JPH10509949A - erbB2−4を過剰発現する細胞に向けられた細胞毒性活性を備えた融合タンパク質 - Google Patents
erbB2−4を過剰発現する細胞に向けられた細胞毒性活性を備えた融合タンパク質Info
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Abstract
(57)【要約】
本願発明は、erbB3および/またはerbB4を過剰発現する細胞に対して細胞毒性活性を備えたリガンド毒素を提供する。リガンド毒素は、毒素に融合したerbB3および/またはerbB4に結合するアミノ酸配列を具備もしくは含有するペプチドを含む。好ましい形態としては、ペプチドは、ヘレグリンβ2の表皮成長因子様ドメインに実質的に相同なアミノ酸配列を具備もしくは含有する。また、毒素がシュードモナス外毒素もしくはその誘導体であることが好ましい。
Description
【発明の詳細な説明】
erbB2−4を過剰発現する細胞に向けられた細胞毒性活性を備えた融合タン
パク質
本願発明は、修飾されたシュードモナス(Pseudomonas)外毒素(PE40)に
融合したヘレグリン(heregulin)β2の表皮成長因子様ドメインを含むリガンド
毒素に関する。本願発明はさらに、リガンド毒素を含む薬学的組成物、並びに、
多くの場合、erbB2、erbB3およびerbB4(erbB2−4)を単
独もしくは組み合わせて過剰発現するガン、特に乳ガン等を処置する方法にも関
する。
erbB2に対する抗体、例えば4D5モノクローナル抗体(Hudziakら,Mol
.Cell.Biol.9,1165-1172,1989)が知られており、抗癌治療におけるこれら
の抗体の使用が提案されている。4D5は、erbB2を過剰発現する細胞に特
異的に向けられ、これらの生育を阻害する。このアプローチの利点は、erbB
2過剰発現細胞に特異的に向けられ、毒性の副作用がないことである。欠点は、
このアプローチがerbB2を過剰発現する細胞に限定されることと、その効果
が細胞毒性と言うよりむしろ細胞不活性化(cytostatic)であると言うことである
。
erbB2に向けられた免疫毒素の使用、例えばe23−LysPE40(Ba
traら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,5867-5871,1992)、TA−1−リシ
ン(Rodriguezら,Am.J.Obstet.Gynecol.168,228-232,1993)も提案され
ている。これらはerbB2過剰発現細胞に対して特異的でありかつ細胞毒性で
ある;しかしながら、例えば4D5のみを用いた場合よりも毒性の副作用があり
得る。天然のerbB2リガンド(本明細書ではヘレグリン類、HRG群と称す
る)を示すために提案されたポリペプチドフアミリーのクローニングおよび特徴
決定が、最初にWenら(Cell 69,559-572,1992)およびHolmesら(Science 256
,1205-1210,1992)によって報告された。このフアミリーのメンバーが、次い
で、他の二つのグループによってクローン化された;Marchionniら(Nature 362
,312-
318,1993)およびFallsら(Cell 72,801-815,1993)。
しかしながら、最近の研究によりHRG群がerbB2に直接結合しないこと
が明らかになった。代わって、erbB3およびerbB4がこれらのリガンド
に対するレセプターとして機能し、これらのレセプターとのヘテロダイマー化(h
eterodimerisation)の結果として、HRG結合に次いで、観察されたerbB2
のチロシンリン酸基転移が起こる(Plowmanら,Nature 366,473-475,1993; Ca
rrawayら.J.Biol.Chem.269,14303-14306,1994; Slikowskiら.J.Biol.C
hem.269,14661-14665,1994)。
二つのグループが、HRG群が生育阻害、および、erbB2を過剰発現する
ヒト乳ガン細胞の表現型分化を引き起こすことを報告した(Wenら,Cell 69,55
9-572,1992; Bacusら,Cell Growth Differ.3,401-411)。それゆえ、このこ
とは、最小の副作用を備えた可能性のある治療方法を示す。しかしながら、Holm
esらは、HRG群の増殖効果を観察したのみであり、本願発明者らは、この知見
を支持する未公開のデーターを所有している。HRG−毒素は、ヒト乳ガン細胞
を標的化する別のアプローチを示し、抗erbB2免疫毒素と比較して、産生が
容易であり(抗体に比べてHRG成分のサイズがより小さく、高収率の原核性の
発現システムに適していることによる)、抗原性が低い。
