JPWO2005072773A1 - 赤血球機能修飾物質 - Google Patents
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Abstract
本発明は、赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態に安定化する物質を含む赤血球からのATP遊離促進剤、当該促進剤を用いて赤血球からATPを遊離させる方法、赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態に安定化する物質を含む赤血球からのATP遊離抑制剤、当該抑制剤を用いて赤血球からATPの遊離を抑制する方法を提供する。
Description
本発明は、赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態又はR−状態に安定化する物質を含む、赤血球からのATP遊離調節剤、並びに前記物質を含む医薬組成物に関する。
疾患の治療及び臨床検査の場において、薬物を効果的かつ選択的に標的組織に送達させるために、特定の組織への薬物送達の方法、すなわちドラッグデリバリーシステムの開発が望まれている。ドラッグデリバリーシステムを確立させるための重要な要素の1つは、薬物の運搬体である。これまでに、薬物の運搬体として機能する物質については多数の研究がなされており、中でも赤血球を運搬体として使用するための技術が開発されている(特表2003−522140号公報、特表2001−512480号公報)。上記公報には、赤血球がその内部又は表面に薬物又は酸素を結合し、運搬するための担体として機能していることが記載されている。
しかしながら、赤血球は、標的組織への薬物や酸素の運搬体としてのみ認識されており、赤血球自身が有する生理機能を人為的に制御してこれを臨床に応用する技術は知られておらず、赤血球の有する酸素放出能や血管拡張作用を、標的部位において特異的に発揮させる方法は見出されていなかった。
一方、赤血球に、血中酸素分圧の低下、pHの低下、又は機械的変形などのさまざまな刺激を与えるとATPを遊離することが知られている(Sprague,R.S.et al.,Am.J.Physiol.Cell Physiol.,281:C1158−C1164,2001)。そして、赤血球から遊離したATPは、内皮細胞上の特異的受容体に作用し、一酸化窒素(NO)とプロスタサイクリンの血管内皮での合成と遊離を促進する。この両者は、血管拡張反応に深く関わることが知られている。
しかしながら、赤血球からのATP遊離の詳細な分子機構とその酸素濃度依存性の詳細は明らかではなく、そのためATPの遊離現象を具体的にどのように病態の制御に応用すればよいかは依然として不明確であった。
しかしながら、赤血球は、標的組織への薬物や酸素の運搬体としてのみ認識されており、赤血球自身が有する生理機能を人為的に制御してこれを臨床に応用する技術は知られておらず、赤血球の有する酸素放出能や血管拡張作用を、標的部位において特異的に発揮させる方法は見出されていなかった。
一方、赤血球に、血中酸素分圧の低下、pHの低下、又は機械的変形などのさまざまな刺激を与えるとATPを遊離することが知られている(Sprague,R.S.et al.,Am.J.Physiol.Cell Physiol.,281:C1158−C1164,2001)。そして、赤血球から遊離したATPは、内皮細胞上の特異的受容体に作用し、一酸化窒素(NO)とプロスタサイクリンの血管内皮での合成と遊離を促進する。この両者は、血管拡張反応に深く関わることが知られている。
しかしながら、赤血球からのATP遊離の詳細な分子機構とその酸素濃度依存性の詳細は明らかではなく、そのためATPの遊離現象を具体的にどのように病態の制御に応用すればよいかは依然として不明確であった。
ATPを遊離する赤血球、ATPを遊離させる薬物を含む赤血球、及びATPを遊離する赤血球を含む医薬組成物を提供することを目的とする。さらに、酸素濃度依存性ATP遊離量を赤血球で定量的に測定する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するため誠意研究を行った結果、T型又はR型にヘモグロビンの構造を安定化することにより、酸素分圧に関係なく、あるいは望みの酸素濃度でATPの遊離を制御し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態に安定化させる物質を含む、赤血球からのATP遊離促進剤。
赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質としては、例えばベザフィブラート、一酸化窒素、二酸化炭素及びアデノシンからなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。上記ATPの遊離は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(2)赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質を含む、医薬組成物。
赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質、及びATPを遊離させる酸素分圧は、(1)に示したものと同様である。本発明の医薬組成物は、例えば血管拡張薬又は血流改善薬として使用される。
(3)赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態に安定化することを特徴とする、赤血球からATPを遊離させる方法。
ATPの遊離は、酸素分圧は100mmHg以下において行うことができる。
(4)赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質を含む、赤血球からのATP遊離抑制剤。
赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質としては、一酸化炭素又はスルフォニルウレアが挙げられる。また、ATPの遊離の抑制は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(5)赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質を含む、医薬組成物。
赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質、及びATPの遊離を抑制する酸素分圧は、上記(4)に示したものと同様である。この場合、本発明の医薬組成物は、例えば血管収縮薬、血流制御薬又は血管拡張阻害剤として使用することができる。
(6)赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態に安定化することを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を抑制する方法。
ATPの遊離の抑制は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(7)ヘモグロビンの構造がT−状態で安定化された赤血球。
この場合、本発明の赤血球としては、ベザフィブラート、一酸化窒素、二酸化炭素、アデノシン及び水素イオンからなる群から選択される少なくとも1つの物質で処理された赤血球が挙げられる。また、ATPの遊離は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(8)ヘモグロビンの構造がR−状態で安定化された赤血球。
この場合、本発明の赤血球としては、一酸化炭素又はスルフォニルウレアで処理された赤血球が挙げられる。
ATPの遊離の抑制は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(9)前記(7)記載の赤血球を含む医薬組成物。
この場合、本発明の医薬組成物は、虚血性疾患(例えば出血性ショック、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血、閉塞性動脈疾患、糖尿病による血管障害、冠動脈狭窄症、四肢虚血性疾患、閉塞性動脈硬化症及び虚血性潰瘍・壊死からなる群から選択される少なくとも1つ)又はアシドーシスを治療するために使用することができる。前記虚血性疾患は、虚血・再灌流症候群(例えばショック後蘇生、臓器冷保存後灌流、外科手術後血流再開通、及び閉塞血管の再建からなる群から選択される、少なくとも一つの原因により起こるもの)でもよい。
(10)前記(8)記載の赤血球を含む医薬組成物。
この場合、本発明の医薬組成物は血管拡張性疾患(例えば、敗血症ショック又はアナフィラキシーショック)を治療するために使用することができる。
(11)赤血球から遊離されたATP量を酸素濃度依存性に定量することを特徴とするATPの測定方法。
(12)赤血球浮遊液にアデノシンを添加し、得られる浮遊液を無酸素又は低酸素分圧条件下に曝すことを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を増強させる方法。
無酸素又は低酸素分圧条件は、例えば0mmHg〜150mmHgの条件であり、アデノシンの濃度は、例えば0.1μmol/L〜10μmol/Lである。
(13)赤血球浮遊液にアデノシンを添加し、得られる浮遊液を60mmHg〜80mmHgの二酸化炭素分圧条件下に曝すことを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を増強させる方法。
アデノシンの濃度は、例えば0.1μmol/L〜10μmol/Lである。
(14)アデノシンが添加された赤血球浮遊液に、バンド3タンパク質の陰イオン透過機能阻害物質(例えばスルフォニルウレア)を添加することを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を制御する方法。
スルフォニルウレアとしては、例えば4,4’−ジイソチオシアネート−スティルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)が挙げられる。
(15)バンド3タンパク質の陰イオン透過機能阻害物質(例えばDIDS等のスルフォニルウレア)を含む、赤血球からのATP遊離制御剤。
本発明の制御剤は、例えばATPの遊離を抑制するために使用することができる。
本発明者は、上記課題を解決するため誠意研究を行った結果、T型又はR型にヘモグロビンの構造を安定化することにより、酸素分圧に関係なく、あるいは望みの酸素濃度でATPの遊離を制御し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態に安定化させる物質を含む、赤血球からのATP遊離促進剤。
赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質としては、例えばベザフィブラート、一酸化窒素、二酸化炭素及びアデノシンからなる群から選択される少なくとも1つが挙げられる。上記ATPの遊離は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(2)赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質を含む、医薬組成物。
赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質、及びATPを遊離させる酸素分圧は、(1)に示したものと同様である。本発明の医薬組成物は、例えば血管拡張薬又は血流改善薬として使用される。
(3)赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態に安定化することを特徴とする、赤血球からATPを遊離させる方法。
ATPの遊離は、酸素分圧は100mmHg以下において行うことができる。
(4)赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質を含む、赤血球からのATP遊離抑制剤。
赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質としては、一酸化炭素又はスルフォニルウレアが挙げられる。また、ATPの遊離の抑制は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(5)赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質を含む、医薬組成物。
赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質、及びATPの遊離を抑制する酸素分圧は、上記(4)に示したものと同様である。この場合、本発明の医薬組成物は、例えば血管収縮薬、血流制御薬又は血管拡張阻害剤として使用することができる。
(6)赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態に安定化することを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を抑制する方法。
ATPの遊離の抑制は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(7)ヘモグロビンの構造がT−状態で安定化された赤血球。
