JPH0549441A - ペントースの選択発酵方法 - Google Patents

ペントースの選択発酵方法

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JPH0549441A
JPH0549441A JP3215582A JP21558291A JPH0549441A JP H0549441 A JPH0549441 A JP H0549441A JP 3215582 A JP3215582 A JP 3215582A JP 21558291 A JP21558291 A JP 21558291A JP H0549441 A JPH0549441 A JP H0549441A
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pediococcus halophilus
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Abstract

(57)【要約】 【構成】 ペディオコッカス属に属し、アルギニンデイ
ミナーゼ経路を有し、フォスフォエノールパイルベート
・デペンデント・シュガー:フォスフォトランスフェラ
ーゼ・システムの細胞質リン酸転移酵素が欠損した、ペ
ントース発酵能を有する微生物を、ペントース含有物に
接種し、培養して、ペントースを選択的に発酵させるこ
とからなるペントースの選択発酵方法。 【効果】 本発明の微生物をペントース含有物に使用し
た場合、フラクトースの存在下であってもペントース、
中でも特に発酵が困難なキシロースをも、極めて短時間
に選択的に発酵させることができるので、本発明は産業
上極めて有用である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ペントースの選択発酵
方法、さらに詳しくは微生物の改良によりペントースの
発酵速度をより高めたペントースの選択発酵方法に関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】ある微生物において2種以上の基質が代
謝の対象となっている場合、その菌によって利用され易
い基質が他の基質の異化を司る酵素の誘導を阻害する現
象は、カタボライト・リプレッション (Catabolite Rep
ression)として知られている〔ハートウェル・エル及び
ビー・マガサニック (Hartwell L. and B. Magasanik)
、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー
(J. Mol. Biol) 、第7巻、第401〜420頁 (1963年) 、
モノー・ジェイ (Monod J.) 、ルシェルシュ・シュール
・ラ・クロワサンス・デ・キュルチュール・バクテリエ
ンヌ、テーズ(Recherches sur la croissance des cult
ures bacteriennes, thesis) 、アルマン (Harman) 、
パリ (Paris)、第145頁 (1942年)〕。
【0003】このカタボライト・リプレッションは、菌
にとってエネルギー源となる基質である、糖、アミノ
酸、有機酸などの代謝系のみならず、核酸、多糖類、タ
ンパク質などの高分子基質の分解系にまで及んでいるこ
とが、一般に知られている。そのため、一般には、グル
コース、マンノース、フラクトースなどの利用され易い
基質が存在すると、他の基質の代謝系の酵素生合成が抑
制を受けて、他の基質が利用できなかったり、望むよう
な酵素の生産が不可能となる場合が多く存在している。
【0004】ペディオコッカス属に属する細菌において
も、例えばペディオコックス・ハロフィルス (Pediococ
cus halophilus) をその菌がエネルギー源として利用可
能な2種以上の基質を含有する培地中で培養した場合に
は、上記のような現象が起こる。すなわち、カタボライ
ト・リプレッションは、ペディオコッカス属菌において
も非常に強力な代謝調節機構の一つであって、複数の基
質混合物中における優先性下位基質、例えばペントース
などの選択発酵の場合のみならず、一部の酵素やその他
の二次代謝物の生産などの場合においても、大きな問題
となっており、通常はこの抑制作用から逃れることは、
殆ど不可能である。特別な場合に一部できるとしても、
極めて長時間培養するか、あるいは培地中で選択発酵に
