JP7473864B1 - 巻鉄心 - Google Patents

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Abstract

溝の形状および曲げ部での歪による残留応力を一定の範囲内にコントロールすることで、巻鉄心のBFを更に低減すること。方向性電磁鋼板から構成された巻鉄心であって、当該方向性電磁鋼板が圧延方向(RD方向)と交差する方向に延在し且つ溝深さ方向が板厚方向(ND方向)となる溝が形成された鋼板表面を有し、前記溝の鋼板圧延方向(RD方向)のピッチは2~10mmであり、前記溝の深さは10μm以上40μm以下、前記溝の幅は10μm以上200μm以下あり、前記溝の向かい合う壁面(前記溝の深さに対して25~75%の深さに在る溝の面を壁面とする)を板厚方向(ND方向)に延伸したときになす角(「頂角」と称することもある)が90°以下であり、当該巻鉄心の曲げ部に在る前記溝の前記壁面から前記圧延方向(RD方向)に10μm以内の範囲内に、10MPa以上の鋼板圧延方向(RD方向)の引張歪による残留応力が存在する領域が10面積%以上存することを特徴とする巻鉄心。

Description

本発明は、巻鉄心、特にビルディングファクタ(BF)の抑制された巻鉄心に関する。
方向性電磁鋼板は、磁気鉄心として多くの電気機器に用いられている。方向性電磁鋼板は、Siをおおよそ1.0%~5.0%含有し製品の結晶方位を{110}<001>方位に高度に集中させた鋼板である。方向性電磁鋼板は、磁気特性に優れ、例えば、変圧器等の静止誘導器の鉄心材料などとして利用される。そのため、磁気特性として、B値で代表される磁束密度が高いこと、及び、W17/50で代表される鉄損が低いことが要求される。
特に、方向性電磁鋼板の用途の一つである変圧器(トランス)には、省エネルギー化、周辺環境への配慮から、低鉄損が求められている。そのため、近年、方向性電磁鋼板そのものを低鉄損化するための開発が進められている。
トランスの鉄心には積鉄心と巻鉄心とがある。そのうち、巻鉄心は、一般に、方向性電磁鋼板を層状に積み重ねて、ドーナツ状(巻回形状)に巻回し、その後、その巻回体を加圧してほぼ角型に成形することにより製造される(本明細書中では、このようにして製造される巻鉄心をトランココアと称する場合がある)。この成形工程によって方向性電磁鋼板全体に機械的な加工歪(塑性変形歪)が入り、その加工歪が方向性電磁鋼板の鉄損を大きく劣化させる要因となっている。この加工歪の影響を取り除くために、歪取り焼鈍を行なわれている。しかしながら、鉄心の鉄損の素材鋼板の鉄損に対する比、いわゆるビルディングファクタ(BF)のさらなる低減が求められている。
特許文献1は、騒音特性に注目しながら、鉄損の低減も考慮した、方向性電磁鋼板およびそれを用いた巻鉄心について開示している。具体的には、電磁鋼板が特定の範囲の反り量を有することにより優れた騒音特性が得られること、当該電磁鋼板に熱歪の導入や溝を形成することにより鉄損を低減できることを開示している。
特開2020-56080号公報
トランスに用いられる巻鉄心には、更なる低鉄損化が求められている。素材となる電磁鋼板について、線状溝を形成することや歪の導入を行うことで180°磁区幅が細分化され、それに伴い鉄損の一部である渦電流損が低減される。しかし、電磁鋼板を加工して巻鉄心にしたときの鉄損の劣化、いわゆるビルディングファクタ(BF)を、さらに低減することが求められている。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものである。巻鉄心では、特に鋼板の曲げ部で鉄損の劣化が大きく、曲げ部(「曲げ加工部」または「屈曲部」とも称することがある)での鉄損の劣化を抑えることが巻鉄心のBF低減に重要である。
溝の形状および曲げ部での歪による残留応力を一定の範囲内にコントロールすることで、巻鉄心のBFを更に低減することを目的とする。
本発明者らは、巻鉄心において、そこで用いられる方向性電磁鋼板が所定の形状の溝及び曲げ部での歪による残留応力を有することで、従来よりもBFを低減できる巻鉄心を提供できることを見出した。
本発明の要旨は、当該溝の近傍に歪による残留応力が存する方向性電磁鋼板から構成された巻鉄心であって、当該方向性電磁鋼板が圧延方向(RD方向)と交差する方向に延在し且つ溝深さ方向が板厚方向(ND方向)となる溝が形成された鋼板表面を有し、当該溝が下記の条件を満たす巻鉄心である。
a溝の鋼板圧延方向(RD方向)のピッチは2~10mmである。
b 溝の深さは10μm以上40μm以下、溝の幅は10μm以上200μm以下ある。
c 溝の向かい合う壁面(溝の深さに対して25~75%の深さに在る溝の面を壁面とする)を板厚方向(ND方向)に延伸したときになす角(「頂角」と称することもある)が90°以下である。
d 巻鉄心の曲げ部に在る溝の壁面から鋼板圧延方向(RD方向)に10μm以内の範囲内に、10MPa以上の鋼板圧延方向(RD方向)の引張歪による残留応力が存在する領域が10面積%以上存在する。
本発明によれば、巻鉄心において、そこで用いられる方向性電磁鋼板が所定の形状の溝及び曲げ部での歪による残留応力を有することで、従来よりもBFを低減できる巻鉄心を提供できる。
