JP7411277B1 - 昆虫及び昆虫の作出方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、野生型の昆虫と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫を提供することを目的とする。【解決手段】マルピーギ管で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体遺伝子の発現量が野生型と比較して低減している、及び/又は前記遺伝子の発現産物の機能が野生型と比較して低下している、昆虫。【選択図】なし

Description

本発明は、昆虫及び昆虫の作出方法に関する。
世界人口は2050年には100億人を超えると予想され、タンパク質需要が急増している。しかしながら、環境負荷等を考慮すると、従来型の農畜産業の拡大のみでは不足するタンパク質を補うのにも限界がある。また、世界では生産された食料の約1/3が消費されずに廃棄されており、日本国内でも年間2,000万トンの生ゴミと1億トンに及ぶ有機性廃棄物が発生している。このようなタンパク質危機及び食品ロスの解決策の一つとして、昆虫の利用が期待されている。
さらに昆虫は、大量のタンパク質及びアミノ酸を含有しているため、農畜産業においても家畜又は養殖のための飼料として利用価値が高いことで注目されている(例えば、非特許文献1)。昆虫の体内におけるアミノ酸組成に関する遺伝子については、例えば非特許文献2に、コロラドハムシ(Leptinotarsa decemlineata)において、中腸で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体(NAT)が、所定のアミノ酸吸収に関与することが記載されている。なお、栄養素アミノ酸輸送体(NAT)は、溶質キャリア6(SLC6)輸送体ファミリーに属し、SLC6-NATと表記されることもある。
これまで、家畜の種類又は養殖魚の種類ごとに、成長に要するアミノ酸組成が異なることから、それぞれに適した飼料を生産するためには、昆虫の粉末と他の飼料原料との配合を調整するしかなかった。そのため、必要に応じてアミノ酸組成を改変した昆虫を家畜化し、生産することが求められている。しかしながら、非特許文献2に記載のような遺伝子が知られていながらも、どのようにして昆虫のアミノ酸組成を改変できるかについての報告がないのが実情である。
そこで、本発明は、野生型の昆虫と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫を提供することを目的とする。また、本発明は、野生型と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫の作出方法、並びに、昆虫において野生型と比較してアミノ酸の総含有量を増加させる及び/又はアミノ酸組成を異ならせる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意研究の結果、アメリカミズアブにおいて、マルピーギ管で特異的に発現するNAT遺伝子の発現量を低減させることで、アメリカミズアブのアミノ酸の総含有量が増加し、また、アミノ酸組成が改変されることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、例えば以下の発明に関する。
[1]
マルピーギ管で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体遺伝子の発現量が野生型と比較して低減している、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能が野生型と比較して低下している、昆虫。
[2]
RNAi分子が導入された、[1]に記載の昆虫。
[3]
上記RNAi分子が配列番号3で示される塩基配列を含む二本鎖RNAである、[2]に記載の昆虫。
[4]
アメリカミズアブである、[1]~[3]のいずれかに記載の昆虫。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載の昆虫を含む、飼料。
[6]
野生型と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫の作出方法であり、
マルピーギ管で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させる、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させる工程を含む、方法。
[7]
上記工程において、上記遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させることがRNAiによって行われる、[6]に記載の方法。
[8]
上記工程が、上記遺伝子に変異を導入して行われる、[6]又は[7]に記載の方法。
[9]
上記遺伝子に変異を導入することが、CRISPR/Cas9を用いて行われる、[6]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]
