JP7407659B2 - プロテアーゼ阻害剤を含有するbnp測定用標準品 - Google Patents

プロテアーゼ阻害剤を含有するbnp測定用標準品 Download PDF

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Description

本発明は、BNP測定用標準品セット及びこれを用いた検体のBNP濃度測定値を補正する方法に関する。
BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)は、血管拡張作用、利尿作用、及びナトリウム利尿作用を有するホルモンであり、交感神経系及びレニン・アルドステロン系を抑制する。
BNPは、心臓に負荷がかかった際に、主として心室から分泌される。健常人の血漿中BNP濃度(proBNPとBNP-32の総和量)は極めて低いが、慢性及び急性心不全患者ではその重症度に応じて著明に増加することから、血漿中BNP濃度の測定は、心不全を含む心臓疾患の病態把握に有用であるとされている。
BNPは、BNP遺伝子からpreproBNP前駆体として転写・翻訳され、シグナルペプチドが切断されてBNP-32の前駆体であるproBNP(proBNP1-108)が生成され、その後、切断されて、N端proBNP(proBNP1-76)と生物学的活性を有するBNP-32(proBNP77-108)が生成される。
血中において、proBNPとBNP-32は一定の割合で存在し、心臓疾患の診断のためのBNP測定キットはproBNPとBNP-32の総和量をBNP濃度測定値として測定するものであり、当該測定キットは心臓疾患等の診断に広く用いられている。
Figure 0007407659000001
複数のBNP測定キットにより、同一試料を測定した際の血漿中BNP濃度は、BNP測定キット間で乖離する場合があると言われている(非特許文献1及び非特許文献2)。本来、複数のBNP測定キット間での同一試料の血漿中BNP濃度測定値の乖離はより小さいことが望ましい。たとえば、心臓疾患患者が受診する医療機関を移り、前後の医療機関で異なるBNP測定キットを使用している場合でも、心臓疾患の病態の推移を正確に把握し、治療効果を判定できるよう、BNP測定キット間での血漿中BNP濃度の測定値の差を無くすことが望まれる。
一般の市販のBNP測定キットの標準曲線作成用の標準品はBNP-32のみで構成されている。非特許文献3では、BNP測定用標準品としてproBNPを用いる方法が示されている。
また、特許文献1では、BNP測定キット間の較正用標準品として、proBNP及びBNP-32が6:4~4:6(モル比)の単一混合比の混合物を用いる方法が示されている。特許文献2では、proBNP及びBNP-32を含むBNP測定用標準品セットが記載されている。
特許第6008645号 国際公開第2019/131984号
Clin Chem Lab Med (2009) 47(6):762-768 Clinica Chimica Acta (2012) 414:112-119 Clinical Biochemistry (2017) 50:181-185 核医学技術(1993) 13:2-7
しかしながら、上記先行技術における標準品へのproBNPとBNP-32の添加比率は、実際の心臓疾患患者におけるproBNPとBNP-32の存在比率を正しく反映したものではなかった。そのため、先行技術が示す標準品を用いたとしても、BNP測定キット間で実検体の測定値にバラツキがあった。
本発明の課題は、あるBNP測定法による検体のBNP濃度測定値及びそれとは別のBNP測定法による当該検体のBNP濃度測定値をBNP測定用標準品セットを用いて補正した場合に、従来の標準品を用いてこれらの測定値を補正した場合に比べて、補正後の測定値をより一致させることができる前記BNP測定用標準品セット、及び前記BNP測定用標準品セットを用いる、検体のBNP濃度測定値を補正する方法を提供することである。
本発明者は、実際の心臓疾患患者におけるproBNPとBNP-32の存在比率を正確に把握するため、多数の検体中のBNP濃度とproBNPの存在比率の関係を検討した。その結果、BNP濃度によってproBNPの存在比率が異なることを見出した。この発見を利用し、BNP濃度が低い標準品として、BNP-32/proBNPのモル比が高いものを含み、BNP濃度が高い標準品として、前記モル比が低いものを含む、BNP測定用標準品セットを用いる本発明を完成させた。
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕BNP-32、proBNP及びプロテアーゼ阻害剤を含む標準品を複数含むBNP測定用標準品セットであって、前記各標準品間において、BNP-32/proBNP(モル比)が異なっており、モル比が高い標準品と低い標準品とを対比した場合、モル比が高いものは、低いものと比べて、BNP-32濃度とproBNP濃度との総和量であるBNP濃度がより低い、BNP測定用標準品セット、
〔2〕プロテアーゼ阻害剤がアプロチニンである、〔1〕記載のBNP測定用標準品セット、
〔3〕少なくとも2つの標準品を含み、第1の標準品のモル比は40/60~60/40(BNP-32/proBNP)であり、第2の標準品のモル比は15/85~35/65(BNP-32/proBNP)である、〔1〕又は〔2〕記載のBNP測定用標準品セット、
〔4〕第1の標準品のBNP濃度が20~75pg/mLであり、第2の標準品のBNP濃度が150~300pg/mLである、〔4〕記載のBNP測定用標準品セット、
〔5〕〔1〕~〔4〕いずれか記載のBNP測定用標準品セットを含む、BNP測定キット、
〔6〕〔1〕~〔4〕いずれか記載のBNP測定用標準品セットを用いて算出された補正係数に関する情報を含む、BNP測定キット、
〔7〕〔1〕~〔4〕いずれか記載のBNP測定用標準品セットを用いることを特徴とする、検体のBNP濃度を測定する方法、
〔8〕〔1〕~〔4〕いずれか記載のBNP測定用標準品セットを用いることを特徴とする、検体のBNP濃度測定値を補正する方法、
〔9〕以下の工程(A)及び(B):
(A)前記複数の標準品を用いて、基準となるBNP測定法によるBNP濃度測定値と補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値の間の補正係数を、補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値の範囲毎に決定する工程、及び
(B)前記補正係数を用いて、補正対象のBNP測定法による検体のBNP濃度測定値を補正する工程
を含む、〔8〕記載の方法、
〔10〕以下の工程(1)~(3):
(1)基準となるBNP測定法及び補正対象のBNP測定法の両方により、第1の標準品及び第2の標準品の両方のBNP濃度を測定する工程、
(2)第1の標準品及び第2の標準品の各々について、以下の比:
[基準となるBNP測定法によるBNP濃度測定値]/[補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値]
を求め、第1の標準品についての前記比を第1の補正係数として、及び第2の標準品についての前記比を第2の補正係数として、それぞれ決定する工程、及び
(3)前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数を基に、補正対象のBNP測定法により測定した検体のBNP濃度測定値である実測値を、以下の数値:
