JPWO2015174414A1 - 翻訳エンハンサー - Google Patents

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Abstract

翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなる下記(a)から(f)のいずれか1つのDNA:(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、(b)配列番号2の塩基配列からなるDNA、(c)配列番号3の塩基配列からなるDNA、(d)上記(a)〜(c)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換、又は付加されたDNA、(e)上記(a)〜(d)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、(f)上記(a)〜(e)のいずれか1つのDNAと相同性が80%以上の塩基配列からなるDNA。

Description

本開示は、翻訳エンハンサーに関する。
遺伝子の発現の制御は、転写、転写後、翻訳、及び翻訳後の4つの段階において行われている。近年、翻訳の段階での制御(翻訳制御)についての研究が進み、構造遺伝子の翻訳効率を高める翻訳エンハンサーとして、5’非翻訳領域に由来する塩基配列が植物から単離されている(例えば、特開平8−256777号公報、特開2003−79372号公報、及び特開2011−103833号公報を参照)。
近年、遺伝子組換え技術を用いて細菌、培養細胞、植物等に有用物質を生産させる技術が注目を浴びており、有用物質の発現効率を向上させる技術の開発が待たれている。その中で、翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなるDNAを搭載したベクターが植物形質転換用ベクターとして上市されている。
しかしながら、翻訳エンハンサーの単離例はまだわずかである。翻訳エンハンサーは、生物種、細胞種、及び遺伝子の種類によって翻訳効率が異なることが予想されるため、翻訳エンハンサーに対する需要に充分に応じきれていないのが現状である。したがって、翻訳エンハンサーとして使用可能な候補塩基配列、及び当該塩基配列からなるDNAを数多く開発することは重要である。よって、本開示は、翻訳効率に優れる新規な翻訳エンハンサーを提供することを課題とする。
上記課題を達成するための具体的手段には、以下の実施態様が含まれる。
[1]翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなる下記(a)から(f)のいずれか1つのDNAである:
(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(c)配列番号3の塩基配列からなるDNA、
(d)上記(a)〜(c)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換、又は付加されたDNA、
(e)上記(a)〜(d)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(f)上記(a)〜(e)のいずれか1つのDNAと相同性が80%以上の塩基配列からなるDNA。
[2][1]に記載のDNAを含む組換えベクターである。
[3][1]に記載のDNAがプロモーターと構造遺伝子との間に挿入されている[2]に記載の組換えベクターである。
[4][2]又は[3]に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体である。
[5]植物細胞、植物組織、植物器官、植物体、及び種子からなる群より選択されるいずれか1つである[4]に記載の形質転換体である。
[6][1]に記載のDNAに対応するRNAとタンパク質をコードするRNAとを含む翻訳用RNAを用いて、上記タンパク質を合成するタンパク質合成方法である。
[7][1]に記載のDNAと構造遺伝子とを含む組換えベクターを用いて形質転換体を得ることと、上記形質転換体を培養することと、を含む[6]に記載のタンパク質合成方法である。
[8]上記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液とを接触させることを含む[6]に記載のタンパク質合成方法である。
[9]更に、[1]に記載のDNAと構造遺伝子とを含む鋳型DNAから上記翻訳用RNAを合成することを含む[8]に記載のタンパク質合成方法である。
[10][1]に記載のDNAの翻訳エンハンサーとしての使用である。
本開示によれば、翻訳効率に優れる新規な翻訳エンハンサーを提供することができる。
OsMac1遺伝子、OsMac2遺伝子、及びOsMac3遺伝子の構造を示す図である。 実施例1及び実施例2で使用した形質転換用プラスミドの構造を示す図である。 イネ培養細胞における翻訳効率の評価結果を示す図である。 シロイヌナズナ培養細胞における翻訳効率の評価結果を示す図である。 小麦胚芽無細胞タンパク質合成系における翻訳効率の評価結果を示す図である。 イネ培養細胞における翻訳効率の評価結果を示す図である。
≪DNA及びその使用≫
本開示のDNAは、翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなる下記(a)〜(f)のいずれか1つのDNAである。
(a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
(c)配列番号3の塩基配列からなるDNA、
(d)上記(a)〜(c)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換、又は付加されたDNA、
(e)上記(a)〜(d)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
(f)上記(a)〜(e)のいずれか1つのDNAと相同性が80%以上の塩基配列からなるDNA。
また、本開示の使用は、本開示のDNAの翻訳エンハンサーとしての使用である。
配列番号1、配列番号2、及び配列番号3の塩基配列を下記表1に示す。配列番号1の塩基配列は、イネ(Oryza sativa)のOsMac2遺伝子(accession no. AK073148)の5’UTR(untranslated region、非翻訳領域)から見出されたものであり、配列番号2の塩基配列は、イネのOsMac3遺伝子(accession no. AK069607)の5’UTRから見出されたものである。また、配列番号3の塩基配列からなるDNA(OsMac3−UTR(d1−160))は、配列番号2の塩基配列において、5’末端側から1番目〜160番目の塩基を欠失させた塩基配列を有するものである。
