JP7175356B1 - 掘削ずりに対する中和材添加量設計方法 - Google Patents

掘削ずりに対する中和材添加量設計方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 掘削ずりに対する中和材の適切な添加量の設計方法を提供する。【解決手段】掘削ずりに対する中和材の添加量X(kg/t)を次の添加量算出式によって算出する。X=Mx×(A/Ma)×α×β×10Mxは、使用する中和材のモル質量。Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和。寄与率αは、スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、破砕ずりがスレーキングしない場合には、粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比で求められる0<α<1の範囲の数値。βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数。【選択図】図1

Description

本発明は、掘削ずりに対する中和材添加量設計方法に関する。例えば、土木工事等で生じる掘削ずりの再利用時に添加する中和材の量を適切に設計する技術に関する。
トンネル工事等の土木工事では掘削ずりが生じるが、これらに例えば硫化鉱物が含まれている場合、環境中にpH=5.8(水質汚濁防止法により定められる一般排水基準)を下回る酸性水が滲出するとともに、それに伴う重金属等の溶出が懸念される。掘削ずりから生じる酸性水の滲出リスク評価やその対策については、例えば非特許文献1、2のように取りまとめられている。これら文献によれば、「判断の流れ」の参考手順が例示されており、工事着工前に数ヶ月~数年単位の長期的な調査期間をとったうえで、資料調査、地質調査ボーリング、含有成分の分析試験、短期溶出試験、酸性化可能性試験、実現象再現溶出試験等々を実施し、専門家を交えてそれらの結果を総合的に評価し、対策の要否、対策内容を決める、とのことである。
なお、仮に、酸性水対策として中和材を添加するとしても、必要な中和材の量をどのように見積もるべきかという具体的な設計方法はいずれの文献にも示されておらず、「専門家の総合評価の結果に基づき対策工を選択」という程度のことしか示されていない。
建設工事における自然由来重金属等含有岩石土壌への対応マニュアル(暫定版) 平成22年(2010年)3月(建設工事における自然由来重金属等含有土砂への対応マニュアル検討委員会) 建設工事で発生する自然由来重金属等含有土対応ハンドブック 平成27年(2015年)3月(独立行政法人 土木研究所、一般財団法人 土木研究センター地盤汚染対応技術検討委員会)
まず、従来文献では、酸性水が発生する掘削ずりに対して、中和材の添加量をどのように見積もるべきかという具体的な設計方法は示されてこなかった。
また、従来は、着工前に数ヶ月~数年単位の長期試験である『実現象再現実験』などを実施してその結果から対策を講じるとしているが、現実的ケースとして、施工直前や施工中に酸性滲出水の懸念が生じた場合などは検討期間に制約が生じてしまう課題があった。
また、掘削ずりの成分分析から化学量論的な計算によって中和材の量を求めることが一般的には想定されるが、実際には中和材が適量を超えてしまうことがあり、この場合、過剰な中和材分は余計なコストとなり、合理的とは言えない。
本発明の第1の目的は、掘削ずりに対する中和材の適切な添加量の設計方法を提案することにある。
また、本発明の第2の目的は、掘削ずりに対する中和材添加量を短期間で求め、かつ、短期間で検証できる方法を提案することにある。
本発明の請求項1に記載の中和材添加量設計方法は、
掘削ずりに対する中和材の添加量を設計する中和材添加量設計方法であって、
掘削ずりのサンプルの成分分析を行って、当該掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の全量A(wt%)を求める成分分析工程と、
掘削ずりを盛土に利用する際の破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行って破砕ずりの粒径分布を求める粒度試験工程と、
掘削ずりのサンプルに対してスレーキング試験を行うスレーキング試験工程と、
前記スレーキング試験工程における掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する寄与率設定工程と、
次の添加量算出式によって中和材の添加量を算出する中和材添加量算出工程と、を備え、
添加量算出式は、
X=Mx×(A/Ma)×α×β×(1/Vb)×10
であり、
Xは求める中和材の添加量(kg/t)であり、
Mxは、使用する中和材のモル質量であり、
Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和であり、
寄与率αは、
前記スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、
破砕ずりがスレーキングしない場合には、前記粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比(Swr/Sws)で求められる0<α<1の範囲の数値であり、
βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数であり、
Vbは、中和材の価数である
ことを特徴とする。


本発明の請求項2に記載の中和材添加量設計方法は、
掘削ずりに対する中和材の添加量を設計する中和材添加量設計方法であって、
掘削ずりのサンプルの成分分析を行って、当該掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の全量A(wt%)と、該掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分の全量B(wt%)と、を求める成分分析工程と、
