[1.実施の形態]
[1.1 実施の形態1]
[1.1.1 構成]
図1は、実施の形態1の量産支援システム1の構成例のブロック図である。図1の量産支援システム1は、有体物の製品の量産を計画しているユーザに、製品そのもの又は製品の部品の形成のための材料を提供するために利用される。特に、量産支援システム1は、予め用意された既存の材料からユーザの要望に近い特性を持つ材料を提供するというよりは、ユーザの要望に合う特性を持つ材料を新たに設計して提供する。材料としては、金属材料、樹脂材料、半導体材料、ガラス材料、セラミックス材料等の各種の材料が挙げられる。材料の特性は、例えば、比重、強度、伸び、熱伝導率、電気伝導率、透磁率、透過率等の各種の特性が挙げられる。
図1の量産支援システム1は、ユーザの要求仕様に基づいて材料の設計、試作、及び量産を実行することで、ユーザの要求仕様を満たす材料を提供する。そのため、図1に示すように、量産支援システム1は、仮想製造システム2と、試作管理システム3と、量産管理システム4と、通信装置5とを備える。図1の量産支援システム1では、仮想製造システム2、試作管理システム3、量産管理システム4、及び通信装置5は、通信ネットワーク6を介して通信可能に接続される。通信ネットワーク6は、インターネットを含み得る。通信ネットワーク6は、単一の通信プロトコルに準拠したネットワークだけではなく、異なる通信プロトコルに準拠した複数のネットワークで構成され得る。通信プロトコルは、周知の様々な有線及び無線通信規格から選択され得る。有線通信規格の例としては、イーサネット(登録商標)等の規格が挙げられる。無線通信規格の例としては、IEEE802.11、4G、又は5G等の規格が挙げられる。通信ネットワーク6は、リピータハブ、スイッチングハブ、ブリッジ、ゲートウェイ、ルータ等のデータ通信機器を含み得る。
[1.1.1.1 仮想製造システム]
仮想製造システム2は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の設計を行う。仮想製造システム2は、実空間では材料の製造を実施せず、コンピュータ内(電脳空間、サイバー空間)において材料の製造をして、材料の特性及び材料の実現可能性の評価を行う。つまり、仮想製造システム2では、設計条件に基づいて材料が実際に作製されることなく、コンピュータによる演算により、材料の特性及び材料の実現可能性が算出される。仮想製造システム2は、実空間の工場と対比すれば、サイバー空間の工場であるといえる。
図2は、仮想製造システム2の構成例のブロック図である。図2の仮想製造システム2は、入出力装置21と、通信回路22と、記憶装置23と、演算回路24とを備える。仮想製造システム2は、例えば、1又は複数のサーバで実現される。
入出力装置21は、仮想製造システム2への情報の入力のための入力装置、及び、仮想製造システム2からの情報の出力のための出力装置としての機能を有する。入出力装置21は、例えば、1以上のヒューマン・マシン・インタフェースを備える。ヒューマン・マシン・インタフェースの例としては、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、トラックボール等)、タッチパッド等の入力装置、ディスプレイ、スピーカ等の出力装置、タッチパネル等の入出力装置が挙げられる。
通信回路22は、外部装置又はシステムと通信可能に接続される。通信回路22は、通信ネットワーク6を通じた試作管理システム3、量産管理システム4、及び通信装置5との通信に用いられる。通信回路22は、1以上の通信インタフェースを備える。通信回路22は、通信ネットワーク6に接続可能であり、通信ネットワーク6を通じた通信を行う機能を有する。通信回路22は、所定の通信プロトコルに準拠している。所定の通信プロトコルは、周知の様々な有線及び無線通信規格から選択され得る。
記憶装置23は、演算回路24が利用する情報及び演算回路24で生成される情報を記憶するために用いられる。記憶装置23は、1以上のストレージ(非一時的な記憶媒体)を含む。ストレージは、例えば、ハードディスクドライブ、光学ドライブ、及びソリッドステートドライブ(SSD)のいずれであってもよい。また、ストレージは、内蔵型、外付け型、及びNAS(network-attached storage)型のいずれであってもよい。なお、仮想製造システム2は、複数の記憶装置23を備えてよい。複数の記憶装置23には情報が分散されて記憶されてよい。
記憶装置23に記憶される情報は、予測モデルLM1と、材料評価情報D1と、材料データベースDB1を含む。図2では、記憶装置23が、予測モデルLM1と、材料評価情報D1と、材料データベースDB1との全てを記憶している状態を示している。予測モデルLM1と、材料評価情報D1と、材料データベースDB1とは常に記憶装置23に記憶されている必要はなく、演算回路24で必要とされるときに記憶装置23に記憶されていればよい。
演算回路24は、仮想製造システム2の動作を制御する。演算回路24は、入出力装置21及び通信回路22に接続され、記憶装置23にアクセス可能である。演算回路24は、例えば、1以上のプロセッサ(マイクロプロセッサ)と1以上のメモリとを含むコンピュータシステムにより実現され得る。1以上のプロセッサが(1以上のメモリ又は記憶装置23に記憶された)プログラムを実行することで、演算回路24としての機能を実現する。プログラムは、ここでは記憶装置23に予め記録されているが、インターネット等の電気通信回線を通じて、又はメモリカード等の非一時的な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
演算回路24は、材料の設計を行う機能を有する。演算回路24は、例えば、図3に示す設計方法を実行する。図3は、仮想製造システム2が実行する設計方法の一例のフローチャートである。
図3の設計方法は、予測処理S11と、決定処理S12と、生成処理S13とを含む。
予測処理S11は、候補材料の設計条件を予測モデルLM1に入力することによって予測モデルLM1から候補材料の特性の予測値を取得する。候補材料は、量産支援システム1での量産の候補となる材料である。候補材料の成分及び特性の目標は、例えば、ユーザの要望に応じて決定される。
予測モデルLM1は、材料の設計条件の入力に対して材料の特性の予測値を出力するように構成される。予測モデルLM1は、材料の設計条件を説明変数、材料の特性の値を目的変数とするモデルである。材料の設計条件は、材料の構造及び組成に関するデータと、材料の製造方法に関するデータとの少なくとも一方を含む。材料の構造及び組成に関するデータは、材料に対する実験等から得られる。材料の構造及び組成に関するデータは、例えば、材料の化学式、及び材料に含まれる各成分の量を含む。材料の構造及び組成に関するデータは、必要に応じて、XRD等のベクトルデータ、又はSEM等の画像データを含んでよい。材料の製造方法に関するデータは、例えば、材料の製造に用いるプロセス及びプロセスで用いるパラメータを含む。このようなプロセスの一例としては、熱処理があり、プロセスで用いるパラメータは、熱処理の温度である。
本実施の形態では、予測モデルLM1は、材料の設計条件の入力に対して材料の特性の予測値を出力するように学習された学習済みモデルに基づいて生成される。予測モデルLM1は、材料の設計条件の入力に対して材料の特性の予測値を出力するように学習された学習済みモデルそれ自体であってもよいし、当該学習済みモデルの再利用モデル又は蒸留モデルであってもよい。例えば、予測モデルLM1は、材料の設計条件を入力、材料の特性の値を正解とする学習用データセットを用いた教師あり学習を実行することによって生成される学習済みモデルである。学習済みモデルは、学習済みパラメータが組み込まれた推論プログラムである。推論プログラムは、例えば、回帰モデルである。回帰モデルの例としては、決定木、線形回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ガウス過程回帰、ニューラルネットワーク等が挙げられる。線形回帰の例としては、多重線形回帰、リッジ(Ridge)回帰、ラッソ(Lasso)回帰が挙げられる。学習済みパラメータは、学習用データセットを学習用プログラムに対して入力することで、一定の目的のために機械的に調整されることで生成される。
なお、予測モデルLM1は、データ科学の技術を利用する学習済みモデルに限らず、理論科学、実験科学、及び計算科学(シミュレーション)の少なくとも一つに基づいて設計されるモデルから構築されてもよい。このようなモデルは、材料に応じて調整される調整パラメータを含む。調整パラメータは、文献等に記載される代表的な値でもよいし、過去の材料設計のデータに基づく合わせ込みで調整されてもよい。
予測処理S11は、候補材料についての要求仕様情報に基づいて候補材料の設計条件を決定する。要求仕様情報は、通信装置5から仮想製造システム2に送信される。要求仕様情報は、候補材料の設計条件の制約条件と候補材料の特性の目標とを含む。候補材料の設計条件の制約条件は、材料の構造及び組成に関する制約と、材料の製造方法に関する制約との少なくとも一方を含む。材料の構造及び組成に関する制約は、例えば、候補材料に用いる成分の条件、及び、候補材料に用いてはいけない成分の条件を含み得る。一例として、材料の構造及び組成に関する制約は、候補材料における成分の含有量の範囲を含んでよい。材料の製造方法に関する制約は、例えば、材料の製造に用いる方法の条件、及び、材料の製造に用いてはいけない方法の条件を含み得る。一例として、材料の製造方法に関する制約は、加熱時の温度の許容範囲を含んでよい。予測処理S11は、候補材料の設計条件の制約条件に基づいて、候補材料の設計条件を決定することができる。候補材料の特性の目標は、例えば、1以上の特性の目標値を含んでよい。
予測処理S11は、候補材料の設計条件を予測モデルLM1に入力することによって予測モデルLM1から候補材料の特性の予測値を取得する。予測処理S11の結果は、候補材料の設計条件と、設計条件に対応する候補材料の特性の予測値とを含む。
決定処理S12は、予測処理S11の結果に基づいて候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内にある候補設計条件を決定する。決定処理S12は、要求仕様情報に基づいて候補材料の特性の許容範囲を決定する。上述したように、要求仕様情報は、候補材料の設計条件の制約条件と候補材料の特性の目標とを含む。決定処理S12は、候補材料の特性の目標に基づいて、候補材料の特性の許容範囲を決定することができる。
決定処理S12は、候補設計条件を決定するにあたっては、予測処理S11の結果から得られる候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内にあるかどうかの判別を行う。一例として、予測処理S11は、候補材料について予め複数の設計条件について予測モデルLM1より候補材料の特性の予測値を求めてよい。決定処理S12は、複数の設計条件のうち、候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内にある設計条件を、候補設計条件として選択してよい。別例として、決定処理S12は、最適化手法により、候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内にある候補設計条件を決定してよい。つまり、決定処理S12は、予測処理S11を繰り返すことによって候補設計条件を決定してよい。決定処理S12は、予測処理S11の結果から、候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内にない場合に、新たに設計条件を設定し、この設計条件に基づいて予測処理S11を実行させる。決定処理S12は、予測処理S11を繰り返すことで、候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内にある設計条件を探索する。これは、設計条件をX、予測値をf(X)、所定の材料の特性の許容範囲の目標値Y0とすると、X=argminX|Y0-f(X)|により設計条件Xを決定することができる。なお、予測処理S11は、予測モデルLM1から出力される候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内になるまで繰り返されてもよいが、繰り返し回数の上限が定められていてもよい。つまり、繰り返し回数が上限に達した時点で、予測モデルLM1から出力される候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内になったとみなしてよい。
