JPH11228442A - 臓器移植後のシクロスポリン投与量を低減するためのフルクトース二リン酸の使用 - Google Patents

臓器移植後のシクロスポリン投与量を低減するためのフルクトース二リン酸の使用

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JPH11228442A
JPH11228442A JP10027047A JP2704798A JPH11228442A JP H11228442 A JPH11228442 A JP H11228442A JP 10027047 A JP10027047 A JP 10027047A JP 2704798 A JP2704798 A JP 2704798A JP H11228442 A JPH11228442 A JP H11228442A
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K Markov Angel
エンジェル・ケイ・マーコフ
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 移植組織のレシピエントにおける同種移植片
拒絶反応を効果的に抑制し、さらに、従来の免疫抑制剤
の持つ不利点を補助して、相互依存的に免疫抑制効果を
高める。 【解決手段】 臓器移植手術後のT型リンパ球細胞活性
化応答を抑制するのに有効な薬学的に許容し得る投与量
のシクロスポリン化合物、およびシクロスポリン化合物
と相互依存的に作用し、それによって、臓器移植手術後
にT−型リンパ球細胞活性化応答を効果的に抑制するの
に必要とされるシクロスポリン化合物の投与量を低減す
る、薬学的に許容し得る投与量のフルクトース−1,6
−二リン酸を投与する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、心臓および腎臓な
どの内部臓器の保存および移植における、天然の哺乳動
物代謝物であるフルクトース−1,6−二リン酸の使用
に関する。
【0002】フルクトース−1,6−二リン酸は、解糖
の代謝プロセス(グルコースの酸化により細胞内部でエ
ネルギーを生産するプロセス)において産生され、次い
で消費される中間化合物の1種である。要約すると、酸
素およびアデノシン三リン酸(ATP)が十分に供給さ
れる条件下で、グルコースは酵素ヘキソキナーゼにより
グルコース−6−リン酸へとリン酸化される。このリン
酸化段階は、アデノシン三リン酸(ATP)分子からホ
スフェート基1つを取り、ATP分子をアデノシン二リ
ン酸(ADP)へと変換する。第2段階で、グルコース
−6−リン酸は、酵素ホスホグルコースイソメラーゼに
よりピラノース6員環構造(またはその互変異性体のア
ルドース直鎖)からフラノース5員環構造(またはその
互変異性体のケトース直鎖)へと変換される。第3段階
で、第2のホスフェート基が別のATP分子から取ら
れ、酵素ホスホフルクトキナーゼ(PFKと略す)によ
り1番目の炭素原子と結合して、フルクトース−1,6
−二リン酸(以下FDPと略す)を生じる。
【0003】FDPを基質として用い、プロセス中でそ
れを消費する次の段階では、FDP分子(炭素原子6つ
を有する)が、酵素アルドラーゼにより触媒される反応
において、それぞれ炭素原子3つを有する2つの小分子
(グリセルアルデヒドとジヒドロキシアセトン)へと分
解される。
【0004】好気的解糖および嫌気的解糖におけるこれ
らの反応およびその他様々な段階は、生化学または生理
学のほとんどの教科書に記載されている。例えば、L.St
ryer,Biochemistry,pp.260-261(第2版、1981)または
A.C.Guyton,Medical Physiology,pp.841-842(第6版、
1981)参照。
【0005】細胞から十分な酸素またはATPを奪う
と、解糖経路は相対的に効率のよい好気的解糖プロセス
を維持できず、嫌気的解糖状態へと切換わって、乳酸の
生成およびアシドーシスと呼ばれる状態を導く。嫌気的
解糖は、好気的解糖ほど効率的でもなく、また望まれる
ものでもない。これは、さまざまなタイプのストレス状
態に応答して、例えば(比較的穏やかな形態では)運動
中の運動選手の筋肉において起こり得る。また、虚血
(即ち、脳卒中、心臓発作、心停止等の際に起こるよう
な不十分な血流)状態またはその他の低酸素症形態(即
ち、虚血およびその他、窒息、仮死、一酸化炭素中毒な
どの様々な症状の際に起こる不十分な酸素供給)の下、
非常に深刻な形態で起こることもある。
【0006】嫌気的解糖は、好気的解糖ほど望まれるも
のではなく、また効率的でもないが、少なくとも若干の
ATP分子を生産するため、虚血/低酸素症状態下では
生命維持に必要かつ重要なバックアップシステムとなり
得る。FDPの各分子は、嫌気的解糖の際に、貧エネル
ギーADPの4分子が富エネルギーATPへ変換するの
に貢献する。
【0007】これまでに、出願人はFDPが様々な医学
的症状を処置するのに使用できることを示してきた。米
国特許第4,546,095号において、本発明者がFD
Pは心筋梗塞(即ち、心臓発作またはその他ある種の症
状の際に心臓筋肉に起こる永久的組織損傷)を低減でき
ることを開示した。米国特許第4,703,040号にお
いて、本発明者は、FDPが成人呼吸窮迫症候群(AR
DS)罹病哺乳動物を処置するのに使用できることを開
示した。更に、本発明者は、米国特許第4,757,05
2号において、FDPが血液貯蔵の際の保存に有利に使
用できることを開示した。
【0008】これらの先行特許は全て、FDP注射が、
ある種の“問題点”を効果的に回避し、酸素渇望細胞へ
大いに必要とされるエネルギーを供給することにより、
様々な症状の緩和に役立つことを示した。インシュリン
およびエネルギーを要求する機構を用いて細胞内部へと
輸送しなければならないグルコース分子とは異なり、F
DPはエネルギー依存的輸送機構を必要とせず、細胞へ
と直接浸透できる。更に、外来FDPの直接注入によ
り、解糖経路はフルクトース一リン酸からフルクトース
二リン酸への反応を触媒する酵素PFKを迂回できる。
酵素PFKは、乳酸アシドーシス状態下で、その触媒能
力を乱しまたは減じることがあり、この酵素の不活性化
によりFDPの生産が妨げられる。このような問題をか
かえた患者の血流へのFDPの注射は、これら2つの問
題点(細胞輸送問題およびPFK問題)を回避でき、よ
って、解糖経路を補充して好ましい好気的解糖形態を回
復できるまで、渇望細胞が嫌気的解糖による限られた形
態の代謝を維持できるようにする富エネルギー代謝物を
渇望細胞へと提供するものである。また、この系に基質
として外来FDPを与えることが、酵素PFKのあらゆ
る異常を低減または逆転するのに役立ち得ることも明ら
かであり、これは、酵素PFKを活性状態へと回復させ
る助けとなり、酵素PFKは再び解糖経路に参入できる
ようになる。
【0009】本発明は、新たな発見を含むが、これは、
前記に開示したようにFDPにより処置できる虚血、低
酸素症またはその他有害症状に関する従来技術には直接
的に関連しない。
【0010】解糖経路を補充する以外にも、FDPは、
別の手段で移植臓器(例えば、腎臓、心臓等)のレシピ
