以下に、本開示の実施の形態に係る積層造形方法、積層造形装置および積層造形物の製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。積層造形装置100は、溶融させた材料を被加工物へ付加することによって3次元状の積層造形物を製造する工作機械である。以下では、鉛直方向をZ軸方向とし、Z軸方向に垂直な面内における2つの互いに直交する方向をX軸方向およびY軸方向とする。実施の形態1において、ビームはレーザビームLである。材料は金属のワイヤWである。具体的には、金属のワイヤWは、アルミニウムを含有する金属のワイヤWであり、アルミニウム、アルミニウム合金等のワイヤWである。一例では、金属のワイヤWは、アルミニウム-マグネシウム系である5000系、アルミニウム-シリコン系である4000系、アルミニウム-マグネシウム-シリコン系である6000系のアルミニウム合金からなるワイヤWである。以下では、アルミニウムを含有する金属からなる材料は、アルミニウム系材料と称され、アルミニウムを含有する金属のワイヤWは、アルミニウム系ワイヤとも称される。
積層造形装置100は、溶融した材料の固化物である単位ビードを並列させた層を積み重ねることによって堆積物55を形成していき、3次元状の積層造形物を製造する。積層造形物とは、加工プログラムにしたがった材料の付加を終えた堆積物55を指す。積層造形装置100は、ベース材51に堆積物55を形成する。
積層造形装置100は、ステージ11と、加工ヘッド12と、レーザ発振器13と、ファイバケーブル14と、ガス供給装置15と、配管16と、ワイヤスプール17と、回転モータ18と、ヘッド駆動装置19と、回転機構20と、制御装置21と、を備える。
ステージ11は、堆積物55を形成する土台となるベース材51を載置する。図1に示される例では、ベース材51は、鉄を含有する金属の板材である。一例では、ベース材51は、クロムおよびニッケルを含む鉄合金であるオーステナイト系ステンレス鋼からなる。以下では、鉄を含有する金属からなる材料は、鉄系材料と称される。図1では、ベース材51は、板材である場合が示されているが、これは一例であり、ベース材51は、板材以外であってもよい。一例では、ベース材51は、鉄系材料からなるワイヤを溶融、固化させた単位ビードを積層させた被加工物であってもよい。以下の説明において、被加工物とは、溶融した材料の固化物である単位ビードの形成対象であり、ベース材51または堆積物55が形成されたベース材51を指すものとする。
加工ヘッド12は、レーザビームLの照射位置である加工点に金属のワイヤWを供給するとともに、レーザビームLを照射し、シールドガスGを噴射する。加工ヘッド12は、ステージ11に対して移動可能である。加工ヘッド12は、ビームノズル121と、ワイヤノズル122と、ガスノズル123と、を有する。ビームノズル121は、加工点へ向けてレーザビームLを出射する。レーザビームLは、加工点におけるワイヤWを溶融させる熱源である。ワイヤノズル122は、加工点へ向けてワイヤWを進行させる。ガスノズル123は、加工点へ向けてシールドガスGを噴射する。シールドガスGの一例は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスである。積層造形装置100は、シールドガスGの噴射によって、堆積物55の酸化を抑制するとともに、被加工物に形成された層を冷却する。ビームノズル121とワイヤノズル122とガスノズル123とは、加工ヘッド12に固定されることにより、互いの位置関係が一意に定められている。すなわち、ビームノズル121とワイヤノズル122とガスノズル123との相対位置は、固定されている。
レーザ発振器13は、固体レーザ、ガスレーザ、ファイバレーザ、半導体レーザ等のレーザビームLを発振するビーム源である。ファイバケーブル14は、レーザ発振器13から加工ヘッド12のビームノズル121へとレーザビームLを伝搬する光伝送路である。ファイバケーブル14は、レーザ発振器13と加工ヘッド12との間を接続する。レーザ発振器13とファイバケーブル14と加工ヘッド12のビームノズル121とにより、ワイヤWを溶融させるレーザビームLを被加工物へ照射する照射部が構成される。
ガス供給装置15は、配管16を通じてガスノズル123へシールドガスGを供給する。配管16は、ガス供給装置15と加工ヘッド12のガスノズル123との間に接続され、ガス供給装置15からガスノズル123へとシールドガスGを流す流路となる。ガス供給装置15と配管16と加工ヘッド12のガスノズル123とにより、加工点へシールドガスGを噴射するガス供給部が構成される。
ワイヤスプール17は、材料、具体的にはアルミニウム系材料の供給源であり、ワイヤWが巻き付けられている。回転モータ18は、ワイヤスプール17を回転軸の周りに回転させる。回転モータ18の一例は、サーボモータである。回転モータ18の駆動に伴ってワイヤスプール17が回転することによって、ワイヤWはワイヤスプール17から繰り出される。ワイヤスプール17から繰り出されたワイヤWは、ワイヤノズル122を通されて、加工点へ供給される。また、ワイヤWをワイヤスプール17から繰り出す場合とは逆方向に回転モータ18を回転させることにより、加工点へ供給されたワイヤWを加工点から引き抜くことができる。この場合、ワイヤスプール17から繰り出されているワイヤWにおけるワイヤスプール17側の一部がワイヤスプール17に巻き取られる。ワイヤスプール17と回転モータ18と加工ヘッド12のワイヤノズル122とにより、被加工物へ材料を供給する材料供給部が構成される。
なお、ワイヤノズル122には、ワイヤスプール17からワイヤWを引き出すための動作機構が設けられてもよい。積層造形装置100は、回転モータ18とワイヤノズル122の動作機構との少なくとも一方が設けられることによって、加工点へワイヤWを供給可能とする。図1では、ワイヤノズル122の動作機構の図示を省略している。
ヘッド駆動装置19は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の各方向へ加工ヘッド12を移動させる。ヘッド駆動装置19は、X軸方向への加工ヘッド12の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Y軸方向への加工ヘッド12の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Z軸方向への加工ヘッド12の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、を有する。ヘッド駆動装置19は、3軸のそれぞれの方向の並進運動を可能とする動作機構である。図1では、各サーボモータの図示を省略している。積層造形装置100は、ヘッド駆動装置19により加工ヘッド12を移動させることで、被加工物におけるレーザビームLの照射位置を移動させることができる。積層造形装置100は、ステージ11を移動させることによって、あるいはヘッド駆動装置19とステージ11との両方を移動させることによって、被加工物におけるレーザビームLの照射位置を移動させてもよい。
図1に示す加工ヘッド12では、ビームノズル121からZ軸方向へレーザビームLを出射させる。ワイヤノズル122は、XY面内においてビームノズル121とは離れた位置に設けられており、Z軸に対して斜めの方向へワイヤWを進行させる。なお、ワイヤノズル122は、加工ヘッド12においてZ軸方向へ向けて固定されることによって、Z軸に対して平行な方向へワイヤWを進行させてもよい。ワイヤノズル122は、ワイヤWが所望の位置に供給されるようにワイヤWの進行を制限する。
図1に示す加工ヘッド12において、ガスノズル123は、XY面内においてビームノズル121の外周側にビームノズル121と同軸に設けられており、ビームノズル121から出射されるレーザビームLの中心軸に沿うようにシールドガスGを噴射する。すなわち、ビームノズル121とガスノズル123とは、互いに同軸上に配置されている。なお、レーザビームLが照射される加工点で溶融、凝固する材料が酸化しないようにシールドガスGが加工点を含む領域に噴射されればよい。このため、ガスノズル123は、Z軸に対して斜めの方向へシールドガスGを噴射してもよい。すなわち、ガスノズル123は、ビームノズル121から出射されるレーザビームLの中心軸に対して斜めの方向へシールドガスGを噴射してもよい。
回転機構20は、第1軸を中心とするステージ11の回転と、第1軸に垂直な第2軸を中心とするステージ11の回転とを可能とする動作機構である。図1に示す回転機構20において、第1軸はX軸に平行な軸であって、第2軸はY軸に平行な軸である。回転機構20は、第1軸を中心にステージ11を回転させるための動作機構を構成するサーボモータと、第2軸を中心にステージ11を回転させるための動作機構を構成するサーボモータと、を有する。回転機構20は、2軸のそれぞれを中心とする回転運動を可能とする動作機構である。図1では、各サーボモータの図示を省略している。
積層造形装置100は、回転機構20によりステージ11を回転させることで、被加工物の姿勢または位置を変更することができる。すなわち、積層造形装置100は、ステージ11を回転させることで、被加工物におけるレーザビームLの照射位置を移動させることができる。積層造形装置100は、回転機構20を用いることで、テーパ形状を有する複雑な形状も造形することができる。
制御装置21は、加工プログラムに従って積層造形装置100を制御する。制御装置21は、一例では数値制御装置である。制御装置21は、ヘッド駆動装置19へ位置指令を出力することによって、ヘッド駆動装置19の位置を制御する。制御装置21は、ビーム強度の条件に応じた指令である出力指令をレーザ発振器13へ出力することによって、レーザ発振器13によるレーザ発振を制御する。
制御装置21は、材料の供給量の条件に応じた指令である供給指令を回転モータ18へ出力することによって、回転モータ18を制御する。供給指令は、ワイヤWの供給速度の条件に応じた指令であってもよい。供給速度は、ワイヤスプール17から照射位置へ向かうワイヤWの速度である。供給速度は、時間当たりの材料の供給量を表す。
制御装置21は、ガスの供給量の条件に応じた指令をガス供給装置15へ出力することによって、ガス供給装置15からガスノズル123へ供給されるシールドガスGの量を制御する。制御装置21は、回転機構20へ回転指令を出力することによって、回転機構20の駆動を制御する。すなわち、制御装置21は、各種指令を出力することによって、積層造形装置100の全体を制御する。制御装置21は、材料供給部、照射部、ガス供給部、ヘッド駆動装置19および回転機構20の制御によって、積層造形装置100に単位ビードを形成させる。制御装置21は、制御部に対応する。
次に、制御装置21が有するハードウェア構成について説明する。制御装置21の機能は、積層造形装置100の制御を実行するためのプログラムである制御プログラムがハードウェアを用いて実行されることによって実現される。
図2は、実施の形態1に係る積層造形装置が有する制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。制御装置21は、各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)211と、データ格納領域を含むRAM(Random Access Memory)212と、不揮発性メモリであるROM(Read Only Memory)213と、記憶装置214と、制御装置21への情報の入力および制御装置21からの情報の出力のための入出力インタフェース215とを有する。図2に示す各部は、バス216を介して相互に接続されている。
CPU211は、ROM213または記憶装置214に記憶されているプログラムを実行する。制御装置21による、積層造形装置100の全体の制御は、CPU211を使用して実現される。
記憶装置214は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)である。記憶装置214は、制御プログラムと各種データとを記憶する。ROM213には、制御装置21であるコンピュータまたはコントローラの基本となる制御のためのプログラムであるBIOS(Basic Input/Output System)あるいはUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)といったブートローダであって、ハードウェアを制御するソフトウェアまたはプログラムが記憶されている。なお、制御プログラムは、ROM213に記憶されてもよい。
ROM213および記憶装置214に記憶されているプログラムは、RAM212にロードされる。CPU211は、RAM212に制御プログラムを展開して各種処理を実行する。入出力インタフェース215は、制御装置21の外部の装置との接続インタフェースである。入出力インタフェース215には、加工プログラムが入力される。また、入出力インタフェース215は、各種指令を出力する。制御装置21は、キーボードおよびポインティングデバイスといった入力デバイス、およびディスプレイといった出力デバイスを有してもよい。
制御プログラムは、コンピュータによる読み取りが可能とされた記憶媒体に記憶されたものであってもよい。制御装置21は、記憶媒体に記憶された制御プログラムを記憶装置214へ格納してもよい。記憶媒体は、フレキシブルディスクである可搬型記憶媒体、あるいは半導体メモリであるフラッシュメモリであってもよい。制御プログラムは、他のコンピュータあるいはサーバ装置から通信ネットワークを介して、制御装置21となるコンピュータあるいはコントローラへインストールされてもよい。
制御装置21の機能は、積層造形装置100の制御のための専用のハードウェアである処理回路によって実現されてもよい。処理回路は、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらの組み合わせである。制御装置21の機能は、一部を専用のハードウェアで実現し、他の一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
次に、実施の形態1に係る積層造形方法について説明する。なお、積層造形方法によって3次元の積層造形物が製造されるので、以下に説明する積層造形方法は、積層造形物の製造方法でもある。図3は、実施の形態1に係る積層造形方法の手順の一例を示すフローチャートである。図4から図8は、実施の形態1に係る積層造形方法の手順の一例を模式的に示す斜視図である。
ここでは、鉄系材料からなるベース材51上に、アルミニウム系材料からなるワイヤWを供給して、積層造形方法によって、3次元の積層造形物を製造する場合を例に挙げて説明する。ベース材51の一例は、ステンレス鋼であるSUS(Steel Use Stainless)304からなる板材である。ワイヤWの一例は、日本産業規格(Japanese Industrial Standards:JIS) Z 3232で規定されるA5183からなるワイヤである。なお、A5183は、国際標準化機構(International Organization for Standardization:ISO)によって規定されるAl5183に対応する。
