JP7197895B2 - 流体式推力方向制御装置 - Google Patents

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特許法第30条第2項適用 (1)岡山理科大学工学部機械システム工学科卒業研究発表会での発表,平成30年2月11日 (2)岡山理科大学大学院工学研究科機械システム工学専攻修士論文公聴会での発表,平成30年2月15日 (3)日本機械学会中国四国支部第56期総会・講演会での発表,平成30年3月7日 (4)日本流体力学会中四国・九州支部第21回支部講演会での発表,平成30年6月2日 (5)第50回流体力学講演会/第36回航空宇宙数値シミュレーション技術シンポジウムでの発表,平成30年7月4日 (6)岡山理科大学工学部機械システム工学科卒業研究発表会での発表,平成30年8月6日
本発明は、ロケットエンジンやジェットエンジン等の推力の方向を制御するための流体式推力方向制御装置に関する。
航空機や各種の飛翔体の多くは、空力操舵により運動の制御を行うが、動圧が低い状況下では、空力操舵が有効に働かない場合がある。例えば、宇宙空間や高高度において運用される宇宙ロケットのように、機体の周りが真空若しくは低密度である場合、又は、地上から発射された直後の各種飛翔体のように機体速度が非常に遅い場合に、空気力を用いた運動制御(空力操舵)が著しく困難となる。このような条件下で機体を制御するために、推力方向制御(TVC: Thrust Vector Control)が用いられる。推力方向制御とは、ロケットエンジン或いはジェットエンジンから排出される噴流の向きを何らかの方法で変えることにより、推力の向きを制御する技術である。これにより、空力操舵が有効でない状況でも、機体の姿勢や進行方向の制御が可能となる。また、近年では、航空機における高機動性を確保するための手段として、空力操舵とTVCとが併用されるケースもある。
推力方向制御装置の方式は、機械式と流体式の2つに大別できる。機械式の推力方向制御装置(機械式推力方向制御装置)は、噴流の流路の形状を機械的に変化させるものである。機械式推力方向制御装置としては、エンジンノズル内に傾斜板を設けるものや、ノズル形状を変化させるものや、エンジン自体の向きを変えるもの等がある。一方、流体式の推力方向制御装置(流体式推力方向制御装置)は、ノズル内を流れる流体自体の作用を用いることで、ノズル出口から噴出する噴流の向きを変化させるものである。流体式推力方向制御装置としては、ノズル内を流れる主流に対して二次噴流を注入することにより、主流の流れに変化を起こさせ、全体としての噴流の向きを偏向させるものが代表的である。流体式推力方向制御は、軽量化を図りやすく、応答性能を高くしやすいという点等で、機械式推力方向制御よりも優れている。
二次噴流を用いる流体式推力方向制御装置としては、デュアルスロートノズルを用いたものが提案されている(例えば、非特許文献1及び2を参照。)。ここで、「デュアルスロートノズル」とは、ロケットエンジン等のノズルとして通常用いられるラバールノズルの出口を絞って、第二スロートを設けた形状のノズルである。図1に、従来から提案されているデュアルスロートノズル10の概念図を示す。同図において、符号「10」はデュアルスロートノズルを、符号「10a」はノズルの中心線を、符号「11」はノズル入口を、符号「12」は第一絞り部を、符号「13」は第一スロートを、符号「14」は広がり部を、符号「15」は第二絞り部を、符号「16」は第二スロートを、符号「18」はノズル出口を、符号「19」は二次噴流注入口を、符号「FIN1」はエンジン燃焼室からノズル入口に流入する主流を、符号「FIN2」は二次噴流注入口から注入する二次噴流を、符号「FOUT」はノズル出口から噴出する噴流を、符号「F」、「F」、「F」及び「F」は代表的な流線を、符号「α」は剥離領域(同図において網掛けハッチングで示した領域)をそれぞれ示している。
図1に示すように、第一スロート13の近辺の下側のノズル壁に設けた二次噴流注入口19から二次噴流FIN2を注入すると、主流FIN1の流れは、その流線F,F,F,F(特に下側の流線F)に示されるように、デュアルスロートノズル10における下側の内壁面から剥離し、二次噴流注入口19と当該下側の内壁面における第二スロート16との間に剥離領域αが生じる。その結果、主流FIN1は、上側に大きく押し上げられるとともに、ノズル出口18の直前の第二絞り部15で逆方向に押し戻される。このため、ノズル出口18から噴出する噴流FOUTは、ノズル中心線10aに平行で右向きの方向よりも右下を向くように偏向し、その反作用として生じる推力が、ノズル中心線10aに平行で左向きの方向よりも左上を向くように偏向する。二次噴流を用いるデュアルスロートノズル10では、上記のメカニズム(以下、「流れの剥離メカニズム」と呼ぶことがある。)によって、推力方向の制御が行われる。
Flamm,J.D., Deere,K.A., Mason,M.L., Berrier,B.L., and Johnson,S.K., "Experimental Study of an Axisymmetric Dual Throat Fluidic Thrust Vectoring Nozzle for Supersonic Aircraft Application", AIAA Paper, 2007-5084, 2007. Shin,C.S., Kim,H.D., Setoguchi,T. and Matsuo,S., "A Computational Study of Thrust Vectoring Control Using Dual Throat Nozzle", J.Thermal Science, 19,6(2010), pp.486-490. Fearn,R.M., Mullin,T. and Cliffe,K.A., "Nonlinear Flow Phenomena in a Symmetric Sudden Expansion", J.Fluid Mech., 211(1990), pp.595-608. Durst,F., Pereira,J.C.F. and Tropea, C., "The Plane Symmetric Sudden-Expansion Flow at Low Reynolds Numbers", J.Fluid Mech., 248(1993), pp.567-581. 中西助次, 桜井元康, 小田伸剛, "二次元対称急拡大流路内流れの非対称流に関する数値的研究", 広島工業大学研究紀要, 30(1996),pp.37-43. リープマン・ロシュコ著, 玉田こう(「こう」は「王」偏に「光」)訳, "気体力学", 吉岡書店,1960.