図1は、本発明の一実施形態に係る巻鉄心の一例を示す平面図である。 図2は、本発明の一実施態様による方向性電磁鋼板の溝部の断面図(溝の延在方向に垂直な断面図)である。 図3は、方向性電磁鋼板の曲げ部(曲線部分)の一例を模式的に示す図である。
以下に本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、特に断らない限り、数値AおよびBについて「A~B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
[鋼板の成分組成]
まず、本実施形態にかかる巻鉄心は方向性電磁鋼板から構成される。当該方向性電磁鋼板は、特に制限されるものではなく、公知の鋼成分からなる方向性電磁鋼板を用いることができる。そのような、本発明に係る巻鉄心に用いることのできる方向性電磁鋼板について例示的に説明する。
[鋼板の成分組成]
典型的な鋼板の成分組成を説明する。なお、以下では特に断りのない限り、「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。
発明に係る方向性電磁鋼板に用いられる鋼板の成分は、結晶方位を{110}<001>方位(Goss方位)に集積させた集合組織に制御するために好ましい成分構成を有し、少なくとも、Si:1.0~5.0%、Mn:0.01~0.15%を含有することができる。
(Si:1.0~5.0%)
Si(ケイ素)の含有量は、1.0~5.0%である。Siは、鋼板の電気抵抗を高めることで、鉄損の原因の一つである渦電流損失を低減する。Siの含有量が1.0%未満である場合、最終的な方向性電磁鋼板の渦電流損失を十分に抑制することが困難になるため好ましくない。Siの含有量が5.0%超である場合、方向性電磁鋼板の加工性が低下するため好ましくない。したがって、Siの含有量は、1.0~5.0であり、好ましくは、2.5~4.5%であり、より好ましくは、2.7~4.0%である。
(Mn:0.01~0.15%)
Mn(マンガン)の含有量は、0.01~0.15%である。Mnは、二次再結晶を左右するインヒビターであるMnSおよびMnSeなどを形成する。Mnの含有量が0.01%未満である場合、二次再結晶を生じさせるMnSおよびMnSeの絶対量が不足するため好ましくない。Mnの含有量が0.15%超である場合、スラブ加熱時にMnの固溶が困難になるため好ましくない。また、Mnの含有量が0.15%超である場合、インヒビターであるMnSおよびMnSeの析出サイズが粗大化し易く、インヒビターとしての最適サイズ分布が損なわれるため好ましくない。したがって、Mnの含有量は、0.01~0.15%であり、好ましくは、0.03~0.13%である。
SiおよびMn以外の成分は、通常の方向性電磁鋼板に含まれている成分となることができる。
例えば、Si,Mn以外の成分として、質量%で、C:~0.085%以下、酸可溶性Al:~0.065%以下、N:~0.012%以下、Cr:~0.30%以下、Cu:~0.40%以下、P:~0.50%以下、Sn:~0.30%以下、Sb:~0.30%以下、Ni:~1.000%以下、S:~0.015%以下、を含有することができる。また、他のインヒビター構成元素としてB、Bi、Se、Pb、Sn、Tiなどを添加することもできる。添加量は適宜調整されてもよく、B含有量の上限値は0.080%、Bi含有量の上限値は0.010%、Se含有量の上限値は0.035%、Pb含有量の上限値は0.10%、Sn含有量の上限値は0.10%、Ti含有量の上限値は0.015%であってもよい。これら任意添加元素は、公知の目的に応じて含有させればよいため、任意添加元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、例えば下限値は0%であってもよい。
鋼板の上記成分以外の残部は、Feおよび不純物である。ここで、不純物元素とは、原材料に含まれる成分、または製造の過程で混入する成分であって、本実施形態に実質的に影響を与えない範囲で許容される成分を指す。
鋼板の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定することができる。具体的には、鋼板から採取した35mm角の試験片を、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより、化学組成が特定される。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用いて測定し、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定することができる。
[方向性電磁鋼板の製造方法]
本発明の方向性電磁鋼板の製造工程を、以下に例示的に説明する。なお、これはあくまで本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の一例であり、本実施形態の効果を損なわない範囲で任意に変更されてもよい。
(鋳造工程S1)
鋳造工程S1では、スラブを準備する。スラブの製造方法の一例は次のとおりである。まず、溶鋼を製造(溶製)する。ついで、溶鋼を用いてスラブを製造する。スラブの製造方法は特に制限されないが、例えば連続鋳造法によりスラブを製造してもよい。溶鋼を用いてインゴットを製造し、インゴットを分塊圧延してスラブを製造してもよい。スラブの厚さは、特に限定されない。スラブの厚さは、例えば、150mm~350mmであってもよい。スラブの厚さは、好ましくは、220mm~280mmである。スラブとして、厚さが10mm~70mmの、いわゆる薄スラブを用いてもよい。薄スラブを用いる場合、熱間圧延工程S2において、仕上げ圧延前の粗圧延を省略できる。