(i)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値以下である場合、前記実測値に第1の補正係数を乗じた数値、
(ii)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値より大きく且つ補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値以下である場合は、前記実測値に以下の式:
第1の補正係数+[(第2の補正係数-第1の補正係数)/(補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値-補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値)]×(実測値-補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値)
で求めた補正係数を乗じた数値、及び
(iii)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値より大きい場合、前記実測値に第2の補正係数を乗じた数値、
に補正する工程、
を含む、〔8〕記載の方法
に関する。
本発明により、あるBNP測定法による検体のBNP濃度測定値及びそれとは別のBNP測定法による当該検体のBNP濃度測定値をBNP測定用標準品セットを用いて補正した場合に、従来の標準品を用いてこれらの測定値を補正した場合に比べて、補正後の測定値をより一致させることができる前記BNP測定用標準品セット、及び前記BNP測定用標準品セットを用いる、検体のBNP濃度測定値を補正する方法を提供することができる。
図1(a)は、実施例1-1で測定した全測定領域についての、BNP濃度測定値とproBNPの存在比率の関係を示す。 図1(b)は、実施例1-1で測定したBNP濃度測定値が250 pg/mL以下の領域についての、BNP濃度の測定値とproBNPの存在比率の関係を示す。 図2は、実施例1-1及び実施例1-2で測定した全測定領域についての、BNP濃度測定値とproBNPの存在比率の関係を示す。 図3は、市販BNP測定キットAによる測定値に適用可能な、検体の測定値と補正係数の関係の一例を示す。 図4は、本発明の補正方法による補正前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットAによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図5は、本発明の補正方法による補正前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットBによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図6は、本発明の補正方法による補正前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットCによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図7は、基準測定法によるBNP濃度測定値に対する、本発明の補正方法による補正前後の市販BNP測定キットAによるBNP濃度測定値の百分率を示す。 図8は、基準測定法によるBNP濃度測定値に対する、本発明の補正方法による補正前後の市販BNP測定キットBによるBNP濃度測定値の百分率を示す。 図9は、基準測定法によるBNP濃度測定値に対する、本発明の補正方法による補正前後の市販BNP測定キットCによるBNP濃度測定値の百分率を示す。 図10は、低濃度及び高濃度ともにproBNPのみを添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットAによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図11は、低濃度及び高濃度ともにproBNPのみを添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットBによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図12は、低濃度及び高濃度ともにproBNPのみを添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットCによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図13は、低濃度及び高濃度ともにBNP-32のみを添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットAによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図14は、低濃度及び高濃度ともにBNP-32のみを添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットBによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図15は、低濃度及び高濃度ともにBNP-32のみを添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットCによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図16は、低濃度及び高濃度ともにproBNPとBNP-32を1/1(proBNP/BNP-32)の比率で添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットAによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図17は、低濃度及び高濃度ともにproBNPとBNP-32を1/1(proBNP/BNP-32)の比率で添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットBによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図18は、低濃度及び高濃度ともにproBNPとBNP-32を1/1(proBNP/BNP-32)の比率で添加した標準品で補正した前後の基準測定法によるBNP濃度測定値に対する市販BNP測定キットCによるBNP濃度測定値の相関関係を示す。 図19は、基準測定法によるBNP濃度測定値に対する、低濃度及び高濃度ともにproBNPのみを添加した標準品で補正した前後の市販BNP測定キットAによるBNP濃度測定値の百分率を示す。 図20は、基準測定法によるBNP濃度測定値に対する、低濃度及び高濃度ともにproBNPのみを添加した標準品で補正した前後の市販BNP測定キットBによるBNP濃度測定値の百分率を示す。 図21は、基準測定法によるBNP濃度測定値に対する、低濃度及び高濃度ともにproBNPのみを添加した標準品で補正した前後の市販BNP測定キットCによるBNP濃度測定値の百分率を示す。 図22は、表面をシリコーン加工処理したガラス容器と未処理のガラス容器とでの、BNP-32のみを含む標準品を添加した凍結品及び凍結乾燥品の残存BNP活性を、ポリスチレン容器でのBNP活性に対する百分率として、各濃度の標準品の平均値で示す。 図23は、表面をシリコーン加工処理したガラス容器と未処理のガラス容器とでの、proBNPのみを含む標準品を添加した凍結品及び凍結乾燥品の残存BNP活性を、ポリスチレン容器でのBNP活性に対する百分率として、各濃度の標準品の平均値で示す。 図24は、アプロチニン添加量が異なる、凍結融解を繰り返した試料の残存BNP活性を、凍結融解を行わなかった試料のBNP活性に対する百分率として示す。