図1にOsMac1遺伝子、OsMac2遺伝子、及びOsMac3遺伝子の構造を示す。図中の5’末端側の線で表される部分が各遺伝子の5’UTRを表す。白いボックスはuORF(upstream open reading frame)を、黒いボックスは下流ORFをそれぞれ表す。DUF300ドメイン中の淡色部はTMR(transmembrane region)を表す。OsMac2遺伝子及びOsMac3遺伝子の5’UTRの塩基配列は、それぞれ配列番号1の塩基配列及び配列番号2の塩基配列に対応する。参考として掲載するOsMac1遺伝子(accession no. AK111844)は、その5’UTR(配列番号4)が翻訳エンハンサー活性を有することが特開2011−103833号公報に報告されている。なお、配列番号4の塩基配列は選択的スプライシングが生じたことにより複数種存在する5’UTRのうちの1つ(UTRc)である。
図1に示されるように、OsMac2遺伝子及びOsMac3遺伝子は、OsMac1遺伝子と同様に5’UTRが比較的長い構造を有している。本発明者らは、この長い5’UTRが何らかの理由(例えば、特殊な立体構造を形成する)により翻訳エンハンサー活性を有し、下流にある遺伝子情報の翻訳効率を高めると推測している。
本開示において、ある塩基配列が有する「翻訳エンハンサー活性」とは、当該塩基配列からなるポリヌクレオチドが構造遺伝子の発現系に存在した場合、この構造遺伝子の転写産物からタンパク質が翻訳される際に、翻訳により形成されるタンパク質の量を増大させる活性をいう。翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列は、構造遺伝子の発現系において、転写産物の塩基配列の中に存在し、タンパク質には翻訳されない塩基配列であり、例えば翻訳開始コドンより上流に存在する。
本開示のDNAは、上記(a)〜(f)のいずれでもよい。本開示のDNAの塩基配列の全長は、その塩基配列が翻訳エンハンサー活性を有する範囲であれば特に制限されない。
本開示のDNAが(d):(a)〜(c)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換、又は付加されたDNAである場合の欠失、置換、又は付加される塩基の個数は、その塩基配列が翻訳エンハンサー活性を有する範囲であればよく、例えば、1個〜30個程度である。転写産物が適切な立体構造を形成できる観点、及び翻訳エンハンサー活性の強さの観点からは少ない方がよく、好ましくは1個〜20個程度、より好ましくは1個〜10個程度である。
上記(d)のDNAの一例としては、下記表3に示す配列番号5又は配列番号6の塩基配列からなるDNAが挙げられる。配列番号5の塩基配列からなるDNA(OsMac3−UTR(s152−156))は、配列番号2の塩基配列において、5’末端側から152番目〜156番目の5個の塩基(GCACT)を他の塩基(CGTGA)に置換した塩基配列を有するものである。また、配列番号5の塩基配列からなるDNA(OsMac3−UTR(s137−139))は、配列番号2の塩基配列において、5’末端側から137番目〜139番目の3個の塩基(ATG)を他の塩基(TAG)に置換した塩基配列を有するものである。
本開示のDNAが(e):(a)〜(d)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである場合の「ストリンジェントな条件下」とは、ナトリウム濃度が150mM〜900mM、好ましくは600mM〜900mMであり、温度が60℃〜65℃、好ましくは65℃の条件をいう。
本開示のDNAが(f):(a)〜(e)のいずれか1つのDNAと相同性が80%以上の塩基配列からなるDNAである場合の「相同性」は、その塩基配列が翻訳エンハンサー活性を有する範囲であれば特に制限されない。転写産物が適切な立体構造を形成できる観点、及び翻訳エンハンサー活性の強さの観点からは相同性の数値は大きい方がよく、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上である。「相同性」を具体的な数値として示す場合、例えば、汎用されている相同性検索アルゴリズムであるBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(NCBI、又はAltschul, S. F. et al. J. Mol. Biol., 215:403-410(1990))を用いた配列比較で決定することができる。
本開示のDNAは、通常のDNA合成の方法に従ってDNA鎖を化学合成することで得ることができる。また、本開示のDNAは、本開示のDNAを有する生物のcDNAライブラリーから単離することで得ることができる。上記生物としては、特に制限されないが、例えば、イネ科植物が挙げられ、その中でもイネが好ましく挙げられる。
塩基配列が翻訳エンハンサー活性を有するか否かを確認する方法は、特に制限されず、当該塩基配列が構造遺伝子の発現系に共存する場合と共存しない場合とについて、当該構造遺伝子にコードされるタンパク質の合成量を比較できる方法であればよい。例えば、任意のプロモーターとレポーター遺伝子との間に当該塩基配列からなるDNAを挿入したトランジェントアッセイにより確認することができる。プロモーター及びレポーター遺伝子の具体例としては、後述する組換えベクターの構築に用いられるものと同様のものが挙げられる。
≪組換えベクター≫
本開示の組換えベクターは、本開示のDNAを含むものである。本開示の組換えベクターは、任意のベクターに本開示のDNAを連結(挿入)することにより得ることができる。
本開示のDNAを挿入するためのベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、プラスミドDNA、ファージDNA等が挙げられる。プラスミドDNAとしては、大腸菌由来のプラスミド(例えば、pBR322、pBR325、pUC118、pUC119、pUC18、pUC19等)、枯草菌由来のプラスミド(例えば、pUB110、pTP5等)、酵母由来のプラスミド(例えば、YEp13、YEp24、YCp50等)などが挙げられ、ファージDNAとしては、λファージDNA(例えば、Charon4A、Charon21A、EMBL3、EMBL4、λgt10、λgt11、λZAP等)が挙げられる。更に、レトロウイルス、ワクシニアウイルス等の動物ウイルス由来のベクター、バキュロウイルス等の昆虫ウイルス由来のベクターを用いることもできる。植物形質転換用ベクターとしては、例えば、pCAMBIA1301等のpCAMBIAベクター(オーストラリアCAMBIA)、pGWB2等のpGWBベクター(島根大学総合科学研究支援センター中川研究室)、MATベクター(日本製紙株式会社)、pBI121等が挙げられる。
