JP7175356B1 - 掘削ずりに対する中和材添加量設計方法 - Google Patents
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Abstract
Description
なお、仮に、酸性水対策として中和材を添加するとしても、必要な中和材の量をどのように見積もるべきかという具体的な設計方法はいずれの文献にも示されておらず、「専門家の総合評価の結果に基づき対策工を選択」という程度のことしか示されていない。
また、従来は、着工前に数ヶ月~数年単位の長期試験である『実現象再現実験』などを実施してその結果から対策を講じるとしているが、現実的ケースとして、施工直前や施工中に酸性滲出水の懸念が生じた場合などは検討期間に制約が生じてしまう課題があった。
また、本発明の第2の目的は、掘削ずりに対する中和材添加量を短期間で求め、かつ、短期間で検証できる方法を提案することにある。
掘削ずりに対する中和材の添加量を設計する中和材添加量設計方法であって、
掘削ずりのサンプルの成分分析を行って、当該掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の全量A(wt%)を求める成分分析工程と、
掘削ずりを盛土に利用する際の破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行って破砕ずりの粒径分布を求める粒度試験工程と、
掘削ずりのサンプルに対してスレーキング試験を行うスレーキング試験工程と、
前記スレーキング試験工程における掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する寄与率設定工程と、
次の添加量算出式によって中和材の添加量を算出する中和材添加量算出工程と、を備え、
添加量算出式は、
X=Mx×(A/Ma)×α×β×(1/Vb)×10
であり、
Xは求める中和材の添加量(kg/t)であり、
Mxは、使用する中和材のモル質量であり、
Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和であり、
寄与率αは、
前記スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、
破砕ずりがスレーキングしない場合には、前記粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比(Swr/Sws)で求められる0<α<1の範囲の数値であり、
βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数であり、
Vbは、中和材の価数である
ことを特徴とする。
掘削ずりに対する中和材の添加量を設計する中和材添加量設計方法であって、
掘削ずりのサンプルの成分分析を行って、当該掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の全量A(wt%)と、該掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分の全量B(wt%)と、を求める成分分析工程と、
掘削ずりを盛土に利用する際の破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行って破砕ずりの粒径分布を求める粒度試験工程と、
掘削ずりのサンプルに対してスレーキング試験を行うスレーキング試験工程と、
前記スレーキング試験工程における掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する寄与率設定工程と、
次の添加量算出式によって中和材の添加量を算出する中和材添加量算出工程と、を備え、
添加量算出式は、
X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)}×α×β×(1/Vb)×10
であり、
Xは求める中和材の添加量(kg/t)であり、
Mxは、使用する中和材のモル質量であり、
Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和であり、
Mbは、掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分の化学当量の和であり、
寄与率αは、
前記スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、
破砕ずりがスレーキングしない場合には、前記粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比(Swr/Sws)で求められる0<α<1の範囲の数値であり、
βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数であり、
Vbは、中和材の価数である
ことを特徴とする。
請求項2に記載の中和材添加量設計方法において、
さらに、
該掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分を含む物質の溶出係数γを設定し、
このとき、
添加量算出式を、