erbB2レセプターは、ヒト乳ガン細胞の約20%において過剰発現され(
Slamonら.Science 244,707-712,1989)、卵巣ガン、胃ガンおよび結腸ガンを
含む他のガンにおいても過剰発現され(Beschukら.Cancer Res.50,4087-4091
,1990; Kamedaら.Cancer Res.50,8002-8009,1990; D'Emillaら.Oncogene
4,1233-1239,1989)、治療に魅力的な標的とされている。erbB2リガンド
としての、またerbB2を過剰発現するヒト乳ガン細胞の増殖を阻害し分化を
促進するファクターとしての、HRG群の予備的な特徴決定により、本願発明者
等は、これらのリガンドの組換え産生を試み、治療能力を調査するに至った。H
RG群が、erbB2を過剰発現する細胞系を含むヒト乳ガン細胞の増殖を刺激
したという本願発明者等の知見により、本願発明者等は、治療手段としてのHR
G−毒素に焦点を当てるに至った。HRG群がerbB3およびerbB4レセ
プターに対するリガンドであるとする最近の同定により、本願発明者等は、HR
G群がerbB2のみのリガンドである場合より、より広い範囲のヒト乳ガン細
胞を標的化すると予想するに至った。これは、erbB3およびerbB4レセ
プターもヒト乳ガン細胞にしばしば過剰発現され(Krausら.Proc.Natl.Acad
Sci(USA)86,9193-9197.1989; Plowmanら.Proc.Natl.Acad Sci(USA)90
,1746-1750,1993)、これらの細胞がerbB2も過剰発現するとは限らない
からである。この仮説は、現在確認されている。
本願発明者等は、修飾されたシュードモナス(Pseudomonas)毒素(PE40)
に融合されたヘレグリンβ2の表皮成長因子様ドメイン(HRGβ2、アミノ酸
177−237)からなるリガンド毒素を構築した。HRGβ2−PE40リガ
ンド毒素を設計し、pFlag原核性発現システムを用いて発現させた。HRG
β2−PE40は、20pMの低い濃度で、MCF−7ヒト乳ガン細胞上のer
bB2およびerbB3レセプターのチロシンリン酸基転移を誘導した。リガン
ド毒素は、低いあるいは検出不可のレベルのerbB2、erbB3およびer
bB4レセプターを発現する、184B5固定化正常乳表皮細胞の生育を顕著に
阻害することはなかった。しかしながら、正常乳表皮細胞と比べて、erbB3
および/またはerbB4を過剰発現するヒト乳ガン細胞を用いた生育実験では
、HRGβ2−PE40を添加することにより、HRGβ2またはPE40のみ
を添加した場合と比べて、顕著な細胞毒性効果が生じた。例えば、正常な乳表皮
細胞と比べてerbB2−4を過剰発現するZR−75−1ヒト乳ガン細胞では
、HRGβ2−PE40のIC50(対照培養に対して細胞数が50%減少するの
に必要なリガンド−毒素の濃度)は2−4pMであったのに対して、PE40の
みのIC50は2500pMであった。これらの結果は、erbB2−4を単独も
しくは組み合わせて過剰発現するヒトの乳ガンまたは他のガンに対する新規の治
療手段を示すことを示唆する。
従って、本願発明の最初の態様はリガンド毒素にあり、このリガンド毒素は、
毒素に融合したerbB3および/またはerbB4に結合するアミノ酸配列を
具備もしくは含有したペプチドを含む。
本願発明の好ましい実施態様では、ヘレグリンβ2の表皮成長因子様ドメイン
のアミノ酸配列に実質的に相同なアミノ酸配列を具備もしくは含有する。
毒素は、当該技術分野で知られた多数の毒素のいずれかとすることができるが
、現在のところ、シュードモナス外毒素もしくはその誘導体が好ましい。特に、
毒素がPE40であることが望ましい。
本願発明のさらに好ましい実施態様では、リガンド毒素は実質的に図1に示さ
れたアミノ酸配列を備える。
さらに好ましい実施態様では、リガンド毒素は組換えにより産生される。
本願発明の第二の態様はベクターであり、このベクターは、実質的に図1に示
されたアミノ酸配列を備えたリガンド毒素をコードしたDNA配列を含む。
本願発明の第三の態様は、erbB3および/またはerbB4を過剰発現す
るガンを処置するのに使用される組成物であり、この組成物は本願発明の第一の
態様のリガンド毒素と使用可能なキャリアーを含有する。
本願発明の第四の態様は、患者におけるerbB3および/またはerbB4
を過剰発現するガンを処置する方法であり、患者に本願発明の第三の態様の有効
量の組成物を投与することを含む。
本願発明の態様の好ましい実施態様では、患者が乳ガンに罹患している。
本願発明の性質がより明確に理解されるように、好ましい形態を以下の実施例
および図面を参照しながら記載する。
図1.pFLAG/HRGβ2−PE40発現ベクターにコードされた成熟H
RGβ2−PE40リガンド毒素の完全なアミノ酸配列.