エントにおける内部臓器の拒絶を悪化させる様々な細胞
反応を低減および制御することが最近見いだされた。こ
れには様々な機構が絡み合っているようであり、特に、
FDPは、臓器拒絶の問題に寄与し、これを悪化させる
あるタイプの刺激化リンパ球の増殖を低減させることが
できる。
【0011】次の段落に、移植臓器の拒絶にからむ細胞
およびプロセスに関する更なる背景情報を記載する。
【0012】
【従来技術および発明が解決しようとする課題】臓器拒
絶;刺激化Tリンパ球 細胞膜の重要な機能は、各細胞に特異的な化学基からな
る、通常、組織適合性または移植抗原として知られてい
る“IDカード”を与えることである。多くの移植抗原
が同定されており、それらの多形性は、2個体が同一の
組み合わせを有する可能性が同一の双生子を除き事実上
ゼロであるようなものである。移植抗原は、生物体侵入
者として処理されるあらゆる“非自己”細胞表面上の化
学基を認識する能力を有するリンパ球により継続的に調
査されている。
【0013】リンパ球の2つの主要タイプはB細胞とT
細胞に分類されており、これらは、T細胞が胸腺にて前
処理されること、またB細胞が最初に鳥類のいわゆる
“ファブリーキウス嚢”にて前処理されるものとして同
定されたことから、この名称がついた。一般的に、Bリ
ンパ球は、その標的の表面にて抗原と特異的に結合する
抗体を産生することにより拒絶プロセスに携わる。B細
胞により産生されたこれらの抗体は、自分自身を殺すこ
とはないが、その代わり、標的細胞を死滅させる多形核
白血球などの他の細胞に対する認識装置(マーカー)と
して働く。抗体もまた、活性化酵素を使用して抗体標識
細胞を攻撃し、死滅させる“完全な”システムを活性化
する。
【0014】B細胞とは反対に、T細胞は直接接触機構
を経て、非自己細胞の表面にて抗原に結合し、次いで、
細胞毒性物質を侵入細胞へ放出したり、侵入部位に移動
して非自己細胞を貧食し消化するマクロファージ細胞を
誘引し、かつ活性化する物質を放出するなどの様々なプ
ロセスを実施して、非自己細胞を攻撃する。
【0015】B細胞とT細胞のこの他の相異点は、B細
胞は“体液性”免疫に関わると言われるのに対し、T細
胞は“細胞性”免疫に関わると言われることである。一
般的に、体液性(B細胞)免疫はより迅速で、その効果
は長くは続かない傾向にあり、普通、多くの細菌感染を
防御するという主な役割を果たす。反対に、細胞性(T
細胞)免疫はよりゆっくりと進行する感染(結核など)
を防御し、癌を防ぎ、移植臓器の外来細胞を攻撃すると
いう主な役割を果たすことが多い。
【0016】免疫応答および臓器拒絶のB細胞、T細胞
およびその他の態様に関わるプロセスは、多くの教科書
に記載されており、例えば、GuytonのMedical Physiolo
gy(上記引用)の74−81頁に有用な概観が与えられ
ている。
【0017】臓器移植に応答して拒絶が起こるとき、そ
のプロセスは“同種移植片”拒絶と呼ばれる。この拒絶
反応は、移植外科医の最も頭を悩ますところであり、い
かに外科手術が成功したとしても、あるいは、組織適合
性がいかに親密であり得るとしても、同種移植片拒絶は
患者にとって冷酷かつ一生涯の脅威である。
【0018】この拒絶応答において非常重要な段階は、
活性化T細胞(刺激化T細胞または感作化T細胞とも呼
ばれる)に、細胞表面上に1またはそれ以上の非自己抗
原を有する細胞を認識させて攻撃させるというT細胞の
活性化に関係するものである。活性化シグナルは、非自
己抗原とT細胞表面受容体との反応に関わると考えられ
ており、この受容体は、恐らく、T細胞の膜にまたがる
糖タンパク質分子である。T細胞が活性化シグナルに応
答する分子機構については比較的知られていないか、あ
るいは、リンパ芽球(成熟分化リンパ球を生じる未熟リ
ンパ球細胞)の形質転換および増殖に関するある種の形
態学的変化をもたらす一連の事象が知られているとして
も、この形質転換を受けるT細胞のエネルギーおよびエ
ントロピー状態についてはほとんど知られていない。広
範囲の研究が科学および医学文献に公表されているにも
かかわらず、かかるパラメーターやどのようにしてまた
はなぜそれらがT細胞活性化後に変化するのかについて
はほとんど知られていない。
【0019】免疫抑制剤 拒絶反応を軽減するために、外科医は免疫抑制剤を使用
して臓器レシピエントにおける免疫応答を抑制する。理
想的には、完全な免疫抑制剤とは、同種移植片拒絶強度
を下げるが、患者が細菌感染、ウイルス感染および他の
感染に抵抗できるために必要なその他の形態の免疫応答
には変化を与えないようなものである。
【0020】現在のところ、このような理想的な免疫抑
制剤は入手できない。現在使用されている殆どの免疫抑
制剤は、細菌またはウイルス感染に対する身体の抵抗力
を下げ、他の不要な副作用まで同時に起こしてしまう。
これらの薬剤は、高用量で使用すると免疫細胞およびそ
の他多種の細胞に対して有毒であり、より低用量であれ
ば、移植臓器の拒絶を防止する効果が低下するか、また
は全く効果がなくなることさえある。
【0021】要約すると、免疫抑制剤には次の4つのグ
ループがある:アルキル化剤、代謝拮抗物質(葉酸また
はピリミジンおよびプリン類似体など)、ステロイドお
よび抗生物質。
【0022】最も有望な、広範囲に使用される免疫抑制
剤は、シクロスポリンA(CSAと略す)であり、これ
はB細胞活性に抵触することなく抗原刺激化Tリンパ球
を抑制する特異的作用を有する。CSAが免疫抑制剤と
して導入されたことから、臓器移植手術の成功率は上が
り、何千人もの患者の命を延ばすのに使用されてきた。
【0023】しかしながら、CSAは免疫抑制剤として
望まれる多くのことを残している。その主たる有毒事項
の1つが腎臓に関するものであり、この薬剤で処置した
同種移植片レシピエントの20−25%で腎臓中毒が起
こる。腎臓中毒は用量に関連し、時折可逆的であるが、
CSAの中断、投与量の低減またはその他治療法の変更
を要することも多い。高血圧も主要な問題であり、腎移
植片(腎臓)、肝移植片(肝臓)または心移植片(心
臓)を受けた患者およびCSAで処置された患者の約3
0%で起こる。神経学的CSA中毒も、特に、肝臓移植
物を有する患者には普通に起こる。
【0024】FDPが単独で臓器拒絶を低減するのに役
立ち得ることを開示した以外に、本発明は、FDPがシ
クロスポリンの効果を相互依存的に増大(強化)する移
植物保護免疫抑制剤として作用できることも開示する。
従って、FDPはCSA療法の際のCSA投与量を低減
する補助剤として使用でき、そうしてCSA処置の有毒
な副作用およびその他の危険性の見込みおよび深刻さを
低減できる。
【0025】多くの薬剤(狭心症の痛みを制御したり、
血圧を下げるのに使用される2種の血管拡張薬であるニ
カルジピンおよびジルチアゼムなどのある種のカルシウ
ムチャンネル遮断剤を含む)が移植片レシピエントの血
液中を循環するCSAのレベルを上げるために広く使用
されていることに注目すべきである。これにより、内科
医は所望のCSA血中レベルを達成しつつ、より低用量
のCSAを投与できる。FDPの働きがこの機構による
(即ち、血中のCSAレベルを上げることによる)とは
考えられず、下記に与えたインビトロデータがFDP