とって障害となる基質を特に取り除くことが必要であ
る。このことは余計なコストを要するか、安価で優れて
はいるが複雑な混合物である天然培地を用いることを困
難とするもので、その解決が強く望まれているのが実情
である。
【0005】そしてまた、ペントースは褐変反応に関与
する糖類の1種であって、例えば醸造物などにおいては
着色防止のため、これを消去する有効な方法が切望され
ている。そこで、本発明者らは、ペディオコッカス・ハ
ロフィルスに属する微生物の、例えばアラビノース、キ
シロースなどのペントースに対するカタボライト・リプ
レッションを解除すべく種々検討した結果、先に、該微
生物には、フォスフォエノールパイルベート・デペンデ
ント・シュガー:フォスフォトランスフェラーゼ・シス
テム(Phosphoenolpyruvate dependent Sugar:Phosphotr
ansferase System) (以下、PTS と略称する。) が機能
して存在していること、そして該 PTS、フォスフォフラ
クトキナーゼ (以下、PFK と略称する。) 及びグルコキ
ナーゼ (以下、GKと略称する。) を三重に欠損させるこ
とにより、このカタボライト・リプレッションの解除が
可能であることを見出した。
【0006】PTS は、エンテリック・バクテリア (ente
ricbacteria) などで研究されている糖の輸送機構であ
り、これに関してはクンディッヒ・ダブリューら (Kund
igW. et al.,) 、プロシーディングス・ナショナル・ア
カデミー・オブ・サイエンス (Proc. Natl. Acad. Sc
i.) 、米国 (U.S.A.) 、第52巻、第1067〜1074頁 (1964
年) 、ピー・ダブリュー・ポストマら (P. W. Postma e
t al.,) 、マイクロバイオロジカル・レビュー (Microb
iol. Rev.)、第49巻、第232〜269頁 (1985年)などに報
告されているが、ペディオコッカス属に属する微生物で
の PTSの存在は、本発明者らにより先に得た新知見であ
る。
【0007】そして、本発明者らは、これらの知見に基
づいて、ペディオコッカス・ハロフィルスに属する微生
物より、PTS 、PFK 、GKの三重欠損変異株を得、これら
の変異株を用いて異化が阻害される基質、特にペントー
スなどを選択的に発酵させる方法を開発した (例えば特
願平3-28969号明細書など参照) 。 しかしながら、これらの方法は、基質にフラクトースを
含有する場合にはペントース、特にキシロースの選択発
酵性が阻害され、使用目的によっては必ずしも適する方
法ではない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、優先性上位
基質のグルコース、マンノース、フラクトースなどが共
存する場合においても、ペントースを発酵することがで
きる微生物を得ること及びこれを用いることによるペン
トースの発酵速度をより高めたペントースの選択発酵方
法を提供することを目的としてなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的
を達成するために鋭意研究を重ねた結果、ペディオコッ
カス・ハロフィルスに属し、アルギニンデイミナーゼ経
路を有する微生物より誘導、分離した PTSの細胞質リン
酸転移酵素が欠損した新規変異株は、その親株とは異な
って、例えばアラビノース、キシロースなどのペントー
スを除いたすべての PTS糖 (例えばグルコース、マンノ
ース、フラクトース、シュクロース、ラクトース、ソル
ビトール、マンニットなど) 及び非 PTS糖 (例えばマル
トース、グリセリンなど) の発酵能を有していないこ
と、そしてこの新規変異株を用いれば、グルコース、マ
ンノース、フラクトースなどが共存する場合において
も、カタボライト・リプレッションを受けることなく、
ペントース、特にキシロースを効率よく選択的に発酵さ
せることができること、さらに、この新規変異株がアル
ギニンデイミナーゼ経路を有することによって、ペント
ースの発酵速度が一段と高められることの新知見を得、
この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】すなわち、本発明は、ペディオコッカス属に属
し、アルギニンデイミナーゼ経路を有し、 PTSの細胞質
リン酸転移酵素が欠損した、ペントース発酵能を有する
