JPH09253523A - 鉱物への微生物の吸着による選鉱法 - Google Patents

鉱物への微生物の吸着による選鉱法

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JPH09253523A
JPH09253523A JP9204896A JP9204896A JPH09253523A JP H09253523 A JPH09253523 A JP H09253523A JP 9204896 A JP9204896 A JP 9204896A JP 9204896 A JP9204896 A JP 9204896A JP H09253523 A JPH09253523 A JP H09253523A
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pyrite
mineral
flotation
iron
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JP9204896A
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Toru Nagaoka
亨 長岡
Naoya Omura
直也 大村
Hiroshi Saiki
博 斉木
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Central Research Institute of Electric Power Industry
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Abstract

(57)【要約】 【課題】多種類の浮選剤や毒性の試薬を使用せずに、微
生物により混合鉱物から黄鉄鉱を選択的に分離する方法
の提供。 【解決手段】混合鉱物と微生物(例,鉄酸化細菌チオバ
シルス・フェロオキシダンス)を接触させて混合鉱物中
の黄鉄鉱に微生物を吸着させ、混合鉱物から黄鉄鉱を選
択的に分離する方法。混合鉱物から黄鉄鉱を選択的に分
離するための前記微生物を含有する黄鉄鉱分離剤。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は鉱物への微生物の吸
着による選鉱法に関するものである。つまり本発明は、
微生物を選鉱の分野に応用することに関し、より詳しく
は、微生物を混合鉱物中の黄鉄鉱に吸着させて黄鉄鉱表
面性状を改変させ、混合鉱物から黄鉄鉱のみを分離・除
去する方法、および上記微生物を含有する黄鉄鉱分離剤
に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、浮遊選鉱において、硫化鉱物の黄
鉄鉱は亜硫酸、シアン化ナトリウム、石灰などにより、
浮遊性を抑制し、最終的に脈石と共に除去されることが
多かった。しかしながら、黄鉄鉱は、その産地により結
晶構造などの基礎的性質が異なる場合が多く、また、表
面が酸化されやすいため、その浮遊性は変化しやすい。
この現象は回収した有価鉱物中に黄鉄鉱が混在するな
ど、浮選操業の安定性を阻害する要因となる。そのた
め、浮選液の酸化還元電位やpHなどを変化させること
によって黄鉄鉱の浮遊性を変える方法などが検討されて
きた。しかし、黄鉄鉱の浮遊性を完全に、または浮選作
業に問題を生じない程度に制御する技術は未だ確立され
ていない。本発明者等は微生物により物質の表面性質を
改変する方法を開発し先に出願した(特開平6−287
649号公報)が、この出願においても微生物の選鉱へ
の利用については教示されていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】以上のことから、浮遊
選鉱において微生物を用いることにより、硫化鉱物中の
黄鉄鉱の浮遊性を完全ないしは十分に抑制できれば、操
作が煩雑な多種類の浮選剤の添加やシアン化ナトリウム
などの毒性の強い試薬を用いることなく、選別が難しい
黄鉄鉱の除去が可能となる。本発明は、このような状況
を考慮してなされたものであり、微生物を用いて混合鉱
物から黄鉄鉱を選択的に分離する方法および黄鉄鉱分離
剤の提供を課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】上記したように、本発明
者等は微生物により物質の表面性質を改変する方法を開
発し、先に出願している(特開平6−287649号公
報)が、この方法を選鉱の分野へ応用するため、種々研