上記昆虫がアメリカミズアブである、[6]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]
昆虫において、野生型と比較してアミノ酸の総含有量を増加させる及び/又はアミノ酸組成を異ならせる方法であり、
マルピーギ管で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させる、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させる工程を含む、方法。
[12]
上記工程において、上記遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させることが、RNAiによって行われる、[11]に記載の方法。
[13]
上記工程が、上記遺伝子に変異を導入することによって行われる、[11]又は[12]に記載の方法。
[14]
上記遺伝子に変異を導入することが、CRISPR/Cas9を用いて行われる、[11]~[13]のいずれかに記載の方法。
[15]
上記昆虫がアメリカミズアブである、[11]~[14]のいずれかに記載の方法。
本発明によれば、野生型の昆虫と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫を提供することができる。また、本発明によれば、野生型と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫の作出方法、並びに、昆虫において野生型と比較してアミノ酸の総含有量を増加させる及び/又はアミノ酸組成を異ならせる方法を提供することができる。
実施例において、各組織におけるMt-NAT遺伝子の発現量を解析した結果を示す図である。 実施例において、アメリカミズアブの幼虫にdsRNAを注入する際の画像(A)及びdsRNAを注入して7日後のアメリカミズアブの幼虫の画像(B)である。 実施例において、アメリカミズアブの幼虫におけるMt-NAT遺伝子の発現量(A)及びアメリカミズアブの幼虫の体重(B)を解析した結果を示すグラフである。 アメリカミズアブの幼虫のアミノ酸総含有量を解析した結果である。 アメリカミズアブの幼虫における各アミノ酸の含有量を解析した結果である。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
<昆虫>
本実施形態に係る昆虫は、マルピーギ管で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体遺伝子の発現量が、野生型と比較して低減している、及び/又は、上記遺伝子の発現産物の機能が野生型と比較して低下している。
昆虫は、アミノ酸を合成することができないため、必須アミノ酸などのアミノ酸を食餌から摂取するしかない。摂取した食餌は前腸を通過してさらに細かく粉砕され、中腸に移動し、中腸において食餌の大半は消化され、吸収される。その後、残滓は後腸に移動し、そこで水の再吸収が行われる。マルピーギ管(MT)は、中腸と後腸の接合部に位置し、血液中の水分、老廃物、余分な栄養を吸収する排泄器官として機能する。マルピーギ管に吸収された成分は前尿素となり、残渣とともに後腸に送られる。中腸、マルピーギ管等が、アミノ酸を吸収するための栄養素アミノ酸輸送体を発現していることが知られている。
栄養素アミノ酸輸送体(nutrient amino acid transporter;NAT)は、溶質キャリア6(solute carrier 6;SLC6)輸送体ファミリーに属し、SLC6-NATともいう。SLC6ファミリーの輸送体は、細胞膜を介してNa、Cl等の特異的なイオン、又は標的とする分子を共役輸送する。SLC6-NATは、細胞膜を透過して容易に拡散することができないアミノ酸とアミノ酸様分子を細胞内に輸送する機能を有しており、昆虫などの生物はSLC6-NATに依存してアミノ酸を効果的に分配している。
マルピーギ管(Malpighian tubule又はMalpighian tube)で特異的に発現するSLC6-NAT(以下、「Mt-NAT」ともいう。)は、マルピーギ管で発現するSLC6-NATであり、中腸で発現するSLC6-NATとは異なるが、その機能はいずれも、アミノ酸とアミノ酸様分子を細胞内に輸送することである。したがって、Mt-NATの発現量が低下する場合は、アミノ酸の吸収・排泄に影響する可能性がある。実施例に証明されたように、本実施形態に係る昆虫は、野生型の昆虫と比較して、アミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている。
