JP7054487B1 - 製造業における循環型・低炭素型生産システムの構築方法 - Google Patents

製造業における循環型・低炭素型生産システムの構築方法 Download PDF

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Abstract

【課題】従来ではプラントの異常を監視し、過去からの経験則等に基づき、当該プラントに固有なメンテナンス、もしくは定期的なSDMを実施して運用しているが、それらの基本計画は各装置や設備を個別に捉えたものであり、物理的・機能的な寿命に関するものであった。循環型・低炭素型生産システムの構築には、経済的で、かつ環境的な寿命をも配慮し、関連企業群との情報連携を図る。【解決手段】商品を製造するプラントのライフサイクル全体にわたって、経過時間的な劣化事象に対しての定期的なSDMの処置実施と、一方、使用時間的に顕在化する特異的劣化事象に対しては最適処置を決定・実施して運用の最適化を図るとともに、環境的な評価を配慮しつつ、関連企業群間において処置実施の結果との照合結果を事後情報として共有する。【選択図】図1

Description

特許法第30条第2項適用 令和3年4月27日に一般社団法人日本高圧力技術協会の第102回EST-3委員会(Web会議)にて発表
本発明は、製造業における循環型・低炭素型生産システムの構築に関する。
商品を製造するための製造用プラントもしくは生産ライン(以降、総称してプラントと略す)での構成機器の時間的な状態変化に関連するデータや当該商品の製造に関する情報を取得して、プラントや構成機器の性能、機能性および健全性を診断し、時間経過による通常劣化の進展や使用時間による特異的な異常の兆候が検出されれば、当該原因を探索して、適切な時期に保全、補修、新品交換などにより改良・復旧・回復を図っている。上記のプラントや構成機器の診断は、各目的とする検査項目に応じたデータの採取や計測、サンプルの採取・分析などを行い、当該入手したデータや運転情報を必要に応じて加工・変換し、予め設定した目標値もしくは上限値/下限値との比較による診断を行い、さらに、劣化要因ノウハウ集あるいはトラブルシューティング集などとの照合や当該専門家のノウハウや経験知に基づいて対策を行っている。
例えば、前記プラントではシステムデータとして、各温度、各圧力、各流量、各液レベル、ならびにプラントの商品品質に関連するデータ等を取得し、取得されたデータの強さや分布を所定の閾値や分布と比較することにより通常劣化の進展や特異的な異常の判定もしくは不良発生の有無を判定している。しかし、所定の閾値や分布との比較による判定結果に基づく警報発令の時点では、検知時期が遅く、特異的異常の種別や発生の部位によっては故障もしくは事故、ならびに不良品の発生のリスクが大きくなり、特に複雑化したプラントにおいては、因果関係が多重になっていて異常もしくは不良の原因が不確定な場合も多い。従来技術では、定常からのズレを検知する手法が基本であるため、非定常状態における潜在異常の発生の検出が遅れること、当該異常もしくは不良事象の因果関係を効率的に探索できない、もしくは前記原因の確定及び生起確率を精度良く評価できず、商品の品質確保やプロセス異常の発生リスクの低減に限界があるという課題があった。
さらに、以上に述べた課題は、物理的な、もしくは機能的な寿命に関するものであり、経済的・環境的寿命に配慮した持続可能な運用という全体最適化を実現できていないという課題があった。つまり、ライフサイクルメンテナンス(以降、LCMと略す)により循環型・低炭素型生産システムを実現するためには、商品を製造する製造企業体Aと、当該商品を製造するためのプラントに関する要求仕様や基本設計条件等を記載した発注書に基づき、当該プラントを構成する設備類及び部品類を、当該製造企業体Aへ納入する複数の設備メーカ群B1と、複数の部品メーカ群B2と、当該プラントの運用において通常劣化が進展もしくは特異的な異常もしくは不良状態となった設備類及び部品類の保全・処置を行うメンテナンス企業Mと、を合わせて製造関連企業群とし、また最終顧客へ当該商品を販売する販売企業体Uは商品の種類、販売量、機能・品質のレベル、単価、納期などの要求事項の最新情報を製造企業体Aに伝達、発注し、当該製造企業体Aは、受注した商品を製造するプラントの運転状態とメンテナンスの要求度合いとを勘案し、経済的にも環境的にも持続可能な運用を行うには、データ分析・状態推定・予測等の精度の向上、信頼性の確保、最適化手法の選択という観点、および上記した製造企業体Aのプラント現場で得られる下流側情報を、上流側のメーカ群B1やB2での開発・設計・生産技術などの改良、もしくは販売企業体Uでの商品企画等の市場性向上や開拓のために、どのように構造化して伝達するのか、関連企業間にて情報連携をどのように図るのか、という観点に欠けていた。
一方、生産ラインでは、工場の見える化や稼働状況モニタリングが広く普及するようになり、例えば工作機械では熱変位の補正やびびり振動の検出・制御、予防保全・保守のための自己診断などの技術が実用化されている。しかしながら、工具の摩耗やチッピングの検出技術、加工精度の制御技術など加工状態を認識して加工トラブルを回避するとか、加工プロセスを制御して目標の加工品質を達成するといった機能は実現できていない。
加工プロセスや加工品質を制御対象とする場合には、加工状態をモニタリングしてセンサ情報をフィードバックするだけでは不十分である。どのような部品をどの工具と切削条件で加工したかという加工計画情報と、加工中の切削力やびびり振動発生の有無といった加工プロセス情報、加工後の部品の加工精度や加工品質といった加工結果情報との因果関係に基づいた制御戦略に欠けていた。
前記した製造用プラントに対して述べた背景技術と生産ラインにおける背景技術との比較、及び、実施要点を整理して[表1]に示す。
Figure 0007054487000002
また、循環型・低炭素型生産システムにおいては、さまざまなライフサイクルオプション(リユース、メンテナンス、リサイクル、更新、適正な廃棄などの循環の経路)を組合せて、製品循環を実現するためにはライフサイクル設計が重要である。分解性設計、リサイクル性設計など従来の環境調和型設計技術はそれなりに進んでいるが、やみくもに分解性設計を行っても、多少のリサイクル性向上に寄与するであろうが循環生産の実現とはほど遠くなってしまう。素材別に選別するのか、メンテナンスのためなら故障部品を容易に交換可能な分解性が必要であるし、ライフサイクル設計の上流段階での考え方を明確にするためには、循環型・低炭素型生産システムの運用結果の積み重ねによる当該プラント独特の状態変化や劣化特性の把握と処置方案の改良が必要となる。
特許文献1:特開2006-48474 「プラント最適運用計画装置」
富士電機システムズ株式会社は、プラント運用費用最小化、ガス排出量最小化、およびメンテナンス費用最小化を総合的に考慮した運用計画を効率的に作成するプラント最適運用計画装置を提供するために、負荷予測手段、最適化手段(これはプラントの最適化問題を非線形混合整数計画問題として定式化したもの)、定常プラントシミュレータ手段を備え、最適化手段によりプラント運用費用最小化、ガス排出量最小化、および、メンテナンス費用最小化を考慮して各プラント構成機器の起動・停止状態および燃料注入量を計画し、定常プラントシミュレータ手段で各プラント構成機器の入出力をシミュレーションにより検証し、これら計画と検証とを交互に繰り返して最終的に最適なプラント運用計画を策定するプラント最適運用計画装置としている。
しかしながら、プラントの最適化問題を定式化により求めた計画と、定常シミュレータによる検証とを交互に繰り返すとしているが、プラントの経時的に変化する実データに基づく状態把握によりシミュレータの検証精度の向上などに関する考慮がなされておらず、劣化の発生時期やその劣化要因の分析によるメンテナンスの具体的な項目群とその選択、及び、当該メンテナンスの最適な実施と、その結果を設計や運転条件へ反映することへの配慮がなされていないこと、さらに、環境負荷についての配慮、及び関連企業群間での情報連携についての配慮もなされておらずプラント最適運用計画において、その効果は限定的である。
特許文献3:特開2003-345423
「プラント保守最適化プログラム、プラント保守最適化システム、及びプラント運転方法」
三菱重工業株式会社は、プラントにおけるメンテナンスのコスト対効果の評価を行いメンテナンスに関する意思決定の最適化を実現するための、プラント保守最適化プログラムであって、(a)前記プラントに含まれる部品を検査せずに取り替える場合に、前記部品に関連して発生するコストの期待値である非検査取替コスト期待値を算出するステップと、(b)前記部品を検査せずにそのまま使用を続ける場合に、前記部品に関連して生じるコストの期待値である非検査放置コスト期待値を算出するステップと、(c)前記部品の検査を行い、前記検査の結果に応じて前記部品の取り扱いを決定する場合に、前記部品に関連して生じるコストの期待値である検査コスト期待値を算出するステップと、(d)前記非検査放置コスト期待値、前記非検査取替コスト期待値、及び検査コスト期待値を出力するステップとをコンピュータに実行させるプラント保守最適化プログラムとしている。
しかしながら、前記部品の選定さらに当該部品を検査するか否かの判断についての考慮がなされておらず、また当該部品の検査取替確率PS1に基づき取り替えか、そのまま使用するかを決定するとしているが、前記検査取替確率PS1は前記部品の余寿命確率密度関数plifeや損傷確率密度関数p(t)に基づくものであり、当該部品の実態としての劣化状態の把握を行わないでトップダウン的に決められており、当該プラントを構成する多くの部品は、運転条件や環境状態により損傷の種類や損傷の程度は大きく変化するわけであり、物理的かつ機能的な寿命への配慮が不十分である。また、部品のリユースやリサイクルなどのEoL(End of Life)に対する言及がなく環境的な配慮もなされていない。
特許文献4:特開2018-200682
「ガスタービンのディスパッチオプティマイザのリアルタイム指令および動作」
ゼネラル・エレクトリック・カンパニイは、周囲および市場予測データならびに資産性能および部品寿命モデルを活用して、部品寿命制約を満たしながら実質的に利益を最大にするガスタービンまたは他の発電プラント資産の推奨動作スケジュールを生成するシステムを提案しており、メンテナンス間隔または他の動作期間内に、最適なピーク燃焼機会と最適な低温部分負荷機会をバランスさせる動作プロファイルを生成し、資産のリアルタイム動作中に行う最適化システムは、実際の市場、周囲および動作データに基づいて動作スケジュールを更新し、当該システムは、目標寿命制約に違反することなく最適に収益性の高い態様で資産を低温部分負荷またはピーク燃焼で動作させる適切な条件を決定する際にオペレータを支援することができる情報を提供する、としている。
しかしながら、基本となるメンテナンス間隔は予めトップダウン的に設定されており、寿命サイクルや部品寿命の決定に関しても経過時間が主なファクターであり、また使用時間に対する部品の実際の劣化進展の追跡は行っておらず、寿命価格値の実用性は限定的である。さらに、環境的な寿命についての配慮もなされていない。
特許文献5:特開2020-027386
「異常判定装置、異常判定システムおよび異常判定方法」
株式会社ジェイテクトは、工作機械に取り付けられたセンサにより検出されたデータを用いて、機械学習により正常/異常を判定する際に、正常および異常の判定予測を高精度にすることができる予備処理を行う異常判定装置、異常判定システムおよび異常判定方法を提供することを目的としている。
しかしながら、機械学習の判定精度を高めることができたとしても、加工精度の制御技術など加工状態を認識して加工トラブルを回避するとか、加工プロセスを制御して目標の加工品質を達成するといった機能向上には寄与することは困難であり、加工プロセス情報と加工結果情報との因果関係への配慮がなく、経済的・環境的な観点からの生産効率と環境効率の両立といった観点もなかった。
高田祥三、「製品ライフサイクルのシミュレーション」、計測と制御 第43巻 第5号 2005年5月号 pp.395-400 循環型生産システムを実現していくための方法論はまだ確立されておらず多くの課題が存在しており、その中の課題である製品ライフサイクルの評価方法についてのツールとして、ライフサイクルシミュレーション(以降、LCSと略す)を提案している。そして、製品寿命と部品寿命との組合せなどライフサイクル全体の評価指標が複雑に変化してもLCSによる評価が有効としている。 しかしながら、本論文の第5節に高田氏も記載しているように、シミュレーション結果の信頼性に課題がある。特に、製品・部品の劣化・故障特性に物理モデルを仮定したり、故障分布にはワイブル分布などの確率統計的なアプローチをとっており、実際の劣化・故障予知に対する精度が不十分であった。つまり、機器の故障といった不確実な要素が支配的な要因として残っている。このことが最大の課題の一つである。また、経過時間とともに進行する通常劣化に対する定期的なプラント停止メンテナンス(Shut Down Maintenance、以降、SDMと略す)の実施、もしくは特異的劣化に対する最適処置の実施結果を「事後情報」として製造関連企業群間で共有することにより、当該商品仕様の見直し、性能・機能設計の見直し、設備や部品の寿命再設計、さらに運用方法などの改善・提案を「フィードバック情報」として製造関連企業群間で共有し、開発・設計・生産技術・製造・販売/サービス・使用の全体サイクルにおける付加価値を最大化するといった配慮がなく、また関連企業群との情報連携についての考慮もなされていない。
安井 威公、「石化プラントへのAI活用と運転&保守効率的運用のためのプラントデジタルツイン」、CHIYODAテクニカル・レビューVol.1 NO.2 (2020) プロセス・制御・機械工学的な視点で、異常につながるデータの関連性・相関性を学習させ、予兆発見の精度を向上させるために予兆AIを開発している。また、ダイナミックシミュレーターを学習環境とした強化学習を用いて、臨機応変な運転が必要な場合に対して、人間が決めた評価基準を元に、AIがより高い評価を得られる行動を探索することによって、人間よりも優れた運転の実現を目指している。相互干渉を起こしやすいPID制御器を持つコンプレッサー・リサイクル・ループを前記したシミュレーター上に再現し、良好なPID制御器のパラメータを強化学習にて学習させ、ランダムな外乱下で不安定になったプロセス状態を、適切に安定化へ収束させることが、より迅速かつ、相互干渉もなく実現できるようになったという。しかしながら、深層学習により超多次元変数間の相関関係を見つけても、そこに因果関係があるかどうかは別物であることから、異常原因の推定・特定についての配慮がなされていないこと、時々刻々と対象状態が変化する状況に対応できるように、学習のための評価基準(教師信号の有無を含め)をどのように設定するのか、さらに、当該プラントの運転条件もしくは制御の最適化のみならず、運用データから得られる下流側情報を上流側へフィードバックするための構造化をどうするのか、当該下流側情報についての部品・設備メーカを含めた製造関連企業群との情報連携に関する配慮がなされていない。
従来ではプラントの異常を監視し、過去からの経験則等に基づき、当該プラントに固有なメンテナンス、もしくは定期的なSDMを実施して運用しているが、それらの基本計画は各装置や設備を個別に捉えたものであり、物理的な、もしくは機能的な寿命に関するものであった。しかしながら、循環型・低炭素型生産システムを実現するためには、経済的で、かつ環境的な寿命をも配慮し、前述した製造関連企業群との情報連携を図る必要があり、そのための方法が確立されていないという課題があった。
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、商品を製造するプラントのライフサイクル全体にわたって、経過時間的な劣化事象に対しての定期的なSDMの的確な処置実施と、一方、使用時間的に顕在化する特異的劣化事象に対しては最適な処置方案を探索、決定し当該最適処置方案の実施と、により運用の最適化を図るとともに、また一方、当該運用の最適化においては環境的な評価を配慮しつつ、関連企業群間において上記した処置実施の結果と処置方案との照合結果を事後情報として共有し、当該関連企業群がそれぞれ当該プラントの要求仕様の見直し、設計仕様の見直し、生産技術などの改善を提案、実施し、循環型・低炭素型生産システムとして向上させることにより企画・開発・設計・生産技術・製造・販売/サービス・使用のライフサイクル全体における付加価値を最大化することにある。
つまり、下記を特徴とする仕組みと効果を発揮するものである。
・大局的劣化判定により経過時間とともに進行する通常劣化(クラス1)と、使用時間に対して生じてくる特異的な劣化(クラス2)と、を判別してクラス1では、ライフサイクルコストに対するコスト有
効度と、環境負荷に対する環境効率と、を評価基準としたライフサイクル目標指標(以降、LC値と称す)の低下に対して、物理的・機能的・経済的・環境的な観点を配慮した“報酬関数”を定義し、通常劣
化の状態を追跡、かつ、LC値警告時期へ到達する状態予測を行いながら、強化学習の枠組みを応用して最適なSDM項目を探索し、既存のSDMを見直す。
・クラス2においても、前記クラス1と同様の枠組みによって、特異的劣化の状態を追跡し、かつ、警告域へ到達する状態予測を行いながら物理的・機能的・経済的・環境的な観点を配慮した“報酬関数”を
定義し、強化学習を応用して最適な処置方案を探索し決定する
・また、上記した通常劣化に対するSDMの方案と実施結果との比較結果、もしくは特異的劣化に対する最適処置の方案と実施結果との比較結果を「事後情報」として製造関連企業群間で共有することによ
り、当該商品仕様の見直し、性能・機能設計・生産技術等の見直しを行う。さらに運用方法などの改善・提案を含めて「フィードバック情報」として製造関連企業群間で共有し、循環型・低炭素型生産シ
ステムの機能を次第に向上することにより、商品や製品のライフサイクル全体にわたっての付加価値を最大化してゆく。なお、クラス1,2の表示は、混乱を避けるために、時にギリシャ数字で行ってい
る。
主たる本発明は、商品を製造する製造企業体Aと、当該商品を製造するための製造用プラントもしくは生産ライン(以降、総称してプラントと略す)に関する要求仕様や基本設計条件等を記載した発注書に基づき当該プラントを構成する設備類及び部品類を、当該製造企業体Aへ納入する複数の設備メーカ群B1と、複数の部品メーカ群B2と、当該プラントの運用において劣化した設備類及び部品類の保全・処置を行うメンテナンス企業Mと、を合わせて製造関連企業群とし、また最終顧客へ当該商品を販売する販売企業体Uは商品の種類、販売量、機能・品質のレベル、単価、納期などの要求事項の最新情報を製造企業体Aに伝達、発注し、当該製造企業体Aは、受注した商品を製造するプラントの運転状態とメンテナンスの要求度合いとを勘案し、かつ、ライフサイクルメンテナンス(以降、LCMと略す)を実現するための循環型・低炭素型生産システムにおいて、
