JP7474482B2 - 熱電変換素子および熱電変換素子の製造方法 - Google Patents

熱電変換素子および熱電変換素子の製造方法 Download PDF

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Description

本願は、基材上に設けられた一対の熱電対部材を有し、この一対の熱電対部材の一方がN型の炭素系薄膜で他方がP型の炭素系薄膜である熱電変換素子と、この熱電変換素子の製造方法に関する。
次世代自動車、鉄道、飛行機、住宅、工場、および研究設備などの各種設備に用いられる窓に、視界を妨げたり、透明度を大きく損なったりすることなく、温度計測(熱電対)機能を持たせることができれば、上記各種設備の目視管理と熱管理の両立ができ、各種設備および各種設備内の機器の長寿命化、ならびに各種設備の利用者の快適性の向上等に貢献できる。さらに、透明な窓部材に温度差が付与された際に電力を発生することで、この電力をセンサー駆動または通信電源に利用できる。
これを実現するための透明温度センサーとして、インジウム酸化物などの透明導電体の電気抵抗値の変化で温度計測機能を持たせた技術、および別の熱電対用途に適した合金薄膜を透明基材上に成膜して、透明度を保ちながら温度計測を行う技術が知られている(特許文献1)。さらに、透明導電体の電気抵抗よりも温度係数の大きな電気抵抗を備えるサーミスタ材料の結晶薄膜を、透明な絶縁フィルム上に成膜して、温度計測を行う技術も知られている(特許文献2)。
特許第3483544号公報 特許第6094421号公報
特許文献1のように、透明導電体自体の抵抗値を温度センサーに用いる場合、抵抗値の温度係数が小さいため、温度計測の感度および精度を大きくできない。さらに、熱電対用途に適した合金薄膜を基材上に成膜する場合も、膜厚が小さいと電気抵抗値が大きくなり、温度計測がノイズによる影響を受けやすくなる。この影響を軽減するために膜厚を大きくすると、急激に透明度が低下する。特許文献2の場合も同様に、大きな電気抵抗を備えるサーミスタ材料の結晶薄膜を薄くすると、透明度と感度が高くなるものの、電気抵抗率も高くなってノイズに弱くなる。ノイズの影響を軽減するために、サーミスタ材料の結晶薄膜を厚くすると、透明度と感度が急激に低下する。
また、特許文献1および特許文献2では、センサーに電圧を印加して電気抵抗を測る方式である。このため、このセンサーに電圧が印加されない場合は、センサー自体が加熱しても、電気信号または電力を発しない。一方、熱電対のようにSeebeck効果に基づき、センサー自体が温度変化による起電力を自発的に生じる場合、センサーの抵抗値が十分に低いとき、熱電変換による発電素子としても利用できる。しかしながら、透明な部材の熱電変換によって発電を行なう素子に関する技術は、これまで存在しなかった。
本願の課題は、一対の熱電対部材がPN接合された炭素系薄膜である熱電変換素子を提供することである。
本願の熱電変換素子は、基材と、基材上に設けられた少なくとも一対の熱電対部材とを有する熱電変換素子であって、一対の熱電対部材の一方がN型ドープされた炭素系薄膜で、一対の熱電対部材の他方がP型の炭素系薄膜である。本願の熱電変換素子の製造方法は、紫外光を透過する基材と、基材上に設けられ、少なくとも一対の熱電対部材の形状を有するP型の炭素系薄膜を備える複合体のP型の炭素系薄膜上であって、一対の熱電対部材の一方の部分に光塩基発生剤層を形成する光塩基発生剤層形成工程と、光塩基発生剤層形成工程後、基材側からP型の炭素系薄膜に紫外光を照射する紫外光照射工程を有する。
本願の熱電変換素子は、N型ドープされた炭素系薄膜とP型の炭素系薄膜を備える一対の熱電対部材を有している。このため、透明度を大きく損なうことなく、基材に温度計測(熱電対)機能を持たせることができる。
(a)実施形態の熱電変換素子の上面模式図、(b)他の実施形態の熱電変換素子の上面模式図。 ある光塩基発生剤の構造、この光塩基発生剤の光反応による構造変化、およびこの光塩基発生剤とグラフェンの相互作用を示す化学式と化学反応式。 実施例の構造体の2層グラフェンの熱起電力の経時変化を示すグラフ。 光塩基発生剤を塗布し、紫外光を照射したグラフェンの構造モデル。 実施例の熱電変換素子の画像。 実施例の熱電変換素子の上面模式図。 実施例の2層グラフェンを用いた熱電変換素子の局所加熱による温度および熱起電力の変化を示すグラフ。 実施例の2層グラフェンを用いた熱電変換素子の局所加熱による温度および熱起電力の変化に対する長期安定性を示すグラフ。 実施例の2層グラフェンを用いた熱電変換素子の熱起電力と測温部の温度変化との関係を示すグラフ。 実施例の2層グラフェンを用いた熱電変換素子の局所加熱で温度差を付与した場合の電流電圧特性および熱電出力電力の特性を示すグラフ。 実施例の単層グラフェンを用いた熱電変換素子の局所加熱による温度および熱起電力の変化を示すグラフ。
図1(a)は、本願の実施形態の熱電変換素子10を示している。図1(b)は、本願の他の実施形態の熱電変換素子20を示している。熱電変換素子10は、基材1と、一対の熱電対部材5を備えている。熱電変換素子20は、熱電対部材5を三対備えている。このように、本願では、熱電変換素子が少なくとも一対の熱電対部材を備えている。基材1は透明であることが好ましい。本願における“基材が透明”とは、基材の可視光透過率が50%以上であることをいう。基材の可視光透過率は80%以上であることが好ましい。なお、可視光は波長400~800nmの光である。
透明な基材1としては、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の樹脂材料、ならびにサファイア、石英、フッ化カルシウム(CaF)、クリスタルガラス、ソーダ石灰ガラス、およびホウ珪酸ガラス等の無機材料が挙げられる。