ここで、本明細書において「Mt-NAT遺伝子」とは、細胞中でRNA分子(例えば、mRNA)に転写される領域(転写領域)を含む、DNA領域を意味する。Mt-NAT遺伝子は、昆虫由来のMt-NAT遺伝子であればよく、これらの遺伝子は、既知のものであってもよく、既知のMt-NAT遺伝子とのホモログ(相同遺伝子)検索等によって特定してもよい。Mt-NAT遺伝子の具体例としては例えば、配列番号1で示される塩基配列からなる核酸の転写に関与するDNA領域を含むものであってもよい。配列番号1で示される塩基配列からなる核酸は、アメリカミズアブのナトリウム依存性栄養素アミノ酸トランスポーター1様アイソフォームX2(Genbankアクセッション番号:XP_037917479)である、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子のmRNA(Genbankアクセッション番号:XM_038061551)である。すなわち、Mt-NAT遺伝子とは、転写領域のみならず転写領域の上流又は下流に存在する調節領域、及び非翻訳領域(5’UTR、3’UTR)も含むものであってもよく、転写領域のみからなるものであってもよい。転写領域とは、エキソンのみならず、イントロンを含んでいてもよく、いわゆるcDNAであってもよい。
調節領域としては、例えば、転写調節領域であってもよく、翻訳調節領域であってもよい。転写調節領域としては、例えば、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー等が挙げられる。翻訳調節領域としては、例えば、リボソーム結合領域等が挙げられる。
本実施形態に係る昆虫は、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させる、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させる変異(以下、「Mt-NAT遺伝子変異」ともいう。)を有していなくてもよく、そのような変異を有していてもよい。
Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させるとは、野生型と比較してMt-NAT遺伝子のmRNA量を低減させることであってもよく、Mt-NAT遺伝子のコードする発現産物(タンパク質)の量を低減させることであってもよい。すなわち、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させることは、Mt-NAT遺伝子によってコードされるタンパク質の発現量を低減させることを意味する。
本実施形態に係る昆虫がMt-NAT遺伝子変異を有さない場合、特に限定されないが、例えば、アンチセンスRNAを昆虫に導入する方法、RNA干渉(RNAi)を利用した方法等によりMt-NAT遺伝子の発現量を低減させることができる。好ましくは、RNA干渉(RNAi)を利用した方法である。
RNAiを利用した方法は、例えば、RNAi分子を昆虫に導入することにより行うことができる。RNAi分子としては例えば、標的遺伝子に対応する塩基配列又はその一部の二本鎖(ds)RNA、siRNA、shRNA、microRNA(miRNA)、等の核酸を挙げることができる。RNAi分子は、上記の核酸そのものであってもよく、上記の核酸を発現するベクターであってもよい。よって、本実施形態に係る昆虫は、RNAi分子が導入されたものであってもよい。RNAi分子の具体例としては、特に限定されないが例えば、配列番号3で示される塩基配列を含むdsRNAであってもよく、配列番号3で示される塩基配列からなるdsRNAであってもよい。
上記のようなアンチセンスRNA又はRNAi分子は、公知の化学合成法を用いる方法、インビトロで酵素に転写させる方法等により得ることができる。
本実施形態に係る昆虫がMt-NAT遺伝子変異を有する場合、変異を導入する方法は特に限定されないが、例えば、公知の遺伝子編集技術を用いることができる。遺伝子編集技術としては特に限定されないが、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様ヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR/Cas9を用いる方法等が挙げられる。
Mt-NAT遺伝子変異は、Mt-NAT遺伝子に導入されていればよく、Mt-NAT遺伝子の転写領域、上記調節領域、上記非コーディング領域等に導入されていてよい。また、Mt-NAT遺伝子変異は、Mt-NAT遺伝子中の核酸配列において、1塩基以上、2塩基以上、3塩基以上、5塩基以上、10塩基以上、20塩基以上、30塩基以上の置換、欠失、挿入、及び/又は付加であってもよい。Mt-NAT遺伝子変異は、Mt-NAT遺伝子中の核酸配列において、100塩基以下、80塩基以下、60塩基以下、50塩基以下、40塩基以下の置換、欠失、挿入、及び/又は付加であってもよい。
本明細書において「アミノ酸組成が異なっている」とは、昆虫におけるアミノ酸の総含有量に対する所定のアミノ酸の含有量比が変化していることを意味する。含有量比が変化するアミノ酸は、1種類であればよいが、好ましくは2種類以上、3種類以上、4種類以上、5種類以上であってもよい。
一実施形態に係る昆虫は、野生型の昆虫と比較すると、各アミノ酸の中でも特にヒスチジン及びメチオニンの含有量が増加している。すなわち、本実施形態に係る昆虫は、アミノ酸の総含有量に対するヒスチジン及びメチオニンの含有量比が増加している昆虫ということもできる。