究を重ねた結果、混合鉱物中の黄鉄鉱への該微生物の選
択的吸着作用を利用して、混合鉱物中から黄鉄鉱のみを
分離・除去できることを見出し、さらに鋭意検討の末、
本発明を完成させた。
【0005】すなわち、本発明は、混合鉱物と微生物を
接触させて混合鉱物中の黄鉄鉱に微生物を吸着させ、混
合鉱物から黄鉄鉱を選択的に分離する方法に関する。本
発明はまた、黄鉄鉱に選択的に吸着する微生物を含有す
る、混合鉱物から黄鉄鉱を選択的に分離するための黄鉄
鉱分離剤に関する。
【0006】本発明において使用され得る微生物は、黄
鉄鉱に選択的に吸着し、黄鉄鉱表面の性状を疎水性から
親水性に改変させ得るものであれば特に制限されない
が、混合鉱物中での黄鉄鉱に対する高い吸着選択性の点
で鉄酸化細菌が好ましい。本発明において微生物は培養
後の培養液をそのまま使用しても、また、培養後の培養
液から単離したものを使用してもよい。なお、後者の単
離したものとしては、適当な媒体中に懸濁したものや、
凍結乾燥を行った粉末等が包含される。本発明において
使用される微生物の1種である鉄酸化細菌は例えばチオ
バシルス・フェロオキシダンス(Thiobacillus ferrooxi
dans) であるが、好ましいその菌株として、アメリカン
・タイプ・カルチャー・コレクションより分譲されたチ
オバシルス・フェロオキシダンスATCC23270株
などを挙げることができる。
【0007】本発明において分離される混合鉱物は、選
鉱処理を介して精鉱とされる、黄鉄鉱などの各種鉱物か
らなる岩体を意味し、熱水鉱床、黒鉱鉱床中のケイ鉱、
黄鉱、含銅硫化鉄鉱床中の鉱石および各種堆積岩などを
包含する。混合鉱物は本明細書において鉱物混合物とも
記載される。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明において、混合鉱物はある
媒体との混合状態で通常処理され、その量は接触させる
微生物の菌体量との関係で種々変化し、黄鉄鉱の表面性
状の好適な改変および他の鉱物からの分離が行われるよ
うに選択され得る。例えば微生物として鉄酸化細菌を用
いた場合、鉱物混合物は水性媒体との混合状態で通常5
〜25重量%の濃度で処理される。一方、上記混合物と
接触させる微生物の菌体量は、処理される鉱物混合物中
の黄鉄鉱の量や混合物自体の濃度および粒度などによっ
て種々変化し得る。例えば、鉱物混合物と接触させる鉄
酸化細菌の量は、通常、被処理混合物1gあたり、鉄酸
化細菌1×108 ないし1×109 個(1億個〜10億
個)であることが好ましい。微生物菌体と上記混合物と
の接触時間は特に制限されないが、微生物として鉄酸化
細菌を用いて鉱物混合物を処理する場合、1〜10分間
で十分であり、特に1〜2分間の短い時間でも黄鉄鉱は
確実にその表面が親水性になり、分離・分画され得る。
本発明における鉱物混合物から黄鉄鉱の分離は回分式で
行うこともできるが、作業性等の点で連続式で行うこと
が好ましい。
【0009】また、本発明の方法においては、従来のよ
うな亜硫酸、シアン化ナトリウム、石灰などの浮遊抑制
剤を使用する必要なしに、選鉱工程における黄鉄鉱の浮
遊を十分に抑制することができるため、毒性の強い物質
を含む上記浮遊抑制剤の使用を回避できる。なお、選鉱
の際に一般的に使用される浮遊抑制剤以外の浮遊選鉱試
薬、例えば気泡剤、捕集剤、活性剤、分散剤、条件剤な
どを本発明において使用できることはもちろんである。
【0010】さらに、本発明において使用される微生物
は上記のような作用を有することから、混合鉱物から黄
鉄鉱を選択的に分離するための黄鉄鉱分離剤としても使
用できる。該分離剤は、例えば浮遊選鉱試薬の一種とし
て使用され得る。
【0011】また、本発明における黄鉄鉱の分離によ
り、浮遊して分離された有価鉱物の硫黄分は低下され、
また、分離除去された黄鉄鉱自体は硫酸などの原料とし
て使用することもできる。
【0012】
【実施例】以下実施例に基づいて本発明を説明するが、
本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 実施例1 最初に本実施例で使用される材料および試験方法につい
て説明し、次にその試験結果について言及する。
【0013】A.材料および試験方法 (1)供試菌株,使用培地および培養方法 供試菌株にはチオバシルス・フェロオキシダンス(AT
CC23270)を用いた。チオバシルス・フェロオキ
シダンスは7リットルの9K培地〔M. P. Silverman
