagataら,J Biol Chem(2000)275:17626−17630),及び,KB/ABCG2(N.Hirataら,Cell Rep(2014)6:1165−1174.))は,それぞれ,ABCB1,ABCC1,及びABCG2を過剰発現する。ほとんどの薬は少なくとも一つのABCトランスポーター−媒介性の抵抗を示した。
例えば,カンプトテシンとエトポシドは,ABCB1及びABCC1の両方の基質であった。これらの結果は,本発明者らの以前の研究結果(N.Hirataら,Cell Rep(2014)6:1165−1174)及び報告された結果(J.J.Strouseら,Anal Biochem(2013)437:77−87)と一致した。しかし,試験した化合物の中からABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質を見出すことができなかった。この結果は,ABCB1とABCC1が基質を共有し,ABCC1とABCG2が基質を共有しているにもかかわらず,ABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質を見出すことが非常に困難であることを意味していた。
WO2013/103501に記載された物質(以下,総称して「KP−1等」という)は,ヒト多能性幹細胞に対して優れた選択性を示すが,KP−1等には細胞障害性がないため,ヒト多能性幹細胞を除去することはできない。そこで,本発明者らは,KP−1等を細胞障害性物質に結合させることにより,得られた複合体が,KP−1等のABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質としての特性と,細胞障害性抗がん剤の細胞障害性の両方を維持することができれば,選択的かつ比較的安全な物質を見出すことができると考え,KP−1等と様々な細胞障害性抗がん剤とを共有結合で結合させて検討を行った。最初に発明者らは,細胞障害性抗がん剤であるコンブレタスタチンA−4(CA4)を含む5種類の抗がん剤とKP−1等とを結合させ,トランスポーターの基質としての特異性と,細胞障害活性を分析した。その結果,これらの細胞障害性抗がん剤と結合させることにより,KP−1等のABCG2に対する基質特異性が失われることを見出した。よって,本発明は,KP−1等と組み合わせることにより,ABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質となる,細胞障害性抗がん剤の複合体を与える化合物を見出すことを課題とした。
本発明者らは,ABCG2の基質である細胞障害性抗がん剤をKP−1等と結合させることにより,ABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質であり,かつ細胞障害性を有する物質を創出できることを見出し,本発明を完成させた。
よって,本発明は,ABCG2の基質である細胞障害性抗がん剤とKP−1等とが結合した複合体に関する。特に,当該複合体はABCB1とABCG2の両方に対する共通の基質であると共に,細胞障害性を有する物質である。より具体的には,本発明は以下に関する:
(1) 下記式(I)で表される化合物

[式中,Rは,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,C1〜6アルコキシ基,フェニル基,フェニルオキシ基,水酸基,又は−OP(O)(OR)(OR)基であり,
ここで,R及びRは,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R及びRは存在せず,
及びRは,同一又は異なって,それぞれ,水素原子,又はC1〜6アルキル基であり,
Xは,酸素原子,硫黄原子,又はNRであり,
ここで,Rは,水素原子又はC1〜6アルキル基であり,
Lは,−(CH(NH)(CO)(CH−で表されるリンカー部分を表し,
ここで,kは3〜7の整数を表し,mは0又は1であり,nは0又は1であり,pは0又は1であり,
Dは,ABCG2選択的細胞障害性物質を表し,
ここで,ABCG2選択的細胞障害性物質は,SN38,Mitoxantrone,Irinotecan,9−Aminocamptothecin,Doxorubicin,Daunorubicin,Epirubicin,Idarubicinol,Flavopiridol,CI1033,BBR3390,Methotrexate,Prazocin,Indolocarbazole,topoisomerase I 阻害剤であるNB−506及びJ−107088,Zidovudine(AZT),及びlamivudineから選択される物質である]。
(2) 下記式(II)で表される,(1)に記載の化合物

[式中,Rは,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,C1〜6アルコキシ基,フェニル基,フェニルオキシ基,水酸基,又は−OP(O)(OR)(OR)基であり,
ここで,R及びRは,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R及びRは存在せず,
Lは,−(CH(NH)(CO)(CH−で表されるリンカー部分を表し,
ここで,kは3〜7の整数を表し,mは0又は1であり,nは0又は1であり,pは0又は1であり,
Dは,ABCG2選択的細胞障害性物質を表し,
ここで,ABCG2選択的細胞障害性物質は,SN38,Mitoxantrone,Irinotecan,9−Aminocamptothecin,Doxorubicin,Daunorubicin,Epirubicin,Idarubicinol,Flavopiridol,CI1033,BBR3390,Methotrexate,Prazocin,Indolocarbazole,topoisomerase I 阻害剤であるNB−506及びJ−107088,Zidovudine(AZT),及びlamivudineから選択される物質である]。
(3) Rが,ハロゲン原子又は−OP(O)(OR)(OR)基である,(1)又は(2)に記載の化合物(R及びRは,(1)又は(2)の定義に従う)。
(4) Lが,−(CH(NH)(CO)(CH)−で表されるリンカー部分を表し,ここで,kは3〜5の整数を表す,(1)〜(3)のいずれか1項に記載の化合物。
(5) Dが,トポイソメラーゼ阻害剤であるABCG2選択的細胞障害性物質である,(1)〜(4)のいずれか1項に記載の化合物。
(6) Dが,SN38,又はMitoxantroneである,(1)〜(5)のいずれか1項に記載の化合物。
(7) 下記のいずれかの式で表される化合物(式中,原子を明示していない末端は,CHを表す)。


(8) 下記式(Ia)又は(Ib)で表される化合物


[式中,Rは,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,C1〜6アルコキシ基,フェニル基,フェニルオキシ基,水酸基,又は−OP(O)(OR)(OR)基であり,
ここで,R及びRは,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R及びRは存在せず,
及びRは,同一又は異なって,それぞれ,水素原子,又はC1〜6アルキル基であり,
Xは,酸素原子,硫黄原子,又はNRであり,
ここで,Rは,水素原子又はC1〜6アルキル基であり,
kは3〜7の整数を表す]。
(9) 下記式(IIa)又は(IIb)で表される化合物


[式中,R1は,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,C1〜6アルコキシ基,フェニル基,フェニルオキシ基,水酸基,又は−OP(O)(OR)(OR)基であり,
ここで,R5及びR6は,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R5及びR6は存在せず,
kは3〜7の整数を表す]。
(10) Rが,ハロゲン原子又は−OP(O)(OR)(OR)基である,(8)又は(9)に記載の化合物。
(11) kが3〜5の整数を表す,(8)〜(10)のいずれか1項に記載の化合物。
(12) (8)〜(11)のいずれか1項に記載の化合物と,ABCG2選択的細胞障害性物質とを反応させることを備える,(1)〜(7)のいずれか1項に記載の化合物の合成方法であって,ここで,ABCG2選択的細胞障害性物質が,SN38,Mitoxantrone,Irinotecan,9−Aminocamptothecin,Doxorubicin,Daunorubicin,Epirubicin,Idarubicinol,Flavopiridol,CI1033,BBR3390,Methotrexate,Prazocin,Indolocarbazole,topoisomerase I 阻害剤であるNB−506及びJ−107088,Zidovudine(AZT),及びlamivudineから選択される物質である,方法。
(13) 幹細胞を分化誘導した細胞集団に(1)〜(7)のいずれか1項に記載の化合物を未分化細胞が死滅する時間接触させること,及び,残存した(1)〜(7)のいずれか1項に記載の化合物を洗浄により除去することを含む,幹細胞を分化誘導した後に残存する未分化細胞の除去方法。
(14) 幹細胞がiPS細胞である,(13)に記載の除去方法。
(15) (1)〜(7)のいずれか1項に記載の化合物を有効成分として含有する,ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞に選択的に障害を与える薬剤。
(16) ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞が未分化細胞である,(15)に記載の薬剤。
(17) (1)〜(7)のいずれか1項に記載の化合物を含有する,ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞に選択的に障害を与えるためのキット。
本明細書において,「ハロゲン原子」とは,フッ素原子,塩素原子,臭素原子,又はヨウ素原子を意味し,好ましくは,フッ素原子である。