一対の熱電対部材5は、基材1上に設けられている。一対の熱電対部材5の一方はN型ドープされた炭素系薄膜2(以下「N型炭素系薄膜2」と記載することがある)で、一対の熱電対部材5の他方はP型の炭素系薄膜3(以下「P型炭素系薄膜3」と記載することがある)である。N型ドープされた炭素系薄膜2の作製方法は後述する。本願における「炭素系薄膜」とは、主成分が炭素であり、厚さが0.24nm以上0.66nm以下の膜である。炭素系薄膜2,3は透明であることが好ましい。本願における“炭素系薄膜が透明”とは、炭素系薄膜の可視光透過率が50%以上であることをいう。炭素系薄膜の可視光透過率は80%以上であることが好ましい。
炭素系薄膜2,3としては、単層グラフェン、2層グラフェン、および2層グラフェン中に部分的に単層グラフェンの領域が混在するグラフェンが挙げられる。光透過率測定によって算出した層数の平均値は、単層グラフェンで0.8以上1.2以下、2層グラフェンで1.8以上2.2以下、2層グラフェン中に部分的に単層グラフェンの領域が混在するグラフェンで0.8以上2.2以下である。
本実施形態では、基材1上の全体に炭素系薄膜が設けられており、この炭素系薄膜から電気的に絶縁されるようにして、一対の熱電対部材5が形成されている。より具体的には、一対の熱電対部材5の外周に沿って、炭素系薄膜に引っかき傷をつけたり、紫外光照射またはレーザー光照射によって線状に炭素系薄膜を除去したりして、一対の熱電対部材5とその周囲の炭素系薄膜を絶縁する。また、一対の熱電対部材5のみを残して、基材1上の他の炭素系薄膜を除去してもよい。さらに、基材1上の一対の熱電対部材5の領域にのみ炭素系薄膜を形成してもよい。
P型炭素系薄膜3とN型炭素系薄膜2の界面であるPN接合部4を加熱して、PN接合部4の周囲より高温する、またはPN接合部4を冷却して、PN接合部4の周囲より低温することで、PN接合部4と、P型炭素系薄膜3およびN型炭素系薄膜2のPN接合部4と反対側の端部との温度差が生じる。この温度差によるSeebeck効果で生じるP型炭素系薄膜3とN型炭素系薄膜2の間の熱起電力を、導線6で接続された電圧計7によって計測できる。この計測した電圧に応じて、PN接合部4の温度が測定できる。また、電圧計7に代えて負荷を導線6に接続すれば、この熱起電力によって負荷が駆動する。
図1(b)に示すように、複数対の熱電対部材5を直列に接続して、それぞれの熱電対部材5のPN接合部4の集合体9の全体を測温部とすることで、一対の熱電対部材の熱起電力に直列数を乗じた分だけ測温感度を高めることができる。このような複数対の熱電対部材5が直列に接続された構造はサーモパイルと呼ばれる。熱電対による温度計測は、Seebeck係数が異なる2種類の導電体の一端を接合し、Seebeck効果により、その接合部の温度変化に比例して生じる熱起電力を、接合部と反対側のこれら2種類の導電体の端の間で計測することにより行う。これら2種類の導電体としては、P型導電体およびN型導電体が望ましい。したがって、基材1上の炭素系薄膜においても、P型炭素系薄膜3およびN型炭素系薄膜2を、温度計測部分である一端で接合し、他端で起電力測定が行えるような形状にする。
本願の実施形態の熱電変換素子10,20の製造方法、すなわち炭素系薄膜によるP型導電体およびN型導電体の形成方法について、グラフェンを例に説明する。単層および2層グラフェンは、大気中で吸着した酸素分子または水分子、および基材の影響を受けて、正孔濃度1013cm-2程度のP型導電体である場合が多い。このP型導電体のグラフェンへの光塩基発生剤塗布と紫外光照射のプロセスによって、グラフェンの正孔を消去し、さらに電子を供給してN型導電体を形成できることが分かった。さらにこのN型ドープ状態は、大気中で2か月経過した後も安定していること、および紫外光照射による欠陥形成がないことも分かった。
グラフェンが大気中でP型導電体を示すため、基材1上のグラフェンを用いて一対の熱電対部材5を形成するには、P型導電体とSeebeck係数が異なる導電体を、望ましくはN型導電体を、所定の領域に形成する必要がある。熱電変換素子10,20の製造方法は、光塩基発生剤層形成工程と、紫外光照射工程を備えている。光塩基発生剤層形成工程では、複合体のP型グラフェンの所定部分に光塩基発生剤層を形成する。この複合体は、基材1と、基材1上に設けられ、少なくとも一対の熱電対部材5の形状を有するP型グラフェンを備えている。
そして、その所定部分であるP型グラフェン上であって、一対の熱電対部材5の一方の部分(図1(a)および図2(b)の符号2の部分)に光塩基発生剤層を形成する。光塩基発生剤層形成工程は、弾性体、例えばジメチルポリシロキサン(PDMS)またはポリイミドフィルムの表面に形成した光塩基発生剤層を、P型グラフェン上の所定部分に転写する過程を備えていることが好ましい。これに代えて、他の方法でP型グラフェン上に光塩基発生剤を塗布してもよい。この過程により、P型グラフェン上に光塩基発生剤が均一かつ十分に塗布される。このため、光塩基発生剤の光反応によるN型ドーピングの効果がP型グラフェン上で均一に与えられるとともに、P型グラフェン上に存在する光塩基発生剤が不十分の場合に空気または水分がP型グラフェンに侵入してN型ドーピングの効果を損ねることを防止できる。
光塩基発生剤層形成工程後の紫外光照射工程では、基材1側からP型グラフェンに紫外光を照射する。すなわち、基材1に紫外光を照射して、基材1を透過した紫外光がP型グラフェンに照射されるようにする。P型グラフェンは薄いので、基材1を介してP型グラフェンに照射された紫外光は、P型グラフェン上に形成された光塩基発生剤に届く。光塩基発生剤に届いた紫外光によって、光塩基発生剤は塩基を発生する。この塩基は、構造変化してP型グラフェンに電子を供与し、さらに塩基誘導体となる。つまり、この塩基は、P型グラフェンのN型ドーパントとして機能する。
