以下、図1~図27を参照して本発明の一実施形態について説明する。本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関としての直噴式のガソリンエンジンを搭載する車両に適用される。すなわち、エンジンのみを駆動源として走行するエンジン車およびエンジンとモータとを駆動源として走行するハイブリッド車両に適用される。以下では、特に、内燃機関の制御装置を、ハイブリッド車両に適用する例を説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置が適用されるハイブリッド車両の走行駆動部の構成を概略的に示す図である。図1に示すように、エンジン(ENG)1の出力軸1aには第1モータジェネレータ(MG1)2が接続され、駆動輪4の回転軸4aには第2モータジェネレータ(MG2)3が接続される。第1モータジェネレータ2は、主に、エンジン1により駆動されて電力を発生する発電機として機能し、第1モータジェネレータ2から発生した電力は、図示しないインバータを介してバッテリ(BAT)5に蓄電される。第2モータジェネレータ3は、主に、図示しないインバータを介してバッテリ5から供給される電力によって駆動する走行用モータとして機能する。
エンジン1の出力軸1aと駆動輪4の回転軸4aとの間にはクラッチ6が介装され、出力軸1aと回転軸4aとは、クラッチ6を介して連結または遮断される。出力軸1aと回転軸4aとが遮断されると、車両は第2モータジェネレータ3の動力のみによって走行する(EV走行)。出力軸1aと回転軸4aとがクラッチ6を介して連結されると、車両はエンジン1の動力のみによって走行(エンジン走行)またはエンジン1と第2モータジェネレータ3の動力によって走行する(ハイブリッド走行)。すなわち、車両は、EV走行を行うEVモード、エンジン走行を行うエンジンモード、およびハイブリッド走行を行うハイブリッドモードに、走行モードを変更することができる。
図2は、エンジン1の要部構成を概略的に示す図である。エンジン1は、車両の減速走行時等に複数の気筒への燃料供給を停止する燃料カット機能を有する火花点火式の内燃機関であり、動作周期の間に吸気、膨張、圧縮および排気の4つの行程を経る4ストロークエンジンである。吸気行程の開始から排気行程の終了までを、便宜上、燃焼行程の1サイクルまたは単に1サイクルと称する。エンジン1は4気筒、6気筒、8気筒等、複数の気筒を有するが、図2には、単一の気筒の構成を示す。なお、各気筒の構成は互いに同一である。
図2に示すように、エンジン1は、シリンダブロック101に形成されたシリンダ102と、シリンダ102の内部に摺動可能に配置されたピストン103と、ピストン103の冠面(ピストン冠面)103aとシリンダヘッド104との間に形成された燃焼室105と、を有する。ピストン冠面103aには、例えばシリンダ内のタンブル流に沿うように凹部103bが形成される。ピストン103は、コンロッド106を介してクランクシャフト107に連結され、シリンダ102の内壁に沿ってピストン103が往復動することにより、クランクシャフト107(図1の出力軸1a)が回転する。
シリンダヘッド104には、吸気ポート111と排気ポート112とが設けられる。燃焼室105には、吸気ポート111を介して吸気通路113が連通する一方、排気ポート112を介して排気通路114が連通する。吸気ポート111は吸気バルブ115により開閉され、排気ポート112は排気バルブ116により開閉される。吸気バルブ115の上流側の吸気通路113には、スロットルバルブ119が設けられる。スロットルバルブ119は、例えばバタフライ弁により構成され、スロットルバルブ119により燃焼室105への吸入空気量が調整される。吸気バルブ115と排気バルブ116とは動弁機構120により開閉駆動される。
シリンダヘッド104には、それぞれ燃焼室105に臨むように点火プラグ11および直噴式のインジェクタ12が装着される。点火プラグ11は、吸気ポート111と排気ポート112との間に配置され、電気エネルギーにより火花を発生し、燃焼室105内の燃料と空気との混合気を点火する。
インジェクタ12は、吸気バルブ115の近傍に配置され、電気エネルギーにより駆動されて燃料を噴射する。より詳しくは、インジェクタ12には、燃料ポンプを介して燃料タンクから高圧の燃料が供給される。インジェクタ12は、燃料を高微粒子化して、燃焼室105内に所定のタイミングで斜め下方に向けて燃料を噴射する。なお、インジェクタ12の配置はこれに限らず、例えば点火プラグ11の近傍に配置することもできる。
動弁機構120は、吸気カムシャフト121と排気カムシャフト122とを有する。吸気カムシャフト121は、各気筒(シリンダ102)にそれぞれ対応した吸気カム121aを一体に有し、排気カムシャフト122は、各気筒にそれぞれ対応した排気カム122aを一体に有する。吸気カムシャフト121と排気カムシャフト122とは、不図示のタイミングベルトを介してクランクシャフト107に連結され、クランクシャフト107が2回転する度にそれぞれ1回転する。
吸気バルブ115は、吸気カムシャフト121の回転により、不図示の吸気ロッカーアームを介して、吸気カム121aのプロファイルに応じた所定のタイミングで開閉する。排気バルブ116は、排気カムシャフト122の回転により、不図示の排気ロッカーアームを介して、排気カム122aのプロファイルに応じた所定のタイミングで開閉する。
排気通路114には、排気ガスを浄化するための触媒装置13が介装される。触媒装置13は、排ガス中に含まれるHC、CO、NOxを酸化・還元作用によって除去・浄化する機能を有する三元触媒である。なお、排ガス中のCO、HCの酸化を行う酸化触媒等、他の触媒装置を用いることもできる。触媒装置13に含まれる触媒の温度が高くなると触媒が活性化し、触媒装置13による排ガスの浄化作用が高まる。
エンジン1は、燃費の向上を目的として、エンジン走行時に所定の燃料カット条件が成立するとインジェクタ12からの燃料噴射を停止するフューエルカット機能を有する。すなわち、燃料カット条件が成立すると、燃料カットモード(F/Cモードと呼ぶ)に移行して燃料噴射が停止される。燃料カット条件は、例えばアクセルペダルの操作量(アクセル開度)が所定値以下で、かつ、クランクシャフト107の回転数(エンジン回転数)が所定値以上で、かつ、車速が所定値以上の状態が検出されると、成立する。例えば減速走行時に燃料カット条件が成立する。F/Cモードでは、燃焼室105内への吸気が継続される。
さらにエンジン1は、燃費の向上を目的として、所定のアイドリングストップ条件が成立するとインジェクタ12からの燃料噴射を停止するアイドリングストップ機能を有する。すなわち、アイドリングストップ条件が成立するアイドリングストップモード(I/Sモードと呼ぶ)に移行して燃料噴射が停止される。アイドリングストップ条件は、例えば停車時等、車速が所定車速以下で、かつ、アクセルペダルが非操作で、かつ、ブレーキペダルの操作が検出されると成立する。I/Sモードではエンジン1の稼働が停止しており、EV走行のときと同様、燃焼室105内への吸気が停止する。
図示は省略するが、エンジン1は、排気ガスの一部を吸気系に還流する排気ガス再循環装置、ブローバイガスを吸気系に戻して再燃焼させるブローバイガス還元装置、および燃料タンク内で蒸発した燃料ガスの吸気系への供給を制御するパージ制御装置などを有する。排気ガス再循環装置には、動弁機構120の制御によって排気ガスを燃焼室105で再循環させる内部EGRと、排気通路114からの排気ガスの一部を、EGR通路およびEGRバルブを介して吸気系に導く外部EGRとが含まれる。パージ制御装置は、燃料タンク内で蒸発した燃料ガスを吸気系に導くパージ通路、パージ通路の途中に設けられ、パージ通路を通過するガスの流れを制御するパージバルブと、を有する。なお、エンジン1は、過給機を備えることもできる。
図3は、本発明の実施形態に係る内燃機関の制御装置の要部構成を示すブロック図である。図3に示すように、内燃機関の制御装置は、エンジン制御用のコントローラ30を中心として構成され、コントローラ30に接続された各種のセンサやアクチュエータなどを有する。具体的には、コントローラ30には、クランク角センサ31と、アクセル開度センサ32と、水温センサ33と、吸気量センサ34と、AFセンサ35と、点火プラグ11と、インジェクタ12とが接続される。
クランク角センサ31は、クランクシャフト107に設けられ、クランクシャフト107の回転に伴いパルス信号を出力するように構成される。コントローラ30は、クランク角センサ31からのパルス信号に基づいて、ピストン103の吸気行程開始時の上死点TDCの位置を基準としたクランクシャフト107の回転角度(クランク角)を特定するとともに、エンジン回転数を算出する。
アクセル開度センサ32は、車両の図示しないアクセルペダルに設けられ、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出する。アクセル開度センサ32の検出値に応じてエンジン1の目標トルクが指令される。水温センサ33は、エンジン1を冷却するためのエンジン冷却水が流れる経路に設けられ、エンジン冷却水の温度(冷却水温)を検出する。吸気量センサ34は、吸入空気量を検出するセンサであり、例えば吸気通路113(より具体的にはスロットルバルブの上流)に配置されたエアフロメータにより構成される。AFセンサ35は、触媒装置13の上流の排気通路114に設けられ、排気通路114における排気ガスの空燃比を検出する。
コントローラ30は、電子制御ユニット(ECU)により構成され、CPU等の演算部と、ROM,RAM等の記憶部と、その他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。コントローラ30は、機能的構成として、噴射モード切換部301と、温度情報取得部302と、状態判定部303と、点火制御部304と、インジェクタ制御部305とを有する。
噴射モード切換部301は、エンジン1の運転状態に応じて噴射モードを切り換える。図4は、例えばイグニッションスイッチのオンによりエンジン1の稼働が開始(スタート)されてから、イグニッションスイッチのオフによりエンジン1の稼働が停止(エンド)されるまでの間における、噴射モードの遷移の一例を示す図である。図4に示すように、噴射モードは、始動モードM1と、触媒暖機モードM2と、付着低減モードM3と、均質向上モードM4と、ノック抑制モードM5と、燃料停止モードM6とを含む。均質向上モードM4とノック抑制モードM5とは、ピストン温度(筒内温度)が高い高筒内温度状態であり、均質向上モードM4とノック抑制モードM5とをまとめて高筒内温度モードM7と呼ぶ。
図中の燃料停止モード以外の各モードM1~M5には、吸気行程の開始(吸気上死点TDC)から圧縮行程の終了(圧縮上死点TDC)までの区間のクランク角を、吸気上死点TDCを起点とした時計周りの円の角度によって示すとともに、燃料噴射のタイミングを、円の中心から放射状に延びる扇形のハッチングによって示す。吸気行程は、クランク角が0°以上180°以下の範囲であり、圧縮行程は、クランク角が180°以上360以下の範囲である。なお、クランク角が0°以上90°以下の範囲を吸気行程前半、90°以上180°以下の範囲を吸気行程後半、180°以上270°以下の範囲を圧縮行程前半、270°以上360°以下の範囲を圧縮行程後半と呼ぶことがある。
始動モードM1は、エンジン1を始動するためのモードであり、イグニッションスイッチのオン直後またはEVモードやI/Sモードからの復帰時に実行される。始動モードM1では、エンジン1のクランキング後に、図示のように圧縮行程前半で2回に分けて、すなわち圧縮2段で燃料が噴射されて混合気が生成される。この場合の1回当たりの噴射量は互いに等しい。圧縮行程で燃料を噴射することで、エンジン1の始動性を向上することができる。また、圧縮行程前半で燃料を多段噴射することで、1回当たりの燃料噴射量が抑えられる。その結果、ピストン冠面103aやシリンダ102の壁面への燃料の付着を抑えることができ、煤の発生を抑制することができる。
なお、始動性の向上と煤の抑制とを両立することができるのであれば、始動モードM1は、圧縮2段に限らず圧縮行程で1回の噴射(圧縮1段)、または吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ噴射(吸圧多段)等、他の噴射モードであってもよい。始動モードM1が完了すると、触媒暖機モードM2、付着低減モードM3および高筒内温度モードM7(例えば均質向上モードM4)のいずれかの噴射モードに移行する。
