JP7628343B2 - 光信号の品質を推定する方法及び装置 - Google Patents

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Description

本発明は、光スイッチを含む光伝送路中で発生する漏れ光(すなわち、クロストーク)の影響の推定技術に関する。
近年身近になりつつあるクラウドコンピューティングやビッグデータ解析などのアプリケーションはデータセンタの発展に大きく貢献しており、ある調査によると全世界のデータセンタのIPトラフィックは年率25%以上の割合で増加するなど、今後もこの傾向は継続すると予想される。一方、データセンタにおける75%以上のIPトラフィックは、データセンタ内で処理されるため、データセンタにおけるネットワークの規模拡大、そして低消費電力化、広帯域化が急務となっている。現状は、テラビット超級のスループットを持つ広帯域な電気スイッチを多段に接続することにより、データセンタ内で大規模ネットワークが構築されている。しかし、ムーアの法則が終焉に近づく中で、電気スイッチの微細化に限界が見え始めており、今以上の低消費電力、広帯域化が困難な状況にある。
光スイッチは回線交換の性質上、電気スイッチで実施されているパケット交換のような柔軟な処理には不向きなものの、帯域に対する消費電力の比をとったエネルギー効率の点で非常に優れる。一方、光スイッチの性能は光回線間の漏れ光(すなわちクロストーク)に大きく左右されるため、その最大スループットや規模を推定、規定することが難しい。非特許文献1では、主信号に1つの干渉信号を加算し、そのクロストークの影響を実験と数値シミュレーションにより比較した検討が報告されている。同様の課題は空間多重を利用した光伝送システムにおいても問題視されており、特許文献1はクロストークのバラつきを考慮した性能推定の方法を提案している。
しかし、非特許文献1や特許文献1以外も含めた既存技術のほとんどは、干渉信号の振幅変動を正規分布と見立てた方法(すなわち、ガウス近似)であり、クロストークによる信号品質の劣化を過剰に見積もっている。過剰に見積もられたクロストーク劣化の影響は光伝送システムの設計において余分なマージンを要求することとなり、スループットや伝送距離、スイッチ規模の観点においてシステム性能を最大限引き出す場面で障害となる。また、非特許文献1や特許文献1の従来技術は1つもしくは平均化された1つの干渉成分に対する光伝送システムを対象としており、複数信号の光干渉間で生じる相互作用を正確に分析できない。
国際公開公報WO2013/0945678A1 日本特許第6400119号公報
P. J. Winzer, A. H. Gnauck, A. Konczykowska, F. Jorge, and J.-Y. Dupuy, "Penalties from In-Band Crosstalk for Advanced Optical Modulation Formats," Proc. European Conference and Exhibition on Optical Communication (ECOC), Paper Tu.5.B.7, 2011 S. Savory, "Digital coherent optical receivers: Algorithms and subsystems,"IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics", vol.16, no.5, pp.1164-1179, 2010 K. Kikuchi, "Fundamentals of Coherent Optical Fiber Communications," IEEE/OSA Journal of Lightwave Technology, vol.34, no.1. pp.157-179, 2016 ITU-T Recommendation G.975.1,"Forward error correction for high bit-rate DWDM submarine systems" C. Clos, "A study of non‐blocking switching networks," The Bell System Technical Journal, vol.32,no.2,pp.406-424,1953
従って、本発明の目的は、一側面によれば、クロストークの影響を精度良く推定する技術を提供することである。
本発明に係る推定方法は、光送信部と光受信部とが複数の空間資源を利用する光伝送部を介して互いに接続されており且つコヒーレント検波を用いる光伝送システムについて光伝送部におけるビット誤り率の上限値を推定する推定方法であって、(A)光伝送部における異なる空間資源に対する各クロストークの振幅を、光送信部における光パワーの測定結果と光受信部における光パワーの測定結果とに基づき算出し、(B)コヒーレント検波及び光電変換後の電気信号に基づき得られる信号対雑音パワー比又は光信号対雑音パワー比から、光伝送システムにおける加法性白色ガウス雑音の分散を算出し、(C)各クロストークの振幅と、加法性白色ガウス雑音の分散と、時間軸とは異なる独立変数とで表される、ビット誤り率の算式において独立変数の値を変化させて、上記算式の最小値をビット誤り率の上限値として探索する処理を含む。
図1は、第1の実施の形態に係る光伝送システムの構成例を示す図である。 図2は、第1の実施の形態に係る光送信器の構成例を示す図である。 図3は、第1の実施の形態に係る光受信器の構成例を示す図である。 図4は、第1の実施の形態に係る光電変換部の構成例を示す図である。 図5は、実施の形態の効果を説明するための図である。 図6は、従来技術におけるクロストーク特性を表す図である。 図7は、実施の形態におけるクロストーク特性を表す図である。 図8Aは、第1の実施の形態に係る制御方法の処理内容を示す図である。 図8Bは、独立変数sとBERとの関係例を表す図である。 図8Cは、最小値の探索処理の一例を示す図である。 図9は、第1の実施の形態に係る光伝送システムにおける処理内容を示す図である。 図10は、第2の実施の形態に係る光伝送部の構成例を示す図である。 図11は、第2の実施の形態に係る光伝送システムにおける処理内容を示す図である。 図12は、第3の実施の形態に係る光伝送部の構成例を示す図である。 図13は、第4の実施の形態に係る処理内容を示す図である。 図14は、制御部をコンピュータにて実装する場合のコンピュータの機能構成例を示す図である。
[実施の形態1]
まず、本実施の形態に係る光伝送システムの一例について説明する。図1に、本実施の形態に係る光伝送システムの概要を示す。本光伝送システムは、光送信器1、入力調整部2、光伝送部3、出力調整部4、光受信器5、及び制御部6を含む。光送信器1は、例えばN個の光送信器(1-1乃至1-N)を含む。同様に、光受信器5は、例えばN個の光受信器(5-1乃至5-N)を含む。光伝送部3は、空間資源を利用して複数の光信号を伝送することを前提としており、光スイッチやマルチコアやマルチモードなどの空間多重ファイバが例として挙げられる。光送信器1で生成されたシングルキャリア又は波長分割多重光信号は、光伝送部3に適した入力形式に変換するための入力調整部2に入力される。入力調整部2の例としては、偏波依存型光スイッチの入力偏波調整機能、シングルモードファイバから空間多重ファイバの特定コアやモードに接続するための変換機能が考えられる。
