JP7093557B2 - 導入剤、キット、物質導入方法、及びスクリーニング方法 - Google Patents
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Description
本願は、2016年7月19日に、日本に出願された特願2016-141219号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
これまでin vitroで活性を持ちながら、細胞膜透過性を持たない化合物は、細胞を用いたスクリーニングでその効用が検証できず見過ごされてきた。しかしながら、膜不透過性化合物を細胞内に導入できれば、これまで見逃されてきた活性のある化合物を新たに見つけることができる。また、それをリード化合物として優れた活性を持つ新規化合物を合成することも可能となる。
本発明の第1態様に係る導入剤は、30℃以上40℃以下における膜穿孔活性の至適pHが、0以上6未満の範囲であるコレステロール依存性細胞溶解毒素を含有し、細胞への物質導入に用いられる。
前記コレステロール依存性細胞溶解毒素が、リステリオリシンOであってもよい。
上記第1態様に係る導入剤において、分子量1kDa以上15kDa以下の前記物質の導入率が、分子量30kDa以上200kDa以下の前記物質の導入率よりも高くてもよい。
導入剤のpHが6以上10以下であってもよい。
前記コレステロール依存性細胞溶解毒素の含有量が、0.01μg/mL以上1μg/mL以下であってもよい。
更に、前記工程1の後、カルシウムイオンを含む液を、前記孔が形成された細胞に接触させ、前記孔を再封入する工程2を含んでもよい。
前記工程2において、外来の細胞質を含む液を前記孔が形成された細胞に接触させずに、前記孔を再封入してもよい。
前記工程1において、前記穿孔は、前記コレステロール依存性細胞溶解毒素を、pH6以上10以下の条件下で前記細胞に作用させて行ってもよい。
導入する前記物質の分子量が、0.1kDa以上20kDa以下であってもよい。
導入する前記物質が核酸を含んでもよい。
上記第4態様に係る物質のスクリーニング方法において、更に、工程Aの後に、前記被験物質が導入された細胞又はその調整物と、被験物質が導入されていない細胞又はその調整物とを比較し、前記被験物質を評価する工程Bを含んでもよい。
上記態様に係るスクリーニング方法によれば、細胞へのダメージを生じさせ難く、被験物質を高効率に細胞内へと導入できるので、細胞本来の機能が反映された高精度な被験物質のスクリーニングが可能となる。
本発明の一実施形態に係る導入剤は、細胞への物質導入に使用されるものであって、30℃以上40℃以下における膜穿孔活性の至適pHが、0以上6未満の範囲であるコレステロール依存性細胞溶解毒素を含有する。
以下、実施の形態に基づき、本実施形態の導入剤を説明する。
細胞にコレステロール依存性細胞溶解毒素を接触させると、細胞膜に孔が形成され、形成された孔を通じて物質を導入できる。すなわち、前記物質導入とは、コレステロール依存性細胞溶解毒素によって細胞膜に形成された前記孔を介した、物質導入を意味する。
本発明者らは、30℃以上40℃以下における膜穿孔活性の至適pHが、0以上6未満の範囲であるコレステロール依存性細胞溶解毒素を用いることにより、SLOを用いた場合よりも細胞へのダメージが少なく、高効率に物質を細胞内に導入可能なことを見出した。
細胞の状態を良好に保ちつつ、細胞の処理を行おうとするとき、中性付近のpHを有する液で処理することが通常である。ここでpHが0以上6未満の範囲に至適pHを有するコレステロール依存性細胞溶解毒を用いると、細胞状態が良好で且つ膜穿孔活性が穏やかに発揮され、物質導入用途に好都合な程度に細胞が穿孔されるものと考えられる。
上記至適pHは、pH1以上6未満であってもよく、pH3以上5.5以下であってもよく、pH4.5以上5.5未満であってもよい。