本発明は、BNP-32、proBNP及びプロテアーゼ阻害剤を含む標準品を複数含むBNP測定用標準品セットを提供する。
BNP測定用標準品セットは、BNP測定法によるBNP濃度測定値を補正するために使用され得る。また、BNP測定用標準品セットにより標準曲線を作成し、その標準曲線を用いて、検体のBNP濃度を測定し得る。
本明細書中で使用される場合、「proBNP」とは、proBNP1-108を意味し、108個のアミノ酸残基からなり(配列番号:1)、約12KDの分子量を有する。proBNPは、公知の方法に従って容易に調製することができ、例えば、大腸菌で組換え型proBNPとして発現することができる。また、「proBNP」はグリコシル化proBNPであってもよい。例えば、分子量約35KDのグリコシル化proBNPは、公知の方法に従い、HEK293細胞で発現させて得ることができる。尚、proBNPは合成されたものでもよい。
本明細書中で使用される場合、「BNP-32」とは、proBNP77-108を意味し、32個のアミノ酸残基からなり(配列番号:2)、約3.5KDの分子量を有する。BNP-32は、公知の方法に従って容易に合成することができる。尚、BNP-32は組換え体であってもよい。
本明細書中で使用される場合、「複数」とは、2以上の整数であり、2、3、4、5、6、7、又は8であり得、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、又は少なくとも8つであり得る。
本明細書中で使用される場合、「標準品」とは、前記BNP測定用標準品セットを構成する個々の標準品を意味し、複数の標準品を組み合わせて前記BNP測定用標準品セットとして使用する。標準品は、BNP-32、proBNP及びプロテアーゼ阻害剤を含む。標準品は、第1の標準品、第2の標準品、第3の標準品、第4の標準品若しくは第5の標準品等、又は低濃度域測定用のBNP測定用標準品若しくは高濃度域測定用のBNP測定用標準品等と記載することがある。本明細書において、標準品を、第1の標準品、第2の標準品、第3の標準品、第4の標準品、及び第5の標準品等と表した場合、数字が大きくなる程、BNP濃度が高くなることを表す
本発明において、前記各標準品間のBNP-32/proBNP(モル比)は異なる。また、2つの標準品間において、モル比が高い標準品と低い標準品とを対比した場合、モル比が高いものは、低いものと比べて、BNP濃度がより低い。前記モル比は、第1の標準品の場合、好ましくは40/60~60/40であり、より好ましくは45/55~55/45(いずれもBNP-32/proBNP)であり、第2の標準品の場合、好ましくは15/85~35/65であり、より好ましくは20/80~30/70(いずれもBNP-32/proBNP)である。
第1の標準品のBNP濃度は、好ましくは20~75 pg/mLであり、より好ましくは25~60 pg/mLであり、さらに好ましくは30~50 pg/mLである。また、第2の標準品のBNP濃度は、好ましくは150~300 pg/mLであり、より好ましくは160~250 pg/mLであり、さらに好ましくは180~220 pg/mLである。本明細書において、「BNP濃度」は、BNP-32濃度とproBNP濃度との総和量を意味し、BNP濃度が、質量濃度である場合は、BNP-32濃度とproBNPのBNP-32換算量としての濃度との総和量で表される。
BNP測定用標準品セットに含まれる各標準品は、種々の方法により調製し得る。
BNP-32及びproBNPの精製品を添加して標準品を調製する場合は、添加するproBNP及びBNP-32の物質量(モル)に基づいて、標準品のBNP濃度及びBNP-32/proBNP(モル比)が定まる。BNP-32及びproBNPの精製品である場合、アミノ酸分析法、吸光度測定法、色素結合アッセイ、クロマトグラフィー法、電気泳動法等を利用して測定したproBNP及びBNP-32のモル濃度に基づいて適宜希釈して標準品を調製し、さらにプロテアーゼ阻害剤(例えばアプロチニン等)を添加する。
好ましくは、標準品は、上記のようにして調製されるBNP-32、proBNP及びプロテアーゼ阻害剤(例えばアプロチニン等)を混合し、そして適当な希釈液で希釈するか、又は濃縮することにより、BNP-32/proBNPのモル比及びBNP濃度を適宜調節して用いることができる。さらに、上記のようにして調製されるBNP-32及びproBNPを凍結乾燥に供したものに、使用時に希釈液を添加して用いることもできる。
「プロテアーゼ阻害剤」としては、アプロチニン、アンチパイン、ジイソプロピルフルオロリン酸、ロイペプチン、AEBSF(4-(2-Aminoethyl)benzenesulfonylfluoride)、PMSF(Phenylmethylsulfonyl Fluoride)等が挙げられる。
標準品の希釈液として、健常人血漿、緩衝液(例えばリン酸緩衝液、イミダゾール緩衝液、トリエタノールアミン-塩酸、クエン酸緩衝液、及びグッド緩衝液等)等が挙げられ得、タンパク質安定化剤(例えばウシ血清アルブミン(BSA)等)、塩化ナトリウム、及び防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、プロクリン及び抗生物質等)等を含み得る。希釈液としては、健常人血漿を用いることが好ましく、これらはBNP(proBNP及びBNP-32等)を含まないものが好ましく、例えば、心臓疾患を有しない健常人の血漿は、通常、実質的にBNPを含まないので好ましい。ヒト血漿からBNPを除去する処理を行ったものを希釈液に用いてもよい。BNPを除去する方法として、例えば、proBNP及びBNP-32で共通する領域を認識する抗体(例えばBC203、及びKY-hBNP-II等)を結合させたポリスチレンビーズ等とヒト血漿を一定時間反応させる方法が挙げられる。
本発明の一態様は、前記BNP測定用標準品セットを含む、BNP測定キットを提供し得る。
本発明の一態様において、前記BNP測定用標準品セットは、BNP測定キットの一構成要素として含まれ得る。本明細書において、BNP測定キットは、BNP濃度を測定するものであれば何でもよく、例えば、イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)法を用いたBNP測定キット(非特許文献4)、MI02シオノギBNP (塩野義製薬)、アーキテクトBNP-JP (アボットジャパン)、パスファースト BNP (LSIメディエンス)、デタミナーCL-BNP (協和メデックス)、ケミルミBNP (シーメンスヘルスケアダイアグノスティクス)、ラピッドチップ BNP (積水メディカル)、Eテスト「TOSOH」II (BNP) (東ソー)、ルミパルス BNP (富士レビオ)、Triage BNP Test (Alere)、及びi-STAT BNP Test (Abbott POC)等が挙げられ得る。
前記BNP測定キットは、心不全の診断補助用、心臓疾患の治療効果の判定、又は心臓疾患のスクリーニング等に使用され得る。