スラブの成分組成は、二次再結晶が生じる成分組成であればよい。スラブの基本成分、任意元素については具体的に述べると次のとおりである。なお、成分について用いられる%の表記は質量%を意味する。
Siは、電気抵抗を高め、鉄損を下げる上で重要な元素である。含有率が5.0%を超えると、冷間圧延時に材料が割れやすくなり圧延不可能になる。一方、Si量を下げると仕上げ焼鈍時にα→γ変態を生じ、結晶の方向性が損なわれるので、仕上げ焼鈍において結晶の方向性に影響を及ぼさない1.0%を下限としてもよい。したがって、Si含有量は1.0~5.0%であってもよい。
MnとSはMnSとして析出して、インヒビターとしての役割を果たす。Mn含有量が0.01%より少なく、またS含有量が0.005%より少ないと所定量の有効なMnSインヒビターが確保できない可能性がある。また、Mn含有量が0.15%より多く、S含有量が0.015%より多いとスラブ加熱時の溶体化が不十分となり、二次再結晶が安定して行われなくなる可能性がある。ゆえに、Mn含有量は0.01~0.15%であってもよく、S含有量は0.005~0.015%であってもよい。
Cは、製造工程においては一次再結晶組織の制御に有効な元素であるものの、最終製品への含有量が過剰であると磁気特性に悪影響を及ぼす可能性がある。したがって、C含有量は0.085%以下としてもよい。C含有量の好ましい上限は0.080%である。Cは後述の脱炭焼鈍工程S5及び仕上げ焼鈍工程S8で純化され、仕上げ焼鈍工程S8の後には0.005%以下となってもよい。スラブがCを含む場合、工業生産における生産性を考慮すると、C含有量の下限は0%超であってもよく、0.001%であってもよい。
酸可溶性Alは、Nと結合してAlNまたは(Al,Si)Nとなった状態でインヒビターとして機能する元素である。酸可溶性Alの含有量は、磁束密度が高くなる0.012%~0.065%としてもよい。
Nは製鋼時に0.012%以上添加されるとブリスターと呼ばれる鋼板中の空孔が生じるので、N含有量の上限は0.012%であってもよい。Nは製造工程の途中で窒化により含有させることが可能であるため下限は特に限定されず、0%であってもよい。ただし、Nの検出限界が0.0001%なので、実質的な下限は0.0001%である。
スラブには、他のインヒビター構成元素としてB、Bi、Se、Pb、Sn、Tiなどを添加することもできる。添加量は適宜調整されてもよく、B含有量の上限値は0.080%、Bi含有量の上限値は0.010%、Se含有量の上限値は0.035%、Pb含有量の上限値は0.10%、Sn含有量の上限値は0.10%、Ti含有量の上限値は0.015%であってもよい。これら任意添加元素は、公知の目的に応じてスラブに含有させればよいため、任意添加元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、例えば下限値は0%であってもよい。
スラブの化学組成の残部はFe及び不純物からなる。なお、ここでいう「不純物」は、スラブを工業的に製造する際に、鉱石、スクラップなどの原料、製造工程の種々の要因によってスラブに混入する成分であって、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に実質的に影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
スラブには、化合物形成によるインヒビター機能の強化や磁気特性への影響を考慮して、Feの一部に代えて、公知の任意元素を含有(添加)させてもよい。Feの一部に代えてスラブに含有させる任意元素として、例えば、Cu、P、Sb、Sn、Cr、Ni等が挙げられる。これらの何れか1種または2種以上をスラブに添加してもよい。Cu含有量の上限値は0.30%、P含有量の上限値は0.50%、Sb含有量の上限値は0.30%、Sn含有量の上限値は0.30%、Cr含有量の上限値は0.30%、Ni含有量の上限値は1.000%であってもよい。これらの任意添加元素は、公知の目的に応じてスラブに含有させればよいため、任意添加元素の含有量の下限値を設ける必要はなく、下限値は0%でもよい。
スラブの化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)を用いて測定することができる。具体的には、スラブから採取した35mm角の試験片を、島津製作所製ICPS-8100等(測定装置)により、予め作成した検量線に基づいた条件で測定することにより、化学組成が特定される。なお、CおよびSは燃焼-赤外線吸収法を用いて測定し、Nは不活性ガス融解-熱伝導度法を用いて測定することができる。
(熱間圧延工程S2)
熱間圧延工程S2は、所定の加熱温度(例えば1100℃~1400℃)まで加熱されたスラブの熱間圧延を行い、熱延鋼板を得る工程である。熱間圧延時の加熱温度は、例えば、熱間圧延時の温度確保の観点から1100℃以上であってもよく、さらにはインヒビター成分であるAlNを完全溶体化させないという観点から1280℃以下であってもよい。なお、AlNとMnSを主インヒビターとする場合、熱間圧延時の加熱温度は、これらのインヒビター成分が完全溶体化する1300℃以上としてもよい。