は、CSAの血中濃度を上げる代わりに、CSAの血中
濃度がどうであろうとT細胞制御効果を高めるらしいと
いう、全く異なる機構により働くことを示している。
【0026】更に、FDPは、移植、摘出段階、貯蔵お
よび内移植の際に臓器が被る損傷の量もまた低減できる
ことが示されている。出願人は、これらの活性について
FDPのその他の有益な活性に基づき予め推測していた
が、本出願人に付与された先行特許(上記引用)のいず
れにも、これらの活性は記載も定量も特許請求もしてい
なかった。
【0027】
【課題を解決するための手段】従って、本発明の一つの
目的は、移植臓器のレシピエントにおける内部臓器の拒
絶に関わる様々な細胞反応を低減および制御するのに役
立つFDPの利用法を開示することである。
【0028】本発明のもう一つの目的は、臓器移植にお
ける拒絶の問題に寄与するある種のリンパ球の不要な増
殖を低減するのに役立つFDPの利用法を開示すること
である。
【0029】本発明のもう一つの目的は、臓器移植後の
シクロスポリン療法の際の補助剤としてのFDPの利用
法を開示することであり、これはシクロスポリンの所望
の免疫抑制効果を強化することによって、CSA投与量
を下げ、そうしてCSA処置の有毒な副作用およびその
他の危険性の見込みおよび深刻さを低減できる。
【0030】本発明のもう一つの目的は、FDPは臓器
移植の際に必要である摘出および貯蔵段階に臓器が被る
損傷の量を低減することを開示することである。
【0031】本発明のこれらのおよびその他の目的は下
記の発明の概要および詳細な説明において明らかとなる
であろう。
【0032】発明の概要 本発明は、腎臓、心臓等の内部臓器の拒絶を抑制するの
に役立つフルクトース−1,6−二リン酸の使用法を開
示する。臓器移植物に関する少なくとも3つの主要な利
点は以下のものと定義した:(1)FDPは、移植臓器
において非自己細胞を攻撃する危険性を有するある種の
刺激化リンパ球の不要な増殖を低減するのに役立ち得
る;(2)FDPは、移植物保護免疫抑制剤としてのシ
クロスポリンの効果を強化することによって、CSA投
与量を下げさせ、そうしてCSA処置の有毒な副作用お
よびその他の危険性の見込みおよび深刻さを低減でする
こともできる;(3)FDPは、臓器移植時に必要な摘
出および貯蔵段階の際に臓器に加えられる損傷の量を低
減することもできる。
【0033】
【発明の実施の形態】本発明は、腎臓、心臓等の内部臓
器の拒絶を抑制するのに役立つフルクトース−1,6−
二リン酸の使用法を開示する。臓器移植に関する少なく
とも3つの主要な利点は以下のものと定義した:(1)
FDPは、移植臓器において非自己細胞を攻撃する危険
性を有するある種の刺激化リンパ球の不要な増殖を低減
するのに役立ち得る;(2)FDPは、移植物保護免疫
抑制剤としてのシクロスポリンの効果を強化することに
よって、CSA投与量を下げさせ、そうしてCSA処置
の有毒な副作用およびその他の危険性の見込みおよび深
刻さを低減ですることもできる;(3)FDPは、臓器
移植時に必要な摘出および貯蔵段階の際に臓器に加えら
れる損傷の量を低減することもできる。
【0034】本発明のこれらの態様は、それぞれ下記に
述べる。
【0035】刺激化Tリンパ球におけるインビトロ試験 既に述べたように、活性化T細胞(刺激化T細胞または
感作化T細胞とも呼ばれる)は同種移植片拒絶において
重要な役割を果たす。T細胞は移植臓器上の非自己抗原
により刺激されると、外来臓器を拒絶するための攻撃を
開始できる。
【0036】培養中のリンパ球へマイトジェンを添加す
ると30秒以内にカリウムイオン(K+)およびナトリ
ウムイオン(Na+)の細胞膜通過輸送が非刺激化リンパ
球に比べて倍増することが知られている。このイオン輸
送システムは、ナトリウム−カリウムATPアーゼとし
て知られている酵素により制御されており、細胞内部に
て(細胞外液と比べて)ナトリウムを低濃度に、カリウ
ムを高濃度に保つ、生命維持に必須の重要な細胞機能で
ある。刺激化リンパ球において、細胞膜のイオンポンプ
活性の上昇は細胞にて生産される総エネルギーの約40
%を消費する。これは並外れて高い割合であり、刺激化
リンパ球におけるイオン輸送の増大の重要性はまだ理解
されていないが、リンパ芽球形質転換の特性である細胞
の体積調節を表すのかもしれないし、またはTリンパ球
の活性化がcAMP濃度の上昇を要とすると考えられて
いることから、環状アデノシン一リン酸(cAMP)の
変化に関係するのかもしれない。ATPからcAMPへ
の変換を触媒する酵素であるアデニルシクラーゼとNa+
−K+−ATPアーゼは、刺激化Tリンパ球における富
エネルギーATP供給のため、お互いに拮抗しなければ
ならず、その刺激された活性レベルはかかる細胞におけ
るATP供給の比較的迅速な減少に寄与する。
【0037】FDPが虚血(無酸素症または低酸素症)
組織における細胞のK+損失およびのNa+流入を妨げる
のに役立つことが多くの研究で示されており、これはN
a+−K+−ATPアーゼポンプがかかる条件下で適切に
機能するための十分なATP濃度を維持するのに役立つ
ことも示している。健常細胞では総細胞エネルギーのお
よそ40%がイオン輸送に使用されるため、また、その
エネルギーの大部分が解糖によりサイトソル中で生産さ
れるため、FDPの存在はATP産生を増大させるらし
い。
【0038】これらの事実に気づく人ならば、FDPの
添加が、刺激レベルを維持または高めるのに役立つよう
に細胞が使用できる富エネルギー基質をリンパ球に提供
することによって、Tリンパ球刺激レベルを高めると期
待するであろう。この問題を調査し、かつ刺激プロセス
における細胞のエントロピー状態を研究するために、出
願人は、FDPの添加が実際に細胞の刺激レベルを高め
るかどうかを測定する実験を行った。
【0039】しかしながら、その結果は、FDPの添加
は細胞の刺激レベルを高めないことを示した。実際に
は、刺激活性を誘導するのに役立つように細胞が使用で
きる富エネルギー基質を提供するのではなく、外来FD
Pは、リンパ球刺激レベルを下げた。
【0040】インビトロ試験およびその結果は、実施例
1に詳細に記載している。要約すると、まずTリンパ球
をラット脾臓から入手した。次いで、この細胞を対照サ
ンプルおよび様々な濃度でFDPまたはシクロスポリン
のいずれかと接触させたサンプルの両方において、Tリ
ンパ球複製を特異的に刺激するマイトジェンであるコン
カナバリンA(ConA)により刺激した。細胞複製は、
水素の重同位元素であるトリチウムを用いて放射性標識
しておいたチミジンの取り込みを検定することにより測
定した。細胞生存能は、色素トリパンブルーを用いて測
定した。無傷の生存可能細胞はその内部からトリパンブ
ルーを排除できるのに対し、損傷を受けた細胞または死
細胞は排除できない。
【表1】
【表2】
【表3】
【0041】表1および2の結果は、FDPがインビト
ロにおいてシクロスポリンと同程度にTリンパ球のマイ
トジェン−刺激複製を抑制するのに効果的であることを
示した。同時に、表3に示されているように、FDPは
細胞生存能に対し低用量ではわずかな、また高用量では
非常に穏やかな逆作用しか持たない。これに対し、シク
