JP7227615B2 - インフルエンザウイルスrnaポリメラーゼの変異型pb1 - Google Patents
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Description
[1]配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含む、インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの変異型Polymerase basic protein 1 (PB1);
[2]以下の(1)または(2)のアミノ酸配列を含む、[1]に記載の変異型PB1
(1)配列番号:4で表されるアミノ酸配列、
(2)配列番号:4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ配列番号:4のアミノ酸番号471~486で表される部分アミノ酸配列(配列番号:2)は残されている、アミノ酸配列;
[3][1]または[2]に記載の変異型PB1をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含むRNA;
[4][3]に記載のRNAを含むゲノムRNAを含む、変異型インフルエンザウイルス;
[5]A/Puerto Rico/8/1934(H1N1)株由来である、[4]に記載の変異型インフルエンザウイルス;
[6]以下の(1)および/または(2)のRNAをさらに含むゲノムRNAを含む、[4]または[5]に記載の変異型インフルエンザウイルス
(1)流行株由来のヘマグルチニン(HA)をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含むRNA、
(2)流行株由来のノイラミニダーゼ(NA)をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含むRNA;
[7]流行株がA/New York/4747/2009(H1N1)株およびA/Texas/50/2012(H3N2)株からなる群から選択される、[6]に記載の変異型インフルエンザウイルス;
[8][6]または[7]に記載の変異型インフルエンザウイルスを増殖させることによって得られる、変異型インフルエンザウイルスライブラリー;
[9]流行株に対する中和抗体と[8]に記載の変異型インフルエンザウイルスライブラリーを接触させ、感染性が中和されない変異型インフルエンザウイルスを選択することを含む、将来的に流行する可能性がある変異型インフルエンザウイルスのスクリーニング方法;
[10]流行株がA/New York/4747/2009(H1N1)株およびA/Texas/50/2012(H3N2)株からなる群から選択される、[9]に記載のスクリーニング方法;
を提供する。
(1)配列番号:4で表されるアミノ酸配列。
(2)配列番号:4で表されるアミノ酸配列と実質的に同一であって、かつ配列番号:4のアミノ酸番号471~486で表される部分アミノ酸配列(配列番号:2)は残されている、アミノ酸配列。
ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明の変異型PB1を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とする変異型PB1を製造することができる。
ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)および(2)に記載された方法に従って行われる。
(1)M. BodanszkyおよびM. A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966年)
(2)SchroederおよびLuebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965年)
上記方法で得られる本発明の変異型PB1が遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に本発明の変異型PB1が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
