JPH08339773A - 電子源及び電子線装置 - Google Patents

電子源及び電子線装置

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JPH08339773A
JPH08339773A JP14288795A JP14288795A JPH08339773A JP H08339773 A JPH08339773 A JP H08339773A JP 14288795 A JP14288795 A JP 14288795A JP 14288795 A JP14288795 A JP 14288795A JP H08339773 A JPH08339773 A JP H08339773A
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electrode
needle
electron
shaped electrode
electron beam
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JP14288795A
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English (en)
Inventor
Yoshimi Kawanami
義実 川浪
Taku Oshima
卓 大嶋
Shigeyuki Hosoki
茂行 細木
Yasunari Hayata
康成 早田
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Hitachi Ltd
Original Assignee
Hitachi Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 エネルギー分散の小さい電子線を長時間安定
に放射することが可能な電子源並びにこれを搭載した電
子線装置を提供すること。 【構成】針状電極1の尖端に、ギャップ電源5により針
状電極1に対して正の電位を与えた薄膜電極2をギャッ
プ駆動機構3により近付けることにより、針状電極1内
部の電子(伝導電子)が薄膜電極2へトンネリングさ
せ、かつこの電子のうちの特定のエネルギーを持つ電子
4を薄膜電極2から真空中に放射させる。 【効果】 針状電極と薄膜電極との間に数ボルトの電位
差を印加するだけで針状電極からの電子放出をイオン衝
撃の影響を受けずに行え、且つ放出された電子を薄膜電
極にトンネリングさせることで所望のエネルギーを有す
る電子のみで電子線を形成できる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電子源、および電子顕微
鏡や電子線描画装置等の電子線装置に係り、特にエネル
ギー分散の小さい電子線を長時間安定して放出させるの
に適した電子源及びこれを搭載した電子線装置に関す
る。
【0002】
【従来の技術】微細な電子ビームを必要とする電子顕微
鏡や電子線描画装置等の電子線装置においては、放射電
子のエネルギー分散の小さい電子源が望まれている。従
来、このような電子源としては、電界放射型電子源(F
E型電子源)がある。FE型電子源の従来例は文献(電
子顕微鏡事典、pp.645〜646、1986年、朝
倉書店)等に示されている。FE型電子源では、先端を
曲率半径0.1μm以下に尖らせた針状電極に数kVの
高電圧を印加して、針状電極先端の高電界により電子を
真空中に電界放射させる。この電子のエネルギー分散は
0.2eV程度と非常に小さい。しかし、負の高電圧が
印加されたFE型電子源の針状電極の先端は、常に浮遊
正イオンが高電圧により加速されて衝撃するので、その
表面が経時変化する。このため、FE型電子源から放出
される電子線の電流は超高真空下でも数時間で大きく減
るなど不安定でなり、FE型電子源を使った電子線装置
では電子光学系の調整や針状電極のフラッシング(千数
百度に加熱して表面原子を飛ばす動作)を頻繁に行わな
ければならない。
【0003】このようなFE型電子源の欠点を補いつつ
且つFE型電子源並みにエネルギー分散の小さい電子線
を形成できる電子源として、電子線放射部分の表面を金
属層−絶縁体層−金属層のサンドウィッチ構造(所謂、
M−I−M構造)にし、内部側の金属層の電子を表面側
の金属層に絶縁体層をトンネリングさせ表面側の金属層
から真空中へ放出させるトンネル型電子源(トンネルカ
ソード又はトンネル陰極とも呼ばれる)が考案されてい
る。さらにこの種の電子源において、絶縁体層での電子
の損失を防ぐために当該絶縁体層を空隙(真空)に置き
換えた構成の発明が特開平5−198251号公報に開
示されている。この発明による電子源は、図10に示す
ように基板131上に引出部132Aと電極部132B
からなる第1導電層132を形成し、さらに電極部13
2B先端と第2導電層135が空隙即ち真空絶縁層13
4で隔てられて対向するように引出部132A上に固体
絶縁層133と第2導電層135を積層する。第2導電
層135の真空絶縁層134と真空空間136を隔てる
部分には、真空絶縁層134と真空空間136との通気
を行うための穴(図示せず)が設けられ、真空絶縁層1
34は真空空間136側から排気される。またこの部分
の特に電極部132B先端に対向する電子放出領域13
7は、第2導電層135内での電子の損失を抑制すべく
薄く加工されている。この電子源は、電極部132Bに
対して第2導電層135を正の電位とすることにより電
子放出領域137から真空空間136へ電子線を放出す
る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記公開特許公報に開