本実施形態に係る昆虫におけるMt-NAT遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCR、RNA-seq、ウエスタンブロット等により解析することができる。本実施形態に係る昆虫におけるMt-NAT遺伝子の発現量は、野生型と比較して低減していればよいが、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%の低減であってもよい。
本実施形態に係る昆虫におけるMt-NAT遺伝子の発現産物の機能は、例えば、本実施形態に係る昆虫の幼虫体内と野生型の幼虫体内のアミノ酸含有量を測定し、その含有量の比較により解析することができる。すなわち、本実施形態に係る昆虫におけるアミノ酸含有量が、野生型の昆虫におけるアミノ酸含有量と比較して増加している場合に、Mt-NAT遺伝子の発現産物の機能が低下していると判断することができる。本実施形態に係る昆虫におけるアミノ酸含有量は、野生型と比較して増加していればよいが、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、100%の増加であってもよい。ここで、Mt-NAT遺伝子の発現産物とは、Mt-NAT遺伝子によってコードするタンパク質を意味する。
昆虫としては、特に限定されないが、例えば、アメリカミズアブ、イエバエ、カイコガ、コオロギ、ミールワーム等が挙げられ、好ましくは、アメリカミズアブである。また、昆虫の形態は成虫、蛹、幼虫であってもよく、好ましくは幼虫である。より好ましくは、アメリカミズアブの幼虫である。
本実施形態に係る昆虫は、アミノ酸の総含有量及び/又はアミノ酸組成が異なっており、飼料として用いることもできる。一実施形態の飼料は本実施形態に係る昆虫を含むものである。本実施形態に係る飼料における本実施形態に係る昆虫の形態は、特に限定されず、そのままであっても、乾燥後粉末化したもの等であってもよい。
本実施形態に係る飼料における本実施形態に係る昆虫の含有量は、飼料を与える動物に応じて適宜設定すればよいが、例えば、飼料の全質量に対して、乾燥重量基準で0.1質量%以上、1重量%以上、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、40重量%以上、50重量%以上、60重量%以上、であってもよく、また、100質量%以下、90重量%以下、80重量%以下、70重量%以下、60重量%以下、50重量%以下であってもよい。
本実施形態に係る飼料は、本実施形態に係る昆虫以外にも、飼料を与える動物に適した成分を含んでいてもよい。そのような成分としては例えば、脂質、タンパク質、炭水化物、ビタミン及びミネラル類を含んでいてもよく、より具体的には、大豆、小麦粉、とうもろこし、小麦胚芽、海藻粉末、濃縮アルファルファ、魚粉、魚油、スピルリナ、キトサン、ケール、海苔、カロチノイド、ガーリック、ビタミン類(塩化コリン、ビタミンE、ビタミンC、イノシトール、ビタミンB5、ビタミンB2、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB3、葉酸、ビタミンD3、ビオチン)、ミネラル類(Ca、Fe、Mg、Zn、Mn、Cu、I)を含んでもよい。
<昆虫の作出方法>
本実施形態に係る昆虫の作出方法(以下、「本実施形態に係る作出方法」ともいう。)は、野生型と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫の作出方法であり、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させる、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させる工程を含む。
本実施形態に係る作出方法における上記工程は、Mt-NAT遺伝子に変異を導入して行われなくても、変異を導入して行われてもよい。
上記工程が、Mt-NAT遺伝子に変異を導入して行われない場合、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させる工程は、例えば、アンチセンスRNAを昆虫に導入して行われるものであってもよく、RNA干渉(RNAi)によって行われるものであってもよい。好ましくは、RNA干渉(RNAi)によって行われるものである。RNAiは、上述のとおりのRNAi分子を昆虫に導入することにより行うことができる。
上記アンチセンスRNA又はRNAi分子を導入する昆虫の種類については、上述のとおりである。また、上記アンチセンスRNA又はRNAi分子を導入する昆虫の形態は、成虫、蛹、幼虫、卵、胚であってもよく、幼虫に導入することが好ましい。
上記工程が、Mt-NAT遺伝子に変異を導入して行われる場合、例えば、公知の遺伝子編集技術によって行われるものであってもよい。遺伝子編集技術としては特に限定されないが、例えば、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様ヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR/Cas9が挙げられ、好ましくはCRISPR/Cas9が挙げられる。変異を導入する部位及び塩基数は、上述のとおりである。