本発明の変異型PB1をコードするDNAとしては、合成DNAなどが挙げられる。例えば、インフルエンザウイルスより調製した一本鎖ゲノムRNA(マイナス鎖)を鋳型として用い、Reverse Transcriptase-PCR(以下、「RT-PCR法」と略称する)によって直接増幅したcDNA(プラス鎖)を、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(TAKARA BIO INC.)、MutanTM-K(TAKARA BIO INC.)等を用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することによって取得することができる。あるいは、上記したインフルエンザウイルスより調製した一本鎖ゲノムRNA(マイナス鎖)由来のcDNA(プラス鎖)断片を適当なベクター中に挿入して調製されるインフルエンザウイルスのcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、クローニングしたcDNAを、上記の方法に従って変換することによっても取得することができる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
配列番号:5(または配列番号:6)で表される塩基配列と実質的に同一の塩基配列としては、例えば、配列番号:5(または配列番号:6)で表される塩基配列において、配列番号:2(または配列番号:4)で表されるアミノ酸配列を変化させないような変異(silent mutation)を有する塩基配列などが含まれる。
例えば、本発明の変異型PB1をコードするRNAを含む、8本に分節化されたインフルエンザウイルスゲノムRNAを合成し、各インフルエンザウイルスゲノムRNAとインフルエンザウイルスから単離または組換えにより合成したPB1、PB2、PAおよびNPとを混合することによって、試験管内で再構成された8種類のvRNP複合体を取得することができる。得られた8種類のvRNP複合体を細胞に導入し、培養することによって、該細胞から本発明の変異型インフルエンザウイルスを単離、精製することが可能である(in vitro vRNP再構成法:Luytjes, W et al. Cell, 59, 1107-1113, 1989など)。
あるいは、プラスミドのみを用いて細胞内にvRNP複合体を再構成させる方法(プラスミドトランスフェクション法:Neumann, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 9345-9350, 1999)によっても、容易に本発明の変異型インフルエンザウイルスを回収することができる。プラスミドトランスフェクション法では、宿主細胞のRNAポリメラーゼI(Pol I)が結合できるプロモーター配列、本発明の変異型PB1をコードするRNAを含む8本に分節化されたインフルエンザウイルスゲノムRNAに相補的なDNA、およびターミネーター配列を含む8種類のインフルエンザウイルスゲノムRNA合成用プラスミド、並びにPB1、PB2、PAおよびNPを発現する4種類のインフルエンザウイルスタンパク質発現用プラスミドが同時に細胞にトランスフェクションされる。宿主細胞のRNAポリメラーゼI(Pol I)を利用することによって、インフルエンザウイルスゲノムRNA合成用プラスミドからCap構造やPoly Aなどが付加しない非修飾RNAが合成され、インフルエンザウイルスゲノムとして機能させることができる。また、ウイルスタンパク質発現用プラスミドに対しては、宿主細胞のRNAポリメラーゼII(Pol II)を利用することによって、各インフルエンザウイルスタンパク質のmRNAを転写させることができる。細胞内で合成された8本のインフルエンザウイルスゲノムRNAと各インフルエンザウイルスタンパク質はvRNP複合体を形成するため、該細胞を培養することによって、該細胞から本発明の変異型インフルエンザウイルスを単離、精製することが可能である。
また、本発明のインフルエンザウイルスタンパク質発現用プラスミドは、例えば、前記のPB1、PB2、PAまたはNPをコードするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、本発明のインフルエンザウイルスタンパク質をコードするDNAの5’末端側に付加(またはネイティブなシグナルコドンと置換)してもよい。例えば、インスリンシグナル配列、α-インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などがそれぞれ用いられる。
以上のようにして、細胞内で本発明の変異型インフルエンザウイルスを製造せしめることができる。
例えば、インフルエンザウイルスは硫酸化セルロースに吸着することが知られており、硫酸化セルロースビーズを1mlのカラムに詰め、培養上清から本発明の変異型インフルエンザウイルスをビーズに吸着させ、洗浄バッファで洗浄し、溶出バッファで本発明の変異型インフルエンザウイルスを溶出させ、回収することができる。ビーズ表面の硫酸エステル含有量や、溶出バッファの塩濃度は当業者が適宜決定することができる。あるいは、ショ糖濃度勾配遠心分離法によっても、培養上清中の本発明の変異型インフルエンザウイルスを分離、濃縮することができる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