(熱延鋼板焼鈍工程S3)
熱延鋼板焼鈍工程S3は、熱間圧延工程S2で得られた熱延鋼板を直ちに、もしくは短時間で焼鈍し、焼鈍鋼板を得る工程である。焼鈍は750℃~1200℃の温度域で30秒~30分間行われてもよい。この焼鈍は製品の磁気特性を高めるために有効である。
(冷間圧延工程S4)
冷間圧延工程S4は、熱延鋼板焼鈍工程S3で得た焼鈍鋼板を、1回の冷間圧延、又は、焼鈍(中間焼鈍)を介して複数回(2回以上)の冷間圧延(例えば総冷延率で80%~95%)により、冷延鋼板を得る工程である。冷延鋼板の厚さは、例えば0.10mm~0.50mmであってもよい。
(脱炭焼鈍工程S5)
脱炭焼鈍工程S5は、冷間圧延工程S4で得た冷延鋼板に脱炭焼鈍を行い、一次再結晶が生じた脱炭焼鈍鋼板(脱炭焼鈍工程を行った冷延鋼板)を得る工程である。脱炭焼鈍は、例えば700℃~900℃で1分間~3分間行えばよい。
冷延鋼板に脱炭焼鈍を行うことで、冷延鋼板中に含まれるC成分が除去される。脱炭焼鈍は、冷延鋼板中に含まれるC成分を除去するために、湿潤雰囲気中で行うことが好ましい。
(窒化処理工程S6)
窒化処理工程S6は、二次再結晶におけるインヒビターの強度を調整するため、必要に応じて実施される工程である。窒化処理は、脱炭焼鈍工程の開始から、仕上げ焼鈍工程における二次再結晶の開始までの間に、冷延鋼板の窒素量を40ppm~200ppm程度増加させる処理である。窒化処理としては、例えば、アンモニア等の窒化能のあるガスを含有する雰囲気中で脱炭焼鈍鋼板を焼鈍する処理、MnN等の窒化能を有する粉末を含む焼鈍分離剤を後述の焼鈍分離剤塗布工程S7で脱炭焼鈍鋼板に塗布する処理等が挙げられる。
(焼鈍分離剤塗布工程S7)
焼鈍分離剤塗布工程S7は、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布する工程である。焼鈍分離剤としては、例えば、アルミナ(Al)を主成分とする焼鈍分離剤を用いることができる。焼鈍分離剤を塗布した後の脱炭焼鈍鋼板は、コイル状に巻取った状態で、次の仕上げ焼鈍工程S8で仕上げ焼鈍される。
なお、MgSiOを含むグラス被膜を形成する場合には、マグネシア(MgO)を主成分とする焼鈍分離剤を用いる。
(仕上げ焼鈍工程S8)
仕上げ焼鈍工程S8は、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に仕上げ焼鈍を施し、二次再結晶を生じさせる工程である。この二次再結晶を伴う仕上げ焼鈍工程S8は、一次再結晶粒の成長をインヒビターにより抑制した状態で二次再結晶を進行させることによって、{100}<001>方位粒を優先成長させ、磁束密度を飛躍的に向上させる。
なお、上述の焼鈍分離剤塗布工程S7でマグネシア(MgO)を塗布した場合には、この仕上げ焼鈍工程S8によりMgSiOを含むグラス被膜が形成される。なお、本形態では、このようなグラス被膜も母材鋼板(後述の仕上げ焼鈍鋼板)に含まれるものとする。したがって、例えば、仕上げ焼鈍鋼板にグラス被膜が形成される場合、「仕上げ焼鈍鋼板の表面」はグラス被膜の表面を意味するものとする。グラス被膜を形成することで、最終的に得られる方向性電磁鋼板の特性がさらに高まることが期待される。
(溝形成工程S9)
溝形成工程S9は、磁区制御(磁区細分化)を目的として、鋼板に対し溝を形成する工程である。溝の形成は、レーザー、電子ビーム、プラズマ、機械的方法、エッチングなど、公知の手法により、形成することができる。
上記の説明の流れでは、溝形成工程S9は、仕上げ焼鈍工程S8の後で行われている。しかし、溝形成工程S9は、冷間圧延工程S4を経た鋼板(すなわち冷延鋼板)に対して行ってもよい。この場合にも、磁区細分化に理想的な線状溝Gの断面形状を維持することが出来る。したがって、溝形成工程S9を行うタイミングは、仕上げ焼鈍工程S8の前でも後でもよい。ただし、後述する張力被膜付与工程S10を行う場合は、当該工程S10の前に溝形成工程9を行っておく必要がある。溝の形状や形成手法等の詳細については、後段で説明する。
(張力被膜付与工程S10)
張力被膜付与工程S10は、仕上げ焼鈍鋼板の溝形成面にコーティング溶液を塗布し、焼き付けることで、溝形成面上に絶縁被膜(張力被膜)を形成する工程である。絶縁被膜(張力被膜)を形成することで、最終的に得られる方向性電磁鋼板の特性がさらに高まることが期待される。
ここで、コーティング溶液は、例えば、リン酸、リン酸塩、無水クロム酸、クロム酸塩、アルミナ、又はシリカの化合物を含む。焼き付けは、例えば、350℃~1150℃で、5秒間~300秒間の条件で行えばよい。
[巻鉄心]
続いて、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る巻鉄心について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る巻鉄心の一例を示す平面図である。なお、以降、巻鉄心変圧器を単に変圧器と呼称することもある。
巻鉄心10は、方向性電磁鋼板100が巻き回されて形成される。巻鉄心10の形状は、図示した角丸方形状に限られず、例えば、楕円形状、長円形状又は角丸方形状とすることができる。
巻鉄心10に巻き回された一次巻線20A及び二次巻線20Bを備えることにより、変圧器1とすることもできる。