掘削ずりを盛土に利用する際の破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行って破砕ずりの粒径分布を求める粒度試験工程と、
掘削ずりのサンプルに対してスレーキング試験を行うスレーキング試験工程と、
前記スレーキング試験工程における掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する寄与率設定工程と、
次の添加量算出式によって中和材の添加量を算出する中和材添加量算出工程と、を備え、
添加量算出式は、
X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)}×α×β×(1/Vb)×10
であり、
Xは求める中和材の添加量(kg/t)であり、
Mxは、使用する中和材のモル質量であり、
Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和であり、
Mbは、掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分の化学当量の和であり、
寄与率αは、
前記スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、
破砕ずりがスレーキングしない場合には、前記粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比(Swr/Sws)で求められる0<α<1の範囲の数値であり、
βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数であり、
Vbは、中和材の価数である
ことを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の中和材添加量設計方法は、
請求項2に記載の中和材添加量設計方法において、
さらに、
該掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分を含む物質の溶出係数γを設定し、
このとき、
添加量算出式を、
X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)×γ}×α×β×(1/Vb)×10
とする
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
アルカリ溶出係数γは、0≦γ≦1である。
本発明の請求項4に記載の中和材添加量設計方法は、
請求項3に記載の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法において、
試験液として過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験工程を掘削ずりのサンプルに対して行い、
得られた溶液中のアルカリ成分のイオン濃度を測定し、
前記アルカリ成分のイオン濃度の測定値に基づいて前記溶出係数γを設定する
ことを特徴とする。
本発明の請求項5に記載の中和材添加量設計方法は、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の中和材添加量設計方法において、
試験液として過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験工程と、
試験液として過酸化水素水を用いた中和材添加量の検証工程と、の一方または両方を行う
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
本発明の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法の全体手順を示すフローチャート(その1)である。 本発明の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法の全体手順を示すフローチャート(その2)である。 粒度試験を行った結果を例示する図である。 図3の粒度分布をグラフに表したものである。 細粒化を仮定したときの比表面積の算出過程がわかりやすいように計算途中の数値を表にしたものである。 粒度分布を考慮にいれた比表面積の算出過程がわかりやすいように計算途中の数値を表にしたものである。(粒径の代表値を各区分中の最大径とした場合。) 粒度分布を考慮にいれた比表面積の算出過程がわかりやすいように計算途中の数値を表にしたものである。(粒径の代表値を各区分の平均粒径とした場合。) 供試試料の全含有量試験結果、S/Caモル比および酸性化可能性試験結果を示す図である。 タンクリーチング試験の結果を示す図である。 試験ケース(7)の促進スレーキング試験結果を示す図である。 試験ケース(8)の促進スレーキング試験結果を示す図である。 供試試料の全含有量試験結果、S/Caモル比および酸性化可能性試験の結果を示す図である。 実験例3で用いた試験ケース(9)-1~試験ケース(9)-7の試料を示す図である。 試験ケース(9)-1から試験ケース(9)-7について酸性化可能性試験を行った結果を示す図である。 試験ケース(9)-4から試験ケース(9)-7についてタンクリーチング試験を行った結果を示す図である。
本発明の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法は、トンネル工事等で生じる掘削ずりの再利用時に添加する中和材の量を適切に設計するためのものである。
図1、図2は、本発明の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法の全体手順を示すフローチャートである。
中和材添加量設計方法の各工程を順に説明していく。
[酸性化可能性試験(ST110)]
まずは、工事で生じる掘削ずりのサンプルを用い、掘削ずりの滲出水が強い酸性を示すものなのかどうかを検証する。
この酸性化可能性試験(ST110)で滲出水が酸性でないならば中和材を添加しなくてもそのまま盛土等として利用すればよい。
