JP7319671B2 - 植物に環境ストレス耐性を付与する方法 - Google Patents

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Description

本発明は、植物に環境ストレス耐性を付与する方法に関する。
地球温暖化による異常高温はヒトのみならず、イネ等重要作物の生産に大きな影響を及ぼしつつある。また、気候変動が原因でしばしば引き起こされる干ばつや巨大化した台風による塩害の多発も大きな問題となっている。
発明者は、これまでに、高温登熟性優良イネ品種「ゆきん子舞」の登熟種子のタンパク質発現解析から、ゆきん子舞において特徴的に高発現するスーパーオキシドジスムターゼ遺伝子(Oryza sativa MSD1,Os05g0323900)を見出し、これを人為的に強発現したイネが高温登熟耐性を示すことを明らかにしている(例えば、非特許文献1参照)。スーパーオキシドジスムターゼは、スーパーオキシドアニオン(O ・)を過酸化水素(H)に返還する酵素である。Hは、活性酸素種の1つであり、生体内で過度に発生すると、脂肪酸、生体膜、DNA等を酸化損傷するため有害であり、プログラム細胞死やがん化等の原因になるといわれる。しかし、低濃度のHはシグナル分子として機能することも知られており、低濃度のHでイネ幼苗を処理すると高温や塩添加条件下での生存率が上昇することが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。また、特許文献1には、H等の化合物を有効成分として含有する植物用耐ストレス付与剤が開示されており、1mmol/L以上40mmol/L以下程度の濃度のHでオオムギ幼苗又はイネ幼苗を処理すると耐塩性が付与され、葉の黄化が抑制されることが開示されている。
国際公開第02/05624号
Shiraya T et al., "Golgi/plastid-type manganese superoxide dismutase involved in heat-stress tolerance during grain filling of rice.", Plant Biotechnology Journal, Vol. 13, Issue 9, pp. 1251-1263, 2015. Uchida A., "Effects of hydrogen peroxide and nitric oxide on both salt and heat stress tolerance in rice.", Plant Science, Vol. 163, Issue 3, pp. 515-523, 2002.
しかしながら、ストレス感受性の高い開花期における植物へのH処理の効果については不明である。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、新規の植物に環境ストレス耐性を付与する方法を提供する。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、開花予定日の少なくとも数時間前から低濃度の過酸化水素等の活性酸素で植物を処理することで、植物にストレス耐性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 開花予定日に、活性酸素を植物に接触させる接触工程を含む、植物に環境ストレス耐性を付与する方法。
(2) 前記接触工程において、開花予定日の少なくとも12時間前から、活性酸素を植物に接触させる、(1)に記載の方法。
(3) 前記接触工程において、開花予定日の少なくとも1週間前から、活性酸素を植物に接触させる、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記活性酸素が過酸化水素である、(1)~(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5) 前記接触工程において、過酸化水素を添加した水を植物に供給する、(4)に記載の方法。
(6) 前記植物がイネ科植物である、(1)~(5)のいずれか一つに記載の方法。
上記態様の方法によれば、植物に環境ストレス耐性を付与することができる。
実施例1におけるイネ幼苗に対する過酸化水素処理及び検出のスケジュールを示す図である。 実施例1における過酸化水素処理水中の過酸化水素濃度の変化を示すグラフである。 実施例1における過酸化水素処理後のイネ幼苗体内の過酸化水素濃度の変化を示すグラフである。(A)はイネ幼根、(B)はイネ幼芽での結果である。 実施例1における出穂・開花日のイネに対する過酸化水素処理が整粒率に及ぼす影響を示すグラフである。 実施例1における開花期のイネに対する過酸化水素処理のスケジュールを示す図である。 実施例1における開花期のイネに対する過酸化水素処理が光合成能に及ぼす影響を示すグラフである。(A)は平温区、(B)は高温区1、(C)は高温区2での結果である。 実施例1における開花期のイネに対する過酸化水素処理が白濁粒の発生率に及ぼす影響を示すグラフである。 実施例1における開花期のイネに対する過酸化水素処理が稔実率に及ぼす影響を示すグラフである。 実施例2における開花期のイネに対する過酸化水素処理がα-アミラーゼ遺伝子の発現に及ぼす影響を示すグラフである。(A)はAmy1A遺伝子、(B)はAmy1C遺伝子、(C)はAmy3D遺伝子、(D)はAmy3E遺伝子の結果である。 