本明細書中において使用される場合、「心臓疾患」とは、当該分野において用いられる最も広い意味で用いられ、心不全(十分量の血流を押し出す心臓機能の不全を原因とする症候群をいい、心拍出量の低下とそれに伴う静脈圧の増大、またその結果として生じる種々の臨床症状が含まれる)、不整脈(心房細動、及び心室細動等)、高血圧症等の疾患の総称である。心不全の原因としては、弁膜性心疾患、虚血性心疾患、先天性心疾患、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、及び症候性心疾患等を挙げることができる。
本明細書中において使用される場合、「診断補助」とは、前記BNP測定キットを、単独で又は他の測定法等と組み合わせて使用することによって、心臓疾患の診断のための情報を提供することをいう。当該他の測定法等としては、心電図検査、心エコー検査、心臓カテーテル検査、BNP以外の血液検査、血圧測定、及び問診等が挙げられ得る。
本発明の一態様は、前記BNP測定用標準品セットを用いることを特徴とする、検体のBNP濃度を測定する方法を提供し得る。
本明細書中で使用される場合、「BNP濃度測定値」とは、BNP測定キットによるBNP濃度の測定値をいう。「BNP濃度測定値」と、「BNP濃度」(検体中に実際に含まれるBNP-32濃度とproBNP濃度との総和量)との関係は、同一検体の「BNP濃度」は同じであるが、同一検体に対する各測定キットの「BNP濃度測定値」は、BNP-32及びproBNPに対する各測定キットの親和性の違い、各BNP測定キットで使用されている標準品の違い、proBNPとBNP-32の存在比率が検体によって異なることなどに起因して、数値が変わり得る。
本明細書中で使用される場合、「補正」とは、補正対象のBNP測定法による検体のBNP濃度測定値を基準となるBNP測定法による当該検体のBNP濃度測定値と同等の値に変換することをいい、好ましくは、補正対象のBNP測定法による検体のBNP濃度測定値に、下記補正係数を乗じることをいう。
本発明の一態様は、前記BNP測定用標準品セットを用いることを特徴とする、検体のBNP濃度測定値を補正する方法を提供し得る。
前記検体としては,生体試料(例えば血液、血漿、血清、脳液、リンパ液、心嚢液、組織、細胞、又は尿)が挙げられ得、好ましくは血液又は血漿が挙げられ得る。検体は、好ましくはヒトに由来し得る。
本発明の一態様の方法は、下記工程(A)及び(B)を含み得る。
本発明の一態様において、工程(A)は、前記複数の標準品を用いて、基準となるBNP測定法によるBNP濃度測定値と補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値の間の補正係数を、補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値の範囲毎に決定する工程であり得る。
「基準となるBNP測定法」は、BNP-32、proBNPで共通する領域を検出することにより、BNP-32、proBNPの両方を定量できるBNP測定法であれば特に限定はないが、イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)法、蛍光免疫測定(FIA)法、又は化学発光酵素免疫測定(CLEIA)法であり得、本明細書において、この方法を、「基準測定法」ということもある。本明細書において、基準となるBNP測定法は、BNP濃度を測定するものであるが、診断や評価の精度が高いものとして広く認められた測定法を基準法とすることが通常である。IRMA法の測定手順・条件は、非特許文献4に記載のとおりであり得、蛍光免疫測定(FIA)法、化学発光酵素免疫測定(CLEIA)法については公知の測定方法・条件を使用することができる。
「補正対象のBNP測定法」は、BNP-32、proBNPで共通する領域を検出することにより、BNP-32、proBNPの両方を定量できるBNP測定法であれば特に限定はないが、化学発光酵素免疫測定(CLEIA)法(例えば、MI02シオノギBNP (塩野義製薬)による測定法、パスファースト BNP (LSIメディエンス)による測定法、デタミナーCL-BNP (協和メデックス)による測定法、又はルミパルス BNP (富士レビオ)による測定法等)、化学発光免疫測定(CLIA)法(例えば、アーキテクトBNP-JP (アボットジャパン)による測定法、又はケミルミBNP (シーメンスヘルスケアダイアグノスティクス)による測定法等)、蛍光酵素免疫測定(FEIA)法 (例えば、Eテスト「TOSOH」II (BNP) (東ソー)による測定法等)、蛍光免疫測定(FIA)法 (例えば、Triage BNP Test (Alere)による測定法等)、イムノクロマト法(例えば、ラピッドチップ BNP (積水メディカル)等)、酵素免疫測定(EIA)法(例えば、i-STAT BNP Test (Abbott POC)による測定法等)、電気化学発光免疫測定(ECLIA)法、固相酵素免疫測定(ELISA)法、放射免疫アッセイ(RIA)法、免疫凝集法等が挙げられ得る。本明細書において、補正対象のBNP測定法は、BNP濃度測定値を得るものである。各測定法による測定手順・条件としては、公知の測定手順・条件を使用することができ、前述のキットについては、各キットの添付文書に記載の測定手順・条件を使用することができる。
本明細書中で使用される場合、「補正係数」とは、補正対象のBNP測定法による検体のBNP濃度測定値を基準となるBNP測定法による当該検体のBNP濃度測定値と同等の値に変換するための係数をいい、好ましくは、補正対象のBNP測定法による検体のBNP濃度測定値に当該補正係数を乗じることにより、当該BNP濃度測定値を、基準となるBNP測定法による当該検体のBNP濃度測定値と同等の値に変換するための係数をいう。
各標準品についての補正係数は、基準となるBNP測定法及び補正対象のBNP測定法の両方により、各標準品のBNP濃度を測定し、以下の式
[基準となるBNP測定法によるBNP濃度測定値]/[補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値]
で求められる。
補正対象のBNP測定法により測定した検体のBNP濃度測定値(実測値)に対する補正係数は、補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値において当該実測値を最も小さい数値差で挟む(濃度が高い方の標準品のBNP濃度測定値と実測値が一致する場合を含む)二つの標準品についての補正係数及びその標準品の補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値に基づいて線形補間することにより求められる。また、当該実測値が、第1の標準品の補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値以下である場合は、第1の標準品についての補正係数が当該実測値に対する補正係数となり、当該実測値が、BNP濃度が最大である標準品の補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値より大きい場合、その標準品についての補正係数が当該実測値に対する補正係数となる。