X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)×γ}×α×β×(1/Vb)×10
とする
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
アルカリ溶出係数γは、0≦γ≦1である。
請求項3に記載の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法において、
試験液として過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験工程を掘削ずりのサンプルに対して行い、
得られた溶液中のアルカリ成分のイオン濃度を測定し、
前記アルカリ成分のイオン濃度の測定値に基づいて前記溶出係数γを設定する
ことを特徴とする。
請求項1から請求項4のいずれかに記載の中和材添加量設計方法において、
試験液として過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験工程と、
試験液として過酸化水素水を用いた中和材添加量の検証工程と、の一方または両方を行う
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
図1、図2は、本発明の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法の全体手順を示すフローチャートである。
中和材添加量設計方法の各工程を順に説明していく。
まずは、工事で生じる掘削ずりのサンプルを用い、掘削ずりの滲出水が強い酸性を示すものなのかどうかを検証する。
この酸性化可能性試験(ST110)で滲出水が酸性でないならば中和材を添加しなくてもそのまま盛土等として利用すればよい。
酸性化可能性試験(ST110)は、例えば、「過酸化水素水による土及び岩石の酸性化可能性試験方法」(地盤工学会JGS0271‐2016)に規定されている方法でよい。
掘削ずりのサンプルのなかから粒径φが2mm以下のものを分別し、これを過酸化水素水(例えば、固液比1:10。30%H2O2)に浸す。(そして、反応がほぼ収束するまで静置する。だいたい、1日~7日程度。)例えば、黄鉄鉱(FeS2)のような硫黄(酸性化に寄与する元素)の塩を多く含むような掘削ずりの場合、硫化物イオンが溶出してくるため、試験液(過酸化水素水)のpHが低くなる。試験液(過酸化水素水)のpHが3.5以下になるような場合には、酸性化可能性がある(ST111:YES)と判断する。
次に、滲出水が酸性を示す可能性がある掘削ずりに対して、その成分分析を行う。すなわち、掘削ずりに含まれる酸性化に寄与する元素(原子)およびアルカリ化に寄与する元素(原子)について、何がどれだけ含まれているかを特定する。例えば、掘削ずりのサンプルに対して蛍光X線分析を行う。
酸性化に寄与する元素としては、代表的なのは、例えば、硫黄(S)である。(この他、例えば、窒素(N)も考慮してもよい。)
アルカリ化に寄与する元素としては、代表的なのは、カルシウム(Ca)である。(この他、例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウムも考慮してもよい。)
後の計算に使用するため、酸性化に寄与する元素の量をA(wt%)とし、アルカリ化に寄与する元素の量をB(wt/%)とする。
続いて、掘削ずりに対してスレーキング試験を行う。
スレーキング試験(ST130)としては、例えば、「促進スレーキング試験」(地盤工学会JGS2125‐2009)に規定されている方法でよい。
掘削ずりのサンプルに対して強制的に乾燥と水浸を繰り返し(例えば3回)粒子の形状の変化を評価(スレーキング区分0-4)する。
これは、掘削ずりを盛土等に利用した場合にスレーキングによって掘削ずり塊が細粒化し、大きな粒径ずりの表面以外からも鉱物成分が溶出する可能性を評価するために行うものである。そして、スレーキング区分の把握とともに、試験液(固液比=1:5とする)のpH、EC、ORP、カルシウムイオン、硫酸イオンを測定することにより、掘削ずりからの成分溶出挙動を把握する。
スレーキング試験(ST130)において、掘削ずりがスレーキングしないと判定された場合には粒度試験を行う(ST140)。
掘削ずりを盛土等に利用する際には、大粒径の掘削ずりは破砕等の処置をしてから盛土に使用するのであるから、盛土に利用される予定の破砕ずりのサンプルを用意し、この破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行う。
粒度試験自体は既知の方法でよく、ふるい分析によって行ってもよい。
いま、一例として、破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行った結果を図3に例示する。
このサンプルをTサイト破砕ずりと称することにする。
図4は、図3の粒度分布をグラフに表したものである。
次に、掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する。
この寄与率αは、中和材の添加量の見積もりにあたって本発明が新規に提案するパラメータである。