まず、図4に示されるように、鉄系材料からなるベース材51を用意する(ステップS11)。図4の例では、ベース材51は、板状の部材であるが、板状の部材でなくてもよい。一例では、ベース材51が、ワイヤWを鉄系材料のワイヤとした積層造形装置100によって製造されたものであってもよい。従来の技術のように、ベース材51の表面には、亜鉛系被覆層は形成されていない。
次いで、図5に示されるように、ベース材51の表面の一部である積層面に液状のフラックス52aを塗布する(ステップS12)。一例では、市販の粉末状のフラックスと水とを重量比で1:2となるように混合し、液状のフラックス52aが形成される。刷毛、スプレーガン等の方法で液状のフラックス52aはベース材51の積層面に塗布される。スプレーガンを用いた塗布では、ベース材51上に均一に液状のフラックス52aを塗布することができる。積層面は、被加工物の単位ビードが形成される面である。また、ステップS12の工程は、第1フラックス塗布工程に対応する。
その後、液状のフラックス52aを塗布したベース材51を炉に搬送し、ベース材51を定められた加熱条件で加熱する(ステップS13)。これによって、図6に示されるように、ベース材51の液状のフラックス52aは、乾燥、固化され、ベース材51の積層面上にフラックス層52が形成される。一例では、熱処理雰囲気は大気中であり、加熱温度は100℃であり、加熱時間は15分である加熱条件で、ベース材51は加熱される。その後、室温まで冷却する。フラックス層52は、第1フラックス層に対応する。また、ステップS13の工程は、第1フラックス固化工程に対応する。
加熱によって形成されるフラックス層52の厚さは、特に限定はないが、厚い方が望ましい。一例では、ステップS13で所望の厚さのフラックス層52が得られるように、ステップS12で液状のフラックス52aを塗布することができる。他の例で、所望の厚さのフラックス層52が得られるように、ステップS12からステップS13までの処理を複数回実行してもよい。複数回に分けてフラックス層52を形成することで、フラックス層52の均一性を高めることができる。
次いで、フラックス層52を形成したベース材51を、積層造形装置100のステージ11上に載置する(ステップS14)。その後、図7に示されるように、積層造形装置100を用いて、レーザビームLを照射し、フラックス層52上に供給されるワイヤWおよびフラックス層52を溶融させ、ベース材51上に溶融したワイヤWを濡れ拡がらせて凝固させた層である第1アルミニウム含有金属層53を積層する(ステップS15)。すなわち、フラックス層52上に供給されるワイヤWおよびフラックス層52にレーザビームLを照射し、ワイヤWおよびフラックス層52を溶融、凝固させた第1アルミニウム含有金属層53を積層する。レーザビームLは、ワイヤWの先端部に供給される。第1アルミニウム含有金属層53は、複数の単位ビードが並列に配列されることによって構成される。ここで使用されるワイヤWは、フラックスを含有せず、アルミニウムを含有する金属のワイヤである。ワイヤWは、第1ワイヤに対応する。また、ステップS15の処理は、第1積層工程に対応する。
ステップS15における積層造形装置100での処理についてさらに詳細に説明する。フラックス層52を形成したベース材51を積層造形装置100のステージ11上に載置し、固定する。その後、制御装置21は、加工ヘッド12を加工プログラムに従った位置に移動させ、ワイヤノズル122からワイヤWを加工点に供給するように、ワイヤスプール17の回転モータ18を制御する。また、制御装置21は、ガスノズル123からシールドガスGを噴射させるようにガス供給装置15を制御するとともに、ビームノズル121からレーザビームLを出射させるようにレーザ発振器13を制御する。このとき、制御装置21は、鉄系材料の融点よりも低い温度で、フラックスが溶融する温度となるように、レーザビームLの出力を制御する。
レーザビームLの照射によってフラックス層52が溶融する。このとき、ベース材51は溶融しない。溶融したフラックスは、ベース材51の表面に付着している酸化物等を除去する。これによって、ベース材51の表面は清浄な表面となり、別の材料、すなわちアルミニウム系材料と結合しやすくなる。また、溶融したフラックスは、溶融したワイヤW、すなわち溶融したアルミニウム系材料の濡れ性を向上させ、下地のベース材51とアルミニウム系材料とを結合しやすくさせる。
加工ヘッド12が移動し、レーザビームLの照射位置がずれると、それまでのレーザビームLの照射位置における溶融したアルミニウム系材料は、ベース材51上で凝固し、第1アルミニウム含有金属層53となる。このとき、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との界面には、2μm以下の鉄とアルミニウムとを含む金属間化合物層が形成される。この薄い金属間化合物層によって、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との間の強固な結合が維持される。
なお、金属間化合物層は、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との界面に存在しないと、両者を結合することができない。このため、ある程度の厚さの金属間化合物層は必要である。ただし、金属間化合物層の厚さが約2μmよりも大きくなると、積層造形物に衝撃が加わったときに、金属化合物層が割れ、剥離してしまい、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との間の接合が失われてしまう。このため、金属間化合物層は2μm以下、さらには1μm以下であることが望ましい。
また、フラックスを介さずにアルミニウム系材料であるワイヤWと鉄系材料であるベース材51とをレーザビームLの照射によって一緒に溶融させてしまうと、界面に2μmよりも厚い金属間化合物層が形成されてしまう。このように2μmよりも厚い金属間化合物層が存在すると、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との界面の接合が弱くなってしまう。このため、実施の形態1では、鉄系材料の融点よりも低い融点を有するフラックス層52をベース材51の上に形成している。これによって、鉄系材料を溶融させずに、フラックスを溶融させるようにすることで、鉄系材料の上に溶融したアルミニウム系材料を濡れ拡がらせることが可能となる。また、鉄系材料が溶融しないので、アルミニウム系材料との過度の反応が抑えられ、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との界面に2μm以下の薄い厚さの金属間化合物層を形成することができる。
このようにして、ベース材51を溶融させずに、フラックス層52を溶融させ、溶融させたワイヤWを溶融したフラックス層52に流し込むことで、溶融させたワイヤW、すなわち溶融したアルミニウム系材料のベース材51に対する濡れ性が改善される。この結果、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53とが強固に接合される。なお、図7に示されるように、レーザビームLが照射されない領域では、ワイヤWは供給されないので、フラックス層52は、そのまま残る状態となっている。
第1アルミニウム含有金属層53の形成後、図8に示されるように、レーザビームLを照射し、下地層上に供給されるワイヤWを溶融、凝固させた層である第2アルミニウム含有金属層54を1層以上積層する(ステップS16)。すなわち、下地層上に供給されるワイヤWにレーザビームLを照射し、ワイヤWを溶融、凝固させた第2アルミニウム含有金属層54を下地層上に1層以上積層する。この例では、レーザビームLは、下地層にも照射され、ワイヤWと下地層の一部とが溶融、凝固して第2アルミニウム含有金属層54が積層される。ステップS16では、ワイヤWの供給の前に、下地層の第1アルミニウム含有金属層53の積層面にフラックス層52の形成を行わない。これは、下地層が鉄系材料であるベース材51ではないため、第1アルミニウム含有金属層53上に第2アルミニウム含有金属層54を形成しても、問題となる金属間化合物層が形成されないためである。このため、この例では、レーザビームLの照射によって、ワイヤWとともに下地層の一部も溶融、凝固される。なお、第1アルミニウム含有金属層53上に第2アルミニウム含有金属層54を形成する場合には、下地層は第1アルミニウム含有金属層53となる。第2アルミニウム含有金属層54上に第2アルミニウム含有金属層54を形成する場合には、直前に形成された第2アルミニウム含有金属層54が下地層となる。ステップS16で使用されるワイヤWは、第2ワイヤに対応するが、実施の形態1では、第1ワイヤと同じものである。ここでは、ワイヤWは、フラックスを含有せず、アルミニウムを含有する金属のワイヤである。また、ステップS16の処理は、第2積層工程に対応する。
そして、ステップS16の第2アルミニウム含有金属層54の形成を定められた回数実行することで、積層造形物が製造される。以上で、積層造形方法が終了する。
実施の形態1では、鉄系材料のベース材51の上に液状のフラックス52aを塗布した後、ベース材51を炉内に搬送し、加熱、乾燥させることによってフラックス層52を形成する。その後、ベース材51を積層造形装置100に搬送し、アルミニウム系材料のワイヤWをベース材51上に供給しながら、ワイヤWの供給位置に、ベース材51の融点よりも低くフラックスの融点よりも高くなるように出力が調整されたレーザビームLを照射する。これによって、ベース材51は溶融せずに、フラックス層52が溶融し、溶融したフラックスに溶融したワイヤWが流れ込むことで、ワイヤW、すなわちアルミニウ系材料がベース材51上に濡れ拡がる。そして、ワイヤWの供給位置およびレーザビームLの照射位置を変えていくことで、アルミニウ系材料が凝固し、第1アルミニウム含有金属層53がベース材51上に形成される。この結果、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との間で強固な結合が形成される。つまり、積層造形方法によって、アルミニウム系材料と鉄系材料という溶融接合が非常に困難な材料を用いた場合にも、鉄系材料とアルミニウム系材料との異種材料の接合部で、従来に比して強固な接合を実現することができるという効果を有する。
実施の形態2.
実施の形態1では、ベース材51に液状のフラックス52aを塗布して、炉内でフラックスを加熱して固化させ、フラックス層52を形成した後に、ベース材51を積層造形装置100に搬送して、3次元の積層造形物を製造していた。このため、ベース材51をフラックスの塗布装置、炉および積層造形装置100の順に移動させなければならない。実施の形態2では、積層造形装置100のみで、鉄系材料のベース材51を溶融することなく、アルミニウム系材料を積層させることができる積層造形方法について説明する。
図9は、実施の形態2に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1と異なる部分について説明する。実施の形態2に係る積層造形装置100aは、複数のワイヤW,Waの供給機構を有する点が、実施の形態1の積層造形装置100と異なる。すなわち、実施の形態2では、積層造形装置100aは、加工ヘッド12に代えて加工ヘッド12aを備え、ワイヤスプール17aと、回転モータ18aと、をさらに備える。
加工ヘッド12aは、ビームノズル121、ワイヤノズル122およびガスノズル123に加えて、さらにワイヤノズル122aを有する。ワイヤノズル122aは、加工点へ向けてワイヤWaを進行させる。加工ヘッド12aの中心を通るZX面内において、ワイヤノズル122は、ビームノズル121のX軸正方向に配置され、ワイヤノズル122aはビームノズル121のX軸負方向に配置される。ワイヤノズル122aは、ワイヤノズル122と同様に被加工物におけるレーザビームLの照射位置へ向けてワイヤWaを進行させる。ビームノズル121とワイヤノズル122とワイヤノズル122aとガスノズル123とは、加工ヘッド12aに固定されることにより、互いの位置関係が一意に定められている。すなわち、ビームノズル121とガスノズル123とワイヤノズル122とワイヤノズル122aとの相対位置は、固定されている。
ワイヤスプール17aは、ワイヤWとは異なる材料の供給源であり、ワイヤWaが巻き付けられている。回転モータ18aは、ワイヤスプール17aを回転軸の周りに回転させる。回転モータ18aの一例は、サーボモータである。回転モータ18aの駆動に伴ってワイヤスプール17aが回転することによって、ワイヤWaはワイヤスプール17aから繰り出される。ワイヤスプール17aから繰り出されたワイヤWaは、ワイヤノズル122aを通されて、レーザビームLの照射位置、すなわち加工点へ供給される。また、ワイヤWaをワイヤスプール17aから繰り出す場合とは逆方向に回転モータ18aを回転させることにより、加工点へ供給されたワイヤWaをレーザビームLの照射位置から引き抜くことができる。この場合、ワイヤスプール17aから繰り出されているワイヤWaにおけるワイヤスプール17a側の一部がワイヤスプール17aに巻き取られる。回転モータ18a、ワイヤスプール17aおよびワイヤノズル122aと、により、被加工物へ材料を供給する第1材料供給部が構成され、回転モータ18、ワイヤスプール17およびワイヤノズル122と、により、被加工物へ材料を供給する第2材料供給部が構成される。
なお、ワイヤノズル122aには、ワイヤスプール17aからワイヤWaを引き出すための動作機構が設けられてもよい。積層造形装置100aは、回転モータ18aとワイヤノズル122aの動作機構との少なくとも一方が設けられることによって、加工点へワイヤWaを供給可能とする。図9では、ワイヤノズル122aの動作機構の図示を省略している。
実施の形態2では、ワイヤスプール17には、フラックスを含有せず、アルミニウムを含有する金属のワイヤWが巻き付けられ、ワイヤスプール17aには、アルミニウムおよびフラックスを含有する金属のワイヤ、すなわちフラックスコアードワイヤWaが巻き付けられる。以下では、ワイヤWaは、フラックスコアードワイヤWaとも称される。フラックスコアードワイヤWaはフラックス含有金属ワイヤに対応し、ワイヤWは金属ワイヤに対応する。ワイヤノズル122からは、ワイヤWが供給され、ワイヤノズル122aからは、フラックスコアードワイヤWaが供給される。一例では、ワイヤWは、5000系のアルミニウム合金からなるワイヤであり、フラックスコアードワイヤWaは、ワイヤの中にフラックスが入れられたワイヤである。
制御装置21は、ベース材51上に第1アルミニウム含有金属層53を形成する場合には、ステージ11上のベース材51にフラックスコアードワイヤWaを供給するように第1材料供給部を制御するとともに、レーザビームLの照射によってフラックスコアードワイヤWaを溶融、凝固させた第1アルミニウム含有金属層53を形成するように照射部を制御する。これによって、ベース材51上に第1アルミニウム含有金属層53が形成される。制御装置21は、第1アルミニウム含有金属層53の形成が終了すると、フラックスコアードワイヤWaを巻き取る。また、制御装置21は、下地層上にワイヤWを供給するように第2材料供給部を制御するとともに、レーザビームLの照射によってワイヤWを溶融、凝固させた第2アルミニウム含有金属層54を1層以上形成するように照射部を制御する。これによって、第1アルミニウム含有金属層53上に第2アルミニウム含有金属層54が形成される。
