以下に、本開示の実施の形態に係る積層造形装置を図面に基づいて詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る積層造形装置の構成の一例を模式的に示す図である。積層造形装置1は、基材111上に金属の材料を溶融させ、溶融した金属の層である造形層を積層させて造形物112を形成する装置である。具体的には、積層造形装置1は、金属の材料であるワイヤWを下地である被加工物の一部とともに溶融させて溶融池115を形成し、溶融池115を固化させたビードと呼ばれる造形層を被加工物に形成する。このように、金属の材料による造形層を被加工物上に堆積させて、造形層を被加工物の表面に形成する。造形層を所望の形状になるように堆積することで所望の3次元積層造形体を得ることができる。以下では、被加工物は、造形層を形成する際の下地となるもの、すなわち造形層の造形対象であり、基材111または造形層を指すものとする。また、造形層のうち、基材111上に形成される造形層は造形初期層113と称され、造形中の最上面の造形層は造形最終層114と称される。一例では、2層目を形成している場合には、2層目の造形層が造形最終層114であり、3層目を形成している場合には、3層目の造形層が造形最終層114である。造形物112は、基材111上に形成された造形層によって構成される。つまり、造形物112は、造形初期層113から造形最終層114までの造形層によって構成されるものである。造形物112は、造形処理中に成長していき、最終的には所望の形状の3次元積層造形体となる。さらに、実施の形態1において、熱源は、レーザビームLであり、材料は、金属のワイヤWである場合を例に挙げる。なお、熱源は、レーザビームLに限られず、アークまたは電子ビームであってもよい。材料の形態も、金属のワイヤWに限られず、金属の粉末であってもよい。また、図1において、鉛直方向をZ軸方向とし、Z軸方向に垂直な面内における2つの互いに直交する方向をX軸方向およびY軸方向とする。
積層造形装置1は、ステージ11と、ビーム照射装置12と、ガス噴射装置13と、ワイヤ供給装置14と、ヘッド駆動装置15と、レーザ発振器16と、温度測定器17と、温度調整装置18と、制御装置19と、を備える。なお、図1において、破線は信号線を意味している。
ステージ11は、造形物112を形成する土台となる基材111を載置する。図1に示す例では、基材111は板材であるが、板材以外のものであってもよい。
ビーム照射装置12は、材料を溶融させる熱源であるレーザビームLを被加工物へ向けて照射する熱源照射部の一例である。レーザビームLが照射されることにより被加工物が溶融し、溶融池115が形成される。その後、溶融池115が冷却過程で凝固することにより造形層が形成される。
ガス噴射装置13は、レーザビームLの照射位置である加工点へ向けてシールドガスGを噴射する。シールドガスGの一例は、窒素、アルゴンなどの不活性ガスである。シールドガスGの噴射によって、加工点における被加工物の酸化を抑制するとともに、被加工物を冷却する。図1の例では、ガス噴射装置13は、ビーム照射装置12の外周面に設置され、ビーム照射装置12から照射されるレーザビームLの中心軸に沿うようにシールドガスGを噴射する。すなわち、ビーム照射装置12とガス噴射装置13とは、互いに同軸上に配置されている。図1の例では、ビーム照射装置12とガス噴射装置13とは、一体的に構成されており、加工ヘッドを構成する。ただし、レーザビームLが照射される加工点で溶融、凝固する材料が酸化しないようにシールドガスGが加工点を含む領域に噴射されるようにガス噴射装置13が設けられていればよい。このため、ガス噴射装置13は、Z軸から傾いた角度の方向から加工点に向けてシールドガスGを噴射してもよい。つまり、ガス噴射装置13は、ビーム照射装置12と一体的に構成されるのではなく、ビーム照射装置12から出射されるレーザビームLの中心軸に対して斜めの方向にシールドガスGを噴射する構成としてもよい。ガス噴射装置13は、造形物112を加熱または冷却して温度調整を行う温度調整部の一例であり、第2温度調整部に対応する。
ワイヤ供給装置14は、造形層の造形対象である被加工物の加工点に向かってワイヤWを供給する装置である。一例では、ワイヤ供給装置14は、ワイヤWが巻き付けられているワイヤスプールと、ワイヤスプールを回転軸の周りに回転させる回転モータと、ワイヤスプールからのワイヤWを被加工物の加工点へ向けて進行させるワイヤノズルと、を有する。ワイヤ供給装置14は、造形層の造形対象である被加工物上の造形層を形成する領域にワイヤWまたは粉末からなる材料を供給する材料供給部の一例である。
ヘッド駆動装置15は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の各方向へビーム照射装置12を移動させる。ヘッド駆動装置15は、X軸方向へのビーム照射装置12の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Y軸方向へのビーム照射装置12の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、Z軸方向へのビーム照射装置12の移動のための動作機構を構成するサーボモータと、を有する。ヘッド駆動装置15は、3軸のそれぞれの方向の並進運動を可能とする動作機構である。図1では、各サーボモータの図示を省略している。積層造形装置1は、ヘッド駆動装置15によりビーム照射装置12を移動させることで、被加工物におけるレーザビームLの照射位置を移動させることができる。また、ヘッド駆動装置15は、垂直な3軸方向の移動に限らず、ロボットアームのような多軸駆動装置を用いてもよい。なお、図1の例では、ヘッド駆動装置15は、ビーム照射装置12とガス噴射装置13とが一体的に構成される加工ヘッドを構成しているので、加工ヘッドを駆動する装置となっている。
図1に示される例では、ビーム照射装置12はZ軸方向へレーザビームLを出射させる。ワイヤ供給装置14は、XY面内においてビーム照射装置12とは離れた位置に設けられており、Z軸から傾いた角度の方向からワイヤWを加工点に進行させる。なお、ワイヤ供給装置14の図示しないワイヤノズルは、ビーム照射装置12に固定されていてもよい。また、ワイヤノズルがワイヤWの進行方向がZ軸方向となるようにビーム照射装置12に固定させてもよい。