基材1は紫外光を透過する。“紫外光を透過する”とは、その物を介して光塩基発生剤に紫外光を照射したときに、光塩基発生剤が塩基を発生する程度の紫外光透過性を有することをいう。なお、“紫外光を照射する”は、紫外光を含有する光を照射することを意味し、紫外光以外の光も含まれる光を照射することを含む。また、基材1側から紫外光を照射することによって、P型グラフェンと光塩基発生剤の境界で塩基が多く発生し、P型グラフェンのN型ドープを促進し、P型グラフェンはN型グラフェンに変化する。塩基誘導体は、正電荷を帯びており、安定化された状態でN型グラフェン上に存在する。光塩基発生剤から塩基が発生すると、光塩基発生剤から塩基が脱離した物質に由来する酸誘導体も、生成したN型グラフェン上に存在する。
なお、P型グラフェン上に形成された光塩基発生剤にP型グラフェン側から紫外光が照射された場合、P型グラフェンの表面近傍で光反応が完了して塩基と酸誘導体が生成する領域(光反応領域)と、光反応領域の上に堆積し、紫外光と未反応の領域(未反応領域)とが存在する場合がある(図4参照)。光反応領域では、光塩基発生剤は、P型グラフェンに電子を供与して、P型グラフェンをN型グラフェンにできる塩基と、不活性な酸誘導体に変化している。なお、塩基の少なくとも一部は、P型グラフェンをN型グラフェンにした後に、塩基誘導体としてN型グラフェン上に存在する。
この塩基、塩基誘導体、および酸誘導体は、空気中の酸素または水分等がN型グラフェン表面に侵入することを防いで、N型グラフェンのN型状態が損なわれるのを抑制する。加えて、未反応領域がある場合、未反応領域も、空気中の酸素または水分等が光反応領域およびN型グラフェン表面に侵入することを防いで、N型グラフェンのN型状態が損なわれるのを抑制する。このため、塩基、塩基誘導体、および酸誘導体の上に、光塩基発生剤をさらに有する熱電変換素子では、N型グラフェンのN型ドープが、大気中で長時間、例えば約2か月間安定する。また、塩基誘導体および酸誘導体は、グラフェンのキャリアの符号や熱起電力を調整するために用いられる。
光塩基発生剤に由来する塩基は、P型グラフェンのN型ドーパントである。塩基誘導体は、光塩基発生剤に由来する塩基の誘導体である。つまり、塩基誘導体は、光塩基発生剤に紫外光が照射されて発生した塩基が、P型グラフェンに電子を供与して、正電荷を帯びた物質である。光塩基発生剤は、紫外光が照射されると塩基を発生する。図4に示すように、紫外光照射工程を経て得られた熱電変換素子は、N型グラフェン上に設けられ、光塩基発生剤に由来する塩基の誘導体で、正電荷を帯びた塩基誘導体と、N型グラフェン上に設けられ、光塩基発生剤から塩基が脱離した物質に由来する酸誘導体を備えている。塩基誘導体および酸誘導体の上に、光塩基発生剤をさらに備えていてもよい。
光塩基発生剤としては、2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1,2-ジシクロヘキシル-4,4,5,5-テトラメチルビグアニジウムn-ブチルトリフェニルボラート、および1,2-ジイソプロピル-3-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]グアニジウム2-(3-ベンゾイルフェニル)プロピオナートなどが挙げられ、いずれも市販品として入手できる。光塩基発生剤から発生した塩基および塩基誘導体は、N型グラフェン上に設けられている。この塩基および塩基誘導体は、塩基がグラフェンのN型ドーパントとして機能できれば、N型グラフェンに接していても、酸誘導体または他の物質を介してN型グラフェン上に設けられていてもよい。
酸誘導体は、光塩基発生剤から塩基が脱離した物質に由来する。つまり、酸誘導体は、光塩基発生剤に紫外光が照射されて塩基が発生し、発生した塩基が光塩基発生剤から脱離したときに残った物質自体、この物質からCOなどの簡単な分子が抜けたもの、この物質にHなどの簡単な化学種が付加したもの、またはこの物質の化学構造がそのまま変化したものである。酸誘導体はN型グラフェン上に設けられている。酸誘導体は、N型グラフェンに接していても、塩基、塩基誘導体、または他の物質を介してN型グラフェン上に設けられていてもよい。
本実施形態の光塩基発生剤は、基材1およびN型グラフェンの透明度をほとんど損なわない。また、紫外光の照射量(照射密度および照射時間)によってドーピング量を精密に制御することができるうえ、同じグラフェン上の任意の位置に任意のパターンでN型領域を形成することができる。したがって、透明ヒータを目的としたグラフェン膜の一部にPN接合パターンを形成することで、P型とN型の双方のグラフェンの熱起電力の変化によってその接合部の温度変化を検知する熱電対の機能を持たせることができる。塩基発生剤はアルコール等で除去して、元のP型グラフェンに戻すことが可能である。このため、N型ドーピングの状態を変更または修正できる。
本願によれば、次世代自動車、鉄道、飛行機、住宅、工場の製造設備、および研究施設の観察装置などの各種設備に用いられる窓に、透明度を大きく損なうことなく、温度計測(熱電対)機能を持たせることができる。紫外光の照射量(照射密度および照射時間)によってドーピング量を精密に制御することができるため、PN接合部の熱起電力(温度計測の感度)を最適化できる。例えば、グラフェンの用途の1つである透明ヒータにおいて、同じグラフェン素材で透明度を大きく損なうことなく温度計測機能も付与すれば、透明部材で精密かつ信頼性の高い温度制御が実現できる。これにより、上記の各種設備の熱診断や熱マネージメントを可能にし、各種設備で用いられている機器の長寿命化、各種設備の利用者の快適性の向上、製造設備での製造状態の管理、および観察装置での観察技術の向上に貢献する。
