JP7274704B2 - ノトバイオートカイコの作製方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、ノトバイオートマウスは、作製が容易ではなく高価なものとなり、飼育するために特別な機器が必要となり、狭いスペースで大量に飼育ができず、更に倫理的な問題があるので大量の個体を用いた実験が困難である。
また、ノトバイオートハエ、ハチ、ゴキブリは、個体が小さいので注射や採血が難しく、体液中の成分の生化学的検査が困難である。
このように、カイコは実験動物として上記した優れた利点を有しているが、カイコにおけるノトバイオートの実験系は確立されていない。
また、かかるモデル動物・実験動物を用いた、ヒト等の生体に有用な菌のスクリーニング方法を提供することである。
(A)腸内細菌が検出されないカイコを調製する工程と、
(B)特定の菌を該腸内細菌が検出されないカイコの腸管内に定着させる工程と、
を含むことを特徴とするノトバイオートカイコの作製方法を提供するものである。
また、本発明は、上記のノトバイオートカイコを用いることを特徴とする菌のスクリーニング方法を提供するものである。
カイコは、マウスに比べて、実験動物として道義的問題が少なく、取り扱いも容易であるという特長があるが、更に、本発明のノトバイオートカイコの作製方法は、既存のノトバイオートマウスの作製方法に比べても容易で、そのためコスト的に優れ有用性が高い。
本発明のノトバイオートカイコの作製方法は、
(A)腸内細菌が検出されないカイコを調製する工程と、
(B)特定の菌を該腸内細菌が検出されないカイコの腸管内に定着させる工程と、
を含むことを特徴とする。
また、「腸内細菌が検出されない」とは、実施例の<生菌数測定>の項に記載した方法で測定して、生育したコロニーがないことを言う。
具体的には、カイコの卵を、好ましくは殺菌処理したり、孵化したカイコを好ましくは安全キャビネット等の無菌環境で飼育・管理したり、実質的に無菌にした餌を投与したり、抗菌剤を混合した餌を投与したりすること等により、腸管内に生菌が検出されないカイコを調製する。
該水溶液の濃度は、特に限定はないが、ホルムアルデヒドの場合、0.1%以上33%以下が好ましく、1%以上20%以下がより好ましく、2%以上5%以下が特に好ましい。エチルアルコールの場合、50%以上95%以下が好ましく、60%以上90%以下がより好ましく、70%以上80%以下が特に好ましい。フェノールの場合、1%以上5%以下が好ましく、1.5%以上4%以下がより好ましく、2%以上3%以下が特に好ましい。塩化ベンザルコニウムの場合、0.001%以上10%以下が好ましく、0.005%以上1%以下がより好ましく、0.01%以上0.1%以下が特に好ましい。なお、上記「%」は「質量%」を示す。
該殺菌処理の時間としては、特に限定はないが、1時間以上7日間以下が好ましく、2時間以上4日間以下がより好ましく、4時間以上2日間以下が特に好ましい。
本発明のノトバイオートカイコの作製方法における工程(A)は、ノトバイオートマウスを作製するときの、産道での感染を防止するために帝王切開をする必要がある、ビニールアイソレーター等の隔離飼育施設や特別な器具を準備する必要がある、等と言った面倒な工程を有する作製方法と比較して極めて簡便である。
具体的には、腸管内に定着させたい菌を含む餌をカイコに経口投与する、腸管内に定着させたい菌をカイコの腸管内に注射で投与する等が挙げられる。
中でも、例えば、実施例に示すように、腸管内に定着させたい菌を含む餌をカイコに摂取させることにより、目的の菌をカイコの腸管内に定着させることが好ましい。
また、一日の摂取量は、特に限定はないが、カイコ1頭当たり、菌が、0.001g/日以上2g/日以下であることが好ましく、0.01g/日以上0.5g/日以下であることが特に好ましい。
また、遠心せずに、液体培養された菌液を餌に混ぜることも可能である。その場合の菌液の量に特に限定はないが、0.1μL/(g餌)以上0.5mL/(g餌)以下が好ましく、1μL/(g餌)以上0.2mL/(g餌)以下が特に好ましい。
摂取期間が短過ぎる場合は、十分な量を摂取させることができず、特定の菌の効果を明確に確認できない場合がある。
また、工程(A)と工程(B)を含む本発明のノトバイオートカイコの作製方法は、ノトバイオートマウスの作製方法に比べて簡便である。
該特定の菌は、1種類の菌であっても、2種類以上の菌であってもよい。