微生物を、ペントース含有物に接種、培養し、ペントー
スを選択的に発酵させることを特徴とするペントースの
選択発酵方法である。以下、本発明について詳細に説明
する。
【0011】本発明のペディオコッカス属に属し、アル
ギニンデイミナーゼ経路を有し、 PTSの細胞質リン酸転
移酵素が欠損した、ペントース発酵能を有する微生物と
しては、このような性質を有する微生物であればいかな
る菌株でもよく、例えば次のようなものが挙げられる。
先ず、PTSは、一般に、細胞質のフォスフォエノールパ
イルベート (以下、PEPと略称する。) よりのリン酸を
受容、転移する細胞質のリン酸転移酵素と、リン酸を受
容して糖を細胞内に輸送しリン酸化する細胞膜のエンザ
イムII (Enzyme II)(以下、E IIと略称する。) から構成
されている。そして該細胞質のリン酸転移酵素は、細胞
質の PEPよりリン酸を最初に受容する細胞質のエンザイ
ムI (EnzymeI) (以下、 EIと略称する。) と、次い
でリン酸化された EIよりリン酸を受容する細胞質のHP
r というリン酸転移酵素 (受容したリン酸はE IIに転移
する) の2種からなっている〔例えば前記ピー・ダブリ
ュー・ポストマら、マイクロバイオロジカル・レビュ
ー、第49巻、第232〜269頁 (1985年) など参照〕。
【0012】そして、本発明の PTSの細胞質リン酸転移
酵素が欠損した微生物とは、前記細胞質の EI、HPr の
いずれか一方又は両方が欠損したものである。ところ
で、この PTSの細胞質リン酸転移酵素が欠損した微生物
は、前記のごとくペントースを効率よく選択的に発酵さ
せるものであるが、グルコース、マンノース、フラクト
ースなどの糖類を利用しないので、これらを利用する微
生物に比して菌体へのエネルギー供給が十分とはいえな
い。
【0013】本発明は、この菌体へのエネルギー供給を
増大させて、ペントースの発酵速度を一段と高めるため
のエネルギー供給源として、該微生物のアルギニンデイ
ミナーゼ経路における ATP再生系を活用するものであ
る。このアルギニンデイミナーゼ経路は、例えばラクト
コッカス (Lactococcus)属、シュードモナス (Pseudo-m
onas ) 属などに属する細菌において知られていて、模
式的に示せば図1のごとくである〔レイモンド・クーニ
ンら (Raymond Cunin et al.)、マイクロバイオロジカ
ル・レビュー (Microbiol. Rev.)、第50巻、第314〜352
頁 (1986年) 参照〕
【0014】
【0015】すなわち、アルギニンデイミナーゼ経路に
おいて、アルギニンはアルギニンデイミナーゼ (ADI)に
よってシトルリン、さらにはオルニチンへと代謝される
が、一方の生成したカルバミル−リン酸がNH3 とCO2
分解される過程に ATP再生系が介在している。本発明者
らは、ペディオコッカス・ハロフィルスの中の一部の株
にもこのアルギニンデイミナーゼ経路が存在しているこ
とを見出したのである。
【0016】本発明のペディオコッカス属に属し、アル
ギニンデイミナーゼ経路を有し、PTS の細胞質リン酸転
移酵素が欠損した、ペントース発酵能を有する新規変異
株としては、例えばペディオコッカス・ハロフィルス(P
ediococcus halophilus)5P-1 (以下、本変異株という場
合もある。) などが挙げられる。上記ペディオコッカス
・ハロフィルス5P-1は、アルギニンデイミナーゼ経路を
有し、ペントース発酵能を有する野生株ペディオコッカ
ス・ハロフィルス(Pediococcus halophilus)5Pを変異処
理して得た変異株である。
【0017】そして、ペディオコッカス・ハロフィルス
5P及びペディオコッカス・ハロフィルス5P-1の菌学的性
質は以下に示すとおりである。なお、下記菌学的性質に
おいて、アルギニンデイミナーゼ経路の有無は、「アル
ギニンからオルニチンへの変換能」が陽性 (変換率が90
%以上を陽性とする。) である場合を「有」とした。な
おまた、該変換率は、下記表1記載の培地 (以下YP-XA-
1-5 と略称する。) で培養し、そしてアルギニンのオル
ニチンへの変換を日立製高速アミノ酸分析計L-8500によ
って定量することによって求めた。 表 1 酵母エキス 0.3g/100ml ポリペプトン 0.5 リン酸水素二カリウム 0.5 チオグリコール酸ナトリウム 0.1 NaCl 5.0 キシロース 0.23 アルギニン (塩酸塩) 0.32 ペディオコッカス・ハロフィルス5Pの菌学的性質 ペディオコッカス・ハロフィルス5Pの菌学的性質は、ペ