次に、実施の形態2に係る積層造形方法について説明する。なお、積層造形方法によって3次元の積層造形物が製造されるので、以下に説明する積層造形方法は、積層造形物の製造方法でもある。図10は、実施の形態2に係る積層造形方法の手順の一例を示すフローチャートである。
ここでは、鉄系材料からなるベース材51上に、アルミニウム系材料にフラックスが入れられたワイヤWaとアルミニウム系材料からなるワイヤWとを供給して、積層造形方法によって、3次元の積層造形物を製造する場合を例に挙げて説明する。ベース材51の一例は、ステンレス鋼であるSUS304からなる板材である。ワイヤWの一例は、JIS Z 3232で規定されるA5183からなるワイヤである。ワイヤWaの一例は、フラックスコアードワイヤである。
まず、鉄系材料からなるベース材51を用意し、積層造形装置100aのステージ11上に載置する(ステップS31)。ベース材51は、板状の部材であってもよいし、板状の部材でなくてもよい。一例では、ベース材51が、ワイヤWを鉄系材料のワイヤとした積層造形装置100aによって製造されたものであってもよい。
次いで、レーザビームLを照射し、ベース材51上に供給されるフラックスコアードワイヤWaを溶融、凝固させた層である第1アルミニウム含有金属層53を積層する(ステップS32)。つまり、ベース材51上に供給されるフラックスコアードワイヤWaにレーザビームLを照射し、フラックスコアードワイヤWaを溶融、凝固させた第1アルミニウム含有金属層53をベース材51上に積層する。このように、ステップS32では、制御装置21は、ワイヤノズル122aからフラックスコアードワイヤWaをベース材51上に供給し、ワイヤノズル122からはワイヤWを供給しないように、ワイヤスプール17aの回転モータ18aおよびワイヤスプール17の回転モータ18を制御する。なお、第1アルミニウム含有金属層53は、1層でもよいし、複数層積層させてもよい。4層目以降では、フラックスコアードワイヤWaを用いない通常のワイヤWで、下層の第1アルミニウム含有金属層53を溶融させるような照射条件でレーザビームLを照射しても、レーザビームLの照射による熱がベース材51と1層目の第1アルミニウム含有金属層53との界面まで伝わりにくい。このため、一例では、第1アルミニウム含有金属層53は、1層から3層までの範囲で単位ビードの層を積層させたものとすることができる。つまり、フラックスコアードワイヤWaを用いて第1アルミニウム含有金属層53を形成する場合には、フラックスコアードワイヤWaの溶融、凝固によって形成される単位ビードの層を1層から3層までの範囲で形成することが望ましい。ステップS32の処理は、第1積層工程に対応する。
フラックスコアードワイヤWaをベース材51上で溶融、凝固させることでも、実施の形態1の場合と同様に、溶融したフラックスコアードワイヤWaがベース材51上に濡れ拡がり、2μm以下の厚さの金属間化合物層を介して、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53とが強固に接合される。
第1アルミニウム含有金属層53を形成した後、フラックスコアードワイヤWaを巻き取る(ステップS33)。すなわち、制御装置21は、ワイヤスプール17aの回転モータ18aを、フラックスコアードワイヤWaを供給する方向とは逆方向に回転させるように制御する。
その後、レーザビームLを照射し、下地層上に供給されるワイヤWを溶融、凝固させた層である第2アルミニウム含有金属層54を1層以上積層する(ステップS34)。つまり、下地層上に供給されるワイヤWおよび下地層の一部にレーザビームLを照射し、ワイヤWおよび下地層の一部を溶融、凝固させた第2アルミニウム含有金属層54を1層以上積層する。ステップS34の処理は、第2積層工程に対応する。
そして、ステップS34の第2アルミニウム含有金属層54の形成を定められた回数実行することで、積層造形物が製造される。以上で、積層造形方法が終了する。
なお、ステップS31でフラックスコアードワイヤWaのフラックスの量が足りない場合には、実施の形態1と組み合わせてもよい。この場合には、ステップS31では、液状のフラックス52aを塗布し、乾燥させてフラックス層52を形成したベース材51を積層造形装置100aのステージ11に載置して、図10に示される手順を実行すればよい。この場合には、ベース材51上にフラックス層52を形成するので、フラックスコアードワイヤWaに含まれるフラックスの量が足りない場合でも、ベース材51上に十分な量の溶融したフラックスを形成することができ、ベース材51上にアルミニウム系材料を濡れ拡がらせることが可能となる。
また、一例では所望の組成を有するフラックスコアードワイヤWaが調達しにくい場合もある。このような場合には、第2アルミニウム含有金属層54の組成と異なるアルミニウム系材料からなる第1アルミニウム含有金属層53を形成してもよい。一例では、ワイヤスプール17aには、ワイヤスプール17に巻き付けられているワイヤWの組成とは異なるアルミニウ系材料からなるフラックスコアードワイヤWaを巻き付ける。一例では、ワイヤWがA5183などの5000系のアルミニウム系ワイヤである場合には、フラックスコアードワイヤWaは、JIS Z 3232で規定されるA4043,A4047等の4000系と称されるフラックスコアードワイヤを用いることができる。フラックスコアードワイヤWaに4000系のフラックスコアードワイヤを用いる場合には、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との界面には、アルミニウム-シリコン-鉄のシリコンを含んだ3元系の金属間化合物層が生成される。
この場合には、ステップS32でフラックスコアードワイヤWaを用いて、1層から3層までの範囲で単位ビードを並列させて積層した第1アルミニウム含有金属層53を形成する。また、ステップS34でワイヤWを用いて第2アルミニウム含有金属層54を形成する。第1アルミニウム含有金属層53は、1層から3層までの範囲であるので、第2アルミニウム含有金属層54の全体の厚さに比べて非常に薄いため、多少の組成の違いが存在しても積層造形物への影響は小さい。
実施の形態2では、アルミニウム系金属にフラックスが入れられたフラックスコアードワイヤWaを鉄系材料のベース材51上に供給し、レーザビームLによってフラックスコアードワイヤWaを溶融、凝固させて第1アルミニウム含有金属層53を形成する。その後、アルミニウ系材料からなるワイヤWを第1アルミニウム含有金属層53上に供給し、レーザビームLによってワイヤWおよび下層の第1アルミニウム含有金属層53を溶融、凝固させて第2アルミニウム含有金属層54を形成した。これによっても、実施の形態1と同様に、積層造形方法によって、アルミニウム系材料と鉄系材料という溶融接合が非常に困難な材料を用いた場合にも、鉄系材料とアルミニウム系材料との異種材料の接合部で、従来に比して強固な接合を実現することができるという効果を有する。
また、実施の形態2では、ベース材51上に液状のフラックス52aを塗布し、炉にて加熱して乾燥、固化させるという工程を省略することができる。この結果、実施の形態1に比して、積層造形物の製造に要する時間を短縮することが可能になるという効果も有する。
実施の形態3.
実施の形態1,2では、ベース材51上に第1アルミニウム含有金属層53を形成した後、アルミニウ系材料のワイヤWを供給し、溶融、凝固させて第2アルミニウム含有金属層54を形成している。アルミニウム含有金属層上にアルミニウム含有金属層を積層する場合には、金属間化合物層の生成を気にする必要がない。しかし、アルミニウム含有金属層上にアルミニウム含有金属層を形成する場合には、下層のアルミニウム含有金属層も溶融させなければならないため、レーザビームLの出力を大きくしなければならない。レーザビームLの出力が大きい場合には、熱がベース材51上の1層目の第1アルミニウム含有金属層53に伝わってしまう。そして、この熱によって、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との間に形成された薄い金属間化合物層が成長し、より厚くなってしまう。金属間化合物層が厚くなると、積層造形物に加わる衝撃によって、割れやすくなり、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との間の接合が失われてしまう。そこで、第2アルミニウム含有金属層54の形成の際に、レーザビームLの出力を抑えることができる積層造形方法について説明する。
図11は、実施の形態3に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1と異なる部分について説明する。実施の形態3に係る積層造形装置100bは、フラックス塗布装置22と、塗布駆動装置23と、フラックス固化装置24と、固化駆動装置25と、をさらに備える。
フラックス塗布装置22は、ステージ11上に載置される被加工物の積層面に液状のフラックス52aを塗布する。一例では、フラックス塗布装置22は、液状のフラックス52aを被加工物の積層面上に滴下または噴射する。被加工物は、ベース材51、第1アルミニウム含有金属層53が形成されたベース材51、または第2アルミニウム含有金属層54および第1アルミニウム含有金属層53が形成されたベース材51である。
塗布駆動装置23は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の各方向へフラックス塗布装置22を移動させる。塗布駆動装置23は、X軸方向へのフラックス塗布装置22の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Y軸方向へのフラックス塗布装置22の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Z軸方向へのフラックス塗布装置22の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、を有する。塗布駆動装置23は、3軸のそれぞれの方向の並進運動を可能とする動作機構である。図11では、各サーボモータの図示を省略している。積層造形装置100bは、塗布駆動装置23によりフラックス塗布装置22を移動させることで、被加工物における液状のフラックス52aの塗布位置を移動させることができる。積層造形装置100bは、ステージ11を移動させることによって、あるいはフラックス塗布装置22およびステージ11の両方を移動させることによって、被加工物における液状のフラックス52aの塗布位置を移動させてもよい。フラックス塗布装置22と塗布駆動装置23とによって、液状のフラックス52aを塗布するフラックス塗布部が構成される。
フラックス固化装置24は、被加工物の積層面上に塗布された液状のフラックス52aに熱風を当てることによって、液状のフラックス52aを固化させる装置である。フラックス固化装置24の一例は、空気を温めて被加工物の積層面に吹き出させるドライヤである。他の例では、フラックス固化装置24は、液状のフラックス52aの固化温度以上の温度の物体を液状のフラックス52aに接近させて配置することによって、液状のフラックス52aを固化させる装置であってもよい。
固化駆動装置25は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の各方向へフラックス固化装置24を移動させる。固化駆動装置25は、X軸方向へのフラックス固化装置24の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Y軸方向へのフラックス固化装置24の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Z軸方向へのフラックス固化装置24の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、を有する。固化駆動装置25は、3軸のそれぞれの方向の並進運動を可能とする動作機構である。図11では、各サーボモータの図示を省略している。積層造形装置100bは、固化駆動装置25によりフラックス固化装置24を移動させることで、被加工物におけるフラックスの加熱位置を移動させることができる。積層造形装置100bは、ステージ11を移動させることによって、あるいはフラックス固化装置24およびステージ11の両方を移動させることによって、被加工物におけるフラックスの加熱位置を移動させてもよい。フラックス固化装置24と固化駆動装置25とによって、液状のフラックス52aを乾燥させる加熱部が構成される。
制御装置21は、第2アルミニウム含有金属層54を形成する場合には、下地層の表面の一部である積層面上に対して液状のフラックス52aを塗布するように、フラックス塗布部の動作を制御する。また、制御装置21は、積層面に塗布された液状のフラックス52aを加熱し、液状のフラックス52aが固化した層であるフラックス層52を形成するように加熱部の動作を制御する。この例では、フラックス塗布装置22による液状のフラックス52aの塗布の完了後に、フラックス固化装置24からの熱風を液状のフラックス52aに吹き出させる。下地層は、単位ビードが形成される下層の層であり、新たに堆積物55を形成する直前に形成された堆積物55である。また、第2アルミニウム含有金属層54を形成する際に形成されるフラックス層52は、第2フラックス層に対応する。
なお、ここでは、フラックス固化装置24がドライヤである場合を例に挙げたが、塗布された液状のフラックス52aにレーザビームLを照射して液状のフラックス52aを固化してもよい。この場合には、フラックス固化装置24および固化駆動装置25は、ビームノズル121およびヘッド駆動装置19で代用されることになる。制御装置21は、液状のフラックス52aが乾燥する程度の出力のレーザビームLを液状のフラックス52aを塗布した領域に走査しながら照射するように制御する。
また、ベース材51上に第1アルミニウム含有金属層53を形成する際にも、フラックス塗布装置22によって液状のフラックス52aをベース材51上に塗布し、フラックス固化装置24によって液状のフラックス52aを固化させてフラックス層52を形成してもよい。この場合には、制御装置21は、ステージ11上のベース材51の表面の一部である積層面に液状のフラックス52aを塗布するように、フラックス塗布部を制御する。制御装置21は、ベース材51上に塗布した液状のフラックス52aを加熱してフラックス層52を形成するように、加熱部を制御する。制御装置21は、フラックス層52上にワイヤWを供給するように材料供給部を制御するとともに、レーザビームLの照射によってベース材51を溶融させずに、ワイヤWおよびフラックス層52を溶融、凝固させた第1アルミニウム含有金属層53を形成するように照射部を制御する。制御装置21は、第1アルミニウム含有金属層53の形成後に、下地層の表面の一部である積層面上に、液状のフラックス52aを塗布するように、フラックス塗布部を制御する。制御装置21は、積層面に塗布された液状のフラックス52aを加熱して乾燥させた層であるフラックス層52を形成するように、加熱部を制御する。制御装置21は、フラックス層52上にワイヤWを供給するように材料供給部を制御するとともに、レーザビームLの照射によって、ワイヤWおよびフラックス層52を溶融、凝固させた第2アルミニウム含有金属層54を形成するように照射部を制御する。これによって、実施の形態1のように積層造形装置100とは別の場所で液状のフラックス52aを塗布し、乾燥させてフラックス層52を形成する必要がなく、積層造形装置100bでこれらの処理を行うことが可能となる。