光伝送部3は、各空間資源に割り当てられた光信号を伝送するが、理想的には独立である空間資源間でも実際は漏れ光が発生し、これが干渉成分(すなわちクロストーク)となる。光伝送部3から出力された光信号は、出力調整部4に入力され、入力調整部2と逆の操作が実行される。例えば、偏波依存型光受信器の入力偏波調整機能、空間多重ファイバの特定コアやモードからシングルモードファイバに接続するための変換機能が挙げられる。光受信器5は、入力された光信号を差動又はコヒーレント検波する。
制御部6は、光送信器1、光伝送部3及び光受信器5に含まれる各機能の組み合わせを制御する役割を有し、光送信器1のための第1制御部6-1、光伝送路3のための第2制御部6-2、光受信器5のための第3制御部6-3、及び光干渉推定部6-4を含む。光干渉推定部6-4は、条件に応じて第1制御部6-1、第2制御部6-2、第3制御部6-3と連携し、光伝送部3で発生した干渉成分がもたらす品質劣化の影響を解析且つ推定する。
図2は、光送信器1に含まれる光送信器1-1の構成を示す図である。なお、他の光送信器1-2乃至1-Nについても同様の構成を有する。光送信器1-1は、変調方式制御部1-1-1と、光信号生成部1-11乃至1-1mと、合波部1-1-2と、パワー検出部1-1-3とを有する。なお、mは波長多重数を表す。各光信号生成部は、変調方式制御部1-1-1により設定された信号フォーマットに基づいて光信号を生成する。例えば、光信号生成部1-11は、光源部1-111、光変調部1-112、電気信号生成部1-113を有する。
光源部1-111から出力される光波長λ1の連続光は光変調部1-112に入力され、光変調部1-112は、電気信号生成部1-113から受け取った電気信号を用いて、入力された連続光に対して変調を行う。同様の処理が光信号生成部1-12乃至1-1mにおいても実行され、生成された光波長λ1乃至λmの光信号は合波部1-1-2に入力される。合波部1-1-2は、入力されたm個の光信号から一つの光波長分割多重(WDM:Wavelength Division Multiplexing)信号を生成する。mが1の場合はシングルキャリア信号となり、条件によっては合波部1-1-2を省略可能である。必要に応じて、合波部1-1-2から出力されるシングルキャリア又はWDM信号の光パワーは、パワー検出部1-1-3において計測される。
図3は、光受信器5に含まれる光受信器5-1の構成を示す図である。なお、他の光受信器5-2乃至5-Nについても同様の構成を有する。光受信器5-1は、パワー検出部5-12と、局発光源5-13、光電変換部5-14、電気信号解析部5-15、受信信号調整部5-16、及び復調部5-17を有する。光受信器入力時点で、必要に応じて、パワー検出部5-12は、受信光信号から光パワーを計測する。受信光信号と、局発光源5-13からの局所光は、共に光電変換部5-14に入力され、光電変換部5-14により、受信光信号と局所光の光ビー成分は、アナログ又はデジタルの電気信号へ変換される。
電気信号解析部5-15は、必要に応じて、検出した電気信号から信号パワーや信号対雑音パワー比 (SNR:Signal-to-Noise Ratio) を測定する。例えば、信号パワーは電気信号の二乗平均値から算出され、SNR又は光信号対雑音パワー比(OSNR:Optical Signal-to-Noise ratio)は、検出した電気信号から計算される。受信信号調整部5-16の前段におけるSNRの計算方法として、検出した電気信号のスペクトルから信号パワーと雑音レベル(スペクトルのフロア値)の比を取る方法が一般的である。SNRは、帯域1Hzあたりの信号対雑音比として定義されるため、適切な係数を乗じることで12.5GHzあたりの雑音帯域で定義されるOSNRへ換算できる。
検出された電気信号は受信信号調整部5-16に入力され、受信信号調整部5-16により、必要に応じて信号に含まれる歪み成分の除去が実行される。受信信号調整部5-16の処理例として、非特許文献2及び3に示されるクロックリカバリ、周波数オフセット補償、偏波分離、位相雑音除去などが挙げられる。復調部5-17は、受信信号調整部5-16で歪み除去された電気信号に対して復調処理を行い、その処理結果は必要に応じて図示しない外部の機能や処理に出力される。
次に、以下で説明する数式の導出において仮定した光電変換部5-14の構成例を図4を用いて説明する。本光電変換部5-14は、光90度ハイブリッドミキサ5-141、光検出器5-142、及び光検出器5-143を含む。入力光信号E(t)(すなわち信号電界)は、局発光源5-13から出力される連続光(すなわち局所光)と共に光90度ハイブリッドミキサ5-141に入射される。光90度ハイブリッドミキサ5-141は、90度位相の異なる入力光と連続光の合成(ビート)成分をそれぞれの光検出器5-142及び5-143に出力する。光検出器5-142と光検出器5-143はそれぞれ受け取ったビート光を実部と虚部に対応した電気信号I及びIへ変換する。
[ビット誤り率(BER:Bit Error Ratio)を算出するための数式の導出過程について]
光干渉推定部6-4における演算は、以下に示すような導出過程を経て得られた数式によって行われる。
ここで、式(1)で表す信号電界E(t)と、式(2)で表す局所光E(t)とが光受信器5に入力された場合を考える。この例では、片偏波信号をもしくは偏波多重信号の片偏波成分を対象とする。
Figure 0007628343000001
Figure 0007628343000002
ここで、A(t)は信号の振幅を表し、θ(t)は信号の位相を表し、ωは信号の光周波数を表し、Aは局所光の振幅を表し、θ(t)は局所光の位相を表し、ωは局所光の光周波数を表す。
N個の干渉成分が信号に加わる場合、クロストークの影響を受けた信号電界Es,in(t)は、以下のように表される。
Figure 0007628343000003
ここで、EXT,iはi番目の干渉成分(すなわちクロストーク)の電界、AXT,iはi番目の干渉成分の振幅、θXT,iはi番目の干渉成分の位相、ωXT,iはその光周波数を表す。また、信号と干渉成分はそれぞれ独立と仮定する。
また、光電変換部5-14の構成例が図4に示すものである場合、光90度ハイブリッドミキサ5-141の出力は、それぞれ以下のようになる。
Figure 0007628343000004
Figure 0007628343000005
Figure 0007628343000006
Figure 0007628343000007
コヒーレントフロントエンドのロスをL、受光率をRaとおくと、光電変換後の式(4)乃至(7)はそれぞれ下記のとおりになる。
Figure 0007628343000008
Figure 0007628343000009
Figure 0007628343000010
Figure 0007628343000011
式(8)乃至(11)を用いることで、バランス光検出に相当する光電変換部5-14の出力はそれぞれ次式で表される。ここでは理想的なコヒーレント受信器を仮定し、a=1、L=1、τ=0、t=t'とする。
Figure 0007628343000012
Figure 0007628343000013
なお、E(t)の*は、複素共役を表す。式(12)及び(13)の導出過程では、コヒーレント受信器にて除去される直流成分と影響が小さいクロストーク同士のビート成分は無視した。