一次巻線20A及び二次巻線20Bは、巻鉄心10における対向する位置に、巻鉄心10に巻き回される。一次巻線20A及び二次巻線20Bには、既存の電線を用いることができ、例えば、高電気伝導性の金属線を絶縁体で被覆したものを用いることができる。金属線としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、絶縁材料を塗って焼付けるエナメルで被覆された銅線などを用いることができる。金属線の表面を被覆する絶縁体には、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、フッ素樹脂、又はポリエステル等を用いることができる。
一次巻線20Aの巻き数及び二次巻線20Bの巻き数は、特段制限されないが、例えば、巻鉄心変圧器1の仕様に応じて、一次巻線20Aの巻き数及び二次巻線20Bの巻き数
を決定することができる。
一次巻線20Aは、使用時においては、電源側の回路に接続され、電源から交流電圧が印加される。一次巻線20Aに交流電圧が印加されることにより、巻鉄心10に磁束が生じ、生じた磁束の変化により、負荷側の回路に接続された二次巻線20Bに、一次巻線20Aの巻き数と二次巻線20Bの巻き数とに応じた電圧が生じる。
[方向性電磁鋼板の溝]
巻鉄心を構成する方向性電磁鋼板は、磁区細分化して低鉄損化するために、鋼板表面に圧延方向(RD方向)と交差する方向に延在し且つ溝深さ方向が板厚方向(ND方向)となる溝が形成されている。なお、溝は、圧延方向と交差するように設けられていればよく、必ずしも、溝延在方向と圧延方向とが直交している必要はないが、圧延直角方向と0~30°の角度をなす方向に設けられていてもよい。また、溝は、板厚方向から視た場合(溝を平面視した場合)に、必ずしも直線形状を有していなくてもよく、弓状の形状を有してもよい。下記の溝形状の測定は最終製品から、酸洗等により少なくとも溝内部のグラス被膜および絶縁被膜を除去した後に行う。
上記溝は、鋼板表面に、鋼板圧延方向(RD方向)2~20mmのピッチ(間隔幅)で形成される。溝間隔が2mm未満であると、磁区細分化効果が飽和し渦電流損の低減効果が殆ど得られなくなり、好ましくない。20mmを超えると磁区細分化効果が減少するため、鉄損改善効果が不足し、好ましくない。好ましい、溝間隔は、2~10mmである。
なお、圧延方向のピッチは、例えば以下の方法で測定すればよい。すなわち、平面視において隣接する任意の2つの溝の組に着目する。ついで、これらの溝の幅方向中心点間の圧延方向の距離を数か所で測定し、それらの平均値を当該溝の組の圧延方向ピッチとすればよい。
図2は、本発明の一実施態様による溝部の断面図(溝の延在方向に垂直な断面図)である。この図では溝部は、台形に近い形状となっているが溝形状は弓型になっていても構わない。本発明の電磁鋼板の一つの実施形態では、溝部の深さDは、板厚方向(ND方向)10μm~40μmの範囲である。深さDが10μm未満である場合、溝壁面からの磁極の発生量が少なくなり、磁区細分化されず、十分な鉄損低減効果が得られない。深さDが40μmを超える場合、磁区は細分化されるが溝形成による磁束密度の低下が大きくなり、十分な鉄損低減効果が得られない。好ましい深さは、15μm~30μmである。
(溝の深さDの測定)
本発明に係る「深さD」の測定方法は、以下のとおりである。
任意の溝を選択し、当該溝の任意の点の断面(当該溝の延在方向に垂直な面)での最大深さを溝の深さDとして、レーザー顕微鏡(ピンホールによる共焦点光学系を用いた3Dレーザー顕微鏡)を用いて測定した。深さは、溝の縁と隣接する鋼板表面の高さを0として、鋼板表面の法線方向(鋼板内部方向を正とする)で、測定される。
本発明にいう「溝部の幅W」とは、溝深さDが半分になる深さ(D/2)での、溝の幅をいう。溝部の幅Wは、10μm~200μmの範囲である。幅Wが10μm未満である場合、溝の壁面から漏れた磁束が反対側の溝の壁面に入るが、磁極の発生量が少なくなり、磁区細分化されず、十分な鉄損低減効果が得られない。幅Wが200μmを超える場合、鉄損低減効果は飽和し、溝を形成する為に必要なレーザパワーが大きくなり製造コストが嵩むだけとなる。好ましい幅Wは、30~100mmである。
(溝部幅Wの測定)
本発明に係る「溝幅W」の測定方法は、以下のとおりである。
任意の溝を選択し、当該溝の任意の点(A)およびそこから当該溝の長手方向に3mm離れた点(B)のそれぞれの断面(当該溝の延在方向に垂直な面)での溝深さDが半分になる深さ(D/2)での、溝の幅のうち、広い方をw、狭い方をw’として、レーザー顕微鏡(ピンホールによる共焦点光学系を用いた3Dレーザー顕微鏡)を用いて測定した。溝部幅Wは、これらの値の平均値である。