(グラフェンの製造)
銅箔を加熱しながら、プラズマ中の荷電粒子または電子のエネルギーで銅箔中の炭素成分を活性化し、銅箔に含まれる炭素成分、反応容器内に付着した微量の炭素成分、および処理ガスに含まれる微量の炭素成分を用いて、単層グラフェンおよび2層グラフェン(以下、単層グラフェンと2層グラフェンをまとめて、グラフェンと記載することがある)を銅箔上にそれぞれ製造した(特開2015-13797号公報参照)。
(グラフェンのPET基材への転写と複合体の加工)
熱剥離シート(日東電工社製、リバアルファー)上に、銅箔上のグラフェンを貼った。0.5mol/L過硫酸アンモニウムで銅箔をエッチングした後、流水で洗浄した。この熱剥離シートとグラフェンの積層体のグラフェン部分を、A4判のPET基材に貼り付けた。熱加熱することで剥離シートを剥離して、透明のPET基材上にグラフェンが形成された複合体を得た。A4判の複合体を切断して、一辺が10mmの正方形、幅10mm×長さ20~20mmの長方形、および幅80mm×長さ90mmの長方形の複合体をそれぞれ得た。
(グラフェンの層数および光透過率の測定)
グラフェンの層数測定は、ヘイズメータ(日本電色工業株式会社、NDH5000SP)を用いた光透過率測定によって行った。光源は白色LEDであり、観測エリアは10mm×10mm程度である。グラフェンは1層あたり光透過率が2.3%低下することを用いて、層数nは以下の式で算出できる。
n=LOG(サンプル透過率/基板の透過率)/LOG(0.977)
この算出結果から、測定の誤差等を鑑みて、0.8≦n≦1.2を単層、1.8≦n≦2.2を2層とした。光塩基発生剤を塗布したグラフェン形成PET基材の光透過率測定は、上記と同一のヘイズメータを用いて評価した。
(光塩基発生剤の塗布)
図2に示すように、光塩基発生剤(PBG)の2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(東京化成工業製、O0396)は、陰イオン化した分子A(2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸:2-(9-oxoxanthen-2-yl)propionic acid)と陽イオン化した分子B(1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン:1,5,7-triazabicyclo[4.4.0]dec-5-ene)から構成される塩である。
この光塩基発生剤の10~20mg/mLメタノール溶液をPDMS(polydimethylsiloxane)シート(東レ、SILPOT 184)またはポリイミドフィルム(東レ・デュポン、Kapton 20EN、厚さ7μm)上に滴下した。複合体のグラフェンの両端以外の部分または四隅以外の部分に、このPDMSシートまたはポリイミドフィルムを押し当てて、グラフェンをN型ドープする領域の表面に光塩基発生剤を転写した。ホットプレート上に、表面に光塩基発生剤が設けられたグラフェンを載せ、大気中80℃で20分間乾燥して、溶媒のメタノールを除去した。
(熱電対のための光塩基発生剤塗布パターン形成)
図1(a)に示すように、透明のPET基材1上にグラフェンが形成された長方形の複合体の上に、P型グラフェン3とN型グラフェン2が接合した導電パターンである一対の熱電対部材5を形成した。本実施例では、未処理のグラフェンがP型導電体であることを活用して、このP型グラフェン上であってN型導電体としたい領域にのみ、光塩基発生剤層を形成し紫外光照射を行う方法を用いた。
一対の熱電対部材5とその周囲の間を電気的に絶縁するため、本実施例では、一対の熱電対部材5の輪郭に沿って、ピンセットまたはカッターナイフのような鋭利な物を、自重で載せる程度に荷重をかけて、引っかき傷をつけた。一対の熱電対部材5とその周囲の間が電気的な絶縁が取れていることは、一対の熱電対部材5とその周囲の間をテスター(横河電機製デジタルマルチメータ、734型)で導通チェックして確認した。また、図1(b)に示すように、三対の熱電対部材5を直列に接続し、これらのPN接合部4の集合体9全体を測温部として測温感度を高めた。つまり、サーモパイル構造をグラフェンの熱電対部材で形成した。
(紫外光照射)
光源(分光計器製、高強度分光光源:SM25型ハイパーモノライト)を用いて、PET基材1側から、波長340nm、最大強度1.3mW/cmの紫外光(UV)を最大460秒間照射して、PET基材1と、P型グラフェン3と、N型導電体を形成したい領域に存在する光塩基発生剤に由来する物質を備える構造体を得た。この光源は、照射面積が10mm×10mmであり、主に光塩基発生剤によるN型ドーピングの確認、すなわちHall係数や熱起電力の符号の反転の確認のために用いた。
本実施例の熱電対のように、紫外光を照射する面積が広い場合には、別の紫外光源(ウシオ電機製、スポット光源:スポットキュアSP9型)またはUVLEDが3個搭載された携帯型光源(コンテック製、PW-UV365H-03L型)を用いた。このUVLEDは、波長370nmにピーク強度を持つ光源である。また、N型ドーピング量の制御のため、光パワーメータ(日置電機製、3664型)を用いて、面積が1cmの付属のセンサーで紫外光の照射強度を計測した。
