本発明による自走式点検ロボットは、例えば発電所や変電所などの電力施設において、所定の走行経路を自律的に走行して設備の点検を行うことができる。本発明による自走式点検ロボットは、自己位置推定が失陥し、自律走行と点検を継続できない場合でも、自己位置を回復して自律走行と点検を継続できる。
以下、本発明の実施例による自走式点検ロボットを、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する要素には同一の符号を付け、これらの要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部材から成ること、複数の構成要素が一の部材から成ること、或る構成要素が別の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
本発明の実施例1に係る自走式点検ロボットについて、図1から図6を用いて説明する。
図1は本発明の実施例1に係る自走式点検ロボットの動作を説明するための模式図である。図1では、一例として、電力施設内を走行して点検対象の設備(例えば、変電設備類)の点検を実施する自走式点検ロボット1を示している。
自走式点検ロボット1は自己位置推定部13を備えており、例えば、GPS衛星3の信号を受信することにより、自走式点検ロボット1の自己位置を推定することができる。自走式点検ロボット1は、自己位置推定部13によって自己の位置を推定しながら、自律的に走行することができる。また、自走式点検ロボット1は点検部12を備えている。点検部12は、点検対象の設備5(例えば、架線、鉄塔、及び計器などを含む変電設備類)を点検するための手段であり、移動しながら点検対象の設備5を撮影する。
図2は本発明の実施例1に係る自走式点検ロボット1の点検対象撮影箇所111での動作を説明するための模式図である。自走式点検ロボット1は、自己位置推定部13を用いて自己位置を推定しながら予め定められた所定の走行経路6を自律走行し、点検対象撮影箇所111に到達する。そして、自走式点検ロボット1は、カメラを備えた点検部12を用いて点検対象の設備5を撮影し、外観の異常や計器の異常の有無を確認する点検を実施する。自走式点検ロボット1は、従来人手で行っている電力施設内での定期点検を自動化し、省力化することができる。
図3A~図3Cは本発明の実施例1において想定する自走式点検ロボット1の自己位置推定のレベルを示す模式図である。図3A~図3Cにおいて、9は自走式点検ロボット1の推定自己位置、10は自走式点検ロボット1が存在しうると推定される範囲である。今後、10を推定範囲と記載する。実施例1において、自己位置推定部13は、推定自己位置9のみを算出する場合と、推定自己位置9と推定範囲10を共に算出する場合、の両方を想定する。実施例1においては、自己位置推定のレベルを良好、不良、不可の3種類に分類する。
図3Aは自己位置推定のレベルが良好である場合を示している。自己位置推定が良好な場合、推定自己位置9と自走式点検ロボット1の実際の位置は精度よく一致する。また、推定範囲10を算出している場合は、推定範囲10は無視できる誤差の範囲に収まる(例えば直径10cm程度)。自己位置推定のレベルが良好である場合としては、例えば自己位置推定部13にGPSを用いているときに、GPSの信号が良好であり、精度よく自己位置が計測できている場合などが挙げられる。
図3Bは自己位置推定のレベルが不良である場合を示している。自己位置推定が不良な場合、推定自己位置9と自走式点検ロボット1の実際の位置は必ずしも一致しない。また、推定範囲10を算出している場合は、推定範囲10は誤差が無視できない範囲に広がる。しかし、自走式点検ロボット1の実際の位置は、推定範囲10の中には多くの場合(例えば3σの99.7%)で収まる。自己位置推定のレベルが不良である場合としては、例えば自走式点検ロボット1が車輪を備えている場合に、GPSの信号が途絶し、車輪の回転量を基に移動量を積算して自己位置を推定したことで、誤差が蓄積した場合などが挙げられる。
図3Cは自己位置推定のレベルが不可である場合を示している。自己位置推定が不可とは、自走式点検ロボット1の推定自己位置9が不明であり、推定範囲10も不明である場合を示すものとする。実施例1における自走式点検ロボット1は、移動量を積算することにより何らかの形で推定自己位置9を算出することが可能であり、また積算に伴う誤差を考慮することで推定範囲10を求めることも可能であるため、自己位置推定のレベルが不可になることは想定しない。
自己位置推定のレベルが良好である場合、自走式点検ロボット1は、先述したように自律走行と点検の実施が可能である。自己位置推定のレベルが不良の場合、安全上停止せざるを得ず、自律走行と点検が継続できない。実施例1においては、自己位置推定のレベルが不良に陥ることを、自己位置推定の失陥と表現する。
実施例1による自走式点検ロボット1は、自己位置推定が失陥したときに、点検部12の出力と、点検対象の情報112を用いて自己位置を回復することで、自律走行と点検を継続することができる。以下、実施例1による自走式点検ロボット1の構成と、自己位置回復の方法について説明する。
図4は本発明の実施例1に係る自走式点検ロボット1の構成を示すブロック図である。自走式点検ロボット1は、複数の点検対象撮影箇所111と複数の点検対象の情報112を記憶する点検DB11(DB:database)と、カメラを備えた点検部12と、自己位置推定部13と、制御部14と、情報処理部15を備える。また、情報処理部15は、失陥検知部151と、距離計算部152と、自己位置回復処理部153と、接近挙動計画部154を備える。
点検DB11は、少なくとも点検対象の設備5がある空間中の位置と、点検対象を識別するための事前情報を含む点検対象の情報112と、各点検対象を撮影するのに適した箇所である点検対象撮影箇所111を記憶する。点検対象を識別するための事前情報は、例えば点検対象の画像、もしくは点検対象の形状(円形、矩形など)や大きさのパラメータ、などであってもよい。または、点検対象の設備5に識別用のQRコード(登録商標)が設置してある場合であれば、対応するQRコードであってもよい。点検対象の情報112は、点検対象を識別することができればその種類は問わない。
また点検DB11は、点検対象撮影箇所111と点検対象の情報112のセットについて、複数のパターンを記憶していてもよい。例えば、高頻度に実施する定期点検のためのパターンと、低頻度に実施する定期点検のためのパターンを、分けて記憶していてもよい。