商品を製造する製造企業体Aにおけるプラントの運転状態を把握するセンサデータ(観測変数群)と、当該プラントのシステム制御の目標値及び実データ(観測変数群)と、販売企業Uからの商品の要求事項等の最新情報と、を得るデータ等収集・情報取得ステップと、当該収集・取得されたデータ・情報等をネットワークへ通信する通信ステップと、当該通信されたデータ・情報等を、セキュリティレイヤーを介してクラウドもしくはエッジコンピュータにて蓄積するビッグデータ化ステップと、当該センサデータ及びシステムの実データを時間分割し、少なくとも3つの時間帯単位において特徴抽出を行い、当該プラントの運転継続における当該特徴量の変化の大きさ(統括DI値)と当該判定閾値との比較により、通常劣化であるか、あるいは特異的劣化であるかを判別する大局的劣化判定ステップと、前記した通常劣化もしくは特異的劣化のいずれかに劣化有と判定された場合には、当該劣化状態が警告域に到達する時期を予測し、前記した劣化有と判定した時点から当該劣化の警告域到達予測時までにおける状態変化率を推定する状態予測ステップと、当該劣化事象に潜在する要因群、及び、当該要因群に関連する観測変数群を抽出して因果モデルを構築し、因果分析を行って劣化要因群を特定する因果分析ステップと、当該因果分析ステップにより特定した劣化要因群に関係する観測変数群と、前記ネットワーク上のLCMデータベースにある通常劣化要因ノウハウ集、もしくは特異的劣化に対する劣化要因ノウハウ集との照合により、処置候補群及び処置対象の設備もしくは部品を選定する処置候補群選定ステップと、当該処置候補群に基づき、前記複数の設備メーカ群B1もしくは複数の部品メーカ群B2の中から当該処置候補群に関連する設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"を選定する劣化関連メーカ選定ステップと、環境的にも経済的にも持続可能な循環型・低炭素型生産システムを実現するというLCMの観点、及び、当該プラントの運転状態とメンテナンスの要求度合いとを勘案する観点において、最適な処置方案を探索し、当該最適処置方案を実行するための意思決定を支援する運用最適化ステップと、当該運用最適化ステップにて決定した処置方案に関する物理的、機能的、経済的かつ環境的方案情報、及び、当該処置の実施結果に基づく物理的、機能的、経済的かつ環境的事後情報と、を製造企業体Aもしくはメンテナンス企業Mから前記ネットワークへ伝達することにより、前記の販売企業U、及び当該処置候補群に関連する設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"との間で、上記した方案情報と事後情報とを共有し、当該販売企業U、及び当該設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"内にて、当該事後情報に基づき当該商品に関する要求仕様、設計仕様、生産技術等を見直し、改良して構築したフィードバック情報を、前記ネットワークを介して販売企業体U、製造企業体A、及びメンテナンス企業Mと共有・連携する情報連携ステップと、前記したすべてのステップの処理の実行統括、及び、前記ネットワークの管理を行うLCM統括センターとからなることを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
上述したように本発明の循環型・低炭素型生産システム実現のための企業群の連携方法によれば、物理的・機能的・経済的・環境的な観点における最適な処置方案を決定することが可能となり、通常劣化に対するSDMの的確な方案と実施結果との比較、もしくは特異的劣化に対する最適処置の方案と実施結果との比較を「事後情報」として関連企業群間で共有することができ、各関連企業が当該事後情報に基づき当該商品仕様の見直し、性能・機能設計・生産技術等の見直し、さらに運用方法などを改善した上で、新たな提案を「フィードバック情報」として関連企業群間で共有することにより循環型・低炭素型生産システムを実現し、商品や製品のライフサイクル全体の付加価値を最大化することが可能となる。本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
本発明による循環型・低炭素型生産システムのための全体構成と企業間での情報連携による情報等の流れ 本発明による循環型・低炭素型生産システムにおける大局的劣化種別に対するプラント運用時のライフサイクル特性の蓄積ループ 本発明による循環型・低炭素型生産システムにおけるデータ分析・劣化判定・状態推定、予測・処置最適化・情報連携等の全体 フローチャート 本発明による循環型・低炭素型生産システムにおける大局的劣化判定のための詳細フローチャート 大局的劣化判定におけるD方式の説明図 大局的劣化判定におけるS方式の説明図 先行時間帯における要因に関連した観測変数群推定のための説明図 本発明による大局的劣化判定・状態推定・因果分析・処置シナリオに対する状態価値関数の構成 本発明の大局的判定における統括DI値の種類 本発明のクラス1における因果モデルの例 本発明のクラス2における因果モデルの例 本発明の状態推移モデル 本発明の強化学習における行動実施した場合の、行動/要因/状態/データの連関図 実施例1の海水淡水化プラントの系統図 実施例1の運転開始後の流量データ(説明用) 実施例1の運転開始後の温度データ(説明用) 実施例1の運転開始後の性能数値の推移 実施例1の運転開始後の統括DI値_最大値の推移 実施例1の運転開始後のLC値指標の低下比率の経過 実施例1の通常劣化での流量データ、圧力データの推移(分析用) 実施例1の通常劣化での主な温度データの推移(分析用) 実施例1のステップnで予測した警告時期nLの予測結果 実施例1の各観測変数の最大関与度値の実測値 実施例1のステップnLにおける最大関与度値の予測値 実施例1の各観測変数の最大関与度値の実績推移その1 実施例1の各観測変数の最大関与度値の実績推移その2 実施例1の実時刻n=30における因果モデル 実施例1の実時刻n=30で予測したLC警告域到達時期nL=51における因果モデル 実施例1の実時刻n=31における因果モデル 実施例1の実時刻n=31で予測したLC警告域到達時期nL=40における因果モデル 実施例1のLC警告域に到達した実時刻n=50での因果モデル 実施例1のLC警告域到達時期nLでの状態推定値(データ同化前) 実施例1のLC警告域到達時期nLでの状態推定値(データ同化後) 実施例1の強化学習における状態価値関数の比較 実施例1の海水淡水化プラントに設置したスポンジボール洗浄装置の系統図 実施例1の標準スポンジボールによるスケール除去率(企業体Mのデータベース) 実施例1の標準スポンジボールによる造水倍率の回復率(企業体Mのデータベース) 実施例1の標準スポンジボールによる洗浄結果の造水倍率 実施例1の樹脂コーティングボールでのスケール除去率(企業体Mのデータベース) 実施例1の樹脂コーティングボールによる造水倍率の回復率(企業体Mのデータベース) 実施例1の標準スポンジボールによる洗浄経過による造水倍率の回復率の、データベースとの比較 実施例1の標準スポンジボールによるスケール除去率のデータベースへの追加(事後情報及びフィードバック情報) 実施例2における運転開始後の各流量データの推移 実施例2の各ポンプの出口圧力の推移 実施例2の運転開始後の統括DI値の最大値の推移 実施例2の運転開始後のLC指標の低下比率の経過、及び注意、警告域到達 実施例2の実時刻nにて予測したLC値警告域到達時期nL 実施例2の各観測変数の最大関与度値の推移(実績値) 実施例2の各観測変数の最大関与度値の推移(予測値) 実施例2の実時刻n=30における因果モデル 実施例2の実時刻n=30にて予測したLC警告域到達時期nL=48における因果モデル 実施例2の実時刻n=55における因果モデル 実施例2の実時刻n=55にて予測したLC警告域到達時期nL=60における因果モデル 実施例2の予測時期nLでの状態推定値その1 実施例2の予測時期nLでの状態推定値その2 実施例2の強化学習による各処置候補の状態価値関数の期待値 実施例2の強化学習による統合価値関数の計算結果 実施例2のBRPのメーカ出荷時と実際の運転時の性能曲線 実施例2の渦巻ポンプの基本動作の説明図 実施例2のインペラカットの説明図 実施例2の運転開始後のLC値低下比率の経過とBRPのインペラカット後の回復状況 実施例2のBRPインペラカット後のCO2排出量、ポンプ消費電力量の低減効果の状況 実施例2のBRPインペラカットに関する性能曲線データベース 実施例2のBRPインペラカット後の性能検証とデータベース更新 実施例2のBRPインペラ外径のカット比率の補正(フィードバック情報) 実施例3の海水淡水化プラントベント不良時の説明用系統図 実施例3のベント不良時のコンデンサーでの熱伝達に関する温度分布の差異 実施例3のベント不良時のブラインレベルの変化の説明 実施例3の運転開始後からのLC値の低下割合の推移 実施例3の運転開始後の統括DI値最大値の推移と判定結果 実施例3の運転開始後のB/H蒸気温度、NO.1段コンデンサ出口温度の推移 実施例3の運転開始後のB/H蒸気流量の推移 実施例3の運転開始後の各コンデンサー部の温度の推移 実施例3の運転開始後のBRP吐出圧力、NO.4段ブラインレベルの推移 実施例3のクラス2の各時刻nでの警告域到達予測時期nL 実施例3の運転開始後の各観測変数の最大関与度値の実績推移 実施例3のクラス2での各観測変数の最大関与度値の予測値推移 実施例3の現時刻n=56における因果モデル 実施例3の現時刻n=56での予測時期nL=59における因果モデル 実施例3の造水倍率、淡水純度の状態予測値 実施例3のNO.1段、NO.2段ブラインレベルの予測値と実測値 実施例3の運転開始後のNO.1段、NO.2段ブラインレベルの実測値の推移 実施例3の運転開始後の淡水純度の実測値の推移 実施例3の強化学習による各処置方案の状態価値関数の期待値の比較から決定した最適処置方案 実施例3のベントオリフィス部の断面図
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
本発明の全体構成を図1に示す。商品を製造する製造企業体Aと、当該商品を製造するための製造用プラントもしくは生産ライン(以降、総称してプラント1と略す)に関する要求仕様や基本設計条件等を記載した発注書に基づき当該プラントを構成する設備類及び部品類を、当該製造企業体Aへ納入する複数の設備メーカ群B1と、複数の部品メーカ群B2と、当該プラントの運用において劣化した設備類及び部品類の保全・処置を行うメンテナンス企業Mと、を合わせて製造関連企業群とし、また最終顧客2へ当該商品を販売する販売企業体Uは商品の種類、販売量、機能・品質のレベル、単価、納期などの要求事項の最新情報を製造企業体Aに伝達、発注し、当該製造企業体Aは、受注した商品を製造するプラントの運転状態とメンテナンスの要求度合いとを勘案し、かつ、ライフサイクルメンテナンス(以降、LCMと略す)を実現するための循環型・低炭素型生産システムにおいて、商品を製造する製造企業体Aにおけるプラントの運転状態を把握するセンサデータ(観測変数群)と、当該プラントのシステム制御の目標値及び実データ(観測変数群)と、販売企業Uからの商品の要求事項等の最新情報と、を得るデータ等収集・情報取得ステップ3と、当該収集・取得されたデータ・情報等をネットワークへ通信する通信ステップ4と、当該通信されたデータ・情報等を、セキュリティレイヤーを介してクラウドもしくはエッジコンピュータにて蓄積するビッグデータ化ステップ5と、当該センサデータ及びシステムの実データを時間分割し、少なくとも3つの時間帯単位において特徴抽出を行い、当該プラントの運転継続における当該特徴量の乖離度の大きさ(統括DI値)と当該判定閾値との比較により、通常劣化であるか、あるいは特異的劣化であるかを判別する大局的劣化判定ステップ6と、前記した通常劣化もしくは特異的劣化のいずれかに劣化有と判定された場合には、当該劣化状態が警告域に到達する時期を予測し、前記した劣化有と判定した時点から当該劣化の警告域到達予測時までにおける状態変化率を推定する状態予測ステップ7と、当該劣化事象に潜在する要因群、及び、当該要因群に関連する観測変数群を抽出して因果モデルを構築し、因果分析を行って劣化要因群を特定する因果分析ステップ8と、当該因果分析ステップにより特定した劣化要因群に関係する観測変数群と、前記ネットワーク上のLCMデータベースにある通常劣化要因ノウハウ集、もしくは特異的劣化に対する劣化要因ノウハウ集との照合により、処置候補群及び処置対象の設備もしくは部品を選定する処置候補群選定ステップ9と、当該処置候補群に基づき、前記複数の設備メーカ群B1もしくは複数の部品メーカ群B2の中から当該処置候補群に関連する設備メーカB1"、もしくは部品メーカB2"を選定する劣化関連メーカ選定ステップ10と、環境的にも経済的にも持続可能な循環型・低炭素型生産システムを実現するというLCMの観点、及び、当該プラントの運転状態とメンテナンスの要求度合いとを勘案する観点において、最適な処置方案を探索し、当該最適処置方案を実行するための意思決定を支援する運用最適化ステップ11と、当該運用最適化ステップにて決定した処置方案に関する物理的、機能的、経済的かつ環境的方案情報、及び、当該処置の実施結果に基づく物理的、機能的、経済的かつ環境的事後情報と、を製造企業体Aもしくはメンテナンス企業Mから前記ネットワークへ伝達することにより、前記の販売企業U、及び当該劣化に関連する設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"との間で、上記した方案情報と事後情報とを共有し、当該販売企業U、及び当該設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"内にて、当該事後情報に基づき当該商品に関する要求仕様、設計仕様、生産技術等を見直し、改良して構築したフィードバック情報を、前記ネットワークを介して販売企業体U、製造企業体A及びメンテナンス企業Mと共有・連携する情報連携ステップ12と、前記したすべてのステップの処理の実行統括、及び、前記ネットワークの管理を行うLCM統括センター14とからなることを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる循環型・低炭素型生産システムでは、製造企業体A、販売企業体U、設備メーカ群B1、部品メーカB2およびメンテナンス企業Mという当該商品の製造に関連する企業群がネットワークで繋がっているので、プラントの運転経過における通常劣化もしくは特異的劣化に対して、データ分析、状態変化の追跡と異常度合いの判定、異常要因の推定、当該異常に対する処置候補群に関連するメーカ群の選定、処置方案の探索と最適化という意思決定が、LCM統括センターを設置することによりプラントのダイナミックな状態変化に適時的に可能となる。さらに、物理的・機能的な寿命を勘案した通常劣化や特異的劣化の監視を行い、かつ、ライフサイクルメンテナンスを考慮して経済的・環境的にも配慮した最適な処置を実行し、その処置結果と設計・運転条件との照合および商品の要求仕様の見直しなどを統括的に管理することができる。
前記の大局的劣化判定ステップ6にて通常劣化に劣化有と判定する基準は、経済的なコスト有効度と、環境的な環境効率と、を評価するライフサイクルコスト評価値(以降、LC値と略す)が、予め設定したLC値閾値未満に低下した場合とすることを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
かかる場合には、通常劣化の進展において経済的・環境的な両面に対する観点から、定期的なSDMの実施時期及び実施項目などを最適化するための方策案の探索することが可能となる。
また、状態予測ステップ7における警告域を、通常劣化の場合には前記したLC値に対して設定し、特異的劣化の場合には前記した当該プラントの運転継続における当該特徴量の乖離度の大きさ(統括DI値)に対して設定することを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、通常劣化もしくは特異的劣化の進展に対して処置方案群の中から最適な処置方案を選択、決定する適切な時期を提供することができる。
また、状態予測ステップ7において、状態空間モデルと、因果分析結果による因果効果と、ベイズ推論と、を組み合わせて当該時間帯nでの状態と1ステップ(時間帯)後の状態との比率である状態変化率Fnを算出し、一方、前記した通常劣化に対する警告域もしくは特異的劣化に対する警告域に到達予測時期nLでの状態変化率FnLを算出し、上記にて算出したFnを初期値とし、FnLを終端値とした幾何平均値を用いることにより、前記した各警告域到達予測時における状態を推定することを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、因果関係の変化に起因するミクロ現象から出発し、計測可能なマクロ状態を介して遷移してゆくという背景に存在する過程を反映することにより、プラントの状態推移を追跡できるので警告域へ到達する時期、及び警告域到達時での状態を予測することができる。
また、状態予測ステップ7において、当該時間帯nにて得られた状態変化率Fnにより推定した1ステップ(時間帯)先の状態値と、実際に1ステップ(時間帯)後に得られた状態値と、を比較することによって前記した状態変化率の幾何平均値を更新することを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、時間経過が1ステップ(時間帯)進み、データを入手するたびに、前記した状態変化率Fnを更新してゆくので、精度の高い状態予測が可能となる。
また、状態予測ステップ7における状態変化率Fnを求める際の、データ群を得たもとで、物理的に関連する状態が生起している条件付確率は、当該因果モデルにおける平均的な因果効果と比例関係にあることを利用して前記状態変化率Fnを推定することを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、因果分析により得られる要因群からデータ群への影響度の大きさを考慮した状態変化を推定するので、背景となる潜在要因からミクロ状態へ、当該ミクロ状態からマクロ状態へ、当該マクロ状態からデータ群が生成されるという一連の機序を忠実に反映した状態推移を把握することが可能となる。
また、因果分析ステップ8において、劣化要因である潜在変数群から関連する観測変数群への平均的な因果効果を算出し、当該因果効果の大きさに基づき、当該潜在変数に対応する要因の生起可能性に順位付けを行うことを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、経過時間における観測データに基づく因果分析によって得たパス係数を用いることによって、潜在変数群である原因群から観測変数群である結果群への平均的な因果効果を算出するので、プラント1の状態変化に追随した劣化要因群の中から真の要因である確率が高い順序付けが可能となる。
また、運用最適化ステップ11において、プラント1の運転状態として通常劣化有と判定された時点、もしくは特異的な劣化有と判定された時点から、状態遷移確率と処置選択確率と報酬関数との積で定義される状態価値関数を、各処置方案候補について、当該通常劣化もしくは特異的劣化の進展に沿って各時間帯において算出してゆき、プラント運転状態の通常劣化が当該警告閾値に達した時点、もしくは特異的劣化状態が当該警告閾値に達した時点において、前記状態価値関数の期待値が最大となる処置方案を最適な処置方案として選択することを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、運転状態の推移を予測するための状態遷移確率、各処置方案を選択する場合の確率、複数の処置候補群に対するメリットとデメリットとを報酬関数として評価して、統合価値関数TVπ(s)の期待値が最大となる処置方案を決定するので、当該プラントの劣化状態の推移に対応して最適な処置方案を決定することができる。
また、運用最適化ステップ11において、前記した大局的劣化判定ステップ6にて算出した統括DI値の大小に基づき通常劣化の程度を推定し、また当該統括DI値が最大値となっている次数での固有ベクトルと、関連するデータとの積により求めた関与度値が大きい観測変数群を、当該通常劣化の進展特性を反映する構造変数群とみなし、当該構造変数群の中から、SDMの実施結果により判明した損傷項目等の情報と合致する構造変数群を抽出し、当該構造変数群を当該通常劣化により生じた損傷項目等との関連情報として、設備、部位もしくは部品に対して、予め計画していたSDMの実施項目を見直すことを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、通常劣化の進展に応じて、損傷項目等の劣化に関連する構造変数群を推定することにより、SDMの実施項目の中から重点的に実施すべきか否かを見直すことができるので、効果的なSDMを実施することが可能となる。
また、運用最適化ステップ11における状態価値関数を算出する場合の報酬関数において、少なくとも、当該プラントでの商品の生産高などの経営関連指標と、性能・機能の低下による損失や処置実行のために当該プラントの停止による損失といった損失関連と、故障もしくは事故ならびに不良品の発生による損害リスク関連、処置実行時のコストやライフサイクルコストとしての当該プラントの取得コスト・運用コスト・廃棄コストといったコスト関連と、処置実行による性能・機能の回復メリット、前記劣化設備・部品のリユースもしくはリサイクルによる再資源化率の向上もしくは環境負荷の低減メリット、省エネルギによるコスト低減および間接的環境負荷低減のメリットといったメリット関連とからなることを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、各処置方案の中から最適な方案を決定する際に、商品製造・販売に対する経営関連指標、物理的・機能的損失、運用に関連するリスク及びコスト関連、処置実行によるメリット、さらに長期的な環境効率を評価しつつ最善の運用最適化が可能となる。