この場合、本発明の赤血球としては、ベザフィブラート、一酸化窒素、二酸化炭素、アデノシン及び水素イオンからなる群から選択される少なくとも1つの物質で処理された赤血球が挙げられる。また、ATPの遊離は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(8)ヘモグロビンの構造がR−状態で安定化された赤血球。
この場合、本発明の赤血球としては、一酸化炭素又はスルフォニルウレアで処理された赤血球が挙げられる。
ATPの遊離の抑制は、100mmHg以下の酸素分圧下において行うことができる。
(9)前記(7)記載の赤血球を含む医薬組成物。
この場合、本発明の医薬組成物は、虚血性疾患(例えば出血性ショック、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血、閉塞性動脈疾患、糖尿病による血管障害、冠動脈狭窄症、四肢虚血性疾患、閉塞性動脈硬化症及び虚血性潰瘍・壊死からなる群から選択される少なくとも1つ)又はアシドーシスを治療するために使用することができる。前記虚血性疾患は、虚血・再灌流症候群(例えばショック後蘇生、臓器冷保存後灌流、外科手術後血流再開通、及び閉塞血管の再建からなる群から選択される、少なくとも一つの原因により起こるもの)でもよい。
(10)前記(8)記載の赤血球を含む医薬組成物。
この場合、本発明の医薬組成物は血管拡張性疾患(例えば、敗血症ショック又はアナフィラキシーショック)を治療するために使用することができる。
(11)赤血球から遊離されたATP量を酸素濃度依存性に定量することを特徴とするATPの測定方法。
(12)赤血球浮遊液にアデノシンを添加し、得られる浮遊液を無酸素又は低酸素分圧条件下に曝すことを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を増強させる方法。
無酸素又は低酸素分圧条件は、例えば0mmHg〜150mmHgの条件であり、アデノシンの濃度は、例えば0.1μmol/L〜10μmol/Lである。
(13)赤血球浮遊液にアデノシンを添加し、得られる浮遊液を60mmHg〜80mmHgの二酸化炭素分圧条件下に曝すことを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を増強させる方法。
アデノシンの濃度は、例えば0.1μmol/L〜10μmol/Lである。
(14)アデノシンが添加された赤血球浮遊液に、バンド3タンパク質の陰イオン透過機能阻害物質(例えばスルフォニルウレア)を添加することを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を制御する方法。
スルフォニルウレアとしては、例えば4,4’−ジイソチオシアネート−スティルベン−2,2’−ジスルホン酸(DIDS)が挙げられる。
(15)バンド3タンパク質の陰イオン透過機能阻害物質(例えばDIDS等のスルフォニルウレア)を含む、赤血球からのATP遊離制御剤。
本発明の制御剤は、例えばATPの遊離を抑制するために使用することができる。
図1は、酸素分圧とATP遊離との関係並びに飽和CO及びベザフィブラートの赤血球遊離作用を示す図である。
図2は、酸素分圧とATP遊離との関係並びに飽和CO及びαNO−Hbの赤血球遊離作用を示す図である。
図3は、ラットの全身血液体積の40%を脱血させた後にT−状態安定化赤血球を戻して60分後の肝臓微小循環の有効循環類洞密度(FSD)、Base excess及び胆汁分泌の回復を示す図である。
図4は、細胞外液にアデノシンを添加したときのATP放出量を測定した結果を示す。
図5は、アデノシンの濃度依存的なATP放出作用を示す図である。
図6は、R−状態におけるATP遊離を示す図である。
図7は、一酸化炭素処理赤血球からのATP遊離に対するDIDSの抑制効果を示す図である。
図8は、ATP遊離に対するDIDSの用量依存的な効果を示す図である。
図9は、各酸素分圧下におけるDIDSのATP遊離抑制効果を示す図である。
図10は、二酸化炭素の分圧依存的なATP遊離増加を示す図である。
図2は、酸素分圧とATP遊離との関係並びに飽和CO及びαNO−Hbの赤血球遊離作用を示す図である。
図3は、ラットの全身血液体積の40%を脱血させた後にT−状態安定化赤血球を戻して60分後の肝臓微小循環の有効循環類洞密度(FSD)、Base excess及び胆汁分泌の回復を示す図である。
図4は、細胞外液にアデノシンを添加したときのATP放出量を測定した結果を示す。
図5は、アデノシンの濃度依存的なATP放出作用を示す図である。
図6は、R−状態におけるATP遊離を示す図である。
図7は、一酸化炭素処理赤血球からのATP遊離に対するDIDSの抑制効果を示す図である。
図8は、ATP遊離に対するDIDSの用量依存的な効果を示す図である。
図9は、各酸素分圧下におけるDIDSのATP遊離抑制効果を示す図である。
図10は、二酸化炭素の分圧依存的なATP遊離増加を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。
組織が低酸素状態になると赤血球からアデノシン3リン酸(ATP)が放出され、放出されたATPは、血管内皮細胞表面に発現する特異的受容体を介してカルシウム濃度を上昇させ、一酸化窒素(NO)及びプロスタサイクリンの合成と遊離を促進する。このことは、このNOとプロスタサイクリンにより血管拡張作用が生じることを意味している。
一方、血漿中に出たATPはアデノシン2リン酸(ADP)に分解され、血小板凝集と接着を活性化する。これは止血が生じることを意味している。
このように、赤血球からATPが遊離されることは、生体内の生理機能にとって極めて重要である。しかしながら、その酸素濃度依存性と生理機能の機序との関係はこれまで明らかにされていなかった。また、赤血球が低酸素分圧部位に到達したときに、血管拡張物質であるATPを放出して病巣に到達する能力を持っていることを分子論的に証明した研究は無かった。
そこで本発明者は、赤血球からのATPの遊離が低酸素分圧下でどのように起こるかという点に着目して鋭意研究を行った。
1.ATP遊離とヘモグロビンアロステリーとの関係
赤血球からのATP遊離パターンは、酸素分圧との関係で酸素解離曲線と同様のシグモイド曲線を描いた。ここで、酸素解離曲線とは、酸素分圧に対する、酸素と結合したヘモグロビンの割合を示す曲線を意味する。このATP遊離パターンは赤血球中のヘモグロビン(Hb)アロステリーに依存しており、ATPの遊離パターンはHbのシグモイド曲線のパターンと類似していた。そこで、本発明者は、赤血球ATP放出反応における酸素依存性は、ヘモグロビンが酸素濃度を感知してこの現象を引き起こすためであると考えた。そして、ヘモグロビンの構造をT型又はR型構造に安定化させて赤血球からのATP遊離を測定した。その結果、R型はATP放出を抑制し、T型はATP放出を活性化し、前記考察が証明された。
ヘモグロビンは酸素の運搬体として機能する分子量64,500のタンパク質である。ヘモグロビンの酸素との結合親和性は、ヘモグロビンの構造と関係する。つまり、ヘモグロビンは低酸素分圧下ではT型構造(「T−状態」という)を、また高酸素分圧下ではR型構造(「R−状態」という)をとる。ここで「T−状態」とは、ヘム5配位であって酸素に対し低親和性(末梢で酸素が離れやすい)の構造を意味する。また、「R−状態」とは、ヘム6配位であって酸素に対し高親和性(末梢で酸素が離れにくい)の構造を意味する。
ヘモグロビンをT−又はR−状態に安定化させる薬物は、いくつか見出されている。そこで、これらの薬物を用いてヘモグロビンアロステリーをT−状態又はR−状態に安定化したときのATP遊離パターンを調べるため、ヘモグロビンをT−状態に安定化させることが知られているNO誘導体を用いて検討を行った(Yonetani,T.et al.,J.Biol.Chem.,273(32),20323−20333(1998))。
このNO誘導体を酸素非存在下でヘモグロビンに添加すると、赤血球は酸素分圧にかかわらず、ATPを一定して放出した。また、ヘモグロビンをR−状態に安定化させることが知られている一酸化炭素(CO)を用いて同様に測定すると、赤血球は酸素分圧にかかわらず、ATPを殆ど遊離しなかった。従って、ヘモグロビンの構造をT−状態又はR−状態に安定化すると、酸素分圧とは無関係にATP遊離を調節し得ることを見出した。このことは、血中の酸素分圧の低下によりヘモグロビンの構造がT−状態に移行するとき、又はヘモグロビンの構造をT−状態に安定化させたときは、血管拡張作用を有するATPを効果的に赤血球から遊離させることができることを意味する。また、血中の酸素分圧の増加によりヘモグロビンの構造がR−状態に移行するとき、又はヘモグロビンの構造をR−状態に安定化したときは、赤血球からのATPの遊離を抑制させることができることを意味する。
図1に示すように、ヒト赤血球は酸素分圧が低下するとATPを細胞外に放出する。その能力は、酸素分圧が50〜70mmHgを境界(変曲点)とするシグモイドカーブを示すことから、本発明者は酸素濃度のセンシングをヘモグロビンが行っていることを想定した。そして、ヘモグロビンの構造をいわゆるR−状態(ヘム6配位)に安定化するCOで赤血球を飽和させると、この能力は完全に消失した。一方、ヘモグロビンの構造をいわゆるT−状態(ヘム5配位)に安定化するベザフィブラート(bezafibrate)(100μmol/L30分処理)は正常酸素濃度でも多くのATPを放出する赤血球に変化させた。
さらに図2に示すように、T−状態に安定化するNOを酸素非存在下でヘモグロビン0.5当量で添加すると、赤血球は酸素濃度に関わらずATPを一定して放出するようになった(「αNO−Hb」のグラフ)。
従って、ヘモグロビンをT−状態で安定化させた赤血球は、虚血・再酸素化障害を軽減する効果を示すと考えられる。虚血・再灌流が生じ得る臓器又は組織としては、例えば心臓、肝臓、脳、肺、腎臓、血管、骨格筋、膵臓、胃、小腸、大腸などを挙げることができるがこれに限定されるものではない。特に、肝臓における虚血・再灌流障害において、赤血球は胆汁分泌の回復を劇的に改善させる効果を発揮する。このことは、ラットの全身血液体積の40%を脱血させ、15分後に同量のヘモグロビンを赤血球又はT−状態安定化赤血球で戻したときの肝臓微小循環動態を検討することによって明らかとなった(後述)。つまり、T−状態安定化赤血球を戻す時に得られる効果が、正常の赤血球で得られる効果よりも、有効循環類洞密度(functional simusoidal density(FSD))、アシドーシスの改善、胆汁分泌の回復率で上回ることが示された(図3)。
また、献血血液は一般に4℃で保存されるが、このような低温保存下ではそれだけでヘモグロビンはR−状態となる。さらに、低温保存時に一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)にすると、ATPの放出を抑制して、赤血球のエネルギーを温存することもできる。このようなR−状態にある赤血球にT−状態安定化剤を添加するとATPの放出を活性化した。つまり、R状態にある赤血球又は一酸化炭素飽和赤血球においてもATP放出回復効果が認められた。さらにまた、上記の肝臓における虚血・再灌流障害において、一酸化飽和赤血球によって、有効循環類洞密度をショック前の90%にまで回復することが示された(図3)。このことは、COを末梢組織に運ぶ担体として赤血球を使用できることを意味する。
上記のことから、ヘモグロビンのT−R transitionを調節する薬剤は、赤血球の酸素放出能を惹起するのみならず、生体の抵抗血管でおこりうる酸素分圧の低下に呼応してATPを放出させる能力があるといえる。従って、T−R transitionを変化させることのできるすべての薬剤、及びこれらの薬剤により処理された赤血球は、ATP放出を活性化し得る、付加価値のついた血液として本発明に含まれ、「付加価値輸血」に使用することができる。
ATPは生体内では血管内皮細胞に作用し、NOを増加させて血流を増加させる。また、肝臓では肝細胞膜にATPが作用して毛細胆管の律動的収縮が活性化して胆汁分泌が活性化する。さらにまた、T−状態安定化剤は、赤血球が低酸素環境に到達すると発揮する生物作用、すなわち酸素放出と血管拡張を増強してショックを改善する生物作用を有することから、末梢循環改善薬として使用することができる。
2.T−状態又はR−状態安定化
(1)安定化物質
本発明において、ヘモグロビンをT状態に安定化させて赤血球からATPを遊離させる作用を持つ物質(「T−状態安定化物質」という)としては、例えば、Bezafibrate、NO、NO誘導体、二酸化炭素、アデノシン、水素イオン等を挙げることができ、これらの物質の少なくとも1つを、単独で又は適宜組み合わせて使用することができる。但し、T−状態安定化物質は上記例示した物質に限定されるものではない。
T−状態安定化物質は、赤血球からATPを遊離させる作用を有する限り、上記に挙げた薬物の一部改変体又は誘導体でもよい。
ヘモグロビンをT−状態に安定化する方法は公知であり(Kilmartin JV,Rossi−Bernardi L,Interaction of hemoglobin with hydrogen ions,carbon dioxide,and organic phosphates.Physiological Review,vol.53,836−890(1973))、例えば二酸化炭素、ATP、イノシトールヘキサキスホスフェート(Inositol hexakisphosphate)、水素イオン(H+)、塩素イオン等(Cl−)で処理することにより行うことができる。