実施例2における開花期のイネに対する過酸化水素処理が熱ショックタンパク質遺伝子及び活性酸素種消去系酵素遺伝子の発現に及ぼす影響を示すグラフである。(A)はHSP70遺伝子、(B)はCAT遺伝子、(C)はL-APX遺伝子、(D)はAPX遺伝子の結果である。 実施例2における開花期のイネに対する過酸化水素処理が活性酸素種消去系酵素遺伝子の発現に及ぼす影響を示すグラフである。(A)はPOX遺伝子、(B)はCu/Zn SOD遺伝子、(C)はMn-SOD遺伝子の結果である。 実施例3における高温条件下で過酸化水素処理を行ったイネの登熟種子のペプチドームの変化を示すグラフである。 実施例3における高温条件下で過酸化水素処理を行ったイネの登熟種子のペプチドームの変化を示すグラフである。 実施例3における高温区1(開花後:30℃昼/25℃夜)又は高温区2(開花後:33℃昼/28℃夜)の条件下で過酸化水素処理を行ったイネの登熟種子のペプチドームの相違を示すグラフである。 実施例4における開花期のイネに対する過酸化水素処理のスケジュールを示す図である。 実施例4における平温区又は高温区(開花後:33℃昼/28℃夜)条件下で過酸化水素処理した開花から5日目及び20日目のイネの登熟種子でのNBR1タンパク質の検出結果を示す図である。 実施例4における平温区又は高温区(開花後:33℃昼/28℃夜)条件下で過酸化水素処理した開花から5日目及び20日目のイネの登熟種子でのNBR1のmRNA量の検出結果を示す図である。 実施例4における高温区(開花後:33℃昼/28℃夜)条件下で過酸化水素処理した開花から20日目のイネの登熟種子でのカルボニル化タンパク質量(酸化タンパク質量)の検出結果を示す図である。(A)の左側は電気化学発光法(ECL法)による検出画像であり、右側は当該検出画像におけるシグナル強度をグラフ化したものである。(B)は(A)で検出されたシグナル強度の総量を酸化タンパク質量として示すグラフである。 実施例4における平温区条件下で栽培したオートファジー機能欠損変異体(Osatg7)の登熟種子でのAmy3A遺伝子の発現を検出した結果を示す図である。(A)は、登熟種子でのAmy3Aタンパク質の検出結果を示す図である。(B)は、登熟種子でのAmy3AのmRNA量の検出結果を示す図である。 参考例1におけるイネ幼苗に対する過酸化水素処理、高温曝露及び生存率の算出のスケジュールを示す図である。 参考例1における高温条件での過酸化水素処理がイネ幼苗の成長に及ぼす影響を示すグラフである。(A)はイネ幼芽の乾燥重量を示し、(B)はイネ幼根の乾燥重量を示す。 参考例2におけるイネ幼苗に対する過酸化水素処理、高温曝露及びサンプル採取のスケジュールを示す図である。 参考例2における高温条件での過酸化水素処理がイネ幼芽の遺伝子発現に及ぼす影響を示すグラフである。(A)はHSP70遺伝子、(B)はCAT遺伝子、(C)はL-APX遺伝子、(D)はAPX遺伝子、(E)はPOX遺伝子、(F)はCu/Zn SOD遺伝子、(G)Mn-SOD遺伝子の結果である。 参考例2における高温条件での過酸化水素処理がイネ幼根の遺伝子発現に及ぼす影響を示すグラフである。(A)はHSP70遺伝子、(B)はCAT遺伝子、(C)はAPX遺伝子の結果である。 参考例3における過酸化水素処理がイネ幼根のα-アミラーゼ遺伝子(mRNA)の発現に及ぼす影響を示すグラフである。(A)はAmy1A遺伝子、(B)はAmy1C遺伝子、(C)はAmy3D遺伝子、(D)はAmy3E遺伝子の結果である。 参考例3における過酸化水素処理がイネ幼根のα-アミラーゼタンパク質の発現に及ぼす影響を示すグラフである。
以下、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」という)に係る植物に環境ストレス耐性を付与する方法について、詳細を説明する。
<植物>
本実施形態の方法が適用される植物としては、植物体内に活性酸素を取り込むことができる、又は、植物体内で活性酸素が産生される植物であれば、特別な限定はない。植物としては、双子葉植物であってもよく、単子葉植物であってもよいが、特に有用植物に好ましく適用される。このような有用植物としては、例えば、芝草類、穀類植物、野菜類、果樹類、飼料作物、観賞植物、造園用植物、環境保護用植物、街路樹、実験植物等が挙げられる。
芝草類としては、例えば、イネ科芝草、カヤツリグサ科芝草、キク科芝草、マメ科芝草等が挙げられる。イネ科芝草としては、スズメガヤ亜科、ウシノケグサ亜科、キビ亜科等が挙げられる。スズメガヤ亜科としては、例えば、シバ類、バミューダグラス類等が挙げられる。ウシノケグサ亜科としては、例えば、ベントグラス類、ブルーグラス類、フェスク類、ライグラス類等が挙げられる。
穀類植物としては、例えば、ライムギ、オオムギ、コムギ、キビ、モロコシ、サトウキビ、ソルガム、トウモロコシ、ハ卜ムギ、イネ等のイネ科植物等が挙げられる。
野菜類としては、例えば、ホウレンソウ、サトウダイコン、ナス、ジャガイモ、トマト、トウガラシ、ゴマ等が挙げられる。
果樹類としては、例えば、ミカン、オレンジ、モモ、スモモ、ブドウ、カキ、パパイヤ等が挙げられる。
飼料作物としては、例えば、アガサ科のアトリブリックス類等が挙げられる。
観賞植物及び造園用植物としては、例えば、キク、アツケシソウ、アカシア、バラ、チューリップ、コスモス、マーガレット、ユリ等が挙げられる。
環境保護用植物としては、例えば、ヒルギダマシ等のマングローブ類等が挙げられる。