示される改良されたトンネル型電子源(トンネルカソー
ド)を電子顕微鏡や電子線描画装置に搭載するとき、以
下のような問題が生じ得る。電子顕微鏡による試料観察
や電子線描画装置による試料加工には、電子源より所望
の電流値を有する電子線を放射しなければならない。図
10に示すトンネル型電子源から放射される電子線の電
流値は、電極部132B先端と第2導電層135とを隔
てる空隙の寸法に依存し、例えば空隙が1nm(ナノメ
ータ、即ち10-9m)であると約1nA(ナノアンペ
ア、即ち10-9A)の電子電流が得られる。しかし、こ
の電流値は空隙の寸法に対して指数関数的に変動し、空
隙が0.1nm拡がるだけも電流値は約1桁減少する。
これに対し、図10に示すもののみならず従来のトンネ
ル型電子源は、電極部とこれから電子をトンネリングさ
せる導電層とは位置的に固定され(作り付けられ)てい
るため、電子源の作製を誤ると実用に供せられなくな
る。上記公開特許公報では、この電子源の作製方法を開
示しているが、この方法に則り例えば電極部と導電層と
の間を1nmに誤差を0.01nmオーダ以下に抑えな
がら電子源を作製することは非常に難しく、所望の電子
源を得る歩留まりはかなり低くならざるを得ない。さら
に、電子顕微鏡や電子線描画装置などの電子線装置によ
る試料観察又は加工の微細化には、電子源から放出され
る電子線の微細化が必須である。トンネル型電子源にお
ける電子線の微細化には、電極部先端を針状にすること
が必要であろう。上記公開特許公報では電極部132B
の上に犠牲層を設けてサイドエッチを行うことで電極部
132Bを整形しているが、サイドエッチ条件は人為的
に制御しにくく、また犠牲層が存在することから電極部
132B上端を針状にすることは事実上不可能である。
【0005】本発明の課題は、上述の従来のトンネル型
電子源が抱える問題点を克服しつつ、エネルギー分散の
小さな電子線をの長時間安定に放出できる電子源を提供
し、且つこれを電子顕微鏡や電子線描画装置などの電子
線装置に利用できるようにすることである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に、本発明では第1の導電性部材と、この導電性部材中
の電子がトンネル効果により流入(入射)する第2の導
電性部材と、これらの導電性部材間に電界を発生する電
界発生手段と、第1の導電性部材と第2の導電性部材と
の位置関係(即ち、導電性部材間の空隙の間隔)を制御
する位置制御手段(間隔制御手段)とから電子源を構成
する。
【0007】具体的には、第1の導電性部材を針状電極
で、第2の導電性部材を膜状電極で夫々構成し、針状電
極と膜状電極との間に電位差を与える電位差印加装置
(例えば、電源回路)と、針状電極と膜状電極との間に
生じるトンネル電流または原子間力を検出してその値が
一定となるように針状電極と膜状電極との間の間隙(所
謂ギャップ)を制御して設定するギャップ制御装置とを
設けてトンネル電子源を構成する。膜状電極は、その表
面が針状電極の先端に対向するように配置され、その位
置関係はギャップ制御装置で調整する。位置制御手段
は、第1の導電性部材、第2の導電性部材、又は夫々の
導電性部材に設けてよく、これらの導電性部材を保持す
る各保持部材に設けてもよい。また位置制御手段は、粗
動部と微動部(即ち0.1nm以下のオーダで位置制御
するための装置)で構成してもよく、殊に微動部に関し
ては例えばピエゾ素子(圧電素子)を利用することが望
ましい。導電性部材間の位置制御をこの間に発生するト
ンネル電流値を検知して行う場合、上述の電界発生(電
位差印加)手段にトンネル電流値検知部を設けるとよ
い。
【0008】上述の電子源は、電子顕微鏡や電子線描画
装置などの電子線装置に、膜状電極の針状電極に対して
反対側の面から放出される電子線が観察又は加工すべき
試料に照射されるように搭載するとよく、試料への電子
線照射条件(即ち、電子線の加速電圧)に応じて電界発
生手段や位置制御手段を含めた電子源装置全体を接地電
位に対して所定の電位に浮かしてもよい。
【0009】
【作用】本発明の電子源によれば、第1の導電性部材に
第2の導電性部材を接近させ、且つ第1の導電性部材に
対して第2の導電性部材が正の電位となるように導電性
部材間に電界を発生させることにより、第1の導電性部
材中の特に伝導電子(伝導帯というエネルギー準位に存
在する電子)を第2の導電性部材へトンネル効果により
流入(トンネリング)させ、この電子の中の特定のエネ
ルギーを有する(特定のエネルギー準位に存在する)も
のを第2の導電性部材から真空空間へ放出できる。即
ち、第1の導電性部材から電子を第1の導電性部材中に
おけるエネルギー準位を特定して(即ち、選択して)放
射することにより、エネルギー分散の小さい電子線を発
生することが可能となる。
【0010】このような本発明の作用を説明する前に、
上述の第1の導電性部材、即ち固体中の伝導電子につい
て図2を用いて概略的に説明する。原子は電子と原子核
とで構成され、負の電荷を有する電子は正の電荷を有す
る原子核からのクーロン引力の束縛を受け、当該原子核
の周囲を周期的に動く。この束縛された電子は価電子と
呼ばれ、その動きまわる領域と原子核との位置関係によ
り異なるエネルギー(ε)を有する。このような原子の
集合体である固体では、その内部において各原子の原子
核が電子を束縛する引力は隣接する原子の原子核の引力
の影響を受けて弱まり、その結果原子核から離れた領域
を動きまわる電子は、一つの原子核のみの束縛から開放
され、固体中を自由に動きまわることすらある。このよ
うに一つの原子核に束縛されないεを有する電子を、伝
導電子と呼ぶ。但し、固体の表面を構成する原子は少な
くとも一方(即ち、表面側)で他の原子と隣接しないた
