本発明は、いくつかの実施形態において、細胞外マトリックスリモデリングをダウンレギュレートする薬剤を用いた、病原体に感染した対象における、二次感染の予防方法に関する。
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明するのに先立ち、本発明は、その適用において、以下の説明における詳細または実施例による例示に、必ずしも限定されるものではないことを理解すべきである。本発明は、その他の実施形態が可能であり、種々の様式で実施または実行することが可能である。
感染症の処置は、従来、抗微生物薬の投与、またはワクチン接種を用いた宿主免疫応答の刺激、のいずれかによる病原体の除去に焦点が当てられてきた。本発明者らは、インフルエンザマウスモデルの網羅的ゲノミクスおよびプロテオミクス分析を実施し、感染過程の間の調節不全なECMリモデリングイベントに重要な細胞外マトリックス(ECM)関連遺伝子およびタンパク質が、思いもよらず過多状態であることを明らかにした(図1A~D、および図6A~D)。MT1-MMPが、感染マウス肺の肺胞および気管支のECMスキャフォールドの破壊を導く主要なコラゲナーゼであった。インタクトな肺の電子顕微鏡観察、網羅的質量分析、2光子顕微鏡法と免疫染色、および組織ザイモグラフィによって、基底膜の構成要素の多面的な破壊が明らかとなった(図3A~I、および図9A~D)。この前例のない肺の損傷は、血液空気関門の喪失に寄与し、肺から内臓への漏出による全身への二次的細菌感染の拡散を引き起こし、敗血症および死をもたらす。これらの破壊性表現型と、結果として生じる致死的な結果は、MT1-MMPの活性をブロックすることによって反転し(図4A~K)、よって組織の維持による治療的介入の新たなモデルを提供する。図5A~Hに示すように、抗ウイルス処置とECM保護との併用により、生存が維持され、全身的な細菌性敗血症が予防される。
本発明者らは、不適当な宿主応答と付随的な組織損傷を緩和しながら、組織形態と恒常性を維持するように設計された、感染のための、この新たな処置の機会を提案する。
よって、本発明の第1の態様によれば、病原体に感染した対象の処置方法であって、病原体に対する治療有効量の抗病原体剤と、少なくとも1つの細胞外マトリックス関連ポリペプチドをダウンレギュレートする治療有効量の薬剤(下記)とを対象に投与し、それによって、対象を処置することを含む、処置方法が提供される。
本明細書で用いられる場合、用語「方法(method)」は、所定の仕事をを遂行するためのやり方、手段、技法、および手順を指し、例えば知られているやり方、手段、技法、および手順、または知られているやり方、手段、技法、および手順から、化学、薬理学、生物学、生化学、および医学分野の実務家によって、容易に開発できるやり方、手段、技法、および手順のいずれかが挙げられるが、これらに限定されない。
本明細書で用いられる場合、用語「処置する(treating)」には、ある状態の進行を阻止する、実質的に阻害する、遅らせる、もしくは反転させること、またはある状態の臨床的もしくは審美的な症状を実質的に改善すること、またはある状態の臨床的もしくは審美的な症状の出現を実質的に予防することが含まれる。
本明細書で用いられる場合、用語「対象」は、哺乳動物の対象、例えばヒト対象を指す。
処置を受ける対象は、感染の原因となる病原体を保持する。
本明細書で用いられる場合、用語「病原体」は、疾患(例えば、呼吸器疾患)の原因となる、ウイルス、バクテリア、プリオン、または真菌などの微生物(microbe)または微生物(microorganism)を指す。
特定の実施形態によれば、病原体は、ヒト病原体である。
典型的な病原性ウイルスは以下の科、すなわちアデノウイルス科、ピコルナウイルス科、ヘルペスウイルス科、ヘパドナウイルス科、フラビウイルス科、レトロウイルス科、オルトミクソウイルス科、パラミクソウイルス科、パポーバウイルス科、ポリオーマウイルス、ラブドウイルス科、トガウイルス科に属するものであり得る。本発明で意図する特定の病原性ウイルスは、天然痘、インフルエンザ、流行性耳下腺炎、麻疹、水疱、エボラ、または風疹の原因となるウイルスである。
特定の実施形態によれば、ウイルスは、呼吸器感染(例えば、上気道感染および/または下気道感染)を引き起こすウイルスである。
よって、特定の実施形態によれば、病原性ウイルスは、インフルエンザウイルス(例えば、インフルエンザウイルスA-(例えば、H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3、H10N7、およびH7N9)、インフルエンザウイルスB、またはインフルエンザウイルスC)である。
別の実施形態において、病原性ウイルスは、ヒトパラインフルエンザウイルス1型(hPIV-1)(喉頭炎の原因となる);ヒトパラインフルエンザウイルス2型(hPIV-2)(喉頭炎およびその他の上下気道疾患の原因となる)、ヒトパラインフルエンザウイルス3型(hPIV-3)(細気管支炎および肺炎に関係する)、およびヒトパラインフルエンザウイルス4型(hPIV-4)を含む、パラインフルエンザウイルス(hPIV)である。
さらに別の実施形態において、病原性ウイルスは、RSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)(RSV)である。
典型的な病原性細菌には、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(結核の原因となる)、レンサ球菌(Streptococcus)およびシュードモナス(肺炎の原因となる)、ならびに赤痢菌(Shigella)、カンピロバクター、およびサルモネラ(食物性疾患の原因となる)が含まれる。 本発明で意図する、その他の例示的な病原性細菌は、破傷風、腸チフス、ジフテリア、梅毒、およびハンセン病などの感染症の原因となる細菌である。
一実施形態によれば、病原体は、対象の急性感染の原因となる。
別の実施形態によれば、病原体は、対象の慢性感染の原因となる。
用語「抗病原体剤」は、抗微生物剤を指し、抗病原体剤には抗ウイルス剤、抗菌剤、抗ウイルス剤、抗プリオン剤が含まれるが、これらに限定されない。
1.抗ウイルス剤
本発明の態様による併用療法で用いることができる抗ウイルス剤としては、アマンタジン、リマンタジン、およびプレコナリルなどのCRX4レセプター阻害剤およびCCR5レセプター阻害剤が挙げられる。本発明のこの態様の併用療法で用いることができるさらなる抗ウイルス剤としては、ウイルスが細胞に侵入した後のウイルス成分を合成するウイルスのプロセスを妨げる薬剤が挙げられる。典型的な薬剤としては、RNAまたはDNAの構成要素に類似するが、RNAまたはDNAに組み込まれるとRNAまたはDNAの合成酵素を不活性化する、ヌクレオチドアナログおよびヌクレオシドアナログが挙げられる。アシクロビルはヌクレオシドアナログであり、ヘルペスウイルス感染に対して有効である。ジドブジン(AZT)、3TC、FTC、およびその他のヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、ならびに非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)もまた使用できる。インテグラーゼ阻害剤もまた使用できる。その他の抗ウイルス剤としては、(ウイルスRNAまたはDNAの選択した部位に向けられた)アンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムが挙げられる。
HIVなどのいくつかのウイルスはプロテアーゼ酵素を含み、そのプロテアーゼ酵素がウイルスのタンパク質鎖を切り離し、それによってウイルスは最終的な形態に組み立てられることができる。プロテアーゼ阻害剤は、本明細書に記載された併用療法に使用し得る、別のタイプの抗ウイルス剤である。
ウイルスのライフサイクルにおける最終段階は、宿主細胞からの、完成したウイルスの放出である。ザナミビル(リレンザ)およびオセルタミビル(タミフル)などのいくつかの活性薬剤は、インフルエンザウイルスの表面に存在するノイラミニダーゼと呼ばれる分子をブロックすることによって、ウイルス粒子の放出を妨げることによって、インフルエンザを処置する。
さらなるその他の抗ウイルス剤は、患者の免疫系を刺激することによって機能する。インターフェロンは、ペグ化インターフェロンを含めて、このような種類の典型的な化合物である。例えば、インターフェロンαは、B型肝炎およびC型肝炎の処置に用いられる。種々の抗体は、モノクローナル抗体を含めて、ウイルスを標的とするために用いることができる。
抗菌剤
本発明の態様による併用療法に使用することができる抗菌剤は、殺菌性であってもよく、静菌性であってもよい。
一実施形態において、抗菌剤は、抗生剤である。
本明細書で用いられる場合、用語「抗生物質」は、細菌の増殖を阻害する能力、または細菌を破壊する能力を有する、天然源から単離された化学物質、または天然源から単離された抗生物質に由来する化学物質の集まりを指す。抗生物質の例としては、アミカシン;アモキシシリン;アンピシリン;アジスロマイシン;アズロシリン;アズトレオナム;アズトレオナム;カルベニシリン;セファクロール;セフェピム;セフェタメト;セフィネタゾール(Cefinetazole);セフィキシム;セフォニシド;セフォペラゾン;セフォタキシム;セフォテタン;セフォキシチン;セフポドキシム;セフプロジル;セフスロジン;セフタジジム;セフチゾキシム;セフトリアキソン;セフロキシム;セファレキシン;セファロチン;セスロマイシン;クロラムフェニコール;シノキサシン;シプロフロキサシン;クラリスロマイシン;クリンダマイシン;クロキサシリン;コアモキシクラブアネート(Co-amoxiclavuanate);ダルババンシン;ダプトマイシン;ジクロキサシリン;ドキシサイクリン;エノキサシン;エリスロマイシンエストレート;エチルコハク酸エリスロマイシン;グルコヘプトン酸エリスロマイシン;ラクトビオン酸エリスロマイシン;ステアリン酸エリスロマイシン;エリスロマイシン;フィダキソマイシン;フレロキサシン;ゲンタマイシン;イミペネム;カナマイシン;ロメフロキサシン;ロラカルベフ;メチシリン;メトロニダゾール;メズロシリン;ミノサイクリン;ムピロシン;ナフシリン;ナリジクス酸;ネチルマイシン;ニトロフラントイン;ノルフロキサシン;オフロキサシン;オキサシリン;ペニシリンG;ピペラシリン;レタパムリン;リファキシミン(Rifaxamin)、リファンピシン;ロキシスロマイシン;ストレプトマイシン;スルファメトキサゾール;テイコプラニン;テトラサイクリン;チカルシリン;チゲサイクリン;トブラマイシン;トリメトプリム;バンコマイシン;ピペラシリンとタゾバクタムとの組合せ;ならびにそれらの種々の塩、酸、塩基、およびその他の誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。抗細菌抗生物質としては、アミノグリコシド系、カルバセフェム系、カルバペネム系、セファロスポリン系、セファマイシン系、フルオロキノロン系、糖ペプチド、リンコサミド系、マクロライド系、モノバクタム系、ペニシリン系、キノロン系、スルホンアミド系、およびテトラサイクリン系抗細菌抗生物質が挙げられるが、これらに限定されない。
抗菌剤としては、抗菌性ペプチドも挙げられる。例えば、アバエシン(abaecin);アンドロピン(andropin);アピデシン系;ボンビニン;ブレビニン類(brevinins);ブフォリンII;CAP18;セクロピン類;セラトトキシン(ceratotoxin);ディフェンシン類;ダーマセプチン;ダームシジン;ドロソマイシン(drosomycin);エスクレンチン系(esculentins);インドリシジン;LL37;マガイニン;マキシマムH5(maximum H5);メリチン;モリシン(moricin);プロフェニン(prophenin);プロテグリン;および/またはタキプレシン系抗菌性ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
抗真菌剤
用語「抗真菌剤」は、胞子発芽もしくは基質接着をブロックすることによって、または真菌またはその胞子の成長および発育に必要ないずれかの代謝プロセスまたはステップを妨げることによって、真菌感染を妨げる薬剤または化学物質を指す。
抗原虫剤
本明細書で用いられる場合、用語「抗原虫」は、広範囲の真核微生物および無脊椎蠕形動物の寄生的な特質またはその他の生活環の特質を妨げる、あらゆる化学物質または薬剤を指す。前記薬剤または化学物質は、タンパク質合成、不可欠な脂質の産生、呼吸過程またはその他の代謝イベントもしくは生育調整ステップをブロックし得る。
本明細書において上記したように、本発明は、(上記の部分で詳述したような)病原体に対する薬剤と、少なくとも1つの細胞外マトリックス関連ポリペプチドをダウンレギュレートする薬剤とを、両方とも投与することを意図する。
用語、1つの細胞外マトリックス関連ポリペプチドは、細胞外マトリックスの形成を減少させるポリペプチド、もしくは細胞外マトリックスの分解を高めるポリペプチド、または細胞外マトリックスに含まれるポリペプチドを指す。
特定の実施形態によれば、細胞外マトリックス関連ポリペプチドは、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、およびラミニンなどの線維状タンパク質である。
別の実施形態によれば、細胞外マトリックス関連ポリペプチドは、マトリックスメタロプロテイナーゼなどのプロテアーゼ、ADAMTS1-17を含むADAMTS(class A Disintegrin And Metalloproteinase with Thrombospondin Motif)に属する酵素、およびリジルオキシダーゼホモログ2(LOXL)などのリジルオキシダーゼファミリーに属する酵素である。
一実施形態において、細胞外マトリックス関連ポリペプチドは、以下の実施例の項目の表2Bに示されるものである。
好ましくは、細胞外マトリックス関連ポリペプチドは、以下の表1に示すものである。各遺伝子の例示的なcDNA配列は、その表中に示されている。
ECM関連ポリペプチドのダウンレギュレーションは、転写および/または翻訳を妨げる種々の分子[例えば、RNAサイレンシング剤(例えば、アンチセンス、siRNA、shRNA、ミクロRNA)、リボザイム、およびDNAザイム]を利用してゲノムおよび/または転写物レベルで、または、例えば、アンタゴニスト、ポリペプチドを切断する酵素などを利用してタンパク質レベルで引き起こされ得る。
ECM関連ポリペプチドの発現レベルおよび/または活性をダウンレギュレートさせ得る薬剤のリストを以下に示す。
ECM関連ポリペプチドであり得る薬剤の1つの例は、ECM関連ポリペプチドに特異的に結合し、その活性をダウンレギュレートすることができる抗体または抗体フラグメントである。
好ましくは、抗体は、1000nm未満のKiで、より好ましくは100nm未満のKiで、さらに好ましくは10nmのKiで、標的ポリペプチドに結合する。
好ましくは、抗体は、ポリペプチドの少なくとも1つのエピトープに特異的に結合する。本明細書で用いられる場合、用語「エピトープ」は、抗体のパラトープが結合する、抗原上のあらゆる抗原決定基を指す。
エピトープ決定要素は、通常、アミノ酸または炭水化物側鎖などの、化学的に活性な表面分子群から構成され、通常、特定の3次元構造的特性、ならびに特定の電荷的特性を有する。
一実施形態によれば、エピトープ決定要素は、ポリペプチドの表面にある。