また、報酬関数の中の故障もしくは事故発生による損害リスクの算出において、各時間帯での当該プラント1の運転状態として、物理的な、もしくは機能的な特異的劣化度合いの時間的な推移に基づき、その都度、警告閾値に到達するまでの到達時間を予測し、別途のLCMデータベース13に予め登録された故障もしくは事故ならびに不良品発生時の損害額を、運用開始時から前記警告閾値到達への予測時刻までの経過時間にて除して得る、時間当たりの損害リスクを各時間帯において算出することを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、物理的・機能的なプラントの運転状態の劣化進展を予測し、その都度損害リスクを算出するので、報酬関数におけるリスク評価の精度を高く維持することが可能となる。
また、前記記載の運用最適化ステップ11の統合価値関数TVπ(s)の算出において、処置候補群選定ステップ9によって決定した処置候補群及び処置対象の設備もしくは部品の中に、別途当該製造企業体Aが設定したライフサイクル(LC)オプションにより指定されたリユースもしくはリサイクル等のEoL(End of Life)もしくは環境負荷を考慮するLCA(Life Cycle Assessment)などLCMの対象となる処置対象の設備もしくは部品が含まれている場合には、当該処置対象の設備もしくは部品に対する長期的な状態価値関数3RVπ(s)を含むことを特徴とした循環型生産システムである。
かかる場合には、リユースやリサイクル等のEoLおよび環境負荷を考慮した環境面での長期的な価値関数3RVπ(s)を導入するので、LCMに最適な処置方案を選択することが可能になる。
また、運用最適化ステップの状態価値関数の算出において、前記記載の環境面状態価値関数と、通常劣化に対する、もしくは特異的劣化に対する物理的・機能的・経済的状態価値関数とからなることを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、物理的・機能的な評価基準と、経済面・環境面での評価基準とを加えた統合価値関数として最適な処置方案を選定するのでLCMに最適な処置方案を選択することが可能となる。
また、情報連携ステップ12において、前記の運用最適化ステップ11にて決定した処置方案に基づき当該製造企業体Aおよびメンテナンス企業Mが実施した処置・保全の方案詳細と、当該処置の実施結果とを合わせた事後情報を、前記ネットワークを介して、当該通常劣化もしくは特異的劣化に関連する設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"が受け取る際に、少なくとも運用開始時からの運転時間・負荷等の経過履歴と当該劣化度合いの進展との関係性を示す劣化関係情報1と、上記運転経過の履歴と、通常劣化有もしくは特異的劣化有と判定してからの要因群の変遷とを示す因果関係情報2と、通常劣化もしくは特異的な劣化程度の予測において最適化した処置方案と、各警告閾値に達した時点以降にて実施した処置結果との比較を示す裏付関係情報3と、を示す情報を含み、そして、当該設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"が受け取った上記事後情報に基づき、少なくとも各メーカB1"、B2"が、当該商品に関する設計仕様や製造方法等の改善等の再検討を行い、および製造企業体Aが当該プラントの運用における最適条件等を見直して得た再検討結果の情報と、当該再検討結果の情報に基づき当該商品の要求仕様を見直した情報と、をフィードバック情報として前記ネットワークを介して製造関連企業群、及び販売企業体Uにおいて共有することを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、最適な処置方案に基づき当該製造企業体Aおよびメンテナンス企業Mが実施した処置・保全の方案詳細と当該実施結果とを合わせた事後情報と、運用開始時からの運転時間・負荷等の経過履歴と当該劣化度合いの進展との関係性を示す劣化関係情報と、要因群の変遷とを示す因果関係情報と、特異的な劣化程度の予測において最適化した処置方案と、警告閾値に達した時点以降にて実施した処置結果との比較を示す裏付関係情報と、当該商品に関する設計仕様や製造方法等の改善等の再検討と当該プラントの運用における最適条件等を見直した情報および当該再検討結果の情報に基づき当該商品の要求仕様を見直したフィードバック情報を、ネットワークを介して製造関連企業群、及び販売企業体が共有するので当該商品のライフサイクル全体のおける付加価値を継続的に向上させることが可能となる。
前記のLCM統括センター14において、少なくとも2個のサーバを有し、サーバ1では大局的劣化判定ステップ6と、状態予測ステップ7と、因果分析ステップ8と、処置候補選定ステップ9と、劣化関連メーカ選定ステップ10と、運用最適化ステップ11と、により当該プラント1における物理的、機能的、経済的、環境的寿命に関連した経時的な推移を把握するとともに、特異的な劣化進展に対処しつつ、運用の全体最適化を図り、一方、サーバ2では情報連携ステップ12にて、前記サーバ1における大局的劣化判定からの一連のステップ実行により得た、事後情報及びフィードバック情報を、当該製造関連企業群や販売企業体Uを含めたサプライチェーン全体の連携を行うことを特徴とした循環型・低炭素型生産システムである。
かかる場合には、プラントの物理的・機能的寿命に関連した処置の最適化を行い、さらに経済的・環境的寿命に関連した評価をも考慮した運用最適化を行うために、経時的な解析・予測などの処理を実行する動的なサーバ1と、観測データの中から基準データとなる生データを保存し、全てのサプライチェーン企業群がアクセスする関連情報などを保有する膨大な容量となる静的なサーバ2と、を分けることによって、処理速度や記憶容量といったハード性能を効果的に発揮するのでLCM統括センターの安定した運用が可能となる。
(本発明による循環型・低炭素型生産システムの全体構成と企業間での情報連携による情報等の流れ)
本発明による循環型・低炭素型生産システムの全体構成と関連企業間での情報連携による情報等の流れを、図1を用いて説明する。プラント1を運転して商品を製造する製造企業体Aと当該商品を最終顧客2へ販売する販売企業体Uからなるデータ等収集・情報取得ステップ3で得られたセンサデータやシステムデータおよび関連情報は、通信ステップ4を介してネットワーク5にて蓄積されビッグデータ化される。当該ネットワーク5では設備メーカ群B1、部品メーカ群B2、プラント1のメンテナンスを計画・実施するメンテナンス企業Mと通信ステップ4を介してネットワーク5と各種の関連情報をアップロードもしくはダウンロード(あるいは送受信)を行う。当該関連情報には処置実行後の事後情報やフィードバック情報を含んでいる。
ネットワーク5には、サーバ1とサーバ2およびLCMデータベース13を含み、サーバ1では、大局的劣化判定ステップ6と、状態予測ステップ7と、因果分析8ステップと、処置候補群選定ステップ9と、劣化関連メーカ選定ステップ10と、運用最適化ステップ11とに関する解析、判定、予測、最適化探索、評価等を実行する。一方、サーバ2では、劣化判定や状態予測を行うためのセンサーデータやシステムデータの基準データを保存し、関連情報を保有しつつ情報連携ステップ12を実行する。LCMデータベース13には、劣化要因ノウハウ集、通常劣化要因集、部品寿命パラメータ、クラス1関与度閾値、系統図データベース、リユース・リサイクルに関連する情報、および商品種類、生産高、処置等メリット、損害費用や処置コスト、エネルギ単価、EoL、LCA関連情報、LC指標低下の判断閾値などを保有している。
主な情報の流れを記述する。まず、販売企業体Uと製造企業体Aとネットワーク間での情報の流れを記述する。当該商品の発注書の発行;U→N→A、商品の要求仕様の提示;U→N→A、フィードバック情報の受理;B1,B2→N→U、設備、部品の発注;A→N→B1,B2、運転情報の提供;A→N→M,B1,B2、LCオプションの設定;A→N、処置方案の情報受理;N→A、事後情報の発信;A→N→B1,B2、フィードバック情報の受理;B1,B2→N→A、の流れから構成されている。次に、メンテナンス企業M、設備メーカ群B1、部品メーカ群B2と、ネットワーク間での情報の流れを記述する。処置方案等の情報受理;N→M、事後情報の発信;M→N→B1,B2、対象設備の事後情報の受理;;A,M→N→B1、フィードバック情報の発信;B1→N→A,M,U、対象部品の事後情報の受理;A,M→N→B2、フィードバック情報の発信;B2→N→A,M,U、の流れから構成されている。
ところで、循環型・低炭素型生産システムは、以下に示す2つの背景から複雑系である。
(1)循環を支配する要因の中には、最終顧客2の行動やプラント1の構成機器の劣化・故障といった不確定な要素が含まれる。
(2)循環を構成する製造、販売、回収(リユース・リサイクル)などの各プロセスは、それぞれ独立の主体企業によって運用されるために、各プロセスの意思決定メカニズムが
独立に設定される。
つまり、この複雑系に対して各関連企業間での情報連携をリアルタイムに実行することと、プラント1の監視と状態予測及び劣化要因の推定を踏まえて、最適な処置方案を決定する
ことと、処置実施後の結果を当該商品の要求仕様の見直しや、設計条件及び製造条件の改良などへ反映すること、とがネットワーク及びビッグデータ化5にて関連企業群が連携する
ことで解決される。前記した関連情報の流れは、各企業体やLCM統括センター14がサーバ1およびサーバ2で関連処理を実行する上で、リアルタイムに、かつ適切に行われるの
で、本発明によるネットワーク5を介することによって循環型・低炭素型生産システムの実現が可能となるものである。
さて、プラント1の運転経過につれて生じてくる劣化現象には、経過時間に応じて発生してくる各部摩耗、汚れの付着、流動性の低下など物理的・化学的な効率の低下や原材料の増加など漸進的な変化として現れる“通常劣化”(Normal Deterioration;ND)と、使用時間に応じて比較的劣化速度が大きく物理的もしくは機能的な劣化、損傷の発生や故障への進展となる“特異的劣化”(Specific Degradation;SD)とに分けられる。通常劣化(ND)および特異的劣化(SD)を判別しながら、それぞれの劣化に対する処置の最適化と処置実施後の現物の劣化・損傷状態の回復度との比較・照合から、当該劣化事象の進展における特性を蓄積することが可能となる。本発明による循環型・低炭素型生産システムにおける大局的劣化種別に対するプラント運用時のライフサイクル特性の蓄積ループを、図2に示す。
図3に、本発明による循環型・低炭素型生産システムにおけるデータ分析・劣化判定・状態予測・因果分析・処置最適化・情報連携等の全体フローチャートを示す。大局的劣化判定1により得た統括DI値
が判定閾値以上であるか否かにより特異的劣化の有無を判定2し、特異的劣化無の場合には「クラス1」の通常劣化3として運転情報5を参照してLC値を算出4する。そして、時間帯(ステップ)が進むにつれて当該LC値の大小を判定6し、予め設定した判定閾値未満となった場合には、通常劣化が注意領域に入ったものと判断するとともに、関連するメーカB1,B2へ情報適用を開始する。そして、警告域への到達時期予測、及び、当該劣化に関連する観測変数群の抽出7を実行する。当該LC値4が前記判定閾値以上の場合には、次の時間帯(ステップ)における大局的劣化判定1へと進む。
一方、大局的劣化判定1による特異的劣化有無の判定2にて、劣化有の場合には「クラス2」の特異的劣化19であると判定し、特異的劣化の警告域への到達時期予測、及び関連変数群の抽出7を実行する。なお、図3の点線で囲んだ大局的劣化判定1から警告域到達時期の予測と当該劣化に関連する観測変数群の抽出7までの具体的な内容については、図4を用いて後ほど詳述する
次に、因果モデルの構築・分析、及び状態変化の予測8を行い、当該分析結果及び状態予測を用いて、処置方案毎の状態価値の算出9を行う。そして、当該時間帯が警告域時期に至っているか否かの判定10を行い、警告域時期に至っていない場合には、次の時間帯での監視へ移行する。もし、当該警告域時期への到達の判定10にて警告域時期に到達している場合には、通常劣化のクラス1、もしくは特異的な劣化のクラス2に対して、前記した処置方案毎の状態価値の期待値の大きさに基づき、最適な処置方案の決定11を行う。そして、当該最適処置方案の関連情報を、ネットワークを介して企業体A,M12へ伝達し、企業体Mは当該通常劣化もしくは特異的劣化に対する処置実施と前記の最適処置方案と、当該処置を実施した結果との照合13を行う。なお、前記した処置方案毎の状態価値算出9や最適処置方案の決定11においては、リデュース・リユース・リサイクル等のLCオプションの設定18を用いてLCMデータベース17からの情報を引用してゆく。
次に、前記した通常劣化もしくは特異的劣化に対する処置実施と、前記の最適処置方案と当該処置を実施した結果との照合13の完了後、もし当該処置実行に際してプラント停止が必要であれば当該プラントを運転再開14し、性能・機能の確認15を行い、最適処置方案11と前記の性能・機能の確認結果15との比較検討によって事後情報の確定16を行う。当該事後情報16は、前記した通常劣化もしくは特異的劣化に関する状態変化の推移8等のデータ分析結果等と併せて、当該処置実施に関連した設備メーカB1”もしくは部品メーカB2”へネットワークを介して伝達されるとともに、LCMデータベース17へ蓄積される。
そして、当該関連メーカB1”もしくはB2”では、前記にてネットワークを介して受け取った事後情報及びデータ分析結果等に基づき関連設備もしくは関連部品についての設計・製作・使用・保守等に関する改良策等を検討してフィードバック情報として確定20する。また、当該フィードバック情報は、ネットワークを介して企業体A,M,Uへ伝達されるとともに、LCMデータベース17へ蓄積することにより、前記した通常劣化もしくは特異的劣化に関する一連の情報の構造化が終了する。前記した一連の処置実施後の各情報連携が完了すれば、改めて、当該プラントの運用の最適化21を完了する。以上、図3にて説明した本発明である循環型・低炭素型生産システムにおける劣化判定・状態予測・因果分析・処置の最適化・情報連携等の全体の処理フローによって、図1の仕組みにおけるLCM統括センターの機能
を実現できる。
さて、前記の図3に示す大局的劣化判定1から警告域到達時期の予測、及び、当該劣化に関連する観測変数群の抽出7までの、点線で囲んだ部分の基本的な処理について、図4を用いて説明する。なお、当該劣化判定方法については特許第6680430号に詳述されているが、本発明に対して肝要な部分を改めて説明する。当該の主な機能はステップA(図4の1)とステップB(図4の4)から成る。ステップAでは初期基準方式(以降、S方式と略す)と隣接比較方式(以降、D方式と略す)にて3個の時間帯群データにおける特徴量の乖離度(統括DI値と称す)を算出し、統括DI値の最大値が判定閾値を超えた場合には、「1次異常」と判定してステップBへ移行する4。一方、当該統括DI値の最大値が判定閾値未満である場合には、通常劣化(クラス1)3であると判定する。
上記ステップBでは、当該「1次異常」の判定がD方式に依った場合は異常検知時およびその直近の2つの時間帯の合計3個の時間帯群データについて、もしくは当該「1次異常」の判定がS方式に依った場合には、初期基準時、異常検知時及び直近時間帯の合計3個の時間帯群データについて、各時間帯データの相関行列と対応する重み係数ベクトルとの積を算出することによって各観測変数の当該特徴量への関与度値を求める。当該関与度値の大きさによって要因可能性変数群を抽出する(図4の4)。
ここで、一つの観測変数について、関与度値は3つの時間帯群データに関して4種類ある。いずれの種類の関与度値が、関与度閾値を超えているのかを示す分布を特徴種別の出現パターンと称する。当該特徴種別の出現パターンにおいて、当該要因候補の可能性がある観測変数の関与度値の種類が1種類のみの場合で、当該プラントの運転条件等の変更に直接関連する観測変数であれば、当該観測変数は当該1次異常の要因ではなく、運転条件変更等によるものと判断して、通常劣化(クラス1)であると判断する(図4の5、6、7,8、10)。あるいは、同じく当該関与度値の種類が1種類のみの場合で、当該観測変数が運転条件と無関係であれば、当該1次異常は他の外乱によるものであると判断して、同じく通常劣化(クラス1)であると判断する(図4の5、6、7、9、10)。
一方、上記の要因候補の可能性がある観測変数がプラントの運転条件等の変更に直接関連しておらず、上記特徴種別の出現パターンにおいて、4種類の関与度値のうち2種類以上が関与度閾値を超えている場合には、当該1次異常の判定を特異的異常(クラス2)と確定13する。
また、一方、上記4種類の関与度値の全てが関与度閾値未満であった場合には、要因不明として当該1次異常の判定を保留して通常劣化(クラス1)3とする。なお、当該保留処理が4回以上継続した場合11には、1次異常の判定結果を特異的異常(クラス2)であると確定13する。そして、警告域到達時期の予測及び当該劣化に関連する観測変数群の抽出17を行う。
さて、前記したステップAの1次異常判定1での結果2、通常劣化(クラス1)3となった場合、もしくはステップBの要因可能性変数群の抽出4以降の処理にて判定保留12となり、通常劣化(クラス1)3と判断した場合、あるいは当該1次異常が運転条件によるもの8、もしくは外乱9によるものと判断して、通常劣化(クラス1)10となった場合には、当該プラントの生産高、エネルギ費用、環境負荷などの運転情報14を用いて、ライフサイクルコスト評価値(LC値)を算出15する。そして、当該LC値が予めLCMデータベースにて設定した閾値未満になった場合には、前記と同じく、警告域到達時期の予測及び状態変化の予測と更新17を行い、当該LC値が当該閾値以上であった場合には、次の時間帯でのステップAの1次異常判定1へ進む。
以上にて図4の基本的な処理の説明が完了したので、次に各処理の詳細なデータ解析、及び、判定方法を説明する。プラント1からのセンサーもしくはシステムデータを時間分割して得た3個の時間帯〇1、〇2、〇3における、時間帯〇1でのデータ行列X1を(x1(1)・・・xi(1)・・・xq(1))、時間帯〇2でのデータ行列をX2(x1(2)・・・xi(2)・・・xq(2))、そして時間帯〇3でのデータ行列をX3(x1(3)・・・xi(3)・・・xq(3))と表すと[表2]、[表3]、[表4]のようになる。ここで、下付きの添え字は観測変数の順番を示し、カッコ内数値は3個の時間帯群データの順番を示す。また、1つの時間帯において各観測変数について<n>個のデータ個数をサンプリングする。なお、観測変数名はf1,・・fi,・・fq (q種類)と表示する。
Figure 0007054487000003
Figure 0007054487000004
Figure 0007054487000005
まず、図4のステップAでの異常判定の指標である乖離度(統括DI値)の定義と算出方法を説明する。
(D方式における特徴量の乖離度;図4の1)
D方式の考え方を図5に示す。D方式では、3個の連続した時間帯群(n-2),(n-1),nの中の前側の2個の時間帯(n-2)、(n-1)に対してデータ行列X1内における、データ行列X2内における、そしてデータ行列X1とX2間における3種類の相関係数Rx1x1、Rx2x2、Rx1x2を求め、固有方程式を解くことによって重み行列A,Bを得る。なお、Rx1x1、Rx2x2 では各変数群内における相互依存性を、Rx1x2では変数群間の相関関係という二つの違ったタイプの情報が含まれている。
時間帯(n-2)のデータ行列X1と時間帯(n-1)のデータ行列X2における各変数を、それらの変数から成るいくつかの線型結合の組に置き換えることによって、この変数群間のパターン分析を行うことができる。上記の線型結合の中で変数群X1の線型結合が変数群X2の線型結合と最大の相関をもつように重み係数AとBを決定する。ここで、上記の重み係数ベクトルA;a1,a2,・・・aq、B;b1,b2,・・・bqと表すと、前側2個の時間帯におけるデータ行列X1(x1(1)・・・xi(1)・・・xq(1))とX2(x1(2)・・・xi(2)・・・xq(2))に対して、二つの線型結合Fx1A と Fx2B はそれぞれ[数1]および[数2]となる。