このスポット光源を用いた紫外光照射は、次のようにして行った。石英製のライトガイド(ウシオ電機製、ファイバーユニットAF-101NQ型)を介して、ライトガイド照射口から一定の距離にP型グラフェンを設置して、このP型グラフェンに紫外光を照射した。紫外光源内に設置したランプは、光塩基発生剤の光反応を促進する波長400nm未満の紫外光の放射量を適度に含むDeepUVランプ(ウシオ電機製、UXM-Q256BY型)を用いた。ライトガイド照射口からグラフェンまでの距離(照射距離)を50mmとすることで、直径30mmの照射エリアを一度に照射した。光パワーメータを用いて照射位置における照射強度を測定すると、38mW/cmであった。
P型グラフェンを維持したい領域と、N型ドーピングの影響を与えたくない領域への無用な紫外光照射を避けるために、N型ドーピングの領域のみに穴を開けたマスクを、光塩基発生剤層形成後のグラフェンの上方にPET基材1を介して設置した。10mm×10mmの正方形のグラフェン上の四隅2mm角の領域を除いて光塩基剤塗布した試料にも同様に紫外光照射を行い、後述するHall係数の符号変化によってN型グラフェンの形成を確認した。
また、この携帯型光源を用いた紫外光照射は、次のようにして行った。光塩基発生剤層形成後のグラフェンの上方に、PET基材1を介して、厚さ1.1mm、幅26mm、長さ76mmの石英製スライドガラスを厚さ方向に13枚重ねて設置し、この石英製スライドガラス上に光源を静置することで、光源とグラフェンとの間の照射距離を14.3mmに保持した。この照射距離での照射位置における照射エリアの直径は約20mmであり、照射強度を測定すると1.7mW/cmであった。
熱電対部材5のN型ドーピングエリア全体を照射するために、上記の光源配置で一定時間照射した後、N型ドーピングエリアの長手方向に光源を20mmずつ移動して、再び同じ時間照射する操作を繰り返した。10mm×10mmの正方形のグラフェン上の四隅2mm角の領域を除いて光塩基剤塗布した試料にも同様に紫外光照射を行い、後述するHall係数の符号変化によってN型グラフェンの形成を確認した。なお、紫外光源の種類と紫外光照射強度によってドーピング量が変わらないように、各光源での照射時間を調整して、照射強度(mW/cm)と照射時間(s)の積である照射ドーズ量(mJ/cm)を同じ値にした。
(シート抵抗とHall係数の測定)
構造体の光塩基発生剤層が設けられていないグラフェンの四隅に金電極を接触させ、Hall計測システム(東陽テクニカ製、Resitest8300型)を用いて、van der Pauw法でこれら4端子間に対するシート抵抗RとHall係数Rを測定した。すなわち、基材とグラフェンから構成される複合体、基材、グラフェン、および光塩基発生剤から構成される構造体、ならびに基材、グラフェン、および光塩基発生剤から構成され、光塩基発生剤に紫外光を照射した後の他の構造体の3種類の試料のグラフェンのシート抵抗とHall係数をそれぞれ測定した。試料への印加電流は0.2~0.5mAとし、印加磁場は正磁場・負磁場ともに0.55Tとした。Rの符号の正負により、グラフェンのキャリアが正孔(P型)であるか、電子(N型)であるかを判定した。
(熱起電力の測定)
電気的に絶縁され、離れて設けられた2種の金属板の上に、紫外光未照射の構造体のP型グラフェン部分を載せた。そして、この構造体の両端であって、光塩基発生剤層が設けられていないP型グラフェンの部分に、温度計測用の薄型K熱電対をそれぞれ接触させて固定した。光塩基発生剤層が設けられていない両端部分は、熱起電力測定用の電極および温度計測用の熱電対を接触させる部分である。この2種の金属板を加熱し、互いに異なる温度に制御することで温度差を生じさせて、2つのK熱電対による温度差と、2つのK熱電対のアルメル線間の熱起電力を、計測装置(日置電機製、LR8400型メモリハイロガー)で記録した。熱起電力を測定しながら紫外光照射を行ない、照射量の増加によるグラフェンのキャリアのP型からN型への経時変化を測定した。
(熱電変換素子による温度計測)
熱電変換素子20を用いた温度計測試験の手順を説明する。図1(b)に示すように、60mm×80mmのサイズのPET基材1上のグラフェンシートから、三対の熱電対部材5を直列につないだPN接合のパターンを作製した。そして、N型ドーピング領域に光塩基発生剤層を形成し、紫外光照射を行った。この三対の熱電対部材5の回路の両端を、ナノボルトメータ(キーサイトテクノロジー社製、34420A型)に接続して、熱起電力が計測できるようにした。三対の熱電対部材5の測温部となるPN接合部4の集合体9を局所的に加熱し、他の部分は加熱しないようにして、測温部の温度変化を熱起電力で計測した。
なお、一対の熱電対部材5のPN接合部4のみを局所加熱する場合には、10mm角サイズのセラミックヒータをPN接合部4に接触させ、三対の熱電対部材5のPN接合部4の全てを一斉に加熱する場合には、幅80mm以上の均熱部を持つ100mm角のシリコンラバーヒータの先端部分を全てのPN接合部4に接触させた。このとき、薄片状のK型熱電対を、ヒータと熱電対部材5の間に挟むことにより、加熱部分の実際の温度変化を計測した。
熱電対部材5の加熱部分と反対側の部分にも薄膜K熱電対を設置して温度計測し、加熱部分との温度差を求めた。K型熱電対による温度計測は、デジタルマルチメータ(ケースレーインスツルメンツ社製、2700型)を用いて行った。ヒータ用の電源(TEXIO社製、PA36-3B型)の出力を調節して所定の温度変化となるようにヒータを加熱し、熱電対部材5の熱起電力の応答と、K熱電対の応答を比較することで、温度計測試験を行った。
(グラフェン熱電対への温度差付与で生じる電力の計測)
P型グラフェン3とN型グラフェン2の一端を接合し、その接合部であるPN接合部4を加熱すると、P型グラフェン3とN型グラフェン2の他端に生じる熱起電力により、電力を発生する。そこで、熱電対部材5への温度差付与で生じる電力を計測した。図1(b)に示す熱電変換素子20の三対の熱電対部材5が直列に接続された全てのPN接合部4を、上記と同様の方法で一斉に加熱して、熱電対部材5に温度差を付与した。
