JP7209187B2 - X線回折を利用した皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法 - Google Patents

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Description

本発明はX線回折を利用した皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法に関し、更に詳細には、皮膚におけるコラーゲン及びこれに結合するタンパク質や糖鎖からなる線維構造の加齢変化を、X線回折測定により評価する皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法に関する。
皮膚の外観は、そのヒトの印象を大きく左右する重要な要素である。特に、加齢に伴い増加するシワやタルミ、シミといった皮膚の変化は大きな問題であり、多くのヒトが大小様々な悩みを持っている。中でも、シワやタルミは、皮膚の真皮におけるコラーゲンを中心とした線維構造に大きく関係しており、これらの発生要因、改善方法を研究することには大きな需要がある。
皮膚の大部分を占める真皮は、細胞外マトリックスとこれを産生する線維芽細胞によって形成・維持されている。細胞外マトリックスは、真皮乾燥重量の約70%を占めるタンパク質であるコラーゲンを中心に、糖タンパク質(プロテオグリカン)やエラスチン、ヒアルロン酸等、多くの成分が相互作用して形成されている。
ヒトのコラーゲンは現在28種類に分類されているが、真皮に含まれるコラーゲンの約90%はI型コラーゲンである。I型コラーゲンの基本構造は3本のポリペプチド鎖がらせん構造を形成した線維状の分子であり、この分子が会合することによりコラーゲン線維が形成される。コラーゲン線維の直径は、コラーゲン線維を作っているコラーゲンの各型の割合やプロテオグリカン等によって決まるとされ、数十~百数十nm程度と言われている。この線維が更に会合することにより数~数十μmのコラーゲン線維束が作られる。
加齢に伴うコラーゲンの変化を調べる際に最も一般的な方法は、コラーゲンの量的変化を調べることである。皮膚においては、加齢に伴いコラーゲン量が減少することが知られており、線維芽細胞におけるコラーゲン産生の抑制や分解の亢進等がその要因とされる(非特許文献1)。一方で、コラーゲンが一定量存在していても、機能的に異常なコラーゲンが多く含まれており、その機能が果たされていない場合もある。例えば、糖化修飾や老化架橋等によりコラーゲンが質的に変化すると、古いコラーゲン線維の分解が抑制されてしまう。それ故、コラーゲンの質的な変化を調べることも大変重要である。
コラーゲンの質的な変化は、コラーゲンの構造の変化に起因している。コラーゲンの構造を観察するための方法としては、顕微鏡観察とX線散乱測定が利用できる。顕微鏡観察には、電子顕微鏡又は光学顕微鏡が利用できる。
電子顕微鏡観察は、高い分解能を利用して微細な構造を評価できる利点がある。この手法を用いれば、コラーゲン線維の線維軸に沿う65nm周期の縞模様や数十~百数十nmのコラーゲン線維の直径まで観察できる。動物や組織の種類によっても異なるが、コラーゲン線維の直径は、胎児期からの成長に伴い長くなり、その後、老化に伴い短くなることが、電子顕微鏡を用いたラット尾の腱組織の観察により報告されている(非特許文献2)。しかし、試料の状態に関して、固定や乾燥、導電性の面で制限が多い点が問題となる。即ち、真空環境での観察となるため、試料の水分が失われてしまう点が大きな課題である。低真空の電子顕微鏡も開発されてはいるが、真空環境であることには変わりなく、水分を多く含んだ動物組織の観察にはまだまだ課題が多い。
光学顕微鏡観察は、試料の自由度が高く、染色等の可視化も容易である。加えて、SHG(第二高調波発生光)を利用すれば染色無しにコラーゲンを観察することができ、コラーゲンがどちらを向いているか(配向性)等も観察できる。しかし、光学顕微鏡は、電子顕微鏡ほど分解能が高くない点が課題である。光学顕微鏡を用いてコラーゲンを観察している場合、直径が数~数十μmのコラーゲン線維束の観察や、コラーゲン線維の位置(局在)や長さの観察が中心であり、数十~百数十nmのコラーゲン線維の直径を評価することはできない。
X線散乱測定は、X線を物質に照射し、散乱するX線を検出器で読み取ることにより、物質の構造情報を得る分析手法である。この内、散乱角2θが10°以下の散乱X線を測定するものを小角X線散乱測定と言い、一般的に1~100nm程度の構造を測定する。更に小さな散乱角の散乱X線を測定し、より大きな構造を観察する手法は、極小角X線散乱測定と呼ばれる。