スレーキングが生じない岩質の掘削ずりの場合、大きな粒径のずりのように比表面積が小さいずりからは酸性化物質の溶出量がそれだけ少なくなると考えられ、すなわち、その体積に比べて酸性化の寄与率が小さいのであるから、破砕ずりの粒度分布を反映して中和材の量を調整する(減らす)ことが必要である。掘削ずりがスレーキングしない場合、その破砕ずりに対して次のように寄与率αを設定する。
ここでは、前述の酸性化可能性試験が2mm以下で行われるため、すべての破砕ずりが均一な直径2mmになると仮定して、細粒化時の比表面積Swsとする。
いま、破砕ずり(掘削ずり)を粉体と考えると、細粒化を仮定したときの比表面積Sws(m2/kg)は次のように与えられる。
ρは密度、N(φ2)は径が2mmの粒子の数、Dは粒子の直径(ここでは2mm)である。
図5は、この算出過程がわかりやすいように計算途中の数値を表にしたものである。
先ほどのTサイト破砕ずりの場合に(ρ=2500kg/m3)、図3の粒度分布を考慮にいれて比表面積Swrを算出すると、0.205(m2/kg)と求められる。
図6、図7は、この算出過程がわかりやすいように計算途中の数値を表にしたものである。
図6は、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分中の最大径とした場合の例である。
図7は、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分の平均粒径とした場合の例である。
図6の計算例では、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって粒径の代表値を各区分中の最大径としていることのバランスから考えて、細粒化を仮定した場合の径として2mmとした。つまり、最小の目開きの篩いを通過したもの(2mm以下)が最小クラスということになり、このクラスの径の代表値としては2mmとするのが整合的と考えるからである。一般化していうと、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分中の最大径とするならば、細粒化を仮定するときの径は最小クラスの最大径であると仮定する(一番小さい篩いの目開きと言い換えてもよいだろう。)
図7の計算例では、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって粒径の代表値を各区分中の平均径としていることのバランスから考えて、細粒化を仮定した場合の径として1mmとした。つまり、本実施例における最小区分クラスの目開きの篩いを通過したもの(2mm以下)が最小クラスということになり、このクラスの径の代表値としては単純に平均と考えて1mmとするのが整合的と考えるからである。一般化していうと、粒径区分ごとの比表面積Swrを算出するにあたって、粒径の代表値を各区分中の平均径とするならば、細粒化を仮定するときの径は(実施例における)最小クラスの平均径であると仮定する(一番小さい篩いの目開きRの半分と言い換えてもよいだろう。)。
したがって、この場合、寄与率αは1とする。
掘削ずり自体に含有されるアルカリ成分の貢献分を考慮する係数としてアルカリ溶出係数γを設定する。すなわち、掘削ずりに含まれるアルカリ物質の全量が中和に寄与するとは限らないのであり、掘削ずり自体に含有されるアルカリ成分の寄与度を減じる係数として、アルカリ溶出係数γを設定する。
極端に安全サイドに考えると、掘削ずりからはアルカリ物質が溶出しない(あるいは解離度が小さい)と考え、掘削ずりのアルカリ成分の溶出係数γを0に設定することが考えられる。逆に、掘削ずりからは酸性化物質もアルカリ化物質も同程度に溶出すると考え、この場合は、掘削ずり自体に含有されるアルカリ成分の寄与度は最大となり、アルカリ成分の溶出係数γを1に設定する。
中和材の添加量は、ずりに含まれる元素(酸性化に寄与する元素/アルカリ化に寄与する元素)の量と、前記寄与率αと、から計算されるのであるが、実際の工事現場では破砕ずりと中和材とが均一に混ざらない部分がある程度生じることを想定し、安全係数(β)を見込んでおく。安全係数βは、1以上であり、1.1~1.2とする場合や、2倍、3倍、などとするが、これは実際の工事の施工方針等を勘案して各現場で決定される余地を残すものである。
ここまでに求めたデータを用い、化学量論的な計算に基づき、中和材添加量X(kg/t)は次のように求められる。
Aは、酸性化に寄与する元素の全量A(wt%)である。
Bは、アルカリ化に寄与する元素の全量B(wt%)である。
Mxは、使用する中和材のモル質量である。
Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する元素のモル質量の和である。
Mbは、掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する元素のモル質量の和である。
Vbは、中和材の価数である。
このずりに対して中和材として炭酸カルシウムを用いるとする。
CaCO3+H+=Ca2++HCO3 -
HCO3 -+H+=H2CO3
(これを一般化していうならば、酸性化に寄与する成分(ここでは硫黄)の実験式、組成式、経験式、分子式などと称し、さらには、そのモル質量Maではなく、グラム当量(化学当量)と考えてもよい。)