触媒暖機モードM2は、触媒装置13の暖機を促進して触媒の早期活性化を実現するモードである。触媒暖機モードM2では、図示のように吸気行程で2回に分けて、すなわち吸気2段で燃料が噴射されて、混合気が生成される。この場合の1回当たりの噴射量は互いに等しい。さらに、触媒暖機モードM2では、点火プラグ11による点火時期が、最大トルクが得られる最適点火時期MBTよりもリタード(遅角)される。点火時期のリタードによって混合気を後燃えさせることで、目標トルクを発生するための燃焼室105への空気供給量が増加して燃料噴射量が増加し、これにより混合気の燃焼によって生じる熱量が増加して、触媒装置13を早期に暖機することができる。触媒暖機モードM2では、予めメモリに記憶された、エンジン回転数や吸入空気量に応じて変化することのない所定のタイミングで燃料が噴射される。
触媒暖機モードM2において吸気2段で燃料を噴射することで、混合気を均質化することができ、燃焼効率が高まり、エミッションの悪化を抑制することができる。なお、エミッションの悪化を抑制することができるのであれば、触媒暖機モードM2は、吸気2段に限らず吸気行程で1回の噴射(吸気1段)、または吸圧多段等、他の噴射モードであってもよい。触媒暖機モードM2が完了すると、付着低減モードM3または高筒内温度モードM7(例えば均質向上モードM4)に移行する。
付着低減モードM3は、ピストン温度が低温のときに煤の低減を目的として実行される。付着低減モードM3では、吸気行程開始時の吸気上死点TDCおよび圧縮行程終了時の圧縮上死点TDCの近傍の所定の噴射禁止領域以外の領域、すなわちピストン冠面103aがインジェクタ12から離れる領域(噴射可能領域)で、燃料が噴射される。噴射禁止領域は、例えば吸気行程前半の一部またはほぼ全域と、圧縮行程後半の一部あるいはほぼ全域とに設定される。
より詳しくは、噴射禁止領域はエンジン回転数に応じて設定される。エンジン回転数が高いほど、吸気行程でピストン冠面103aがインジェクタ12から退避する速度および圧縮行程でピストン冠面103aがインジェクタ12に接近する速度が速い。このため、エンジン回転数が高いほど、吸気行程における噴射禁止領域が狭くなり(噴射禁止領域の終了が進角側に移動)、圧縮行程における噴射禁止領域が広くなる(噴射禁止領域の開始が遅角側に移動)。
噴射可能領域における燃料の噴射回数と噴射タイミングとは、予めメモリに記憶されたマップ、例えば図5に示すマップにより決定される。すなわち、図5に示すように、エンジン回転数Neと目標噴射量Qとに応じた最大出力トルクの特性f1に対応付けて、予め定められたマップにより決定され、1回~4回の範囲で噴射回数が定められる。噴射回数が複数回であるときの1回当たりの噴射量は互いに等しい。なお、目標噴射量Qは、実空燃比が目標空燃比となるような値として算出され、吸入空気量に応じて定まる。このため、図5のマップを、図4の均質向上モードM4のマップと同様、エンジン回転数Neと吸入空気量Gのマップに書き換えることもできる。
ピストン冠面103aへの燃料の付着を抑えるためには、噴射回数を多くして1回当たりの噴射量を低減することが好ましい。しかし、インジェクタ12の仕様によってインジェクタ12の1回当たりの最小噴射量Qminが規定され、インジェクタ12は最小噴射量Qminを下回る量の噴射を行うことはできない(MinQ制約)。したがって、目標噴射量が少ない領域では、噴射回数は1回となり、目標噴射量Qの増加に伴い、噴射回数が2回、3回および4回へと徐々に増加する。
一方、噴射回数を増加するためには、インジェクタ12を高速で駆動する必要がある。そのため、例えばコントローラ30のインジェクタ駆動用の電気回路におけるコンデンサの充放電を短時間で繰り返す必要がある。この場合、エンジン回転数Neが高いほど、インジェクタ12の駆動速度を速める必要があり、コントローラ30の電気的な負荷が増大して、コントローラ30の発熱量が増大する。その結果、コントローラ30の熱的な制約(ECU熱制約)により、噴射回数が制限される。すなわち、エンジン回転数Neが小さい領域では、噴射回数が4回であるが、エンジン回転数Neの増加に伴い、噴射回数が3回、2回および1回と徐々に制限される。
以上より、例えばエンジン回転数Neが所定値N1未満かつ目標噴射量Qが所定値Q3以上の領域AR1で、噴射回数は4回(4段噴射)に設定される。エンジン回転数Neが所定値N2未満かつ目標噴射量Qが所定値Q2以上で、領域AR1を除く領域AR2で噴射回数は3回(3段噴射)に設定される。エンジン回転数Neが所定値N3未満かつ目標噴射量Qが所定値Q1以上で、領域AR1,AR2を除く領域AR3で噴射回数は2回(2段噴射)に設定される。エンジン回転数Neが所定値N3以上または目標噴射量Qが所定値Q1未満の領域AR4で、噴射回数は1回(単発噴射)に設定される。
なお、所定値N1~N3には、N1<N2<N3の関係があり、所定値Q1~Q3には、Q1<Q2<Q3の関係がある。所定値N1~N3,Q1~Q3は予め実験によって定められ、メモリに記憶される。付着低減モードM3での最大噴射回数は、インジェクタ12やコントローラ30等の仕様、およびインジェクタ12の取付位置などにより定まり、4回より少ない、または4回より多い場合がある。付着低減モードが完了すると、高筒内温度モードM7(例えば均質向上モードM4)または燃料停止モードM6に移行する。
均質向上モードM4は、燃費が最適となる噴射モードである。均質向上モードでは、予めメモリに記憶されたエンジン回転数Neと吸入空気量Gとに応じた制御マップに従い、吸気1段または吸気2段の燃料噴射が行われる。すなわち、図4に示すように、エンジン回転数Neが低く、かつ、吸入空気量Gが多い高負荷低回転の領域では、吸気2段で燃料が噴射され、エンジン回転数Neが高いまたは吸入空気量Gが低い領域では、吸気1段で燃料が噴射される。この場合の制御マップは、冷却水温に応じて変化する。なお、吸気2段の1回当たりの噴射量は互いに等しい。均質向上モードにおいて、吸気1段または吸気2段で燃料を噴射することで、燃焼室105内の混合気がタンブル流れによって均質化され、燃焼効率を高めることができる。
さらに均質向上モードM4では、主にエンジン回転数Neと吸入空気量Gとに応じて点火プラグ11の点火時期が制御される。具体的には、ノッキングが生じないまたは生じにくい領域では、圧縮上死点TDCよりも進角側の予めメモリに記憶された最適点火時期MBTに点火時期が制御される。一方、ノッキングが生じるまたは生じやすい領域、例えばエンジン回転数が低くかつ吸入空気量が多い高負荷低回転の領域では、ノッキングの発生を抑制するために、予めメモリに記憶された特性に従い点火時期が最適点火時期MBTよりもリタードされる。なお、ノッキングの発生を検出するノックセンサを設け、ノックセンサによりノッキングの発生が検出されると、点火時期をリタードするようにしてもよい。均質向上モードM4は、所定のノック抑制条件が成立すると、ノック抑制モードM5に切り換わる。
ノック抑制モードM5は、ノッキングの発生を抑制する噴射モードである。ノック抑制モードM5に移行すると、リタードされた点火時期がMBT側に戻される(進角される)とともに、吸気行程(例えば吸気行程前半)で1回かつ圧縮行程(例えば圧縮行程前半)で1回、燃料が噴射される(吸圧多段)。この場合、圧縮行程での噴射量は最小噴射量Qminであり、目標噴射量Qから最小噴射量Qminを減算した量が吸気行程で噴射される。圧縮行程で燃料を噴射することで、気化潜熱により燃焼室105のエンドガス温度が低減される。
これにより、点火時期のリタード量を抑えつつ、ノッキングの発生を抑制することができる。したがって、点火時期をリタードさせて吸気行程のみで燃料噴射を行う場合に比べて、燃焼効率を高めることができる。ノック抑制モードが完了すると、すなわちノック抑制条件が不成立となると、均質向上モードに切り換わる。つまり、高筒内温度状態(高筒内温度モードM7)であるときには、ノック抑制条件の成否に応じて噴射モードが均質向上モードM4とノック抑制モードM5との間で切り換わる。
燃料停止モードM6は、燃料噴射が停止して燃焼室105内で燃焼が停止したときのモードであり、EVモード時、F/Cモード時およびI/Sモード時のいずれかにおいて、燃料停止モードM6に切り換わる。例えば付着低減モードM3で燃焼が停止すると、または高筒内温度モードM7で燃焼が停止すると、燃料停止モードM6に切り換わる。燃料停止モードM6が完了すると、噴射モードが始動モードM1、付着低減モードM3および高筒内温度モードM7のいずれかに切り換わる。
図3の温度情報取得部302は、シリンダ102内の温度情報を取得する。この温度情報は、シリンダ102内での燃料の付着に影響を及ぼす筒内温度の情報であり、ピストン冠面103aの温度に対応する。したがって、ピストン冠面103aの温度を精度よく検出可能なセンサを設けることができれば、温度情報取得部302は、そのセンサからの情報を取得すればよい。しかし、ピストン冠面103aは高温の燃焼室105に面してシリンダ102内を往復動するため、ピストン冠面103aの温度をセンサによって直接的に精度よく検出することは困難である。
一方、ピストン冠面103aの温度は、燃焼室105での燃焼のために燃焼室105内に供給された吸入空気量Gと相関関係を有する。すなわち、吸入空気量Gの積算量が多いほど、燃焼室105内で発生する熱量が増加するため、筒内温度に対応するピストン冠面103aの温度が上昇する。そこで、温度情報取得部302は、吸気量センサ34からの信号を取得するとともに、取得した信号に基づいて吸入空気量Gの積算量を算出する。
状態判定部303は、噴射モードの切換に関わるエンジン1の運転状態を判定する。図6は、状態判定部303の機能的構成を示すブロック図である。図6に示すように、状態判定部303は、始動判定部303Aと、触媒暖機判定部303Bと、筒内温度判定部303Cと、ノック判定部303Dと、燃料カット判定部303Eとを有する。
始動判定部303Aは、図4の始動モードM1で、エンジン1が始動を完了したか否かを判定する。具体的には、クランク角センサ31からの信号に基づいて算出されたクランキング後のエンジン回転数が、自力で回転を維持できる完爆回転数まで上昇した後、所定カウント値がカウントされたか否かにより、始動が完了したか否かを判定する。始動判定部303Aによりエンジン1の始動が完了したと判定されると、噴射モード切換部301は、始動モードM1から触媒暖機モードM2、付着低減モードM3または高筒内温度モードM7(例えば均質向上モードM4)に噴射モードを切り換える。
始動判定部303Aは、エンジン1の始動完了だけでなく、エンジン1の始動の要否も判定する。すなわち、図4の燃料停止モードM6で、EVモードからエンジンモードまたはハイブリッドモードへ走行モードを切り換える必要があるか否か、およびI/Sモードから復帰する必要があるか否かを判定する。始動判定部303Aによりエンジンモードへ切り換える必要がある、またはI/Sモードから復帰する必要があると判定されると、噴射モード切換部301は、噴射モードを燃料停止モードM6から始動モードM1に切り換える。
触媒暖機判定部303Bは、図4の触媒暖機モードM2で、触媒装置13の暖機(触媒暖機)が完了したか否かを判定する。この判定は、エンジン1の総仕事量が、触媒暖機に要する目標総仕事量に到達したか否かの判定である。目標総仕事量は、予め記憶された関係式や特性あるいはマップを用いて、エンジン1の始動時に水温センサ33により検出される冷却水温に応じて設定される。例えば冷却水温が低いと、エンジン1が暖機されていないため、触媒暖機に時間を要する。この点を考慮し、冷却水温が低いほど目標総仕事量が大きい値に設定される。
触媒暖機判定部303Bは、まず、水温センサ33からの信号に基づいて、冷却水温に対応したエンジン1の総仕事量を算出する。そして、総仕事量が目標総仕事量に達すると、触媒暖機が完了したと判定する。触媒暖機判定部303Bにより触媒暖機が完了したと判定されると、噴射モード切換部301は、触媒暖機モードM2から付着低減モードM3または高筒内温度モードM7(例えば均質向上モードM4)に噴射モードを切り換える。