ところで、二次噴流を用いるデュアルスロートノズルを含め、推力方向制御装置の実用性を検討する際には、「推力が偏向すべきときに偏向する」という条件(以下、「第一条件」と呼ぶことがある。)と、「推力が偏向すべきでないときに偏向しない」という条件(以下、「第二条件」と呼ぶことがある。)とを確認する必要がある。ところが、第一条件の成立は、非特許文献1及び非特許文献2において既に確認されているものの、第二条件の成立は、未だ確認されていなかった。このため、本発明者は、二次噴流を用いるデュアルスロートノズルが第二条件を満たすか否かを確認するため、シミュレーションを行った。具体的には、図1に示したデュアルスロートノズル10において、二次噴流FIN2を注入せずに主流FIN1のみを流入させた場合のデュアルスロートノズル10内の流れ場と推力偏向角度を数値シミュレーションにより算出した。
シミュレーションの解析手法としては、モンテカルロ直接シミュレーション(DSMC: Direct Simulation Monte Carlo)法を用いた。分子モデルは剛体球とし、その剛体球がデュアルスロートノズル10の内周壁で鏡面反射するものとした。推力(ベクトル量「f」とする。)は、微小時間(「Δt」とする。)の間にノズル出口18から噴出した分子の総運動量(ベクトル量「Δp」とする。)の値から、下記式1を用いて求めた。また、推力偏向角度(「δ」とする。)は、下記式2を用いて求めた。
Figure 0007197895000001

Figure 0007197895000002
また、このシミュレーションにおいて、デュアルスロートノズル10は、図2に示したものと同様に、y軸方向に垂直な任意断面の形状が同一となる二次元ノズルとして定義した。デュアルスロートノズル10のy軸方向に垂直な断面における各部の寸法(ノズル入口11の開口幅Dに対する各部の寸法)は、図3に示す値に設定した。以下においては、図3に示す寸法のデュアルスロートノズル10を「ノズルA」と呼ぶことがある。ノズルAにおける第二スロート16の幅(断面積)は、従来から提案されているデュアルスロートノズルを用いた推力方向制御装置(非特許文献1や非特許文献2のデュアルスロートノズルを用いた推力方向制御装置)と同様に、第一スロート13の幅(断面積)と同じ寸法に設定している。計算は、デュアルスロートノズル10内の全域が真空である初期状態からスタートさせ、少なくともデュアルスロートノズル10内の流れ場がほぼ定常状態となることが確認できるまで継続して行った。
なお、上記の「第二条件」の成立の有無を確認するこのシミュレーション(以下、「第二条件確認シミュレーション」と呼ぶことがある。)に先立ち、「背景技術」の欄で説明した「流れの剥離メカニズム」による推力方向の偏向が実際に行われるか否か(第一条件が成立するか否か)を確認するシミュレーション(以下、「第一条件確認シミュレーション」と呼ぶことがある。)も行った。具体的には、図3に示した寸法の二次元ノズル(ノズルA)において、図1に示すように、主流FIN1及び二次噴流FIN2を注入させた場合のデュアルスロートノズル10内の流れについてシミュレーションを行った。第一条件確認シミュレーションの解析手法は、既に述べた第二条件確認シミュレーションと同じとした。ただし、第一条件確認シミュレーションでは、図1に示されるように、二次噴流FIN2が注入される。この二次噴流FIN2の流量は、主流FIN1と二次噴流FIN2との流量の合計に対する5%に設定した。二次噴流FIN2の注入方向は、図1のノズル中心線10aに平行な右向きの方向(x軸方向正側)から同図の紙面に向かって反時計回りに150°回転した方向とした。この場合について計算を行うと、定常状態での推力偏向角度δが約-19°となることが確認できた。ここで、上記式2で算出される推力偏向角度δは、図3において反時計回りに偏向した場合に正の値となるので、図1に示したメカニズムにより左上方向に推力が偏向した結果、δの値は負となっている。
図4に、ノズルAについて行った第二条件確認シミュレーションの結果を示す。この図4は、推力偏向角度δの時間変化を表したグラフとなっている。同図では、シミュレーションに用いる乱数列の値を10通りに設定した上で、それぞれ計算を実行した結果を重ねて表示している。ただし、乱数列以外の条件は同一である。第二条件確認シミュレーションにおいて、一連の乱数は個々の流入分子の速度設定や、二体衝突する分子の選択、衝突後の散乱方向の決定に用いられる。また時間は、D/(2RT1/2を基準値として無次元化した値を示している。ここで、Dはノズル入口11の開口幅、Rは計算に用いた模擬分子の気体定数に相当する物理量、Tはノズル入口11からの流入流における絶対温度である。図4から明らかなように,時刻t=13付近までは、いずれの乱数列でも、推力偏向角度δが略0°となるものの、t>13の範囲では、乱数列によって推力偏向角度δが正又は負の値を取る場合があり、その絶対値は最大で約4°に達している。ノズル形状、流入条件とも上下対称に設定しているにも拘らず、推力ベクトルの方向が対称軸から偏向しており、しかも乱数列という偶発的な要因により偏向の向きや大きさが様々に変化している。
大きな偏向角の絶対値が得られた乱数列4及び乱数列10の場合について、時間が十分(じゅうぶん)経過した後のt=37.5におけるノズル内流線を図5(a),(b)にそれぞれ示す。図5(a),(b)を見ると、デュアルスロートノズル10内に上下非対称な剥離領域が発生していることが明確に読み取れる。また、乱数列4及び乱数列10のいずれの場合でも、デュアルスロートノズル10内の全領域で亜音速或いは遷音速となっている。
このように、シミュレーションの計算過程や計算結果には、統計的な揺らぎが反映される。この揺らぎは現実の流れ場にも存在するものである。ただし、シミュレーションにおける分子数は10の6乗個程度であり、現実のアボガドロ数よりもはるかに小さな値である。このため、シミュレーションの流れ場では、現実の流れ場よりも、統計的な揺らぎが拡大して反映される。その一方で、現実の流れ場には、シミュレーションでは考慮していない巨視的な乱れも存在する。この巨視的な乱れは、上記の揺らぎと同様の効果をもたらし得るため、上記の非対称性は、現実の流れにおいても生じる可能性がある。本ケースと形状は異なるが、流路の中心線に対して対称な二次元形状の管の急拡大部を通過する非圧縮流が非対称な剥離領域を生じる現象は実験的にも確認されている(非特許文献3及び非特許文献4を参照)。一般的に、広がり部では、流れの剥離が生じやすく、境界形状が流路の中心線に対して対称であったとしても、剥離領域も対称となる拘束条件が課せられている訳ではない。実際、レイノルズ数があまり小さくなければ、非対称な剥離領域を持つ解が存在することが数値解析により示されている(非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5を参照)。一般的に、解の数はレイノルズ数とともに増加する。個々の流れ場がどの解に向かうかは、流れ場に存在する微細な乱れや揺らぎ或いは壁面のわずかな凹凸により影響を受ける。
さらに、流体式推力方向制御装置における流れ場のように、圧縮性が無視できない高速流の場合、仮に広がり部で剥離しない流れが実現されていたとしても、流速が音速以下であれば、流路の広がり部で流れが減速して逆圧力勾配状態(下流に行くほど圧力が上昇する状態)が生じ、流体は下流への移動とともにその体積が縮小する。流路の広がりと流体体積の縮小とが同時に起こる状況下では、剥離しない流れの継続は難しく、何かのきっかけで剥離流に移行するのは自然の成り行きと言える。その際に、剥離領域が非対称な形状となる解が存在すれば、流れ場がそちらに移行することがあっても何ら不自然ではない。
既に述べたように、流体式推力方向制御装置においては、「推力が偏向すべきときに偏向する」という第一条件に加えて、「推力が偏向すべきでないときに偏向しない」という第二条件も成立することが重要である。この点、第二条件確認シミュレーション(図4)で現れた、推力が偏向すべきでないときの推力方向の揺らぎが、現実の流体式推力方向制御装置においても、「偶発的要因により生ずる二次噴流停止時の推力偏向」として現れる可能性がある。このことは、デュアルスロートノズルを用いた流体式推力方向制御装置が実用化されるか否かに関わる重大な問題となる可能性がある。したがって、この問題は、デュアルスロートノズルを用いた流体式推力方向制御装置の実用化に向けて予め解決しておくべきである。