ロスポリンは、T細胞生存能に対し実質的に有毒な作用
を有する。
【0042】これらの意外な結果は、FDPが、過剰な
エネルギー源を提供するという事実にもかかわらず、実
際にはT細胞刺激を増大するのではなくむしろ低下させ
ることを示した。
【0043】移植心臓に対するインビボ試験 不要なT細胞刺激が同種移植片拒絶を引き起こす主たる
要因であることが知られているため、FDPがT細胞刺
激を抑制できることを示す上記インビトロ研究の結果か
ら、ラットの心臓移植を用いる一連のインビボ試験を行
うこととした。これらの試験は、実施例2に詳細に記載
している。要約すると、ルイスラットとして知られてい
る種の実験用ラットをレシピエントとして用い、ウィス
ター−ファースとして知られている異種のラットを心臓
ドナーとして使用した。
【0044】レシピエント動物において、その元の心臓
を摘出し、新たな心臓を移植した。その代わり、ドナー
動物由来の心臓を、心臓から血液をくみ出させるが移植
心臓に血液ポンプ荷重を負わせないような方法でレシピ
エントの腹部に移植した。この動物モデルにより、体が
外来組織を拒絶するかどうかを測定するのに適した試験
を行うことができ、更に、動物の元の心臓を摘出する場
合に起こる異常な困難性を避けることができる。
【0045】試験の第1ラウンドでは、4処置グループ
と1対照グループを設定した。対照グループにはFDP
を与えなかった。4処置グループには、FDP 350m
g/kg(即ち、体重1kg当たりFDP350mg)を外科
手術前15分に静脈注射した。処置動物には、更に手術
中90分間、10mg/kg/分の速度でFDP注入した。
これらの“術中FDP"注射以外にも、4処置グループ
には更に以下のものを与えた: グループ1:塩水を2時間術後注射。 グループ2:FDPを2時間術後注射し12時間毎に補
足注射(350mg/kg)。 グループ3:2時間術後注射し、8時間毎に補足注射
(350mg/kg)。 グループ4:2時間術後注射し、6時間毎に補足注射
(350mg/kg)。 この試験の初期ラウンドは、長期間生存を評価するため
に意図または設定したものではなく、また、これらの動
物にはいずれも全く抗生物質を与えなかった。
【0046】これらの動物は生存能について毎日試験し
た。移植心臓の心拍動が触診可能でなければ、動物に麻
酔をかけて評価した。移植心臓が非生存能レベルに到達
したら、致死量のペントバルビタールを与え、心臓を除
去し、顕微鏡検査し、スタンフォードグレード測定器を
用いて拒絶について分類した。
【0047】術後3日前に移植心臓の心拍動が停止した
ら、その動物の研究は中断した。原因不明で手術5日以
内に死亡したラットもまた研究を中断した。これらの死
亡は、組織拒絶に起因するというよりもむしろ敗血症に
よるものであると考えられた。また、グループ1の1個
体は、縫合骨折(sature fracture)により死亡し、こ
の動物もまた研究を中断した。
【0048】この結果は、表4および5に示す。FDP
を与えなかった対照グループでは、“平均生存期間”
(MST)は7.6日であった。これらのラットは全て、
移植心臓が拒絶されるまで生存し、その拒絶グレード
は、中度から重度/進行段階の範囲であった。
【表4】
【表5】
【0049】術後FDPを与えたが補足注射しなかった
グループ1のMSTは13.5日であった。このグルー
プで残った個体は、拒絶が起こるまで生存し、軽度から
重度/進行段階の拒絶グレードを有した。明らかに敗血
症により死亡したラット1個体は、分類前にそのラット
を不注意にも廃棄してしまったため拒絶を分類しなかっ
た。
【0050】グループIIのMSTは8.9日であった。
ラット1個体は9日目に明らかに敗血症で死亡した。そ
の他のラットは全て、その移植片が拒絶されるまで生存
し、軽度から重度/進行段階の拒絶グレードを有した。
軽度の1個体は、明らかに敗血症で死亡した動物に属し
た。
【0051】グループIIIのMSTは10日であった。
ラット1個体は12日目に敗血症で死亡し、深刻な敗血
症の1個体は11日目の夕方に安楽死させたが、その移
植片が安楽死させた夜、強力に触診可能であったため1
2日目の拒絶として計数した。このグループで残った個
体は、拒絶が起こるまで生存し、中度から深刻/進行段
階のグレードを有した。
【0052】グループIVのMSTは9.6日であった。
このグループのラットは全て、その移植片が拒絶される
まで生存した。これらは全て、重度/進行段階の拒絶グ
レードを有した。
【0053】上記のとおり、これらの動物にはいずれも
抗生物質を全く与えておらず、敗血症はこの実験に現れ
る難しい問題であった。計4匹の実験ラット(9.5
%)は死亡したか、または敗血症のため安楽死させた。
全てのラットに2種の別個の手術、頸動脈系を配置する
手術と移植手術、を施した。次いで、ラットに連続中心
カニューレ挿入し、注射を繰り返した。無菌法を用いた
が、ラットがそのカテーテルを噛んだり、自分の糞の上
を転げ回るので、この実験グループで無菌状態を確保す
るのは困難であった。しかしながら、こういった問題に
もかかわらず、これらの第1ラウンド試験は、FDPが
ラットの心臓移植生存力を延ばすことができることを示
した。
【0054】インビボ試験、系列2 インビボ試験系列2では、FDP単独の場合とシクロス
ポリンと併用した場合に、同種移植片拒絶を抑制し、か
つ移植心臓の生存力を延ばすその能力について試験し
た。シクロスポリンA(CSA)は、殆どの複合免疫抑
制プロトコールの基礎となっているが、免疫抑制用量で
固有の毒性を表す。そのため、これらの試験では、最適
下限用量のCSAと併用した場合のFDPを評価した。
【0055】これらの試験では、上記と同じ操作を用い
て心臓をレシピエント動物の腹部に移植した。最初の試
験とは異なり、動物には、外科手術後に予防的抗生物質
処置を施すのと同様に静脈カテーテル部位にバシトラシ
ン軟膏を毎日塗布した。
【0056】動物は、次の6グループに分けた:グルー
プI(n=6)にはFDPもCSAも与えない。グルー
プII(n=5)には、FDPのみ350mg/kg静脈内
(IV)を術前注射し、10mg/kg IVを90分間術前注
入した。グループIII(n=6)には、最適下限用量の
CSA2.5mg/kg/日筋肉内(IM)を与えた。グルー
プIV(n=5)には、より高用量の、ただし依然最適下
限用量のCSA(5mg/kg/日 IM)を与えた。グルー
プV(n=5)には、FDPを術前注射(350mg/kg
IV)および90分間10mg/kg/分の術中注入、更に
FDP(12時間毎に350mg/kg IV)および最適下
限用量のCSA(2.5mg/kg/日 IM)の両方を補足注
射した。グループVI(n=5)には、グループ5のよう
なFDP処理をし、CSA用量を5mg/kg/日 IMに増
やした。
【表6】
【0057】この結果は、表6に示したように、FDP
が単独で同種移植片生存力を顕著に延ばすことができる
ことを指示している。FDPもCSAも与えない対照グ
ループでは、平均生存時間(MST)の平均は7日であ
るのに対し、FDPのみを与えたグループでは、MST
は平均11.4日(統計学的確率 p<0.0001)に
上昇し、これはCSAを2.5mg/kg/日(MST12.