レーザ発振器16は、固体レーザ、ガスレーザ、ファイバレーザ、半導体レーザ等のレーザビームLを発振するビーム源である。レーザ発振器16とビーム照射装置12との間は、ファイバケーブルによって接続される。ファイバケーブルは、レーザ発振器16からビーム照射装置12へとレーザビームLを伝搬する光伝送路である。レーザ発振器16とビーム照射装置12とにより、ワイヤWを溶融させるレーザビームLを被加工物へ照射する照射部が構成される。レーザ発振器16は、材料を溶融させる熱源を発生させる熱源発生部の一例である。ビーム照射装置12、ヘッド駆動装置15およびレーザ発振器16は、材料を溶融させる熱源を被加工物に供給する熱源供給部を構成する。
温度測定器17は、造形物112を形成する領域の全体を含む範囲である温度測定領域の温度を測定する。基材111上に造形物112を形成する場合には、造形物112を形成する領域の全体に加え基材111を含む範囲が温度測定領域となる。ここでは、温度測定器17は、基材111上の造形する領域の全体の温度分布、すなわち少なくとも基材111の全体を含む領域の各位置における温度である温度分布を測定し、測定した温度分布を温度分布情報として制御装置19に出力する。温度測定器17は、各造形層の造形中に造形物112の全体の温度分布を測定する。つまり、温度測定器17は、造形初期層113から造形中の造形最終層114までの造形物112の全体の温度分布を測定する。
温度測定器17に一般的な赤外線カメラを用いることも可能である。しかし、赤外線カメラを用いて造形物112の温度を測定する場合には、放射率を設定する必要がある。放射率は、造形物112の材種および表面状態によって異なる。このため、造形物112の材種および表面状態に合わせて適切な放射率を設定出来ていない場合には、制御装置19は、実態の温度とはかけ離れた値を造形物112の温度として温度測定器17から取得し、実態の温度とはかけ離れた温度で制御を行うことになる。この場合には、狙いの組織を有する造形物112が得られないという問題がある。
そこで、実施の形態1では、温度測定器17は、測定対象から放射される異なる2つの波長の赤外線または可視光線の輝度比から温度測定領域の温度を測定する二色式サーモグラフィとすることが望ましい。二色式サーモグラフィは、2次元の温度分布を取得する放射温度計であり、物体からの熱放射輝度を測定することで視野に含まれる物体の表面温度を求める。具体的には、二色式サーモグラフィは、上記したように2つの波長帯における温度測定領域の画像における各画素の輝度、すなわち光強度から放射輝度比を算出し、放射輝度比から各画素における温度を算出する。そして、各画素における温度を表したものが温度分布情報となる。温度測定領域の画像における各画素は、温度測定領域の各位置に対応する。これによって、温度測定領域の画像の各画素における温度を求めた温度分布情報が得られる。このように二色式サーモグラフィでの温度測定領域の測定結果を用いることで、一般的な赤外線カメラで温度を測定する場合に必要な放射率の設定が不要となる。つまり、造形物112の材種および表面状態によって放射率が異なるような場合に、放射率の設定を行わなくても、赤外線カメラを使用する場合に比して造形物112の温度を精確に測定することが可能となる。
温度測定器17は、ビーム照射装置12に対して、一例では斜め横に配置され、あるいは造形する領域全体を捉えられる位置に配置されている。ビーム照射装置12に対して斜め横に、すなわち鉛直線から角度をなして配置することで、造形層が高さ方向に積層された造形物112の上面だけではなく、側面の温度も測定することが可能となる。つまり、造形物112を形成する領域の全体を含む範囲である温度測定領域で、造形物112の上面だけではなく側面の温度も測定することができるように、温度測定器17は配置される。温度測定器17によって測定された造形物112の温度分布を取得することで、造形中の造形物112の温度をリアルタイムでモニタリングすることができる。また、温度測定器17によって測定された温度分布を用いることで、造形処理中の造形層における温度だけではなく、過去に造形された造形層の温度も取得することが可能となる。温度測定器17は、温度測定部に対応する。
温度調整装置18は、基材111の温度が、制御装置19によって設定された温度に維持されるように、基材111を加熱または冷却する。温度調整装置18の一例は、高周波誘導加熱による加熱装置、ホットプレートのような電熱線による加熱装置、水冷によるヒートシンクを用いた冷却装置、ペルチェモジュールのような熱電冷却素子を用いた冷却装置等である。あるいは、温度調整装置18は、上記の加熱装置および上記の冷却装置を組み合わせたものであってもよい。図1の例では、温度調整装置18は、基材111の下面から基材111を加熱または冷却するようにステージ11に設けられる。温度調整装置18は、造形物112を加熱または冷却して温度調整を行う温度調整部の一例であり、第1温度調整部に対応する。
制御装置19は、加工プログラムに従って積層造形装置1、具体的にはビーム照射装置12、ガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18を制御する。制御装置19は、一例では数値制御装置である。また、制御装置19は、制御部に対応する。制御装置19は、ヘッド駆動装置15へ移動指令を出力することによって、ヘッド駆動装置15の駆動を制御する。ヘッド駆動装置15は、移動指令が入力されると、移動指令にしたがって、ビーム照射装置12を移動させる。
制御装置19は、レーザビームLの出力であるビーム出力の条件に応じた指令をレーザ発振器16へ出力することによって、レーザ発振器16によるレーザ発振を制御する。
制御装置19は、材料の供給量の条件に応じた指令をワイヤ供給装置14へ出力することによって、ワイヤ供給装置14を制御する。制御装置19は、ワイヤ供給装置14の駆動、より具体的には回転モータの駆動を制御することによって、ビーム照射位置へ向かうワイヤWの送給速度を調整する。送給速度は、単位時間当たりの材料の供給量を表す。
制御装置19は、シールドガスGの供給量の条件に応じた指令をガス噴射装置13へ出力することによって、ガス噴射装置13から噴射されるシールドガスGの供給量を制御する。