アルカリ化に寄与する元素はカルシウムで、そのモル質量Mbは40.08である。ただし、成分分析の都合上、カルシウムCaは生石灰CaO(酸化カルシウム)として検出されるので、アルカリ化に寄与する成分は酸化カルシウムで、そのモル質量Mbは56であるとする。
(これを一般化していうならば、アルカリ化に寄与する成分(ここでは酸化カルシウム)の実験式、組成式、経験式、分子式などと称してもよい。さらには、そのモル質量Mbではなく、グラム当量(化学当量)と考えてもよい。)また、ずりの成分分析の結果、カルシウム(酸化カルシウム)の量が1.20wt%であったとする。
中和材(炭酸カルシウム)のモル質量Mxは100.08である。また、炭酸カルシウムの塩基価数(Vb)は1または2を取り得るが、当明細書の最後に補足するように、ここでは炭酸カルシウムの塩基価数(Vb)は1とする。
ここでは、寄与率α=0.17、安全率β=3とする。また、アルカリ溶出係数γを1とする。
検証工程ST190としては、上記のように求められた中和材の添加量が適正であるかどうかを検証する。これは、中和材を添加した上で、前記酸性化可能性試験(ST110)と同じことをしてみて、過酸化水素水のpHが3.5を超える値になっているかどうかを検証する。破砕ずりのサンプルに対して設計量の中和材を加えて、過酸化水素水による酸性化可能性試験を行う。過酸化水素水のpHが3.5を超えるかどうかを検証する。
なお、スレーキングする岩質であるならば、粒径2mm以下のものを分級した上で、酸性化可能性試験を行って検証する。その他、参考として、分級のレベルを変えたサンプルについても過酸化水素水のpHの変化をみて、安全率βの設定を調整するとよい。
実験例1として、掘削ずりの粒径が滲出水の酸性化に影響しているかどうかを検証する実験を行った。過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験(JGS0271-2016)においてpH(H2O2)=2.4~2.6を示した流紋岩質岩を試験サンプルとした。この試験サンプルに対して、タンクリーチング試験(固液比=1:10)を実施した。タンクリーチング試験におけるずり粒径条件(試験ケース)は以下の通りである。
試験ケース(1):ずり粒径φ2mm(φ2mm以下)
試験ケース(2):ずり粒径φ10mm(φ10mm以下)
試験ケース(3):ずり粒径φ40mm(φ40mm以下)
試験ケース(4):ずり粒径φ100mm(φ100mm以下)
試験ケース(5):ずり粒径φ2mm~40mm(φ2mm、φ10mm、φ40mmの各区分を均等重量混合)
試験ケース(6):ずり粒径φ2mm~100mm(φ2mm、φ10mm、φ40mm、φ100mmの各区分を均等重量混合)
ここでは600日間経過を測定した。
その試験結果を図9に示す。
掘削ずりの粒径が大きくなるほど比表面積が小さくなるため、単位体積当たりのイオン溶出量が低くなる。つまり、掘削ずりから放出されるイオンの濃度はずりの粒径に依存していることをこの実験結果は示していると解釈できる。
実験例2として、促進スレーキング試験によるスレーキング判定と、スレーキングの有無と酸性化との関係を検証する実験を行った。
過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験(JGS0271-2016)においてpH(H2O2)=2.4~2.6を示した流紋岩質岩を試験サンプルとした。
試験サンプル名を試験ケース(7)と、試験ケース(8)と、する。図10は試験ケース(7)の促進スレーキング試験結果であり、図11は試験ケース(8)の促進スレーキング試験結果である。
試験の結果、2試料とも3回の乾燥・水浸試験を行ってもスレーキング(塊状物質の細粒化現象)区分は0(=スレーキングしない)であった。
また、各回の試験液を測定すると、EC、カルシウムイオン、硫酸イオン濃度は回数を重ねるごとに低下することが確認された。すなわち、スレーキングしない岩質の場合、掘削ずり表面からの溶脱が時間の経過につれて減少することが確認できた。つまり、酸性化掘削ずりがスレーキングしない場合は、スレーキングによって表面積の増加が生じないため、初期粒径の掘削ずり表面からの黄鉄鉱の酸化(酸性水発生)のみが酸性化に影響することをこの実験結果は示している。
実験例3として、中和材添加量の妥当性を検証する実験を行った。すなわち、中和材を掘削ずりに混合したサンプルに対し、酸性化可能性試験(H2O2)およびタンクリーチング試験を行った。
供試試料の全含有量試験結果、S/Caモル比および酸性化可能性試験の結果を図12に示す。
なお、本試料は実験例2の試験サンプル(7)(8)に供試した掘削ずりと同じサイトの流紋岩質岩の試料であり、硫黄、カルシウム全含有量および酸性化可能性試験(pH(H2O2))の結果は概ね同じ傾向が見られた。
中和材添加量の設計としては、図12の成分分析の結果から、S/Caモル比としては最も大きい1.28とした。
また、寄与率αの算出においては、図3、図4の粒径組成から0.17と算出した。そして、安全率βをそれぞれ0.5、1、2、3、10、14.5と設定した。
試験ケース(9)-1は、供試ずり150gに対して中和材を0.075g添加したものである。