生成処理S13は、候補設計条件に基づいて材料評価情報D1を生成する。材料評価情報D1は、候補設計条件に対応する候補材料の特性の予測値を含む。材料評価情報D1は、候補設計条件に基づいて製造される候補材料の試作品の特性の値が候補材料の特性の許容範囲内にある可能性(以下、必要に応じて「実現可能性」という)を示す評価値を含む。さらに、材料評価情報D1は、候補設計条件の情報を含んでよい。
候補設計条件に対応する候補材料の特性の予測値は、候補設計条件を予測モデルLM1に入力することで得られる。予測処理S11において、候補設計条件に対応する候補材料の特性の予測値が求められている場合には、予測処理S11で求められた候補設計条件に対応する候補材料の特性の予測値を利用してよい。
実現可能性は、実際に候補設計条件に基づいて候補材料の試作品を作製した場合に、試作品の特性の値が候補材料の特性の許容範囲内に収まる可能性である。実現可能性は、予測モデルLM1に入力される候補材料の設計条件(つまり、候補設計条件)と既存の材料の設計条件との差が小さいほど高く設定される。既存の材料の設計条件は、実際に製造可能であることが確認された材料の設計条件である。
実現可能性は、例えば、ガウス過程回帰のような確率付きの予測が可能な機械学習手法により構築された学習済みモデルを用いることで得られ得る。ガウス過程回帰によれば、予測値に対する確率分布が得られる。予測値に対する確率分布から、予測値が候補材料の特性の許容範囲に収まる確率を求めることができる。予測値が候補材料の特性の許容範囲に収まる確率を、実現可能性として利用することができる。例えば、予測モデルLM1を、ガウス過程回帰に基づいて構築することで、候補材料の特性の予測値と、実現可能性の演算に必要な確率分布とが同時に得られる。
ガウス過程回帰を用いる場合の例について簡単に説明する。例えば、モデル(例えば、y=f(x)+ε)に対して訓練データD=(X,y)が与えられる。Xは、n個の訓練データxiのまとまりであり、各訓練データxiはm次元のベクトルである。この場合、Xは次式で与えられる。
yは、各訓練データxiに対応する正解データであり、次式で表される。
ガウス過程回帰による予測は、訓練データD=(X,y)が既知であるときに、新しいデータX*=[x1
*,x2
*,x3
*,…,xl
*]が追加された場合にそれと対になるy*=(y1
*,y2
*,y3
*,…,yl
*)Tの分布はどのようなものになるか、ということである。これは、新しいデータX*=[x1
*,x2
*,x3
*,…,xl
*]に対応するy*=(y1
*,y2
*,y3
*,…,yl
*)Tの条件付き確率分布p(y*│X*,X,y)を求めることに等しい。
条件付き確率分布p(y*│X*,X,y)は、ガウス過程の定式によれば次のように与えられる。
μ*は、平均であり、μ*=K(X*,X)T(K(X,X)+σy
2I)-1yである。σ*
2は、分散であり、σ*
2=K(X*,X*)-K(X*,X)T(K(X,X)+σy
2I)-1K(X*,X)である。なお、式中のKについてはカーネル関数k(x,x’)を用いて以下の式で表す。
ガウス過程回帰による予測では、予測値の確率分布で得られる。予測値の確率分布は、ガウス分布に従う。そのため、予測値の確率分布の分散の値に基づいて、試作品の特性の値が候補材料の特性の許容範囲内に収まる可能性を決定できる。非常に簡単な例で示せば、予測値の確率分布において、予測値のガウス分布の平均値μ±σの範囲が候補材料の特性の許容範囲に収まる場合、実現可能性は68.3%である。予測値のガウス分布の平均値μ±2σの範囲が候補材料の特性の許容範囲に収まる場合、実現可能性は95.4%である。予測値のガウス分布の平均値μ±3σの範囲が候補材料の特性の許容範囲に収まる場合、実現可能性は99.7%である。予測値のガウス分布における分散は、候補材料の設計条件が、予測モデルLM1の学習に用いられた学習用データセットに含まれる設計条件、つまり、既存の設計条件に近いほど小さくなる。分散が小さいほど、予測値の確率分布が候補材料の特性の許容範囲に収まりやすくなるから、実現可能性が高くなる。このように、生成処理S13は、予測モデルLM1から得られる予測値の確率分布が候補材料の特性の許容範囲にどの程度収まるかに基づいて、実現可能性を求めてよい。
また、実現可能性は、材料データベースDB1を用いて求めることができる。材料データベースDB1に登録されている設計条件は、実際に製造可能であることが確認された材料の設計条件、つまり、既存の材料の設計条件である。材料データベースDB1に登録される既存の材料の設計条件は、量産支援システム1での過去の製造実績、量産支援システム1の運用にあたっての材料の製造試験の結果、論文、及び、公共の材料データベース(例えば、MatNavi、Materials Project、Aflow等)から得られてよい。実現可能性は、予測モデルLM1に入力される候補材料の設計条件(つまり、候補設計条件)と材料データベースDB1に登録されている設計条件(既存の材料の設計条件)との類似度に基づいて算出されてよい。下表1は、材料データベースDB1の一例を示す。
候補設計条件と材料データベースDB1に登録されている設計条件との類似度の評価には、重み付きユークリッド距離が利用できる。類似度の評価には、従来周知の様々な手法を用いることができる。候補設計条件と材料データベースDB1に登録されている設計条件との距離が近いほど、類似度が高い。類似度が高い場合には、候補設計条件に基づいて製造される候補材料の試作品の特性の値が候補材料の特性の許容範囲内にある可能性が高いと考えられる。材料データベースDB1に複数の設計条件が登録されている場合、材料データベースDB1に登録されている複数の設計条件それぞれについて、候補設計条件と材料データベースDB1に登録されている設計条件との類似度が算出される。算出された類似度のうち最も小さい距離に基づいて、実現可能性が算出される。このように、生成処理S13は、予測モデルLM1に入力される候補材料の設計条件と材料データベースDB1に登録される既存の材料の設計条件との類似度に基づいて実現可能性を求めてよい。
なお、評価値は、実現可能性自体を示す数値であってよいし、実現可能性の分類を示す値であってもよい。実現可能性の分類は、例えば、可能性の高低を示す分類であってよい。可能性の高低を示す分類としては、可能性大、可能性中、及び可能性小が挙げられる。
演算回路24は、候補材料の再設計を行う機能を有する。より詳細には、演算回路24は、所定の再設計条件が満たされた場合に、予測モデルLM1の更新を行い、更新後の予測モデルLM1を用いて、再度、予測処理S11、決定処理S12及び生成処理S13を実行する。演算回路24は、例えば、図4に示す再設計方法を実行する。図4は、仮想製造システム2が実行する再設計方法の一例のフローチャートである。
図4に示すように、演算回路24は、取得処理S21を実行する。取得処理S21は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品の特性の測定値を試作管理システム3から取得する。候補設計条件と、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品の特性の測定値との組み合わせは、例えば、記憶装置23の材料データベースDB1に蓄積されてよい。
演算回路24は、取得処理S21の後に、判定処理S22を実行する。判定処理S22は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品の特性の測定値が、候補設計条件に対応する候補材料の特性の予測値から乖離しているかどうかの判定をする。試作品の特性の測定値が予測値から乖離しているかどうかの判定には、例えば、重み付きユークリッド距離を利用することができる。一例として、試作品の特性の測定値で表される点と試作品の特性の予測値で表される点との距離が閾値以下である場合には、試作品の特性の測定値が予測値から乖離していないと判定してよい。この場合、試作品の特性の測定値で表される点と試作品の特性の予測値で表される点との距離が閾値を超える場合には、試作品の特性の測定値が予測値から乖離していると判定される。
判定処理S22の結果、試作品の特性の測定値が予測値から乖離していない場合には(S22:NO)、予測モデルLM1の更新の必要がなく、演算回路24は、再設計することなく処理を終了する。
判定処理S22の結果、試作品の特性の測定値が予測値から乖離している場合には(S22:YES)、演算回路24は、更新処理S23を実行する。更新処理S23は、候補設計条件と候補設計条件で製造された候補材料の試作品の特性の測定値との組み合わせに基づいて予測モデルLM1を更新する。例えば、予測モデルLM1が学習済みモデルである場合には、候補設計条件と候補設計条件で製造された候補材料の試作品の特性の測定値との組み合わせを学習用データセットとして、学習済みパラメータが調整されることで、予測モデルLM1が更新される。例えば、予測モデルLM1が、理論科学、実験科学、及び計算科学(シミュレーション)の少なくとも一つに基づいて設計されるモデルにより構築されている場合には、候補設計条件に対してモデルより得られる予測値と、候補設計条件で製造された候補材料の試作品の特性の測定値との合わせ込みによって、調整パラメータが調整される。これによって、予測モデルLM1が更新される。
演算回路24は、更新処理S23の後に、図4の設計方法を実行することで材料の再設計を実行する。具体的には、演算回路24は、更新処理S23の後に、図3の予測処理S11、決定処理S12及び生成処理S13を実行し、これによって、更新された予測モデルLM1を用いて候補設計条件を新しく決定して、候補設計条件に基づいて材料評価情報D1を生成する。
このように、仮想製造システム2では、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品の特性の測定値が、候補設計条件に対して予測モデルLM1で得られる予測値から乖離していた場合には、候補材料の試作品の特性の測定値を利用して予測モデルLM1が更新されて、更新後の予測モデルLM1に基づいて候補設計条件が再度決定される。予測モデルLM1の更新は、判定処理S22で試作品の特性の測定値が予測値から乖離していないと判定されるまで繰り返される。これによって、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることが可能となる。
図1の量産支援システム1では、仮想製造システム2と通信装置5とが、設計支援システム10を構成する。設計支援システム10では、ユーザは、通信装置5を利用して、材料についての要求仕様情報を入力する。通信装置5により入力された要求仕様情報は、通信装置5から仮想製造システム2に送信される。仮想製造システム2は、通信装置5からの要求仕様情報に基づいて材料評価情報D1を生成して、通信装置5に送信する。これによって、ユーザは、通信装置5を利用して、材料評価情報D1を確認することができる。
[1.1.1.2 試作管理システム]
図1の試作管理システム3は、候補材料の試作品の管理をする。一例として、試作管理システム3は、試作施設30に設置される。試作施設30は、候補材料の試作品の製造のための設備及び試作品の評価のための設備を含む。試作品の製造の設備及び試作品の評価のための設備は、材料の製造方法及び評価しようとする材料の特性に応じて従来周知の設備から適宜選択される。
図1の試作管理システム3は、インタフェース(入出力装置及び通信回路)と、記憶装置と、演算回路とを備えるコンピュータシステムにより実現され得る。コンピュータシステムは、例えば、1又は複数の端末装置で実現される。端末装置としては、パーソナルコンピュータ(デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ)、携帯端末(スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末等)等が挙げられる。