次に、実施の形態3に係る積層造形方法について説明する。なお、積層造形方法によって3次元の積層造形物が製造されるので、以下に説明する積層造形方法は、積層造形物の製造方法でもある。図12は、実施の形態3に係る積層造形方法の手順の一例を示すフローチャートである。ここでは、実施の形態1の図3のステップS16または実施の形態2の図10のステップS34の第2アルミニウム含有金属層54の形成処理の詳細を示している。つまり、第1アルミニウム含有金属層53が形成された状態からの積層造形方法を説明する。
まず、下地層の表面の一部である積層面上に、フラックス塗布装置22は液状のフラックス52aを塗布する(ステップS51)。つまり、制御装置21は、下地層上に液状のフラックス52aが塗布されるように、フラックス塗布部を制御する。なお、最初に第2アルミニウム含有金属層54を形成する場合には、下地層は第1アルミニウム含有金属層53となる。ステップS51の処理は、第2フラックス塗布工程に対応する。
液状のフラックス52aの塗布が完了した後、フラックス固化装置24は、積層面に塗布された液状のフラックス52aを固化させたフラックス層52を形成する(ステップS52)。液状のフラックス52aの固化は、加熱して乾燥させることによって行われる。図11の例では、フラックス固化装置24は、第1アルミニウム含有金属層53上の液状のフラックス52aに熱風を送風する。つまり、制御装置21は、塗布された液状のフラックス52aにフラックス固化装置24からの熱風を当てるように加熱部を制御する。これによって、液状のフラックス52aが固化したフラックス層52が形成される。ステップS52で形成されるフラックス層52は、第2フラックス層に対応する。ステップS52は、第2フラックス固化工程に対応する。
その後、レーザビームLを照射し、フラックス層52上に供給されるワイヤWおよびフラックス層52を溶融させ、下地層上に溶融したワイヤWを濡れ拡がらせて凝固させた層である第2アルミニウム含有金属層54を形成する(ステップS53)。つまり、フラックス層52上に供給されるワイヤWおよびフラックス層52にレーザビームLを照射し、ワイヤWおよびフラックス層52を溶融、凝固させた第2アルミニウム含有金属層54を形成する。このとき、下地層の第1アルミニウム含有金属層53は溶融せず、フラックス層52が溶融する程度のレーザビームLの出力とされる。これによって、溶融したフラックスに、溶融したアルミニウム系材料が流し込まれることになる。溶融したアルミニウム系材料は、溶融したフラックスに沿って、下地層上を濡れ拡がる。そして、レーザビームLの照射位置がずれることで、濡れ拡がったアルミニウム系材料は凝固し、第2アルミニウム含有金属層54を形成する。
このように、下地層の第1アルミニウム含有金属層53を溶融する必要がなく、第1アルミニウム含有金属層53よりも融点の低いフラックス層52を溶融すればよいため、実施の形態1,2の場合に比してレーザビームLの出力を低下させることができる。
以上のステップS51からステップS53までの処理が、第2アルミニウム含有金属層54が所望の層数になるまで繰り返し実行され、積層造形物が製造される。なお、2層目以降の第2アルミニウム含有金属層54を形成する場合には、下地層は直前に形成した第2アルミニウム含有金属層54となる。積層造形物が製造された後、処理が終了する。
第1アルミニウム含有金属層53上に第2アルミニウム含有金属層54を形成する場合に、レーザビームLの出力を下げる他の方法について説明する。図13は、実施の形態3に係る積層造形装置の構成の他の例を模式的に示す図である。なお、図1および図11と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1および図11と異なる部分について説明する。積層造形装置100cは、図11の構成に、ホットワイヤ電源26と、電流ケーブル27と、絶縁部材28と、をさらに備える。
ホットワイヤ電源26は、金属のワイヤWを融点付近まで加熱させるための高電流を発生させる電源である。ホットワイヤ電源26は、ワイヤWとベース材51との間に電流を流す。電流ケーブル27の1つは、ホットワイヤ電源26とワイヤノズル122とを接続する。電流ケーブル27の他の1つは、ホットワイヤ電源26とベース材51とを接続する。ホットワイヤ電源26からの電流が電流ケーブル27を通じてワイヤノズル122に流れると、ワイヤノズル122に接触するワイヤWに電流が流れる。これによって、ワイヤWが加熱される。絶縁部材28は、ステージ11とベース材51とを絶縁する。造形処理中には、ワイヤノズル122とベース材51との間に電流が流れ、この電流がステージ11よりも下の部材に流れないようにするために、絶縁部材28が設けられる。
ワイヤWには電気抵抗が存在することから、ワイヤWに電流が流れることによって、ワイヤWにジュール熱が発生する。ワイヤWの温度は、ジュール熱によって上昇する。つまり、ワイヤWに電流を流して、ワイヤWを加熱する。図13の場合には、ワイヤWに照射されるレーザビームLとワイヤWに発生するジュール熱とが、ワイヤWを溶融させる熱源となる。積層造形装置100cは、レーザビームLによる加熱にジュール熱が加わることによってワイヤWの溶融が促進され、加工速度を向上できる。加工速度を向上させるためには、ジュール熱によってワイヤWの融点付近までワイヤWを加熱することが望ましい。また、ジュール熱がワイヤWに加えられるため、ワイヤWを溶融させるためのレーザビームLの出力を制限することができる。この結果、レーザビームLの照射による被加工物への過剰な入熱が抑制される。
さらに、ワイヤWを被加工物上に供給する場合には、ワイヤWの先端が被加工物と接触する。フラックス層52を形成している場合には、ワイヤWの先端がフラックス層52に接触した状態でワイヤWが供給されると、固いワイヤWがフラックス層52を引っ掻いてしまう状態となる。この結果、フラックス層52が剥離してしまう可能性があった。しかし、ワイヤWに電流を流すことで、ワイヤWがジュール熱で柔らかくなる。この結果、ワイヤWの先端がフラックス層52と接触した状態でワイヤWが供給される場合でも、ワイヤWがフラックス層52を引っ掻いてしまうことを抑制し、フラックス層52の剥離が抑制される。
制御装置21は、フラックス層52上にワイヤWを供給する際に、ワイヤWとステージ11との間に電流が流れるように、ホットワイヤ電源26を制御する。
なお、図13では、図11の積層造形装置100bに、ホットワイヤ電源26と、電流ケーブル27と、絶縁部材28と、を設ける構成としたが、図1または図9の積層造形装置100,100aに、ホットワイヤ電源26と、電流ケーブル27と、絶縁部材28と、を設ける構成としてもよい。
実施の形態3では、積層造形装置100b,100cが、液状のフラックス52aを塗布するフラックス塗布装置22と、フラックス塗布装置22を駆動する塗布駆動装置23と、塗布した液状のフラックス52aを固化させるフラックス固化装置24と、フラックス固化装置24を駆動する固化駆動装置25と、をさらに備えるようにした。これによって、第2アルミニウム含有金属層54を形成する際に、液状のフラックス52aの塗布のためにベース材51を移動させる必要がなくなる。つまり、ベース材51を移動させずに、積層造形装置100b,100cでフラックスを塗布し、塗布したフラックスを乾燥させることが可能となる。この結果、第2アルミニウム含有金属層54を形成する際に、下地層のアルミニウム含有金属層を溶融させなくてもよいので、レーザビームLの出力を低下させることができる。レーザビームLの出力を低下させることができるので、レーザビームLの照射による熱がベース材51上の1層目の第1アルミニウム含有金属層53まで伝わることを抑えることができる。第1アルミニウム含有金属層53まで熱が伝わりにくくなるため、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との界面の金属間化合物層の成長が抑制される。これによって、積層造形物に衝撃が加えられた場合でも、金属間化合物層が割れることによって、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との間の接合が失われてしまうことを抑制することができる。
また、第2アルミニウム含有金属層54を形成するたびに、フラックス層52の形成のためにベース材51を積層造形装置100b,100cのステージ11から取り外す場合には、再度ステージ11にベース材51を載置する場合に、位置ずれが生じてしまう。この結果、第2アルミニウム含有金属層54の形成位置にもずれが生じ、所望の形状の積層造形物の製造が困難となっていた。しかし、実施の形態3では、第2アルミニウム含有金属層54の形成時に、フラックス層52の形成のために積層造形装置100b,100cのステージ11上に一度載置したベース材51を取り外す必要がない。ベース材51の再載置が生じないため、位置ずれのない所望の形状の積層造形物を製造することができるという効果を有する。
さらに、実施の形態3では、ワイヤWに電流を流し、加熱するようにした。これによって、レーザビームLの出力を低下させながら、ワイヤWを溶融させることができる。また、ワイヤWに流れる電流によるジュール熱でワイヤWが軟化し、ワイヤWの先端でフラックス層52を傷つけたり、フラックス層52が剥離したりすることが抑制可能となる。
実施の形態4.
実施の形態3では、第2アルミニウム含有金属層54を形成する際に、積層面に液状のフラックス52aを塗布することで、あるいは供給されるワイヤWに電流を流すことで、レーザビームLの出力を制限する例を挙げた。実施の形態4では、ビーム径を大きくしてレーザビームLのエネルギ密度を下げる場合を説明する。
図14は、実施の形態4に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1と異なる部分について説明する。実施の形態4に係る積層造形装置100dは、ファイバケーブル14と加工ヘッド12のビームノズル121との間に成形光学系29をさらに備える。成形光学系29は、ファイバケーブル14から出力されるレーザビームLのプロファイルを成形する素子である。一例では、成形光学系29は、レーザビームLのビーム径を広げ、レーザビームLの強度分布を均一化する。成形光学系29から出力されるレーザビームLは、ビームノズル121に入射する。実施の形態4では、ファイバケーブル14から出力されるレーザビームLのビーム径を広げ、均一な強度分布となるように成形されたレーザビームLが使用される。
成形光学系29として、フライアイレンズ、非球面レンズ、回折光学素子(Diffractive Optical Elements:DOE)、カレイドスコープ、多面プリズム等を用いることができる。また、成形光学系29として、ガルバノミラーのようなスキャナを用いることもできる。
フライアイレンズは、蝿の目のようにレンズがアレイ状に配列した光学素子である。フライアイレンズによって、均一な強度分布のビームプロファイルを形成することができる。また、フライアイレンズによって、矩形のビームプロファイルを形成することができる。
非球面レンズは、周辺部と中央部との形状が異なるため、それぞれの領域を通過したレーザビームLの集光特性の違いを利用して、均一な強度分布のビームプロファイルを形成する光学素子である。非球面レンズは、一例では円形の均一ビームを形成するときに用いられる。
回折光学素子は、光学基板の表面に波長オーダの凹凸を形成することで意図的に回折現象を起こし、円形状、矩形状またはライン状の均一な強度分布のビームプロファイルを形成する光学素子である。
カレイドスコープは、一例では4枚の鏡を鏡面を内側にして矩形に組み合わせることで、強度分布が均一な矩形状のビームプロファイルを形成する光学素子である。
多面プリズムは、入射光に対して出射面でのビームの屈折角の違いによって強度分布が均一な所望の形状のビームプロファイルを形成する光学素子である。
ワイヤWの直径の一例は1.2mmである。成形光学系29を使用しない場合のレーザビームLの直径であるビーム径はワイヤWの直径よりも大きい3mm程度である。実施の形態4では、成形光学系29によってビーム径が3mmよりも大きくされる。一例では、ビーム径は10mmとされ、さらに10mm以上とすることもできる。ビーム径を大きくすると、レーザビームLの照射領域が広くなり、この照射領域により多くのワイヤWを供給することが可能となる。レーザビームLの照射領域により多くのワイヤWを供給するには、ワイヤWの供給速度を上げる方法、ワイヤWを複数本投入する方法、ワイヤWの径を太くする方法等がある。ワイヤWの供給速度を上げる方法は、制御装置21によってワイヤスプール17の回転モータ18の回転速度を上げることで実現される。ワイヤWを複数本投入する方法は、実施の形態2の図9のように、加工ヘッド12が複数のワイヤノズル122,122aを有し、複数のワイヤノズル122,122aから同時に同じ種類のワイヤW,Waを供給することによって実現される。ワイヤWの径を太くする方法は、ワイヤスプール17に巻き付けるワイヤWの太さを、成形光学系29を使用しない場合に使用するワイヤWに比して太くすることで実現される。
なお、レーザビームLを円形のままビーム径を大きくした場合には、下地層の照射したくない部分にまでレーザビームLを照射してしまうことになる。このため、成形光学系29で円形のレーザビームLを矩形状のレーザビームLとして、照射したい部分にのみレーザビームLが照射されるようにすることが望ましい。このようにレーザビームLを矩形状のビームプロファイルとすることで、照射したい部分、すなわち溶融したい部分にレーザビームLが照射されることになり、円形のビームプロファイルの場合と比較してエネルギ効率を高めることが可能となる。
また、実施の形態4の構成において、実施の形態3の図13で説明したワイヤWを加熱する機構を組み合わせてもよい。レーザビームLの照射面積が、ワイヤWに照射される面積に比べて大きい場合には、単位面積当たりのレーザビームLの出力が小さくなるため、ワイヤWを加熱しながら被加工物上に供給する方法は、ワイヤWを溶融させるのに有効である。
また、レーザ発振器13としては、ガスレーザ、固体レーザ、ファイバレーザ、半導体レーザ等を用いることができる。しかし、成形光学系29でビーム径を広げる際には、ガスレーザ、固体レーザおよびファイバレーザに比較して、ビーム径の大きいレーザビームLが出力される半導体レーザを用いることが望ましい。
実施の形態4では、積層造形装置100dは、レーザ発振器13から発振されるレーザビームLのビーム径を広げ、均一な強度とする成形光学系29を備える。これによって、積層造形装置100dは、より幅広い範囲を照射することが可能となり、照射領域にワイヤWをより多く供給することが可能になる。この結果、幅広い単位ビードを一気に形成することができ、造形速度を上げることができるという効果を有する。また、レーザビームLの照射領域を広くすることで、レーザビームLのエネルギ密度が下がるので、成形光学系29を用いない場合と同じ出力のレーザビームLを使用したとしても、熱がベース材51と接する第1アルミニウム含有金属層53へと伝わりにくくなる。これによって、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との界面の金属間化合物層の成長が抑えられ、強固な接合を有する3次元の積層造形物を得ることができる。
実施の形態5.