ベクターに本開示のDNAを挿入する方法は特に制限されない。例えば、精製された上記DNAを適当な制限酵素で切断し、適当なベクターDNAの制限酵素部位又はマルチクローニングサイトに挿入してベクターに連結する方法等が採用される。本開示において上記DNAは、その塩基配列が有する翻訳エンハンサー活性が発揮されるようにベクターに組み込まれることが必要である。そこで、本開示の組換えベクターは、上記DNAが、任意のプロモーターと発現の目的となる構造遺伝子の翻訳開始コドンとの間に挿入されていることが好ましい。
プロモーター及び発現の目的となる構造遺伝子は、特に制限されない。例えば、各種生物に由来する遺伝子、あるいは一部又は全部を化学合成した遺伝子など、任意の構造遺伝子が挙げられる。なお、構造遺伝子は、通常のクローニング手法(例えば、J. Sambrook, et al., Molecular cloning, Cold spring Harbor Laboratory Press, 1989)を用いて調製することができる。
発現の目的となる構造遺伝子の例としては、遺伝子機能などの解析を目的として用いられるレポーター遺伝子が挙げられる。ベクターに、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、GFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子等のレポーター遺伝子と共に本開示のDNAを搭載することで、遺伝子機能等の解析用の組換えベクターを構築することができる。当該組換えベクターは、従来の解析用組換えベクターに比し、レポーター遺伝子の発現量が増強される。
プロモーターとしては、本開示の組換えベクターを植物に適用する場合には、恒常的な発現をするものとして、例えばカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、NOSプロモーター、ユビキチンプロモーター等が挙げられる。また、緑葉特異的な発現をするものとして、例えばRuBisCOのSmall Subunit遺伝子のプロモーター、LHCP(集光タンパク質)等の光合成関連遺伝子のプロモーター等が挙げられ、貯蔵器官特異的な発現をするものとして、例えば貯蔵デンプンや貯蔵タンパク質の生合成に関わる遺伝子のプロモーター等が挙げられる。
本開示の組換えベクターを大腸菌に適用する場合には、例えば、trpプロモーター、lacプロモーター、PLプロモーター、PRプロモーター等の、大腸菌やファージに由来するプロモーター、又はtacプロモーター等のように、人為的に設計改変されたプロモーターを用いることができる。本開示の組換えベクターを酵母に適用する場合には、例えば、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、AOX1プロモーター等を用いることができる。
また、本開示の組換えベクターは、必要に応じて、転写のエンハンサー等のシスエレメント、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合配列(SD配列)、NOS等のターミネーターなどを連結することができる。選択マーカーとしては、例えば、抗生物質耐性遺伝子(例えば、アンピシリン、ネオマイシン、カナマイシン、ハイグロマイシン等の各耐性遺伝子)、除草剤耐性遺伝子(例えば、ビアラホス耐性遺伝子)、突然変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子などが挙げられる。
本開示の組換えベクターは、植物の形質転換に用いられる場合、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、本開示のDNA、発現の目的となる構造遺伝子、及びNOSターミネーターを適切な配向で搭載しているものが好ましい。
≪形質転換体≫
本開示の形質転換体は、本開示の組換えベクターで形質転換されたものである。本開示の形質転換体は、本開示の組換えベクターを、目的の構造遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
宿主としては、本開示の組換えベクターに搭載された構造遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、大腸菌(Escherichia coli)等のエッシェリヒア属、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)等のシュードモナス属、リゾビウム・メリロティ(Rhizobium meliloti)等のリゾビウム属に属する細菌が挙げられる。また、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等の酵母も挙げられる。また、COS細胞、CHO細胞等の動物細胞や、Sf9等の昆虫細胞、タバコのBY2細胞、イネのOC細胞などの植物の株化細胞も挙げられる。更に、宿主として、ラン藻類、クラミドモナス、ユーグレナ等の藻類、キノコ類も挙げられる。
宿主が植物である場合、宿主とは、植物体全体、果実、種子、植物器官(例えば、葉、花弁、茎、根、根茎等)、植物組織(例えば、表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)、培養細胞を含む植物細胞のいずれをも意味するものである。本開示の組換えベクターは、植物を宿主として好適に用いられる。
宿主として用いられる植物としては、特に制限されず、例えば、被子植物及び裸子植物のいずれでもよく、被子植物の場合、単子葉植物及び双子葉植物のいずれでもよい。
裸子植物としては、具体的には、ソテツ科のソテツ等、イチョウ科のイチョウ、マツ科のアカマツ、クロマツ、モミ、トウヒ等、スギ科のスギ等、イチイ科のイチイ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
単子葉植物としては、具体的には、イネ科のイネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、シコクビエ、モロコシ、タケ、ヨシ、ススキ、アマランサス、ミスカンサス、スイッチグラス、ソルガム等、サトイモ科のサトイモ等、ヤシ科のヤシ、ナツメヤシ等、バショウ科のバナナ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
双子葉植物としては、具体的には、アブラナ科のシロイヌナズナ、ナタネ等、ナス科のタバコ、トマト、ジャガイモ等、ウリ科のメロン、カボチャ等、マメ科のダイズ等、アオイ科のワタ等、キク科のキク等、ツバキ科のチャ等、ブドウ科のブドウ等、トウダイグサ科のナンヨウアブラギリ、タイワンアブラギリ等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。宿主としては、単子葉植物及び双子葉植物がより好適であり、イネ又はシロイヌナズナがより好適である。