ディオコッカス・ハロフィルスI (FERM BP-1302) の菌
学的性質 (特開昭63-219368号公報参照) のうち、「
(1) 糖類から酸およびガスの生成の有無」及び「 (2)
アルギニンデイミナーゼ経路の有無」が下記のとおり
である以外は、ペディオコッカス・ハロフィルスIの菌
学的性質と全く同一である。
【0018】(1) 糖類から酸およびガスの生成の有無 (2) アルギニンデイミナーゼ経路の有無 : 有 アルギニンからオルニチンへの変換能 陽性 (変換率
98%) ペディオコッカス・ハロフィルス5P-1の菌学的性質 ペディオコッカス・ハロフィルス5P-1の菌学的性質は、
ペディオコッカス・ハロフィルス5Pの菌学的性質のうち
「 (1) 糖類から酸およびガスの生成の有無」「 (2)
アルギニンデイミナーゼ経路の有無」及び「 (3) PTS
の細胞膜E II、細胞質リン酸転移酵素 EI+HPr 及びHP
r、PFK並びにGKの活性 (相対活性) 」が下記のとおりで
ある以外は、ペディオコッカス・ハロフィルス5Pの菌学
的性質と全く同一である。
【0019】(1) 糖類から酸およびガスの生成の有無 (2) アルギニンデイミナーゼ経路の有無 : 有 アルギニンからオルニチンへの変換能 陽性 (変換率
96%) (3) PTS の細胞膜 E II 、細胞質リン酸転移酵素EI+
HPr 及びHPr 、PFK 並びにGKの活性(相対活性)
【0020】
【0021】表2における各種酵素活性の測定は次の方
法により行った。細胞膜E II及び細胞質の EI+HPr :
チェシイ・ビー・エムとジェイ・トンプソン(Chassy
B.M. and Thompson)の方法〔ジャーナル・オブ・バク
テリオロジー(J. Bacteriol.)、第154巻、第1195〜120
3頁及び第1204〜1214頁(1983年)〕及び阿部と内田(A
be K. and K. Uchida)の方法〔アーカイブス・オブ・
マイクロバイオロジー(Arch. Microbiol.) 、第155
巻、第517〜520頁(1991年)〕細胞質の HPr:上記 EI
+HPr の活性測定に用いた細胞質画分につき、ヘングス
テンバーグ・ダブリューら(Hengstenberg W. et al.)
の方法〔ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bac
teriol.)、第99巻、第383〜388頁(1969年)〕PFK及びG
K:阿部と内田(Abe K. and K. Uchida)の方法〔ジャー
ナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)、第17
1巻、第1793〜1800頁(1989年)〕 表2から、本発明のペディオコッカス・ハロフィルス5P
-1は、EII、 PFK及びGKについては欠損がないこと、そ
して細胞質のリン酸転移酵素が欠損しており、中でも E
I+HPr と HPrの値より EIが欠損していることがわか
る。
【0022】これらの菌株は、工業技術院微生物工業技
術研究所にペディオコッカス・ハロフィルス5Pが微工研
菌寄第12418号 (FERM P-12418)として、ペディオコッ
カス・ハロフィルス5P-1が微工研菌寄第12419号 (FERM
P-12419)として寄託されている。本変異株を得るため
の野性株ペディオコッカス・ハロフィルス5Pの変異処理
方法としては、例えばN-メチル-N'-ニトロ -N-ニトロソ
グアニジン(以下、MNNGと略称する。)、エチルメタン
スルフォネート、メチルメタンスルフォネートなどの変
異誘起剤、紫外線照射、x線照射、放射線照射処理、自
然変異、ファージまたはプラスミドによる形質転換、形
質導入、接合による遺伝子組換えなどの方法が挙げられ
る。
【0023】本変異株を培養するのに使用される培地と
しては、一般のペディオコッカス・ハロフィルスに属す
る菌株の培養に用いられる培地が挙げられる。培地の窒
素源としては、利用可能な窒素化合物又はこれを含有す
るものであれば如何なるものでもよく、例えば、酵母エ
キス、ペプトン、肉エキス、ゼラチン、コーンスチープ
リカー、アミノ酸、大豆あるいは小麦麹の浸出液などの