酸性化可能性試験(ST110)は、例えば、「過酸化水素水による土及び岩石の酸性化可能性試験方法」(地盤工学会JGS0271‐2016)に規定されている方法でよい。
掘削ずりのサンプルのなかから粒径φが2mm以下のものを分別し、これを過酸化水素水(例えば、固液比1:10。30%H)に浸す。(そして、反応がほぼ収束するまで静置する。だいたい、1日~7日程度。)例えば、黄鉄鉱(FeS)のような硫黄(酸性化に寄与する元素)の塩を多く含むような掘削ずりの場合、硫化物イオンが溶出してくるため、試験液(過酸化水素水)のpHが低くなる。試験液(過酸化水素水)のpHが3.5以下になるような場合には、酸性化可能性がある(ST111:YES)と判断する。
なお、粒径φが2mm以下のものに対して過酸化水素水による酸性化可能性試験を行うことでよいのであるが、さらに参考として、粒径φが10mm以下のもの、粒径φが40mm以下のもの、など分級のレベルをいくつか変えたものについても酸性化可能性試験を行うことが好ましい。加えて、掘削ずりを盛土に再利用するときには破砕ずりにするので、この実際の盛土として使用するであろう破砕ずりのサンプルに対しても酸性化可能性試験を行うことが好ましい。
[成分分析工程(ST120)]
次に、滲出水が酸性を示す可能性がある掘削ずりに対して、その成分分析を行う。すなわち、掘削ずりに含まれる酸性化に寄与する元素(原子)およびアルカリ化に寄与する元素(原子)について、何がどれだけ含まれているかを特定する。例えば、掘削ずりのサンプルに対して蛍光X線分析を行う。
酸性化に寄与する元素としては、代表的なのは、例えば、硫黄(S)である。(この他、例えば、窒素(N)も考慮してもよい。)
アルカリ化に寄与する元素としては、代表的なのは、カルシウム(Ca)である。(この他、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウムも考慮してもよい。)
後の計算に使用するため、酸性化に寄与する元素の量をA(wt%)とし、アルカリ化に寄与する元素の量をB(wt/%)とする。
さらに、成分分析として、掘削ずり自体の成分を調べるのみならず、前述の酸性化可能性試験(ST110)で得られた溶液の各イオン濃度を測定しておく。掘削ずりから溶液中に溶出する各成分の濃度(イオン濃度)が溶液の酸性化/アルカリ化に寄与するのであるから、溶液中のイオン濃度をこの時点で計測しておく。
溶液が酸性を呈するような掘削ずり自体にもアルカリ成分は含有されているのであるから中和材量の設計としては、掘削ずり自体に含有されるアルカリ成分の貢献分を考慮する必要はある。ただし、アルカリ物質の全量が中和に寄与するとは限らないのであり、掘削ずり自体に含有されるアルカリ成分の寄与度を減じる係数を設定しておく必要がある。溶液中のイオン濃度を測定し、掘削ずりから溶液中に溶出(あるいは解離)してくるアルカリ成分のイオン濃度を得ておき、後述のアルカリ溶出係数γを設定する際に考慮する。溶液の各イオン濃度を測定するにあたって、酸性化可能性試験で得られた溶液を用いるのが時間効率として有利でもある。
[スレーキング試験(ST130)]
続いて、掘削ずりに対してスレーキング試験を行う。
スレーキング試験(ST130)としては、例えば、「促進スレーキング試験」(地盤工学会JGS2125‐2009)に規定されている方法でよい。
掘削ずりのサンプルに対して強制的に乾燥と水浸を繰り返し(例えば3回)粒子の形状の変化を評価(スレーキング区分0-4)する。
これは、掘削ずりを盛土等に利用した場合にスレーキングによって掘削ずり塊が細粒化し、大きな粒径ずりの表面以外からも鉱物成分が溶出する可能性を評価するために行うものである。そして、スレーキング区分の把握とともに、試験液(固液比=1:5とする)のpH、EC、ORP、カルシウムイオン、硫酸イオンを測定することにより、掘削ずりからの成分溶出挙動を把握する。
掘削ずりがスレーキングするのであれば(ST131:YES)、もとの粒子が大きいとしても長期的にみれば掘削ずりが細粒化し、最終的には掘削ずりの全成分が溶出する可能性を考慮すべきであると考えられる。反対に、掘削ずりがスレーキングしないのであれば(ST131:NO)、粒子の表面からしか鉱物成分が溶出しないと考えられ、この場合に掘削ずりの全成分を考慮にいれた中和材の量は過剰となる。なお、この仮設は、後述の実験によって正しいことを検証済みである。
なお、成分分析工程(ST120)で溶液のイオン濃度を測定するにあたり、酸性化可能性試験で得た溶液のイオン濃度を測定することを説明したが、それに加えて促進スレーキング試験で得た溶液のイオン濃度を測定してもよい。
[粒度試験(ST140)]
スレーキング試験(ST130)において、掘削ずりがスレーキングしないと判定された場合には粒度試験を行う(ST140)。
掘削ずりを盛土等に利用する際には、大粒径の掘削ずりは破砕等の処置をしてから盛土に使用するのであるから、盛土に利用される予定の破砕ずりのサンプルを用意し、この破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行う。
粒度試験自体は既知の方法でよく、ふるい分析によって行ってもよい。
いま、一例として、破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行った結果を図3に例示する。
このサンプルをTサイト破砕ずりと称することにする。
図4は、図3の粒度分布をグラフに表したものである。
なお、実際に破砕ずりを作製してサンプルを用いるのが望ましいが、破砕ずりのサンプルが手に入らない場合には、粒度を想定した粒度分布モデルを設定するとしてもよい。
[寄与率設定工程(ST150)]
次に、掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する。
この寄与率αは、中和材の添加量の見積もりにあたって本発明が新規に提案するパラメータである。