触媒暖機判定部303Bは、図4の始動モードM1において、触媒暖機の要否も判定する。例えばEV走行からの復帰等で、冷却水温が高い場合には、目標総仕事量が0に設定され、触媒暖機が不要と判定する。この場合、噴射モード切換部301は、始動モードM1から付着低減モードM3または高筒内温度モードM7(例えば均質向上モードM4)に噴射モードを切り換える。一方、始動モードM1で目標総仕事量が0より大きい値に設定され、触媒暖機が必要と判定されると、噴射モード切換部301は、噴射モードを始動モードM1から触媒暖機モードM2に切り換える。
筒内温度判定部303Cは、温度情報取得部302により取得された吸入空気量Gの積算量に基づいて、筒内温度が所定値(例えば100℃)以上であるか否かを判定する。すなわち、筒内温度が所定値以上の高筒内温度であるか、それとも所定値未満の低筒内温度であるかを判定する。筒内温度判定部303Cは、図4の始動モードM1と、触媒暖機モードM2と、燃料停止モードM6とで、それぞれ筒内温度が高筒内温度であるか否かを判定する。
ノック判定部303Dは、図4の均質向上モードM4において、ノック抑制条件の成否を判定する。この判定は、ノッキングの発生を抑制するための点火時期のリタード量が所定値以上になったか否かの判定であり、ノッキングの発生を抑制する噴射モードへの切換の要否の判定である。ノッキングは、エンジン回転が高いときおよび冷却水温が低いときには生じにくい。この点を考慮し、ノック抑制条件は、最適点火時期MBTからの点火時期のリタード量が所定値以上、かつ、冷却水温が所定値以上、かつ、エンジン回転数が所定値以下のときに成立する。ノック判定部303Dによりノック抑制条件が成立したと判定されると、噴射モード切換部301は、噴射モードを均質向上モードM4からノック抑制モードM5に切り換える。
一方、ノック抑制モードM5において、ノック判定部303Dによりノック抑制条件が不成立と判定されると、噴射モード切換部301は、噴射モードをノック抑制モードM5から均質向上モードM4に切り換える。なお、均質向上モードM4を経ずに付着低減モードM3からノック抑制モードM5に噴射モードが切り換わることもある。すなわち、付着低減モードM3において、筒内温度判定部303Cにより高筒内温度と判定されると、ノック抑制モードM5に切り換わることもある。これにより、低筒内温度状態から所定の高筒内温度状態と推定されると、均質向上モードM4を経ずにノック抑制モードM5に速やかに移行することができ、燃焼効率を高めることができる。
燃料カット判定部303Eは、図4の触媒暖機モードM2、付着低減モードM3および高筒内温度モードM7において、燃料カットの要否を判定する。すなわち、EVモード、F/CモードまたはI/Sモードへの切換が必要か否かを判定する。燃料カット判定部303Eにより燃料カットが必要と判定されると、噴射モード切換部301は、触媒暖機モードM2,付着低減モードM3または高筒内温度モードM7から燃料停止モードM6に噴射モードを切り換える。
図3の点火制御部304は、点火時期が、予めメモリに記憶された、運転状態に応じたマップや特性に従った目標点火時期となるように、点火プラグ11に制御信号を出力する。例えば、触媒暖機モードM2では、点火時期が最適点火時期MBTよりもリタードするように点火プラグ11に制御信号を出力する。均質向上モードM4では、点火時期が最適点火時期MBTとなるように、またはノッキングの発生を抑制するためにリタードするように、点火プラグ11に制御信号を出力する。ノック抑制モードM5では、点火時期がリタードからMBT側に復帰(進角)するように点火プラグ11に制御信号を出力する。
インジェクタ制御部305は、AFセンサ35により検出された実空燃比が目標空燃比(例えば理論空燃比)となるようなフィードバック制御を行いながら、吸気量センサ34により検出された吸入空気量に応じて1サイクル当たりの目標噴射量を算出する。そして、図4の噴射モードに応じて1回当たりの目標噴射量(単位目標噴射量)を算出し、この単位目標噴射量をインジェクタ12が所定のタイミングで噴射するようにインジェクタ12に制御信号を出力する。
図7は、予めメモリに記憶されたプログラムに従いコントローラ30で実行される処理の一例、特に噴射モードの切換に係る処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばイグニッションスイッチのオンによりエンジン1の稼働開始が指令されると開始され、所定周期で繰り返される。なお、図7では、図4の燃料停止モードM6から他の噴射モードへの切換、および他の噴射モードから燃料停止モードM6への切換に係る処理についての記載を省略する。
図7に示すように、まず、ステップS1で、始動完了フラグが1であるか否かを判定する。始動完了フラグは初期時点では0であり、始動モードM1でエンジン1の始動が完了すると1に設定される。ステップS1で否定されるとステップS2に進み、肯定されるとステップS2~ステップS4をパスしてステップS5に進む。ステップS2では、噴射モードを始動モードに切り換える。
次いで、ステップS3で、クランク角センサ31からの信号に基づいて、エンジン1の始動が完了したか否か、すなわちエンジン回転数が完爆回転数に到達したか否かを判定する。ステップS3で肯定されるとステップS4に進み、否定されるとステップS2に戻る。ステップS4では、始動完了フラグを1にセットする。
次いで、ステップS5で、水温センサ33からの信号に基づいて設定された目標総仕事量が0であるか否かにより、触媒装置13の暖機運転が必要か否かを判定する。ステップS5で肯定されるとステップS6に進み、否定されるとステップS6、ステップS7をパスしてステップS8に進む。ステップS6では、噴射モードを触媒暖機モードM2に切り換える。ステップS7では、吸気量センサ34からの信号に基づいてエンジン1の総仕事量を算出するとともに、総仕事量が目標総仕事量に達したか否かにより、触媒暖機が完了したか否かを判定する。ステップS7で肯定されるとステップS8に進み、否定されるとステップS6に戻る。
ステップS8では、温度情報取得部302により取得された吸入空気量Gの積算量に基づいて、筒内温度が所定値以上であるか否か、すなわち高筒内温度であるか否かを判定する。ステップS8で肯定されるとステップS9に進み、噴射モードを高筒内温度モードM7に切り換える。
次いで、ステップS10で、点火時期の最適点火時期MBTからのリタード量と、水温センサ33により検出された冷却水温と、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数とに基づいて、ノック抑制条件が成立したか否かを判定する。ステップS10で肯定されるとステップS11に進み、否定されるとステップS12に進む。ステップS11では、噴射モードをノック抑制モードM5に切り換え、ステップS12では、噴射モードを均質向上モードM4に切り換える。一方、ステップS8で否定されるとステップS13に進み、噴射モードを付着低減モードM3に切り換える。
本実施形態に係る制御装置による主たる動作をより具体的に説明する。イグニッションスイッチがオンされると、圧縮2段で燃料が噴射され、エンジン1が始動される(ステップS2)。エンジン1の初回始動時等で、冷却水温が低い状態では、触媒装置13の暖機運転が必要となり、吸気2段で燃料が噴射される(ステップS6)。このとき、点火時期が最適点火時期MBTよりもリタードされて混合気が後燃えされ、触媒装置13を早期に暖機することができる。
触媒装置13の暖機完了後(例えばエンジン1の初回始動後の暖機完了直後)に、筒内温度が、ピストン冠面103aへの煤の付着を低減するために必要な所定温度(例えば100℃)まで上昇していないことがある。この場合、煤の付着低減を優先するため、例えば吸気後半から圧縮前半の範囲内で、図5のマップに従い燃料が噴射される(ステップS13)。したがって、例えば高負荷低回転の領域AR1において、噴射回数は4回となる。これにより、インジェクタ12の1回当たりの燃料噴射量が減少し、燃料の付着を効果的に抑えることができる。
一方、触媒装置13の暖機完了後の筒内温度が所定温度以上であるとき、仮にピストン冠面103aに燃料が付着しても燃料は即座に蒸発するため、煤が発生しにくい。この場合、吸気行程(吸気2段または吸気単発)で燃料が噴射される(ステップS12)。これにより燃焼室105内の混合気が均質化され、燃焼効率を高めることができる。なお、触媒暖機運転においても吸気2段で燃料が噴射されるが、触媒暖機運転とは、吸気行程での燃料の噴射タイミングが異なる。
筒内温度が高い状態において、吸気行程で燃料を噴射しているとき、ノッキング抑制条件が成立すると、吸気行程に加え、圧縮行程で最小噴射量Qminの燃料が噴射される(ステップS11)。これにより混合気の温度を低下させることができ、ノッキングの発生を抑制することができる。その結果、ノッキング抑制を目的とした点火時期のリタードの量を低減することができ、点火時期が最適点火時期MBTに近づくため、燃焼効率を高めることができる。
EVモードやI/Sモードからの復帰時等でエンジン1が始動されたときには、冷却水温が十分に高いことがある。この場合には、エンジン始動後に触媒装置13の暖機運転を行うことなく、高筒内温度モードM7(例えば均質向上モードM4)または付着低減モードM3に移行する(ステップS5→ステップS8→ステップS9、ステップS5→ステップS8→ステップS13)。これにより、ピストン冠面103aへの煤の付着を抑えながら、エンジン始動後に効率的な燃焼を行うことができる。
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る内燃機関の制御装置は、シリンダ102内を往復動するピストン103と、ピストン103に面したシリンダ102内の燃焼室105に燃料を噴射するインジェクタ12と、を有するエンジン1を制御するように構成される(図2)。この制御装置は、エンジン1の排気通路114に設けられた触媒装置13の暖機運転が完了したか否かを判定する触媒暖機判定部303Bと、シリンダ102の内部の温度情報を取得する温度情報取得部302と、触媒暖機判定部303Bにより暖機運転が完了したと判定されると、温度情報取得部302により取得された温度情報に応じて、主に吸気後半から圧縮前半の範囲で1~4回の噴射を行う付着低減モードM3、および吸気単発または吸気2段で噴射する均質向上モードM4のいずれかに噴射モードを切り換える噴射モード切換部301と、噴射モード切換部301で切り換えられた噴射モードに応じて燃料を噴射するようにインジェクタ12を制御するインジェクタ制御部305と、を備える(図3、6)。このように触媒装置13の暖機運転の完了後に、均質向上モードM4だけでなく付着低減モードM3に切換可能とすることで、ピストン温度が低い低筒内温度状態である場合に、ピストン冠面103aへの煤の付着を良好に抑えることができる。
(2)内燃機関の制御装置は、温度情報取得部302により取得された温度情報に基づいて、シリンダ102の内部の暖機が完了したか否か、つまりシリンダ102の内部の温度が低筒内温度であるか高筒内温度であるかを判定する筒内温度判定部303Cをさらに備える(図6)。噴射モード切換部301は、筒内温度判定部303Cにより低筒内温度と判定されると、つまりシリンダ102内の暖機が完了していないと判定されると、噴射モードを付着低減モードM3に切り換え、高筒内温度と判定されると、つまりシリンダ102内の暖機が完了したと判定されると、噴射モードを均質向上モードM4に切り換える(図7)。これにより、燃料の付着を効率的に抑えることができる。すなわち、触媒装置13の暖機運転の完了後に筒内温度が低い場合があり、その場合に均質向上モードM4に移行すると、ピストン冠面103aに煤が付着するおそれがあるが、付着低減モードM3に移行することにより、煤の発生を抑えることができる。
(3)内燃機関の制御装置は、エンジン1の回転数を検出するクランク角センサ31と、エンジン1の出力トルクと相関関係を有する物理量として吸入空気量を検出する吸気量センサ34と、をさらに備える(図3)。付着低減モードM3は、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数Neと吸気量センサ34により検出された吸入空気量(より厳密には、吸入空気量に対応した目標噴射量Q)とに応じて、吸気行程と圧縮行程とにまたがる所定範囲の動作行程で燃料を1回または複数回(最大4回)噴射するモードである(図5)。均質向上モードM4は、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数Neと吸気量センサ34により検出された吸入空気量Gとに応じて、吸気行程で燃料を1回または複数回(2回)噴射するモードである(図4)。付着低減モードM3における燃料の最大噴射回数(4回)は、均質向上モードM4における燃料の最大噴射回数(2回)よりも多い。これにより、付着低減モードM3におけるインジェクタ12の1回当たりの噴射量を、均質向上モードM4におけるインジェクタ12の1回当たりの噴射量よりも低減することができ、燃料の付着を良好に抑えることができる。