所定の温度差となるように加熱した後、三対の熱電対部材5の回路の両端を、ナノボルトメータ(キーサイトテクノロジー社製、34420A型)およびソースメータ(ケースレーインスツルメンツ社製、2400型)に接続して、電流電圧特性を計測した。温度差を付与した際の電流電圧特性において、横軸を電流値、縦軸を電圧値にした場合、その縦軸切片を熱電対部材5から発生する開放電圧と、傾きを熱電対部材5の電気抵抗であるとして、熱電変換素子20から発生する最大出力電力を求めた。
(結果)
実施例で用いた光塩基発生剤2-(9-オキソキサンテン-2-イル)プロピオン酸1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エンは、図2に示すように、紫外光照射によって、分子Bがプロトンを1個放出して分子B′の塩基となる。そして、この塩基1分子当たり電子1個をグラフェンに供与することで、グラフェンのドーピング状態を変化、つまりFermiレベルを移動させ、グラフェン特有の電子構造として知られるディラックポイントを横切ることで、グラフェンがP型導電体からN型導電体に変化すると推測される。
図3は、PET基材1と2層グラフェンを備える複合体の2層グラフェン上に光塩基発生剤層を形成した後、PET基材1に紫外光を照射したときの2層グラフェンの熱起電力の経時変化を示している。この実験では2層グラフェンに6Kの一定の温度差を付与して、熱起電力を計測した。また、紫外光の照射密度を1.3mW/cmとした。その結果、紫外光照射を開始すると速やかに熱起電力の符号が正から負に反転し、2層グラフェンがP型導電体からN型導電体へ変化した。このとき、N型導電体として熱起電力が一定値(本実施例では約-120mV)に飽和するまでの時間は約80sであり、N型ドーピングに必要な照射ドーズ量は、1.3mW/cm×80s=104mJ/cm以上であった。
紫外光照射前後の熱電対部材5の熱起電力を温度差で割ると、それぞれ+57μV/Kおよび24μV/Kであり、その差は81μV/Kとなった。P型グラフェン3とN型グラフェン2の熱起電力の差は熱電対部材5の感度を示している。本実施例の熱電対部材5を用いると、後述の実施例でも同様に示されるように、市販の熱電対(B熱電対、R熱電対、S熱電対、K熱電対、E熱電対、またはT熱電対)以上の感度を持っていることが示された。また、Hall係数についても同様に、単層グラフェンと2層グラフェンの両方で、紫外光照射による符号の反転(P型からN型へ変化)を確認した。
ここで、光塩基発生剤がグラフェンのドーピング状態を紫外光照射によってP型からN型に変化させるメカニズムについて考察する。グラフェン上に形成された光塩基発生剤層に紫外光が照射されると、図2に示すように、分子AからCOが分離し、さらに分子Bから分離したプロトンが結合した分子A′に変化し、非イオン化して安定化する。一方、分子Bからプロトンを1個放出した分子B′は塩基となり、1分子当たり電子1個をグラフェンに供与して、正イオン化した塩基誘導体である分子B′′となり安定化する。
図4に、グラフェンの表面に光塩基発生剤を塗布し、グラフェンの裏面から紫外光を照射したグラフェンの構造モデルを示す。裏面からグラフェンを通過して光塩基発生剤層に紫外光が届いた際に、図2に示す反応によって、光塩基発生剤層は分子B′と分子A′に変化する。ただし、光塩基発生剤層の厚みによっては、グラフェンの表面近傍で光反応が完了した領域(光反応領域)だけでなく、その上に堆積する未反応の領域(未反応領域)が存在する場合もある。光反応領域では、分子B′が供与した電子によって、P型グラフェンは、正孔が消去された後、電子ドープ状態のN型グラフェンになる。
なお、図4には示していないが、電子を供与した分子B′は、塩基誘導体である分子B′′に変化する。分子A′は不活性でありドーピングには寄与しない。分子B′、分子B′′、および分子A′は、空気中の酸素または水分等がグラフェン表面に侵入してグラフェンのN型状態を損なうのを防ぎ、大気中でのN型導電体の安定性を与えていると考えられる。加えて、未反応領域も、空気中の酸素または水分等が光反応領域またはグラフェン表面に侵入してN型状態を損なうのを防ぎ、大気中でのN型導電体の安定性を与えていると考えられる。
PET基材1上に形成した2層グラフェンおよび単層グラフェンのそれぞれに対し、厚さ約1μmの光塩基発生剤層(PBG)を形成した前後の光透過率を測定した結果を表1に示す。なお、光透過率は、白色LEDの透過率である。表1に示すように、2層グラフェンおよび単層グラフェンは、PBG形成後でも85%以上の高い光透過率を有している。これだけでなく、PBG形成による光透過率の低下は約1%以下に過ぎなかった。この結果は、PBG形成によってPET基材1上に形成したグラフェンの透明度が大きく損なわれることはないことを示している。
Figure 0007474482000001
透明のPET基材1上にグラフェンが形成された幅60mm×長さ80mmの長方形の積層体の上に、幅5mmの導電パターンからなる三対の熱電対部材5を直列に接続した。このサーモパイル構造の画像を図5に示す。図5と表1に示すように、P型グラフェンおよびN型グラフェンと、その周囲のグラフェンの部分は、いずれも透明度が維持されていることが分かる。図5に示した熱電対部材は、2層グラフェンを用いて形成したものであり、N型導電体として十分な熱起電力を持たせるために、照射ドーズ量104mJ/cm以上のUV照射を行って形成した。単層グラフェンを用いた熱電対部材の場合も同様に、P型グラフェンおよびN型グラフェンと、その周囲のグラフェンの部分は、いずれも透明度が維持されることを確認した。