制御装置19は、温度測定器17から取得した温度分布情報に基づいて、造形物112の全体の組織が均質化するように、ヘッド駆動装置15への移動指令、ビーム出力の条件、材料の供給量の条件、シールドガスGの供給量の条件、および温度調整装置18の温度条件を含む造形条件を調整する。制御装置19は、調整した造形条件となるように、ガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18のそれぞれに指令を出力する。制御装置19は、各種の指令を出力することによって、積層造形装置1の全体を制御する。
ここで、制御装置19による温度測定器17で測定された温度分布情報を用いた造形条件の調整について説明する。制御装置19は、温度測定器17から取得した温度測定領域の温度分布情報に基づいて温度勾配、凝固速度および冷却速度を導出する。具体的には、制御装置19は、ある時刻の温度測定領域の温度分布情報に基づいて温度勾配を導出し、異なる時刻の温度測定領域の温度分布情報に基づいて凝固速度および冷却速度を導出する。ここでは、造形物112の温度勾配、凝固速度および冷却速度が導出される。温度勾配は、任意の2点間の温度差を上記2点間の距離で割った値である。また、温度勾配は、左右方向の位置における温度勾配だけではなく、高さ方向の位置における温度勾配も導出される。左右方向の位置における温度勾配は、一例では温度分布情報の造形最終層114の上面を用いて導出される。高さ方向の位置における温度勾配は、一例では温度分布情報の造形物112の側面を用いて導出される。凝固速度は、溶融池115と造形物112との界面である固液界面が移動する速度である。冷却速度は、冷却過程における任意の定位置についての単位時間あたりの温度差、すなわち単位時間あたりの温度変化量である。
図2は、温度分布情報から温度勾配と凝固速度とを導出する方法を説明する図である。図2では、基材111上に、造形物112を形成している状態を模式的に示す造形模式図31Aと、造形模式図31Aで示された造形最終層114の各位置における温度分布を示す温度分布図31Bと、を示している。
造形模式図31Aでは、基材111上に、造形初期層113、造形最終層114の2つ前に形成された造形層114b、造形最終層114の1つ前に形成された造形層114aが積層され、造形層114a上に造形最終層114が形成されている状態が示されている。造形模式図31Aでは、造形初期層113から造形最終層114までが造形物112となる。下地の造形層114aの一部と図示しないワイヤWとが溶融した溶融池115の位置に図示しないレーザビームLが照射されている。この例では、図中の右から左に向かってレーザビームLが照射されているものとする。この例では、溶融池115が凝固したものが造形最終層114となる。また、溶融池115と固体の造形最終層114との界面は固液界面116となる。この固液界面116が単位時間あたりに移動する速度が凝固速度となる。
温度分布図31Bにおいて、横軸は温度測定領域における位置であり、この例では造形最終層114における左右方向の位置を示し、縦軸は温度を示している。つまり、温度分布図31Bは、造形最終層114が形成されている位置の温度を示している。造形模式図31Aにおいて右から左に向かってレーザビームLが走査されている。つまり、右側ほど溶融された時期が古いことになるので、横軸の溶融池115の位置から右側に向かって温度が低下している。なお、図示していないが、溶融池115よりも左側ではまだ加熱されていないので、温度が低い状態となっている。
制御装置19は、取得した温度分布情報を基に造形最終層114における左右方向の任意の位置a1と位置a2との間における距離および温度差から温度勾配を導出する。温度勾配は、算出した温度差を算出した距離で割ることによって求めることができる。温度分布情報における単位距離と、温度測定領域における被加工物上の実際の距離と、の関係を予め求めておくことによって、温度分布情報における任意の位置a1と位置a2との間の距離を、基材111上または被加工物上の実際の距離に変換することができる。
また、制御装置19は、予めワイヤWの融点を取得している。このようにすることで、制御装置19は、ワイヤWの融点および温度分布情報から、溶融池115と造形物112との固液界面116の位置を取得する。制御装置19は、時刻の異なる複数の温度分布情報から得られる固液界面116の位置から固液界面116の移動速度である凝固速度を導出する。一例では、2つの時刻における固液界面116の位置の変化量を、2つの時刻の差で割ることによって凝固速度が導出される。このように、温度測定器17で得られる温度分布情報から、各時刻における特定の温度の座標位置を取得することが可能である。特定の温度をワイヤWの融点に設定することで、各時刻における固液界面116の位置情報が取得可能となるため固液界面116の移動速度、つまり凝固速度の取得が可能となる。
図3は、温度分布情報から高さ方向の温度勾配を導出する方法を説明する図である。図3では、基材111上に、造形物112を形成している状態を模式的に示す造形模式図31Aと、造形模式図31Aで示された造形最終層114の位置a1の高さ方向における温度分布を示す温度分布図31Cと、を示している。なお、図2と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
実施の形態1では、同一の造形層内の造形物112の組織の均質化だけではなく、造形初期層113から造形最終層114にかけての高さ方向、すなわち垂直方向も含む広い範囲の組織の均質化を目的としている。このため、温度測定領域における面内方向の温度勾配だけではなく、高さ方向の温度勾配も取得される。
温度分布図31Cにおいて、横軸は温度測定領域のある位置の高さ方向における位置を示し、縦軸は温度を示している。造形模式図31Aにおいて造形初期層113から造形最終層114に向かって順に造形層が形成される。つまり、下側の層ほど溶融された時期が古いことになるので、横軸の溶融池115の位置a1から下側に向かって温度が低下している。
制御装置19は、取得した温度分布情報を基に高さ方向の任意の位置a1と位置a3との間における距離および温度差から温度勾配を導出する。温度勾配は、算出した温度差を算出した距離で割ることによって求めることができる。