図1の試作管理システム3は、試作品評価情報を生成する。試作品評価情報は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品の特性の測定値を含む。試作品評価情報は、候補設計条件の情報を含んでよい。
本実施の形態では、試作管理システム3は、通信装置5から、候補材料の試作品の製造の指示を受け取ると、仮想製造システム2で決定された候補設計条件に基づいた候補材料の試作品の製造、及び、候補材料の試作品の特性の測定を、試作施設30の作業者に指示する。試作施設30の作業者は、仮想製造システム2で決定された候補設計条件に基づいて候補材料の試作品の製造をし、候補材料の試作品の特性の測定をする。作業者は、候補材料の試作品の特性の測定の結果を、試作管理システム3に入力する。これによって、試作管理システム3は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品の特性の測定の結果に基づいて候補材料の試作品の特性の測定値を含む試作品評価情報を生成する。候補材料の試作品の特性の測定値は、複数製造された試作品からランダムに選択した一つの試作品の特性の測定値であってよい。また、候補材料の試作品の特性の測定値は、複数製造された試作品からランダムに選択された2以上の試作品の特性の測定値の代表値であってよい。代表値の例としては、平均値、中央値、及び最頻値が挙げられる。試作管理システム3は、試作品評価情報を、通信装置5に送信する。更に、試作管理システム3は、試作品評価情報を、仮想製造システム2及び量産管理システム4に送信する。
図1の量産支援システム1では、設計支援システム10と試作管理システム3とが、試作支援システム11を構成する。試作支援システム11は、通信装置5から候補材料の試作品の製造の指示を受け取ると、候補材料の試作品の特性の測定値を含む試作品評価情報を生成して、通信装置5に送信する。これによって、ユーザは、通信装置5を利用して、試作品評価情報を確認することができる。
[1.1.1.3 量産管理システム]
図1の量産管理システム4は、候補材料の量産品の管理をする。一例として、量産管理システム4は、量産施設40に設置される。量産施設40は、候補材料の量産品の製造及び評価のための設備を含む。量産品の製造の設備及び量産品の評価のための設備は、材料の製造方法及び評価しようとする材料の特性に応じて従来周知の設備から適宜選択される。
図1の量産管理システム4は、インタフェース(入出力装置及び通信回路)と、記憶装置と、演算回路とを備えるコンピュータシステムにより実現され得る。コンピュータシステムは、例えば、1又は複数の端末装置で実現される。端末装置としては、パーソナルコンピュータ(デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ)、携帯端末(スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末等)等が挙げられる。
図1の量産管理システム4は、量産品評価情報を生成する。量産品評価情報は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の量産品の特性の測定値を含む。本実施の形態では、量産管理システム4は、通信装置5から、候補材料の量産品の製造の指示を受け取ると、仮想製造システム2で決定された候補設計条件に基づいた候補材料の量産品の製造、及び、材料の量産品の特性の測定を、量産施設40の作業者に指示する。量産施設40の作業者は、仮想製造システム2で決定された候補設計条件に基づいて材料の量産品の製造をし、候補材料の量産品の特性の測定をする。作業者は、候補材料の量産品の特性の測定の結果を、量産管理システム4に入力する。これによって、量産管理システム4は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の量産品の特性の測定の結果に基づいて候補材料の量産品の特性の測定値を含む量産品評価情報を生成する。候補材料の量産品の特性の測定値は、複数製造された量産品からランダムに選択した一つの量産品の特性の測定値であってよい。また、候補材料の量産品の特性の測定値は、複数製造された量産品からランダムに選択された2以上の量産品の特性の測定値の代表値であってよい。代表値の例としては、平均値、中央値、及び最頻値が挙げられる。量産管理システム4は、量産品評価情報を、通信装置5に送信する。
図1の量産支援システム1は、試作支援システム11と量産管理システム4とで構成される。量産支援システム1は、通信装置5から候補材料の量産品の製造の指示を受け取ると、候補材料の量産品の特性の測定値を含む量産品評価情報を生成して、通信装置5に送信する。これによって、ユーザは、通信装置5を利用して、量産品評価情報を確認することができる。また、量産施設40で量産された候補材料の量産品は、ユーザのもとに配送される。
[1.1.1.4 通信装置]
図1の通信装置5は、ユーザからの情報の入力及びユーザへの情報の出力のために用いられる。通信装置5は、通信ネットワーク6を通じて、仮想製造システム2、試作管理システム3、及び量産管理システム4に通信可能に接続される。
図1の通信装置5は、インタフェース(入出力装置及び通信回路)と、記憶装置と、演算回路とを備えるコンピュータシステムにより実現され得る。コンピュータシステムは、例えば、1又は複数の端末装置で実現される。端末装置としては、パーソナルコンピュータ(デスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ)、携帯端末(スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末等)等が挙げられる。
図1の通信装置5は、例えば、仮想製造システム2、試作管理システム3、及び量産管理システム4との間の情報の授受のための画面を入出力装置により表示する機能を有する。図1の通信装置5は、量産支援システム1において、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)としての役割を果たす。図1の通信装置5は、ユーザからの入力に応じて要求仕様情報を仮想製造システム2に送信し、仮想製造システム2から要求仕様情報に基づく材料評価情報D1を受け取り、ユーザに提示する。図1の通信装置5は、ユーザからの入力に応じて候補材料の試作品の製造の指示を試作管理システム3に送信し、試作管理システム3から試作品評価情報を受け取り、ユーザに提示する。図1の通信装置5は、ユーザからの入力に応じて候補材料の量産品の製造の指示を量産管理システム4に送信し、量産管理システム4から量産品評価情報を受け取り、ユーザに提示する。
[1.1.2 動作]
以上述べた量産支援システム1の動作の一例について図5を参照して説明する。図5は、量産支援システム1の動作の一例のシーケンス図である。
通信装置5は、例えば、候補材料についての要求仕様情報を入力するための入力画面を入出力装置により表示する(P11)。ユーザは、入力画面により、候補材料についての要求仕様情報の入力が可能である。通信装置5は、入力された候補材料についての要求仕様情報を仮想製造システム2に送信する。
仮想製造システム2は、材料の要求仕様情報に基づいて、図3の予測処理S11、決定処理S12及び生成処理S13を実行して、材料評価情報D1を生成し、通信装置5及び試作管理システム3に送信する(P12)。
通信装置5は、例えば、材料評価情報D1を表示するとともに、候補材料の試作品の製造の指示をするかどうかを問い合わせるための試作指示画面を入出力装置により表示する(P13)。試作指示画面は、例えば、「〇〇の特性の材料が××%の確率で作製できます。試作の発注をしますか?」というメッセージを表示することができる。ユーザは、試作指示画面により、材料評価情報D1を確認して、候補材料の試作をするかどうかを決定できる。
試作指示画面により候補材料の試作品の製造の指示が決定されると、通信装置5は、候補材料の試作品の製造の指示を試作管理システム3に送信する。試作管理システム3は、候補材料の試作品の製造の指示に基づいて、試作施設30での試作を指示する。試作が終了すると、試作管理システム3は、試作品評価情報を生成して、通信装置5に送信する(P14)。
通信装置5は、例えば、試作品評価情報を表示するとともに、候補材料の量産品の製造の指示をするかどうかを問い合わせるための量産指示画面を入出力装置により表示する(P15)。量産指示画面は、例えば、「□□の特性の材料が試作で作製できました。正式に発注しますか?」というメッセージを表示することができる。ユーザは、量産指示画面により、試作評価情報を確認して、候補材料の量産をするかどうかを決定できる。この場合、ユーザは、材料の寸法と数又は重量等の量産の条件を指定することができる。
量産指示画面により候補材料の量産品の製造の指示が決定されると、通信装置5は、候補材料の量産品の製造の指示を量産管理システム4に送信する。量産管理システム4は、候補材料の量産品の製造の指示に基づいて、量産施設40での量産を指示する。量産が終了すると、量産管理システム4は、量産品評価情報を生成して、通信装置5に送信する(P16)。
通信装置5は、例えば、量産評価情報を表示する量産結果画面を入出力装置により表示する(P17)。ユーザは、量産結果画面により、量産評価情報を確認することができる。
上記の特許文献1では、材料メーカが提供する商品ラインナップの中からユーザが希望する特性に近い商品を提示するだけである。これに対して量産支援システム1は、ユーザの希望する特性を満たす材料自体を材料の試作評価も行いながら提示することが可能である。これにより、ユーザが円滑に希望する材料を入手することを支援することができる。つまり、ユーザが希望する材料が商品としてラインナップされていなくても、オーダーメイドでユーザの要望に合う材料を提示できる。さらに、材料の設計段階及び試作段階の各々において、ユーザに材料の特性に関する情報を提示して、ユーザに材料の製作の続行の意思を確認するため、ユーザが納得した材料を提供することができる。また、通信装置5での処理P11,P13,P15,P17は、ウェブページにより実行することが可能である。つまり、量産支援システム1は、ウェブ上での手続きで、ユーザに材料を提供できる。よって、量産支援システム1は、材料の注文の手続きを簡略化できる。
[1.1.3 効果等]
以上述べた仮想製造システム2は、予測モデルLM1を記憶する記憶装置23と、記憶装置23にアクセス可能な演算回路24とを備える。予測モデルLM1は、材料の設計条件の入力に対して材料の特性の予測値を出力するように構成される。演算回路24は、予測処理S11と、決定処理S12と、生成処理S13とを実行するように構成される。予測処理S11は、候補材料の設計条件を予測モデルLM1に入力することによって予測モデルLM1から候補材料の特性の予測値を取得する。決定処理S12は、予測処理S11の結果に基づいて候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内にある候補設計条件を決定する。生成処理S13は、候補設計条件に基づいて材料評価情報D1を生成する。材料評価情報D1は、候補設計条件に対応する候補材料の特性の予測値と、候補設計条件に基づいて製造される候補材料の試作品の特性の値が候補材料の特性の許容範囲内にある可能性を示す評価値とを含む。この構成は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
また、仮想製造システム2において、可能性は、予測モデルLM1に入力される候補材料の設計条件と既存の材料の設計条件との差が小さいほど高く設定される。この構成は、可能性の精度の向上を可能にする。
仮想製造システム2において、予測モデルLM1は、材料の設計条件の入力に対して材料の特性の予測値及び予測値の確率分布を出力するように学習された学習済みモデルであってよい。生成処理S13は、予測モデルLM1から出力される予測値の確率分布が候補材料の特性の許容範囲にどの程度収まるかに基づいて、可能性を求めてよい。この構成は、可能性の精度の向上を可能にする。
仮想製造システム2において、記憶装置23は、既存の材料の設計条件が登録される材料データベースDB1を記憶してよい。生成処理S13は、予測モデルLM1に入力される候補材料の設計条件と材料データベースDB1に登録される既存の材料の設計条件との類似度に基づいて可能性を求めてよい。この構成は、可能性の精度の向上を可能にする。