「BNP濃度測定値の範囲」は、前記各標準品の補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値に応じて決定される。たとえば、第1の標準品及び第2の標準品により、補正を行う場合、前記各標準品のBNP濃度測定値を当該範囲の境界値として、0 pg/mL~第1の標準品のBNP濃度測定値、第1の標準品のBNP濃度測定値~第2の標準品のBNP濃度測定値、第2の標準品のBNP濃度測定値~より高いBNP濃度測定値の各範囲に決定される。好ましくは、前記各標準品のBNP濃度を当該範囲の境界値としてとり得、例えば、0~20 pg/mL、20~150 pg/mL、150~2000 pg/mL、0~75 pg/mL、75~300 pg/mL、300~2000 pg/mL、0~25 pg/mL、25~160 pg/mL、160~2000 pg/mL、0~60 pg/mL、60~240 pg/mL、240~2000 pg/mL、0~30 pg/mL、30~180 pg/mL、180~2000 pg/mL、0~50 pg/mL、50~220 pg/mL、220~2000 pg/mL、又は0~40 pg/mL、40~200 pg/mL、200~2000 pg/mL等が挙げられ得る。
本発明の一態様において、工程(B)は、前記補正係数を用いて、補正対象のBNP測定法による検体のBNP濃度測定値を補正する工程であり得る。
本発明の一態様の方法は、下記工程(1)~(3)を含み得る。
本発明の一態様において、工程(1)は、基準となるBNP測定法及び補正対象のBNP測定法の両方により、第1の標準品及び第2の標準品の両方のBNP濃度を測定する工程であり得る。
本発明の一態様において、工程(2)は、第1の標準品及び第2の標準品の各々について、以下の比:
[基準となるBNP測定法によるBNP濃度測定値]/[補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値]
を求め、第1の標準品についての前記比を第1の補正係数として、及び第2の標準品についての前記比を第2の補正係数として、それぞれ決定する工程であり得る。
本発明の一態様において、工程(3)は、前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数を基に、補正対象のBNP測定法により測定した検体のBNP濃度測定値である実測値を、以下の数値:
(i)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値以下である場合、前記実測値に第1の補正係数を乗じた数値、
(ii)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値より大きく且つ補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値以下である場合は、
前記実測値に以下の式:
第1の補正係数+[(第2の補正係数-第1の補正係数)/(補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値-補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値)]×(実測値-補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値)
で求めた補正係数を乗じた数値、及び
(iii)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値より大きい場合、前記実測値に第2の補正係数を乗じた数値、
に補正する工程、
であり得る。
本明細書中で使用される場合、「実測値」とは、補正対象のBNP測定法により測定した検体のBNP濃度測定値をいう。
前記補正した数値を基に、標準曲線を作成することができ、前記標準曲線を用いて、検体のBNP濃度測定値から、検体に含まれるBNP濃度を得ることができる。また、前記標準曲線をBNP測定キットの添付文書に含めることができる。さらに、前記標準曲線から得られたBNP濃度の情報を、前記診断補助に利用することもできる。
本発明の一態様は、前記BNP測定用標準品セットを用いて算出された補正係数に関する情報を含む、BNP測定キットを提供し得る。
本明細書において、「BNP測定用標準品セットを用いて算出された補正係数に関する情報」とは、前記BNP測定用標準品セットを用いて算出される補正係数、補正方法、前記の補正した数値を基に作成した標準曲線などを含めた情報であり、これを用いて、補正対象のBNP測定法により測定した検体のBNP濃度測定値を補正することが可能であり、当該情報は、それを含む媒体により提供され、例えば、書面や電子媒体などにより提供され、バーコード、二次元コードなどの識別子により提供されることもある。
本発明の一態様の方法は、第1の標準品及び第2の標準品だけでなく、第3の標準品、第4の標準品、及び第5の標準品等を使用することもできる。この場合、第1の補正係数及び第2の補正係数に加えて、第3の標準品、第4の標準品、及び第5の標準品等にそれぞれ対応する第3の補正係数、第4の補正係数、及び第5の補正係数等を使用し得る。
例えば、第1の標準品~第nの標準品を用いる場合(ここで、nは3以上の整数である)、前記工程(3)は、以下:
(3)前記第1の補正係数~前記第nの補正係数を基に、補正対象のBNP測定法により測定した検体のBNP濃度測定値である実測値を、以下の数値:
(i)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値以下である場合、前記実測値に第1の補正係数を乗じた数値、
(ii)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値より大きく且つ補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値以下である場合は、前記実測値に以下の式:
第1の補正係数+[(第2の補正係数-第1の補正係数)/(補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値-補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値)]×(実測値-補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値)
で求めた補正係数を乗じた数値、
(iii)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値より大きく且つ補正対象のBNP測定法による第3の標準品のBNP濃度測定値以下である場合は、前記実測値に以下の式:
第2の補正係数+[(第3の補正係数-第2の補正係数)/(補正対象のBNP測定法による第3の標準品のBNP濃度測定値-補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値)]×(実測値-補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値)
で求めた補正係数を乗じた数値、
・・・
(i×n)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第n-1の標準品のBNP濃度測定値より大きく且つ補正対象のBNP測定法による第nの標準品のBNP濃度測定値以下である場合は、前記実測値に以下の式:
第n-1の補正係数+[(第nの補正係数-第n-1の補正係数)/(補正対象のBNP測定法による第nの標準品のBNP濃度測定値-補正対象のBNP測定法による第n-1の標準品のBNP濃度測定値)]×(実測値-補正対象のBNP測定法による第n-1の標準品のBNP濃度測定値)
で求めた補正係数を乗じた数値、及び
(i×[n+1])前記実測値が補正対象のBNP測定法による第nの標準品のBNP濃度測定値より大きい場合、前記実測値に第nの補正係数を乗じた数値、
に補正する工程