本明細書において,「C1〜6アルキル基」とは,直鎖又は分岐状の炭素数が1〜6個の飽和炭化水素基を意味し,例えば,メチル基,エチル基,n−プロピル基,i−プロピル基,n−ブチル基,sec−ブチル基,t−ブチル基,イソブチル基,ペンチル基,イソペンチル基,2,3−ジメチルプロピル基,ヘキシル基,及びシクロヘキシル基などが挙げられ,好ましくは,C1〜5アルキル基であり,より好ましくは,メチル基,エチル基,n−プロピル基,i−プロピル基,n−ブチル基,sec−ブチル基,t−ブチル基,イソブチル基,ペンチル基,イソペンチル基,又は2,3−ジメチルプロピル基である。更に好ましくは,C1〜3アルキル基であり,例えば,メチル基,エチル基,n−プロピル基,及びi−プロピル基,であり,最も好ましくは,メチル基又はエチル基である。
本明細書において,「C1〜6アルコキシ基」とは,前記C1〜6アルキル基と酸素原子を介して結合する基((C1〜6アルキル基)−O−基)のことであり,該アルキル基部分は直鎖状であっても分岐状であってもよい。C1〜6アルコキシ基とは,該アルキル基部分の炭素原子数が1〜6個であることを意味する。アルコキシ基としては,例えば,メトキシ基,エトキシ基,1−プロピルオキシ基,2−プロピルオキシ基,2−メチル−1−プロピルオキシ基,2−メチル−2−プロピルオキシ基,2,2−ジメチル−1−プロピルオキシ基,1−ブチルオキシ基,2−ブチルオキシ基,2−メチル−1−ブチルオキシ基,3−メチル−1−ブチルオキシ基,2−メチル−2−ブチルオキシ基,3−メチル−2−ブチルオキシ基,1−ペンチルオキシ基,2−ペンチルオキシ基,3−ペンチルオキシ基,2−メチル−1−ペンチルオキシ基,3−メチル−1−ペンチルオキシ基,2−メチル−2−ペンチルオキシ基,3−メチル−2−ペンチルオキシ基,1−ヘキシルオキシ基,2−ヘキシルオキシ基,3−ヘキシルオキシ基などが挙げられる。C1〜6アルコキシ基として,好ましくはC1〜5アルコキシ基であり,より好ましくは,メトキシ基,エトキシ基,n−プロピルオキシ基,i−プロピルオキシ基,n−ブチルオキシ基,sec−ブチルオキシ基,t−ブチルオキシ基,イソブチルオキシ基,ペンチルオキシ基,イソペンチルオキシ基,及び2,3−ジメチルプロピルオキシ基であり,更に好ましくは,C1〜3アルコキシ基(メトキシ基,エトキシ基,及びプロピルオキシ基)であり,より更に好ましくは,メトキシ基又はエトキシ基である。
本明細書において,「フェニルオキシ基」とは,フェニル基と酸素原子を介して結合する基(Ph−O−基)を意味する。
本明細書において,「−OP(O)(OR)(OR)基」として,好ましくは,RとRは同一であり,より好ましくは,−OP(O)(OCHCH)(OCHCH)基,−OP(O)(OCHPh)(OCHPh)基,又は「−OPO 2−基」である。
本発明の化合物においてRとして好ましくは,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,水酸基又は−OP(O)(OR)(OR)基で(ここで,R及びRは,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R及びRは存在しない)であり,より好ましくは,水素原子,フッ素原子,塩素原子,プロピル基,及び水酸基であり,最も好ましくは,フッ素原子である。Rがリン酸基の場合には,リン酸基の負電化を利用して,アルカリフォスファターゼを利用することにより細胞への取り込みを促進させることができる。また,R1の置換位置として好ましくはパラ位である。
の置換は,トランスポーター選択性に与える影響は低く,水素原子とC1〜6アルキル基のいかなる基であっても良いが,好ましくは,水素原子,メチル基,又はエチル基であり,最も好ましくは水素原子である。
の置換も,トランスポーター選択性に与える影響は低く,水素原子とC1〜6アルキル基のいかなる基であっても良いが,好ましくは,水素原子,メチル基,又はエチル基であり,最も好ましくは水素原子である。
Xは,酸素原子,硫黄原子,又はNR(ここで,Rは,水素原子又はC1〜6アルキル基)であり,好ましくは,酸素原子又は硫黄原子であり,最も好ましくは酸素原子である。
〜R及びXとして,好ましくは,Rがフッ素原子であり,R及びRが水素原子であり,Xが酸素原子である組み合わせである。
本明細書において,Lは,KP−1等部分と,ABCG2選択的細胞障害性物質部分を結合するリンカーを表しており,−(CH(NH)(CO)(CH−で表される。ここで,kは3〜7の整数を表し,好ましくは,3〜6であり,より好ましくは,3〜5又は3〜4であり,もっとも好ましくは3である。mは0又は1であり,好ましくは1である。nは0又は1であり,好ましくは1である。pは0又は1であり,好ましくは1である。k,m,n,pの組み合わせとして,好ましくは,それぞれ,3〜5,1,1,1であり,より好ましくは,3,1,1,1である。
本明細書において,Dで表される「ABCG2選択的細胞障害性物質」とは,ABCG2の選択的な基質であり,かつ細胞障害性を有する物質を意味し,具体的には,SN38,Mitoxantrone,Irinotecan,9−Aminocamptothecin,Doxorubicin,Daunorubicin,Epirubicin,Idarubicinol,Flavopiridol,CI1033,BBR3390,Methotrexate,Prazocin,Indolocarbazole,topoisomerase I 阻害剤であるNB−506及びJ−107088,Zidovudine(AZT),及びlamivudineを挙げることができる(L.Doyleら,Oncogene(2003)22:7340−7358)。ABCG2選択的細胞障害性物質として,好ましくは,SN38,及びMitoxantroneである。
ABCG2選択的細胞障害性物質側の結合部位は,ABCG2選択的細胞障害性物質のABCG2選択性と細胞障害性を失わせにくい部位であれば特に限定されるものではなく,適宜,有機化学の分野における技術常識を参酌して,これらの化合物が有する,水酸基,アシル基,アセチル基,ホルミル基,ベンゾイル基,カルボキシル基,アミド基,イミド基,シアノ基,スルホン酸基,ウレア基,イソニトリル基(−NC),アレン基(>C=C=C<),ケテン基(−C=C=O),ジイミド基(−N=C=N−),イソシアネート基(−N=C=O),イソチオシアネート基(−N=C=S),カルボニル基,アミノ基,イミノ基,シアノ基,アゾ基,アジ基,チオール基,スルホ基,ニトロ基,エーテル結合,エステル結合,アミド結合,及びウレタン結合などの官能基を利用して結合させることができる。
本発明はまた、本発明の化合物を有効成分として含有する,ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞に選択的に障害を与える薬剤に関する。本明細書全体に亘って、ある細胞が、ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されているか否かは、被験細胞におけるABCB1及びABCG2トランスポーター遺伝子の発現をmRNA又はタンパク質レベルで確認することにより決定することができる。あるいは、ABCB1及びABCG2のそれぞれのトランスポーター特異的マーカー分子の細胞外への輸送を確認し、輸送しない細胞はABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されているとして決定することができる。好ましくは、ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞は、未分化細胞である。本明細書全体に亘って、「ABCB1及び/又はABCG2トランスポーターの発現が抑制されている」とは、ABCB1及び/又はABCG2トランスポーターが発現していないことを必要とするものではなく、同じ環境中(例えば、同じ培養液中)に存在する他の細胞と比較して、ABCB1及び/又はABCG2トランスポーターの発現レベルが低いことを含む。例えば、同じ環境中(例えば、同じ培養液中)に存在する他の細胞と比較して、ABCB1及び/又はABCG2トランスポーターの発現レベルが25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、又は5%以下であることを意味していても良い。また、本明細書全体に亘って「選択的に障害を与える」とは、障害を与える目的細胞以外の細胞に障害を全く与えないことを意味する必要はなく、他の細胞と比較して目的の細胞により強く障害を与えることを含む。一例として、選択的に障害を与えるとは、選択的に殺傷を与えることを意味してもよく、すなわち、目的の細胞を殺傷することができるが、他の細胞は殺傷しないことを意味していても良い。また、本発明の選択性は、トランスポーターによりもたらされるのみならず、これに加えて結合する薬物の毒性メカニズム(例えば、トポイソメラーゼ阻害活性など)によりもたらされてもよい。
本発明の化合物を含有する,ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞に選択的に障害を与えるためのキットは,前記化合物に加えて,当該化合物を封入する容器や説明書を含んでいても良い。
本発明の式(I)又は式(II)で表される化合物は,ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞に選択的に障害を与えることができることから,これらのトランスポーターの発現が抑制されている未分化細胞の除去に有用である。特に本発明の式(I)又は式(II)で表される化合物は,蛍光物質であることから,未分化細胞除去後の残存状況を蛍光を利用して検出することができるため,確実なクリアランス評価が可能となる。また,本発明の式(Ia),(Ib),(IIa)又は(IIb)で表される化合物は,本発明の式(I)又は式(II)で表される化合物を合成するための合成中間体として有用である。