ワイヤWにレーザビームLを照射し、溶融、固化させて単位ビードを連続的に造形していると、一例では1つの層の造形において、最初に比べて最後の方が蓄熱してくる。このため、温度が上昇し、ある層の造形処理の最後の方が過剰な入熱になってしまう。過剰な入熱になった場合には、熱がベース材51上に接触する1層目の第1アルミニウム含有金属層53にまで伝わってしまう可能性がある。この場合には、上記したように、ベース材51と第1アルミニウム含有金属層53との界面の金属間化合物層が成長してしまう。また、下地層の溶融されない箇所と溶融される箇所とが生じ、加工品質が低下する可能性もある。そこで、実施の形態5では、過剰な入熱を抑える場合について説明する。
図15は、実施の形態5に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1と異なる部分について説明する。実施の形態5に係る積層造形装置100eは、被加工物のレーザビームLの照射位置である加工点の温度を計測する温度計測部30をさらに備える。温度計測部30の一例は、加工点から放射される赤外線の強さを測定する放射温度計である。放射温度計は、加工ヘッド12の内部に取り付けてもよいし、加工ヘッド12の外部に取り付けてもよい。加工ヘッド12の内部に取り付ける場合には、レーザビームLの出力と同じ軸となるように取り付けることが望ましい。このようにすることで、加工点の真上からの温度を測定することができるので、より正確な温度を計測することができる。温度計測部30は、加工点の温度の計測結果である温度計測値を制御装置21に出力する。
制御装置21は、温度計測部30から加工点の温度計測値を取得し、温度計測値が定められた基準値よりも高い場合には、レーザビームLの出力を下げるようにレーザ発振器13を制御する。定められた基準値は、フラックス層52、第1アルミニウム含有金属層53または第2アルミニウム含有金属層54を溶融させる温度とすることができる。フラックス層52を形成したベース材51上に第1アルミニウム含有金属層53を形成する場合には、最初は、加工点がベース材51の融点よりも低く、フラックス層52の融点以上の温度である定められた基準値となるようにレーザビームLが出力される。しかし、同じ出力のレーザビームLを照射し続けると、加工を継続するにつれて、レーザビームLの照射によって被加工物に熱がたまり、加工点の温度は定められた基準値を超える温度となる。このような場合に、制御装置21は、加工点の温度が定められた基準値となるように、レーザビームLの出力を低下させるように照射部、すなわちレーザ発振器13の制御を行う。
図16は、実施の形態5に係る積層造形方法の手順の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、第1アルミニウム含有金属層53または第2アルミニウム含有金属層54の形成時における加工点の温度の制御処理が示される。なお、以下では、第1アルミニウム含有金属層53および第2アルミニウム含有金属層54は、個別に区別しない場合には、アルミニウム含有金属層と称される。
まず、被加工物上にワイヤWを供給し、定められた出力のレーザビームLを照射する(ステップS71)。つまり、制御装置21は、加工点にワイヤWが供給されるように、材料供給部を制御し、ワイヤWの先端を含む加工点に定められた出力のレーザビームLを照射するように、照射部を制御する。定められた出力は、加工開始時においては、予め設定されたレーザビームLの出力である。また、後述するステップS74でレーザビームLの出力が下げられた場合には、定められた出力は、直近のステップS74で定められたレーザビームLの出力である。
温度計測部30は、造形処理中は常に加工点の温度を計測している。制御装置21は、温度計測部30から加工点の温度の計測値である温度計測値を取得する(ステップS72)。制御装置21は、温度計測値が定められた基準値よりも高いかを判定する(ステップS73)。温度計測値が定められた基準値以下の場合(ステップS73でNoの場合)には、被加工物には、レーザビームLの照射によってまだ蓄熱されていない状態にある。このため、特別な制御は行われず、現在のレーザビームLの出力が維持されることになる。制御装置21は、造形処理が終了したかを判定する(ステップS76)。造形処理が終了していない場合(ステップS76でNoの場合)には、ステップS71に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS76でYesの場合)には、処理が終了する。
一方、温度計測値が定められた基準値よりも高い場合(ステップS73でYesの場合)には、加工点にワイヤWを供給しながら、現在の出力よりも低い出力のレーザビームLを加工点に照射する(ステップS74)。つまり、制御装置21は、現在のレーザビームLの出力よりも低いレーザビームLが出力されるように、照射部を制御する。すなわち、制御装置21は、レーザビームLの出力を下げるように、照射部を制御する。一例では、温度計測値と定められた基準値との差が0となるようなレーザビームLの出力を予め求めておき、温度計測値と定められた基準値との差と、レーザビームLの出力と、を対応付けた対応情報に基づいてレーザビームLの出力を決定することができる。
その後、造形処理が終了したかを判定する(ステップS75)。造形処理が終了していない場合(ステップS75でNoの場合)には、ステップS72に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS75でYesの場合)には、処理が終了する。
実施の形態5では、積層造形装置100eは、加工点の温度を計測する温度計測部30をさらに備える。そして、制御装置21は、温度計測部30で計測された加工点の温度計測値が定められた基準値よりも高い場合に、現在の出力よりも低い出力のレーザビームLが照射されるように、すなわちレーザビームLの出力を下げるように、照射部を制御する。これによって、レーザビームLの照射が継続して行われることによる加工点への蓄熱を考慮して、加工点へ照射するレーザビームLの出力を適切なものとすることができる。
実施の形態6.
ワイヤWは被加工物上に供給されるが、このときの先端は被加工物の加工点に接した状態にある。この状態で、ワイヤスプール17からワイヤWが供給されると、フラックス層52などの下地層に引っかかってしまい、フラックス層52の剥離または下地層への傷の原因となる可能性がある。そこで、実施の形態6では、ワイヤWが被加工物上に過度に供給されないようにする場合について説明する。
図17は、実施の形態6に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、図1と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1と異なる部分について説明する。実施の形態6に係る積層造形装置100fは、ワイヤノズル122に加わる力を検出する歪ゲージ31をさらに備える。ワイヤWが加工点に接した状態にある場合には、ワイヤWがたわむ。ワイヤWがたわむとワイヤWがワイヤノズル122に接触し、ワイヤノズル122に力が加わることになる。歪ゲージ31は、このワイヤノズル122に加わる力を計測する。歪ゲージ31は、計測結果である歪計測値を制御装置21に出力する。歪ゲージ31は、ワイヤWにかかる負荷を計測する負荷計測部の一例である。
制御装置21は、歪ゲージ31からの歪計測値が定められた基準値よりも大きい場合に、歪計測値が基準値以下となるように、ワイヤWの供給速度を変化させること、またはワイヤWとベース材51との間の相対位置を変化させる。具体的には、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を低下させるか、あるいはワイヤノズル122を有する加工ヘッド12をステージ11から遠ざかる方向に移動させたりする。なお、この例では、加工ヘッド12にZ軸方向への移動機構がついているので、加工ヘッド12を移動させているが、ステージ11にZ軸方向への移動機構がついている場合には、ステージ11を移動させてもよい。
図18は、実施の形態6に係る積層造形方法の手順の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、図3のステップS15、図10のステップS32での第1アルミニウム含有金属層53の形成時における処理、または図3のステップS16、図10のステップS34もしくは図12のステップS53での第2アルミニウム含有金属層54の形成時における処理が示される。
まず、被加工物上に定められた供給速度でワイヤWを供給し、レーザビームLを加工点に照射する(ステップS91)。つまり、制御装置21は、加工点にワイヤWが定められた供給速度で供給されるように、材料供給部を制御し、ワイヤWの先端を含む加工点にレーザビームLを照射するように、照射部を制御する。定められた供給速度は、加工開始時においては、予め設定されたワイヤWの供給速度である。また、後述するステップS94でワイヤWの供給速度が下げられた場合には、定められた供給速度は、直近のステップS94で定められたワイヤWの供給速度である。
ついで、制御装置21は、歪ゲージ31から歪計測値を取得する(ステップS92)。制御装置21は、歪計測値が定められた基準値よりも高いかを判定する(ステップS93)。歪計測値が定められた基準値以下の場合(ステップS93でNoの場合)には、ワイヤWによって被加工物に損傷が生じるほどの力が加えられていない状態にある。このため、特別な制御は行われない。制御装置21は、造形処理が終了したかを判定する(ステップS96)。造形処理が終了していない場合(ステップS96でNoの場合)には、ステップS91に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS96でYesの場合)には、処理が終了する。
一方、歪計測値が定められた基準値よりも高い場合(ステップS93でYesの場合)には、ワイヤWの供給速度またはステージ11と加工ヘッド12との間の距離を変更し、レーザビームLを加工点に照射する(ステップS94)。具体的には、制御装置21は、供給速度が現在の値よりも小さくなるように、材料供給部を制御するか、あるいは加工ヘッド12が被加工物から離れる方向に移動するようにヘッド駆動装置19を制御する。
その後、造形処理が終了したかを判定する(ステップS95)。造形処理が終了していない場合(ステップS95でNoの場合)には、ステップS92に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS95でYesの場合)には、処理が終了する。
なお、上記した説明では、ワイヤWの歪計測値が定められた基準値よりも大きい場合には、制御装置21が、ワイヤWの供給速度またはステージ11と加工ヘッド12との間の距離を変更する場合を示した。ワイヤWの歪計測値が定められた基準値よりも大きい場合は、ワイヤWが固い状態、すなわち溶融していない状態でワイヤWの先端が被加工物に接触していると考えられる。このため、ワイヤWを柔らかくするような制御を行うことも可能である。一例では、制御装置21は、上記の制御に加えて、あるいは上記の制御に代えて、レーザビームLの出力を上げるようにしてもよい。また、図13に示されるように、ワイヤWに電流を流すことができる場合には、制御装置21は、上記の制御に加えて、あるいは上記の制御に代えて、ワイヤWにながす電流を増加させるようにしてもよい。このような制御によって、ワイヤWを柔らかくし、ワイヤWが被加工物に与える負荷を低減させることが可能となる。
このように、実施の形態6では、第1アルミニウム含有金属層53を積層する工程および第2アルミニウム含有金属層54を積層する工程において、ワイヤWが下地層の積層面から受ける負荷を測定する。そして、負荷が定められた基準値よりも大きい場合に、ワイヤWの供給速度を変化させること、またはワイヤWとベース材51との間の相対位置を変化させるようにしている。図17の積層造形装置100fでは、ワイヤWが積層面から受ける負荷が、ワイヤノズル122に加わる力が等しいものとして、ワイヤノズル122に加わる力を計測する歪ゲージ31をさらに備えるようにした。これによって、被加工物に接触しているワイヤWが、必要以上に被加工物に応力を与えることを抑制することができる。この結果、ワイヤWが被加工物を引っ掻くことによる傷の発生、下地層の剥離などを抑制することができる。
実施の形態7.