ompAペプチドを切断した後、成熟リガンド毒素タンパク質が、形質転換し
た細菌の細胞周辺腔に発現された。この組換えタンパク質の精製を、抗FLAG
−アフィニティークロマトグラフィーで行った。8アミノ酸FLAGペプチドに
は、二重下線が付されている。HRGβ2タンパク質配列は太字で示されている
。HindIIIクローニング部位を含むPE40リーダー配列には下線が付されてお
り、361アミノ酸PE40タンパク質配列が正常型で示されている。翻訳終結
コドンがアスタリスクで示されている。
図2.HRGが誘導したerbB2−4のチロシンリン酸基転移.
MCF−7ヒト乳ガン細胞の単層培養を、18時間、RPMI1640/0.
5%FCS中で血清飢餓状態にして、示された投与量で各々の組換えHRGイソ
型タンパク質(α、β1、β2もしくはβ3)を添加した。37℃でさらに20
分後、細胞を溶解し、細胞抽出物の分割量に抗ホスホチロシン抗体を用いたウェ
スタンブロット解析を行った。erbB2−4に対応する主要な180−185
kDaのバンドの強度をデンシトメトリーで評価し、図式的に示した(α-□;
β1-●;β2-△;β3-▼)。
図3.HRGβ2およびHRGβ2−PE40が誘導したerbB2−4のチ
ロシンリン酸基転移の比較.
MCF−7ヒト乳ガン細胞の単層培養を、18時間、RPMI1640/0.
5%FCS中で血清飢餓状態にして、示された投与量でHRGβ2およびHRG
β2−PE40を添加した。37℃でさらに20分後、細胞を溶解し、細胞抽出
物の分割量に抗ホスホチロシン抗体を用いたウェスタンブロット解析を行った。
erbB2−4に対応する主要な180−185kDaのバンドの強度をデンシ
トメトリーで評価し、図式的に示した(HRG-□;HRGβ2−PE40-●)
。
図4.184B5固定化ヒト乳表皮細胞およびヒト乳ガン細胞の増殖速度に与
えるHRGβ2もしくはHRGβ2/PE40の影響.
細胞を96ウェルの培養プレートの各ウェルに分けた。HRGβ2、HRGβ
2/PE40もしくはPE40(0.5pM−5nM)を0日目に添加し、間接
MTTアッセイを用いて3、5および7日目に細胞数を評価した。グラフは、最
大の応答を示す投与量に対する代表的な結果を示す(HRGβ2 1nM;HR
Gβ2/PE40 5nM;PE40 5nM;対照 ビヒクルのみ)。各実験
は3、4回行われ、本質的に同じ結果となった。(A− 184B5;B−T−
47D;C−MCF−7;D−ZR−75−1;対照−□;HRGβ2−●;H
RGβ2/PE40−△;PE40−◆;)
図5.184B5固定化ヒト乳表皮細胞およびZR−75−1ヒト乳ガン細胞
におけるHRGβ2−PE40が誘導した細胞毒性の用量応答.