ここで、M値位相変調信号を仮定すると、A(t)=1、θ(t)∈{π/M,3π/M,5π/M,...,(2M-1)/M}となる。また、受信信号調整部5-16において理想的なデジタル信号処理による波形歪み等化を想定し、信号成分に対してω-ω=0,θ(t)=0とする。
Figure 0007628343000014
Figure 0007628343000015
ここで、θs'(t)は波形歪み補償で発生した位相回転を表す。第二項のクロストークが有する位相項は、周波数回転とランダムウォークな位相変動の積となるので、範囲[-π,π]の一様分布とみなせる。そのため、i番目のクロストーク成分の振幅をyとおくと、その分布は次式で表される。
Figure 0007628343000016
このように、あるクロストークの振幅分布は正弦関数(逆正弦関数)とみなせる。式(14)及び(15)では複数のクロストークが相互に影響を与えるので、式(16)をN個のクロストークへ拡張する。それぞれのクロストークは相関がなく独立とすると、その分布の特性関数MXT(s)は次式で表される。
Figure 0007628343000017
ここで、sは時間軸で表されるクロストークの振幅を線形写像した際の変換変数(s>0。独立変数とも呼ぶ。)、J(・)は0次変形ベッセル関数である。
次に、式(17)の特徴を用いて、BERを計算する。実部と虚部は独立と考えており導出はそのいずれかの成分のBERを表している。
Figure 0007628343000018
ここで、D、D、E、E(但し、D>D,E<E)は判定閾値、pはビット0の生起確率、pはビット1の生起確率、Pr[・]は確率変数Zに対する確率密度関数である。
雑音成分をZ=X+Yとし、Xはクロストークによる歪みの分布p(u)、Yはそれ以外の加法性白色ガウス過程の雑音とする。ここでは、Y~N(μ,σ)とおき、クロストークの振幅をuとする。また、σは、加法性白色ガウス雑音の分散である。XとYは独立であるため、式(18)は次式のように変形できる。
Figure 0007628343000019
式(19)を解くために、まず第一項に関連した次式を考える。
Figure 0007628343000020
任意の変数sを導入して二乗差の非負性(z-sσ≧0を利用すると以下の関係式が導出される。
Figure 0007628343000021
式(21)の関係を利用することで、式(20)の上限を次式で記述できる。
Figure 0007628343000022
式(22)の積分項は変換変数sを用いた特性関数の定義式に相当する。式(22)を書き換えるために、式(17)と同様に送信ビットb∈{0,1}に対する干渉成分の特性関数を次式とする。
Figure 0007628343000023
式(22)に式(23)を代入することで、ビット0を送信した場合に受信シンボルが閾値を超える確率は最終的に次式で与えられる。
Figure 0007628343000024
同様にして、ビット1を送信した場合に受信シンボルが閾値を超える確率は次式となる。
Figure 0007628343000025
=p=0.5とすると最終的なBERの上限式は次式となる。
Figure 0007628343000026
この例では、4つの判定閾値を想定したが、変調方式によっては4つ以上となる場合もある。以下では、二値位相変調信号(BPSK:Binary Phase Shift Keying)および四値位相変調信号(QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)を例にとり、N個の干渉成分が存在する環境下でのBERを導出する。各シンボルに対して同じ分散の加法性白色ガウス雑音が付加されるとすると、最適な判定閾値条件はD=∞、D=0、E=0、E=∞となる。そのため、式(26)は次式へ変形できる。
Figure 0007628343000027
ここで、Vはそれぞれのシンボルを受信した際の電圧値(より正確には各シンボルについての平均電圧値)であり、その絶対値はビット0およびビット1で等しいものとする。
式(27)の干渉成分の特性関数はN個の干渉成分の組合せの期待値となり、それぞれ次式で表わされる。
ここで、(N i)の縦書きは、N個からi個を選ぶ組み合わせを表しており、一般的に二項係数と呼ばれる。
導出において、ビット0にはシンボル-1、ビット1にはシンボル1を割り当てた場合を想定した。これまで、虚部と実部のBERをそれぞれ独立に考えてきた。BPSKの場合、片方の軸を考えればよいので、その分雑音電力は信号電力に対して相対的に半分となる。QPSKのBERは実部と虚部に独立に扱われる。そのため、それぞれのBERは次式となる。
Figure 0007628343000030
Figure 0007628343000031
一方、従来技術で用いられるガウス近似を用いた場合のBERはそれぞれ次式となる。
Figure 0007628343000032
Figure 0007628343000033
ここで、Q(・)はQ関数、σ は干渉成分(すなわちクロストーク)の分散の期待値を示す。
本実施の形態では、クロストークを時間軸tとは異なる独立変数軸sへ写像し、当該独立変数と加法性白色ガウス雑音の分散との積と総雑音との差の二乗の非負性(z-sσ≧0)に基づき、クロストークの振幅和が成す正弦波分布(逆正弦分布とも呼ぶ)の積(例えば式(23)、式(28)及び(29))を用いてBERの正確な上限値を算出するのに対して、従来技術は単にクロストークを適当なガウス分布に近似してBERを算出する。
なお、本実施の形態では、ある変数vで表現される任意の関数f(v)の、独立変数sへの線形写像は、以下の式で定義される。
Figure 0007628343000034
このように、正弦波分布として写像を行っている。なお、上で述べたBERの算出式を用いて演算を行う場合には、BERの値が最小となるように、独立変数sの値を変化させる。
[本実施の形態の効果]
図5は、クロストーク(ここでは漏れ光振幅の二乗平均)[dB]に対する相対BERを、従来技術、本実施の形態、解析毎にプロットした結果を表す。相対BERはクロストークがない状態でBER=10-9を得る際に必要なSNRで得られたBERを意味し、式(28)乃至(33)で算出されるBERに直接対応するわけではない。説明の便宜上、図5の全ての条件において、加法性白色雑音に起因したSNRは特定の値で固定とした。また、式(28)乃至(31)から分かるように、干渉成分に起因した劣化の影響はBPSKとQPSKで変わらないため、図5ではQPSKのみを対象とした。本実施の形態と解析の結果は非常によく一致することが確認できる。一方、従来技術はクロストーク数が少ない、もしくはクロストーク量が大きい領域で解析よりも高いBERを示す。
図6は、従来技術を適用した場合に、クロストーク振幅に対してその確率分布を計算した結果である。図6では、クロストーク数Nを1から4まで変化させており、点線は従来技術、丸印は解析結果を表している。例えば、N=1の結果に着目すると、従来技術と解析結果で大きく異なる傾向を示している。クロストーク振幅が、式(16)で示される正弦関数(逆正弦関数とも呼ぶ)の性質を有するのに対して、従来技術はこれをガウス近似するため、その影響が解析からの乖離を生んでいる。つまり、正弦関数の分布がBERに与える影響は本来小さいにもかかわらず、ガウス分布と見立てることで、過剰な劣化を見積もっていることを意味する。
