JPWO2004073740A1 - 組織内アンジオテンシンii産生亢進制御剤並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤 - Google Patents

組織内アンジオテンシンii産生亢進制御剤並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤 Download PDF

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Abstract

本発明の課題は、新規な組織レニン・アンジオテンシン系の活性化を制御する手段並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療する手段を提供することである。プロレニンプロフラグメント領域における非酵素的プロレニン活性化を阻害する機能を有する物質を含む医薬を用いることによる。具体的には、プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有するペプチド又はその等価ペプチドを含む医薬を用いることにより組織内アンジオテンシンII産生亢進を制御することができるとともに、組織アンジオテンシンII産生亢進による又は組織内レニン・アンジオテンシン系を介さない動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療をすることができる。

Description

本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本特許出願番号特願2003−43269号からの優先権を請求する。
本発明は組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤に関する。
レニン・アンジオテンシン系は、生体において重要な調節系の中枢的存在であり、血圧、水電解質代謝、細胞増殖に深く関与することが知られている。レニン・アンジオテンシン系には循環血中レニン・アンジオテンシン系と組織レニン・アンジオテンシン系があり、前者は血圧や水電解質バランスにおける急性の変化に対応し調節を行う系であり、後者は発生分化から増殖、又は種々の病態において重要な役割を果たすことが知られている。組織におけるレニン・アンジオテンシン系の活性化は、組織中のアンジオテンシンIIの濃度を上昇させ、組織において増加したアンジオテンシンIIは、特異的受容体を介して働き高血圧・(糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症を含む)糖尿病合併症、腎疾患、心不全、心筋梗塞・心肥大・心筋症・脳血管障害・動脈硬化の発症と進展に深く関与している。これら疾患に対し、従来はアンジオテンシンIIの産生酵素の阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬が用いられてきたが、エスケープ現象といわれるアンジオテンシンII又はアンジオテンシンII効果の再上昇によって、治療効果には限界が存在した。それゆえ、病態の本質である組織アンジオテンシンII濃度の確実な抑制のためには、根源である組織レニン・アンジオテンシン系の活性化を抑えることが最重要である。また、上記従来のアンジオテンシンII産生酵素阻害薬等の薬剤では、組織レニン・アンジオテンシン系を介してしか動脈硬化症等の疾患を治療することができず、組織レニン・アンジオテンシン系非依存性の未知の作用機構による動脈硬化症等の疾患を治療することはできないという限界も存在した。
レニンは主として腎臓において、その前駆体である406アミノ酸からなるプレプロレニン(pre−pro−renin)として生合成され、N末端の23個のアミノ酸が切断されてプロレニンが生じ、ついで43個のアミノ酸がN末端からさらに切断されて340個のアミノ酸からなるレニンとなる。レニンはアンジオテンシノーゲンを特異的に加水分解してアンジオテンシンI(AI)を生成する蛋白質分解酵素である。しかし、レニンの前駆体であるプロレニンは通常この酵素活性を示さない。そのため、プロレニンの血中存在量はレニンの約10倍であるにもかかわらず、レニン・アンジオテンシン系における作用物質はレニン、又はプロレニンが加水分解されて生じるレニンであると考えられてきた。
本発明者等は先に、不活性型レニン前駆体プロレニンは、プロレニンからレニンが生じる際に切断されるN末端の43個のアミノ酸断片(以下「プロフラグメント」又は「pf」とよぶ)を特異的に認識する抗体とインビトロで結合して免疫複合体を形成すると、生理的条件下で、かつ一次構造が変化することなく非酵素的に、蛋白機能すなわち酵素活性(レニン活性)を発現することを、抗ヒトプロレニンpf抗体を用いて見い出した(特許文献1〜2)。これまでにプロレニンを活性化する手段として、蛋白分解酵素によるレニンへの変換、酸性及び低温状態で一次構造の変化なしに活性化する方法(非特許文献1〜4)及び低分子のレニン阻害剤をプロレニンの三次元構造の深い溝に隠れている酵素活性部位に結合させて開放型とする方法(非特許文献5)などが知られている。しかし、生体内におけるプロレニン活性化のメカニズムならびにその作用は、未だ不明である。
(特許文献1)特開平10−279600号公報
(特許文献2)アメリカ合衆国特許第5945512号
(非特許文献1)Nature,288,702−705,1980
(非特許文献2)J.Biol.Chem.,262,2472−2477,1987
(非特許文献3)Clin.Chem.,37,1811−1819,1991
(非特許文献4)J.Biol.Chem.,267,11753−11759,1992
(非特許文献5)J.Biol.Chem.,267,22837−22842,1992
本発明の課題は、新規な組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤を提供することである。
ここで、糖尿病合併症とは糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症等の公知の疾患を含むものである。