0日)または5mg/kg/日(MST12.4日)与えた
2グループのMSTに匹敵した。非常に重要ことに、F
DPとCSAの組み合わせを与えたグループVとVIのデ
ータが、17.6日(CSA 2.5mg/kg/日)および
28.2日(CSA 5mg/kg/日)というMSTの同程
度の上昇を示した。このことは、FDPとCSAの併用
がCSAまたはFDPのいずれか単独の場合と比較して
同種移植片生存力を顕著に増大させたことを指示してい
る。
【0058】従って、2集のインビボ心臓移植試験から
得られタデータは、(1)FDPが単独で同種移植片拒
絶を抑制でき、同種移植片生存時間を増大できこと、お
よび(2)FDPがシクロスポリンの有用な免疫抑制作
用を強化することもでき、それによって、シクロスポリ
ンの有毒な副作用を回避または最少化するような方法で
より低用量のシクロスポリンを使用可能にすることを示
す。これらの特性はいずれも、移植レシピエントの長期
間処置に非常に有用である。
【0059】臓器貯蔵中の組織および細胞損傷の低減 臓器をレシピエント体内に移植後の同種移植片拒絶の問
題を低減する以外に、本発明は、FDPを用いて、ドナ
ーの体から摘出後、レシピエントへ移植するまでのいわ
ゆる貯蔵期間中に臓器に与える損傷を最少化できること
も開示する。この貯蔵期間中、内部期間は普通、低体温
状態(即ち、低温)に保たれている。37℃の正常体温
以下の温度はいずれも、低体温と分類され、実際に、移
植準備のできた臓器は、氷および海綿氷を用いて凝固点
よりも僅かに高い温度で冷蔵されて、細胞または臓器内
部に氷結晶を生じることなく細胞代謝要求を最少化する
ことが多い。
【0060】移植用臓器の遠隔調達が、臓器が体外にあ
る間、臓器を保存するための理想的な方法および薬剤が
ないために、制限されている。理想的な調整培地および
貯蔵培地が発見されていないため、殆どの臓器移植は摘
出後数時間以内に実施されなければならず、多くの移植
物は人力でできる限り貯蔵および輸送期間を縮めるため
に異例の措置(特にチャータージェット機輸送など)を
要求する。免疫学的に適した臓器ドナーの不足が、遠隔
調達および輸送を余儀なくすることも多く、輸送を必要
としない場合でさえ、レシピエントと接触して手術準備
ができるまである程度の時間が経過してしまうことが多
い。このような理由で、貯蔵、輸送および移植中に集め
た臓器が虚血およびその他の損傷を被むる程度を低減で
きる薬剤および方法の開発における更なる進歩が必要と
されている。
【0061】集めた臓器組織の虚血損傷の主たる原因
は、酸化的代謝の機能不全である。このような環境下で
は、好気的解糖が迅速に消耗され、不十分な好気的エネ
ルギー生産を補うための作用として嫌気的解糖が始ま
る。まず嫌気的解糖の異化活性が増大した後、嫌気的炭
化水素利用は、嫌気的解糖を実施するのに必要な酵素ホ
スホフルクトキナーゼ(PFK)の不活性化を含む多く
の逆作用を有する乳酸の増大により比較的迅速に減退し
始める。
【0062】虚血臓器貯蔵中の酸化的代謝機能不全は、
その機能不全はもちろん、更なる多種多様な問題も誘発
する。その結果、虚血臓器貯蔵中および移植後に血流が
回復した後に、所望の膜内外のイオン平衡の部分的また
は総合的損失、細胞からの酵素放出、高度に反応性かつ
有害な酸化遊離ラジカルの産生、ミトコンドリア傷害、
およびその他の逆作用にの一因となり得る。更に、低体
温性虚血貯蔵の後は、貯蔵中および再環流後のCa++
よるミトコンドリア傷害および酸化ラジカルの産生のた
め、酸素を適切に利用する臓器の能力が、貯蔵後に再環
流する際、著しく衰える。これらの変化を担う機構が全
て正確に顕示されているとは限らないが、2つの異なる
別個の要因が損傷の一因となることに注目すべきであ
る:(1)貯蔵臓器中に虚血自身により引き起こされる
損傷、および(2)酸素化された血液での環流が回復し
た後に開始または現れるあるプロセスにより引き起こさ
れる損傷。虚血低体温性貯蔵の際、代謝速度が大きく低
下するにもかかわらず、更にあるレベルのATPの分解
および損失があり、これが酵素Na−K−ATPアーゼ
がそのイオンポンプ機能を実施する能力を妨げる。この
ような膜内外のイオンポンプに必要とされるエネルギー
の損失は、K+の細胞内損失およびNa+の細胞内流入を
導き、その結果、細胞および臓器における浮腫(体液蓄
積および膨張)および細胞および臓器への酵素放出およ
び他の傷害を生じる。エクスビボ臓器貯蔵中のATPの
分解はまた、移植後の血流回復の際、生体分子を無作為
に攻撃し破壊する有毒な酸素遊離ラジカルを生成するキ
サンチンオキシダーゼ経路の基質を提供する代謝物を生
成するため、移植臓器組織への更なる傷害を引き起こ
す。虚血的に貯蔵された臓器における酸化ラジカル損傷
および他形態の傷害の程度は、虚血傷害の性質および深
刻さ(即ち、どれほど長く臓器を貯蔵したか)および臓
器の中を再環流する血液中の食細胞的な細胞要素の存在
によって変わるようである。多形核好中球(PMN)と
呼ばれる細胞が臓器の虚血後再環流において更なる組織
傷害を生むことを示唆する実験および臨床証拠がある。
一旦活性化されると、PMNは、ペントースホスフェー
ト経路を介する酸素消費の増大を特徴とする“レスピラ
トリーバースト”を受ける。この経路は、細胞および臓
器に更なる傷害を引き起こす細胞毒性酸素種を産生し得
る。
【0063】実施例4および5に記載するように、出願
人は、外来FDPがこれらの問題を軽減できることを示
している。FDPは次の少なくとも2つの異なる有益な
効果を与える:(1)酵素の乳酸不活性化を逆行するこ
とにより、酵素PFKの活性を刺激するのに役立つ、お
よび(2)酵素PFKの下流で解糖経路を供給する高エ
ネルギー基質を直接提供できる。これらの要因はいずれ
も虚血的に貯蔵されている臓器の細胞への富エネルギー
ATPの解糖的供給を延長および増大するのに役立つた
め、このような介入は、臓器の体外貯蔵に際する組織損
傷を減弱できる。
【0064】図1〜5(実施例4)に示したように、F
DP処置は、4時間冷却虚血エクスビボ貯蔵した灌流化
心臓における機械的機能(心拍動速度、収縮期大動脈血
圧、平均血圧および出力速度)および心筋ATP含量の
実質的な増大を導く。
【0065】更に、実施例5に記載のように、虚血的に
貯蔵した肝臓、腎臓および心臓のFDP処置もまた、貯
蔵後有意により多量の酸素が利用されたことから証明さ
れるとおり、ミトコンドリアを傷害から保護した。
【0066】これらの結果は、FDPでの処置は、よく
ある移植臓器のエクスビボ型の虚血貯蔵に付したエクス
ビボ貯蔵心臓の機械的および細胞内化学的状態を有意に
向上することを明らかに示している。
【0067】投与用量および投与様式 その臓器保護および拒絶抑制活性を利用するために、F
DPは幾つかの方法で投与できるが、FDPは解糖プロ
セスにおいて活発に消費されるため、好ましい投与様式
には、持続期間にわたり十分な供給が利用できる状態を
確保するための連続投与がある。
【0068】一投与様式では、ドナー本体から臓器を摘
出する前に、FDPをドナーへ(ボーラス注射または連
続注入のいずれかにより)静脈内投与する。ドナーは、
(腎臓ドナーとして)完全に生存しているコンピーテン
トな個体、即ち、致命的傷害を持っていたり、末期病状
である個体および意識不明または昏睡状態である個体、
または死亡したばかりでその心拍動をCRP型外部圧ま
たは電気刺激により外的に刺激しなければならない個体
である。患者が実質的な血液循環を依然維持しているな
らば、静脈内注射または注入を用いて、摘出および移植
される臓器内へFDPを導入できる。
【0069】心拍動がないならば、できるだけ迅速に臓
器を体内から摘出すべきであり、その主な動脈を、その
臓器の血管から適切なFDP含有液(例えば、グルコー
スも含有するリン酸緩衝塩水溶液)をくみ出す灌流装置
につなげるべきである。所望ならば、その臓器をFDP
含有液に浸して、液体から臓器組織の表面層へとFDP
を浸透させてもよい。