め、表面側における電子の束縛力(引力)の低下は生じ
ない。従って、伝導電子は、固体から飛び出すことがで
きない。
【0011】ところで、原子並びにこれにより構成され
る固体において、価電子並びに伝導電子の存在する(即
ち、動きまわる)領域は夫々の電子のエネルギーε(所
謂、エネルギー準位)に応じた電子軌道として規定さ
れ、各電子軌道にはスピンの異なる2つの電子しか入る
ことができない。図2に第1の導電性部材(針状電極)
のエネルギーバンド図として示した価電子帯及び伝導帯
には、エネルギー準位の異なる価電子又は伝導電子の各
電子軌道が含まれ、ハッチングした領域においては全て
の電子軌道に電子が存在している(なお、各エネルギー
準位の電子軌道が電子により占有される度合いは状態密
度として表現される)。伝導帯において伝導電子が存在
する最も高いエネルギー準位をフェルミ準位(又は、フ
ェルミ面)と呼び、εFとして表現する。因みに固体
(ここでは、第1の導電性部材)から伝導電子が飛び出
すには、真空準位(原子核からの引力を受けない電子の
エネルギー準位)とフェルミ準位のエネルギー差、所謂
仕事関数Φ(固体材料に固有)分のエネルギーが必要で
ある。実際にはεF近傍のエネルギー準位にある伝導電
子の状態密度D(ε)は、図2のグラフが示すように固
体の絶対温度Tに応じて、εFを中心にkBT(kBはボ
ルツマン定数)の幅の「ぼやけ」を有する。即ち、この
ぼやけた領域にあるエネルギー準位ε(複数の準位が存
在することもある)には、電子に占有されない(空っぽ
の)電子軌道が存在するため、このεにある電子は空の
電子軌道に乗り換えることにより固体内部を自由に動き
まわることができる。換言すれば、伝導電子であっても
この領域より低いεを有するものは、乗換えできる「空
(から)の電子軌道」が当該エネルギー準位にないた
め、外部から光照射等で高いエネルギー準位に励起しな
い限り固体内部を自由に動きまわれない。
【0012】さて、図2に示すように固体(第1の導電
性部材、以下、針状電極)の表面にギャップ(空隙)を
介して別の固体(第2の導電性部材、以下、膜状電極)
の表面を近付けた場合、双方の真空準位は同一のエネル
ギー準位に並び、仕事関数の小さい方から大きい方へ向
けてトンネル効果による電子の流れがギャップ間に発生
する(但し、流入先に電子を受け入れる電子軌道がある
場合に限る)。本発明では、この針状電極を膜状電極に
対して負の電位にするため、図2のエネルギーバンド図
に示すように膜状電極の真空準位及びフェルミ準位が針
状電極のそれに対して低くなる。このとき、針状電極中
の伝導電子の一部がトンネル効果(トンネリング)によ
り膜状電極へ流入する。ギャップとして示した針状電極
と膜状電極の障壁(電位差を設けない場合は矩形とな
る)は、双方の真空準位の落差が存在する電子のエネル
ギー(エネルギー準位)の領域において楔形となり、そ
の位置方向の厚み(エネルギー的な障壁の程度を示す)
が薄い程、当該ギャップにおける電子のトンネリングが
容易になる(エネルギー障壁が小さいため)。このエネ
ルギー領域にある電子は、膜状電極の電子軌道に入るこ
となく膜状電極を通過して真空中に放出される。一方、
この領域より低いエネルギーを有する電子は、膜状電極
の凡そフェルミ準位以上のエネルギー準位に存在する
「空の電子軌道」に流入する。実際には、針状電極と膜
状電極との間に電位差を設けるべく双方を電源を介して
導通するため、空の電子軌道に流入した電子は当該電源
を有する回路を通り針状電極に戻る。この回路に電流計
を設けると、この電子の流れをトンネル電流として検出
できる。さらに低い電子のエネルギーを有する伝導電子
は、このエネルギーに相当する膜状電極の伝導帯(ハッ
チング部分)の電子軌道の全てが電子により占有されて
いるため、膜状電極側へトンネリングしない。以上のこ
とから、針状電極と膜状電極との電位差を変えること
で、針状電極に存在する伝導電子を膜状電極へトンネリ
ングさせ、さらにこの電子の中から特定のエネルギー有
する電子を選択的に真空中に放出させることが可能とな
る。図の説明では、針状電極からの伝導電子の引出しを
膜状電極で行なっているが、トンネリングにより針状電
極から伝導電子を引き出す(放射させる)効果を有する
部材であれば、膜状電極に限るものではない。但し、こ
の部材は針状電極の先端に対向して配置され、針状電極
の先端の表面(即ち、針状電極中の伝導電子を放射させ
る部分)を覆うものでなければならない。なぜなら、針
状電極先端表面を覆う導電性部材がなければ当該針状電
極中の電子はトンネリングして行く先(部材)がないた
め、放射することなく針状電極中の伝導帯に留まるから
である。
【0013】本発明による電子源において、膜状電極を
使って針状電極から伝導電子を引き出す原理を図3のエ
ネルギーバンド図で説明する。なお、図3は針状電極及
び膜状電極が金属の場合のエネルギーバンドを示し、本
発明に直接関係しない価電子帯の表示は割愛してある。
針状電極と膜状電極との間隔(即ち、ギャップ)を双方
の間に生じるトンネル電流または原子間力が一定になる
ように制御すると、双方の間のギャップを数nm以下に
できる。このギャップ設定は、針状電極から膜状電極へ
の電子の透過率を一定に制御することで達成される。具
体的には、針状電極と膜状電極との間に適当な電圧(ギ
ャップ電圧)を印加し、針状電極の内部の電子を図3の
ように膜状電極へトンネリングさせたとき、(B)のよ
うな膜状電極の真空準位を越えない電子は膜状電極の中
で減衰して針状電極と膜状電極とを導通させる回路(例
えば、ギャップ電圧印加電源を含む回路)に流れるが、
この電流をトンネル電流として当該回路でモニタし、そ
の値から針状電極と膜状電極とのギャップにおける電子