物質が結晶構造や周期構造等、特定の条件を満たす構造を有する場合、散乱X線が干渉・増幅されてX線回折が得られる。例えば、コラーゲン線維の小角X線散乱測定を行うと、電子顕微鏡で観察される線維の縞模様に由来する特徴的なX線回折を観察することができる。乾燥状態において65nmの周期を持つこの構造は、湿潤状態において67nmであることがX線回折により確認されており、生体構造において水が大きく影響することが窺える。
X線散乱測定を用いて皮膚を観察すると、コラーゲン線維の円筒形の形に由来した散乱が得られる。これは、コラーゲン線維の直径とコラーゲン線維の詰まり具合(パッキング)に依存すると考えられている(非特許文献3)。同様の散乱は、心膜のコラーゲン組織にも観察される(非特許文献4)。従って、皮膚や心膜には、コラーゲン線維の縞模様のX線回折以外にも、特徴的な回折が報告されている。
X線散乱測定を用いた加齢皮膚の観察において、コラーゲン線維の縞模様に由来する回折の異方性が低下することから、加齢によりコラーゲン線維の配向性が悪くなる(あちらこちらに向いて並ぶ)ことが報告されている(非特許文献5)。しかし、水を含む皮膚組織において、コラーゲン線維の直径に由来するX線回折の加齢変化は未だ報告されていない。
Shuster S et. al., Br. J. Dermatol., 93,639-642, 1975 Parry DA et. al., Proc R Soc Lond B Biol Sci. 203(1152) 305-321, 1978 Merigoux C et. al., Newsletter, 18-19, 1997 Sizeland KH et. al., Biomed Res Int. 2014, 2014 Cocera M et. al., Soft Matter, 7, 8605-8611, 2011
本発明は、コラーゲン線維の直径という微細な構造の加齢変化を、より生体に近い湿潤な皮膚組織を用いて簡便に評価することを課題とする。
本発明者らは、この問題点を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、水分量が20%以上の皮膚組織のX線回折を測定することにより、コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークが明確な加齢変化を示すことを発見し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)水分量が20%以上の皮膚組織を対象としてX線散乱測定を行い、該X線散乱測定により得られたX線散乱プロファイルに出現する回折ピークの位置からコラーゲン線維の直径を算出してコラーゲン線維構造の老化度を評価する、皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法。
(2)回折ピークの位置が散乱ベクトルq=0.05~0.30nm-1の範囲にある(1)記載の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法。
(3)コラーゲン線維の直径が100~130nmである(1)又は(2)記載の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法。
(4)コラーゲン線維の直径の減少を指標とする(1)~(3)いずれか一項記載の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法。
本発明に記載の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法を用いることにより、電子顕微鏡観察において問題になる組織の乾燥や、光学顕微鏡観察において問題となる分解能の低さを解消して、湿潤な皮膚組織の微細なコラーゲン線維構造を測定することができる。又、顕微鏡観察よりも広域な範囲の構造情報が一度に得られるX線散乱測定を行うことにより、生体により近い湿潤環境における皮膚コラーゲン線維の構造情報が一度に数値データとして取得でき、その数値の大小によりコラーゲン線維構造の老化度を簡便に評価することが可能となった。
実施例1に記載の湿潤なブタ皮膚のX線散乱プロファイル 実施例2に記載のドナー年齢の異なる湿潤なヒト皮膚のX線散乱プロファイル 実施例2に記載のドナー年齢とコラーゲン線維の直径との相関性を示した散布図 実施例3に記載の乾燥処理により変化する湿潤なヒト皮膚のX線散乱プロファイル