点検部12は、先述したように、点検対象の設備5を点検するための手段であり、点検対象を撮影するためのカメラを備える。また、点検部12は点検を実施するための他の機器を備えていてもよく、例えば異音を検知するためのマイクや、温度を計測するためのサーモグラフィーなどを備えていてもよい。
また点検部12は、点検対象を撮影可能な範囲を拡大するために、カメラの撮影方向を制御する機能を備えていてもよい。撮影方向を制御するには、カメラ単体で撮影方向を制御可能なPTZ(Pan-Tilt-Zoom)カメラを使用してもよく、もしくは、点検対象にカメラが向くよう自走式点検ロボット1の車体方向を制御してもよい。または、カメラの撮影方向を制御する代わりに、周囲360度の撮影が可能な全天球カメラを備えていてもよい。
自己位置推定部13は、先述したように、自走式点検ロボット1の自己位置を推定して求める手段である。自己位置推定部13には、例えば、屋外であればGPS(Global Positioning System)技術などを、屋内であればSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術、マップマッチ技術などを用いてもよい。
また、自己位置推定部13には、先述したGPSやSLAM技術、マップマッチ技術に加え、IMU(Inertial Measurement Unit)や駆動部(図示せず)の操作量(例えば駆動部が車輪を備えていれば、車輪の回転量)を用いて、デッドレコニングにより算出した自走式点検ロボット1の短期的な移動量を併用してもよい。その場合、デッドレコニングにより算出した移動量と、GPSやSLAM技術、マップマッチ技術により算出した位置を、例えばカルマンフィルタなどのフィルタ処理によって融合することで、自己位置を推定してもよい。カルマンフィルタを用いる場合、分散値の形で、推定範囲10を算出することが可能である。
情報処理部15は、後述する各種計算処理を実行するための手段である。情報処理部15には、ハードウェアとして、PC(Personal Computer)やECU(Electronic Control Unit)、組み込みコンピュータなどを用いることができ、後述する計算処理を実行することができれば、使用する機器・実装方法は問わない。
失陥検知部151は、情報処理部15内に実装された手段であって、自己位置推定部13による自己位置推定結果が正常であるか否かを判定し、自己位置推定の失陥を検知する手段である。自己位置推定が失陥する場合としては、例えば自己位置推定部13でGPSを使用している場合には、GPS衛星からの電波が樹木や建物により遮蔽され、自己位置の算出に失敗する場合や、例えば自己位置推定部13でマップマッチ技術を使用している場合には、周囲に存在する特徴的な地形が減少し、地図(図示せず)との照合に失敗する場合、などが挙げられる。
失陥検知部151で失陥を検知するには、例えば自己位置推定部13でGPSを使用している場合には、例えばGPSから出力される測位精度指標であるDOP(Dilution Of Precision)値が所定の水準を超えているかどうかを監視すればよい。また、例えば自己位置推定部13でSLAM技術を使用している場合には、例えばIMUで算出した移動量と、マップマッチング技術で算出した自己位置との偏差を計算し、偏差が所定の閾値を超えるか否かを監視すればよい。また、自己位置推定部13でカルマンフィルタなどのフィルタ処理を使用している場合には、フィルタ処理の結果出力される自己位置推定の精度指標(分散値など)が所定の水準を超えているかどうかを監視すればよい。
距離計算部152は、情報処理部15内に実装された手段であって、失陥検知部151が自己位置推定の失陥を検知した場合に、検知した時点での自走式点検ロボット1の推定自己位置と、点検対象撮影箇所111との距離を計算する手段である。距離計算部152は、所定の走行経路6中の、自走式点検ロボット1が次に撮影を実施すべき点検対象撮影箇所111との距離を計算してもよいし、距離が最小となる、即ち最近傍の点検対象撮影箇所111を探索し、その最小距離を算出してもよい。距離計算部152は、算出した距離を基に、後述する閾値を用いた判定処理を行う。
また、距離計算部152が距離計算の対象とする点検対象撮影箇所111は、任意のものを設定できる。例えば、先述したように、点検DB11が複数の点検対象撮影箇所111と複数の点検対象の情報112とのセットを複数の点検パターンとして記憶している場合、距離計算部152は自走式点検ロボット1が現在実行している点検パターンに関わらず、点検DB11が記憶している複数の点検パターンの全ての点検対象撮影箇所111について距離計算の対象として計算を行うことができる。
自己位置回復処理部153は、情報処理部15内に実装された手段であって、距離計算部152が算出した距離が予め定めた閾値を超えない(閾値より小さい)と判定した場合に、点検対象の情報112と、点検部12の出力を用いて自己位置を算出する自己位置回復処理を実行する手段である。実施例1の「閾値」とは、例えば点検対象撮影箇所111において、点検部12に備えたカメラを使って点検対象の設備5を撮影した際、点検対象の設備5の正常若しくは異常を判断可能な解像度が得られる距離としている。一例として、点検部12に備えたカメラを使って点検対象の設備5を撮影した際、計器類を読み取り可能な解像度が得られる距離(10m程度)としている。自己位置回復処理の具体的な方法については後述する。
接近挙動計画部154は、情報処理部15内に実装された手段であって、距離計算部152が出力する距離が予め定めた閾値を超える(閾値より大きい)場合に、点検対象撮影箇所111の位置と自己位置推定失陥時点の自走式点検ロボット1の推定自己位置を基に、点検対象撮影箇所111に接近するための接近挙動を計画する手段である。具体的な接近挙動については後述する。
制御部14は、自走式点検ロボット1を制御し自律走行させる手段である。制御部14は、自己位置推定が正常な場合は所定の走行経路6に沿って走行するよう自走式点検ロボット1を制御し、自己位置推定が失陥し、かつ距離計算部152が出力する距離が予め定めた閾値を超える場合は、接近挙動計画部154が出力する接近挙動に基づいて自走式点検ロボット1を制御する。
また、制御部14は、自走式点検ロボット1を駆動して走行させるための駆動部(図示せず)を備えることができる。駆動部は、例えばタイヤ、クローラ、及び脚などの走行機構と、走行機構を駆動するためのバッテリーなどの動力部を備えることができる。動力部は、太陽光発電装置などの環境発電装備を備え、環境発電装備が発電した電力で走行機構を駆動させてもよい。