の透過率を求めることができる。
【0014】一方、ギャップ電圧印加時において(A)
のように膜状電極の真空準位を越える電子は、薄膜電極
を透過して真空中に放射する。この電子のみを用いて電
子線を形成し、観察または加工すべき試料に照射すると
ころに本発明の電子線装置の特徴がある。但し、(A)
の電子の放射時のエネルギーは低く(即ち、針状電極と
膜状電極との電位差による電子の加速は数eV以下に)
設定し、かつ膜状電極の厚さは薄く(数10nm以下
に)する必要がある。これは、針状電極から膜状電極に
入射(流入)した(A)なる電子の運動エネルギーが高
い程、膜状電極の膜厚が厚いほど、当該膜状電極中にお
いて他の電子による非弾性散乱を受け易くなり(非弾性
散乱の平均自由行程が急激に短くなり)、その結果、当
該膜状電極を透過できなくなるためである。この理由は
以下の通りである。膜状電極に高い運動エネルギーで入
射する電子が非弾性散乱されるとき、相手側の電子は高
いエネルギーを授受するため、膜状電極のフェルミ準位
以上の空の電子軌道へ遷移できる。これに対し、入射電
子の運動エネルギーが膜状電極のフェルミ準位に近い場
合、相手側の電子はフェルミ準位近傍またはそれ以下の
エネルギーを授受するが、この場合授受エネルギーに相
当するエネルギー準位において空の電子軌道を見出す確
率は殆どなく、当該電子は適当な電子軌道に遷移できな
い。即ち、固体試料から膜状電極に入射する電子の非弾
性散乱確率は、このような相手方の電子のエネルギー授
受による遷移し易さに依存するのである。以上のように
針状電極と膜状電極との電位差(即ち、ギャップ電圧)
と膜状電極の厚さを適切に設定することは、本発明を実
施するにあたり重要であり、これにより、針状電極の内
部の伝導電子を外乱を与えずに真空中に自由な電子とし
て引き出すことができる。
【0015】上述のように本発明の電子源及び電子線装
置の特徴は、第1の導電性部材(針状電極)から伝導電
子をトンネリングにより放射させることにあるため、当
然ながら第1の導電性部材(針状電極)と第2の導電性
部材(膜状電極)とのギャップをトンネル電流が生じる
程に近付けることが肝要である。(A)の電子を広いギ
ャップを通して膜状電極へトンネリングさせるには、ギ
ャップ電圧を高くする必要があり、そうすると(A)の
電子はエネルギーが高いために上述の説明のように膜状
電極を透過できない。因みに、ギャップの制御をトンネ
ル電流で行なう場合、これに必要なトンネル電流は最小
でも1nA(ナノ・アンペア、即ち10-9A)である
が、これだけの電流を発生できるギャップは、凡そ1n
mである。また電子顕微鏡による像観察には、最小1p
A(ピコ・アンペア、即ち10-12A)の電子電流が必
要である。しかし、トンネル電流強度は上述のように
0.1nmのギャップの変動に対し1桁変わる(ギャッ
プの広がりによる減衰が大きい)ため、ギャップ即ち針
状電極と膜状電極との間隙の設定は圧電素子等を利用
し、0.1nmオーダ以下で微細に行なう必要がある。
【0016】上述の説明の如く本発明の電子源(トンネ
ル電子源)は、第1及び第2の導電性部材間に印加する
電位差(ギャップ電圧)を第1の導電性部材の仕事関数
を基準に設定することで、第1の導電性部材から第2の
導電性部材へ伝導電子をトンネリングさせ且つ特定のエ
ネルギーを有する電子のみを第2の導電性部材から放出
することができる。第1の導電性部材の仕事関数は、例
えばアルミニウム(Al)で4.28eV、タングステ
ン(W)で4.55eV、ニッケル(Ni)で5.15
eV、白金(Pt)で5.65eVである。即ち、数V
のギャップ電圧を印加すれば電子線放出ができるため、
第1及び第2の導電性部材に高電圧を印加する必要がな
くなる。このことから、本発明の電子源では第1及び第
2の導電性部材へのイオン衝撃が解消され、極めて安定
な電子放出が可能になる。また放射される電子のエネル
ギー分散はFE型電子源と同程度かむしろ小さくでき
る。ギャップ電圧を適当に調整すれば、低いエネルギー
側の電子を真空準位により除去して、さらにエネルギー
分散を小さくすることができるからである。
【0017】一方、本発明の電子源で第1の導電性部材
を針状電極にすると、針状電極先端の狭い領域から電子
を第2の導電性部材(例えば、膜状電極)へトンネリン
グさせ、膜状電極における散乱を受けずに電子が放出さ
れるため、そのソースサイズ(膜状電極から電子線が放
出される領域)は原子の大きさ程度に小さい。このた
め、微細なビーム径を有する電子線を発生することが可
能となり、電子顕微鏡に搭載することで試料の微細な構
造を高分解能で観察できる。また電子線描画装置に搭載
することで、試料のより微細な加工が可能となる。
【0018】最後に、本発明の電子源は第1の導電性部
材と第2の導電性部材との間隔(即ち、ギャップ)を位
置制御手段により制御して設定する。このため、この間
隔を位置制御手段で制御することにより所望の電流を持
つ電子線を発生させることが可能である。この点が、従
来のトンネル電子源と大きく異なる。本発明の電子源は
第1の導電性部材と第2の導電性部材とを作り付けない
ため、夫々の導電性部材を電子線放射に最適な形状に容
易に形成できる。従って、従来のトンネル電子源のよう
な製造上の歩留まりの問題も解消される。
【0019】
【実施例】以下、図面に示した実施例を参照して本発明
に係る電子源及び電子線装置をさらに詳細に説明する。
なお、各図における同一の記号は、同一物または類似物
を表示するものとする。
【0020】<実施例1>本発明のトンネル電子源の実
施例を図1の概略構成図及び図4の構成図を用いて説明
する。このトンネル電子源の本体は、図1に示されるよ