(4)内燃機関の制御装置は、エンジン1のノッキングの発生を抑制するための点火時期のリタード量が所定値以上になったか否か等のノック抑制条件の成否を判定するノック判定部303Dをさらに備える(図6)。噴射モード切換部301は、噴射モードが付着低減モードM3または均質向上モードM4であるときに、ノック判定部303Dによりノッキングの発生を抑制する噴射モードへの切換が必要であると判定されると、吸圧多段で燃料を噴射するノック抑制モードM5に噴射モードを切り換える(図7)。これにより点火時期のリタード量を抑えながら、ノッキングの発生を効果的に抑制することができる。
以上のように構成された内燃機関の制御装置のうち、図4の均質向上モードM4とノック抑制モードM5との切換に係る構成についてさらに詳しく説明する。噴射モードは、均質向上モードM4においてノック抑制条件が成立すると、ノック抑制モードM5に切り換わる。ノック抑制条件には、出力トルクが最大となる最適点火時期MBTからの点火時期のリタード量が所定値(所定の切換リタード量)に達したことが含まれる。まず、この点について説明する。リタード量Rは、ノッキングの発生の抑制の程度、すなわちノック抑制度を表すパラメータであり、リタード量Rをノック抑制度に置き換えることができる。
図8は、吸入空気量が一定の状態で、点火時期を通常点火時期からリタードした場合における出力トルクの変化を示す図であり、横軸は点火時期(角度)、縦軸は出力トルクである。なお、通常点火時期は、ノッキングの発生が問題とならない運転状態における点火時期であり、図8では、通常点火時期が圧縮上死点前BTDCの最適点火時期MBTである。図8に示すように、出力トルクTは、点火時期が最適点火時期MBTのときに最大であり(点P0)、点火時期が遅角してリタード量Rが増加するに従い、点P0を頂点とする略放物線状の特性f0に沿って低下する。一例を挙げると、最適点火時期MBTからのリタード量RがRa(例えば5°)である点Paでは、出力トルクTがΔTaだけ減少する。なお、Raは、後述の切換リタード量に相当する。
図3の点火制御部304は、目標点火時期に対応する最適点火時期MBTからのリタード量(目標リタード量)Rを算出する遅角算出部を有する。目標リタード量は、例えばクランク角センサ31により検出されたエンジン回転数と吸気量センサ34により検出された吸入空気量とに応じて算出される。すなわち、メモリには、予めエンジン回転数と吸入空気量とに応じた目標リタード量の関係が定められている。この関係は、例えばエンジン回転数が低く、かつ、吸入空気量が多いほど目標リタード量が大きくなるような関係である。点火制御部304は、この関係を用いてノッキングを抑制するための目標リタード量を算出するとともに、点火時期が最適点火時期MBTから目標リタード量だけリタードするように点火プラグ11を制御する。点火時期のリタードは、高筒内温度状態である図4の均質向上モードM4とノック抑制モードM5の双方で行われる。
図9Aは、吸入空気量Gの変化に対応する、均質向上モードM4の出力トルクT1およびノック抑制モードM5の出力トルクT2の特性f11,f12と、出力トルクT1,T2の差、すなわちトルク差ΔT(=T2-T1)を表す特性f13と、出力トルクT1の正味燃料消費率BSFC1およびノック抑制モードM5の正味燃料消費率BSFC2の特性f14、f15と、正味燃料消費率BSFC1とBSFC2との差、すなわちΔBSFC(=BSFC2-BSFC1)を表す特性f16と、均質向上モードM4のリタード量R1およびノック抑制モードM5のリタード量R2の特性f17、f18と、をそれぞれ示す。なお、リタード量Rは、最適点火時期MBTを0としたリタード量である。
図9Aは、エンジン1の所定の運転状態(第1運転状態)における特性の一例を示す図である。第1運転状態は、エンジン回転数が第1回転数(例えば2000rpm)であり、オクタン価が第1所定値(例えば91)の燃料を用い、かつ内部EGRによる排気ガスの再循環がある運転状態である。なお、図9Aでは、均質向上モードM4に対応する特性f11、f15、f17をそれぞれ実線で示し、ノック抑制モードM5に対応する特性f12、f14、f18をそれぞれ点線で示す。
図9Aに示すように、出力トルクTは、吸入空気量Gの増加に伴い増加するが、吸入空気量Gが少ない低負荷領域では、均質向上モードM4の出力トルクT1(実線)の方がノック抑制モードM5の出力トルクT2(点線)よりも大きい(特性f11、f12)。吸入空気量Gが増加すると、それに伴いノック抑制モードM5の出力トルクT2の方が均質向上モードM4の出力トルクT4よりも大きくなる。したがって、トルク差ΔTは、ハッチングで示す吸入空気量の所定領域ΔGaを境にしてマイナスからプラスになる(特性f13)。
さらに、所定領域ΔGaよりも吸入空気量Gが少ない領域では、均質向上モードM4の正味燃料消費率BSFC1(実線)の方がノック抑制モードM5の正味燃料消費率BSFC2(点線)よりも小さく、所定領域ΔGaよりも吸入空気量Gが多い領域では、ノック抑制モードM5の正味燃料消費率BSFC2の方が均質向上モードM4の正味燃料消費率BSFC1よりも小さい(特性f14、f15)。したがって、ΔBSFCは、所定領域ΔGaを境にしてプラスからマイナスになる(特性f16)。この場合、所定領域ΔGaにおける均質向上モードM4の目標リタード量R1(実線)は、ハッチングで示す所定領域ΔRaの範囲内(例えば-5°近傍)にある。
図9B、図9Cおよび図9Dは、それぞれ第1運転状態とは異なる運転状態、すなわち第2運転状態、第3運転状態および第4運転状態における特性の一例を示す図である。これらの図では、図9Aと同様に、エンジン1の出力トルクT、トルク差ΔT、正味燃料消費率BSFC、ΔBSFCおよびリタード量Rをそれぞれ示す。なお、図9B,図9Cおよび図9Dでは、図9Aの特性f11~f18に対応して各特性を、特性f21~f28、特性f31~f38および特性f41~f48でそれぞれ示す。
第2運転状態は、エンジン回転数が第1回転数(例えば2000rpm)であり、オクタン価が第1所定値(例えば91)の燃料を用い、かつ内部EGRと外部EGRとによる排気ガスの再循環がない運転状態である。第3運転状態は、エンジン回転数が第1回転数(例えば2000rpm)であり、オクタン価が第1所定値(例えば91)の燃料を用い、かつ外部EGRによる排気ガスの再循環がある運転状態である。第4運転状態は、エンジン回転数が第1回転数(例えば2000rpm)であり、オクタン価が第2所定値(例えば95)の燃料を用い、かつ内部EGRによる排気ガスの再循環がある運転状態である。
図9B、図9Cおよび図9Dには、均質向上モードM4の出力トルクT1(実線)とノック抑制モードM5の出力トルクT2(点線)との大小が逆転する領域、換言すると、トルク差ΔTが0近傍であり、ΔBSFCが0近傍である吸入空気量の領域ΔGb、ΔGcおよびΔGdをそれぞれハッチングで示す。さらに、図9B、図9Cおよび図9Dには、図9Aの領域ΔGaを併せてハッチングで示す。図9A~図9Dに示すように、吸入空気量Gの増加に伴いトルク差ΔTはマイナスからプラスになり(特性f13、f23、f33、f43)、ΔBSFCはプラスからマイナスになる(特性f16、f26、f36、f46)。したがって、運転状態に応じたこれらの領域(切換領域と呼ぶ)ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdを求めた上で、各切換領域ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdで、噴射モードを均質向上モードM4からノック抑制モードM5に切り換えれば、燃焼効率を高めることができる。
しかし、切換領域ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdは、EGRの有無や方式、燃料のオクタン価等によって変化する。また、図示は省略するが、エンジン回転数や冷却水温等によっても、切換領域ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdは変化する。したがって、切換領域ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdを求めるためには、吸入空気量、エンジン回転数、冷却水温、EGRの有無や方式および燃料のオクタン価等、出力トルクTやBSFC等に影響を及ぼす種々の要因の相互関係を予め定めた多次元化マップを、エンジン1の機種毎に準備しておく必要があり、切換領域ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdを容易に求めることができない。
一方、図9A~図9Dに示すように、切換領域ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdにおける均質向上モードM4でのリタード量(実線)は、いずれもハッチングで示す所定領域ΔRa(例えば図8の点Pa近傍の領域)に含まれる。したがって、リタード量Rが所定領域ΔRaであるか否かを判定することにより、切換領域ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdを求めることができ、均質向上モードM4からノック抑制モードM5への切換を良好なタイミングで行うことができる。
図10A~図10Dは、それぞれ第1運転状態~第4運転状態とは異なる運転状態、すなわち第5運転状態、第6運転状態、第7運転状態および第8運転状態における特性の一例を示す図である。図10A~図10Dには、エンジン1のトルク差ΔTの特性f53、f63、f73、f83、ΔBSFCの特性f56、f66、f76、f86、およびリタード量Rの特性f57,f58、f67,f68、f77,f78、f87,f88をそれぞれ示す。
第5運転状態は、例えばエンジン回転数が第2回転数(例えば1200rpm)であり、オクタン価が第1所定値(例えば91)の燃料を用い、かつ内部EGRと外部EGRとによる排気ガスの再循環がない運転状態である。第6運転状態は、例えばエンジン回転数が第2回転数(例えば1200rpm)であり、オクタン価が第1所定値(例えば91)の燃料を用い、かつ内部EGRによる排気ガスの再循環がある運転状態である。第7運転状態は、例えばエンジン回転数が第3回転数(例えば3000rpm)であり、オクタン価が第1所定値(例えば91)の燃料を用い、かつ内部EGRと外部EGRによる排気ガスの再循環がない運転状態である。第8運転状態は、例えばエンジン回転数が第3回転数(例えば3000rpm)であり、オクタン価が第1所定値(例えば91)の燃料を用い、かつ内部EGRによる排気ガスの再循環がある運転状態である。
図10A~図10Dには、トルク差ΔTがマイナスからプラスおよびΔBSFCがプラスからマイナスになる吸入空気量Gの領域(切換領域)ΔGe、ΔGf、ΔGgおよびΔGhをそれぞれハッチングで示す。図10A~図10Dに示すように、吸入空気量ΔGの切換領域ΔGe、ΔGf、ΔGgおよびΔGhは、互いに異なる。一方、切換領域ΔGa、ΔGb、ΔGcおよびΔGdにおける均質向上モードM4のリタード量(実線)Rは、いずれもハッチングで示す所定領域ΔRaに含まれる。したがって、この場合も、リタード量Rが所定領域ΔRaであるか否かを判定することにより、均質向上モードM4からノック抑制モードM5への切換を良好なタイミングで行うことができる。
以上より、本実施形態では、予め所定領域ΔRa内に、均質向上モードM4からノック抑制モードM5に噴射モードを切り換えるための切換リタード量Raを設定し、メモリに記憶する。そして、図3の点火制御部304により制御される点火時期のリタード量Rが切換リタード量Raに達すると、インジェクタ制御部305が噴射モードを均質向上モードM4からノック抑制モードM5に切り換える。噴射モードの切換にあたっては、点火時期のリタード量Rだけでなく、冷却水温とエンジン回転数とを考慮する。