別の実施形態によれば、ポリペプチドがMT1-MMP1、MMP-9、MMP-8、およびMMP-3などのマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)である場合、抗体は、ハプテン化合物である[2-(2-ミノエチルカルボモイル)-エトキシメチル]-トリス-[2-(N-(3-イミダゾール-1-イル-プロピル))-エトキシメチル]メタン([2-(2-minoethylcarbomoyl)-ethoxymethyl]-tris-[2-(N-(3-imidazol-1-yl-propyl))-ethoxymethyl]methane)に結合する(場合により、前記抗体は、前記ハプテン化合物で免疫することによって作製し得る)。このハプテン分子は、MMP内の反応性亜鉛部位の局所構造およびコンフォメーションを厳密に模倣している(国際公開第2008/102359号パンフレット参照、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)。
一実施形態において、抗体は、活性型の抗体に特異的に結合することができ、プロ酵素型の抗体には結合しない。
好ましくは、抗体は、特定のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)に特異的であり、前記特定のMMPに対して、関連のないMMPと比べて少なくとも5倍高いアフィニティーで結合する。
特定の実施形態によれば、ポリペプチドは、MMP-14としても知られる、MT1-MMP1である。
MMP-14に結合し、ダウンレギュレートする抗体の例としては、例えば、Udi,et al.,Structure 23,1-12,January 6,2015(その内容は、参照により本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されているような、LEM-2/15ハイブリドーマ細胞によって産生される抗体が挙げられる。
別の実施形態によれば、抗体は、MMP-14の表面エピトープを標的とする。よって、例えば、抗体は、MMP-14のV-Bループ(例えば、MMP-14の残基の160-173位、および/または218-233位)に結合し得る。別の実施形態において、抗体は、MMP-14のV-Bループに、コンフォメーション的な旋回運動を起こさせる抗体である。
MMP-14をダウンレギュレートする抗体のVHの例示的なアミノ酸配列を、配列番号54に示す。MMP-14をダウンレギュレートする抗体のVLの例示的なアミノ酸配列を、配列番号55に示す。
さらに別の実施形態において、抗体は、MMP-14のコラゲナーゼ活性をダウンレギュレートするが、プロ-MMP-2の活性化には影響しない抗体である。
MMP-14をダウンレギュレートするさらなる抗体は、さらに、米国特許第8,501,181号明細書、およびDevy,et al.,Biochemistry Research International,Volume 2011,Article ID 191670,11 pages,doi:10.1155/2011/191670に開示されている。
本明細書で用いられる場合、用語「抗体」としては、インタクトな分子ならびにその機能性フラグメント、例えばマクロファージに結合することができるFab、F(ab’)2、およびFv、が挙げられる。これらの機能性抗体フラグメントは、以下のように定義され、すなわち(1)Fab、すなわち抗体分子の1価抗原結合性フラグメントを含み、全抗体を酵素であるパパインで消化し、インタクトな軽鎖と1本の重鎖部分とを生じさせることによって作製することができるフラグメント、(2)Fab’、すなわち全抗体をペプシンで処理し、次いで還元し、インタクトな軽鎖と重鎖部分とを生じさせることによって得ることができる、抗体分子のフラグメント(1抗体分子あたり2つのFab’フラグメントが得られる)、(3)(Fab’)2、すなわち全抗体を酵素であるペプシンで処理するが、その後の還元を行わずに得ることができる、抗体のフラグメント(F(ab’)2は、2つのFab’フラグメントが2つのジスルフィド結合によって結合した二量体である)、(4)Fv、すなわち2本鎖として発現させた、軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含む遺伝子組換えフラグメントと定義されるフラグメント、および(5)一本鎖抗体(「SCA」)、すなわち軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを、適当なポリペプチドリンカーによって結合した遺伝子融合一本鎖分子として含む、遺伝子組換え分子、と定義される。
ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびにそれらのフラグメントの作製方法は、当技術分野で周知である(例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1988(参照により本明細書に組み込まれる)参照)。
本発明のいくつかの実施形態による抗体フラグメントは、抗体のタンパク質分解性加水分解によって、またはフラグメントをコードするDNAを大腸菌(E. coli)もしくは哺乳動物細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞培養物またはその他のタンパク質発現系)で発現させることによって、調製することができる。抗体フラグメントは、通常の方法により、全抗体をペプシン消化またはパパイン消化することによって得ることができる。例えば、抗体フラグメントは、抗体をペプシンで酵素的に切断し、F(ab’)2で表される5Sのフラグメントを生じさせることによって作製することができる。このフラグメントは、チオール還元剤と、場合によりスルフヒドリル基のための保護基とを用いてさらに切断することができ、ジスルフィド結合が切断されて、3.5SのFab’1価フラグメントが生じる。一方、ペプシンを用いた酵素的切断によって、直接的に、2つの1価Fab’フラグメントと、Fcフラグメントとが生じる。これらの方法は、例えば、Goldenbergによる、米国特許第4,036,945号明細書および米国特許第4,331,647号明細書、ならびにこれらの特許に記載されている参考文献に記載されている(これらの特許は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。Porter,R.R.[Biochem.J.73:119-126(1959)]も参照のこと。抗体を切断するその他の方法、例えば重鎖を引き離して1価の軽鎖-重鎖フラグメントを形成する方法、フラグメントをさらに切断する方法、またはその他の酵素学的、化学的、もしくは遺伝学的技法もまた、インタクト抗体によって認識される抗原にフラグメントが結合する限り、使用することができる。
Fvフラグメントは、VH鎖とVL鎖との結合を含む。この結合は、Inbar et al.[Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 69:2659-62(19720]に記載されているように、非共有結合であってもよい。一方、可変鎖は、分子間ジスルフィド結合で結合されていてもよく、グルタルアルデヒドなどの化学物質で架橋されていてもよい。好ましくは、Fvフラグメントは、ペプチドリンカーで連結されたVH鎖とVL鎖とを含む。これらの一本鎖抗原結合タンパク質(sFv)は、オリゴヌクレオチドで連結されたVHドメインとVLドメインとをコードするDNA配列を含む構造遺伝子を作成することによって調製される。構造遺伝子は、発現ベクターに挿入され、発現ベクターは、次に大腸菌(E.coli)などの宿主細胞に導入される。組換え宿主細胞は、2つのVドメインを架橋するリンカーペプチドを含む単一のポリペプチド鎖を合成する。sFvを作製する方法は、例えば、Whitlow and Filpula,Methods 2:97-105(1991);Bird,et al.,Science 242:423-426(1988);Pack,et al.,Bio/Technology 11:1271-77(1993);および米国特許第4,946,778号明細書に記載されている(これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
別な形態の抗体フラグメントは、単一の相補性決定領域(CDR)をコードするペプチドである。CDRペプチド(「最小認識単位」)は、対象とする抗体のCDRをコードする遺伝子を作成することによって得ることができる。このような遺伝子は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、抗体産生細胞のRNAから可変領域を合成することによって調製される。例えば、Larrick and Fry[Methods,2:106-10(1991)]を参照のこと。
ヒト化形態の非ヒト(例えばマウス)抗体は、非ヒト免疫グロブリン由来の最小配列を含む、免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、またはそれらのフラグメント(例えば、Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または抗体のその他の抗原結合性部分配列)のキメラ分子である。ヒト化抗体としては、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)の相補性決定領域(CDR)を形成する残基が、所望の特異性、アフィニティー、およびキャパシティーを持つ、マウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種免疫グロブリン(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置換された、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が挙げられる。いくつかの例において、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基は、対応する非ヒト残基で置換される。ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも存在せず、移入されるCDRまたはフレームワーク配列にも存在しない残基も含んでいてもよい。一般に、ヒト化抗体は、実質的に全ての、少なくとも1つの、典型的には2つの可変ドメインを含み、全てのまたは実質的に全てのCDR領域は非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に相当し、全てのまたは実質的に全てのFR領域はヒト免疫グロブリン共通配列のFR領域であろう。ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部も含むであろう[Jones,et al.,Nature,321:522-525(1986);Riechmann,et al.,Nature,332:323-329(1988);およびPresta,Curr. Op. Struct. Biol.,2:593-596(1992)]。
非ヒト抗体をヒト化する方法は、当技術分野で周知である。一般に、ヒト化抗体は、非ヒト源から導入された、1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、インポート残基と呼ばれることが多く、典型的にはインポート可変ドメインから取られたものである。ヒト化は、基本的に、Winterと共同研究者[Jones,et al.,Nature,321:522-525(1986);Riechmann,et al.,Nature 332:323-327(1988);Verhoeyen,et al.,Science,239:1534-1536(1988)]の方法に従って、ヒト抗体の対応する配列を、げっ歯動物のCDRまたはCDR配列で置換することにより実施することができる。したがって、このようなヒト化抗体はキメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号明細書)、インタクトなヒト可変ドメインよりも大幅に少ない配列が、非ヒト種由来の対応する配列で置換されている。実際に、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基と、場合によりいくつかのFR残基が、げっ歯動物抗体の類似の部位からの残基で置換されたヒト抗体である。
ヒト抗体は、当技術分野で知られている、ファージディスプレイライブラリ[Hoogenboom and Winter,J.Mol.Biol.,227:381(1991);Marks,et al.,J.Mol.Biol.,222:581(1991)]を含む種々の技法を用いて作製することもできる。Coleら、およびBoernerらの技法もまた、ヒトモノクローナル抗体の調製に利用することができる[Cole,et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,p.77(1985)、およびBoerner,et al.,J.Immunol.,147(1):86-95(1991)]。同様に、ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン部位を、トランスジェニック動物、例えば内因性免疫グロブリン遺伝子を部分的または完全に不活化したマウスに導入することによって作成することができる。チャレンジの際、ヒト抗体の産生が観察され、遺伝子再構成、アセンブリー、および抗体レパートリーを含む全ての点において、ヒトで見られるものと酷似している。この手法は、例えば、米国特許第5,545,807号明細書;米国特許第5,545,806号明細書;米国特許第5,569,825号明細書;米国特許第5,625,126号明細書;米国特許第5,633,425号明細書;米国特許第5,661,016号明細書、ならびに以下の科学出版物、すなわちMarks,et al.,Bio/Technology 10,:779-783(1992);Lonberg,et al.,Nature 368:856-859(1994);Morrison,Nature 368 812-13(1994);Fishwild,et al.,Nature Biotechnology 14,845-51(1996);Neuberger,Nature Biotechnology 14:826(1996);およびLonberg and Huszar,Intern.Rev.Immunol.13,65-93(1995)に記載されている。
ECM関連ポリペプチドのダウンレギュレーションは、RNAサイレンシングによって実現することもできる。本明細書で用いられる場合、語句「RNAサイレンシング」は、RNA分子を介し、対応するタンパク質コード遺伝子の発現を阻害または「サイレンシング」する結果をもたらす制御機構のグループ[例えば、RNA干渉(RNAi)、転写型遺伝子サイレンシング(TGS)、転写後遺伝子サイレンシング(PTGS)、クエリング、共抑制、および翻訳抑制]を指す。RNAサイレンシングは、植物、動物、および真菌を含む、多くの種類の生物で観察されている。