街路樹としては、例えば、ポプラ、クヌギ、ヤナギ、シラカバ、コナラ等が挙げられる。
実験植物としては、例えば、シロイヌナズナ等が挙げられる。
中でも、後述する実施例に示すように、本実施形態の方法を用いて、ストレス環境においても稔実率及び登熟性を向上させることができることから、イネ科植物であることが好ましい。
<ストレス耐性>
本明細書において、「ストレス」とは、植物体に対して有害な作用(例えば、生長の遅延、抑制、停止、枯死等)を与える外部因子を意味する。「ストレス耐性」には、例えば、耐塩性、耐乾燥性、耐高温性(ここでいう「高温」とは、30℃以上50℃以下程度の温度範囲を意味する)、耐低温性(ここでいう「低温」とは、0℃以上15℃以下程度の温度範囲を意味する)、耐強光性(ここでいう「強光」とは800μmol/(m・s)以上2000μmol/(m・s)以下程度の光量の範囲を意味する。)等が包含される。中でも、後述する実施例に示すように、本実施形態の方法は、耐高温性の付与に特に好適に用いられる。
<植物に環境ストレス耐性を付与する方法>
本実施形態の植物に環境ストレス耐性を付与する方法(以下、単に「本実施形態の方法」と称する場合がある)は、開花予定日に、活性酸素を植物に接触させる接触工程を含む。
従来から、イネ幼苗等の植物に過酸化水素等の活性酸素を接触させて、植物に環境ストレス耐性を付与する方法が検討されてきた。しかしながら、ストレス感受性の高い開花期等の生殖成長期の植物体に活性酸素等の有害物質を接触させることは、DNA等の酸化損傷から予期せぬ遺伝子変異等が生じる虞があり、試みられていなかった。
発明者らは、後述する実施例に示すように、開花期の植物体に適当な濃度の活性酸素を接触させることで、一部の活性酸素種消去系酵素や熱ショックタンパク質の発現を促進し、さらにオートファジー機能を促進することで、高温等のストレスに対する耐性を付与できることを今回初めて見出した。また、このストレス耐性付与のメカニズムが、幼苗期の植物体に活性酸素を接触させた際とは異なり、活性酸素を接触させる時期及び濃度がストレス耐性の付与に重要であることを明らかにした。
以下、本実施形態の方法の工程について、詳細に説明する。
[接触工程]
接触工程では、開花予定日に、活性酸素を植物に接触させる。
活性酸素としては、例えば、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、ヒドロペルオキシラジカル、ペルオキシラジカル、アルコキシラジカル、一酸化窒素、二酸化窒素、チイル/ペルチイルラジカル、一重項酸素、過酸化水素、膜質ヒドロペルオキシド、次亜塩素酸、オゾン、ペルオキシ亜硝酸、過酸化脂質等が挙げられる。中でも、活性酸素としては、植物体や植物体の栽培環境への残留性が低く、安価に入手でき、簡便に処理を行うことができることから、過酸化水素が好ましい。
本明細書において、「開花期」とは、花が咲き始めて咲き終わるまでの期間を意味し、「開花日」とは、一定区画内の植物体中、50%程度の植物体が開花した日を意味する。植物体の発芽から開花日までの期間は、植物の種類や品種に応じてほぼ決まっており、発芽から開花日までの期間内の積算温度や、日長等の気象量を勘案して、「開花予定日」を予測することができる。例えば、イネ科植物の開花日は出穂日ということもでき、水田全体で4割以上5割以下程度の穂が出穂した日を意味し、開花予定日(出穂予定日)は、例えば、幼穂長を確認することによって、予測することができる。
植物への活性酸素の接触を開始する時期としては、開花予定日当日、例えば、午前0時からであってもよいが、後述する実施例に示すように、活性酸素との接触により引き起こされる各種遺伝子の発現を促進させる時間を勘案して、開花予定日の少なくとも3時間前からが好ましく、少なくとも12時間前からがより好ましく、少なくとも1日前からがさらに好ましく、少なくとも1週間前からが特に好ましい。
植物への活性酸素の接触を終了する時期としては、開花予定日当日、例えば、開花予定日の翌日の午前0時の直前まででもよいが、栽培している植物全体に活性酸素との接触による効果を行き渡らせることから、栽培している植物体のうち50%以上の開花が確認された時までとすることができ、60%以上の開花が確認された時までが好ましく、80%以上の開花が確認された時までがより好ましく、90%以上の開花が確認された時までがさらに好ましく、100%の開花が確認された時までが特に好ましい。
植物への活性酸素の接触方法としては、その方法により活性酸素を植物に接触させた場合に耐ス卜レス性付与作用を示す方法である限り、特に限定されるものではない。例えば、活性酸素をそのままで、又は適当な溶剤(例えば、水等)で希釈した形で、植物体に直接散布する方法、土壌に散布する方法、又は水耕栽培の水培地に添加して、植物の根から吸収させる方法等が挙げられる。植物への直接散布としては、例えば、植物の根を活性酸素の希釈液に浸漬させる方法、葉、茎、又は根に活性酸素をそのままで、又は活性酸素の希釈液を散布する方法等が挙げられる。活性酸素の希釈液を用いる場合には、当該希釈液には、適用な溶剤、活性酸素に加えて、肥料成分、栄養剤、農薬、界面活性剤、分散安定化剤、増粘剤、酸化防止剤等の成分が含まれていてもよい。
活性酸素が過酸化水素である場合には、例えば、過酸化水素を含む水を供給することで、植物に過酸化水素を接触させることができる。