図4は、凝固した金属の組織の結晶形状と温度勾配および凝固速度の組み合わせとの関係の一例を模式的に示す図である。図4において、横軸は、金属の凝固速度を示し、縦軸は、金属の温度勾配を示している。金属の組織の結晶形状は、一般に固液界面116での温度勾配と凝固速度との関係から決定される。組織の結晶形状が柱状組織である場合には、この金属の機械的特性は異方性を有する。組織の結晶形状が等軸組織である場合には、この金属の機械的特性は異方性の無いものとなる。従って、固液界面116での温度勾配と凝固速度とを制御することで、造形物112の組織の結晶形状を制御することができ、この結果、造形物112の機械的特性を制御することが可能となる。
図5は、温度分布情報から冷却速度を導出する方法を説明する図である。図5では、基材111上に、造形物112を形成している状態を模式的に示す造形模式図32Aと、造形模式図32Aで示された造形最終層114の任意の定位置Aにおける温度の時間変化を示す温度時間変化図32Bと、を示している。なお、図2の造形模式図31Aと同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
造形模式図32Aにおいて、造形最終層114の下地の造形層114aの一部とワイヤWとが溶融した溶融池115の位置に図示しないレーザビームLが照射されている。この例では、図中の右から左に向かってレーザビームLが照射されているものとする。溶融池115が凝固したものは、造形物112となる。
温度時間変化図32Bにおいて、横軸は経過時間を示し、縦軸は温度を示している。位置AにワイヤWが供給され、レーザビームLが照射されると、照射位置における下地の造形層114aおよびワイヤWが溶融し溶融池115が形成される状態となる。造形模式図32Aにおいて右から左に向かってレーザビームLが走査されているため、位置Aでは、温度が低い状態から、温度が上昇した後、温度が低下していく。温度時間変化図32Bには、位置AでのレーザビームLの照射後における温度の低下の様子が示されている。なお、温度時間変化図32Bは、一例では、保持された各時刻における温度分布情報の位置Aにおける温度を抽出することによって生成される。
制御装置19は、任意の定位置Aにおける経過時間と温度履歴とから冷却速度を導出する。つまり、制御装置19は、温度時間変化図32Bから単位時間あたりの温度差を算出する。
図6は、温度分布情報から高さ方向の冷却速度を導出する方法を説明する図である。図6では、基材111上に、造形物112を形成している状態を模式的に示す造形模式図32Aと、造形模式図32Aで示された造形物112の任意の定位置Bにおける温度の時間変化を示す温度時間変化図32Cと、を示している。図6では、位置Bは、造形最終層114ではなく、造形層114bにある。なお、図2の造形模式図31Aと同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
温度時間変化図32Cにおいて、横軸は経過時間を示し、縦軸は温度を示している。造形模式図32Aにおいて、位置Bでは、造形層114bが形成されるときに最も温度が高くなり、その後、造形層114b上に造形層114aおよび造形最終層114が順に形成されるにしたがって温度は低下していく。温度時間変化図32Cには、造形処理中における位置Bでの温度の低下の様子が示されている。なお、温度時間変化図32Cは、一例では、保持された各時刻における温度分布情報の位置Bにおける温度を抽出することによって生成される。
制御装置19は、任意の定位置Bにおける経過時間と温度履歴とから冷却速度を導出する。つまり、制御装置19は、温度時間変化図32Cから単位時間あたりの温度差を算出する。
冷却速度は、凝固後の金属組織の大きさおよび析出相の種類に影響を及ぼす。本明細書において、組織の大きさは、組織を構成する結晶粒子の大きさである。この場合、結晶粒子の大きさとして、長径の平均値等の統計値を用いることができる。析出相の種類は、金属の冷却過程において生成する金属間化合物の種類、またはマルテンサイトのような結晶構造の変化に伴い生成する組織の種類を示す。
一例では、冷却速度が大きいと金属組織は微細化し、硬さおよび室温下での強度が向上する。また、鉄鋼材料において、溶融後の冷却速度が大きいとマルテンサイトが生成され、硬さが向上する。従って、冷却速度を制御することで造形物112の組織の大きさおよび析出相の種類を制御することができ、この結果、造形物112の機械的特性を制御することが可能となる。
制御装置19は、造形物112を目標とする組織に均質化することを目的として、導出した温度勾配、凝固速度および冷却速度が定められた温度勾配、定められた凝固速度および定められた冷却速度となるように、以降に形成される造形層を造形する造形条件を決定する。つまり、制御装置19は、導出した温度勾配、凝固速度および冷却速度に基づいて以降の造形条件として、レーザビームLの出力、レーザビームLの走査速度、ワイヤWの送給速度、シールドガスGの流量、基材111の温度および次層の造形処理を行うまでの待機時間を決定する。
温度勾配、凝固速度および冷却速度と造形条件との関係は、ワイヤWの種類等に応じて変化するものであり、一律に決められるものではない。このため、温度勾配、凝固速度および冷却速度と造形条件との関係は、特に限定されることなく、任意の方法で求めておくことができる。一例では、ある材料のワイヤWに対して、実際に様々な造形条件で造形を実施して、各造形条件での温度勾配、凝固速度および冷却速度を求めておけばよい。あるいは、有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いた熱解析によって、任意の造形条件においての温度勾配、凝固速度、冷却速度を求めておけばよい。つまり、レーザビームLの出力、レーザビームLの走査速度、ワイヤWの送給速度、シールドガスGの流量、基材111の温度および次の造形層の造形を行うまでの時間を含む造形条件を種々に変化させたときに実際の造形処理または熱解析で得られる温度勾配、凝固速度および冷却速度を、造形条件情報として記憶しておけばよい。そして、制御装置19は、所望の温度勾配、凝固速度および冷却速度が得られる造形条件を造形条件情報から取得し、取得した造形条件に従って造形処理を行う。すなわち、制御装置19は、造形条件に基づいて、ガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18を制御して造形処理を実施する。これによって、以降の造形層の造形処理において、所望の温度勾配、凝固速度および冷却速度が得られることになる。