[数1]
Fx1A = a1*x1(1) + a2*x2(1) + ・・・+ aq*xq(1)

[数2]
Fx2B = b1*x1(2) + b2*x2(2) + ・・・+ bq*xq(2)

上記の二つの線型結合Fx1A とFx2Bを、時間帯(n-2)、(n-1)におけるデータ行列X1、X2の二つの特徴量と定義する。
次に、後側2個の時間帯(n-1),nにおいて、上記した前側と同様に、時間帯(n-1)のデータ行列X2 と時間帯n のデータ行列X3 における重み係数ベクトル<A>;<a1>,<a2>,・・・<aq>と、<B>;<b1>,<b2>,・・・<bq>を求めて、データ行列X2(x1(2)・・・xi(2)・・・xq(2))とX3(x1(3)・・・xi(3)・・・xq(3))に対する二つの線型結合Fx2<A> とFx3<B> は[数3]および[数4]となる。

[数3]
Fx2<A> = <a1>*x1(2) + <a2>*x2(2) + ・・・+ <aq>*xq(2)

[数4]
Fx3<B> = <b1>*x1(3) + <b2>*x2(3) + ・・・+ <bq>*xq(3)

上記のFx2<A> とFx3<B>を、時間帯(n-1)、nにおけるデータ行列X2、X3の二つの特徴量と定義する。
次に、3個の時間帯群データにおける特徴量の乖離度(統括DI値)を定義する。この乖離度は当該対象状態の異常を判定するための指標とするものであり、状態変化を感度高く捉えるためには、3個の時間帯群において後側の2個の時間帯データから特徴量を算出する際の重み係数ベクトルは、前側の2個の時間帯データから求めた重み係数ベクトルと同じとすることが有効である。これは、人間の有する“いつもと何かが違う”といった鋭い感覚は、外部からの信号に内在する特徴を脳内のシナプス重みに記憶しているということをモデルにして、直前の2個の時間帯データで求めた重み行列にて固定することとしたものである。D方式における2種類の乖離度(統括DI値)は以下の[数5]および[数6]によっ
て算出する。なお、ここでは時間帯(n-2),(n-1),n をそれぞれ〇1、〇2、〇3と表現する。

[数5]
DI〇1/〇2/〇3(A) = ABS(Fx1A-Fx2A)/SQRT(σFx1A2+σFx2A2)

[数6]
DI〇1/〇2/〇3(B) = ABS(Fx2B-Fx3B)/SQRT(σFx2B2+σFx3B2)