細胞を96ウェル培養プレートの各々のウェルに分配した。HRGβ2、PE
40もしくはHRGβ2/PE40(0.5pM−5nM)を0日目に添加し、
間接MTTアッセイを用いて7日目に細胞数を調べた。細胞数は対照値のパーセ
ントとして示されている。(A− 184B5;B−ZR−75−1;HRGβ
2−□;HRGβ2/PE40−●;PE40−△)。
HRGイソ型タンパク質のEGF様ドメインをコードするcDNAフラグメント
の単離
グアニジニウム・イソチオシアナート−セシウムクロリド法(The guanidinium
isothiocyanate-caesium chloride procedure)を用いて、高レベルのHRG群
を発現するヒト乳ガン細胞系MDA−MB−231の全RNAを単離した。ポリ
(A)+RNAを、Dynabeads(Dynal)でオリゴdTセルロースクロマトグラフ
ィーによって調製した。第一鎖cDNAを、オリゴdTプライマーとM−MuL
V逆転写酵素を用いて合成した。二本鎖cDNAをRNアーゼHとDNAポリメ
ラーゼIを用いて調製し、PCRによるHRG誘導cDNA群の合成鋳型として
用いた。cDNA合成試薬は、Clontechから入手した:PCR試薬はPerkin-Elm
er Cetusから入手した。DNAフラグメントの増幅は、5つのヌクレオチドリー
ダー配列とサブクローニングを容易にするためのHindIII部位(下線部)を含有
する各イソ型タンパク質に共通の正方向プライマー
並びに、リーダー配列、HindIII部位(下線部)およびインフレーム終結コドン
(an in-frame termination codon)(二重下線部)を含有する、α、β1およ
びβ2に共通の逆方向プライマー
もしくはβ3の逆方向プライマー
を利用した。HRG−PE40リガンド毒素の産生に適したcDNA群をクロー
ン化するために、停止コドンが削除された以下の逆方向プライマーを用いた。
これらのcDNAフラグメントは、生物学的活性に重要であることが以前に示さ
れたHRG群のEGF様ドメインをコードする(Holmesら,Science 256,1205-
1210,1992)。
HRGおよびHRG−毒素発現ベクターの構築
各HRGイソ型タンパク質をコードするPCR産物を、HindIIIで切断し、p
FLAG−1発現ベクターの対応部位にリゲートした。E.coliDH5αに形質転
換した後、特定のHRGイソ型タンパク質をコードするプラスミドを有する形質
転換体を、小規模プラスミド調製物の配列決定により同定した(Sequenase Vers
ion 2.0,USB)。
リガンド毒素発現ベクターの構築のために、シュードモナス外毒素PE40を
コードする1184bpのHindIII/EcoRIcDNAフラグメントをpFLAG−
1の対応部位にリゲートした。この最初の構築物は、E.coliDH5で発現させた
場合に、リガンド毒素実験の対照として用いられる組換えPE40毒素を産生し
た。HRGαもしくはHRGβ2をコードするHindIIIcDNAフラグメントを
、このPE40構築物に挿入した(それぞれHRGα−およびHRGβ2−PE
40を作製)。
E.coliにおけるHRGイソ型タンパク質およびHRG−PE40の発現
組換え細菌を、振動させながら37℃で生育させ、培養のOD600が0.8と
なるまで生育させた。IPTGを500μMまで添加し、さらに2時間培養をイ
ンキュベートした。各E.coli細胞フラクションにおける発現レベルを決める最初
の実験では、IPTG誘導培養(100ml)を3つに分け、細胞を遠心して回
収した。全細胞フラクションを、SDS−PAGEサンプルバッファー中の一つ
の細胞ペレットの再懸濁によって単離した。5mlの抽出バッファーA(50m
M Tris−HCl pH8.0、5mM EDTA、0.25mg/ml リゾ
チーム、50μg/ml NaN3)さらに0.5mlの抽出バッファーB(1.