本発明に係る溝は、図2に示すように、溝の延在方向に垂直な断面において、溝の向かい合う壁面を板厚方向(ND方向)に延伸したときになす角(「頂角」と称することもある)を規定することができる。ここで、溝の壁面とは、溝の深さに対して25~75%の深さに在る溝の面を指す。頂角を決定するには、壁面の25%深さの点から75%深さの点へ向かって結線し、板厚内部方向へ延伸させる。この頂角は、90°以下の範囲である。向かい合う壁面が平行であるとき、頂角をなすことはできないので、頂角は0°超である。頂角が90°超である場合、溝の壁面は緩やかな斜面を形成し、磁束の漏れが低下し、十分な鉄損低減効果が得られない。その理由について、特定の理論に拘束されることは望まないが、以下が考えられる。溝が形成された方向性電磁鋼板では、鋼板内を通じて溝の一方の壁面に到達した磁束は、溝壁から漏れることにより(すなわち、磁束の漏れにより)、静磁エネルギーが高まり、この静磁エネルギーを減少させるために主磁区が細分化されることが磁区制御効果を生じる原因であるとされている。壁面が緩やかな斜面である場合、鋼板内を通じて溝の一方の壁面に到達した磁束は、緩やかな斜面である壁面に沿って流れ、溝の壁面から漏れが抑えられる。その結果、静磁エネルギーが高まらず、この静磁エネルギーを減少させるために主磁区が細分化されることもなく、十分な磁区制御効果が得られない。
溝形成のために、レーザーを用いる場合、以下のレーザー照射条件の例により、本実施形態による巻鉄心を構成できる電磁鋼板、すなわち、所定の溝を有する電磁鋼板を得ることができる。
レーザー照射工程では、鋼板の表面(片面のみ)に対してレーザーを照射して、鋼板の表面に、圧延方向と交差する方向に延びる複数の溝を、圧延方向に沿って2~20mmの範囲の所望のピッチ間隔で形成する。
レーザー照射工程では、レーザー照射装置が、ポリゴンミラーの回転駆動によって、レーザー光を鋼板の表面に向けて照射すると共に、レーザー光を圧延直角方向と0~30°の角度をなす方向に走査してもよい。
レーザー光の照射と同時に、空気又は不活性ガス等のアシストガスが、レーザー光が照射される鋼板の部位に吹き付けられてもよい。不活性ガスとは、例えば、窒素又はアルゴン等である。アシストガスは、レーザー照射によって鋼板から溶融又は蒸発した成分を除去する役割を担っている。アシストガスの吹き付けにより、レーザー光が上記溶融又は蒸発した成分によって阻害されずに鋼板に到達するため、溝およびその近傍の歪導入部が安定的に形成される。
レーザー光源としては、例えばファイバレーザー、YAGレーザー、半導体レーザー、またはCOレーザー等の一般的に工業用に用いられる高出力レーザーを使用することができる。また、溝およびその近傍の歪導入部を安定的に形成することができさえすれば、パルスレーザー、または連続波レーザーをレーザー光源として使用してもよい。レーザー光としては、溝の形成には集光性が高いシングルモードレーザーを用いることが、本実施形態の頂角を90°以下である溝、すなわち急峻な壁面を得る観点から好ましい。
レーザー光の照射条件の一例として、例えば、レーザー出力を200W~3000Wとして、レーザー中心部のパワーが高いトップハット型のレーザーにより溝を形成することで、本実施形態の溝形状を形成することができる。
ビーム径が最大になる部分の集光スポット径を10μm~200μmに設定し、レーザー走査速度を5m/s~50m/sに設定してもよい。所望の溝とその近傍の歪導入部が得られるように、これらのレーザー照射条件を適宜調整する。
[巻鉄心の曲げ部に在る引張歪による残留応力]
本実施形態によれば、磁区細分化のために鋼板表面に溝が形成されている。溝の壁から磁束が漏れて静磁エネルギーが高まり、この静磁エネルギーを減少するために、主磁区が細分化されると考えられる。ただし、巻鉄心では曲げ部では、通常、漏れ磁束が抑えられるように、磁区構造が変化し、その結果、静磁エネルギーが高まらず、この静磁エネルギーを減少させるために主磁区が細分化されることもなく、十分な磁区制御効果が得られない。これが巻鉄心のビルディングファクタ劣化の要因となっている。そこで、本実施形態では、巻鉄心の曲げ部において、特に頂角が90°以下である急峻な形状の溝を形成することにより、当該溝の近傍において、鋼板圧延方向の引張歪を導入し、当該歪による所定の残留応力を存在させる。当該残留応力は、曲げ部、特に溝の近傍で誘導磁気異方性の効果を生じて、溝部での磁束漏れが高まり、磁区が細分化される。
ここで、巻鉄心の曲げ部について説明する。図1に示す巻鉄心10の例では、略矩形(四角形)であり、4つの曲げ部5(頂点)と、曲げ部を挟む4つ平面部4(辺)を有する。図3を参照しながら、曲げ部5について更に詳細に説明する。図3は、方向性電磁鋼板100の曲げ部(曲線部分)5の一例を模式的に示す図である。曲げ部5の曲げ角度とは、方向性電磁鋼板100の曲げ部5において、折り曲げ方向の後方側の直線部と前方側の直線部との間に生じた角度差を意味し、方向性電磁鋼板100の外面において、曲げ部5を挟む両側の平面部4、4aの表面である直線部分を延長して得られる2つの仮想線Lb-elongation1、Lb-elongation2がなす角の補角の角度φとして表わされる。この際、延長する直線が鋼板表面から離脱する点が、鋼板外面側の表面における平面部4と曲げ部5の境界であり、図3においては、点F及び点Gである。
さらに、点F及び点Gのそれぞれから鋼板外表面に垂直な直線を延長し、鋼板内面側の表面との交点をそれぞれ点E及び点Dとする。この点E及び点Dが鋼板内面側の表面における平面部4と曲げ部5との境界である。
そして、本発明において曲げ部5とは、方向性電磁鋼板100の側面視において、上記点D、点E、点F、点Gにより囲まれる方向性電磁鋼板100の部位である。図3においては、点Dと点Eとの間の鋼板表面、すなわち、曲げ部5の内側表面をLa、点Fと点Gとの間の鋼板表面、すなわち、曲げ部5の外側表面をLbとして示している。