本発明者等は、上記の事情を考慮して研究を進めた結果、プロレニンプロフラグメント由来の部分ペプチドを、組織内アンジオテンシンII産生が亢進している病態モデル動物の一例としてSTZ糖尿病病態モデル動物に投与することにより組織レニン・アンジオテンシン系の活性化を制御しうることを見い出した。この知見に基づいて、生体内におけるプロレニンの活性化を制御する物質を用いることにより、新規な組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤を提供できることを見い出した。
また、プロレニンプロフラグメント由来の部分ペプチドを、糖尿病性腎症が発症すると予測される病態モデル動物の一例であるSTZ糖尿病病態モデル動物及びSTZ投与アンジオテンシン受容体遺伝子欠損マウスに投与することにより、糖尿病に由来する腎糸球体硬化病変を抑制しうることを見い出した。この知見に基づいて、生体内におけるプロレニンの活性化を制御する物質を用いることにより、新規な糖尿病性腎症の発症予防又は治療剤を提供できることを見い出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の態様は、
1.プロレニンのプロフラグメント領域における蛋白質間相互作用によっておこる、一次構造変化を伴わない非酵素的プロレニン活性化を阻害する機能を有する物質を含む以下から選ばれる用途に使用される医薬:
1)組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤;
2)組織内アンジオテンシンII産生亢進により発症する動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤;
3)組織内レニン・アンジオテンシン系を介さない動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤、
2.前記物質がレニン阻害活性を保持しない前項1の医薬、
3.前記物質がプロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有するペプチド又はその等価ペプチドからなる前項1又は2の医薬、
4.前記部分配列が、プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される連続した3個から10個の部分配列である前項3の医薬、
5.プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有する前記ペプチドが、配列表の配列番号7から14、及び配列番号21に記載のペプチドから選択されるペプチドである前項3の医薬、
6.プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有する前記ペプチドが、配列表の配列番号3、配列番号4、及び配列番号15から20に記載のペプチドから選択されるペプチドである前項3の医薬、
7.前記物質が、プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列の情報から設計される低分子化合物である前項1又は2の医薬、
8.プロレニン活性化を阻害する前記機能が、プロレニンのプロフラグメント領域における蛋白質間相互作用の拮抗作用によるものである前項1〜7のいずれか1の医薬、
9.プロレニン活性化を阻害する前記機能が、プロレニンのプロフラグメント領域に対する特異的結合蛋白とプロレニンとの相互作用を阻害してプロレニン活性化を生体内で阻害することを特徴とする前項1〜8のいずれか1の医薬、
10.前項1〜9のいずれか1の医薬のスクリーニング方法。
図1aは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの体重への影響を示す。図1bは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの血圧への影響を示す。図1cは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの血中グルコース量への影響を示す。
図2aは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの尿蛋白排出量への影響を示す。図2bは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの腎糸球体障害への影響をPAS法を用いて示す。図2cは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの腎糸球体障害への影響をType IVコラーゲン染色法を用いて示す。図2dは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの腎糸球体障害率への影響を示す。
図3aは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの血漿レニン活性への影響を示す。図3bは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの血漿アンジオテンシンI量への影響を示す。図3cは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの血漿アンジオテンシンII量への影響を示す。図3dは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの腎臓アンジオテンシンI量への影響を示す。図3eは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの腎臓アンジオテンシンIIへの影響を示す。図3fは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの腎臓レニンmRNAレベルへの影響を示す。図3gは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの腎臓ACE mRNAレベルへの影響を示す。図3hは、p4ペプチド投与による糖尿病マウスの腎臓アンジオテンシノーゲンmRNAレベルへの影響を示す。