5M NaCl、0.1M CaCl2、0.1M MgCl2、0.02μg/m
l DNアーゼI、0.2mM NaVO3、0.2mM PMSF、0.2mM ロ
イペプチン、0.2mM アプロチニン(aprotinin))を添加することによって、
全細胞ペレットを可溶性もしくは不溶性フラクションに分画するために、第二の
ペレ
ットを使用した。得られた懸濁液を18000xgで1時間遠心して、可溶性(
上清)と不溶性(ペレット)細胞フラクションを得た。不溶性細胞フラクション
をSDS−PAGEサンプルバッファーに再懸濁したが、可溶性フラクションの
一定分量は等ボリュームの2xサンプルバッファーと混合した。最後に、第三の
細胞ペレットを、40mlのOSバッファー(0.5M スクロース、0.03
M Tris−HCl pH8.0、1mM EDTA)に再懸濁して浸透圧ショ
ック用に調製し、10℃、10分間、3500xgで速心した。細胞を25ml
の氷冷水に急速に懸濁し、ペリプラズム(細胞周辺腔の)タンパク質を放出させ
た。4℃、10分間、3500xgでの遠心後、懸濁液を回収し、50μlの一
定分量を等量のSDS−PAGEサンプルバッファーと混合した。SDS−PA
GEおよびニトロセルロース膜にタンパク質を転写した後に、FLAGエピトー
プ付加タンパク質を、抗FLAG M2モノクローナル抗体(10μg/ml)
と、それに次ぐ増強化学発光(Enhanced Chemiluminescence)(ECL)(Amersh
am)によって検出した。M2抗体は、ompA切断および非切断形態の両方から
なるFLAGタンパク質を検出する。
組換えタンパク質は、全てのフラクションにおいて、種々のHRGイソ型タン
パク質とHRG誘導リガンド毒素の両方について検出された。HRG群の場合に
は、予想される移動度のタンパク質(約7kDa)が産生された。HRG−PE
40リガンド毒素は、単独で発現された場合には約47kDaの見かけの分子量
で移動する、PE40の異常な移動により、52kDaの相対移動度で移動した
。ペリプラズムフラクションに見出されたタンパク質は抽出が最も単純で、最も
正確にホールドされ、生物学的に活性であるため、親和的精製をペリプラズム抽
出物に対して行った。
組み換えHRGおよびHRG−PE40リガンド毒素の精製
各々のHRGイソ型タンパク質、HRG−PE40もしくはPE40毒素のみ
について、細胞周辺腔に発現されたタンパク質を、ompA切断FLAG融合タ
ンパク質のみを結合する抗FLAG M1モノクローナル抗体を用いたアフィニ
ティークロマトグラフィーによって単離精製した。この抗体は、カルシウムの存
在
下でのみFLAGペプチドに結合するので、カラムに添加する前に、ペリプラズ
ム細胞フラクションを、50mM Tris−HCl(pH7.5)中に2mM
CaCl2とした。結合タンパク質を、2mM EDTAを含む50mM Tri
s−HCl(pH7.5)中で溶出し、ウェスタンブロットおよびSDS−PA
GEゲルのクーマシー染色によってサイズと純度を分析した。それそれのタンパ
ク質について、容易に溶けるタンパク質はSDS−PAGE分析により実質的に
シングルバンドまで精製された。一般的に、精製されたタンパク質の収率は培養
の0.2−2.0mg/lの範囲である。しかしながら、HRGイソ型タンパク
質では、可溶性タンパク質の最も高い収率は、一貫してβ2イソ型タンパク質で
得られ、収率は培養の3.0mg/lまでであった。
erbBレセプターチロシンリン酸基転移のHRGおよびHRG−PE40刺激
MCF−7ヒト乳ガン細胞系を以前に記載されたようにして維持し(Buckleyら
,Oncogene 8,2127-2133,1993)、6ウェル組織培養プレートで集密に近くな
るまで生育させた。細胞を、0.5%FCSを含有する培地中で18時間飢餓状
態にした。組換えHRGもしくはHRG−PE40を、100μlのTBS/0
.05%BSAに添加した(20pM〜10nMの終濃度)。対照にはビヒクル
のみを与えた。37℃で20分間インキュベートした後、培地をアスビレーショ
ンによって除去し、細胞を200μlの溶解バッファー(1% Triton X
−100、150mM NaCl,10mM Tris−HCl pH7.4、1
mM EDTA、0.2mM Na3VO4、1mM PMSF、10μg/ml ロ
イペプチン、10μg/mlアプロチニン)に溶解した。氷上で5分間インキュ
ベートした後、細胞の砕片を遠心によって除去した(10000xg、5分、4
℃)。
HRGまたはHRG−PE40投与後にerbB2−4のチロシンリン酸基転
移レベルを調べるために、得られた細胞溶解物のサンプルをSDS−PAGEで