等, Appl. Micobiol., 9, 491 (1951)〕を入れた10リ
ットルの培養瓶中30℃で4日間通気培養した。
【0014】(2)鉱物 鉱物試料には、含有する金属元素の異なる5種類の硫化
鉱物、黄鉄鉱〔FeS2 :セルロ(Cerro) 鉱山,ペル
ー〕、輝銅鉱〔Cu2 S:オーストラリア,ニューサウ
スウエールズ州,ブロークンヒル(Broken Hill) 〕、方
鉛鉱〔PbS:米国ミズーリ州,スイートウォーター(S
weetwater)鉱山〕、輝水鉛鉱〔MoS2 :オーストラリ
ア,クィーンズランド州,ウルフラムキャンプ(Wolfram
Camp)〕、針ニッケル鉱〔NiS:オーストラリア,ウ
エスタンオーストラリア州,ネピアン,ニッケル(Nepea
n, Nickel)鉱山〕を用いた。これらの鉱物は全て日本地
科学社および岩本鉱産物商会より購入した。
【0015】(3)鉱物の調製 試験に際して鉱物試料をメノウ乳鉢で粉砕後、ふるい分
け、53〜75μmに整粒した。なお、輝水鉛鉱物につ
いては展性があるため、インペラーミルにて粉砕を行っ
た。粉砕・整粒の後、アセトン中に懸濁させ、超音波分
散を行い、微粒子を脱離、浮遊させ、その上澄みを取り
除いた。この操作を上澄みが透明になるまで繰り返し行
い、微粒子を完全に除去し、真空乾燥後、供試試料とし
て使用した。
【0016】(4)鉱物試料の元素分析,粒度分布 鉱物試料中の元素分析は以下のように湿式分解法および
IPC発光分光分析により行った。まず、供試試料に濃
硝酸30mlを加え、マントルヒーターにて、湿式分解
した後、放冷し、分解液を濾紙(No.5c)にて濾過
した。続いて濾紙上に残った不溶物を濾紙と共に濃塩酸
10mlと純水30mlの混合溶液中で溶解した後、放
冷し、濾紙にて濾過し、次いで、各濾液を適宜希釈し、
元素量をIPC発光分光分析装置(JY48P:セイコ
ー電子工業製)により定量した。また、各鉱物試料の粒
度分布は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(L
A−910W:堀場製作所製)を用いて測定した。
【0017】(5)鉱物の比表面積測定 鉱物の比表面積はB.E.T.法および顕微鏡法により
求めた。以下にその詳細を記載する。B.E.T.法に
よる比表面積測定は、比表面積測定装置(Quantasorb 9
S-13: Quantachrome社製)にて吸着ガスとして窒素を用
いて測定した。はじめに、精秤した試料を入れた試料セ
ルを装着し、次に、窒素−ヘリウム混合ガス(窒素含有
率:9.92,19.7,29.7%)を用いて、窒素
の試料表面への脱着を行い、得られた測定値を基にB.
E.T.プロットし、比表面積を算出した。顕微鏡法で
は、はじめに実体顕微鏡(SMZ−U:ニコン製)を用
いて各種鉱物試料の写真を撮影した。この写真から画像
解析ソフト(IP Lab Spectrum: Signal Analytic Corpo
ration製)を用いて各鉱物試料中100個の鉱物粒子
(投影面)について、最大長(長軸)とそれに直交する
最大幅(短軸)を測定した。なお、得られた数値は鉱物
試料と共に撮影したスケールを基に実寸値に換算し、測
定値とした。各鉱物試料の比表面積(単位重量あたりの
表面積)は、次の手順により算出した。まず、各粒子を
直方体と仮定し、その底辺を上述の方法で求めた長軸と
短軸、高さを短軸として、1粒子あたりの表面積を算出
した。次に、この大きさの粒子の単位重量あたりの個数
を比重から算出し、1粒子あたりの表面積に単位重量あ
たりの全粒子数を乗じることによって、比表面積を算出
した。なお、輝水鉛鉱については薄片状であるため、両
面粘着テープ上に分散させ直立している粒子の厚さを測
定した。
【0018】(6)吸着試験 吸着試験に用いた細胞懸濁液は項(1)で得たチオバシ
ルス・フェロオキシダンスの培養液からNo.2の濾紙
で沈澱物を取り除き、15000×g、15分間の遠心
分離により集菌した後、さらに希硫酸水溶液(pH2)
で3回洗浄し、同溶液に再懸濁して調製した。各鉱物試
料0.5gを試験管に量り取り、予め所定の吸光度(λ
=610nm)で測定した細胞懸濁液2mlを加え、攪
拌した。その後、5分間静置させ、その上澄みをピペッ
トで採取し、吸光度を測定し、細胞吸着量を算出した。
また、5種の硫化鉱物試料を混合した試料についても鉄
酸化細菌の吸着量を測定した。混合鉱物試料は、黄鉄鉱
を除く4種の各鉱物試料0.2g、合計0.8gをガラ
スシャーレに量り取り、黄鉄鉱0.25、0.5、0.