レーザビームLの出力が過剰である場合、ワイヤWに流す電流が過剰である場合、ワイヤWの供給速度が過少である場合、あるいはワイヤWの先端位置と積層面との間の距離であるギャップが想定よりも大きい場合には、ワイヤWが切れてしまう溶断が発生する可能性がある。溶断が発生した場合には、溶融金属が液滴となって被加工物上に落下する。落下した溶融金属の液滴が被加工物上で凝固したものは、被加工物上でワイヤWを溶融、凝固させた場合の形状とは異なり、崩れた形状となる。また、溶融金属の液滴が被加工物上に落下する際の衝撃でシールドガスGを吹き飛ばしてしまい、酸化の抑制効果が得られなくなる可能性もある。実施の形態7では、溶断の発生の可能性の有無を検知し、検知結果に基づいてレーザビームLの出力、ワイヤWの供給速度、またはワイヤWの電流を制御する積層造形方法について説明する。
図19は、実施の形態7に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、図1および図13と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1および図13と異なる部分について説明する。実施の形態7に係る積層造形装置100gは、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧を計測する機構を有する点が、実施の形態3の積層造形装置100cと異なる。すなわち、実施の形態7では、積層造形装置100gは、回路試験器61と、プローブ62と、をさらに備える。
回路試験器61は、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧を計測する。上記したように、ホットワイヤ電源26とワイヤノズル122との間、およびベース材51とホットワイヤ電源26との間のそれぞれに電流ケーブル27が接続されており、ワイヤノズル122から供給されるワイヤWの先端は、被加工物と接触している。このため、造形処理中には、ワイヤWに電流が流れている状態となる。回路試験器61は、このワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧を計測する。回路試験器61は、制御装置21と配線を介して接続されており、計測した結果である計測値を制御装置21へと出力する。
プローブ62は、回路試験器61と電気的に接続され、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧を計測する際に使用する探針である。この例では、プローブ62は、ホットワイヤ電源26とワイヤノズル122とを接続する電流ケーブル27に電気的に接続される。なお、プローブ62は、ホットワイヤ電源26とベース材51とを接続する電流ケーブル27に電気的に接続されるようにしてもよい。
ワイヤWが通常の状態である場合には、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧は、ワイヤWの断面積、長さ、素材等に応じて定められた値を示す。しかし、ワイヤWが溶断しかけている場合には、溶融しているワイヤWが被加工物から離れかけることで、溶融しているワイヤWと被加工物との接触体積が小さくなるため、抵抗率が上昇する。ワイヤWの抵抗率が上昇すると、ワイヤWを流れる電流が低下し、ワイヤWに係る電圧が上昇する。また、溶融しているワイヤWが被加工物から完全に離れてしまうと抵抗は無限大となり、電流は流れなくなる。つまり、ワイヤWの電流または電圧の計測値を参照することで、溶断の発生の可能性を判定することが可能となる。そこで、実施の形態7では、制御装置21は、回路試験器61からのワイヤWの電流または電圧の計測値に基づいて、溶断の発生の可能性を判定し、溶断の発生の可能性がある場合に、レーザビームLの出力、ワイヤWの供給速度、またはワイヤWの電流を制御する。
電流の計測値を用いて制御を行う場合には、制御装置21は、回路試験器61からの電流の計測値が、溶断が発生していない場合の電流値である溶断判定基準値と比較して誤差の範囲を超えて低下しているかを判定する。溶断判定基準値は、溶断が発生していない場合のワイヤWの電流の値の平均値等の統計値、あるいは造形処理の際に設定される設定値とすることができる。制御装置21は、電流の計測値が溶断判定基準値と一致している場合には、溶断が発生していないとして、現在の加工条件で造形処理を続行する。制御装置21は、電流の計測値が溶断判定基準値と比較して低下している場合には、溶断が発生しかけているとして、レーザビームLの出力を下げるようにレーザ発振器13を制御するか、ワイヤWの供給速度を増加させるようにワイヤスプール17の回転モータ18を制御するか、あるいはワイヤWを加熱する電流を低下させる。これによって、ワイヤWの溶断を抑制することができる。このとき、制御装置21は、溶断判定基準値と電流の計測値との差の大きさに応じて、レーザビームLの出力低下量、ワイヤWの供給速度を増加させる量、あるいはワイヤWを加熱する電流の低下量を変化させてもよい。また、制御装置21は、電流の計測値が0となった場合には、ワイヤWで溶断が発生していることを示すため、造形処理を停止する。
電圧の計測値を用いて制御を行う場合には、制御装置21は、回路試験器61からの電圧の計測値が、溶断が発生していない場合の電圧値である溶断判定基準値と比較して誤差の範囲を超えて上昇しているかを判定する。溶断判定基準値は、溶断が発生していない場合のワイヤWの電圧の値を事前に取得し、取得した電圧の値の平均値等の統計値とすることができる。制御装置21は、電圧の計測値が溶断判定基準値と一致している場合には、溶断が発生していないとして、現在の加工条件で造形処理を続行する。制御装置21は、電圧の計測値が溶断判定基準値と比較して上昇している場合には、溶断が発生しかけているとして、レーザビームLの出力を下げるようにレーザ発振器13を制御するか、ワイヤWの供給速度を増加させるようにワイヤスプール17の回転モータ18を制御するか、あるいはワイヤWの電流を低下させる。これによって、ワイヤWの溶断を抑制することができる。このとき、制御装置21は、溶断判定基準値と電圧の計測値との差の大きさに応じて、レーザビームLの出力低下量、ワイヤWの供給速度を増加させる量、あるいはワイヤWを加熱する電流の低下量を変化させてもよい。
図20は、実施の形態7に係る積層造形方法の手順の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、第1アルミニウム含有金属層53または第2アルミニウム含有金属層54の形成時におけるワイヤWに流す電流を用いてレーザビームLの出力の制御処理を行う場合が示される。
まず、被加工物上に定められた供給速度でワイヤWを供給し、定められた出力のレーザビームLを照射する(ステップS111)。つまり、制御装置21は、加工点に定められた供給速度でワイヤWが供給されるように、材料供給部を制御し、加工点に定められた出力のレーザビームLを照射するように、照射部を制御する。定められた供給速度は、加工開始時においては、予め設定されたワイヤWの供給速度である。また、後述するステップS114で供給速度が低下された場合には、定められた供給速度は、直近のステップS114で定められたワイヤWの供給速度である。定められた出力は、加工開始時においては、予め設定されたレーザビームLの出力である。また、後述するステップS114でレーザビームLの出力が低下された場合には、定められた出力は、直近のステップS114で定められたレーザビームLの出力である。
回路試験器61は、造形処理中にワイヤWに流れる電流を計測している。制御装置21は、回路試験器61からワイヤWの電流の計測値を取得する(ステップS112)。制御装置21は、電流の計測値が溶断判定基準値よりも低いかを判定する(ステップS113)。
電流の計測値が溶断判定基準値よりも低い場合(ステップS113でYesの場合)には、制御装置21は、電流の計測値が0であるかを判定する(ステップS114)。電流の計測値が0ではない場合(ステップS114でNoの場合)には、制御装置21は、レーザビームLの出力を低下させる条件、ワイヤWの供給速度を増加させる条件、あるいはワイヤWの電流を低下させる条件でレーザビームLの照射、ワイヤWの供給およびワイヤWの加熱を行う(ステップS115)。その後、造形処理が終了したかを判定する(ステップS116)。造形処理が終了していない場合(ステップS116でNoの場合)には、ステップS112に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS116でYesの場合)には、処理が終了する。また、ステップS114で電流の計測値が0の場合(ステップS114でYesの場合)には、処理が終了する。
一方、電流の計測値が溶断判定基準値以上である場合(ステップS113でNoの場合)には、制御装置21は、造形処理が終了したかを判定する(ステップS117)。電流の計測値が溶断判定基準値以上である場合には、ワイヤWには、レーザビームLの照射によって溶断が発生していない状態にある。このため、現在のワイヤWの供給速度、レーザビームLの出力、およびワイヤWが加熱されている場合にはワイヤWの電流が維持され、特別な制御は行われない。このため、造形処理が終了していない場合(ステップS117でNoの場合)には、ステップS111に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS117でYesの場合)には、処理が終了する。
図20では、ワイヤWの電流の計測値を用いて溶断が発生しているかを判定する例を示したが、電圧の計測値を用いて溶断が発生しているかを判定してもよい。この場合には、ステップS113では、電圧の計測値が溶断判定基準値よりも高い場合に、ステップS115の処理へと移行する。また、電圧の計測値が溶断判定基準値以下である場合に、ステップS117の処理へと移行する。
実施の形態7では、積層造形装置100gは、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧を計測する回路試験器61をさらに備える。そして、制御装置21は、回路試験器61で計測されたワイヤWの電流の計測値が溶断判定基準値よりも低い場合、あるいはワイヤWの電圧の計測値が溶断判定基準値よりも高い場合に、レーザビームLの出力を低下させる条件、ワイヤWの供給速度を増加させる条件、あるいはワイヤWの電流を低下させる条件でレーザビームLの出力、ワイヤWの供給およびワイヤWの加熱を行う。これによって、ワイヤWの溶断の発生を抑制することができる。
実施の形態8.
実施の形態8では、造形処理中に、ワイヤWの先端の位置を検出し、検出されたワイヤWの先端の位置と被加工物の高さとに基づいてワイヤWの供給速度を制御する積層造形方法について説明する。
図21は、実施の形態8に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、図1、図11、図13および図17と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1、図11、図13および図17と異なる部分について説明する。実施の形態8に係る積層造形装置100hは、図13の構成に、歪ゲージ31と、被加工物のレーザビームLの照射位置である加工点を撮像する撮像部63をさらに備える。撮像部63の一例は、加工点を含む領域を撮像するカメラである。撮像部63は、加工ヘッド12の内部に取り付けてもよいし、加工ヘッド12の外部に取り付けてもよい。加工ヘッド12の内部に取り付ける場合には、レーザビームLの出力と同じ軸となるように取り付けることが望ましい。このようにすることで、加工点の真上からの撮像することができるので、より正確なワイヤWの位置を取得することができる。撮像部63は、加工点を含む領域の撮像結果である画像データを制御装置21に出力する。
制御装置21は、レーザビームLの照射位置である加工点を含む領域を撮像した画像データから得られるワイヤWの先端の位置および加工点の位置と、歪ゲージ31から取得した歪計測値と、に応じて、ワイヤWの供給速度、ワイヤWに流す電流およびレーザビームLの出力の少なくとも1つを調整する。具体的には、制御装置21は、撮像部63からの画像データの画像解析を行い、ワイヤWの先端の位置と加工点とを抽出する。制御装置21は、加工点を基準としてワイヤWの先端の位置が加工点にあるか、加工点を通り過ぎているか、あるいは加工点よりもワイヤノズル122側にあるかを判定する。また、制御装置21は、歪計測値を定められた基準値と比較する。そして、制御装置21は、加工点を基準としたワイヤWの先端の位置と、基準値に対する歪計測値の大小と、に応じて、ワイヤWの供給速度、ワイヤWに流す電流およびレーザビームLの出力の少なくとも1つを調整する。なお、この例では、歪ゲージ31でワイヤノズル122に加わる力を検出しているが、ワイヤWにかかる負荷を計測することができるものであれば歪ゲージ31でなくてもよい。つまり、制御装置21は、ワイヤWが下地層から受ける負荷を測定し、加工点を基準としたワイヤWの先端の位置と、定められた基準値に対する負荷の大小と、に応じて、ワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流を調整するものであればよい。
ワイヤWの先端の位置が加工点にあり、歪計測値が基準値である場合には、現在のワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流が適正であるので、制御装置21は、この状態を維持する。なお、基準値は、幅を持っていてもよい。
ワイヤWの先端の位置が加工点よりもワイヤノズル122側にあり、歪計測値が基準値よりも高い場合には、ワイヤWが溶断しかけているのではなく、被加工物の高さが想定よりも高く、すなわちアルミニウム含有金属層が想定よりも高く積層されており、ワイヤWの先端がワイヤノズル122側に存在する状態であると考えられる。つまり、ワイヤWの先端が想定よりも高くなっている加工点付近の被加工物に突っ込んだ状態となっている。このような場合には、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を低下させるか、ワイヤWに流す電流を増加させる。
ワイヤWの先端の位置が加工点よりもワイヤノズル122側にあり、歪計測値が基準値よりも低い場合には、ワイヤWが溶断しかけていると判断することができる。このため、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を増加させるか、ワイヤWに流す電流を低下させるか、レーザビームLの出力を低下させる。
ワイヤWの先端の位置が加工点を通り過ぎており、歪計測値が基準値よりも高い場合には、現在のワイヤWの供給速度が速すぎるためにワイヤWが加工点よりも奥側に突っ込んでいると判断することができる。このため、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を低下させるか、ワイヤWに流す電流を増加させる。
ワイヤWの先端の位置が加工点を通り過ぎており、歪計測値が基準値よりも低い場合には、被加工物の加工点付近における高さが想定よりも低く、つまりアルミニウム含有金属層が想定よりも低く積層されており、ワイヤWの先端の位置が被加工物に突っ込むほどではないが加工点よりも奥側に挿入されている状態である。このような場合には、ワイヤWが被加工物に突っ込んだ状態となっているわけではないため、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を低下させるが、ワイヤWに流す電流については、低下させた場合には溶断してしまう可能性があるので、何もせずに、現在の状態を維持する。
図22および図23は、実施の形態8に係る積層造形方法の手順の一例を示すフローチャートである。なお、ここでは、第1アルミニウム含有金属層53または第2アルミニウム含有金属層54の形成時におけるワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流の制御処理が示される。
まず、被加工物上に定められた供給速度でワイヤWを供給し、定められた電流をワイヤWに流し、レーザビームLを加工点に照射する(ステップS131)。つまり、制御装置21は、加工点にワイヤWが定められた供給速度で供給されるように、材料供給部を制御し、ワイヤWに定められた電流が流れるように、ホットワイヤ電源26を制御し、加工点にレーザビームLを照射するように、照射部を制御する。定められた供給速度は、加工開始時においては、予め設定されたワイヤWの供給速度である。また、後述するステップS137、ステップS139、ステップS141、ステップS145またはステップS146でワイヤWの供給速度が変更された場合には、定められた供給速度は、直近のステップS137、ステップS139、ステップS141、ステップS145またはステップS146で定められたワイヤWの供給速度である。定められた電流は、加工開始時においては、予め設定されたワイヤWに流す電流である。また、後述するステップS137、ステップS139またはステップS145でワイヤWに流す電流が変更された場合には、定められた電流は、直近のステップS137、ステップS139またはステップS145で定められたワイヤWに流す電流である。
ついで、制御装置21は、撮像部63から加工点を含む領域の画像データを取得する(ステップS132)。制御装置21は、画像データの画像解析を行い、画像データから加工点とワイヤWの先端の位置とを取得する(ステップS133)。また、制御装置21は、歪ゲージ31から歪計測値を取得する(ステップS134)。
その後、制御装置21は、ワイヤWの先端の位置が加工点よりもワイヤノズル122側にあるかを判定する(ステップS135)。ワイヤWの先端の位置が加工点よりもワイヤノズル122側にある場合(ステップS135でYesの場合)には、制御装置21は、歪計測値が定められた基準値よりも高いかを判定する(ステップS136)。歪計測値が定められた基準値よりも高い場合(ステップS136でYesの場合)には、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を現在の供給速度よりも低下させるか、ワイヤWに流す電流を増加させるか、レーザビームLの出力を増加させる(ステップS137)。
歪計測値が定められた基準値よりも高くない場合(ステップS136でNoの場合)には、制御装置21は、歪計測値が定められた基準値よりも低いかを判定する(ステップS138)。歪計測値が定められた基準値よりも低い場合(ステップS138でYesの場合)には、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を現在の供給速度よりも増加させるか、ワイヤWに流す電流を低下させるか、レーザビームLの出力を低下させる(ステップS139)。これは、ワイヤWが溶断しかけているためである。
その後またはステップS137の後、制御装置21は、造形処理が終了したかを判定する(ステップS140)。造形処理が終了していない場合(ステップS140でNoの場合)には、ステップS132に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS140でYesの場合)には、処理が終了する。
ステップS138で歪計測値が定められた基準値よりも低くない場合(ステップS138でNoの場合)には、ワイヤWの先端位置がワイヤノズル122側にあるが、歪計測値は適正な範囲にある場合である。この場合には、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を増加させる(ステップS141)。その後、制御装置21は、造形処理が終了したかを判定する(ステップS142)。造形処理が終了していない場合(ステップS142でNoの場合)には、ステップS131に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS142でYesの場合)には、処理が終了する。
ステップS135で、ワイヤWの先端の位置が加工点よりもワイヤノズル122側にない場合(ステップS135でNoの場合)には、制御装置21は、ワイヤWの先端の位置が加工点を通り過ぎているかを判定する(ステップS143)。ワイヤWの先端の位置が加工点を通り過ぎている場合(ステップS143でYesの場合)には、制御装置21は、歪計測値が定められた基準値よりも高いかを判定する(ステップS144)。歪計測値が定められた基準値よりも高い場合(ステップS144でYesの場合)には、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を現在の供給速度よりも低下させるか、ワイヤWに流す電流を増加させる(ステップS145)。
歪計測値が定められた基準値よりも高くない場合(ステップS144でNoの場合)には、制御装置21は、ワイヤWの供給速度を現在の供給速度よりも低下させる(ステップS146)。その後、処理がステップS140へと移る。
ステップS143でワイヤWの先端の位置が加工点を通り過ぎていない場合(ステップS143でNoの場合)は、ワイヤWの先端の位置は加工点にある場合である。この場合には、ワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流は適正であるため、特別な制御は行われず、現在の供給速度が維持されることになる。その後、処理がステップS142へと移る。
実施の形態8では、ワイヤWにかかる負荷を測定する歪ゲージ31と、造形処理中のワイヤWの位置を撮像することができる撮像部63と、を備える。制御装置21は、撮像部63で撮像された画像データから加工点とワイヤWの先端の位置とを取得する。そして、制御装置21は、ワイヤWの先端の位置とワイヤWにかかる負荷との組み合わせから、ワイヤWの供給速度、ワイヤWに流す電流またはレーザビームLの出力を調整するようにした。これによって、ワイヤWの溶断または突っ込みすぎを抑制することができる。
なお、上記した説明では、歪ゲージ31によってワイヤWの被加工物への突っ込み状態を検知していたが、他の方法によって検知してもよい。一例では、積層造形装置100hは、歪ゲージ31に代えて、斜めから加工点を監視する撮像部をさらに備えるようにしてもよい。この撮像部は、撮像部63とは異なるものである。この場合には、撮像部で撮像された画像から、被加工物の高さまで含めたワイヤWの突っ込み状態を取得すればよい。
実施の形態9.