のとおりとなり得る。
本発明の一態様において、前記工程(1)及び(2)は、前記工程(A)に対応し得、前記工程(3)は、前記工程(B)に対応し得る。
本発明の一態様は、本明細書及び下記の実施例に列挙された全ての一般的態様及び/又は具体的態様の全ての組み合わせを含み得る。
以下に、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1 血漿検体中のproBNPの存在比率の検討
(実施例1-1)
1.1.1 血漿検体中のproBNPの存在比率を測定するためのアッセイキット
BNP-32は測定せずproBNPのみを特異的に測定するキットA、及びBNP-32とproBNPの両方を測定するキットBで、同一検体をそれぞれ測定し、検体中のproBNPの存在比率を求めた。上記のアッセイキットA、Bは、いずれも2ステップのサンドイッチアッセイを原理とする。ストレプトアビジン(ナカライテスク)を固定化したプレートNunc C8 MaxiSorp(Thermo Fisher Scientific社、アメリカ)に、BNP-32及びproBNPで共通する構造部分であるC末端部分を認識する捕捉抗体BC203(FERM BP-3515)のビオチン標識体を添加し、プレートに捕捉抗体を結合させた。次いで、検体を添加して検体中のBNP-32及びproBNPを捕捉させた。洗浄して未反応物を除去した後、proBNPのみを特異的に測定するキットAでは、proBNPのアミノ酸配列13-20位付近を認識する抗体18H5(HyTest社、フィンランド)のALP標識物を添加し、BNP-32及びproBNPのいずれも測定するキットBでは、BNP-32及びproBNPの共通構造である環状部分を認識する抗体KY-hBNP-II(FERM BP-2863)のALP標識物を添加した。ALPは市販品(キッコーマン)を用いた。洗浄後、発光基質溶液CDP/E(Applied Biosystems社、アメリカ)を加えて、発光強度を測定することで、キットAではproBNPのみを定量し、キットBではBNP-32及びproBNPの総和量を定量し、両定量値を、各血漿検体中のproBNPの存在比率を求める目的に用いた。
1.1,2 血漿検体中のBNP濃度を測定するためのイムノラジオメトリックアッセイ(IRMA)法によるBNP測定キット
非特許文献4に記載のBNP測定キットを用いた。本キットもproBNP及びBNP-32の両方を検出するアッセイ法を用いており、本キットによる方法は、血漿中BNP濃度測定の基準測定法に該当することから、各検体の血漿中BNP濃度自体は本キットで測定した。尚、BNP濃度測定値は、本実施例を通じてBNP-32濃度とproBNPのBNP-32換算量としての濃度との総和量であるBNP-32換算値で表示している。
1.1.3 検体
心臓疾患のある患者及び心臓疾患のない患者から採取した合計58名分の血漿検体を使用した。
1.1.4 血漿検体中の血漿中BNP濃度に対するproBNPの存在比率の測定
血漿検体を、非特許文献4の記載に従ってイムノラジオメトリックアッセイ法によるBNP測定キット(血漿中BNP濃度の測定)で測定し、前記1.1.1に記載したとおりにproBNPの存在比率を測定するアッセイキット(キットA及びB)で測定した。血漿中BNP濃度の測定値を横軸、proBNPの存在比率を縦軸にプロットした結果を図1(a)及び図1(b)に示す。血漿中BNP濃度の測定値が20 pg/mL未満、25~60 pg/mL、75~150 pg/mL、160~250 pg/mL及び300 pg/mL以上の各領域でのproBNPの存在比率は、それぞれ38%~58% (平均47%)、34%~81% (平均50%)、42%~74% (平均57%)、44%~81% (平均61%)及び62%~78% (平均69%)となり、血漿中BNP濃度の測定値が大きいほどproBNPの存在比率が高くなる傾向が示された。この結果から、BNP濃度によってproBNPの存在比率が異なる標準品が必要であることがわかった。
(実施例1-2)
実施例1-1と同様の方法で、さらに、心臓疾患のある患者及び心臓疾患のない患者から採取した54名分の血漿検体を使用して、血漿中BNP濃度及びproBNPの存在比率を測定した。実施例1-1及び実施例1-2で得られた、合計112名分の血漿中BNP濃度の測定値を横軸、proBNPの存在比率を縦軸にプロットした結果を図2に示す。実施例1-1と同様に、血漿中BNP濃度の測定値が大きいほどproBNPの存在比率が高くなる傾向が示された。
実施例2 BNP標準品による補正効果の検討
2.1 検体
心臓疾患のある患者及び心臓疾患のない患者から採取した合計10名の血漿検体を使用した。
2.2 本発明の標準品セットの調製
市販の健常人血漿に対して、BNPを除去する処理を行った後、市販のグリコシル化proBNP (HyTest社、フィンランド)及び合成BNP-32 (ペプチド研究所、日本)を、以下のように添加して、本発明の標準品セットを調製した。低濃度域測定用のBNP測定用標準品(以下、「低濃度標準品」ともいう)については、BNP濃度を40 pg/mL(BNP-32換算値)とし、グリコシル化proBNP/BNP-32のモル比が1/1 (proBNP存在比率50%)となるよう、これらを前記処理済み血漿に添加した。高濃度域測定用のBNP測定用標準品(以下、「高濃度標準品」ともいう)については、BNP濃度を200 pg/mL(BNP-32換算値)とし、グリコシル化proBNP/BNP-32のモル比が3/1 (proBNP存在比率75%)となるよう、これらを前記処理済み血漿に添加した。これら2つを合わせて本発明の標準品セット又は本発明品という。本実施例を通じて、添加したproBNP及びBNP-32の物質量(モル)は、アミノ酸分析を用いて決定し、これを用いて各標準品のBNP濃度を決定した。
2.3 先行技術の標準品セットの調製
一方、先行技術の標準品セットとして、市販の健常人血漿に対して、BNPを除去する処理を行った後、グリコシル化proBNPのみを添加したもの、BNP-32のみを添加したもの、又はグリコシル化proBNPとBNP-32のモル比が1/1(proBNP/BNP-32)となるよう添加したものについて、それぞれ低濃度域測定用のBNP測定用標準品(40 pg/mL、BNP-32換算値)及び高濃度域測定用のBNP測定用標準品(200 pg/mL、BNP-32換算値)を調製した。
2.4 検体及び各標準品セットの各標準品の測定
血漿検体及び各標準品セットの各標準品のBNP濃度測定値を、BNPの基準測定法であるイムノラジオメトリックアッセイ法によるBNP測定キットとともに、3種類の市販のBNP測定キット「市販BNP測定キットA」、「市販BNP測定キットB」及び「市販BNP測定キットC」で測定した。これらのBNP測定キットによる測定を、IRMA法については非特許文献4の記載に従って、市販BNP測定キットについては各キットの添付文書に従って行った。尚、市販BNP測定キットAは化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、市販BNP測定キットB及び市販BNP測定キットCはいずれも化学発光免疫測定法(CLIA)による測定法である。以下、これら3つのBNP測定キットのそれぞれを指して、「各BNP測定キット」という場合もある。
2.5 補正係数の算出及び測定値の補正