図5は本発明の実施例1に係る自走式点検ロボット1の処理と動作を示すフローチャートである。
ステップS1において、失陥検知部151は、自己位置推定部13が失陥しているか否かを判定し、失陥していない(正常な)場合はステップS2に移行し、失陥している場合はステップS8に移行する。
ステップS2において、制御部14は、所定の走行経路6上を走行するよう自走式点検ロボット1を制御する。
ステップS3において、制御部14は、自走式点検ロボット1が点検対象撮影箇所111に到達したか否かを判定する。到達していない場合はステップS1に戻り、ステップS1からステップS3までを繰り返す。到達した場合はステップS4に移行する。
ステップS1からステップS3の処理は自走式点検ロボット1の制御周期毎に反復して行う。
ステップS4において、点検部12は、点検対象撮影箇所111で点検対象の設備5を点検する。
ステップS5において、点検部12は、得られた点検結果を点検DB11に登録する。
ステップS6において、点検部12は、全ての点検対象について点検が完了したかを判定する。全ての点検が完了した場合はステップS7に移行し、完了していない場合はステップS1に戻り、ステップS1からステップS6までを繰り返す。
ステップS7において、自走式点検ロボット1は、所定の位置へ戻る(帰巣する)。所定の位置とは、例えば、自走式点検ロボット1の駆動部が備えるバッテリーを充電するための充電ステーションである。
ステップS8において、自己位置推定部13が失陥している場合、距離計算部152は、自己位置推定の失陥を検知した時点での推定自己位置と、点検対象撮影箇所111との距離を計算し、距離が閾値を超えるか否かを判定する。距離計算部152は、先述したように、例えば次に撮影を実施すべき点検対象撮影箇所との距離を計算してもよいし、全ての点検対象撮影箇所の中で距離が最小となる、即ち最近傍の点検対象撮影箇所111との距離を計算してもよい。後者の場合は、全ての点検対象撮影箇所との距離を計算した上で、距離の最小値を求める。距離が閾値を超えない場合(点検対象の設備5の撮影が可能な場合)は、ステップS9に移行し、閾値を超える場合は、ステップS10に移行する。
ステップS9において、点検部12は点検対象の設備5の画像を撮影し、自己位置回復処理部153は、撮影した画像と、点検対象の情報112を照合し、自己位置を算出する。具体的な算出方法については後述する。このとき、点検部12で全天球カメラ以外の画角の限られたカメラを使用している場合は、自己位置推定失陥時の推定自己位置と、点検対象の情報112に含まれる点検対象の空間中の位置を基に、カメラの撮影方向を算出し、カメラの撮影方向を制御する。自己位置回復処理が完了した後、ステップS1に戻り、ステップS1からステップS3の繰り返し処理に戻る。
ステップS10において、接近挙動計画部154は、点検対象撮影箇所111に接近するための挙動を計画する。接近挙動としては、例えば、自己位置推定失陥時の推定自己位置を起点とし、点検対象撮影箇所を終点とするベクトルを算出し、ベクトルに沿って直進する走行挙動を計画すればよい。
ステップS11において、制御部14は、接近挙動計画部154が計画した接近挙動に基づき、自走式点検ロボット1を制御し点検対象撮影箇所111に接近させ、到達させる。この時、先述したように、デッドレコニングにより自走式点検ロボット1の短期的な移動量を算出することができる。制御部14は、デッドレコニングにより算出した移動量を用いて、接近挙動を制御する。なお、デッドレコニングのみを用いて移動量を算出する場合、GPSやマップマッチ技術による位置の計測値が得られないため、例えば自己位置推定部13でカルマンフィルタなどのフィルタ処理を用いている場合、自己位置推定の分散値(及び推定範囲10)は、接近挙動の実行中に増加し続けることになる。
ステップS12において、失陥検知部151は、自己位置推定の失陥が依然継続しているか否かを判定する。自己位置推定の失陥が継続している場合は、ステップS9に移行し、自己位置回復処理を実行する。失陥が継続していない場合、即ち自己位置が回復している場合は、ステップS1に戻る。
なお、自己位置が回復している場合としては、例えば自己位置推定部13でGPSを使用しているときに、接近挙動の実行中にGPS衛星の視認状況が改善し、自然に自己位置が回復した場合や、自己位置推定部13でマップマッチ技術を使用しているときに、接近挙動の実行中に周囲の特徴的な地形が増加し、地図(図示せず)との照合が復活した場合、などが挙げられる。ここで述べる地図とは、例えば周囲の地形情報を多数の点の集合の形で保持する点群地図などを想定する。
ステップS9において、自己位置回復処理部153は、例えば以下の順序で処理を行うことで、自己位置を算出できる。まず、点検部12で撮影した画像中から、点検対象の設備5を検出する。検出においては、例えば点検対象の情報112として、点検対象の画像を事前に保持している場合には、テンプレートマッチング技術を使用することができる。もしくは、例えば点検対象の情報112として、点検対象の形状(円形、矩形など)を保持している場合には、エッジ抽出とハフ変換を用いて形状を検出することができる。次に、点検対象の設備5の大きさや画像中の位置から、自走式点検ロボット1の自己位置を算出する方法について、図6を用いて説明する。
図6は自己位置回復処理部153による自己位置算出方法について説明するための模式図である。図6では、説明のために、自走式点検ロボット1は平坦な地面上で動作し、点検対象の設備5は自走式点検ロボット1と同じ高さに設置されているものとする。また、点検対象の情報112として、点検対象の設備5の大きさ(高さ、幅)を保持しているものとする。また、図6中の1Gから1Jは全て自走式点検ロボット1を示すものであるが、1Gから1Jは点検対象の設備5に対する相対位置関係が異なるものとする。
121Gから121Jは、全て点検対象の設備5の画像121を示すものであるが、それぞれ1Gから1Jの位置から撮影した点検対象の設備5の画像を示すものとする。画像121G,画像121Iは点検対象の設備5を正面から撮影した画像であり、画像121Gは画像121Iよりも近い位置で撮影した画像である。画像121H,画像121Jは点検対象の設備5を斜めから撮影した画像であり、画像121Hは画像121Jよりも近い位置で撮影した画像である。H、Wは点検対象の設備5のそれぞれ画像121中における高さ、幅(画素数)を示す。点検部12を起点とし、点検対象の設備5を終点とするベクトルをVで表す。ベクトルVと、点検対象の設備5の表面の法線がなす角をθで表す。