図11は、エンジン冷却水温TWと正味燃料消費率BSFCとの関係を示す図である。図中の特性f91,f92は、それぞれ所定の吸入空気量G1の下での均質向上モードM4およびノック抑制モードM5におけるBSFCの特性であり、特性f93,f94は、それぞれ吸入空気量G1よりも多い所定の吸入空気量G2(>G1)の下での均質向上モードM4およびノック抑制モードM5におけるBSFCの特性である。
図11に示すように、冷却水温TWが低い領域では、吸入空気量がG1,G2いずれであっても、均質向上モードM4のBSFC(実線)の方がノック抑制モードM5のBSFCよりも小さい。一方、冷却水温TWがハッチングで示す所定領域ΔTWa(例えば60℃近傍)以上では、吸入空気量がG1,G2いずれであっても、均質向上モードM4のBSFC(実線)よりもノック抑制モードM5のBSFC(点線)の方が小さくなる。この点を考慮し、本実施形態では、冷却水温TWが所定値TW1(例えば60℃)以上であることが、ノック抑制条件に含まれる。所定値TW1は、予め実験等により求められ、メモリに記憶される。
図12は、吸入空気量Gとリタード量Rとの関係を示す図である。図中の特性f95,f96は、所定エンジン回転数Ne1(例えば2000rpm)の下での均質向上モードM4およびノック抑制モードM5におけるリタード量Rの特性であり、特性f97,f98は、Ne1よりも高い所定エンジン回転数Ne2(例えば4000rpm)の下での均質向上モードM4およびノック抑制モードM5におけるリタード量Rの特性である。
図12に示すように、エンジン回転数がNe1のときは、吸入空気量Gの増加に伴う均質向上モードM4のリタード量Rとノック抑制モードM5のリタード量Rとの差が大きい。したがって、均質向上モードM4(実線)からノック抑制モードM5(点線)に切り換えることで、リタード量Rの増加を抑えることができ、燃焼効率を高めることが可能となる。一方、エンジン回転数がNe2のときは、エンジン回転数の上昇により混合気の流動が強化され、ノック抑制モードM5において圧縮行程で噴射することによる筒内温度の低減効果が低下する。このため、均質向上モードM4とノック抑制モードM5とのリタード量Rの差が小さく、均質向上モードM4からノック抑制モードM5に切り換えても、燃焼効率を高める効果が得られない。この点を考慮し、本実施形態では、エンジン回転数が所定値Ne3以下であることが、ノック抑制条件に追加される。所定値Ne3は、Ne1よりも大きくかつNe2よりも小さい値であり、予め実験等により求められてメモリに記憶される。
図13は、均質向上モードM4とノック抑制モードM5との切換に係る処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートは、図7のステップS10~ステップS12の処理を、より詳細に示したものであり、図7のステップS9で高筒内温度モードM7に切り換えられると開始される。
図13に示すように、まず、ステップS21で、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数Neと吸気量センサ34により検出された吸入空気量とに基づいて、均質向上モードM4における最適点火時期MBTからの目標点火時期のリタード量、すなわち目標リタード量を算出する。なお、目標リタード量は、実際の噴射モードが均質向上モードM4であるか否かに拘わらず、均質向上モードM4を前提として算出される。ステップS21では、ノック抑制モードM5におけるも目標リタード量も同時に算出される。
次いで、ステップS22で、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数Neが、予めメモリに記憶された所定値Ne3以下であるか否かを判定する。ステップS22で肯定されるとステップS23に進み、水温センサ33により検出された冷却水温TWが、予めメモリに記憶された所定値TW1以上であるか否かを判定する。ステップS23で肯定されるとステップS24に進み、ステップS21で算出された均質向上モードM4における目標リタード量が、予めメモリに記憶された切換リタード量Raに達したか否かを判定する。
ステップS22~ステップS24の判定はノック抑制条件に相当する。ステップS24で肯定されると、すなわちステップS22~ステップS24の全てで肯定されると、ノック抑制条件が成立したと判定し、ステップS25に進む。ステップS25では、現在の噴射モードが均質向上モードM4であるか否かを判定する。ステップS25で肯定されるとステップS26に進み、否定されると処理を終了する。ステップS26では、図7のステップS11と同様、噴射モードを均質向上モードM4からノック抑制モードM5に切り換えて処理を終了する。
一方、ステップS22~ステップS24のいずれかが否定されると、ノック抑制条件が不成立と判定され、ステップS27に進む。ステップS27では、現在の噴射モードがノック抑制モードM5であるか否かを判定する。ステップS27で肯定されるとステップS28に進み、否定されると処理を終了する。ステップS28では、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数Neが所定値Ne3より大きいか否かを判定する。ステップS28で否定されるとステップS29に進み、肯定されるとステップS29をパスしてステップS30に進む。
ステップS29では、ステップS24と同様、ステップS21で算出された均質向上モードM4における目標リタード量が切換リタード量Raに達したか否かを判定する。ステップS29で肯定されるとステップS30に進み、否定されると処理を終了する。ステップS30では、図7のステップS12と同様、噴射モードをノック抑制モードM5から均質向上モードM4に切り換えて処理を終了する。
以上の均質向上モードM4とノック抑制モードM5との切換に係る動作を、より具体的に説明する。図14は、均質向上モードM4とノック抑制モードM5との切換に係る動作の一例を示すタイムチャートである。図14では、エンジン回転数Neと、吸入空気量Gと、リタード量Rと、吸気行程から圧縮行程にかけての1回目の噴射量Qaと、吸気行程から圧縮行程にかけての2回目の噴射量Qbとの、それぞれの時間経過tに伴う変化を示す。なお、図14では、実際の点火時期のリタード量Rを実線で、均質向上モードM4での目標リタード量を点線で示す。
図14では、エンジン回転数が、所定値Ne3よりも低い一定回転数である。なお、図示は省略するが、冷却水温TWは所定値TW1以上である。図14の初期状態では、噴射モードが均質向上モードM4であり、1回目噴射量Qaと2回目噴射量Qbは、ともに最小噴射量Qminよりも多い。図14に示すように、時間経過に伴い吸入空気量Gが増加すると、燃料噴射量Qa,Qbが徐々に増加し、点火時期のリタード量Rも徐々に増大する。
時点t1で、リタード量Rが切換リタード量Raに到達すると、噴射モードが均質向上モードM4からノック抑制モードM5に切り換わる(ステップS26)。これにより吸気行程で1回目噴射が、圧縮行程で2回目噴射が行われるとともに、圧縮行程における噴射量(2回目噴射量Qb)が最小噴射量Qminとなる。ノック抑制モードM5では、点火時期のリタード量がノック抑制モードM5の目標リタード量となるように点火プラグ11が制御される。このとき、均質向上モードM4の目標リタード量(点線)が継続して算出される(ステップS21)。噴射モードがノック抑制モードM5に切り換えられることで、点火時期のリタード量Rが抑えられ、燃焼効率が高まる。
その後、時点t2で、吸入空気量Gが減少してリタード量が切換リタード量Raより小さくなっても、均質向上モードM4の目標リタード量(点線)が切換リタード量Ra以下にならない限り、噴射モードはノック抑制モードM5のままである。時点t3で、均質向上モードM4の目標リタード量が切換リタード量Ra以下になると、噴射モードがノック抑制モードM5から均質向上モードM4に切り換えられる(ステップS30)。
このとき、噴射モードの切換直前のリタード量(実線)は、最適点火時期MBTに近い。図8に示すように、点火時期が最適点火時期MBTに近い領域では、点火時期の変化に対する出力トルクTの変動量が小さい。よって、ノック抑制モードM5の目標リタード量が切換リタード量Ra以下になることではなく、均質向上モードM4の目標リタード量が切換リタード量Ra以下になることを条件として噴射モードを切り換えることで、噴射モードの切換時のトルクの変動を抑えることができる。
図15は、時間経過に伴う、冷却水温TWと、吸入空気量Gと、リタード量Rと、1回目噴射量Qaと、2回目噴射量Qbの変化の一例を示すタイムチャートである。図15では、初期時点で均質向上モードM4において、吸気単発で燃料が噴射され、2回目噴射量Qbは0である。初期時点では、点火時期のリタード量Rが切換リタード量Raよりも大きいが、冷却水温TWが所定値TW1以下であるため、噴射モードは均質向上モードM4のままである。
その後、冷却水温TWが上昇して、時点t4で冷却水温TWが所定値TW1以上になると、噴射モードがノック抑制モードM5に切り換わる(ステップS26)。これにより、冷却水温TWが低く、ノック抑制モードM5への切換による燃焼効率の改善効果が低い場合に、噴射モードが無駄に切り換えられることを防止できる。
図16は、時間経過に伴う、エンジン回転数Neと、吸入空気量Gと、リタード量Rと、1回目噴射量Qaと、2回目噴射量Qbの変化の一例を示すタイムチャートである。図16では、初期時点では、エンジン回転数Neが所定値Ne3以下であり、ノック抑制モードM5において、吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ燃料が噴射されている(ステップS26)。
その後、エンジン回転数Neが徐々に増加し、時点t5でエンジン回転数Neが所定値Ne3以上になると、噴射モードがノック抑制モードM5から均質向上モードM4に切り換わる(ステップS28→ステップS30)。これにより、エンジン回転数Neが低く、ノック抑制モードM5による燃焼効率の改善効果が低い場合に、噴射モードを早期に均質向上モードM4に復帰できる。
本実施形態では、ノック抑制モードM5において圧縮行程で2回目噴射量Qbとして最小噴射量Qminを噴射するが、インジェクタ12の目標噴射量が減少して、圧縮行程で最小噴射量Qminを噴射できない場合がある。つまり、インジェクタ制御部305は、各噴射モードにおける1回当たりの目標噴射量(1回目噴射量Qa、2回目噴射量Qbなどの単位噴射量)を算出する噴射量算出部を有するが、噴射量算出部により算出された圧縮行程における目標噴射量が最小噴射量Qmin未満となる場合がある。この場合には、コントローラ30(特に噴射モード切換部301)が以下のような処理を行う。
圧縮行程で最小噴射量Qminを噴射できないとき、噴射モード切換部301は、図13の処理に拘わらず、噴射モードを強制的に均質向上モードM4に、つまり吸気単発モードに切り換える。その後、目標噴射量が増加して圧縮行程で最小噴射量Qminを噴射可能となっても、噴射モード切換部301は、ノック抑制モードM5への切換を即座に行わない。この場合、リタード量Rが一旦、最適点火時期MBT付近に戻った後、目標リタード量が再度、切換リタード量Raに到達すると、噴射モード切換部301が噴射モードをノック抑制モードM5に切り換える。
図17は、この点の動作の一例を示すタイムチャートである。図17では、時間経過に伴う、エンジン回転数Neと、吸入空気量Gと、リタード量Rと、1回目噴射量Qaと、2回目噴射量Qbの変化の一例を示す。図17では、初期時点で噴射モードがノック抑制モードM5であり、圧縮行程の噴射量(2回目噴射量)Qbは最小噴射量Qminである。その後、例えばパージ通路を介して燃料ガスが吸気系に導かれることにより、吸気行程の噴射量(1回目噴射量)Qaが減少し、時点t6で噴射量Qaが最小噴射量Qmin以下になると、噴射モードが均質向上モードM4(吸気単発)に強制的に切り換わる。これにより、インジェクタ12は目標噴射量を噴射することができる。