うに針状電極1と、薄膜電極(膜厚の薄い膜状電極)2
と、針状電極1と薄膜電極2との間のギャップを制御す
るギャップ駆動機構3とから構成される。一方、トンネ
ル電子源の周辺機器として、針状電極1と薄膜電極2の
間には、ギャップ電源5と電流検出器6が接続されてい
る。ギャップ制御回路7は差分回路71と駆動回路72
とから構成される。差分回路71は電流検出回路6から
得られる電流値と設定値との差分出力を駆動回路72に
送り、駆動回路72はこの差分出力によってギャップ駆
動機構3を駆動する。ここで、ギャップ電源5の電圧
は、針状電極1と薄膜電極2の材質によって多少異なる
が数Vに設定する。
【0021】ここで、トンネル電子源の本体の詳細な構
成について図4を用いて説明する。トンネル電子源の本
体は鐘型の真空容器101の内部に設けられている。針
状電極1は、タングステンの棒材を電界研磨等により先
端を曲率半径約0.1μmに尖らして作製してあり、絶
縁性の電極ホルダ11に導電性ネジ12により固定され
ている。薄膜電極2は、金属メッシュ22上に形成した
厚さ数nmの金の単結晶薄膜21からなり導電性ホルダ
23に固定されている。導電性ホルダ23は絶縁性のフ
ランジ24に導電性ネジ25により固定されている。導
電性ネジ12、25の調整により、針状電極1は電極ホ
ルダ11に対して、導電性ホルダ23は絶縁性のフラン
ジ24に対して夫々着脱可能となるので、電子源の組立
ては勿論、針状電極1や薄膜電極2の交換等のメンテナ
ンスをも容易に行える。フランジ24は圧電素子26及
び絶縁ブロック27を介して真空容器101内に固定さ
れ、真空容器101外からフィードスルー262を介し
て内部に配線された電流リード261により圧電素子2
6に電圧が印加される。圧電素子26は電圧の印加によ
り伸縮し、真空容器101内でフランジ24を動かすた
め、これにより薄膜電極2は針状電極1の先端に対向し
た(針状電極1の軸方向に対して略垂直な)面において
二次元的(xy方向)に移動する(図4は断面図のため
y方向にフランジ24を動かす圧電素子は省略)。薄膜
電極2は、単結晶薄膜21の一方の表面が針状電極1の
先端に対向するように配置することにより、針状電極1
から電子をトンネリングさせ且つその電子の一部を単結
晶薄膜21の他方の表面から放出する。単結晶薄膜21
の厚さが不均一であったり、穴が空いている場合、単結
晶薄膜21表面のどの領域を針状電極1先端に対向させ
るかを調整する必要があるが、この時圧電素子26によ
る薄膜電極2の位置調整が役立つ(なお、電子線放射
側、即ち電子光学系側から見て針状電極1先端が単結晶
薄膜21で覆われないと針状電極1内の電子はトンネリ
ングする先がないため、針状電極1内から出れない)。
【0022】針状電極1を保持する電極ホルダ11は、
3つの圧電素子31と絶縁ブロック32からなるギャッ
プ駆動機構3を介して真空容器101に設置されてい
る。各圧電素子31にはフィードスルー112を介して
配線された電流リード33により真空容器101外部か
ら電圧が印加され、これによる圧電素子31の伸縮で針
状電極1先端の単結晶薄膜21に対する位置が調整され
る。圧電素子31aはギャップ駆動機構3において中心
的な役割をし、針状電極1をその軸方向(z方向)に動
かして針状電極1先端と単結晶薄膜21との間隙(ギャ
ップ)の距離(間隔)を調整する。これにより、針状電
極1から単結晶薄膜21にトンネリングする電子の量、
延いては単結晶薄膜21下面から放出される電子線の電
流を所望の値に設定することができる。圧電素子31a
の伸縮制御電圧を印加する電流リードは、図1のギャッ
プ制御回路7に接続されている。また圧電素子31b、
31cは針状電極1先端を単結晶薄膜21表面に略平行
に(xy方向に)動かすもので、単結晶薄膜21の下側
に配置される電子光学系(図示せず)に対する針状電極
1の先端部の位置合わせを可能にするため、電子光学系
に入射する電子線のアラインメント調整(軸合わせ)に
役立つ。アラインメント調整は、軸ずれの影響を受けず
に試料へ正確に電子線を照射する上で不可欠である。ギ
ャップ駆動機構3を構成する圧電素子31は、いずれも
1/1000nmの分解能で駆動(即ち、伸縮)でき
る。
【0023】針状電極1に接続された電流リード111
と導電性ホルダ23を介して薄膜電極2に接続された電
流リード211は、真空容器101外において図1に示
すギャップ電源5と電流検出器6とに接続され、単結晶
薄膜21の下面から放出される電子線のエネルギー幅や
電流量を制御するとともに、針状電極1先端と単結晶薄
膜21との間隙をモニタする。また電流リード111を
真空容器101外に設けられた通電装置(図示せず)に
接続することで、針状電極1を真空中でフラッシングで
きる。図4では、電流リード211をフィードスルー2
12を介して真空容器101内に配線して薄膜電極2と
真空容器101とを絶縁しているが、電流リード211
を真空容器101に接続させて薄膜電極2と真空容器1
01とを同電位としてもよい。鐘型の真空容器101の
一端にはフランジ102が設けてあり、このフランジ1
02を電子光学系や試料保持台等が内設された電子線装
置の真空筐体のフランジに結合する。電子源全体を冷却
ヘッドに接触させて窒素温度に冷却する場合や、その周
辺機器を含めて電子線装置の真空筐体に対して所定の電
位に浮かす場合は、フランジ間にセラミックスからなる
絶縁スペーサとO−リングを挾ませ、絶縁ワッシャや絶
縁スリーブ(セラミックス又はテフロン製)を用いてフ
ランジ同士をネジ止めする。
【0024】本実施例における電子源の駆動について、
再び図1を用いて説明する。針状電極1がギャップ駆動
機構3によって薄膜電極2に近付けられると、両者の間