図4aは、p4ペプチド投与によるアンジオテンシンII受容体欠損の糖尿病マウスの腎糸球体障害への影響を示す。図4bは、p4ペプチド投与によるアンジオテンシンII受容体欠損の糖尿病マウスの腎糸球体障害率への影響を示す。
以下、本発明を詳しく説明するが、本明細書中で使用されている技術的及び科学的用語は、別途定義されていない限り、本発明の属する技術分野において通常の知識を有する者により普通に理解される意味を持つ。本明細書中では当業者に既知の種々の方法が参照されている。そのような引用されている公知の方法を開示する刊行物等の資料は、それらを引用することにより本明細書中にそれらの全体が完全に記載されているものとして導入される。
本発明者等は、ラットプロレニンをインビトロで活性化し得る上記抗ラットpf抗体の抗原である、ラットプロレニンプロフラグメント由来の部分ペプチドを合成してSTZラットに投与した。これらのペプチドは、ヒトpfペプチドが抗ヒトpf抗体によるインビトロでのヒトプロレニン活性化を阻害するのと同様に、抗ラットpf抗体によるインビトロでのラットプロレニン活性化を拮抗阻害できる。すなわちこれらのペプチドは、蛋白質間相互作用によっておこる、ラットプロレニンの一次構造変化は伴わないが高次構造変化を伴う活性化を阻害できる。STZラットにこれらのペプチドを投与すると、実験例1及び2に示すように腎臓内アンジオテンシンIIの減少に有意の効果が得られた。しかし、正常ラットにこれらのペプチドを投与してもアンジオテンシンIIは変動しなかった。また実験例2及び3に示すように、上記ペプチドを投与すると、投与されていないSTZラットにおいて著明である腎糸球体硬化病変が抑制され、正常ラットにほぼ近い状態になった。上記ペプチドの投与で得られるこれらの効果は、上記ペプチドにより、生体内におけるラットプロレニンの蛋白質間相互作用による構造変化を伴う活性化が阻害されることにより、又はラットプロレニンもしくは活性化されたラットプロレニンとその作用部位との結合が阻害されることにより得られたものと推測される。
以上の結果から、STZラットではプロレニンが、プロレニン結合性蛋白質と相互作用することにより糖尿病合併症を発症している可能性が示唆された。プロレニンのpfペプチドは、レニン・アンジオテンシン系が活性化されることによる組織内アンジオテンシンII産生亢進を制御するとともにレニン・アンジオテンシン系非依存性の経路を制御し、例えば糖尿病合併症等の種々の疾患に対して、予防治療作用を示すことが判明した。
ラットプロレニンのpfペプチドはヒトプロレニンpfペプチドとアミノ酸残基数は同じであるが構成アミノ酸が異なる。それにも拘わらず、上記のように、インビトロでヒトプロレニンを活性化し得る抗ヒトpf抗体のエピトープペプチドであるヒトpfペプチドと一次構造上のアミノ酸配列順序において同一部位のラットpfペプチドが、STZ投与ラット高血糖病態モデルでアンジオテンシンII減少効果及び糖尿病性腎症の抑制効果を示した。従って、組織内アンジオテンシンII産生亢進に関与するプロレニンの薬理作用、プロレニン活性化に係わるその構造上の部位、及びその活性化のメカニズムには種差がないといえる。つまり、上記ペプチドのアンジオテンシンII減少効果はラット病態モデル動物で認められたものであるが、ヒトプロレニンのpfペプチドのアミノ酸配列を考慮して適当なペプチドを選択することにより、むろんヒトの組織内アンジオテンシンII産生亢進性疾患、例えば糖尿病合併症においても同様の効果を期待できる。
(プロレニン活性化を阻害する物質の選別方法)
本発明に係るプロレニン活性化を阻害する物質の選別方法は、プロレニンのプロフラグメント領域における蛋白質間相互作用によるプロレニン活性化の調節能を指標として行うことを特徴とする。ここで、プロレニンのプロフラグメント領域における蛋白質間相互作用によるプロレニン活性化とは、pf領域における蛋白質間相互作用により生じる、プロレニンの一次構造変化は伴わないが高次構造変化を伴う酵素活性部位の開放を意味する。従って、該蛋白質間相互作用により活性化されたプロレニンは、活性化される前のプロレニンの一次構造と同一のアミノ酸配列は保持しているが、レニン様の酵素活性を示し得るものである。pf領域における蛋白質間相互作用を有する蛋白質としては、pfペプチドを認識して活性化する抗体、生体内におけるプロレニン又は活性化したプロレニンの作用部位である蛋白質、及びプロレニンと相互作用してこれを活性化させ得る蛋白質などが例示される。
上記プロレニン活性化を阻害する物質の選別方法は、自体公知の医薬品スクリーニングシステムを利用して構築可能である。例えば、プロレニンとプロレニンを活性化し得る抗pf抗体とを用いて、プロレニンと該抗pf抗体の結合を測定することにより、プロレニン活性化を阻害する物質を選別できる。また、例えば、プロレニンとプロレニンを活性化し得る抗pf抗体とを用いて、活性化されたプロレニンの酵素活性を測定することにより、プロレニン活性化を阻害する物質、又はプロレニンの酵素活性を阻害する物質を選別できる。むろん、選別方法はこれらに限定されない。また、上記のように、プロレニンpf領域のアミノ酸配列の構成アミノ酸は種により異なるため、ヒトプロレニン活性化制御物質の選別は、ヒトプロレニンと、例えばヒトプロレニンのpfペプチドに対する抗体とを用いて行うことが好ましい態様の1つである。
具体的には例えば、特開平10−279600号公報及びアメリカ合衆国特許第5945512号の記載に準じて調製した、ヒトプロレニン、及びヒトプロレニンpfペプチドを特異的に認識してヒトプロレニンを活性化し得る抗体を利用して、スクリーニングシステムを構築できる。
上記プロレニン活性化を阻害する物質の選別方法で、選別される対象となる物質としては、低分子化合物、天然物由来の化合物、又はペプチドなど、自体公知の医薬品スクリーニングシステムで使用している選別の対象となる候補物質を広く利用できる。