また、ヘモグロビンをR−状態に安定化させて赤血球からのATPの遊離を抑制する作用を持つ物質(R−状態安定化物質という)としては、例えば一酸化炭素(CO)、スルフォニルウレアを挙げることができる。但し、R−状態安定化物質は上記例示した物質に限定されるものではない。
(2)ATPの遊離又はその抑制
上記のようにT−状態に安定化された赤血球は、ATPを遊離する機能を有する。「ATPを遊離する」とは、ATPの放出曲線が、酸素分圧との関係でヘモグロビンに観察される通常のシグモイド曲線をとらず、少なくとも、変曲点よりも高い酸素分圧(例えば100mmHg PO2)において、前記通常のシグモイド曲線により示されるATP放出量よりも多量のATPを放出することを意味する(例えば図1の「bezafibrate」の曲線)。従って、そのようなATP放出曲線を描く限り、上記通常のシグモイド曲線がとる変曲点以下の酸素分圧の場合は、そのシグモイド曲線により示されるATP放出量と同量でも、それよりも多量でも、少量でもよい。但し、本発明においては、ATP放出の促進は、酸素分圧100mmHg以下、好ましくは40〜80mmHgにおいて行われる。
また、R−状態に安定化された赤血球は、ATPの遊離を抑制する機能を有する。「ATPの遊離を抑制する」とは、ATPの放出曲線が、酸素分圧との関係でヘモグロビンに観察される通常のシグモイド曲線をとらず、放出されるATP量は、少なくとも、その通常のシグモイド曲線がとる変曲点以下の酸素分圧においてそのシグモイド曲線により示されるATP放出量よりも少量であることを意味する(例えば図1の「CO−Hb」の曲線)。従って、そのようなATP放出曲線を描く限り、変曲点よりも高い酸素分圧では、前記通常のシグモイド曲線により示されるATP放出量と同等でも、それよりも少量でも、多量でもよい。但し、本発明においては、ATP放出の抑制は、酸素分圧100mmHg以下、好ましくは40〜80mmHgにおいて行われる。なお、細動脈の酸素分圧は前記の40〜80mmHgである。
3.アデノシンの添加とATP放出との関係
(1)酸素分圧との関係
アデノシンは、塩基部分にプリン誘導体であるアデニンを含むヌクレオシドの一つであり、ATPの原料となる。
アデノシンは細胞内外を通過する輸送系により細胞内に取り込まれることから、本発明者は、赤血球の浮遊液にアデノシンを添加することを考えた。
その結果、細胞外液にアデノシンを添加すると、無酸素又は低酸素条件下においてATP遊離(放出)が増強することを見出した。特に、細胞外液に1μmol/Lのアデノシンを添加して5分間処理し、1分の低酸素又は無酸素条件に曝すと、ATP放出量が約2倍増強された。
このことは、例えば輸血用血液にアデノシンを添加しておくことで、ATP遊離能の高い保存血の取得につながることを意味し、アデノシン添加血液は、救急医療や手術時の輸血製品として有効に利用できる点で極めて有用である。
本発明において赤血球浮遊液中に添加されるアデノシンは、0.1〜10μmol/L、好ましくは1〜5μmol/Lである。
ここで、「無酸素条件」とは、酸素分圧が0mmHgであることを意味し、「低酸素条件」とは、0mmHgよりも大きく正常の酸素条件(150mmHg、空気中)以下の条件を意味する。
上記酸素分圧で血液浮遊液を10〜60分処理することにより、ATP放出を増強することができる。
(2)二酸化炭素分圧との関係
二酸化炭素(CO2)には、「hypercapnic protection」と呼ばれる作用、すなわち機械呼吸で換気を人為的に少なくしてCO2分圧を上昇させると、ARDS(成人呼吸促迫症候群、Adult respiratory distress syndrome)の予後を改善する作用があることが知られているが、そのメカニズムは不明であった。
本発明においては、通常の酸素分圧(Normoxia)下においてCO2分圧を変化させることにより、ATP放出を増強することができることが明らかにされた。CO2分圧は、好ましくは60〜80mmHgである。
(3)Anion exchangerとの関係
赤血球の膜には、「Band III」(バンド3)と呼ばれる膜貫通糖タンパク質が存在する(赤血球当り約106個)。このタンパク質は、N末端側の親水性ドメイン及びC末端側のドメインの2つの機能ドメインに分かれている。N末端側の親水性ドメインは、アンキリンを介して細胞骨格系と連結しており、赤血球の形態維持に関与する。C末端側のドメインは、膜を14回貫通する膜内ドメインであり、陰イオン透過機能、すなわち、Cl−とHCO3 −の交換反応を媒介し、CO2ガスの運搬及び排出という機能を担う。この機能を担う膜タンパク質を、「Anion exchanger」と呼ぶ。
本発明者は、細胞外へのATP放出が上記Anion exchangerを介して行われることを見出したため、上記Anion exchangerの抵抗を上げることにより、その機能(陰イオン透過機能)を阻害することにより、ATPの放出量を制御できると考えた。
上記ATP放出の制御は、BandIIIの細胞外ドメインに結合し、陰イオン透過機能を阻害する物質(薬物、低分子化合物)であれば特に限定されるものではない。
BandIIIの細胞外ドメインに結合する薬物としては、例えば糖尿病の治療に用いられるスルフォニルウレアであるDIDS(4,4’−ジイソチオシアネート−スティルベン−2,2’−ジスルホン酸:4,4’−diisothiocyanate−stilbene−2,2’−disulfonic acid)などが挙げられるが、DIDSが好ましい。上記BandIIIの細胞外ドメインに結合する物質を赤血球浮遊液に添加することにより、ATPの放出量を制御することが可能である。
例えばDIDSの量は、好ましくは1×10−6〜1×10−4mol/Lとなるように赤血球浮遊液に添加する。
上記(1)及び(2)で述べた反応は、BandIIIの細胞外ドメインに結合する物質により制御される。従って、当業者は、酸素分圧及び二酸化炭素分圧を考慮して、適宜ATP放出量を制御することができる。
4.医薬組成物
本発明において、赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質は、赤血球からのATP遊離を促進するため、血管拡張薬又は血流改善薬等の医薬組成物として使用することができる。
また、赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質は、赤血球からのATP遊離を抑制するため、血管収縮薬、血流制御薬又は血管拡張阻害剤として使用することができる。
上記T−状態で安定化させる物質、及びR−状態で安定化させる物質を、本発明では「T−R transition調節薬」という。
さらに、本発明においては、上記T−R transition調節薬で処理された赤血球を提供する。この赤血球は、T−状態又はR−状態に調節され、ATPの遊離を促進又は抑制できるようになっているため、医薬組成物として使用することが可能である。
本発明の医薬組成物のリソースとなる赤血球は、献血保存血、自己血輸血用血液が望ましいが、これに限定されるものではない。
(1)T−R transition調節薬
本発明のT−R transitionを調節する薬剤をATP遊離促進剤又はATP遊離抑制剤として使用する場合の投与形態としては、通常の静脈内又は動脈内等の全身投与、あるいは手術後の再建血管からの局所投与をすることができる。
従って、カテーテル技術、外科的手術等と組み合わせた投与形態を採用することも可能である。
T−状態で安定化させる物質は、血管拡張又は血流改善に寄与する。従って、T−状態で安定化させる物質を投与する対象となる疾患は、例えば虚血性疾患及び循環器系疾患であり、それらの例として、出血性ショック、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血、閉塞性動脈疾患、糖尿病による血管障害、冠動脈狭窄症、四肢虚血性疾患、閉塞性動脈硬化症、虚血性潰瘍・壊死、虚血・再灌流症候群(ショック後蘇生、臓器冷保存後灌流、外科手術後血流再開通、及び閉塞血管の再建など)、虚血性心疾患、消化管出血、DIC(播種性血管内凝固症候群)、外傷性ショック、多臓器不全などが挙げられる。このほか、アシドーシスやショックの治療、改善に用いることもできる。
R−状態で安定化させる物質は、血管収縮又は血流抑制に寄与する。従って、R−状態で安定化させる物質を投与する対象となる疾患は、血管拡張性疾患、例えば敗血症、アナフィラキシーショック、エンドトキシンショックである。
上記薬剤の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えば出血性ショックの場合の投与量は、1日1回あたり10g/dlの調製下で800mlであり、1回又は複数回投与される。複数回投与の場合は、1日あたり3〜4回に分けてもよい。
本発明のT−R transition調節薬は、献血用に体外に出された血液に添加することもでき、その場合は、血液Hb濃度10g/dl 200mlあたり5〜10mlである。
(2)T−R transitionを調節する薬剤で処理された赤血球製剤
(2−1)ヘモグロビンアロステリー
救急救命に必要な酸素輸液の開発研究は、これまで期限切れ残余献血血液からヘモグロビンを精製し、これを生体適合性材料を用いて修飾あるいは封入した製剤の開発が主体であった。
近年の研究により、赤血球が血管内の酸素濃度を感知してNOなどの低分子のガスや有機酸を活発に放出又は回収し、その一部が血管拡張や血小板活性化制御に関与する可能性が示されつつある。これは、赤血球が酸素運搬や酸塩基平衡の調節に関与するだけでなく、積極的に微小循環血流維持作用を発揮している可能性を示すものである。換言すれば、これまでの精製ヘモグロビン修飾体による人工酸素運搬体では、赤血球が本来保持しているこのような付加価値機能を完全に補完することはできないことを意味している。このような血管作動物質のシンクリザーバーとしての赤血球が血管機能制御に関与することを示す分子機構の解明は、特にショックの救急救命への応用を考える上で極めて重要であり、細胞膜機能を維持したまま、高い酸素運搬能と微小循環血流保持機能を付与した新しい赤血球製剤開発が不可欠である。
本発明は、膜透過性の高い低分子ガス(例えばNO,CO)による蛋白質機能修飾技術を利用した赤血球保存技術の向上と付加価値添加技術による、篤志で得られた献血血液の有効利用を展開する。具体的にはα−NOHb(NOで固定したヘモグロビン)あるいはCO−Hb(COで固定したヘモグロビン)を利用し、少ないヘモグロビン量で、多量のヘモグロビンが有する酸素の量と同等の量の酸素を運搬できるような赤血球製剤の実用的創製法、あるいは新規赤血球保存法をそれぞれ開発し、これらのプロダクトの実用化を目指すことを目的とする。
本発明では、血液製剤を投与される個体においてヘム解毒の負担を軽減することができるメリットも見逃せない。正常個体と異なり、外科手術後やショック病態ではサイトカイン血症や低酸素ストレスによりヘム解毒酵素であるheme oxygenaseが誘導され、ヘムからビリルビンへの分解が異常に亢進することから(Kyokane T,Norimizu S,Taniai H,Yamaguchi T,Takeoka S,Tsuchida E,Naito M,Nimura Y,Ishimura Y,Suematsu M.Gastroenterology.120,1227−1240(2001))、酸素輸送量あたりのヘムの絶対量を低下させることは、単に血液資源の節約という観点のみならず、それを投与される個体の高ビリルビン血症のリスクを軽減させることにつながるからである。
また、NO−Hbは、移植用グラフトの酸素化フラッシュ液として新規に応用することができる。通常、低温(4℃)の状態ではHb hemeと分子状酸素のaffinityは増加するため、再灌流時の酸素輸送の向上にはα−NOHbが適している。また再灌流時に生じるoxygen paradoxを軽減するためには、逆にCO−Hbの応用が可能である。さらにラジカル分子でないCOはmild vasorelaxantとして応用が可能であり、組織にHbよりもCO affinityが高いヘム蛋白が存在する筋肉や脳ではHb−COによる血管拡張効果が期待できる。このような可能性も、本発明において実験的に評価することにより、残血赤血球の新たな需要の創出に結びつけることができる。本発明において提案するαNO−RBC、CO−RBCの有効利用を行うことは、救急救命のQualityを向上させると共に、国民の篤志で得られた貴重な血液リソースの有効利用を考える上で極めて重要である。
Hb allostery修飾による付加価値赤血球製剤を開発するには、(i)血液体積の50%を占める赤血球が単なる酸素運搬体として働くばかりでなく、微小循環局所の酸素分圧変化やshear stressを感知して血管拡張物質を放出したり、血管収縮物質を吸収したりするmetabolic sinkとして作用していること、特に酸素の脱着等によるHb allostery変化が本機能を制御しているという仮説の検証とその機構を解明すること、並びに、(ii)この概念を人工酸素運搬体に導入し、実用化を目指すことが必要である。上記(i)記載の内容を実証するために、本発明ではαNO−Hb又はCO−Hbによる出血性ショックの蘇生効果を検討する。また、上記(ii)記載の内容を検討するために、本発明ではHbを修飾した赤血球を実験動物に適用する。