8gをそれぞれ添加し、調製した。この5種混合試料に
吸光度0.1の細胞懸濁液2mlを加え、前述と同様に
細胞吸着量を算出した。なお、対照として、黄鉄鉱を除
く4種の鉱物試料0.8gおよび黄鉄鉱単体試料0.2
5、0.5、0.8gについても、それぞれ吸着量測定
を行った。
【0019】(7)浮遊性試験 微生物を用いた浮遊選鉱における各鉱物試料の浮遊性の
測定には、底部にガラスフィルターを組み込んだ内径2
cm、高さ10cm、実容量30mlのガラス製カラム
浮選機を用いた。まず、各鉱物試料0.5gを試験管に
量り取り、所定濃度の細胞懸濁液2mlを加え、メカニ
カルミキサーで攪拌後、5分間静置させた。続いて、こ
の段階での吸着細胞量を測定するため、パスツールピペ
ットを用いて、上澄みを全量採取した。なお、鉄酸化細
菌の鉱物試料への吸着量は前述の方法により算出した。
その後、試験管底部に沈降している鉱物試料を、予め準
備した浮選液の一部に再懸濁させながら、パスツールピ
ペットを用いて浮選機へ投入した。浮選液としてメチル
イソブチルカルビノール(MIBC)を濃度25μl/
lで含む希硫酸水溶液(pH2)25mlを用いた。そ
の後、下部より、圧力1kg/cm2 、流量100ml
/分で送気し、カラム内に気泡を導入した。10分経過
後、浮選機を停止し、カラム上部より排出されたものを
浮上産物、カラム下部に残留しているものを残留物とし
て、メンブランフィルター(孔径:10μm)で吸引濾
過して回収した。
【0020】(8)浮遊選鉱試験 微生物を用いた浮遊選鉱における混合鉱物試料の選別に
は、底部にガラスフィルターを組み込んだ内径3cm、
高さ38cm、実容量270mlのガラス製カラム浮選
機を用いた。供試試料として以下の3種類の混合鉱物試
料を調製した。黄鉄鉱とその他4種鉱物試料(方鉛鉱,
輝水鉛鉱,輝銅鉱,針ニッケル鉱)中の1種をそれぞれ
0.2gずつ混合したものを2種混合試料、黄鉄鉱0.
8gとその他4種の鉱物試料各0.05gを混合したも
のを黄鉄鉱高含有試料、全鉱物試料を0.2gずつ混合
したものを黄鉄鉱低含有試料とした。上記のように調製
した混合試料をガラスシャーレに入れ、希硫酸水溶液
(pH2)10mlを加え、2分間の超音波処理により
粒子の分散を促した。その後、パスツールピペットを用
いて、上澄みを除去し、吸光度0.5の細胞懸濁液2m
lを添加し、浮選液30mlを加え、試料懸濁液を調製
した。次に、予め圧力1kg/cm2 、流量500ml
/分で送気し、カラム内に気泡を導入したカラム浮選機
にパスツールピペットを用いて試料懸濁液を注入した。
なお、その際、カラム上部に設置したガラス管を介して
試料懸濁液の注入を行った。その後、上述の浮遊性試験
法と同様の操作により、浮上産物および残留物を回収し
た。また、選別性は上述の元素分析法に従って、浮上産
物および残留物中の元素量を測定して評価した。
【0021】(9)微生物を用いた浮遊選鉱の評価法 微生物を用いた浮遊選鉱から得られた結果は、下記の指
標を基に評価した。微生物を用いた浮遊選鉱後の浮上産
物への全回収率は、浮上産物と残留物の合計重量に対す
る浮上産物重量の百分率とした。鉱物含有量は、浮上産
物重量に対する浮上産物中の各鉱物の重量百分率とし
た。黄鉄鉱除去率は、浮上産物および残留物中の黄鉄鉱
重量に対する残留物中の黄鉄鉱の重量百分率とした。ま
た、各鉱物の浮上産物への回収率は、浮上産物と残留物
中の各鉱物の合計重量に対する浮上産物中の各鉱物の重
量百分率とした。なお、分離性は分離効率から評価し
た。浮上産物および残留物の各鉱物の重量は、鉄、モリ
ブデン、ニッケル、鉛、銅の元素量からそれぞれの鉱物
換算で求めた。
【0022】上記各重量百分率の算出方法はそれぞれ以
下の計算式で示される。
【数1】
【0023】B.試験結果 (1)鉱物試料の元素組成 本実施例で使用した鉱物試料の元素組成を表1に示す。
【表1】
【0024】(2)鉄酸化細菌の硫化鉱物への吸着性 鉄酸化細菌の鉱物表面への吸着性を正確に評価するため
には、鉱物表面積あたりの吸着量で比較する必要があ
る。そこで、まず5種の硫化鉱物の表面積をB.E.