一種以上の窒素源が用いられる。上記窒素源にマンガ
ン、リン酸、カリウム、マグネシウム、カルシウムなど
の適当な無機塩類の一種以上を適宜添加し、必要により
菌の生育に必要な炭素源、例えば、糖類、各種の有機
物、無機物、ビタミンなどを添加したものが培地として
好適に用いられ、そして食塩2〜17%含有培地が好まし
い。また通常の醤油製造法における仕込初期の諸味液汁
を適宜希釈し、食塩15%前後に調製したものも用いられ
る。
【0024】本変異株は、液体培養法が好ましく、静置
若しくは嫌気的条件下に培養を行うのがよい。培養温度
は、15〜50℃、好ましくは20〜40℃である。そして培養
時間は培養中の食塩濃度により大幅に異なるが、通常1
〜10日間であり、また、培養時のpHは合成培地(例え
ば、 MYP培地、 YPG培地)および諸味液汁培地ともにpH
3〜9が好ましい。
【0025】次に、このようにした培養物より本変異株
菌体を採取するには、如何なる手段でもよく、例えば、
遠心分離、濾過などの通常の操作法に従って分離し、必
要により洗浄して本変異株を得る。そして、本発明にお
いては、本変異株をペントース含有物に接種、培養し、
ペントースを選択的に発酵させるのであるが、該ペント
ース含有物には、本変異株のアルギニンデイミナーゼ経
路における ATP再生系を活用するためにアルギニンを含
有していることが必要であり、その量は1〜500mM 、好
ましくは5〜100mMである。
【0026】ペントースとしては、例えばアラビノー
ス、キシロース、リボースなどが挙げられる。上記ペン
トース含有物としては、ペントースを含んでいるもので
あればどのようなものでもよい。例えばグルコース、マ
ンノースなどの優先性上位基質を含んでいてもよいこと
は勿論のこと、従来とは異なって、フラクトースを含ん
でいてもよく、本変異株を用いれば、このフラクトース
の共存によるペントースの発酵性の阻害はない。さら
に、このペントース含有物としては、例えば醤油諸味、
木材の加水分解物、穀類分解液など、あるいは、必要に
より、これらに栄養源など適宜の成分を添加したものな
どが挙げられる。
【0027】なお、本変異株は、フラクトースを含まな
いペントース含有物中のペントースを選択的に発酵させ
得るのはいうまでもないことである。本変異株の接種量
は、培地に対して例えば、102−109個/g、又は個/m
l、好ましくは、104−106個/g、又は個/mlである。
発酵条件としては、発酵が達成される条件であれば如何
なる条件でもよく、例えば上記した本変異株の培養条件
と同様に行えばよい。
【0028】
【発明の効果】本変異株は、グルコース、マンノース、
フラクトースなどの糖類の発酵能を有していず、ペント
ースの発酵能を有しているという極めて特異なものであ
り、しかもアルギニンデイミナーゼ経路を有しているの
で、本変異株を用いれば、そのATP再生系によって菌体
エネルギーが増大され、その結果、該経路を有しない菌
株を用いた場合に比し、ペントースの発酵速度が1.2〜
2倍程度と極めて顕著に高められる。そして、本変異株
をペントース含有物に接種、培養すれば、例えば醤油諸
味などにおいての着色物質に関与するペントースを、中
でも特に発酵が困難なキシロースをも、フラクトースの
存在下であっても極めて短時間に選択的に発酵させるこ
とができるので、本発明は産業上きわめて有用である。
【0029】
【実施例】以下、本発明を実施例により具体的に説明す
る。ただし、これらの実施例により本発明の技術的範囲
が限定されるものではない。
【0030】
【実施例1】アルギニンデイミナーゼ経路を有し、 PTS
の細胞質リン酸転移酵素が欠損したペントース発酵能を
有する変異株ペディオコッカス・ハロフィルス5P-1の変
異誘導 表3記載の培地(以下、YPX-1-5 と略称する。)5mlに
ペディオコッカス・ハロフィルス5P(FERM P-12418) を
接種し、温度30℃で4日間静置培養し、培養物を得た。
その培養物100μl を YPX-1-5に 150mMの2-デオキシグ
ルコース(2DG) を添加した培地(YPDGX)5mlに接種
し、30℃で4日間培養した。この培地で生育してきた2
DG耐性菌を表4記載の培地(MYPX-1-5CaCO3 プレート)
に100個程度のコロニーが形成されるように希釈して接
種した。MYPX-1-5CaCO3 プレートに生育したコロニーを
表5記載の培地(MYPG-1-5CaCO3 プレート)および表6