以上述べた設計支援システム10は、仮想製造システム2と、仮想製造システム2と通信可能な通信装置5とを備える。通信装置5は、候補材料の設計条件の制約条件と候補材料の特性の目標とを含む要求仕様情報を仮想製造システム2に送信するように構成される。予測処理S11は、要求仕様情報に基づいて候補材料の設計条件を決定する。決定処理S12は、要求仕様情報に基づいて候補材料の特性の許容範囲とを決定する。生成処理S13は、材料評価情報D1を通信装置5に送信する。この構成は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
以上述べた試作支援システム11は、設計支援システム10と、通信装置5と通信可能な試作管理システム3とを備える。通信装置5は、候補材料の試作品の製造の指示を試作管理システム3に送信するように構成される。試作管理システム3は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品の特性の測定の結果に基づいて候補材料の試作品の特性の測定値を含む試作品評価情報を生成して、通信装置5に送信するように構成される。この構成は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
また、試作支援システム11において、演算回路24は、更新処理S23を実行するように構成される。更新処理S23は、候補設計条件と候補設計条件で製造された候補材料の試作品の特性の測定値との組み合わせに基づいて予測モデルLM1を更新する。この構成は、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることを可能にする。
また、試作支援システム11において、演算回路24は、更新処理S23の実行後に、予測処理S11、決定処理S12及び生成処理S13を再度実行するように構成される。この構成は、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることを可能にする。
以上述べた量産支援システム1は、試作支援システム11と、通信装置5と通信可能な量産管理システム4とを備える。通信装置5は、候補材料の量産品の製造の指示を量産管理システム4に送信するように構成される。量産管理システム4は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の量産品の特性の測定の結果に基づいて候補材料の量産品の特性の測定値を含む量産品評価情報を生成して、通信装置5に送信するように構成される。この構成は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
[1.2 実施の形態2]
[1.2.1 構成]
実施の形態1では、材料を製造するメーカに対して、ユーザは材料自体の特性を要求し、メーカが材料を提示する。これに対して、実施の形態2では、材料自体の製造はメーカで、その後の加工を行うのはユーザである構図の中で、ユーザは加工後の材料の特性、つまり、加工品の特性をメーカに要求し、メーカは材料と加工条件とを合わせてユーザに提示する。これにより、要求される加工品の特性を達成するために、材料と加工条件を合わせて最適な設計を行うことができる。また実際に製造した材料に設計時に見込んでいた材料の特性からのズレが生じた場合でも、このようなズレに合わせて加工条件を修正して、それをユーザに提示することにより、量産時のバラツキにも対応した最適な加工をユーザが行えるようにする。
図6は、実施の形態2の量産支援システム1Aの構成例のブロック図である。量産支援システム1では、ユーザから与えられる要求仕様情報は、候補材料の設計条件及び加工条件の制約条件と候補材料の特性の目標を含み、候補材料そのものに関する。これに対して、本実施の形態の量産支援システム1Aでは、ユーザから与えられる要求仕様情報は、候補材料そのものではなく、候補材料の加工品に関する。ユーザから与えられる要求仕様情報は、例えば、候補材料の加工品の設計条件及び加工条件の制約条件と候補材料の加工品の特性の目標を含む。候補材料の加工品は、候補材料を所定の加工条件で加工して得られる物品である。加工の例としては、付加製造、除去製造、フォーマティブ(フォーミング)マニュファクチャリング(射出成形、押出成形等)、表面処理技術(コーティング、塗装、メッキ、研磨等)、熱処理技術(焼結、冷却等)、接合技術(超音波接合、熱溶着、機械的接合、接着等)、組立技術(部品の組み立て、微細転写(インプリント)、含浸(インプリグネーション)等)が挙げられる。付加製造の例としては、材料押出(material extrusion)、液槽光重合(vat photopolymerization)、材料噴射(material jetting)、結合剤噴射(binder jetting)、粉末床溶融結合(powder bed fusion)、シート積層(sheet lamination)、指向性エネルギ堆積(directed energy deposition)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。除去製造の例としては、切削加工、研削加工、放電加工、鋳造加工、ダイキャスト加工、プレス加工、鍛造加工、板金加工が挙げられる。候補材料と加工品との組み合わせとしては、例えば、金属材料と金属部品が挙げられる。金属部品は、ねじ等の締結具、及び、蝶番等の金具が挙げられる。図6の量産支援システム1Aは、材料そのものの情報というよりは材料の加工品についての情報に基づいて、材料の成分及び特性の許容範囲を決定して、材料の提案を行うことが可能である。
図6の量産支援システム1Aは、仮想製造システム2Aと、試作管理システム3Aと、量産管理システム4Aと、通信装置5Aとを備える。図6の量産支援システム1Aでは、仮想製造システム2A、試作管理システム3A、量産管理システム4A、及び通信装置5Aは、通信ネットワーク6を介して通信可能に接続される。
[1.2.1.1 仮想製造システム]
図7は、仮想製造システム2Aの構成例のブロック図である。図7の仮想製造システム2Aは、入出力装置21と、通信回路22と、記憶装置23Aと、演算回路24Aとを備える。仮想製造システム2Aは、例えば、1又は複数のサーバで実現される。
記憶装置23Aに記憶される情報は、予測モデルLM2と、加工品評価情報D2と、材料データベースDB1Aを含む。図7では、記憶装置23が、予測モデルLM2と、加工品評価情報D2と、材料データベースDB2との全てを記憶している状態を示している。予測モデルLM2と、加工品評価情報D2と、材料データベースDB2とは常に記憶装置23Aに記憶されている必要はなく、演算回路24Aで必要とされるときに記憶装置23Aに記憶されていればよい。
演算回路24Aは、材料の設計を行う機能を有する。演算回路24Aは、例えば、図8に示す設計方法を実行する。図8は、仮想製造システム2Aが実行する設計方法の一例のフローチャートである。
図8の設計方法は、予測処理S31と、決定処理S32と、生成処理S33とを含む。
予測処理S31は、候補材料の設計条件及び加工条件を予測モデルLM2に入力することによって予測モデルLM2から候補材料の加工品の特性の予測値を取得する。
予測モデルLM2は、材料の設計条件及び加工条件の入力に対して材料の加工品の特性の予測値を出力するように構成される。予測モデルLM2は、材料の設計条件及び加工条件を説明変数、材料の加工品の特性の値を目的変数とするモデルである。材料の設計条件は、材料の構造及び組成に関するデータと、材料の製造方法に関するデータとの少なくとも一方を含む。材料の加工条件は、材料の加工後の形状、材料の加工に用いるプロセス、及びプロセスで用いるパラメータを含む。材料の加工後の形状は、例えば、加工品の形状に関するパラメータである。材料の加工に用いるプロセス及びプロセスで用いるパラメータは、例えば、熱処理及び熱処理の温度が挙げられる。
本実施の形態では、予測モデルLM2は、材料の設計条件及び加工条件の入力に対して材料の加工品の特性の予測値を出力するように学習された学習済みモデルに基づいて生成される。予測モデルLM2は、材料の設計条件及び加工条件の入力に対して材料の加工品の特性の予測値を出力するように学習された学習済みモデルそれ自体であってもよいし、当該学習済みモデルの再利用モデル又は蒸留モデルであってもよい。学習済みモデルは、学習済みパラメータが組み込まれた推論プログラムである。推論プログラムは、例えば、回帰モデルである。回帰モデルの例としては、決定木、線形回帰、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ガウス過程回帰、ニューラルネットワーク等が挙げられる。線形回帰の例としては、多重線形回帰、リッジ回帰、ラッソ回帰が挙げられる。学習済みパラメータは、学習用データセットを学習用プログラムに対して入力することで、一定の目的のために機械的に調整されることで生成される。
例えば、予測モデルLM2は、材料予測モデルと、加工予測モデルとを用いて構成される。材料予測モデルは、材料の設計条件の入力に対して材料の特性の予測値を出力するように学習された学習済みモデルに基づいて生成される。例えば、材料予測モデルは、材料の設計条件を入力、材料の特性の値を正解とする学習用データセットを用いた教師あり学習を実行することによって生成される学習済みモデルである。加工予測モデルは、材料の特性の値及び材料の加工条件の入力に対して材料の加工品の特性の予測値を出力するように学習された学習済みモデルに基づいて生成される。加工予測モデルは、材料の特性の値及び材料の加工条件を入力、材料の加工品の特性の値を正解とする学習用データセットを用いた教師あり学習を実行することによって生成される学習済みモデルである。材料予測モデルと、加工予測モデルとを組み合わせることで、予測モデルLM2が得られる。例えば、材料予測モデルは、材料の設計条件の入力に対して材料の特性の予測値を出力するように学習された学習済みモデルであるから、Z=f(X)というモデルで表すことができる。Xは、材料の設計条件、Zは、材料の特性の値(予測値)である。加工予測モデルは、材料の特性の値及び材料の加工条件の入力に対して材料の加工品の特性の予測値を出力するように学習された学習済みモデルであるから、Y=g(Z,W)というモデルで表すことができる。Wは、材料の加工条件を示し、Yは、材料の加工品の特性の値(予測値)を示す。そのため、材料予測モデル(Z=f(X))と加工予測モデル(Y=g(Z,W))とから、予測モデルLM2は、Y=g(f(X),W)で表すことができ、これは、材料の設計条件(X)及び加工条件(W)の入力に対して材料の加工品の特性の予測値(Y)を出力することを示している。
なお、予測モデルLM2は、データ科学の技術を利用する学習済みモデルに限らず、材料の理論(理論科学)、経験(実験科学)、及びシミュレーション(計算科学)の少なくとも一つに基づいて設計されるモデルから構築されてもよい。このようなモデルは、材料に応じて調整される調整パラメータを含む。調整パラメータは、文献等に記載される代表的な値でもよいし、過去の材料設計のデータに基づく合わせ込みで調整されてもよい。
予測処理S31は、候補材料についての要求仕様情報に基づいて候補材料の設計条件及び加工条件を決定する。要求仕様情報は、通信装置5Aから仮想製造システム2Aに送信される。要求仕様情報は、候補材料の加工品の設計条件及び加工条件の制約条件と候補材料の加工品の特性の目標とを含む。候補材料の加工品の設計条件の制約条件は、材料の構造及び組成に関する制約と、材料の製造方法に関する制約との少なくとも一方を含む。材料の構造及び組成に関する制約は、例えば、候補材料の加工品に用いる成分の条件、及び、候補材料の加工品に用いてはいけない成分の条件を含み得る。一例として、材料の構造及び組成に関する制約は、候補材料の加工品における成分の含有量の範囲を含んでよい。材料の製造方法に関する制約は、例えば、材料の製造に用いる方法の条件、及び、材料の製造に用いてはいけない方法の条件を含み得る。一例として、材料の製造方法に関する制約は、加熱時の温度の許容範囲を含んでよい。候補材料の加工品の加工条件の制約条件は、例えば、材料の加工後の形状の許容範囲を含んでよい。候補材料の加工品の加工条件の制約条件は、例えば、加工に用いるプロセスの条件、及び、材料の製造に用いてはいけないプロセスの条件を含み得る。一例として、候補材料の加工品の加工条件の制約条件は、加工時の負荷の許容範囲を含んでよい。予測処理S31は、候補材料の加工品の設計条件及び加工条件の制約条件に基づいて、候補材料の設計条件及び加工条件を決定することができる。候補材料の加工品の特性の目標は、例えば、1以上の特性の目標値を含んでよい。