(1)流行株由来のヘマグルチニン(HA)をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含むRNA。
(2)流行株由来のノイラミニダーゼ(NA)をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含むRNA。
流行株としては、公知の流行株であれば特に制限されないが、例えば、A/New York/4747/2009(H1N1)、A/Texas/50/2012(H3N2)などが挙げられる。A/New York/4747/2009(H1N1)株由来のHAおよびNAとしては、それぞれ配列番号:7で表されるアミノ酸配列および配列番号:8で表されるアミノ酸配列が挙げられる。また、A/Texas/50/2012(H3N2)株由来のHAおよびNAとしては、それぞれ配列番号:9で表されるアミノ酸配列および配列番号:10で表されるアミノ酸配列が挙げられる。
流行株に対する中和抗体は抗血清、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れであってもよい。これらの抗体は、自体公知の抗血清または抗体の製造法に従って製造することができる。
流行株に対する中和抗体を調製するために使用される抗原としては、上記した流行株自体、または該流行株由来のHA、NAまたはその部分ペプチドなど、何れのものも使用することができる。そのうち最も好ましい抗原は、流行株自体である。
抗血清、ポリクローナル抗体は、それ自体公知あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。抗原は、温血動物に対して、例えば腹腔内注入、静脈注入、皮下注射、皮内注射などの投与方法によって、抗体産生が可能な部位にそれ自体単独で、あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常1~6週毎に1回ずつ、計2~10回程度行われる。用いられる温血動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ニワトリが挙げられる。投与された該温血動物から流行株に対する抗体含有物を採取して、そのまま抗血清として使用することができる。血清中の抗体価の測定は、例えば標識化抗原と抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行うことができる。
(a)モノクローナル抗体産生細胞の作製
抗原自体、あるいはそれとキャリアータンパク質との複合体をつくり、上記の抗血清またはポリクローナル抗体の製造法と同様に温血動物に免疫を行うことによって、抗体産生細胞を得ることができる。モノクローナル抗体作製には一般にマウスおよびラットが好ましく用いられる。あるいは体外免疫法とウイルスによる細胞不死化、ヒト-ヒト(もしくはマウス)ハイブリドーマ作製技術等とを組み合わせることによっても、抗体産生細胞を得ることができる。体外免疫法に用いられる動物細胞としては、ヒトおよび上記した温血動物(好ましくはマウス、ラット)の末梢血、脾臓、リンパ節などから単離されるリンパ球、好ましくはBリンパ球等が挙げられる。
モノクローナル抗体の分離精製は、上記のポリクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行うことができる。
感染性が中和されない変異型インフルエンザウイルスは、流行株に対する中和抗体に接触し、抗原抗体反応を示さなかった変異型インフルエンザウイルスを選抜することによって取得することができる。流行株に対する中和抗体に対して抗原抗体反応を示さなかった変異型インフルエンザウイルスは、公知の手段で選抜することができ、例えば、プラークアッセイによって選抜することができる。プラークアッセイは具体的には、流行株に対する中和抗体に接触させた本発明の変異型インフルエンザウイルスライブラリーを単層培養細胞(一般的にMDCK細胞を用いる)に感染させたのち、寒天を加えた培地を重層させることにより、最初の感染細胞から出芽した子孫ウイルス粒子が隣接する細胞のみに感染する状態をつくる。その結果、初めに感染した細胞の周辺のみが細胞変性効果を起こし、死滅した細胞が集中してスポット状になる。そのスポット(プラークとも呼ばれる)には、死滅した細胞と共に感染性粒子も含まれているので、滅菌したチップ等を用いて各プラークから感染性が中和されない変異型インフルエンザウイルスを単離、回収することができる。本発明のスクリーニング方法によって選抜された感染性が中和されない変異型インフルエンザウイルスは、流行株に対する中和抗体によって中和されないため、将来的に流行する可能性がある変異型インフルエンザウイルスとなりうる。