2種類以上の菌を腸管内に定着させる場合、餌を介して該2種類以上の菌を同時に摂取させてもよいし、別々に摂取させてもよい。
(1)カイコ自体の入手が容易である。
(2)カイコを飼育する方法が既に確立されており、更に飼育に利便性がある。
(3)ヒト等の哺乳動物の内臓・器官と共通する性質が、これまでの研究で、ある程度分かっている。
(4)遺伝系統が確立されており、遺伝的均一性の維持ができている。
(5)比較的大型で、動きが緩慢であり、実質上無毛なので、定量的に注射できる等、薬物の投与が容易である。
(6)脂肪体を有しており、脂肪体を取り出して、含有する物質の定量が可能である。
(7)マウス、ラット等に比べると安価で、狭いスペースで多数の個体を飼育でき、倫理的な問題も少ないため、スクリーニング的な評価を行うことが容易である。
(8)齢を揃える等、同じ状態の個体を揃えることが容易である。
(9)体液を採取して、糖、脂質、酵素等の成分を解析することが可能である。
本発明の菌のスクリーニング方法は、上記ノトバイオートカイコの作製方法を用いることを特徴とする。また、上記ノトバイオートカイコの作製方法を用いれば、かかる「菌のスクリーニング方法」以外にも、他の菌の存在が障害となる種々の研究・検討・探索が可能となる。
すなわち、カイコを用いた評価方法、スクリーニング方法、製造方法等を、食品や医薬品開発における前臨床試験の前の探索段階で使用すれば、犠牲にしなければならない哺乳動物の数を減少させ、コストや動物愛護の観点からの問題を解決できる。
本発明は、前記した「ノトバイオートカイコの作製方法」を用いて作製されるようなものであることを特徴とするノトバイオートカイコ、あるいは、前記した「ノトバイオートカイコの作製方法」を用いて作製されたノトバイオートカイコでもある。
なお、このようなノトバイオートカイコを、カイコ自体の態様や該カイコの腸内の態様により直接特定することは不可能であるか又はおよそ実際的ではない。
また、本発明は、該ノトバイオートカイコを用いることを特徴とする菌のスクリーニング方法でもある。
カイコの受精卵(交雑種ふ・よう×つくば・ね)は愛媛養蚕株式会社から購入した。孵化した幼虫は、室温で人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社製)を与えて5齢幼虫まで育てた。
飼育容器は卵から2齢幼虫までを角型2号シャーレ(栄研器材)、それ以降をディスポーザブルのプラスチック製フードパック(フードパックFD大深、中央化学株式会社製)を用いた。
飼育温度は25℃とした。特に記載がない限り、実験には4齢眠以後絶食させた5齢1日目のカイコを用いた。乳酸菌添加餌は、培養液100μLを1gの「抗生物質を含まない餌」に混合して調製した。
乳酸菌Enterococcus faecalis 0831-07、Lactococcus lactis 11/19-B1、Leuconostoc carnosum #7-2を、それぞれMRS寒天培地でシングルコロニー化し、そのコロニーをMRS液体培地で、2~3日間30℃で静地培養した。
カイコの腸管を摘出し、腸管内容物を得た。腸管内容物をBHI(Brain heart infusion)寒天培地に塗布して、3日間培養後、生育したコロニーの数を測定した。
詳しくは、カイコの頭部を火炎滅菌したハサミで切断し、飛び出してきたペリトロピックメンブレンに包まれた腸管内容物及び細切した腸管を、滅菌した生理食塩水中(10mL)に懸濁し、その生理食塩水希釈液の一定量(100μL)を、直径10cmのBHI(Brain heart infusion)寒天プレートに塗布し、30℃にて1日~3日間培養後、生育したコロニーの数を測定した。
生育したコロニーを採取して16SリボソームRNAをコードするDNAに対するユニバーサルプライマーを用いたコロニーPCRを行った。増幅されたDNAについてシークエンスを行い菌種の同定を行った。
<ノトバイオートカイコの作製>
これまでに本発明者らによって、カイコの卵をホルマリン処理し、その後孵化したカイコに抗生物質が添加された餌を与えると、飼育したカイコの腸管内から生菌が検出されないことが報告されている(例えば、Nwibo DD et al, Drug Discov Ther. 2015; 9: 184-190)。
ホルマリン処理したカイコ蛾の卵から孵化した幼虫(カイコ)を、抗生物質が添加された餌で、5齢1日目まで飼育した。
飼育時の環境条件は、無菌状態であることが好ましいが、SPF動物の飼育環境であれば十分である。すなわち、温度を27℃にした飼育箱に、フィルター滅菌した空気を送り込む装置を使用した。この状況でカイコの餌を、抗生物質を含まない餌に変えても、カイコの腸内に細菌が増殖することはなかった。