本明細書で用いられる場合、用語「RNAサイレンシング剤」は、標的遺伝子の発現を特異的に阻害または「サイレンシング」することができるRNAを指す。ある実施形態において、RNAサイレンシング剤は、転写後サイレンシングメカニズムによって、mRNA分子の完全なプロセシング(例えば、完全な翻訳および/または発現)を妨げることができる。RNAサイレンシング剤としては、非コードRNA分子、例えば、対になった鎖を含むRNA二重鎖、ならびにこのような低分子非コードRNAを生成し得るRNA前駆体が挙げられる。例示的なRNAサイレンシング剤としては、siRNA、miRNA、およびshRNAなどのdsRNAが挙げられる。一実施形態において、RNAサイレンシング剤は、RNA干渉を誘導することができる。別の実施形態において、RNAサイレンシング剤は、翻訳抑制を媒介することができる。
本発明の実施形態によれば、RNAサイレンシング剤は、標的RNA(例えば、MMP-14)に特異的であり、標的遺伝子に対して99%以下の全体的相同性を示す遺伝子またはスプライスバリアントを交差阻害または交差サイレンシングせず、例えば、標的遺伝子に対して98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%未満の全体的相同性を示す遺伝子またはスプライスバリアントを交差阻害または交差サイレンシングしない。
RNA干渉は、動物において、低分子干渉RNA(siRNA、short interfering RNA)によって媒介される、配列特異的な転写後遺伝子サイレンシングプロセスを指す。植物における対応するプロセスは、一般に転写後遺伝子サイレンシングまたはRNAサイレンシングと呼ばれ、真菌においてクエリングとも呼ばれる。転写後遺伝子サイレンシングのプロセスは、外来遺伝子の発現を予防するために用いられる、進化的に保存された細胞防御機構だと考えられ、一般に多様な植物群および動物群によって共有されている。このような外来遺伝子の発現からの保護は、ウイルス感染に由来する、または宿主ゲノムへのトランスポゾンエレメントの無秩序な組込みに由来する二本鎖RNA(dsRNA、double-stranded RNA)の生成に応答して、相同な一本鎖RNAまたはウイルスのゲノムRNAを特異的に破壊する細胞応答を経て、おそらく進化したのであろう。
細胞内に長いdsRNAが存在することにより、ダイサー(dicer)と呼ばれるリボヌクレアーゼIII酵素の活性が刺激される。ダイサーは、前記dsRNAを、低分子干渉RNA(siRNA)として知られるdsRNAの短い断片にするプロセシングにかかわっている。ダイサー活性に由来する低分子干渉RNAは、典型的には、長さが約21~約23ヌクレオチドであり、約19塩基対の二本鎖を含む。RNAi反応は、一般にRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と呼ばれる、エンドヌクレアーゼ複合体も特徴とし、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な配列を有する一本鎖RNAの切断を媒介する。標的RNAの切断は、siRNA二重鎖のアンチセンス鎖に相補的な領域の中央で起こる。
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、mRNAからのタンパク質発現をダウンレギュレートするためのdsRNAの使用を意図する。
一実施形態によれば、dsRNAは、30塩基対より大きい。長いdsRNA(例えば、30塩基対より大きいdsRNA)の使用は、二本鎖RNAのこのような長い領域はインターフェロンおよびPKR応答を誘導する結果となるであろうと考えられていたため、非常に限られていた。しかしながら、長いdsRNAを用いることによって、細胞が最適なサイレンシング配列を選択することができ、非常に多くのsiRNAを試験する必要性が軽減されること、長いdsRNAによって、サイレンシングライブラリが有するべき複雑性を、siRNAで必要にされるものよりも少なくすることを可能にするであろうこと、および、おそらく最も重要な点であるが、長いdsRNAは、治療薬として用いた場合、ウイルスのエスケープ変異を予防し得る、という点で非常に多くの利点がもたらされる。
種々の研究によって、長いdsRNAが、ストレス応答を誘導せずに、または著しいオフターゲット作用を引き起こさずに、遺伝子発現をサイレンシングするために使用し得ることが示されており、例えば、[Strat,et al.,Nucleic Acids Research,2006,Vol.34,No.13 3803-3810;Bhargava A.,et al. Brain Res. Protoc. 2004;13:115-125;Diallo M.,et al.,Oligonucleotides.2003;13:381-392;Paddison P.J.,et al.,Proc.Natl Acad.Sci. USA.2002;99:1443-1448;Tran N.,et al.,FEBS Lett.2004;573:127-134]を参照のこと。
特に、本発明は、いくつかの実施形態によれば、遺伝子サイレンシングのために、インターフェロン経路が活性化していない細胞(例えば、胚細胞、卵母細胞)内に、長いdsRNA(30塩基超の転写物)を導入することを意図しており、例えば、Billy,et al.,PNAS 2001,Vol 98,pages 14428-14433.、およびDiallo,et al,Oligonucleotides,October 1,2003,13(5):381-392.doi:10.1089/154545703322617069を参照のこと。
本発明は、いくつかの実施形態によれば、インターフェロンおよびPKR経路を誘導しないように特に設計された、遺伝子発現をダウンレギュレートするための長いdsRNAを導入することも意図している。例えば、ShinagwaとIshii[Genes&Dev.17(11):1340-1345,2003]は、RNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーターから、長い二本鎖RNAを発現させるための、pDECAPと名付けられたベクターを構築した。pDECAPからの転写物は、細胞質へのdsRNAの輸送を促進する5’-キャップ構造も、3’-ポリAテールも、いずれも欠いているため、pDECAPからの長いdsRNAは、インターフェロン応答を誘導しない。
哺乳動物系における、インターフェロンおよびPKR経路を回避するための別の方法は、トランスフェクションまたは内因性の発現のいずれかによる、低分子干渉RNA(siRNA)の導入である。
用語「siRNA」は、RNA干渉(RNAi)経路を誘導する、低分子干渉RNA二重鎖(一般に、18~30塩基対の間)を指す。典型的には、siRNAは、中央部に19塩基対の二重鎖領域と、3’末端に2塩基の対称的なオーバーハングとを有する21マーとして化学的に合成されるが、近時、化学的に合成された25~30塩基長のRNA二重鎖は、21マーと同じ部位で比較して、100倍も増大した効力を有し得ることが報告されている。RNAiの誘発においてより長いRNAを用いて得られ、観察された効力の増大は、Dicerを、産物(21マー)に代えて基質(27マー)と共に供給し、これがRISC内へのsiRNA二重鎖の移行速度または移行効率を向上させるという結果から理論づけられる。
3’末端のオーバーハングの位置は、siRNAの効力に影響し、アンチセンス鎖上に3’末端のオーバーハングを有する非対称な二重鎖は、一般に、センス鎖上に3’末端のオーバーハングを有するものよりも効力が強いことが見いだされている(Rose et al., 2005)。これは、アンチセンス転写物を標的とする場合に逆の効力パターンが観察されることから、RISC内への非対称な鎖の取り込みに起因するものであり得る。
二本鎖干渉RNA(例えば、siRNA)の鎖(複数)は、結合してヘアピン構造またはステムループ構造(例えば、shRNA)を形成し得る。よって、上記した本発明のいくつかの実施形態のRNAサイレンシング剤は、低分子ヘアピン型RNA(shRNA)でもあり得る。
本明細書で用いられる場合、用語「shRNA」は、ステムループ構造を有するRNA因子を指し、相補的配列の第1の領域と第2の領域とを含み、それらの領域の相補性の程度と配向とは、前記領域間で塩基対形成が起こるのに十分であり、前記第1の領域と第2の領域とはループ領域で連結され、ループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチドアナログ)間に塩基対が欠けている結果として生じる。ループ内のヌクレオチド数は、両端の数値を含み、3~23、5~15、7~13、4~9、または9~11である。ループ内のいくつかのヌクレオチドは、ループ内のその他のヌクレオチドとの塩基対相互作用に関係していてもよい。結果として生じる一本鎖オリゴヌクレオチドは、RNAi機構と相互作用できる二本鎖領域を含むステムループ構造またはヘアピン構造を形成することを、当業者は認識するであろう。
本発明のいくつかの実施形態のRNAサイレンシング剤は、RNAのみを含む分子に限定される必要はなく、さらに化学修飾ヌクレオチドおよび非ヌクレオチドを包含することが理解されよう。
いくつかの実施形態において、本明細書に記載されたRNAサイレンシング剤は、機能的に細胞透過性ペプチドと関係し得る。 本明細書で用いられる場合、「細胞透過性ペプチド」は、細胞透過性複合体が細胞の原形質膜および/または核膜を横切る移動に関係する、エネルギーに依存しない(すなわち、非エンドサイトーシス的な)移動特性を付与する、短い(約12~30残基)アミノ酸配列または機能モチーフを含むペプチドである。本発明のいくつかの実施形態の膜透過性複合体で用いられる細胞透過性ペプチドは、好ましくは、少なくとも1つの非機能性のシステイン残基を含み、前記システイン残基は、フリーであるか、誘導体化されて、ジスルフィド結合を、そのような結合のために修飾された二本鎖リボ核酸と形成するか、のいずれかである。このような特性を与える典型的なアミノ酸モチーフが、米国特許第6,348,185号明細書に記載されている(その内容は、参照により明示的に本明細書に組み込まれる)。本発明のいくつかの実施形態の細胞透過性ペプチドとしては、好ましくは、ペネトラチン、トランスポータン、pIsl、TAT(48~60)、pVEC、MTS、およびMAPが挙げられるが、これらに限定されない。
RNAサイレンシング剤を用いて標的化されるmRNAとしては、その発現が望ましくない表現型形質と関連するmRNAが挙げられるが、これらに限定されない。標的化され得る例示的なmRNAは、切断型タンパク質をコードするmRNAであり、すなわち欠失を含むmRNAである。したがって、本発明のいくつかの実施形態のRNAサイレンシング剤は、欠失のいずれかの側の架橋領域を標的化し得る。このようなRNAサイレンシング剤を細胞内に導入することによって、非変異タンパク質に影響を与えることなく、変異タンパク質のダウンレギュレーションが引き起こされるであろう。
別の実施形態によれば、RNAサイレンシング剤は、miRNAまたはmiRNA模倣物であり得る。
用語「microRNA」、「miRNA」、および「miR」は、同義語であり、長さが約19~28ヌクレオチドの非コード一本鎖RNA分子の集合であり、遺伝子発現を制御する。miRNAは、幅広い生物(ウイルス→ヒト)に見られ、発生、恒常性、および疾患の病因において役割を果たしていることが示されている。
用語「microRNA模倣体」は、RNAi経路に入り、遺伝子発現を制御することができる合成非コードRNAを指す。miRNA模倣体は、内因性microRNA(miRNA)の機能を模倣し、成熟した二本鎖分子、または模倣前駆体(例えば、プレmiRNA)として設計することができる。miRNA模倣体は、修飾または非修飾RNA、DNA、RNA-DNAハイブリッド、または別の核酸化学物質(例えば、LNA、または2’-O,4’-C-エチレン-架橋核酸(ENA))から構成され得る。成熟した、二本鎖miRNA模倣体については、二重鎖領域の長さは、13~33、18~24、または21~23ヌクレオチドの間でさまざまである。miRNAは、全体で、少なくとも5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40ヌクレオチドを含んでいてもよい。miRNAの配列は、プレmiRNAの初めの13~33ヌクレオチドであってもよい。miRNAの配列はまた、プレmiRNAの終わりの13~33ヌクレオチドであってもよい。
ECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートすることができる別の薬剤は、ECM関連ポリペプチドのmRNA転写物またはDNA配列を特異的に切断することができるDNAザイム分子である。
ECM関連ポリペプチドのダウンレギュレーションは、ECM関連ポリペプチドをコードするmRNA転写物と特異的にハイブリダイズすることができるアンチセンスポリヌクレオチドを用いることによって引き起こすこともできる。
ECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートすることができる別の薬剤は、ECM関連ポリペプチドをコードするmRNA転写物を特異的に切断することができるリボザイム分子である。
ECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートすることができる別の薬剤は、ECM関連ポリペプチドに結合および/またはECM関連ポリペプチドを切断することができるあらゆる分子であろう。このような分子は、アンタゴニスト、または阻害性ペプチドであり得る。
例えば、Zarrabiら(J Biol Chem.2011 Sep 23;286(38):33167-33177)は、MMP-14を阻害するペプチドを開示している。
開示されたあらゆるポリペプチドの、少なくとも触媒性の、または結合性の部位の非機能性アナログもまた、ECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートする薬剤として使用し得ることが理解されよう。
本発明のいくつかの実施形態と共にECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートするために使用することができる別の薬剤は、ECM関連ポリペプチドの活性化を阻害またはECM関連ポリペプチドへの基質の結合を阻害する分子である。
追加の例示的なマトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤としては、ヒドロキサム酸基のヒドロキシル酸素およびカルボニル酸素を介して、二座様式で、触媒部位の亜鉛イオンと特異的に相互作用する、ヒドロキサメート阻害剤、すなわち線維性コラーゲンの低分子ペプチドアナログ、が挙げられる[Grams,et al.,(1995),Biochem.34:14012-14020;Bode,et al.,(1994),EMBO J.,13:1263-1269]。