図6において、点検対象の設備5に対する自走式点検ロボット1の位置が異なる場合、画像121中における点検対象の設備5の大きさ、即ちHとWが異なる。即ち、高さHとベクトルVの長さ|V|の間には、H=f(|V|)なる単射の関数が存在する。また、|V|が定まっている場合、Wとθの絶対値|θ|の間にも、W=g(|θ|,|V|=|V|)なる単射の関数が存在する。従って、f、gの逆関数をそれぞれf’、g’と定義すると、H、Wから|V|、|θ|を以下の(1)、(2)式のように逆算できる。
|V|=f’(H) ・・・(1)
|θ|=g’(W,|V|=f’(H)) ・・・(2)
従って、|V|と|θ|が求まったとき、自走式点検ロボット1の空間中の位置は、θ=|θ|の場合と、θ=-|θ|の場合の2通りに定まる。自己位置回復処理部153は、2通りの位置候補のうち、自己位置推定失陥時の自走式点検ロボット1の位置に対し、接近挙動の実行中に算出した移動量を加算した位置から遠い方の候補を、可能性が低いものとして棄却する。もしくは、2通りの位置候補が近接しており、十分な信頼度を持って片方を棄却できないときは、両者の平均と分散を算出し、保持してもよい。以上のように処理を行うことで、自己位置回復処理部153は、自走式点検ロボット1の位置を算出することができる。
先述の説明では、点検対象の情報112として、点検対象の設備5の大きさを保持していることを想定したが、点検対象の設備5の画像を予め保持している場合においても、類似の自己位置算出処理を行うことができる。例えば、自走式点検ロボット1の位置の候補を予め網羅的に生成する(例えば1Gから1J)。そして、予め保持している点検対象の設備5の画像を、網羅的に生成した位置の候補のそれぞれに応じて透視変換し、各位置候補から点検対象の設備5を撮影した場合に取得されると想定される画像を、各位置候補ずつセットで生成する。位置候補毎に生成した透視変換後の画像のそれぞれを用いて、現在撮影された点検対象の設備5の画像に対してテンプレートマッチングを行い、評価値が最も高くなる位置候補が、真値であるとみなす。以上のようにしても、自己位置を算出することができる。
自走式点検ロボット1の位置が算出できた後、自己位置回復処理部153は、自己位置推定部13の推定値を算出した位置でリセットする。このとき、例えば自己位置推定部13でカルマンフィルタなどのフィルタ処理を用いている場合は、位置の計測値が得られるため、接近挙動の実行中に増加した真値との分散を減少させることができる。即ち、自己位置推定の精度を回復することができる。もしくは、例えば自己位置推定部13でマップマッチング技術を用いている場合は、地図(図示せず)との照合における初期値として自己位置回復処理部153が算出した位置を用いることで、地図との照合を再度成功させることができる。
以上の説明では、自己位置回復処理部153の出力を用いて、自己位置推定部13の推定を回復する構成を示した。しかし、場合によっては、自己位置回復処理部153の出力を用いても、自己位置を回復できない場合がある。このような場合としては、例えば自己位置推定部13でマッチング技術を用いている場合に、自己位置回復処理部153で算出した位置を初期値としてマッチングを行っても、周囲の特徴的な地形が依然少なく、地図との照合に成功しない場合などが挙げられる。
このような場合には、自己位置推定部13の推定値の代わりに、自己位置回復処理部153の出力を用いて自己位置推定を行い、自律走行を継続する構成に変更してもよい。この場合、自己位置回復処理部153は自己位置の算出に画像を用いるため、自己位置推定部13と比して推定の精度が低いことが多いので、自律走行中の安全を担保するために、障害物検知部を追加し、障害物を回避できる構成とすることが望ましい。
以上説明したように実施例1による自走式点検ロボット1は、自己位置推定部13による自己位置推定が失陥し、自律走行と点検を継続できない場合でも、点検対象の情報112と点検部12の出力を照合することで自己位置を回復し、自律走行を継続できる。これにより、自走式点検ロボット1による点検を再開でき、点検結果を十分収集できる。また、距離計算部152での距離計算対象を次に撮影を実施すべき点検対象撮影箇所とする場合には、自己位置失陥中においても点検対象撮影箇所に接近できるので、自己位置回復後に、効率的に点検を再開できる。
本発明の実施例2による自走式点検ロボット1について、図7A及び図7Bを用いて説明する。実施例2では、実施例1と異なる点を主に説明する。
実施例1による自走式点検ロボット1の接近挙動計画部154は、図5のステップS10において、点検対象撮影箇所への接近挙動を計画する。接近挙動としては、例えば、自己位置推定失陥時の推定自己位置9を起点とし、点検対象撮影箇所を終点とするベクトルを算出し、ベクトルに沿って直進する走行挙動としてもよいことを先述した。しかし、自走式点検ロボット1の周囲に壁や建物などの構造物や、人や車などの障害物が存在する場合は、このような直進走行を行った場合、障害物に衝突する危険がある。
実施例2による自走式点検ロボット1は、障害物検知部(不図示)を備え、接近挙動の計画に障害物検知部の出力を用いることで、障害物に衝突することなく安全に点検対象撮影箇所に接近することができる。
図7A及び図7Bは本発明の実施例2に係る接近挙動計画部が計画する、障害物回避を優先した接近挙動を説明するための模式図である。図7Aに示すように、自走式点検ロボット1と点検対象撮影箇所111の間に障害物(例えば自動車7)が存在する場合、接近挙動として直進を計画すると、障害物と自走式点検ロボット1が衝突する。そこで、図7Bに示すように、障害物近辺では点検対象撮影箇所111への接近よりも障害物回避を優先した回避経路6bを生成し、これを辿る挙動を計画する。
回避経路6bの生成には、例えばポテンシャル法を用いることができる。ポテンシャル法では、自走式点検ロボット1と点検対象撮影箇所111の周囲の地面上に、点検対象撮影箇所111で極小となるなだらかなポテンシャル場(1)を仮想的に生成する。また、障害物周辺の地面上に、障害物に接近するにつれポテンシャルが増大する急峻なポテンシャル場(2)を生成する。そして、ポテンシャル場(1)と(2)を重畳したポテンシャル場(3)を用いて、自走式点検ロボット1の位置を起点として、ポテンシャルが減少する方向を逐次探索することにより、回避経路6bを生成する。