制御装置19は、造形処理中に、造形物112の温度分布情報から温度勾配および凝固速度を導出し、導出した温度勾配および凝固速度が、定められた閾値内であるかを判定する。図7は、高さ方向の温度勾配を下げる方法の一例を説明する図である。図7では、温度調整装置18を有する基材111上に、造形物112を形成している状態を模式的に示す造形模式図33Aと、造形模式図33Aで示された造形最終層114の位置a1の高さ方向における温度分布を示す温度分布図33Bと、を示している。なお、図2と同一の構成要素には同一の符号を付して、その説明を省略する。
温度分布図33Bで、位置a1における高さ方向の温度分布は、曲線T1のようになる。制御装置19は、高さ方向に異なる位置a1と位置a3とから、位置a1における高さ方向の温度勾配TG1を導出する。制御装置19は、導出した温度勾配TG1が閾値よりも大きいと判定した場合には、以降のレーザビームLの出力を下げるか、あるいは温度調整装置18により基材111の温度を上げる。このような条件で次の造形層の造形処理を行うことによって、位置a1における高さ方向の温度分布は、温度分布図33Bの曲線T2のように変化する。すなわち、位置a1における高さ方向の温度勾配TG2は、温度勾配TG1よりも小さくなる。このように、造形層の温度勾配を下げる制御を実施する。
あるいは、制御装置19は、導出した凝固速度が閾値よりも小さいと判定した場合には、以降のレーザビームLの走査速度を上げるか、あるいはシールドガスGの流量を上げることによって、造形層の凝固速度を上げる制御を実施する。
また、制御装置19は、造形物112の全体の温度分布情報から冷却速度を導出し、導出した冷却速度が定められた閾値内であるかを判定する。一例では、制御装置19は、導出した冷却速度が閾値よりも小さいと判定した場合には、以降のレーザビームLの出力を下げるか、レーザビームLの走査速度を上げるか、あるいはシールドガスGの流量を上げることによって造形層の冷却速度を上げる制御を実施する。なお、制御装置19は、基材111の全体または造形物112が形成される領域の全体を含む温度測定領域での各位置での温度勾配、凝固速度および冷却速度を導出しているので、次の造形層の各位置の造形処理における造形条件は、上記した温度勾配、凝固速度および冷却速度に基づいて決定される。前の造形層の造形中における造形物112の各位置の温度勾配、凝固速度および冷却速度は、造形物112における蓄熱の影響を受けているため、次の造形層の造形条件は蓄熱を考慮したものとなる。
次に、制御装置19が有するハードウェア構成について説明する。制御装置19の機能は、積層造形装置1の制御を実行するためのプログラムである制御プログラムがハードウェアを用いて実行されることによって実現される。
図8は、実施の形態1に係る積層造形装置が有する制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。制御装置19は、各種処理を実行するCPU(Central Processing Unit)191と、データ格納領域を含むRAM(Random Access Memory)192と、不揮発性メモリであるROM(Read Only Memory)193と、記憶装置194と、制御装置19への情報の入力および制御装置19からの情報の出力のための入出力インタフェース195と、を有する。図8に示す各部は、バス196を介して相互に接続されている。
CPU191は、ROM193または記憶装置194に記憶されているプログラムを実行する。制御装置19による、積層造形装置1の全体の制御は、CPU191を使用して実現される。
記憶装置194は、HDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)である。記憶装置194は、制御プログラムと各種データとを記憶する。ROM193には、制御装置19であるコンピュータまたはコントローラの基本となる制御のためのプログラムであるBIOS(Basic Input/Output System)あるいはUEFI(Unified Extensible Firmware Interface)といったブートローダであって、ハードウェアを制御するソフトウェアまたはプログラムが記憶されている。なお、制御プログラムは、ROM193に記憶されてもよい。
ROM193および記憶装置194に記憶されているプログラムは、RAM192にロードされる。CPU191は、RAM192に制御プログラムを展開して各種処理を実行する。入出力インタフェース195は、制御装置19の外部の装置との接続インタフェースである。入出力インタフェース195には、加工プログラムが入力される。また、入出力インタフェース195は、各種指令を出力する。制御装置19は、キーボードおよびポインティングデバイスといった入力デバイス、およびディスプレイといった出力デバイスを有してもよい。
制御プログラムは、コンピュータによる読み取りが可能とされた記憶媒体に記憶されたものであってもよい。制御装置19は、記憶媒体に記憶された制御プログラムを記憶装置194へ格納してもよい。記憶媒体は、フレキシブルディスクである可搬型記憶媒体、あるいは半導体メモリであるフラッシュメモリであってもよい。制御プログラムは、他のコンピュータあるいはサーバ装置から通信ネットワークを介して、制御装置19となるコンピュータあるいはコントローラへインストールされてもよい。
制御装置19の機能は、積層造形装置1の制御のための専用のハードウェアである処理回路によって実現されてもよい。処理回路は、単一回路、複合回路、プログラム化されたプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、またはこれらの組み合わせである。制御装置19の機能は、一部を専用のハードウェアで実現し、他の一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