スレーキングが生じない岩質の掘削ずりの場合、大きな粒径のずりのように比表面積が小さいずりからは酸性化物質の溶出量がそれだけ少なくなると考えられ、すなわち、その体積に比べて酸性化の寄与率が小さいのであるから、破砕ずりの粒度分布を反映して中和材の量を調整する(減らす)ことが必要である。掘削ずりがスレーキングしない場合、その破砕ずりに対して次のように寄与率αを設定する。
寄与率α=Swr/Sws
上記式で、分母のSwsは、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsのことである。
ここでは、前述の酸性化可能性試験が2mm以下で行われるため、すべての破砕ずりが均一な直径2mmになると仮定して、細粒化時の比表面積Swsとする。
いま、破砕ずり(掘削ずり)を粉体と考えると、細粒化を仮定したときの比表面積Sws(m/kg)は次のように与えられる。
Sws=(ks/ρ)×(N(φ2)×D)/(N(φ2)×D
ksは、粒子の形状係数であって、立方体、球形の場合、ks=6である。
ρは密度、N(φ2)は径が2mmの粒子の数、Dは粒子の直径(ここでは2mm)である。
先のTサイト破砕ずりの密度が2500kg/mと求められているとすると、その細粒化時の比表面積Swsは、1.2(m/kg)と求められる。
図5は、この算出過程がわかりやすいように計算途中の数値を表にしたものである。
図5中には、径が2mmの場合の計算例に加えて、細粒化時の径を1mmと仮定した場合、細粒化時の径を0.075mmと仮定した場合、細粒化時の径を0.00104mm(2と0.075の平均値)と仮定した場合、の比表面積(Sws)の計算例を示している。細粒化時の径を何mmと仮定するかによって細粒化時の比表面積(Sws)の値は変動するが、細粒化時の径としてどのような値を採用したらよいかについては、後述する。
次に、上記寄与率の算出式で、分子のSwrは、粒度分布を反映した破砕ずりの比表面積Swrのことである。
先ほどのTサイト破砕ずりの場合に(ρ=2500kg/m)、図3の粒度分布を考慮にいれて比表面積Swrを算出すると、0.205(m/kg)と求められる。
図6、図7は、この算出過程がわかりやすいように計算途中の数値を表にしたものである。
図6は、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分中の最大径とした場合の例である。
図7は、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分の平均粒径とした場合の例である。
いま、図6の計算例では、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分中の最大径としている。そして、細粒化を仮定した場合の径として2mmを採用し、したがって、細粒化を仮定したときの比表面積Swrを1.2と求め、寄与率α=0.205/1.2=0.171としている。これは、実施例の分級において、篩いの目開きの最小が2mmなので、2mm以下の径が最小区分クラスということになる。
図6の計算例では、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって粒径の代表値を各区分中の最大径としていることのバランスから考えて、細粒化を仮定した場合の径として2mmとした。つまり、最小の目開きの篩いを通過したもの(2mm以下)が最小クラスということになり、このクラスの径の代表値としては2mmとするのが整合的と考えるからである。一般化していうと、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分中の最大径とするならば、細粒化を仮定するときの径は最小クラスの最大径であると仮定する(一番小さい篩いの目開きと言い換えてもよいだろう。)
あるいは、図7の計算例では、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分中の平均径としている。そして、細粒化を仮定した場合の径として1mmを採用し、したがって、細粒化を仮定したときの比表面積Swrを2.4と求め、寄与率α=0.329/2.4=0.137としている。実施例の分級において、篩いの目開きの最小が2mmなので、2mm以下の径が最小区分クラスということになる。
図7の計算例では、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって粒径の代表値を各区分中の平均径としていることのバランスから考えて、細粒化を仮定した場合の径として1mmとした。つまり、本実施例における最小区分クラスの目開きの篩いを通過したもの(2mm以下)が最小クラスということになり、このクラスの径の代表値としては単純に平均と考えて1mmとするのが整合的と考えるからである。一般化していうと、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分中の平均径とするならば、細粒化を仮定するときの径は(実施例における)最小クラスの平均径であると仮定する(一番小さい篩いの目開きRの半分と言い換えてもよいだろう。)。
なお、日本産業規格「土の粒度試験方法」上では、最少の目開き篩は75μm(0.075mm)である。ただし、過酸化水素水による酸性化可能性試験や蛍光X線による全含有量試験などでは「φ2mm以下」とした試料とすることが一般的であるため、本実施例における最小区分クラスの篩いの目開きを2mmに統一している。
以後の本実施形態の説明では、Tサイト破砕ずりの場合、粒度分布を考慮した寄与率αとして、0.205/1.2=0.171を採用したとする。そして、寄与率αが1よりかなり小さい値(0.171)となることは、スレーキングしない岩質のずりに添加すべき中和材の量は、従来のようにずりの全成分が溶出すると想定する場合に比べてかなり少ない量にしなければならないことを示す。
なお、本実施例では、寄与率αとして、0.205/1.2=0.171を採用したが、平均径を採用した場合の寄与率α=0.137を採用してもよいのはもちろんであるし、どちらかと言えば好ましいかもしれない。