ヒドロキサメート系MMP阻害剤は、一般に、炭素バックボーン(国際公開第95/29892号パンフレット、国際公開第97/24117号パンフレット、国際公開第97/49679号パンフレット、およびEP0780386)、ペプチジルバックボーン(国際公開第90/05719号パンフレット、国際公開第93/20047号パンフレット、国際公開第95/09841号パンフレット、および国際公開第96/06074号パンフレット)、またはペプチド模倣バックボーン[Schwartz,et al.,Progr.Med.Chem.,29:271-334(1992);Rasmussen,et al.,Pharmacol.Ther.,75:69-75(1997);Denis,et al.,Invest.New Drugs,15:175-185(1997)]、のいずれかから構成される。一方、ヒドロキサメート系MMP阻害剤は、フェニル環の片側に結合したスルホンアミドスルホニル基と、炭素原子1~4個の鎖を介してヒドロキサメート基に結合したスルホンアミド窒素とを含む(欧州特許第0757984号明細書(EP0757984A1))。
その他のペプチド系MMP阻害剤は、コラゲナーゼ阻害活性を示すチオールアミド(米国特許第4,595,700号明細書)、MMP-3、MMP-2、およびコラゲナーゼを阻害するビフェニルエチルグリシンを含有するN-カルボキシアルキル誘導体(Durette,et al.,国際公開第95/29689号パンフレット)、MMP、TNF-α、およびアグリカナーゼを阻害するラクタム誘導体(米国特許第6,495,699号明細書参照)、および三環系スルホンアミド化合物(米国特許第6,492,422号明細書参照)である。
その他のMMP阻害剤は、in vitroでいくつかのMMPの発現をブロックすることが示された、化学修飾非微生物性テトラサイクリン類(CMT)である(Axisa,et al.,2002,Stroke 33:2858-2864)。
近時、MMP活性部位に関するX線結晶学的情報に従って、メカニズムに基づくMMP阻害剤、すなわちSB-3CT、が設計された(Brown,et al.,2000)。X線吸収の研究により、この分子が触媒亜鉛に結合すると、活性部位金属イオン周辺のコンフォメーション環境が再構築され、プロ酵素のものに戻ることが明らかとなった[Kleifeld,et al.,2001,J Biol.Chem.276:17125-31]。
併用療法の面に関して、併用療法化合物は、上記化合物を投与するのと同じ投与経路(例えば、肺内、経口、経腸など)によって投与し得る。代わりに、併用療法のために用いる薬剤は、本明細書に記載された薬剤と共に、異なる投与経路によって投与してもよい。
ECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートする薬剤は、抗病原体剤の直前(または直後)に投与してもよく、抗病原体剤と同日に、1日前(または後)、1週間前(または後)、1か月前(または後)、または2か月前(または後)などに投与してもよい。
ECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートする薬剤と抗病原体剤とは、同時に投与してもよく、すなわち、これらの各薬剤は、互いの投与が部分的または完全に重なり合う時間間隔で投与がなされてもよい。本明細書に記載された薬剤は、互いに重なり合わない時間間隔の間に投与してもよい。例えば、第1の薬剤をt=0~1時間の時間帯内に投与してもよく、一方で第2の薬剤をt=1~2時間の時間帯内に投与してもよい。また、第1の薬剤をt=0~1時間の時間帯内に投与してもよく、一方で第2の薬剤をt=2~3時間、t=3~4時間、t=4~5時間、t=5~6時間、t=6~7時間、t=7~8時間、t=8~9時間、t=9~10時間などの時間帯内のどこかで投与してもよい。さらに、第2の薬剤は、t=-2~3時間、t=-3~4時間、t=-4~5時間、t=5~6-時間、t=-6~7時間、t=-7~8時間、t=-8~9時間、t=-9~10時間の時間帯中のどこかで投与してもよい。
本発明の薬剤は、典型的には、感染を処置および/または二次感染に関連する症状または疾患を軽減させるための総量で提供される。この量は、使用のために選択した特定の薬剤、他の処置様式の性質および数、処置、予防および/または緩和すべき状態、対象の種、年齢、性別、体重、健康状態および予後、投与様式、標的化の有効性、滞留時間、クリアランス様式、薬剤の副作用の種類および重大さに明らかに依存し、当業者に明らかであろうその他多くの因子に明らかに依存するであろう。
本発明者らは、MMP-14に結合し、ダウンレギュレートする抗体の投与によって、二次感染の合併症が予防されることを示した。より具体的には、本発明者らは、MMP-14抗体を抗ウイルス剤と一緒に投与することによって、(一次感染として)インフルエンザウイルスと、(二次感染として)肺炎球菌(S.pneumoniae)とに感染した動物の症状が軽減することを示した。
よって、本発明者らは、ECM関連ポリペプチドを特異的にダウンレギュレートする薬剤と、抗病原体剤との投与によって、二次感染が予防(または二次感染の症状が軽減)され得ることを提唱する。
よって、本発明の別の態様によれば、病原体に感染した対象における、二次感染に関連する疾患の処置または予防方法であって、病原体に対する治療有効量の抗病原体剤と、ECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートする治療有効量の薬剤とを対象に投与し、それによって、対象における、二次感染に関連する疾患を処置または予防することを含む、疾患の処置または予防方法が提供される。
本明細書で用いられる場合、語句「二次感染」は、別の既存の感染の処置中または処置後に起こる感染を指す。二次感染は、処置自体によって、または免疫系の変化によって起こり得る。
用語「予防」は、二次感染の発生を阻害もしくは阻止すること、および/または二次感染の症状の予防、減少、軽減、または後退をもたらすことを指す。
特定の実施形態によれば、本発明が提唱する併用療法は、合併症を減少させ、または二次感染に関連する疾患(例えば敗血症)を処置する。
二次感染は、細菌感染、ウイルス感染、または真菌感染であり得る。
一次感染および二次感染は、典型的には、同じ臓器(例えば、肺および/または気道)の感染である。
一実施形態において、一次感染は、ウイルス感染(例えばインフルエンザ)であり、二次感染は、細菌感染(例えば肺炎球菌(S.pneumoniae))である。
別の実施形態において、一次感染は、細菌感染であり、二次感染は、ウイルス感染である。
さらに別の実施形態において、一次感染は、ウイルス感染であり、二次感染は、真菌感染である。
さらに別の実施形態において、一次感染は、細菌感染であり、二次感染は、真菌感染である。
本発明のさらに別の態様によれば、インフルエンザの処置を必要とする対象における、インフルエンザの処置方法であって、少なくとも1つのECM関連ポリペプチドをダウンレギュレートする治療有効量の薬剤を対象に投与し、それによって、インフルエンザを処置することを含む、インフルエンザの処置方法が提供される。
ECM関連ポリペプチドは、上記の部分で説明されている。特定の実施形態によれば、ECM関連ポリペプチドは、表1に記載されているもの、例えばMT1-MMP1である。
特定の実施形態によれば、インフルエンザの処置は、かなりの量のMT1-MMP1をダウンレギュレートする抗体(例えば、上記の部分で説明したもの)を投与することによって実施される。
ECMの崩壊を予防するために、好ましくは、薬剤は、インフルエンザウイルスの症状が始まった後5日以内、インフルエンザウイルスの症状が始まった後4日以内、インフルエンザウイルスの症状が始まった後3日以内、インフルエンザウイルスの症状が始まった後2日以内、さらにインフルエンザウイルスの症状が始まった後1日以内に与えられる。
本明細書に記載されたあらゆる方法および使用において、薬剤は、それ自体で、またはさらに医薬的に(または化粧的に)許容され得る担体を含む医薬組成物中で用いることができる。
一実施形態において、薬剤は、同じ医薬組成物中に一緒に製剤化される。
別の実施形態において、薬剤は、別々の医薬組成物中に製剤化される。 別々の医薬組成物は、単一の製造品、例えばキットに含まれていてもよい。
本明細書で用いられる場合、「医薬組成物」は、1つまたは複数の本明細書に記載された活性成分の、生理学的に適切な担体および賦形剤などの他の化学成分を共に含む製剤を指す。 医薬組成物の目的は、生物に対する化合物の投与を容易にすることである。
本明細書において、用語「活性成分」は、本明細書に記載されたあらゆる薬剤を指す。医薬組成物は、特定の疾患の処置に有用だと知られている追加の活性薬剤を含んでいてもよいことが理解されよう。
以下、語句「生理学的に許容され得る担体」および「医薬的に許容され得る担体」は、互換的に使用されることがあり、生物に対して著しい刺激の原因とならず、投与した化合物の生物学的活性および特性を抑制しない、担体または希釈剤を指す。アジュバントは、これらの語句に含まれる。
本明細書において、用語「賦形剤」は、活性成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に加えられる不活性物質を指す。賦形剤の例としては、炭酸カルシウム,リン酸カルシウム,種々の糖およびデンプン類、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油、およびポリエチレングリコールが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知のプロセス、例えば通常の混合プロセス、溶解プロセス、造粒プロセス、糖衣錠製造プロセス、研和プロセス、乳化プロセス、カプセル化プロセス、封入プロセス、または凍結乾燥プロセスによって製造することができる。
よって、本発明に従って使用するための医薬組成物は、医薬的に使用することができる賦形剤および助剤(これらは活性成分の製剤への加工を容易にする)を含む1種または複数の生理学的に許容され得る担体を用いて、通常のやり方で製剤化し得る。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。
注射のために、医薬組成物の活性成分は、水溶液で製剤化してもよく、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水バッファーなどの生理学的に適合性のバッファーで製剤化してもよい。
適切な投与経路としては、例えば、経口、直腸、経粘膜、特に経鼻、腸管、または、非経口送達、例えば筋肉内注射、皮下注射、および髄内注射、ならびに髄腔内注射、直接的脳室内注射、心臓内注射、例えば右心室腔内または左心室腔内への心臓内注射、総冠動脈内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射、もしくは眼内注射を含む非経口送達が挙げられ得る。
特定の実施形態によれば、投与経路は局所送達である。
あるいは、医薬組成物を、全身的ではなく、局所的に投与してもよく、例えば、医薬組成物を、患者の組織領域内への直接的な注射によって投与してもよい。
本発明の医薬組成物は、当技術分野で周知のプロセス、例えば通常の混合プロセス、溶解プロセス、造粒プロセス、糖衣錠製造プロセス、研和プロセス、乳化プロセス、カプセル化プロセス、封入プロセス、または凍結乾燥プロセスによって製造することができる。
よって、本発明に従って使用するための医薬組成物は、医薬的に使用することができる賦形剤および助剤(これらは活性成分の製剤への加工を容易にする)を含む1種または複数の生理学的に許容され得る担体を用いて、通常のやり方で製剤化し得る。適切な製剤は、選択される投与経路に依存する。
注射のために、医薬組成物の活性成分は、水溶液で製剤化してもよく、好ましくは、ハンクス液、リンゲル液、または生理食塩水バッファーなどの生理学的に適合性のバッファーで製剤化してもよい。経粘膜投与のために、製剤には、透過すべきバリアに適した浸透剤が用いられる。このような浸透剤は、本技術分野で一般に知られている。
経口投与のために、医薬組成物は、活性化合物を、当技術分野で周知の医薬的に許容され得る担体と組み合わせることによって、容易に製剤化することができる。このような担体は、医薬組成物を、患者が経口摂取するための、錠剤、丸薬、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ剤、スラリー、懸濁液などに製剤化することを可能にする。経口使用のための薬理学的製剤は、固形賦形剤を使用して製造することができ、場合により得られた混合物をすりつぶし、細粒混合物を処理し、必要であれば適切な助剤を加えた後、錠剤または糖衣錠の核を得ることができる。適切な賦形剤は、特に、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖類;セルロース調製物、例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボメチルセルロースナトリウムなど;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容され得るポリマー、などのフィラーである。必要であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、もしくはアルギン酸、またはこれらの塩、例えばアルギン酸ナトリウムなどの崩壊剤を加えてもよい。
糖衣錠の核は、適切なコーティングを施して提供される。この目的のために、濃縮糖液を使用してもよく、前記濃縮糖液は、場合により、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、および適切な有機溶媒または溶媒混合物を含んでいてもよい。識別のために、または活性化合物の用量に関する種々の配合を特徴付けるために、染料または顔料を、錠剤または糖衣錠のコーティングに加えてもよい。
経口で使用できる医薬組成物としては、ゼラチンでできた押し込みカプセル、ならびにゼラチンと、グリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤とでできたソフトシールドカプセルが挙げられる。押し込みカプセルは、活性成分を、ラクトースなどのフィラー、デンプンなどの結合剤、タルクまたはステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤、および、場合により、安定化剤と混合して含んでいてもよい。ソフトカプセルにおいて、活性成分は、脂肪油、流動パラフィン、または液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体に溶解または懸濁していてもよい。さらに、安定化剤を加えてもよい。経口投与のための全ての製剤は、選択された投与経路に適切な用量であるべきである。
口腔投与のために、組成物は、通常のやり方で製剤化した、錠剤またはロゼンジの形態であってもよい。
経鼻吸入による投与のために、本発明に従って使用するための活性成分は、適切な噴射剤、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、または二酸化炭素を使用して、加圧包装またはネブライザーから出るエアゾールスプレーの形態で便宜に送達される。加圧エアゾールの場合、投薬単位は、定量を送達するようにバルブを設けることによって決定することができる。分注器で用いるための、(例えばゼラチンの)カプセルおよびカートリッジは、化合物と、ラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基材とのパウダーミックスを含めて製剤化してもよい。