図7は、本実施の形態を適用した場合に、クロストーク振幅に対してその確率分布を計算した結果である。図6と同様に、図7では、クロストーク数Nを1から4まで変化させており、一点鎖線は本実施の形態、丸印は解析結果を表している。どのクロストーク数においても、両者が一致した確率分布を示している。これは本実施の形態で算出した式(28)及び式(29)が実際の分布を精度良く表現できていることを示唆している。しかし、従来技術においてもクロストーク数Nが増加するにつれて、確率分布はガウス形状に近づいている。つまり、ある程度のペナルティを許容するのであれば、Nが4以上では従来技術が適用できる場合がある。図5においてもこの傾向は確認でき、N=4では従来技術と本実施の形態の差は比較的小さいことが確認できる。
[光干渉推定部6-4の機能について]
光干渉推定部6-4は、導出した式(28)乃至(31)等からクロストークの影響を推定する。光干渉推定部6-4の機能の詳細を以下で説明する。SNRと各クロストーク振幅とが既知の場合、式(28)乃至(31)等から正確なBERを推定できる。なお、クロストーク振幅の平均値が得られる場合もあるが、その場合には、各クロストーク振幅が同一の値であるものとして取り扱われる。
上記の例では、SNRと各クロストーク振幅を既知としたが、未知の場合は測定した結果を適用しても良い。例えば、第1制御部6-1、第2制御部6-2、第3制御部6-3が連携動作可能な光伝送システムにおいて、クロストーク振幅の絶対値は、伝送路3の各経路についてパワー検出部1-1-3で測定された光パワーとパワー検出部5-12で測定された光パワーとの差の平方根から計算される。
また、SNR又はOSNRは、特許文献2などで開示される方法を用いて電気信号解析部5-15の出力から計算しても良い。正確には加法性白色ガウス雑音の分散σの推定を行うが、受信信号調整部5-16で観測する電気信号が、その振幅の絶対値が1となるように規格化されている場合、加法性白色ガウス雑音の分散σはSNRの逆数となる。以降はこのことを前提として、既知のSNR又はOSNRから加法性白色ガウス雑音の分散σが容易に計算可能なものとして説明する。これらの実測値を、式(28)乃至(31)に適用することで、図5に示す内容と同様の結果が得られる。逆にBERが既知の場合、式(28)乃至(31)等からSNRと各クロストーク振幅又はその平均値を逆算できる。このときも同様に、クロストーク振幅及びSNRの何れかが未知の場合は、上述の方法でそのどちらかを測定すればよい。
このように、本実施の形態によれば、ビット誤り率、加法性白色ガウス雑音の分散σ、SNR又はOSNR、もしくは各クロストーク振幅又はその平均値により表される、信号の品質を正確に示すことが出来る。
また、光干渉推定部6-4の処理結果を、光送信器1にフィードバックすることで、光伝送システムを効率的に運用する制御を行うようにしても良い。SNRと各クロストーク振幅又はその平均値とが既知である場合、光信号を伝送する前に光干渉推定部6-4において予めBERを推定できる。ある変調方式で算出したBERが基準値を上回る場合、条件を変更することで、BERを基準値以下としつつ伝送容量を大きくすることができる。一例として、誤り訂正符号の符号化率及び符号化方式とシンボルの変調多値度とを設定できる場合を想定する。もし、固定の符号化率で、式(23)及び(26)、又は式(28)、(29)及び(31)から、PSK信号のBERを計算した場合に、計算結果が基準値を上回ったとする。この場合には、BERが基準値以下となるように、よりクロストーク劣化の耐性が高いPSKを選択する。例えば、式(28)乃至(31)等から分かるように、2値シンボルを使用するBPSKは4値シンボルを使用するQPSKよりも2倍歪みや雑音に対する耐性が高い。すなわち、QPSKではなく、BPSKに変更するように制御する。
同様の処理が誤り訂正符号の符号化率と符号方式の選択にも適用できる。ある誤り訂正符号の符号化率と符号化方式とを選択し、固定の変調多値度に対して、式(23)及び(26)、又は式(28)、(29)及び(31)からPSK信号のBERを計算した際に、計算結果が基準値を上回ったとする。このような場合には、BERが基準値以下となるように、より誤り訂正精度の高い符号化率及び符号化方式、またはそのいずれかを選択して設定する。
なお、上では誤り訂正符号の符号化率と、誤り訂正符号の符号化方式と、シンボルの変調多値度とのどちらかを選択する方法を説明したが、これらの組み合わせを選択するようにしても良い。
図8Aに、この処理手順の一例を示す。まず、光干渉推定部6-4は、信号送信前に、誤り訂正符号の符号化率及び符号化方式を選択し(ステップS1)、さらにシンボルの変調多値度を選択する(ステップS3)。光干渉推定部6-4は、式(23)及び(26)、又は式(28)―(31)に従ってBERを算出する(ステップS5)。BERの算出については、図8Cを用いて後に具体的に説明する。光干渉推定部6-4は、算出したBERが基準値以下であるか否かを判断する(ステップS7)。算出したBERが基準値以下であれば、光干渉推定部6-4は、第1制御部6-1を介して変調方式制御部1-1-1に対して、選択した符号化率及び符号化方式とシンボルの変調多値度とを通知して、変調方式制御部1-1-1は、各光信号生成部1-11乃至1-1mに対して設定する(ステップS13)。
一方、算出したBERが基準値を上回る場合には、光干渉推定部6-4は、シンボルの変調多値度を再選択する(ステップS9)。異なる変調多値度を選択可能であれば選択する。異なる変調多値度を選択できなければ、同じものを選択して良い。また、光干渉推定部6-4は、誤り訂正符号の符号化率及び符号化方式を再選択する(ステップS11)。異なる符号化率又は符号化方式もしくはその両方を選択できれば選択し、出来ない場合には同じものを選択する。そして処理はステップS5に戻る。
このような処理を行うことで、BERの基準値以下となる、誤り訂正符号の符号化率及び符号化方式と、シンボルの変調多値度との組み合わせで、通信を行うことが出来るようになる。例えば、光ファイバ通信分野では誤り訂正復号後にBER=10-15を達成することを目的することが多く、非特許文献4によるとBERの基準値はBER<2×10-3とされている。ステップS1及びS3の順番、ステップS9及びS11の順番は入れ替え可能である。また、上記処理を、第1制御部6-1や方式制御部1-1-1で行ったり、複数の構成要素にて処理を分担しても良い。さらに、誤り訂正符号の符号化率及び符号化方式と、シンボルの変調多値度とのいずれの組み合わせでも、BERが基準値以下にならない場合には、基準値自体に問題があるので、エラーを出すなど行うようにしても良い。
このように、精度良くクロストークによる劣化の影響を分析且つ推定でき、精度良く推定されたBERを用いて光送信器1で適切な変調方式を採用することにより、余分なマージンを削減でき、光伝送システムの伝送容量を増大させることができる。