予測処理S31は、候補材料の設計条件及び加工条件を予測モデルLM2に入力することによって予測モデルLM2から候補材料の加工品の特性の予測値を取得する。予測処理S31の結果は、候補材料の設計条件及び加工条件と、設計条件及び加工条件に対応する候補材料の加工品の特性の予測値とを含む。
決定処理S32は、予測処理S31の結果に基づいて候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある候補設計条件及び候補加工条件を決定する。決定処理S32は、候補材料の加工品についての要求仕様情報に基づいて候補材料の加工品の特性の許容範囲を決定する。上述したように、要求仕様情報は、候補材料の加工品の設計条件及び加工条件の制約条件と候補材料の加工品の特性の目標とを含む。決定処理S32は、候補材料の加工品の特性の目標に基づいて、候補材料の加工品の特性の許容範囲を決定することができる。
決定処理S32は、候補設計条件及び候補加工条件を決定するにあたっては、予測処理S31の結果から得られる候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にあるかどうかの判別を行う。一例として、予測処理S31は、候補材料について予め設計条件及び加工条件の複数の組み合わせについて予測モデルLM2より候補材料の加工品の特性の予測値を求めてよい。決定処理S32は、設計条件及び加工条件の複数の組み合わせのうち、候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある設計条件及び加工条件の組み合わせを、候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせとして選択してよい。別例として、決定処理S32は、最適化手法により、候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせを決定してよい。つまり、決定処理S32は、予測処理S31を繰り返すことによって候補設計条件及び候補加工条件を決定してよい。決定処理S32は、予測処理S31の結果から、候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にない場合に、新たに設計条件及び加工条件を設定し、この設計条件及び加工条件に基づいて予測処理S31を実行させる。決定処理S32は、予測処理S31を繰り返すことで、候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある設計条件及び加工条件を探索する。なお、決定処理S32は、予測モデルLM2から出力される候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内になるまで繰り返されてもよいが、繰り返し回数の上限が定められていてもよい。つまり、繰り返し回数が上限に達した時点で、予測モデルLM2から出力される候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内になったとみなしてよい。
以上述べた決定処理S32により、候補設計条件及び候補加工条件が決定される。
生成処理S33は、候補設計条件及び候補加工条件に基づいて加工品評価情報D2を生成する。加工品評価情報D2は、候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせに対応する候補材料の加工品の特性の予測値を含む。加工品評価情報D2は、候補設計条件に基づいて製造される候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる候補材料の試作品の加工品の特性の値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある可能性(以下、必要に応じて「実現可能性」という」)を示す評価値を含む。加工評価情報D2は、候補設計条件及び候補加工条件の情報を含んでよい。
候補材料の加工品の特性の予測値は、候補設計条件及び候補加工条件を予測モデルLM2に入力することで得られる。予測処理S31において、候補材料の加工品の特性の予測値が求められている場合には、予測処理S31で求められた候補材料の加工品の特性の予測値を利用してよい。
実現可能性は、実際に候補設計条件に基づいて候補材料の試作品を作製し、候補加工条件に基づいて試作品を加工した場合に、加工品の特性の値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内に収まる可能性である。実現可能性は、予測モデルLM2に入力される候補材料の設計条件(つまり、候補設計条件)及び加工条件(つまり、候補加工条件)の組み合わせと既存の材料の設計条件及び加工条件の組み合わせとの差が小さいほど高く設定される。
実現可能性は、例えば、上記実施の形態1で述べたように、ガウス過程回帰のような確率付きの予測が可能な機械学習手法により構築された学習済みモデルを用いることで得られ得る。ガウス過程回帰によれば、予測値に対する確率分布が得られる。予測値に対する確率分布から、予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲に収まる確率を求めることができる。予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲に収まる確率を、実現可能性として利用することができる。例えば、予測モデルLM2を、ガウス過程回帰に基づいて構築することで、候補材料の加工品の特性の予測値と、実現可能性の演算に必要な確率分布とが同時に得られる。このように、生成処理S33は、予測モデルLM2から得られる予測値の確率分布が候補材料の加工品の特性の許容範囲にどの程度収まるかに基づいて、可能性を求めてよい。
また、実現可能性は、材料データベースDB2を用いて求めることができる。例えば、実現可能性は、予測モデルLM2に入力される候補材料の設計条件(つまり、候補設計条件)及び加工条件(つまり、候補加工条件)の組み合わせと材料データベースDB2に登録されている設計条件(既存の材料の設計条件)及び加工条件(既存の材料の加工条件)の組み合わせとの類似度である。類似度の評価には、重み付きユークリッド距離が利用できる。類似度の評価には、従来周知の様々な手法を用いることができる。候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせと材料データベースDB2に登録されている設計条件及び加工条件の組み合わせとの距離が近いほど、類似度が高い。類似度が高い場合には、候補設計条件に基づいて製造される候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる加工品の特性の値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある可能性が高いと考えられる。材料データベースDB2に設計条件及び加工条件の複数の組み合わせが登録されている場合、材料データベースDB2に登録されている設計条件及び加工条件の複数の組み合わせそれぞれについて、類似度が算出される。算出された類似度のうち最も小さい距離に基づいて、実現可能性が算出される。このように、生成処理S33は、予測モデルLM2に入力される候補材料の設計条件及び加工条件の組み合わせと材料データベースDB2に登録される既存の材料の設計条件及び加工条件の組み合わせとの類似度に基づいて可能性を求めてよい。
なお、評価値は、実現可能性自体を示す数値であってよいし、実現可能性の分類を示す値であってもよい。実現可能性の分類は、例えば、可能性の高低を示す分類であってよい。可能性の高低を示す分類としては、可能性大、可能性中、及び可能性小が挙げられる。
演算回路24Aは、材料の再設計を行う機能を有する。より詳細には、演算回路24Aは、所定の再設計条件が満たされた場合に、予測モデルLM2の更新を行い、更新後の予測モデルLM2を用いて、再度、予測処理S31、決定処理S32及び生成処理S33を実行する。演算回路24Aは、例えば、図9に示す再設計方法を実行する。図9は、仮想製造システム2Aが実行する再設計方法の一例のフローチャートである。
図9に示すように、演算回路24Aは、取得処理S41を実行する。取得処理S41は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる加工品の特性の測定値を試作管理システム3Aから取得する。候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせと、候補材料の加工品の特性の測定値とは、互いに関連付けられて、記憶装置23Aの材料データベースDB2に蓄積される。
演算回路24Aは、取得処理S41の後に、判定処理S42を実行する。判定処理S42は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる加工品の特性の測定値が、候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせに対応する候補材料の加工品の特性の予測値から乖離しているかどうかの判定をする。加工品の特性の測定値が予測値から乖離しているかどうかの判定には、例えば、重み付きユークリッド距離を利用することができる。一例として、加工品の特性の測定値で表される点と加工品の特性の予測値で表される点との距離が閾値以下である場合には、加工品の特性の測定値が予測値から乖離していないと判定してよい。加工品の特性の測定値で表される点と加工品の特性の予測値で表される点との距離が閾値を超える場合には、加工品の特性の測定値が予測値から乖離していると判定される。
判定処理S42の結果、加工品の特性の測定値が予測値から乖離していない場合には(S42:NO)、予測モデルLM2の更新の必要がない。
判定処理S42の結果、加工品の特性の測定値が予測値から乖離している場合には(S42:YES)、演算回路24Aは、更新処理S43を実行する。更新処理S43は、候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせと候補材料の加工品の特性の測定値とに基づいて予測モデルLM2を更新する。例えば、予測モデルLM2が学習済みモデルである場合には、候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせと候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせに対応する候補材料の試作品の特性の測定値との組を学習用データセットとして、学習済みパラメータが調整されることで、予測モデルLM2が更新される。例えば、予測モデルLM2が、材料の理論、経験、シミュレーションによるモデルにより構築されている場合には、候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせに対してモデルより得られる予測値と、候補設計条件で製造された候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる加工品の特性の測定値との合わせ込みによって、調整パラメータが調整される。これによって、予測モデルLM2が更新される。
更新処理S43の後、演算回路24Aは、図8の設計方法を実行することで材料の再設計を実行する。具体的には、演算回路24Aは、図8の予測処理S31、決定処理S32及び生成処理S33を実行し、これによって、更新された予測モデルLM2を用いて候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせを新しく決定して、候補設計条件及び候補加工条件に基づいて加工品評価情報D2を生成する。