以上のように回避経路6bを生成すると、点検対象撮影箇所111への接近よりも、障害物回避を優先した回避経路6bが生成されるため、接近挙動中の障害物への衝突を防止し、安全を担保できる。
また、自己位置推定失陥時は、点検対象撮影箇所111の場所を正確に把握できないため、点検対象撮影箇所111が存在するとロボットが想定している場所に、実際には壁や建物などの構造物が存在し、障害物に衝突せずに接近することが不可能な場合が存在するが、このような場合においても、先述した方法で生成した回避経路6bを用いると、障害物の回避が優先されるため、安全が担保できる。
また、実施例1による自走式点検ロボット1は、接近挙動計画部154による接近挙動の計画(図5中のステップS10)、制御部14による接近挙動の実行(図5中のステップS11)はシークエンシャルな処理とした。実施例2による自走式点検ロボット1では、確実に障害物を回避するために、ステップS11での接近挙動の実行中に、障害物が接近し衝突リスクが高まった場合には、都度ステップS10に戻って接近挙動を再計画する構成に変更してもよい。もしくは、ステップS10とステップS11を制御周期毎に反復する構成としてもよい。
以上説明したように、実施例2による自走式点検ロボット1によれば、周囲に壁や建物などの構造物や、人や車などの障害物が存在する場合においても、接近挙動の計画に障害物検知部の出力を用いることで、障害物に衝突することなく安全に点検対象撮影箇所に接近することができる。
本発明の実施例3による自走式点検ロボット1について、図8を用いて説明する。実施例3では、実施例1、2と異なる点を主に説明する。
実施例1、2による自走式点検ロボット1は、図5のステップS9において点検部12が点検対象の設備5を撮影する際、全天球カメラ以外の画角の限られたカメラを使用している場合は、カメラの撮影方向を制御した。しかし、撮影方向を算出するのに使用する推定自己位置9は、自己位置推定失陥時の推定自己位置9に基づくため、精度が低い。従って、算出した撮影方向に従ってカメラを制御し撮影を行ったとしても、画像中に所望の点検対象の設備5が映らない可能性がある。このとき、自己位置回復処理を実行できず、自己位置回復ができない可能性がある。
実施例3による自走式点検ロボット1は、自己位置回復処理部153が自己位置回復処理を行う際、並行して、点検部12がカメラの撮影方向を走査し、撮影方向の異なる複数枚の画像を撮影することで、点検対象の設備5をより確実に撮影することができる。
図8A及び図8Bは、カメラの撮影方向を走査し、複数枚の画像を撮影する処理を説明するための模式図である。図8Aでは、カメラの撮影方向が不正確なために、撮影した画像121中に点検対象の設備5が映っていない。図8Bでは、カメラの撮影方向を横方向、縦方向共に走査し、121Aから121Fまで計6枚の画像を撮影することにより、画像121C中に点検対象の設備5を撮影できている。
また、図8Bでは計6枚の画像を撮影したが、画像の枚数は任意であり、撮影方向を変化させる際の刻み幅も任意である。例えば、撮影方向を小刻み(例えば数度程度)に変化させ、撮影方向を縦、横共に0度から360度に変化させれば、いかなる方向に点検対象の設備5が位置していたとしても、これを画像中に収めることが可能である。
撮影方向を変化させて撮影した複数の画像を用いて、自己位置回復処理(図5のステップS9)において、先述したように点検対象の設備5の検出を行うことで、より確実に点検対象の設備5を検出することが可能である。
以上説明したように、実施例3による自走式点検ロボット1は、カメラの撮影方向を縦、または横、またはその両方に走査することで、点検対象の設備5を画像中に撮影できる可能性が向上する。これにより、撮影方向を算出するのに使用する推定自己位置の精度が低かったとしても、より確実に点検対象の設備5を検出することができ、より確実に自己位置を回復することができる。
本発明の実施例4による自走式点検ロボット1について、図9を用いて説明する。実施例4では、実施例1から3と異なる点を主に説明する。
実施例1から3による自走式点検ロボット1では、図5のステップS10で接近挙動計画部154が接近挙動を計画する際、自己位置推定失陥時の推定自己位置9を基準として、点検対象撮影箇所111に向かう走行挙動を計画した。しかし、実施例3における課題と同様に、自己位置推定失陥時の推定自己位置9は精度が低いため、これを基準に走行挙動を計画したとしても、点検対象撮影箇所111に接近できないか、接近できたとしても、効率が悪い場合がある。
実施例4による自走式点検ロボット1は、制御部14が接近挙動を実行中に、並行して点検部12のカメラを走査して点検対象の設備5の検出を試み、検出ができた場合は、点検対象の設備5が検出された方向を考慮して再度接近挙動を計画することで、より確実に点検対象撮影箇所111に接近することができる。
図9A及び図9Bは実施例3に係る自走式点検ロボット1における点検対象撮影箇所111への接近挙動を説明するための模式図である。図9A及び図9Bにおいて、111Aは点検対象撮影箇所111の真の位置を表し、111A’は自走式点検ロボット1が想定している点検対象撮影箇所111の位置を表すものとする。自走式点検ロボット1は、自己位置推定失陥時の精度の低い推定自己位置9を基準として点検対象撮影箇所111の想定位置を割り出すため、111Aと111A’は一般には一致しない。
接近挙動計画部154は、111A’に接近する挙動を計画し、制御部14は、111A’に接近する挙動を実行する。この際、点検部12はカメラの撮影方向を走査し、点検対象の設備5を探索する。例えば図9Aのように、点検対象の画像121Aから121Fの6枚の画像を、自走式点検ロボット1が微小量(例えば10cm程度)移動する毎に取得し、自己位置回復処理部153による点検対象の設備5の検出処理(図5中のステップS9)と同様の処理により、検出を試みる。
この時、自走式点検ロボット1と点検対象撮影箇所111Aの距離は、距離計算部152による判定処理(図5のステップS8)に用いる閾値と同程度かそれ以上に離れていることが多いため、自己位置回復処理で使用したほどの検出精度は得られない可能性が高い。例えば、点検対象の設備5が検出できたとしても、画像中の大きさ(H、W)について十分な精度が得られない可能性が高い。
この場合、実施例4による自走式点検ロボット1は、画像中の大きさ(H、W)を計算に使用せず、点検対象の設備5の画像中の位置を計算に使用する。なお、画像中の大きさ(H、W)が十分な精度で得られた場合は、先述の自己位置回復処理と同様の処理を行えばよいので、以降の説明では、十分な精度が得られない場合について述べる。