次に、ステップS5におけるBERの算出について説明する。多くの場合、BERと独立変数sとの関係は、図8Bに模式的に示すように、下に凸の曲線となる。すなわち、BERの算出を行うためには、独立変数sを変化させつつ式(26)、式(30)又は式(31)における右辺括弧内の式の値を算出することで、その最小値を探索することになる。例えば、独立変数sの探索範囲において総当たりで最小値を探索するようにしても良いし、最急降下法等の一般的な最適化アルゴリズムにて最小値を探索するようにしても良い。例えば、図8Cに示すように、光干渉推定部6-4は、所定のアルゴリズム又はルールに従って、独立変数sに値を設定する(ステップS101)。そして、光干渉推定部6-4は、式(26)、式(30)又は式(31)の右辺括弧内の式に従って、独立変数sの今回の値に対するBERを算出する(ステップS103)。その後、光干渉推定部6-4は、処理の終了条件が満たされたか否かを判断する(ステップS105)。この終了条件は、例えば計算回数の上限であるが、その他最適化アルゴリズムによって決まってくる他の終了条件であっても良い。処理の終了条件が満たされていない場合には、処理はステップS101に戻る。一方、処理の終了条件が満たされた場合には、光干渉推定部6-4は、算出されたBERの値のうち最小値を、解として選択する(ステップS107)。
このように図8C又はこれに類する処理を行って、独立変数sを変化させつつ式(26)、式(30)又は式(31)の右辺括弧内の式の値を最小化することで、目的とするBERの上限値を推定できる。
また、図9を用いて本実施の形態に係る光伝送システムで行われる処理の一例を説明する。まず、光干渉推定部6-4は、各クロストークの振幅又はその平均値が未知か否かを判断する(ステップS31)。各クロストークの振幅又はその平均値が未知である場合には、光送信器1及び光受信器5のパワーを用いて推定する。具体的には、光干渉推定部6-4は、第1制御部6-1を介して光送信器1に対して、第3制御部6-3を介して光受信器5に対して制御信号を送信する。制御信号を受信した光送信器1は、送信光パワーを測定する(ステップS23)。また、制御信号を受信した光受信器5は、受信光パワーを測定する(ステップS25)。例えば、光送信器1の送信光パワー検出部1-1-3では、生成された連続光、シングルキャリア、又はWDM信号のパワーを測定する。また、光受信器5の受信光パワー検出部5-12では、受信光パワーを測定する。
そして、光干渉推定部6-4は、光送信器1から送信光パワー値を受信し、光受信器5から受信光パワー値を受信し、送信光パワー値と受信光パワー値との差に基づき、各クロストークの振幅又はその平均値を算出する(ステップS27)。そして処理はステップS29に移行する。
各クロストークの振幅又はその平均値が既知である場合又はステップS27の後に、光干渉推定部6-4は、SNR、OSNR又は加法性白色ガウス雑音の分散σが未知であるか否かを判断する(ステップS29)。OSNR等が未知である場合、光干渉推定部6-4は、第3制御部6-3を介して光受信器5に制御信号を送信する。制御信号を受信した光受信器5は、電気信号解析部5-15で算出されたスペクトルを光干渉推定部6-4に送信し、光干渉推定部6-4は、例えば非特許文献4で開示されている方法などを用いてSNR又はOSNRを推定し(ステップS31)、さらに上で述べた方法でSNR又はOSNRから加法性白色ガウス雑音の分散σを推定する(ステップS33)。
そして、光干渉推定部6-4は、式(23)及び(26)、又は式(28)乃至(31)を用いて、BERを算出する(ステップS35)。本ステップでは図8Cの処理が行われる。なお、クロストークの振幅及びOSNR等以外のパラメータについては既知であるものとする。例えば、受信シンボルの平均電圧値Vは、固定の値または各シンボルについて測定された値の平均値を用いる。そして処理はステップS35に移行する。
OSNR等が既知である場合又はステップS33の後に、光干渉推定部6-4は、光送信器1を制御するか否かを判断する(ステップS37)。光送信器1を制御しない場合には、処理を終了する。一方、光送信器1を制御する場合には、BERが基準値以下になるように、誤り訂正符号の符号化率及び符号化方式とシンボルの変調多値度との少なくともいずれかを選択して、光送信器1に設定する方式制御を実行する(ステップS39)。そして、処理を終了する。
このようにすれば、未知のパラメータについては測定及び推定を行って、既知のパラメータについてはそのまま用いて、正確にBERを算出することが出来るようになる。なお、ステップS21乃至S27とステップS29乃至S33との順番は入れ替えても良い。
[実施の形態2]
図1の光伝送システムにおいて、図10に示す光伝送部3を採用する場合もある。本実施の形態に係る光伝送部3は、入力光パワー検出部3-101乃至3-10k、光パワー調整部3-201乃至3-20k、光スイッチ部3-301、出力光パワー検出部3-401乃至3-40kを含み、場合によって、光パワー調整部3-201乃至3-20k、光スイッチ部3-301及び出力光パワー検出部3-401乃至3-40kは、L段繰り返される。kは、光スイッチ部3-301の入力ポート又は出力ポートの数を表す。なお、kは、各段において異なる場合もある。
まずLが1の場合を考える。SNRと各クロストーク振幅又はその平均値とが既知の場合、式(23)及び(26)、又は式(28)乃至(31)から正確なBERを推定できる。各クロストーク振幅又はその平均値が未知の場合、クロストーク振幅の絶対値は、光スイッチ部3-301の経路毎に、入力光パワー検出部3-101乃至3-10kで測定された光パワーと、出力光パワー検出部3-401乃至3-40kで測定された光パワーとの差の平方根から計算される。
次に、Lが2以上の場合を考える。L段後のSNRと各クロストーク振幅又はその平均値とが既知又は推定可能な場合、式(23)及び(26)、又は式(28)乃至(31)からBERの上限を推定できる。L段後のクロストーク振幅又はその平均値が未知の場合、クロストーク振幅の絶対値は、入力光パワー検出部3-101乃至3-10kで測定された光パワーと、L段後の出力光パワー検出部3-401乃至3-40kで測定された光パワーと差の平方根から計算される。この考え方を、非特許文献5などのスイッチ構築方法に適用することで、多段接続された大規模な光スイッチに対してもBERの上限値推定が適用できる。
また、第1の実施の形態における図8Aで説明した処理を行うようにしても良い。すなわち、推定されたBERが基準値以下となる、誤り訂正符号の符号化率及び符号化方式と、シンボルの変調多値度との組み合わせで、通信を行うことが出来るようになる。
また、図11を用いて本実施の形態に係る光伝送システムで行われる処理の一例を説明する。
なお、第1の実施の形態と異なるのは、ステップS23の代わりにステップS51を実行し、ステップS25の代わりにステップS53を実行するものである。
具体的には、光干渉推定部6-4は、第2制御部6-2を介してパワー測定を行う光伝送路部3の入力光パワー検出部3-101乃至3-10kと、出力光パワー検出部3-401乃至3-40kとに制御信号を送信する。制御信号を受信した光伝送路部3の入力光パワー検出部3-101乃至3-10kは、光伝送路3への入力光パワーを測定する(ステップS51)。また、制御信号を受信した光伝送路3の出力光パワー検出部3-401乃至3-40kは、光伝送路3からの出力光パワーを測定する(ステップS53)。光干渉推定部6-4は、測定された入力光パワーの値及び出力光パワーの値を、入力光パワー検出部3-101乃至3-10k及び出力光パワー検出部3-401乃至3-40kから受信し、光伝送路3における入出力パワーの差を計算することで、各クロストーク振幅又はその平均値が求められる。
このように本実施の形態によれば、一段の光スイッチや多段接続された大規模な光スイッチであっても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。すなわち、精度の高いBERを算出することができるようになる。なお、本実施の形態において図9の処理を行うようにしても良い。