分離し、ニトロセルロースに転写し、ホスホチロシンに対するモノクローナル抗
体を用いてウェスタンブロットした(PY20、Transduction Laboratories)
。結合した抗体の検出はECLによるものであった(Amersham)。erbB2−
4
は、SDS−PAGE分析において、小さい移動度で移動するので(180−1
85kDa)、これらのレセプターの組み合わせられたチロシンリン酸基転移レ
ベルが、ゲルのこの領域の分析からわかる。HRGイソ型タンパク質がerbB
2−4レセプターを活性化する能力は、HRGの用量が20pM以上の場合に、
MCF−7細胞において180−185kDaにチロシンリン酸基転移したバン
ドが誘導されることから明白なことである(図2)。HRG群α、β2およびβ
3は、試験された最も高い濃度において(10nM)、erbB2−4チロシン
リン酸基転移に約10倍の増大を引き起こした。
HRGβ2−PE40がerbB2−4のチロシンリン酸基転移を刺激する能
力についても、MCF−7細胞を用いて試験した(図3)。リガンド毒素も、こ
れらの細胞において180−185kDaのタンパク質のチロシンリン酸化を誘
導したが、重要なことに、HRGβ2と同じ様なチロシンリン酸基転移の用量応
答が観察された。これらの結果は、HRGタンパク質のカルボキシ末端にPE4
0が存在するにも関わらず、HRGドメインが、erbB2−4の活性化という
ことに関して、単独で発現された組換えHRGと同じ様な活性を残していること
を示唆している。
どのerbBレセプターが活性化されたかを調べるために、免疫沈降法を行っ
た。容易に検出できるレベルのerbB2−4を発現することから、ZR−75
−1ヒト乳ガン細胞を用いた。T150組織培養フラスコ中で、細胞を集密に近
くなるまで生育させた。血清飢餓状態の後に、HRGβ2(10nM)を15分
間添加した。上述したように、1mlの溶解バッファーに細胞を溶解させた。抗
体(1−2μg)を、4℃で少なくとも2時間、溶解物(PY20免疫沈降物中
のerbB4の検出に250μlを用いたことを除いては、全ての反応で100
μlの溶解物を用いた)とインキュベートした。4℃で少なくとも1時間、ヤギ
抗マウスIgGセファロースもしくはプロテインA−セファロースビーズ(40
μl)とインキュベーションすることによって、免疫複合体を回収した。セファ
ロースビーズを遠心して回収し、冷却した溶解バッファーで3回洗浄し、SDS
−PAGEサンプルバッファーに再懸濁し、SDS−PAGEを行った。ニトロ
セルロースに転写した後、サンプルを所望の抗体でウエスタンブロットした。
抗ホスホチロシンモノクローナル抗体を用いてZR−75−1細胞からのer
bB2およびerbB3免疫沈降物をウェスタンブロッティングすることにより
、HRGβ2(10nM)投与におけるこれらのレセプターのチロシンリン酸基
転移の顕著な増大が示された。これらの研究で用いられた抗erbB4抗体はウ
ェスタンブロッティングに単に適しているだけなので、対照およびHRG刺激細
胞からの抗ホスホチロシン免疫沈降物が抗erbB4抗体を用いてブロットされ
る相互的な実験を行った。HRG添加により、明らかに、抗ホスホチロシン免疫
沈降物中にerbB4の取り込みが増大した。それゆえ、これらの結果は、er
bB2−4が、HRG処置でZR−75−1ヒト乳ガン細胞においてリン酸基転
移したチロシンになることを証明している。同じ実験をMCF−7乳ガン細胞の
細胞溶解物を用いて行った。erbB4の発現レベルが不十分であるために、H
RGβ2による活性化の検出が妨げられたことを除いて、同様の結果が得られた
。
これらの結果の最も明確な説明は、ヒト乳ガン細胞上のerbB3およびer
bB4レセプターに組換えHRGβ2が結合して、チロシンリン酸基転移を誘導
するということである。erbB2の観察されたチロシンリン酸基転移は、おそ
らくこれらのレセプターとのヘテロダイマー化による。これらの知見は、以前の
報告と一致する。
固定化ヒト乳表皮細胞およびヒト乳ガン細胞の増殖におけるHRGβ2およびH
RGβ2−PE40の効果
184B5固定化ヒト乳表皮細胞(StampferとYaswen.ヒト表皮細胞の形質転
換:Molecular and Oncogenetic Mechanisms,pp 117-140,Milo.CastoとShule
r Eds.CRC Press,1992)といくつかのヒト乳ガン細胞系をこれらの研究に使用
した。ノーザンおよびウェスタンブロット解析(Janesら,Oncogene 9,3601-36
08,1994: Fiddes,JanesとdeFasio,未公開の結果)から得られたこれらの細胞