このように、仮想製造システム2Aでは、候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせに対応する候補材料の試作品の加工品の特性の測定値が、候補加工条件及び候補加工条件の組み合わせに対して予測モデルLM2で得られる予測値から乖離していた場合には、候補材料の試作品の加工品の特性の測定値を利用して予測モデルLM2が更新されて、更新後の予測モデルLM2に基づいて候補設計条件及び候補加工条件が再度決定される。予測モデルLM2の更新は、判定処理S42で加工品の特性の測定値が予測値から乖離していないと判定されるまで繰り返される。これによって、ユーザの要求仕様に合致するより良い材料を見つけることが可能となる。
図6の量産支援システム1Aでは、仮想製造システム2Aと通信装置5Aとが、設計支援システム10Aを構成する。設計支援システム10Aでは、ユーザは、通信装置5Aを利用して、加工品についての要求仕様情報を入力する。通信装置5Aにより入力された要求仕様情報は、通信装置5Aから仮想製造システム2Aに送信される。仮想製造システム2Aは、通信装置5Aからの要求仕様情報に基づいて加工品評価情報D2を生成して、通信装置5Aに送信する。これによって、ユーザは、通信装置5Aを利用して、加工品評価情報D2を確認することができる。
[1.2.1.2 試作管理システム]
図6の試作管理システム3Aは、試作品評価情報を生成する。試作品評価情報は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる加工品の特性の測定の結果に基づいて生成される。試作品評価情報は、候補材料の試作品の加工品の特性の測定値を含む。試作品評価情報は、候補設計条件及び候補加工条件の情報を含んでよい。
本実施の形態では、試作管理システム3Aは、通信装置5Aから、候補材料の試作品の製造の指示を受け取ると、仮想製造システム2Aで決定された候補設計条件及び候補加工条件に基づいた候補材料の試作品の加工品の製造、及び、候補材料の試作品の加工品の特性の測定を、試作施設30の作業者に指示する。試作施設30の作業者は、仮想製造システム2Aで決定された候補設計条件及び候補加工条件に基づいて候補材料の試作品の加工品の製造をし、候補材料の試作品の加工品の特性の測定をする。作業者は、候補材料の試作品の加工品の特性の測定の結果を、試作管理システム3Aに入力する。これによって、試作管理システム3Aは、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる加工品の特性の測定の結果に基づいて候補材料の試作品の加工品の特性の測定値を含む試作品評価情報を生成する。試作管理システム3Aは、試作品評価情報を、通信装置5Aに送信する。更に、試作管理システム3Aは、試作品評価情報を、仮想製造システム2Aに送信する。
図6の量産支援システム1Aでは、設計支援システム10Aと試作管理システム3Aとが、試作支援システム11Aを構成する。試作支援システム11Aは、通信装置5Aから候補材料の試作品の製造の指示を受け取ると、候補材料の試作品の加工品の特性の測定値を含む試作品評価情報を生成して、通信装置5Aに送信する。これによって、ユーザは、通信装置5Aを利用して、試作品評価情報を確認することができる。
[1.2.1.3 量産管理システム]
図6の量産管理システム4Aは、量産品評価情報を生成する。量産品評価情報は、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の量産品の特性の測定値を含む。本実施の形態では、量産管理システム4Aは、通信装置5Aから、候補材料の量産品の製造の指示を受け取ると、仮想製造システム2Aで決定された候補設計条件に基づいた候補材料の量産品の製造、及び、候補材料の量産品の特性の測定を、量産施設40の作業者に指示する。量産施設40の作業者は、仮想製造システム2Aで決定された候補設計条件に基づいて候補材料の量産品の製造をし、候補材料の量産品の特性の測定をする。作業者は、候補材料の量産品の特性の測定の結果を、量産管理システム4Aに入力する。これによって、量産管理システム4Aは、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の量産品の特性の測定の結果に基づいて候補材料の量産品の特性の測定値を含む量産品評価情報を生成する。量産管理システム4Aは、量産品評価情報を、通信装置5に送信する。
図6の量産管理システム4Aは、さらに、加工情報を生成する。加工情報は、候補材料の量産品のための量産品加工条件を示す。量産品加工条件は、量産品から、ユーザの要望に合った加工品を得るための加工条件である。量産品加工条件は、候補材料の量産品の特性の測定値に基づいて決定される。例えば、量産品加工条件は、予測モデルLM2を利用して得られる。つまり、候補材料の量産品の特性の測定値に対して、候補材料の加工品の特性の予測値が許容範囲内にある加工条件が、量産品加工条件として用いられる。量産管理システム4Aは、加工情報を、通信装置5Aに送信する。
図6の量産支援システム1Aは、試作支援システム11Aと量産管理システム4Aとで構成される。量産支援システム1Aは、通信装置5Aから候補材料の量産品の製造の指示を受け取ると、候補材料の量産品の特性の測定値を含む量産品評価情報、及び、候補材料の量産品のための量産品加工条件を示す加工情報を生成して、通信装置5Aに送信する。これによって、ユーザは、通信装置5Aを利用して、量産品評価情報及び加工情報を確認することができる。また、量産施設40で量産された候補材料の量産品は、ユーザのもとに配送される。
[1.2.1.4 通信装置]
図6の通信装置5Aは、例えば、仮想製造システム2A、試作管理システム3A、及び量産管理システム4Aとの間の情報の授受のための画面を入出力装置により表示する機能を有する。図6の通信装置5Aは、量産支援システム1Aにおいて、グラフィカルユーザインタフェース(GUI)としての役割を果たす。図6の通信装置5Aは、ユーザからの入力に応じて要求仕様情報を仮想製造システム2Aに送信し、仮想製造システム2Aから要求仕様情報に基づく加工評価情報D2を受け取り、ユーザに提示する。図6の通信装置5Aは、ユーザからの入力に応じて候補材料の試作品の製造の指示を試作管理システム3Aに送信し、試作管理システム3Aから試作品評価情報を受け取り、ユーザに提示する。図6の通信装置5Aは、ユーザからの入力に応じて候補材料の量産品の製造の指示を量産管理システム4Aに送信し、量産管理システム4Aから量産品評価情報及び加工情報を受け取り、ユーザに提示する。
[1.2.2 動作]
以上述べた量産支援システム1Aの動作の一例について図10を参照して説明する。図10は、量産支援システム1Aの動作の一例のシーケンス図である。
通信装置5Aは、例えば、候補材料の加工品についての要求仕様情報を入力するための入力画面を入出力装置により表示する(P21)。ユーザは、入力画面により、候補材料の加工品についての要求仕様情報の入力が可能である。通信装置5Aは、入力された加工品についての要求仕様情報を仮想製造システム2Aに送信する。
仮想製造システム2Aは、加工品の要求仕様情報に基づいて、図8の予測処理S31、決定処理S32及び生成処理S32を実行して、加工品評価情報D2を生成し、通信装置5A及び試作管理システム3Aに送信する(P22)。
通信装置5Aは、例えば、加工品評価情報D2を表示するとともに、候補材料の試作品の製造の指示をするかどうかを問い合わせるための試作指示画面を入出力装置により表示する(P23)。試作指示画面は、例えば、「〇〇の特性の加工品が××%の確率で作製できます。試作の発注をしますか?」ユーザは、試作指示画面により、加工品評価情報D2を確認して、候補材料の試作をするかどうかを決定できる。
試作指示画面により候補材料の試作品の製造の指示が決定されると、通信装置5Aは、候補材料の試作品の製造の指示を試作管理システム3Aに送信する。試作管理システム3Aは、候補材料の試作品の製造の指示に基づいて、試作施設30での試作を指示する。試作が終了すると、試作管理システム3Aは、試作品評価情報を生成して、通信装置5Aに送信する(P24)。
通信装置5Aは、例えば、試作品評価情報を表示するとともに、候補材料の量産品の製造の指示をするかどうかを問い合わせるための量産指示画面を入出力装置により表示する(P25)。量産指示画面は、例えば、「□□の特性の加工品が試作で作製できました。正式に発注しますか?」というメッセージを表示することができる。ユーザは、量産指示画面により、試作評価情報を確認して、候補材料の量産をするかどうかを決定できる。この場合、ユーザは、材料の寸法と数又は重量等の量産の条件を指定することができる。
量産指示画面により候補材料の量産品の製造の指示が決定されると、通信装置5Aは、候補材料の量産品の製造の指示を量産管理システム4Aに送信する。量産管理システム4Aは、候補材料の量産品の製造の指示に基づいて、量産施設40での量産を指示する。量産が終了すると、量産管理システム4Aは、量産品評価情報及び加工情報を生成して、通信装置5Aに送信する(P26)。
通信装置5Aは、例えば、量産評価情報及び加工情報を表示する量産結果画面を入出力装置により表示する(P27)。ユーザは、量産結果画面により、量産評価情報及び加工情報を確認することができる。
上記の特許文献1では、ユーザが希望の材料を検索する際には、あくまで材料自体の特性で検索することになり、ユーザが材料を加工(成形、接合、組立等も含む)して部品や最終製品としての特性まで考慮されていない。これに対して、量産支援システム1Aは、ユーザが希望する特性が加工した部品や最終製品としての特性であった場合には、その特性を満たすための材料自体の提示及び、その材料に適した加工条件を提示することができる。これにより、材料ユーザが円滑に希望する材料を入手することを支援する。つまり、ユーザが希望する材料が商品としてラインナップされていなくても、オーダーメイドでユーザの要望に合う材料を提示できる。さらに、材料の設計段階及び試作段階の各々において、ユーザに材料の特性に関する情報を提示して、ユーザに材料の製作の続行の意思を確認するため、ユーザが納得した材料を提供することができる。さらに、材料に適した加工条件も合わせてユーザに提示するから、よりユーザが納得した材料を提供することができる。また、通信装置5Aでの処理P21,P23,P25,P27は、ウェブページ又はアプリケーションにより実行することが可能である。つまり、量産支援システム1Aは、ウェブ又はアプリ上での手続きで、ユーザに材料を提供できる。よって、量産支援システム1Aは、材料の注文の手続きを簡略化できる。
[1.2.3 効果等]
以上述べた仮想製造システム2は、予測モデルLM2を記憶する記憶装置23Aと、記憶装置23Aにアクセス可能な演算回路24Aとを備える。予測モデルLM2は、材料の設計条件及び加工条件の入力に対して材料の加工品の特性の予測値を出力するように構成される。演算回路24Aは、予測処理S31と、決定処理S32と、生成処理S33とを実行するように構成される。予測処理S31は、候補材料の設計条件及び加工条件を予測モデルLM2に入力することによって予測モデルLM2から候補材料の加工品の特性の予測値を取得する。決定処理S32は、予測処理S31の結果に基づいて候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある候補設計条件及び候補加工条件を決定する。生成処理S33は、候補設計条件及び候補加工条件に基づいて加工品評価情報D2を生成する。加工品評価情報D2は、候補設計条件及び候補加工条件の組み合わせに対応する候補材料の加工品の特性の予測値を含む。加工品評価情報D2は、候補設計条件に基づいて製造される候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる候補材料の試作品の加工品の特性の値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある可能性を示す評価値を含む。この構成は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
また、仮想製造システム2Aにおいて、可能性は、予測モデルLM2に入力される候補材料の設計条件及び加工条件の組み合わせと既存の材料の設計条件及び加工条件の組み合わせとの差が小さいほど高く設定される。この構成は、可能性の精度の向上を可能にする。
仮想製造システム2Aにおいて、予測モデルLM2は、材料の設計条件及び加工条件の入力に対して材料の加工品の特性の予測値及び予測値の確率分布を出力するように学習された学習済みモデルであってよい。生成処理S33は、予測モデルLM2から得られる予測値の確率分布が候補材料の加工品の特性の許容範囲にどの程度収まるかに基づいて、可能性を求めてよい。この構成は、可能性の精度の向上を可能にする。