以下において、本実施例で用いた材料および方法について記載する。
12-well plateに293T細胞を継代後、細胞密度が約50%になるまで培養した。ウイルスタンパク質発現プラスミド(pCAGGS-PB1、pCAGGS-PB2、pCAGGS-PAおよびpCAGGS-NP)およびモデルウイルスゲノム発現プラスミド(pHH-vNS-Luc)をDNAトランスフェクション試薬TransIT-LT1(Mirus)を用いて細胞に導入した。同時にpRL-SV40プラスミドもコトランスフェクションし、pRL-SV40(Promega)から発現するRenilla Luciferaseタンパク質によるルシフェラーゼ活性を測定することでサンプル間のプラスミド導入効率の標準化を行った。pCAGGS-PB1、pCAGGS-PB2、pCAGGS-PAおよびpCAGGS-NPからそれぞれ発現するPB1、PB2、PAおよびNPタンパク質が、pHH-vNS-Lucから発現するFirefly Luciferase遺伝子をコードするモデルウイルスゲノムに結合することで、細胞内でゲノムの転写/複製反応を誘導した。増幅されたモデルウイルスゲノムからの転写産物であるFirefly Luciferase mRNAからFirefly Luciferaseタンパク質が発現し、そのルシフェラーゼ活性を測定することでウイルスポリメラーゼ活性を定量した(参考文献:Nuclear MxA proteins form a complex with influenza virus NP and inhibit the transcription of the engineered influenza virus genome. Nucleic Acids Res. 2004, vol 32, p643-652)。なお、実施例1では、A/Puerto Rico/8/1934(H1N1)株(PR8株)の野生型PB1(PB1wt)または各変異型PB1(K471R, K471H, K479R, K479H, K480R, K480H, K481RまたはK481H)を発現するpCAGGS-PB1を用いた。
計算化学ソフトMF myPresto, version 3.2.0.33を使用した。ウイルスポリメラーゼの分子シミュレーションは、bat influenza virus polymerase(Protein Data Bank accession number: 4WSB)の構造情報を用いた(参考文献:Structure of influenza A polymerase bound to the viral RNA promoter. Nature. 2014, vol 516, p355-360)。
逆遺伝学的手法による組換えインフルエンザウイルスの作製方法は確立されており、定法に従ってPR8-PB1-K471Hウイルスを作出した(参考文献:Generation of influenza A viruses entirely from cloned cDNAs. Proc Natl Acad Sci U S A. 1999, vol 96, p9345-9350)。組換えウイルスの作出に必要となるウイルスゲノム発現プラスミドpPol-1R-PB1-K471Hは、pPol-1R-PB1-wild typeを基盤として、PR8株の野生型PB1(配列番号:3)の471番目のLys残基に対応するコドン配列AAGを、His残基に対応するコドン配列CACに置換することで作製した。AAGからCACへの変異の導入は、overlapping PCRにより行った。pPol-1R-PB1-wild typeプラスミドを鋳型として、2組のプライマーセット
(Set1:5’- GTGTGTCCTGGGGTTGACCAGA-3’ (配列番号:11)(pPol-For) および
5’- TTATCGAACCTGTCACCTACTTGGAATCAA-3’ (配列番号:12);
Set2: 5’- CATCGGTGATGTCGGCGATATAG-3’ (配列番号:13)(pPol-Rev) および
5’- TTGATTCCAAGTAGGTGACAGGTTCGATAA-3’ (配列番号:14))を用いて2つのDNA断片を合成後、それらDNA断片を混合し、さらにpPol-ForおよびpPol-Revプライマーを加えて再度PCRを行うことでPR8-PB1-K471H遺伝子の全長配列を増幅させた。PR8-PB1-K471H全長DNA断片(インサート)およびpPol-1R-empty(ベクター)を、制限酵素ApaIおよびXhoIで切断し、その後、ライゲーション反応によりインサートとベクターを結合させた。