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、「推力が偏向すべきときに偏向する」という条件(第一条件)だけでなく、「推力が偏向すべきでないときに偏向しない」という条件(第二条件)も満たすことができる、デュアルスロートノズルを用いた推力方向制御装置を提供するものである。
上記課題は、
ノズル内をノズル入口からノズル出口に向かって流れる主流に対し、ノズルの中途部分に設けた二次噴流注入口から二次噴流を注入することによって、主流の流れに変化を起こさせ、ノズル出口から噴出する噴流の向きを変化させる流体式推力方向制御装置であって、
ノズルが、
その上流側端部がノズル入口となり、その下流側端部の断面積がその上流側端部の断面積よりも小さく形成され、その下流側端部が第一スロートとなる第一絞り部と、
第一絞り部の下流側に接続され、その下流側端部の断面積がその上流側端部の断面積よりも大きく形成された広がり部と、
広がり部の下流側に接続され、その下流側端部の断面積がその上流側端部の断面積よりも小さく形成され、その下流側端部が第二スロートとなる第二絞り部と
を有するデュアルスロートノズルとされるとともに、
第二スロートの断面積(「A 」とする。)が、第一スロートの断面積(「A 」とする。)よりも大きく設定されることにより、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入させる非偏向制御時に、広がり部に超音速の流れが生じて、その流れがノズル内壁面から剥離しないようにすることで、意図しない推力偏向が起こらないようにした
ことを特徴とする流体式推力方向制御装置
を提供することによって解決される。
これにより、デュアルスロートノズルを用いた推力方向制御装置を、「推力が偏向すべきでないときに偏向しない」という条件(第二条件)も満たすものとすることができる。すなわち、上記の構成を採用することによって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入させたとき(非偏向制御時)には、第一スロートの下流側に接続された広がり部における特定位置に衝撃波が定在するようになり、第一スロートが形成された箇所と衝撃波が定在する箇所との間の領域で流れが超音速となるようにすることができる。このため、ノズル内に二次噴流を注入していないときにおいては、ノズル内での剥離を抑制して、ノズル中心線に対して略対称な流れ場を実現し、推力方向の揺らぎを抑えること(推力偏向角度を略0°で略一定とすること)が可能になる。
第二スロートの断面積A を第一スロートの断面積A よりも大きくすることによって、上記の広がり部に衝撃波が生じる理由は、一次元流近似による理論を用いて、以下のように説明できる。すなわち、デュアルスロートノズルの両スロート部(第一スロート及び第二スロート)では、圧縮性流体の性質により、マッハ数が1、即ち流速が音速に等しくなる。連続した流管(分岐や途中からの注入のない管)においては、流れが音速となる断面積は、それぞれの位置での総圧に反比例する。すなわち、両スロートでマッハ数が1となる場合、下記式3が成立する(非特許文献6を参照)。下記式3において、「p01」及び「p02」は、それぞれ第一スロート及び第二スロートでの総圧である。

Figure 0007197895000003
また、上記式3の右辺の総圧比(総圧損失により1を上回る値となる)が1つの衝撃波により生じている場合には、Rankine-Hugoniotの関係式から、下記式4が導出される。下記式4において、「M」は衝撃波上流マッハ数であり、「γ」は比熱比である。

Figure 0007197895000004
両スロートの断面積の比A /A を上記式3に代入して求められる総圧比p01/p02を上記式4の左辺に代入すると、衝撃波上流マッハ数Mを求めることができる。ノズル内における、衝撃波上流マッハ数Mとなる箇所(当該箇所におけるノズルの断面積を「A」とする。)に衝撃波が定在する。断面積Aの値は、第一スロートと衝撃波との間で等エントロピー流であるとの近似の下に、上記式4から求めた衝撃波上流マッハ数Mの値を下記式5に代入することにより算出することができる。断面積の比A /A が1よりも大きい場合(第二スロートの断面積A が第一スロートの断面積A よりも大きい場合)には、下記式5における断面積の比A/A は、1よりも大きくなる。このことから、第二スロートの断面積A を第一スロートの断面積A よりも大きくすることによって、上記の広がり部に衝撃波が生じることが分かる。

Figure 0007197895000005
また、第一スロートの形成位置と衝撃波の定在位置との間の領域で流れが超音速となることによってノズル内での剥離が抑制される理由は、以下のように説明することができる。つまり、超音速流では、広がり部で加速して順圧力勾配(下流に行くほど圧力が低下する現象)が生じ、流体は下流への移動とともに膨張する(以下においては、この膨張のメカニズムを「広がり部における超音速流の膨張メカニズム」と呼ぶことがある。)ため、流路の断面積が広がっても、流体が流路一杯に膨らむようになり、剥離のない流れが実現されやすくなる。すなわち、推力が偏向すべきでないとき(ノズル内に二次噴流を注入していないとき)に偏向しないという第二条件が満たされやすくなる。
本発明の流体式推力方向制御装置において、第二スロートの断面積A を、第一スロートの断面積A よりもどの程度大きくするのかは、特に限定されない。しかし、第一スロートの断面積A に対する第二スロートの断面積A の比A /A が小さすぎる(1に近すぎる)と、上記式3、上記式4及び上記式5により算出される断面積の比A/A の値が小さくなり(1に近づき)、衝撃波の定在位置が第一スロートの形成箇所に近づくため、第一スロートと衝撃波との間の超音速領域が狭くなって、上述した効果(ノズル内に二次噴流を注入していないときの推力方向の揺らぎを抑えるという効果)が奏されにくくなり、本発明の構成を採用する意義が低下する。このため、比A /A は、1.2以上とすることが好ましい。一方、比A /A を大きくしすぎると、後述するように、ノズル内に二次噴流を注入しているときの推力偏向角度δが小さくなり、「推力が偏向すべきときに偏向する」という条件(第一条件)が満たされにくくなる。このため、比A /A は、1.8以下とすることが好ましい。
ところで、上記のように、第二スロートの断面積A を第一スロートの断面積A よりも大きくし、二次噴流を注入していないときに、第一スロートが形成された箇所と衝撃波が定在する箇所との間の領域で流れが超音速となるようにすることで、「推力が偏向すべきでないときに偏向しない」という第二条件が満たされるようにすると、推力を偏向するために、第一スロート付近のノズル壁に設けた二次噴流注入口から二次噴流を注入し、ノズル内で流れの剥離を生じさせたとしても、上述した広がり部における超音速流の膨張メカニズムによって、主流を形成する流体が膨張するため、その剥離がすぐに解消してしまう(剥離が生じた箇所から下流側の近い箇所で剥離が解消してしまう)虞がある。このため、「推力が偏向すべきときに偏向する」という第一条件が満たされにくくなる。したがって、本発明の流体式推力方向制御装置においては、従来から提案されているデュアルスロートノズル(第一スロート付近に二次噴流注入口が設けられたデュアルスロートノズル)を用いた推力方向制御装置とは異なり、二次噴流注入口を広がり部に設けることが好ましい。
これにより、第二スロートの断面積A を第一スロートの断面積A よりも大きくして、二次噴流を注入していないときに、第一スロートが形成された箇所と衝撃波が定在する箇所との間の領域で流れが超音速となるようにしたとしても、ノズル内に二次噴流を注入しているときには、二次噴流注入口の近辺で流れが亜音速となるようにすることも可能になる。このため、ノズル内で剥離した主流(ノズル内で二次噴流注入口とは逆側に押しやられた主流)が第二絞り部に到達するまでは戻らない(剥離が解消されない)ようにすることが可能になる。したがって、「推力が偏向すべきときに偏向する」という第一条件が満たされやすくすることができる。
ここで、本発明の流体式推力方向制御装置におけるデュアルスロートノズルのように、第二スロートの断面積A が第一スロートの断面積A よりも大きなデュアルスロートノズルにおいて、ノズル内に二次噴流を注入しているときに、二次噴流注入口の近辺で流れが亜音速となる二次噴流注入口の位置は、以下のように特定することができる。