で電子がトンネリングして電流(トンネル電流)が生じ
る。ギャップ制御回路7は、電流検出回路6の検出する
このトンネル電流が設定値(ここでは約10nA)に等
しい一定になるようにギャップ駆動機構3を駆動する。
この結果、針状電極1と薄膜電極2の間のギャップは約
1nmの一定値に制御される。
【0025】本実施例で特徴的なことは、針状電極1と
電位差を与えた薄膜電極2とをトンネル電流によりギャ
ップを制御して近付けることによって、針状電極1の先
端から真空中に電子4を引き出すことにある。針状電極
の先端は、高電圧を印加されないので、イオン衝撃を受
けず劣化しにくい。ここで、針状電極1から薄膜電極2
によって電子4を引き出す原理の説明は、作用の説明に
おいて既に行った。本実施例では電子4の放射直後の運
動エネルギーが1eV以下になるようにギャップ電圧を
設定する。これらの電子は金の中では約5nm以上の非
弾性散乱平均自由行程を持つので、本実施例の薄膜電極
2を散乱なしに透過する(ここで薄膜電極2を冷却する
と、その内部での電子の熱散乱も防止される)。放射す
る電子のエネルギー分散の幅は約0.2eVであり、放
射電流は約5nAである。
【0026】以上、本実施例のトンネル電子源によれ
ば、針状電極が劣化しないので、安定な電子ビームを放
射できる効果がある。なお、本実施例では針状電極1と
薄膜電極2は金属であったが、良導体であれば同様の効
果が得られる。また、本実施例では針状電極1先端と薄
膜電極2との間隔を、ギャップ駆動機構3で針状電極1
を動かして調整したが、ギャップ駆動機構を薄膜電極2
側につけても同様な効果が得られる。
【0027】<実施例2>本発明のトンネル電子源の実
施例を図5を用いて説明する。本実施例のトンネル電子
源は、図1や図4に示した実施例1のトンネル電子源と
ほぼ同じ構成をしている。基本的に異なるのは、針状電
極1と薄膜電極20との間のギャップを、トンネル電流
の代わりに両者の間に発生する原子間力(斥力)を使っ
て制御することである。すなわち、本実施例では、薄膜
電極20を図示しない片持梁によって支持しており、こ
れは力が印加されるとその力に比例して変位する。変位
検出器60は、レーザー61から放射され薄膜電極20
で反射されたレーザ光62を検出することにより、この
変位を測定する。変位検出器60は測定した変位すなわ
ち力の信号をギャップ制御回路7に渡す。ギャップ制御
回路7はこの信号が設定値に等しい一定になるようにギ
ャップ駆動機構3を駆動する。この結果、針状電極1と
薄膜電極20の間のギャップは約1nmの一定値に制御
される。
【0028】本実施例で特徴的なことは、針状電極1と
電位差を与えた薄膜電極2とを原子間力によりギャップ
を制御して近付けることによって、針状電極1の先端か
ら真空中に電子4を引き出すことにある。針状電極の先
端は、高電圧を印加されないので、イオン衝撃を受けず
劣化しにくい。ここで、針状電極1から薄膜電極2によ
って電子4を引き出す原理の説明は、作用の説明におい
て既に行った。
【0029】以上、本実施例のトンネル電子源によれ
ば、針状電極が劣化しないので、安定な電子ビームを放
射できる効果がある。
【0030】<実施例3>本実施例では、実施例1や実
施例2に示したトンネル電子源の薄膜電極において、薄
膜電極の針状電極とは反対側の表面に仕事関数(フェル
ミ面から真空準位までのエネルギー差)を実効的に低く
するコーティングを施すことにより、電子の透過能を向
上させる。これは、電子のエネルギーがフェルミ面に近
いほど、その非弾性散乱の平均自由行程が長くなって透
過能が高くなることを利用するものである。具体的には
厚さ数nmの金の薄膜電極に対してバリウムを1原子層
だけ蒸着した後に、これを酸化してコーティング層を形
成する。この状態で電子が引き出される様子を図6に示
す(図6は針状電極および薄膜電極が金属である場合を
示す)。図6において真空中に放射される(A)の電子
は、薄膜電極にコーティングを行っていない図3の場合
の(A)の電子と比べて薄膜電極の中でのエネルギーが
フェルミ面により近いため、その透過能が数倍高い。ま
た、コーティングを行った場合の方がトンネル電流に対
して放射する電流が大きくなる。コーティング層は厚さ
が非常に薄いため、その内部での電子の散乱は無視でき
るほどに小さい。
【0031】本実施例によれば、薄膜電極中での電子の
透過能が高くなるので、薄膜電極を厚くして丈夫にでき
る効果がある。また、トンネル電流に対して放射電流が
増えるので、エネルギー効率が高くなる効果がある。な
お、薄膜電極の仕事関数を実効的に下げるコーティング
としては、ジルコニウム、セシウム、チタン、およびそ
れらの酸化膜を用いても同様な効果が得られる。また、
薄膜電極に上記のようなコーティングを行った上に、さ
らに薄膜電極の他の面や針状電極に同様のコーティング
を行っても効果は変わらない。
【0032】<実施例4>実施例1に示したトンネル電
子源を搭載した電子線描画装置の実施例を図7を用いて
説明する。この電子線描画装置の本体は、針状電極1と
薄膜電極2とギャップ駆動機構3とで構成されるトンネ
ル電子源と、このトンネル電子源から引き出される電子
線を試料9に照射する電子光学系8とから構成される。
なお、この電子線描画装置の本体は図示しない支持体に
支持されて真空筐体100内に保持されている。ここ
で、電子光学系8は、電極81、82で構成される加速
静電レンズと、2段の電磁レンズ83、84と、電磁偏
向器85とを備え、電子線を加速して試料9上に収束す
る。電極81は電源86により(電子源に対して)電位
を与えられ、薄膜電極2にかかる電界を緩和する。ま
た、電極82は電源87により(電子源に対して)電位
を与えられ電子線を加速する。図7に示すごとく、接地