或いは、例えば、誘導性プロモーター制御下のスーパーオキシドジスムターゼ遺伝子を有する遺伝子改変植物である場合には、例えば、誘導性プロモーターを熱、光、化学物質等の誘導因子で制御し、上記のとおり活性酸素に接触させたい所望の時期においてスーパーオキシドジスムターゼ遺伝子の発現を向上させて、植物体内でスーパーオキシドアニオン(O ・)を過酸化水素(H)に返還させることで、植物に過酸化水素を接触させることができる。
中でも、簡便に行うことができることから、過酸化水素を含む水を供給することで、植物に過酸化水素を接触させる方法が好ましい。
植物への活性酸素の接触頻度は、上記所定の期間において継続的に行ってもよく、数回に分けて断続的に行ってもよい。断続的に行う場合には、例えば、1時間、2時間、6時間、12時間、24時間毎に数回に分けて行うことができる。
活性酸素の希釈液を植物に直接散布する又は植物の根から吸収させる場合に、活性酸素の濃度としては、ストレス耐性を付与できる濃度であればよい。活性酸素の濃度として具体的には、例えば、一定区画内に栽培された植物の内、50%以上の植物にストレス耐性を付与できる濃度とすることができ、60%以上の植物にストレス耐性を付与できる濃度が好ましく、70%以上の植物にストレス耐性を付与できる濃度がより好ましく、80%以上の植物にストレス耐性を付与できる濃度がさらに好ましく、90%以上の植物にストレス耐性を付与できる濃度が特に好ましく、100%以上の植物にストレス耐性を付与できる濃度が最も好ましい。
例えば、活性酸素として過酸化水素を用いる場合には、希釈液中の過酸化水素の濃度は1μmol/L以上1mmol/L未満が好ましく、1μmol/L以上500μmol/L以下がより好ましく、1μmol/L以上100μmol/L以下がさらに好ましく、1μmol/L以上50μmol/L以下が特に好ましい。
本実施形態の方法に用いる植物の栽培は、当該植物の種類に応じて、適宜公知の方法を選択して行うことができる。
また、本実施形態の方法において、公知のストレス耐性付与剤を組み合わせて用いてもよい。これにより、より効果的に植物にストレス耐性を付与することができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
1.過酸化水素(H)の残留性
の農業利用においてまず危惧されることは農地及び植物体内におけるHの残留性である。これらの点を検証するために、10μM H処理による植物体内のH含有量の変化と処理水中のHの分解について調べた。プラントボックス(60×60×100mm)において、28℃昼/23℃夜で8日間発芽させたイネ幼苗3個体を10mLの10μM H溶液で2日間処理した。さらに、10μM H処理後、7日間純水にてインキュベートした。H処理と検出のスケジュールを図1に示す。対照として、H処理を行わずに同様のスケジュールで栽培したイネ幼苗も準備した。
なお、Hの定量は、過酸化水素定量用キット(フナコシ社製)を用いて行った。イネ幼苗体内におけるH濃度の定量は具体的には、以下の手順で行った。まず、約50mgの幼根又は幼芽サンプルを細かくハサミで切って乳鉢に入れ、そこに抽出液(5w/v% トリクロロ酢酸(TCA)、10mM グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)含有)1mLを加えて、よくなじませながらすりつぶした。次いで、遠心(10,000×g、4℃、10分間)して上清を回収した。0.5μLのR1(組成は以下を参照)と50μLのR2(組成は以下を参照)をよく混合し、そこに5μLの回収した上清を加えて室温で25分間以上30分間以下程度インキュベートした。
(検出試薬の組成)
R1:25mM ammonium iron(II)sulfate、2.5M HSO
R2:100mM sorbitol、125μM xylenol orange in water
マイクロキュベットを用いて分光光度計で560nmの波長で吸光度を測定し、H濃度を定量した。結果を図2(処理水中のH濃度)及び図3((A)幼芽でのH濃度;(B)幼根でのH濃度)に示す。
図2に示すように、処理水中のHはほぼ5時間で消失した。また、図3に示すように、対照と比較して、H処理によるイネ幼苗(幼根及び幼芽)体内のH濃度に有意な変化は見られず、イネ幼苗体内における残留も見られなかった。
2.開花期におけるH処理
イネ(コシヒカリ)の高温登熟性に及ぼす10μM H処理時期の違いによる効果の違いを調べた。イネ栽培は、新潟大学・刈羽村先端農業バイオ研究センターサテライト実験施設の自然光バイオトロンを使用し、実験条件は、平温区(28℃昼/23℃夜)で出穂期まで生育させ、その後、平温区(28℃昼/23℃夜)、高温区(30℃昼/25℃夜)に移した。水道水に10μMになるように1M(3.4w/v%)のHを加え、出穂・開花日に、10μM Hを栽培土壌に注ぎ、イネ植物体に与えた。なお、10μM H処理は1回のみとした。出穂・開花は、イネの出穂によって判断した。対照(Control)群として、各温度区において、H処理を行わずに栽培したものを準備した。その後、種子が熟すまで、1.5ヶ月間程度栽培して(積算温度1000℃、籾の黄化程度で判断)、完熟種子を収穫した。完熟種子の整粒率を、穀粒判別機(RGQI20A、サタケ社製)を用いて調査した。結果を図4に示す。
図4に示すように、出穂・開花日に、H処理を行うことで、整粒率が向上した。このことから、出穂・開花日におけるH処理によりイネに高温登熟性が付与されたことが明らかとなった。
3.開花期におけるH処理