まず、二次噴流の流量を小さくした極限について考える。この極限において、ノズル内の衝撃波の位置は、二次噴流を注入しない場合の衝撃波の位置に収束する。したがって、二次噴流を注入しない場合の衝撃波面が、二次噴流注入口を設けようとするノズル内壁面と交わる位置をPとすると、二次噴流注入口をPあるいはPよりも下流側に設ければ、二次噴流の流量を小さくした極限において、二次噴流注入口の近辺で流れが亜音速となる。Pの位置は、二次噴流を注入しない場合の衝撃波面に含まれるので、近似的に上記式3、上記式4及び上記式5を連立して求められる断面積Aにノズル断面積が等しくなる位置に一致する。
次に、推力を偏向させるために有限の流量の二次噴流を広がり部から注入した場合には、一般的に、ノズル内の衝撃波は、上で述べた場合(二次噴流の流量を小さくした極限の場合)よりも弱くなる。すなわち、衝撃波上流マッハ数Mがより小さくなり、衝撃波による総圧損失量がより少なくなる。あるいは、二次噴流の流量が十分多ければ、衝撃波は消失する。衝撃波が弱くなったり消失したりする理由は、広がり部に注入した二次噴流が、第一スロートは通過しないが、第二スロートを通過する流れには含まれるということによる。したがって、上記式3における断面積A と断面積A とを、それぞれ第一スロートと第二スロートにおいて主流が実質的に占有できる断面積に置き換えると、二次噴流の効果により比A /A の値が縮小する。その結果、衝撃波により生ずる総圧損失が減少するか、あるいは衝撃波が不要となる。いずれの場合においても、二次噴流の流量を小さくした極限の場合よりも超音速領域が縮小するか、あるいは消失する。このため、二次噴流注入口を、上で述べた範囲内、すなわち、PあるいはPより下流側に設ければ、二次噴流の流量が有限である場合にも、二次噴流の流量を小さくした極限の場合と同様に、二次噴流注入口の近辺で流れが亜音速となる。
ただし、上記式3、上記式4及び上記式5は、一次元流や等エントロピー流等の近似の下に導出されたものであるために、実際のノズル内の流れと比較した場合、いくらかの誤差を含む可能性がある。したがって、二次噴流注入口の近辺で流れが亜音速となるための注入口設定位置の上流側限界は、上記の誤差の影響を考慮して、広がり部における、その断面積が上記式3、上記式4及び上記式5から求められる断面積Aの0.9倍となる箇所とすることが好ましい。一方、注入口設定位置の下流側限界については、注入口近辺で流れが亜音速となるための条件からは特に制約が生じないが、一般的な傾向として、二次噴流注入口の位置が下流に行くほど剥離領域が小さくなり、推力偏向効果が弱まるので、Pよりも下流方向に大きく離れすぎるのも好ましくない。したがって、二次噴流注入口の設定位置の下流側限界は、広がり部における、その断面積が上記式3、上記式4及び上記式5から求められる断面積Aの1.1倍となる箇所(広がり部の下流側端部の断面積が断面積Aの1.1倍を下回る場合は、広がり部の下流側端部)とすることが好ましい。
本発明の流体式推力方向制御装置において、ノズルは、ノズル入口からノズル出口に向かって、第一絞り部、第一スロート、広がり部、第二絞り部、第二スロートの順で各部が設けられたものであれば特に限定されない。ノズルとしては、その中心線を含む一の平面に平行な断面の形状が同一のもの(いわゆる二次元ノズル)や、その中心線を軸とした回転体形状を為すもの等が挙げられる。
以上のように、本発明によって、「推力が偏向すべきときに偏向する」という条件(第一条件)だけでなく、「推力が偏向すべきでないときに偏向しない」という条件(第二条件)も満たすことができる、デュアルスロートノズルを用いた推力方向制御装置を提供することが可能になる。
従来から提案されているデュアルスロートノズル(ノズルA)の概念図である。 シミュレーションで用いた二次元ノズルを表した図である。 従来から提案されているデュアルスロートノズル(ノズルA)のシミュレーション寸法を説明する図である。 従来から提案されているデュアルスロートノズル(ノズルA)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入したとき(非偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 従来から提案されているデュアルスロートノズル(ノズルA)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入したとき(非偏向制御時)におけるノズル内の流線を、(a)図4の乱数列4の場合と、(b)図4の乱数列10の場合とのそれぞれにつき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズルの概念図である。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズルの立体的形状の例を示した斜視図である。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)のシミュレーション寸法を説明する図である。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入したとき(非偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入したとき(非偏向制御時)におけるノズル内の流線を、図9の乱数列4の場合につき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入したとき(非偏向制御時)におけるノズル内のマッハ数分布を、図9の乱数列4の場合につき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)のシミュレーション寸法を説明する図である。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入したとき(非偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入したとき(非偏向制御時)におけるノズル内の流線を、図13の乱数列4の場合につき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入したとき(非偏向制御時)におけるノズル内のマッハ数分布を、図13の乱数列4の場合につき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションで用いた二次噴流注入口の設定位置を説明する図である。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションで用いた二次噴流注入口の設定位置を説明する図である。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内の流線を、図18の乱数列4の場合につき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内のマッハ数分布を、図18の乱数列4の場合につき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内の流線を、図21の乱数列1の場合につき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内のマッハ数分布を、図21の乱数列1の場合につき示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内の流線を示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内のマッハ数分布を示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内の流線を示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルB)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図16におけるPの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内のマッハ数分布を示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内の流線を示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内のマッハ数分布を示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示したグラフであって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)における推力偏向角度の時間変化を乱数列ごとに示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内の流線を示したものである。 本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル(ノズルC)について行った第一条件確認シミュレーションの結果を示した図であって、図17におけるQの位置から二次噴流を注入しているとき(偏向制御時)におけるノズル内のマッハ数分布を示したものである。