本実施形態の導入剤が含有する前記毒素は、LLOと実質的に同等の機能を有するタンパク質であってもよい。LLOは天然に存在する天然型のタンパク質であってもよい。又は、LLOは天然型と同等の機能を有するものであれば、天然型とは異なるアミノ酸配列、修飾、付加等を有する突然変異型又は人為的改変型のタンパク質であってもよい。
物質の導入率は、例えば、実施例に記載の手法により確認できる。本発明者らは、後述する実施例に示すように、LLOを用いて、分子量10kDa、40kDa、70kDa、及び150kDaの、それぞれ分子量の異なる蛍光標識デキストランの細胞への導入率を計測した。LLOによる穿孔では、中分子量(10kDa)のデキストランの細胞への導入率が、その他の分子量(40kDa、70kDa、150kDa)のデキストランよりも大きいことが判明した。
このような中分子の選択的な透過性は、SLOを用いた可逆的膜穿孔法では、確認されていない。
細胞膜に開いた孔を通じて細胞内へ物質を導入可能であるということは、同様に当該孔を通じて細胞内の成分が細胞外へと流出する可能性がある。例えば、細胞質に含まれる酵素の分子量は20kDa以下程度のものが多いとされている。分子量1kDa以上15kDa以下の物質の導入率が、分子量30kDa以上200kDa以下の物質の導入率よりも高いことにより、より細胞へのダメージを生じさせ難く、良好な細胞状態で物質を高効率に細胞内へと導入できる。
導入剤100質量%中に含まれるコレステロール依存性細胞溶解毒素の含有量は、例えば、1質量%以上100質量%以下であってもよく、10質量%以上98質量%以下であってもよく、50質量%以上90質量%以下であってもよく、60質量%以上80質量%以下であってもよい。
前記粉体としては、例えば、コレステロール依存性細胞溶解毒素の乾燥物が挙げられる。前記粉体の水分含量は、一例として、0質量%以上20質量%以下であってよく、5質量%以上10質量%以下であってよい。
前記粒状体としては、前記粉体の成形体が挙げられる。
前記液体としては、コレステロール依存性細胞溶解毒素が媒体に分散又は溶解した、コレステロール依存性細胞溶解毒素の分散体又は溶液が挙げられる。前記媒体としては、水性溶媒が挙げられ、具体的には、水、バッファー、血清非添加培地等の細胞培養に用いられる各種培地が挙げられる。
なお、本明細書において、「培養」とは、生体(個体)外で細胞を飼育又は生育させることを指す。飼育又は生育の期間は、例えば1分以上7日以下であってもよく、5分以上16時間以下であってもよく、10分以上1時間以下であってもよい。
また、「培地」とは、細胞を培養可能なもの全般を指す概念である。導入剤が培地である場合、導入剤からコレステロール依存性細胞溶解毒素該毒素を除いた残りの成分は、非常に短期間でも細胞を培養できるものであればよく、一般的に培地とは称されないバッファーや水等であってもよい。培地に含まれ得る成分としては、通常の細胞培養用の培地に含有される成分が挙げられる。前記成分として具体的には、例えば、グルコース、塩化ナトリウム、ビタミン・ミネラル類、アミノ酸類等の栄養成分、成長因子、細胞増殖因子、分化誘導因子、抗菌剤、抗真菌剤等を挙げることができる。
上述の、分子量1kDa以上15kDa以下の物質の導入率が、分子量30kDa以上200kDa以下の物質の導入率よりも高いという傾向を得たい場合には、上記の濃度範囲のうち、導入剤に含まれるコレステロール依存性細胞溶解毒素の含有量を0.05μg/mL以上0.3μg/mL以下の範囲とすることができる。
上記範囲内にある導入剤では、細胞をより良好に培養できる。更には、pHが0以上6未満の範囲に至適pHを有するコレステロール依存性細胞溶解毒素の膜穿孔活性が、より穏やかに発揮される点からも好ましい。
LLOは、pHが0以上6未満の範囲に至適pHを有するとされ、物質導入に使用されることは試みられてこなかった。