宿主への組換えベクターの導入方法は、特に限定されるものではない。細菌を宿主として用いる場合の組換えベクターの導入方法としては、例えば、カルシウムイオンを用いる方法(Cohen, S.N.et al.:Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 69:2110(1972))、エレクトロポレーション法等が挙げられる。酵母を宿主として用いる場合の組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法(Becker, D.M. et al. Methods. Enzymol., 194:182(1990))、スフェロプラスト法(Hinnen, A. et al. Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 75:1929(1978))、酢酸リチウム法(Itoh, H. J.Bacteriol., 153:163(1983))等が挙げられる。
植物細胞を宿主として用いる場合の組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、アグロバクテリウムのバイナリーベクター法、パーティクルガン法等が挙げられる。植物体、植物器官、又は植物組織を宿主とする場合は、採取した植物切片にアグロバクテリウムのバイナリーベクター法又はパーティクルボンバードメント法で、あるいはプロトプラストにエレクトロポレーション法で、組換えベクターを導入することができる。
植物細胞、植物体、植物器官、又はカルスを宿主として用いる場合、組換えベクターを導入し、形質転換の結果得られたカルス、シュート、毛状根等を分離することにより、形質転換を実施する。得られたカルス、シュート、毛状根等は、そのまま細胞培養、組織培養、又は器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモンの投与等により植物体に再生させることができる。例えば、イネではHieiらの方法(Hiei, Y. et al., Plant J., 6, 271-282 (1994))、Fujimuraらの方法(Fujimura, T. et al., Plant Tissue Culture Letter, 2, 74-75 (1985))、及びShimamotoらの方法(Shimamoto, K. et al., Nature 338:274-276(1989))、トウモロコシではShillitoらの方法(Shillito, R. D. et al. Bio/Technology, 7:581(1989))、ジャガイモではVisserらの方法(Visser, et al. Theor. Appl. Genet., 78:589(1989))、シロイヌナズナではAkamaらの方法(Akama, K. et al. Plant Cell Rep., 12:7(1992))等が挙げられる。これらの方法により作出された形質転換体又はその繁殖媒体(例えば、種子、塊茎、切穂等)から得た形質転換体は、いずれも本開示の形質転換体に包含される。
目的DNAが宿主に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。例えば、形質転換体からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、通常用いられる条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動等を行い、臭化エチジウム、SYBR Green液等により染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することにより、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素等により標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。更に、マイクロプレート等の固相に増幅産物を結合させ、蛍光、酵素反応等により増幅産物を確認する方法も採用することができる。
≪タンパク質合成方法≫
本開示のタンパク質合成方法は、本開示のDNAに対応するRNAと目的とするタンパク質をコードするRNAとを含む翻訳用RNAを用いて、当該タンパク質を合成するタンパク質合成方法である。
本開示のタンパク質合成方法によれば、上記翻訳用RNAから目的とするタンパク質への翻訳が促進されるので、本開示のDNAに対応するRNAを目的とするタンパク質をコードするRNAと共存させない場合に比し、目的とするタンパク質の合成量を増加させることができる。
本開示において、「本開示のDNAに対応するRNA」とは、本開示のDNAの塩基配列においてT(チミン)をU(ウラシル)に置き換えた塩基配列からなるRNAをいう。本開示のDNAに対応するRNAの具体例としては、例えば、本開示のDNAに基づくmRNAが挙げられる。
目的とするタンパク質は、特に限定されず、例えば、各種生物に由来する構造遺伝子にコードされるタンパク質、あるいは一部又は全部を化学合成した遺伝子にコードされるタンパク質など、任意のタンパク質が挙げられる。具体例は、後述する通りである。
本開示のタンパク質合成方法は、上記翻訳用RNAからタンパク質の翻訳反応が行われる系を用いるものであれば特に制限されず、従来公知のタンパク質の合成方法を採用することができる。具体的には例えば、形質転換体におけるタンパク質合成方法、及びインビトロ無細胞系におけるタンパク質合成方法が挙げられる。
<形質転換体におけるタンパク質合成方法>
本開示のタンパク質合成方法は、本開示のDNAと発現の目的となる構造遺伝子とを含む組換えベクターを用いて形質転換体を得ることと、上記形質転換体を培養することと、を含むタンパク質合成方法とすることができる。
上記「形質転換体を得ること」の具体的な手法は特に制限されず、上記組換えベクターを、発現の目的となる構造遺伝子が発現し得るように宿主に導入することからなる。上記形質転換体は、具体的には例えば、既述の本開示の形質転換体を得る方法と同様の方法により得ることができ、宿主、組換えベクターの導入方法等の好ましい態様も同様である。
上記組換えベクターは、本開示のDNAと発現の目的となる構造遺伝子とを連結することで得ることができる。この連結は、本開示のDNAの塩基配列が有する翻訳エンハンサー活性が発揮されるように連結されればよく、例えば、構造遺伝子の5’上流側に本開示のDNAが位置するように連結する。