その後、エンジン回転数Neが一定状態で、吸入空気量Gが減少するとリタード量Rが減少するが、リタード量Rが切換リタード量Ra以下になっても、噴射モードは均質向上モードM4のままである。時点t7で、目標噴射量が増加すると、吸気単発から吸気2段に噴射モードが切り換わる。時点t8で、目標リタード量が切換リタード量Raに達すると、噴射モードがノック抑制モードM5に切り換わる。これにより、圧縮行程で最小噴射量Qminの燃料が噴射される。図17では、点火時期が最適点火時期MBT付近に戻った後に、ノック抑制モードM5に切り換えられるため(時点t8)、噴射モードの切換時のトルク変動を抑えることができる。
図17は、ノック抑制モードM5で1回目噴射量Qaが最小噴射量Qminとなって、2回目噴射量Qbが0になったときの動作である。一方、均質向上モードM4において、そもそも2回目噴射量Qbが0である場合には、噴射モード切換部301は、ノック抑制条件が成立しても、噴射モードをノック抑制モードM5に切り換えずに均質向上モードM4(吸気単発)に維持する。この場合、目標噴射量が増加して圧縮行程で最小噴射量Qminが噴射可能になれば、その時点でノック抑制条件が成立していると、噴射モードを即座にノック抑制モードM5に切り換える。
図18は、この点の動作の一例を示すフローチャートである。図18では、時間経過に伴う、エンジン回転数Neと、吸入空気量Gと、リタード量Rと、1回目噴射量Qaと、2回目噴射量Qbの変化の一例を示す。図18では、初期時点で噴射モードが均質向上モードM4(吸気単発)であり、圧縮行程の噴射量(2回目噴射量)Qbは0である。エンジン回転数Neが一定状態で、吸入空気量Gの増加に伴いリタード量Rが増加して、時点t9で、リタード量Rが切換リタード量Ra以上になると、ノック抑制条件が成立する。但し、ノック抑制条件が成立しても、目標噴射量が、圧縮行程で最小噴射量Qminを噴射可能な噴射量となっていなければ、噴射モードは均質向上モードM4(吸気単発)のままである。
その後、時点t10で、目標噴射量が圧縮行程で最小噴射量Qminを噴射可能な流量まで増加すると、噴射モードが即座にノック抑制モードM5に切り換わる。すなわち、この場合には、リタード量Rが最適点火時期MBT付近まで減少することを待つことなく、噴射モードがノック抑制モードM5に切り換えられる。時点t11で、目標噴射量の減少により、圧縮行程で最小噴射量Qminを噴射不能になると、噴射モードは再び均質向上モードM4(吸気単発)に切り換わる。
本実施形態によれば、上述したのに加え、以下のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る内燃機関の制御装置は、シリンダ102の内部を往復動するピストン103と、ピストン103に面したシリンダ102内の燃焼室105に燃料を噴射するインジェクタ12と、燃焼室105における空気と燃料との混合気を点火する点火プラグ11と、を有するエンジン1を制御するように構成される(図2)。この制御装置は、吸気行程と圧縮行程とを含む範囲内、特に吸気行程で燃料を噴射する均質向上モードM4と、吸気行程と圧縮行程とを含む範囲内で、特に圧縮行程での燃料噴射を含むノック抑制モードM5と、の間で噴射モードを切り換える噴射モード切換部301と、ノッキングの発生を抑制するための点火時期のリタード量Rに応じた定まるノック抑制度を算出する点火制御部304(ノック抑制度算出部)と、点火制御部304により算出されたノック抑制度に基づいて、均質向上モードM4とノック抑制モードM5との間の噴射モードの切換の要否を判定するノック判定部303Dと、を備える(図3、6)。このようにノック抑制度に基づいて噴射モードの切換の要否を判定するので、ノッキングの発生に影響を与える環境条件や燃料のオクタン価等の種々の要因を考慮することなく、噴射モードの切換の要否を簡易かつ良好に判定することができる。
(2)ノック抑制度算出部は、噴射モード切換部301により均質向上モードM4に切り換えられた状態で、出力トルクが最大となる最適点火時期MBTよりも遅角された、エンジン1のノッキングの発生を抑制するための目標点火時期の最適点火時期MBTからのリタード量R(目標リタード量)を算出する点火制御部304(遅角算出部)であり、ノック判定部303Dは、点火制御部304により算出された目標リタード量に基づいて、均質向上モードM4からノック抑制モードM5への切換の要否を判定する(図3、6)。これにより、ノッキングの発生に影響を与える環境条件や燃料のオクタン価等の種々の要因を考慮することなく、均質向上モードM4からノック抑制モードM5への噴射モードの切換の要否を簡易かつ良好に判定することができる。
(3)ノック判定部303Dは、点火制御部304(遅角算出部)により算出された目標リタード量が切換リタード量Raに達すると、均質向上モードM4からノック抑制モードM5への切換が必要であると判定する。噴射モード切換部301は、ノック判定部303Dにより均質向上モードM4からノック抑制モードM5への切換が必要であると判定されると、噴射モードを均質向上モードM4からノック抑制モードM5へ切り換える(図13)。これにより、均質向上モードM4からノック抑制モードM5に適切なタイミングで切り換えることができ、燃焼効率を効果的に高めることができる。
(4)点火制御部304(遅角算出部)は、噴射モード切換部301により均質向上モードM4からノック抑制モードM5に切り換えられた後、均質向上モードM4が継続したと仮定したときの目標点火時期の最適点火時期MBTからの目標リタード量を算出する(図13)。ノック判定部303Dは、遅角算出部により算出された目標リタード量に基づいて、ノック抑制モードM5から均質向上モードM4への切換の要否をさらに判定する(図13)。噴射モード切換部301は、均質向上モードM4からノック抑制モードM5に噴射モードが切り換えられた後、ノック判定部303Dによりノック抑制モードM5から均質向上モードM4への切換が必要と判定されると、噴射モードをノック抑制モードM5から均質向上モードM4へ切り換える(図14)。これにより、最適点火時期MBTの近傍で噴射モードをノック抑制モードM5から均質向上モードM4に切り換えることができ、噴射モードの切換時の出力トルクの変動を抑えることができる。
(5)均質向上モードM4は、吸気行程で燃料を噴射する噴射モードであり、ノック抑制モードM5は、吸気行程と圧縮行程とでそれぞれ燃料を噴射する噴射モードであり、ノック抑制モードM5の圧縮行程における噴射量(2回目噴射量Qb)は、ノック抑制モードM5の吸気行程における噴射量(1回目噴射量Qa)よりも少ない(図14)。これにより、吸気行程でより多くの燃料が噴射されるため、燃焼室105内で均一な混合気を生成しやすい。なお、均質向上モードM4が、吸気行程から圧縮行程にかけてあるいは圧縮行程で燃料を噴射する噴射モードであってもよい。
(6)内燃機関の制御装置は、ノック抑制モードM5の吸気行程および圧縮行程における目標噴射量をそれぞれ算出するインジェクタ制御部305(噴射量算出部)をさらに備える(図3)。噴射モード切換部301は、噴射量算出部により算出された圧縮行程における目標噴射量が、インジェクタ12が1回に噴射可能な最小噴射量Qmin以下になると、噴射モードをノック抑制モードM5から均質向上モードM4に切り換える(図17)。これにより、目標噴射量が少なくなった場合であっても、安定的な燃焼を継続することができる。
(7)ノック判定部303Dは、噴射モード切換部301により噴射モードがノック抑制モードM5から均質向上モードM4に切り換えられた後、点火制御部304(遅角算出部)により算出された目標リタード量が切換リタード量Raよりも小さくなり、その後、切換リタード量Raに達すると、均質向上モードM4からノック抑制モードM5への切換が必要であると判定する(図17)。これにより最適点火時期MBTの近傍で噴射モードを均質向上モードM4からノック抑制モードM5へ切り換えることができ、出力トルクの変動を抑えることができる。
次に、図4の噴射モードのうち、付着低減モードM3の内容についてさらに詳しく説明する。上述したように、付着低減モードM3では、予め定められた図5のマップに従いインジェクタ12が燃料を噴射するように、インジェクタ制御部305(図3)がインジェクタ12に制御信号を出力する。図19は、インジェクタ制御部305の構成をより詳細に示すブロック図である。
図19に示すように、インジェクタ制御部305は、1サイクル当たりのインジェクタ12の噴射回数を設定する回数設定部305Aと、1サイクルで複数回の噴射を行う場合において噴射間隔を設定する間隔設定部305Bとを有する。付着低減モードM3では、低筒内温度状態におけるピストン冠面103aやシリンダ102の内壁面等への燃料の付着を抑制するため、予め定められた噴射可能範囲で燃料が噴射される。
図20は、付着低減モードM3におけるインジェクタ12の噴射パターンの一例を、エンジン回転数Neと出力トルクとに対応付けて、複数の噴射モデルM31~M34によって示す図である。図中の特性f1は、最大出力トルクの特性である。図20には、噴射回数が1回の噴射モデルM31,M32と噴射回数が4回の噴射モデルM33,M34とが一例として示される。噴射モデルM32は噴射モデルM31よりもエンジン回転数Neが高い場合の噴射モデルであり、噴射モデルM34は噴射モデルM33よりもエンジン回転数Neが高い場合の噴射モデルである。
なお、噴射回数が4回のときのエンジン回転数Neは所定値N1(例えば3000rpm)以下であり(図5参照)、噴射モデルM34に対応するエンジン回転数Neは例えば所定値N1である。低トルクの噴射モデルM31,M32は噴射回数が1回であり、高トルクの噴射モデルM33,M34は噴射回数が4回である(図5参照)。すなわち、図20は、図5の噴射回数が1回および4回のモデルを、それぞれエンジン回転数Neに応じて2つに分けて示したものである。
図20では、吸気行程の開始(吸気上死点TDC)から圧縮行程の終了(圧縮上死点TDC)までの全体区間(=360°)内のクランク角を、吸気上死点TDCを起点とした時計周りの円の角度θによって示すとともに、燃料噴射のタイミングを、円の中心から放射状に延びる扇形のハッチングによって示す。図20に示すように、吸気上死点TDCから圧縮上死点TDCまでの全体区間内には、燃料噴射を禁止する禁止エリアAR11が設定され、全体区間から禁止エリアAR11を除いたエリアAR12が噴射可能エリアとなる。
禁止エリアAR11は、噴射モデルM31の吸気上死点TDC~クランク角θ11およびクランク角θ12~圧縮上死点TDCの範囲、噴射モデルM32の吸気上死点TDC~クランク角θ21およびクランク角θ22~圧縮上死点TDCの範囲、噴射モデルM33の吸気上死点TDC~クランク角θ31およびクランク角θ32~圧縮上死点TDCの範囲、および噴射モデルM34の吸気上死点TDC~クランク角θ41およびクランク角θ42~圧縮上死点TDCの範囲にそれぞれ設定される。
図21は、禁止エリアAR11と噴射可能エリアAR12との区別を示す図である。なお、図中のクランク角θaは、図20のクランク角θ11、θ21、θ31、θ41に対応し、クランク角θbは、クランク角θ12、θ22、θ32、θ42に対応する。図21では、吸気上死点TDCからクランク角θaまでの範囲をΔθaで、クランク角θbから圧縮上死点TDCまでの範囲をΔθbで表す。図21に示すように、禁止エリアAR11は、吸気上死点TDCからΔθaだけクランク角θが増加した第1禁止エリアAR11aと、圧縮上死点TDCからΔθbだけクランク角θが減少した第2禁止エリアAR11bとを含む。
図22は、インジェクタ12の燃料噴射の動作を模式的に示す図である。図22に示すように、ピストン冠面103aへの燃料の付着を防止するための条件は、ピストン103が吸気上死点TDC(点線)から矢印A方向に所定量以上下降していること、すなわちインジェクタ12からの噴霧が到達しない第1所定距離までインジェクタ12からピストン103が退避していることである。この第1所定距離は、エンジン回転数Neが高いほど、ピストン103の下降速度(上死点TDCからの退避速度)が速くなるため、短い値に設定できる。
したがって、図20に示すように、エンジン回転数Neが高回転側のクランク角θ21、θ41は、低回転側のクランク角θ11、θ31よりも小さい値に設定される。なお、噴射モデルM31,M33のエンジン回転数が互いに同一である場合、および噴射モデルM32,M34のエンジン回転数が互いに同一である場合、禁止エリアAR11を規定するクランク角θ11とθ31およびクランク角θ21とθ41は、それぞれ互いに等しい値に設定される。禁止エリアAR111を規定するクランク角θ11,θ21,θ31,θ41を、それぞれ吸気行程前半で設定するとともに、低回転側のクランク角θ11,θ31を高回転側のクランク角θ21,θ41よりも大きい値に設定してもよい。