KP−1の構造活性相関の概要を示す図である。数値はそれぞれ,KB3−1細胞,KB/ABCB1細胞(ABCB1),KB/ABCC1細胞(ABCC1),及びKB/ABCG2細胞(ABCG2)のImageJによる蛍光イメージから計算して得られた蛍光強度を示す。 複合体16の選択性を示す。(A)複合体16の化学構造を示す。(B)CA4,化合物14(14),及び複合体16(Conjugate 16)の,KB3−1細胞,KB/ABCB1細胞,KB/ABCC1細胞,及びKB/ABCG2細胞に対するIC50値を示す表である。(C)複合体16(1μM)で処理した,KB3−1細胞,KB/ABCB1細胞,KB/ABCC1細胞,及びKB/ABCG2細胞の蛍光顕微鏡画像の写真である。スケールバーは200μmを表す。 複合体17の選択性を示す。(A)複合体17の化学構造を示す。(B)SN38及び複合体17(Conjugate 17)の,KB3−1細胞,KB/ABCB1細胞,KB/ABCC1細胞,及びKB/ABCG2細胞に対するIC50値を示す表である(n=2)。(C)CsA(10μM)又はKo143(10μM)の存在下または非存在下で,複合体17(1μM)で処理した,KB3−1細胞,KB/ABCB1細胞,KB/ABCC1細胞,及びKB/ABCG2細胞の蛍光顕微鏡画像の写真である。スケールバーは200μmを表す。 複合体18の選択性を示す。(A)複合体18の化学構造を示す。(B)ミトキサントロン及び複合体17(Conjugate 17)の,KB3−1細胞,KB/ABCB1細胞,KB/ABCC1細胞,及びKB/ABCG2細胞に対するIC50値を示す表である(n=2)。(C)CsA(10μM)又はKo143(10μM)の存在下または非存在下で,複合体18(1μM)で処理した,KB3−1細胞,KB/ABCB1細胞,KB/ABCC1細胞,及びKB/ABCG2細胞の蛍光顕微鏡画像の写真である。スケールバーは200μmを表す。 部分的に分化したhiPSCsコロニーを,KP−1(1μM),複合体17(1μM),または複合体18(1μM)で標識した写真である。コロニー中央部が分化細胞を表す。スケールバーは200μmを表す。 複合体17(5μM),複合体18(5μM),又はコントロールであるDMSO(0.1%)が,iPSコロニー及び部分的に分化したiPSCsのアルカリフォスファターゼ活性に対して与える影響を示す写真である。細胞は複合体で72時間処理した後,アルカリフォスファターゼ比色染色を行った。 複合体17,複合体18,又はDMSOで処理された,部分的に分化したiPSCsにおける,nanogのqPCR解析の結果を表すグラフである。hiPSCsをオールトランスレチノイン酸(0.5μM)と共に48時間培養することにより部分的に分化したhiPSCsを調製し,ついで各化合物(5μM)で72時間処理した。nanogの発現レベルは,gadphにより正規化した。縦軸はGAPDHに対する割合(%)を示し,横軸は処理した各化合物を示す。 複合体17,複合体18,又はDMSOで処理された,部分的に分化したiPSCsにおける,sox2のqPCR解析の結果を表すグラフである。hiPSCsをオールトランスレチノイン酸(0.5μM)と共に48時間培養することにより部分的に分化したhiPSCsを調製し,ついで各化合物(5μM)で72時間処理した。sox2の発現レベルは,gadphにより正規化した。縦軸はGAPDHに対する割合(%)を示し,横軸は処理した各化合物を示す。 複合体17,複合体18,又はDMSOで処理された,部分的に分化したiPSCsにおける,oct3/4のqPCR解析の結果を表すグラフである。hiPSCsをオールトランスレチノイン酸(0.5μM)と共に48時間培養することにより部分的に分化したhiPSCsを調製し,ついで各化合物(5μM)で72時間処理した。oct3/4の発現レベルは,gadphにより正規化した。縦軸はGAPDHに対する割合(%)を示し,横軸は処理した各化合物を示す。 複合体17で72時間処理された,hiPSCs(201B7及び253G1)並びにヒト初代細胞の生存率を表すグラフである。濃いグレーの丸はiPS201B7を表し,濃いグレーの四角はiPS253G1を表し,薄いグレーの四角は副腎微小血管細胞を表し,薄いグレーの丸はアストロサイトを表し,ひし形は脳微小血管細胞を表し,下向き三角は前立腺上皮細胞を表し,かつ,上向き三角は肝細胞を表す。縦軸は生存率(%)を表し,横軸は複合体17の濃度(μM)の対数値(Log)を表す。 シクロスポリン(黒四角)若しくはKo143(黒三角)の存在下,又は非存在下(黒丸),複合体17で処理したヒト初代細胞の生存率を表すグラフである。生存率は,WST−8ベースの比色アッセイ(Cell Countingキット−8,同仁化学)により決定した。450nmにおける吸光度を測定した。トランスポーター阻害剤である,シクロスポリンA(10μM)またはKo143(10μM)は,複合体17とのインキュベーションの1時間前に添加した。縦軸は生存率(%)を表し,横軸は複合体17の濃度(μM)の対数値(Log)を表す。 SN38と複合体17の選択性を表すグラフである。hiPSまたはヒト初代体細胞(副腎微小血管,アストロサイト,脳微小血管細胞,前立腺上皮細胞,および肝細胞)を,SN38(0.1または1μM)または複合体17(1または10μM)で72時間処理した。(A)hiPSCsの生存率レベルが〜20%である場合における,SN38(0.1μM)と複合体17(1μM)との比較を表す。(B)hiPSCsの生存率レベルが〜5%である場合における,SN38(1μM)と複合体17(10μM)との比較を表す。いずれも生存率はWST−8ベースの比色アッセイによって決定した。複合体17がSN38よりも高い選択性を示すことが明らかとなった。縦軸は生存率(%)を表し,横軸は左から順に,iPS201B7細胞,副腎微小血管細胞,アストロサイト,脳微小血管,前立腺上皮細胞,および肝細胞の結果を表す。 SN38と複合体17による阻害を表す写真である。SN38(0,1,または10μM)または複合体17(0,1または10μM)と予め混合した,スーパーコイルDNAを,組換えヒトトポイソメラーゼIと共に37℃で30分間インキュベートした。「Super Coiled」はスーパーコイルドDNAを表し,「TOPO I」は,ヒト組換えトポイソメラーゼIを表す。反応混合物を1%アガロースゲル上に負荷した。電気泳動後,ゲルをTAE緩衝液中の臭化エチジウムで染色し,UV照明下で撮影した。 複合体17の除去を表すグラフである。部分的に分化hiPSCsは,オールトランスレチノイン酸(0.5μM)と共に48時間インキュベートすることによって調製し,次いで複合体17(5μM)で72時間処理した。複合体17で細胞を3日間処理した後,培地を回収した。その後,細胞を2mLの新鮮なES培地で3回洗浄し,洗浄培地を回収した。培地試料を遠心分離し,蛍光強度(528nmでの励起)を分析した。グラフの縦軸は蛍光強度を示し,横軸は波長(nm)を示す。
(本発明の化合物の製造方法)
本発明の化合物は,本願実施例における化合物1〜13の合成を参酌して,KP−1等由来の中間体を合成し,次いで,必要に応じてABCG2選択的細胞障害性物質由来の中間体を合成し,最後にKP−1等の中間体とABCG2選択的細胞障害性物質またはそれ由来の中間体とを反応させることにより製造することができる。
例えば,本発明のKP−1等由来の中間体は,以下の工程により合成することができる。

[式中,R,R,R,及びXは,上記定義に従う。L’は,リンカーLと同じ又はその一部であっても良い]
KP−1等の中間体とABCG2選択的細胞障害性物質との反応は,L’の末端の基,及びABCG2選択的細胞障害性物質が有する官能基の種類に応じて,適宜有機化学の分野で周知の方法で結合させることにより達成することができる。また,必要に応じて,L’の末端の基と結合しやすい基を予めABCG2選択的細胞障害性物質に導入して,ABCG2選択的細胞障害性物質由来の中間体を合成してから,KP−1等の中間体と反応させても良い。
(未分化細胞除去方法)
一態様において,本発明は,幹細胞を分化誘導した細胞集団に本発明の化合物を未分化細胞が死滅する時間接触させること,及び,残存した前記化合物を洗浄により除去することを含む,幹細胞を分化誘導した後に残存する未分化細胞の除去方法に関する。
本明細書において,「幹細胞」とは,多能性及び自己複製能を有する細胞を意味する。本明細書において,「多能性」とは,多分化能と同義であり,分化により複数の系統の細胞に分化可能な細胞の状態を意味する。本明細書における,多能性は,生体を構成する全ての種類の細胞に分化可能な状態(分化全能性(totipotency)),胚体外組織を除く全ての種類の細胞に分化可能な状態(分化万能性(pluripotency)),一部の細胞系列に属する細胞に分化可能な状態(分化多能性(multipotency)),及び1種類の細胞に分化可能な状態(分化単能性(unipotency))を含む。よって,本明細書における「幹細胞」は,幹細胞,ES細胞,iPS細胞,神経幹細胞,造血幹細胞,間葉系幹細胞,肝幹細胞,膵幹細胞,皮膚幹細胞,筋幹細胞,又は生殖幹細胞を含む。好ましくは,本明細書における「幹細胞」は,分化万能性を有する細胞であり,より好ましくは,胚性幹細胞(ES細胞)及び人工多能性幹細胞(iPS細胞)である。ある細胞が幹細胞であるかどうかは,たとえば,体外培養系において胚様体(embryoid body)を形成する細胞,又は,分化誘導条件下で培養(分化処理)した後に所望の細胞に分化する細胞が幹細胞であるとして確認することができる。または,幹細胞であるかどうかは,生体を用いて,免疫不全マウスへ移植することにより奇形種(テラトーマ)を形成する細胞,胚盤胞への注入によりキメラ胚を形成する細胞,生体組織への移植や腹水への注入により増殖する細胞が幹細胞であるとして確認することができる。あるいは,幹細胞であるかどうかは,アルカリフォスファターゼ染色,SSEA3染色,SSEA4染色,TRA−1−60染色,及び/又はTRA−1−81染色に陽性を示す細胞;oct3/4,nanog,sox2,cripto,dax1,eras,fgf4,esg1,rex1,zfp296,utf1,gdf3,sall4,tbx3,tcf3,dnmt3l,及び/又はdnmt3b遺伝子を発現している細胞;miR−290,及び/又はmiR−302を発現している細胞が幹細胞であるとして確認することもできる。あるいは,ある細胞が幹細胞であるか否かは,例えば,テロメラーゼ逆転写酵素,又はサバイビンの発現レベルが高い細胞が幹細胞であるとして判定することができる。