1.本発明の流体式推力方向制御装置の概要
本発明の流体式推力方向制御装置の好適な実施態様について、図面を用いてより具体的に説明する。図6は、本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル10の概念図である。同図において、符号「10」はノズルを、符号「10a」はノズルの中心線を、符号「11」はノズル入口を、符号「12」は第一絞り部を、符号「13」は第一スロートを、符号「14」は広がり部を、符号「15」は第二絞り部を、符号「16」は第二スロートを、符号「18」はノズル出口を、符号「19」は二次噴流注入口を、符号「D」はノズル入口の開口幅を、符号「FIN1」はエンジン燃焼室からノズル入口に流入する主流を、符号「FIN2」は二次噴流注入口から注入する二次噴流を、符号「FOUT」はノズル出口から噴出する噴流をそれぞれ示している。
上記の図6は、ノズル10を、その中心線10aを含む平面(xz平面に平行な平面)で切断した断面図として描いている。図7は、本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル10の立体的形状の例を示した斜視図である。ノズル10の立体的形状としては、図7(a)に示すように、y軸方向に垂直な任意断面の形状が同一となるもの(いわゆる二次元ノズル)や、図7(b)に示すように、その中心線10aを軸とした回転体形状を為すもの(いわゆる軸対称ノズル)等が挙げられる。この軸対称ノズルのように、y軸方向に垂直な任意断面の形状が同一とならないノズルは、上記の二次元ノズルと対比して「三次元ノズル」と呼ばれることもある。
本発明の流体式推力方向制御装置は、図6に示すように、ノズル10内をノズル入口11からノズル出口18に向かって流れる主流FIN1に対し、二次噴流注入口19から二次噴流FIN2を注入することによって、主流FIN1の流れに変化を起こさせ、全体としての噴流FOUTの向きを変化させることが可能なものとなっている。
ノズル10において、ノズル入口11の下流側には、第一絞り部12が形成されている。この第一絞り部12は、上流側(x軸方向負側)から下流側(x軸方向正側)に向かって絞られて形成された部分となっており、第一絞り部12の下流側端部の断面積(開口面積)は、第一絞り部12の上流側端部の断面積(開口面積)よりも狭くなっている。第一絞り部12の下流側端部は、第一スロート13となっている。
また、ノズル10における第一絞り部12の下流側には、広がり部14が形成されている。この広がり部14は、上流側から下流側に向かって広げられて形成された部分となっており、広がり部14の下流側端部の断面積(開口面積)は、広がり部14の上流側端部の断面積(開口面積)よりも広くなっている。
さらに、ノズル10における広がり部14の下流側には、第二絞り部15が形成されている。この第二絞り部15は、上記の第一絞り部12と同様、上流側から下流側に向かって絞られて形成された部分となっており、第二絞り部15の下流側端部の断面積(開口面積)は、第二絞り部15の上流側端部の断面積(開口面積)よりも狭くなっている。第二絞り部15の下流側端部は、第二スロート16となっている。ノズル10は、この第二スロート16の部分がノズル出口18となるようになっている。
ところで、従来から提案されているデュアルスロートノズルでは、第二スロート16の断面積は、第一スロート13の断面積に等しく設定されている。これに対し、本発明の流体式推力方向制御装置で用いるデュアルスロートノズル10では、図6に示すように、第二スロート16の断面積A を、第一スロート13の断面積A よりも大きく設定している。このため、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入せずに主流FIN1のみを流入させる非偏向制御時においては、広がり部14に超音速の流れが生じて、上記の「広がり部14における超音速流の膨張メカニズム」によって、ノズル10の内壁面から流れが剥離しないようにすることが可能となっている。したがって、推力が偏向すべきでないとき(非偏向制御時)に偏向しないという第二条件が満たされるようになっている。断面積A に対する断面積A の比A /A は、既に述べた理由により(「推力が偏向すべきときに偏向する」という第一条件と、「推力が偏向すべきでないときに偏向しない」という第二条件との両方が好適に満たされるようにするために)、1.2~1.8の範囲とすることが好ましい。
また、ノズル10の周壁部には、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入するための二次噴流注入口19が設けられている。図6に示した例では、二次噴流注入口19を第一スロート13の付近に設けているが、既に述べた理由により(「推力が偏向すべきときに偏向する」という第一条件が満たされやすくするために)、広がり部14の内壁面における、二次噴流FIN2を注入しない場合の衝撃波面が交わる位置の付近に設けることが好ましい。
二次噴流注入口19は、図示省略のガス移送手段に接続され、当該ガス移送手段と二次噴流注入口19とを接続するガス移送路には、当該ガス移送路の開閉を行うための開閉弁が設けられる。二次噴流注入口19に接続するガス移送手段は、主流FIN1がエンジン燃焼室から供給されるとして、このエンジン燃焼室からのガス移送路を、主流FIN1を移送する主流移送用のものと、二次噴流FIN2を移送する二次噴流移送用のものとに分岐させてもよい。
二次噴流注入口19を設ける個数は、特に限定されない。しかし、二次噴流注入口19を1箇所にしか設けていないと、推力を同じ側にしか偏向させることができない。これに対し、二次噴流注入口19を複数箇所に設けると、二次噴流FIN2を注入する二次噴流注入口19を切り替えることによって、推力を異なる側にも偏向させることが可能になる。例えば、図7(a)に示した二次元ノズルの場合には、図6に示すように、二次噴流注入口19として、下側の二次噴流注入口19aと上側の二次噴流注入口19bを設け、推力を偏向させようとする向きに応じて、いずれか一方の二次噴流注入口19から二次噴流FIN2を注入するようにするとよい。これにより、推力の向きを、z軸方向正側だけでなく、z軸方向負側にも変化させることが可能になる。推力を偏向させる角度は、ガス移送路の開閉弁の開度を調節して二次噴流FIN2の流量を調節することによって、調節することが可能である。
上記のノズル10を備えた流体式推力方向制御装置による推力の偏向原理は、以下の通りである。すなわち、本発明の流体式推力方向制御装置では、図示省略のエンジン燃焼室(ロケットエンジンやジェットエンジン等の燃焼室)から送出された燃焼ガスが、主流FIN1としてノズル入口11からノズル10内に流入し、噴流FOUTとしてノズル出口18から噴出するようになっている。この噴流FOUTの反作用によって、噴流FOUTの持つ総運動量と逆向きの力をエンジンが受け、推力が発生する。
ここで、推力を偏向しない場合(非偏向制御時)には、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入せずに主流FIN1のみが流入する状態とする。本発明の流体式推力方向制御装置で用いるノズル10は、非偏向制御時においては、図6において破線矢印で示した噴流FOUTのように、噴流FOUT全体が持つ運動量が、ノズル10の中心線10aに平行な方向の一側(x軸方向正側)を向くように設計されている。このため、エンジンには、その逆側(x軸方向負側)を向く推力が生じる。