T.法により求めた。その結果を表2に示す。各硫化鉱
物の比表面積は、輝水鉛鉱が5900cm2 /gと最も
大きく、次いで針ニッケル鉱4064cm2 /g、輝銅
鉱1548cm2 /g、黄鉄鉱889cm2 /g、方鉛
鉱326cm2 /gであった。しかしながら、B.E.
T.法では吸着分子として窒素ガスを用いているため、
得られる比表面積は鉱物表面のサブミクロンオーダーの
粗さをも含んだものとなる。鉄酸化細菌は約1×0.5
μmの大きさを有しているため、サブミクロン程度の鉱
物表面の凹凸を無視して吸着すると考えられる。従っ
て、B.E.T.法で求めた表面積は必ずしも、各鉱物
試料への鉄酸化細菌の吸着有効面積と一致しない。そこ
で、硫化鉱物への鉄酸化細菌の吸着有効面積を見積もる
ため、走査型電子顕微鏡および実体顕微鏡を用いて鉱物
の形状、表面粗度を観察した。その結果から、全鉱物試
料について鉄酸化細菌が吸着する際に表面の粗さが問題
になることはないと考えられた。従って、各鉱物を平滑
な表面を有する直方体と仮定し、鉄酸化細菌の吸着有効
面積を算出することとした。また、実体顕微鏡写真から
直接粒子の大きさを求め、各硫化鉱物の比表面積を算出
した。その結果、輝水鉛鉱が212cm2 /gと最も大
きく、次いで針ニッケル159cm2 /g、黄鉄鉱14
0cm2 /g、輝銅鉱121cm2 /g、方鉛鉱102
cm2 /gであった(表2)。そこで、顕微鏡法により
求めた比表面積を各硫化鉱物の吸着有効面積として、鉄
酸化細菌の各硫化鉱物への吸着性を比較することとし
た。
【0025】
【表2】
【0026】(3)鉄酸化細菌の黄鉄鉱への選択的吸着 図1に5種の硫化鉱物試料への鉄酸化細菌の吸着量を測
定した結果を示す。なお、細胞吸着量は供試鉱物試料
0.5gに対するものである。各硫化鉱物ともに細胞添
加量の増加に伴い、吸着量は増加する。しかしながら、
その吸着量には相違が認められ、吸着量の多い順に黄鉄
鉱、輝水鉛鉱、輝銅鉱、針ニッケル鉱、方鉛鉱であった
(図1a参照)。この重量基準の細胞吸着量を基に、表
2のB.E.T.法および顕微鏡法から求めた各鉱物試
料の鉱物の比表面積を用いて、各硫化鉱物に対する単位
表面積あたりの細胞吸着量を正規化した(図1b,c参
照)。その結果、顕微鏡法から求めた吸着有効面積を用
いても、各細胞添加濃度において黄鉄鉱への鉄酸化細菌
の吸着量が他の鉱物への吸着量に比べて著しく多いこと
がわかる。以上の結果から、鉄酸化細菌は5種の硫化鉱
物のうち、黄鉄鉱に最も高い吸着性を示すことが明らか
となった。
【0027】5種の鉱物試料が共存する場合の細胞吸着
量についても検討した。黄鉄鉱試料量を変化させた場合
の5種の混合鉱物試料への吸着量を図2に示す。対照と
して黄鉄鉱試料単独の吸着量についても測定した。な
お、細胞添加量はいずれの場合も一定とした。黄鉄鉱を
含まない4種の鉱物の混合試料への吸着量は、0.79
×108 cells(細胞)であったが、黄鉄鉱の添加
量の増加に伴い吸着量は直線的に増加した。黄鉄鉱を
0.25、0.5、0.8g添加した場合、吸着量はそ
れぞれ1.61×108 細胞、2.18×108 細胞、
3.54×108 細胞であった。一方、黄鉄鉱単独の吸
着量を測定した結果、黄鉄鉱の添加量の増加に伴い直線
的に増加した。混合鉱物と黄鉄鉱単独の両者における吸
着直線は平行関係にあり、混合鉱物試料では黄鉄鉱添加
量1gあたり3.47×108 細胞、吸着量が増加し、
黄鉄鉱単独では3.34×108 細胞増加した。これら
の吸着直線から、鉄酸化細菌は5種の硫化鉱物が共存す
る場合であっても、黄鉄鉱へ選択的に吸着することが明
らかとなった。
【0028】以上のとおり、本発明により、鉄酸化細菌
が黄鉄鉱に選択的に吸着することが初めて明らかにされ
た。本発明者等は鉄酸化細菌が黄鉄鉱に高い吸着性を有