また、この図には、曲げ部5の側面視における内面側曲率半径rが表わされている。上記Laを点E及び点Dを通過する円弧で近似することで、曲げ部5の曲率半径rを得る。曲率半径rが小さいほど曲げ部5の曲線部分の曲がりは急であり、曲率半径rが大きいほど曲げ部5の曲線部分の曲がりは緩やかになる。
なお、曲げ部5の曲率半径rの測定方法にも特に制限はないが、例えば、市販の顕微鏡(Nikon ECLIPSE LV150)を用いて200倍で観察することにより測定することができる。具体的には、観察結果から、曲率中心A点を求めるが、この求め方として、例えば、線分EFと線分DGを点Bとは反対側の内側に延長させた交点をAと規定すれば、曲率半径rの大きさは、線分ACの長さに該当する。ここで、点Aと点Bを直線で結んだ際に鋼板曲げ部の内側の円弧DE上の交点をCとする。
曲げ部5は、方向性電磁鋼板100を折り曲げ加工することにより得ることができる。折り曲げ加工によって、曲げ部5およびその近傍には引張歪が生じ、引張歪による残留応力が生じる。曲げ加工の加工速度は、遅すぎると残留応力が大きくならず、速すぎると破断や塑性変形が発生することがあるので、例えば、5mm/秒以上100mm/秒以下の歪速度で折り曲げて曲げ部5を形成するなど折り曲げ加工の条件を適宜調整することにより、引張歪を所望の位置および大きさで得ることができ、言い換えれば残留応力を所望の位置および大きさで得ることができる。
本実施形態によれば、引張歪による残留応力が存在する位置は、巻鉄心の曲げ部に在る溝の壁面から圧延方向(RD方向)に10μm以内の範囲内である。当該10μm以内の範囲は、溝の延在方向に垂直な断面において、規定される。壁面から圧延方向に10μm超の範囲では、歪による残留応力が溝に及ぼす影響が小さく、溝による磁区細分化効果を十分に高めることができない。ここで、溝の壁面とは、溝の深さに対して25~75%の深さに在る溝の面を指す。
引張歪による残留応力は、圧延方向(RD方向)の10MPa以上の残留応力である。残留応力が10MPa未満であると、歪による残留応力が小さく、溝による磁区細分化効果を十分に高めることができない。残留応力の上限は特に限定されるものではなく、実質的な上限は材料の降伏強度であるが、大きすぎると却って鉄損を含む磁気特性を悪化させるため、概して30MPa以下であってもよい。また、過度の残留応力が磁気特性に影響を与えるおそれがあることから、残留応力の上限を制限してもよく、概して10MPa以下であってもよい。
10MPa以上の前記圧延方向(RD方向)の圧縮歪による残留応力が存在する領域が、巻鉄心の曲げ部に在る溝の壁面から圧延方向(RD方向)に10μm以内の範囲内で、10面積%以上存在する。当該領域が10面積%未満であると磁区細分化効果が十分に得られない。当該領域の面積%の上限は特に限定されるものではなく、100面積%であってもよい。ただし、磁区細分化効果が飽和ぎみとなる。また残留応力が大きく当該面積%が大きいと、磁区細分化効果による低鉄損化効果と、前記のように応力による鉄損を悪化させる効果が相殺され鉄損を含む磁気特性を悪化させることがある。当該領域の面積%の上限を調整してもよく、概して50面積%以下であってもよい。また、所望する磁気特性に応じて、当該領域の面積%の上限を調整してもよく、30面積%以下であってもよく、20面積%以下であってもよい。
(歪による残留応力の測定)
歪による残留応力はEBSDによって測定する。
エネルギー線の走査方向に垂直な板厚方向断面(方向性電磁鋼板では、エネルギー線は、板幅方向に走査されながら照射されることが一般的であり、その場合には、板幅方向に垂直な板厚方向断面)の、板厚方向の全厚かつ、エネルギー線の照射位置を中心とするエネルギー線の照射幅の2倍の幅(圧延方向)の領域を測定領域として、電子線後方散乱回折法(EBSD)でマップ測定を行う。マップ測定に際しては、観察面(鋼板表面)を電子線の照射方向に対して、70度傾斜(傾斜角は電子線の入射方向と鋼板断面が垂直な場合を0度とする)させた試料に電子線を2μm以下のステップで照射し、EBSD画像を得る。得られた画像を、956×956ピクセルで保存し、BLG Vantage社のCrossCourt4を用いて歪計算を行って、歪の強度を算出する。
面積%の導出方法としては、
(圧縮歪が10MPa以上の領域の面積)/(溝深さ(25~75%の深さ)×10μm)×100
の式を用いた。図2に、溝の延在方向に垂直な断面において、溝の壁面から10μm以内の範囲を模式的に示す。
面積%の算出に関して、マップ測定を行う面は、レーザーで溝形成を開始した点と終了した点の中間点を含む面とする。
(ビルディングファクタ(BF)の測定)
鉄心の鉄損(W/kg)及び鋼板の鉄損(W/kg)に基づきビルディングファクタ(BF)を測定する。
ビルディングファクタの測定は、以下の方法で測定する。巻鉄心に関し、JIS C 2550-1:2011に記載の励磁電流法を用いた測定を、周波数50Hz、磁束密度1.7Tの条件で行ない、巻鉄心の鉄損値(鉄心鉄損)WAを測定する。また、鉄心に使用する方向性電磁鋼板(板幅152.4mm)から、幅60mm×長さ300mmの試料を採取し、この試料に対して、JIS C 2556:2015に記載のHコイル法を用いた電磁鋼板単板磁気特性試験による測定を、周波数50Hz、磁束密度1.7Tの条件で行ない、素材鋼板単板の鉄損値(鋼板の鉄損)WBを測定する。得られた鉄損値WAを鉄損値WBで除することによりビルディングファクタ(BF)を求めた。