これに対し、推力の向きをz軸方向正側に傾けたい場合(図6の紙面における左上方向に偏向しようとする場合)には、同図における下側の二次噴流注入口19aから、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入する。すると、主流FIN1は、図1に示した場合と同様に、ノズル10内で上側(z軸方向正側)に押しやられるものの、第二絞り部15によって右下方向を向くように下側(z軸方向負側)に曲げられる。このため、ノズル出口18から噴出する噴流FOUT全体の運動量は、図6において黒塗り矢印で示した噴流FOUTのように、下向きの成分を持つようになる。その結果、エンジンの推力は、図6の紙面における左上方向に偏向する。
一方、推力の向きをz軸方向負側に傾けたい場合(図6の紙面における左下方向に偏向しようとする場合)には、同図における上側の二次噴流注入口19bから、ノズル10内に二次噴流FIN2(図示省略)を注入する。これにより、下側の二次噴流注入口19aから二次噴流FIN2を注入した場合と同様の原理によって、推力は、図6の紙面における左下方向に偏向する。
以上では、ノズル10が図7(a)の二次元ノズルである場合について説明したが、ノズル10が図7(b)の軸対称ノズルである場合についても略同様である。ただし、ノズル10を軸対称ノズルとする場合には、ノズル10の中心線10a回りの180°を超える範囲の少なくとも3箇所に二次噴流注入口19を設けることが好ましい。これにより、それぞれの二次噴流注入口19から注入する二次噴流FIN2の流量を調節することによって、推力の向きを、y軸方向正側やy軸方向負側にも変化させることが可能になる。

2.第二条件確認シミュレーション
本発明の流体式推力方向制御装置に係るデュアルスロートノズル10が、「偏向すべきでないときに偏向しない」という第二条件を満たすか否かを確認するために、シミュレーション(第二条件確認シミュレーション)を行った。具体的には、本発明の流体式推力方向制御装置に係るノズル10(図6)において、二次噴流FIN2を注入せずに主流FIN1のみを流入させた場合(非偏向制御時)のデュアルスロートノズル10内の流れ場と推力偏向角度を数値シミュレーションにより算出した。
本発明の流体式推力方向制御装置に係るデュアルスロートノズル10について行った第二条件確認シミュレーションの解析手法や条件等は、ノズル10の寸法を除き、「発明が解決しようとする課題」の欄で説明した、従来から提案されているデュアルスロートノズル(ノズルA)について行った第二条件確認シミュレーションと同じである。すなわち、従来から提案されているデュアルスロートノズル10については、ノズル10を図3に示す寸法に設定(第一スロート13の断面積と第二スロート16の断面積とを等しく設定)して第二条件確認シミュレーションを行った。これに対し、本発明の流体式推力方向制御装置に係るデュアルスロートノズル10については、ノズル10を図8及び図12に示す2通りの寸法に設定して第二条件確認シミュレーションを行った。以下においては、図8に示す寸法のデュアルスロートノズル10を「ノズルB」と呼び、図12に示す寸法のデュアルスロートノズル10を「ノズルC」と呼ぶことがある。本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」と「ノズルC」はいずれも、第一スロート13の断面積よりも第二スロート16の断面積が大きく設定されたものとなっている。ノズルBでは、第一スロート13の断面積A に対する第二スロート16の断面積A の比A /A が約1.7となっており、ノズルCでは、その比A /A が約1.3となっている。
2.1 「ノズルB」の場合
図9、図10及び図11に、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」(図8を参照)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示す。図9のグラフは、非偏向制御時における推力偏向角度δの時間変化を乱数列ごとに示したものである。図10は、非偏向制御時におけるノズル内の流線を図9の乱数列4の場合につき示したものである。図11は、非偏向制御時におけるノズル内のマッハ数分布を図9の乱数列4の場合につき示したものである。
従来から提案されているデュアルスロートノズルに係る「ノズルA」では、図4に示すように、乱数列によって推力偏向角度δが正側又は負側に大きくばらつき、その絶対値は最大で約4°にも達していた。これに対し、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」では、図9に示すように、推力偏向角度δに乱数列による大きなばらつきが見られず、推力偏向角度δは、全ての乱数列において0°に近い値で定常状態となる。
また、従来から提案されているデュアルスロートノズルに係る「ノズルA」では、図5に示すように、乱数列4及び乱数列10(図4で大きく偏向した乱数列)におけるノズル内流線(t=37.5でのノズル内流線)が上下非対称に形成され、二次噴流FIN2を注入していない非偏向制御時であるにもかかわらず剥離領域が大きく形成されていた。これに対し、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」では、図10に示すように、乱数列4におけるノズル内流線(t=37.5でのノズル内流線)が上下略対称に形成され、剥離領域の形成は見られない。
さらに、従来から提案されているデュアルスロートノズルに係る「ノズルA」では、乱数列4及び乱数列10のいずれの場合でも、デュアルスロートノズル10内の全領域で亜音速或いは遷音速となっていた。これに対し、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」では、図11に示すように、広がり部14の中央よりも下流側(広がり部14の下流側端部に近い箇所)に衝撃波が形成され、広がり部14における広い範囲(第一スロート13から衝撃波に至るまでの広い範囲)で超音速となっていた。
以上の結果から、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」は、「偏向すべきでないときに偏向しない」という第二条件が満たされるものであることが分かった。
2.2 「ノズルC」の場合
図13、図14及び図15に、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルC」(図12を参照)について行った第二条件確認シミュレーションの結果を示す。図13のグラフは、非偏向制御時における推力偏向角度δの時間変化を乱数列ごとに示したものである。図14は、非偏向制御時におけるノズル内の流線を図9の乱数列4の場合につき示したものである。図15は、非偏向制御時におけるノズル内のマッハ数分布を図9の乱数列4の場合につき示したものである。
既に述べたように、「ノズルC」では、第一スロート13の断面積A に対する第二スロート16の断面積A の比A /A が約1.3となっており、比A /A が約1.7である「ノズルB」よりは、比A /A が小さくなっているものの、従来から提案されているデュアルスロートノズルに係る「ノズルA」(比A /A が1)よりは大きくなっている。図13を見ると、この「ノズルC」においても、「ノズルB」と同様に、推力偏向角度δは、全ての乱数列で0°に近い値で定常状態となる。ただし、「ノズルC」では、「ノズルB」よりも、乱数列1~10のばらつきの幅が若干大きくなっている。
また、図14を見ると、「ノズルC」においても、「ノズルB」と同様に、ノズル内流線(t=37.5でのノズル内流線)が上下略対称に形成され、剥離領域の形成が見られないことが分かる。さらに、図15を見ると、「ノズルC」においても、「ノズルB」と同様に、広がり部14に衝撃波が形成され、広がり部14に超音速となる領域が形成されている。ただし、「ノズルB」では、広がり部14の中央よりも下流側に衝撃波が形成されていたのに対し、「ノズルC」では、広がり部14の中央よりもやや上流側に衝撃波が形成されていた。