また、プロレニンとくにヒトプロレニンのpf領域のアミノ酸配列情報を基にして設計されるペプチド及び低分子化合物も選別される対象とすることができる。
ヒトプロレニンのpf領域のアミノ酸配列は既知であり、特開平8−285852に示す43個のアミノ酸配列(配列表の配列番号1)からなる。プロレニンのpfペプチドのアミノ酸配列は、プロレニン活性化制御物質を選別する対象となる物質の設計に有用な情報となる。とくにプロレニンpf領域のN末端より1番目〜19番目(pf1−19)、とりわけ5番目〜19番目(pf5−19)、及び27番目〜41番目(pf27−41)のアミノ酸配列の、少なくとも3個、より好ましくは少なくとも4個の連続するアミノ酸配列の情報は、プロレニン活性化制御物質の設計のために有用である。ヒト由来pf1−19、ヒト由来pf5−19、ヒト由来pf27−41、ラット由来pf1−19、ラット由来pf5−19、及びラット由来pf27−41のアミノ酸配列は、それぞれ配列表の配列番号2、3、4、6、7、及び8に示す。以下、pf領域のN末端より例えばM番目〜N番目のペプチドを、pfM−Nと記載する。
上記のように、プロレニンpf領域のアミノ酸配列は種が異なってもアミノ酸残基数は同一であるがその構成アミノ酸が異なる。実験例では、ラットプロレニンのpfペプチドのアミノ酸配列(配列表の配列番号5)を、プロレニン活性化制御物質を選別するための対象物質の設計に有用な情報として例示した。実施例では、ラットプロレニンpf領域のアミノ酸配列断片である、pf1−11(配列表の配列番号9)、pf5−19(配列表の配列番号7)、pf1−4(配列表の配列番号10)、pf1−7(配列表の配列番号11)、pf5−11(配列表の配列番号12)、pf12−19(配列表の配列番号13)、pf11−15(配列表の配列番号14)、及びpf27−41(配列表の配列番号8)を合成し、それらのプロレニン活性化抑制によるアンジオテンシンII減少効果を確認したが、必ずしもこの配列に限定されない。当業者であれば、自体公知の手法により、適宜少なくとも3個のペプチドを合成し、その合成ペプチドをもとに選別の対象となる物質を設計し合成できる。
なお、ラットpfペプチドと一次構造上のアミノ酸配列順序が同一のヒトプロレニンpfペプチドが、ヒトにおいて同様の効果をもたらすことは容易に推定できる。好ましい態様の1つとして、ヒトプロレニンのpfペプチドを、選別の対象となる物質を設計するための情報とする。
選別の対象となる物質は、ペプチドであれば、上記のようにプロレニンpf領域のアミノ酸配列の情報をもとに適宜設計され、選択のために提供され得る。該ペプチドを構成するアミノ酸は、必ずしもプロレニンpf領域のアミノ酸配列と同一である必要はなく、該ペプチドと同様の機能を有するものであれば、該ペプチドのアミノ酸配列に、適宜、欠失、置換、付加、挿入などの変異を導入したペプチドであってもよい(以下、等価ペプチドと呼ぶこともある)。
また、選別の対象となる物質は、pf領域のアミノ酸配列の二次及び/又は三次構造に基づく情報により、その構造的相補性をもとにしてドラッグデザインした低分子化合物であってもよい。
pf領域のアミノ酸配列から選択された部分配列を有するペプチド、既知の糖尿病治療予防剤などをもとに情報を集積し、また動物モデルを使用した実験などにより、得られた物質から、組織内アンジオテンシンII産生亢進制御効果を有する物質並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤を選択できる。
(プロレニン活性化を阻害する物質)
かくして本発明は、プロレニンのpf領域における蛋白質間相互作用に基づくプロレニン活性化を阻害し得るプロレニン活性化を阻害する物質からなる組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤を提供する。
本発明の1つの態様は、ヒトプロレニン活性化を阻害し得るプロレニン活性化阻害物質からなる組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤である。
本発明のもう1つの態様は、ヒトプロレニン活性化を阻害し得るプロレニン活性化阻害物質からなる動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤である。
本発明に係るプロレニン活性化阻害物質は、プロレニンを活性化する蛋白質間相互作用を競合的に阻害するもの、プロレニンもしくは活性化されたプロレニンの作用部位において拮抗的にその結合を阻害するもの、又はプロレニンもしくは活性化されたプロレニンの作用部位に作用し、プロレニンもしくは活性化されたプロレニンの作用を阻害するものなどであり得る。
上記プロレニン活性化阻害物質が、プロレニンのpf領域における蛋白質間相互作用に基づくプロレニン活性化を阻害する機能を有し、かつレニン阻害活性のないプロレニン活性化阻害物質であることは好ましい態様の1つである。すなわち、上記プロレニン活性化阻害物質は、その作用メカニズムとしてレニンへの直接的な阻害作用を示さない。そのため、生体の生命維持機構に重要な役割を担っているレニン・アンジオテンシン系をレニン阻害剤などの様に阻害することなく、病態時に活性化するプロレニンの活性化を阻害できる。このことは本発明に係るプロレニン活性化阻害物質からなる組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤の重要な特徴である。
具体例としては、プロレニンpf領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有するペプチド、該ペプチドの等価ペプチド、及びプロレニンpf領域のアミノ酸配列の情報から設計される低分子化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。
好ましい態様の1つとして、上記ペプチドはヒトプロレニンpf領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有するペプチド又は該ペプチドの等価ペプチドである。例えば、ヒトプロレニンpf領域のアミノ酸配列に由来するペプチドとして、以下のペプチドを例示できる。