組換えインフルエンザウイルス作出用のプラスミドセットにおいて、PB1ゲノム発現プラスミド(pPol-1R-PB1-wild type:別名pPol-1R-Seg2)をpPol-1R-PB1-K471Hに置き換えることでPR8-PB1-K471Hウイルスを作製した。6-well plateに293T細胞を継代後、細胞密度が約50%になるまで培養した。ウイルスタンパク質発現プラスミド(pCAGGS-PB1、pCAGGS-PB2、pCAGGS-PAおよびpCAGGS-NP)およびウイルスゲノム発現プラスミド(pPol-1R-Seg1、pPol-1R-PB1-K471H、pPol-1R-Seg3、pPol-1R-Seg4、pPol-1R-Seg5、pPol-1R-Seg6、pPol-1R-Seg7およびpPol-1R-Seg8)をDNAトランスフェクション試薬TransIT-LT1(Mirus)を用いて細胞に導入した。プラスミド導入24時間後にOpti-MEM(Thermo Fisher Scientific)へ培地を交換し、TPCK-treated trypsin(Sigma)を終濃度3.5 μg/mlになるように加えた。さらに48時間培養後、293T細胞から出芽した種ウイルスを増幅させるため、培養上清200 ulを発育鶏卵(11日卵)のしょう尿液中に接種し、34度で3日間培養した。培養後、発育鶏卵の殻を破り、シリンジを用いてしょう尿液を回収した。しょう尿液中に含まれるウイルス量は、0.5%ニワトリ赤血球を用いた赤血球凝集反応試験より定量した(参考文献:WHO Global Influenza Surveillance Network. 2011. Manual for the laboratory diagnosis and virological surveillance of influenza. World Health Organization, Geneva)。
6-well plateにMDCK細胞を継代後、細胞密度が100%になるまで培養した。PBS緩衝液を用いてウイルスが含まれるしょう尿液の10倍段階希釈系列(10-7希釈まで)を作製し、それぞれの希釈液から200 μlを取りMDCK細胞に感染させた。感染操作から1時間後に培地を取り除き、終濃度2.5 μg/ml TPCK-treated trypsin(Sigma)を含む0.8%アガロース溶液3 ml容量を重層した。34度で3日間培養後、アミドブラック10B溶液を用いて細胞染色を行うことで、ウイルス感染プラークを検出し、その数を測定することで感染性粒子数の定量を行った(参考文献:Plaque assay and primary isolation of influenza A viruses in an established line of canine kidney cells (MDCK) in the presence of trypsin. Med Microbiol Immunol. 1975, vol 162, p9-14; Replication and plaque assay of influenza virus in an established line of canine kidney cells. Appl Microbiol. 1968, vol 16, p588-594)。
発育鶏卵内で増幅させた野生型PR8ウイルスおよびPR8-PB1-K471HウイルスからRNAゲノムを抽出し、第8分節ゲノム(Seg8)を特異的に認識するプライマー(5’-AGCAAAAGCAGGGTGACAAAGACATA-3’:配列番号:15)を用いた逆転写反応によりSeg8 cDNAを合成した。Seg8 cDNAの5’-側から41-60番目の配列(5’-TGTGTCAAGCTTTCAGGTAG-3’:配列番号:16)および366-386番目の配列(5’-CCTCTTTGTATCAGAATGGAC-3’:配列番号:17)に対応するオリゴヌクレオチドに、次世代シーケンサー解析におけるサンプル識別用のタグ配列(下線配列)を融合させプライマーセットを設計した(Seg8 for, 5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGAGCACTGTAGTGTGTCAAGCTTTCAGGTAG-3’(配列番号:18);Seg8 rev, 5’-CTATGCGCCTTGCCAGCCCGCTCAGAGCACTGTAGGTCCATTCTGATACAAAGAGG-3’ (配列番号:19))。Seg8 cDNAを鋳型とし、Seg8 forおよびSeg8 revプライマーを用いたPCRを行うことでアンプリコンDNAを作製した。次世代シーケンサーGSJunior(454 Life Sciences, Roche)を用いてアンプリコンDNAのシーケンス解析を行い、得られた配列情報から変異導入効率の算出を行った(参考文献:Oseltamivir expands quasispecies of influenza virus through cell-to-cell transmission. Sci Rep. 2015, vol 5: 9163)。