本実施の形態において、巻鉄心本体10の鉄心長に特に制限はない。屈曲部5の数が同じであれば、巻鉄心本体10において鉄心長が変化しても、屈曲部5の体積は一定であるため屈曲部5で発生する鉄損は一定である。鉄心長が長いほうが巻鉄心本体10に対する屈曲部5の体積率が小さくなるため、鉄損劣化への影響も小さい。よって、巻鉄心本体10の鉄心長は長いほうが好ましい。巻鉄心本体10の鉄心長は、1.0m以上であってもよく、1.5m以上であることが好ましく、1.7m以上であるとより好ましい。なお、本発明において、巻鉄心本体10の鉄心長とは、側面視による巻鉄心本体10の積層方向の中心点における方向性電磁鋼板100の周長をいう。
以下に、実施例を示しながら、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板のあくまでも一例に過ぎず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板が以下に示す実施例に限定されるものではない。
方向性電磁鋼板が質量分率で、Si:3.0%、C:0.080%、酸可溶性Al:0.028%、N:0.010%、Mn:0.12%、Cr:0.05%、Cu:0.04%、P:0.01%、Sn:0.02%、Sb:0.01%、Ni:0.005%、S:0.007%、Se:0.001%、を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学成分を有するように調製したスラブに対して熱間圧延が実施され、厚さ2.3mmの熱延鋼板を得た。
続いて、上記の熱延鋼板に対して、1000℃で1分間加熱するという温度条件の下で焼鈍処理を実施した。
焼鈍処理の後、冷間圧延を実施して、厚さ0.23mmの冷延鋼板を得た。続いて、この冷延鋼板に対して、800℃で2分間加熱するという温度条件の下で脱炭焼鈍処理を実施した後、マグネシア(MgO)を主成分として含有する焼鈍分離剤を、冷延鋼板の表面に塗布した。
続いて、焼鈍分離剤が塗布された冷延鋼板に対して、1200℃で20時間加熱するという温度条件の下で仕上焼鈍処理を実施した。その結果、上述の化学組成を有し、結晶粒の磁化容易軸と圧延方向とが一致するように結晶方位が制御された、グラス皮膜が表面に形成された鋼板が得られた。
続いて、鋼板の表面に対してレーザーを照射して、鋼板の表面に、溝又は歪の少なくとも一方を付与した。
レーザー光照射装置はIPG社製のファイバレーザーを用いた。レーザー光の照射条件は、レーザー出力が1800Wで、レーザー走査速度が50m/sで、レーザー走査ピッチ(間隔PL)が3mmになるよう調整した。レーザー光の鋼板圧延方向におけるビーム径が最大になる部分の集光スポット径は10μm~200μmで、トップハット型のレーザーにより、表1に示す頂角の溝になるよう調整した。圧延方向と直角の方向に3mm間隔で幅wが約50μm、深さDが約20μmの線状の溝が形成された。
各鋼板を素材として、巻鉄心を製造した。鉄心長は1.0mとし、屈曲部は4つとした。曲げ加工では、巻鉄心の曲げ部に引張歪を生じさせて、表1に示す残留応力が存在するようにした。この残留応力は、上述した測定方法により測定したものであり、巻鉄心の曲げ部に在る溝の壁面から圧延方向(RD方向)に10μm以内の位置での残留応力である。
[磁気特性評価]
各試験番号の方向性電磁鋼板の板幅中央位置を含む、幅60mm×長さ300mmのサンプルを採取した。サンプルの長さは、圧延方向に平行であった。
このサンプルを用いて、JIS C2256(2011)に準拠して、単板磁気特性試験(SST試験)により、磁束密度(T)を求めた。具体的には、サンプルに800A/mの磁場を付与して、磁束密度(T)を求めた。
さらに、上記サンプルを用いて、JIS C2256(2011)に準拠して、周波数を50Hz、最大磁束密度を1.7Tとしたときの鉄損W17/50(W/kg)を測定した。
また、上述した測定方法によりビルディングファクタ(BF)も測定した。測定結果を表1に示す。
Figure 0007473864000001
この結果から、本発明の実施形態による溝と曲げ部での歪による残留応力が存する電磁鋼板では、ビルディングファクタ(BF)が比較例よりも更に低減されていることが分かる。
1 変圧器
10 巻鉄心
20A 一次巻線
20B 二次巻線
100 方向性電磁鋼板

Claims (1)

  1. 方向性電磁鋼板から構成された巻鉄心であって、
    当該方向性電磁鋼板が圧延方向と交差する方向に延在し且つ溝深さ方向が板厚方向となる溝が形成された鋼板表面を有し、
    前記溝の鋼板圧延方向のピッチは2~10mmであり、
    前記溝の深さは10μm以上40μm以下、前記溝の幅は10μm以上200μm以下であり、
    前記溝の向かい合う壁面、ここで前記溝の深さに対して25~75%の深さに在る当該溝の面を壁面とする、を板厚方向に延伸したときになす角が90°以下であり、
    当該巻鉄心の曲げ部に在る前記溝の前記壁面から前記圧延方向に10μm以内の範囲内に、10MPa以上の鋼板圧延方向の引張歪による残留応力が存在する領域が10面積%以上存することを特徴とする巻鉄心。
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