しかし、本発明者らは、驚くべきことに、LLOを用いることで、細胞へのダメージを生じさせ難く、物質を高効率に細胞内へと導入できることを見出した。
本実施形態の導入剤によれば、pHが0以上6未満の範囲に至適pHを有するコレステロール依存性細胞溶解毒素を含有するので、細胞へのダメージを生じさせ難く、物質を高効率に細胞内へと導入できる。
本発明の一実施形態に係るキットは、上述の導入剤を備え、細胞の物質導入に用いられるものである。
以下、実施の形態に基づき、本実施形態のキットを説明する。
このように、後述の本実施形態の物質導入方法に用いら得る試薬類を、キット化することにより、より簡便かつ短時間に物質導入方法を行うことができる。
本発明の一実施形態に係る物質導入方法は、上述の導入剤を細胞に接触させて細胞膜を穿孔し、物質を前記細胞に導入する工程1を含む方法である。
以下、導入剤がコレステロール依存性細胞溶解毒素を含有する液体培地である場合を例に、本実施形態の物質導入方法を説明する。細胞を当該培地(導入剤)で培養することで、導入剤を細胞に接触させることとなる。
以下、図1を参照し、実施の形態に基づき、本実施形態の物質導入方法を説明する。
前記導入剤を細胞に接触させて細胞膜を穿孔する穿孔工程と、
前記穿孔工程において細胞膜に形成された孔を介して、前記細胞に物質を導入する導入工程と、
前記導入工程の後、カルシウムイオンを含む液を、前記孔が形成された前記細胞に接触させ、前記孔を再封入(リシール)する再封入工程と、を含む。
穿孔工程は、導入剤を細胞に接触させて細胞膜を穿孔する工程である。
図1の(a)~(c)は穿孔工程を説明する模式図である。
図1の(a)に示すように、ウェルWには、コレステロール依存性細胞溶解毒素1(以下、「毒素1」ということがある。)を含有する培地M1(導入剤)、及び細胞Cが収容されている。コレステロール依存性細胞溶解毒素としては、上記導入剤で例示したものが挙げられる。
培地M1から毒素1を除いた培地成分としては、特に制限されず、細胞培養に用いられる培地を使用すればよく、従来公知の培地を使用してもよい。前記公知の培地として具体的には、例えば、DMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)、MEM(Minimum Essential Media)、GMEM(Glasgow's MEM)、D-PBS(Dulbecco's Phosphate-Buffered Saline)培地等が挙げられる。
毒素1を含む培地M1から、毒素1を含まない培地M2に交換することで、細胞Cに結合した以外の毒素1は、ウェルW内の反応系から取り除かれる。
上記範囲内では、細胞をより良好に培養でき、毒素1の膜穿孔活性が、より穏やかに発揮される点からも好ましい。
導入工程は、前記穿孔工程において細胞膜に形成された孔を介して、細胞に物質を導入する工程である。
図1の(d)は導入工程を説明する模式図である。図1の(d)に示すように、ウェルWには、細胞Cpに導入される物質3を含有する培地M3、及び前記穿孔工程で細胞膜に孔が形成された細胞Cpが収容されている。
図1の(d)に示すように、細胞Cpを培地M3中で培養することで、物質3が細胞Cpに形成された孔を通り、細胞Cpの細胞膜の内側に導入される。
なお、本明細書において、「細胞膜不透過性を有する物質」とは、細胞膜の脂質二重膜に溶け込めず、脂質二重膜を透過できない性質を有する物質を意味する。本実施形態の物質導入方法によれば、細胞膜不透過性の物質であっても、前記孔を通じて、細胞内に高効率に導入可能である。
再封入工程は、前記導入工程の後、カルシウムイオンを含む液を、前記孔が形成された前記細胞に接触させ、前記孔を再封入する工程である。
図1の(e)は、再封入工程を説明する模式図である。図1の(e)に示すように、培地M4はカルシウムイオン(Ca2+)を含有する。