スレーキング試験工程(ST130)において、掘削ずりがスレーキングする場合は(ST131:YES)、最終的には掘削ずりが細粒化し、それら細粒化した全表面から酸性化物質が溶出し、それらが酸性化に寄与すると考えられる。
したがって、この場合、寄与率αは1とする。
[アルカリ溶出係数γの設定(ST160)]
掘削ずり自体に含有されるアルカリ成分の貢献分を考慮する係数としてアルカリ溶出係数γを設定する。すなわち、掘削ずりに含まれるアルカリ物質の全量が中和に寄与するとは限らないのであり、掘削ずり自体に含有されるアルカリ成分の寄与度を減じる係数として、アルカリ溶出係数γを設定する。
極端に安全サイドに考えると、掘削ずりからはアルカリ物質が溶出しない(あるいは解離度が小さい)と考え、掘削ずりのアルカリ成分の溶出係数γを0に設定することが考えられる。逆に、掘削ずりからは酸性化物質もアルカリ化物質も同程度に溶出すると考え、この場合は、掘削ずり自体に含有されるアルカリ成分の寄与度は最大となり、アルカリ成分の溶出係数γを1に設定する。
前述の酸性化可能性試験(ST110)で得られた溶液の各イオン濃度に基づいて、酸性化物質の溶出度(解離度)とアルカリ化物質の溶出度(解離度)との比に基づいて、アルカリ溶出係数γを決定してもよい。さらに、前記の単純な比の計算で求められる値よりも小さな値をアルカリ溶出係数γとし、安全サイドにシフトさせておくこともよい。アルカリ溶出係数γの値としては、小さい値であれば、γ=0.01や0.1、0.2であり、アルカリ成分の貢献は酸性化物質の半分程度であればγは0.5であり、アルカリ成分の寄与を最大に見積もればγは1である。
[安全係数βの設定(ST170)]
中和材の添加量は、ずりに含まれる元素(酸性化に寄与する元素/アルカリ化に寄与する元素)の量と、前記寄与率αと、から計算されるのであるが、実際の工事現場では破砕ずりと中和材とが均一に混ざらない部分がある程度生じることを想定し、安全係数(β)を見込んでおく。安全係数βは、1以上であり、1.1~1.2とする場合や、2倍、3倍、などとするが、これは実際の工事の施工方針等を勘案して各現場で決定される余地を残すものである。
なお、例えば、α×βは、1以下(1を超えない)とすることが考えられる。
[中和材添加量算出工程(ST180)]
ここまでに求めたデータを用い、化学量論的な計算に基づき、中和材添加量X(kg/t)は次のように求められる。
X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)×γ}×α×β×(1/Vb)×10
Xは求める中和材の添加量(kg/t)である。つまり、破砕ずり1トンに対して添加すべき中和材の量(kg)である。
Aは、酸性化に寄与する元素の全量A(wt%)である。
Bは、アルカリ化に寄与する元素の全量B(wt%)である。
Mxは、使用する中和材のモル質量である。
Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する元素のモル質量の和である。
Mbは、掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する元素のモル質量の和である。
Vbは、中和材の価数である。
最後の10は、単位を揃えるための係数である。
補足すると、{(A/Ma)-(B/Mb)}は、酸性化に寄与する元素とアルカリ化に寄与する元素とのモル比のことである。
いま、例えば、ずりの成分分析(ST120)の結果、酸性化に寄与する成分は黄鉄鉱に起因する硫酸イオンであるとする。また、ずりには方解石(炭酸カルシウム)が含有され、方解石由来のカルシウムイオンがアルカリ化に寄与するとする。(なお、蛍光X線分析の場合、カルシウムCaは生石灰CaO(酸化カルシウム)として検出される。)
このずりに対して中和材として炭酸カルシウムを用いるとする。
FeS+7/2O+HO=Fe2++2SO 2-+2H
CaCO+H=Ca2++HCO
HCO +H=HCO
すなわち、酸性化に寄与する元素は硫黄Sのみで、そのモル質量Maは32である。また、ずりの成分分析の結果、硫黄の量が0.88wt%であったとする。
(これを一般化していうならば、酸性化に寄与する成分(ここでは硫黄)の実験式、組成式、経験式、分子式などと称し、さらには、そのモル質量Maではなく、グラム当量(化学当量)と考えてもよい。)
アルカリ化に寄与する元素はカルシウムで、そのモル質量Mbは40.08である。ただし、成分分析の都合上、カルシウムCaは生石灰CaO(酸化カルシウム)として検出されるので、アルカリ化に寄与する成分は酸化カルシウムで、そのモル質量Mbは56であるとする。
(これを一般化していうならば、アルカリ化に寄与する成分(ここでは酸化カルシウム)の実験式、組成式、経験式、分子式などと称してもよい。さらには、そのモル質量Mbではなく、グラム当量(化学当量)と考えてもよい。)また、ずりの成分分析の結果、カルシウム(酸化カルシウム)の量が1.20wt%であったとする。
中和材(炭酸カルシウム)のモル質量Mxは100.08である。また、炭酸カルシウムの塩基価数(Vb)は1または2を取り得るが、当明細書の最後に補足するように、ここでは炭酸カルシウムの塩基価数(Vb)は1とする。
ずり中のS/Caのモル比が1以下になるように中和材(炭酸カルシウム)を補うとして、中和材の量は次のように求められる。
ここでは、寄与率α=0.17、安全率β=3とする。また、アルカリ溶出係数γを1とする。
X=100.08{0.88/32-1.20/56}×0.17×3×10
中和材の量X=3.11(kg/t)
[検証工程ST190]
検証工程ST190としては、上記のように求められた中和材の添加量が適正であるかどうかを検証する。これは、中和材を添加した上で、前記酸性化可能性試験(ST110)と同じことをしてみて、過酸化水素水のpHが3.5を超える値になっているかどうかを検証する。破砕ずりのサンプルに対して設計量の中和材を加えて、過酸化水素水による酸性化可能性試験を行う。過酸化水素水のpHが3.5を超えるかどうかを検証する。