次いで、イネ(コシヒカリ)の高温登熟性に及ぼす10μM H処理の効果を調べた。イネ栽培は、新潟大学・刈羽村先端農業バイオ研究センターサテライト実験施設の自然光バイオトロンを使用し、実験条件は、平温区(26℃昼/23℃夜)、高温区1(開花前:26℃昼/23℃夜、開花後:30℃昼/25℃夜)、高温区2(開花前:26℃昼/23℃夜、開花後:33℃昼/28℃夜)とした。水道水に10μMになるように1M(3.4w/v%)のHを加え、出穂1週間前から1週間又は3週間、10μM Hを栽培土壌に注ぎ、イネ植物体に与えた。なお、10μM H処理は3日毎に行った。なお、出穂日を開花日とし、開花日は幼穂長によって予測し、当該開花予定日の1週間前からH処理を開始した。H処理のスケジュールを図5に示す。図5において、出穂1週間前から1週間の短期処理を「H priming」、出穂1週間前から3週間の長期処理を「H treatment」と称する。対照(Control)群として、各温度区において、H処理を行わずに栽培したものを準備した。
開花日から4日後の止め葉における光合成能を、LI6400XT(Licor社製)を用いた光合成速度の測定により評価した。結果を図6に示す。
図6に示すように、全ての温度区において、光合成能がH処理によって向上していた。特に、高温区1(開花後:30℃昼/25℃夜)における光合成能の向上が顕著であった。
試験後に収穫された完熟種子について、白濁粒の発生率を、穀粒判別機(RGQI20A、サタケ社製)を用いて測定した。結果を図7に示す。また、各試験条件における稔実率を調査した結果を図8に示す。
図7に示すように、いずれの試験条件においても、温度が高くなるほど、白濁粒の発生率が高まっていた。しかしながら、H priming群及びH treatment群のいずれにおいても、H処理により、全ての温度区、特に、高温区1及び高温区2において白濁粒の発生率が顕著に低下した。
また、図8に示すように、稔実率については、無処理条件(Control群)の高温区2では著しい低下がみられたが、H priming群及びH treatment群のいずれにおいても、H処理によりほぼ完全に回復することが明らかとなった。
[実施例2]
(H処理が高温区における登熟種子の遺伝子発現に及ぼす影響)
高温登熟種子においては一連のα-アミラーゼアイソフォーム遺伝子の発現が上昇し、玄米白濁化を招くことが知られている(参考文献1:「Yamakawa H et al., “Comprehensive expression profiling of rice grain filling-related genes under high temperature using DNA microarray.”, Plant Physiol., Vol. 144, pp. 258-277, 2007.」、参考文献2:「Mitsui T et al., “Novel molecular and cell biological insights into function of rice α-amylase.”, Amylase, Vol. 2, Issue 1, pp. 30-38, 2018.」)。
実施例1と同様の方法を用いて、H処理試験(処理条件は、上記「H priming」群の条件)を行い、平温区と高温区(開花後:30℃昼/25℃夜)の開花後5、12及び20日目の子実におけるα-アミラーゼアイソフォーム遺伝子(Amy1A、Amy1C、Amy3D及びAmy3E)の発現に及ぼすH処理の効果をリアルタイムPCRで調べた。結果を図9に示す。リアルタイムPCRで用いたプライマーリストを以下の表1に示す。
Figure 0007319671000001
図9に示すように、Amy1A遺伝子及びAmy1C遺伝子については、極めて類似した挙動を示し、20日目にかけて高温区(開花後:30℃昼/25℃夜)では発現が増加したが、高温による遺伝子発現誘導はH処理によって有意に抑制された。Amy3D遺伝子では変化を捉えられなかったが、一方、Amy3E遺伝子では12日目にかけて増加し、20日目も増加し続けたが、この高温誘導もH処理によって有意に抑制された。
以上の結果から、H処理によって、有意に高温登熟によるα-アミラーゼ遺伝子の発現誘導が抑制されることが示された。
また、Hを生成する酵素であるMSD1の強発現体イネを高温登熟させると一連の活性酸素種消去系酵素や熱ショックタンパク質の発現が一斉に上昇することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。そこで、活性酸素種消去系酵素(Cu/Zn SOD、Mn-SOD、APX、L-APX、POX及びCAT)や熱ショックタンパク質(HSP70)の発現に及ぼすH処理の効果をリアルタイムPCRで調べた。結果を図10及び図11に示す。リアルタイムPCRで用いたプライマーリストを以下の表2に示す。
Figure 0007319671000002
図10に示すように、開花後20日目においてHSP70遺伝子やCAT遺伝子、APX遺伝子は高温によって発現が高まるが、H処理によって、それらの発現誘導がさらに促進された。
図11に示すように、POX遺伝子やSOD遺伝子においては、高温による発現上昇はみられるが、H処理による誘導促進は確認されなかった。
[実施例3]
(H処理が高温区における登熟種子の遺伝子発現に及ぼす影響)