また、本実施形態の物質導入方法では再封入工程を実施したが、本実施形態の物質導入方法において、再封入工程は必須の工程ではない。
なお、「工程1」とは、上述の「穿孔工程」及び上述の「導入工程」を示す。「工程1a」とは、前記導入剤の具体例としてコレステロール依存性細胞溶解毒素を用いた場合における、上述の「穿孔工程」及び上述の「導入工程」を示す。「工程2」とは、再封入工程を示す。
本発明の一実施形態に係るスクリーニング方法は、上述の物質導入方法を用いる方法であり、前記細胞に導入する前記物質が被験物質であり、上述の導入剤を細胞に接触させて細胞膜を穿孔し、被験物質を前記細胞に導入する工程Aを含む方法である。
以下、実施の形態に基づき、本実施形態のスクリーニング方法を説明する。
上述の導入剤を細胞に接触させて細胞膜を穿孔する穿孔工程と、
前記穿孔工程において細胞膜に形成された孔を介して、前記細胞に被験物質を前記細胞に導入する導入工程と、
被験物質が導入された細胞と、被験物質が導入されていない細胞とを比較し、前記被験物質を評価する評価工程と、を含む。
また、上述の物質導入方法において例示した、細胞に導入される物質を好適なものとして例示できる。
また、穿孔工程と導入工程とを独立の工程としてもよく、穿孔と物質導入とはほぼ同時に生じてもよい。
また、導入工程の後であって、評価工程の前に、上述の再封入工程を実施してもよい。
なお、「工程A」とは、細胞に導入する物質が被験物質である場合における上述の「穿孔工程」及び上述の「導入工程」を示す。「工程B」とは、後述の評価工程を示す。
細胞に導入された被験物質は、細胞内で機能を発揮し得る。
評価工程は、被験物質が導入された細胞と、被験物質が導入されていない細胞とを比較し、前記被験物質を評価する工程である。
比較項目は、スクリーニングの目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、疾患Aの治療剤又は予防剤の有効成分をスクリーニングするのであれば、疾患Aに関わる表現型の程度を比較項目とすればよい。より具体的には、例えば、被験物質が導入された細胞での疾患Aに関わる表現型の程度が、被験物質が導入されていない細胞での疾患Aに関わる表現型の程度よりも低い場合、被験物質が疾患Aの治療剤又は予防剤の有効成分となり得ると評価できる。
前記細胞の比較は、細胞抽出物や切片、細胞から得られた核酸の増幅産物等の細胞調整物に対して行ってもよい。
実施例で用いた試薬類を以下に示す。
・リステリオリシンO(LLO):(CEDARLANE製、型番:CLPRO320)
・ストレプトリシンO(SLO):(バイオアカデミア製、型番:01-531)
・FITC-dextran 150:(TdB製、型番:FD150)
・Dextran, Fluorescein, 40,000 MW, Anionic, Lysine Fixable:(Invitrogen製、型番:D1845)
・Dextran, Fluorescein, 10,000 MW, Anionic, Lysine Fixable (Fluoro-Emerald) : (Invitrogen製、型番:D1820)
・Dextran, Fluorescein, 70,000 MW, Anionic, Lysine Fixable : (Invitrogen製、型番:D1822)
リステリオリシンO(LLO)が細胞に可逆的に穴を開け細胞内へ分子導入可能かどうかを確かめるため、様々な分子量の蛍光標識デキストランの細胞内への導入を検証した。