(i)αNO−Hb,CO−Hbによる出血性ショックの蘇生効果の検討
ラットのWigger’s hemorrhagic shock protocolにしたがって40%脱血性ショックを惹起し、αNO−Hb,CO−Hbを持つ赤血球(同種ラットから分離調整したもの)により蘇生を試みた。回復効果は肝臓微小循環の生体顕微鏡学的解析系を用いて比較検討した。微小循環の酸素供給だけでなくfunctional capillary density(FCD)、白血球接着、Kupffer cell activationなどを指標として比較検討した。また、Wigger’s hemorrhagic shock protocolにしたがってラットを用いて40%脱血性ショックを惹起し、αNO−Hb,CO−Hbを持つヒト赤血球(ヒト末梢血から分離調整したもの)により蘇生を試みた。
酸素乖離曲線は、2,3−DPGをはじめとする生体内分子や合成化合物の存在により右(または左)偏移することが古くより知られている。膜透過性に優れHbのヘムに結合するNO、CO等のガス状分子もHb allostery調節分子である。
(ii)Hbを修飾した赤血球の実験動物への適用
ラットWigger’s hemorrhagic shock protocolに従って40%脱血ショックを誘起し、αNO−RBCによる蘇生を試みた結果、αNO−RBCには毛細血管レベルでの開口性(patency)を著しく改善し、胆汁分泌を著明に回復させる効果を確認した。また、本来酸素輸送能がないと考えられるCO飽和赤血球にもCOの結合していない通常の赤血球と同様の改善効果が確認された。また、ヒト末梢血を用いた検討では、αNO−RBC、CO飽和赤血球及び通常の赤血球は全身のアシドーシスに対する改善効果を示すことが確認された。
(2−2)T−状態に安定化させた赤血球
以上のことから、本発明において作製された赤血球のうち、T−状態に安定化させた赤血球は、血管拡張、血流改善の治療に用いる医薬組成物として使用することができる。また、本発明において作製された赤血球は、虚血性疾患のほか、アシドーシスやショックの治療、改善に用いる医薬組成物として使用することができる。
本発明の赤血球は、免疫適合性とするために治療目的のレシピエント個体から得てもよく、ボランティアからの献血を用いてもよい。本発明において使用される赤血球は哺乳動物赤血球であり、好ましくはヒト赤血球である。
本発明の赤血球を含む医薬組成物は、例えば、以下の組織に生じる疾患について治療、予防または、検査を特異目的として用いることができる。
消化器系:口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、すい臓など
呼吸器系:気管、気管支、肺など
泌尿器系:腎臓、膀胱など
心臓血管系:心臓、動脈、静脈
リンパ系:リンパ管、リンパ節、脾臓、胸腺
中枢神経系:脳(大脳、間脳、中脳、小脳)、延髄、脊髄
筋:骨格筋、平滑筋等
これらの疾患は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよく、いずれも本発明の医薬組成物の使用対象とすることができる。本発明においては、例えば血管拡張、血流改善又はショック改善の目的とすることが好ましい。
また、本発明においては、ATPを遊離する薬物を含有する赤血球を、虚血性疾患や循環器系疾患を治療するための医薬組成物として使用することができる。
虚血性疾患及び循環器系疾患としては、例えば出血性ショック、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血、閉塞性動脈疾患、糖尿病による血管障害、あるいは、冠動脈狭窄症、四肢虚血性疾患、閉塞性動脈硬化症、虚血性潰瘍・壊死、虚血・再灌流症候群、虚血性心疾患、消化管出血、DIC(播種性血管内凝固症候群)、外傷性ショック、多臓器不全などが挙げられる。前記の虚血・再灌流症候群には、ショック後蘇生、臓器冷保存後灌流、外科手術後血流再開通、及び閉塞血管の再建からなる群から選択される、少なくとも一つの原因により起こるものが挙げられる。本発明の医薬組成物は、これらの疾患を治療するために用いられ、血流改善薬、または血管拡張薬としての作用を有する。
また、本発明の医薬組成物は、酸塩基平衡障害(例えばアシドーシス)の治療薬あるいはショック改善薬として治療に用いられる。
赤血球は、前記の通り酸素濃度変化によるヘモグロビンのアロステリー変化を介して、ATPを細胞外に遊離している。具体的には、赤血球は低酸素状態ではATPを遊離しやすく、酸素飽和状態ではATPを遊離しにくい。
従って、血流の滞った箇所、例えば血管が血栓、血管肥厚、血管狭窄、血管閉塞等によって血液を通す容量が減少した又は無くなった箇所では、酸素を十分に含む新鮮血液を供給することができないため、そのような血流の滞った箇所の血液は低酸素状態になる。また、出血ショックによっても、低酸素状態を引き起こす。さらに、癌細胞の中心部分では、血管系が未発達であるため酸素の供給が十分ではなく、癌細胞が低酸素状態にある。このため、放射線治療では効率よく酸素ラジカルを産生できず、十分な治療効果を出すことができないという問題がある。さらに、細胞は多くの酸素を必要としているため、酸素の供給が止まった場合(例えば血流が断絶した場合)は、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な症状に至ることがある。
本発明の赤血球は、そのような低酸素状態においてATPを効果的に供給し、臓器血流を維持することを可能とするものである。
また、大腸鏡による腸の検査及び/又は治療においては、空気で腸をふくらませるために、腸に圧力がかかり血流が悪くなり、腸の細胞は低酸素状態にさらされる。そこで、用いるガスに二酸化炭素を多く含ませることにより、本発明の赤血球はATPを供給し、腸の低酸素状態を改善することが可能となる。
赤血球内で産生され遊離したATPは、血管内皮細胞にある特異的受容体に作用し、NOやプロスタサイクリンを増加させて血管を弛緩、拡張させる。従って、血流の滞った血管を弛緩、拡張させることで血流を改善させることができる。
また、遊離したATPは、血液内で速やかにADPに分解される。分解によって産生されたADPは、血小板に存在する特異的受容体を介して血小板の凝集を引き起こす。従って、出血によって起きる低酸素状態を示す部位を、上記の機序によって効果的に止血をすることができる。
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えば肝疾患手術後の出血性ショックの場合の投与量は、1日1回あたりヘモグロビン20g/dlの濃厚パックで200〜800mL程度であり、1回又は複数回投与される。複数回投与の場合は、1日あたり3〜4回に分けてもよい。
(2−3)R−状態に安定化させた赤血球
本発明において作製された赤血球のうち、R−状態に安定化させた赤血球は、敗血症ショック、アナフィラキシーショックなど全身血管拡張が著しい病態(血管拡張性疾患)の治療に用いる医薬組成物として使用することができる。
上記(2−2)に記載したように、T−状態に安定化された赤血球を含む医薬組成物は、出血性ショックの治療に有効である。このことは、R−状態に安定化させた赤血球とT−状態に安定化させた赤血球のいずれかを、ショック状態により使い分けることできることを意味している。
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えば敗血症ショック又はアナフィラキシーショックの場合の投与量は、1日1回あたりヘモグロビン20g/dlの濃厚パックで200〜800mL程度であり、1回又は複数回投与される。複数回投与の場合は、1日あたり3〜4回に分けてもよい。
5.血液酸素含有量の測定方法
本発明により、赤血球は酸素濃度とATP放出量との関係ではヘモグロビンの酸素解離曲線と同様のシグモイド曲線を描くことが判明した。従って、本発明において低酸素性ATP放出量を測定することで、赤血球機能予備能の間接的測定が可能である。
本発明の血液酸素含有量の測定方法は、臨床検査、治療の場において有効である。また、本発明の測定方法を用いると、輸血血液の含有酸素量の測定又は汚血検査を簡便に実施することが可能となる。
用いる血液は、酸素含有量の測定対象から摂取する血液を利用する。摂取後速やかにATPを測定することが望ましい。採取量は、5〜400ml、好ましくは5〜10mlである。
血中ATPの測定には、市販の測定機器に測定対象血液を適用すればよい。
酸素含有量と血中ATP量の関係式をあらかじめ求めておき、求めた関係式に、測定で得られた血中ATP量を代入することで、試料中の酸素含有量を求めることができる。
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
組織が低酸素状態になると赤血球からアデノシン3リン酸(ATP)が放出され、放出されたATPは、血管内皮細胞表面に発現する特異的受容体を介してカルシウム濃度を上昇させ、一酸化窒素(NO)及びプロスタサイクリンの合成と遊離を促進する。このことは、このNOとプロスタサイクリンにより血管拡張作用が生じることを意味している。
一方、血漿中に出たATPはアデノシン2リン酸(ADP)に分解され、血小板凝集と接着を活性化する。これは止血が生じることを意味している。
このように、赤血球からATPが遊離されることは、生体内の生理機能にとって極めて重要である。しかしながら、その酸素濃度依存性と生理機能の機序との関係はこれまで明らかにされていなかった。また、赤血球が低酸素分圧部位に到達したときに、血管拡張物質であるATPを放出して病巣に到達する能力を持っていることを分子論的に証明した研究は無かった。
そこで本発明者は、赤血球からのATPの遊離が低酸素分圧下でどのように起こるかという点に着目して鋭意研究を行った。
1.ATP遊離とヘモグロビンアロステリーとの関係
赤血球からのATP遊離パターンは、酸素分圧との関係で酸素解離曲線と同様のシグモイド曲線を描いた。ここで、酸素解離曲線とは、酸素分圧に対する、酸素と結合したヘモグロビンの割合を示す曲線を意味する。このATP遊離パターンは赤血球中のヘモグロビン(Hb)アロステリーに依存しており、ATPの遊離パターンはHbのシグモイド曲線のパターンと類似していた。そこで、本発明者は、赤血球ATP放出反応における酸素依存性は、ヘモグロビンが酸素濃度を感知してこの現象を引き起こすためであると考えた。そして、ヘモグロビンの構造をT型又はR型構造に安定化させて赤血球からのATP遊離を測定した。その結果、R型はATP放出を抑制し、T型はATP放出を活性化し、前記考察が証明された。
ヘモグロビンは酸素の運搬体として機能する分子量64,500のタンパク質である。ヘモグロビンの酸素との結合親和性は、ヘモグロビンの構造と関係する。つまり、ヘモグロビンは低酸素分圧下ではT型構造(「T−状態」という)を、また高酸素分圧下ではR型構造(「R−状態」という)をとる。ここで「T−状態」とは、ヘム5配位であって酸素に対し低親和性(末梢で酸素が離れやすい)の構造を意味する。また、「R−状態」とは、ヘム6配位であって酸素に対し高親和性(末梢で酸素が離れにくい)の構造を意味する。
ヘモグロビンをT−又はR−状態に安定化させる薬物は、いくつか見出されている。そこで、これらの薬物を用いてヘモグロビンアロステリーをT−状態又はR−状態に安定化したときのATP遊離パターンを調べるため、ヘモグロビンをT−状態に安定化させることが知られているNO誘導体を用いて検討を行った(Yonetani,T.et al.,J.Biol.Chem.,273(32),20323−20333(1998))。
このNO誘導体を酸素非存在下でヘモグロビンに添加すると、赤血球は酸素分圧にかかわらず、ATPを一定して放出した。また、ヘモグロビンをR−状態に安定化させることが知られている一酸化炭素(CO)を用いて同様に測定すると、赤血球は酸素分圧にかかわらず、ATPを殆ど遊離しなかった。従って、ヘモグロビンの構造をT−状態又はR−状態に安定化すると、酸素分圧とは無関係にATP遊離を調節し得ることを見出した。このことは、血中の酸素分圧の低下によりヘモグロビンの構造がT−状態に移行するとき、又はヘモグロビンの構造をT−状態に安定化させたときは、血管拡張作用を有するATPを効果的に赤血球から遊離させることができることを意味する。また、血中の酸素分圧の増加によりヘモグロビンの構造がR−状態に移行するとき、又はヘモグロビンの構造をR−状態に安定化したときは、赤血球からのATPの遊離を抑制させることができることを意味する。
図1に示すように、ヒト赤血球は酸素分圧が低下するとATPを細胞外に放出する。その能力は、酸素分圧が50〜70mmHgを境界(変曲点)とするシグモイドカーブを示すことから、本発明者は酸素濃度のセンシングをヘモグロビンが行っていることを想定した。そして、ヘモグロビンの構造をいわゆるR−状態(ヘム6配位)に安定化するCOで赤血球を飽和させると、この能力は完全に消失した。一方、ヘモグロビンの構造をいわゆるT−状態(ヘム5配位)に安定化するベザフィブラート(bezafibrate)(100μmol/L30分処理)は正常酸素濃度でも多くのATPを放出する赤血球に変化させた。
さらに図2に示すように、T−状態に安定化するNOを酸素非存在下でヘモグロビン0.5当量で添加すると、赤血球は酸素濃度に関わらずATPを一定して放出するようになった(「αNO−Hb」のグラフ)。