試験ケース(9)-2は、供試ずり150gに対して中和材を0.15g添加したものである。
試験ケース(9)-3は、供試ずり150gに対して中和材を0.3g添加したものである。
試験ケース(9)-4は、供試ずり200gに対して中和材を0.63g添加したものである。
試験ケース(9)-5は、供試ずり200gに対して中和材を2.0g添加したものである。
試験ケース(9)-6は、供試ずり200gに対して中和材を3.0g添加したものである。
試験ケース(9)-7は、供試ずり200gに対して中和材を添加しないものである。
試験ケース(9)-3から試験ケース(9)-6においては、いずれもpH=6~8付近を示し、十分な中和効果がある。
また、タンクリーチング試験との整合性も確認できた。
また、この実験では、試験ケース(9)-2のように安全率βを1とした場合には中和効果が不十分であるものの、試験ケース(9)-3(安全率β=2)や試験ケース(9)-4(安全率β=3)であれば中和効果は十分であることが示されている。
したがって、この実験試料の場合、最適な中和材設計にあたって安全率βは1~3の間にあることが推認できる。(この例でいえば、好適な安全率βは2.0付近にあり、例えば、1.5<β<2.5あたりではないかと推認できる。)
このことにより、単純な化学量論的な計算から求められる中和材の量に対して、実際に最適な中和材設計値はその半分以下であることが示されている。
試験ケース(9)-4から試験ケース(9)-7についてpH(H2O)、硫酸イオンおよびカルシウムイオンの経時変化を示す。
100日を超える試験の結果、中和材無添加条件(試験ケース(9)-7)ではpH(H2O)=4.6付近に収束する傾向が確認された。
これに対し、中和材添加ケース(試験ケース(9)-4から試験ケース(9)-6)では、pH(H2O)=8付近に収束し、S/Caモル比、粒径組成による寄与率α、安全率βを考慮した条件において中和効果がある。
また、タンクリーチング試験と酸性化可能性試験(H2O2)の結果は調和的であり、酸性化可能性試験(H2O2)によって中和材の効果を検証できることが確認された。
(1)掘削ずりの岩質を考慮し、スレーキングの可能性の有無によって中和材添加量を調整する。このとき、ずり(掘削ずり、破砕ずり)の粒度分布を考慮し、ずりの比表面積を考慮した寄与率αを導入することにより中和材の添加量を適切に調整できる。特に、スレーキングしないずり(掘削ずり、破砕ずり)に対して過剰な中和材の添加を回避し、合理的な設計とすることができる。
説明の便宜上、図1、図2のフローチャートでは酸性化可能性試験→スレーキング試験→粒度試験の順に説明したが、これらはすべて同時並行に行ってもよいし、順番の前後は問わない。
黄鉄鉱の酸化の反応経路としては上記に挙げた式(下記の(1))からさらにFe(II)がFe(III)に酸化される反応もある。
(1)FeS2+7/2O2+H2O=Fe2++2SO4 2-+2H+
(2)Fe2++1/4O2+H+=Fe3++1/2H2O
(3)Fe3++3H2O=Fe(OH)3(s)+3H+
式(1)のみを考慮すると、黄鉄鉱1mol(硫黄2mol)から水素イオン2molが発生し、炭酸カルシウム1~2mol(カルシウム1~2mol)で中和できるので、S/Caモル比=1~2が等量点となる。
加えて、式(2)、式(3)を考慮すると、黄鉄鉱1mol(硫黄2mol)から水素イオン4molが発生し、炭酸カルシウム2~4mol(カルシウム2~4mol)で中和できるので、S/Caモル比=0.5~1が等量点となる。
この様に、黄鉄鉱の酸化に対する炭酸カルシウムによる中和の等量点は変化するが、上記実施例における中和材添加量の設計では式(1)までの反応で計算するようにしたうえ、安全率(β)による調整(ST170)および中和材を添加した酸性化可能性試験による検証(ST190)によって、中和材添加量の妥当性の確保および適切な検証がなされるようにしている。
仮に、もっと厳密に一般化するのであれば、酸性化に寄与する元素(成分)の酸の価数やアルカリ化に寄与する元素(成分)の塩基価数を加味する必要はある。
この場合、モル質量とせずに、例えば、グラム当量(化学当量)、と考えてもよい。
Claims (5)
- 掘削ずりに対する中和材の添加量を設計する中和材添加量設計方法であって、
掘削ずりのサンプルの成分分析を行って、当該掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の全量A(wt%)を求める成分分析工程と、
掘削ずりを盛土に利用する際の破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行って破砕ずりの粒径分布を求める粒度試験工程と、
掘削ずりのサンプルに対してスレーキング試験を行うスレーキング試験工程と、
前記スレーキング試験工程における掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する寄与率設定工程と、
次の添加量算出式によって中和材の添加量を算出する中和材添加量算出工程と、を備え、
添加量算出式は、
X=Mx×(A/Ma)×α×β×(1/Vb)×10
であり、