まずHeLa細胞をPBSで洗浄後、LLOをDMEM(-FCS)で希釈し、それぞれLLOを1100倍希釈(0.45μg/mL)、2200倍希釈(0.23μg/mL)、3300倍希釈(0.15μg/mL)、4400倍希釈(0.11μg/mL)、5500倍希釈(0.091μg/mL)の各濃度で含むDMEM(-FCS)中で、細胞を氷上で5分培養し、細胞上にLLOを付着させた。氷上で冷したPBSで、上記細胞を3回洗浄したのち、あらかじめ温めておいたTB(transport buffer: 25mM Hepes, 1.15mM KOAC,250μM MgCl2,2mM EGTA,pH7.2) を添加し、37℃で10分間インキュベーションし、細胞膜に穿孔を形成させた。
次いで、TBで上記細胞を一回洗浄したのち、ATP再生系(1mM ATP,50μg/mL creatine kinase,2.62mg/mL creatine phosphate)、GTP(1mM)、Glucose(1mg/mL)、及び10kDa、40kDa若しくは70kDaのフルオレセイン標識デキストラン(Fluorescein-dextran、濃度100μg/mL)、又は、150kDaのFITC標識デキストラン(FITC-dextran、濃度100μg/mL)を上記終濃度となるよう添加し、37℃で30分間インキュベーションし、細胞内に導入させた。
次いで、さらに1mM CaCl2を添加して37℃で5分間インキュベーションすることで、細胞膜の再封入(リシール)を誘導した。
上記細胞をPBSで洗浄した後、DMEMに交換し、37℃5%CO2環境下で1時間培養した。次に、細胞をトリプシンで剥がし、Flowcytometryにより細胞のFITC蛍光を定量した。
結果を図2~5に示す。グラフ中の%は、インタクトの細胞に対して検出された蛍光強度の領域を含まないようゲートを設定し、Flowcytometryで検出された細胞のうちゲート内にプロットされた細胞の割合(%)を示している。
本実施例の使用濃度の条件では約10kDaまでのデキストランはLLOによって形成される孔を自由に通過可能であり、それ以上の分子量のデキストランの場合は、LLOの濃度に依存して通過しやすさが変化することがわかった。
LLOによるリシール細胞とSLOによるリシール細胞との細胞形態の比較を行った(図6)。
LLO(0.15μg/mL)又はSLO(0.125μg/mL)を含むDMEM(-FCS)中で、HeLa細胞を氷上で5分間培養し、LLO又はSLOを作用させた。上記細胞をPBSで洗浄後、温めておいたプロピジウムアイオダイド(PI)を含むTBで、37℃10分インキュベーションした。PIは細胞膜不透過性の核酸染色剤であり、細胞膜に穴が空いた細胞のみが染色される。
そのあとL5178Y細胞から調整した細胞質(1.5mg/mL)存在下(cyrosol+)又は非存在下(cyrosol-)で上記ATP再生系、GTP、グルコース及び10kDaのFluorescein-dextranを加え37℃で30分間インキュベーションをし、細胞内に導入させた。
1mM CaCl2を加えて37℃で5分間インキュベーションし、細胞膜を再度閉じた。
DMEMに交換し、37℃5%CO2環境下で30分間培養した。培養後、細胞を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察した。結果を図6に示す。
次に、膜非透過性分子を、LLOを用いて外来の細胞質の添加なしで細胞内に導入し、その分子の細胞内における機能を検定した。導入に用いたのはcAMPの膜非透過性アナログである。cAMPはPKAを活性化するため、cAMPアナログ導入後のPKAによる基質タンパク質のリン酸化について検証を行った。
まず、コントロールとして、インタクトHeLa細胞におけるPKAの基質タンパク質の検出を行った(図7)。インタクトHeLa細胞に膜透過性のPKA阻害剤(H89)、又はセリン/スレオニンフォスファターゼ阻害剤でありPKA基質のリン酸化レベルを上昇させるオカダ酸(OA)を加え、0分間、30分間、60分間、90分間又は120分間培養した。培養後の細胞からライセートを作製し、抗phospho PKA substrate抗体を用いたWestern blottingによりPKAによってリン酸化されるタンパク質のバンドを検出した。結果を図7に示す。