系のerbBレセプター状態は、表1に示されている。これらの実験の目的は、
erbBレセプターの種々の組み合わせを過剰発現する乳ガン細胞を標的化する
ことにおけるHRGβ2−PE40の選択性を調べることであった。
184B5固定化ヒト乳表皮細胞(MEGM中)もしくはヒト乳ガン細胞(5
%FCSを含有するRPMI1640中)を、組換えHRGβ2、HRGβ2−
PE40もしくはPE40を添加する3日前(−3日目)に、50μlの生育培
地中に103細胞/ウェルの初濃度となるように96ウェルプレートの各ウェル
中に分配した。0日目に、終濃度が0.5pM〜5nMとなるように、組換えタ
ンパク質を50μlの生育培地に添加した。対照には、50μlの生育培地中の
等量のビヒクル(0.5μlの0.1%BSA)もしくは生育培地のみが添加さ
れた。
これらと同じ処理をしたプレートを調製し、試薬添加から3、5および7日目
に、一つのプレートを細胞の生育について分析した。細胞数(それぞれの処理に
つき6ウェル)を非放射活性細胞増殖アッセイ(Promega)を用いて間接的に測
定した。570nmの吸収を、Dynatech MR7000 スペクトロフォトメーターを用
いて各ウェルにつき記録した。
T−47D、MCF−7およびZR−75−1ヒト乳ガン細胞は、未処理の対
照と比べて速い増殖速度でHRGβ2投与に応答した(図4および5)。ZR−
75−1細胞の場合、対照細胞と比べて細胞数の顕著な増大が、50pM以上の
濃度で観察された(図5)。逆に、184B5細胞はHRGβ2に対して増殖応
答を示さなかった(図4および5)。試験した全ての濃度において(0.5pM
〜5nM)、また、3つの最初のプレーティング密度において(200−100
0細胞/ウェルの範囲)、HRGβ2処理した細胞と対照細胞との間の細胞数に
は、7日間のインキュベーション期間を通して顕著な差異は観察されなかった。
同様の研究を、HRGβ2−PE40とPE40のみを用いて平行して行った
。正常乳表皮細胞と比べてerbB3および/またはerbB4を過剰発現する
ヒト乳ガン細胞系に対するHRGβ2−PE40の細胞毒性が、対照培養と比べ
て細胞数が顕著に減少することから証明された(図4および5、表1)。PE4
0のみによる細胞増殖の阻害は、非常に高い濃度で起こった(表1)。このこと
は、リガンド毒素のHRGβ2成分が毒素を乳ガン細胞にし向けたことを示唆し
ている。正常乳表皮細胞と比べて顕著にerbB3を過剰発現する二つの細胞系
、T−47DおよびMCF−7は、それぞれ50−100および300−400
pMのIC50値を示した。しかして、HRGβ2−PE40は、erbB3を過
剰発現する細胞を標的とすることができる。しかしながら、ZR−75−1細胞
は、HRGβ2−PE40に最も感受性が強く、2−4pMのIC50値を示した
(図4および5および表1)。これらの細胞はerbB2−4を過剰発現するが
、erbB4は、HRG群に対してerbB3よりも高い親和性レセプターを構
成することから(Ttzaharら,J.Biol.Chem.269.25226-25233.1994)、T
−47DまたはMCF−7細胞よりも細胞の感受性が増大するのは、主にerb
B4の非常に高い発現レベルによるものと説明されるであろう。重要なことに、
1
84B5細胞がHRGβ2−PE40に曝された場合には、どんな用量であって
も細胞毒性効果が観察されないことである(図4および5および表1)。これら
の結果の最も明確な解釈は、erbBレセプターに対するHRG群の結合活性の
観点において、HRGβ2−PE40が、erbB3および/またはerbB4
を過剰発言するヒト乳ガン細胞を選択的に標的化すること、並びに、erbB2
過剰発現もこれらの細胞系に観察されうることである。
ヒト前立腺ガン細胞の増殖に対するHRGβ2−PE40の効果
erbB3の発現の増大は、前立腺ガンの発達における早期の症状である(My
ersら.J.Nat.Cancer Inst.86.1140-1145)。本願発明者等は、HRGβ2
−PE40に対するヒト前立腺ガン細胞系の感受性を調べることに興味を抱いた
。この種の3つの細胞系、Ln−CaP、PC−3およびDU145に、乳ガン
細胞系について上述したように、HRGβ2−PE40を、濃度を増大させなが
ら添加した。リガンド毒素の顕著な細胞毒性が、Ln−CaP細胞系に対して、
200pMのIC50値で観察された。この細胞系のerbBレセプター状態は確
認されていないが、このIC50値は、T−47D、MCF−7等のerbB3
過剰発現乳ガン細胞に見られたものに匹敵する。それゆえ、HRGβ2−PE4