本発明の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法は、水分量が20%以上の皮膚組織を対象としてX線散乱測定を行うものである。本発明の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法は、X線散乱測定から得られたX線散乱プロファイルの散乱ベクトルq=0.05~0.30nm-1の範囲に出現する回折ピークの位置からコラーゲン線維の直径を算出して皮膚コラーゲン線維構造の老化度を評価できる。
本発明の皮膚組織は、特に限定されないが、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類及び魚類由来の皮膚組織を用いることができる。その中でも、哺乳類の皮膚組織が好ましく、ヒト、ブタの皮膚組織がより好ましく、ヒトの皮膚組織が更に好ましい。皮膚組織は、外科的手法やBiopsy等により生体から採取することができる。又、本発明は皮膚組織以外に、コラーゲンを産生する培養細胞を培養して得られる三次元培養皮膚組織に応用することもできる。特に限定されるものではないが、例えば、ヒト、マウス、ラットの皮膚組織由来の線維芽細胞を培養して得られる三次元培養皮膚組織も利用できる。
本発明の皮膚組織の水分量とは、皮膚組織の含水質量であり、重量百分率(重量%、w/w)で表す。水分量の測定方法は、特に限定されないが、カール・フィッシャー法、加熱乾燥法、蒸留法、近赤外分光分析法、電気水分計法、ガスクロマトグラフ法等を利用することができる。その中でも、カール・フィッシャー法、加熱乾燥法が好ましく、カール・フィッシャー法がより好ましい。カール・フィッシャー法は、日本薬局方や医薬部外品原料規格、国際規格(ISO)等に水分測定法として規定されており、容量滴定法と電量滴定法が利用できる。その中でも、電量滴定法がより好ましい。カール・フィッシャー電量滴定法は、水が塩基とアルコールの存在下でヨウ素、二酸化炭素と反応するカール・フィッシャー反応を利用しており、ヨウ化物イオンを含む電解質中で、電解によりヨウ素を発生させることで、その電解に要する電気量から水分量を換算するものである。
X線散乱測定には、皮膚コラーゲン線維構造を測定可能な公知の装置を特に制限なく用いることができるが、好ましくは、X線の光源として輝度が高いNANO-Viewer(リガク社製)やSAXSpace(アントンパール社製)が良く、さらに好ましくは、X線の光源として輝度が高く指向性の良い放射光(シンクロトロン光)を用いるとよい。例えば、SPring-8のBL19B2や、あいちシンクロトロン光センターのBL8S3等が挙げられる。
皮膚組織のX線散乱測定により得られるX線散乱像は、標準試料にベヘン酸銀(格子定数d=5.838nm)等を用いて一次元化する。即ち、横軸を散乱ベクトルq、縦軸をピーク強度としてプロットし、強度変化をグラフで表す。これをX線散乱プロファイルと呼び、ピーク位置や強度の変化を数値化することができる。一次元化する方法として、例えばCrystalClear(リガク社製)、SAXSquant(アントンパール社製)、FIT2D(ESRF製)等の市販の解析ソフトを用いることができる。
散乱ベクトルqは、散乱X線の散乱角を2θ、照射するX線の波長をλとすると、q=4πsinθ/λで表される散乱ベクトルの大きさのことを言う。
X線散乱プロファイルの散乱ベクトルq=0.05~2.00nm-1の範囲からは、コラーゲン線維の周期構造に由来する回折ピークが得られる。具体的には、次の2種類の回折ピークが得られる。
1つは良く知られたコラーゲン線維に由来する回折ピークである。散乱ベクトルq=0.09~2.00nm-1の範囲からは、コラーゲン線維の線維軸に沿った縞模様の周期構造に由来する回折ピーク群が得られる。この周期構造の大きさは、動物や組織の種類によっても異なるが、65nm前後であるとされる。これらのピーク位置は、皮膚組織において、加齢により変化することはない。一方で、組織の乾燥が進むと、組織の収縮に依存してコラーゲン線維も縮む為、これらのピーク位置は散乱ベクトルqが大きくなる方向へシフトする。
これよりも少し大きな構造に相当する散乱ベクトルq=0.05~0.30nm-1の範囲からは、水分量が20%以上の皮膚組織に特徴的に存在する構造に由来する回折ピーク群が得られる。これらの回折ピークは、コラーゲン線維の直径に由来すると考えられる。コラーゲン線維の直径は、動物や組織の種類によっても異なるが、40~150nm程度であるとされる。これらのピーク位置は、加齢に伴い散乱ベクトルqが大きくなる方向へシフトする。即ち、加齢によりコラーゲン線維の直径が短くなる。コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークは組織の乾燥により容易に失われる為、本評価法においては、X線散乱測定に際して皮膚組織を乾燥から防ぐことが重要である。又、乾燥により回折ピークが消失することを踏まえると、コラーゲン線維や線維に結合するタンパク質及び糖タンパク質の水和構造がコラーゲン線維の直径に由来する回折ピークを維持していると考えられる。