記載の培地(MYPFS-1-5CaCO3 プレート)にレプリカし、
MYPX-1-5CaCO3 プレートで生育するがMYPG-1-5CaCO3
レートおよび MYPFS-1-5CaCO3 プレートで生育し得ない
コロニーを選択した。
【0031】 表 3 酵母エキス 0.3g/100ml ポリペプトン 0.5 リン酸水素二カリウム 0.5 チオグリコール酸ナトリウム 0.1 NaCl 5.0 キシロース 1.0 表 4 肉エキス 0.5g/100ml 酵母エキス 0.5 ポリペプトン 0.5 チオグリコール酸ナトリウム 0.1 炭酸カルシウム 0.1 寒天 1.5 NaCl 5.0 キシロース 1.0 表 5 肉エキス 0.5g/100ml 酵母エキス 0.5 ポリペプトン 0.5 チオグリコール酸ナトリウム 0.1 炭酸カルシウム 0.1 寒天 1.5 NaCl 5.0 グルコース 1.0 表 6 肉エキス 0.5g/100ml 酵母エキス 0.5 ポリペプトン 0.5 チオグリコール酸ナトリウム 0.1 炭酸カルシウム 0.1 寒天 1.5 NaCl 5.0 フラクトース 1.0 シュークロース 1.0 上記培地にて選択した菌株について、E II、E I + HP
r、 HPr、 PFKおよびGKの活性を測定して、前記表2記
載のような新規変異株ペディオコッカス・ハロフィルス
5P-1(FERM P-12419)を得た。
【0032】
【実施例2】新規変異株ペディオコッカス・ハロフィル
ス5P-1(FERM P-12419)および親株ペディオコッカス・
ハロフィルス5P(FERM P-12418) を、実施例1記載のYP
X-1-5培地5mlに一白金耳接種し、温度30℃で4日間培
養して培養物を得た。次いで、常法により該培養物を、
18,000r.p.m.で10分間遠心分離して菌体を得、その菌体
を5% NaCl水溶液5mlで洗浄し、常法により乾燥し
て、ペディオコッカス・ハロフィルス5P-1およびペディ
オコッカス・ハロフィルス5Pの乾燥菌体をそれぞれ0.9
mgおよび0.93mg得た。
【0033】
【実施例3】実施例2で得た本変異株のペディオコッカ
ス・ハロフィルス5P-1 (RERM P-12419) の菌体及び下記
の方法により得、菌学的性質が下記のごとくであるアル
ギニンデイミナーゼ経路を有しない、 PTSの細胞質リン
酸転移酵素が欠損した、ペントース発酵能を有する変異
株ペディオコッカス・ハロフィルスS-1 (FERM P-12417)
を実施例2と同様に培養して得た菌体を、表7記載のBM
-MES-XAG培地に菌体数が1×106個/mlとなるように各
々接種し、30℃で60時間静置培養した。
【0034】 表 7 酵母エキス 0.3g/100ml ポリペプトン 0.5g リン酸水素二カリウム 0.5 チオグリコール酸ナトリウム 0.1 NaCl 5.0 MES バッファー (pH7) 200 mM キシロース 11 mM グルコース 5 mM アルギニン 11 mM このときの発酵速度 (糖消費速度) 、菌体増殖 (生育)
などを調べた結果を図1及び図2に示す。
【0035】なお、図1はペディオコッカス・ハロフィ
ルス5P-1、図2はペディオコッカスハロフィルスS-1 に
ついてのものである。また、各図において、△はキシロ
ース、□はアルギニン、○は生育を示す。さらにまた、
糖の定量は、シンナー・エム(Sinner M.)、プルス・ジ
ェイ(PlusJ.) の方法〔ジャーナル・オブ・クロマトグ
ラフィー (J. Chromatogr.)、第156巻、第197頁 (1978
年) 〕によって行なった。
【0036】アルギニンの定量は、前記日立製高速アミ
ノ酸分析計L-8500を用いて行なった。生育は、530nm に
おける吸光度 (OD) によった。図1及び図2から、30℃
で11mMのキシロースを本変異株ペディオコッカス・ハロ
フィルス5P-1は25時間で消費し尽し、ペディオコッカス
・ハロフィルスS-1 (35時間で消費) の1.4倍もの高速
度で発酵させていることがわかる。
【0037】すなわち、アルギニンデイミナーゼ経路を
有し、 PTSの細胞質リン酸転移酵素が欠損した、ペント
ース発酵能を有する本変異株のペディオコッカス・ハロ
フィルス5P-1は、アルギニンデイミナーゼ経路を有しな
い、 PTSの細胞質リン酸転移酵素が欠損した、ペントー
ス発酵能を有するペディオコッカス・ハロフィルスS-1