本実施形態に係る作出方法は、上記工程を含むことにより野生型と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫を作出することができる。アミノ酸含有量は、特に限定されないが、常法に従って高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等を用いることにより測定することができる。
アミノ酸の総含有量は、野生型と比較して増加していればよいが、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上の増加が好ましい。アミノ酸組成に関しては、アミノ酸の総含有量に対して少なくとも1種類のアミノ酸の含有量比が野生型と比較して増加していればよいが、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上増加していることが好ましい。アミノ酸の総含有量に対して少なくともヒスチジン及びメチオニンの含有量比が、野生型と比較して増加していることがより好ましく、アミノ酸の総含有量に対して少なくともヒスチジン及びメチオニンの含有量比が、野生型と比較して50%以上増加していることがさらに好ましい。
本実施形態に係る作出方法は、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させた、及び/又は発現産物の機能を野生型と比較して低下させた昆虫を、飼育する工程(以下、「飼育工程」ともいう。)を更に含んでいてもよい。
本実施形態に係る作出方法が、飼育工程を含むことで、より十分にMt-NAT遺伝子の発現量を低減、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を低下させることができる。
飼育工程における条件は、昆虫の種類又は形態に応じて適宜設定すればよいが、温度は例えば、25℃~30℃であってよい。相対湿度(RH)は、例えば、60%~80%であってよい。光周期は、特に限定されないが、例えば、16時間の明期に対して8時間の暗期の光周期であってもよい。
本実施形態に係る作出方法は、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させた、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させた昆虫を、交配する工程(以下、「交配工程」ともいう。)を更に含んでいてもよい。
本実施形態に係る作出方法が交配工程を含むことによって、野生型と比較した際のMt-NAT遺伝子の発現量の低減及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能低下の程度を変化させることもできる。
交配工程は、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させた、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させた昆虫同士を交配させてもよく、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させた、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させた昆虫と、そうではない昆虫とを交配させてもよい。
交配工程は、本実施形態に係る作出方法において、Mt-NAT遺伝子に変異を導入した場合、特に限定されないが、当該昆虫をMt-NAT遺伝子の変異についてホモ接合体になるように交配させることであってもよく、ヘテロ接合体になるように交配させることであってもよい。
ヘテロ接合体になるように交配させることは、Mt-NAT遺伝子に変異を有していない個体と交配させることであってもよい。
<昆虫において、野生型と比較してアミノ酸の総含有量を増加させる及び/又はアミノ酸組成を異ならせる方法>
本実施形態に係る昆虫において、野生型と比較してアミノ酸の総含有量を増加させる及び/又はアミノ酸組成を異ならせる方法(以下、「本実施形態に係る方法」ともいう。)は、Mt-NAT遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させる、及び/又は上記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させる工程を含む。
本実施形態に係る方法における工程は、上記本実施形態に係る作出方法と同様の態様を制限なく適用することができる。
一実施形態に係る方法によれば、昆虫において、野生型と比較してヒスチジン及びメチオニンの含有量が特に増加している。すなわち、本実施形態に係る方法は、昆虫において、野生型と比較してアミノ酸の総含有量を増加させる及び/又はアミノ酸の総含有量に対するヒスチジン及びメチオニンの含有量比を増加させる方法ともいうことができる。
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(アメリカミズアブのMt-NAT遺伝子の発現抑制によるアミノ酸組成への影響評価)
<1.アメリカミズアブの飼育>