上記の連結は、具体的には例えば、適当なベクターを選択し、そこに本開示のDNA及び発現の目的となる構造遺伝子を、適切な配向で挿入して組換えベクターを作製することにより容易に行うことができる。この組換えベクターは、本開示のDNAの5’上流側に転写を促進させるためのプロモーター配列を有することが好ましく、構造遺伝子の3’下流側に転写を終結させるためのターミネーターを有することが好ましい。上記の連結に用いることができるベクター、プロモーター、及びターミネーター、並びにベクターへのDNAの挿入の方法は、既述の本開示の組換えベクターと同様であり、好ましい態様も同様である。
上記「形質転換体を培養すること」の具体的な手法は特に制限されず、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。本開示において「培養」とは、上記形質転換体を育てることをいい、上記形質転換体が少なくとも維持されればよく、上記形質転換体が植物体全体、種子、植物器官、植物組織の場合、栽培をも含む概念である。上記形質転換体を培養すれば、その培養物(上記形質転換体が植物体全体、種子、植物器官、植物組織の場合、「栽培物」ともいう。)から、発現の目的となる構造遺伝子の発現産物であるタンパク質を得ることができる。本開示において「培養物」又は「栽培物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、植物体全体、種子、植物器官、植物組織、及びこれらの破砕物のいずれをも意味するものである。
更に、上記タンパク質が酵素の場合には、当該酵素によって触媒される反応の産物、又は当該反応に続く一連の生合成反応経路上の中間体及び/又は最終生産物についても、上記形質転換体の培養物又は栽培物から得ることができる。これらの産物を、以下単に「代謝産物」という。
上記形質転換体が例えば大腸菌や動物培養細胞の場合、発現の目的となる構造遺伝子としては、具体的には、バイオ医薬品として用いられるインスリン、成長ホルモン、造血因子、抗体の各遺伝子等が挙げられる。
上記形質転換体が植物の場合、発現の目的となる構造遺伝子としては、除草剤耐性遺伝子、ビタミン合成に関わる遺伝子、ポリフェノール(カテキン等)の合成に関わる遺伝子、花の色素の遺伝子、抗菌ペプチドの合成に関わる遺伝子、抗原ペプチド(アレルゲン、毒素)の低減に関わる遺伝子等が挙げられる。
上記形質転換体が例えばイネ科植物(イネ、コムギ、オオムギ、カラスムギ、ライムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、シコクビエ、モロコシ等)や果実をつける植物等の食用植物の場合、上記形質転換体を栽培することで、種子(穀物)や果実、その他の可食部における、発現の目的となる構造遺伝子でコードされるタンパク質の含有量を増加させることができる。上記タンパク質が酵素の場合には、その酵素に関する代謝産物についても、種子(穀物)や果実、その他の可食部における含有量を増加させることができる。
上記形質転換体を培養する方法は、特に制限されず、宿主の培養に用いられる通常の方法を採用することができる。
大腸菌や酵母菌等の微生物を宿主として得られた前記形質転換体を培養する培地としては、微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、上記形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
上記微生物の培養は、通常、振盪培養、通気撹拌培養等の好気的条件下、37℃で行う。なお、培地のpHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行う。培養中は必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリン等の抗生物質を培地に添加してもよい。
上記形質転換体が植物細胞又は植物組織である場合は、培養は、通常の植物培養用培地、例えば、MS基本培地(Murashige, T. & Skoog, F. Physiol. Plant. 15:473(1962))、LS基本培地(Linsmaier, E. M. & Skoog, F. Physiol. Plant. 18:100(1965))、プロトプラスト培養培地(LS培地を改変したもの)等を用いることにより行うことができる。培養方法は、通常の固体培養法でもよいが、液体培養法を採用することが好ましい。より具体的には、例えば、上記培地に細胞、組織、又は器官を10g〜100g新鮮重/L接種し、必要によりNAA、2,4−D、BA、カイネチン等を適宜添加して培養する。培養開始時の培地のpHは5〜7に調節し、培養は通常20℃〜30℃、好ましくは25℃前後で、また、0.2vvm〜1vvm通気、50rpm〜200rpm撹拌で1週間〜6週間培養することができる。
上記形質転換体が植物体である場合は、圃場、ガラスハウス等で栽培又は水耕培養することができる。
上記形質転換体の培養の終了後、培養物又は栽培物から目的とするタンパク質及び/又は代謝産物を採取するには、各物質の通常の精製手段を適用することができる。なお、培養物又は栽培物から目的とするタンパク質及び/又は代謝産物を採取することは、培地、圃場等から培養物又は栽培物自体を採取することであってもよい。
大腸菌、酵母菌等の微生物又は培養細胞を宿主として得られた形質転換体の場合、タンパク質が微生物内又は培養細胞内に生産される場合には、微生物又は培養細胞を破砕することにより、タンパク質を抽出することができる。その後、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、培養物中からタンパク質を単離精製することができる。
上記形質転換体が植物細胞又は植物組織の場合、培養の終了後、例えば、以下のようにして目的のタンパク質及び/又は代謝産物を単離精製することができる。
まず、セルラーゼ、ペクチナーゼ等の酵素を用いた細胞溶解処理、超音波破砕処理、液体窒素で凍結させた後、液体窒素中で乳鉢等を用いて磨り潰す処理などにより細胞を破壊する。その後、適宜、抽出用溶液を加えて目的のタンパク質及び/又は代謝産物を含む溶液を抽出し、次いで、濾過、遠心分離等を用いて不溶物を除去し、粗タンパク質溶液又は代謝産物を含む溶液を得る。上記粗タンパク質溶液からタンパク質をさらに精製するには、通常のタンパク質精製法を使用することができる。例えば、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、電気泳動法等を、単独又は適宜組み合わせることにより行う。また、代謝産物を含む溶液から代謝産物をさらに精製するには、従来から知られている精製手法を使用することができる。例えば、溶媒抽出、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を、単独又は適宜組み合わせることにより行う。