以上の結果から、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルC」も、「偏向すべきでないときに偏向しない」という第二条件が満たされるものであることが分かった。しかし、「ノズルC」では、推力偏向角度δのばらつきが「ノズルB」よりも若干大きくなる等、第二条件の成立においてやや不利となっている。このため、比A /A を小さくしすぎる(1に近づけすぎる)と、第二条件が満たされにくくなることが予想される。このことから、比A /A は1.2以上とすることが好ましいことが分かった。
2.3 第二条件確認シミュレーションのまとめ
以上の第二条件確認シミュレーションによって、デュアルスロートノズルにおいて、「推力が偏向すべきでないときに偏向しない」という第二条件が満たされるようにするためには、第二スロート16の断面積A を第一スロート13の断面積A よりも大きくすることが有効であることが確認できた。また、断面積A に対する断面積A の比A /A を約1.3と約1.7とした場合の双方で第二条件が満たされたことから、比A /A が1.2~1.8程度とすれば、第二条件が満たされる得ることも分かった。

3.第一条件確認シミュレーション
続いて、本発明の流体式推力方向制御装置に係るデュアルスロートノズル10が、「偏向すべきときに偏向する」という第一条件を満たすか否かを確認するために、上記の「ノズルB」及び「ノズルC」についてシミュレーション(第一条件確認シミュレーション)を行った。具体的には、本発明の流体式推力方向制御装置に係るノズル10(図6)において、主流FIN1及び二次噴流FIN2を注入した場合(偏向制御時)のデュアルスロートノズル10内の流れ場と推力偏向角度を数値シミュレーションにより算出した。二次噴流FIN2の流量は、主流FIN1と二次噴流FIN2との流量の合計に対する5%に設定した。二次噴流FIN2の注入方向は、ノズル中心線10aに平行な右向きの方向(x軸方向正側)から反時計回りに150°回転した方向とした。
この第一条件確認シミュレーションにおいては、二次噴流FIN2を注入する位置(二次噴流注入口19の位置)は、「ノズルB」及び「ノズルC」のそれぞれについて3箇所ずつ試した。具体的には、ノズルBについては、二次噴流FIN2を注入する位置を、図16における位置Pと位置Pと位置Pとの3箇所で変え、ノズルCについては、二次噴流FIN2を注入する位置を、図17における位置Qと位置Qと位置Qとの3箇所で変えた。図16及び図17では、それぞれ、ノズル内に二次噴流FIN2を注入せずに主流FIN1のみを流入させた場合のマッハ数分布を示している。「ノズルB」の位置Pと「ノズルC」の位置Qはいずれも、第一スロート13の付近であり、「ノズルB」の位置Pと「ノズルC」の位置Qはいずれも、広がり部14における、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入していないとき(非偏向制御時)に衝撃波が形成される場所のやや上流側であり、「ノズルB」の位置Pと「ノズルC」の位置Qはいずれも、広がり部14における、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入していないとき(非偏向制御時)に衝撃波が形成される場所のやや下流側となっている。その他、シミュレーションの解析手法や条件等は、上記の第二条件確認シミュレーションと同じである。
3.1 「ノズルB」でPから二次噴流FIN2を注入した場合
図18、図19及び図20に、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」(図8を参照)において、図16におけるPから二次噴流FIN2を注入した場合の第一条件確認シミュレーションの結果を示す。図18のグラフは、偏向制御時における推力偏向角度δの時間変化を乱数列ごとに示したものである。図19は、偏向制御時におけるノズル内の流線を図18の乱数列4の場合につき示したものである。図20は、偏向制御時におけるノズル内のマッハ数分布を図18の乱数列4の場合につき示したものである。
図18を見ると、二次噴流FIN2を注入している偏向制御時であるにもかかわらず、推力偏向角度δは、全ての乱数列で推力偏向角度δが0°に近い値をとっており、推力方向が殆ど偏向していないことが分かる。このことから、「ノズルB」においては、第一スロート13の付近から二次噴流FIN2を注入する構成を採用すると、第一条件が満たされにくいことが分かった。
その原因は、図19及び図20から理解できる。すなわち、図19を見ると、二次噴流FIN2の注入によって、ノズル内の流れはノズル内壁面から一旦剥離するものの、二次噴流FIN2の注入箇所に近い箇所でその剥離が解消してしまっている。「ノズルB」において二次噴流FIN2を注入しないときには、上記の図11に示すように、広がり部14における下流側端部に近い箇所に衝撃波が形成され、広がり部14における大部分が超音速領域となり、流れの剥離が解消しやすい環境にあるところ、この衝撃波の位置から上流側に遠く離れた箇所から二次噴流FIN2を注入したためと考えられる。実際、図20を見ると、二次噴流FIN2を注入しているにもかかわらず、広がり部14における大部分が超音速領域となっていることが分かる。
3.2 「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入した場合
図21、図22及び図23に、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルC」(図12を参照)において、図17におけるQから二次噴流FIN2を注入した場合の第一条件確認シミュレーションの結果を示す。図21のグラフは、偏向制御時における推力偏向角度δの時間変化を乱数列ごとに示したものである。図22は、偏向制御時におけるノズル内の流線を図21の乱数列4の場合につき示したものである。図23は、偏向制御時におけるノズル内のマッハ数分布を図21の乱数列4の場合につき示したものである。
図22を見ると、二次噴流FIN2の注入位置付近で生じた流れの剥離が、ノズル出口18まで維持されていることが分かる。さらに、図23を見ると、二次噴流FIN2の注入箇所付近で流れが亜音速になっていることも分かる。その結果、推力偏向角度δは、図21に示されるように、全ての乱数列でー12°に近い値で定常状態となっている。このことから、本発明の流体式推力方向制御装置に係るデュアルスロートノズルのように、第二スロート16の断面積A を第一スロート13の断面積A よりも大きくした場合(比A /A を1よりも大きくした場合)であって、且つ、二次噴流FIN2を第一スロート13の付近から注入する場合であっても、比A /A を「ノズルB」よりも小さく設定すれば、第一条件が満たされることが確認できた。
3.3 「ノズルB」でPから二次噴流FIN2を注入した場合
図24、図25及び図26に、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」(図8を参照)において、図16におけるPから二次噴流FIN2を注入した場合の第一条件確認シミュレーションの結果を示す。図24のグラフは、偏向制御時における推力偏向角度δの時間変化を乱数列ごとに示したものである。図25は、偏向制御時におけるノズル内の流線を示したものである。図26は、偏向制御時におけるノズル内のマッハ数分布を示したものである。
図25を見ると、二次噴流FIN2の注入位置付近で生じた流れの剥離が、ノズル出口18まで維持されていることが分かる。さらに、図26を見ると、二次噴流FIN2の注入箇所付近で流れが亜音速になっていることも分かる。その結果、推力偏向角度δは、図24に示されるように、全ての乱数列でー12°に近い値(「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入した場合と同等の値)で定常状態となっている。ただし、「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入した場合には、推力偏向角度δが定常状態となる時間がt=25付近(図21を参照)であったのに対し、「ノズルB」でPから二次噴流FIN2を注入した場合には、t<10で推力偏向角度δが定常状態となっている。このことから、「ノズルB」を用いる場合であっても、二次噴流FIN2を注入する位置を、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入していないとき(非偏向制御時)に衝撃波が形成される場所付近(その衝撃波よりもやや上流側)とすると、「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入した場合よりも優れた応答性能で第一条件が満たされることが確認できた。