画像中の位置が分かっているとき、自走式点検ロボット1に対して点検対象の設備5が存在する方向が分かるので、実施例4による自走式点検ロボット1は、点検対象の設備5に接近することができる(図9B)。多くの場合、点検対象撮影箇所111の真の位置111Aは点検対象の設備5の近辺に設置されているので、図9Bに示すように、点検対象の設備5に接近することにより、111A’に接近した場合よりも111Aの近傍に接近することができる。これにより、より撮影に適した位置から点検対象の設備5を撮影できるので、より精度よく自己位置回復処理を実行することができる。
また、先述したように、実施例4による自走式点検ロボット1においては、点検対象の設備5の画像中の位置が分かれば、点検対象の設備5に接近することができる。画像中の点検対象の設備5をより確実に発見するために、例えば再帰性反射材を点検対象の設備5周辺に貼付(または取付)し、赤外線を照射し、反射光をカメラで観測する構成を追加してもよい。この構成においては、点検対象の設備5の画像中の位置が分かれば十分であるので、使用する再帰性反射材は小さなものでよく(例えば1~3cm四方程度)、また複雑なパターンも必要ない。
以上説明したように、実施例4による自走式点検ロボット1は、制御部14が接近挙動を実行中に、並行して点検部12のカメラを走査して点検対象の設備5の検出を試み、検出ができた場合は、点検対象の設備5が検出された方向を考慮して再度接近挙動を計画することで、より確実に点検対象撮影箇所111に接近することができる。これにより、より撮影に適した位置から点検対象の設備5を撮影できるので、より精度よく自己位置回復処理を実行することができる。
本発明の実施例5による自走式点検ロボット1を、図10を用いて説明する。実施例5では、実施例1から4と異なる点を主に説明する。
実施例1から4による自走式点検ロボット1では、自己位置回復処理部153による自己位置回復処理(図5のステップS9)で、カメラを用いて点検対象の設備5を撮影し、点検対象の設備5の画像中における大きさを計測する例を示した。また、自己位置回復処理は、距離計算部152により計算した、自走式点検ロボット1と点検対象撮影箇所111の距離が閾値を超えない場合に実行することを先述した。
このとき、前記閾値は、点検対象の設備5を画像中から検出でき、点検対象の設備5の画像中における大きさを(自己位置を算出する上で)十分な精度で計測できる、最大の距離とすることが望ましい。閾値を最大の距離とすることで、自己位置回復が可能な範囲を最大限広くとることができる。実施例5による自走式点検ロボット1は、カメラにズーム機能を備え、カメラのズーム率を増加させることで、前記閾値をより増大させ、自己位置回復が可能な範囲をさらに拡大することができる。
図10A及び図10Bは実施例5に係る点検部12のカメラのズーム率を変化させる処理の例を説明するための模式図である。図10A及び図10Bにおいて、121Kから121Mはいずれも、点検対象の設備5の画像121を示すが、それぞれ撮影方向やズーム率が異なるものとする。まず、ズーム率を最小に設定したカメラを用いて、点検対象の設備5の画像121Kを撮影する。なお、画像121Kの撮影時、ズーム率は必ずしも最小でなくてもよく、後述する画像121Mの撮影時よりもズーム率が小さければよい。
次に、画像121K中から、点検対象の設備5を検出する。検出方法については、実施例1から4で先述した方法と同様の方法を使用することができる。検出した点検対象の設備5の画像中における位置を基に、点検対象の設備5を画像の中央に撮影するためのカメラの撮影方向を算出し、撮影方向を制御し、点検対象の設備5が中央に映った画像121Lを撮影する。
次に、カメラのズーム率を増加させ、画像121Mを撮影する(図10B)。このとき、カメラのズーム率の増加幅は、自走式点検ロボット1と点検対象の設備5の距離を基に決定してもよいし、もしくは、ズーム率を徐々に増加させ、画像中に占める点検対象の設備5の割合が十分大きくなった段階で、ズーム率の増加を停止させることで決定してもよい。
最後に、ズーム率を増加させて撮影した画像121Mを用いて、自己位置回復処理を行う。処理方法については、実施例1から4で先述した方法と同様の方法を使用することができる。以上のようにズーム率を変化させることで、遠方からでも点検対象の設備5を高精細に撮影できるため、自己位置回復処理を実行できる範囲を拡大することができる。
また、先述の説明はズーム率の変化方法の一例に過ぎず、最終的にズーム率を増加させたカメラで点検対象の設備5を撮影できるのであれば、その処理方法は問わない。例えば、予めズーム率を増加させておき、実施例3で説明したカメラの走査を、より細かな刻み幅で行うことで、点検対象の設備5を撮影してもよい。
また、先述の説明では、自己位置回復処理部153による自己位置回復処理(図5のステップS9)におけるズーム率の変化方法について述べたが、同様の変化方法を、実施例4の点検対象撮影箇所111への接近挙動(図5のステップS11)と並行して実行してもよい。この場合、点検対象の設備5を発見できる範囲を拡大することができる。
以上説明したように、実施例5による自走式点検ロボット1は、自己位置回復処理部153による自己位置回復処理(図5のステップS9)、もしくは、点検対象撮影箇所111への接近挙動(図5のステップS11)の実行中にカメラのズーム率を増加させることにより、点検対象の設備5をより高精細に撮影することが可能である。これにより、遠方からでも点検対象の設備5の検出や、大きさの計測が可能になるので、より広範囲で自己位置回復処理が可能になる。
本発明の実施例6による自走式点検ロボット1を、図11を用いて説明する。実施例6では、実施例1から5と異なる点を主に説明する。
実施例1から5による自走式点検ロボット1では、自己位置推定が失陥した場合、距離計算部152により計算した距離が閾値を超えるか否かで、自己位置回復処理を実行するか、点検対象撮影箇所への接近挙動を実行するかを選択した。また、複数の点検対象撮影箇所111の中で、距離が最小となる点検対象撮影箇所111を接近対象とする例を説明した。距離が最小となる点検対象撮影箇所111に接近することで、短い時間で自己位置回復処理を実行し、自己位置を回復することができる。