インフルエンザウイルスと同様にウイルスRNA依存性RNAポリメラーゼによってゲノム複製を行うポリオウイルスを用いた過去の研究報告から、RNAポリメラーゼに存在するポリメラーゼモチーフD内のLys残基が、RNA合成反応時における忠実性制御(エラー導入頻度の制御)に関わることが明らかとなっている。インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼを構成するPB1に存在する同様のモチーフには、4つのLys残基が含まれており(図1、配列番号:3のアミノ酸番号:471、479、480および481)、PR8株のPB1の変異体解析によってこれらLys残基の機能意義の検討を行った。
インフルエンザウイルスのポリメラーゼ活性の測定は、培養細胞にレポーターウイルスゲノム発現プラスミドと一緒にPB1発現プラスミドをトランスフェクションするミニレプリコン系によって行った。471番目のLys残基をHis残基に置換した変異型PB1は、37度の培養温度条件ではポリメラーゼ活性が著しく低下していたが、34度の培養温度条件では野生型PB1と同程度の活性を保持していた(図2)。この結果から、PB1-K471H変異体をコードするウイルスは温度感受性株として増殖すると考えられ、ポリメラーゼ機能において何らかの改変が起きたことが考えられた。
これまでにPB1の三次元構造は報告されていることから、モデリングソフトを用いてLys471残基の位置を確認した結果、Lys471残基はRNA合成反応に必要となるヌクレオチドの取り込み口の近傍に配置していた(図3)。以上の結果から、Lys残基からHis残基への置換によるPB1の構造変化は、ポリメラーゼの忠実性制御に関わる機能変換の誘導に関与した可能性が示唆された。
逆遺伝学的手法を用いてPR8株のPB1の471番目のLys残基をHis残基に置換した組換えウイルスを作製して性状解析を行った。培養細胞にウイルスゲノム発現プラスミドをトランスフェクションすることにより、PB1野生株およびPB1-K471H株の種ウイルスを作製後、発育鶏卵を用いてウイルスの増幅を行った。それらウイルスについて、プラーク形成活性、ウイルス力価、増殖能力および赤血球凝集活性の測定を行った(図4、図5、図6および図7)。PB1-K471H株は、PB1野生株と比較してプラーク形成活性が低く、感染性粒子の産生能力も50~100倍低下していた。一方で赤血球凝集活性を示すHA価については、PB1野生株とPB1-K471H株はほぼ同じ値であった。赤血球凝集反応試験は、インフルエンザウイルスの粒子表面に存在するHAタンパク質がもつシアル酸結合活性を目視で評価でき、感染性および非感染性の有無を問わず単純にウイルス量を測定する実験系である。
以上の結果からPB1-K471Hウイルスは、PB1野生株と同程度の粒子濃度中において、感染性粒子の数が50~100倍少ないと考えられた。すなわち、PB1-K471H置換によってウイルスゲノムに高頻度にランダム変異が導入された可能性があり、その結果としてPB1野生株よりも低増殖性粒子または非感染性粒子の割合が向上したと考えられた。
次世代シーケンサーを用いて、PR8-PB1-K471Hウイルスの変異導入効率の検討を行った(図8)。インフルエンザウイルスゲノムの第8分節であるNS遺伝子を標的として、増幅過程においてウイルスゲノムに導入された「塩基挿入/欠損頻度」および「塩基置換頻度」を算出した。その結果、PB1-K471Hウイルスは、PB1野生株と比較して塩基挿入/欠損頻度が約8倍向上し、塩基置換頻度が約3.6倍向上していた。また、導入された変異部位における変換塩基の種類と割合を調べた結果、PB1-K471Hウイルスは塩基置換によってアミノ酸変異が生じやすいTransversion変異(特にpurine to pyrimidineの塩基置換)の割合が増加していることが明らかとなった(図9)。
以上の結果から、インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼサブユニットの1つであるPB1の471番目のLys残基をHis残基に置換したウイルスは、ゲノム複製時において変異が導入されやすく、ウイルス集団としてゲノム内に多様な変異をもつ「変異型インフルエンザウイルスライブラリー」を形成していると考えられた。
変異型インフルエンザウイルスライブラリーの元株となる流行株をマウスに免疫して抗血清(中和抗体)を作製後、以下の実験を行うことで将来的に流行するウイルスを単離する。
(I) in vitro 実験:試験管内において、抗血清と「変異型インフルエンザウイルスライブラリー」を反応させた後、中和されなかった「液性免疫からの逃避変異株」をプラークアッセイにより単離する。