本明細書に記載された医薬組成物は、非経口投与、例えば、ボーラス注射または持続注入による非経口投与のために製剤化してもよい。注射のための製剤は単位投与剤形、例えばアンプルで、または複数回投与用容器で、場合により保存剤を加えて提供され得る。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、または乳濁液であってもよく、懸濁化剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤用薬剤を含んでいてもよい。
非経口投与のための医薬組成物は、水溶性形態の活性製剤の水溶液を含む。さらに、活性成分の懸濁液は、適切な油性または水性注射用懸濁液として調製してもよい。適切な親油性溶媒またはビヒクルとしては、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチル、トリグリセリド、またはリポソームなどの合成脂肪酸エステルが挙げられる。水性の注射懸濁液は、懸濁液の粘度を増加させる物質、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール、またはデキストランを含んでいてもよい。場合により、懸濁液は、適切な安定化剤、または活性成分の溶解性を増大させ、非常に濃厚な溶液の調製を可能にする薬剤も含んでいてもよい。
一方、活性成分は、使用前に、適切なビヒクル、例えば、無菌のパイロジェンフリー水を基にした溶液を用いて構成するための、粉末形態であってもよい。
本発明の医薬組成物はまた、例えば、カカオバター、またはその他のグリセリドなどの通常の坐剤基剤を用いて、坐剤または停留浣腸などの直腸用組成物に製剤化してもよい。
本発明に関して、使用に適した医薬組成物としては、意図する目的を達成するのに有効な量の活性成分を含む組成物が挙げられる。より具体的には、治療有効量は、障害(例えば、線維性疾患または炎症性疾患)の症状を予防、緩和、もしくは改善、または処置している対象の生存期間を延長するのに有効な、活性成分(例えば、本明細書に記載された化合物)の量を意味する。
治療有効量の決定は、特に本明細書に示された詳細な開示を考慮すると、十分に当業者の能力の範囲内である。
本発明の方法で使用されるあらゆる調製物について、治療有効量または治療有効用量は、所望の濃度または力価を達成する動物モデルから推定することができる。このような情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために利用することができる。
本明細書に記載された活性成分の毒性および治療有効性は、実験動物における標準的な製薬学的手順に従って決定することができる。これらの動物実験から得られたデータは、ヒトで用いる用量範囲の策定に利用することができる。用量は、採用する剤型および利用する投与経路によって異なり得る。的確な製剤、投与経路、および用量は、患者の状態を考慮して、個々の医師によって選択され得る(例えば、Fingl,et al.,1975,in“The Pharmacological Basis of Therapeutics”,Ch.1 p.1を参照のこと)。
投薬量および間隔は、正常血糖(最小有効濃度、MEC)を誘導するのに十分な細胞数をもたらすように、個別に調節しうる。MECは、製剤ごとに異なるであろうが、in vitroデータから推定し得る。MECを実現するために必要な用量は、個々の特性および投与経路に依存するであろう。検出アッセイを、血漿中濃度を決定するために使用することができる。
投与する組成物の量は、当然ながら、処置している対象、疾病の重篤度、投与のやり方、処方する医師の判断などに依存するであろう。
本発明の組成物は、必要であれば、パックまたは分注装置、例えばFDAが承認したキット、で提供してもよく、それらは活性成分を含む1または複数の単位投与剤型を含んでいてもよい。パックは、例えば、ブリスターパックのように、金属またはプラスチックのホイルを含んでいてもよい。パックまたは分注装置には、投与指示書が添付されていてもよい。パックまたは分注器はまた、医薬品の製造、使用、または販売を規制している政府機関が規定する形態で、容器に付けられる注意書きに適応していてもよく、前記注意書きは、組成物の形態、またはヒトもしくは動物への投与に関する政府機関による承認を反映している。このような注意書きは、例えば、処方薬に関する、米国食品医薬品局によって承認されたラベルの注意書きであってもよく、承認された製品への差し入れ物であってもよい。適合する医薬担体で製剤化された、本発明の調製物を含む組成物もまた、上記部分でさらに詳述されているかのごとく、調製し、適切な容器に入れ、指示された状態を処置するためのラベルを付けることができる。
本出願から生じた特許の期間中に、多くの関連する抗ウイルス/抗菌剤が開発されるであろうことが予期され、用語抗ウイルス/抗菌の範囲は、先験的に、このような新たなテクノロジーの全てを含むことを意図している。
本明細書で用いられる場合、用語「約(about)」は、±10%を指す。
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する(having)」、およびこれらの活用形は、「含むが、これらに限定されない」を意味する。
用語「からなる(consisting of)」は、「含み、これらに限定される」を意味する。
用語「から本質的になる」は、組成物、方法、または構造が、追加の成分、工程および/または部分を含み得ることを指すが、追加の成分、工程、および/または部分が、クレームした組成物、方法、または構造の基本的かつ新たな特性を実質的に変えない場合に限られる。
本明細書で用いられる場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、明らかに文脈に反しない限り、複数形への言及を含む。例えば、用語「化合物(a compound)」、または「少なくとも1つの化合物」は、複数の化合物を含んでもよく、その混合物も含み得る。
本出願全体にわたって、本発明の種々の実施形態が範囲の形式で示されているであろう。範囲の形式での記載は、便宜および簡潔のために過ぎず、本発明の範囲に対する硬直的な限定と解釈すべきではないことを理解すべきである。したがって、範囲の記載は、その範囲内の、可能な全てのサブレンジ、ならびに個々の数値を具体的に開示しているものとみなすべきである。例えば、1~6のような範囲の記載は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などのサブレンジ、ならびにこの範囲内の個々の数値、例えば、1、2、3、4、5、および6を具体的に開示しているものとみなすべきである。これは、範囲の広さとは無関係にあてはまる。
本明細書で数値範囲が示されている場合はいつでも、示された範囲内の、引用されたあらゆる数値(分数または整数)を含むことを意味する。第1の指示数および第2の指示数の間の「範囲(ranging/ranges)」、ならびに第1の指示数から第2の指示数までの「範囲(ranging/ranges」、という語句は、本明細書において互換的に用いられ、第1の指示数および第2の指示数、ならびにその間の全ての分数および整数を含むことを意味する。
本発明の特定の特徴は、明確性のために、別々の実施形態の文脈中に記載されているが、単一の実施形態の中で組み合わせて提供することもできることが理解される。逆に、本発明の種々の特徴は、簡潔性のために、単一の実施形態の文脈中に記載されているが、別々に提供すること、もしくは適切なあらゆるサブコンビネーションで提供すること、または他に記載された本発明のあらゆる実施形態において適切なように提供することができる。種々の実施形態の文脈中に記載された特定の特徴は、その実施形態がそれらの要素なしでは機能しない場合を除き、それらの実施形態の不可欠な特徴とみなすべきではない。
上述の部分で記載し、下記の特許請求の範囲の項目で記載した、本発明の種々の実施形態および態様には、以下の実施例における実験的なサポートがある。
以下の実施例を参照し、上記の詳細な説明と合わせて、本発明のいくつかの実施形態を、非限定的な様式で例証する。
一般に、本明細書で用いられる命名法および本発明で利用される実験手順としては、分子的、生化学的、微生物学的、および組換えDNA技法が挙げられる。このような技法は、文献で十分に説明されている。例えば、“Molecular Cloning:A laboratory Manual”Sambrook,et al.,(1989);“Current Protocols in Molecular Biology”Volumes I-III Ausubel,R.M.,ed.(1994);Ausubel,et al.,“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley and Sons,Baltimore,Maryland(1989);Perbal,“A Practical Guide to Molecular Cloning”,John Wiley&Sons,New York(1988);Watson,et al.,“Recombinant DNA”,Scientific American Books,New York;Birren et al.(eds)“Genome Analysis:A Laboratory Manual Series”,Vols.1-4,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(1998);米国特許第4,666,828号明細書;米国特許第4,683,202号明細書;米国特許第4,801,531号明細書;米国特許第5,192,659号明細書;米国特許第5,272,057号明細書に記載された方法論;“Cell Biology:A Laboratory Handbook”,Volumes I-III Cellis,J. E.,ed.(1994);“Culture of Animal Cells-A Manual of Basic Technique”by Freshney,Wiley-Liss,N.Y.(1994),Third Edition;“Current Protocols in Immunology”Volumes I-III Coligan J.E.,ed.(1994);Stites et al.(eds),“Basic and Clinical Immunology”(8th Edition),Appleton&Lange,Norwalk,CT(1994);Mishell and Shiigi(eds),“Selected Methods in Cellular Immunology”,W.H.Freeman and Co.,New York(1980)を参照のこと;利用可能なイムノアッセイは、特許および学術文献に広く記載されており、例えば、米国特許第3,791,932号明細書;米国特許第3,839,153号明細書;米国特許第3,850,752号明細書;米国特許第3,850,578号明細書;米国特許第3,853,987号明細書;米国特許第3,867,517号明細書;米国特許第3,879,262号明細書;米国特許第3,901,654号明細書;米国特許第3,935,074号明細書;米国特許第3,984,533号明細書;米国特許第3,996,345号明細書;米国特許第4,034,074号明細書;米国特許第4,098,876号明細書;米国特許第4,879,219号明細書;米国特許第5,011,771号明細書;および米国特許第5,281,521号明細書;“Oligonucleotide Synthesis” Gait,M. J.,ed.(1984);“Nucleic Acid Hybridization” Hames,B.D.,and Higgins S.J.,eds.(1985);“Transcription and Translation” Hames,B. D.,and Higgins S. J.,eds.(1984);“Animal Cell Culture” Freshney,R. I.,ed.(1986);“Immobilized Cells and Enzymes”IRL Press,(1986);“A Practical Guide to Molecular Cloning”Perbal,B.,(1984)and “Methods in Enzymology”Vol.1-317,Academic Press;“PCR Protocols:A Guide To Methods And Applications”,Academic Press,San Diego,CA(1990);Marshak,et al.,“Strategies for Protein Purification and Characterization-A Laboratory Course Manual” CSHL Press(1996)を参照のこと;(これら全ては、参照によりあたかも本明細書に全て記載されているかのように組み込まれる)。その他の一般的な参考文献は、本文書全体にわたって示されている。それらの参考文献中の手順は、当業者に周知であると考えられ、読者の便宜のために提供する。参考文献中に含まれる情報は、全て参照により本明細書に組み込まれる。
材料および方法
インフルエンザウイルスおよび肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)バクテリア剤マウス馴化PR8ウイルス、すなわちインフルエンザA/プエルトリコ/8/34(A/PR/8/34,H1N1)、を、鶏卵羊膜で持続的に増殖させ、インフルエンザ有効力価を、以前の報告通りに定量した(Achdout,et al.,2003)。肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)(肺炎球菌(S.pneumoniae))の莢膜を有する株であるD39タイプ2株を、トッド-ヒューイットブロス(Difco Laboratories)で増殖させた。
単離およびマウスの感染のために、細菌を、3%(vol/vol)ヒツジ赤血球を補足したトリプチックソイ寒天(Hylab Laboratories)上で、37℃で終夜増殖させ、次いで4000g、20分間の遠心によって収集して細菌をペレット化し、それを所望の濃度に希釈した。
感染手順 雌性C57BL/6Jマウス(4~5週齢)をケタミン-キシラジンで麻酔し、50μlの希釈したウイルスを鼻腔内に接種した。インフルエンザA/プエルトリコ/8/34(A/PR/8/34、H1N1)株、9×107PFU/ml、HA 1:1,024を含有する同一のストックを、全ての実験に使用した。インフルエンザ感染の病因を研究するために、致死量に等しい4×103PFUのインフルエンザPR8ウイルスを、C57BL/6マウスの鼻腔内に感染させた。マウスは、感染から3、7、11、26、32、49、74、98、122、148時間後に屠殺し、肺を回収してRNAを単離するためにホモジナイズした。抗MT1-MMP阻害剤の有効性を、単一ウイルス感染モデル、および肺炎球菌(S.pneumoniae)(致死量に達しない800PFUを用いた)を組み合わせた二重感染モデルの両方において研究するために、適宜希釈して同じ経路で投与した。肺炎球菌(S.pneumoniae)は、3%(vol/vol)ヒツジ赤血球を補足したトリプチックソイ寒天(Hylab Laboratories)上で増殖させた。肺炎球菌を無菌PBSで希釈し、ウイルス感染の4日後に30CFUの用量で、容積50μlを鼻腔内に投与した。マウスを麻酔し、接種の間、立位に保った。マウスは、加重し、少なくとも1日1回、疾病および死亡をモニターした。全ての動物手順は、IACUCのガイドラインに従って実施し、ワイツマン科学研究所の委員会によって承認された。