基準測定法であるイムノラジオメトリックアッセイ法によるBNP測定キットによる各標準品の測定値に対して、各BNP測定キットによる当該標準品の測定値を比較し、標準品セットの種類ごとに、低濃度標準品及び高濃度標準品それぞれについて、測定値の比「基準測定法による測定値/各BNP測定キットによる測定値」を算出した。そして、各BNP測定キットについての前記比を用いて、当該BNP測定キットによる各検体の測定値を以下のように補正した。
(i)検体の測定値(実測値)が当該BNP測定キットによる低濃度標準品の測定値以下の検体については、検体の測定値に低濃度標準品について算出した比を乗じた。
(ii)検体の測定値が当該BNP測定キットによる低濃度標準品の測定値より大きく且つ当該BNP測定キットによる高濃度標準品の測定値以下である検体については、検体の測定値に、低濃度標準品及び高濃度標準品について算出したそれぞれの比から、以下の式:
低濃度標準品について算出した比+[(高濃度標準品について算出した比-低濃度標準品について算出した比)/(当該BNP測定キットによる高濃度標準品の測定値-当該BNP測定キットによる低濃度標準品の測定値)]×(検体の測定値-当該BNP測定キットによる低濃度標準品の測定値)
を用いて計算した係数を乗じた。
(iii)検体の測定値が当該BNP測定キットによる高濃度標準品の測定値より大きい検体については、検体の測定値に、高濃度標準品について算出した比を乗じた。
市販BNP測定キットAによる本発明の低濃度標準品及び高濃度標準品の測定値に基づいた、検体の測定値と補正係数の関係の一例を図3に示す。
2.6 測定値補正の効果
(1)各BNP測定キットによる血漿検体の測定結果
前記基準測定法及び各BNP測定キットによる血漿検体及び各標準品の測定値は、それぞれ表1及び表2のとおりであった。
Figure 0007407659000002

Figure 0007407659000003

基準測定法による血漿検体の測定値に対する各BNP測定キットによる当該血漿検体の測定値の相関は、
市販BNP測定キットAでy = 0.791x + 4.859(図4)、
市販BNP測定キットBでy = 0.924x + 12.423(図5)、
市販BNP測定キットCでy = 0.656x + 0.763(図6)
であった。これら3つの相関式の傾きの平均は0.790であり、変動係数(CV%)は17.0%であった。尚、本実施例を通じて、各BNP測定キットの相関は、全て最小二乗法による直線一次回帰により求めた。
(2)本発明の各標準品の補正係数の算出
基準測定法による本発明の各標準品の測定値を、各BNP測定キットによる当該標準品の測定値で除算して算出した補正係数は表3のとおりである。
Figure 0007407659000004
(3)本発明の補正方法による各BNP測定キットの測定値の補正
前記2.5で示した補正方法に則って、各BNP測定キットによる血漿検体の測定値を補正した結果、基準測定法による血漿検体の測定値に対する各BNP測定キットによる当該血漿検体の測定値の相関は、
市販BNP測定キットAでy = 0.891x + 12.724(図4)、
市販BNP測定キットBでy = 0.960x + 6.306(図5)、
市販BNP測定キットCでy = 1.006x + 2.894(図6)
であった。これら3つの相関式の傾きの平均は0.952であり、補正前より傾きが1に近づき、変動係数も6.1%と補正前(17.0%)の36%となり、各BNP測定キット間での傾きの差も小さくなった。これらから、本発明の補正方法により、各BNP測定キット間の測定値の乖離がかなり小さくなることが理解できる。さらに、各BNP測定キットによる個々のBNP濃度測定値は、補正後には基準測定法に対する比率が100%に近づいた(図7~図9)。
補正前後での基準測定法に対する各BNP測定キットの相関グラフを図4~図6に示す。また、補正前後での各BNP測定キットによるBNP濃度測定値の基準測定法に対する百分率のグラフを図7~図9に示す。図4~図9において、横軸は基準測定法によるBNP濃度測定値、及び図4~図6の縦軸は各BNP測定キットによるBNP濃度測定値、図7~図9の縦軸は各BNP測定キットによるBNP濃度測定値の基準測定法に対する百分率を示し、補正前を白抜きの菱形記号(◇)及び補正後を塗りつぶしの菱型記号(◆)で示す。
(4)先行技術のBNP標準品での比較例
一方、基準測定法による先行技術の各標準品の測定値を、各BNP測定キットによる当該標準品の測定値で除算して算出した補正係数は表4のとおりである。
Figure 0007407659000005

本発明の標準品セットによる補正と同様に、先行技術の各標準品の測定値に基づいて各BNP測定キットによる血漿検体の測定値を補正した結果は以下のとおりとなった。
(i)グリコシル化proBNPのみの標準品で補正した場合、基準測定法による血漿検体の測定値に対する各BNP測定キットによる当該血漿検体の測定値の相関は、
市販BNP測定キットAでy = 0.720x + 7.930(図10)、
市販BNP測定キットBでy = 1.045x + 3.379(図11)、
市販BNP測定キットCでy = 0.944x - 1.012(図12)
となった。これら3つの相関式の傾きの平均は0.903、変動係数は18.4%であり、本発明の補正方法による補正後の変動係数(6.1%)の約3.0倍であった。また、補正後の各BNP測定キットによる個々のBNP濃度測定値について、検体によっては、補正によって逆に、基準測定法に対する比率が100%から離れてしまう例を認めた(図19~図21)。
(ii)BNP-32のみの標準品で補正した場合、基準測定法による血漿検体の測定値に対する各BNP測定キットによる当該血漿検体の測定値の相関は、
市販BNP測定キットAでy = 0.770x + 3.756(図13)、
市販BNP測定キットBでy = 0.716x + 3.391(図14)、
市販BNP測定キットCでy = 1.437x - 12.054(図15)
となった。これら3つの相関式の傾きの平均は0.974、変動係数は41.2%であり、本発明の補正方法による補正後の変動係数(6.1%)の約6.8倍であった。
(iii)低濃度及び高濃度ともにグリコシル化proBNPとBNP-32を1/1(proBNP/BNP-32)の比率で添加した標準品で補正した場合、基準測定法による血漿検体の測定値に対する各BNP測定キットによる当該血漿検体の測定値の相関は、
市販BNP測定キットAでy = 0.708x + 9.983(図16)、
市販BNP測定キットBでy = 0.854x + 6.063(図17)、
市販BNP測定キットCでy = 1.127x - 0.456(図18)
となった。これら3つの相関式の傾きの平均は0.895、変動係数は23.7%であり、本発明の補正方法による補正後の変動係数(6.1%)の約3.9倍であった。
上記(i)、(ii)及び(iii)それぞれの標準品セットにより補正した場合の基準測定法に対する各BNP測定キットの相関グラフを図10~図18に示す。また、本発明の補正に最も近い補正の効果が認められた上記(i)の標準品セットによる補正前後での各BNP測定キットによるBNP濃度測定値の基準測定法に対する百分率のグラフを図19~図21に示す。図10~図21において、横軸は基準測定法による測定値、及び図10~図18の縦軸は各BNP測定キットによる測定値、図19~図21の縦軸は各BNP測定キットによるBNP濃度測定値の基準測定法に対する百分率を示し、補正前を白抜きの菱形記号(◇)及び補正後を塗りつぶしの菱型記号(◆)で示す。
以上のとおり、先行技術による補正は、各BNP測定キットの測定値の乖離が、相関式の傾きの変動係数で表した場合、本発明の補正方法による補正の3倍以上に大きくなった。