ここで、
Fx1A:2つの時間帯〇1、〇2で得た重み行列Aを用いて、表1のn個のデータに対する特徴量Fx1A の平均値
Fx2A:2つの時間帯〇1、〇2で得た重み行列Aを用いて、表2のn個のデータに対する特徴量Fx2A の平均値
Fx2B:2つの時間帯〇1、〇2で得た重み行列Bを用いて、表2のn個のデータに対する特徴量Fx2B の平均値
Fx3B:2つの時間帯〇1、〇2で得た重み行列Bを用いて、表3のn個のデータに対する特徴量Fx3B の平均値
σFx1A :上記の特徴量Fx1Aの標準偏差
σFx2A :上記の特徴量Fx2Aの標準偏差 ABS:絶対値処理を示す。
σFx2B :上記の特徴量Fx2Bの標準偏差 SQRT:平方根処理を示す。
σFx3B :上記の特徴量Fx3Bの標準偏差
(S方式における特徴量の乖離度;図4の1)
S方式の考え方を図6に示す。S方式では、初期基準時間帯〇1’と2個の時間帯(n-1),nの中の前側の2個の時間帯〇2’、(n-1)に対してデータ行列X1内における、データ行列X2内における、そしてデータ行列X1とX2間における、3種類の相関係数Rx1x1、Rx2x2、Rx1x2を求め、固有方程式を解くことによって重み行列A,Bを得る。時間帯〇1’のデータ行列X1と時間帯(n-1)のデータ行列X2における各変数を、それらの変数から成るいくつかの線型結合の組に置き換えることによって、この変数群間のパターン分析を行うことができる。上記の線型結合の中で変数群X1の線型結合が変数群X2の線型結合と最大の相関をもつように重み係数AとBを決定する。上記の重み係数ベクトルA;a1,a2,・・・aq、B;b1,b2,・・・bqと表すと、データ行列X1(x1(1)・・・xi(1)・・・xq(1))とX2(x1(2)・・・xi(2)・・・xq(2))に対して、二つの線型結合Fx1A と Fx2B はそれぞれ[数7]および[数8]となる。

[数7]
Fx1A = a1*x1(1) + a2*x2(1) + ・・・+ aq*xq(1)

[数8]
Fx2B = b1*x1(2) + b2*x2(2) + ・・・+ bq*xq(2)

上記の二つの線型結合Fx1A とFx2Bを、時間帯〇1’、(n-1)におけるデータ行列X1、X2の二つの特徴量と定義する。次に、後側2個の時間帯〇1’とnにおいて、上記した前
側と同様に、時間帯〇1’のデータ行列X1 と時間帯n のデータ行列X3 における重み係数ベクトル<A>;<a1>,<a2>,・・・<aq>と<B>;<b1>,<b2>,・・・<bq>が求まり、データ行列X1(x1(1)・・・xi(1)・・・xq(1))とX3(x1(3)・・・xi(3)・・・xq(3))に対する二つの線型結合Fx1<A> とFx3<B> は[数9]および[数10]となる。

[数9]
Fx1<A> = <a1>*x1(1) + <a2>*x2(1) + ・・・+ <aq>*xq(1)

[数10]
Fx3<B> = <b1>*x1(3) + <b2>*x2(3) + ・・・+ <bq>*xq(3)

上記の二つの線型結合Fx1<A> とFx3<B>を、時間帯〇1’、nにおけるデータ行列X1、X3の二つの特徴量と定義する。
次に、S方式での3個の時間帯群データにおける特徴量の乖離度を定義する。D方式の場合と同様に、この乖離度は当該対象状態の異常を判定するための指標とするものであり、状態変化を感度高く捉えるためには、3個の時間帯群において後側の2個の時間帯〇1’、nのデータから特徴量を算出する際の重み係数ベクトルは、前側の2個の時間帯〇1’、(n-1)のデータから求めた重み係数ベクトルと同じとすることが有効である。なお、ここでは時間帯〇1’、(n-1),n をそれぞれ〇1、〇2、〇3と表示する。S方式における2種類の乖離度(統括DI値)は以下の[数11]および[数12]によって算出する。

[数11]
DI〇1/〇2(A) = ABS(Fx1A-Fx2A)/SQRT(σFx1A2+σFx2A2)

[数12]
DI〇1/〇3(B) = ABS(Fx1B-Fx3B)/SQRT(σFx1B2+σFx3B2)

ここで、
Fx1A:2つの時間帯〇1、〇2で得た重み行列Aを用いて、表1のn個のデータに対する特徴量Fx1Aの平均値
Fx2A :2つの時間帯〇1、〇2で得た重み行列Aを用いて、表2のn個のデータに対する特徴量Fx2Aの平均値
Fx1B :2つの時間帯〇1、〇2で得た重み行列Bを用いて、表1のn個のデータに対する特徴量Fx1Bの平均値
Fx3B :2つの時間帯〇1、〇2で得た重み行列Bを用いて、表3のn個のデータに対する特徴量Fx3Bの平均値
σFx1A :上記の特徴量Fx1Aの標準偏差
σFx2A :上記の特徴量Fx2Aの標準偏差 ABS:絶対値処理を示す。
σFx1B :上記の特徴量Fx1Bの標準偏差 SQRT:平方根処理を示す。
σFx3B :上記の特徴量Fx3Bの標準偏差
以上にて求めたD方式による乖離度DI〇1/〇2/〇3(A)、DI〇1/〇2/〇3(B)およびS方式による乖離度DI〇1/〇2(A)、DI〇1/〇3(B)のうちの最大DI値が、一つでも予め設定した判定閾値を超えた場合には1次異常と判定する。(図4の2、4)あるいは当該4個の統括DI値の中の最大DI値が、全て上記判定閾値未満であった場合は通常劣化(クラス1)と判定する。(図4の2、3)以上にて、図4の1;ステップAでの異常判定の指標である乖離度(統括DI値)の定義、算出及び判定方法の説明を完了した。
次に、ステップAにて1次異常と判定された場合に、ステップBにおける劣化要因との関連可能性がある観測変数群の抽出方法について説明する。(図4の4)
(劣化要因との関連可能性がある観測変数群の抽出法について;図4の4)
前記にて求めた特徴量と元の観測変数群との相関関係を調べることによって特徴量の内容を解釈するための情報を構造行列と呼ぶことにする。一般的に、2つの時間帯でのデータX1とX2 についての構造行列SX1,SX2 は、それぞれの特徴量FX1A、FX2Bと、対応するデータ行列X1、X2との積で定義され、以下の[数13]および[数14]で算出する。
[数13]
Sx1= Fx1A*X1=(A*X1)*X1=(X1*X1)*A=Rx1x1*A
[数14]
Sx2= Fx2B*X2=(B*X2)*X2=(X2*X2)*B=Rx2x2*B
なお、A,Bはそれぞれ特徴量Fx1AとFx2Bに対応する重み係数ベクトルを示す。そして、上記の構造行列SX1,SX2を書き下すと以下の[数15]のようになる。
Figure 0007054487000006
[数15]のSx1 ,Sx2 を書き下した右端に表示するSx1(1),Sx1(2)・・・Sx1(i)・・・Sx1(q) はそれぞれ観測変数名 f1,f2,・・,fi,・・fq の、当該特徴量Fx1Aへの関与度値を表している。同じく、Sx2(1),Sx2(2)・・・Sx2(i)・・・Sx2(q)はそれぞれ観測変数名f1,f2,・・,fi,・・fq の、当該他方の特徴量Fx2Bへの関与度値を表している。そして、当該関与度値が大きい観測変数は、当該特徴量の構成に強く寄与していると解釈できる。2つの時間帯でのデータX1とX2 についての構造行列SX1,SX2 は、対応する特徴量に対して、どの観測変数が、どの程度関与しているかを示しており、各観測変数の有する特徴種別S値と称することとする。
ここでは3個の時間帯群を分析対象としており、4種の特徴量が存在するので、上記の関与度値は4種類存在し、これらの関与度値のうち、どの関与度値が当該関与度閾値を超えるか、また何種類の関与度値が当該関与度閾値を超えるか否かによって、異常の確定及び真の要因に関連した観測変数群なのか、外乱等によるものであるのかなどを判断する。
(運転条件の変更や外乱による観測変数群の排除について)
上記の関与度閾値を超え要因に関連のある観測変数群の中で、プラントの運転条件変更に関連した観測変数に相当する場合には、当該観測変数は要因関連候補から除外する。この場合には当該プラントは通常劣化(クラス1)である。(図4の7,8、10)
上記の各観測変数についての4種類の関与度値のいずれもが、関与度閾値未満であった場合には、当該1次異常の判定結果を一旦保留として、通常劣化(クラス1)とする。これはD方式もしくはS方式により統括DI値の最大値が判定閾値を超えて1次異常と判定されても、当該要因の可能性がある観測変数が存在しない場合には、当該異常判定には確定性が不十分であるとして、異常判定の信頼性を向上させるために、一旦保留とするものである。(図4の5、11、12、3)
また、要因の可能性がある観測変数が存在せず、クラス1の判定かつLC値の低下が閾値以上であり、継続監視において、当該保留となる監視回数が継続して4回になった場合11には、1次異常判定結果を特異的異常(クラス2)と確定13する。これは、当該異常判定が3個の時間帯群データをセットとした解析・評価に基づいており、1個の時間帯データでのみ異常と判定され、他の2個の時間帯データで正常であったとしても、1次判定の結果が異常となる判定回数が連続して4回以上になれば、当該異常は単発的ではなく異常事象が継続中であると推定できるからである。(図4の11、13)
次に、図4の通常劣化(クラス1)におけるLC値の具体的な算出15について説明する。「クラス1」の通常劣化の状態に対する、1時間帯(1ステップ)ΔT当りの経済面と環境面に対する具体的な評価方法を以下の<1>、<2>にて定義する。
<1>コスト有効度Ec(ΔT)を、経済的な面での評価として以下の[数16]により定義する。

[数16]
Ec(ΔT) =
(生産高)/(取得・廃棄コスト+エネルギ・原材料費+その他固定費)
ここで、取得・廃棄コストとは、プラントもしくは対象設備に関する取得・廃棄に係る金額を耐用年数で除した値とする。なお、ΔT:時間帯(ステップ)当りを算出する。

<2>環境効率Vef(ΔT)を、環境面での評価はエネルギ消費量のCO2換算量及び3R(リデュース・リユース・リサイクル)の資源循環によるCO2削減量を考慮して、以下の[数17]により定義する。

[数17]
Vef(ΔT)=
(生産高)/(ΔT時間帯当りの環境負荷)
ここで、分母の環境負荷はエネルギ消費量及び3Rを考慮したCO2排出削減量(マイナス)を価格化した数値とする。なお、ΔT:時間帯(ステップ)当りを算出する
明らかに、プラントの運転が進むにつれて様々な劣化が進行するので、前記したコスト有効度や環境効率は低下してゆくことが分かる。そして、3Rの適切な実施により資源循環を行うとともに、CO2排出量の削減効果も得られる。
以上にて、図4に示すフローにおけるデータ解析、及び、判定方法の具体的な説明を完了する。
(処置方案毎の状態価値の算出、及び、処置方案決定について;図8)
次に、図3の本発明による循環型・低炭素型生産システムの全体フローにおいて、点線で囲んだ部分7,8,9,11についての詳細な手順を図8に示す。
(現時刻nにおける潜在変数群、観測変数群の抽出・・クラス1、2共通)
図8において、特異的劣化の有無判定2の結果、特異的劣化ではなく通常劣化の「クラス1」であり、しかもLC値を算出し判定閾値と比較3した結果、当該判定閾値より低下している場合は3Rに関して注意領域にあると判定する、もしくは前記特異的劣化の有無判定2の結果、特異的劣化有の場合には「クラス2」と判定し、LCMデータベース15を参照し当該「クラス1」もしくは「クラス2」の劣化に関連する、現時刻nでの潜在変数群及び関連する観測変数群の抽出5を行う。まず、クラス1/LC値低下もしくはクラス2が確定したときの、要因に関連する観測変数群の抽出方法について説明する。
(クラス1/LC値低下、もしくはクラス2の確定時における要因に関連する観測変数群の抽出)
D方式によりn時間帯において、クラス1/LC値低下もしくはクラス2が確定した場合の、直近時の(n-2)、(n-1)時間帯を合わせた3個の時間帯データにおいて、図5に示す各特徴量Fx1(A)、Fx2(B)、Fx2<A>、Fx3<B>と対応するデータX1、X2、X3との相関関係を求めた特徴種別S値SX1、SX2、S’X2、SX3は、以下の[数18]、[数19]、[数20]、[数21]によって求めることができる。
[数18]
Sx1=Rx1x1*A データX1と特徴量FX1(A)との特徴種別S値(第一関与度値)

[数19]
Sx2=Rx2x2*B データX2と特徴量FX2(B)との特徴種別S値(第二関与度値)

[数20]
S’x2=Rx2x2*<A> データX2と特徴量FX2<A>との特徴種別S値(第三関与度値)

[数21]
Sx3=Rx3x3*<B> データX3と特徴量FX3<B>との特徴種別S値(第四関与度値)

上記の4種類の特徴種別S値は、D方式にてクラス1/LC値低下もしくはクラス2の確定時に、それぞれ観測変数名f1,f2,・・,fi,・・,fqの、当該特徴量への関与度値を示すもので、順に、第一関与度値、第二関与度値、第三関与度値および第四関与度値と定義する。そして、すべての観測変数群の中で最大の関与度値にて正規化し、さらに、数段階に離散化する。例えば5段階に分類し3段階以上の関与度値を有する観測変数群を当該要因に関連する観測変数とする。
一方、S方式によりがn時間帯において、クラス1/LC値低下もしくはクラス2が確定した場合の、初期基準〇1’と直近時(n-1)時間帯とを合わせた3個の時間帯データにおいて、図6に示す各特徴量Fx1(A)、Fx1(B)、Fx2<A>、Fx3<B>と対応するデータX1、X2、X3との相関関係を求めた特徴種別S値SX1、S’X1、SX2、SX3は、以下の[数22]、[数23]、[数24]、[数25]によって求めることができる。

[数22]
Sx1=Rx1x1*A データX1と特徴量FX1(A)との特徴種別S値(第一関与度値)

[数23]
S’x1=Rx1x1*B データX1と特徴量FX1(B)との特徴種別S値(第二関与度値)

[数24]
Sx2=Rx2x2*<A> データX2と特徴量FX2<A>との特徴種別S値(第三関与度値)

[数25]
Sx3=Rx3x3*<B> データX3と特徴量FX3<B>との特徴種別S値(第四関与度値)

S方式によるクラス1/LC値低下もしくはクラス2の確定時において、上記の4種類の特徴種別S値は、それぞれ観測変数名f1,f2,・・,fi,・・,fqの、当該特徴量への関与度値を示すもので、順に、第一関与度値、第二関与度値、第三関与度値および第四関与度値と定義する。そして、すべての観測変数群の中で最大の関与度値にて正規化し、さらに、数段階に離散化する。例えば5段階に分類し3段階以上の関与度値を有する観測変数群を当該要因に関連する観測変数とする。
(クラス1/LC値低下、もしくはクラス2の確定時から先行時間帯での要因に関連する観測変数群の抽出)
図7に、クラス1/LC値低下、もしくはクラス2の確定後における先行時間帯での要因に関連する観測変数群を抽出する際の時間軸を示している。当該クラス1/LC値低下、もしくはクラス2が確定したn時間帯と、その直近の(n-1)時間帯では、前記した直近での要因に関連する観測変数群として抽出した。そして、当該(n-2)時間帯から以前の先行時間帯jにおける要因に関連する可能性がある観測変数群の抽出は、以下に示す[数26]にて算出する。そして、すべての観測変数群の中で最大の関与度値にて正規化し、さらに、数段階に離散化する。例えば5段階に分類し3段階以上の関与度値を有する観測変数群を当該要因に関連する観測変数とする。なお、上記のクラス1/LC値低下、もしくはクラス2の確定時の、n時間帯及び直近の(n-1)時間帯データで求めた重み係数ベクトル<A>を固定して、順次、j時間帯データXjの相関行列RXjXjとの積を求めることにより特徴種別S値SXjを算出してゆく。
[数26]
SXj=RXjXj * <A>