【0070】臓器を摘出した後、臓器から体液を連続的
にくみ出す灌流装置にてそれが維持されているならば、
その体液は、FDPを約0.5から50mg/mlの範囲の
濃度で含有すべきである。あるいは、新鮮な体液を臓器
から間欠的(例えば、10分毎)にくみ出す場合、4℃
で貯蔵中各時間に臓器重量kg当たり約50ないし350
mgのFDPを臓器に与えるべきである。
【0071】臓器をレシピエント体内へ移植する外科手
術の際、レシピエントには術中および術後数時間(例え
ば、術中注入にして90分またはそれ以上)、患者の麻
酔がきいている間、約10−15分の初期ボーラス、次
いで約0.5から約10mg/kg/分の一定注入において
時間当たり体重kg当たりFDP約50ないし350mgの
投与量で連続静注によりFDPを与えるべきである。
【0072】術中期間経過後は、移植レシピエントに初
期回収期間中(例えば、多くの患者の場合、約7日から
10日)1日当たり体重kg当たりFDP約200ないし
1500mg(好ましくは、間欠的に、例えば6時間毎に
投与する)を与えるべきである。
【0073】初期回収期間経過後は、好ましくは、シク
ロスポリン化合物などのその他の免疫抑制剤と共に、患
者に低量のFDP長期間持続投与量を与えればよい。
【0074】FDPは、また急性拒絶症状の発生に応じ
ても投与できる。今日、このような症状の発生は、通
常、ある種のステロイドなどの抗炎症剤と共に高レベル
のCSAを投与することにより、この症状が鎮静するま
で処置される。一時的な拒絶反応を処置するのに使用さ
れる方法の一部としてFDP投与処置を補足してもよ
く、また、不必要な場合もある。
【0075】
【実施例】実施例1 刺激されたTリンパ球に関するインビトロ試験 スプラーグ−ドーリーラット(体重150−200グラ
ム)を過量のケタミン(筋肉内注射、IM)により安楽
死させた。それらの脾臓を無菌条件下で摘出し、緩衝ハ
ンクス溶液(BHS)を入れたプラスチック製ペトリ皿
中に置いた。脾臓実質組織を滅菌針およびピンセットで
引き裂いた。脾臓断片含有の溶液をガラス管中でテフロ
ン乳棒によりホモジネートした。これによって細胞を溶
液中に発現させ、次いでこれを濾過し、フィコル−ハイ
パーク上に置き、1500RPMで20分間遠心分離に
かけることにより、単核細胞を分離した。細胞の中間層
(リンパ球含有)を除去し、10分間1000RPMで
の遠心分離にかけた。上清を除去後、残存している赤血
球を0.83%NH4Cl溶液により溶解し、細胞を再び
1000RPMで2−3分間遠心分離にかけた。上清を
流出させ、細胞を2回BHSで洗浄し、次いで組織培養
培地(RPMI−1640、10%胎児牛血清含有)に
再懸濁した。次いで、RPMI−1640および10%
牛胎児血清により、細胞を最終濃度5×106細胞/ml
に調節した。
【0076】組織培養マルチウェルプレートをインキュ
ベーションに用いた。ウェル充填は全て無菌条件下で行
われた。各ウェルに0.1mlの細胞懸濁液、細胞増殖
阻害用に0.1mlのFDPまたはシクロスポリンA
(CSA)、および0.1mlのコンカナバリンA(C
onA)(10μg/ml、RPMI−1640細胞培
養培地中で混合)、またはRPMI−1640のみ(対
照として)を入れた。ウェル容量容積は0.35mlで
あった。ConAはT細胞の増殖を刺激する公知分裂促
進因子である。これらの試験は、分裂促進因子誘導T細
胞刺激に対するFDPまたはCSAの効果を評価するよ
うに設計された。
【0077】6種の異なる希釈率(10%FDPストッ
ク溶液から滅菌水溶液中で新たに製造)--1:10、
1:100、1:250、1:500、1:1000お
よび1:10000を使用した。使用した4濃度のCS
A(50mg/mlストック)は、0.5、5、50お
よび500ng/mlであった。CSA、FDPおよび
ConAをRPMI−1640で希釈した。数個のウェ
ルを用いて刺激指数を測定し、FDPまたはシクロスポ
リン不含有でConAまたはRPMIを入れた。全ての
組み合わせについて3回同じことを反復した。ウェルに
ラベルを貼り、35℃で48時間CO2によりインキュ
ベーションした。
【0078】次いで、各ウェルに0.05mlのトリチ
ウム化(3H)チミジン(1μCi/0.05ml)を入
れた。リンパ球を増殖することにより放射性標識チミジ
ンを取り込ませ、それらを液体シンチレーション計数器
を用いて計数した。16〜20時間のインキュベーショ
ン後、多重自動式試料採取装置を用いて試料をガラス濾
紙片に採取した。紙を4−5時間乾燥させた。各ウェル
からの紙を、5mlフルオラン(シンチレン)と共にシ
ンチレーション計数ガラス瓶中に入れた。各試料を2分
間計数し、2分間当たりの数で結果を記録し、+または
−標準誤差を13実験(FDPについて)または9実験
(CSAについて)にわたって測定し、各実験には全く
同じ3試料を用いた。有意性を非両側t−検定により評
価した。
【0079】トリパンブルー染料排除試験を用いて、各
組合わせにおける細胞生存能力を48時間のインキュベ
ーション後にチェックした。細胞生存能力試験の結果は
表3のとおりであり、生存し得た細胞のパーセンテージ
を示している。
【0080】表1および2が示すところによると、これ
らの結果は、ラット脾臓Tリンパ球がコンカナバリンA
で刺激されると、これらの細胞の増殖が用量依存的にF
DPまたはシクロスポリンAの両方により阻害されたこ
とを示している。表3が示すところによると、FDPに
暴露されたリンパ球の生存能力は、CSAとインキュベ
ーションした細胞の場合よりも高かった。FDPは、T
リンパ球形態変換を顕著に抑制はしたが、非常に高濃度
の場合を除いて細胞の生存能力に顕著な損傷は加えるこ
とはなかった。対照的に、CSAは、どの試験濃度でも
リンパ球生存能力を低下させた。
【0081】要約すると、これらのデータは、FDPが
刺激されたTリンパ球の形態変換のインビトロ抑制にお
いてCSAと同程度に有効であるが、細胞の生存能力に
はほとんどまたは全く損傷を加えないことを示してい
る。
【0082】実施例2 移植心臓を用いたインビボ試験(系列1) 雄のウィスター−ファースラット(WF;RT−1u
および雄のルイスラット(Lew;RT−11)をハー
ラン・スプラーグ-ドーリー動物試験所から入手した。
体重200−224グラムのルイスラットをレシピエン
トとして使用した。体重200−224グラムのWFラ
ットをドナーとして使用した。
【0083】移植の1〜2日前に、ケタミン(100m
g/kg)およびキシロカイン(5mg/kg)の混合
物の腹腔内注射(IP)によりルイスラットに麻酔をか
けた。この時点で、PE−90管を内頚静脈に入れ、頚
の後面を通して引き出した。ラットを個々のケージに入
れることにより、カテーテルが取り除かれないようにし
た。水やラット食餌に対する制限は全く設けなかった。
【0084】この移植方法は、腹内移植に関するオノお
よびリンゼイの微小血管技術の修正バージョンである。
WFラットに対しペントバルビタール(50mg/k
g)で麻酔をかけた。胸部および腹部の毛を剃り、ベタ
ジンで準備し、次いでサーモスタットで温度制御した手
術台に載せた。腹部縦切開を行い、300単位のヘパリ
ンを下大静脈(IVC)に注射した。3分後、胸骨およ
び前胸郭を大型の鋏で横隔膜および外側肋骨から分離し
た。胸腔を開き、5−0絹結紮糸を用いてIVCを結紮
した。次いで、大動脈を切開し、腕頭動脈レベルのとこ
ろをクランプで十字に締めた。3ccの冷心停止液(4
℃)を25ゲージ針により大動脈付け根へ注射した。大
動脈をクランプ下で分割した。肺動脈を固定しないで切
開し、その分岐点のところで分割した。2−0絹結紮糸
を心臓周囲に巻き、上大静脈および肺静脈を一まとめに
結紮した。次いで、心臓を摘出し、ヘパリン(2単位/
ml)を含む氷冷食塩水中に入れた。
【0085】次いで、同様の方法でルイスラットに麻酔
をかけた。腹部の毛を剃り、準備した後、腹部縦切開を
行った。IVCおよび腎臓下大動脈を一緒に動かせるよ