[実施の形態3]
図1の光伝送システムにおいて、図12に示す他の光伝送部3を採用する場合もある。本実施の形態に係る光伝送部3は、空間多重光ファイバ部3-111、空間調整部3-211、光パワー調整部3-311乃至3-31k、出力光パワー検出部3-411乃至41k、及び空間調整部3-511を含む。この順序や組み合わせは変更可能であり、場合によってこれらはL段繰り返される。kは、空間多重光ファイバ部3-111の入力ポート又は出力ポートの数を表す。空間多重光ファイバ部3-111の一例として、複数のコアを持つマルチコアファイバや複数のモードを伝搬させるマルチモードファイバなどが挙げられる。
シングルキャリア又はWDM信号は、空間多重光ファイバ部3-111に入力され、当該空間多重光ファイバ部3-111を経て空間調整部3-211に入力される。空間調整部3-211は、各空間資源をシングルコアモードファイバへ変換する役割を有する。空間調整部3-211により変換された光のパワーは、光パワー調整部3-311乃至3-31kで調整された後に、その光パワーは出力光パワー検出部3-411乃至3-41kにて測定される。
Lが1の場合、空間調整部3-511は光信号を各光受信器へ送信する。Lが2以上の場合、空間調整部3-511は、入力光を次の空間多重光ファイバへ入力可能な形式(マルチコア又はマルチモード)に変換し、シングルモードファイバから空間多重ファイバの特定コアやモードに接続するための変換機能の役割を担う。Lが2以上且つLが最大値の場合、Lが1の場合と同様に空間調整部3-511は光信号を各光受信器に送信する。なお、Lが2以上且つLが最大値の場合、出力光パワー検出部3-411乃至41k及び空間調整部3-511については、受信器側に配置される場合もある。
本実施の形態では、第2の実施の形態と同様に式(23)及び(26)、又は式(28)乃至(31)から正確なBERを推定できる。各クロストーク振幅又はその平均値が未知の場合、クロストーク振幅の絶対値は、送信光パワー検出部1-1-3で測定された光パワーと、出力光パワー検出部3-411乃至3-41kにおいて測定された光パワーとの差の平方根から計算される。同様にSNR又はOSNRが未知の場合、電気信号解析部5-15で算出された周波数波形(スペクトル)から非特許文献4で開示されている方法などにより、SNR又はOSNRが推定される。本実施の形態に係る一連の処理も図11と同様である。このように本実施の形態は、一段の空間多重光ファイバや多段接続された空間多重光ファイバに適用可能であり、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
[実施の形態4]
第1乃至第3の実施の形態では、式(23)及び(26)、又は式(28)乃至(31)からBERを算出していた。しかし、図5乃至図7に示すように干渉数Nが増えるにつれて、従来技術と実施の形態との間でのペナルティや分布誤差が減少していることが確認できる。そのため、干渉数Nが予め設定した値を超えると、式(32)及び(33)に示す従来技術に相当する計算を適用しても良い。
すなわち、干渉推定部6-4は、干渉数Nが基準以下であるか否かを判断する(図13:ステップS71)。干渉数Nが基準以下である場合には、干渉推定部6-4は、式(23)及び(26)、又は式(28)乃至(31)に従ってBERを算出する(ステップS73)。本ステップにおいては、図8Cに示すような処理を行う。そして処理を終了する。一方、干渉数Nが基準を超える場合には、干渉推定部6-4は、式(32)及び(33)に従ってBERを算出する(ステップS75)。そして処理を終了する。
このようにすれば、干渉数Nが基準を超える場合には、式(23)及び(26)、又は式(28)乃至(31)で必要であった0次変形ベッセル関数といった特殊関数の計算を省略できるため、計算規模の削減が可能であり、演算処理の高速化や低電力化に寄与する。但し、BERの精度については若干落ちるようになる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。各実施の形態についてはその要素を任意に組み合わせてもよい。また、各実施の形態において、任意の要素を除去して実施する場合もある。処理フローについては、処理結果が変わらない限り順番を入れ替えたり、複数のステップを並列に実行する場合もある。なお、BERの推定自体は、光干渉推定部6-4のような光伝送システム内部の構成要素ではなく、他のシステムのコンピュータにて算出するようにしても良い。
なお、上で述べた制御部6は、例えばコンピュータ装置であって、図14に示すように、メモリ2501とCPU(Central Processing Unit)2503とハードディスク・ドライブ(HDD:Hard Disk Drive)2505と表示装置2509に接続される表示制御部2507とリムーバブル・ディスク2511用のドライブ装置2513と入力装置2515とネットワークに接続するための通信制御部2517とがバス2519で接続されている。なお、HDDはソリッドステート・ドライブ(SSD:Solid State Drive)などの記憶装置でもよい。オペレーティング・システム(OS:Operating System)及び本発明の実施の形態における処理を実施するためのアプリケーション・プログラムは、HDD2505に格納されており、CPU2503により実行される際にはHDD2505からメモリ2501に読み出される。CPU2503は、アプリケーション・プログラムの処理内容に応じて表示制御部2507、通信制御部2517、ドライブ装置2513を制御して、所定の動作を行わせる。また、処理途中のデータについては、主としてメモリ2501に格納されるが、HDD2505に格納されるようにしてもよい。例えば、上で述べた処理を実施するためのアプリケーション・プログラムはコンピュータ読み取り可能なリムーバブル・ディスク2511に格納されて頒布され、ドライブ装置2513からHDD2505にインストールされる。インターネットなどのネットワーク及び通信制御部2517を経由して、HDD2505にインストールされる場合もある。このようなコンピュータ装置は、上で述べたCPU2503、メモリ2501などのハードウエアとOS及びアプリケーション・プログラムなどのプログラムとが有機的に協働することにより、上で述べたような各種機能を実現する。
制御部6は、1台の装置に実装される場合だけではなく、複数台の装置にその機能が分散実装される場合もある。また、CPUは、GPU(Graphics Processing Unit)或いはFPGA(Field-Programmable Gate Array)などの場合もある。
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
本実施の形態の第1の態様に係る方法は、光送信部と光受信部とが複数の空間資源を利用する光伝送部を介して互いに接続されており且つコヒーレント検波を用いる光伝送システムにおける制御部が、光伝送部において異なる空間資源に対する各クロストークの振幅を時間軸とは異なる独立変数軸へ正弦波分布として写像し、上記写像に用いた独立変数と総雑音との振幅差の二乗が非負である性質に基づきクロストークの振幅和が成す正弦波分布の積を用いて、光伝送部における光信号の品質を推定する処理を含む。