ここで、RXjXj は、先行時間におけるj時間帯データXjの相関行列を示す。順次、遡ってj=n-2(初期時間帯)まで各j時間帯での特徴種別S値SXjを求める。
(クラス1の、現時刻n;推定要因群、観測変数群の抽出及び因果モデル構築)
次に、図8において具体的な、現時刻nにおける潜在変数群及び関連する観測変数群の抽出5について、まず、通常劣化の「クラス1」に関して説明する。一例として蒸発式海水淡水化プラントの運転・保守の経験や設計上の知識を活用した通常劣化の項目・推定要因・処置候補名や内容・関連メーカ等の関連を[表5]に示す。
前記した[数5]、[数6]で算出したD方式での統括DI値、及び、[数11]、[数12]で算出したS方式での2個の統括DI値との4個の統括DI値のうち最大値となる統括DI値に対応する特徴種別S値(各観測変数の関与度値)は、D方式では[数18]~[数21]の4種類、S方式では[数22]~[数25]の4種類が得られ、最大の関与度値にて正規化し、さらに、数段階に離散化する。当該離散化後の関与度値qjが関与度閾値qthを超える観測変数群を抽出し、潜在要因に影響している構造変数群vjとする。なお、当該関与度閾値qthはLCMデータベースにて予め設定しておく。
Figure 0007054487000007
そして、前記した関与度値qjの大きさから抽出した構造変数群vjと、LCMデータベース15に保存されている系統図データベースと、を引用することにより潜在変数群(推定要因fi)を抽出し、当該選定した推定要因fiを原因群とし、前記の構造変数群vjを結果群として、系統毎に現時刻nにおける因果モデルを構築する。
また、[表5]の処置候補名(a1~a20・・)及び処置内容の欄の中で、処置候補名を四角の枠で囲んでいる当該候補名は、前記したLCMデータベース15に登録されている関連する保守業者もしくは設備・部品メーカを自動的に選定するようになっている。なお、[表5]には後ほど詳述する方案毎の状態価値の算出に必要な処置選択確率πの初期値が設定されている。
(クラス2の、現時刻nにおける潜在変数群及び観測変数群の抽出5)
次に、「クラス2」について説明する。LCMデータベース15から劣化要因ノウハウ集を引用して、要因項目と関連する観測変数群との定性的な対応表を、当該観測変数の関連度合いの大きさに応じて、例えば5段階評定を行い点数化して、[表6]に示す劣化要因ノウハウ集(点数化)を作成する。ここでは、蒸発式海水淡水化プラントにおける観測変数群をV1,・・・,V10とした場合の事例を示す。
Figure 0007054487000008
なお、この初期評定による点数化は、運転・保全の熟練者の恣意的な点数化で良い。その理由は、本発明における劣化追跡による状態推定、状態空間モデルと因果分析との融合による状態予測および強化学習を応用した処置方案の最適化により得られた処置方案と、当該処置の実施結果との物理的・機能的な照合情報に基づいて、当該一連の分析・推定・予測の方法および関連する分析パラメータを修正してゆくという、データ同化を応用することにより当該劣化の進展における状態予測の精度を向上させるからである。なお、当該データ同化の応用については、後述する状態推定及び予測等にて詳細に説明する。
次に、統括DI値が最大となったD方式、もしくはS方式に対して、現時刻nにおける観測変数毎の関与度値を求め、当該全ての観測変数の関与度値の中の最大値によって正規化し(0~1の実数値)、当該関与度値の正規化値を5段階に離散化する。例えば正規化値が0以上~0.2未満は1に、0.2以上~0.4未満は2に、0.4以上~0.6未満は3に、0.6以上~0.8未満は4に、そして0.8以上~1.0以下は1に、と離散化する。
そして、当該離散化値が3以上となる観測変数群を、当該劣化事象に有意な観測変数群と選定する。当該離散化値の閾値については、予め明確な根拠は存在しないが、運転経過につれて得られるデータ群、および前記した一連の分析・推定・予測の方法に関するデータ同化により、当該離散化の閾値を修正してゆく。
前記にて算出した観測変数群の有する離散化値を、前記の[表6]の劣化要因ノウハウ集(点数化)と照合する。具体的には、前記した劣化要因ノウハウ集の各観測変数について熟練者が評定した点数化値と、当該時間帯(現時刻n)のデータから得た各観測変数の離散化値との差異の2乗を算出し、各要因に関するパターン間距離と定義する。その適用例を[表7]に示す。
Figure 0007054487000009
[表7]の右欄に示すパターン間距離の合計δfiが小さい要因項目が、当該劣化事象の潜在変数fiであると推定する。なぜならば、当該パターン間距離の合計δfiが小さいということは、劣化要因ノウハウ集の当該劣化要因に近いということであるからである。そして、各要因項目(潜在変数fi)のパターン間距離の合計が小さいほうから3個の潜在変数を選択する。これは、劣化要因群としては経験上、3個の要因候補が抽出されれば処置群の探索や選定には十分な候補群の数であるからである。前記[表7]の事例では、潜在変数として f1(ベント不良)、f3(各段管内汚れ偏り)およびf4(蒸発量及び淡水純度の不安定)を選択することになる。
そして、[表7]に示す当該時間帯群(n-1)、nでのデータから得た各観測変数の中から、関与度値の正規化後の離散化値が3.0以上となる観測変数V1,V4,V6,V7,V8の5個を選定
し、現時刻nにおける前記にて選択した潜在変数群f1、f3、f4とから因果モデル構築を行うこととなる。以上、図8の「現時刻nにおける潜在変数群及び関連する観測変数群の抽
出」5に関する、クラス2の場合の具体的な手順を示した。なお、プラントが新設時もしくは大きな改造を行った時には、予め、劣化要因ノウハウ集が存在しないか、もしくは既存
の劣化要因ノウハウ集が適用性に欠ける場合がある。このような場合には、特許第6154523号の段落[0041]以降に記載している因果モデル創出ステップによるものとする。
次に、図8での警告域への到達時期nLを予測する手法6について説明する。
(通常劣化「クラス1」の場合nL(1))
前記した通常劣化の状態に対する経済面と環境面における評価方法であるコスト有効度Ec(ΔT)及び環境効率Vef(ΔT)を算出し、時刻nと1ステップ前の(n-1)での、それぞれの差異を変化率δE(n) 及びδV(n)とし、以下の[数27]にて算出する。
[数27]
δE(n)=Ec(n)(ΔT)― Ec(n-1)(ΔT)

δV(n)=Vef(n)(ΔT)―Vef(n-1)(ΔT)
ここで、上付き(n)と(n-1)は、それぞれ時刻nと時刻(n-1)での値であることを意味する。
そして、コスト有効度Ec(ΔT)及び環境効率Vef(ΔT)の、それぞれの低下判定の閾値をECth、Vefthとし、現時点nでのコスト有効度Ec(n)、環境効率Vef(n)とすれば、現時刻nから警告域到達時期までの経過時間TEc (n)、TVef(n)は、以下の[数28]によって直線外挿によってそれぞれ推定することができる。
[数28]
TEc (n) =(Ecth―Ec(n)) /δE(n)

TVef(n)=(Vefth―Vef(n)) /δV(n)
したがって、クラス1の場合の警告域到達時期nL(1)は、以下の[数29]に示すコスト有効度に関するnL(Ec)、もしくは環境効率に関するnL(Vef)の、いずれか短い方を当該到達時期nL(1)とする。なぜならば、LC評価値の低下が大きい場合を警告域とすることで通常劣化の特性を適切に把握開始することになるからである。
[数29]
nL(1) (Ec) = n + TEc(n)
nL(1) (Vef) = n + TVef(n)
なお、当該直線外挿は、1ステップ時間が進むにつれて当該変化率δV(n)及びδE(n)を更新するので、プラント運転の時間が経過するにつれて予測精度が向上してゆく。
(警告域への到達時期nLの予測 ・・・特異的劣化「クラス2」の場合nL(2))
次に、特異的劣化「クラス2」の場合を説明する。現時刻nにおける当該特異的劣化の程度を表す統括DI値を、監視時間が進むに際して、その都度外挿して警告閾値へ到達する
時期の予測6を行う。具体的には、図9に示すように現時刻n(〇1、〇2、〇3の3個の時間帯)にて得られたD方式での2個の統括DI値[数5] 、[数6]及び、S方式では基準時間帯〇1’、(n-1)、nにて得られた2個の統括DI値[数11]、[数12]の合計4個の統括DI値が、次の1ステップ進んだ時刻(n+1)(〇2、〇3、〇4の3個の時間帯)にて得られるD方式、S方式それぞれ対応する4個の統括DI値へ変化する。
これら4個の統括DI値の変化速度の平均値δ(n)を以下の[数30]によって算出する。
[数30]
δ(n) = {δd n-1(A) + δd n(B) + δs n-1(A) + δs n(B)} / 4
ここで、 δd n-1(A) = DId (n)(A) ―DId (n-2)(A)
δd n(B) = DId (n+1)(B)―DId (n+1)(B)
δS n-1(A) = DIS (n)(A) ―DIS (n-1)(A)
δS n(B) = DIS (n+1)(B)―DIS (n)(B) にて算出する。
そして、時刻nでの統括DI値の最大値DImax(n)に、当該変化速度の前記平均値δ(n)を乗じた統括DI値が、当該大局的劣化判定1における警告閾値DIthに到達する時期nL(2)を直線外挿にて予測する。つまり、[数31]にてクラス2における現時刻nでの警告域到達予測時期nL(2) (n)が得られる。
[数31]
nL(2) (n) =(DIth―DImax(n)) /δ(n) + n
前記の各統括DI値は、前記した3個の時間帯での相互依存性を考慮して抽出した特徴量に基づいて得たのであるから、予測においては変化速度の平均値を用いるのが妥当である
と考えられる。さらに、1ステップ時間が進むにつれて当該変化速度の平均値を更新するから、時間が経過するにつれて予測精度が向上してゆくので、前記した統括DI値の変化速
度の平均処理が実用的であることを補償するものである。
(警告域到達予測時期nLにおける潜在変数群、観測変数群の抽出と因果モデル)
まず、クラス1の場合の警告域到達予測時期nL(1)における要因に関連する観測変数群について説明する。前記した現時刻nでの[数5]、[数6]で算出したD方式での統括DI値、及び、[数11]、[数12]で算出したS方式での2個の統括DI値との合計4個の統括DI値に、[数30]に示す統括DI値の変化速度の平均値δ(n)に、当該到達時期までの経過時間(nL(1)-n)を乗じ、現時刻nでの各統括DI値に加算することによって、警告域到達時期nL(1)での対応する4個の統括DI値の予測値DI〇1〇2〇3(A)@nL、DI〇1〇2〇3(B)@nL、DI〇1〇2(A)@nL、DI〇1〇3(B)@nL を得る。
また、並行して、前記したD方式による4種類の特徴種別S値[数18]~[数21]、及び、S方式による4種類の特徴種別S値[数22]~[数25]の合計8個の特徴種別S値に関しても、前記した現時刻nと1ステップ前の時刻(n-1)での統括DI値の変化速度の平均値δ(n)に、警告閾値への到達する時期nL(1)までの経過時間TEc (n)もしくはTVef(n)の小さい方を乗じ、現時刻nでの各特徴種別S値に加算することによって、警告域到達時期nL(1)での8個の特徴種別S値の、D方式では予測値Sx1@nL(1)、Sx2@nL(1)、Sx3@nL(1)、S’x2@nL(1)、及び、S方式ではSx1@nL(1)、S’x1@nL(1)、Sx3@nL(1)、Sx2@nL(1) を得る。
[数32]
Sx@nL(2) = Sx(n) + Small(TEc (n)、TVef(n))* δ(n)
ここで、Sx@nL(1)は、8個の特徴種別S値の予測値を代表的に表示し、Small(A,B)はAとBの小さい方を選ぶことを意味する。
そして、現時刻nにおいて統括DI値が最大となった方式がD方式もしくはS方式かによって、前記にて得た警告域到達予測時期nL(1)における8個の特徴種別S値のうち4個の特徴種別S値を選定する。対応する観測変数毎の関与度値qjが、関与度閾値qthを超える観測変数群を抽出し、構造変数群vjとする。なお、当該関与度閾値qthはLCMデータベースにて予め設定しておく。
最後に、前記にて抽出した当該予測時期nL(1)における構造変数群vjと、LCMデータベース15に保存されている系統図データベースと、を引用することにより[表5]から潜在変数群(推定要因fi)を選定し、当該選定した推定要因fiを原因群とし、前記の構造変数群vjを結果群として、当該予測時刻nL(1)における系統毎に因果モデルを構築する。
次に、クラス2の場合の警告域到達予測時期nL(2)における要因に関連する観測変数群について説明する。前記した現時点nにおける潜在変数群及び観測変数群を抽出した手順と同じ手順によって、警告域到達予測時期nL(2)-1,nL(2)における潜在変数群及び観測変数群の抽出7を行う。
前記したD方式による4種類の特徴種別S値[数18]~[数21]、及び、S方式による4種類の特徴種別S値[数22]~[数25]に関しても、現時刻nと1ステップ前の時刻(n-1)での変化速度の平均値δ(n)を算出して、[数33]によって、それぞれの特徴種別S値の、警告域到達時期nL(2)における値、D方式では予測値Sx1@nL(2)、Sx2@nL(2)、Sx3@nL(2)、S’x2@nL(2)、及び、S方式ではSx1@nL(2)、S’x1@nL(2)、Sx3@nL(2)、Sx2@nL(2) を得る。
[数33]
Sx@nL(2) = Sx(n) + (nL(2)- n)*δ(n)
ここで、Sx@nL(2)は8個の特徴種別S値の予測値を代表的に表示している。
そして、クラス1の場合と同様に現時刻nにおいて統括DI値が最大となった方式がD方式もしくはS方式かによって、前記にて得た警告域到達予測時期nL(1)における8個の特徴種別S値のうち4個の特徴種別S値を選定する。対応する観測変数毎の関与度値qjが、関与度閾値qthを超える観測変数群を抽出し、構造変数群vjとする。なお、当該関与度閾値qthはLCMデータベースにて予め設定しておく。
次に、因果モデルを決めるために、前記にて抽出した潜在変数群と観測変数群との組合せを決める。具体的には、例えば[表7]に示すように、観測変数V1,V4,V6,V7,V8に対応するパターン間距離がもっとも小さい潜在変数と観測変数とを組み合わせる。例えば、潜在変数f1,f3,f4と観測変数V1の場合には、パターン間距離はそれぞれ0,4,4となっているから、同距離が最小の0であるV1-f1の組合せとする。なぜならば、当該観測変数と関連度が大きい潜在変数は、他の潜在変数と比較してパターン間距離が最も小さいからである。
(クラス2;現時刻nおよび警告閾値到達時期nLにおける因果モデルの構築)
前記にて、現時刻n及び警告閾値到達予測時期nL(2)における、潜在変数群と関連する観測変数群との組合せを決めたが、次に潜在変数間の方向性、つまり、潜在変数群の中で、
どの潜在変数が上位の原因側であるか、あるいは下位の結果側であるかを設定して因果モデルを構築する。
前記した潜在変数間の方向性については、製造企業体Aもしくはメンテナンス企業Mの運転・保守に関する経験則や設計上の知見などから予め明らかな場合が多々あり、その事例
として蒸発式海水淡水化プラントの場合について[表6]の下部に記載しているような付則を適用する。そして、現時刻nにおける[表7]の潜在変数群及び観測変数群の抽出(パター
ン間距離)の結果に対して、図11に示す因果モデルを得ることができ、同様に、前記した警告域到達予測時期nL(2)における、潜在変数群と関連する観測変数群との組合せと潜在変数間の方向性から因果モデルを構築する。なお、前記した経験則や設計上の知見が存在しない場合には、双方向の潜在変数間の上位・下位を有する複数の因果モデルを構築する。
以上に記載した手順により、クラス1、2に対して構築した各因果モデルに対して図3の因果分析8を実行する。因果分析の方法については、例えば特許第6154523号の中の[数12]の構造方程式に対して、観測変数群の共分散構造[数13]及びデータから得た標本分散と標本共分散[数14]を解くことを参照することにより可能である。
具体的な例として、図10に示すクラス1における因果モデル;系統1の場合を取り上げる。前記した因果分析によって、図10に示す潜在変数群f1,f2,f3の原因群Fと、観測変数群V1,V2,V3の結果群Vとのパス係数α群、及び潜在変数f2-f3間の係数β32が得られる。
潜在変数群(原因群)F=fから結果群Vへの因果効果を求めることによって、どの潜在変数(原因)が結果群の観測データへ与える影響度合いを評価する。この因果効果CE(f)を以下の[数34]にて定義する。ただし、潜在変数(原因)間に因果関係が存在する場合には原因間の影響度を加えることとする。
[数34]
CE(f)=ΣvV*Pr(V|F=f)+Σff*Pr(f|F=fb)
ここで、右辺第一項は潜在変数から結果群の観測データへの因果効果を、右辺第二項は潜在変数(原因)間の因果効果を示す。また、Pr(V│F=f) は、fを固定したときに、Vが得られる確率を示しており、当該fとVとのパス係数に相当する。また、Pr(f│F=fb)は、ある潜在変数fbを固定したときに、他方の潜在変数fが得られる確率を示しており、当該fbとfとのパス係数に相当する。
例えば、図10において、一つの潜在変数(原因)f2から結果群V1,V2,V3への因果効果CE(f2)は、他の潜在変数f3への因果効果も含み、以下の[数35]となる。
[数35]
CE(f2) = V1*α12 + V2*α22 + V3*α32 + f3*β32
そして、図10に示す因果モデルにおける各因果効果であるCE(f1)、CE(f2)、CE(f3)の大きい順に、当該劣化に対する原因である確率が高いと推定するものである。以上は、クラス1について説明したが、クラス2においても同様に因果効果を算出して原因候補として順序付けを行う。
(処置候補群や対象設備・部品の抽出及び関連メーカの自動選定;クラス2)
さて、次に、図8の処置候補群の選定@n,nLおよび対象設備、部品の抽出9を行う。プラント1の運転や保全に関する過去からの経験や設計条件などから製造企業体Aやメンテナ
ンス企業体Mが有しているトラブルシューティング集から、海水淡水化プラントでの適用例[表7]に対応した事例を抜粋した処置候補群の内容などを[表8]に示す。
[表8]
Figure 0007054487000010
上記の[表8]には、各処置候補に関連するメーカ名B1-1,B1-2,B2や保守業者M,M1,M2が登録されており、各処置候補が抽出されたことを契機にして関連メーカの自動選定@n,@nL
10を行うことができる。また、同表右欄には後工程にて行う強化学習における状態価値関数22、23の算出に必要な、処置選択確率18、19のπの初期値およびND/SDもしくは3Rの分類も記載されている。なお、特異的劣化に対する処置の最適化をSDとし、通常劣化もしくは環境負荷を考慮した処置の最適化をND/3Rと表現している。
(状態空間モデルと因果効果の応用による状態変化率Fnの算出手法)
現時刻nにおいて、警告閾値に至る時期を予測し、現時刻nと当該予測時期nLにおける当該プラントの性能もしくは機能の状態予測13を行うための、図8の状態空間モデルと因果モデルとの融合による状態変化率Fnの算出12について説明する。
プラントの挙動の背景にある物理的システムは、ナビエーストークス方程式(流体の運動を記述する非線型偏微分方程式で、流体力学で用いられる方程式)やボルツマン方程式(気体中の熱伝導、拡散などの輸送現象を論ずる気体分子運動論の基本となる方程式)などの微分方程式を支配方程式とした機序から成り立っており、[数36]に示すような時間tの関数である状態変数x(t)の時間発展を与える微分方程式で代表される。
[数36]
dx/dt=G(x,t) x(0)=x0:初期値
この時間発展性を、例えばシミュレーション等で模擬して将来の状態予測を行う場合に、前記支配方程式[数36]を差分近似することによる誤差の拡大や実際の現象には時間・空間
スケールが異なるものが混在しているために、前記した微分方程式自体が不完全である場合が多い。
そこで、状態空間モデルを応用する。これは従来から使われている時系列モデルの表現法であるが、データ同化においても基本となるモデルである。汎用的で非定常の現象を記述
するのに適した線形状態空間モデルは、[数37]のシステムモデルと[数38]の観測モデルとから成る。