ピストン冠面103aへの燃料の付着を防止するためのもう1つの条件は、ピストン103が矢印B方向に上昇して圧縮上死点TDCに向かうときの圧縮上死点TDCからの距離が所定量以上であること、すなわちインジェクタ12からの噴霧が到達しない第2所定距離以上、圧縮上死点TDCからピストン103が離れていることである。この第2所定距離は、エンジン回転数Neが低いほど、ピストン103の上昇速度(上死点TDCへの接近速度)が遅くなるため、短い値に設定できる。
したがって、エンジン回転数Neが低回転側のクランク角θ12、θ32は、高回転側のクランク角θ22、θ42よりも大きい値に設定される。なお、噴射モデルM31,M33のエンジン回転数が互いに同一である場合、および噴射モデルM32,M34のエンジン回転数が互いに同一である場合、禁止エリアAR11を規定するクランク角θ12とθ32およびクランク角θ22とθ42は、それぞれ互いに等しい値に設定される。以上をまとめると、エンジン回転数の増加に伴い、禁止エリアAR11を規定する吸気行程側および圧縮行程側のクランク角は、それぞれ吸気上死点TDC側にシフトして設定される(クランク角θ11,θ31→θ21,θ41、クランク角θ12,θ32→θ22,θ42)。
図23は、燃料噴射タイミングと煤の付着量との関係を示す図である。横軸は吸気上死点(吸気TDC)から圧縮上死点(圧縮TDC)までの燃料噴射時期の変化を示す。なお、BDCは下死点である。特性g1(点線)は、エンジン回転数が低い領域での煤の付着量を表す特性であり、特性g2(実線)は、エンジン回転数が高い領域での付着量を表す特性である。図23に示すように、燃料噴射時期が吸気上死点および圧縮上死点に近づくほど、煤の付着量が増大する。また、エンジン回転数が高いほど、煤の付着量の特性が矢印に示すように吸気上死点側にシフトする。なお、図23において、煤の付着量が最小となるのは、吸気上死点TDCと下死点BDCとのほぼ中間および圧縮上死点と下死点とのほぼ中間の領域であり、その領域からクランク角が吸気上死点TDC側および圧縮上死点TDC側にずれると、煤の付着量が急激に増大する。
以上のピストン冠面103aへの燃料の付着を規制するクランク角θ11,θ12、θ21,θ22、θ31,θ32およびθ41,θ42は、予め実験等により求められ、メモリに記憶される。回数設定部305Aは、これらのクランク角によって規定される噴射可能エリアAR12内で、予め定められた図5の特性に従い、エンジン回転数Neと目標噴射量Qまたは吸入空気量Gとに応じて、1回~4回の範囲で噴射回数を設定する。
この場合、図21に示すように、禁止エリアAR1に所定クランク角Δθ1、Δθ2を加算して、禁止エリアAR1にマージンを設定し、噴射可能エリアAR12をその分だけ狭める。これにより、部品の個体差による寸法のばらつきや取付位置のばらつきがあってもピストン冠面103a等への煤の付着を確実に防止することができる。なお、所定クランク角Δθ1は、エンジン回転数Neが高いほど小さい値に設定され、所定クランク角Δθ2は、エンジン回転数Neが高いほど大きい値に設定される。
図19のインジェクタ制御部305は、クランク角センサ31により検出されたクランク角θが、クランク角θ11、θ21、θ31、θ41に所定クランク角Δθ1を加算した目標クランク角になると、インジェクタ12に制御信号を出力して1回目の噴射を開始する。そして、回数設定部305Aにより設定された噴射回数が複数回(例えば4回)の場合には、1回目の噴射終了後に所定の時間間隔Δtを空けて、2回目の噴射を開始する。
1回目噴射終了から2回目噴射開始、2回目噴射終了から3回目噴射開始、および3回目噴射終了から4回目噴射開始の時間間隔Δtは、互いに等しい。この時間間隔Δtは、エンジン回転数Neに拘わらず一定である。したがって、図20の噴射モデルM33とM34とを比較すると、噴射モデルM34の4回目噴射終了時点のクランク角θは、噴射モデルM33の4回目噴射終了時点のクランク角θよりも大きい。
時間間隔Δtは、図19の間隔設定部305Bにより、所定条件を満たすように設定される。図24は、インジェクタ12から所定量の燃料を分割噴射したとき、例えば噴射回数が2回のときの、1回目噴射終了から2回目噴射開始までの時間間隔Δtと、2回目噴射の噴霧長さLとの関係を示す図である。この関係は、実験や解析によって得られる。噴霧長さLとは、図22に示すように、インジェクタ12の先端から噴霧の先端までの長さ(噴霧先端の到達距離)、すなわちペネトレーションであり、図24では、単発噴射時の噴霧長さがL1で示される。なお、単発噴射時の1回当たりの噴射量は、分割噴射時の1回当たりの噴射量よりも多く、噴射回数が2回のときの倍の噴射量である。すなわち、図24は、分割噴射の各回の噴射量を加算した1サイクル当たりの全体の噴射量と、単発噴射の1サイクル当たりの噴射量とが等しい条件の下での、時間間隔Δtと噴霧長さLとの関係を示す。
図24に示すように、分割噴射時の噴霧長さLは、時間間隔がΔt1(例えば0.5ミリ秒)のときにL1であり、時間間隔がΔt1以上の範囲では、時間間隔の増加に伴い急激に減少する。そして、時間間隔がΔt2(例えば0.8ミリ秒)、Δt3(例えば1.5ミリ秒)、Δt4(例えば2.0ミリ秒)およびΔt5(例えば2.5ミリ秒)において、噴霧長さLはいずれもL2(<L1)である。なお、L2はL1の例えば50%以下である。時間間隔Δtが短いとき、すなわちΔt2未満の領域AR10で噴霧長さが長くなるのは、直前の噴射により生じたスリップストリームの効果が原因である。より具体的には、時間間隔がΔt2のときは、燃料と周囲空気との運動量交換の機会が増加して、噴霧先端到達距離(噴霧長さL)が短くなる。一方、時間間隔がΔ2未満のとき(領域AR10)、前回噴射した噴霧に今回噴射した噴霧が追い付いて、運動量交換の機会が減少して、噴霧先端到達距離が延びる。したがって、時間間隔をΔt2以上に設定すれば、噴霧長さLをL1からL2に短くすることができ、これによりピストン冠面103aへの煤の付着を抑制することができる。
但し、時間間隔Δtが長すぎると、例えば4回噴射における1回目の噴射開始時点のクランク角θおよび4回目の噴射終了時点のクランク角θが、図21の禁止エリアAR11a,AR11bに入り、ピストン冠面103aに煤が付着するおそれがある。また、4回目の噴射終了時点が遅いと、空気との混合が不十分になり、燃焼が不安定となるおそれがある。より具体的には、時間間隔がΔt4より長い領域AR20で、このような問題が生じる。そこで、時間間隔Δtの最長時間Δt4(例えば2.0ミリ秒)を設定し、間隔設定部305Bは、Δt2以上かつΔt4以下の範囲内で複数回の噴射を行う場合の目標時間間隔Δtaを設定する(Δt2≦Δta≦t4)。
すなわち、噴霧長さLが単発噴射時の噴霧長さL1よりも短く、かつ、時間間隔Δtの変化に対し噴霧長さが一定(L2)となるような時間間隔Δtであり、煤の付着を抑えるような時間間隔Δtを、目標時間間隔Δtaとして設定する。この目標時間間隔Δtaは予めメモリに記憶される。インジェクタ制御部305は、複数回噴射の時間間隔Δtが目標時間間隔Δtaとなるようにインジェクタ12に制御信号を出力し、噴射タイミングを制御する。これにより噴霧長さLが低減され、ピストン冠面103a等への煤の付着を効果的に抑えることができる。
図25は、付着低減モードM3においてインジェクタ制御部305で実行される処理の一例をフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、付着低減モードM3に切り換わると開始され、付着低減モードM3が継続される限り、所定周期で繰り返される。
図25に示すように、まず、ステップS31で、クランク角センサ31、吸気量センサ34およびAFセンサ35等からの信号を読み込む。次いで、ステップS32で、吸気量センサ34とAFセンサ35からの信号に基づいて、実空燃比が理論空燃比となるような目標噴射量を算出する。次いで、ステップS33で、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数と吸気量センサ34により検出された吸入空気量等に基づいて、図5のマップに従い、インジェクタ12からの1サイクル当たりの噴射回数を設定する。噴射回数は、噴射許容エリアAR12内でその回数分の燃料を噴射可能となるように設定される。
次いで、ステップS34で、ステップS33で設定された噴射回数が複数回であるか否か、すなわち分割噴射(多段噴射)が必要か否かを判定する。ステップS34で肯定されるとステップS35に進み、図24のΔt2~Δt4の範囲内で目標時間間隔Δtaを設定する。例えば、予めメモリに記憶された所定の目標時間間隔Δtaを設定する。なお、Δt2~Δt4の範囲で、エンジン回転数や吸入空気量、冷却水温等に応じて目標時間間隔Δtaを設定してもよい。
次いで、ステップS36で、1回当たりの目標噴射量(単位噴射量)を算出するとともに、噴射許容範囲AR12内で、ステップS33で設定された回数分だけ単位噴射量の燃料を噴射するように、インジェクタ12に制御信号を出力する。例えば単発噴射時には、目標噴射量が単位噴射量となり、クランク角が図21のθaにマージンとしての所定クランク角Δθ1を加算した値になると、目標噴射量の噴射を開始するようにインジェクタ12に制御信号を出力する。1サイクルで2回から4回の噴射を行う分割噴射(多段噴射)時には、クランク角が図21のθaにマージンとしての所定クランク角Δθ1を加算した値になると、単位噴射量の噴射を開始するとともに、噴射終了から次回の噴射までの間に目標時間間隔Δtaのインターバルを空けるようにインジェクタ12に制御信号を出力する。
本実施形態によればさらに以下のような作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態に係る内燃機関の制御装置は、シリンダ102の内部を往復動するピストン103と、ピストン103に面したシリンダ102内の燃焼室105に燃料を噴射するインジェクタ12と、を有するエンジン1を制御するように構成される(図2)。この制御装置は、吸気行程が開始される吸気上死点TDCから圧縮行程が終了する圧縮上死点TDCまでの範囲のうち、クランク角θが吸気上死点TDCから所定角Δθaだけ増加した第1禁止エリアAR11aと圧縮上死点TDCから所定角Δθbだけ減少した第2禁止エリアAR11bとを除く噴射可能エリアAR12内で燃料を噴射するようにインジェクタ12を制御するインジェクタ制御部305を備える(図3,図21)。インジェクタ制御部305は、噴射可能エリアAR12内でインジェクタ12により噴射される燃料の噴射回数を設定する回数設定部305Aを有する(図19)。回数設定部305Aは、1回から4回の範囲で噴射回数を設定する(図5,20)。これにより、煤が付着しやすい運転状態では、噴射回数を4回まで増加することで、インジェクタ12からの噴霧長さLを低減することができ、ピストン冠面103a等への煤の付着を効果的に抑えることができる。
(2)内燃機関の制御装置は、エンジン1の出力トルクと相関関係を有する吸入空気量Gを検出する吸気量センサ34をさらに備える(図3)。回数設定部305Aは、吸気量センサ34により検出された吸入空気量Gに応じた出力トルクの増加に伴い噴射回数が増加するように噴射回数を設定する(図5,20)。これにより、煤の付着を低減しつつ、出力トルクを増大することができる。
(3)内燃機関の制御装置は、エンジン回転数Neを検出するクランク角センサ31をさらに備える(図3)。回数設定部305Aは、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数Neの増加に伴い噴射回数が減少するように噴射回数を設定する(図5)。エンジン回転数Neが増加すると、噴射可能エリアAR12に対応する噴射時間が短くなり、燃料噴射の十分な時間間隔Δtを設けることができなくなるが、噴射回数が減少することで、噴霧長さLを抑えた十分な時間間隔Δtを設けることができる。