このようにすれば、クロストークの振幅分布を正規分布として近似した従来技術より精度高く光信号の品質を推定できるようになる。なお、上でも述べたように、品質は、ビット誤り率と、加法性白色ガウス雑音の分散σ、SNR又はOSNRと、各クロストーク振幅又はクロストーク振幅の平均値とを含むものである。
なお、上記光伝送システムにおいて、位相変調信号を送受信する場合、独立変数がs(s>0)であり、加法性白色ガウス雑音の分散をσ、g番目のシンボル判定の閾値をD(Dg+1>D)、h番目のシンボル判定の閾値をE(Eh+1>E)、閾値Dの総数をG、閾値Eの総数をH、ビットb∈{0,1}送信時のクロストークの特性関数をMX|b(s)、クロストークの数をN、0次変形ベッセル関数をJ(・)、各ビットb∈{0,1}送信時のi番目のクロストークの振幅をAXT|b,i、及びビット誤り率をBERとして、当該ビット誤り率BERを表す式
Figure 0007628343000035
Figure 0007628343000036
を用いて光信号の品質を推定するようにしても良い。
このような式にてBERとクロストークの振幅と加法性白色ガウス雑音の分散σとの関係が記述できる。なお、式(26)は、上記の第1の式のように一般化される。
また、上記光伝送システムにおいて、2値シンボルからなる位相変調信号(BPSK信号)又は4値シンボルからなる位相変調信号(QPSK信号)を送受信する場合、独立変数がs(s>0)であり、加法性白色ガウス雑音の分散をσ、受信シンボルの電圧値をV、アンサンブル平均をE(・)、ビットb∈{0,1}送信時のクロストークの特性関数をMX|b(s)、クロストークの数をN、0次変形ベッセル関数をJ(・)、各ビットb∈{0,1}送信時のk番目のクロストークの振幅をAXT|b,k、及びビット誤り率をBERとして、当該ビット誤り率BERを表す式
Figure 0007628343000037
Figure 0007628343000038
を用いて光信号の品質を推定するようにしても良い。
BPSK又はQPSKを用いる場合には、上記のような式を用いることで、精度高くBER等を算出できるようになる。
さらに、上で述べた制御部が、光伝送部における入出力光パワー差又は光送信部と光受信部との間の光パワー差から推定した各クロストークの振幅又は全クロストークの振幅の平均値を用いて、光信号の品質を推定するようにしても良い。一方、上で述べた制御部が、推定された信号対雑音パワー比又は光信号対雑音パワー比から加法性白色ガウス雑音の分散σを推定し、推定された加法性白色ガウス雑音の分散σを用いて、光信号の品質を推定するようにしても良い。このように、未知のパラメータについては測定により得られた値を用いて、光信号の品質を特定しても良い。
さらに、上記方法は、制御部が、推定された光信号の品質に基づき、光送信部で生成する光信号の変調方式と誤り訂正符号とのうち少なくともいずれかを設定する処理をさらに含むようにしても良い。このように精度高くBER等の品質が推定できれば、余分なマージンを見込まずに適切な変調方式や誤り訂正符号を設定できるようになり、光伝送部における効率的な光通信が可能となる。
例えば、上記方法は、制御部が、光送信部で生成する光信号の誤り訂正符号が特定の誤り訂正符号である場合に、光信号の品質であるビット誤り率が基準以下になるように、光送信部で生成する光信号の変調方式(例えば変調多値度)を設定する処理をさらに含むようにしても良い。また、上記方法は、制御部が、光送信部で生成する光信号の変調方式が特定の変調方式である場合に、光信号の品質であるビット誤り率が基準以下になるように、光送信部で生成する光信号の誤り訂正符号の符号化率と符号化方式とのうち少なくともいずれかを設定する処理をさらに含むようにしても良い。変調方式及び誤り訂正符号の両方の設定を行っても良いが、一方のみを設定するようにしても良い。
また、上で述べた制御部が、ビット誤り率が既知で、加法性白色ガウス雑音の分散σが既知又は導出可能である場合、上で述べた式から、光信号の品質としてクロストークの振幅の平均値を算出するようにしても良い。他方、上で述べた制御部が、ビット誤り率及び各クロストークの振幅又は全クロストークの振幅の平均値が既知である場合、上で述べた式から、光信号の品質として加法性白色ガウス雑音の分散σを算出するようにしても良い。加法性白色ガウス雑音の分散σが得られれば、SNRやOSNRを導出可能である。
さらに、上記方法は、制御部が、クロストークの数Nが基準を上回る場合には、クロストークの振幅分布を正規分布として近似した式により光信号の品質を推定する処理をさらに含むようにしても良い。クロストークの数Nが大きくなると上で述べた式で算出するのと差が少なくなるので、演算量を減らすために従来技術における式を採用しても良い。
なお、Q[・]をQ関数とし、クロストークの分散の期待値をσ とすると、上で述べた制御部が、クロストークの数Nが基準を上回る場合には、ビット誤り率BERを表す第2の式
Figure 0007628343000041
Figure 0007628343000042
を用いて光信号の品質を推定するようにしても良い。
本実施の形態の第2の態様に係る推定方法は、光送信部と光受信部とが複数の空間資源を利用する光伝送部を介して互いに接続されており且つコヒーレント検波を用いる光伝送システムについて光伝送部におけるビット誤り率の上限値を推定する推定方法であって、(A)光伝送部における異なる空間資源に対する各クロストークの振幅を、光送信部における光パワーの測定結果と光受信部における光パワーの測定結果とに基づき算出し、(B)コヒーレント検波及び光電変換後の電気信号に基づき得られる信号対雑音パワー比又は光信号対雑音パワー比から、光伝送システムにおける加法性白色ガウス雑音の分散を算出し、(C)各クロストークの振幅と、加法性白色ガウス雑音の分散と、時間軸とは異なる独立変数とで表される、ビット誤り率の算式において独立変数の値を変化させて、上記算式の最小値をビット誤り率の上限値として探索する処理を含む。
本推定方法を実行することで、精度の良いビット誤り率(BER)を得ることが出来るようになる。なお、簡易的に各クロストークの振幅は、クロストークの振幅の平均値であっても良い。
なお、上で述べた算式は、上記独立変数及び上記各クロストークの振幅についての0次変形ベッセル関数を含むように表現し得る。これは、従来技術とは異なる点である。
なお、上記光伝送システムにおいて、位相変調信号を送受信する場合、上記算式が、独立変数をs(s>0)、加法性白色ガウス雑音の分散をσ、g番目のシンボル判定の閾値をD(Dg+1>D)、h番目のシンボル判定の閾値をE(Eh+1>E)、閾値Dの総数をG、閾値Eの総数をH、ビットb∈{0,1}送信時のクロストークの特性関数をMX|b(s)、クロストークの数をN、0次変形ベッセル関数をJ(・)、各ビットb∈{0,1}送信時のi番目のクロストークの振幅をAXT|b,iとして、
Figure 0007628343000043
Figure 0007628343000044
であっても良い。なお、式(26)は、上記算式のように一般化される。
また、上記光伝送システムにおいて、2値シンボルからなる位相変調信号(BPSK信号)又は4値シンボルからなる位相変調信号(QPSK信号)を送受信する場合、上記算式が、独立変数がs(s>0)であり、加法性白色ガウス雑音の分散をσ、受信シンボルの電圧値をV、アンサンブル平均をE(・)、ビットb∈{0,1}送信時のクロストークの特性関数をMX|b(s)、クロストークの数をN、0次変形ベッセル関数をJ(・)、各ビットb∈{0,1}送信時のk番目のクロストークの振幅をAXT|b,kとして、