しかし、距離が最小となる点検対象撮影箇所111が、自己位置回復処理に適さない場合がある。例えば、距離が最小(最短経路)となる点検対象撮影箇所111に到達するために、右左折を繰り返す必要がある場合、デッドレコニングによる移動量算出の精度が右左折の度に悪化するため、精度よく点検対象撮影箇所111に接近できない可能性がある。または、距離が最小となる点検対象撮影箇所111に到達するために、砂利や芝生などの悪路を走行する必要がある場合、デッドレコニングによる移動量算出の誤差が車輪の滑りにより増大し、精度よく点検対象撮影箇所111に接近できない可能性がある。このような場合、例え正味の距離が大きいとしても、右左折や悪路の少ない経路で接近できる点検対象撮影箇所111の方が、自己位置回復に適している場合がある。
実施例6による自走式点検ロボット1は、自己位置推定(デッドレコニング)の外乱要因(例えば右左折の回数や、悪路の有無など)の量に基づいて、点検対象撮影箇所111に至る経路長を重み付けし、重み付けされた距離を用いて、接近する対象を選択することで、より精度よく点検対象撮影箇所111に接近し、確実に自己位置回復処理を実行することができる。
図11は実施例6に係る距離計算部152による外乱要因の量を重み付けした距離計算の説明のための模式図である。図11において、111cから111eはそれぞれ異なる点検対象撮影箇所を示し、走行経路6c,6d,6eはそれぞれ点検対象撮影箇所111c,111d,111eに至る走行経路を示す。8は悪路(砂利)を示す。
図11において、自走式点検ロボット1からそれぞれ点検対象撮影箇所111c,111d,111eに至る経路長を昇順に並べると、6e<6c<6dとなる。しかし、6eと6cはどちらも点検対象撮影箇所111e、111cに至るまでに右左折を1回含み、6eはさらに悪路8を含む。この場合、右左折または悪路において、デッドレコニングの精度が悪化するため、精度よく接近できる点検対象撮影箇所は、実際には111d、次いで111cとなる。
そこで、実施例6による距離計算部152は、右左折や悪路における精度劣化度を距離に重み付けし、重み付けされた距離が最小となる点検対象撮影箇所111を接近対象に選択する。ここで、精度劣化度とは、経路の状況(例えばカーブ、砂利道、など)毎に、デッドレコニングの精度がどの程度悪化するかを表した無次元量とする。
例えばカーブの精度劣化度は、以下の式(3)のように定義してもよい。ただし、lは経路長とし、w(l)はlを媒介変数として定義された関数であり、l=l地点での精度劣化度を示すものとする。r(l)はl=l地点での経路の曲率を示すものとする。C1はr(l)を無次元化する定数である。
w(l)=C1×r(l)+1 ・・・(3)
例えば砂利道の精度劣化度は、以下の式(4)のように定義してもよい。ただし、w(l)は式(3)と同様の定義とし、Ra(l)は、l=l地点での地面の表面粗さを示す。C2はRa(l)を無次元化する定数である。表面粗さRa(l)は事前に計測してもよいし、想定値として適当な定数を設定してもよい。
w(l)=C2×Ra(l)+1 ・・・(4)
重み付けは、例えば以下の式(5)によって行うことができる。ただし、L’は重み付けされた全経路長とし、添え字iは経路の状況(カーブ、砂利道、など)ごとに区切った部分経路を示す識別子とし、wi(l)は各部分経路の精度劣化度とする。また積分記号∫は経路長lについて、0からLiまでの部分積分を行うものとし、総和記号Σは添え字iについての総和を取るものとする。なお、Liは部分経路の総延長とする。
L’=Σ ∫{wi(l)l}dl ・・・(5)
式(5)によって計算されたL’は、自走式点検ロボット1から点検対象撮影箇所111に至る経路長を、精度劣化度によって連続的に重み付けした距離を表す。
先述の式(3)のようにカーブの精度劣化度を定義すると、曲率が小さい、即ち直進に近い道ではw(l)=1となり、式(5)の積分において精度劣化度の距離に対する重みの効果はなくなる。一方、曲率が大きい、即ち急激な旋回においてはw(l)>1となり、式(5)の積分において、精度劣化度によって重み付けされ拡大された距離が計算される。
先述の式(4)のように、悪路の精度劣化度を定義すると、表面粗さが小さい、即ち綺麗な平坦面に近い道では、w(l)=1となり、式(5)の積分において精度劣化度の距離に対する重みの効果はなくなる。一方、表面粗さが大きい、即ち凹凸の大きい悪路においてはw(l)>1となり、式(5)の積分において、精度劣化度によって重み付けされ拡大された距離が計算される。
以上のようにして、精度劣化度によって重み付けを行うことで、右左折や悪路といったデッドレコニングの精度が悪化する部分の距離を拡大して評価することができる。適切にC1やC2などのパラメータを調整することにより、図11において6d<6c<6eの順で距離を出力することができるようになる。これにより、より精度よく到達できる点検対象撮影箇所111dを選択することができる。
なお、精度劣化度の定義は式(3)、(4)に限定されるものではなく、精度悪化要因に対応して増減する指標であれば、定義は問わない。また、精度悪化要因としては、先述したカーブと悪路の例のみではなく、様々な要因を想定することができる。
以上説明したように、実施例6による距離計算部152は、右左折や悪路における精度劣化度を距離に重み付けし、重み付けされた距離が最小となる点検対象撮影箇所111を接近対象に選択することで、より精度よく点検対象撮影箇所111に接近できる。これにより、より確実に自己位置回復処理を実行することができる。
実施例6では、右左折や悪路における精度劣化度を距離に重み付けしたが、例えば雨や雪といった悪天候によって重み付けをするようにしてもよい。
本発明の実施例7による自走式点検ロボット1を、図12を用いて説明する。実施例7では、実施例1から6と異なる点を主に説明する。
実施例1から6による自走式点検ロボット1は、自己位置推定失陥時、点検対象の設備5を撮影し、自己位置回復処理を実行することで、自己位置を回復することができる。しかし、推定自己位置9が真値と余りにもずれている場合や、推定範囲10(図3)が余りにも広い場合は、点検対象撮影箇所111の真の位置への接近が事実上困難なことがある。このとき、接近挙動を実行したとしても、自己位置回復処理を正常に完了することができない。
実施例7による自走式点検ロボット1は、運用者による操作指令を入力する入力部(図示せず)を備え、点検対象撮影箇所への接近が困難である場合に、運用者による遠隔操作で走行する。これにより、自己位置推定のレベルが不良である間は運用者が遠隔操作で点検を続行したり、自己位置が回復できる場所に手動で誘導することによって自己位置を回復し、自律走行と点検を継続できるようになる。