植物器官又は植物体からタンパク質及び/又は代謝産物を採取するには、超音波破砕処理、磨砕処理等を行って上記粗タンパク質溶液又は代謝産物を含む溶液の抽出液を調製し、その後は上記の精製手法と同様にして行うことができる。
<インビトロ無細胞系におけるタンパク質合成方法>
本開示のタンパク質合成方法は、上記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液とを接触させること、を含むタンパク質合成方法(以下、「インビトロ無細胞系タンパク質合成方法」ともいう。)とすることができる。
インビトロ無細胞系タンパク質合成方法は、インビトロで、上記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液(以下、単に「反応液」ともいう。)とを接触させることで、上記翻訳用RNAからタンパク質の翻訳反応を行い、目的とするタンパク質を合成することができる。
インビトロ無細胞系タンパク質合成方法は、特に制限されず、例えば、特開2009−165426号公報、特開2007−143435号公報、特開2004−344014号公報、特開2003−245094号公報等に記載の方法を適用することができる。具体的には、例えば、下記の構成とすることができる。
上記反応液としては、例えば、Wheat Germ Extract Plus(プロメガ株式会社)、Premium PLUS Kit(株式会社セルフリーサイエンス)、RTSシステム(フナコシ株式会社)等の試薬キットを利用することができる。
上記翻訳用RNAと上記反応液とを接触させる方法としては、任意の方法で行えばよく、例えば、上記反応液に上記翻訳用RNAを添加してもよく、上記翻訳用RNAを含む溶液に上記反応液を投入してもよい。また、上記反応液に上記翻訳用RNAを連続的に添加してもよく、定期的に添加してもよい。
翻訳反応の終了後は、目的とするタンパク質を、常法により精製すればよい。具体的には、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲルクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、タンパク質を単離精製することができる。
上記翻訳用RNAを得る方法は特に制限されないが、本開示のDNAと発現の目的となる構造遺伝子とを含む鋳型DNAを用いて、インビトロで転写反応を行うことで転写産物として合成することができる。この転写反応は、例えば、T7 RNAポリメラーゼやSP6 RNAポリメラーゼを利用する市販の試薬キット(ロシュ、ニッポンジーン等)等を利用して容易に行うことができる。転写反応により合成された上記翻訳用RNAは、常法により精製して上記の翻訳反応に用いてもよく、また、転写反応の処理に用いた溶液ごと上記の翻訳反応に用いてもよい。
上記鋳型DNAは、本開示のDNAと発現の目的となる構造遺伝子とを連結することで得ることができる。この連結は、本開示のDNAの塩基配列が有する翻訳エンハンサー活性が発揮されるように連結されればよく、例えば、構造遺伝子の5’上流側に本開示のDNAが位置するように連結する。
上記の連結は、具体的には例えば、適当なベクターを選択し、そこに本開示のDNA及び発現の目的となる構造遺伝子を、適切な配向で挿入して組換えベクターを作製することにより容易に行うことができる。この組換えベクターは、本開示のDNAの5’上流側に転写を促進させるためのプロモーター配列を有することが好ましく、構造遺伝子の3’下流側に転写を終結させるためのターミネーターを有することが好ましい。上記の連結に用いることができるベクター、プロモーター、及びターミネーター、並びにベクターへのDNAの挿入の方法は、既述の本開示の組換えベクターと同様であり、好ましい態様も同様である。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は質量基準である。
<実施例1 イネ培養細胞における翻訳効率の評価>
カリフラワーモザイクウイルス35SプロモーターとGUS遺伝子との間に本開示のDNAが挿入された形質転換用プラスミドと、参考として本開示のDNAの代わりにOsMac1遺伝子の5’UTR(UTRc)が挿入された形質転換用プラスミドとを後述する方法により作製した。
図2は作製した形質転換用プラスミドの構造を示し、35Sはカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター、5’UTRはOsMac1遺伝子、OsMac2遺伝子、又はOsMac3遺伝子の5’UTR、GUSはGUS遺伝子、TerはNOS terminatorをそれぞれ表す。図中の「OsMac1−UTRc::GUS」はOsMac1の5’UTRを含む形質転換用プラスミド、「OsMac2−UTR::GUS」はOsMac2の5’UTRを含む形質転換用プラスミド、「OsMac3−UTR::GUS」はOsMac3の5’UTRを含む形質転換用プラスミド、「35S::GUS」は5’UTRを含まない対照の形質転換用プラスミドである。OsMac1−UTRc::GUSにおける「UTRc」は、選択的スプライシングが生じたことにより複数種存在するOsMac1遺伝子の5’UTRのうちの1つを意味する。
温室栽培した野生型イネから既報(Fujimura et al., Plant Tissue Cult. Lett. 2: 74−75 (1985))に従い培養細胞を得た。懸濁培養細胞からプロトプラスト細胞を作製し、上記で作製した形質転換用プラスミドを既報(Yoo et al., Nature Protocols 2: 1565-1575 (2007))のPEG法により導入して形質転換した。形質転換したプロトプラスト細胞を26℃で16時間、WI緩衝液(4mM MES(pH5.7)、0.5M マンニトール、20mM KCl)中で培養し、遠心分離により回収した。
回収したプロトプラスト細胞を用いて、既報(Pooggin et al. Journal of Biological Chemistry 275: 17288-17296 (2000))に従いフルオロメトリックアッセイ法によりGUS活性を測定した。すなわち、GUS抽出バッファー(0.5 mM Tris−HCl(pH7.5)、10mM EDTA(pH8.0)、1% TritonX−100、及び1% NoniDet P−40(Sigma−Aldrich社)で抽出し、蛍光基質溶液(0.1% BSA、1mM DTT、2mM 4−メチルウンベリフェリル−β−D−グルクロニド)を加え、37℃で反応させた。その後、0.4M NaCOを用いて反応を停止させ、GUS遺伝子に由来する蛍光シグナル量を励起光355nm、フィルター波長460nmの条件で測定し、これをGUS活性とした。