電位の電極82に対し電子源の針状電極1は電源87に
より加速電圧分、負の電位に浮かされてある。この状態
で針状電極1と薄膜電極2との間隙をトンネル電流を電
流検出回路6でモニタしながら調整し且つ薄膜電極2の
下面からエネルギー分散の小さい電子線を放出できるよ
うに、電子源本体(針状電極1、薄膜電極2、ギャップ
駆動機構3等からなる)及びその周辺機器(ギャップ電
源5、電流検出器6、ギャップ制御回路7等からなる)
は電源87により負の電位に浮かされてある(詳細は、
図示せず)。
【0033】本実施例の電子線描画装置では、トンネル
電子源の放射する電子のエネルギー分散が0.2eVと
小さいので、加速電圧を1kVと低くしても電子線は約
10nmまで絞れる。電磁偏向器85は、描画制御回路
10から送られる信号により電子線を試料9上で走査す
る。さらに、描画制御回路10は、ギャップ電源5’の
電圧を下げるように制御することで、電子線をブランキ
ングすることができる。なお、図7において試料(ウエ
ハ)9は試料ホルダ91上に載置され、この試料ホルダ
91下部に設けられたX−Yステージにより、試料9の
電子線照射位置のマクロな調整ができる(即ち、ウエハ
を描画すべきチップ毎に動かせる)。
【0034】本実施例の電子線描画装置によれば、電子
源が安定なために電子光学系の調整時間が削減されて稼
働効率が向上する効果がある。また、本実施例の電子線
描画装置においては、レジストの中で飛程の短い低速の
電子ビームを描画に使用できるので、近接効果を補正す
るシステムが不要となり、装置の低コスト化に効果があ
る。
【0035】<実施例5>実施例1の電子源を搭載した
電子線描画装置の他の実施例を図8に示す。図8の装置
は、従来の部分一括露光方式の微細加工用電子線描画装
置に本発明の電子源を搭載したものであり、電子光学系
に描画すべきパターンの形状を有するアパーチャを設け
て電子線を当該パターン形状に成形してウエハに照射す
る点で、直接描画方式の実施例4の装置と異なる。
【0036】電子源本体は真空筐体100の最上部に設
けられ、電子線を30〜50kVに加速する都合上、電
子源本体及びギャップ制御回路等の周辺機器は設置電位
に対し負の高電位に浮かされてある(図示せざるも、図
7の電源87に相当する電子線加速電源が設置され
る)。その他の構成は従来の電子線描画装置そのもので
あり、照明及びブランキング電極801、第1アパーチ
ャ802、ビーム成形光学系803、第2アパーチャ8
04、縮小光学系805、対物偏向光学系806、試料
ホルダ91及びX−Yステージ92から構成される。
【0037】本実施例の装置のように電子線を描画すべ
き形状に成形して加工すべきウエハに照射する場合で
も、本発明の電子源を搭載することにより次の3つの効
果が有る。第1に電子線のエネルギー分散が小さいた
め、電子光学系における収差も小さく、従って成形され
た電子線を歪ませることなくウエハ上に照射できる。第
2に針状電極1により電子線のソースサイズが微小とな
るため、成形された電子線を微細に絞れ、ウエハへの微
細パターンの転写が可能となる。第3に実施例4同様、
電子線を長時間にわたり安定に放射できるため、電子光
学系の調整時間が削減されて稼働効率が向上する。
【0038】<実施例6>実施例1の電子源を搭載した
走査型電子顕微鏡(SEM)の実施例を図9に示す。電
子源本体は真空筐体100の最上部に設けられ、電子線
を1kVに加速する都合上、電子源本体及びギャップ制
御回路等の周辺機器は実施例4又は5と同様に接地電位
に対し負の高電位に浮かされてある。その他の構成は従
来のSEMと同じであり、照射電子線は加速光学系81
1で加速され、収束レンズ812で微細なビームに絞ら
れ、偏向光学系813で試料9表面上を走査するように
偏向され、対物レンズ814により試料9表面に照射さ
れる。電子線照射により試料9から発生する二次電子は
電子検出器815で、X線等の電磁波はX線検出器81
6で夫々検出される。電子検出器815からの二次電子
検出信号は増幅器817で増幅され、偏向光学系813
の制御装置818の制御信号(試料9表面上での電子線
走査を制御)とともに電子計算機819に取り込まれ
る。これにより電子計算機819の画面には、試料9表
面の電子線走査位置と二次電子検出信号とを対応させて
形成された試料像(SEM像)が表示される。なお、試
料9は、X−Yステージ92及び試料傾斜装置93に支
持された試料ホルダ91に載置される。
【0039】ところで、半導体装置(所謂、電子デバイ
ス)や絶縁性の材料のSEM像観察では、電子線の加速
電圧をできるだけ低くして走査(照射)することが望ま
れる。照射電子線の加速電圧を高くした場合、半導体装
置には損傷を受け易くなる(即ち、SEM観察したロッ
トを製造ラインに戻せない)という問題が、絶縁性材料
には照射電子線による電荷が試料表面に溜り易くなり、
表面に溜った電荷で新たに発生した電場で照射電子線や
二次電子線の軌道が歪められる(所謂チャージ・アッ
プ)という問題が夫々浮上するからである。近年、特に
半導体装置検査用の測長SEMとして、加速電圧を1k
Vオーダに抑えてSEM観察を行える低加速SEMが開
発されている。しかし照射電子線の加速電圧を低くする
程、照射電子線を微細に収束することは難しくなる。一
方、半導体装置の高集積化に伴い、微細に加工された半
導体装置の測長SEMによるインラインでの(即ち、検
査したロットを再び製造ラインに戻せるような)検査へ
の需要が高まってきた。検査すべき半導体装置の微細化
に伴い、SEM像の分解能を向上させねばならないが、
このためには照射電子線を微細に収束させねばならず、
従来はトレードオフの関係にある像の分解能(電子線収