[数37]
xt = Ft*xt-1 + vt
[数38]
yt = Ht*xt + wt

ここで、xt は状態変数、yt は観測データ、F(t ) はシステムモデル係数、Ht は観測モデル係数、vt はシステムノイズ、ωt は観測ノイズである。
ところで、状態推定の問題は Pr(xn│ym ) 、すなわち情報ym のもとで状態xn の条件付分布を求める問題である。そして、1ステップ時間前のデータyt-1 が得られたもとでは、Pr(xt│x(t-1,) y(t-1) )=Pr(xt│x(t-1) ) 、Pr(yt│x(t,) y(t-1) )=Pr(yt│xt ) が成り立つので[数37]、[数38]から、予測分布およびフィルタ分布を、以下の[数39]および[数40]ように逐次的に求めることができる。なお、ここからは時間tをnで示す。

Figure 0007054487000011

Figure 0007054487000012
ところが、前記したシステムモデル[数37]と観測モデル[数38]とを解く場合には、予め、状態変数 xn の初期値x0の分布p(x0)、システムノイズvnの分布p(vn)、及び観測ノイズωn の分布p(ωn) を指定する必要があるが、予め、システムノイズや観測ノイズの分布p(vn)、p(ωn)を知ることは現実的には困難である。
また、前記した状態空間モデルでは、状態変数x_nの背景に、潜在変数f群内の挙動が存在していることが配慮されていないという欠点があった。そこで、前記した各ノイズは考
慮しないで線形モデルとし、[数38]の観測モデルから観測モデル係数Hnを、ベイズ公式を用いて変形すると[数41]の関係式が得られる。

Figure 0007054487000013
一方、前記の予測分布[数39]の右辺先頭項 Pr(xn│x(n-1) ) は、時刻(n-1)での状態x(n-1) が生起した条件下において、次の時刻nで状態xn が生起する確率であるから、システムモデル係数を示しており、改めて、状態変化率Fnを
[数42]にて定義する。

Figure 0007054487000014

また、[数41]のPr(yn│xn ) を、フィルタ分布[数40]右辺分子の先頭項に代入して変形し、かつ[数41]を適用することによって状態変化率Fnを、以下の[数43]のように導出することができる。

Figure 0007054487000015
前記にて導出した[数43]を用いて状態変化率Fnを算出する際に、右辺の各確率をどのように得るのかについて説明する。
(1)Pr(xn)・・・データyjから、ある状態xnが生起する確率を示す。
ベイズの定理を応用して、データyjが得られた条件下で、状態xnが生起する確率を、データ種類j についての総和で算出できる。つまり、データ種類の総和をJ個として
[数44]にて算出する。
[数44]
Pr(xn)=Σ1 J Pr(xn|yj)Pr(yj)

(2)Pr(yn)・・・ある状態xnから派生するデータynの生起確率を示す。
同じくベイズ公式を応用して、状態数の総和Kとして[数45]にて算出する。
[数45]
Pr(yn)=Σ1 K Pr(yn|xk)Pr(xk)
前記の[数44]及び[数45]右辺のそれぞれの確率は、前記の事例に示す[表6]に基づいて、各観測変数のパターン間距離と当該総和との比率、および当該劣化要因全てのパターン間距離総和に対する各劣化要因の当該総和の比率を求めることによって推定することができる。後述する実施例において具体的な数値を用いて詳細に説明する。
(3)Pr(yn|yn-1)・・・1時間帯前のデータyn-1が得られたもとで現時刻nにおいてデータynが得られる遷移確率を示す。
一般的に、データには複数の背景や状態が関係した要素が混在しているので、データyn-1とynそのものを用いた遷移確率の推定は難しく実用的ではない。そこで、データに
内在する特徴量を抽出し、時間帯(n-1)とnとにおける当該特徴量の乖離度を用いて遷移確率を求める。つまり、大局的劣化判定法1で得た時間帯(n-1)と時間帯nでの統括DI
値TDIの比率を採用し、[数46]によって算出する。
[数46]
Pr(yn|yn-1)=TDIn/TDIn-1
(4)Pr(xn-1|yn-1)・・・1時間帯前でのデータyn-1を得たもとで、当該時間帯における状態xn-1が得られる条件付確率を示す。
データyn-1を入手したときの状態xn-1の条件付確率分布を求めるわけであるが、プラントのダイナミックな挙動においては、劣化要因f・ミクロ状態s・マクロ状態x・デー
タy・特徴量Zには図12に示すような連関があり、直接的に前記の条件付確率分布を求めることは困難である。一方、当該因果モデルにおける要因群fからデータ群yへ
の因果効果CE(f)は、当該要因群fからデータ群yに与える影響度合いを表している。そして、前記要因群fがミクロ状態sを介してマクロ状態xに影響を及ぼし、当該マ
クロ状態xがデータ群yを生成していることから、前記因果モデルにおける因果効果CE(f)と、データ群yが得られたときのマクロ状態xが生起している前記の条件付確率
とは比例しているものと推定できる。つまり、因果分析と状態空間モデルと、を融合することによって解決できる。
図12の因果モデル1において、時間帯(n-1)での因果分析の結果から得られる因果効果CEn-1(fi)は、当該劣化現象の背景にある要因群f(n-1) 経時的な変化は、時間帯nで
のデータ群への因果効果CEn(fi)を変化させる。これは、当該因果モデル1における要因群f(n-1)からデータ群y(n-1)への影響度が、時間帯nでは要因群f(n)からデータ群y(n)
の影響度に変化し、状態空間モデル2に沿って関連する状態xn-1から状態xnへの変化を生じさせ、当該状態変化がデータyn-1からデータynへの変化へと結びついているから
である。以上のことから、時間帯(n-1)におけるデータyn-1からマクロ状態xn-1を生起する確率を算出する際には、時間帯(n-1)における因果効果CEn-1(fi)に比例するとして、
その比例係数をγとすれば[数47]にて条件付確率Pr(xn-1|yn-1)を算出することが可能となる。このことが、因果モデルと状態空間モデルとの融合という発案である。
[数47]
Pr(xn-1|yn-1)= γ*CEn-1(fi)
前記した[数44]から[数47]を適用することによって、状態変化率Fnを[数43]にて算出することが可能となる。なお、因果効果CEn-1(fi)は要因fiに対応して求める。ところで、前記した状態変化率Fnの導出においては、状態空間モデルの観測ノイズwtを考慮しない線形モデルを仮定したが、前記したように条件付確率Pr(xn-1|yn-1)を[数47]にて算出する際に、因果分析を行って因果効果を適用することにより、状態予測精度に及ぼす誤差を実用性の観点で補償することになる。なぜならば、前記因果効果を求めるときには、観測データという結果群と潜在要因という原因群との関係性の強さを求める際に、当該観測データの分散、つまりノイズに基づいた因果分析によるパス係数に依っているからである。
(警告閾値到達予測時期nLにおける状態変化率FnLの算出方法)
現時刻nにおける状態変化率Fn と同様に、警告閾値到達予測時刻nLにおける状態変化率FnL も[数43]を用いて算出することができる。すなわち、前記した[数44]から[数47]の適用において、警告閾値到達予想時期nLでの予測値を用いることで状態変化率FnLを得る。
(警告閾値到達予測時期nLにおける状態の推定方法)
前記によって、現時刻nでの状態変化率Fnと、警告閾値到達予測時刻nLでの状態変化率FnLが得られたから、現時刻から当該予測時刻までの時間間隔を(nL-n)として、以下の[数48]により幾何平均値を求める。そして、現時刻nでの状態に対して、当該警告閾値到達予測時刻nLでの状態は、[数49]により推定することができる。

Figure 0007054487000016
Figure 0007054487000017
ここで、前記したように1ステップ時間経過での状態変化率の平均値の取り方として、現時刻nと警告閾値到達予測時期nLでの、それぞれの状態変化率FnとFnLとの幾何平均[数48]を採用するから、前記の[数43]に基づき現時刻nでの状態変化率と当該予測時期nLでの状態変化率との比率は、[数50]となり、[数47]での比例係数γは分子、分母で相殺されるので、幾何平均値を算出できることがわかる。