従って、ヘモグロビンをT−状態で安定化させた赤血球は、虚血・再酸素化障害を軽減する効果を示すと考えられる。虚血・再灌流が生じ得る臓器又は組織としては、例えば心臓、肝臓、脳、肺、腎臓、血管、骨格筋、膵臓、胃、小腸、大腸などを挙げることができるがこれに限定されるものではない。特に、肝臓における虚血・再灌流障害において、赤血球は胆汁分泌の回復を劇的に改善させる効果を発揮する。このことは、ラットの全身血液体積の40%を脱血させ、15分後に同量のヘモグロビンを赤血球又はT−状態安定化赤血球で戻したときの肝臓微小循環動態を検討することによって明らかとなった(後述)。つまり、T−状態安定化赤血球を戻す時に得られる効果が、正常の赤血球で得られる効果よりも、有効循環類洞密度(functional simusoidal density(FSD))、アシドーシスの改善、胆汁分泌の回復率で上回ることが示された(図3)。
また、献血血液は一般に4℃で保存されるが、このような低温保存下ではそれだけでヘモグロビンはR−状態となる。さらに、低温保存時に一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)にすると、ATPの放出を抑制して、赤血球のエネルギーを温存することもできる。このようなR−状態にある赤血球にT−状態安定化剤を添加するとATPの放出を活性化した。つまり、R状態にある赤血球又は一酸化炭素飽和赤血球においてもATP放出回復効果が認められた。さらにまた、上記の肝臓における虚血・再灌流障害において、一酸化飽和赤血球によって、有効循環類洞密度をショック前の90%にまで回復することが示された(図3)。このことは、COを末梢組織に運ぶ担体として赤血球を使用できることを意味する。
上記のことから、ヘモグロビンのT−R transitionを調節する薬剤は、赤血球の酸素放出能を惹起するのみならず、生体の抵抗血管でおこりうる酸素分圧の低下に呼応してATPを放出させる能力があるといえる。従って、T−R transitionを変化させることのできるすべての薬剤、及びこれらの薬剤により処理された赤血球は、ATP放出を活性化し得る、付加価値のついた血液として本発明に含まれ、「付加価値輸血」に使用することができる。
ATPは生体内では血管内皮細胞に作用し、NOを増加させて血流を増加させる。また、肝臓では肝細胞膜にATPが作用して毛細胆管の律動的収縮が活性化して胆汁分泌が活性化する。さらにまた、T−状態安定化剤は、赤血球が低酸素環境に到達すると発揮する生物作用、すなわち酸素放出と血管拡張を増強してショックを改善する生物作用を有することから、末梢循環改善薬として使用することができる。
2.T−状態又はR−状態安定化
(1)安定化物質
本発明において、ヘモグロビンをT状態に安定化させて赤血球からATPを遊離させる作用を持つ物質(「T−状態安定化物質」という)としては、例えば、Bezafibrate、NO、NO誘導体、二酸化炭素、アデノシン、水素イオン等を挙げることができ、これらの物質の少なくとも1つを、単独で又は適宜組み合わせて使用することができる。但し、T−状態安定化物質は上記例示した物質に限定されるものではない。
T−状態安定化物質は、赤血球からATPを遊離させる作用を有する限り、上記に挙げた薬物の一部改変体又は誘導体でもよい。
ヘモグロビンをT−状態に安定化する方法は公知であり(Kilmartin JV,Rossi−Bernardi L,Interaction of hemoglobin with hydrogen ions,carbon dioxide,and organic phosphates.Physiological Review,vol.53,836−890(1973))、例えば二酸化炭素、ATP、イノシトールヘキサキスホスフェート(Inositol hexakisphosphate)、水素イオン(H+)、塩素イオン等(Cl−)で処理することにより行うことができる。
また、ヘモグロビンをR−状態に安定化させて赤血球からのATPの遊離を抑制する作用を持つ物質(R−状態安定化物質という)としては、例えば一酸化炭素(CO)、スルフォニルウレアを挙げることができる。但し、R−状態安定化物質は上記例示した物質に限定されるものではない。
(2)ATPの遊離又はその抑制
上記のようにT−状態に安定化された赤血球は、ATPを遊離する機能を有する。「ATPを遊離する」とは、ATPの放出曲線が、酸素分圧との関係でヘモグロビンに観察される通常のシグモイド曲線をとらず、少なくとも、変曲点よりも高い酸素分圧(例えば100mmHg PO2)において、前記通常のシグモイド曲線により示されるATP放出量よりも多量のATPを放出することを意味する(例えば図1の「bezafibrate」の曲線)。従って、そのようなATP放出曲線を描く限り、上記通常のシグモイド曲線がとる変曲点以下の酸素分圧の場合は、そのシグモイド曲線により示されるATP放出量と同量でも、それよりも多量でも、少量でもよい。但し、本発明においては、ATP放出の促進は、酸素分圧100mmHg以下、好ましくは40〜80mmHgにおいて行われる。
また、R−状態に安定化された赤血球は、ATPの遊離を抑制する機能を有する。「ATPの遊離を抑制する」とは、ATPの放出曲線が、酸素分圧との関係でヘモグロビンに観察される通常のシグモイド曲線をとらず、放出されるATP量は、少なくとも、その通常のシグモイド曲線がとる変曲点以下の酸素分圧においてそのシグモイド曲線により示されるATP放出量よりも少量であることを意味する(例えば図1の「CO−Hb」の曲線)。従って、そのようなATP放出曲線を描く限り、変曲点よりも高い酸素分圧では、前記通常のシグモイド曲線により示されるATP放出量と同等でも、それよりも少量でも、多量でもよい。但し、本発明においては、ATP放出の抑制は、酸素分圧100mmHg以下、好ましくは40〜80mmHgにおいて行われる。なお、細動脈の酸素分圧は前記の40〜80mmHgである。
3.アデノシンの添加とATP放出との関係
(1)酸素分圧との関係
アデノシンは、塩基部分にプリン誘導体であるアデニンを含むヌクレオシドの一つであり、ATPの原料となる。
アデノシンは細胞内外を通過する輸送系により細胞内に取り込まれることから、本発明者は、赤血球の浮遊液にアデノシンを添加することを考えた。
その結果、細胞外液にアデノシンを添加すると、無酸素又は低酸素条件下においてATP遊離(放出)が増強することを見出した。特に、細胞外液に1μmol/Lのアデノシンを添加して5分間処理し、1分の低酸素又は無酸素条件に曝すと、ATP放出量が約2倍増強された。
このことは、例えば輸血用血液にアデノシンを添加しておくことで、ATP遊離能の高い保存血の取得につながることを意味し、アデノシン添加血液は、救急医療や手術時の輸血製品として有効に利用できる点で極めて有用である。
本発明において赤血球浮遊液中に添加されるアデノシンは、0.1〜10μmol/L、好ましくは1〜5μmol/Lである。
ここで、「無酸素条件」とは、酸素分圧が0mmHgであることを意味し、「低酸素条件」とは、0mmHgよりも大きく正常の酸素条件(150mmHg、空気中)以下の条件を意味する。
上記酸素分圧で血液浮遊液を10〜60分処理することにより、ATP放出を増強することができる。
(2)二酸化炭素分圧との関係
二酸化炭素(CO2)には、「hypercapnic protection」と呼ばれる作用、すなわち機械呼吸で換気を人為的に少なくしてCO2分圧を上昇させると、ARDS(成人呼吸促迫症候群、Adult respiratory distress syndrome)の予後を改善する作用があることが知られているが、そのメカニズムは不明であった。
本発明においては、通常の酸素分圧(Normoxia)下においてCO2分圧を変化させることにより、ATP放出を増強することができることが明らかにされた。CO2分圧は、好ましくは60〜80mmHgである。
(3)Anion exchangerとの関係
赤血球の膜には、「Band III」(バンド3)と呼ばれる膜貫通糖タンパク質が存在する(赤血球当り約106個)。このタンパク質は、N末端側の親水性ドメイン及びC末端側のドメインの2つの機能ドメインに分かれている。N末端側の親水性ドメインは、アンキリンを介して細胞骨格系と連結しており、赤血球の形態維持に関与する。C末端側のドメインは、膜を14回貫通する膜内ドメインであり、陰イオン透過機能、すなわち、Cl−とHCO3 −の交換反応を媒介し、CO2ガスの運搬及び排出という機能を担う。この機能を担う膜タンパク質を、「Anion exchanger」と呼ぶ。
本発明者は、細胞外へのATP放出が上記Anion exchangerを介して行われることを見出したため、上記Anion exchangerの抵抗を上げることにより、その機能(陰イオン透過機能)を阻害することにより、ATPの放出量を制御できると考えた。
上記ATP放出の制御は、BandIIIの細胞外ドメインに結合し、陰イオン透過機能を阻害する物質(薬物、低分子化合物)であれば特に限定されるものではない。
BandIIIの細胞外ドメインに結合する薬物としては、例えば糖尿病の治療に用いられるスルフォニルウレアであるDIDS(4,4’−ジイソチオシアネート−スティルベン−2,2’−ジスルホン酸:4,4’−diisothiocyanate−stilbene−2,2’−disulfonic acid)などが挙げられるが、DIDSが好ましい。上記BandIIIの細胞外ドメインに結合する物質を赤血球浮遊液に添加することにより、ATPの放出量を制御することが可能である。
例えばDIDSの量は、好ましくは1×10−6〜1×10−4mol/Lとなるように赤血球浮遊液に添加する。
上記(1)及び(2)で述べた反応は、BandIIIの細胞外ドメインに結合する物質により制御される。従って、当業者は、酸素分圧及び二酸化炭素分圧を考慮して、適宜ATP放出量を制御することができる。
4.医薬組成物
本発明において、赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質は、赤血球からのATP遊離を促進するため、血管拡張薬又は血流改善薬等の医薬組成物として使用することができる。
また、赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質は、赤血球からのATP遊離を抑制するため、血管収縮薬、血流制御薬又は血管拡張阻害剤として使用することができる。
上記T−状態で安定化させる物質、及びR−状態で安定化させる物質を、本発明では「T−R transition調節薬」という。
さらに、本発明においては、上記T−R transition調節薬で処理された赤血球を提供する。この赤血球は、T−状態又はR−状態に調節され、ATPの遊離を促進又は抑制できるようになっているため、医薬組成物として使用することが可能である。
本発明の医薬組成物のリソースとなる赤血球は、献血保存血、自己血輸血用血液が望ましいが、これに限定されるものではない。
(1)T−R transition調節薬
本発明のT−R transitionを調節する薬剤をATP遊離促進剤又はATP遊離抑制剤として使用する場合の投与形態としては、通常の静脈内又は動脈内等の全身投与、あるいは手術後の再建血管からの局所投与をすることができる。
従って、カテーテル技術、外科的手術等と組み合わせた投与形態を採用することも可能である。
T−状態で安定化させる物質は、血管拡張又は血流改善に寄与する。従って、T−状態で安定化させる物質を投与する対象となる疾患は、例えば虚血性疾患及び循環器系疾患であり、それらの例として、出血性ショック、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血、閉塞性動脈疾患、糖尿病による血管障害、冠動脈狭窄症、四肢虚血性疾患、閉塞性動脈硬化症、虚血性潰瘍・壊死、虚血・再灌流症候群(ショック後蘇生、臓器冷保存後灌流、外科手術後血流再開通、及び閉塞血管の再建など)、虚血性心疾患、消化管出血、DIC(播種性血管内凝固症候群)、外傷性ショック、多臓器不全などが挙げられる。このほか、アシドーシスやショックの治療、改善に用いることもできる。
R−状態で安定化させる物質は、血管収縮又は血流抑制に寄与する。従って、R−状態で安定化させる物質を投与する対象となる疾患は、血管拡張性疾患、例えば敗血症、アナフィラキシーショック、エンドトキシンショックである。
上記薬剤の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えば出血性ショックの場合の投与量は、1日1回あたり10g/dlの調製下で800mlであり、1回又は複数回投与される。複数回投与の場合は、1日あたり3〜4回に分けてもよい。
本発明のT−R transition調節薬は、献血用に体外に出された血液に添加することもでき、その場合は、血液Hb濃度10g/dl 200mlあたり5〜10mlである。
(2)T−R transitionを調節する薬剤で処理された赤血球製剤
(2−1)ヘモグロビンアロステリー
救急救命に必要な酸素輸液の開発研究は、これまで期限切れ残余献血血液からヘモグロビンを精製し、これを生体適合性材料を用いて修飾あるいは封入した製剤の開発が主体であった。