2層グラフェンを用いて形成した熱電対部材について、図6(a)から図6(c)に示す熱電変換素子の温度計測試験の結果を説明する。図6(a)に示すように、三対の熱電対部材を直列につないだ熱電変換素子において、左、中央、および右の測温部(PN接合部)を、それぞれ測温部11a,11b,11cとする。これらの測温部11a,11b,11cのみを順番に1か所ずつヒータで局所加熱したときの熱電変換素子の熱起電力を計測した。同時に、加熱部付近と、加熱部付近と反対側のP型グラフェンおよびN型グラフェンの端部との温度差を薄膜K熱電対で計測した。これらの熱起電力を図7(a)から図7(c)に示す。
図7(a)から図7(c)に示すように、測温部11a,11b,11cのいずれについても、ヒータの温度変化(ヒータ近傍の薄膜K熱電対で計測)に追従して、熱電変換素子の熱起電力の値も変化した。熱起電力の応答は、ヒータの熱容量によるものである。ヒータに比べて体積が1/10以下のPET基材1、および原子層1~2層分のグラフェン、厚さ数ミクロンのPBGの熱容量は、ヒータの熱容量に対して無視できる値である。温度変化後、一定値として熱電変換素子に12℃の温度差が付与された際の熱起電力は、約1mVを示し、薄膜K熱電対と同様にノイズの全く入っていない安定な値を示した。同じ12℃の温度差を測温部11a,11b,11cに与えたときの熱電変換素子の熱起電力は、いずれも約1mVでほぼ同じであった。
つぎに、図6(b)に示すように、三対の熱電対部材の測温部全体9を同時に加熱した。このときの熱電変換素子の熱起電力の応答性を図7(d)に示す。加熱したヒータ近傍と、それと反対側のP型グラフェンおよびN型グラフェンの端部の温度差を約12℃で安定化させたとき、熱電変換素子の熱起電力は約3.3mVを安定に示し、図7(a)から図7(c)に示した一対の熱電対部材を機能させた熱電変換素子の熱起電力を3倍した値となった。これにより、複数対の熱電対部材を直列につないだ場合、PN接合部の集合体(測温部)全体の温度変化に応じた熱起電力は、一対分の熱起電力に直列数を乗じた値となり、測温感度を高められることが分かった。以上のように、グラフェンを用いたサーモパイル構造が実現できることを確認できた。
P型グラフェンおよびN型グラフェンから構成される熱電対部材を備える熱電変換素子において、測温部であるPN接合の温度変化を計測できることが示されたが、局所加熱部分を測温部から離した場合の熱電対部材の応答性、つまり測温部の空間分解能についても調べた。図6(c)に示すように、三対の熱電対部材を直列接続した熱電変換素子において、図6(a)に示す測温部11b,11cから等距離である地点12に局所加熱用のヒータを接触させ、図7(a)から図7(d)と同様に12℃の温度差を付与した。
その結果、図7(e)に示すように、熱電変換素子の熱起電力は、PN接合部11bまたは11cを加熱したときの熱電変換素子の熱起電力の1/3以下になることが分かった。PET基材を通じて、地点12からPN接合部に熱伝導があるため、熱電変換素子に小さな熱起電力が発生するものの、加熱部がPN接合部から離れると熱起電力が小さくなり、測温部はPN接合部の面積、本実施例では約5mm四方の面積での空間分解能を持っていることが分かった。熱起電力のノイズが顕著に発生しない限りにおいて、PN接合部の面積を小さくすると、その分だけ測温部の空間分解能も高くできると考えられる。
P型グラフェンおよびN型グラフェンから構成される熱電対部材を備える熱電変換素子の熱起電力の長期安定性を調べた結果を図8に示す。図8(a)は、熱電変換素子作製から1日後に、図6(a)に示す測温部11cを加熱したときの熱電変換素子の熱起電力の測定結果を示している。図8(b)は、図8(a)で使用した熱電変換素子を室温・大気中で220日静置した後に、図8(a)と同じ方法で熱電変換素子の熱起電力を測定した結果を示している。図8(a)および図8(b)より、熱電変換素子作製から長期間経過しても、熱電変換素子の熱起電力がほとんど変化していないことが分かった。この結果は、P型グラフェンを本願の方法でN型ドープした場合、大気中で7か月以上安定していることを示している。
グラフェンを熱電対に利用する場合、測温部の温度変化(測温部と周囲との温度差)に対する熱起電力の線形性は重要な指標の1つである。これを調べるために、図5および図6(a)に示す2層グラフェンを用いた熱電変換素子について、測温部11cの温度と周囲温度との差ΔTと熱起電力ΔVの関係を調べた結果を図9に示す。本実施例では、室温20℃において、測温部11cの温度を約52℃まで徐々に昇温しながら、ΔVを計測した。その結果、測温部11cの温度が20~52℃の範囲では、ΔVはΔTに対して直線的に変化し、非常に良好な線形性を示すことが分かった。
この直線の傾き、すなわち感度を求めると、約90μV/Kとなった。ΔVの計測に用いた銅線のSeebeck係数を無視すると、この感度の約90μV/Kは、図3に示したP型グラフェンがN型グラフェンに変化したときの熱起電力の変化量である81μV/Kにほぼ一致した。この感度の値は、市販の卑金属熱電対の感度の値(K熱電対40.8μV/K、E熱電対61.9μV/K、J熱電対52.2μV/K、T熱電対41.5μV/K)以上であった。なお、これらの卑金属熱電対の感度の値は、JIS規格の規準熱起電力表(JIS C1602-1995)より算出した。以上より、20~50℃の温度領域では、P型グラフェンおよびN型グラフェンから構成される熱電対部材を備える熱電変換素子の熱起電力は、測温部と周囲との温度差に対して線形性の良い関係を示し、その感度は既存の卑金属熱電対よりも大きいことが分かった。