上記BPSK信号である場合には、
Figure 0007628343000045
であり、
前記QPSK信号である場合には、
Figure 0007628343000046
であっても良い。
BPSK又はQPSKを用いる場合には、上記のような式を用いることで、精度高くBER等を算出できるようになる。
また、上記推定方法は、探索されたビット誤り率の上限値に基づき、光送信部で生成する光信号の変調方式と誤り訂正符号とのうち少なくともいずれかを設定する処理をさらに含むようにしても良い。
さらに、上記推定方法は、上で述べた光送信部で生成する光信号の誤り訂正符号が特定の誤り訂正符号である場合に、ビット誤り率の上限値が基準以下になるように、光送信部で生成する光信号の変調方式を設定する処理をさらに含むようにしても良い。また、上記推定方法は、上で述べた光送信部で生成する光信号の変調方式が特定の変調方式である場合に、ビット誤り率の上限値が基準以下になるように、光送信部で生成する光信号の誤り訂正符号の符号化率と符号化方式とのうち少なくともいずれかを設定する処理をさらに含むようにしても良い。
さらに、上記推定方法は、クロストークの数Nが基準を上回る場合には、クロストークの分散の期待値と加法性白色ガウス雑音の分散とについての関数で表される第2の算式によりビット誤り率の上限値を推定する処理をさらに含むようにしても良い。
受信シンボルの電圧値をV、Q[・]をQ関数とし、クロストークの分散の期待値をσ として、上記第2の算式は、2値シンボルからなる位相変調信号(BPSK信号)である場合には、
Figure 0007628343000049
であり、4値シンボルからなる位相変調信号(QPSK信号)である場合には、
Figure 0007628343000050
であっても良い。
上記方法をプロセッサに実行させるためのプログラムを作成することができて、そのプログラムは、様々な記憶媒体に記憶される。

Claims (11)

  1. 光送信部と光受信部とが複数の空間資源を利用する光伝送部を介して互いに接続されており且つコヒーレント検波を用いる光伝送システムについて前記光伝送部におけるビット誤り率の上限値を推定する推定方法であって、
    前記光伝送部における異なる空間資源に対する各クロストークの振幅を、前記光送信部における光パワーの測定結果と前記光受信部における光パワーの測定結果とに基づき算出し、
    前記コヒーレント検波及び光電変換後の電気信号に基づき得られる信号対雑音パワー比又は光信号対雑音パワー比から、前記光伝送システムにおける加法性白色ガウス雑音の分散を算出し、
    前記各クロストークの振幅と、前記加法性白色ガウス雑音の分散と、時間軸とは異なる独立変数とで表される、ビット誤り率の算式において前記独立変数の値を変化させて、前記算式の最小値を前記ビット誤り率の上限値として探索する
    処理を含む推定方法。
  2. 前記算式は、前記独立変数及び前記各クロストークの振幅についての0次変形ベッセル関数を含む
    請求項1記載の推定方法。
  3. 前記光伝送システムにおいて、位相変調信号を送受信し、
    前記算式が、
    前記独立変数をs(s>0)、前記加法性白色ガウス雑音の分散をσ、g番目のシンボル判定の閾値をD(Dg+1>D)、h番目のシンボル判定の閾値をE(Eh+1>E)、前記閾値Dの総数をG、前記閾値Eの総数をH、ビットb∈{0,1}送信時のクロストークの特性関数をMX|b(s)、クロストークの数をN、0次変形ベッセル関数をJ(・)、各ビットb∈{0,1}送信時のi番目のクロストークの振幅をAXT|b,iとして、
    Figure 0007628343000051
    Figure 0007628343000052
    である請求項1記載の推定方法。
  4. 前記光伝送システムにおいて、2値シンボルからなる位相変調信号(BPSK信号)又は4値シンボルからなる位相変調信号(QPSK信号)を送受信し、
    前記算式が、
    前記独立変数がs(s>0)であり、前記加法性白色ガウス雑音の分散をσ、受信シンボルの電圧値をV、アンサンブル平均をE(・)、ビットb∈{0,1}送信時のクロストークの特性関数をMX|b(s)、クロストークの数をN、0次変形ベッセル関数をJ(・)、各ビットb∈{0,1}送信時のk番目のクロストークの振幅をAXT|b,kとして、
    上記BPSK信号である場合には、
    Figure 0007628343000053
    であり、
    前記QPSK信号である場合には、
    Figure 0007628343000054
    である請求項1記載の推定方法。
  5. 探索された前記ビット誤り率の上限値に基づき、前記光送信部で生成する光信号の変調方式と誤り訂正符号とのうち少なくともいずれかを設定する処理
    をさらに含む請求項1記載の推定方法。
  6. 前記光送信部で生成する光信号の誤り訂正符号が特定の誤り訂正符号である場合に、前記ビット誤り率の上限値が基準以下になるように、前記光送信部で生成する光信号の変調方式を設定する処理
    をさらに含む請求項1記載の推定方法。
  7. 前記光送信部で生成する光信号の変調方式が特定の変調方式である場合に、前記ビット誤り率の上限値が基準以下になるように、前記光送信部で生成する光信号の誤り訂正符号の符号化率と符号化方式とのうち少なくともいずれかを設定する処理
    をさらに含む請求項1記載の推定方法。
  8. 前記クロストークの数Nが基準を上回る場合には、クロストークの分散の期待と前記加法性白色ガウス雑音の分散とについての関数で表される第2の算式により前記ビット誤り率の上限値を推定する処理
    をさらに含む請求項1記載の推定方法。
  9. 受信シンボルの電圧値をV、Q[・]をQ関数とし、前記加法性白色ガウス雑音の分散をσ とし、クロストークの分散の期待値をσ として、
    前記第2の算式は、
    2値シンボルからなる位相変調信号(BPSK信号)である場合には、
    Figure 0007628343000057
    であり、4値シンボルからなる位相変調信号(QPSK信号)である場合には、
    Figure 0007628343000058
    である請求項8記載の推定方法。
  10. 請求項1乃至9のいずれか1つ記載の推定方法を、プロセッサに実行させるためのプログラム。
  11. 光送信部と光受信部とが複数の空間資源を利用する光伝送部を介して互いに接続されており且つコヒーレント検波を用いる光伝送システムにおけるビット誤り率の上限値を推定する推定装置であって、
    記光伝送部において異なる空間資源に対する各クロストークの振幅を、前記光送信部における光パワーの測定結果と前記光受信部における光パワーの測定結果とに基づき算出する手段と
    前記コヒーレント検波及び光電変換後の電気信号に基づき得られる信号対雑音パワー比又は光信号対雑音パワー比から、前記光伝送システムにおける加法性白色ガウス雑音の分散を算出する手段と
    前記各クロストークの振幅と前記加法性白色ガウス雑音の分散と時間軸とは異なる独立変数とで表される、ビット誤り率の算式において前記独立変数の値を変化させて、前記ビット誤り率の最小値を前記ビット誤り率の上限値として探索する手段と
    を有する推定装置。
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