0は、前立腺ガン細胞系のサブセットを標的化することができ、乳ガン細胞の場
合と同様に、これらの細胞の感受性は、erbB3およびerbB4の発現レベ
ルによって広く調べられるであろう。erbB3の過剰発現は、胃ガン(Sanida
sら.Int.J.Cancer 54,953-940,1993)および膵臓がん(Lemoineら,J.Pat
hology 168,269-273,1992)にも見られることから、HRGβ2−PE40は
これらのタイプのガン細胞にも使用できるであろう。
HRGβ2−PE40は、erbB3もしくはerbB4を単独もしくは組み
合わせて過剰発現するガン細胞を標的化するために使用できる。それゆえ、乳ガ
ン細胞は多くの場合にこれらのレセプターを過剰発現することから、ヒト乳ガン
細胞の新規の治療を示す。また、前立腺ガン、胃ガンおよび膵臓ガン等の、er
bBレセプターを過剰発現する他のガンのタイプにも有効であろう。
これらの予想は、HRGβ2−PE40の効能に関する研究室ベースのデータ
によって支持される。しかして、不死化された正常乳表皮細胞(184B5)も
しくはerbB3および/またはerbB4を過剰発現するヒト乳ガン細胞(例
えば、MCF−7、T−47DおよびZR−75−1細胞)の増殖が測定された
実験では、HRGβ2−PE40が、ヒト乳ガン細胞に顕著な細胞毒性効果を引
き起こしたが、184B5対照には引き起こさなかった。
当業者であれば、広く記載された本発明の精神もしくは範囲から逸脱すること
なく、特定の実施態様に示された本願発明に多数の変更および/または調節を施
すことができると認識するであろう。それゆえ、本願の実施態様は、どの態様に
おいても、例証的であって限定的なものではないと解されるべきである。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(51)Int.Cl.6 識別記号 FI
C12N 15/09 ZNA A61K 37/02 ADS
C12P 21/02 AED
//(C12N 15/09 ZNA
C12R 1:91)
(C12N 15/09 ZNA
C12R 1:38)
(C12P 21/02
C12R 1:19)
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FR,GB,GR,IE,IT,LU,M
C,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF,CG
,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,SN,
TD,TG),AP(KE,LS,MW,SD,SZ,U
G),AL,AM,AT,AU,BB,BG,BR,B
Y,CA,CH,CN,CZ,DE,DK,EE,ES
,FI,GB,GE,HU,IS,JP,KE,KG,
KP,KR,KZ,LK,LR,LS,LT,LU,L
V,MD,MG,MK,MN,MW,MX,NO,NZ
,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG,SI,
SK,TJ,TM,TT,UA,UG,US,UZ,V
N
(72)発明者 フィデス,ロドニー ジョン
オーストラリア国 ニュー サウス ウェ
ールズ 2031 ランドウィック ペロウス
ロード 173
Claims (1)
- 【特許請求の範囲】 1. 毒素に融合した、erbB3および/またはerbB4に結合するヘレグ リンβ2の表皮成長因子様ドメインに実質的に相同なアミノ酸配列を、具備もし くは含有するペプチドを含むリガンド毒素。 2. 毒素がシュードモナス外毒素もしくはその誘導体である、請求項1記載の リガンド毒素。 3. 毒素がPE40である、請求項1または2に記載のリガンド毒素。 4. 実質的に図1に示されたアミノ酸配列を備えた、請求項1ないし3のいず れか一項に記載のリガンド毒素。 5. 組換えによって産生された、請求項1ないし4のいずれか一項に記載のリ ガンド毒素。 6. 実質的に図1に示されたアミノ酸配列を備えたリガンド毒素をコードする DNA配列を含むベクター。 7. 請求項1ないし5のいずれか一項に記載のリガンド毒素と使用可能なキャ リアーとを含有する、erbB3および/またはerbB4を過剰発現するガン の治療に使用するための組成物。 8. 有効量の請求項7記載の組成物を患者に投与することを含む、患者におけ るerbB3および/またはerbB4を過剰発現するガンの治療方法。 9. 患者が乳ガンに罹患している、請求項8記載の方法。
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