図5および図6(b)に示す2層グラフェンを用いて三対の熱電対部材が直列接続されたグラフェンサーモパイル構造に対する熱電変換による発電試験の結果を図10に示す。図6(b)に示す熱電変換素子のPN接合部の集合体9全体を一斉に加熱し、加熱部分と、熱電対部材の加熱部分と反対側の端部との温度差を11.5℃に保持し、グラフェンサーモパイル構造の電流電圧特性を、図10に白抜きプロットした。この電流電圧特性の縦軸切片から、三対のグラフェンサーモパイル構造の開放電圧は約3.55mVであった。この値は、図7(d)に示した熱電変換素子の熱起電力とほぼ同じであった。さらに、電流電圧特性の傾きから、熱電対部材三対分の電気抵抗値(P型グラフェンおよびN型グラフェンの導電経路に沿った電気抵抗値)が、約55kΩであることが分かった。
そこで、図10の電流電圧特性と、この熱電対部材三対分の電気抵抗値を用いて、熱電出力電力と電流の関係を、図10に黒プロットした。図10に示すように、熱電出力電力は、電流値が33nAのところで最大値約57.4pWを示した。この最大出力電力値を、熱電対部材の導電部分の正味の断面積で割ることにより、最大出力密度を算出することができる。本実施例の三対の熱電対部材のパターンは、P型グラフェンおよびN型グラフェンともに幅5mmであり、一対あたり2本(PNそれぞれ1本ずつ)の導電経路であるから、合計で6本の導電経路となり、導電体全体の幅は5mm/本×6本=30mmである。導電体の厚みは、2層グラフェンの厚みである0.6nmを採用した。
その結果、グラフェンサーモパイル構造の導電部分の正味の断面積は、30mm×0.6nm=1.8×10-7cmとなり、その値で熱電出力電力の最大値(57.4pW)を割った値、すなわち最大出力密度は0.32mWcm-2となった。熱電発電を生じる導電体の厚みが0.6nmと非常に薄いために、熱電出力電力自体はpWオーダーの微弱なものであるが、出力密度では市販の無機系熱電素子に用いられるBiTe半導体と同等の値が得られていることが確かめられた。これは、P型N型双方のグラフェンの熱電発電の性能がBiTe半導体と同程度に高いことを意味する。
単層グラフェンを用いて形成した熱電対部材5について、2層グラフェンの場合と同様に、図6(a)に示す導電パターンで三対の熱電対部材を直列につないだ熱電変換素子の測温部11a,11b,11cのみを順番に1か所ずつヒータで局所加熱したときの熱電変換素子の熱起電力を計測した。同時に、加熱部付近と、加熱部付近と反対側のP型グラフェンおよびN型グラフェンの端部との温度差を薄膜K熱電対で計測した。これらの熱起電力を図11(a)から図11(c)に示す。この単層グラフェンを用いた熱電対部材は、N型導電体として十分な熱起電力を持たせるために、照射ドーズ量104mJ/cm以上のUV照射を行って形成した。
図11(a)から図11(c)に示すように、測温部11a,11b,11cのいずれについても、ヒータの温度変化(ヒータ近傍の薄膜K熱電対で計測)に追従して、熱電変換素子の熱起電力の値も変化した。熱起電力の応答は、ヒータの熱容量によるものである。一定値として約12℃の温度差が熱電変換素子に付与された際の熱起電力は、約0.5mVを示した。同じ12℃の温度差を測温部11a,11b,11cに与えたときの熱電変換素子の熱起電力は、いずれも約0.5mVでほぼ同じであった。この結果から、単層グラフェンで形成した熱電対部材は、2層グラフェンで形成した熱電対部材と同様に、温度計測機能を有していることが示された。
1 基材(例:PET基材)
2 N型ドープされた炭素系薄膜(例:N型グラフェン)
3 P型の炭素系薄膜(例:P型グラフェン)
4 PN接合部
5 一対の熱電対部材
6 導線
7 電圧計
9 PN接合部の集合体
10,20 熱電変換素子
11a,11b,11c 測温部(PN接合部)
12 加熱する地点

Claims (7)

  1. 基材と、前記基材上に設けられた少なくとも一対の熱電対部材とを有する熱電変換素子であって、
    前記一対の熱電対部材の一方がN型ドープされた炭素系薄膜で、前記一対の熱電対部材の他方がP型の炭素系薄膜であり、
    前記N型ドープされた炭素系薄膜上に設けられ、光塩基発生剤に由来する塩基の誘導体で、正電荷を帯びた塩基誘導体と、前記N型ドープされた炭素系薄膜上に設けられ、前記光塩基発生剤から前記塩基が脱離した物質に由来する酸誘導体とをさらに有し、
    前記炭素系薄膜が透明である熱電変換素子。
  2. 請求項1において、
    前記基材が紫外線透過性を備える熱電変換素子。
  3. 請求項1または2において、
    前記基材が透明である熱電変換素子。
  4. 請求項1から3のいずれかにおいて、
    前記炭素系薄膜が、層数の平均値が0.8以上1.2以下である単層グラフェン、層数の平均値が1.8以上2.2以下である2層グラフェン、および層数の平均値が0.8以上2.2以下である2層グラフェン中に部分的に単層グラフェンの領域が混在するグラフェンのいずれかである熱電変換素子。
  5. 請求項1から4のいずれかにおいて、
    前記塩基誘導体および前記酸誘導体の上に、前記光塩基発生剤をさらに有する熱電変換素子。
  6. 紫外光を透過する基材と、前記基材上に設けられ、少なくとも一対の熱電対部材の形状を有する透明なP型の炭素系薄膜を備える複合体の前記P型の炭素系薄膜上であって、前記一対の熱電対部材の一方の部分に光塩基発生剤層を形成する光塩基発生剤層形成工程と、
    前記光塩基発生剤層形成工程後、前記基材側から前記P型の炭素系薄膜に紫外光を照射する紫外光照射工程と、
    を有する熱電変換素子の製造方法。
  7. 請求項において、
    前記光塩基発生剤層形成工程では、弾性体の表面に形成した光塩基発生剤層を、前記炭素系薄膜上に転写する過程を備える熱電変換素子の製造方法。
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