hp1:ヒトプロレニンpf1−11(配列表の配列番号15)
hp2:ヒトプロレニンpf5−11(配列表の配列番号16)
hp3:ヒトプロレニンpf5−19(配列表の配列番号3)
hp4:ヒトプロレニンpf1−4(配列表の配列番号17)
hp5:ヒトプロレニンpf1−7(配列表の配列番号18)
hp6:ヒトプロレニンpf12−19(配列表の配列番号19)
hp7:ヒトプロレニンpf11−15(配列表の配列番号20)
hp8:ヒトプロレニンpf27−41(配列表の配列番号4)
プロレニン活性化を制御するとき、これらのペプチドのうち1種類を使用してもよく、2種類以上を混合して使用することもできる。
(製剤化)
本発明の組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤の製剤化には、ペプチド又は低分子化合物の物性に応じて適宜公知の方法が適用できる。例えば、錠剤、カプセル製剤、水溶液製剤、エタノール溶液製剤、リポソーム製剤、脂肪乳剤、シクロデキストリンなどの包接体などの製剤化方法が利用できる。
散剤、丸剤、カプセル剤及び錠剤は、ラクトース、グルコース、シュークロース、マンニトールなどの賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダなどの崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルクなどの滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチンなどの結合剤、脂肪酸エステルなどの界面活性剤、グリセリンなどの可塑剤などを用いて製造できる。錠剤やカプセルを製造するには、固体の製薬担体が用いられる。
懸濁剤は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトースなどの糖類、PEGなどのグリコール類、油類を使用して製造できる。
注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液又は、塩水とグルコース溶液の混合物からなる担体を用いて調製可能である。
リポソーム化は例えば、リン脂質を有機溶媒(クロロホルムなど)に溶解した溶液に、当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液を加えた後、溶媒を留去し、これにリン酸緩衝液を加え、振盪、超音波処理及び遠心分離した後、上清を濾過処理して回収することにより行い得る。
脂肪乳剤化は例えば、当該物質、油成分(大豆油、ゴマ油、オリーブ油などの植物油、MCTなど)、乳化剤(リン脂質など)などを混合、加熱して溶液とした後に、必要量の水を加え、乳化機(ホモジナイザー、例えば、高圧噴射型、超音波型など)を用いて、乳化・均質化処理して行い得る。また、これを凍結乾燥化することも可能である。なお、脂肪乳剤化するとき、乳化助剤を添加してもよく、乳化助剤としては、例えば、グリセリン、糖顆(例えば、ブドウ糖、ソルビトール、果糖など)が例示される。
シクロデキストリン包接化は例えば、当該物質を溶媒(エタノールなど)に溶解した溶液に、シクロデキストリンを水などに加温溶解した溶液を加えた後、冷却して析出した沈殿を濾過し、滅菌乾燥することにより行い得る。この際、使用されるシクロデキストリンは、当該物質の大きさに応じて、空隙直径の異なるシクロデキストリン(α、β、γ型)を適宜選択すればよい。
本発明の組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤並びに動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤の投与量は、患者の病状、性別、年齢、体重に応じて適宜選択できる。投与経路としては、経口、非経口のいずれでもよい。好ましい態様の1つは、経口剤の形態となし、経口投与することである。その投与量としては、1日当たり、1〜1,000μg程度が例示される。
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
(ラットプロレニンpf領域由来のペプチドの作成)
ラットプロレニンのpf領域の配列に由来する下記ペプチドを固相法により常法どおり合成した。
p1:pf1−11(配列表の配列番号9)
p2:pf5−19(配列表の配列番号7)
p3:pf27−41(配列表の配列番号8)
p1a:pf1−4(配列表の配列番号10)
p1b:pf1−7(配列表の配列番号11)
p1c:pf5−11(配列表の配列番号12)
p2a:pf12−19(配列表の配列番号13)
p2b:pf11−15(配列表の配列番号14)
また、p1、p2、及びp3を等量混合し、Pmixとした。
(ラットプロレニンpf領域由来のペプチドp4の作成)
ラットプロレニンのpf領域の配列に由来する下記ペプチドp4を固相法により常法どおり合成した。
p4:pf10−19(配列表の配列番号21)
このペプチドp4は”handle”領域と呼ばれるpf領域の11番目〜15番目までのペプチド配列を含有し、この”handle”領域は非酵素的プロレニンの活性化に重要な役割を担うと考えられている。
(実験例1)
(pfペプチド(実施例1)によるアンジオテンシンII減少効果の検討)
組織中には、組織(プロ)レニンに結合しその活性化を起こすレニン受容体が存在する(J Clin Invest.109:1417−1427,2002)。レニン受容体との結合部位に相当する(プロ)レニンのアミノ酸配列に相似したアミノ酸配列を持ったペプチド(組織プロレニン活性化阻害因子)を上記実施例1により合成し、組織内アンジオテンシンII産生亢進病態モデルラットへ投与し組織アンジオテンシンII濃度を測定した。このようなペプチドはレニン受容体に結合し、(プロ)レニンとレニン受容体との結合を阻害するいわばデコイのような働きをし、結果としてレニン・アンジオテンシン系の活性化は抑制され組織アンジオテンシンII濃度は低下することが予想された。