2013年に茨城県つくば市でアメリカミズアブの幼虫を採集し、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構で以下の手順に従ってコロニーを飼育した。ふ化直後の幼虫に人工飼料を与え、体色が黒くなる前蛹段階までプラスチック容器で飼育した。次に前蛹段階の幼虫をプラスチック容器から取り出し、蛹化用の木粉と共に別のプラスチック容器に保持した。新たに羽化した成虫を交配と産卵のために木製の網目状のかごに移した。なお、上記飼育は27℃、60%RH、16時間の明期に対して8時間の暗期の光周期という条件下で行った。
<2.全RNAの抽出及びRNA-seq解析>
アメリカミズアブの幼虫において、SLC6-NATであり、かつマルピーギ管で特異的に発現する遺伝子について以下の手順に従って解析した。まず、アメリカミズアブの幼虫を解剖し、腸の全体、中腸、マルピーギ管、腸を除去した幼虫、及び成虫の頭部(オス及びメス)の各試料を得た。その後、TRIzol(登録商標)試薬(インビトロジェン社製)を用いて、得られた各試料から全RNAを抽出した。抽出した全RNAの質をアガロース電気泳動法による確認、及び当該全RNAについてのRNA配列決定(RNA-Seq)解析をNovogene社の委託解析により行った。得られたRNA-SeqデータをTrinityというソフトウェアを用いてアセンブリー情報に加工し、Salmonというソフトウェアを用いて、上記各試料で発現する遺伝子の発現量を定量化することで、SLC6-NAT遺伝子ファミリーに属し、かつマルピーギ管で特異的に発現する遺伝子を特定した。その結果を図1に示す。
図1に示すように、上記方法で特定した遺伝子はマルピーギ管でのみ高い発現量であったため、マルピーギ管で特異的に発現していることがわかった。また、当該遺伝子のコードするアミノ酸配列は、NCBIタンパク質データベースに登録されている「XP_037917479.1」と98.72%の同一性を有していた。よって、この遺伝子はアメリカミズアブの幼虫において、SLC6-NATであり、かつマルピーギ管で特異的に発現する遺伝子であることが判明し、「Mt-NAT」と命名した。以下、特にアメリカミズアブにおけるMt-NAT遺伝子は、「HiMt-NAT」ということもある。
<3.RNA干渉用二重鎖RNAの合成>
上記2.で得たRNA-Seqのデータから同定したMt-NAT遺伝子の塩基配列に基づいて二重鎖RNA(dsRNA)を以下のとおりに作製した。まず、上記2.で抽出した全RNA、TaKaRa Ex Taq Hot Start Version、並びに以下の表1に示すMt-NAT-F及びMt-NAT-Rのプライマーを用いて鋳型となるcDNA(配列番号4)を合成した。次いで、上記合成したcDNAを鋳型にして、以下の表1に示すT7-Mt-NAT-F及びT7-Mt-NAT-Rのプライマーを用いてPCRにより配列番号7で示される塩基配列からなるDNAを増幅した。増幅したDNAを確認し、これとT7 RiboMAX(商標) Express RNAi system(プロメガ社製)を用いてdsRNAを合成した。合成したdsRNAは、2μg/μlに調整し、4℃で保存した。
また、対照のために、EGFPのcDNA(配列番号10)を鋳型にして、以下の表1に示すT7-EGFP-F及びT7-EGFP-Rのプライマーを用いて配列番号11で示される塩基配列からなるDNAを増幅したこと以外は、同様にして、EGFP遺伝子のdsRNAを合成した。
Figure 0007411277000001
<4.アメリカミズアブの幼虫へのdsRNAの注入>
7日齢のアメリカミズアブの幼虫を蒸留水でリンスし、体表面を穏やかに拭き取って水を除去した。アメリカミズアブの幼虫を氷上で20分間麻酔し、図2(A)に示すように上記3.で得たMt-NAT遺伝子のdsRNA溶液1μlをシリンジ(針容積:10μl、針長:50mm)で注入した。対照として、同様にしてEGFP遺伝子のdsRNA溶液をアメリカミズアブの幼虫に注入した。注入後、生存を確認するために、アメリカミズアブの幼虫それぞれを別のプラスチック製カップに入れ、25℃で30分間放置した。次に、アメリカミズアブの幼虫を上記1.と同様の条件下で人工飼料を与えて飼育し、7日後にこれらの幼虫のMt-NAT遺伝子の発現量及び体重を評価した。なお、7日後のアメリカミズアブの幼虫の写真を図2(B)に示す。図2(B)中、左側が対照のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫であり、右側がMt-NAT遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫である。
Mt-NAT遺伝子の発現量の評価は、幼虫マルピーギ管から抽出した全RNA、並びにMt-NAT-F及びMt-NAT-Rのプライマーを使った定量リアルタイムPCR法により行った。また、体重の評価は、アメリカミズアブの幼虫を蒸留水で洗浄し、表面に残った水を乾燥させて行った。その結果を図3に示す。