なお、スレーキングする岩質であるならば、粒径2mm以下のものを分級した上で、酸性化可能性試験を行って検証する。その他、参考として、分級のレベルを変えたサンプルについても過酸化水素水のpHの変化をみて、安全率βの設定を調整するとよい。
(実験例1)
実験例1として、掘削ずりの粒径が滲出水の酸性化に影響しているかどうかを検証する実験を行った。過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験(JGS0271-2016)においてpH(H)=2.4~2.6を示した流紋岩質岩を試験サンプルとした。この試験サンプルに対して、タンクリーチング試験(固液比=1:10)を実施した。タンクリーチング試験におけるずり粒径条件(試験ケース)は以下の通りである。
(ずり粒径条件)
試験ケース(1):ずり粒径φ2mm(φ2mm以下)
試験ケース(2):ずり粒径φ10mm(φ10mm以下)
試験ケース(3):ずり粒径φ40mm(φ40mm以下)
試験ケース(4):ずり粒径φ100mm(φ100mm以下)
試験ケース(5):ずり粒径φ2mm~40mm(φ2mm、φ10mm、φ40mmの各区分を均等重量混合)
試験ケース(6):ずり粒径φ2mm~100mm(φ2mm、φ10mm、φ40mm、φ100mmの各区分を均等重量混合)
なお、供試試料の全含有量試験結果、S/Caモル比および酸性化可能性試験結果は図8に示す通りであった。
タンクリーチング試験を実施し、試験経過毎の溶液のpH(HO)、硫酸イオン濃度およびカルシウムイオン濃度を測定した。
ここでは600日間経過を測定した。
その試験結果を図9に示す。
まず、pH(HO)についてみると、600日間の結果、φ2mm~φ100mmのすべての粒径条件においてpH(HO)=4.3~4.4付近に収束する傾向が確認された。一方、硫酸イオンおよびカルシウムイオンについては、φ40mmやφ100mmよりも、φ2mmやφ10mmのような細粒(比表面積が大きい)ほど濃度が高くなる傾向が確認された。この結果は、どの粒径であっても、掘削ずり中の黄鉄鉱の酸化により硫酸イオンおよび水素イオンが放出されると、掘削ずり中の方解石(炭酸カルシウム)等も放出され、中和が生じる(カルシウム濃度が上昇する)が、そのイオンバランスから溶液は酸性化することを示唆している。
また、φ2mm~φ40mm、φ2mm~φ100mmの重量均等混合試料の場合、硫酸イオンやカルシウムイオン濃度は、φ2mm、φ10mm、φ40mm、φ100mmなどの各粒径単独の結果の平均を取る傾向を示し、これも単位体積中の表面積(比表面積)が酸性化に寄与することを示していると解釈できる。すなわち、掘削ずりの粒径が小さくなるほど比表面積が大きくなるため、単位体積当たりで見た場合、イオン溶出量が多くなる。
掘削ずりの粒径が大きくなるほど比表面積が小さくなるため、単位体積当たりのイオン溶出量が低くなる。つまり、掘削ずりから放出されるイオンの濃度はずりの粒径に依存していることをこの実験結果は示していると解釈できる。
また、この図8と図9の結果から、タンクリーチング試験と酸性化可能性試験(H)の結果は調和的であり、酸性化可能性試験(H)によって中和材の効果を推認できることが示唆される。
(実験例2)
実験例2として、促進スレーキング試験によるスレーキング判定と、スレーキングの有無と酸性化との関係を検証する実験を行った。
過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験(JGS0271-2016)においてpH(H)=2.4~2.6を示した流紋岩質岩を試験サンプルとした。
試験サンプル名を試験ケース(7)と、試験ケース(8)と、する。図10は試験ケース(7)の促進スレーキング試験結果であり、図11は試験ケース(8)の促進スレーキング試験結果である。
まず、2試料に促進スレーキング試験を行った。
試験の結果、2試料とも3回の乾燥・水浸試験を行ってもスレーキング(塊状物質の細粒化現象)区分は0(=スレーキングしない)であった。
また、各回の試験液を測定すると、EC、カルシウムイオン、硫酸イオン濃度は回数を重ねるごとに低下することが確認された。すなわち、スレーキングしない岩質の場合、掘削ずり表面からの溶脱が時間の経過につれて減少することが確認できた。つまり、酸性化掘削ずりがスレーキングしない場合は、スレーキングによって表面積の増加が生じないため、初期粒径の掘削ずり表面からの黄鉄鉱の酸化(酸性水発生)のみが酸性化に影響することをこの実験結果は示している。
(実験例3)
実験例3として、中和材添加量の妥当性を検証する実験を行った。すなわち、中和材を掘削ずりに混合したサンプルに対し、酸性化可能性試験(H)およびタンクリーチング試験を行った。
過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験(JGS0271-2016)において、pH(H)=2.4~2.6を示した流紋岩質岩を供試試料とした。
供試試料の全含有量試験結果、S/Caモル比および酸性化可能性試験の結果を図12に示す。
なお、本試料は実験例2の試験サンプル(7)(8)に供試した掘削ずりと同じサイトの流紋岩質岩の試料であり、硫黄、カルシウム全含有量および酸性化可能性試験(pH(H))の結果は概ね同じ傾向が見られた。
また、供試ずりの粒径組成は、実際の現場で破砕された掘削ずりを用いた粒度試験(JISA1204)によって得られた粒径組成を模擬した。粒度試験による現場破砕ずりの粒径組成率は図3,図4に示したものと同じである。
中和材としては「炭酸カルシウム」を用い、その添加量として図13の7つのケースで実験を行った。(7番目のケースは中和材無しのケースである。)
中和材添加量の設計としては、図12の成分分析の結果から、S/Caモル比としては最も大きい1.28とした。
また、寄与率αの算出においては、図3、図4の粒径組成から0.17と算出した。そして、安全率βをそれぞれ0.5、1、2、3、10、14.5と設定した。
試験ケース(9)-1は、供試ずり150gに対して中和材を0.075g添加したものである。