実施の形態9では、造形処理中に、ワイヤWの先端の温度を計測し、計測されたワイヤWの先端の温度に基づいて、レーザビームLの出力またはワイヤWの供給速度を制御する積層造形方法について説明する。
図24は、実施の形態9に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、図1、図11、図13および図15と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略し、図1、図11、図13および図15と異なる部分について説明する。実施の形態9に係る積層造形装置100iは、図13の構成に、被加工物のレーザビームLの照射位置である加工点の温度を計測する温度計測部30をさらに備える。温度計測部30は、レーザビームLの照射位置である加工点の温度を計測するが、実施の形態9では、ワイヤWの先端の温度を計測する。ただし、ワイヤWの先端は、レーザビームLの照射位置の中心を狙って供給されるため、ワイヤWの先端の温度は、加工点の温度と同じであるとみなすことができる。つまり、実施の形態9では、加工点の温度がワイヤWの先端の温度であるとする。
また、制御装置21は、温度計測部30から取得したワイヤWの先端の温度の計測値である温度計測値に基づいて、レーザビームLの出力、ワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流のうち少なくとも1つを調整する。具体的には、制御装置21は、温度計測部30によって計測されたワイヤWの先端の温度が定められた基準値よりも高い場合に、レーザビームLの出力を低下させる処理、ワイヤWの供給速度を増加させる処理およびワイヤWの電流を低下させる処理のうち少なくとも1つの処理を実施する。
図25は、実施の形態9に係る積層造形方法の手順の一例を示すフローチャートである。まず、被加工物上に定められた供給速度でワイヤWを供給し、定められた出力のレーザビームLを加工点に照射する(ステップS151)。つまり、制御装置21は、加工点にワイヤWが定められた供給速度で供給されるように、材料供給部を制御し、加工点に定められた出力でレーザビームLを照射するように、照射部を制御する。定められた供給速度は、加工開始時においては、予め設定されたワイヤWの供給速度である。また、後述するステップS154でワイヤWの供給速度が変更された場合には、定められた供給速度は、直近のステップS154で定められたワイヤWの供給速度である。定められた出力は、加工開始時においては、予め設定されたレーザビームLの出力である。また、後述するステップS154でレーザビームLの出力が変更された場合には、定められた出力は、直近のステップS154で定められたレーザビームLの出力である。
温度計測部30は、造形処理中は常にワイヤWの先端の温度を計測している。制御装置21は、温度計測部30からワイヤWの先端の温度の計測値である温度計測値を取得する(ステップS152)。制御装置21は、温度計測値が定められた溶断判定基準値よりも高いかを判定する(ステップS153)。温度計測値が溶断判定基準値以下の場合(ステップS153でNoの場合)には、被加工物は、レーザビームLの照射によってまだ蓄熱されていない状態にある。このため、特別な制御は行われず、現在のワイヤWの供給速度およびレーザビームLの出力が維持されることになる。制御装置21は、造形処理が終了したかを判定する(ステップS156)。造形処理が終了していない場合(ステップS156でNoの場合)には、ステップS151に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS156でYesの場合)には、処理が終了する。
一方、温度計測値が溶断判定基準値よりも高い場合(ステップS153でYesの場合)には、制御装置21は、レーザビームLの出力を低下させる処理、ワイヤWの供給速度を増加させる処理およびワイヤWの電流を低下させる処理のうち少なくとも1つの処理を実施して、ワイヤWの供給、ワイヤWの加熱およびレーザビームLの照射を行う(ステップS154)。つまり、制御装置21は、現在のレーザビームLの出力よりも低いレーザビームLが出力されるように、照射部を制御する。あるいは、制御装置21は、現在のワイヤWの供給速度よりも供給速度が大きくなるように、ワイヤスプール17の回転モータ18を制御する。あるいは、制御装置21は、現在のワイヤWに流れる電流よりも電流が小さくなるように、ホットワイヤ電源26を制御する。このような制御を行うことで、ワイヤWの溶断を抑制することができる。
その後、造形処理が終了したかを判定する(ステップS155)。造形処理が終了していない場合(ステップS155でNoの場合)には、ステップS152に処理が戻る。また、造形処理が終了した場合(ステップS155でYesの場合)には、処理が終了する。
実施の形態9では、積層造形装置100iは、ワイヤWの先端の温度を計測する温度計測部30をさらに備える。そして、制御装置21は、温度計測部30で計測されたワイヤWの先端の温度計測値が溶断判定基準値よりも高い場合に、レーザビームLの出力を低下させる処理、ワイヤWの供給速度を増加させる処理、およびワイヤWに流す電流を低下させる処理のうち少なくとも1つの処理を実施させながらレーザビームLの照射を行う。これによって、レーザビームLの照射が継続して行われることによるワイヤWの溶断を抑制することができる。
実施の形態10.
実施の形態10では、造形処理中の検知部による複数のセンシング結果と造形結果とを用いて機械学習を行い、センシング結果から溶断が発生しやすい状態にあるかを判定する場合を説明する。
図26は、実施の形態10に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。なお、実施の形態1から実施の形態9で説明したものと同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。図26に示されるように、実施の形態10の積層造形装置100jは、ホットワイヤ電源26と、電流ケーブル27と、温度計測部30と、歪ゲージ31と、回路試験器61と、プローブ62と、撮像部63と、を備えている。また、積層造形装置100jは、学習装置300と、推論装置350と、を備える。
<学習フェーズ>
図27は、実施の形態10に係る積層造形装置における学習装置の構成の一例を示すブロック図である。学習装置300は、データ取得部301と、モデル生成部302と、学習済モデル記憶部303と、を備える。
データ取得部301は、センシングデータと、造形結果データと、を学習用データとして取得する。
センシングデータは、温度計測部30から取得した造形処理中のワイヤWの先端の温度および造形処理前のワイヤWの先端の温度、回路試験器61から取得したワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧、撮像部63より取得した画像データから抽出したワイヤWの先端の位置、並びに負荷計測部から取得したワイヤWにかかる負荷のうち少なくとも1つを含む。造形処理中のワイヤWの先端の温度および造形処理前のワイヤWの先端の温度は、温度計測部30から取得されるデータである。ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧は、回路試験器61から取得されるデータである。ワイヤWの先端の位置は、撮像部63から取得されるデータである。負荷計測部から取得したワイヤWにかかる負荷の一例は、歪ゲージ31から取得されるワイヤノズル122に加わる力である。ワイヤノズル122に加わる力は、歪ゲージ31から取得されるデータである。なお、データ取得部301は、これらのデータのそれぞれを温度計測部30、回路試験器61、撮像部63および歪ゲージ31から取得してもよいし、上記データを保持している制御装置21から取得してもよい。また、センシングデータは、造形処理中のワイヤWの先端の温度と、造形処理前のワイヤWの先端の温度と、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧と、ワイヤWの先端の位置と、ワイヤノズル122に加わる力と、のうち少なくとも1つを含むものであってもよい。
造形結果データは、センシングデータで得られる条件を用いて積層造形装置100jで造形処理を行ったときの結果を示すデータである。造形結果データは、センシングデータと関連付けられて記憶される。一例では、造形結果データは、制御装置21に記憶される。この例では、造形結果データは、加工点位置関係情報と、ビードの形状である幅および高さを含むビード形状データと、を含む。この造形結果データのうち、ワイヤWの被加工物への突っ込みによる負荷が小さい場合の造形結果である加工点位置関係情報と、狙った幅および高さを有するビードのビード形状データと、を対応付けたデータが正解データとして使用される。つまり、学習用データは、負荷が小さい場合の造形結果と狙った形状を有するビードとが得られた場合のセンシングデータおよび造形結果データとなる。
図28は、加工点位置関係情報の一例を示す図である。加工点位置関係情報は、センシングデータの取得時における加工点におけるワイヤWの先端の位置とレーザビームLの照射位置との関係を示す情報である。加工点位置関係情報は、ドロップ、スムースおよびスタブを含む。
スムースは、ワイヤWの溶融位置が、それまでに形成されたビードの上面の位置とほぼ同じ位置にある状態である。すなわち、スムースでは、レーザビームLの照射位置である加工点にワイヤWの先端の位置が存在する最適な状態で、造形処理が行われる。このような状態で造形処理が行われると、図28のビード形状の模式図に示されるように、ビードは、均一の幅および高さを有する。このため、表面も滑らかとなる。
ドロップは、ワイヤWの溶融位置が、スムースの状態で形成されたビードの上面の位置よりも高い状態にある。すなわち、ドロップでは、加工点に比してワイヤWの先端の位置がワイヤノズル122側に存在する状態で造形処理が行われる。このような状態で造形処理が行われると、ビードの上面の位置よりも上方でワイヤWが溶融し、液滴を形成する。そして、この液滴が凝固することになる。また、液滴が上にはじけ飛んでスパッタが発生する。この結果、図28のビード形状に示されるように、スムースの場合に比してビードの幅が太くなるとともに、ビードの高さも高くなる。また、大きさが不均一の液滴が落下するため、ビードの幅および高さは一様ではない。さらに、液滴が落下するのに時間がかかった場合には、何も溶着しないことになる。つまり、溶断が発生した場合には、完全にビードがちぎれており、液滴がはじけ飛んで形成される丸い塊が周囲に散らばった形状となる。
スタブは、ワイヤWの溶融位置が、スムースの状態で形成されたビードの上面の位置よりも低い状態にある。すなわち、スタブでは、ワイヤWの先端の位置が加工点を通り過ぎてしまった状態で造形処理が行われる場合である。このような状態で造形処理が行われると、ビードの上面の位置よりも下方でワイヤWが溶融し、凝固することになる。この結果、図28のビード形状に示されるように、スムースの場合に比してビードの幅が狭くなるとともに、ビードの高さも低くなる。また、ワイヤWの溶融が不均一であるため、ビードの幅および高さは一様ではなく、凹凸を有することになる。この結果、ドロップの場合と同様にビードの表面はなめらかなものではなくなる。
制御装置21は、造形処理中に、ワイヤWの先端の位置がレーザビームLの照射位置に対してどのような関係にあるのかを示す加工点位置関係情報を取得し、造形処理後に、ビードの幅および高さを含むビード形状データを取得する。加工点位置関係情報およびビード形状データは、一例では、積層造形装置100jのユーザによって制御装置21に入力される。加工点位置関係情報およびビード形状データは、対応付けられて造形結果データとされる。データ取得部301は、造形結果データを制御装置21から取得する。
図27に戻り、モデル生成部302は、学習用データを用いて、積層造形装置100jのセンシングデータから積層造形装置100jでの造形処理の予測結果である造形結果予測情報を推論するための学習済モデルを生成する。言い換えれば、モデル生成部302は、データ取得部301から出力されるセンシングデータおよび造形結果データの組合せに基づいて作成される学習用データを用いて、造形結果予測情報を学習する。すなわち、モデル生成部302は、積層造形装置100jのセンシングデータおよび造形結果データから最適な造形結果予測情報を推論する学習済モデルを生成する。ここで、学習用データは、センシングデータおよび造形結果データを互いに関連付けたデータである。造形結果予測情報は、センシングデータを入力データとしたときに予測される造形結果の予測値と、幅および高さを含むビード形状の予測値と、を含む。造形結果の予測値は、加工点位置関係情報を示し、具体的にはドロップ、スタブおよびスムースのうちのいずれかである。モデル生成部302は、負荷が小さい場合の造形結果と狙った形状を有するビードとが得られた場合のセンシングデータと正解データとの組み合わせを学習用データとして使用する。ここで、正解データは、造形結果データのうちのワイヤWの被加工物への突っ込みによる負荷が小さい場合の造形結果である加工点位置関係情報と、狙った幅および高さを有するビードのビード形状データと、を対応付けたデータである。
モデル生成部302が用いる学習アルゴリズムは教師あり学習、教師なし学習、強化学習等の公知のアルゴリズムを用いることができる。一例として、ニューラルネットワークを適用した場合について説明する。
モデル生成部302は、一例では、ニューラルネットワークモデルに従って、いわゆる教師あり学習により、造形結果予測情報を学習する。ここで、教師あり学習とは、入力と結果であるラベルとのデータの組を学習装置300に与えることで、これらの学習用データにある特徴を学習し、入力から結果を推論する手法をいう。
ニューラルネットワークは、複数のニューロンからなる入力層、複数のニューロンからなる中間層、および複数のニューロンからなる出力層で構成される。中間層は、隠れ層とも称され、1層でもよいし、2層以上でもよい。
図29は、図27のモデル生成部が使用するニューラルネットワークの一例を模式的に示す図である。一例では、図29に示すような3層のニューラルネットワークであれば、複数の入力が入力層X1から入力層X3に入力されると、この値にw11からw16で示される重みを掛けて中間層Y1から中間層Y2に入力される。重みw11からw16は、個々に区別しない場合には、重みw1と称される。また、中間層Y1から中間層Y2の結果にさらにw21からw26で示される重みを掛けて出力層Z1から出力層Z3より出力される。重みw21からw26は、個々に区別しない場合には、重みw2と称される。出力層Z1から出力層Z3の出力結果は、重みw1,w2の値によって変わる。