図3(A)に示すように、EGFP遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫と比較してMt-NAT遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫は、Mt-NAT遺伝子の発現量が減少していることが確認された。また、図3(B)に示すように、EGFP遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫と比較してMt-NAT遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫は、体重が減少していることが確認された。
<5.アミノ酸分析>
アメリカミズアブの幼虫を-20℃で凍結したのち、凍結したアメリカミズアブの幼虫を凍結乾燥機で24時間乾燥し、各乾燥幼虫を粉砕して粉末(ミール)とし、ヘキサンを、ミール:溶媒=100mg:1mLとなるように用いて25℃で脱脂した。脱脂したアメリカミズアブの幼虫のミール10mgを、2mLの6N塩酸を用いて110℃、24時間処理し、加水分解した。タンパク質加水分解物を回収するために、塩酸を110℃の窒素気流下で完全に乾燥するまで蒸発させた。加水分解物を1mLの10%アセトニトリル溶液に再溶解し、10kDaフィルターでろ過して残留物を除去した。このろ液を、AccQTagカラム(39×150mm;ウォーターズ社製)を用いたHPLCシステム(Waters e2695)に供し、以下の条件でアミノ酸分析を実施した。その結果を図4~図5に示す。
カラム:AccQ-Tag 3.9×150mm(ウォーターズ社製)
カラム温度:37℃
注入量:1.0μL
流速:1mL/分
検出:EX250nm、EM395nm
移動相:
移動相A:AccQ-Tag Eluent A(ウォーターズ社製)
移動相B:アセトニトリル 60%
図4に示すように、EGFP遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫と比較して、Mt-NAT遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫はアミノ酸の総含有量が高いことが確認された。また、図5に示すように、EGFP遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫と比較した場合のMt-NAT遺伝子のdsRNAを注入したアメリカミズアブの幼虫における各アミノ酸含有量の増加率は様々であった。その中でも特にヒスチジン含有量の増加率が高かった。

Claims (15)

  1. マルピーギ管で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体遺伝子の発現量が野生型と比較して低減している、及び/又は前記遺伝子の発現産物の機能が野生型と比較して低下している、昆虫。
  2. RNAi分子が導入された、請求項1に記載の昆虫。
  3. 前記RNAi分子が配列番号3で示される塩基配列を含む二本鎖RNAである、請求項2に記載の昆虫。
  4. アメリカミズアブである、請求項1に記載の昆虫。
  5. 請求項1~4のいずれか一項に記載の昆虫を含む、飼料。
  6. 野生型と比較してアミノ酸の総含有量が増加している及び/又はアミノ酸組成が異なっている昆虫の作出方法であり、
    マルピーギ管で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させる、及び/又は前記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させる工程を含む、方法。
  7. 前記工程において、前記遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させることがRNAiによって行われる、請求項6に記載の方法。
  8. 前記工程が、前記遺伝子に変異を導入して行われる、請求項6に記載の方法。
  9. 前記遺伝子に変異を導入することが、CRISPR/Cas9を用いて行われる、請求項8に記載の方法。
  10. 前記昆虫がアメリカミズアブである、請求項6~9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 昆虫において、野生型と比較してアミノ酸の総含有量を増加させる及び/又はアミノ酸組成を異ならせる方法であり、
    マルピーギ管で特異的に発現する栄養素アミノ酸輸送体遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させる、及び/又は前記遺伝子の発現産物の機能を野生型と比較して低下させる工程を含む、方法。
  12. 前記工程において、前記遺伝子の発現量を野生型と比較して低減させることが、RNAiによって行われる、請求項11に記載の方法。
  13. 前記工程が、前記遺伝子に変異を導入することによって行われる、請求項11に記載の方法。
  14. 前記遺伝子に変異を導入することが、CRISPR/Cas9を用いて行われる、請求項13に記載の方法。
  15. 前記昆虫がアメリカミズアブである、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
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