組織内アンジオテンシンII産生亢進制病態モデルの代表として、雄性Sprague−Dawleyラット(100−150g)にストレプトゾトシン(STZ)65mg/kgを腹腔内投与した高血糖モデルラットを作成した。さらに組織プロレニン活性化抑制因子を、浸透圧ミニポンプを用い、0.1,1,10mg/kg/dayの投与速度で1ヵ月間皮下投与した。対照ラットには、浸透圧ミニポンプを用いて生理食塩水を以下1ヵ月間皮下投与した。1ヵ月後、無麻酔断頭屠殺し摘出腎臓内アンジオテンシンIとアンジオテンシンIIを測定した。
ホモジネートした腎臓抽出物におけるアンジオテンシンIとアンジオテンシンIIは、従来の報告(Hypertension.27:658−662,1996)のように、固相抽出法とラジオイムノアッセイを組み合わせて測定した。抽出した腎臓は、被膜を剥離した後に重量を測定し、5ml氷冷メタノール入りのシンチレーションバイアルに入れ組織粉砕器でホモジネートした後、3,000回転4℃10分遠心し上清を回収した。この上清をバリアン社製C18逆相ボンドエルートカラム(1210−2032)で抽出した後、エバポレータでメタノールを除き、アンジオテンシンアッセイ用バッファーで検体を再構築した。この検体に含まれるアンジオテンシンIとアンジオテンシンII濃度は、125I−アンジオテンシンI、125I−アンジオテンシンII(NENライフサイエンス社、NEX−105)と抗アンジオテンシンI抗体、抗アンジオテンシンII抗体(フェニックス薬品、RAB−002−12)用いラジオイムノアッセイで測定した。
統計には、one−way factorial ANOVA and multiple comparison testsを用い、P<0.05を有意差ありと判定した。
(結果)
表1に示すように、STZ投与高血糖ラットにおける腎臓内アンジオテンシンIは129.3±56.1fmol/gであり、アンジオテンシンIIは147±12.1pg/gであった。同モデルラットを組織プロレニン活性化抑制因子0.1mg/kg/dayで同時に治療した群における腎臓内アンジオテンシンIは76.2±41fmol/gであり有意ではないものの減少傾向を示し、腎臓内アンジオテンシンIIは77.2±8.3pg/gと有意に減少した。また、同モデルラットを組織プロレニン活性化抑制因子1mg/kg/dayで同時に治療したラットにおける腎臓内アンジオテンシンIは14.6fmol/gであり減少傾向を示し、腎臓内アンジオテンシンIIも89pg/gと減少傾向を示した。同モデルラットを組織プロレニン活性化抑制因子10mg/kg/dayで同時に治療した群における腎臓内アンジオテンシンIは58.3±15.9fmol/gであり有意ではないものの減少傾向を示し、腎臓内アンジオテンシンIIは73.7±11.8pg/gと有意に減少した。
Figure 2004073740
(実験例2)
(p4ペプチドによる糖尿病性腎症の発症・進展の抑制効果の検討)
雄性Sprague−Dawleyラット(体重100〜150g)の左の腎臓を摘出し、半分腎臓が摘出されたラットを作成した。これらのラットの4週令に、生理食塩水、ストレプトゾトシン65mg/kgを腹腔内投与し、それぞれ対照群(C)、糖尿病群(DM)を作成した。さらに各群の一部に実施例2により合成したp4ペプチドを浸透圧ミニポンプを用いて持続皮下注し(0.1mg/kg)、C+p4群、DM+p4群を作成した。浸透圧ミニポンプは28日間用のものを用いて28日毎に入れ替えた。ラットの12,20,28週令に各群について6匹のラットを無麻酔下で断頭堵殺し、血液と右の腎臓を摘出し以下の実験例2−1〜4を行った。
(統計分析)
グループ内の統計比較は、Newman−Kelus post hoc試験に従って複数回の測定値に対してone−way ANOVAによりおこなった。二つのグループ間の差はNewman−Kelus post hoc試験で組み合わされた複数回の測定値に対してtwo−way ANOVAにより評価した。P<0.05を有意差ありと判定した。データは平均±SEMとして示した。
(実験例2−1)
(p4によるラットの代謝に対する影響の検討)
4,8,12,16,20,24,28週令のラットの体重、動脈の収縮期圧、及び血中グルコース濃度を測定した。収縮期圧はテイルカットプレスチモグラフィーにより測定した。血液は尾の静脈から回収しグルコース量をグルコースC試験キット(和光純薬工業)で分析した。
(結果)
実験例2−1の結果を図1a〜cに示す。図1aに示すように、糖尿病ラットにおいては体重増加の抑制が著しかった。p4ペプチド投与群では糖尿病ラットの24及び28週令において体重増加を引き起こしたが、それ以外は対照ラットにおいても糖尿病ラットにおいても全く影響は見られなかった。図1bに示すように収縮期圧は糖尿病ラットにおいても対照ラットにおいても差はなく、p4ペプチド投与による影響も見られなかった。図1cに示すように、血中グルコース濃度は糖尿病ラットにおいて著しく上昇したが、p4ペプチド投与による影響は全くみられなかった。
*はC群とDM群との間で有意差があることを示す。+はp4処理ありの群とp4処理なしの群との間で有意差があることを示す。
(実験例2−2)
(p4によるラットの尿蛋白排出に対する影響、及び腎糸球体の形態学的、免疫組織学的変化)
24時間代謝ケージにあるラットの尿を瓶に集め、尿蛋白質排出及びクレアチニンをMicro TP試験キット(和光純薬工業)とクレアチニンHA試験キット(和光純薬工業)で測定した。
各群のラットから除去した腎臓の一部をリン酸緩衝液中の10%ホルマリンで固定した。パラフィン包埋切片を過ヨウ素酸−シッフ法(PAS法)で染色した。