実施例1の図5に示す平温区では「Control」、高温区1及び高温区2では「H priming」の処理条件にて、H処理試験を行い、平温区、高温区1及び高温区2の開花後14日目の登熟種子をペプチドーム解析した。具体的には、各登熟種子について、MonoSpin(登録商標) columns C18で脱塩後、nanoLC(MonoCap C18 High Resolution 2000;0.1mm i.d.×2000mm)で分画し、LTQ Orbitrap XLを用いてマス(MS)スペクトルを取った。ペプチドとタンパク質の定量は、非標識定量法であるNormalized Spectral Abundance Factor(NSAF)(参考文献3:「Florens et al., “Analyzing chromatin remodeling complexes using shotgun proteomics and normalized spectral abundance factors.”, Methods, Vol 40, Issue 4, pp. 303-311, 2006.」;参考文献4:「Paoletti et al., “Quantitative proteomic analysis of distinct mammalian Mediator complexes using normalized spectral abundance factors.”,Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., Vol. 103, Issue 50, pp. 18928-18933, 2006.」;参考文献5:「Zybailov et al., “Statistical Analysis of Membrane Proteome Expression Changes in Saccharomyces cerevisiae.”, J. Proteome Res., Vol. 5, Issue 9, pp. 2339-2347, 2006.」)を用いて行った。ペプチドーム解析の結果を図12及び図13に示す。図12及び図13において、横軸は、無処理の平温区(NT)条件下の登熟種子におけるペプチド発現量に対する、H処理された高温区1(HT1)条件下又は高温区2(HT2)条件下の登熟種子におけるペプチド発現量の比(以下、それぞれ「HT1/NT比」、「HT2/NT比」と称する場合がある)を示し、棒グラフ横の数字はH処理された高温区2(HT2)条件下の登熟種子におけるペプチド発現量に対する、H処理された高温区1(HT1)条件下の登熟種子におけるペプチド発現量の比(以下、「HT1/HT2比」と称する場合がある)を示す。
図12から、高温区1群と高温区2群では、ペプチドームが異なることが明らかとなった。
また、図13から、高温区2群では、特に、ユビキチン-プロテアソーム系やオートファジーといったプログラムされたタンパク質分解系が活発になることが見出された。
[実施例4]
1.H処理がオートファジー機能に及ぼす影響
実施例3の結果から、高温区2(開花後:33℃昼/28℃夜)において、オートファジー機能が活性化されることに注目し、オートファジー機能に及ぼすH処理の影響を調べた。
処理条件を図14に示すとおりとした以外は、実施例1と同様の方法を用いて、H処理試験を行い、平温区及び高温区(開花後:33℃昼/28℃夜)の開花後5及び20日目の登熟種子からタンパク質及びRNAを抽出した。次いで、オートファジーの分解機能の指標として知られているNBR1(オートファジーの分解基質)の存在量を、NBR1タンパク質を特異的抗体を用いたウェスタンブロッティング法で測定し、NBR1のmRNA量をリアルタイムPCRで測定することで、解析した。ウェスタンブロッティング法は、参考文献6(Kaneko K et al., “Proteomic and Glycomic Characterization of Rice Chalky Grains Produced Under Moderate and High-temperature Conditions in Field System.”, Rice, Vol. 9, Article number: 26, 2016. doi: 10.1186/s12284-016-0100-y.)に記載の方法に従って、以下の抗体を用いて行った。
(ウェスタンブロッティング法で用いた抗体)
anti-UGPase抗体(ウサギ抗血清、1:5,000希釈で使用)
anti-MBR1抗体(ウサギ抗血清、1:5,000希釈で使用、Agrisera、Sweden)
また、リアルタイムPCRで用いたプライマーリストを以下の表3に示す。
Figure 0007319671000003
結果を図15(NBR1のタンパク質の解析)及び図16(NBR1のmRNA量の解析)に示す。なお、図15及び図16において、「DAF5」は開花後5日目の登熟種子を示し、「DAF20」は開花後20日目の登熟種子を示す。
図15に示すように、平温区及び高温区(開花後:33℃昼/28℃夜)の開花後5日目の登熟種子で検出されたNBR1タンパク質がH処理で消失することが明らかとなった。
また、図16に示すように、NBR1のmRNA量の減少はなく、開花後5日目の登熟種子では逆に増加傾向が見られた。
これらのことから、H処理で登熟初期のオートファジー機能の向上が推察された。