することを既に報告しているが(特開平6−28764
9号公報)、これを踏まえて本発明では5種類の硫化鉱
物が共存する条件下であっても鉄酸化細菌が黄鉄鉱に選
択的に吸着することを初めて直接証明できたものである
(図2参照)。
【0029】微生物の固体表面への吸着は、一般に疎水
性相互作用や電気的相互作用に支配されることが知られ
ている。そこで、この選択的吸着をもたらす鉄酸化細菌
と黄鉄鉱との間の相互作用について考察した。まず、電
気的相互作用の指標であるゼータポテンシャルについて
検討した。希硫酸水溶液中での黄鉄鉱のゼータポテンシ
ャルは−28.12mV、鉄酸化細菌は−10.7mV
であり、互いに負の値を示した。このことから、電気的
相互作用は鉄酸化細菌の黄鉄鉱への吸着力にはなりえな
いばかりか、むしろ、鉄酸化細菌が電気的相互作用に逆
らって黄鉄鉱に吸着することを示しており、鉄酸化細菌
と黄鉄鉱の間には電気的相互作用よりも強い相互作用が
存在することが示唆された。一方、表4に示したよう
に、本発明において用いた硫化鉱物は全て高い浮遊率を
示すことから(表4の「微生物無添加」の欄参照)、こ
れらの鉱物はいずれも強い疎水的な表面性質を持つこと
が推測された。また、既に鉄酸化細菌は親水的な表面性
質を持つことが明らかにされている(大村等,Appl. En
viron. Microbiol., 59 (12): 4044-4050 )。これらの
ことから、少なくとも本実施例条件下では疎水性相互作
用による吸着量は少なくなると予想されるが、鉄酸化細
菌の黄鉄鉱への吸着量は他の黄鉄鉱以外の鉱物に比べ著
しく多く、疎水性相互作用だけでは説明できない。近
年、鉄酸化細菌は、疎水性相互作用や電気的相互作用よ
りも強固な化学結合によって黄鉄鉱に吸着するという報
告(大村等,同上)があり、本発明における鉄酸化細菌
の黄銅鉱への選択的な吸着も疎水性相互作用および化学
結合によるものと考えられた。
【0030】一方、図1aに示したように、鉄酸化細菌
は黄鉄鉱を除く4種の鉱物に対して弱い吸着性を示し
た。また、希硫酸水溶液中での輝銅鉱、輝水鉛鉱、針ニ
ッケル鉱および方鉛鉱のゼータポテンシャルは、それぞ
れ−7.5mV、−35.1mV、−6.3mV、−
7.9mVであった。このことから、これらの鉱物に対
する鉄酸化細菌の吸着は電気的相互作用以外の疎水性相
互作用によるものと考えられた。故に、黄鉄鉱以外の硫
化鉱物への鉄酸化細菌の吸着には選択性がなく、黄鉄鉱
以外の硫化鉱物の吸着有効面積を用いて吸着量を正規化
すると、図1cに示すように、上記4種の鉱物において
は鉱物種に関わりなく、ほぼ同じ吸着量を示すことがわ
かる。
【0031】(4)硫化鉱物の浮遊性に及ぼす微生物添
加の影響 黄鉄鉱の浮遊性を抑制する鉄酸化細菌の添加量について
検討した。その結果を図3に示す。なお、浮遊選鉱に
は、内径2cm、高さ10cmのカラム浮選機を用い
た。鉄酸化細菌を添加しない場合には、黄鉄鉱の回収率
(浮遊率)は72%であった(すなわち、多くの黄鉄鉱
が浮遊した)が、鉄酸化細菌の添加量の増加に伴い浮遊
性は抑制され、回収率が大幅に低下した(すなわち、黄
鉄鉱の浮遊が大きく抑制された)。鉄酸化細菌の添加量
が10×108 細胞の時、回収率は約15%を示し、そ
れ以上の添加量では回収率はほぼ一定の値を示した。そ
こで、上記の鉄酸化細菌の添加量において5種の各硫化
鉱物について浮遊性に及ぼす微生物添加の影響について
検討した。その結果を表3に示す。なお、微生物添加量
は6.5×108 細胞とし、浮選条件は同様とした。鉄
酸化細菌を添加しても黄鉄鉱を除く各硫化鉱物の浮遊性
は高く、各鉱物の回収率は輝水鉛鉱93.8%、輝銅鉱
88.5%、針ニッケル鉱86.8%、方鉛鉱70.1
%であった。一方、黄鉄鉱の浮遊性は著しく抑制され、
回収率は21.2%にまで減少した。以上の結果から、