うにした。次いで、湾曲したブルドッグを用いて管をク
ランプで十字に締めた。9−0エチコン顕微手術用縫糸
を用いて肺動脈およびIVC間の開口部を縫合した。次
に、類似した末端−側面方法で、大動脈−大動脈吻合を
行った。次いで、縫糸線をアビチンにより囲み、クラン
プをゆっくりと除去した。心臓はピンク色になり、20
−30秒で活発に収縮し始めた。次いで、腹部内容物を
戻し、腹部を2−0絹縫糸で閉じた。
【0086】次に、4処置群および1対照群を設定し
た。実験群には、手術の15分前に350mg/kgの
FDPを静脈内注射した。次いで、それらに対し、手術
中10mg/kg/分の速度でFDPの90分注入を行
った。この試験では、抗生物質はどの動物にも投与され
なかった。
【0087】実験群には、 1)手術時FDP、術後2時間で食塩水の注射、 2)手術時FDP、術後2時間で注射、次いで12時間
毎に注射(350mg/kg)、 3)手術時FDP、術後2時間で注射、次いで8時間毎
に注射(350mg/kg)、 4)手術時FDP、術後2時間で注射、次いで6時間毎
に注射(350mg/kg) のいずれかを与えた。対照群には注射をしなかった。
【0088】生存能力について毎日動物を調べた。心拍
が触知されないときには、ケタミン/キシロカインで麻
酔し、麻酔下で評価した。移植心臓が生存し得ない場
合、致死量のペントバルビタールを投与した。心臓を摘
出し、10%ホルムアルデヒド中に入れた。次いで、そ
れらを顕微鏡で調べ、スタンフォードグレード尺度を用
いて拒絶に関するグレード付けをした。
【0089】術後3日までに停止した心臓がある場合、
それらを技術的な問題とみなし、試験から外した。未知
の症例について手術の5日以内に死んだラットもまた、
試験から外した。これらの死亡は、敗血症に続発的なも
のであると感じられた。1匹のラットは、8日目に縫合
破裂で死んだ。このラットも試験から外した。
【0090】対照群の平均生存期間(MST)は7.6
日であった(表1)。これらのラットは全て、移植心臓
が拒絶反応を起こすまで生きていた。それらの拒絶程度
は中程度〜重度/進行段階であった(表2)。
【0091】I群のMSTは13.5日であった(表
1)。1匹のラットは8日目に縫合破裂で死亡し、試験
から外された。第2のラットは9日目に敗血症で死ん
だ。この群の残りのラットは拒絶反応時まで生きてお
り、拒絶グレードは軽度〜重度/進行段階であった(表
2)。敗血症で死んだラットは、ラットの不注意な処置
の結果続発したものとはみなされなかった。
【0092】II群のMSTは8.9日であった(表
1)。1匹のラットは敗血症で9日目に死んだ。他のラ
ットは全て移植片拒絶反応時まで生きており、拒絶程度
は軽度〜重度/進行段階であった(表2)。敗血症で死
亡した1匹のラットにおける移植体の場合は軽度であっ
た。
【0093】III群のMSTは10日であった(表
4)。1匹のラットは敗血症で12日目に死亡し、1匹
のラットについては敗血症のために11日目の午後に殺
した。2番目のラットは、殺した日の夜その移植片が強
く触知され得たため、12日目に拒絶反応をおこしたも
のとして数えられた。この群の残りは拒絶反応時まで生
きており、グレードは中程度〜重度/進行段階であった
(表5)。
【0094】IV群のMSTは9.6日であった(表
4)。この群のラットは全て、移植片に拒絶反応が起こ
るまで生きていた。それらは全て、拒絶グレードは重度
/進行段階であった(表5)。
【0095】敗血症は、この実験が直面する難しい問題
であった。敗血症が二次的原因で合計4匹の実験用ラッ
ト(9.5%)が死亡するかまたは処分された。全ラッ
トに2つの手術、すなわち内頚静脈ラインを入れる手術
および移植を目的とする手術を行った。次いで、ラット
に対し、連続中央カニューレ挿入および反復注射を行っ
た。感染予防技術を使用はしたが、ラットは自分のカテ
ーテルを噛み、自身の糞の中をころげまわった。この実
験群の場合、無菌状態を確保するのは困難であった。
【0096】上記問題点にもかかわらず、この試験は、
FDPがラットにおいて心臓移植生存期間を延ばすこと
を立証している。
【0097】実施例3 移植心臓を用いるインビボ試験(系列2);FDP単独
およびシクロスポリンと組み合わせた場合の同種移植生
存期間の増加 これらの試験で使用される外科技術は、実施例2の記載
と全く同じであるが、ただし、この一連の試験における
動物には術後に予防的抗生物質処置を施し、さらに静脈
カテーテル部位にバシトラシン軟膏を毎日塗布した。
【0098】動物を下記6群に分けた:1群(n=
6)、すなわち対照には、FDPもCSAも与えなかっ
た。2群(n=5)には、FDPのみを350mg/k
gの術前静脈注射、および90分間10mg/kgの手
術時静脈注入として投与した。3群(n=6)には、最
適以下の用量のCSA(2.5mg/kg/日IM)を
投与した。4群(n=5)には、最適以下で上記より高
用量のCSA(5mg/kg/日IM)を投与した。5
群(n=5)には、FDPを術前注射(350mg/k
gIV)、90分間10mg/kg/分でのFDPの手
術時注入、およびFDPの維持注射(12時間毎350
mg/kgIV)として投与した。またこの群には2.
5mg/kg/日IMでCSAも投与した。6群(n=
5)には、5群と同じFDP処置を施し、CSA用量を
5mg/kg/日IMに増やした。
【0099】表6が示すところによると、FDPおよび
CSAは両方とも、個々に同種移植生存期間を顕著に延
ばした。FDP処置もCSA処置もしなかった1群(対
照)では、MSTは7.0±0.25日であった。1群に
おいて、FDPのみを与えると、MSTは11.4±0.
74日(統計的確率p<0.0001)であった。2群
において、2.5mg/kg/日でCSAを投与する
と、MSTは12.0±0.57日(p<0.0001)
であった。3群において、5mg/kg/日でCSAを
投与すると、MSTは12.4±0.81日(p<0.0
001)であった。FDP単独で処置された群および
2.5mg/kg/日または5mg/kg/日用量のC
SAを投与されたラット間における同種移植生存に有意
な差異はなかった。
【0100】1−4群に関するデータは、FDPが単独
でも同種移植拒絶反応の低減化にかなりの効果を有する
ことを示している。
【0101】5および6群に関するデータは、MSTが
それぞれ17.6日および28.2日にと、かなり増加す
ることを示している。これは、FDPおよびCSAの組
み合わせが、CSAまたはFDP単独の場合と比べて同
種移植生存期間を顕著に増加させることを示していた。
【0102】蓄積されたデータは、(1)FDPが単独
で同種移植拒絶反応の問題を減らし、かつ同種移植生存
期間を増加させ得ること、さらにまた(2)FDPがシ
クロスポリンの有用な免疫抑制効果を強化し得ることに
より、シクロスポリンの有毒な副作用を回避または最小
限にし得る方法で、使用されるシクロスポリンの用量を
低減化させ得ることを示している。これらの特性は両方
とも、移植片レシピエントの維持および処置に非常に有
用である。
【0103】要約すると、インビボおよびインビトロの
両試験において、FDPが、T細胞増殖の低減化および
同種移植組織の生存期間延長において顕著な活性を呈す
ることが示された。さらに、この新規免疫抑制剤は、同
種移植拒絶反応の処置に現在使用されている他のあらゆ
る薬剤に固有の毒性問題を明らかに回避できる。組み合
わせ療法で使用する場合、FDPは、使用されるさらに
危険な他の免疫抑制剤(例えばシクロスポリン)の用量
を低減化させることができる。
【0104】実施例4 臓器保管中における損傷を低減化するためのFDPの使
用 ケタミン麻酔したスプラーグ・ドーリーラット(体重3
50−450グラム)から心臓を採取した。心臓採取
前、無作為に選んだ17匹のラットにFDP450mg
/kg(10%)の静脈内ボーラス注射を行った。心臓
を摘出し、左心房および大動脈を3分以内に修正ランゲ