LLOを用いたcAMPアナログの細胞内導入を以下の方法で行った。
まず、HeLa細胞をLLO(0.15μg/mL)存在下又は非存在下で、氷上で5分間作用させた。細胞をPBSで洗浄後、PBSで37℃10分間インキュベーションした。
その後、ATP再生系、GTP、グルコースとともに1mM 8-OH-cAMP(膜不透過性活性化剤)、1mM Rp-8-OH-cAMP(膜不透過性阻害剤)存在下又は非存在下で細胞を37℃で30分間インキュベーションした。
その後、CaCl2によるリシール操作を行った。
さらに37℃5%CO2環境下で1時間培養した。その後、細胞を可溶化しライセートを作製し、抗phospho PKA substrate抗体を用いたWestern blottingによりPKAによってリン酸化されるタンパク質のバンドを検出した。結果を図8に示す。
このことは、LLO処理により導入された膜非透過性cAMPアナログが、細胞内でも確かに機能することを意味している。
次に、再度、膜非透過性分子を、LLOを用いて外来の細胞質の添加なしで細胞内に導入し、その分子の細胞内における機能を検定した。導入に用いたのはcAMPの膜非透過性アナログである。cAMPはPKAを活性化するため、cAMPアナログ導入後のPKAによる基質タンパク質のリン酸化について検証を行った。
まず、コントロールとして、インタクトHeLa細胞におけるPKAの基質タンパク質の検出を行った(図9A及び図9B)。インタクトHeLa細胞に、膜透過性の10μM、100μM、1000μM若しくは2000μMのPKA活性化剤(db-cAMP)、又は、0.3μM、3μM、30μM若しくは60μMのPKA阻害剤(H89)を加え、1時間培養した。また、コントロール1として薬剤無添加、コントロール2としてDMSO添加のインタクトHeLa細胞も同様に1時間培養した。培養後の細胞からライセートを作製し、抗phospho PKA substrate抗体を用いたWestern blottingによりPKAによってリン酸化されるタンパク質のバンドを検出した。結果を図9Aに示す。図9Aにおいて、「band-a」~「band-i」は、db-cAMPに対して濃度依存的に変化する複数のバンドを示す。また、GAPDHは、ローディングコントロールである。
図9Bからも、GAPDHの輝度に対するband-eの輝度がdb-cAMPに対して濃度依存的に上昇することが確かめられた。
LLOを用いたcAMPアナログの細胞内導入を以下の方法で行った。
まず、HeLa細胞をLLO(0.15μg/mL)存在下で、氷上で5分間作用させた。細胞をTBで洗浄後、TBで37℃10分間インキュベーションした。
その後、ATP再生系、GTP、グルコースとともに1mM 8-OH-cAMP(膜不透過性活性化剤)又は1mM db-cAMP(膜透過性活性化剤)存在下で細胞を37℃で30分間インキュベーションした。
その後、CaCl2によるリシール操作を行った。
さらに37℃5%CO2環境下で1時間培養した。その後、細胞を可溶化しライセートを作製し、抗phospho PKA substrate抗体を用いたWestern blottingによりPKAによってリン酸化されるタンパク質のバンドを検出した。結果を図10Aに示す。β-Tubulinは、ローディングコントロールである。
一方、上記band-eは、インタクトのコントロール実験と比較して、膜透過性活性化剤であるdb-cAMP導入時に若干弱く検出された。
図10Bからも、β-Tubulinの輝度に対するband-eの輝度が、膜透過性活性化剤であるdb-cAMP導入時よりも、膜非透過性cAMPアナログが導入時に上昇することが確かめられた。