次に、実施の形態1に係る積層造形装置1での積層造形方法について説明する。なお、積層造形方法によって3次元の積層造形物が製造されるので、以下に説明する積層造形方法は、積層造形物の製造方法でもある。図9は、実施の形態1に係る積層造形方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図9では、積層造形装置1での制御装置19の処理手順を示している。
まず、制御装置19は、定められたレーザビームLの出力および走査速度となるようにレーザ発振器16およびヘッド駆動装置15に指令を出力し、定められた送給速度となるようにワイヤ供給装置14に指令を出力する(ステップS11)。これによって、ワイヤ供給装置14は、定められたワイヤWの送給速度で被加工物上にワイヤWを供給し、ビーム照射装置12およびヘッド駆動装置15は、定められた出力および走査速度で被加工物上にレーザビームLを照射する。この結果、ワイヤWが溶融、凝固した造形層が、被加工物上に付加される造形処理が実行される。
造形処理中においては、温度測定器17は、造形物112を形成する領域の全体を含む範囲である温度測定領域の温度分布を測定している。つまり、温度測定器17は、造形初期層113から造形中の溶融池115を含む造形最終層114までの造形物112の全体の温度分布を、それぞれの造形層の造形時に測定している。制御装置19は、温度測定器17から温度測定領域の温度分布の測定結果である温度分布情報を取得する(ステップS12)。
次いで、制御装置19は、以降の造形計画があるかを判定する(ステップS13)。造形計画は、積層造形物の造形に関する情報であり、一例では造形物112の高さを含む情報である。以降の造形計画は、造形計画の現在造形中の造形層の後にある造形層を造形する計画である。一例では、現在までに造形した造形物112の高さが、造形計画の高さ未満である場合には、以降の造形計画がある。また、現在までに造形した造形物112の高さが、造形計画の高さと同じ場合には、以降の造形計画はない。制御装置19は、一例では造形処理を実行する加工プログラムを解析することで、現在造形中の造形層上への造形処理が続くか、あるいは造形処理が終了するかによって以降の造形計画の有無を判定することができる。
以降の造形計画がないと判定した場合(ステップS13でNoの場合)、すなわち現在造形中の造形層で造形処理が完了すると判定した場合には、制御装置19は、積層造形処理を終了する。
以降の造形計画があると判定した場合(ステップS13でYesの場合)には、制御装置19は、ステップS12で取得した温度測定領域の温度分布情報に基づいて造形物112の温度勾配、凝固速度および冷却速度を導出する(ステップS14)。一例では、制御装置19は、温度分布情報と材料の融点とを用いて固液界面116を特定し、固液界面116での温度勾配を導出する。制御装置19は、造形層の積層方向に垂直な方向および積層方向である高さ方向の温度勾配を導出する。制御装置19は、複数の時刻における温度分布情報を用いて、固液界面116での凝固速度を導出する。制御装置19は、異なる時刻の温度分布情報を複数用いることで、任意の位置における冷却速度を導出する。なお、温度勾配、凝固速度および冷却速度は、温度測定領域の同じ位置であっても、層によって異なることがある。一例では、初期の層の造形では、被加工物への蓄熱は小さいが、造形を繰り返すことによって被加工物への蓄熱が大きくなる。このため、温度勾配、凝固速度および冷却速度は、下地の影響を受けることになる。
次いで、制御装置19は、ステップS14で導出した造形物112の温度勾配、凝固速度および冷却速度に基づいて以降の造形条件を決定する(ステップS15)。具体的には、導出した造形物112の温度勾配、凝固速度および冷却速度が定められた閾値の範囲内となるように、造形条件情報を参照して、次の造形層を形成する際のガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18の造形条件を決定する。
その後、制御装置19は、決定した造形条件に基づいて、ガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18へ指令を出力する(ステップS16)。これによって、制御装置19は、積層造形装置1における以降の造形条件、一例では次に造形する造形層の造形条件を制御する。そして、このような制御を行うことで、温度勾配、凝固速度および冷却速度が所望の閾値に近くなるような造形条件で、被加工物の全体に渡って造形が行われることになり、被加工物の組織が全体的に均質化される。その後、処理がステップS12に戻る。そして、以上の処理が、以降の造形計画がなくなるまで繰り返し実行されることになる。
実施の形態1によれば、温度測定器17は、基材111上の造形する領域である温度測定領域の全体の温度分布を測定する。制御装置19は、温度測定領域の温度分布を示す温度分布情報から造形物112の各位置における温度勾配、凝固速度および冷却速度を導出する。制御装置19は、以降に形成される造形層の温度勾配、凝固速度および冷却速度が所望の閾値の範囲となるように、造形条件情報から造形条件を決定する。これによって、造形の初期から終期にかけての各層において、温度測定領域の造形物112の温度勾配、凝固速度および冷却速度が所望の閾値の範囲に収まるように制御される。この結果、各造形層の組織が同じものとなり、造形物112の全体に対して目標とする組織の均質化が可能となる。また、温度測定領域を造形初期層113まで広く対象とすることで、後続パスの熱影響および造形時の蓄熱も考慮した上で造形物112の全体に渡って目標とする組織の均質化が可能となる。加えて、温度測定器17として二色式サーモグラフィを用いることで、放射率が逐次変わる造形物112の全体の正確な温度分布情報を取得することができる。
なお、温度測定器17は、造形物112の表面の温度を測定しており、造形物112の内部の温度を測定するものではない。積層造形装置1で供給される材料は金属であり、一般的に金属は熱伝導率が高い材料である。造形中の温度分布を熱解析した結果、熱伝導率の高い材料で形成される造形物112の内部の点と、造形物112の表面の点と、において、温度履歴はほぼ同一であることが確かめられている。つまり、造形物112の表面の温度で、造形物112の内部の温度を代用することができる。このため、上記したように、温度測定器17で造形物112の表面の温度を測定し、測定した表面の温度に基づいて造形物112の内部を含めた全体の組織の均質化を行うことが可能となる。
実施の形態2.