仮想製造システム2Aにおいて、記憶装置23Aは、既存の材料の設計条件及び加工条件の組み合わせが登録される材料データベースDB2を記憶してよい。生成処理S33は、予測モデルLM2に入力される候補材料の設計条件及び加工条件の組み合わせと材料データベースDB2に登録される既存の材料の設計条件及び加工条件の組み合わせとの類似度に基づいて可能性を求めてよい。この構成は、可能性の精度の向上を可能にする。
以上述べた設計支援システム10Aは、仮想製造システム2Aと、仮想製造システム2Aと通信可能な通信装置5Aとを備える。通信装置5Aは、候補材料の加工品の設計条件及び加工条件の制約条件と候補材料の加工品の特性の目標を含む要求仕様情報を仮想製造システム2Aに送信するように構成される。予測処理S31は、要求仕様情報に基づいて候補材料の加工品の設計条件及び加工条件を決定する。決定処理S32は、要求仕様情報に基づいて候補材料の加工品の特性の許容範囲を決定する。生成処理S33は、加工品評価情報D2を通信装置5Aに送信するように構成される。この構成は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
以上述べた試作支援システム11Aは、設計支援システム10Aと、通信装置5Aと通信可能な試作管理システム3Aとを備える。通信装置5Aは、候補材料の試作品の製造の指示を試作管理システム3Aに送信するように構成される。試作管理システム3Aは、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の試作品を候補加工条件に基づいて加工して得られる加工品の特性の測定の結果に基づいて候補材料の試作品の加工品の特性の測定値を含む試作品評価情報を生成して通信装置5Aに送信するように構成される。この構成は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
また、試作支援システム11Aにおいて、演算回路24Aは、第1更新処理S43と第2更新処理S45との少なくとも一方を実行するように構成される。第1更新処理S43は、候補設計条件と試作品の特性の測定値との組み合わせに基づいて材料予測モデルLM1を更新する。第2更新処理S45は、候補加工条件と試作品の特性の測定値と加工品の特性の測定値との組み合わせに基づいて加工予測モデルLM2を更新する。この構成は、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることを可能にする。
また、試作支援システム11Aにおいて、演算回路24Aは、更新処理S43を実行するように構成される。演算回路24Aは、更新処理S43の実行後に、予測処理S31、決定処理S32及び生成処理S33を再度実行するように構成される。この構成は、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることを可能にする。
以上述べた量産支援システム1Aは、試作支援システム11Aと、通信装置5Aと通信可能な量産管理システム4Aとを備える。通信装置5Aは、候補材料の量産品の製造の指示を量産管理システム4Aに送信するように構成される。量産管理システム4Aは、候補設計条件に基づいて製造された候補材料の量産品の特性の測定の結果に基づいて候補材料の量産品の特性の測定値を含む量産品評価情報を生成するように構成される。量産管理システム4Aは、候補材料の量産品の特性の測定値に基づいて候補材料の量産品のための量産品加工条件を示す加工情報を生成するように構成される。量産管理システム4Aは、量産品評価情報と加工情報とを通信装置5Aに送信するように構成される。この構成は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
[2.変形例]
本発明の実施の形態は、上記実施の形態に限定されない。上記実施の形態は、本発明の課題を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下に、上記実施の形態の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
一変形例において、仮想製造システム2は、必ずしも更新処理S23を実行する必要はない。予測モデルLM1は必要に応じて、外部のシステムによって修正又は更新されてよい。仮想製造システム2Aは、必ずしも更新処理S43及び第2更新処理S44を実行する必要はない。予測モデルLM2は必要に応じて、外部のシステムによって修正又は更新されてよい。
一変形例において、仮想製造システム2Aでは、予測モデルLM2の代わりに、材料予測モデルと、加工予測モデルとが記憶装置23Aに記憶されてよい。材料予測モデルは、材料の設計条件の入力に対して材料の特性の予測値を出力するように構成される。加工予測モデルは、材料の特性の値と材料の加工条件との入力に対して材料の加工品の特性の予測値を出力するように構成される。演算回路24Aは、第1予測処理と、第1決定処理と、第2予測処理と、第2決定処理と、生成処理とを実行するように構成されてよい。第1予測処理は、候補材料の設計条件を材料予測モデルに入力することによって材料予測モデルから候補材料の特性の予測値を取得する。第1決定処理は、第1予測処理の結果に基づいて候補材料の特性の予測値が候補材料の特性の許容範囲内にある候補設計条件を決定する。第2予測処理は、候補設計条件に対応する候補材料の特性の予測値及び候補材料の加工条件を加工予測モデルに入力することによって加工予測モデルから候補材料の加工品の特性の予測値を取得する。第2決定処理は、第2予測処理の結果に基づいて候補材料の加工品の特性の予測値が候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある候補加工条件を決定する。生成処理は、候補設計条件及び候補加工条件に基づいて加工品評価情報を生成する。この場合の仮想製造システム2Aであっても、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。この場合、演算回路24Aは、所定の条件が満たされた場合に、材料予測モデルと加工予測モデルとの少なくとも一方の更新を行い、再度、候補材料の設計を行ってよい。具体的には、演算回路24Aは、試作品の特性の測定値が予測値から乖離している場合には、材料予測モデルの更新を実行して、第1予測処理、第1決定処理、第2予測処理、第2決定処理、及び生成処理を実行してよい。演算回路24Aは、加工品の特性の測定値が予測値から乖離している場合には、加工予測モデルの更新を実行して、第2予測処理、第2決定処理及び生成処理を実行してよい。なお、材料予測モデル及び加工予測モデルは必要に応じて、外部のシステムによって修正又は更新されてよい。
一変形例において、試作管理システム3は、候補設計条件をそのまま用いて候補材料の試作を行えない場合、試作が可能となるように候補設計条件を修正してよい。候補設計条件の修正は、試作管理システム3から仮想製造システム2に伝達され、仮想製造システム2においても、候補設計条件の修正が反映される。この点は試作管理システム3Aにおいても同様である。
一変形例において、試作管理システム3Aは、候補加工条件をそのまま用いて候補材料の加工を行えない場合、加工が可能となるように候補加工条件を修正してよい。候補加工条件の修正は、試作管理システム3Aから仮想製造システム2Aに伝達され、仮想製造システム2Aにおいても、候補加工条件の修正が反映される。
一変形例において、量産管理システム4は、候補設計条件をそのまま用いて候補材料の量産を行えない場合、量産が可能となるように候補設計条件を修正してよい。候補設計条件の修正は、量産管理システム4から仮想製造システム2に伝達され、仮想製造システム2においても、候補設計条件の修正が反映される。この点は量産管理システム4Aにおいても同様である。
一変形例では、量産支援システム1において、仮想製造システム2、試作管理システム3、及び量産管理システム4がそれぞれ異なるコンピュータシステムで実現されることは必須ではない。仮想製造システム2、試作管理システム3、及び量産管理システム4の少なくとも2つは単一のコンピュータシステムで実現されてもよい。この点は、量産支援システム1Aにおいても同様である。
一変形例では、仮想製造システム2は、入出力装置21と通信回路22との両方を備える必要はない。この点は、仮想製造システム2A、試作管理システム3,3A及び量産管理システム4,4Aにおいても同様である。
一変形例では、仮想製造システム2、試作管理システム3、及び量産管理システム4の各々は、複数のコンピュータシステムで実現されてもよい。つまり、仮想製造システム2、試作管理システム3、及び量産管理システム4の各々における複数の機能(構成要素)が、1つの筐体内に集約されていることは必須ではなく、仮想製造システム2、試作管理システム3、及び量産管理システム4の各々の構成要素は、複数の筐体に分散して設けられていてもよい。さらに、仮想製造システム2、試作管理システム3、及び量産管理システム4の各々の少なくとも一部の機能、例えば、仮想製造システム2の演算回路24の一部の機能がクラウド(クラウドコンピューティング)等によって実現されてもよい。この点は、仮想製造システム2A、試作管理システム3A、及び量産管理システム4Aにおいても同様である。
[3.態様]
上記実施の形態及び変形例から明らかなように、本発明は、下記の態様を含む。以下では、実施の形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
第1の態様は、仮想製造システム(2)であって、予測モデル(LM1)を記憶する記憶装置(23)と、前記記憶装置(23)にアクセス可能な演算回路(24)とを備える。前記予測モデル(LM1)は、材料の設計条件の入力に対して前記材料の特性の予測値を出力するように構成される。前記演算回路(24)は、予測処理(S11)と、決定処理(S12)と生成処理(S13)とを実行するように構成される。前記予測処理(S11)は、候補材料の設計条件を前記予測モデル(LM1)に入力することによって前記予測モデル(LM1)から前記候補材料の特性の予測値を取得する。前記決定処理(S12)は、前記予測処理(S11)の結果に基づいて前記候補材料の特性の予測値が前記候補材料の特性の許容範囲内にある候補設計条件を決定する。前記生成処理(S13)は、前記候補設計条件に基づいて材料評価情報(D1)を生成する。前記材料評価情報(D1)は、前記候補設計条件に対応する前記候補材料の特性の予測値と、前記候補設計条件に基づいて製造される前記候補材料の試作品の特性の値が前記候補材料の特性の許容範囲内にある可能性を示す評価値とを含む。この態様は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
第2の態様は、第1の態様に基づく仮想製造システム(2)である。第2の態様において、前記可能性は、前記予測モデル(LM1)に入力される前記候補材料の設計条件と既存の材料の設計条件との差が小さいほど高く設定される。この態様は、可能性の精度の向上を可能にする。
第3の態様は、第2の態様に基づく仮想製造システム(2)である。第3の態様において、前記予測モデル(LM1)は、前記材料の設計条件の入力に対して前記材料の特性の予測値及び前記予測値の確率分布を出力するように学習された学習済みモデルである。前記生成処理(S13)は、前記予測モデル(LM1)から得られる予測値の確率分布が前記候補材料の特性の許容範囲にどの程度収まるかに基づいて、前記可能性を求める。この態様は、可能性の精度の向上を可能にする。
第4の態様は、第2の態様に基づく仮想製造システム(2)である。第4の態様において、前記記憶装置(23)は、前記既存の材料の設計条件が登録される材料データベース(DB1)を記憶する。前記生成処理(S13)は、前記予測モデル(LM1)に入力される前記候補材料の設計条件と前記材料データベース(DB1)に登録される前記既存の材料の設計条件との類似度に基づいて前記可能性を求める。この態様は、可能性の精度の向上を可能にする。