好ましくは,幹細胞は,生体に存在するすべての細胞に分化可能である多能性を有し,かつ,増殖能をも併せもつ。該多能性幹細胞の例としては,胚性幹(ES)細胞,核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹細胞(「ntES細胞」),生殖幹細胞(「GS細胞」),胚性生殖細胞(「EG細胞」),および人工多能性幹(iPS)細胞が挙げられるが,これらに限定されない。好ましい前記多能性幹細胞の例として,ES細胞,ntES細胞,およびiPS細胞が挙げられる。
本明細書において,「分化」とは,多能性細胞の分裂によって特定の機能的又は形態的特徴を有する娘細胞を生じる現象をいう。本明細書において「分化処理」及び「分化誘導処理」とは同義であり,幹細胞を分化細胞へと誘導させるための処理を意味する。細胞の分化は,様々な方法により誘導されることが報告されている。多能性細胞は,分化させる細胞の種類等に応じて,分化誘導物質などを利用した分化誘導処理により分化させることができる。既に多くの分化誘導方法が当業者に知られているが,例えば,特開2002−291469に記載される神経幹細胞への分化誘導法,特開2004−121165に記載される膵幹様細胞への分化誘導法,および特表2003−505006に記載される造血細胞への分化誘導法を挙げることができる。さらに,胚様体の形成による分化誘導法の例として,特表2003−523766等に記載される方法等が挙げられる。「分化細胞」とは,分化して生じた特定の機能的又は形態的特徴を有する娘細胞を意味する。分化細胞は通常安定しており,その増殖能は低く,別のタイプの細胞に分化することは例外的にしか起こらない。
「未分化細胞」とは,分化していない細胞,もしくは分化途中の未分化細胞,および分化が不完全な細胞を意味する。本明細書においては,特にそのように解することが不整合である場合を除き,「未分化細胞」とは,分化誘導処理したにもかかわらず,分化細胞とならなかった細胞を意味する。本明細書における未分化細胞は必ずしも前述の幹細胞の性質を完全に有することを必要とするものではなく,分化細胞と比較して(自己)増殖能が高い(例えば,増殖速度が2倍以上,3倍以上,5倍以上,10倍以上など)細胞を意味する。ある細胞が未分化細胞であるか否かは,例えば,c−Myc等の未分化を示すマーカーが活性化している細胞,あるいは,テロメラーゼ逆転写酵素の発現レベルが高い細胞として判定することができる。本発明の未分化細胞除去方法において、未分化細胞はABCB1及び/又はABCG2トランスポーターの発現が抑制されている。
幹細胞を分化誘導した細胞集団に本発明の化合物を接触させる時間は,未分化細胞が死滅する時間であれば特に制限されるものではないが,例えば,24〜120時間,36〜96時間,又は72時間とすることができる。細胞集団への化合物の接触は,通常の当該細胞の培養条件下に本発明の化合物を共存させることで行うことができる。
未分化細胞を殺傷した後,残存した前記化合物の除去は,培地やPBSによる洗浄等により簡便に達成することが出来る。洗浄は,2回以上行うことが好ましい。また,洗浄に使用した培地やPBSをサンプルとして,蛍光強度を測定することにより,除去された化合物量を測定することができる。あるいは,回収した分化細胞の蛍光を直接測定することにより,残存化合物量を測定することができる。望ましくは,洗浄は,洗浄に使用した培地やPBSをサンプル,及び/又は分化細胞における蛍光強度が,バックグラウンドと同程度となるまで行う。
以下に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが,これは本発明の範囲を限定するものではない。なお,本願明細書全体を通じて引用する文献は,参照によりその全体が本願明細書に組み込まれる。
(材料と方法)
化学試薬は,シグマアルドリッチジャパン株式会社,和光純薬株式会社,東京化成工業(TCI)から購入し,そのまま使用した。化学合成のために使用した溶媒は,使用前に乾燥させた。高速液体クロマトグラフィーは,島津LC−2010C及び日立HPLCシステム(L−7260 オートサンプラー,L−7150 ポンプ,D−7600 インターフェース,L−7410 UV検出器)を用いて行った。マススペクトルは,島津LCMS−2010を用いてESIモードで記録した。3つの複合体の高分解能質量スペクトルは,JEOL JMS LG−2000をFABモードで使用して得た。溶液1H−NMRスペクトルはJEOL JNM−ECP 300MHzまたはJEOL JNM−ECA 600MHzのスペクトロメーターで収集した。蛍光スペクトルは,LS55蛍光分光計(Perkin Elmer社)を用いて記録した。
(細胞培養)
KB3−1及びKB3−1由来細胞(ABCB1を安定的に発現するKB/ABCB1(Y.Taguchiら,Biochemistry(1997)36:8883−8889),ABCC1を安定的に発現するKB/ABCC1(K.Nagataら,J Biol Chem(2000)275:17626−17630),及び,ABCG2を安定的に発現するKB/ABCG2(N.Hirataら,Cell Rep(2014)6:1165−1174.))を,10%熱不活化ウシ胎児血清(Equitech−Bio社,カーヴィル,テキサス州)および1%抗生物質(シグマアルドリッチ社,セントルイス,ミズーリ州)含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM,Gibco社)中で培養した。SNLフィーダー細胞を,7%の熱不活化ウシ胎児血清(Equitechバイオ社,カーヴィル,テキサス州),1%のL−グルタミン(200mM,ギブコ社),及び1%の抗生物質を含む,4.5g/Lのグルコース含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM高グルコース,ナカライテスク,日本)を含有する培地で培養した。ヒト体初代細胞を,セルシステムズ社から購入した,MSCM(気管支上皮細胞),BEGM(副腎微小血管細胞),又はCSC(星状膠細胞,脳微小血管細胞,前立腺上皮細胞,及び肝細胞)中で培養した。hiPSCsについては,SNLフィーダー細胞を播種したゼラチンプレコートディッシュ,および,4ng/mLのbFGF(リプロセル)を含むES霊長類培地(リプロセル)を定期的なメンテナンスのために使用した。全ての細胞を37℃,5%COの加湿インキュベーター中で維持した。
(部分的に分化したhiPSCsの調製)
hiPSCsを24時間継代培養した後,0.5μMのオールトランスレチノイン酸を添加し,細胞を更に48または72時間インキュベートした。その後,部分的に分化したhiPSCsを,被験化合物で72時間処理した。
(細胞ベースアッセイ)
被験細胞を,1ウェルあたり5000細胞となるように96ウェルプレートに播種した。播種から24時間後,被験化合物を様々な濃度で添加した。24または72時間インキュベーション後,細胞をPBSで洗浄した。生存率(%)はWST−8ベースの比色アッセイ(細胞計数キット−8,同仁化学)により決定した。450nmにおける吸光度を測定し,IC50を用量応答値に基づいて計算した。生存率(%)は,5000細胞を播種した時の値を100として求めた。トランスポーター阻害剤を用いた実験のため,シクロスポリンA(10μM)またはKo143(10μM)を,被験化合物とのインキュベーションの1時間前に添加した。
(hiPSC−コロニー形成アッセイ)
ヒトESCsまたはhiPSCsを6ウェルプレートに播種し,72時間増殖させた後,被験化合物で72時間処理した。細胞を4%パラホルムアルデヒドで1時間固定し,PBSで2回洗浄し,1%クリスタルバイオレット溶液(シグマアルドリッチ社)で15分間染色した。次いで,プレートをPBS及び蒸留水で3〜5回洗浄し,画像を撮影する前に空気乾燥させた。定量のため,1%SDS溶液を各ウェルに添加し,15分間インキュベートした。溶出液の570nmにおける吸光度を測定した。
(KB3−1細胞株およびhiPSCコロニーの蛍光顕微鏡イメージング)
KB3−1とKB3−1由来細胞株を1ウェルあたり5000細胞となるように96ウェルプレート(Nunc 165305,サーモフィッシャーサイエンティフィック社)上に播種した。細胞播種の24時間後に被験化合物(1μMまたは10μM)を添加し,細胞を37℃で2時間インキュベートした。処理した細胞をPBSで洗浄し,10%FBSを含有するDMEM中,レーザ励起波長405,488,及び561nmの共焦点顕微鏡を使用して観察した(Cell Voyager 1000,横河電機株式会社)。定量分析は,蛍光強度を測定し,NIH ImageJ,バージョン1.30をもちいて分析することにより行った。hiPSCs(クローン#201B7)を,μ−ディッシュ(高さ35mm,ibidi社)中のSNLフィーダー細胞上に播種した。インキュベーション6日後に,iPS細胞のドーナツ状のコロニーが得られた。コロニーをKP−1(1μM),複合体17(1μM),または複合体18(10μM)と共に,37℃で2時間インキュベートした。処理した細胞をPBSで洗浄し,4ng/mLのbFGFを含むES霊長類培地中で観察した。蛍光イメージングは,レーザー励起波長405,488,および561nmの共焦点顕微鏡(Cell Voyager 1000,横河電機株式会社)を用いて撮影した。
(チューブリン重合アッセイ)
チューブリン重合アッセイキットは,Cytoskeleton(BK006P)から購入し,製造業者の指示に従ってアッセイを行った。各成分の最終濃度は,PIPES(pH6.9) 80mM,MgCl 2mM,EGTA 0.5mM,グリセロール 10.2%,GTP 1mM,及びチューブリン 3mg/mLであった。反応系を,チューブリンを含有しない状態で37℃に予備加温し,次いでチューブリンの添加により反応を開始した。チューブリンの添加直後,及び,その後1分間隔で60分間,340nmにおける吸収をSpectraMax M5(Molecular Devices社)を用いて測定した。CA4およびタキソールを陽性対照として用い,分子14及びDMSO単独を陰性対照として用いた。