試験ケース(9)-2は、供試ずり150gに対して中和材を0.15g添加したものである。
試験ケース(9)-3は、供試ずり150gに対して中和材を0.3g添加したものである。
試験ケース(9)-4は、供試ずり200gに対して中和材を0.63g添加したものである。
試験ケース(9)-5は、供試ずり200gに対して中和材を2.0g添加したものである。
試験ケース(9)-6は、供試ずり200gに対して中和材を3.0g添加したものである。
試験ケース(9)-7は、供試ずり200gに対して中和材を添加しないものである。
なお、アルカリ成分の溶出係数γは1に設定した。
上記試験ケース(9)-1から試験ケース(9)-7に酸性化可能性試験を行った結果を図14に示す。
試験ケース(9)-3から試験ケース(9)-6においては、いずれもpH=6~8付近を示し、十分な中和効果がある。
また、タンクリーチング試験との整合性も確認できた。
また、この実験では、試験ケース(9)-2のように安全率βを1とした場合には中和効果が不十分であるものの、試験ケース(9)-3(安全率β=2)や試験ケース(9)-4(安全率β=3)であれば中和効果は十分であることが示されている。
したがって、この実験試料の場合、最適な中和材設計にあたって安全率βは1~3の間にあることが推認できる。(この例でいえば、好適な安全率βは2.0付近にあり、例えば、1.5<β<2.5あたりではないかと推認できる。)
このことにより、単純な化学量論的な計算から求められる中和材の量に対して、実際に最適な中和材設計値はその半分以下であることが示されている。
図15は、試験ケース(9)-4から試験ケース(9)-7についてタンクリーチング試験を行った結果である。
試験ケース(9)-4から試験ケース(9)-7についてpH(HO)、硫酸イオンおよびカルシウムイオンの経時変化を示す。
100日を超える試験の結果、中和材無添加条件(試験ケース(9)-7)ではpH(HO)=4.6付近に収束する傾向が確認された。
これに対し、中和材添加ケース(試験ケース(9)-4から試験ケース(9)-6)では、pH(HO)=8付近に収束し、S/Caモル比、粒径組成による寄与率α、安全率βを考慮した条件において中和効果がある。
以上の結果から、粒度分布に応じた表面積を考慮した中和材添加量の設計により、適切に酸性化を抑制できる可能性が得られた。
また、タンクリーチング試験と酸性化可能性試験(H)の結果は調和的であり、酸性化可能性試験(H)によって中和材の効果を検証できることが確認された。
以上より本発明によれば次の作用効果を奏することが期待できる。
(1)掘削ずりの岩質を考慮し、スレーキングの可能性の有無によって中和材添加量を調整する。このとき、ずり(掘削ずり、破砕ずり)の粒度分布を考慮し、ずりの比表面積を考慮した寄与率αを導入することにより中和材の添加量を適切に調整できる。特に、スレーキングしないずり(掘削ずり、破砕ずり)に対して過剰な中和材の添加を回避し、合理的な設計とすることができる。
(2)従来の方法では実現象再現溶出試験などに数ヶ月から数年単位の期間を要していたが、本発明が提案する方法では、時間がかかる実験工程としても、酸性化可能性試験(ST110)で数日、スレーキング試験(ST130)で数日、検証(ST190)の酸性化可能性試験で数日であるから、従来に比べて短期間で適切な中和材添加量が求められる。
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
説明の便宜上、図1、図2のフローチャートでは酸性化可能性試験→スレーキング試験→粒度試験の順に説明したが、これらはすべて同時並行に行ってもよいし、順番の前後は問わない。
黄鉄鉱の酸化の反応経路について補足しておく。
黄鉄鉱の酸化の反応経路としては上記に挙げた式(下記の(1))からさらにFe(II)がFe(III)に酸化される反応もある。
(1)FeS+7/2O+HO=Fe2++2SO 2-+2H
(2)Fe2++1/4O+H=Fe3++1/2H
(3)Fe3++3HO=Fe(OH)(s)+3H
式(1)のみを考慮すると、黄鉄鉱1mol(硫黄2mol)から水素イオン2molが発生し、炭酸カルシウム1~2mol(カルシウム1~2mol)で中和できるので、S/Caモル比=1~2が等量点となる。
加えて、式(2)、式(3)を考慮すると、黄鉄鉱1mol(硫黄2mol)から水素イオン4molが発生し、炭酸カルシウム2~4mol(カルシウム2~4mol)で中和できるので、S/Caモル比=0.5~1が等量点となる。
この様に、黄鉄鉱の酸化に対する炭酸カルシウムによる中和の等量点は変化するが、上記実施例における中和材添加量の設計では式(1)までの反応で計算するようにしたうえ、安全率(β)による調整(ST170)および中和材を添加した酸性化可能性試験による検証(ST190)によって、中和材添加量の妥当性の確保および適切な検証がなされるようにしている。
上記実施例では、現実的に考慮すべき酸性化に寄与する元素としては、上記式による硫化鉱物由来の硫黄が主であり、したがって、酸性化に寄与する元素(成分)の酸の価数は1であるとした。また、掘削ずりに含まれるアルカリ化に寄与する元素(成分)としてはカルシウム(方解石等のカルシウム系鉱物由来)が主であるとして、液体のアルカリ化に寄与する元素(成分)の塩基価数は1としている。
仮に、もっと厳密に一般化するのであれば、酸性化に寄与する元素(成分)の酸の価数やアルカリ化に寄与する元素(成分)の塩基価数を加味する必要はある。
この場合、モル質量とせずに、例えば、グラム当量(化学当量)、と考えてもよい。

Claims (5)

  1. 掘削ずりに対する中和材の添加量を設計する中和材添加量設計方法であって、
    掘削ずりのサンプルの成分分析を行って、当該掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の全量A(wt%)を求める成分分析工程と、
    掘削ずりを盛土に利用する際の破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行って破砕ずりの粒径分布を求める粒度試験工程と、