Xは求める中和材の添加量(kg/t)であり、
Mxは、使用する中和材のモル質量であり、
Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和であり、
寄与率αは、
前記スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、
破砕ずりがスレーキングしない場合には、前記粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比(Swr/Sws)で求められる0<α<1の範囲の数値であり、
βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数であり、
Vbは、中和材の価数である
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。 - 掘削ずりに対する中和材の添加量を設計する中和材添加量設計方法であって、
掘削ずりのサンプルの成分分析を行って、当該掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の全量A(wt%)と、該掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分の全量B(wt%)と、を求める成分分析工程と、
掘削ずりを盛土に利用する際の破砕ずりのサンプルに対して粒度試験を行って破砕ずりの粒径分布を求める粒度試験工程と、
掘削ずりのサンプルに対してスレーキング試験を行うスレーキング試験工程と、
前記スレーキング試験工程における掘削ずりのスレーキングに応じた寄与率αを設定する寄与率設定工程と、
次の添加量算出式によって中和材の添加量を算出する中和材添加量算出工程と、を備え、
添加量算出式は、
X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)}×α×β×(1/Vb)×10
であり、
Xは求める中和材の添加量(kg/t)であり、
Mxは、使用する中和材のモル質量であり、
Maは、掘削ずりから溶出する液体の酸性化に寄与する成分の化学当量の和であり、
Mbは、掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分の化学当量の和であり、
寄与率αは、
前記スレーキング試験工程において破砕ずりがスレーキングすると判定される場合にはα=1に設定され、
破砕ずりがスレーキングしない場合には、前記粒度試験工程で求められた粒径分布に基づく比表面積Swrと、スレーキングを仮定した細粒化時の比表面積Swsと、の比(Swr/Sws)で求められる0<α<1の範囲の数値であり、
βは、安全率を見込んで設定される任意の安全係数であり、
Vbは、中和材の価数である
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。 - 請求項2に記載の中和材添加量設計方法において、
さらに、
該掘削ずりから溶出する液体のアルカリ化に寄与する成分を含む物質の溶出係数γを設定し、
このとき、
添加量算出式を、
X=Mx{(A/Ma)-(B/Mb)×γ}×α×β×(1/Vb)×10
とする
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
アルカリ溶出係数γは、0≦γ≦1である。 - 請求項3に記載の掘削ずりに対する中和材添加量設計方法において、
試験液として過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験工程を掘削ずりのサンプルに対して行い、
得られた溶液中のアルカリ成分のイオン濃度を測定し、
前記アルカリ成分のイオン濃度の測定値に基づいて前記溶出係数γを設定する
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。 - 請求項1から請求項4のいずれかに記載の中和材添加量設計方法において、
試験液として過酸化水素水を用いた酸性化可能性試験工程と、
試験液として過酸化水素水を用いた中和材添加量の検証工程と、
の一方または両方を行う
ことを特徴とする掘削ずりに対する中和材添加量設計方法。
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城まゆみ ほか: "石灰石粉末懸濁水を利用した黄鉄鉱含有掘削ずりに起因する硫酸酸性水の発生抑制方法", 大成建設技術センター報, vol. 41, no. 53, JPN6022027368, 2008, pages 1 - 7, ISSN: 0004822165 * |
横濱充宏 ほか,難風化酸性硫酸塩土壌の判別法確立に向けた検討,寒地土木研究所月報,2020年05月,No.805,pp.43-47 |
横濱充宏 ほか: "難風化酸性硫酸塩土壌の判別法確立に向けた検討", 寒地土木研究所月報, JPN6022027369, May 2020 (2020-05-01), pages 43 - 47, ISSN: 0004822164 * |
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