(アルカリホスファターゼアッセイ)
hiPSCsのアルカリフォスファターゼ活性は,アルカリフォスファターゼ基質キット(SK−5300,Vector(登録商標)ブルー)を用いて測定した。hiPSCコロニーと部分的に分化したhiPSCsを上述の方法で調製した。次いで,細胞をSK−5300で処理し,室温で1時間インキュベートして洗浄し,最後にPBS緩衝液中で維持した。
(定量的ポリメラーゼ連鎖反応(QPCR))
オールトランスレチノイン酸(0.5μM)と共に48時間インキュベートすることにより部分的に分化したhiPSCsを調製した後,被験化合物と共に72時間処理した。トータルmRNAをISOGEN(株式会社ニッポンジーン)を用いて単離し,PrimeScript(宝酒造社)を用いてcDNAを合成した。QPCRは,高速SYBR(登録商標)Greenマスターミックスを用い,7500FastリアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems社)で行った。プライマー配列を以下の表1に示す。
(トポイソメラーゼI阻害アッセイ)
複合体17のトポイソメラーゼIが阻害活性は,スーパーコイルDNA緩和アッセイにより試験した。スーパーコイルDNA(TopoGEN社)を,複合体17(0,1,若しくは10μM)又は対照としてSN38(0,1,若しくは10μM)と予め混合された,組換えヒトトポイソメラーゼI(野生型タンパク質,TopoGEN社)と共に37℃で30分間インキュベートした。反応を停止緩衝液(TopoGEN社)で終了させ,反応混合物を1%アガロースゲルにロードした。電気泳動後,ゲルを,TAE緩衝液中の臭化エチジウムで染色し,UV照明下で撮影した。
(複合体17の除去)
オールトランスレチノイン酸(0.5μM)と共に48時間インキュベートすることにより部分的に分化したhiPSCsを調製し,その後複合体17(5μM)で72時間処理した。複合体17で細胞処理した3日後,培地を回収した。細胞を2mlの新鮮なES培地で3回洗浄し,洗浄培地を回収した。得られた培地試料を遠心分離し,蛍光強度(励起波長528nm)を分析した。
(化合物1〜15の合成)

(実施例1)化合物1〜8の合成
化合物1−8は,いずれも以下の方法に従って合成した。3−アミノフェノール(3.0当量)および置換されたベンズアルデヒド(1.0当量)のメタンスルホン酸懸濁液を130℃で24時間撹拌した。次いで,反応混合物を周囲温度まで冷却し,氷水で希釈し,KCOで約pH6となるように調整して濾過した。沈殿物を水で洗浄し,メタノールに溶解して減圧下で濃縮した。残留物をHPLCにより精製した(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0)。
化合物1.紫色の油状物.収率:0.5%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.72−7.64(m,1H),7.44−7.39(m,1H),7.29−7.24(m,4H),6.86(dd,J=9.1,2.2 Hz,2H),6.82(d,J=2.2 Hz,2H);ESIMS m/z=305[M]+
化合物2.紫色の油状物.収率:0.6%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.76−7.69(m,1H),7.51−7.40(m,3H),7.23(dd,J=6.3,1.1 Hz,2H),6.87(dd,J=9.1,2.2 Hz,2H),6.83(d,J=2.2 Hz,2H);ESIMS m/z=305[M]+
化合物3.紫色の油状物.収率:1.8%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.68(dd,J=5.5,1.9 Hz,2H),7.46(dd,J=6.5,2.1 Hz,2H),7.28(d,J=9.1 Hz,2H),6.87(dd,J=9.1,2.2 Hz,2H),6.82(d,J=9.1 Hz,2H);ESIMS m/z=321[M]+
化合物4.紫色の油状物.収率:1.5 %.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.84(dd,J=6.6,1.9 Hz,2H),7.39(dd,J=6.6,1.9 Hz,2H),7.28(d,J=9.1 Hz,2H),6.86(dd,J=9.1,2.2 Hz,2H),6.81(d,J=2.2 Hz,2H);ESIMS m/z=365[M]+
化合物5.紫色の油状物.収率:1.3%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.67−7.64(m,3H),7.47−7.44(m,2H),7.29(d,J=9.1 Hz,2H),6.86(dd,J=9.1,2.2 Hz,2H),6.82(d,J=1.9 Hz,2H);ESIMS m/z=287[M]+
化合物6.紫色の油状物.収率:0.7%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.49(d,J=8.3 Hz,2H),7.38(dd,J=8.3,1.9 Hz,2H),7.29(d,J=9.1 Hz,2H),6.85(dd,J=9.1,1.9 Hz,2H),6.82(d,J=2.2 Hz,2H),2.76(t,J=7.7 Hz,2H),1.82−1.70(m,2H),1.03(t,J=7.4 Hz,3H);ESIMS m/z=329[M]+
化合物7.紫色の油状物.収率:0.2%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.44(d,J=9.1 Hz,2H),7.31(dd,J=6.6,2.2 Hz,2H),7.05(dd,J=6.6,1.9 Hz,2H),6.86(dd,J=9.1,1.9 Hz,2H),6.80(d,J=2.2 Hz,2H);ESIMS m/z=303[M]+
化合物8.紫色の油状物.収率:0.2%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.42(d,J=8.7 Hz,2H),7.31(dd,J=6.6,1.9 Hz,2H),7.05(dd,J=6.6,1.9 Hz,2H),6.85(dd,J=9.1,2.2 Hz,2H),6.78(d,J=2.2 Hz,2H);ESIMS m/z=303[M]+
(実施例2)化合物9及び10の合成
5−フルオロ−1,3−イソベンゾフランジオン(5−fluoro−1,3−isobenzofurandione)(498mg,3mmol)および3−アミノフェノール(982mg,9mmol)のメタンスルホン酸(9mL)懸濁液を130℃で24時間撹拌した。周囲温度まで冷却した後,メタノール(25mL)を反応物に添加し,一晩還流した。次いで,反応混合物を周囲温度まで冷却し,氷水で希釈し,KCOで約pH6に調整した後,濾過した。沈殿物を水で洗浄してからメタノールに溶解し,減圧下で濃縮した。残留物をHPLCにより精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0),0.9mgの化合物9と,紫色の油状物として0.8mgの化合物10を得た。
化合物9.紫色の油状物.収率:0.8%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 8.06(dd,J=9.6,2.1 Hz,1H),7.66(ddd,J=8.1,8.1,2.8 Hz,1H),7.49(dd,J=8.9,5.5 Hz,1H),7.22(d,J=8.9 Hz,2H),7.15(d,J=2.1 Hz,1H),6.99(dd,J=9.0,2.0 Hz,1H),6.96(dd,J=9.6,2.0 Hz,1H),6.92(d,J=2.0 Hz,2H),3.65(s,3H);ESIMS m/z=363[M]+
化合物10.紫色の油状物.収率:0.7%.1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 8.40(dd,J=8.9,5.5 Hz,1H),7.57(ddd,J=8.3,8.3,2.8 Hz,1H),7.32(dd,J=8.3,2.8 Hz,1H),7.23(d,J=9.6 Hz,2H),7.16(d,J=2.1 Hz,1H),6.99(dd,J=9.6,2.1 Hz,1H),6.97(dd,J=9.6,2.1 Hz,1H),6.92(d,J=2.1 Hz,1H),3.62(s,3H);ESIMS m/z=363[M]+
(実施例3)化合物11の合成
レゾルシノール(1.32g,12mmol)および4−フルオロベンズアルデヒド(422μL,4mmol)のメタンスルホン酸(12mL)懸濁液を130℃で24時間撹拌した。次いで,反応混合物を周囲温度まで冷却してから氷水で希釈し,KCOで約pH6に調整した後,濾過した。沈殿物を水で洗浄し,メタノールに溶解し,減圧下で濃縮した。残留物をHPLCで精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1から1:0),紫色の油状物として3mgの化合物11を得た。収率:0.1%。
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.70−7.61(m,4H);7.51−7.48(m,2H),7.24−7.15(m,4H);ESIMS m/z=307[M+H]+
(実施例4)化合物12の合成
3−(メチルアミノ)フェノール(411mg,3.3mmol)および4−フルオロベンズアルデヒド(176μL,1.67mmol)のメタンスルホン酸(11mL)懸濁液を,130℃で24時間撹拌した。次いで,反応混合物を周囲温度に冷却してから氷水で希釈し,KCOにより約pH6に調整した後濾過した。沈殿物を水で洗浄してからメタノールに溶解し,減圧下で濃縮した。残留物をHPLCにより精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0),紫色の油状物として23mgの化合物12を得た。収率:3.1%