近年の研究により、赤血球が血管内の酸素濃度を感知してNOなどの低分子のガスや有機酸を活発に放出又は回収し、その一部が血管拡張や血小板活性化制御に関与する可能性が示されつつある。これは、赤血球が酸素運搬や酸塩基平衡の調節に関与するだけでなく、積極的に微小循環血流維持作用を発揮している可能性を示すものである。換言すれば、これまでの精製ヘモグロビン修飾体による人工酸素運搬体では、赤血球が本来保持しているこのような付加価値機能を完全に補完することはできないことを意味している。このような血管作動物質のシンクリザーバーとしての赤血球が血管機能制御に関与することを示す分子機構の解明は、特にショックの救急救命への応用を考える上で極めて重要であり、細胞膜機能を維持したまま、高い酸素運搬能と微小循環血流保持機能を付与した新しい赤血球製剤開発が不可欠である。
本発明は、膜透過性の高い低分子ガス(例えばNO,CO)による蛋白質機能修飾技術を利用した赤血球保存技術の向上と付加価値添加技術による、篤志で得られた献血血液の有効利用を展開する。具体的にはα−NOHb(NOで固定したヘモグロビン)あるいはCO−Hb(COで固定したヘモグロビン)を利用し、少ないヘモグロビン量で、多量のヘモグロビンが有する酸素の量と同等の量の酸素を運搬できるような赤血球製剤の実用的創製法、あるいは新規赤血球保存法をそれぞれ開発し、これらのプロダクトの実用化を目指すことを目的とする。
本発明では、血液製剤を投与される個体においてヘム解毒の負担を軽減することができるメリットも見逃せない。正常個体と異なり、外科手術後やショック病態ではサイトカイン血症や低酸素ストレスによりヘム解毒酵素であるheme oxygenaseが誘導され、ヘムからビリルビンへの分解が異常に亢進することから(Kyokane T,Norimizu S,Taniai H,Yamaguchi T,Takeoka S,Tsuchida E,Naito M,Nimura Y,Ishimura Y,Suematsu M.Gastroenterology.120,1227−1240(2001))、酸素輸送量あたりのヘムの絶対量を低下させることは、単に血液資源の節約という観点のみならず、それを投与される個体の高ビリルビン血症のリスクを軽減させることにつながるからである。
また、NO−Hbは、移植用グラフトの酸素化フラッシュ液として新規に応用することができる。通常、低温(4℃)の状態ではHb hemeと分子状酸素のaffinityは増加するため、再灌流時の酸素輸送の向上にはα−NOHbが適している。また再灌流時に生じるoxygen paradoxを軽減するためには、逆にCO−Hbの応用が可能である。さらにラジカル分子でないCOはmild vasorelaxantとして応用が可能であり、組織にHbよりもCO affinityが高いヘム蛋白が存在する筋肉や脳ではHb−COによる血管拡張効果が期待できる。このような可能性も、本発明において実験的に評価することにより、残血赤血球の新たな需要の創出に結びつけることができる。本発明において提案するαNO−RBC、CO−RBCの有効利用を行うことは、救急救命のQualityを向上させると共に、国民の篤志で得られた貴重な血液リソースの有効利用を考える上で極めて重要である。
Hb allostery修飾による付加価値赤血球製剤を開発するには、(i)血液体積の50%を占める赤血球が単なる酸素運搬体として働くばかりでなく、微小循環局所の酸素分圧変化やshear stressを感知して血管拡張物質を放出したり、血管収縮物質を吸収したりするmetabolic sinkとして作用していること、特に酸素の脱着等によるHb allostery変化が本機能を制御しているという仮説の検証とその機構を解明すること、並びに、(ii)この概念を人工酸素運搬体に導入し、実用化を目指すことが必要である。上記(i)記載の内容を実証するために、本発明ではαNO−Hb又はCO−Hbによる出血性ショックの蘇生効果を検討する。また、上記(ii)記載の内容を検討するために、本発明ではHbを修飾した赤血球を実験動物に適用する。
(i)αNO−Hb,CO−Hbによる出血性ショックの蘇生効果の検討
ラットのWigger’s hemorrhagic shock protocolにしたがって40%脱血性ショックを惹起し、αNO−Hb,CO−Hbを持つ赤血球(同種ラットから分離調整したもの)により蘇生を試みた。回復効果は肝臓微小循環の生体顕微鏡学的解析系を用いて比較検討した。微小循環の酸素供給だけでなくfunctional capillary density(FCD)、白血球接着、Kupffer cell activationなどを指標として比較検討した。また、Wigger’s hemorrhagic shock protocolにしたがってラットを用いて40%脱血性ショックを惹起し、αNO−Hb,CO−Hbを持つヒト赤血球(ヒト末梢血から分離調整したもの)により蘇生を試みた。
酸素乖離曲線は、2,3−DPGをはじめとする生体内分子や合成化合物の存在により右(または左)偏移することが古くより知られている。膜透過性に優れHbのヘムに結合するNO、CO等のガス状分子もHb allostery調節分子である。
(ii)Hbを修飾した赤血球の実験動物への適用
ラットWigger’s hemorrhagic shock protocolに従って40%脱血ショックを誘起し、αNO−RBCによる蘇生を試みた結果、αNO−RBCには毛細血管レベルでの開口性(patency)を著しく改善し、胆汁分泌を著明に回復させる効果を確認した。また、本来酸素輸送能がないと考えられるCO飽和赤血球にもCOの結合していない通常の赤血球と同様の改善効果が確認された。また、ヒト末梢血を用いた検討では、αNO−RBC、CO飽和赤血球及び通常の赤血球は全身のアシドーシスに対する改善効果を示すことが確認された。
(2−2)T−状態に安定化させた赤血球
以上のことから、本発明において作製された赤血球のうち、T−状態に安定化させた赤血球は、血管拡張、血流改善の治療に用いる医薬組成物として使用することができる。また、本発明において作製された赤血球は、虚血性疾患のほか、アシドーシスやショックの治療、改善に用いる医薬組成物として使用することができる。
本発明の赤血球は、免疫適合性とするために治療目的のレシピエント個体から得てもよく、ボランティアからの献血を用いてもよい。本発明において使用される赤血球は哺乳動物赤血球であり、好ましくはヒト赤血球である。
本発明の赤血球を含む医薬組成物は、例えば、以下の組織に生じる疾患について治療、予防または、検査を特異目的として用いることができる。
消化器系:口腔、咽頭、食道、胃、小腸、大腸、肝臓、すい臓など
呼吸器系:気管、気管支、肺など
泌尿器系:腎臓、膀胱など
心臓血管系:心臓、動脈、静脈
リンパ系:リンパ管、リンパ節、脾臓、胸腺
中枢神経系:脳(大脳、間脳、中脳、小脳)、延髄、脊髄
筋:骨格筋、平滑筋等
これらの疾患は、単独であっても、併発したものであっても、上記以外の他の疾病を併発したものであってもよく、いずれも本発明の医薬組成物の使用対象とすることができる。本発明においては、例えば血管拡張、血流改善又はショック改善の目的とすることが好ましい。
また、本発明においては、ATPを遊離する薬物を含有する赤血球を、虚血性疾患や循環器系疾患を治療するための医薬組成物として使用することができる。
虚血性疾患及び循環器系疾患としては、例えば出血性ショック、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血、閉塞性動脈疾患、糖尿病による血管障害、あるいは、冠動脈狭窄症、四肢虚血性疾患、閉塞性動脈硬化症、虚血性潰瘍・壊死、虚血・再灌流症候群、虚血性心疾患、消化管出血、DIC(播種性血管内凝固症候群)、外傷性ショック、多臓器不全などが挙げられる。前記の虚血・再灌流症候群には、ショック後蘇生、臓器冷保存後灌流、外科手術後血流再開通、及び閉塞血管の再建からなる群から選択される、少なくとも一つの原因により起こるものが挙げられる。本発明の医薬組成物は、これらの疾患を治療するために用いられ、血流改善薬、または血管拡張薬としての作用を有する。
また、本発明の医薬組成物は、酸塩基平衡障害(例えばアシドーシス)の治療薬あるいはショック改善薬として治療に用いられる。
赤血球は、前記の通り酸素濃度変化によるヘモグロビンのアロステリー変化を介して、ATPを細胞外に遊離している。具体的には、赤血球は低酸素状態ではATPを遊離しやすく、酸素飽和状態ではATPを遊離しにくい。
従って、血流の滞った箇所、例えば血管が血栓、血管肥厚、血管狭窄、血管閉塞等によって血液を通す容量が減少した又は無くなった箇所では、酸素を十分に含む新鮮血液を供給することができないため、そのような血流の滞った箇所の血液は低酸素状態になる。また、出血ショックによっても、低酸素状態を引き起こす。さらに、癌細胞の中心部分では、血管系が未発達であるため酸素の供給が十分ではなく、癌細胞が低酸素状態にある。このため、放射線治療では効率よく酸素ラジカルを産生できず、十分な治療効果を出すことができないという問題がある。さらに、細胞は多くの酸素を必要としているため、酸素の供給が止まった場合(例えば血流が断絶した場合)は、脳梗塞や心筋梗塞などの重篤な症状に至ることがある。
本発明の赤血球は、そのような低酸素状態においてATPを効果的に供給し、臓器血流を維持することを可能とするものである。
また、大腸鏡による腸の検査及び/又は治療においては、空気で腸をふくらませるために、腸に圧力がかかり血流が悪くなり、腸の細胞は低酸素状態にさらされる。そこで、用いるガスに二酸化炭素を多く含ませることにより、本発明の赤血球はATPを供給し、腸の低酸素状態を改善することが可能となる。
赤血球内で産生され遊離したATPは、血管内皮細胞にある特異的受容体に作用し、NOやプロスタサイクリンを増加させて血管を弛緩、拡張させる。従って、血流の滞った血管を弛緩、拡張させることで血流を改善させることができる。
また、遊離したATPは、血液内で速やかにADPに分解される。分解によって産生されたADPは、血小板に存在する特異的受容体を介して血小板の凝集を引き起こす。従って、出血によって起きる低酸素状態を示す部位を、上記の機序によって効果的に止血をすることができる。
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えば肝疾患手術後の出血性ショックの場合の投与量は、1日1回あたりヘモグロビン20g/dlの濃厚パックで200〜800mL程度であり、1回又は複数回投与される。複数回投与の場合は、1日あたり3〜4回に分けてもよい。
(2−3)R−状態に安定化させた赤血球
本発明において作製された赤血球のうち、R−状態に安定化させた赤血球は、敗血症ショック、アナフィラキシーショックなど全身血管拡張が著しい病態(血管拡張性疾患)の治療に用いる医薬組成物として使用することができる。
上記(2−2)に記載したように、T−状態に安定化された赤血球を含む医薬組成物は、出血性ショックの治療に有効である。このことは、R−状態に安定化させた赤血球とT−状態に安定化させた赤血球のいずれかを、ショック状態により使い分けることできることを意味している。
本発明の医薬組成物の投与量は、年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤型によって異なるが、例えば敗血症ショック又はアナフィラキシーショックの場合の投与量は、1日1回あたりヘモグロビン20g/dlの濃厚パックで200〜800mL程度であり、1回又は複数回投与される。複数回投与の場合は、1日あたり3〜4回に分けてもよい。
5.血液酸素含有量の測定方法
本発明により、赤血球は酸素濃度とATP放出量との関係ではヘモグロビンの酸素解離曲線と同様のシグモイド曲線を描くことが判明した。従って、本発明において低酸素性ATP放出量を測定することで、赤血球機能予備能の間接的測定が可能である。
本発明の血液酸素含有量の測定方法は、臨床検査、治療の場において有効である。また、本発明の測定方法を用いると、輸血血液の含有酸素量の測定又は汚血検査を簡便に実施することが可能となる。
用いる血液は、酸素含有量の測定対象から摂取する血液を利用する。摂取後速やかにATPを測定することが望ましい。採取量は、5〜400ml、好ましくは5〜10mlである。
血中ATPの測定には、市販の測定機器に測定対象血液を適用すればよい。
酸素含有量と血中ATP量の関係式をあらかじめ求めておき、求めた関係式に、測定で得られた血中ATP量を代入することで、試料中の酸素含有量を求めることができる。
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
ヒト末梢血20mLをヘパリン採血し、2000rpm、7分で遠心して赤血球沈渣を採取し、洗浄して1×107cells/mlの赤血球浮遊液をKrebs bufferで作製した。酸素濃度を0〜150mmHgで所望の値に調整したKrebs buffer 1.8mLを含む密封キュベットを37℃でインキュベートし、マイクロリシンジで200μlの赤血球浮遊液を密封キュベットに注入した。5分後に4℃の氷中に入れて反応を停止し、サンプル200μlを4℃のまま採取し、遠心して上清中のATPをluciferin assayにより定量的に測定した。正常赤血球は酸素分圧(PO2)50〜70mmHg付近に変曲点を持つカーブになる(図1のシグモイド曲線)。赤血球に100%COを1分間通気して作製したCO飽和赤血球は低位でATP放出が一定化し(図1「CO−Hb」の曲線)、10−4mol/L(最終濃度)で処理したbezafibrateは高位でATP放出が一定化した(図1「bezafibrate」の曲線)。図1中、「*」は正常酸素分圧(150mmHg、空気中)時の測定値に対して有意に差があることを示す(P<0.05)。