束に依存)と被検査物への損傷(加速電圧に依存)との
2つの条件を妥当に組み合わせて測長SEMによる半導
体装置の検査を行っていると言っても過言ではない。
【0040】これに対し、本発明による電子源は針状電
極1と薄膜電極2との間に数Vの電位差を印加するだけ
で電子線を発生でき(電子線電流はむしろ針状電極1と
薄膜電極2との間隙に依存)、さらに薄膜電極2(図4
の単結晶薄膜21)の膜厚を約10nmとすると薄膜電
極2の微細な(針状電極1先端面に匹敵)ビーム・ソー
スから電子線を放出できる。従って本発明の電子源をS
EMに搭載すれば、加速電圧に関係なく微細な電子線を
放出することができる。従って、半導体装置が256メ
ガビット(Mb)以上に高集積化しても、所望の分解能
で且つ被検査試料(半導体装置)に損傷を与えることな
くSEM観察を行える。さらに、本発明の電子源は電子
線を長時間にわたり安定に放射できるため、昼夜稼働し
続ける半導体装置の生産ラインにおいて、製品の検査を
続行することができる。図9では、既存のSEMに本発
明の電子源を組み合わせた装置を示したが、試料9に電
子線を照射する電子光学系の各構成要素811〜814
を図7に示した電子線描画装置の電子光学系8に置き換
えてもよい。図9の構成のSEMによれば、加速電圧を
1kVとしても電子線のビーム径を約10nmまで絞り
込めるので、サブミクロンオーダの回路パターンを有す
る半導体装置の検査、特に配線パターンの測長を正確に
行うことができる。
【0041】
【発明の効果】本発明のトンネル電子源によれば、放出
電子のエネルギー分散を制御できるとともに、イオン衝
撃による針状電極の劣化がないので、微細化可能で長時
間安定な電子ビームを供給できる効果がある。本発明の
電子源は放射電子のエネルギー分散を従来のFE電子源
やトンネル電子源並又はそれ以上に抑制できるため、こ
れを電子顕微鏡に搭載することで試料の微細な構成を従
来の電子顕微鏡よりも明瞭な像として観察することがで
き、電子線描画装置に搭載することで従来の装置より微
細な回路パターンを半導体基板上に描画できる。また、
このトンネル電子源を用いた電子線装置においては、電
子光学系の調整時間が削減されるので、稼働効率が向上
する効果がある。
【0042】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1のトンネル電子源を示す概略
構成図である。
【図2】本発明の原理を説明する伝導電子の状態密度関
数D(ε)のグラフとエネルギーバンド図である。
【図3】本発明の動作を説明するエネルギーバンド図で
ある。
【図4】本発明の実施例1のトンネル電子源本体を示す
構成図である。
【図5】本発明の実施例2のトンネル電子源を示す構成
図である。
【図6】本発明の実施例3の動作を説明するエネルギー
バンド図である。
【図7】本発明の実施例4の電子線描画装置を示す構成
図である。
【図8】本発明の実施例5の電子線描画装置を示す構成
図である。
【図9】本発明の実施例6の走査型電子顕微鏡(SE
M)を示す構成図である。
【図10】従来のトンネル電子源を示す断面図である。
【符号の説明】
1…針状電極、2、20…薄膜電極、3…ギャップ駆動
機構、4…電子、5、5’…ギャップ電源、6…電流検
出器、60…変位検出器、61…レーザー、62…レー
ザー光、7…ギャップ制御回路、71…差分回路、72
…ギャップ駆動回路、8…電子光学系、81、82…電
極、83、84…電磁レンズ、85…電磁偏向器、8
6、87…電源、9…試料、10…描画制御回路。
フロントページの続き (72)発明者 早田 康成 東京都国分寺市東恋ケ窪1丁目280番地 株式会社日立製作所中央研究所内

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】第1の導電性部材と、該第1の導電性部材
    から電子がトンネル効果により入射するように第1の導
    電性部材に対して配置された第2の導電性部材と、該第
    1の導電性部材と該第2の導電性部材との間に電界を発
    生させる電界発生手段と、該第1の導電性部材と該第2
    の導電性部材との配置を調整する位置調整手段からなる
    ことを特徴とする電子源。
  2. 【請求項2】針状電極と、該針状電極の先端に対向して
    配置された膜状電極と、該針状電極と該膜状電極との間
    に電位差を与える電位差印加装置と、該針状電極の先端
    と該膜状電極との間隔を制御して設定する間隔制御装置
    からなることを特徴とする電子源。
  3. 【請求項3】上記位置制御装置は、上記針状電極と上記
    膜状電極との間に生じるトンネル電流または原子間力を
    検出し且つ該検出値が一定となるように該針状電極と該
    膜状電極との間隙を制御して設定することを特徴とする
    請求項2に記載の電子源。
  4. 【請求項4】上記膜状電極は、上記針状電極に対して反
    対側の面に該膜状電極の仕事関数を下げるコーティング
    が施されていることを特徴とする請求項2又は請求項3
    に記載の電子源。
  5. 【請求項5】針状電極と、該針状電極の先端に対向して
    配置された膜状電極と、該針状電極と該膜状電極との間
    に電界を発生させる電界発生装置と、該針状電極の先端
    と該膜状電極との間隔を調整する間隔調整装置と、試料
    を保持する試料保持手段と、該膜状電極の該針状電極に
    対して反対側の面から放出される電子線を該試料に照射
    する電子線照射手段を含むことを特徴とする電子線装
    置。
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