本発明のコラーゲン線維の直径は、加齢により変化する。本発明の実施例からは、年齢をx歳とすると、(-0.2504x+126.37)nmであることが示唆されている。従って、本発明のコラーゲン線維の直径は、0~100歳を考慮して100~130nmが好ましく、20~80歳を考慮して106~122nmがより好ましく、実測値を考慮して110~120nmが更に好ましい。
本発明のコラーゲン線維の直径に由来する回折ピークを観察する為の皮膚水分量は、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、70%以上が更に好ましい。乾燥を防ぐ手段としては、特に限定されるものではないが、例えば、溶液セルを用いて生理食塩水等の溶液中にある皮膚を測定したり、細切した皮膚をガラス管に封じて水分の蒸発を防ぎつつ測定したりすることができる。
本発明の回折ピークの位置とは、X線散乱プロファイルにおけるピークの頂点の散乱ベクトルq(横軸)の値である。この値q(nm-1)からは実空間における構造の大きさd(nm)が算出できる。この両者には、Braggの式を書き換えたd=2π/qの関係がある。回折の場合、1つの構造から複数のピークが観察されるが、1次ピークの位置がその構造の実際の大きさを示している。又、本発明の老化度とは、真皮におけるコラーゲン線維構造の衰えの程度であり、コラーゲン線維の直径の値を元に算出される年齢のことである。
本発明者らは、水分量が20%以上の皮膚組織に特徴的に観察される散乱ベクトルq=0.05~0.30nm-1の範囲に出現する回折ピークの位置及びこれらから算出されるコラーゲン線維の直径と、皮膚組織のドナー年齢との間に明確な相関関係があることを発見し、皮膚コラーゲン線維構造の老化度を評価できることを見出した。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらに限定されるものではない。
実験例1 ブタ皮膚組織を用いたX線散乱測定試験
ブタ皮膚(Yucatan micro pig皮膚、日本チャールズ・リバー社製)を細切し、カプトン膜の透過窓が付いた2mm厚の溶液セルに封じ、湿潤状態を保った。これを測定試料とし、SPring-8のBL19B2を用い、小角及び極小角X線散乱測定を行った。測定条件は、X線エネルギー18keV、カメラ長3m及び42mとし、検出器はイメージングプレートR-AXIS(リガク社製)を使用した。カメラ長の校正には、ニワトリ腱由来のコラーゲンを使用した。得られたX線散乱像は、FIT2D(ESRF製)を用いて一次元化した。即ち、横軸を散乱ベクトルq、縦軸をピーク強度としてプロットして、X線散乱プロファイルを得た。
得られたX線散乱プロファイルを図1に示した。湿潤な状態のブタ皮膚には、コラーゲン線維軸に沿った縞模様の周期構造に由来する良く知られた回折ピーク(1st、3rd、5th・・・)に加えて、散乱ベクトルq=0.05~0.30nm-1の範囲にコラーゲン線維の直径に由来する回折ピーク(枠付き1st、2nd、3rd、4th)が観察された。
実験例2 ヒト皮膚組織を用いたX線散乱測定試験(ドナー年齢による影響)
ドナー年齢の異なる4名分のヒト皮膚(Caucasian、Biopredic International社製)を細切し、2mm径のガラスキャピラリーに封じ、湿潤状態を保った。これを測定試料とし、あいちシンクロトロン光センターのBL8S3を用い、小角X線散乱測定を行った。測定条件は、X線エネルギー8.2keV、カメラ長4mとし、検出器はイメージングプレートR-AXIS(リガク社製)を使用した。カメラ長の校正には、ベヘン酸銀を使用した。得られたX線散乱像は、FIT2D(ESRF製)を用いて一次元化した。即ち、横軸を散乱ベクトルq、縦軸をピーク強度としてプロットして、X線散乱プロファイルを得た。
得られたX線散乱プロファイルの散乱ベクトルq=0.035~0.37の範囲のデータを抽出した後、多項式を用いてベースラインをフィッティングして補正したものを図2に示した。コラーゲン線維軸に沿った縞模様の周期構造に由来する回折ピークの位置は、ドナーの年齢に関わらず、同じであった(1st及び3rd)。一方、コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークの位置は、ドナーの年齢に対応して、明確に変化した(枠付き1st、2nd、3rd、4th、5th)。
コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークの中でも、ピークの重なりが無視できて両端が明瞭である3次ピークの位置を元に、実空間におけるコラーゲン線維の直径を算出した。実空間における大きさd(nm)は、Braggの式を書き換えたd=2π/qにて得られる。この数値に回折の次数である3をかけてコラーゲン線維の直径(nm)とした。得られたコラーゲン線維の直径を表1に示した。
Figure 0007209187000001
横軸をドナー年齢、縦軸を構造の大きさとしてプロットしたグラフを図3に示した。3次回折のピーク位置から算出したコラーゲン線維の直径は、ドナー年齢と負の相関を示した。この相関は、統計学的に有意なものであった。従って、コラーゲン線維の直径の減少を指標とすることにより、コラーゲン線維構造の老化度を評価することができる。
実験例3 ヒト皮膚組織を用いたX線散乱測定試験(乾燥処理による影響)
細切したヒト皮膚(Caucasian、Biopredic International社製)を測定試料とし、あいちシンクロトロン光センターのBL8S3を用い、小角X線散乱測定を行った。本実験では試料に風を当て、乾燥させながら、同じ試料を経時的に測定した。尚、測定条件や一次元化等の方法は、実施例2と同様である。
得られたX線散乱プロファイルの散乱ベクトルq=0.035~0.52の範囲のデータを抽出し、図4に示した。コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークは、乾燥処理10分後、20分後と次第に弱まり、乾燥処理30分後には消失した(枠付き1st、2nd、3rd、4th)。この次に、コラーゲン線維の線維軸に沿った縞模様の周期構造に由来する回折ピークの幅が右へと広がり、周期の大きさが小さくなり始めた(1st、2nd、3rd、5th)。即ち、コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークは乾燥に非常に弱く、組織の乾燥に伴うコラーゲン線維の縞模様構造の収縮よりも早くに消失した。
同様の乾燥処理を行った皮膚組織について、カール・フィッシャー水分計(AQ-7、平沼産業社製)を用いて水分量を測定した。発生液にはアクアライトRS(関東化学社製)、対極液にはアクアライトCN(関東化学社製)を用い、定められた方法に従って測定を行った。得られた水分量(重量%)を表2に示した。
Figure 0007209187000002
コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークの中でも1次回折がまだ見える乾燥処理20分後の皮膚組織においては、水分量は22.1%であった。コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークが消失した乾燥処理30分後の皮膚組織においては、水分量が5.8%であった。従って、皮膚水分量が少なくとも22.1%あれば、コラーゲン線維の直径に由来する回折ピークを観察できた。
本発明の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法は、生体により近い湿潤環境における皮膚コラーゲン線維の構造情報を数値データとして取得し、その数値の大小によりコラーゲン線維構造の老化度を簡便に評価するものである。この皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法は、化粧品素材や医薬品等のコラーゲン線維構造に及ぼす影響の評価や、三次元培養皮膚組織におけるコラーゲン線維構造の老化度評価等に利用できる。

Claims (4)

  1. 水分量が20%以上の皮膚組織を対象としてX線散乱測定を行い、該X線散乱測定により得られたX線散乱プロファイルに出現する回折ピークの位置からコラーゲン線維の直径を算出してコラーゲン線維構造の老化度を評価する、皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法。
  2. 回折ピークの位置が散乱ベクトルq=0.05~0.30nm-1の範囲にある請求項1記載の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法。
  3. コラーゲン線維の直径が100~130nmである請求項1又は2記載の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法。
  4. コラーゲン線維の直径の減少を指標とする請求項1~3いずれか一項記載の皮膚コラーゲン線維構造の老化度評価法。

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