本実施例では、一酸化炭素赤血球(CO−Hb)及びNO処理赤血球(αNO−Hb)のATP放出に対する影響を検討した。方法は上記実施例1に従った。NOの作用は、摂取した赤血球をアルゴン通気により完全脱酸素した後、NO−glutathioneをHb濃度に対して1:2の割合で添加し、数分後に遠心して回収した赤血球を用いて実験を行った。前記赤血球に含まれるヘモグロビンは「αNO−Hb」と表示した。
正常−Hb及びCO−Hbは実施例1と同様の結果を示し(図2)、αNO−Hbは実施例1のbezafibrateよりもさらに高位でATPの放出が一定化した(図2)。図2中、「*」は正常赤血球(Hb)に対して有意に差があることを示す(P<0.05)。
正常−Hb及びCO−Hbは実施例1と同様の結果を示し(図2)、αNO−Hbは実施例1のbezafibrateよりもさらに高位でATPの放出が一定化した(図2)。図2中、「*」は正常赤血球(Hb)に対して有意に差があることを示す(P<0.05)。
ヒト洗浄赤血球試料によるラット40%脱血ショック惹起性肝臓機能障害に対する回復効果
Wistar系雄性ラット(250〜300g)をPentobarbital sodium 50mg/kgで筋注麻酔した。麻酔したラットの気管を切開し、大腿動脈にカテーテルを挿入した。さらに、総胆管にカテーテルを挿入し、胆汁分泌をモニターした。脱血ラインとして左頸動脈にもカニュレーションし、1〜2mL/minで脱血し、総脱血量が全身血液の40%になるまで脱血を続けた。脱血終了後15分のショック状態の後、各製剤を出血量に相当するHb量を調整して投与し、60分後に肝臓微小循環、胆汁流量、および動脈血のHb,重炭酸濃度pHよりbase excessを算出した(図3)。Base excessは通常、プラス2.5以上がアルカローシス(alkalosis)、マイナス2.5以下がアシドーシス(acidosis)を意味する。図3中、PSは出血量に相当する量を生理食塩水で蘇生(n=7)、COhRBCはCO飽和ヒト赤血球で蘇生(n=5)、hRBCは空気飽和ヒト赤血球で蘇生(n=5)、及びαNOhRBCはアルファサブユニットがNOで飽和されたHbを持つヒト赤血球で蘇生(n=7)したものである。また、図3中、「*」は*P<0.05(PS群に比べて有意な変化)を、「#」は#P<0.05(hRBC群に比べて有意な変化)を示す。肝臓微小循環は、既報のビデオ強化型倒位型生体顕微鏡システムによりその動態を記録した。
まず各赤血球製剤を投与した際、肝臓の微小循環に当たる類洞血流が維持されている血管の密度は3種類の製剤を投与したいずれの群においても著明な改善効果が確認された(図3上パネル)。特に酸素を運搬できないと考えられるCO飽和赤血球(COhRBC)では肝臓の有効循環類洞密度はショック前の約90%まで回復した。これは発明者が報告したex vivoの肝臓におけるCOによる類洞血流維持作用(Suematsu M,Goda N,Sano T,Kashiwagi S,Egawa T,Shinoda Y,Ishimura Y.Carbon monoxide:an endogenous modulator of sinusoidal tone in the perfused rat liver.J Clin Invest.1995 Nov;96(5):2431−2437.)と矛盾しない結果であり、赤血球を、COを末梢組織に運ぶ担体として使用できることが初めて明らかにされたことになる。
一方、全身のアシドーシスに対する改善効果を検討する目的で、動脈血のHb及び重炭酸濃度pHによりBase excessを算出した。Base excessは通常、プラス2.5以上がアルカローシス、マイナス2.5以下がアシドーシスを意味する。Base excessは、3製剤とも有意な改善効果が認められ、αNOhRBCが最も強力な改善効果を発揮し、COhRBC,hRBCに比べても有意な改善効果が確認された(#P<0.05)。
これらの改善効果に加えて、肝臓全体のviabilityの指標である胆汁分泌改善効果では、αNOhRBC、hRBC、COhRBCの順に改善効果が増強し、特にαNOhRBCではショック前に比べても有意な胆汁分泌増強効果が認められた。ATPは毛細胆管の律動的収縮運動の活性化を起こすことがin vitroで示されているが(Kitamura T,Brauneis U,Gatmaitan Z,Arias IM.Extracellular ATP,intracellular calcium and canalicular contraction in rat hepatocyte doublets.Hepatology.1991 Oct;14(4 Pt 1):640−647.)、ATP分泌能の高いαNOhRBCが胆汁分泌活性化作用を示したことはこの事実に矛盾しない。いずれにせよ、CO−hRBCの投与は肝臓類洞血流の改善法として有用であり、αNOhRBCの投与は肝臓の類洞血流回復に加えて全身の酸塩基平衡障害(例えばアシドーシス)の是正に有力な方法であることが示された。
Wistar系雄性ラット(250〜300g)をPentobarbital sodium 50mg/kgで筋注麻酔した。麻酔したラットの気管を切開し、大腿動脈にカテーテルを挿入した。さらに、総胆管にカテーテルを挿入し、胆汁分泌をモニターした。脱血ラインとして左頸動脈にもカニュレーションし、1〜2mL/minで脱血し、総脱血量が全身血液の40%になるまで脱血を続けた。脱血終了後15分のショック状態の後、各製剤を出血量に相当するHb量を調整して投与し、60分後に肝臓微小循環、胆汁流量、および動脈血のHb,重炭酸濃度pHよりbase excessを算出した(図3)。Base excessは通常、プラス2.5以上がアルカローシス(alkalosis)、マイナス2.5以下がアシドーシス(acidosis)を意味する。図3中、PSは出血量に相当する量を生理食塩水で蘇生(n=7)、COhRBCはCO飽和ヒト赤血球で蘇生(n=5)、hRBCは空気飽和ヒト赤血球で蘇生(n=5)、及びαNOhRBCはアルファサブユニットがNOで飽和されたHbを持つヒト赤血球で蘇生(n=7)したものである。また、図3中、「*」は*P<0.05(PS群に比べて有意な変化)を、「#」は#P<0.05(hRBC群に比べて有意な変化)を示す。肝臓微小循環は、既報のビデオ強化型倒位型生体顕微鏡システムによりその動態を記録した。
まず各赤血球製剤を投与した際、肝臓の微小循環に当たる類洞血流が維持されている血管の密度は3種類の製剤を投与したいずれの群においても著明な改善効果が確認された(図3上パネル)。特に酸素を運搬できないと考えられるCO飽和赤血球(COhRBC)では肝臓の有効循環類洞密度はショック前の約90%まで回復した。これは発明者が報告したex vivoの肝臓におけるCOによる類洞血流維持作用(Suematsu M,Goda N,Sano T,Kashiwagi S,Egawa T,Shinoda Y,Ishimura Y.Carbon monoxide:an endogenous modulator of sinusoidal tone in the perfused rat liver.J Clin Invest.1995 Nov;96(5):2431−2437.)と矛盾しない結果であり、赤血球を、COを末梢組織に運ぶ担体として使用できることが初めて明らかにされたことになる。
一方、全身のアシドーシスに対する改善効果を検討する目的で、動脈血のHb及び重炭酸濃度pHによりBase excessを算出した。Base excessは通常、プラス2.5以上がアルカローシス、マイナス2.5以下がアシドーシスを意味する。Base excessは、3製剤とも有意な改善効果が認められ、αNOhRBCが最も強力な改善効果を発揮し、COhRBC,hRBCに比べても有意な改善効果が確認された(#P<0.05)。
これらの改善効果に加えて、肝臓全体のviabilityの指標である胆汁分泌改善効果では、αNOhRBC、hRBC、COhRBCの順に改善効果が増強し、特にαNOhRBCではショック前に比べても有意な胆汁分泌増強効果が認められた。ATPは毛細胆管の律動的収縮運動の活性化を起こすことがin vitroで示されているが(Kitamura T,Brauneis U,Gatmaitan Z,Arias IM.Extracellular ATP,intracellular calcium and canalicular contraction in rat hepatocyte doublets.Hepatology.1991 Oct;14(4 Pt 1):640−647.)、ATP分泌能の高いαNOhRBCが胆汁分泌活性化作用を示したことはこの事実に矛盾しない。いずれにせよ、CO−hRBCの投与は肝臓類洞血流の改善法として有用であり、αNOhRBCの投与は肝臓の類洞血流回復に加えて全身の酸塩基平衡障害(例えばアシドーシス)の是正に有力な方法であることが示された。
本実施例では、赤血球(RBC)を含む浮遊液において、細胞外液(赤血球の外)に含まれるアデノシンが、赤血球からのATP放出に対し、どのように影響するかを検討した。方法は、実施例1に準じて以下の通り行った。
赤血球の外液にアデノシンを5分間添加した後、酸素分圧を0〜150mmHgの範囲で所望の値に調整したKrebs bufferを含む密封キュベットに赤血球浮遊液を注入し、1分後に反応を停止した。
その結果、細胞外液に1μmol/Lのアデノシン(Adenosine)を添加すると、正常酸素濃度でのATP放出、および1分間の低酸素によるATP放出も2倍近く増強した(図4)。
次に、低酸素によるATP放出に対するアデノシンの濃度依存的な効果を検討した。
結果を図5に示す。図5中、「Anoxia」は酸素分圧0mmHg(無酸素状態、1分処理)で調整し、「Normoxia」は100mmHg(肺胞及び血中での通常の酸素分圧、1分処理)で調整したKrebs bufferを用いて測定したときの結果を示す。Anoxiaでは、1μmol/L(10−6mol/L)のアデノシンを添加するだけで、放出されるATPの量が約2倍になることが示された(図5●)。
図5の結果より、ATPの原料となるアデノシンを添加することでATP量の増加が引き起こされたと考えられる。そして、このことは、低温保存した血液(輸血血液等)にアデノシンを添加しておくとATP遊離能の高い血液の保存を実現することができ、新たな血液保存方法の開発に応用できることを示すものである。
赤血球の外液にアデノシンを5分間添加した後、酸素分圧を0〜150mmHgの範囲で所望の値に調整したKrebs bufferを含む密封キュベットに赤血球浮遊液を注入し、1分後に反応を停止した。
その結果、細胞外液に1μmol/Lのアデノシン(Adenosine)を添加すると、正常酸素濃度でのATP放出、および1分間の低酸素によるATP放出も2倍近く増強した(図4)。
次に、低酸素によるATP放出に対するアデノシンの濃度依存的な効果を検討した。
結果を図5に示す。図5中、「Anoxia」は酸素分圧0mmHg(無酸素状態、1分処理)で調整し、「Normoxia」は100mmHg(肺胞及び血中での通常の酸素分圧、1分処理)で調整したKrebs bufferを用いて測定したときの結果を示す。Anoxiaでは、1μmol/L(10−6mol/L)のアデノシンを添加するだけで、放出されるATPの量が約2倍になることが示された(図5●)。
図5の結果より、ATPの原料となるアデノシンを添加することでATP量の増加が引き起こされたと考えられる。そして、このことは、低温保存した血液(輸血血液等)にアデノシンを添加しておくとATP遊離能の高い血液の保存を実現することができ、新たな血液保存方法の開発に応用できることを示すものである。
本実施例は、ATPの遊離に関係する膜タンパク質を検討することを目的とする。方法は、実施例1に準じて行った。
まず、一酸化炭素処理赤血球(CO(+))では、低酸素におけるATPの遊離増加は確認できず、1μmol/Lのアデノシンを添加下においても、低酸素によるATPの遊離増加はごくわずかであった(図6「Adenosine(+)」、●)。つまり、HbをCOで処理してR−状態にすると、ATPの遊離増加促進効果は消失又は低下することが示された。図6の○は、対照(Control)である。
次に、ATPが赤血球膜上のどこから細胞外に出てくるのかを検討した。赤血球の膜には、膜タンパク質であるBand III(Anion Exchanger−1)が存在することが知られている。このBand IIIの細胞外ドメインに細胞外から結合し、このチャネルタンパク質の穴を塞ぐ薬物として、糖尿病の治療に用いられるDIDS(4,4’−diisothiocyanato−stilbene−2,2’−disulfonic acid)と呼ばれるスルフォニルウレアがある。このDIDSを用いて、ATPが赤血球膜のBand IIIを介して遊離するか否かを検討した。まず、ATP遊離増加促進作用をCO処理により消失させた条件下で、上記の検討を行った。
その結果、アデノシン存在/非存在下において、CO(+)赤血球にDIDSを添加しても、DIDS無添加の場合とATP遊離量に差はなかった(図7)。これにより、DIDSがR−状態の赤血球からのATP遊離促進に作用しているという可能性を排除できた。
次に、CO未処理の赤血球を用いて、DIDSの濃度依存的な効果を検討した。