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.48−7.36(m,2H);7.21(d,J=9.1 Hz,2H),7.04−6.90(m,2H),6.83(dd,J=9.3,1.7 Hz,2H),6.69(s,2H),2.99(s,6H);ESIMS m/z=333[M]+
(実施例5)化合物13の合成
3−((3−アミノプロピル)アミノ)フェノール臭化水素酸塩(2.5g,10mmol)(Firmino,A.D.G.;Goncalves,M.S.T.Tetrahedron Lett.2012,53,4946.),3−アミノフェノール(1.1g,10mmol),及び4−フルオロベンズアルデヒド(710μL,6.7mmol)のメタンスルホン酸(25mL)懸濁液を130℃で24時間撹拌した。次いで,反応混合物を周囲温度まで冷却してから氷水で希釈し,KCOで約pH6に調整した後,濾過した。沈殿物を水で洗浄してからメタノールに溶解し,減圧下で濃縮した。残留物をHPLCで精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0),紫色の油状物として150mgの化合物13を得た。収率:4.7%。
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.53−7.48(m,2H);7.45−7.39(m,2H),7.31(dd,J=9.1,2.2 Hz,2H),6.93−6.90(m,2H),6.86(dd,J=10.4,2.2 Hz,2H),3.51(t,J=7.1 Hz,2H),3.09(t,J=7.7 Hz,2H),2.12−2.00(m,2H);ESIMS m/z=362[M]+
(実施例6)化合物14の合成
化合物13(20mg,42μmol)の乾燥DMF(600μL)溶液に,2−メトキシ酢酸(3.8mg,42μmol),HATU(19mg,54μmol),HOBT(7mg,54μmol),およびDIPEA(20mg,155μmol)を添加した。反応混合物を室温で3時間撹拌した。反応終了後,混合物をメタノールで希釈し,HPLCで精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0),紫色の油状物として8.8 mgの化合物14を得た。収率:38.3%。
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.52−7.48(m,2H);7.44−7.38(m,2H),7.29(dd,J=9.1,1.1 Hz,2H),6.88−6.82(m,4H),3.89(s,2H),3.44−3.33(m,7H),1.87−1.97(m,2H);ESIMS m/z=434[M]+
(実施例7)化合物15の合成
化合物15は既に報告された方法により合成した(Hirata,N.ら,M.Cell Rep(2014)6,1165.)。紫色の油状物。収率:2.4%。
1H−NMR(600 MHz,acetic acid−d4) δ 7.51(dd,J=8.9,5.5 Hz,2H),7.40(dd,J=8.9,8.9 Hz,2H),7.31(d,J=8.9 Hz,2H),6.98−6.93(m,4H),3.40(m,2H),3.04(m,2H),1.74−1.67(m,2H),1.44−1.32(m,14H);ESIMS m/z=460[M]+
(複合体16〜18の合成)
(実施例8)複合体16の合成
化合物13(18mg,37μmol)の乾燥DMF(600μl)溶液に,C16−1(Kamal,A.;Mallareddy,A.;Janaki Ramaiah,M.;Pushpavalli,S.N.;Suresh,P.;Kishor,C.;Murty,J.N.;Rao,N.S.;Ghosh,S.;Addlagatta,A.;Pal−Bhadra,M.Eur.J.Med.Chem.2012,56,166.)(14mg,37μmol),HATU(16mg,41μmol),HOBT(6mg,41μmol),およびDIPEA(16mgを,124μmol)を添加した。反応混合物を室温で3時間撹拌した。反応終了後,混合物をメタノールで希釈し,HPLCにより精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0),紫色の油状物として14mgの複合体16を得た。収率:44.4%。
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ7.50−7.37(m,4H),7.27(d,J=9.1 Hz,1H),7.24−7.15(m,1H),6.92(s,2H),6.89−6.82(m,3H),6.78(dd,J=8.2,2.2 Hz,2H),6.50−6.43(m,4H),4.35(s,2H),3.83(s,3H),3.69(s,3H),3.59(s,6H),3.41−3.34(m,4H),1.94−1.89(m,2H);ESIMS m/z=718[M]+;HRMS(FAB) calcd for[M]+ m/z=718.2923,found 718.2946.
(実施例9)複合体17の合成
SN38(30mg,76μmol),tert−ブチルクロロ酢酸(46mg,307mmol),およびDIPEA(65mg,504μmol)のDMF(1.5mL)懸濁液を70℃で48時間撹拌した。溶媒を真空除去し,残留物をフラッシュカラム(DCM:メタノール=20:1)により精製して,黄色固体として30mgのC17−1を得た。C17−1(11mg,22μmol)のDCM(500μL)溶液に,トリフルオロ酢酸(500μl)を滴下した。反応混合物を室温で一晩撹拌した後,メタノールで希釈し,HPLCで精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0),黄色固体として5.5mgのC17−2を得た。2ステップの収率:43.3%。
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.99(d,J=9.1 Hz,1H),7.54(s,1H),7.49(dd,J=9.4,2.8 Hz,1H),7.34(d,J=2.5 Hz,1H),5.55(d,J=16 Hz,1H),5.35(d,J=16 Hz,1H),5.16(s,2H),4.86(s,2H),3.14(q,J=7.7 Hz,2H),1.94(q,J=7.1 Hz,2H),1.36(t,J=7.4 Hz,3H),1.00(t,J=7.4 Hz,3H);ESIMS m/z=451[M+H]+
化合物13(10mg,21μmol)の乾燥DMF(600μl)溶液に,C17−2(12mg,21μmol),HATU(8.8mg,23μmol),HOBT(4mg,23μmol),及びDIPEA(13.5mg,105μmol)を添加した。反応混合物を室温で3時間撹拌した。反応終了後,混合物をメタノールで希釈し,HPLCにより精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0),紫色の油状物として5mgの複合体17を得た。収率:26.2%。
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 8.03(d,J=9.1 Hz,1H),7.57(d,J=9.1 Hz,2H),7.38(brs,4H),7.28(s,2H),7.09(d,J=9.3 Hz,2H),6.67(d,J=8.8 Hz,2H),6.55(d,J=1.7 Hz,2H),5.42(brs,1H),5.26(brs,1H),5.16−5.05(m,2H),4.83(s,2H),3.64(brs,2H),3.13−2.85(m,6H),1.93(brs,4H),1.38(t,J=7.4 Hz,3H),0.89(brs,3H);ESIMS m/z=794[M]+;HRMS(FAB) calcd for[M]+m/z=794.2985,found 794.2962.
(実施例10)複合体18の合成
化合物13(30mg,63μmol)の乾燥DMF(600μL)溶液に,クロロ酢酸(6mg,63μmol),HATU(26.3mg,69μmol),HOBT(9.4mg,71μmol),及びDIPEA(26.7mg,207μmol)を添加した。反応混合物を室温で3時間撹拌した。反応終了後,混合物をメタノノールで希釈し,HPLC(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0)で精製し,紫色の油状物として12mgのC18−1を得た。収率:34.6%。
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.56−7.48(m,2H),7.44−7.38(m,2H),7.29(dd,J=9.1,2.5 Hz,2H),6.89−6.82(m,4H),4.06(s,2H),3.49−3.32(m,4H),1.95−1.91(m,2H);ESIMS m/z=438[M]+
C18−1(12mg,22μmol),ミトキサントロン二塩酸塩(22.8mg,44μmol),およびDIPEA(56.4mgを,440μmol)のDMF(300μL)懸濁液を40℃で24時間撹拌した。次いで,反応混合物を周囲温度に冷却し,メタノールで希釈し,HPLCにより精製し(Inertsil ODS−3,メタノール:0.1%(v/v),TFA−HO=0:1〜1:0),濃い紫色の油状物として,9.9mgの複合体18を得た。収率:46.9%。
1H−NMR(300 MHz,CD3OD) δ 7.48−7.35(m,6H),7.16−6.94(m,4H),6.74−6.66(m,2H),6.49(s,1H),6.42(s,1H),4.13(s,2H),3.97(s,2H),3.92(brt,J=4.7 Hz,2H),3.82−3.79(m,6H),3.72(brs,2H),3.53(brs,2H),3.47(brs,2H),3.38(brs,2H),1.93(brs,2H);ESIMS m/z=846[M]+;HRMS(FAB) calcd for[M]+ m/z=846.3621,found 846.3611.