実施の形態2では、導出した温度勾配と凝固速度に基づいて、組織の結晶形状を推定し、造形後の加熱冷却処理を施すことによって、造形物112の組織を制御する方法について説明する。実施の形態2で使用される積層造形装置1は、実施の形態1で説明したものと同様であるので、その説明を省略する。ただし、実施の形態2で使用される積層造形装置1における制御装置19の機能が実施の形態1とは異なる。
制御装置19は、造形物112の温度分布情報から温度勾配および凝固速度を導出し、温度勾配および凝固速度と組織の結晶形状との関係を示す組織結晶形状情報から、導出された温度勾配および凝固速度における造形物112の組織の結晶形状を推定する。組織結晶形状情報は、予め求められる。制御装置19は、推定した組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状であるかを判定する。制御装置19は、推定した組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状と異なる場合に、造形処理を中断し、推定結果に基づいて、造形物112の加熱冷却条件を決定する。具体的には、制御装置19は、目標とする組織の結晶形状に対応する温度勾配および凝固速度と、導出された温度勾配および凝固速度と、から造形物112が目標とする組織の結晶形状となる加熱冷却条件を決定する。そして、制御装置19は、決定した加熱冷却条件に基づいて、ガス噴射装置13、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18を制御する。つまり、制御装置19は、決定した加熱冷却条件で、ワイヤWを供給せずに造形物112へのレーザビームLの照射およびシールドガスGの噴射の制御並びに基材111の温度の制御を行って熱処理を実行する。熱処理の後、制御装置19は、決定した造形条件に基づいてガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18を制御し、造形処理を行う。また、制御装置19は、推定した組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状である場合には、造形処理を中断せずに、すなわち加熱冷却条件での処理を行わずに、決定した造形条件に基づいてガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18を制御し、造形処理を行う。
本明細書において、加熱冷却条件は、ワイヤWの融点以下の温度範囲で、凝固後の造形物112の再加熱または再冷却を行うことによって、造形物112の組織を制御するための造形最終層114を造形した後の熱処理条件のことを示す。一例では、造形後の熱処理条件は、凝固後の造形物112の再加熱または再冷却を行うときのレーザビームL、シールドガスGおよび温度調整装置18の動作を制御する条件である。
温度勾配および凝固速度と、組織の結晶形状と、の関係は、特に限定されることはなく、任意の方法で求めておくことができる。一例では、有限要素法を用いた熱解析によって、任意の造形条件での温度勾配および凝固速度を取得しておき、同様の造形条件による造形物112の組織形状を組織観察によって把握しておけばよい。つまり、造形条件と、温度勾配および凝固速度と、組織観察の結果である組織の結晶形状と、を対応付けた情報を組織結晶状態情報として記憶しておけばよい。また、上記の温度勾配および凝固速度と、組織の結晶形状と、の関係は文献等で公表されている既知のデータベースから求めてもよい。
加熱冷却条件と、温度勾配および凝固速度と、の関係は、特に限定されることはなく、任意の方法で求めておくことができる。一例では、有限要素法を用いた熱解析によって、任意の加熱冷却条件での温度勾配および凝固速度を取得しておけばよい。つまり、加熱冷却条件と、温度勾配および凝固速度と、を対応付けた情報を記憶しておけばよい。また、上記の加熱冷却条件と、温度勾配および凝固速度と、の関係は実際の造形物112を用いた実験値から求めてもよい。
一例では、制御装置19は、造形物112の目標とする組織の形状が等軸組織であり、推定した組織の結晶形状が柱状組織である場合には、造形処理を中断し、温度勾配および凝固速度と、組織の結晶形状と、の間の関係を示す組織結晶形状情報に基づき造形物112の組織が等軸組織となる加熱冷却条件を決定する。一例では、温度分布情報から導出された温度勾配および凝固速度の組み合わせで示される組織を、目標とする組織とするための温度勾配および凝固速度の組み合わせを求め、求めた温度勾配および凝固速度の組み合わせとなるように造形物112の加熱冷却条件が求められる。すなわち、ガス噴射装置13、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18の動作条件が求められる。このとき、目標とする組織の結晶形状に対応する温度勾配および凝固速度の組み合わせが組織結晶形状情報から求められ、目標とする組織の結晶形状に対応する加熱冷却条件が、目標とする組織の結晶形状に対応する温度勾配および凝固速度の組み合わせと、造形物112の温度分布情報から導出された温度勾配および凝固速度の組み合わせと、に基づいて求められる。その後、制御装置19は、決定した加熱冷却条件に基づいて、ガス噴射装置13、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18へ指令を出力する。これによって、造形物112の組織の形状が等軸組織となるための加熱処理または冷却処理に関する制御、すなわち熱処理に関する制御が実施される。つまり、形成された造形最終層114を含む造形物112に対して加熱処理または冷却処理を施すことによって、目標とする組織とする処理が、造形処理の中断中に実施される。この後に、造形処理が再開される。すなわち、次の造形層の造形処理が造形条件に基づいて実施される。
図10は、実施の形態2に係る積層造形方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図10では、積層造形装置1での制御装置19の処理手順を示している。なお、図9と同一の処理には同一のステップ番号を付し、その説明を省略する。
ステップS15の後、制御装置19は、温度勾配および凝固速度と組織の結晶形状との間の関係を示す予め求められた組織結晶形状情報と、ステップS14で導出された温度勾配および凝固速度と、から、組織の結晶形状を推定する(ステップS31)。
その後、制御装置19は、推定した組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状であるかを判定する(ステップS32)。推定した組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状であると判定した場合(ステップS32でYesの場合)には、処理がステップS16へと移る。つまり、この場合には、形成した造形物112の組織の結晶形状は目標とする組織の結晶形状を有しているので、この造形物112に対して組織の結晶形状を変更するための加熱処理または冷却処理は不要である。このため、実施の形態1で説明した以降の造形計画を決定した造形条件に基づいて実施する。
一方、推定した組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状と異なると判定した場合(ステップS32でNoの場合)には、制御装置19は、造形処理を中断する(ステップS33)。
次いで、制御装置19は、目標とする組織の結晶形状に対応する温度勾配および凝固速度の組み合わせと、ステップS14で導出された温度勾配および凝固速度の組み合わせと、に基づいて、造形物112の組織が目標とする組織の結晶形状となる加熱冷却条件を決定する(ステップS34)。その後、制御装置19は、決定した加熱冷却条件に基づいて、ガス噴射装置13、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18へ指令を出力する(ステップS35)。このように、ワイヤWを供給せずに造形物112へのレーザビームLの照射およびシールドガスGの噴射の制御並びに基材111の温度の制御を行うことで、造形物112の組織を制御するための造形物112の造形後の熱処理が実施される。その後、処理がステップS16に戻り、造形処理が再開される。
実施の形態2によれば、制御装置19は、温度勾配および凝固速度から造形物112の組織の結晶形状を推定する。推定した組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状である場合には、そのまま造形処理を継続する。一方、推定した組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状ではない場合には、制御装置19は、造形処理を一時中断し、組織の結晶形状が目標とする組織の結晶形状となるように決定した加熱冷却条件で積層造形装置1を制御して、造形物112の熱処理を行う。これによって、形成された造形物112が目標とする組織の結晶形状を有していない場合でも、加熱冷却条件に基づいた処理を行うことで目標とする組織の結晶形状とすることができる。この結果、造形物112の全体に渡って目標とする組織の均質化を行うことが可能となる。
実施の形態3.