(II) in vivo実験:マウスに現行の流行株を感染させることで発症、回復させた後、「変異型インフルエンザウイルスライブラリー」をチャレンジ感染させる。そして、マウス体内において中和されなかった「液性免疫および細胞性免疫からの逃避変異株」について、肺組織の抽出液からプラークアッセイにより単離する。
(III) 次世代シーケンサー解析:液性免疫(in vitro実験)および液性免疫+細胞性免疫(in vivo実験)により得られた各「“免疫逃避”変異型インフルエンザウイルスライブラリー」と、もとの「変異型インフルエンザウイルスライブラリー」から全ゲノムを抽出し、次世代シーケンサーを用いて網羅的にウイルス遺伝子の比較解析を行う。これまでに、ウイルス集団内において、ある変異株がコードする単一の塩基置換を検出する実験手法は確立されている(Visher et al. PLOS Pathogens, 2016)。そこで、プラークアッセイにおいてプラーク形成活性が低いため単離が難しかった免疫逃避変異株については、ゲノム配列情報から組換えウイルスを作製し、免疫逃避変異に関与するウイルス蛋白質とアミノ酸変異の同定を試みる。
単離した免疫逃避変異株の性状解析を行う。流行元株に対する中和抗体を用いた赤血球凝集抑制試験により抗原変異レベルを定量し、ゲノムシーケンス解析の結果と併せて抗原変異に関与したウイルスタンパク質およびアミノ酸部位を同定する。また、ゲノムシーケンス解析の結果をもとに標的抗原を作製してELISPOT法を行い、免疫逃避に関与するCTLエピトープ(CTL:Cytotoxic T Lymphocyte、細胞傷害性T細胞)を同定する。続いて、分離された免疫逃避変異株の増殖性を流行株と比較し、未来流行株になりうるか否かを検証する。
本出願は、日本で出願された特願2017-214983(出願日:平成29年11月7日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。
Claims (7)
- 以下の(1)または(2)のアミノ酸配列を含む、インフルエンザウイルスRNAポリメラーゼの変異型Polymerase basic protein 1 (PB1)
(1)配列番号:4で表されるアミノ酸配列、
(2)配列番号:4のアミノ酸番号471~486で表される部分アミノ酸配列(配列番号:2)は変化しておらず、かつ該部分アミノ酸配列以外のアミノ酸配列部分において配列番号:4で表されるアミノ酸配列と95%以上の同一性を有するアミノ酸配列。 - 請求項1に記載の変異型PB1をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含むRNA。
- 請求項2に記載のRNAを含むゲノムRNAを含む、変異型インフルエンザウイルス。
- A/Puerto Rico/8/1934(H1N1)株由来である、請求項3に記載の変異型インフルエンザウイルス。
- 以下の(1)および/または(2)のRNAをさらに含むゲノムRNAを含む、請求項3または4に記載の変異型インフルエンザウイルス
(1)流行株由来のヘマグルチニン(HA)をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含むRNA、
(2)流行株由来のノイラミニダーゼ(NA)をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含むRNAであって、
流行株がA/New York/4747/2009(H1N1)株およびA/Texas/50/2012(H3N2)株からなる群から選択される、変異型インフルエンザウイルス。 - 請求項5に記載の変異型インフルエンザウイルスを増殖させることによって得られる、変異型インフルエンザウイルスライブラリー。
- 流行株に対する中和抗体と請求項6に記載の変異型インフルエンザウイルスライブラリーを接触させ、感染性が中和されない変異型インフルエンザウイルスを選択することを含む、将来的に流行する可能性がある変異型インフルエンザウイルスのスクリーニング方法であって、流行株がA/New York/4747/2009(H1N1)株およびA/Texas/50/2012(H3N2)株からなる群から選択される、スクリーニング方法。
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内藤 忠相 ほか,インフルエンザウイルスのゲノム変異導入率を制御するRNAポリメラーゼの機能領域,第62回日本ウイルス学会学術集会プログラム・抄録集,2014年,p. 159:O1-5-11 |
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