(実施例11)細胞障害性抗がん剤のトランスポーター選択性比較
細胞障害性抗がん剤として,SN38,Camptothecin,9−Aminocamptothecin,9−nitrocamptothecin,7−ethylcamptothecin,Doxorubicin,Mitoxantrone,Etoposide,Mitomycin C,5−FUdR,Dactinomycin,Taxol,及びVinblastinを用いた。KB3−1及びKB3−1由来細胞(KB/ABCB1,KB/ABCC1,及びKB/ABCG2細胞を用いて,上述の(細胞ベースアッセイ)を行い,各化合物のIC50値を求めた(n≧2)。
結果を表2に示す。KB3−1は薬剤耐性のないコントロールを示す。7−ethylcamptothecin及びMitomycin Cに対しては,いずれの細胞も耐性を示さなかった。Doxorubicin,Dactinomycin,Taxol,及びVinblastinは,KB/ABCB1が耐性を示した。SN38,9−Aminocamptothecin,9−nitrocamptothecin,及び5−FUdRは,KB/ABCG2が耐性を示した。Camptothecin及びEtoposideは,KB/ABCB1及びKB/ABCC1が耐性を示した。Mitoxantroneは,KB/ABCC1及びKB/ABCG2が耐性を示した。B/ABCB1及びKB/ABCG2が耐性を示す化合物は見出せなかった。
(実施例12)KP−1の構造活性相関
KP−1における結合可能な部位を調べるため,構造活性相関を調べた。最初にKP−1のベンゼン「ヘッド」及びキサントン「アーム」上に異なる置換機を有するKP−1誘導体を上述の方法に従って15種類合成し(化合物1〜15),それらの蛍光スペクトル(λex及びλem)を測定した。次いで,化合物1〜15のABCトランスポーターに対する選択性を4種類の細胞株(KB3−1,KB/ABCB1,KB/ABCC1,およびKB/ABCG2)の染色パターンにより評価した。
化合物1〜15の蛍光スペクトルを表3に示す。また,化合物1〜15のABCトランスポーターに対する選択性を図1に示す。化合物9および化合物11を除くKP−1誘導体は,親KB3−1細胞を明確に蛍光染色し,KB/ABCB1細胞をほとんど染色しなかった。このことから,ベンゼン「ヘッド」及びキサントン「アーム」の修飾はKP−1のABCB1に対する選択性を損なわないことが示された。ABCG2に対する選択性は,ABCB1と比較して構造変換に対してより敏感であり,特にベンゼン「ヘッド」上の置換基の影響を受けた。化合物1及び化合物2は,KP−1のようなABCG2に媒介された流出を示さず,ABCG2選択性のためにパラ置換基が重要であることを示した塩素原子(Cl)(化合物3),臭素原子(Br)(化合物4),水素原子(H)(化合物5),プロピル基(化合物6),または水酸基(化合物7)でフッ素原子(F)を置換することにより,ABCG2に対する選択性が様々な程度に減少した。アミン「アーム」の修飾は,選択性への影響はより小さかった。同様に,KP−1,化合物12,及び化合物14は,ABCB1とABCG2の両方に対して優れた選択性を示し,ABCC1に対しては低い選択性を示した。化合物14を,細胞障害性抗がん剤との結合のために選択した。
(実施例13)複合体16の細胞障害性及びABCトランスポーター選択性
化合物14と細胞障害性抗がん剤であるコンブレタスタチンA−4(CA4)との結合物(複合体16)が,KP−1のABC輸送体選択性を維持するか否かを,化合物14とCA4を結合させて調べた。この天然に存在するチューブリン阻害剤は,高度にABCB1およびABCG2を発現する細胞株に対して効果的であり,このことはCA4が,ABCB1またはABCG2のいずれかの基質ではないことを示している(L.M.Greeneら,J Pharmacol Exp Ther(2010)335:302−313)。化合物16の構造を図2Aに示す。化合物16のチューブリン重合阻害能を確認するため,チューブリン重合アッセイを行った。また,複合体16のABCトランスポーター選択性を調べるため,細胞生存率アッセイと蛍光イメージングアッセイの2種類の細胞ベースのアッセイを同時に行った。
チューブリン重合アッセイでは,CA4がチューブリン重合を阻害するのに対し,化合物14は,30μMまでの濃度でチューブリン重合の検出可能な阻害を示さなかった。化合物14とは対照的に,複合体16はチューブリン重合を阻害した。
細胞生存率アッセイにおいて,複合体16は化合物14よりも有意に優れた細胞障害性を示した。このことは複合体16の毒性がCA4部分によるものであることを示唆している。複合体16はABCB1に対する基質としての性質は維持したものの,ABCG2に対する選択性を維持することはできなかった(図2B)。蛍光イメージングアッセイの結果は,細胞生存率アッセイの結果と一致した(図2C)。複合体16はKB/ABCG2細胞を染色した一方,KB/ABCB1細胞からは排出された。これらの結果から,化合物14とCA4の複合体は,ABCB1に対する選択性を維持するが,ABCG2への選択性を維持しないことが示唆された。
同様に,CA4以外の4種類の細胞障害性抗がん剤と化合物14との複合体を合成して細胞生存率アッセイと蛍光イメージングアッセイを行ったが,結果は複合体16と同様であった。
(実施例14)複合体17の細胞障害性及びABCトランスポーター選択性
ABCG2は,一般に,ABCB1よりも狭い排出基質プロファイルを持つと考えられている(J.J.Strouseら,Anal Biochem(2013)437:77−87)。実施例13におけるCA4の代わりにABCG2選択的細胞障害性薬剤を用いることにより,得られる複合体がABCB1およびABCG2の両方の基質となるか調べた。いくつかの細胞障害性抗がん剤が,ABCG2の基質として報告されている(L.Doyleら,Oncogene(2003)22:7340−7358)。この中から長い使用暦を持つ抗癌剤SN38を選択して複合体17を合成した(図3A)。複合体17のABCトランスポーター選択性を調べるため,細胞生存率アッセイと蛍光イメージングアッセイの2種類の細胞ベースのアッセイを同時に行った。
細胞生存率アッセイにおいて,以前に報告されたように,SN38に対してKB/ABCG2細胞は抵抗性を示したが,SN38はKB/ABCB1およびKB/ABCC1細胞において強力な細胞障害性を示した。複合体17は,SN38と比較してわずかに細胞障害性は弱まったが,KB/ABCB1細胞及びKB/ABCG2細胞の両方において抵抗性が確認された(図3B)。
KP−1と同様に,複合体17の蛍光強度は,KB3−1細胞に比べKB/ABCB1細胞およびKB/ABCG2細胞において有意に低かった。蛍光は,ABCB1の選択的阻害剤(シクロスポリンA,10μM)又はABCG2の選択的阻害剤(Ko143,10μM)で処理することにより回復した(図3C)。これらの結果は,複合体17がABCB1およびABCG2の両方に対する優れた細胞障害性基質であることを示している。
(実施例15)複合体18の細胞障害性及びABCトランスポーター選択性
化合物14とABCG2選択的細胞障害性薬剤との組み合わせが,ABCB1およびABCG2の両方に対する細胞障害性基質となりうることをさらに検証するため,化合物14と別のABCG2選択的細胞障害性薬剤ミトキサントロンとを結合させて,複合体18(図5A)を合成した。複合体18のABCトランスポーター選択性を調べるため,細胞生存率アッセイと蛍光イメージングアッセイの2種類の細胞ベースのアッセイを同時に行った。
細胞生存率および蛍光画像解析の結果,ミトキサントロンはABCC1とABCG2に対して優れた選択性を有することを示すが,ABCB1への選択性が低いことが示された。対照的に,複合体18は,ABCB1およびABCG2の両方の基質であったが,ABCC1の基質ではなかった(図4B,C)。
(実施例16)複合体17及び複合体18の未分化細胞標識能及び除去能
複合体17と複合体18が,細胞混合物中のhiPSCsを標識し,排除することができるかどうかを確認した。hiPSCsは,過増殖すると細胞がドーナツ状のコロニーを形成する。コロニーの中央部は分化した細胞を表す(N.Hirataら,Cell Rep(2014)6:1165−1174)。まず,ドーナツ状のコロニーを形成したhiPSCsを複合体17(1μM)又は複合体18(10μM)で処理し,直後に共焦点顕微鏡で観察した。
次に,SNLフィーダー細胞上で部分的に分化したhiPSCs,又はhiPSCsを,複合体17(5μM)または複合体18(5μM)存在下で72時間培養した。未分化hiPSCsは,多能性マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性に比色染色で検出した(M.D.O’Connorら,Stem Cells(2008)26:1109−1116)。未分化細胞の除去を確認するため,各複合体又はDMSOコントロール存在下で培養された細胞における,3種類の代表的な多分化能マーカー(J.Caiら,Stem Cells(2006)24:516−530;M.Stadtfeldら,Genes Dev(2010)24:2239−2263)の発現レベルを定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)で量った。nanog,sox2,およびoct3の/4の相対的な発現レベルは,ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHにより正規化した。
KP−1と同様に,複合体17および複合体18は,分化細胞よりも未分化細胞を強く
蛍光標識した(図5A)。また,複合体17又は複合体18存在下での培養により,ALP−陽性細胞が除去されたが,ALP−陰性細胞はほとんど影響を受けなかった(図5B)。hiPSCsが細胞混合物から除去された。DMSO単独で処理した細胞混合物は,nanog(0.7%),oct3/4(6.7%),およびsox2(0.4%)を比較的高く発現した。複合体17または複合体18存在下での培養により,nanogの発現レベルを0.1%に,oct3/4の発現レベルを0.8%に,かつsox2の発現レベルを0.03%に減少させ(図5C,5D,5E),多能性細胞の選択的な除去と一致した。
(実施例17)複合体17の分化細胞及び未分化細胞除去能
2種類のhiPSCクローン,201B7及び253G1と比較した,5種類の異なるヒト体初代細胞に対する複合体17の効果を比較した。また,SN38自体がhiPSCsに対して選択的であるかどうかを調べるために,SN38単独と複合体17の種々のヒト初代細胞及びhiPSCsに対する効果を比較した。