実施例3 BNP標準品の安定化効果の検討
(実施例3-1)
実施例2の2.2の方法と同様に、市販の健常人血漿に対して、BNPを除去する処理を行った後、血漿1 mLあたり1000 KIU(Kallikrein Inhibitor Units:カリクレイン阻害剤単位)のアプロチニン(Sigma社、アメリカ)を添加し、市販のグリコシル化proBNPのみ又は合成BNP-32のみを、それぞれBNP濃度が40又は500 pg/mL(BNP-32換算値)となるよう、前記処理済み血漿に添加した。調製した各標準品0.5 mLずつを、表面をシリコーン加工処理したガラス容器及び未処理のガラス容器、並びにポリプロピレン製の容器に添加した。
各標準品を添加した各ガラス容器の一部とポリプロピレン製の容器は-80℃で凍結保存した。また、各標準品を添加した各ガラス容器の残りは、凍結乾燥して水分を除去した。凍結保存した各標準品を融解した試料、及び凍結乾燥した各標準品に水を添加して調製した試料について、実施例2の2.5に記載の基準測定法であるイムノラジオメトリックアッセイ法によるBNP測定キットを用いて、BNP濃度を測定した。それぞれの試料のBNP濃度は表5のとおりであった。
Figure 0007407659000006

ポリプロピレン製の容器に添加した試料のBNP濃度を100%としたときの残存BNP活性は、シリコーン加工処理していないガラス容器において、BNP-32のみを含む標準品では82%~86%に低下していたのに対して、シリコーン加工処理したガラス容器においては、92%~94%を保っていた(図22)。
proBNPのみを含む標準品でも、シリコーン加工処理していないガラス容器においては、残存BNP活性が92%~96%に低下したのに対して、シリコーン加工処理したガラス容器においては、95%~101%の活性を保っていた(図23)。
ガラス容器をシリコーン処理加工することで、特にBNP-32ついて、活性の低下を抑える効果が示された。
(実施例3-2)
実施例2の2.2の方法と同様に、市販の健常人血漿に対して、BNPを除去する処理を行った後、血漿1 mLあたり1000又は2000 KIUのアプロチニンを添加した。それぞれのアプロチニン添加血漿に対し、BNP-32及びproBNPを1:1のモル比で200 pg/mL添加した標準品を調製した。このアプロチニン添加量が異なる標準品をそれぞれポリプロピレン製の容器に添加して凍結し、その一部について、融解と凍結を1回又は3回繰り返した。その後、融解・凍結を行っていない凍結品を含めて融解した各試料について、基準測定法のBNP測定キットを用いてBNP濃度を測定した。
アプロチニンの添加量が1000 KIU/mL標準品では、融解と凍結を繰り返すことで活性が7%~12%低下したのに対して、アプロチニンの添加量が2000 KIU/mL標準品では、活性の低下が1%に留まった(図24)。
BNP-32、proBNP及びプロテアーゼ阻害剤を含む標準品を複数含むBNP測定用標準品セットを用いて、異なるBNP測定キットのBNP濃度測定値を補正することにより、従来のBNP測定用標準品セットでのこれらのBNP測定キットのBNP濃度測定値を補正した場合に比べて、これらのBNP測定キット間で補正後の測定値をより一致させることができる。

Claims (10)

  1. BNP-32、proBNP及びプロテアーゼ阻害剤を含む標準品を複数含むBNP測定用標準品セットであって、前記各標準品間において、BNP-32/proBNP(モル比)が異なっており、モル比が高い標準品と低い標準品とを対比した場合、モル比が高いものは、低いものと比べて、BNP-32濃度とproBNP濃度との総和量であるBNP濃度がより低い、BNP測定用標準品セット。
  2. プロテアーゼ阻害剤がアプロチニンである、請求項1記載のBNP測定用標準品セット。
  3. 少なくとも2つの標準品を含み、第1の標準品のモル比は40/60~60/40(BNP-32/proBNP)であり、第2の標準品のモル比は15/85~35/65(BNP-32/proBNP)である、請求項1又は2記載のBNP測定用標準品セット。
  4. 第1の標準品のBNP濃度が20~75pg/mLであり、第2の標準品のBNP濃度が150~300pg/mLである、請求項3記載のBNP測定用標準品セット。
  5. 請求項1~4いずれか記載のBNP測定用標準品セットを含む、BNP測定キット。
  6. 請求項1~4いずれか記載のBNP測定用標準品セットを用いて算出された補正係数に関する情報を含む、BNP測定キット。
  7. 請求項1~4いずれか記載のBNP測定用標準品セットを用いることを特徴とする、検体のBNP濃度を測定する方法。
  8. 請求項1~4いずれか記載のBNP測定用標準品セットを用いることを特徴とする、検体のBNP濃度測定値を補正する方法。
  9. 以下の工程(A)及び(B):
    (A)前記複数の標準品を用いて、基準となるBNP測定法によるBNP濃度測定値と補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値の間の補正係数を、補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値の範囲毎に決定する工程、及び
    (B)前記補正係数を用いて、補正対象のBNP測定法による検体のBNP濃度測定値を補正する工程
    を含む、請求項8記載の方法。
  10. 以下の工程(1)~(3):
    (1)基準となるBNP測定法及び補正対象のBNP測定法の両方により、第1の標準品及び第2の標準品の両方のBNP濃度を測定する工程、
    (2)第1の標準品及び第2の標準品の各々について、以下の比:
    [基準となるBNP測定法によるBNP濃度測定値]/[補正対象のBNP測定法によるBNP濃度測定値]
    を求め、第1の標準品についての前記比を第1の補正係数として、及び第2の標準品についての前記比を第2の補正係数として、それぞれ決定する工程、及び
    (3)前記第1の補正係数及び前記第2の補正係数を基に、補正対象のBNP測定法により測定した検体のBNP濃度測定値である実測値を、以下の数値:
    (i)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値以下である場合、前記実測値に第1の補正係数を乗じた数値、
    (ii)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値より大きく且つ補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値以下である場合は、前記実測値に以下の式:
    第1の補正係数+[(第2の補正係数-第1の補正係数)/(補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値-補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値)]×(実測値-補正対象のBNP測定法による第1の標準品のBNP濃度測定値)
    で求めた補正係数を乗じた数値、及び
    (iii)前記実測値が補正対象のBNP測定法による第2の標準品のBNP濃度測定値より大きい場合、前記実測値に第2の補正係数を乗じた数値、
    に補正する工程、
    を含む、請求項8記載の方法。
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