浮遊選鉱において鉄酸化細菌の添加により5種の硫化鉱
物のうち、特に黄鉄鉱の浮遊性を抑制できることが示さ
れた。
【0032】
【表3】
【0033】(5)微生物を用いた浮遊選鉱による硫化
鉱物から黄鉄鉱の分離 これまでに鉄酸化細菌が黄鉄鉱に選択的に吸着するこ
と、また鉄酸化細菌の添加により浮遊選鉱中で黄鉄鉱の
浮遊性が低下することが明らかとなった。これらのこと
から、浮遊選鉱に鉄酸化細菌を添加して浮遊選鉱を行う
ことにより、価値の高い金属鉱物を浮上産物に回収し、
黄鉄鉱を残留物に除去することができると考え、以下の
実験を行った。
【0034】まず、輝銅鉱、方鉛鉱、輝水鉛鉱および針
ニッケル鉱4種の硫化鉱物にそれぞれ黄鉄鉱を重量基準
で等量混合した2種混合試料から、微生物を用いた浮遊
選鉱によって黄鉄鉱の分離を試みた。その結果を表4に
示す。なお、浮遊選鉱には内径3cm、高さ38cmの
浮選機を用いた。鉄酸化細菌を添加しない場合、鉱物種
に関わらず、黄鉄鉱と各鉱物は共に浮遊し、回収された
ため、黄鉄鉱除去率は極めて低く、数%程度であった。
しかしながら、鉄酸化細菌を添加した場合、輝銅鉱と黄
鉄鉱の混合試料では99.2%と高い輝銅鉱回収率を保
持したまま、黄鉄鉱の95.1%が除去された。輝水鉛
鉱と黄鉄鉱の場合にも前者の回収率100%、後者の除
去率92.6%、方鉛鉱と黄鉄鉱の場合にも前者の回収
率91.1%、そして後者の除去率91.7%であっ
た。針ニッケル鉱と黄鉄鉱の場合、前者の回収率および
後者の除去率は他の3種に比べ多少低いものの、それぞ
れ72.9%、83.7%と選鉱結果として十分といえ
るものであった。
【0035】
【表4】
【0036】以上のように、いずれの2種混合試料につ
いても、鉄酸化細菌を添加しない場合、黄鉄鉱と各硫化
鉱物は共に浮上産物として回収され、黄鉄鉱をほとんど
除去することができなかったのに対し、鉄酸化細菌を添
加した場合、黄鉄鉱と混在する各硫化鉱物のほとんどが
回収され、黄鉄鉱の大部分は除去することができた。ま
た、黄鉄鉱の除去により各硫化鉱物の含有量は79.2
〜86.0%に向上した。
【0037】そこで、輝銅鉱、方鉛鉱、輝水鉛鉱、針ニ
ッケル鉱および黄鉄鉱5種の混合硫化鉱物から微生物を
用いた浮遊選鉱を行った場合の黄鉄鉱の選別性について
検討した。まず、輝銅鉱、方鉛鉱、輝水鉛鉱および針ニ
ッケル鉱各0.05g、合計0.2gに黄鉄鉱0.8g
混合した5種混合試料(黄鉄鉱高含有試料)を用いたと
ころ、微生物を添加しない場合、浮上産物中の黄鉄鉱除
去率と含有量は、それぞれ4.3%、83.8%であ
り、黄鉄鉱の除去効果は見られなかった(表5)。しか
しながら、微生物の添加により93.4%の黄鉄鉱が残
留物として除去され、黄鉄鉱の含有量は22.4%に低
下した。一方、黄鉄鉱以外の4種の硫化鉱物は微生物を
添加しても86.4%が浮上産物に回収され、黄鉄鉱の
除去により含有量は89.5%に向上した。また、同様
に黄鉄鉱、輝銅鉱、方鉛鉱、輝水鉛鉱および針ニッケル
鉱を各0.2gずつ混合した試料(黄鉄鉱低含有試料)
についても検討した結果、微生物の添加により浮上産物
中の黄鉄鉱の含有量は22.3%から5.8%に低下
し、除去率は76.9%に達した(表5)。細菌による
黄鉄鉱除去により、黄鉄鉱以外の他の4種の鉱物の含有
量は71.8%から93.5%に向上した。これらのこ
とから、鉄酸化細菌を添加して浮遊選鉱を行うことによ
り、黄鉄鉱を含む難選別性の硫化鉱物から黄鉄鉱を選択
的に分離できることが明らかとなった。
【0038】
【表5】
【0039】(6)分離効率の評価 微生物を用いた浮遊選鉱結果を分離効率から考察した。
分離効率は、黄鉄鉱と黄鉄鉱以外の鉱物の分離性と浮上
産物への回収性を同時に評価する尺度である。分離効率
が0%の場合、黄鉄鉱と黄鉄鉱以外の鉱物は分離されず
に浮上産物と残留物に分配されており、そして分離効率