(4)噴射可能エリアAR12は、クランク角センサ31により検出されたエンジン回転数Neの増加に伴い第1禁止エリアAR11aの範囲が減少かつ第2禁止エリアAR11bの範囲が増加するように設定される(図21)。すなわち、クランク角θ21、θ41はクランク角θ11、θ31よりも小さく、かつ、クランク角θ22、θ42はクランク角θ12、θ32よりも小さく設定される(図20)。エンジン回転数Neの増加に伴いピストン103がインジェクタ12から退避する速度およびピストン103がインジェクタ12に接近する速度が増加するが、上述のようにエンジン回転数Neに応じて禁止エリアAR11を設定することで、ピストン冠面103aへの煤の付着を良好に抑えることができる。
(5)内燃機関の制御装置は、シリンダ102の内部の温度情報を取得する温度情報取得部302と、温度情報取得部302により取得された温度情報に基づいて、シリンダ102の内部の暖機が完了したか否か、すなわち高筒内温度状態となったか否かを判定する筒内温度判定部303Cと、をさらに備える(図3,6)。インジェクタ制御部305は、筒内温度判定部303Cによりシリンダ102の内部の暖機が完了されていないことを条件として、つまり付着低減モードM3において、噴射可能エリアAR12で回数設定部305Aにより設定された回数だけ燃料を噴射するようにインジェクタ12を制御する(図4)。噴射可能エリアAR12で最大4回の噴射を行うと、圧縮行程前半で噴射が行わるおそれがあるが(図20の噴射モデルM34)、煤の発生が問題となる運転状態のみで最大4回の噴射が行われるので、圧縮行程で噴射が行われる頻度が減少し、混合気の均質度が高まって燃焼効率を高めることができる。
(6)上記(1)~(5)とは別の観点として、内燃機関の制御装置は、吸気行程の開始から圧縮行程の終了までの範囲内で、所定の目標時間間隔Δtaを空けて複数回、それぞれ等しい量の燃料を噴射するようにインジェクタ12を制御するインジェクタ制御部305を備える(図3,図21)。インジェクタ制御部305は、目標時間間隔Δtaを設定する間隔設定部305Bを有する(図19)。間隔設定部305Bは、インジェクタ12から噴射される燃料の噴霧先端までの噴霧長さLが単発噴射時の噴霧長さL1よりも短くなるように、例えば噴霧長さL1の50%以下となるように目標時間間隔Δtaを設定する。これにより、分割噴射により噴霧長さLを良好に抑えることができ、ピストン冠面103aへの煤の付着を低減することができる。
(7)間隔設定部305Bは、Δt2(例えば0.8ミリ秒)以上かつΔt4(例えば2.0ミリ秒)の範囲内で目標時間間隔Δtaを設定する(図24)。これにより噴霧長さがL2に抑えられるとともに、燃料噴射の禁止エリアAR11(図21)で噴射されることが防止され、煤の付着を良好に抑えることができる。
(8)間隔設定部305Bは、回数設定部305Aにより設定された噴射回数の燃料が噴射可能エリアAR12内でインジェクタ12から噴射されるように目標時間間隔Δtaを設定する。すなわち、Δt2~Δt4の範囲内で、噴射回数の要件を満たすように目標時間間隔Δtaを設定する。これにより、インジェクタ12からの1回当たりの噴射量を最小限に抑えながら、噴霧長さLが短くなるような目標時間間隔Δtaを設定するので、煤の付着を効果的に抑制できる。
(9)インジェクタ制御部305は、筒内温度判定部303Cによりシリンダ102の内部の暖機が完了されていないことを条件として、つまり付着低減モードM3において、目標時間間隔taを空けて噴射可能エリアAR12で、回数設定部305Aにより設定された複数回の燃料噴射を行うようにインジェクタ12を制御する。これにより、目標時間間隔Δtaを空けて複数回の燃料噴射を行う機会が制限され、燃焼効率の高いモードでの運転をできるだけ多く行うことができる。
図6の筒内温度判定部303Cの構成についてより詳細に説明する。図26は、筒内温度判定部303Cの構成をより具体化した温度取得装置50の要部構成を示すブロック図である。この温度取得装置50は、コントローラ30と各種センサにより構成される。すなわち、図26に示すように、温度取得装置50は、コントローラ30に接続されたクランク角センサ31と、水温センサ33と、吸気量センサ34とを有する。温度取得装置としてのコントローラ30は、機能的構成として、温度域判定部501と、積算量算出部502と、閾値設定部503と、運転状態判定部504とを有する。
運転状態判定部504は、エンジン1の運転状態を判定する。具体的には、空気の吸入および燃料の噴射を行う通常モード、空気の吸入のみを行うF/Cモード、冷機状態から始動する冷機始動モード、空気の吸入および燃料の噴射を停止する稼働停止モード(EVモードおよびI/Sモード)のいずれであるかを判定する。
温度域判定部501は、エンジン1の仕事量に基づいて、ピストン冠面103a(図2)の温度Tpが所定温度Tp0(例えば100℃)以上の高筒内温度状態であるか否かを判定する(筒内暖機判定)。ガソリンエンジンの場合、エンジン1の出力(仕事率)は、吸入空気量Gと相関関係を有し、エンジン1の仕事量(総仕事量)は、吸入空気量Gの積算量ΣGと相関関係を有する。燃焼室105を構成するシリンダ102およびピストン103は、それぞれの材質および質量に応じた熱容量を有するため、これらの構成部材を昇温するには、それぞれの熱容量に応じた一定の熱量、すなわち、一定の仕事量が必要となる。
図27は、ピストン冠面103aの昇温について説明するための図であり、エンジン1を冷機状態から暖機するときに測定器を用いて測定される煤排出量の時間変化の一例を示す。図27に示すピストン冠面103aの温度Tpは推定値であり、冷却水温TWは水温センサ33の検出値である。また、吸入空気量Gの積算量ΣGは、吸気量センサ34により検出された吸入空気量Gに基づいて積算量算出部502により算出された算出値である。
図27に示すように、エンジン1の冷機状態では、ピストン冠面103aおよびエンジン冷却水を含むエンジン1全体の温度は均一であり、エンジン1の冷機状態は、エンジン1の始動時の冷却水温TWとして水温センサ33により検出することができる。エンジン1の暖機中は、吸入空気量Gの積算量ΣG(燃焼により発生した熱量、仕事量)が増加し、ピストン冠面103aの温度Tpが上昇する。ピストン冠面103aの温度Tpが上昇すると、ピストン冠面103aを含むエンジン1全体が燃焼室105側から徐々に暖機され、冷却水温TWが上昇する。エンジン1が暖機されると、エンジン冷却水が不図示のラジエータを通過することで冷却水温TWが所定温度TW0(例えば90℃)以下に維持され、エンジン冷却水によりエンジン1が冷却される。
図27に示すように、煤排出量は、時刻t21までは概ね一定であり、時刻t21において急激に低下して目標排出量を下回る。この点について説明すると、図2に示すように、インジェクタ12から噴射された燃料は、ピストン冠面103a(凹部103b)に付着する。このとき、ピストン冠面103aの温度Tpが所定温度Tp0(例えば100℃)に達していると、付着した燃料が即座に蒸発するため、煤は発生しにくい。一方、ピストン冠面103aの温度Tpが所定温度Tp0に達していないと、付着した燃料が不完全燃焼するため、煤が発生しやすくなる。
図27に示すような煤排出量の確認試験を行うことで、ピストン冠面103aの温度Tpがエンジン1の始動時の冷却水温TWから所定温度Tp0に達するまでに必要となる吸入空気量Gの積算量(閾値)ΣG0を予め把握することができる。温度域判定部501は、吸入空気量Gの積算量ΣGが閾値ΣG0以上であるか否かを判定し、閾値ΣG0以上であると判定されると、高筒内温度状態であると判定する。これにより、ピストン冠面103aの温度Tpをセンサにより直接検出することなく、ピストン冠面103aの温度Tpが所定温度Tp0に達したか否かを判定することができる。
図27に示すような閾値ΣG0は、エンジン1の冷機状態によって、すなわち始動時の冷却水温TWによって異なる。すなわち、高筒内温度状態に至るまでに必要となる吸入空気量Gの積算量ΣGの閾値ΣG0は、エンジン1の始動時の冷却水温TWが低いほど大きく、冷却水温TWが高いほど小さくなる。このエンジン1の始動時の冷却水温TWに対する閾値ΣG0の特性は、予めメモリに記憶される。閾値設定部503は、予めメモリに記憶された特性に従い閾値ΣG0を設定する。以上のようにして設定された閾値ΣG0と吸入空気量Gの積算量ΣG0との大小を判定することにより、筒内温度判定部303C(温度取得装置50)は、ピストン温度が低筒内温度であるか高筒内温度であるかを判定する。これによりコントローラ30は、ピストン温度が低い領域と高い領域とで、それぞれに適した噴射モードに切り換えることができる。
なお、上記実施形態では、燃料噴射部としてのインジェクタ12をシリンダヘッド104に斜め下方に向けて取り付けるようにしたが、シリンダ内の燃焼室に燃料を噴射するのであれば、燃料噴射部の構成はいかなるものでもよい。上記実施形態では、エンジン1の総仕事量が目標総仕事量に到達したか否かにより、排気触媒装置13の暖機運転が完了したか否かを判定するようにしたが、触媒暖機判定部の構成はこれに限らない。例えば車両が走行駆動源としてのモータを有しない車両である場合には、エンジン始動時の冷却水温に応じて、触媒暖機モードM2で暖機運転を行うための目標時間を設定し、目標時間が経過すると、暖機運転が完了したと判定するようにしてもよい。
上記実施形態では、噴射モード切換部301(噴射形態切換部)が、温度情報取得部302により取得された温度情報に応じて、吸気行程後半から圧縮行程前半にかけての噴射可能領域で1回~4回の範囲で燃料を噴射する付着低減モードM3(第1噴射形態)および吸気行程で1回または2回の燃料を噴射する均質向上モードM4(第2噴射形態)に噴射モード(噴射形態)を切り換えるようにしたが、第1噴射形態および第2噴射形態は上述したものに限らない。上記実施形態では、噴射モード切換部301で切り換えられた噴射モードに応じて燃料を噴射するようにインジェクタ制御部305がインジェクタ12を制御するようにしたが、噴射制御部の構成は上述したものに限らない。
上記実施形態では、吸気量センサ34からの信号に基づいて、シリンダ102内での煤の付着に影響を及ぼす筒内温度の情報を取得するようにしたが、シリンダの内部の温度情報、特にピストン冠面103aと相関関係を有する温度情報を取得するのであれば、温度情報取得部の構成はいかなるものでもよい。上記実施形態では、温度情報取得部302により取得された温度情報に基づいて、筒内温度判定部303Cが、筒内温度が所定値以上であるか否かを判定するようにしたが、シリンダ102内の暖機が完了したか否かを判定するのであれば、シリンダ暖機判定部の構成はいかなるものでもよい。
上記実施形態では、クランク角センサ31からの信号に基づいてエンジン回転数を検出するようにしたが、回転数検出部の構成はこれに限らない。上記実施形態では、エンジン回転数Neと、吸気量センサ34により検出された吸入空気量Gに応じて定まる目標噴射量Qとの関係を示すマップ(図5)に従い、付着低減モードM3での噴射パターンを決定するとともに、エンジン回転数Neと、吸気量センサ34により検出された吸入空気量Gとの関係を示すマップ(図4)に従い、均質向上モードM4での噴射パターンを決定するようにした。すなわち、吸気量センサ34からの信号に基づいてエンジン出力トルクを検出するようにしたが、燃料噴射量、排気量、スロットル開度、吸気圧、過給圧等に基づいてエンジン出力トルクを検出してもよい。したがって、エンジン出力トルクと相関関係を有する物理量を検出するのであれば、トルク検出部の構成は上述したものに限らない。
上記実施形態では、付着低減モードM3での最大噴射回数を4回、均質向上モードM4での最大噴射回数を2回としたが、付着低減モードM3での最大噴射回数が均質向上モードM4の最大噴射回数よりも多いのであれば、最大噴射回数は上述したものに限らない。例えば均質向上モードM4の最大噴射回数が3回でもよい。上記実施形態では、ノック判定部303Dが、吸圧多段のノック抑制モードM5(第3噴射形態)への切換の要否を判定するようにしたが、ノッキングの発生を抑制する噴射モードへの切換の要否を判定するのであれば、ノック判定部の構成はいかなるものでもよい。
上記実施形態では、ノック抑制モードM5において吸気行程前半と圧縮行程前半とでそれぞれ燃料を噴射するようにしたが、付着低減モードM3における噴射態様(第1態様)および均質向上モードM4における噴射態様(第2態様)と異なる態様(第3態様)でノッキングを抑制するような燃料噴射を行うのであれば、第3噴射形態の構成はいかなるものでもよい。
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。