ンドルフ装置に結合し、そして心臓を、0.07mg/
mlのFDPを加えたクレブス-ヘンゼライト溶液によ
り37℃で15分間エクスビボ(生体外)潅流した。対
照群(n=21)におけるラットには、手術前に等容量
の食塩水注射を行い、FDP不含有のクレブス-ヘンゼ
ライト溶液により心臓を15分間潅流した。この期間中
における心拍、収縮期圧および拡張期圧、心拍出量およ
び冠動脈血流量を測定し、記録した。
【0105】15分の潅流期間後、対照心臓(n=2
1)を心停止液(アイソライト、K+20ミリ当量/
L)で洗った。FDP処置した心臓(n=17)を、1
mg/ccのFDPを含む同溶液で洗った。心臓をそれ
ぞれ、0.9%NaClまたは1mg/mlFDP含有
0.9%NaClを含む冷(4℃)食塩水溶液中に入
れ、4℃で4時間保管した。4時間の保管期間完了後、
心臓を再潅流し、再び37℃に温めた。15分後各群か
らの7心臓をランゲンドルフ装置から取り出し、心筋A
TP含有量について分析した。残りの心臓(処置群では
10、および対照群では14)を再潅流開始後2時間様
々な方法(心拍数、平均大動脈および収縮期圧、および
心拍出量)で測定した。
【0106】冷却エクスビボ保管前、心拍数、平均大動
脈および収縮期圧、および心拍出量について、対照およ
び処置群間に顕著な差異はなかった。1時間30分の再
潅流後、全てのFDP処置心臓(n=10)は依然とし
て心拍を示しているが、14の対照心臓のうち心拍を示
すのは5つだけだった(p<0.005)。保管後心拍
数(図1)、ピーク収縮期大動脈圧(図2)、平均圧
(図3)および心拍出量数(図4)は全て、FDP処置
心臓の方が対照群の場合よりも顕著に高かった。また1
5分の再潅流後における心筋ATP含有量も、FDP処
置心臓の方が対照群の場合よりも高かった(図5、p<
0.01)。
【0107】これらの結果は、FDPで処置すると、エ
クスビボ保管心臓の機械的機能が顕著に改善され、4時
間のエクスビボ低(体)温虚血状態保管後における心筋
レベルが高められたことを明白に示している。
【0108】実施例5 エクスビボ保管臓器におけるFDPを用いたミトコンド
リア損傷に対する防御先に示したところによると、低温
虚血状態保管期間の後、虚血後再潅流後に臓器の酸素利
用能力は損なわれている。これは、保管およびそれに続
く再潅流中におけるCa++によるミトコンドリア損傷お
よび傷害性酸化性基の生成によるものである。
【0109】機械的機能および心筋ATP含有量は虚血
状態保管前およびその間にFDPで処置した心臓におい
て著しく改善されたため、16〜20時間の低体温虚血
状態保管後の臓器における酸素消費を評価する一連の追
加実験を行った。
【0110】スプラーグ・ドーリーラット(150−1
80グラム/体重)に対し、ケタミン35mg/kgで
麻酔をかけた。肝臓、腎臓および心臓を摘出し、4℃に
予冷しておいた、商標名アイソライトで販売されている
標準心停止液(Na+-41ミリ当量/L、K+-16ミリ
当量/L、Ca++-5ミリ当量/L、Mg++3ミリ当量
/L、Cl--40ミリ当量、アセテート24ミリ当量/
L、5%デキストロースを含有)50ml中に入れた。
保管容器の半分に1mg/mlの10%FDPを加え
た。容器の残りに同様の量のグルコースを加えた。容器
を冷蔵庫の中の氷上に置いた。16〜20時間保管後、
臓器を秤量し、クラークのポーラログラフ電極を用いる
酸素消費測定用の代謝チャンバーに入れた。チャンバー
の総容量は10mlであり、培地の組成は、36±0.
2℃の温度で8mlリン酸緩衝食塩水(PBS デュル
ベッコ、Mg++およびCa++不含有)および2ccのデ
キストロースであった。臓器をチャンバーに入れ、10
0%酸素を45秒間吹き込んだ。溶解した酸素の部分圧
は、通常480−560mmHgであった。次いで、チ
ャンバーを密封して閉じ、1cm/分の速度でストリッ
プチャート記録装置において臓器によるO2消費を記録
した。チャンバー中における培地の開始および最終PO
2レベルをラジオメーター血液ガス分析計ABL−4型
で測定した。
【0111】FDP処置肝臓(n=12)に関する虚血
状態保管後(17.62±0.22時間)の酸素消費レベ
ルは、対照肝臓(n=12)(p<0.005)におけ
る55.5±4.8のレベルと比べると、36.4℃で7
6.7±4.4 O2mmHg/分/gであった。同様に、
FDP処置腎臓(n=11)は、対照腎臓(n=11、
57.4±4.6mmHg O2/分/g、p<0.02
5)よりも保管後O2消費が著しく良好(74.15±
4.8mmHg、O2/分/g)であった。FDP処置心
臓(n=4)もまた、対照心臓(n=4、p<0.02
5)における46.2±6.5と比べて、68.4±3.1
4mmHg O2/分/gと、保管後O2消費が高かっ
た。
【0112】これらのデータは、FDPを用いて虚血状
態で保管された臓器を処置すると、著しく高い保管後酸
素利用による証拠として、低温虚血状態保管後の心臓の
機械的機能がかなりの程度まで保たれるだけでなく、ミ
トコンドリアが損傷から防御されることを明らかに示し
ている。
【0113】すなわち、FDPを用いることにより同種
移植組織拒絶反応の問題を低減化する新規で有用な方法
について示し、記載してきた。ある程度の実施態様を引
用して説明および記載する目的でこの発明を例証した
が、当業界の熟練者であれば、説明された実例の様々な
修正および改変が可能であることは明白なはずである。
この明細書で教示した内容から直接導かれ、この発明の
精神および範囲から逸脱しない変形があれば、それらも
この発明に包含されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【図1】 エクスビボで4時間冷塩水溶液中で貯蔵した
心臓における、FDP処置により与えられる心拍動速度
改善を示すグラフである。
【図2】 FDP処置により与えられるピーク収縮期血
圧の改善を示すグラフである。
【図3】 FDP処置により与えられる平均大動脈圧の
改善を示すグラフである。
【図4】 FDP処置により与えられる心拍出量の改善
を示すグラフである。
【図5】 FDP処置により与えられる心筋ATPレベ
ルの増大を示すグラフである。

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 (a)臓器移植手術後のT型リンパ球細
    胞活性化応答を抑制するのに有効な薬学的に許容し得る
    投与量のシクロスポリン化合物;および、 (b)シクロスポリン化合物と相互依存的に作用し、そ
    れによって、臓器移植手術後にT−型リンパ球細胞活性
    化応答を効果的に抑制するのに必要とされるシクロスポ
    リン化合物の投与量を低減する、薬学的に許容し得る投
    与量のフルクトース−1,6−二リン酸の投与を含んで
    なる、移植組織のレシピエントにおける同種移植片拒絶
    反応を抑制する方法。
  2. 【請求項2】 臓器移植手術後、フルクトース−1,6
    −二リン酸を静脈注入により患者に投与する、請求項1
    記載の方法。
  3. 【請求項3】 移植組織の哺乳動物レシピエントに、 (a)フルクトース−1,6−二リン酸、および、 (b)活性化T細胞の増殖を抑制する既知の免疫抑制剤
    であるシクロスポリン化合物の組み合わせを投与するこ
    とを含んでなる、移植組織のレシピエントにおける同種
    移植片拒絶反応を抑制する方法であって、 フルクトース−1,6−二リン酸をシクロスポリン化合
    物の免疫抑制活性を相互依存的に増大する薬学的に許容
    し得る投与量で投与し、それによって、より低投与量の
    シクロスポリン化合物の使用を可能にして、シクロスポ
    リン化合物の毒性副作用を低減しながら有効な免疫抑制
    結果を提供する、方法。
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