動物の処置 マウスは、単一感染実験ならびに重複感染実験において、注射あたり合計量100μlで、毎日腹腔内投与によって、3mg/kgのLEM2/15Fabフラグメントで処置された。GST-Fab(本文中では対照Fabとして示されている)は、非関連対照としての役割を果たし、LEM2/15処置群と同じ用量で投与された。PBSは、ビヒクル対照として用いた。
LEM2/15(抗MT1-MMP抗体)の精製 LEM-2/15のハイブリドーマ細胞は、DCCM(ハイブリドーマ細胞の増殖およびモノクローナル抗体の産生のために設計された無血清培地、Biological Industriesから購入)で増殖させた。細胞を193gの遠心によって沈殿させ、上清を集めた。上清を、20mMリン酸バッファー(pH8)に対して透析した。1mlのHiTrap protein A HPカラムを100mMリン酸バッファー(pH8)で平衡化し、上清を1ml/分で負荷した。抗体を、100mMクエン酸バッファー(pH6)で溶出させ、50mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaClに対して透析した。
パパインによる抗体消化 パパインを、0.5M Tris-HCl(pH8)、10mM EDTA、5mMジチオスレイトール中、370℃で15分間活性化した。活性型パパインを、インタクトなLEM-2/15の溶液に1:1,000の割合で加え、消化処理を370℃で3時間行った。消化反応を、20mMヨードアセトアミドを加え、暗所、室温、30分間で終了させた。Fabフラグメントを、プロテインAカラムによってFcから分離し、素通り画分からFabフラグメントを集め、50mM Tris-HCl(pH7.5)、150mM NaClに対して透析した。Fabフラグメントの純度は、12%SDS-PAGEゲルによって推定した。純粋なFabフラグメントをフィルターにかけて無菌性を確実にし、使用まで-80℃の条件で保存した。
グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)-Fabフラグメント 全GST抗体から、上記の部分に記載したようにして(パパインによる抗体消化)、Fabフラグメントを作製した。
ウイルス負荷および細菌負荷の定量 肺におけるウイルス力価は、MDCK細胞上で器官ホモジネートを滴定することによって決定し、プラーク形成単位(PFU)は、(Okuda et al.,2001)に記載されているようにして定量した。肺炎球菌(Strep.pneumoniae)レベルは、滴定した量の器官ホモジネートを、3%ヒツジ赤血球(Hylab Laboratories)を補足したトリプチックソイ寒天プレート上で培養することによって決定した。器官は、GentleMACSを用いて、PFUのためには、1mlの適切なバッファーで、または肺炎球菌(Strep.pneumoniae)についてのCFUのためには、10mlの滅菌水でホモジナイズした。ウイルス負荷もまた、以前に患者のウイルスの検出に関して記載されているようにして(Hindiyeh,et al.,2005)、qPCRを用いて定量した。肺炎球菌(S.pneumoniae)の同定は、以前に記載されているようにして(Ogunniyi,et al.,2002)、qPCRを用いて行った。メイディン・ダービー・イヌ腎臓(MDCK)細胞上で滴定したインフルエンザA(A/PR/8/34)ウイルスの段階希釈物は、定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)によってインフルエンザウイルス量を決定するための標準品として用い、qPCR結果をウイルス負荷数に変換した。
RNAの単離 肺を取り出し、直ちにRNA Latter溶液(Invitrogen)中に移した。RNA単離のために、QIAzol存在下で肺を小片に切断し、SPEX CertiPrepホモジナイザーを用いてホモジナイズし、全RNAをmiRNeasy Mini Kit(Qiagen)で抽出した。RNA integrityを決定し(Tapestation、Agilent Technologies)、Qubit Fluorometric定量装置(LifeTechnologies)で濃度を測定した。
RNAシークエンシングライブラリの調製RNAシークエンシングのために、(Jaitin,et al.,2014)に記載されているように、MARS-seq技法の派生法を用いた。簡潔に言えば、全RNAを、化学的な加熱処理(95℃)を4時間30分にわたって行うことにより、平均サイズが300ヌクレオチドのフラグメントに断片化した(NEBNext Magnesium RNA Fragmentation Module)。3’ポリアデニル化フラグメントを、ポリdTビーズ(Dynabeads、Invitrogen)で選択することによって濃縮した。鎖特異的なcDNAを、ポリT-VNオリゴ(18T)およびAffinity Script逆転写酵素(Agilent)を用いて合成した。二本鎖DNAを、Second strand synthesis kit (NEB)を用いて得た。DNAの末端を、T4ポリヌクレオチドキナーゼおよびT4ポリメラーゼ(NEB-Next)を用いて修復した。クレノウ酵素(NEB-Next)を用いて、アデニン塩基の残基を5’末端に付加した後、各フラグメントにbarcode Illumina互換性アダプター(IDT)をライゲートした。洗浄したDNAフラグメントを、ライゲートしたアダプターに特異的なプライマー(IDT)を用いてPCR(12サイクル)で増幅させた。各ライブラリの品質は、TapeStation(Agilent)によって解析した。
RNA-Seqデータの前処理 RNA-seqは、Lavinら(2014)が記載しているようにして行った。簡潔に言えば、全ての読み取りデータ(全肺(図1)から、および細胞集団(図8)からの両方とも)を、TopHat alignerを用いて、マウスリファレンスゲノム(NCBI37/MM9)に対してアラインさせた。正規化した発現テーブルを、負の二項分布および局所回帰モデルに基づく、ESAT garberlabdotumassmeddotedu/software/esat/を用いて作成した。データ操作:値が1度だけ0超であった遺伝子をテーブルから除外する;データの結果が33である(ノイズは32にセットした)75パーセンタイルを計算する;列の最大値を見つけ、最大値が<32であった場合は除外する;x+32のとしてのlog2の値;平均複製数;最大値が、0.8分超(2倍ではなく、1.75倍であることに留意)である列はそのままにする;20クラスターについてのmatlabにおけるK平均;遺伝子Eにおいて、視覚目的の写真についてのクラスターを手作業で順に並べた。
qPCR: 全RNAを、high capacity cDNA reverse transcription kit(Applied Biosystems)を用いて逆転写し、cDNAにした。RT-PCRを、LightCycler480 SYBR green Iマスターミックス(Roche)で、正規化のためにGAPDHおよびβ-アクチンを用いて、3重で行った。プライマーのリストを、以下の表2Aに示す。
ゲル内タンパク質分解および質量分析 肺試料を、2%Tritonを補足した0.5%EDTAを用いて、24時間振盪して脱細胞化した。次いで試料を、Speedvacを用いて脱水し、加重した。次いで、試料を(50mM Tris-HCl、150mM NaCl、5mM MgCl2、5mM CaCl2、pH7.4)中のTNCバッファー中で、容積120μl、30℃で、24時間振盪して、500nMの活性化MMP-13を用いて、溶液内消化させた。活性化MMP-13の容積および濃度は、各試料の重量に従って調節し、各試料は2重で実施した。タンパク質抽出物を、短時間用のSDS-PAGEにかけた。ゲル中のタンパク質は2.8mM DTT(60℃、30分間)で還元し、100mM炭酸水素アンモニウム中、8.8mMヨードアセトアミド(暗所、室温、30分間)で変性させ、10%アセトニトリルおよび10mM炭酸水素アンモニウム中、修飾トリプシン(Promega)、酵素-基質比1:10、終夜、37℃で消化した。さらに、2回目のトリプシン処理を4時間行った。得られたトリプシンペプチドを、Reprosil逆相材料(Dr Maisch GmbH、Germany)を充填した0.075×200mmの溶融シリカキャピラリー(J&W)で逆相クロマトグラフィーによって分離した。ペプチドは、流速0.25μl/分で、7~40%の95分間のリニアグラジエントと、8分間の95%アセトニトリル/0.1%ギ酸(水中)によって溶出させた。質量分析は、イオントラップ質量分析計(Orbitrap XP、Thermo)によって、ポジティブモードで、反復的MSフルスキャンを用いて行い、続いて最初のMSスキャンから選んだ7つの最も顕著なイオンについて、衝突誘起解離(collision induces dissociation)(CID)を用いて行った。
質量分析データは、MaxQuant 1.3.0.5ソフトウェアを用いて、Uniprotデータベースのマウスセクションを、マストレランスを前駆体質量に対して20ppmに設定して検索し、解析した。ペプチドレベルおよびタンパク質レベルの偽発見率(FDR、false discovery rate)は、ターゲットデコイストラテジー(target-decoy strategy)を用いて、1%でフィルタリングした。タンパク質テーブルは、リバースデータベースからの同定、ならびに一般的な混入物および単一ペプチドの同定を除外するためにフィルタリングした。データは、前記と同じソフトウェアを用いて、ペプチドに関する抽出したイオンカレント(XIC、extracted ion current)に基づいて、ラベルフリー分析によって定量した。抽出したイオンカレント(XIC)によって、あらゆる実験において同定した各ペプチドの各LC/MS測定からの定量が可能となる。ECM関連タンパク質を探索するために、GORILLA Bioinformatics Resourcesを用いてアノテーションを決定した。
ウェスタンブロット 肺試料を、gentleMACS(Miltenyi Biotec)をメーカーの使用説明書に従って使用して、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含む、500μlのrippaバッファーを用いてホモジナイズした。次いで、タンパク質レベルをBCAキット(Pierce Biotechnology)を用いて測定し、2重で、小型電気泳動装置(Bio-Rad Laboratories,Inc.)を用いて、SDS-PAGEゲルで泳動した。分離したポリペプチドを、25%メタノールを含むトリスグリシンバッファー中でニトロセルロース膜に転写した。膜を5%粉乳でブロッキングし、次いでヤギ抗MMP-8抗体(SantaCruz)、ウサギ抗MMP-9抗体(Abcam)、またはウサギ抗MT1MMP抗体(Abcam)とインキュベートした。各手順において、アッセイ間の変動を避けるために、ウサギ抗GAPDH抗体(SantaCruz)を含めた。ニトロセルロース膜を、ヤギ抗ウサギHRP標識抗体(Abcam)、またはウシ抗ヤギHRP標識抗体(Sigma)とインキュベートした。膜は、EZ-ECL化学発光検出キット(Biological industries)を用いて現像した。各アッセイにおいて、タンパク質分子量標準品(PageRuler Prestained Protein ladder、Fermentas)を含めた。
画像化のための肺の調製物 肺を、in situザイモグラフィのためにPBSを用いて膨らませ、またはその他の画像化のために4%PFAを用いて膨らませた。これは、気管を露出させ、22G、0.8×25mmのカニューレ(Cathy IVカニューレ、HMD Healthcare LTD)を挿入し、5mlの流体を注入することによって行った。カニューレは、漏出を防ぐために気管に結紮した。マウス肺を感染後種々の時点で採取し、OCT中に包埋し、分析まで-80℃で凍結させた。
2光子顕微鏡法および第二次高調波発生 画像化前に、肺を300μmに薄切し、ただちに2光子顕微鏡を用いて可視化した(Weizmann instituteのin vivoイメージングユニット(2PM:Zeiss LSM 510 META NLO;2光子励起のために、Spectraphysicsからの、700~1,020nmの広帯域自動波長可変装置付、広帯域Mai Tai-HPフェムト秒シングルボックス波長可変チタンサファイア発振器を装備)内で、前記可視化を行った)。第二次高調波によるコラーゲンの画像化のために、800nmの波長を用いた(400nmで検出)。
インタクトな肺組織および肺ECMスキャフォールドのAirSEMイメージングおよびSEMイメージング 固定した肺を、300μm切片に薄切した。切片を大量のPBS中で3回洗浄し、OCT残存物を除去し、次いでDDWで3回洗浄した。組織の画像化のために、薄片をSuperFrost Plusガラススライド上にそっと置き、以前に記載されているようにして染色した。簡潔に言えば、切片を、DDWを用いて洗浄し、0.1Mカコジル酸ナトリウムバッファーpH7.4(分析用スタンダード、Sigma-Aldrich)中、0.1%ルテニウムレッド(EMグレード、Sigma-Aldrich)で15分間染色した。次いで、切片を、DDWで十分に洗浄し、2%酢酸ウラニル溶液で10分間染色した。次いで、試料をDDWで洗浄し、airSEM(商標)観察の前に、空気中、室温で5~7分間乾燥させた。ECMスキャフォールドは、最初に、2%Tritonを補足した0.5%EDTAを用いて24時間脱細胞化した。染色は、以前に記載されているようにして行った。通常の走査型電子顕微鏡(SEM)試料は、2kVで稼働させるUltra 55 Feg Zeiss SEMを用いたSEMイメージング用の標準的な試料調製手順に従って、エタノールシリーズで濃度を100%エタノールに高めながらさらに脱水し、臨界点乾燥装置で乾燥させ、Au-Pd(金/パラジウム)でコーティングした。
免疫組織化学 免疫組織化学は、標準的な技法を用いて、10μm凍結切片で行った。切片は、4%PFAで固定し、3%BSAでブロックし、ウサギ抗ラミニン一次抗体(Sigma)、ウサギ抗ルミカン一次抗体(abcam)、もしくはウサギ抗コラーゲンIV一次抗体、またはF4/80およびCD45細胞表面タンパク質に対するラット一次抗体(abcam)と終夜インキュベートした。LEM2/15を、Alexa Fluor 555タンパク質に、ラベリングキット(Molecular Probes)を用いて、メーカーの使用説明書に従ってコンジュゲートした。次いで、切片をPBSで洗浄し、ヤギ抗ウサギHRP標識抗体(Jackson)とインキュベートした。それぞれ、フルオレセインまたはCy3標識抗HRPキット(Perkin Ehlmer)を用い、次いでDAPI染色(Sigma)を行い、immune-mount(Thermo Scientific)でマウンティングした。試料は、ニコン80i ECLIPSE顕微鏡で画像化した。
I型コラーゲンin situザイモグラフィ 非固定化肺試料を、10μm切片に薄切し、穏やかに洗浄してOCTを除去した。洗浄後、1mg/mlのDQ I型コラーゲン(Molecular Probes)を、developingバッファー(50mM Tris(pH7.5)、100mM NaCl、5mM CaCl2)で40mg/mlに希釈した。