さらに、完熟種子(開花後20日目の登熟種子)のカルボニル化タンパク質を酸化ダメージの指標として検出し、H処理による酸化ダメージの軽減を、株式会社同仁科学研究所のアルデヒド基(還元末端糖)標識用ビオチンラベル化剤を用いて評価した(http://www.dojindo.co.jp/technical/pdf/link_label.pdf)。具体的には、完熟種子サンプルに4M Urea 300μLと10mM Biotin hydrazide 2μLを加え、乳鉢で摩砕しなじませた。1.5mLエッペンドルフチューブに移し、室温暗所で1時間反応させた。遠心(15,000×g、4℃、3分間)し、上清を回収した。回収した上清を2.0mLエッペンドルフチューブに200μL分注した。 サンプル量の4倍量のメタノール、等量のクロロホルム、及び3倍量の超純水を順次加え、Vortexで撹拌した。遠心(15,000×g、4℃、3分間)し、2層の分離した上層を除いた。サンプル量の4倍量のメタノールを加え、Vortexで撹拌した。遠心(20,000×g、4℃、3分間)し、上清を除いた。エッペンドルフチューブの蓋を開け、3分間静置し、ペレットを乾燥させた。8M Urea 100μLに再懸濁した。得られたサンプルをSDS-PAGE後、タンパク質をメンブレンに転写した。転写後のメンブレンはブロッキング処理を行わず1×PBSTで1/5000倍以上1/10000倍以下に希釈したStreptavidinに浸し4℃で1時間静置した。その後、1×PBSTで5分間、3回振とうして洗浄し、電気化学発光法(ECL法、GE Healthcare)により検出した。結果を図17に示す。図17の(A)の左側は、ECL法による検出画像であり、右側は当該検出画像におけるシグナル強度をグラフ化したものである。(B)は(A)で検出されたシグナル強度の総量を酸化タンパク質量として示すグラフである。(B)において酸化タンパク質量は、高温区条件下でH無処理の完熟種子での酸化タンパク質量を1としたときの相対量で示されている。
図15~17に示すように、カルボニル化タンパク質の蓄積量が、H処理によって減少することが明らかとなった。
以上の結果から、H処理によってオートファジー機能が亢進し、玄米白濁化が抑制されることが示唆された。オートファジーは登熟種子において環境ストレスにより発生する機能不全タンパク質の除去による細胞内機能の正常化を行っていると考えられる。過度な高温ストレスでは、その除去機能が低下し、酸化タンパク質が蓄積することでデンプン代謝が乱れ白濁化するが、H処理による登熟初期におけるオートファジー機能の向上が起きると、高温ストレス下においても酸化タンパク質は蓄積せず、白濁化が軽減されると推察される。
2.オートファジー機能欠損変異体(Osatg7)の登熟種子におけるα-アミラーゼアイソフォーム遺伝子の発現解析
平温区条件下で栽培したオートファジー機能欠損変異体(Osatg7)(参考文献7:「Kurusu, T. et al., “OsATG7 is required for autophagy-dependent lipid metabolism in rice postmeiotic anther development.”, Autophagy, Vol. 10, Issue 5, pp. 878-888, 2014.」参照)の登熟種子におけるα-アミラーゼアイソフォームの発現量を、Amy3Aタンパク質を特異的抗体を用いたウェスタンブロッティング法で測定し、Amy3AのmRNA量をリアルタイムPCRで測定することで、解析した。ウェスタンブロッティング法では、上記参考文献6に記載の方法に従って、以下の抗体を用いて行った。
(ウェスタンブロッティング法で用いた抗体)
anti-Amy3A抗体(ウサギ抗血清、1:5,000希釈で使用、ペプチド抗体(配列番号29:CLRVPEPEGRR))
また、リアルタイムPCRで用いたプライマーリストを以下の表4に示す。
Figure 0007319671000004
結果を図18に示す。なお、図18において、(A)はウェスタンブロッティング法によるAmy3Aタンパク質の検出結果を示し、(B)はリアルタイムPCRによるAmy3AのmRNA量の定量結果を示す。(B)において、Amy3AのmRNA量は、野生型(WT1)でのAmy3AのmRNA量を1としたときの相対量で示されている。
図18に示すように、平温区条件下で栽培したオートファジー機能欠損変異体(Osatg7)の登熟種子において、Amy3A遺伝子の発現について著しい上昇が観察された。さらに、Amy3A遺伝子の発現と白濁化の程度の間には正の相関が見られた。
この実験結果から、オートファジーの機能欠損は直接玄米白濁化を引き起こすのではなく、ストレスに対する感受性が高くなったために平温条件でもストレスが蓄積し、デンプン代謝が乱れ、結果として白濁が生じるものと考えられた。
上述のとおり、H処理によるオートファジー機能の向上を通じて、α-アミラーゼ遺伝子発現の高温誘導が抑制され、白濁化が軽減されると推察される。
[参考例1]
(イネ幼苗におけるH処理)
イネ幼苗に10μM H処理を施すことで、高温における生存率が上昇することが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。この実験結果を確かめるために、図19に示すスケジュールにて追試を試みた。10μM H処理は、Hの分解を考慮して、2日間に亘って、12時間ごとに10μM H処理液を交換した。平温・光条件は、12時間 明期、28℃/12時間 暗期、23℃とし、高温・光条件は12時間 明期、45℃/12時間 暗期、45℃とした。