実施の形態3では、導出した冷却速度に基づいて、組織の大きさおよび析出相の種類を推定し、造形後の加熱冷却処理を施すことによって、造形物112の組織を制御する方法について説明する。実施の形態3で使用される積層造形装置1は、実施の形態1で説明したものと同様であるので、その説明を省略する。ただし、実施の形態3で使用される積層造形装置1における制御装置19の機能が実施の形態1とは異なる。
制御装置19は、造形物112の温度分布情報から冷却速度を導出し、冷却速度と造形物112の組織の大きさおよび析出相の種類との関係を示す組織析出相情報から、導出された冷却速度における造形物112の組織の大きさおよび析出相の種類を推定する。組織析出相情報は、予め求められる。制御装置19は、推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類であるかを判定する。推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類と異なる場合に、制御装置19は、造形処理を中断し、推定結果に基づいて、造形物112の加熱冷却条件を決定する。具体的には、制御装置19は、目標とする組織の大きさおよび析出相の種類に対応する冷却速度と、導出された冷却速度と、から造形物112が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類となる加熱冷却条件を決定する。そして、制御装置19は、加熱冷却条件に基づいて、ガス噴射装置13、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18を制御する。つまり、制御装置19は、決定した加熱冷却条件で、ワイヤWを供給せずに造形物112へのレーザビームLの照射およびシールドガスGの噴射の制御並びに基材111の温度の制御を行って熱処理を実行する。熱処理の後、制御装置19は、決定した造形条件に基づいてガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18を制御し、造形処理を行う。また、制御装置19は、推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類である場合には、造形処理を中断せずに、すなわち加熱冷却条件での処理を行わずに、決定した造形条件で造形処理を行う。つまり、制御装置19は、造形条件に基づいて、ガス噴射装置13、ワイヤ供給装置14、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18を制御し、造形処理を行う。
冷却速度と、組織の大きさおよび析出相の種類と、の関係は、特に限定されることはなく、任意の方法で求めておくことができる。一例では、有限要素法を用いた熱解析によって、任意の造形条件での冷却速度を取得しておき、同様の造形条件による造形物112の組織の大きさおよび析出相の種類を組織観察によって把握しておけばよい。つまり、造形条件と、冷却速度と、組織観察の結果である組織の大きさおよび析出相の種類と、を対応付けた情報を組織析出相情報として記憶しておけばよい。また、上記の冷却速度と、組織の大きさおよび析出相の種類と、の関係は文献等で公表されている既知のデータベースから求めてもよい。一例では、推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類と異なる場合には、目標とする組織の大きさおよび析出相に対応する冷却速度が組織析出相情報から求められ、目標とする組織の大きさおよび析出相の種類に対応する加熱冷却条件が、目標とする組織の大きさおよび析出相の種類に対応する冷却速度と、造形物112の温度分布情報から導出された冷却速度と、に基づいて求められる。
加熱冷却条件と冷却速度との関係は、特に限定されることはなく、任意の方法で求めておくことができる。一例では、有限要素法を用いた熱解析によって、任意の加熱冷却条件での冷却速度を取得しておけばよい。つまり、加熱冷却条件と冷却速度とを対応付けた情報を記憶しておけばよい。また、上記の加熱冷却条件と、冷却速度と、の関係は実際の造形物112を用いた実験値から求めてもよい。
図11は、実施の形態3に係る積層造形方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。図11では、積層造形装置1での制御装置19の処理手順を示している。なお、図9と同一の処理には同一のステップ番号を付し、その説明を省略する。
ステップS15の後、制御装置19は、冷却速度と組織の大きさおよび析出相の種類との関係を示す予め求められた組織析出相情報と、ステップS14で導出された冷却速度と、から、組織の大きさおよび析出相の種類を推定する(ステップS51)。
その後、制御装置19は、推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類であるかを判定する(ステップS52)。推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類であると判定した場合(ステップS52でYesの場合)には、処理がステップS16へと移る。つまり、この場合には、形成した造形物112の組織の大きさおよび析出相の種類は目標とする組織の大きさおよび析出相の種類を有しているので、この造形物112に対して組織の大きさおよび析出相の種類を変更するための加熱処理または冷却処理は不要である。このため、実施の形態1で説明した以降の造形計画を決定した造形条件に基づいて実施する。
一方、推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類と異なると判定した場合(ステップS52でNoの場合)には、制御装置19は、造形処理を中断する(ステップS53)。
次いで、制御装置19は、目標とする組織の大きさおよび析出相の種類に対応する冷却速度と、ステップS14で導出された冷却速度と、に基づいて、造形物112の組織が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類となる加熱冷却条件を決定する(ステップS54)。その後、制御装置19は、決定した加熱冷却条件に基づいて、ガス噴射装置13、ヘッド駆動装置15、レーザ発振器16および温度調整装置18へ指令を出力する(ステップS55)。このように、ワイヤWを供給せずに造形物112へのレーザビームLの照射およびシールドガスGの噴射の制御並びに基材111の温度の制御を行うことで、造形物112の組織を制御するための造形後の熱処理が実施される。その後、処理がステップS16に戻り、造形処理が再開される。
実施の形態3によれば、制御装置19は、冷却速度から造形物112の組織の大きさおよび析出相の種類を推定する。推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類である場合には、そのまま造形処理を継続する。一方、推定した組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類と異なる場合には、制御装置19は、造形処理を一時中断し、組織の大きさおよび析出相の種類が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類と同じとなるように決定した加熱冷却条件で積層造形装置1を制御して、造形物112の熱処理を行う。これによって、形成された造形物112が目標とする組織の大きさおよび析出相の種類を有していない場合でも、加熱冷却条件に基づいた処理を行うことで目標とする組織の大きさおよび析出相の種類とすることができる。この結果、造形物112の全体に渡って目標とする組織の均質化を行うことが可能となる。
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。