試料を、37℃で4時間インキュベートした。4%パラホルムアルデヒドで反応を停止させ、次いで必要な免疫染色を行い、immune-mount(Thermo Scientific)でマウンティングし、ニコン80i ECLIPSE顕微鏡で画像化した。
線維配向解析における相対度数 画像解析は、Fiji packageのDirectionality解析によって行った。
フローサイトメトリー 感染および対照非感染C57BL/6Jマウスからの肺を、冷PBS中に浸漬し、10%ウシ胎仔血清を含む5mlのDMEM(FACSバッファー)中で小片に切断した。細胞懸濁液を、1mlシリンジカップを用いて、70lmセルストレーナー(BD Falcon)ですりつぶした。細胞を、氷冷PBSで洗浄した。残った赤血球は、塩化アンモニウム溶液(Sigma)を用いて溶解させた。細胞を回収し、1mlのFACSバッファー[PBS+2%FCS、1mM EDTA]に浸漬した。肺細胞は、以下の複数の表面抗原に対する抗体、すなわちPE標識LEM2/15抗体(抗マウスMT1-MMP抗体)、PerCP/cy5.5標識抗マウスCD45抗体(クローンF11)またはPacific blue-抗マウスCD45抗体、APC-Cy7標識EPCAM抗体、APC標識抗CD11b抗体、PerCP/cy5.5-抗マウスLy6C抗体、FITC-抗マウスLy6G抗体(クローン1A8)、FITC抗マウスNKp46抗体、FITC抗マウス-TCR-β抗体で染色した。フローサイトメトリーを、FACSAriaIIIフローサイトメーター(BD biosciences)を用いて実施し、データを、FlowjoV 10.0.8ソフトウェアを用いて解析した。非感染対照マウスおよび感染マウスからのソートした細胞を、PBSで処理し、さらに上記のRNA抽出のセクションに記載したようにしてRNAを抽出し、RNA-SeqプロファイリングおよびqPCRを用いてシーケンシングした。
細胞外マトリックス遺伝子は、インフルエンザ感染の間に誘導される
インフルエンザ感染(inflection)が宿主のECM領域に対して与える影響を体系的に説明するために、ゲノム全域にわたるRNA-seqを用いて、7日間にわたるインフルエンザ過程の間の、全肺組織の経時的な転写応答を測定した(Altboum,et al.,2014)。遺伝子発現を、感染後10の時点で測定した。C57BL/6マウスを、致死用量または致死量に達しない用量のマウス馴化PR8インフルエンザA H1N1ウイルスの鼻腔内接種によって感染させた。PR8感染は、厳しい肺胞伝播、急性肺出血、および激しい宿主応答からなるインフルエンザ感染モデルとして広く用いられる(Morens,et al.,2008;Tate,et al.,2011;Taubenberger and Morens,2006;Watanabe,et al.,2013)。疾患の進行とともに、感染から24~48時間後に、肺におけるウイルス負荷量の増加と共に、症状が現れ、体重減少が起きる(図6D)。予測されるように、インフルエンザ感染は、炎症走化性(CXCL1、CXCL10、Il1b、Il1r)、ウイルス感染に対する防御(ISG15、IFNB1、IRF7、IFIT1、およびIFIT3)、および種々のケモカイン(CCL2、CCL3、CCL4、CXCL2)に関連する遺伝子の誘導、ならびに肺の恒常性(セクレトグロビン、および関連する転写因子(例えば、NKx2.1))に関連する遺伝子のダウンレギュレーションをもたらした(図1A)。さらに、感染に続いてダウンレギュレートされる遺伝子は、酸素還元過程、表面活性物質(SFTPA1,SFTPC)の恒常性、インテグリン、カドヘリン、クローディン(CLDN18、ITGB2、CDH5)などの細胞間接着分子、ならびに脂質代謝(APOE、APOC1、APOA1BP)遺伝子に属している場合が多い。統計的に有意にアップレギュレートされるさらなる遺伝子は、以下の表2Bに示すものである。
遺伝子の多くのグループが、巨大分子の代謝およびプロテアーゼ合成を含む、ECMリモデリングに関与していることは、特に注目される(図1A)。注目すべきことに、この遺伝子グループは、感染期間を通じて極めて過剰に表れており、複数のECMリモデリングイベントに関与する、幅広い経路パネルを示している(図1A~C)。タンパク質分解、コラーゲンリモデリングおよび異化、線維素溶解、創傷治癒,恒常性、ならびに細胞遊走(p≦10-4)に関与する細胞外モジュレーター関連の機能的カテゴリーが富化すること明らかとなり、感染から74時間後に最大となった(図1B)。合わせて3530個の特異的発現遺伝子のうち、479個(13.6%)がECMリモデリングに関与している。これらには、セリンプロテアーゼ、リジルオキシダーゼ、カテプシン、ディスインテグリン(ADAM)、メタロプロテイナーゼ(MMP)、およびそれらの天然の阻害剤(TIMP)が含まれ、種々のECM成分のターンオーバーを決定する、ECMモディファイアーとして働く。この遺伝子グループの中で、RNAレベル(倍率変化400;図1D)と、タンパク質レベル(感染から48時間後(図6A~B))の両方における、MT1-MMPの強い誘導が見られた。定量的リアルタイムPCRを用いて、MT1-MMPの発現における経時的な変化、ならびにMMPファミリーに属し(MMP-3、8、および9)、ECMをモジュレートする(図6A、B、C)、その他の代表的な遺伝子の発現における経時的な変化を確証した。
MT1-MMP発現は、インフルエンザ感染後、骨髄細胞内で誘導される
感染過程の間にMT1-MMPの供給源として働く細胞集団を同定するために、フローサイトメトリーを実施した。非感染肺におけるMT1-MMP発現細胞集団の中で、圧倒的多数は非造血性細胞集団(CD45-、89.5%)であり、一方わずか10.5%が造血細胞起源(CD45+)であった(図2A)。感染後、CD45+のMT1-MMP発現集団は、4倍(40.9%)に増加した。特に、免疫細胞のCD11b+のMT1-MMP+部分は、32.9%から64.9%に増加し、一方非造血性(CD45-)のMT1-MMP発現細胞は、2分の1に減少した(図2A)。ヒストグラムプロット(図2B)は、感染後に全体的なMT1-MMP発現が増加(図2B)していることをさらに示しており、感染後にMT1-MMPが減少している肺上皮細胞(図2B)とではなく、CD11b+細胞におけるMT1-MMP発現の増加と関連している可能性がある(図2B)。感染前および感染している間の、ソーティングしたCD45+集団におけるMT1-MMP発現と、ソーティングしたCD45-集団におけるMT1-MMP発現との対比を、qPCRを用いてRNAレベルでさらに確認した(図2C)。インフルエンザに感染した肺におけるMT1-MMPマーカーならびにF4/80マーカーの免疫染色により、感染から74時間後に、MT1-MMP発現細胞はF4/80陽性細胞と大部分が共局在しているという、発明者らの観察が確証される。マクロファージは、いずれもCD11b+かつF4/80+の免疫細胞であるため、これらの発見は、マクロファージが感染後のMT1-MMPの重要な供給源であることを示唆している(図7A矢じり、図7B)。インフルエンザに感染した肺のコラゲナーゼ活性をモニターするために、in situザイモグラフィを用いた。感染後、コラーゲン分解活性は、大部分がCD45+細胞と関連しており、CD45-細胞は、感染した肺の気管支内を覆っていることが見いだされた(図7C矢印、図7D)。
感染前および感染後(74時間)の、MT1-MMP発現集団をさらに特徴付けするために、ソーティングしたMT1-MMP発現CD45+副次集団と、ソーティングしたMT1-MMP発現CD45-副次集団に対してRNA-seq分析を行った。全部で2169個の遺伝子が、CD45+集団とCD45-集団の両方における非感染細胞と比較して、感染後に細胞に特異的に発現していることが見いだされた(図8)。全肺RNA-seqからの分析結果と矛盾なく、MT1-MMPを発現している免疫細胞(CD45+)および間質性細胞(CD45-)の両方において、炎症性シグナリング経路の活性化およびサイトカイン産生が、感染後に増大していることが観察された(図8)。特に、免疫細胞は、サイトカイン(CCL2、CCL3、CCL4、CXCL2、IL1b)および抗ウイルス応答遺伝子(例えば、SLFN4、IFIT1、およびIFIT2)の顕著なアップレギュレーションを示したが、間質性細胞は、表面活性物質産生などの肺恒常性機能に関連する遺伝子(例えば、SFTPB、SFTPC)のダウンレギュレーションを示した。免疫系集団は、単球/マクロファージ/DCマーカー(例えば、CD11b)発現の増加と、複数のB細胞マーカー(例えば、CD19、CD37、CD79)発現の減少とを示した。よって、感染後のMT1-MMP発現は、骨髄性コンパートメントからの活性化した免疫細胞と関連している(図8)。
インフルエンザ感染は、ECM構造およびECM構成の破壊を誘導する
MT1-MMPは、線維性コラーゲン、ラミニン、およびその他のECM成分の分解による、がん関連の浸潤過程において主要な役割を果たす。インフルエンザ感染におけるMT1-MMPの機能的役割を評価するために、感染前および感染後に、細胞内コンパートメントがない(脱細胞化された)肺組織の質量分析(図3A)ならびに走査型電子顕微鏡(SEM)イメージングを行った(図9A~B)。インフルエンザに感染した肺のSEM分析により、特に肺胞壁において、ECM構造の大規模な歪曲(図3B~C)ならびにコラーゲン繊維の再構成が示された。感染から74時間後、肺胞嚢境界のコラーゲン繊維束は、繊維末端がほぐれ、配向角が散乱していることが示された(図3B)。このことは、肺胞壁を構成する原繊維の配向性を測定することによって、さらに確証された(図3C)。加えて、肺胞腔および肺胞中隔は、感染肺において歪曲していた(図3B)。これらの結果を確証し、感染の間の(自然な環境における細胞とECMとを含む)全組織の完全性をさらに分析するために、新たな方式の電子顕微鏡画像化法であるAirSEM(Solomonov,et al.,2014)を用いた。AirSEMは、周囲条件で、自然状態の水和した組織の映像化を可能にし、よってSEM用の試料調製に関連して生じうるアーティファクトを避けることができる。ウイルス感染肺組織の画像化によって、肺胞細胞と気管支細胞の両方の喪失、ならびに肺胞嚢と肺胞管の歪曲、引き続いて肺胞壁が薄くなることを特徴とする組織破壊が示された(図9A~B)。最後に、新鮮な肺ECMスキャフォールド(脱細胞化された組織)のAirSEM画像によって、通常のSEM分析で観察されたものと同様な、肺胞コラーゲンの分解および歪曲バターンが示された(図9A~B)。
網羅的なプロテオミクス解析によって、インフルエンザ感染の間におけるECMスキャフォールドの分解が同定される
インフルエンザ感染の間のECMリモデリングに対するタンパク質分解の意義を網羅的に検討するために、タンデム質量分析(LC/MS/MS)手法を用いた(図3A、以下の表3)。感染から74時間後と120時間後の脱細胞化された肺組織を、非感染組織と比較して分析したところ、肺胞壁内を覆っているコラーゲン原繊維構造で見られた構造的変化と関連し得る組成的変化が示された(図3B~C)。特に、インフルエンザに感染した肺のプロテオミクスデータ解析によって、コラーゲンおよびラミニン分子のサブタイプが次第に失われることを含む、ECMの分子的組成の変化が確認された(図3A)。加えて、複数の基底膜関連成分ならびに基底細胞接着分子(例えば、ナイドジェン、デコリン、IV型コラーゲン、XII型コラーゲン、XIV型コラーゲン、およびフィブリリン;図3A)が感染肺組織から失われ、これはECMの完全性および分子的組成の大規模な変換を示している。典型的なECM分子(IV型コラーゲン、デコリン、およびルミカン)の喪失は、感染肺および非感染肺のECMスキャフォールドを染色することによって確証された(図3D~I)。重要なことには、I型コラーゲン,ラミニン ナイドジェン、ルミカン、ミメカン、フィブリリン、およびデコリンなど、感染の間に失われる成分のうちのいくつかは、MT1-MMPの既知の基質である(Koziol,et al.,2012;McQuibban,et al.,2000;Noel,et al.,2012;Overall,2002;Shimizu-Hirota,et al.,2012;Stegemann,et al.,2013)。インフルエンザ感染の過程の間に複数のMT1-MMP基質が分解されるため、肺ECMタンパク質の分解および宿主の死亡は、MT1-MMPのコラゲナーゼ活性を特異的にブロックすることによって防ぎ得ると仮定された。
MT1-MMPの阻害は、免疫応答を変化させることなく、組織破壊から保護する
MT1-MMPノックアウトマウスは、複数の異常症を患い、生後3~5週間以内に死亡する(Holmbeck,et al.,1999)。
よって、MT1-MMPの役割は、ナノモル濃度で有効な、MT1-MMPの選択的アロステリック阻害抗体(LEM2/15)を用いて評価した(Udi,et al.,2015)。重要なことには、この抗体は、細胞表面におけるプロMMP-2の活性化および酵素の二量体形成に著しく干渉することなく、細胞表面に発現するMT1-MMPと選択的に相互作用し、そのコラゲナーゼ活性を阻害することが示されている(Udi,et al.,2015)。インフルエンザ感染の間のMT1-MMPの役割を評価するために、マウスを、致死量に達しないインフルエンザウイルスに感染させ、疾患経過の間、ビヒクル(PBS)、対照抗体、または抗MT1-MMP抗体のいずれかによって処置した(26、49、74時間;図4A~K)。感染から74時間後における組織切片から、典型的な画像を図4A~Kに示す。水和している脱細胞化された組織のAirSEM画像により、MT1-MMPのコラーゲン分解活性をブロックすると、組織の完全性(肺胞構造および気管支構造の両方)、ECM構造、およびコラーゲン構造、ならびにECMスキャフォールドの分子的組成が保護されることが示された(図4B~E)。第二次高調波発生における2光子顕微鏡法の3D解析により、感染マウスが抗MT1-MMP阻害剤による処置を受けた場合、I型コラーゲン線維はより豊富であり、連続的な肺胞嚢境界を維持していることが示された(図4F~G)。さらに、MT1-MMPのタンパク質分解活性をブロックすることにより、基底膜の主要な構成要素であるラミニンもまた、感染肺において、分解から保護されることが示された(図4H~J)。最後に、機能的なin situザイモグラフィによって、処置後の著しいタンパク質分解の減弱が示され(図4J~K)、MT1-MMPが、感染状況における組織破壊の主要な促進要因であることが示唆された。
MT1-MMPが、免疫調節に関わっているか否かをさらに理解するために、感染から74時間後に、抗MT1-MMP阻害剤または対照抗体のいずれかを用いて、マクロファージ、好中球、リンパ球、およびナチュラルキラー(NK)細胞の存在量を分析した。その結果、感染肺へのマクロファージと好中球の動員がいずれも亢進しており、抗MT1-MMPで処置した動物と対照で処置した動物との間で検出可能な違いは見られなかった(図11A)。さらに、F4/80マーカーを染色した肺組織切片において、抗MT1-MMP処置による同様なマクロファージの浸潤が観察された(図11B~C)。加えて、主要な免疫調節サイトカイン(IL-1β、およびTNF-α)(これらは、感染過程において主要な役割を果たすことが示されている(Aldridge,et al.,2009;Glaccum,et al.,1997;Goldbach-Mansky and Kastner,2009))のサイトカインレベルを評価するために、抗MT1-MMPで処置したマウスならびに対照で処置したマウスの両方から気管支肺胞洗浄液(BALF)を集めた。インフルエンザ感染マウスにおいて、MT1-MMP活性とは無関係に、IL-1βとTNF-αの両方が強力に誘導されており(図11D~F)、免疫応答が影響を受けないことが示唆された。