その結果、高温におけるイネ幼苗の生存率の上昇という効果は認められなかった。
さらに、試験後のイネ幼苗の幼芽及び幼根の乾燥重量を測定した。結果を図20に示す。
図20に示すように、H処理により、根の成長促進効果が見られた。
[参考例2]
(H処理がイネ幼苗の遺伝子発現に及ぼす影響)
イネ幼苗の過酸化水素プライミングによる高温ストレス下における成長促進のメカニズムを解明するため、高温処理開始から経時的に植物体における高温応答と活性酸素種消去系酵素の遺伝子発現を調べた。詳細な実験条件は、参考例1と同様に行った。高温処理直前を0時間とし、高温処理を開始してから1時間、3時間、6時間、12時間、24時間後の植物体(図21参照)を幼芽と幼根に分け、それぞれから全RNAを抽出してリアルタイムPCRを行った。各遺伝子の発現については、18srRNAを内部標準とし、高温処理直前(0時間後)のサンプルの発現レベルを基準とし、相対値で示した。リアルタイムPCRで用いたプライマーリストを上記表2に示す。結果を図22(幼芽)及び図23(幼根)に示す。
図22に示すように、イネ幼芽において、高温応答遺伝子HSP70や、活性酸素種消去系酵素遺伝子CAT、L-APX、APX、及びPOXの発現は、H処理群では3時間後にピークを示した。一方で、H無処理群では6時間後にピークの値を示した。スーパーオキシドアニオンを過酸化水素に変換するSODも調べた。その結果、Cu/Zn SODの発現は、H処理群では3時間後にH無処理群よりも2倍ほど発現が増加したが、その後はH無処理群の方が高い発現レベルを示した。
また、Mn-SODでは、H処理群、H無処理群ともに高温処理6時間で発現が増加した。
図23に示すように、イネ幼根において、CAT遺伝子とAPX遺伝子の発現は、H処理群では高温処理前から高く維持されていた。また、HSP70遺伝子の発現は、6時間後から増加したが、H無処理群では増加は確認されなかった。イネ幼根でのHSP70遺伝子の発現上昇が幼芽より遅れた原因としては、根が溶液中にあり、温度上昇が緩やかであったためと推察される。
[参考例3]
(H処理がイネ幼苗のα-アミラーゼ遺伝子の発現に及ぼす影響)
過酸化水素(mMオーダー)処理によってエンドウマメの根のアミラーゼ活性が上昇し、デンプン含量が低下すると報告されている(参考文献8:「Li F et al., “Autophagic recycling plays a central role in maize nitrogen remobilization.”, Plant Cell, Vol. 27, Issue 5, pp. 1389-1408, 2015.」参照)。H処理がイネ幼根におけるα-アミラーゼ遺伝子の発現に及ぼす影響を調べるため、H処理(10μM)と未処理の幼芽と幼根におけるα-アミラーゼアイソフォーム遺伝子の発現量を、α-アミラーゼアイソフォームタンパク質(Amy1A(AmyI-1)、Amy3D(AmyII-4))を特異的抗体を用いたウェスタンブロッティング法で測定し、α-アミラーゼアイソフォーム遺伝子(Amy1A、Amy1C、Amy3A、Amy3D及びAmy3E)のmRNA量をリアルタイムPCRで測定することで、解析した。ウェスタンブロッティング法では、上記参考文献6に記載の方法に従って行った。リアルタイムPCRで用いたプライマーリストを上記表1及び表4に示す。リアルタイムPCRによるα-アミラーゼアイソフォームのmRNA量の定量結果を図24に、ウェスタンブロッティング法によるα-アミラーゼアイソフォームタンパク質の検出結果を図25に示す。図24及び図25において、「Shoot」は幼芽、「Root」は幼根を示す。また、図25において、「C」は無処理群(Control群)、「H」はH処理群を示す。
図24に示すように、H処理した幼根においてAmy1A、Amy1C、Amy3D、Amy3EのmRNAの著しい誘導が観察された。一方、幼芽ではこのような発現誘導は見られなかった。幼芽及び幼根において、Amy3AのmRNAについては検出限界以下であった。
図25に示すように、H処理した幼根において、Amy1A(AmyI-1)及びAmy3D(AmyII-4)の著しい発現誘導が観察された。
以上の結果から、幼苗期と開花期のイネに対する過酸化水素処理の作用機構は大きく異なることが示唆された。
本実施形態の方法によれば、植物に環境ストレス耐性を付与することができる。

Claims (6)

  1. 開花予定日に、活性酸素を植物に接触させる接触工程を含む、植物に環境ストレス耐性を付与する方法。
  2. 前記接触工程において、開花予定日の少なくとも12時間前から、活性酸素を植物に接触させる、請求項1に記載の方法。
  3. 前記接触工程において、開花予定日の少なくとも1週間前から、活性酸素を植物に接触させる、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記活性酸素が過酸化水素である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
  5. 前記接触工程において、過酸化水素を添加した水を植物に供給する、請求項4に記載の方法。
  6. 前記植物がイネ科植物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
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