免疫組織学的染色にあたり、パラフィンのない切片を蛋白質分解酵素Kで前処理し、その切片をクエン酸緩衝液中で電子レンジで沸騰させ、抗原性部位を露出させ、内因性のビオチンをBiotin Blocking System(ダココーポレーション:X0590)でブロックした。次に、切片をメタノール中の3%Hに浸して内因性のペルオキシダーゼを阻害し、リン酸緩衝液生理食塩水中の1%無脂肪乳で満たして非特異的結合をブロックした。ウサギポリクローナル抗体(Type IVコラーゲンの抗a2(IV)、抗a4(IV)、抗a5(IV)鎖)のカクテル(Beth Israel Deaconness Medical Center,Center for Matrix Biology,Raghuram Klluri博士より提供)を第一抗体として切片に付与し、第2抗体としてのビオチン結合抗ウサギIgG抗体で切片をインキュベートした。抗体反応を製造者の指示に従ってVectastatin ABC標準キット(ベクターラボラトリーズ)とAEC標準キット(ダココーポレーション)で可視化した。200倍の倍率でMac顕微鏡により各糸球体の免疫反応性Type IVコラーゲンポジティブ領域を定量的に測定し、それを糸球体の全断面領域の百分率として表した。最終的な総合値をラットの群あたり100糸球体の値の平均として計算した。
(結果)
実験例2−2の結果を図2a〜dに示す。図2aに示すように、糖尿病ラットにおいては尿蛋白の排出が著しく増加し、p4ペプチド投与は糖尿病ラットにおけるこの尿蛋白の排出の開始と進行を抑制した。図2bに示すように、糖尿病ラットにおいては20週令以後で糖尿病性腎糸球体硬化の発症と進展が著明であるが、p4ペプチド投与は糖尿病ラットにおけるこの糖尿病性腎糸球体硬化の発症を抑制した。図2cに示すように、糖尿病ラットにおいては20週令以後で腎糸球体Type IVコラーゲンが増加するが、p4ペプチド投与は糖尿病ラットにおける腎糸球体Type IVコラーゲン増加を抑制した。図2dに示すように糖尿病ラットにおいては28週令で腎糸球体Type IVコラーゲンポジティブ領域が増加し、これはp4ペプチド投与により阻害された。
*はC群とDM群との間で有意差があることを示す。
(実験例2−3)
(p4によるラットアンジオテンシンI(AI)とアンジオテンシンII(AII)のペプチド量に対する影響)
各群のマウスを断頭堵殺した直後に3mlの血液を30μlのEDTA(500mM)、15μlのenalaprilat(1mM)、30μlのo−フェナンスロリン(24.8mg/ml)及びペプスタチン(0.2mM)の入った試験管に集めた。その後遠心分離して血漿試料を得た。血漿レニン活性はradioimmunoassaycoated−bead kit(ダイナボットラジオアイソトープインスティテュート)で測定した。除去した腎臓の半分の重さを測定し、氷冷メタノール(10%w/v)中に置き、冷えたガラスホモジナイザーで磨砕し、遠心した。上清を乾燥させて、1%アルブミンを含むリン酸ナトリウム緩衝液(50mmol/l)4ml中に懸濁した。血漿及び腎臓からの試料をボンドエルートカラムに通して抽出し、抽出液を蒸発させて乾燥し、アンジオテンシンペプチド分析希釈液に溶かした。AIおよびAIIはウサギ抗AI抗血清およびウサギ抗AII抗血清を用いてラジオイムノアッセイによって定量的に測定した。
(結果)
実験例2−3の結果を図3a〜eに示す。図3aに示すように糖尿病ラットにおいては対照ラットに比べて血漿レニン活性は低かったが、p4ペプチド投与は対照ラット及び糖尿病ラットのいずれにも一切影響を与えなかった。図3bに示すように糖尿病ラットにおいては対照ラットに比べて血漿AIレベルは低かったが、p4ペプチド投与は対照ラット及び糖尿病ラットのいずれにも一切影響を与えなかった。図3cに示すように糖尿病ラットにおいては対照ラットに比べて血漿AIIレベルは低かったが、p4ペプチド投与は対照ラット及び糖尿病ラットのいずれにも一切影響を与えなかった。図3dに示すように糖尿病ラットにおいては対照ラットに比べて腎臓AIレベルが高く、p4ペプチド投与は糖尿病ラットにおけるこの腎臓AIレベルの上昇を対照ラットと同じレベルにまで抑制した。図3eに示すように糖尿病ラットにおいては対照ラットに比べて腎臓AIIレベルが高く、p4ペプチド投与は糖尿病ラットにおけるこの腎臓AIIレベルの上昇を対照ラットと同じレベルにまで抑制した。
*はC群とDM群との間で有意差があることを示す。+はp4処理ありの群とp4処理なしの群との間で有意差があることを示す。
(実験例2−4)
(p4によるラットの腎臓レニン、アンジオテンシノーゲン変換酵素(ACE)、アンジオテンシノーゲンmRNAに対する影響の分析)
Rneasy Mini Kit(キアゲン株式会社)で各群の腎臓の一部から総RNAを抽出した。リアルタイム定量的RT−PCR分析をTaqMan One−Step RT−PCR Master Mix Regents Kitを用いてABI Prism 7700 HT Detection System(アプライドバイオシステムズ)で、レニン、ACE、アンジオテンシノーゲンに関して内部標準にGAPDHを用いて行った。以下の各プライマーとプローブ(配列表の配列番号22から33に示す)を用いた。
レニン:
Figure 2004073740
ACE:
Figure 2004073740
アンジオテンシノーゲン:
Figure 2004073740
GAPDH:
Figure 2004073740
(結果)
実験例2−4の結果を図3f〜hに示す。図3fに示すように糖尿病ラットにおいては対照ラットに比較して20週令までは腎臓レニンmRNAレベルが低かったが、p4ペプチド投与は対照ラット及び糖尿病ラットのいずれにも一切影響を与えなかった。図3gに示すように対照ラット及び糖尿病ラットの両方において28週令で腎臓ACE mRNAのレベルは低下したが、p4ペプチド投与は対照ラット及び糖尿病ラットのいずれにも一切影響を与えなかった。図3hに示すように、対照ラット及び糖尿病ラットの両方において、加齢に伴い腎臓アンジオテンシンmRNAレベルが低下したが、p4ペプチド投与は対照ラット及び糖尿病ラットのいずれにも一切影響を与えなかった。
*はC群とDM群との間で有意差があることを示す。
(実験例3)
(p4によるアンジオテンシンII非依存性機序の糖尿病性腎症の発症・進展抑制効果の検討)