3.4 「ノズルB」でPから二次噴流FIN2を注入した場合
図27、図28及び図29に、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルB」(図8を参照)において、図16におけるPから二次噴流FIN2を注入した場合の第一条件確認シミュレーションの結果を示す。図27のグラフは、偏向制御時における推力偏向角度δの時間変化を乱数列ごとに示したものである。図28は、偏向制御時におけるノズル内の流線を示したものである。図26は、偏向制御時におけるノズル内のマッハ数分布を示したものである。
図28を見ると、二次噴流FIN2の注入位置付近で生じた流れの剥離が、ノズル出口18まで維持されていることが分かる。さらに、図29を見ると、二次噴流FIN2の注入箇所付近で流れが亜音速になっていることも分かる。その結果、推力偏向角度δは、図27に示されるように、全ての乱数列でー7°に近い値で定常状態となっている。また、推力偏向角度δが定常状態になるまでに要する時間もt<10と短い。このことから、「ノズルB」を用いる場合であっても、二次噴流FIN2を注入する位置を、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入していないとき(非偏向制御時)に衝撃波が形成される場所よりもやや下流側としても、第一条件が満たされることが確認できた。ただし、その推力偏向角度δは、「ノズルB」でPから二次噴流FIN2を注入した場合よりも小さくなる。
3.5 「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入した場合
図30、図31及び図32に、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルC」(図12を参照)において、図17におけるQから二次噴流FIN2を注入した場合の第一条件確認シミュレーションの結果を示す。図30のグラフは、偏向制御時における推力偏向角度δの時間変化を乱数列ごとに示したものである。図31は、偏向制御時におけるノズル内の流線を示したものである。図32は、偏向制御時におけるノズル内のマッハ数分布を示したものである。
図31を見ると、二次噴流FIN2の注入位置付近で生じた流れの剥離が、ノズル出口18まで維持されていることが分かる。さらに、図32を見ると、二次噴流FIN2の注入箇所付近で流れが亜音速になっていることも分かる。その結果、推力偏向角度δは、図30に示されるように、全ての乱数列でー17°に近い値で定常状態となっている。この「-17°」という値は、「発明が解決しようとする課題」の欄で説明した「ノズルA」の「-19°」という値に近い。このことから、「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入する場合には、「ノズルA」と同等の偏向性能が得られる可能性があることが確認できた。また、同じ「ノズルC」でも、Qから二次噴流FIN2を注入した場合には、推力偏向角度δが定常状態になるのがt=25付近であった(図21を参照)ところ、Qから二次噴流FIN2を注入した場合には、t<10という短い時間で推力偏向角度δが定常状態となることも確認できた。
3.6 「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入した場合
図33、図34及び図35に、本発明の流体式推力方向制御装置に係る「ノズルC」(図12を参照)において、図17におけるQから二次噴流FIN2を注入した場合の第一条件確認シミュレーションの結果を示す。図33のグラフは、偏向制御時における推力偏向角度δの時間変化を乱数列ごとに示したものである。図34は、偏向制御時におけるノズル内の流線を示したものである。図35は、偏向制御時におけるノズル内のマッハ数分布を示したものである。
図34を見ると、二次噴流FIN2の注入位置付近で生じた流れの剥離が、ノズル出口18まで維持されていることが分かる。さらに、図35を見ると、二次噴流FIN2の注入箇所付近で流れが亜音速になっていることも分かる。その結果、推力偏向角度δは、図33に示されるように、全ての乱数列でー17°に近い値で定常状態となっている。このことから、「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入する場合でも、「ノズルA」と同等の偏向性能が得られる可能性があることが確認できた。ただし、「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入した場合には、t<10で推力偏向角度δが定常状態となったのに対し、「ノズルC」でQから二次噴流FIN2を注入した場合には、推力偏向角度δが定常状態となるまでに要する時間がやや長くなることも確認できた。
3.7 第一条件確認シミュレーションのまとめ
以上の第一条件確認シミュレーションによって、デュアルスロートノズルにおいて、第二スロート16の断面積A を第一スロート13の断面積A よりも大きくし、第二条件が満たされるようにした場合であっても、第一条件が満たされ得ることが確認できた。特に、断面積A に対する断面積A の比A /A を1.3前後(1.2~1.4程度)とした場合や、ノズル10内に二次噴流FIN2を注入せず主流FIN1のみを流入させているときにノズル10内に形成される衝撃波の位置付近から二次噴流FIN2を注入すると、第一条件が満たされやすくなることも分かった。
10 デュアルスロートノズル
10a ノズル中心線
11 ノズル入口
12 第一絞り部
13 第一スロート
14 広がり部
15 第二絞り部
16 第二スロート
18 ノズル出口
19 二次噴流注入口
第一スロートの断面積
第二スロートの断面積
ノズル入口の開口幅
代表的な流線
代表的な流線
代表的な流線
代表的な流線
IN1 エンジン燃焼室からノズル入口に流入する主流
IN2 二次噴流
OUT ノズル出口から噴出する噴流
α 剥離領域

Claims (4)

  1. ノズル内をノズル入口からノズル出口に向かって流れる主流に対し、ノズルの中途部分に設けた二次噴流注入口から二次噴流を注入することによって、主流の流れに変化を起こさせ、ノズル出口から噴出する噴流の向きを変化させる流体式推力方向制御装置であって、
    ノズルが、
    その上流側端部がノズル入口となり、その下流側端部の断面積がその上流側端部の断面積よりも小さく形成され、その下流側端部が第一スロートとなる第一絞り部と、
    第一絞り部の下流側に接続され、その下流側端部の断面積がその上流側端部の断面積よりも大きく形成された広がり部と、
    広がり部の下流側に接続され、その下流側端部の断面積がその上流側端部の断面積よりも小さく形成され、その下流側端部が第二スロートとなる第二絞り部と
    を有するデュアルスロートノズルとされるとともに、
    第二スロートの断面積(「A 」とする。)が、第一スロートの断面積(「A 」とする。)よりも大きく設定されることにより、ノズル内に二次噴流を注入せずに主流のみを流入させる非偏向制御時に、広がり部に超音速の流れが生じて、その流れがノズル内壁面から剥離しないようにすることで、意図しない推力偏向が起こらないようにするとともに、
    衝撃波上流マッハ数をM とし、比熱比をγとした場合において、
    比A /A の値を下記式6の左辺に代入し、下記式6と下記式7とを連立して得られる断面積A に対し、
    二次噴流注入口が、広がり部における、断面積A の0.9~1.1倍の断面積となる箇所に設けられた
    ことを特徴とする流体式推力方向制御装置。

    Figure 0007197895000006

    Figure 0007197895000007
  2. 第一スロートの断面積A に対する第二スロートの断面積A の比A /A が、1.2~1.8とされた請求項1記載の流体式推力方向制御装置。
  3. ノズルとして、その中心線を含む一の平面に平行な断面の形状が同一のものを用いた請求項1又は2記載の流体式推力方向制御装置。
  4. ノズルとして、その中心線を軸とした回転体形状を為すものを用いた請求項1又は2記載の流体式推力方向制御装置。
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