図12は実施例7に係る自走式点検ロボット1の処理と動作を示すフローチャートである。ステップS1からステップS12については、実施例1と同様であるため、説明を省略する。
実施例7による自走式点検ロボット1は、点検対象撮影箇所111へ接近し(ステップS11)、自己位置推定の失陥が継続している場合(ステップS12)は、自己位置回復処理を実行する(ステップS13)。その後、自己位置推定の失陥が継続しているか否かを再度判定し(ステップS14)、失陥が継続していない(自己位置回復処理が正常に完了)場合は、ステップS1に戻る。失陥が継続している(自己位置回復処理が正常に完了しない)場合は、ステップS15に移行する。
なお、失陥が継続しているか否かを判定するには、例えば自己位置回復処理部153における点検対象の設備5の画像からの検出において、検出の確度が十分であるかを判定基準にすればよい。検出の確度としては、例えば検出にテンプレートマッチングを使用している場合は、マッチングの評価値を使用することができる。もしくは、自己位置回復処理部153における点検対象の設備5の画像中の大きさの算出精度が十分であるかを判定基準にすればよい。これには、例えば画像全体の画素数に対する、点検対象の設備5の画素数の割合が一定の値を超えるかどうかを判定すればよい。
ステップS15で、制御部14は、入力部(図示せず)から入力された運用者による操作指令を基に自走式点検ロボット1を制御する。即ち、運用者が自走式点検ロボット1を遠隔操作する。このとき、自走式点検ロボット1は任意の情報を運用者に対して送信してもよい。例えば、自己位置推定の結果や、点検部12に搭載のカメラの映像などを送信してもよい。このとき、運用者と自走式点検ロボット1が通信を行うために、例えば広域網通信やWiFiなど、任意の通信方式と、通信機器を用いることができる。
遠隔操作では、運用者は自走式点検ロボット1の駆動部(図示せず)を操作して走行させるだけでなく、点検部12を操作し、点検対象の設備5の点検を任意に実行してもよい。点検未実施の項目に対し運用者が遠隔操作で点検を実施した場合は、その項目を点検実施済みとして点検DBに登録してもよい。
ステップS16で、制御部14は、運用者による遠隔操作が完了しており、かつ自己位置が回復しているかどうかを判定する。遠隔操作が完了しており、かつ自己位置が回復している場合はステップS1に戻り、自律走行と点検を再開する。そうでない場合は、ステップS15に戻り、遠隔操作を継続する。
ステップS15で、自己位置回復処理部153は、遠隔操作と並行して自己位置回復処理を試みてもよい。遠隔操作中に自己位置回復処理が成功し、自己位置が回復した場合は、その旨を運用者に通知し、遠隔操作の完了を促してもよい。
以上説明したように、実施例7による自走式点検ロボット1は、自己位置回復処理の実行後も自己位置推定の失陥が継続する場合は遠隔操作に切り替えることにより、確実に自己位置を回復したり、点検の継続を行うことができる。
本発明の実施例8による自走式点検ロボット1を、図13A及び図13Bを用いて説明する。実施例8では、実施例1から7と異なる点を主に説明する。
実施例1から7による自走式点検ロボット1は、自己位置推定失陥時、点検対象の設備5を撮影し、自己位置回復処理を実行することで、自己位置を回復することができる。しかし、点検対象撮影箇所111が疎らに存在する場合、自走式点検ロボット1が自己位置推定失陥した場所によっては、近辺に点検対象撮影箇所111が存在しないことがある。このとき、十分な精度で点検対象撮影箇所111に接近することができず、自己位置回復処理を実行できない。
実施例8による点検DB11は、点検対象撮影箇所111と点検対象の情報112に加えて、自己位置回復処理に使用するための自己位置回復用撮影対象撮影箇所113と、自己位置回復処理に使用するための撮影対象である自己位置回復用撮影対象の情報(図示せず)を記憶することで、施設内の自己位置回復可能な箇所を増やすことができる。
図13A及び図13Bは実施例8に係る自己位置回復用撮影対象撮影箇所113について説明するための模式図である。図13Aに示すように、点検対象の設備5が施設内に疎らに存在している場合、図中の自走式点検ロボット1の位置で自己位置推定が失陥した場合、近辺に自己位置回復に使用できる点検対象の設備5が存在せず、十分な精度で点検対象撮影箇所111に接近できないので、自己位置回復処理を実行できない。
そこで、図13Bに示すように、施設内に存在する特徴的な構造物(例えば標識2)を予め自己位置回復処理専用に点検DB11に登録する。即ち、特徴的な構造部物に関する情報(例えば標識2の画像や大きさ)を自己位置回復用撮影対象の情報(図示せず)として登録し、撮影箇所である自己位置回復用撮影対象撮影箇所113を同時に登録する。
自己位置失陥時、距離計算部152は、点検対象撮影箇所111に加えて、自己位置回復用撮影対象撮影箇所113を距離計算の対象とすることができる。自己位置回復処理部153、接近挙動計画部154についても同様である。
また、実施例8による自走式点検ロボット1は、自己位置回復用撮影対象撮影箇所113と、自己位置回復用撮影対象の情報を運用者が設定するための入力部を備え、運用者が任意に情報の登録を行える。情報の登録は、予め点検対象撮影箇所111や点検対象の情報112を登録する際に、同時に行ってもよい。このとき、自己位置回復用撮影対象の情報は、例えば運用者が別途カメラ等で撮影した画像であってもよい。
もしくは、自走式点検ロボット1が、遠隔操作により動作する自己位置回復用撮影対象登録モードを備え、遠隔操作により施設内を走行し、運用者の遠隔操作により適宜特徴的な構造物(例えば標識2)の撮影を行い、撮影を行った位置を自己位置回復用撮影対象撮影箇所、撮影された画像を自己位置回復用撮影対象の情報として登録する構成としてもよい。
または、自走式点検ロボット1の構成を、自律走行中に定期的(例えば1秒おき)に撮影を実行し、撮影した画像を点検DBに記憶する構成としておき、運用者は、点検DB11に記憶された画像を任意に選択して自己位置回復用撮影対象の情報として登録できる構成としてもよい。
以上説明したように、実施例8による自走式点検ロボット1は、施設内に存在する特徴的な構造物(例えば標識2)を予め自己位置回復処理専用に点検DB11に登録することで、施設内の自己位置回復可能な箇所を増やすことができる。これにより、点検対象撮影箇所111が少ない場所で自己位置推定を失陥した場合でも、自己位置を回復し、自律走行と点検を継続できる。
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。