LLOを用いたcAMPアナログの細胞内導入を以下の方法で行った。
まず、HeLa細胞をLLO(0.15μg/mL)存在又は非存在(コントロール)下で、氷上で5分間作用させた。細胞をTBで洗浄後、TBで37℃10分間インキュベーションした。
その後、ATP再生系、GTP、グルコースとともに1mM 8-OH-cAMP(膜不透過性活性化剤)存在又は非存在下で細胞を37℃で30分間インキュベーションした。
その後、CaCl2によるリシール操作を行った。
さらに37℃5%CO2環境下で1時間培養した。その後、細胞を可溶化しライセートを作製し、抗phospho PKA substrate抗体を用いたWestern blottingによりPKAによってリン酸化されるタンパク質のバンドを検出した。結果を図11Aに示す。β-Tubulinは、ローディングコントロールである。
一方、LLO処理を行わなかった場合では、上記band-eは、インタクトのコントロール実験と比較して、若干弱く検出された。
図11Bからも、β-Tubulinの輝度に対するband-eの輝度が、本実施形態の物質導入方法を用いた場合に上昇することが確かめられた。
次に、異なる膜非透過性分子を、LLOを用いて外来の細胞質の添加なしで細胞内に導入し、その分子の細胞内における機能を検定した。導入に用いたのはAkt阻害剤である。Aktは、PH(Plekstrin Homology)ドメインをN末に有するセリン/スレオニンキナーゼである。また、Aktは細胞死(アポトーシス)を制御する重要な細胞内シグナル伝達因子である。Aktは、Thr308とSer473とがリン酸化されることで、活性化する。そのため、Akt阻害剤導入後のAktのリン酸化について検証を行った。
LLOを用いたAkt阻害剤の細胞内導入を以下の方法で行った。なお、各工程の概要図を図12Aに示す。図12Aにおいて、上の矢印が各工程における操作の概要を示している。また、下の四角は、サンプルごとに加えた試薬の種類及びタイミングを示している。
まず、HeLa細胞をLLO(0.15μg/mL)存在下で、氷上で5分間作用させた。細胞をTBで洗浄後、TBで37℃10分間インキュベーションした。
その後、ATP再生系、GTP、グルコースとともに、Akt阻害剤存在又は非存在下で細胞を37℃で30分間インキュベーションした。なお、Akt阻害剤として、1mMの配列番号1(AVDTHPDRLWAWEKF)に示すアミノ酸配列からなるペプチド(Akt-in)、50μMの配列番号2(YGRKKRRQRRRAVDTHPDRLWAWEKF)に示すアミノ酸配列からなるTAT標識された前記ペプチド(TAT-Akt-in)、又は、31.2μMのトリシリビンを添加した。
その後、CaCl2によるリシール操作を行った。
さらに37℃5%CO2環境下で2時間培養した。なお、図12Aに示すとおり、TAT-Akt-in及びトリシリビンは、リシール後においても培地に添加して培養した。その後、EGTを添加し、5分間培養した。その後、細胞を可溶化しライセートを作製し、抗リン酸化Akt(P-Akt)抗体及び抗総Akt(Total-Akt)抗体を用いたWestern blottingによりリン酸化Akt及び総Aktを検出した。結果を図12Bに示す。
一方、Akt阻害剤存在下で培養した細胞では、Akt阻害剤非存在下で培養した細胞と比較して、リン酸化Aktが顕著に弱く検出された。
図12Cからも、Akt阻害剤非存在下で培養した細胞では、EGT刺激により、総Akt(Total-Akt)の輝度に対するリン酸化Akt(P-Akt)の輝度が顕著に上昇することが確かめられた。また、Akt阻害剤存在下で培養した細胞では、Akt阻害剤非存在下で培養した細胞と比較して、リ総Akt(Total-Akt)の輝度に対するリン酸化Akt(P-Akt)の輝度が顕著に低下することが確かめられた。