形質転換プラスミドのプロトプラスト細胞への導入の際に、既報(Teramura et al., Plant Biotechnology 29:43-49 (2012))に従い作製した35S−GFPもあわせて導入し、GFP遺伝子に由来する蛍光シグナル量を励起光485nm、フィルター波長520nmの条件で測定し、これをGFP活性とした。
上記で得られたGUS活性の値のGFP活性に対する値(GUS活性/GFP活性)を算出し、更に対照の形質転換用プラスミドにより形質転換した細胞の数値を1とした場合の相対値を翻訳効率の指標とした。結果を図3に示す。図中のエラーバーは標準偏差(n=3)を示す。あわせて、半定量RT−PCRにより得られたプロトプラスト細胞中のmRNAの発現量を図3の下部に示す。
図3に示すように、OsMac1−UTRc::GUS(OsMac1の5’UTRを含む)、OsMac2−UTR::GUS(OsMac2の5’UTRを含む)、OsMac3−UTR::GUS(OsMac3の5’UTRを含む)を導入して作製した形質転換体は、対照の35S::GUSを導入して作製した形質転換体に比べて翻訳効率が著しく高かった。特に、OsMac3−UTR::GUSを導入して作製した形質転換体は他の形質転換体に比べて翻訳効率が著しく高かった。
<実施例2 シロイヌナズナ培養細胞における翻訳効率の評価>
実施例1で用いたものと同じ形質転換用プラスミドのうちOsMac1−UTRc::GUS及びOsMac3−UTR::GUSと、対照の35S::GUSとを、実施例1と同様の方法で作製したシロイヌナズナのプロトプラスト細胞に実施例1と同様の方法で導入し、形質転換体を作製した。次いで、実施例1と同様の方法で翻訳効率を評価した。結果を図4に示す。図中のエラーバーは標準偏差(n=3)を示す。
図4に示すように、OsMac1−UTRc::GUSを導入して作製した形質転換体の翻訳効率は対照の35S::GUSを導入して作製した形質転換体に比べて2倍程度であったのに対し、OsMac3−UTR::GUSを導入して作製した形質転換体は対照の10倍を超える翻訳効率を示した。この結果は、OsMac3遺伝子の5’UTRが翻訳効率及び汎用性に優れる翻訳エンハンサーとして特に有用であることを示している。
[実施例1、2で使用する形質転換用プラスミドの作製]
pBI221(Jefferson, R. A., EMBO J., 6, 3901-3907(1987))の35S promoter-GUS-Nos terminatorに相当するコーディング領域をPCRプライマー(配列番号7、8)を用いて増幅した。増幅した断片をpENTR/D-TOPO(Invitrogen社)に挿入してpENTR-35S-GUS-Terを得た。
次いで、OsMac1、OsMac2、及びOsMac3の各遺伝子の完全長cDNA(イネゲノムリソースセンター(茨城県つくば市)より入手)の5’UTRを、5’末端に制限酵素BamHI(OsMac2及びOsMac3)又はXbaI(OsMac1)による切断部位を付加したPCRプライマー(配列番号9、10(OsMac1用)、配列番号11、12(OsMac2用)、配列番号13、14(OsMac3用))を用いてそれぞれ増幅した。増幅した断片をBamHI又はXbaIで切断し、pENTR-35S-GUSのGUS遺伝子の上流に位置するBamHI又はXbaIサイトに挿入してpENTR-35S-5'UTR-GUSを得た。
次いで、pENTR-35S-5'UTR-GUSとpGWB1(Nakagawa et al., 2007)とをLRクロナーゼ(Invitrogen社)を用いて反応させ、pGWB1-35S-5'UTR-GUSを作製した。得られたプラスミドの35S-5'UTR-GUSをBPクロナーゼ(Invitrogen社)を用いてpDONR 221(Invitrogen社)に置換して、実施例1、2で使用する形質転換用プラスミドを作製した。
以上の工程は、いずれも製品に付属の説明書に従って行った。
[実施例1における半定量RT−PCR]
全RNAは既報(Imamura et al., Plant Cell Physiol. 48: 1108−1120 (2007))に従い培養細胞から作製した。一本鎖cDNAは1μgの全RNAからReverTra−Ace cDNA合成キットのoligo−dT(20)プライマー(東洋紡株式会社)を用いて合成した。得られたcDNAは、既報(She et al., Plant Cell 22: 3280−3294 (2010))に従い、半定量RT−PCRにおける各遺伝子の転写産物の検出に用いた。半定量RT−PCRは、GUS遺伝子の塩基配列に基づいて作製したプライマー(配列番号15、16)を用いて行った。
[実施例1、2で使用したプライマー]
<実施例3 小麦胚芽無細胞タンパク質合成系における翻訳効率の評価>
OsMac1若しくはOsMac3の5’UTR、又はOsMac3−UTR(d1−160)と、DsRed2−3FLAGとを導入したプラスミドを用いて、小麦胚芽無細胞タンパク質合成系における翻訳効率を評価した。
[小麦胚芽無細胞タンパク質合成用プラスミドの作製]
pEU-E01-MCS(株式会社セルフリーサイエンス)のΩ配列(E01)以外の領域を、5’末端に制限酵素SpeIによる切断部位を付加したPCRプライマー(配列番号17、18)を用いて増幅した。増幅した断片をSpeIで切断し、Ligation high(東洋紡株式会社)を用いてライゲーションさせ、pEU-MCSを作製した。
次いで、pDsRed2ベクター(タカラバイオ株式会社)のDsRed2遺伝子領域を、5’末端に制限酵素BamHIによる切断部位を付加したPCRプライマー(配列番号19)と、制限酵素SalIによる切断部位及び3×FLAG遺伝子配列を付加したPCRプライマー(配列番号20)とを用いて増幅した。増幅した断片をBamHI及びSalIで切断し、pEU-MCSのMCS領域内のBamHI及びSalIサイトに挿入してpEU-MCS-DsRed2-3FLAGを得た。
次いで、OsMac1及びOsMac3の5’UTR、並びにOsMac3−UTR(d1−160)を、5’末端に制限酵素NotI(フォワードプライマー)又はBamHI(リバースプライマー)による切断部位を付加したPCRプライマー(配列番号21、22(OsMac1用)、配列番号23、24(OsMac3用)、配列番号24、25(OsMac3−UTR(d1−160)用))を用いてそれぞれ増幅した。増幅した断片をNotI及びBamHIで切断し、pEU-MCS-DsRed2-3FLAGのDsRed2−3FLAG遺伝子の上流に位置するNotI及びBamHIサイトに挿入して、pEU-OsMac1-DsRed2-3FLAG、pEU-OsMac3-DsRed2-3FLAG、及びpEU-OsMac3-UTR(d1-160)-DsRed2-3FLAGをそれぞれ得た。
以上の工程は、いずれも製品に付属の説明書に従って行った。
[小麦胚芽無細胞タンパク質合成系におけるタンパク質の合成]