に比し、キシロースの発酵速度が一段と高まっているこ
とがわかる。
【0038】なお、上記ペディオコッカス・ハロフィル
スS-1 は次の方法により得られたものである。前記ペデ
ィオコッカス・ハロフィルスI (FERM BP-1302) (菌学
的性質は特開昭63-219368 号公報参照) を親株とし、実
施例1と同様にして変異誘導したものである。
【0039】また、ペディオコッカス・ハロフィルスS-
1 の菌学的性質は、ペディオコッカス・ハロフィルスI
の菌学的性質のうち「(1) 糖類から酸およびガスの生成
の有無」、「(2)アルギニンデイミナーゼ経路の有無」
及び「(3) PTS の細胞膜E II、細胞質リン酸転移酵素 E
I+HPr 及びHPr 、PFK 並びにGKの活性 (相対活性)」
が次のとおりである以外は、ペディオコッカス・ハロフ
ィルスIの菌学的性質と全く同一である。
【0040】(1) 糖類から酸およびガスの生成の有無 (2) アルギニンデイミナーゼ経路の有無 : 無 アルギニンからオルニチンへの変換能 陰性 (変換率
3%) (3) PTS の細胞膜 E II 、細胞質リン酸転移酵素EI+
HPr 及びHPr 、PFK 並びにGKの活性(相対活性)
【0041】
【0042】なお、ペディオコッカス・ハロフィルスS-
1 は、工業技術院微生物工業技術研究所に微工研菌寄第
12417号 (FERM P-12417) として寄託されている。
【0043】
【実施例4】脱脂大豆100kgを蒸煮変性したものと、小
麦 105kgを炒熬割砕したものを混合し、これに種麹を接
種し、42時間の通風製麹を行い醤油麹を得た。これに食
塩90kgを含む15℃に冷却した塩水360Lを加えて600L密
閉容器仕込タンクに仕込を行った。
【0044】次いで、実施例2と同様に培養して得た本
変異株ペディオコッカス・ハロフィルス5P-1(FERM P-1
2419 )、親株ペディオコッカス・ハロフィルス5P(FERM
P-12418)及びペディオコッカス・ハロフィルスS-1 (FE
RM P-12417 )を、仕込後3週間目の醤油諸味からポア
・サイズ0.22μmのメンブランフィルター (日本ミリポ
ア社製) を用いて無菌的に濾過して得た諸味液汁にフラ
クトースを約0.5%になるように添加したもの10mlに各
々一白金耳ずつ接種し、温度30℃で 130時間培養して培
養物をそれぞれ得た。
【0045】なお、諸味液汁中のアルギニン含量は28mM
であった。そして、得られた培養物中の糖残存量を比較
した結果を表9に示した。残存糖量の定量は、前記シン
ナー・エム (Sinner M.)、プルス・ジェイ(PlusJ.) の
方法によって測定した。
【0046】
【0047】なお、ペディオコッカス・ハロフィルスS-
1 の菌株を用いた場合には、30℃で170時間培養するこ
とによって、キシロースは完全に消費 (発酵) された。
表9から、本発明の方法によれば、高濃度のグルコー
ス、フラクトースなどのペントースの発酵を阻害する基
質の共存下で、アラビノース、キシロースなどのペント
ースを、選択的にかつ極めて短時間に発酵させ得ること
がわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3における本変異株ペディオコッカス・
ハロフィルス5P-1を用いたときの発酵速度、菌体増殖速
度などを示すグラフ。
【図2】実施例3におけるペディオコッカス・ハロフィ
ルスS-1 を用いたときの発酵速度、菌体増殖速度などを
示すグラフ。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.5 識別記号 庁内整理番号 FI 技術表示箇所 (C12N 1/20 C12R 1:01)

Claims (1)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ペディオコッカス属に属し、アルギニン
    デイミナーゼ経路を有し、フォスフォエノールパイルベ
    ート・デペンデント・シュガー:フォスフォトランスフ
    ェラーゼ・システムの細胞質リン酸転移酵素が欠損し
    た、ペントース発酵能を有する微生物を、ペントース含
    有物に接種、培養し、ペントースを選択的に発酵させる
    ことを特徴とするペントースの選択発酵方法。
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