また、膜非透過性のAkt-in存在下で培養した細胞と、膜透過性のTAT-Akt-in存在下で培養した細胞とでは、総Akt(Total-Akt)の輝度に対するリン酸化Akt(P-Akt)の輝度に大きな差は見られなかった。さらに、膜透過性のトリシリビン存在下で培養した細胞では、総Akt(Total-Akt)の輝度に対するリン酸化Akt(P-Akt)の輝度が、特に顕著に低下した。
本実施形態のスクリーニング方法によれば、細胞へのダメージを生じさせ難く、被験物質を高効率に細胞内へと導入できるので、細胞本来の機能が反映された高精度な被験物質のスクリーニングが可能となる。
Claims (7)
- 30℃以上40℃以下における膜穿孔活性の至適pHが、0以上6未満の範囲であるコレステロール依存性細胞溶解毒素を含有し、細胞への物質導入に用いられる導入剤を細胞に接触させて細胞膜を穿孔し、物質を前記細胞に導入する工程1を含み、
前記コレステロール依存性細胞溶解毒素が、リステリオリシンOであり、
導入する前記物質の分子量が、0.1kDa以上20kDa以下であり、
前記コレステロール依存性細胞溶解毒素を含有する培地M1で、0℃以上10℃以下の温度で前記細胞を培養した後、前記コレステロール依存性細胞溶解毒素を含まない培地M2に交換し、30℃以上40℃以下の温度で前記細胞を培養して前記穿孔を行い、
前記培地M1に含まれる前記コレステロール依存性細胞溶解毒素の濃度が0.091μg/mL以上0.45μg/mL以下であり、
前記穿孔は、前記コレステロール依存性細胞溶解毒素を、pH7以上10以下の条件下で前記細胞に作用させて行う、物質導入方法。 - 更に、前記工程1の後、カルシウムイオンを含む液を、前記孔が形成された細胞に接触させ、前記孔を再封入する工程2を含む請求項1に記載の物質導入方法。
- 前記工程2において、外来の細胞質を含む液を前記孔が形成された細胞に接触させずに、前記孔を再封入する請求項2に記載の物質導入方法。
- 導入する前記物質が核酸を含む請求項1~3のいずれか一項に記載の物質導入方法。
- 前記導入剤の分子量1kDa以上15kDa以下の前記物質の導入率が、分子量30kDa以上200kDa以下の前記物質の導入率よりも高い請求項1~4のいずれか一項に記載の物質導入方法。
- 請求項1~5のいずれか一項に記載の物質導入方法において、
前記細胞に導入する前記物質が被験物質であり、
30℃以上40℃以下における膜穿孔活性の至適pHが、0以上6未満の範囲であるコレステロール依存性細胞溶解毒素を含有し、細胞への前記被検物質の導入に用いられる導入剤を細胞に接触させて細胞膜を穿孔し、前記被験物質を前記細胞に導入する工程Aを含み、
前記コレステロール依存性細胞溶解毒素が、リステリオリシンOであり、
導入する前記被検物質の分子量が、0.1kDa以上20kDa以下であり、
前記コレステロール依存性細胞溶解毒素を含有する培地M1で、0℃以上10℃以下の温度で前記細胞を培養した後、前記コレステロール依存性細胞溶解毒素を含まない培地M2に交換し、30℃以上40℃以下の温度で前記細胞を培養して前記穿孔を行い、
前記培地M1に含まれる前記コレステロール依存性細胞溶解毒素の濃度が0.091μg/mL以上0.45μg/mL以下であり、
前記穿孔は、前記コレステロール依存性細胞溶解毒素を、pH7以上10以下の条件下で前記細胞に作用させて行い、
前記被験物質が前記細胞内で所望の機能を発揮する物質であるかをスクリーニングする、物質のスクリーニング方法。 - 更に、前記工程Aの後に、前記被験物質が導入された前記細胞又はその調整物と、被験物質が導入されていない細胞又はその調整物とを比較し、前記被験物質が前記細胞内で所望の機能を発揮する物質であるかを評価する工程Bを含む請求項6に記載の物質のスクリーニング方法。
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