pEU-OsMac1-DsRed2-3FLAG、pEU-OsMac3-DsRed2-3FLAG、及びpEU-OsMac3-UTR(d1-160)-DsRed2-3FLAGのそれぞれについて、JETSTAR2.0(株式会社ベリタス)を用いてプラスミドDNAを大量に精製し、濃度を1μg/μLに調整した。以降の小麦胚芽無細胞タンパク質合成は、Premium PLUS Kit(株式会社セルフリーサイエンス)を用いて、製品に付属の説明書に従って行った。
DsRed2−3FLAGのタンパク質量の測定結果を図5に示す。図5は、pEU-OsMac1-DsRed2-3FLAGを用いた場合のタンパク質量を1とした場合の相対値で示したものである。
図5に示すように、pEU-OsMac3-DsRed2-3FLAGを用いた場合のタンパク質量は、pEU-OsMac1-DsRed2-3FLAGを用いた場合のタンパク質量に比べて2.4倍であった。また、pEU-OsMac3-UTR(d1-160)-DsRed2-3FLAGを用いた場合のタンパク質量は、pEU-OsMac1-DsRed2-3FLAGを用いた場合のタンパク質量に比べて7.0倍であった。この結果は、配列番号3の塩基配列からなるDNAが翻訳効率及び汎用性に優れる翻訳エンハンサーとして特に有用であることを示している。
[実施例3で使用したプライマー]
<実施例4 イネ培養細胞における翻訳効率の評価>
カリフラワーモザイクウイルス35SプロモーターとGUS遺伝子との間に、OsMac3の5’UTR、OsMac3−UTR(s152−156)、OsMac3−UTR(d1−160)、又はOsMac3−UTR(s137−139)を挿入し、形質転換用プラスミドとして、OsMac3−UTR::GUS、OsMac3−UTR(s152−156)::GUS、OsMac3−UTR(d1−160)::GUS、及びOsMac3−UTR(s137−139)::GUSを作製した。そして、この形質転換用プラスミドを用いて、イネ培養細胞における翻訳効率を評価した。
[形質転換用プラスミドの作製]
配列番号5の塩基配列からなるOsMac3−UTR(s152−156)、配列番号3の塩基配列からなるOsMac3−UTR(d1−160)、及び配列番号6の塩基配列からなるOsMac3−UTR(s137−139)の3’末端及び5’末端に制限酵素BamHIによる切断部位を付加したDNAを全合成で作製した。
次いで、得られた3種類のDNAをBamHIで切断し、実施例1と同様にして作製したpENTR-35S-GUSのGUS遺伝子の上流に位置するBamHIサイトに挿入してpENTR-35S-OsMac3_5'UTR-GUSを得た。次いで、pENTR-35S-OsMac3_5'UTR-GUSとpGWB1(Nakagawa et al, 2007)とをLRクロナーゼ(Invitrogen社)を用いて反応させ、pGWB1-35S-OsMac3_5'UTR-GUSを作製した。得られたプラスミドの35S-OsMac3_5'UTR-GUSをBPクロナーゼ(Invitrogen社)を用いてpDONR 221(Invitrogen社)に置換して、実施例4で使用する形質転換用プラスミドを作製した。
以上の工程は、いずれも製品に付属の説明書に従って行った。
また、実施例1と同様にしてOsMac3−UTR::GUSを作製した。対照としては、実施例1と同様の35S::GUSを準備した。
作製した形質転換用プラスミドであるOsMac3−UTR::GUS、OsMac3−UTR(s152−156)::GUS、OsMac3−UTR(d1−160)::GUS、及びOsMac3−UTR(s137−139)::GUSと、対照の35S::GUSとを、実施例1と同様の方法で作製したシロイヌナズナのプロトプラスト細胞に実施例1と同様の方法で導入し、形質転換体を作製した。次いで、実施例1と同様の方法で翻訳効率を評価した。結果を図6に示す。図中のエラーバーは標準偏差(n=3)を示す。
図6に示すように、OsMac3−UTR(s152−156)::GUS又はOsMac3−UTR(s137−139)::GUSを導入して作製した形質転換体の翻訳効率は、OsMac3−UTR::GUSを導入して作製した形質転換体と同程度であった。このことから、OsMac3の5’UTRの塩基配列の一部を改変しても、翻訳エンハンサーとしての活性が維持されることが分かる。また、OsMac3−UTR(d1−160)::GUSを導入して作製した形質転換体は、OsMac3−UTR::GUSを導入して作製した形質転換体に比べて3倍以上の翻訳効率を示した。
2014年5月16日に出願された日本出願2014−102528の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。

Claims (10)

  1. 翻訳エンハンサー活性を有する塩基配列からなる下記(a)から(f)のいずれか1つのDNA:
    (a)配列番号1の塩基配列からなるDNA、
    (b)配列番号2の塩基配列からなるDNA、
    (c)配列番号3の塩基配列からなるDNA、
    (d)前記(a)〜(c)のいずれか1つのDNAにおいて1個又は数個の塩基が欠失、置換、又は付加されたDNA、
    (e)前記(a)〜(d)のいずれか1つのDNAと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、
    (f)前記(a)〜(e)のいずれか1つのDNAと相同性が80%以上の塩基配列からなるDNA。
  2. 請求項1に記載のDNAを含む組換えベクター。
  3. 請求項1に記載のDNAがプロモーターと構造遺伝子との間に挿入されている請求項2に記載の組換えベクター。
  4. 請求項2又は請求項3に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
  5. 植物細胞、植物組織、植物器官、植物体、及び種子からなる群より選択されるいずれか1つである請求項4に記載の形質転換体。
  6. 請求項1に記載のDNAに対応するRNAとタンパク質をコードするRNAとを含む翻訳用RNAを用いて、前記タンパク質を合成するタンパク質合成方法。
  7. 請求項1に記載のDNAと構造遺伝子とを含む組換えベクターを用いて形質転換体を得ることと、前記形質転換体を培養することと、を含む請求項6に記載のタンパク質合成方法。
  8. 前記翻訳用RNAとインビトロ無細胞系タンパク質合成用反応液とを接触させることを含む請求項6に記載のタンパク質合成方法。
  9. 更に、請求項1に記載のDNAと構造遺伝子とを含む鋳型DNAから前記翻訳用RNAを合成することを含む請求項8に記載のタンパク質合成方法。
  10. 請求項1に記載のDNAの翻訳エンハンサーとしての使用。
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