肝細胞(代謝機能),前立腺上皮(生殖器官),脳微小血管細胞(バリア機能),アストロサイト(中枢神経システム),および副腎微小血管細胞(分泌機能)は複合体17に対して抵抗性(IC50>10μM)を示したが,2種類のhiPSC細胞株は高感度で反応した。(201B7:IC50=0.2μM;253G1:IC50=0.4μM)(図5F)。シクロスポリン(ABCB1選択的阻害剤)またはKo143(ABCG2選択的阻害剤)の添加により,抵抗性を示した体細胞に対する複合体17の細胞障害性を増加させた(図6)。培地へのトランスポーター阻害剤の添加は,複合体17のヒト初代体細胞に対する細胞障害性を復活させたが,この細胞障害性は完全なものではなかった。このことは,複合体17がABCトランスポーター媒介排出以外のメカニズムで選択的細胞障害性を発揮していることを示唆している。高レベルのABCトランスポーターを発現することが知られている(N.Hirataら,Cell Rep(2014)6:1165−1174),肝細胞,前立腺上皮細胞,および脳微小血管細胞は,シクロスポリンまたはKo143の存在下でも抵抗性を維持していた(図6)。
SN38は,hiPSCsに対して穏やかな選択性を示したが,複合体17ほどの選択性は示さなかった(図7)。SN38の投与量1μMでは,ほぼ完全にiPS細胞を排除し(生存性<5%),ヒト初代細胞の70%以上を排除した。これとは対照的に,複合体17は,10μMでもヒト初代細胞に対してSN38より弱い効果しか示さなかった。これらの結果は,本来SN38はhiPSCsに対して選択的ではあるが,KP−1との結合により選択性が高められることを示唆している。
(実施例18)複合体17のTopoI阻害活性
SN38が元来有する選択性は,その作用メカニズムに由来する可能性がある。(C.P.Garciaら,Stem Cell Res(2014)12:400−414;O.Momcilovic,PLoS One(2010)5:e13410) SN38はポイソメラーゼI(TopoI)を阻害することによって抗増殖活性を発揮する(B.L.Stakerら,Proc Natl Acad Sci USA(2002)99:15387−15392)。PSCsの多能性と自己再生には高い増殖率が重要であると考えられている(S.Ruizら,Curr Biol(2011)21:45−52)。対照的に,分化細胞は通常,低増殖速度を示し,おそらくこれがある程度のTopoI阻害剤に対する抵抗性を与え得る。複合体17が,TopoIを阻害するかどうかを調べるため,組換えヒトトポイソメラーゼIを使用して,インビトロでの生化学アッセイを行った。
結果を図8に示す。SN38は,10μMでTopoIを阻害した。しかし,複合体17はさらに強くTopoIを阻害した。
(実施例19)複合体17のTopoI阻害活性
腫瘍を生じやすい未分化細胞が複合体によって除去された後,移植前に細胞試料から複合体を除去する必要がある。その蛍光特性を利用して,複合体17の残存量をモニターした。
5μMの複合体17を含む培養培地は,548nmで強い蛍光発光を示した。新鮮な培地で簡単に洗浄した後,蛍光強度は有意に減少して約2%となった。更にもう一度簡単な洗浄を行うことにより,バックグラウンドレベル(培地のみ)まで蛍光が減少した。結合体17または他のKP−1−薬物複合体の蛍光は,得られた細胞サンプル中の細胞障害性試薬のクリアランスを確実にすることにより,将来のアプリケーションにとって利点となる。

Claims (17)

  1. 下記式(I)で表される化合物

    [式中,Rは,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,C1〜6アルコキシ基,フェニル基,フェニルオキシ基,水酸基,又は−OP(O)(OR)(OR)基であり,
    ここで,R及びRは,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R及びRは存在せず,
    及びRは,同一又は異なって,それぞれ,水素原子,又はC1〜6アルキル基であり,
    Xは,酸素原子,硫黄原子,又はNRであり,
    ここで,Rは,水素原子又はC1〜6アルキル基であり,
    Lは,−(CH(NH)(CO)(CH−で表されるリンカー部分を表し,
    ここで,kは3〜7の整数を表し,mは0又は1であり,nは0又は1であり,pは0又は1であり,
    Dは,ABCG2選択的細胞障害性物質を表し,
    ここで,ABCG2選択的細胞障害性物質は,SN38,Mitoxantrone,Irinotecan,9−Aminocamptothecin,Doxorubicin,Daunorubicin,Epirubicin,Idarubicinol,Flavopiridol,CI1033,BBR3390,Methotrexate,Prazocin,Indolocarbazole,topoisomerase I 阻害剤であるNB−506及びJ−107088,Zidovudine(AZT),及びlamivudineから選択される物質である]。
  2. 下記式(II)で表される,請求項1に記載の化合物

    [式中,Rは,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,C1〜6アルコキシ基,フェニル基,フェニルオキシ基,水酸基,又は−OP(O)(OR)(OR)基であり,
    ここで,R及びRは,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R及びRは存在せず,
    Lは,−(CH(NH)(CO)(CH−で表されるリンカー部分を表し,
    ここで,kは3〜7の整数を表し,mは0又は1であり,nは0又は1であり,pは0又は1であり,
    Dは,ABCG2選択的細胞障害性物質を表し,
    ここで,ABCG2選択的細胞障害性物質は,SN38,Mitoxantrone,Irinotecan,9−Aminocamptothecin,Doxorubicin,Daunorubicin,Epirubicin,Idarubicinol,Flavopiridol,CI1033,BBR3390,Methotrexate,Prazocin,Indolocarbazole,topoisomerase I 阻害剤であるNB−506及びJ−107088,Zidovudine(AZT),及びlamivudineから選択される物質である]。
  3. が,ハロゲン原子又は−OP(O)(OR)(OR)基である,請求項1又は請求項2に記載の化合物。
  4. Lが,−(CH(NH)(CO)(CH)−で表されるリンカー部分を表し,ここで,kは3〜5の整数を表す,請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の化合物。
  5. Dが,トポイソメラーゼ阻害剤であるABCG2選択的細胞障害性物質である,請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の化合物。
  6. Dが,SN38,又はMitoxantroneである,請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の化合物。
  7. 下記のいずれかの式で表される化合物。

  8. 下記式(Ia)又は(Ib)で表される化合物


    [式中,Rは,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,C1〜6アルコキシ基,フェニル基,フェニルオキシ基,水酸基,又は−OP(O)(OR)(OR)基であり,
    ここで,R及びRは,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R及びRは存在せず,
    及びRは,同一又は異なって,それぞれ,水素原子,又はC1〜6アルキル基であり,
    Xは,酸素原子,硫黄原子,又はNRであり,
    ここで,Rは,水素原子又はC1〜6アルキル基であり,
    kは3〜7の整数を表す]。
  9. 下記式(IIa)又は(IIb)で表される,請求項8に記載の化合物


    [式中,Rは,水素原子,ハロゲン原子,C1〜6アルキル基,C1〜6アルコキシ基,フェニル基,フェニルオキシ基,水酸基,又は−OP(O)(OR)(OR)基であり,
    ここで,R及びRは,同一又は異なって,それぞれ,フェニル基で置換されていても良いC1〜6アルキル基を表すか,又は,R及びRは存在せず,
    kは3〜7の整数を表す]。
  10. が,ハロゲン原子又は−OP(O)(OR)(OR)基である,請求項8又は請求項9に記載の化合物。
  11. kが3〜5の整数を表す,請求項8〜請求項10のいずれか1項に記載の化合物。
  12. 請求項8〜請求項11のいずれか1項に記載の化合物と,ABCG2選択的細胞障害性物質とを反応させることを備える,請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の化合物の合成方法であって,ここで,ABCG2選択的細胞障害性物質が,SN38,Mitoxantrone,Irinotecan,9−Aminocamptothecin,Doxorubicin,Daunorubicin,Epirubicin,Idarubicinol,Flavopiridol,CI1033,BBR3390,Methotrexate,Prazocin,Indolocarbazole,topoisomerase I 阻害剤であるNB−506及びJ−107088,Zidovudine(AZT),及びlamivudineから選択される物質である,方法。
  13. 幹細胞を分化誘導した細胞集団に請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の化合物を未分化細胞が死滅する時間接触させること,及び,残存した請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の化合物を洗浄により除去することを含む,幹細胞を分化誘導した後に残存する未分化細胞の除去方法。
  14. 幹細胞がiPS細胞である,請求項13に記載の除去方法。
  15. 請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の化合物を有効成分として含有する,ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞に選択的に障害を与える薬剤。
  16. ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞が未分化細胞である,請求項15に記載の薬剤。
  17. 請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の化合物を含有する,ABCB1及びABCG2トランスポーターの発現が抑制されている細胞に選択的に障害を与えるためのキット。
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