    掘削ずりのサンプルに対してスレーキング試験を行うスレーキング試験工程と、
    前記スレーキング試験工程における掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する寄与率設定工程と、
    次の添加量算出式によって中和材の添加量を算出する中和材添加量算出工程と、を備え、
    添加量算出式は、
    X=Mx×(A/Ma)×α×β×(1/Vb)×10
    であり、
    Xは求める中和材の添加量(kg/t)であり、
    Mxは、使用する中和材のモル質量であり、
    Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和であり、
    寄与率αは、
    前記スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、
    破砕ずりがスレーキングしない場合には、前記粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比(Swr/Sws)で求められる0<α<1の範囲の数値であり、
    βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数であり、
    Vbは、中和材の価数である
    ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
  2. 掘削ずりに対する中和材の添加量を設計する中和材添加量設計方法であって、
    掘削ずりのサンプルの成分分析を行って、当該掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の全量A(wt%)と、該掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分の全量B(wt%)と、を求める成分分析工程と、
    掘削ずりを盛土に利用する際の破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行って破砕ずりの粒径分布を求める粒度試験工程と、
    掘削ずりのサンプルに対してスレーキング試験を行うスレーキング試験工程と、
    前記スレーキング試験工程における掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する寄与率設定工程と、
    次の添加量算出式によって中和材の添加量を算出する中和材添加量算出工程と、を備え、
    添加量算出式は、
    X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)}×α×β×(1/Vb)×10
    であり、
    Xは求める中和材の添加量(kg/t)であり、
    Mxは、使用する中和材のモル質量であり、
    Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和であり、
    Mbは、掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分の化学当量の和であり、
    寄与率αは、
    前記スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、
    破砕ずりがスレーキングしない場合には、前記粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比(Swr/Sws)で求められる0<α<1の範囲の数値であり、
    βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数であり、
    Vbは、中和材の価数である
    ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
  3. 請求項2に記載の中和材添加量設計方法において、
    さらに、
    該掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分を含む物質の溶出係数γを設定し、
    このとき、
    添加量算出式を、
    X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)×γ}×α×β×(1/Vb)×10
    とする
    ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
    アルカリ溶出係数γは、0≦γ≦1である。
  4. 請求項3に記載の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法において、
    試験液として過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験工程を掘削ずりのサンプルに対して行い、
    得られた溶液中のアルカリ成分のイオン濃度を測定し、
    前記アルカリ成分のイオン濃度の測定値に基づいて前記溶出係数γを設定する
    ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
  5. 請求項1から請求項4のいずれかに記載の中和材添加量設計方法において、
    試験液として過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験工程と、
    試験液として過酸化水素水を用いた中和材添加量の検証工程と、
    の一方または両方を行う
    ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
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