結果を図8に示す。図8中、「Anoxia」は酸素分圧0mmHgで調整し、「Normoxia」は通常の酸素分圧で調整したKrebs bufferを用いて測定したときを示す。その結果、DIDSの濃度依存的に、低酸素によるATPの遊離増加は抑制されることが示された(図8)。
また、10−4mol/LのDIDSによるATP遊離増加抑制作用を0〜140mmHgの酸素分圧において検討した。その結果、DIDSは低酸素によるATP遊離増加を抑制することが示された(図9)。
従って、無酸素又は低酸素雰囲気下により遊離が増加したATPは、赤血球膜に存在するAnion exchangerであるBand IIIを介して細胞外に遊離していることが示された。
そして、このDIDSを細胞外液に添加することで、赤血球からのATP遊離量を任意に制御できることも示された。
まず、一酸化炭素処理赤血球(CO(+))では、低酸素におけるATPの遊離増加は確認できず、1μmol/Lのアデノシンを添加下においても、低酸素によるATPの遊離増加はごくわずかであった(図6「Adenosine(+)」、●)。つまり、HbをCOで処理してR−状態にすると、ATPの遊離増加促進効果は消失又は低下することが示された。図6の○は、対照(Control)である。
次に、ATPが赤血球膜上のどこから細胞外に出てくるのかを検討した。赤血球の膜には、膜タンパク質であるBand III(Anion Exchanger−1)が存在することが知られている。このBand IIIの細胞外ドメインに細胞外から結合し、このチャネルタンパク質の穴を塞ぐ薬物として、糖尿病の治療に用いられるDIDS(4,4’−diisothiocyanato−stilbene−2,2’−disulfonic acid)と呼ばれるスルフォニルウレアがある。このDIDSを用いて、ATPが赤血球膜のBand IIIを介して遊離するか否かを検討した。まず、ATP遊離増加促進作用をCO処理により消失させた条件下で、上記の検討を行った。
その結果、アデノシン存在/非存在下において、CO(+)赤血球にDIDSを添加しても、DIDS無添加の場合とATP遊離量に差はなかった(図7)。これにより、DIDSがR−状態の赤血球からのATP遊離促進に作用しているという可能性を排除できた。
次に、CO未処理の赤血球を用いて、DIDSの濃度依存的な効果を検討した。
結果を図8に示す。図8中、「Anoxia」は酸素分圧0mmHgで調整し、「Normoxia」は通常の酸素分圧で調整したKrebs bufferを用いて測定したときを示す。その結果、DIDSの濃度依存的に、低酸素によるATPの遊離増加は抑制されることが示された(図8)。
また、10−4mol/LのDIDSによるATP遊離増加抑制作用を0〜140mmHgの酸素分圧において検討した。その結果、DIDSは低酸素によるATP遊離増加を抑制することが示された(図9)。
従って、無酸素又は低酸素雰囲気下により遊離が増加したATPは、赤血球膜に存在するAnion exchangerであるBand IIIを介して細胞外に遊離していることが示された。
そして、このDIDSを細胞外液に添加することで、赤血球からのATP遊離量を任意に制御できることも示された。
二酸化炭素には、「hypercapnic protection」と呼ばれる作用、つまり機械呼吸で換気を人為的に少なくして二酸化炭素濃度を上昇させるとARDS(成人呼吸促迫症候群、Adult respiratory distress syndrome)の予後を改善する作用があることが知られている。そこで、本実施例では、二酸化炭素のhypercapnic作用をATP遊離の点から検討した。
方法は、実施例1の方法に準じて行い、二酸化炭素分圧(Pco2)を0〜80mmHgまで変化させて5分間処置したときのATP放出量を測定した。
結果を図10に示す。Anoxia(無酸素状態)ではATPの遊離はPco2に影響されなかった。これに対し、正常酸素状態(Normoxia)では、ATPの遊離は、60〜80mmHgで上昇し、80mmHgでは、アデノシン処置の有無に関係なくいずれの場合も有意に差があり、アデノシンを添加したときは、ATPの遊離は相乗的な高い効果を示した。従って、本実施例により、通常の酸素分圧下における赤血球の外液に含まれる二酸化炭素分圧を高くすると、ATPの放出能が上昇することが示された。
産業上の利用の可能性
方法は、実施例1の方法に準じて行い、二酸化炭素分圧(Pco2)を0〜80mmHgまで変化させて5分間処置したときのATP放出量を測定した。
結果を図10に示す。Anoxia(無酸素状態)ではATPの遊離はPco2に影響されなかった。これに対し、正常酸素状態(Normoxia)では、ATPの遊離は、60〜80mmHgで上昇し、80mmHgでは、アデノシン処置の有無に関係なくいずれの場合も有意に差があり、アデノシンを添加したときは、ATPの遊離は相乗的な高い効果を示した。従って、本実施例により、通常の酸素分圧下における赤血球の外液に含まれる二酸化炭素分圧を高くすると、ATPの放出能が上昇することが示された。
産業上の利用の可能性
本発明により、赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質を含む、赤血球からのATP遊離促進剤、及び赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質を含む、赤血球からのATP遊離抑制剤が提供される。
ヘモグロビンの構造をT−状態に安定化させると、高酸素分圧状態でも赤血球からATPを遊離させることができる。一方、ヘモグロビンの構造をR−状態に安定化させると、低酸素分圧状態でも赤血球からのATP放出を抑制することができる。従って、本発明のATP遊離促進剤は血管拡張薬又は血流改善薬として、また、本発明のATP遊離抑制剤は血管収縮薬、血流制御薬、血管拡張阻害薬又は血管過拡張を伴う敗血症ショックの治療薬として有用である。
さらに、ヘモグロビンの構造がT−状態に安定化された赤血球は、ATPを遊離して血管を拡張することができるため、血流を増加させることが可能である。一方、ヘモグロビンの構造がR−状態に安定化された赤血球は、敗血症ショックなどで末梢血管が過拡張をおこした病態で投与できる赤血球製剤として有用であり、また、ATPの遊離を抑制して血小板の活性化を抑制するため、血栓を防止することが可能である。
ヘモグロビンの構造をT−状態に安定化させると、高酸素分圧状態でも赤血球からATPを遊離させることができる。一方、ヘモグロビンの構造をR−状態に安定化させると、低酸素分圧状態でも赤血球からのATP放出を抑制することができる。従って、本発明のATP遊離促進剤は血管拡張薬又は血流改善薬として、また、本発明のATP遊離抑制剤は血管収縮薬、血流制御薬、血管拡張阻害薬又は血管過拡張を伴う敗血症ショックの治療薬として有用である。
さらに、ヘモグロビンの構造がT−状態に安定化された赤血球は、ATPを遊離して血管を拡張することができるため、血流を増加させることが可能である。一方、ヘモグロビンの構造がR−状態に安定化された赤血球は、敗血症ショックなどで末梢血管が過拡張をおこした病態で投与できる赤血球製剤として有用であり、また、ATPの遊離を抑制して血小板の活性化を抑制するため、血栓を防止することが可能である。
Claims (43)
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質を含む、赤血球からのATP遊離促進剤。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質が、ベザフィブラート、一酸化窒素、二酸化炭素及びアデノシンからなる群から選択される少なくとも1つである請求項1記載の促進剤。
- 100mmHg以下の酸素分圧下において細胞外にATPを遊離させることができる請求項1又は2記載の促進剤。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質を含む、医薬組成物。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態で安定化させる物質が、ベザフィブラート、一酸化窒素、二酸化炭素及びアデノシンからなる群から選択される少なくとも1つである請求項4記載の医薬組成物。
- 100mmHg以下の酸素分圧下においてATPを細胞外に遊離させることができる請求項4又は5記載の医薬組成物。
- 血管拡張薬又は血流改善薬である請求項4〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をT−状態に安定化することを特徴とする、赤血球からATPを遊離させる方法。
- 100mmHg以下の酸素分圧下においてATPを遊離させることを特徴とする請求項8記載の方法。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質を含む、赤血球からのATP遊離抑制剤。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質が、一酸化炭素又はスルフォニルウレアである請求項10記載の抑制剤。
- 100mmHg以下の酸素分圧下においてATPの遊離を抑制することができる請求項10又は11記載の抑制剤。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質を含む、医薬組成物。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態で安定化させる物質が、一酸化炭素又はスルフォニルウレアである請求項13記載の医薬組成物。
- 100mmHg以下の酸素分圧下においてATPの遊離を抑制することができる請求項13又は14記載の医薬組成物。
- 血管収縮薬又は血流制御薬である請求項13〜15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
- 赤血球中のヘモグロビンの構造をR−状態に安定化することを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を抑制する方法。
- 100mmHg以下の酸素分圧下においてATPの遊離を抑制することを特徴とする請求項17記載の方法。
- ヘモグロビンの構造がT−状態で安定化された赤血球。
- ベザフィブラート、一酸化窒素、二酸化炭素、アデノシン及び水素イオンからなる群から選択される少なくとも1つの物質で処理された請求項19記載の赤血球。
- 100mmHg以下の酸素分圧下においてATPを遊離することができる請求項19又は20記載の赤血球。
- ヘモグロビンの構造がR−状態で安定化された赤血球。
- 一酸化炭素又はスルフォニルウレアで処理された請求項22記載の赤血球。
- 100mmHg以下の酸素分圧下においてATPの遊離を抑制することができる請求項22又は23記載の赤血球。
- 請求項19〜21のいずれか1項に記載の赤血球を含む医薬組成物。
- 虚血性疾患を治療するための請求項25記載の医薬組成物。
- 虚血性疾患が、出血性ショック、心筋梗塞、狭心症、脳梗塞、脳出血、閉塞性動脈疾患、糖尿病による血管障害、冠動脈狭窄症、四肢虚血性疾患、閉塞性動脈硬化症及び虚血性潰瘍・壊死からなる群から選択される少なくとも1つである請求項26記載の医薬組成物。
- 虚血性疾患が、虚血・再灌流症候群である請求項26記載の医薬組成物。
- 虚血・再灌流症候群が、ショック後蘇生、臓器冷保存後灌流、外科手術後血流再開通、及び閉塞血管の再建からなる群から選択される、少なくとも一つの原因により起こるものである請求項28記載の医薬組成物。
- アシドーシスを治療するための請求項25記載の医薬組成物。
- 請求項22〜24のいずれか1項に記載の赤血球を含む医薬組成物。
- 血管拡張性疾患を治療するための請求項31記載の医薬組成物。
- 血管拡張性疾患が、敗血症ショック又はアナフィラキシーショックである請求項32記載の医薬組成物。
- 赤血球から遊離されたATP量を酸素濃度依存性に定量することを特徴とするATPの測定方法。
- 赤血球浮遊液にアデノシンを添加し、得られる浮遊液を無酸素又は低酸素分圧条件下に曝すことを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を増強させる方法。
- 無酸素又は低酸素分圧条件が0mmHg〜150mmHgの条件である請求項35記載の方法。
- 赤血球浮遊液にアデノシンを添加し、得られる浮遊液を60mmHg〜80mmHgの二酸化炭素分圧条件下に曝すことを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を増強させる方法。
- アデノシンの濃度が0.1μmol/L〜10μmol/Lである請求項35〜37のいずれか1項に記載の方法。
- アデノシンが添加された赤血球浮遊液に、バンド3タンパク質の陰イオン透過機能阻害物質を添加することを特徴とする、赤血球からのATPの遊離を制御する方法。
- バンド3タンパク質の陰イオン透過機能阻害物質がスルフォニルウレアである請求項39記載の方法。
- バンド3タンパク質の陰イオン透過機能阻害物質を含む、赤血球からのATP遊離制御剤。
- バンド3タンパク質の陰イオン透過機能阻害物質がスルフォニルウレアである請求項41記載の制御剤。
- ATPの遊離を抑制するための請求項41又は42記載の制御剤。
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