が100%の場合、黄鉄鉱は完全に残留物として除去さ
れ、黄鉄鉱以外の鉱物は完全に浮上産物に回収されるて
いることを意味する。従って、分離効率が高いほど、黄
鉄鉱の除去性と黄鉄鉱以外の鉱物の回収性に優れている
こととなり、分離効率は、分離の達成度とみなすことが
できる。表4および5に示した選鉱結果について分離効
率を求め、その結果を図4に示した。輝銅鉱、方鉛鉱、
輝水鉛鉱または針ニッケル鉱にそれぞれ黄鉄鉱を混合し
た2種混合試料または黄鉄鉱を含む上記5種の硫化鉱物
を全て混合した試料どちらにおいても、微生物を添加し
ていない場合には、分離効率は9.5%以下であり、黄
鉄鉱とその他の鉱物はほとんど分離されていない。一
方、微生物の添加により2種混合試料では分離効率は5
6.0〜94.3%に上昇し、高度な分離が達成できた
と評価できる。また、5種混合試料では2種混合試料に
比べ分離効率が若干低下するものの、分離効率は70.
5〜79.8%と十分に高い。上記の結果から、微生物
添加の場合の分離効率は平均79.3%であり、微生物
を用いた浮遊選鉱により黄鉄鉱を含む硫化鉱物から高度
な選択性でもって黄鉄鉱を分離でき、同様に黄鉄鉱以外
の鉱物を高度に回収できることを示すことが明らかであ
る。
【0040】
【発明の効果】以上詳細に説明したように、本発明は、
微生物を混合鉱物中の黄鉄鉱へ選択的に吸着させ、その
表面性状を改変させることにより、黄鉄鉱のみの浮遊性
を抑制させ得ることを初めて見出したものである。従っ
て、本発明の方法によれば、混合鉱物中から黄鉄鉱のみ
を選択的に分離・除去することが可能となる。また、バ
クテリアを用いた選鉱法として、従来行われているバク
テリアリーチングは、鉱石中の有用金属を溶かし出して
回収する、いわゆる浸出法である。しかしながら、本発
明の方法は微生物を目的鉱物に吸着させ、その浮遊性を
改変させて該鉱物を分離する方法であり、バクテリアリ
ーチングとは原理の全く異なった微生物による選鉱法で
ある。さらに、本発明における鉄酸化細菌に代表される
上記微生物は、混合鉱物から黄鉄鉱を選択的に分離する
ための黄鉄鉱分離剤として有用である。このような分離
剤は選鉱の分野に全く新しいコンセプトを提示するもの
である。
【図面の簡単な説明】
【図1】硫化鉱物への鉄酸化細菌の吸着性を示すグラフ
である。aは各硫化鉱物0.5gに対する吸着量、bは
B.E.T.法により算出した鉱物単位表面積に対する
吸着量、そしてcは顕微鏡法により算出した鉱物単位表
面積に対する吸着量を示すものである。
【図2】黄鉄鉱単独および5種の硫化鉱物混合試料への
鉄酸化細菌の吸着性を示すグラフである。なお、5種混
合試料は、輝水鉛鉱、輝銅鉱、針ニッケル鉱、方鉛鉱を
各0.2g計0.8gに黄鉄鉱を0.25、0.5、
0.8gそれぞれ添加した混合試料である。
【図3】黄鉄鉱の浮遊性に及ぼす鉄酸化細菌添加の影響
を示すグラフである。
【図4】混合鉱物試料を対象に微生物を用いた浮遊選鉱
を行った場合の分離効率を示すグラフである。図中の点
線は横上軸の分離効率の等値線であり、右上に進むに従
って分離が良好になることを示す。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 混合鉱物と微生物を接触させて混合鉱物
    中の黄鉄鉱に微生物を吸着させ、混合鉱物から黄鉄鉱を
    選択的に分離する方法。
  2. 【請求項2】 微生物が鉄酸化細菌である請求項1記載
    の方法。
  3. 【請求項3】 黄鉄鉱に選択的に吸着する微生物を含有
    する、混合鉱物から黄鉄鉱を選択的に分離するための黄
    鉄鉱分離剤。
  4. 【請求項4】 微生物が鉄酸化細菌である請求項3記載
    の黄鉄鉱分離剤。
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