4週令雄のアンジオテンシンII受容体遺伝子欠損(AT−KO)マウスまたは野生型(Wild)マウスに生理食塩水、ストレプトゾトシン65mg/kgを腹腔内投与し、それぞれ対照(C)群、糖尿病(DM)群を作成した。さらにDM群の一部にマウスプロレニンプロフラグメント”handle”領域を含むp4ペプチドを浸透圧ミニポンプを用いて持続皮下注入し、DM+p4群を作成した。浸透圧ミニポンプは28日間用のものを用いて28日毎に入れ替えた。上記処置後24週を経過した時点で、マウスを無麻酔下で断頭堵殺し腎臓を摘出し上記PAS染色法により病理組織を検討した。
(結果)
図4aに示すように、腎組織所見はAT−KOマウス、Wildマウスのいずれにおいても、C群で正常であり、DM群で腎糸球体硬化病変が顕著であり、DM+p4群で腎糸球体硬化病変は抑制されほぼ正常に近い状態であった。腎糸球体10個あたりの硬化病変の面積を測定しWild(C)を1とした場合の各群(n=6匹)における比を図4bに示す。Wild(C)と比べてWild(DM)は19.2±2.3と有意に増加し、Wild(DM+p4)では1.5±0.8とWild(C)と同等レベルまで有意に抑制された。AT−KO(C)は0.9±0.3であり、AT−KO(DM)は13.9±1.8とWild(DM)と比べて小さかったがAT−KO(C)と比べて有意に増加しており、AT−KO(DM+p4)では1.4±0.7とAT−KO(C)と同等レベルまで有意に抑制された。
*はC群とDM群との間で有意差があることを示す。+はAT−KO群とWild群との間で有意差があることを示す。
組織アンジオテンシンIIが循環血中レニン・アンジオテンシン系とは独立して機能を有し(J Hypertens.10:S13−S26,1992)、高血圧・(糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症を含む)糖尿病合併症・腎疾患・心不全・心筋梗塞・心肥大・心筋症・脳血管障害・動脈硬化の発症と進展に深く関与することは、従来の数多くの報告によって明らかな事実である(J Am Soc Nephrol.13:S173−S178,2002)。組織プロレニン活性化阻害因子の皮下投与は、組織アンジオテンシンII濃度を統計学的有意に低下させ、糖尿病合併症の1つである糖尿病性腎症を完全に抑制した。それゆえ、本発明による組織プロレニン活性化阻害因子は、組織内アンジオテンシンII産生亢進に関係する各種疾患、例えば高血圧・(糖尿病性腎症、糖尿病性神経症、糖尿病性網膜症を含む)糖尿病合併症・腎疾患・心不全・心筋梗塞・心肥大・心筋症・脳血管障害・動脈硬化の発症と病態進展を抑制する効果が期待できる薬剤であると考えられる。
さらに本発明によれば、組織プロレニン活性化阻害因子の皮下投与は、野生型マウスのみならずアンジオテンシンII受容体遺伝子欠損マウスにおいても、糖尿病性腎症を完全に抑制した。このことから、従来より上記疾患に用いられてきたレニン・アンジオテンシン系依存性の阻害薬(ACE阻害薬、アンジオテンシンII阻害薬)に比べて、本発明の組織プロレニン活性化阻害因子は、レニン・アンジオテンシン非依存性の未知の作用機構をも抑制して上記疾患を予防・治療することが期待できる薬剤であると考えられる。すなわち、本発明の物質により、組織アンジオテンシンII依存性のみならず、非依存性の動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症に対する広く適用可能な発症予防又は治療剤が提供された。
【配列表】
Figure 2004073740
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Claims (10)

  1. プロレニンのプロフラグメント領域における蛋白質間相互作用によっておこる、一次構造変化を伴わない非酵素的プロレニン活性化を阻害する機能を有する物質を含む以下から選ばれる用途に使用される医薬:
    1)組織内アンジオテンシンII産生亢進制御剤;
    2)組織内アンジオテンシンII産生亢進により発症する動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤;
    3)組織内レニン・アンジオテンシン系を介さない動脈硬化症、心・脳血管疾患及び/若しくは糖尿病合併症の発症予防又は治療剤。
  2. 前記物質がレニン阻害活性を保持しない請求の範囲第1項の医薬。
  3. 前記物質がプロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有するペプチド又はその等価ペプチドからなる請求の範囲第1項又は第2項の医薬。
  4. 前記部分配列が、プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される連続した3個から10個の部分配列である請求の範囲第3項の医薬。
  5. プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有する前記ペプチドが、配列表の配列番号7から14、及び配列番号21に記載のペプチドから選択されるペプチドである請求の範囲第3項の医薬。
  6. プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列から選択される部分配列を有する前記ペプチドが、配列表の配列番号3、配列番号4、及び配列番号15から20に記載のペプチドから選択されるペプチドである請求の範囲第3項の医薬。
  7. 前記物質が、プロレニンのプロフラグメント領域のアミノ酸配列の情報から設計される低分子化合物である請求の範囲第1項又は第2項の医薬。
  8. プロレニン活性化を阻害する前記機能が、プロレニンのプロフラグメント領域における蛋白質間相互作用の拮抗作用によるものである請求の範囲第1項〜第7項のいずれか1の医薬。
  9. プロレニン活性化を阻害する前記機能が、プロレニンのプロフラグメント領域に対する特異的結合蛋白とプロレニンとの相互作用を阻害してプロレニン活性化を生体内で阻害することを特徴とする請求の範囲第1項〜第8項のいずれか1の医薬。
  10. 請求の範囲第1項〜第9項のいずれか1の医薬のスクリーニング方法。
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