実施の形態10において、ニューラルネットワークは、データ取得部301によって取得されるセンシングデータおよび造形結果データの組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、造形結果予測情報を学習する。
すなわち、ニューラルネットワークは、入力層にセンシングデータを入力して出力層から出力された結果が、正解データである造形結果データに近づくように重みW1,W2を調整することで学習する。
モデル生成部302は、以上のような学習を実行することで学習済モデルを生成し、出力する。
図27に戻り、学習済モデル記憶部303は、モデル生成部302から出力された学習済モデルを記憶する。
次に、図30を用いて、学習装置300が学習する処理について説明する。図30は、実施の形態10に係る積層造形装置の学習装置の学習処理の手順の一例を示すフローチャートである。
データ取得部301は、負荷が小さい場合の造形結果と狙った形状を有するビードとが得られた場合のセンシングデータおよび造形結果データを取得する(ステップS171)。なお、センシングデータおよび造形結果データを同時に取得するものとしたが、センシングデータおよび造形結果データを関連づけて入力できればよく、センシングデータおよび造形結果データをそれぞれ別のタイミングで取得してもよい。
ついで、モデル生成部302は、データ取得部301によって取得されるセンシングデータおよび造形結果データの組合せに基づいて作成される学習用データに従って、いわゆる教師あり学習により、造形結果予測情報を学習し、造形処理中のワイヤWの先端の温度、造形処理前のワイヤWの先端の温度、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧、ワイヤWの先端の位置、およびワイヤノズル122に加わる力と、加工点位置関係情報およびビード形状データと、の相関関係を示す推定アルゴリズムを用いた学習済モデルを生成する(ステップS172)。
そして、学習済モデル記憶部303は、モデル生成部302が生成した学習済モデルを記憶する(ステップS173)。以上で、処理が終了する。
<活用フェーズ>
図31は、実施の形態10に係る積層造形装置における推論装置の構成の一例を模式的に示す図である。推論装置350は、センシングデータを学習済モデルに入力して得られる結果を造形結果予測情報として出力する装置である。推論装置350は、データ取得部351と、推論部352と、を備える。
データ取得部351は、センシングデータを取得する。センシングデータは、温度計測部30から取得した造形処理中のワイヤWの先端の温度および造形処理前のワイヤWの先端の温度、回路試験器61から取得したワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧、撮像部63より取得した画像データから抽出したワイヤWの先端の位置、並びに負荷計測部から取得したワイヤWにかかる負荷のうち少なくとも1つを含む。造形処理中のワイヤWの先端の温度および造形処理前のワイヤWの先端の温度は、温度計測部30から取得されるデータである。ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧は、回路試験器61から取得されるデータである。ワイヤWの先端の位置は、撮像部63から取得されるデータである。負荷計測部から取得したワイヤWにかかる負荷の一例は、歪ゲージ31から取得されるワイヤノズル122に加わる力である。ワイヤノズル122に加わる力は、歪ゲージ31から取得されるデータである。なお、データ取得部351は、これらのデータのそれぞれを温度計測部30、回路試験器61、撮像部63および歪ゲージ31から取得してもよいし、上記データを保持している制御装置21から取得してもよい。また、センシングデータは、造形処理中のワイヤWの先端の温度と、造形処理前のワイヤWの先端の温度と、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧と、ワイヤWの先端の位置と、ワイヤノズル122に加わる力と、のうち少なくとも1つを含むものであってもよい。
推論部352は、学習済モデルを利用して得られる造形結果予測情報を推論する。すなわち、この学習済モデルにデータ取得部351で取得したセンシングデータを入力することで、センシングデータから推論される造形結果予測情報を出力することができる。
なお、実施の形態10では、積層造形装置100jのセンシングデータおよび造形結果データから学習した学習済モデルを用いる場合を説明した。しかし、他の積層造形装置100j等におけるセンシングデータおよび造形結果データから学習した学習済モデルを外部から取得し、この学習済モデルに基づいて造形結果予測情報を出力するようにしてもよい。
次に、図32を用いて、推論装置350を使って造形結果予測情報を得るための処理を説明する。図32は、実施の形態10に係る積層造形装置の推論装置による推定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
まず、データ取得部351は、センシングデータを取得する(ステップS191)。センシングデータは、造形処理中のワイヤWの先端の温度、造形処理前のワイヤWの先端の温度、ワイヤWに流れる電流またはワイヤWにかかる電圧、ワイヤWの先端の位置、およびワイヤノズル122に加わる力を含むデータである。
ついで、推論部352は、学習済モデル記憶部303に記憶された学習済モデルにセンシングデータを入力し、造形結果予測情報を得る(ステップS192)。
その後、推論部352は、学習済モデルにより得られた造形結果予測情報を積層造形装置100j、具体的には積層造形装置100jの制御装置21に出力する(ステップS193)。
そして、制御装置21は、出力された造形結果予測情報を用いて、レーザビームLの出力、ワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流のうち少なくとも1つを制御する(ステップS194)。造形結果予測情報の造形結果の予測値がスムースである場合には、一例では、制御装置21は、現在の状態を維持する。あるいは、制御装置21は、造形結果予測情報のビード形状の予測値が望ましいビード形状の基準値と異なる場合には、ビード形状が基準値に近づくように、レーザビームLの出力、ワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流のうち少なくとも1つを調整する。
造形結果予測情報の造形結果の予測値がドロップである場合には、溶断が発生している可能性がある。このため、制御装置21は、ビード形状の予測値が基準値に近づくように、レーザビームLの出力、ワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流のうち少なくとも1つを調整する。
造形結果予測情報の造形結果の予測値がスタブである場合には、ワイヤWが被加工物に応力を与えている可能性がある。このため、制御装置21は、ビード形状の予測値が基準値に近づくように、レーザビームLの出力、ワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流のうち少なくとも1つを調整する。
ここで、造形結果の予測値がドロップまたはスタブである場合の制御装置21の制御の一例について説明する。ワイヤWに流れる電流が想定よりも低くなっているまたはばらついている場合には、溶断の発生の可能性があると判定することができる。このような場合、すなわち造形結果の予測値がドロップである場合には、ワイヤWは溶断しかかっているので、制御装置21は、レーザビームLの出力を低下させる処理、ワイヤWの供給速度を増加させる処理、およびワイヤWに流す電流を低下させる処理のうち少なくとも1つの処理を行えばよい。
ワイヤWにかかる電圧が想定よりも高くなっているまたはばらついている場合には、溶断の発生の可能性があると判定することができる。このような場合、すなわち造形結果の予測値がドロップである場合には、溶断を防ぐために、制御装置21は、レーザビームLの出力を低下させる処理、ワイヤWの供給速度を増加させる処理、およびワイヤWに流す電流を低下させる処理のうち少なくとも1つの処理を行えばよい。
ワイヤWの先端の位置が加工点よりもワイヤノズル122側にある場合には、ワイヤWが溶断しかけていると判定することができる。この場合、すなわち造形結果の予測値がドロップである場合には、制御装置21は、レーザビームLの出力を低下させる処理、ワイヤWの供給速度を増加させる処理、およびワイヤWに流す電流を低下させる処理のうち少なくとも1つの処理を行えばよい。
ワイヤWの先端の位置が加工点を通り過ぎている場合には、ワイヤWの溶融が不十分であると判定することができる。この場合、すなわち造形結果の予測値がスタブである場合には、制御装置21は、レーザビームLの出力を増加させる処理、ワイヤWの供給速度を低下させる処理およびワイヤWに流す電流を増加させる処理のうち少なくとも1つの処理を行えばよい。
ワイヤWの先端の温度が想定よりも高くなっている場合には、溶断の発生の可能性があると判定することができる。このような場合、すなわち造形結果の予測値がドロップである場合には、ワイヤWの先端の温度を下げるために、制御装置21は、レーザビームLの出力を低下させる処理、ワイヤWの供給速度を増加させる処理、およびワイヤWに流す電流を低下させる処理のうち少なくとも1つの処理を行えばよい。
ワイヤWの負荷が想定よりも高い場合には、ワイヤWの溶融が不十分であると判定することができる。このような場合、すなわち造形結果の予測値がスタブである場合には、ワイヤWの先端の温度を上昇させるために、制御装置21は、レーザビームLの出力を上げる処理、ワイヤWの供給速度を低下させる処理、およびワイヤWに流す電流を増加させる処理のうち少なくとも1つの処理を行えばよい。これによって、ワイヤWでの溶断の発生またはワイヤWが被加工物に与える応力を抑制することができる。以上で、処理が終了する。
なお、実施の形態10では、モデル生成部302が用いる学習アルゴリズムに教師あり学習を適用した場合について説明したが、これに限られるものではない。学習アルゴリズムについては、教師あり学習以外にも、強化学習、教師なし学習、半教師あり学習等を適用することも可能である。
また、モデル生成部302は、複数の積層造形装置100jに対して作成される学習用データに従って、造形結果予測情報を学習するようにしてもよい。なお、モデル生成部302は、同一のエリアで使用される複数の積層造形装置100jから学習用データを取得してもよいし、異なるエリアで独立して動作する複数の積層造形装置100jから収集される学習用データを利用して造形結果予測情報を学習してもよい。また、学習用データを収集する積層造形装置100jを途中で対象に追加したり、対象から除去したりすることも可能である。さらに、ある積層造形装置100jに関して造形結果予測情報を学習した学習装置300を、これとは別の積層造形装置100jに適用し、当該別の積層造形装置100jに関して造形結果予測情報を再学習して更新するようにしてもよい。
また、モデル生成部302に用いられる学習アルゴリズムとしては、特徴量そのものの抽出を学習する、深層学習(Deep Learning)を用いることもでき、他の公知の方法、一例では遺伝的プログラミング、機能論理プログラミング、サポートベクターマシンなどに従って機械学習を実行してもよい。
さらに、学習装置300および推論装置350は、積層造形装置100jの造形結果予測情報を学習するために使用されるが、一例では、ネットワークを介して積層造形装置100jに接続され、この積層造形装置100jとは別個の装置であってもよい。また、学習装置300および推論装置350は、積層造形装置100jの制御装置21に内蔵されていてもよい。さらに、学習装置300および推論装置350は、クラウドサーバ上に存在していてもよい。
次に、実施の形態10にかかる学習装置300および推論装置350を実現するハードウェアについて説明する。図33は、実施の形態10にかかる積層造形装置における学習装置および推論装置を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図33は、学習装置300および推論装置350を、プロセッサ573とメモリ574とを有する処理回路571で実現する場合の構成を示す。
入力部572は、学習装置300および推論装置350に対する入力信号を外部から受信する回路である。出力部575は、学習装置300および推論装置350で生成した信号を外部へ出力する回路である。学習装置300のデータ取得部301および推論装置350のデータ取得部351は、入力部572で実現される。また、入力部572は、学習済モデルの入力を担う。出力部575は、学習装置300では学習済モデルの出力を担い、推論装置350では、造形結果予測情報の出力を担う。
プロセッサ573は、CPUである。プロセッサ573は、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)でもよい。メモリ574は、一例では、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(登録商標)(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)等の、不揮発性または揮発性のメモリである。学習装置300および推論装置350をプロセッサ573およびメモリ574で実現する場合、学習装置300および推論装置350として動作するための処理が記述されたプログラムをプロセッサ573が実行することにより、これらの各部が実現される。プログラムは、メモリ574に予め格納される。プログラムは、記憶媒体に記憶されたものであってもよい。また、プログラムは、他のコンピュータあるいはサーバ装置から通信ネットワークを介して、学習装置300および推論装置350となる処理回路571へインストールされてもよい。
以上のように、実施の形態10によれば、学習装置300は、負荷が小さい場合の造形結果と狙った形状を有するビードとが得られた場合のセンシングデータと造形結果データとの組み合わせに基づいて作成される学習用データに基づいて造形結果予測情報を推論する学習済モデルを生成する。また、推論装置350は、学習済モデルにセンシングデータを入力して得られる造形結果予測情報を出力する。そして、制御装置21は、造形結果予測情報に基づいて、ビード形状の予測値が基準となるビード形状となるように、積層造形装置100jのレーザビームLの出力、ワイヤWの供給速度およびワイヤWに流す電流のうち少なくとも1つを調整するようにした。これによって、ワイヤWでの溶断の発生またはワイヤWが必要以上に被加工物に応力を与えてしまうことを抑制することができる。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。