孵化した幼虫(カイコ)は、室温で人工飼料シルクメイト2S(日本農産工業株式会社製)を与えて5齢幼虫まで育てた。飼育容器は、卵から2齢幼虫までを角型2号シャーレ(栄研器材製)、それ以降をディスポーザブルのプラスチック製フードパック(フードパックFD、大深、中央化学株式会社製)を用いた。
飼育温度は27℃とした。実験には4齢眠以後絶食させた5齢1日目の幼虫(カイコ)を用いた。
上記で調製したカイコを用いて、乳酸菌を摂食したカイコの腸管内から該乳酸菌が分離されるかを検証した。
上記で調製した5齢1日目のカイコに乳酸菌Enterococcus faecalis 0831-07、Lactococcus lactis 11/19-B1、Leuconostoc carnosum #7-2を、それぞれ加えた餌を1日与えた。また、コントロールとして、乳酸菌の代わりに生理食塩水100μLを含む餌を与えた。
生菌数の測定結果を表1に示す。
一方、乳酸菌の代わりに生理食塩水を添加した餌を与えたコントロール群のカイコの腸管内容物からはBHI寒天培地上でコロニーの形成は見られなかった(表1)。
以上の結果から、カイコの腸管内から乳酸菌の生菌が得られることが示唆された。このことから、カイコの腸管内で乳酸菌が全て殺菌されることはなく、むしろ5日間カイコの腸管内に維持されることが分かった。
<ノトバイオートカイコの腸管内における乳酸菌の増殖>
次に、カイコの腸管内で乳酸菌が増殖するか検討した。Enterococcus faecalis 0831-07(2.3x107cfu/カイコ)を加えた餌を1日与え、その後乳酸菌を含まない餌を与えたカイコの腸管内の生菌数を(計時的に)測定した。
その結果、乳酸菌を含まない餌を与えてから4日目のカイコの腸管内容物における生菌数は、1.4~3.9x108cfu/腸管内容物であり、カイコに摂食させた菌数(2.3x107cfu/カイコ)と比べて多かった。
以上の結果から、カイコの腸管内で乳酸菌Enterococcus faecalis 0831-07が増殖することを示され、カイコにおいて腸管内に単一種の生菌が検出される実験系が確立できた。よって、乳酸菌が腸管内に定着したノトバイオートカイコモデルが確立できた。
本実施例において、ノトバイオートカイコモデルを確立することができた。カイコは、実験動物として様々な利点があるので、探索研究に有用である。また、カイコの感染モデルや糖尿病モデルが既に確立されているので、ノトバイオートカイコモデルを用いて、感染症や糖尿病を予防又は治療するシーズとなる、ヒト等の生体に有用な菌の探索が可能になると期待できる。
Claims (6)
- (A)腸内細菌が検出されないカイコを調製する工程と、
(B)特定の乳酸菌を該腸内細菌が検出されないカイコの腸管内に定着させる工程と、
を含むことを特徴とするノトバイオートカイコの作製方法。 - 前記工程(A)が、カイコの卵を殺菌処理する工程を含む請求項1に記載のノトバイオートカイコの作製方法。
- 前記工程(B)が、前記特定の乳酸菌をカイコに給餌する工程を含む請求項1又は請求項2に記載のノトバイオートカイコの作製方法。
- 請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のノトバイオートカイコの作製方法を用いることを特徴とする菌のスクリーニング方法。
- 特定の乳酸菌のみが腸管内に定着しているノトバイオートカイコ。
- 請求項5に記載のノトバイオートカイコを用いることを特徴とする菌のスクリーニング方法。
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カイコと人間の共通は"免疫"~カイコ「ものさし」が乳酸菌、抗生物質の開発に活躍,エキサイトニュース,2016年01月07日,p.1-2,https://www.excite.co.jp/news/article/HealthPress_201601_post_2180/ |
伊藤喜久治,腸内細菌と動物実験系,化学と生物,日本,1994年,p.44-47,https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/32/1/32_1_44/_pdf |
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