MT1-MMP活性によって、インフルエンザ感染の間にウイルス負荷量が調節されるか否かを評価するために、プラーク形成単位(PFU)アッセイを行い(図12A)、PFUアッセイを用いてウイルスRNAも定量した(図12B)。さらに、感染から24時間後および74時間後の両方におけるウイルス存在量のための染色を、肺組織切片に施した(図12D~F)。全体的には、これらの分析によって、MT1-MMPの阻害は、ウイルス負荷に対して最小限の効果しか示さないことが示され、その効果は感染の初期段階(24時間)に限られており、後期段階には効果は認められなかった。これらの結果によって、MT1-MMPは、免疫調節またはウイルス負荷量の制御と顕著な関係がないことが実証され、よって、インフルエンザ感染に対するMT1-MMPの主要な影響は、ECM線維タンパク質の大規模な分解と、そのコラゲナーゼ活性に基づく組織損傷である。
組織損傷は、ウイルスの細胞病理に基づくものではなく、宿主のタンパク質分解活性に基づくものである
本発明者らは、次いで、肺組織における破壊性表現型が、ウイルスの細胞病理による直接的な結果であるのか、あるいは調節不全なECMのタンパク質分解を促進する宿主の免疫応答の結果であるのかを検討した。一般的なインフルエンザ処置であるリン酸オセルタミビル(タミフル)(インフルエンザウイルスA型およびB型のノイラミニダーゼの選択的阻害剤)を分析した(図13A~D)。ビヒクル処置マウスと、タミフル処置マウスの全肺ホモジネートに基づくウイルス力価を、qPCRを用いて定量し(図13C)、AirSEMを用いて肺組織切片において可視化した、肺の構造的特徴のトポグラフィーと比較した(図9A~B)。タミフルは、ウイルス負荷を劇的に減少させ(10~100分の1)、これは、組織が程度は低いが持続的に存在するウイルスにさらされていることを示している(図13C)。ウイルス力価がより低いにもかかわらず、ビヒクル処置マウスとタミフル処置マウスの両方において、同様な破壊性の肺組織表現型およびECM表現型(これには多病巣性の細胞壁薄化および肺胞細胞の大幅な喪失が含まれる)が観察された(図13A、およびB)。このような不可逆的な破壊は、バリアの完全性喪失の主要な原因であり、これにより細菌の侵入を可能にする機会をもたらし得る。これらの結果から、本発明者らは、MT1-MMPのタンパク質分解をブロックしてECMの完全性を保護することによって、インフルエンザ-細菌重複感染の致死的な結果を改善しうるか否かを検討することにした。
感染マウスにおけるMT1-MMPをブロックすることによって、組織維持および敗血症予防が促進される
上記したように、インフルエンザウイルスの感染は、現在の第1選択であるウイルスを標的とするインフルエンザ薬物治療にもかかわらず、ECMの分子的組成および肺の構造に壊滅的な損傷を与える。インフルエンザによって誘発されるECMタンパク質分解の生理学的意義をさらに裏づけ、インフルエンザに感染した入院患者を脅かす頻発する状態を模倣するために、肺炎球菌(S.pneumoniae)を用いた、インフルエンザの二次的細菌感染に関する確立されたプロトコルを使用した(McCullers and Herman,2001;McCullers,2003;McCullers,2004)。マウスの10個の群(各群あたりマウス10匹)を、PR8インフルエンザウイルスと、それに続く肺炎球菌(S.pneumoniae)(いずれも致死量に達しない)とを合わせて、96時間内に2回感染させ(図5)、別々の群を、ビヒクル、無関係な対照抗体、タミフル、抗MT1-MMP、または両薬剤の併用療法のいずれかによって処置した。潜在的な処置モードを模倣するために、マウスを2つの異なるプロトコル、すなわち予防(感染前)または治療(感染後)、で処置した(図5A~B)。予防剤(タミフル-1)としてタミフルによる処置を受けたマウス群は、抗MT1-MMPの投与を受けた群と同じ生存率および臨床スコアを示し(図5B~C)、これは、予防処置として投与した場合、重複感染によって引き起こされる死亡の予防において、抗ウイルスまたはECM保護の有効性が同等であることを示唆している。
タミフルを感染後に投与した場合、入院期間またはインフルエンザ症状の減少に有効ではないことを実証する報告(Jefferson,et al.,2014)と一致して、タミフルで処置した重複感染マウス(+1群)は、ビヒクル群(20%生存)に対して、反応の改善を示さなかった(図5E~F)。これらの同じ治療状況において(図5D)、抗MT1-MMP阻害剤による処置は著しく優れており、顕著な治療効果を示している(70%生存)。重要なことには、タミフルと、抗MT1-MMPとの併用投与処置の適用は、予防的または処置的に使用した場合に、100%の生存率という結果をもたらす(図5B~E)。これは、タミフル(-1)群の、肺胞構造および気管支構造の破壊性表現型を実証するAirSEM画像によってさらに裏づけられ、このことは、予防的手段としてであっても、タミフルは肺ECMにおける付随的な損傷の予防に有効ではないことを示唆している(図14)。インフルエンザ感染における、ECM線維性タンパク質の分解、基底膜の構成要素の破壊、および空気血液関門の破壊に関するこれらの観察結果を拡張するために、本発明者らはさらに、重複感染マウスについて、血流中への細菌の伝播(敗血症)、および遠隔臓器の感染に関する検討を行った。ビヒクル処置マウスは、細菌感染の2日後に、菌血症を発症し、脾臓への肺炎球菌(S.pneumoniae)の伝播を示したが、抗MT1-MMP阻害剤の投与を受けたマウスは、全身的な細菌伝播を起こさず、局部に限られた肺感染を維持していた(図5G~H)ことが見いだされた。
考察
本実施例により、インフルエンザ感染と戦うための治療戦略は、ウイルスの伝染性を標的とするだけではなく、組織耐性を増大させることも目的とすべきであることが示唆される。これは、とりわけ(ハイリスク集団内で生存者を減少させる、主要なリスクファクターである)肺炎球菌(S.pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、およびインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)を含む二次的細菌感染を考慮した場合に特にあてはまる(McCullers and Herman,2001;McCullers,2014;Morens,et al.,2008)。重複感染は、多くの場合、ウイルスの侵襲に対する免疫系の強い応答によって引き起こされる重篤な肺炎症をもたらす。これらの応答は、組織の恒常性に劇的な障害(呼吸器上皮成分、ECM成分、および基底膜成分の破壊を含む)を与える。ウイルス感染に対する宿主応答としては、酸化ストレスに関連する組織損傷が挙げられる(Avissar,et al.,1996;Bozinovski,et al.,2012;Campbell,et al.,1987;Suliman,et al.,2001;Yatmaz,et al.,2013)。一方で、MMP活性は、感染に対する正常な免疫応答のために必要である。他方、宿主由来のMMPは、感染に関連する免疫病理を引き起こし得る。このパラドックスは、正常なMMP機能と、破壊性のMMPに関連する宿主組織損傷との、微妙なバランスの結果としてもたらされる(Elkington,et al.,2005)。MMPはECMの不可逆的なリモデリングにおいて決定的な役割を果たすので、これらの強いプロテアーゼは、厳密に調節および制御されている(Gaffney J,2015;Lopez-Otin and Matrisian,2007;Turk,2006)。さらに、感染の間の組織恒常性の維持は、活性型プロテアーゼを発現している免疫細胞が呼吸器の病原体に向けて動員される場合、困難であり得る。
インフルエンザに感染した肺の、ゲノム全域にわたる転写プロファイリングを用いることにより、細胞外マトリックスの代謝回転およびタンパク質異化に関与する桁外れに多数の遺伝子が、感染過程の間の種々の時点で観察された。以前の研究では、ヒト呼吸器の気管支細胞株および上皮細胞株を用いた種々のインフルエンザウイルス株に対するin vitro宿主応答の比較、ならびにマウスおよびフェレットにおけるin vivo実験の比較によって、インフルエンザ感染の間の転写特性を評価した(Bortz,et al.,2011;Brandes M,2013;Chevrier,et al.,2011;Elkington,et al.,2005;Hartmann,et al.,2015;Josset,et al.,2014;Kash,et al.,2004;Leon,et al.,2013;Ljungberg,et al.,2012;Peng,et al.,2014;Shapira,et al.,2009)。MT1-MMPとヒトへの感染との関連性を評価するために、in vitroでH1N1インフルエンザ株A/PR/8/34に感染させた初代ヒト気管支上皮細胞からのデータを解析した。ヒトマクロファージはより優れたモデルであろうが、このデータによって、MT1-MMPが、初代ヒト細胞モデルにおいてもアップレギュレートされることが示され(図15)(Shapira,et al.,2009)、本発明者らの発見と、インフルエンザ感染に対するヒトECMリモデリング応答との関連性を示唆している。
これらの研究から発展し、本発明者らは、インフルエンザ感染の間のECMリモデリング、および、特にMT1-MMPの活性に体系的な分析を集中させた。注目すべきことには、恒常性を保っている間、MT1-MMPは、健康な肺において間質細胞によってほとんど全体的に発現されていることが見いだされた。これに対し、感染後、MT1-MMPの発現は主に免疫区画で観察され、コラーゲン分解活性の増大を伴っていた。MT1-MMP発現細胞集団の解析によって、サイトカイン、ケモカイン、および抗ウイルス応答遺伝子との強い関連が示され、MT1-MMPが、宿主の抗ウイルス応答プログラムの内因性回路であることが裏づけられた。線維性コラーゲンおよび基底膜コラーゲン(colIV、colXII、colXIV)ならびにプロテオグリカンを含む複数の既知のMT1-MMP基質(Koziol A1,2012;Stegemann,et al.,2013)が、不可逆的に切断され、インフルエンザ感染マウスの肺から失われることもまた見いだされた。これらの組成的な変化は、ECMスキャフォールドの分解および上皮細胞の喪失を伴い、よって、肺胞腔の喪失、肺胞壁の菲薄化、および気道構造の歪曲を含む破壊性表現型をもたらす。合わせると、インフルエンザ感染は、MT1-MMPの発現および活性を促進し、それが肺の完全性および機能の維持に必要な、構造的なECM成分の無制御な分解をもたらすことが示された。
MT1-MMP発現レベルの上昇は、進行したステージおよび予後不良に関係する浸潤性マーカーとしてのMT1-MMPに関連がある、がん細胞転移の文脈で説明されてきた(Zarrabi,et al.,2011)。この特性は、MT1-MMPのコラーゲン分解活性が原因だとされ、細胞周囲の環境および内皮バリアを分解し、転移細胞の通り道を形成する。しかしながら、インフルエンザ感染におけるMT1-MMPの役割について、以前に報告されたことはなかった。したがって、大部分のメタロプロテイナーゼの内因性阻害剤であるTIMP-1およびTIMP-3などの、メタロプロテイナーゼ(TIMP)の組織阻害剤に関する発現レベルの上昇が注目された。しかしながら、MT1-MMPの内因性阻害剤であるTIMP-2の発現レベルは、著しい変化を示さなかった。その他のECM酵素は、インフルエンザ感染においても役割を果たすことが示されていた(Bradley,et al.,2012)。タンパク質レベルでのMMP-8の著しい増加もまた注目された(図6A~D)。
以前の研究は、インフルエンザ感染の間の、炎症に付随する障害に由来する、ウイルスの細胞変性効果からの解放を探求してきた(Boon,et al.,2011;Kash,et al.,2004;Kobasa,et al.,2007;Tate,et al.,2009)。本研究において、ウイルス力価が低い場合であっても、肺のECM破壊は著しいことが示された。このことは、感染の間のECMの主要な障害は、直接的なウイルス負荷量とは無関係の、宿主応答に関連するタンパク質分解イベントによって促進される、並列の経路であることを示唆している(Jamieson,et al.,2013;Medzhitov,et al.,2012;Schneider and Ayres,2008)。このような状況において、ECM障害は、MT1-MMPのタンパク質分解活性を選択的に調節することによって、ほとんど完全に救済しうることが、本研究で示された。抗MT1-MMP阻害Fabフラグメントを用いて、ウイルス複製とは無関係に、組織構造の維持、およびインフルエンザ感染の転帰の改善が可能であった。注目すべきことに、このMT1-MMP抗体は、コラゲナーゼ活性の標的化について選択性が非常に高く、組織の恒常性に必要とされる、酵素の二量体形成およびプロMMP-2の成熟を阻害しない(Udi,et al.,2015)。本研究によって、MT1-MMPは、免疫細胞の動員、またはIL-1βおよびTNF-αの産生に決定的には関与していないことが示される。これは、マクロファージ由来MT1-MMPが、下位の細胞タンパク質分解を調節し、宿主組織を通した遊走または細胞トラフィッキングに直接的には関与していない、という以前の研究と一致している(Shimizu-Hirota,et al.,2012)。
自然な疾患進行を模倣するために、インフルエンザと肺炎球菌(S.pneumoniae)との重複感染状態を用いて、タミフル単独によるウイルスの標的化は、ECM障害の制御に不十分であり、細菌感染後の疾患管理が成功することを予期できないことが示された。重要なことに、MT1-MMP活性の阻害(これは、ウイルス負荷量に著しい影響を与えることなく、組織構造および組成を保護する)は、予防剤または治療剤のいずれかとして投与した場合、疾患管理の改善を示す。これと一致して、タミフルで処置したマウスは、肺から体循環への細菌の伝播によって敗血症を発症するが、MT1-MMP阻害抗体で処置したマウスは、血液空気関門の破壊による細菌の拡散が減少することが示された。これは、組織恒常性の維持は、少なくとも我々のインフルエンザモデルにおいて、ウイルス負荷量の調節と治療上同じように重要な、並列的なプロセスであることをさらに示唆している。重要なことに、これらの2つの処置を組み合わせることによって、予防モードおよび治療モードの両方において、完全な生存率が達成された。これは、2つの戦略、すなわちウイルス複製の標的化、ならび宿主バリアの恒常性の維持および組織破壊の阻止を組み合わせることにより、生存転帰が著しく増大するという、本発見をさらに裏づけている。
本発明を、特定の実施形態と共に説明してきたが、多くの代替、改変、および変形が当業者には明らかであろう。したがって、添付されている特許請求の範囲の趣旨および幅広い範囲内の、全てのこのような代替、改変、および変形を包含することが意図されている。
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