第5の態様は、設計支援システム(10)であって、第1~第4の態様のいずれか一つに基づく仮想製造システム(2)と、前記仮想製造システム(2)と通信可能な通信装置(5)とを備える。前記通信装置(5)は、前記候補材料の設計条件の制約条件と前記候補材料の特性の目標とを含む要求仕様情報を前記仮想製造システム(2)に送信するように構成される。前記予測処理(S11)は、前記要求仕様情報に基づいて前記候補材料の設計条件を決定する。前記決定処理(S12)は、前記要求仕様情報に基づいて前記候補材料の特性の許容範囲を決定する。前記生成処理(S13)は、前記材料評価情報(D1)を前記通信装置(5)に送信する。この態様は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
第6の態様は、試作支援システム(11)であって、第5の態様に基づく設計支援システム(10)と、前記通信装置(5)と通信可能な試作管理システム(3)とを備える。前記通信装置(5)は、前記候補材料の試作品の製造の指示を前記試作管理システム(3)に送信するように構成される。前記試作管理システム(3)は、前記候補設計条件に基づいて製造された前記候補材料の試作品の特性の測定の結果に基づいて前記候補材料の試作品の特性の測定値を含む試作品評価情報を生成して、前記通信装置(5)に送信するように構成される。この態様は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
第7の態様は、第6の態様に基づく試作支援システム(11)である。第7の態様において、前記演算回路(24)は、更新処理(S23)を実行するように構成される。前記更新処理(S23)は、前記候補設計条件と前記候補設計条件で製造された前記候補材料の試作品の特性の測定値との組み合わせに基づいて前記予測モデル(LM1)を更新する。この態様は、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることを可能にする。
第8の態様は、第7の態様に基づく試作支援システム(11)である。第8の態様において、前記演算回路(24)は、前記更新処理(S23)の実行後に、前記予測処理(S11)、前記決定処理(S12)及び前記生成処理(S13)を再度実行するように構成される。この態様は、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることを可能にする。
第9の態様は、量産支援システム(1)であって、第6~第8の態様のいずれか一つに記載の試作支援システム(11)と、前記通信装置(5)と通信可能な量産管理システム(4)とを備える。前記通信装置(5)は、前記候補材料の量産品の製造の指示を前記量産管理システム(4)に送信するように構成される。前記量産管理システム(4)は、前記候補設計条件に基づいて製造された前記候補材料の量産品の特性の測定の結果に基づいて前記候補材料の量産品の特性の測定値を含む量産品評価情報を生成して、前記通信装置(5)に送信するように構成される。この態様は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
第10の態様は、仮想製造システム(2)であって、予測モデル(LM2)を記憶する記憶装置(23A)と、前記記憶装置(23A)にアクセス可能な演算回路(24A)とを備える。前記予測モデル(LM2)は、所定の材料の設計条件及び加工条件の入力に対して前記所定の材料の加工品の特性の予測値を出力するように構成される。前記演算回路(24A)は、予測処理(S31)と、決定処理(S32)と、生成処理(S33)とを実行するように構成される。前記予測処理(S31)は、候補材料の設計条件及び加工条件を前記予測モデル(LM2)に入力することによって前記予測モデル(LM2)から前記候補材料の加工品の特性の予測値を取得する。前記決定処理(S32)は、前記予測処理(S31)の結果に基づいて前記候補材料の加工品の特性の予測値が前記候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある候補設計条件及び候補加工条件を決定する。前記生成処理(S33)は、前記候補設計条件及び前記候補加工条件に基づいて加工品評価情報(D2)を生成する。前記加工品評価情報(D2)は、前記候補設計条件及び前記候補加工条件の組み合わせに対応する前記候補材料の加工品の特性の予測値を含む。前記加工品評価情報(D2)は、前記候補設計条件に基づいて製造される前記候補材料の試作品を前記候補加工条件に基づいて加工して得られる前記候補材料の試作品の加工品の特性の値が前記候補材料の加工品の特性の許容範囲内にある可能性を示す評価値を含む。この態様は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
第11の態様は、第10の態様に基づく仮想製造システム(2A)である。第11の態様において、前記可能性は、前記予測モデル(LM2)に入力される前記候補材料の設計条件及び加工条件の組み合わせと既存の材料の設計条件及び加工条件の組み合わせとの差が小さいほど高く設定される。この態様は、可能性の精度の向上を可能にする。
第12の態様は、第11の態様に基づく仮想製造システム(2A)である。第12の態様において、前記予測モデル(LM2)は、前記材料の設計条件及び加工条件の入力に対して前記材料の加工品の特性の予測値及び前記予測値の確率分布を出力するように学習された学習済みモデルである。前記生成処理(S33)は、前記予測モデル(LM2)から出力される予測値の確率分布が前記候補材料の加工品の特性の許容範囲にどの程度収まるかに基づいて、前記可能性を求める。この態様は、可能性の精度の向上を可能にする。
第13の態様は、第11の態様に基づく仮想製造システム(2A)である。第13の態様において、前記記憶装置(23A)は、前記既存の材料の設計条件及び加工条件の組み合わせが登録される材料データベース(DB2)を記憶する。前記生成処理(S33)は、前記予測モデル(LM2)に入力される前記候補材料の設計条件及び加工条件の組み合わせと前記材料データベース(DB2)に登録される前記既存の材料の設計条件及び加工条件の組み合わせとの類似度に基づいて前記可能性を求める。この態様は、可能性の精度の向上を可能にする。
第14の態様は、設計支援システム(10A)であって、第10~第13の態様のいずれか一つに基づく仮想製造システム(2A)と、前記仮想製造システム(2A)と通信可能な通信装置(5A)とを備える。前記通信装置(5A)は、前記候補材料の加工品の設計条件及び加工条件の制約条件と前記候補材料の加工品の特性の目標を含む要求仕様情報を前記仮想製造システム(2A)に送信するように構成される。前記予測処理(S31)は、前記要求仕様情報に基づいて前記候補材料の加工品の設計条件及び加工条件を決定する。前記決定処理(S32)は、前記要求仕様情報に基づいて前記候補材料の加工品の特性の許容範囲を決定する。前記生成処理(S33)は、前記加工品評価情報(D2)を前記通信装置(5A)に送信する。この態様は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
第15の態様は、試作支援システム(11A)であって、第14の態様に基づく設計支援システム(10A)と、前記通信装置(5A)と通信可能な試作管理システム(3A)とを備える。前記通信装置(5A)は、前記候補材料の試作品の製造の指示を前記試作管理システム(3A)に送信するように構成される。前記試作管理システム(3A)は、前記候補設計条件に基づいて製造された前記候補材料の試作品を前記候補加工条件に基づいて加工して得られる加工品の特性の測定の結果に基づいて前記候補材料の試作品の加工品の特性の測定値を含む試作品評価情報を生成して前記通信装置(5A)に送信するように構成される。この態様は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
第16の態様は、第15の態様に基づく試作支援システム(11A)である。第16の態様において、前記演算回路(24A)は、更新処理(S43)を実行するように構成される。前記更新処理(S43)は、前記候補設計条件及び前記候補加工条件との組み合わせと前記加工品の特性の測定値とに基づいて前記予測モデル(LM2)を更新する。この態様は、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることを可能にする。
第17の態様は、第16の態様に基づく試作支援システム(11A)である。第17の態様において、前記演算回路(24A)は、前記更新処理(S43)の実行後に、前記予測処理(S31)、前記決定処理(S32)及び前記生成処理(S33)を再度実行するように構成される。この態様は、ユーザの要望に合うより良い材料を見つけることを可能にする。
第18の態様は、量産支援システム(1A)であって、第15~第17の態様のいずれか一つに基づく試作支援システム(11A)と、前記通信装置(5A)と通信可能な量産管理システム(4A)とを備える。前記通信装置(5A)は、前記候補材料の量産品の製造の指示を前記量産管理システム(4A)に送信するように構成される。前記量産管理システム(4A)は、前記候補設計条件に基づいて製造された前記候補材料の量産品の特性の測定の結果に基づいて前記候補材料の量産品の特性の測定値を含む量産品評価情報を生成するように構成される。前記量産管理システム(4A)は、前記候補材料の量産品の特性の測定値に基づいて前記候補材料の量産品のための量産品加工条件を示す加工情報を生成するように構成される。前記量産管理システム(4A)は、前記量産品評価情報と前記加工情報とを前記通信装置(5A)に送信するように構成される。この態様は、ユーザの要望に合う特性を持つ材料の提供を可能にする。
[4.用語]
本発明では、機械学習に関する用語を以下のように定義して用いる。
「学習済みモデル」とは「学習済みパラメータ」が組み込まれた「推論プログラム」をいう。
「学習済みパラメータ」とは、学習用データセットを用いた学習の結果、得られたパラメータ(係数)をいう。学習済みパラメータは、学習用データセットを学習用プログラムに対して入力することで、一定の目的のために機械的に調整されることで生成される。学習済みパラメータは、学習の目的にあわせて調整されているものの、単体では単なるパラメータ(数値等の情報)にすぎず、これを推論プログラムに組み込むことで初めて学習済みモデルとして機能する。例えば、ディープラーニングの場合には、学習済みパラメータの中で主要なものとしては、各ノード間のリンクの重み付けに用いられるパラメータ等がこれに該当する。
「推論プログラム」とは、組み込まれた学習済みパラメータを適用することで、入力に対して一定の結果を出力することを可能にするプログラムをいう。例えば、入力として与えられた画像に対して、学習の結果として取得された学習済みパラメータを適用し、当該画像に対する結果(認証や判定)を出力するための一連の演算手順を規定したプログラムである。
「学習用データセット」とは、訓練データセットともいい、生データに対して、欠測値や外れ値の除去等の前処理や、ラベル情報(正解データ)等の別個のデータの付加等、あるいはこれらを組み合わせて、変換・加工処理を施すことによって、対象とする学習の手法による解析を容易にするために生成された二次的な加工データをいう。学習用データセットには、生データに一定の変換を加えていわば「水増し」されたデータを含むこともある。
「生データ」とは、ユーザやベンダ、その他の事業者や研究機関等により一次的に取得されたデータであって、データベースに読み込むことができるよう変換・加工処理されたものをいう。
「学習用プログラム」とは、学習用データセットの中から一定の規則を見出し、その規則を表現するモデルを生成するためのアルゴリズムを実行するプログラムをいう。具体的には、採用する学習手法による学習を実現するために、コンピュータに実行させる手順を規定するプログラムがこれに該当する。
「追加学習」とは、既存の学習済みモデルに、異なる学習用データセットを適用して、更なる学習を行うことで、新たに学習済みパラメータを生成することを意味する。
「再利用モデル」とは、追加学習により新たに生成された学習済みパラメータが組み込まれた推論プログラムを意味する。
「蒸留」とは、既存の学習済みモデルへの入力および出力結果を、新たな学習済みモデルの学習用データセットとして利用して、新たな学習済みパラメータを生成することを意味する。
「蒸留モデル」とは、蒸留により新たに生成された学習済みパラメータが組み込まれた推論プログラムを意味する。