Figure 0007054487000018
(1時間帯先の状態予測値と実測値との比較から幾何平均値を更新)
次に、前記した[数44]~[数47]を用いて、時間間隔ΔΤn=1とおいて算出した現時刻nにおける状態変化率Fn と、警告閾値到達予測時期nLにおける状態変化率FnLとの幾何平均 及び、1時間帯後(n+1)における状態の予測値xn+1を算出する。そして、次の時刻(n+1)での実データから得た状態xa n+1に基づくデータ同化により、時刻nでの幾何平均値を更新する。つまり、以下に示す[数51]により新たな幾何平均値を得る。
Figure 0007054487000019
前記した幾何平均値の、データ同化による更新12は、当該状態予測値Fnを算出するための[数43]と、[数47]において推定した、「当該背景要因の挙動は潜在要因間の影響度合いの大きさを示す因果効果CEn-1(fi)の挙動に代表されるので、条件付確率Pr(x_(n-1)│y_(n-1) ) の大きさは当該因果効果CEn-1(fi)に比例すると推定したこと」の不確実性を低減してゆくことになり、クラス2における傾向監視による状態推定の精度を高めていく仕組みとなっている。
さらに、前記した[数37]のシステムモデルにおいて、システムノイズを考慮しないという仮定に対して、当該幾何平均値の、図8のデータ同化による更新12により、背景にあ
る支配方程式の不完全性を実用的な観点において補償することにもなっている。
前記した新たな幾何平均値を用いて、現時刻nに対応する警告閾値到達予測時期nLでの状態の更新値が、以下の[数52]により求められ、[数49]にて算出した予測時期nLでの状態推定の精度を高めることができる。この段階が、図8の警告閾値到達予測時期nLでの性能・機能予測13である。
Figure 0007054487000020
(処置シナリオamの設定)・・・・図8の14
[表7]には要因項目fi について処置候補名が挙げられており、前記した図8の9にて選定された処置候補群を処置シナリオamとして設定14する。当該事例では、要因項目は、f1とf3とf4であるから、それぞれ処置候補a1,a2とa5,a6とa7 が、該当する処置シナリオamとなる。そして、[表8]には強化学習の分類、つまり、特異的劣化(SD)事象に関するものか、通常劣化(ND)もしくは環境負荷(3R)を考慮したものかを分類している。
以上、図8において、特異的劣化「クラス2」の場合における現時刻n及び警告域到達時nLの予測6、それぞれの時刻における潜在変数群や関連する観測変数群の抽出5,7、因果分析8、処置候補群や対象設備・部品抽出9、関連メーカの自動選定10、状態変化率の算出と更新12、警告時到達時での性能・機能予測13および処置シナリオ設定14についての具体的な説明を述べた。
(通常劣化に対する要因変数群の影響度・・・関連観測変数のパターン間距離8)
通常劣化(クラス1)では、さまざまな装置や部位において摩耗や汚れなどが進行するので、要因に関連する観測変数群のパターンと、劣化項目のパターンとのパターン間距離は、クラス2の特異的な劣化の場合とは異なって、明確ではない。そこで、ある処置を実行したときの当該劣化状態の回復度合いを考えてみる。通常劣化項目の要因変数fiに対応する処置内容を実行した場合の当該劣化項目の回復度は、対応する要因fiの関与度値qjから、以下に示す[数53]によって評価できる。
つまり、処置前の劣化状態をsi として、処置後の状態をs’iとすれば、当該処置による状態遷移の確率P(si’|si)は[数53]にて算出することになり、関与度値qjが大きい劣化要因に対する処置を実行すれば、その回復度合いは大きくなるからである。
Figure 0007054487000021
ここで、qt は以下の[数54]に示すように、各観測変数の関与度値の大きい方から3個のqjの逆数の総和と定義する。
Figure 0007054487000022
各観測変数のパターン間距離は、前記のように関与度値の逆数と定義する。なお、各関与度値はq1+q2+q3=1.0 となるように正規化する。
(処置候補群や対象設備・部品の抽出9及び関連メーカの自動選定10)
次に、クラス2の場合と同様に処置候補群の選定及び対象設備、部品の抽出9を行う。プラントの運転や保全に関する過去からの経験や設計条件などから製造企業体Aやメンテナ
ンス企業体Mが有している通常劣化要因集に基づいて前記選定や抽出を行う。海水淡水化プラントでの適用例を抜粋した処置候補群の内容などを前記[表5]に示している。
前記の現時刻nと警告域到達予測時期nLにおける潜在変数群、及び関連する観測変数群の抽出5、7にて得た構造変数vjを、当該[表5]に適用して構造変数vj~通常劣化項目xk
~推定要因fi(si)~処置候補名am及び内容と、の関連性から処置候補群・対象設備・部品が決定される。そして、LCMデータベース15に登録されている設備・部品メーカの中か
ら、前記[表5]の右側から2番目の欄に示すメーカもしくは保守業者の記号を引数として、関連メーカの自動選定10が実行される。
(強化学習を応用した処置方案群の中からの、最適処置探索の全貌)
プラントを運転して当該商品を製造する全体のプロセスを循環型・低炭素型生産システムに転換もしくは新規に循環型・低炭素型生産システムとして設計する際に、当該プラントの状態遷移・劣化程度の判断・劣化要因の推定・警告域到達時期の予測・処置方案候補の選択・最適処置方案の探索と決定・当該処置実行による効果の予測と実績との比較・当該処置方案の改良などを実施するわけであるが、予め設計者や運転員が蓄積してきた知識や経験則を以てしても、当該プラントに関する必要なすべての情報を入手して利活用することは不可能である。また、当該プラントの挙動は、さまざまな要素が複雑に絡んでおり未知な部分が多い。つまり、要求仕様・設計条件・製作条件などが同じであるプラントを設置しても、当該設置先における運用方法、運転条件および過去の運転・保全履歴などによって当該プラントの挙動は異なる上に、経時的な状態変化には不確定な要素が大きく、確率的な取り扱いが求められる。
そこで、強化学習という、試行錯誤しながら行動(処置)を最適化する枠組みを応用することとした。LCM統括センターを“エージェント”と見なし、プラントを“環境”と見なして、LCM統括センターが、ある処置方案にて“行動“をプラントへ与える。そして、“エージェント”は、“環境”であるプラントから現在の状態と報酬を受け取り、行動(処置)集合の中から行動(処置)を決定し、これを“環境”へ働きかける。報酬は、1時間ステップ前の状態、1時間ステップ前に決定した行動(処置)及び、当該処置後の状態によって決まる値である。“環境”であるプラントの挙動は、未知な部分が多く不確定な要素があるために、「報酬」と「状態」という形で観測することを通じて、処置方策を改善してゆくといった“強化学習”のアルゴリズムを適用することにしたものである。
本発明における強化学習の応用において、ND/SDである場合と3R(環境寿命を考慮した)である場合とに分けて実行したのちに、統合化する。ここで、ND/SDとは、当該特異的劣化(SD)を物理的・機能的な観点に対して、もしくは各部の摩耗や汚れなどの通常劣化(ND)の進展によるエネルギ効率の低下等に対して、該当する各処置方案の実施価値を評価するものであり、3Rとは必要に応じて、当該処置に関連する設備・部品メーカとの連携により3R(Reduce,Reuse,Recycle)という経済的・環境的な観点で、該当する各処置方案の実施価値を評価することを示す。
また、当該強化学習を実行するのは、クラス1/LC値低下もしくはクラス2が確定してから各現時刻nにおいて、LC値もしくは統括DI値の推移から警告閾値到達時期を予測した
予測時期nLにおいて、処置候補案にそって処置を実施した場合の各報酬関数を見積り、関連する状態遷移確率や処置選択確率を求めて状態価値関数を算出する。そして、当該時
刻が1時間帯(1ステップ)進むにつれて、クラス1/LC値低下もしくはクラス2において対応した警告閾値に到達するまで強化学習を進めてゆく。
具体的には、処置候補名am 毎に別途求めた状態遷移確率P(s’|s)の算出17と、ND/SDか3Rかにより処置選択確率πS(am|s)18、もしくはπL(am|s)19と、および報酬関数rS(s,am,s’)20、もしくはrL(s,am,s’)21と、をそれぞれ積算して、ND/SDの状態価値関数22、および3Rの状態価値関数23求める。そして、前記した各警告閾値に到達した時点で、ND/SDの場合の状態価値関数ND/SDVπ(s)22および3Rの場合の状態価値関数3RVπ(s)23に、それぞれに重み係数を乗算して統合した統合価値関数の期待値が最大となる処置方案amを、処置候補群の中から最適処置方案aoptとして選択するわけである。
ND/SD及び3Rの場合に対する状態価値関数ND/SDVπ(s)、及び3RVπ(s)の算出式は、それぞれ以下の[数55]および[数56]となる。

Figure 0007054487000023
Figure 0007054487000024

ここで、上記の各数式右辺の各項は、以下を意味している。
P(si’|si);状態siの時に処置amを実施した場合に状態がsi’に遷移する確率
πs(am|si’)、πL(am|si);状態siの時に、方策πSもしくはπLに沿って処置amを選択する確率(サフィックス;SはND/SD、Lは3Rを指す)
rs(si,am,si’)、rL(si,am,si’);状態siの時に、SもしくはLにおいて処置amを実施した場合に、当該状態siがsi’へ回復するときに得る報酬関数
そして、ND/SDの場合の状態価値関数ND/SDVπ(s) と、3Rの場合の状態価値関数3RVπ(s) とに、それぞれα、βの重み係数を乗じて和をとり[数57]に示す統合価値関数TVπ(s)
24を定義する。なお、α+β=1.0と正規化しておく。
Figure 0007054487000025

循環型・低炭素型生産システムの運用においては、ND/SDの物理的・機能的な観点と、3Rという環境的観点の両方を同じような重要度ではなく、当該企業群の経営方針や社会的環
境などの変化に基づき、ある時期には3Rという観点を重視する場合もあるし、また、ある時期にはND/SDな観点を重視しなければならない場合もある。したがって、本発明では
ND/SDな状態価値関数と3Rの状態価値関数との重みを柔軟に変更できる統合価値関数を発案した。そして、図8の大局的劣化判定1の結果が警告時期に達していた(25でYES)
場合には、各処置方案am についての前記統合価値関数TVπ(s) の期待値が最大となる方策aopt を、最適な処置方案aopt26として選択する。
循環型・低炭素型生産システムの運用においては、ND/SDの物理的・機能的な観点と、3Rという環境的観点の両方を同じような重要度ではなく、当該企業群の経営方針や社会的環
境などの変化に基づき、ある時期には3Rという観点を重視する場合もあるし、また、ある時期にはND/SDな観点を重視しなければならない場合もある。したがって、本発明では
ND/SDな状態価値関数と3Rの状態価値関数との重みを柔軟に変更できる統合価値関数を発案した。そして、図8の大局的劣化判定1の結果が警告時期に達していた(25でYES)
場合には、各処置方案am についての前記統合価値関数TVπ(s) の期待値が最大となる方策aopt を、最適な処置方案aopt26として選択する。
(状態遷移確率P(s’|s)の算出方法)・・・図8の17
時刻nにおける状態siの時に処置amを実施した場合に、時刻(n+1)において当該状態siが状態si’に遷移する確率は、状態遷移確率Pr(Sn+1=si’|Sn=si,An=am)と表現される。
ここで、Anは全ての処置群を示しており、ある処置方案amを固定して記述すると [数58]の右辺となる。

[数58]
Pr(Sn+1=si’|Sn=si,An=am) = P(Sn+1=si’|Sn=si) = P(si’|si)
図13に強化学習を適用する場合における、行動(処置)1・要因2・状態(ミクロ3・マクロ4)・データ5の連関図を示している。マクロ状態xkが、当該プラントの性能や機能に相当するが、一つのマクロ状態xkは通常、複数のミクロ状態si_jjから成っており、そしてマクロ状態xkからデータyjが生成される。また、行動am(処置)1を当該プラントへ
施すと、要因fi(si)2が変化すると、同時に図12の点線で囲む因果モデルでの因果効果であるCE(f)も変化し、図13に示すミクロ状態は、si_jjからs’i_jj3へと遷移するわけであり、その遷移過程は当該因果モデルを分析することによって定量化される。当該s’i_jj3は、行動(処置)1による要因iの変化に呼応したミクロ状態(種類jj)の変化を表し、単一もしくは複数の要因種類iが、ミクロ状態(種類jj)に影響している。そして、当該変化後のミクロ状態s’i_jj から派生してマクロ状態(種類k)xkはx’kに変化するのである。
例えば、プラントがクラス2の場合、ある状態sにある時に行動(処置)aiを実施することにより、[表6]に示すような要因ノウハウ集における観測変数群の関連度の点数と、当該時刻での観測変数群の関与度値とのパターン間距離の大きさが変化するが、対応する要因項目iの状態遷移が顕著となる(当該遷移確率が大きい)こと、および、要因項目i以外の、他の要因パターン間距離の変化は、当該要因iのそれより相対的に小さいことから、前記[表7]に示すように抽出した3個の要因項目のそれぞれのパターン間距離δfiの合計をTpとして、状態遷移確率を[数59]にて定義する。

Figure 0007054487000026

処置aiを実施した後でのパターン間距離δfiは大きくなり、要因パターンから乖離し、当該要因が解消されることを拠り所としている。なお、上記定義式の係数(1/2)は、3個の要因項目についての状態遷移確率の総和が1.0になるように正規化するためのものである。
(処置選択確率)・・・・図8の18,19
次に、要因項目iについての、ND/SDもしくは3Rの処置選択確率18もしくは19の算出方法について説明する。まず、ND/SD、3Rにおいて、各要因項目iについてそれぞれ処置
選択確率の総和は1.0になるように前記した[表8]に示すように初期値を設定する。そして、強化学習における次のステップ以降では、後述するND/SDの報酬関数20、もしくは 3Rの報酬関数21が大きいほど、それぞれの当該処置選択確率も大きくなるように割振るものとする。つまり、[数60]に示すように1ステップ前(n-1)での、ND/SDもしくは3Rでの報酬関数をそれぞれの右辺に代入して当該処置選択確率を更新する。
Figure 0007054487000027
前記した処置選択確率を、[数60]を用いて強化学習のステップが進むにつれて更新することとした理由は、ミクロ/マクロ状態の変化・要因分析・状態予測を実施し、当該情報に基づき報酬関数が大きくなるように方策πを更新することによって処置方案の最適化を図ることができるからである。
(ND/SDの報酬関数の算出方法) ・・・図8の20
さて、次にND/SDにおける報酬関数20の算出のための劣化回復度について、通常劣化(クラス1)もしくは特異的劣化(クラス2)の場合を説明する。生産高、原料費、粗利益などの経営関連指標、性能・機能低下による損失関連、故障もしくは事故ならびに不良品発生による損害リスク、当該プラントの取得・運用・廃棄にかかる費用及び処置実行時の費用といったコスト関連、処置実行による性能・機能回復によるメリット、劣化設備・部品のリユースもしくはリサイクルによる再資源化メリット、省エネルギによるコスト低減や間接的環境負荷の低減メリットなどのメリット関連について報酬関数を算出する。各現時刻nに対応する警告閾値到達予測時期nLにおいて、前記にて設定した処置シナリオak14に沿って各処置を実行した場合に、当該予測時期nLでのマクロ状態xk(nL);
Figure 0007054487000028
から、当該通常劣化もしくは特異的劣化が解消して当該劣化直前のマクロ状態xk0
Figure 0007054487000029
へ回復することを基本として、その回復度に基づいて行う。なお、当該処置による劣化の回復が、それぞれの劣化直前のマクロ状態xk0;si’ へ回復することは、時間ステップの進展における、すべての現時刻nと対応した予測時期nLに共通している。
前記した潜在変数および観測変数群の抽出の適用例である[表7]に対応した、報酬関数20算出のための劣化回復度の評価事例(考え方)を[表9]に示す。
Figure 0007054487000030
前記した、劣化回復度に基づき、プラントの性能・機能に対応する生産高の増加などのメリット、投入エネルギ削減などコスト関連の低下、損害リスクの低減、処置実行に関連する損失やコストを算出し、各処置方案amのND/SDの報酬関数20を求める。当該報酬関数を構成する具体的な項目を以下の[数61]に示す。

[数61]
rs(si,am,si’)=
変化分[<生産高>+<投入エネルギ>+<原材料>+<損害リスク>+<間接的環境負荷コスト>]+<取得コスト>+<廃棄コスト>+<処置実施コスト>+<監視・評価コスト>

上記右辺の第一項の変化分は、クラス1(ND)では処置am後の状態が運転開始時での状態に回復し、クラス2(SD)では処置am後の状態がクラス2直前での状態に回復するも
のとして、当該劣化の進行期間全体における変化量を積分する。なお、間接的環境負荷コストについては、3Rの報酬関数を適用する場合には、当該ではrs(si,am,si’)を考慮
しないものとする。具体的な数値を挙げた算出は、後述する実施例において説明する。
(3Rの報酬関数rL(s,am,s’)の算出方法) ・・・図8の21
次に、3Rの報酬関数rL(s,am,s’)21の算出ための、劣化回復度rbL(si,am,si’)について説明する。3Rに関連する処置方案amについて、各処置前後での劣化回復度は、ND/SDの場合とは異なり、3Rの処置種類であるリデュース・リユース・リサイクルによる処置の実施前後によって決まる。リデュースの場合をrbpL(si,am,si’)、リユースの場合をrbuL(si,am,si’)、リサイクルの場合をrbyL(si,am,si’)と表して、それぞれ[数62]、[数63]および[数64]にて算出する。
[数62]
rbpL(si,am,si’)=<リデュース前後のメリット>―<リデュースに係るコスト・損失>
ここで、<リデュース前後のメリット>には経済的なメリットと環境負荷の低減効果を含み、<リデュースに係るコスト・損失>にはプラントの停止による損失分を含む。
[数63]
rbuL(si,am,si’)=<リユースによるメリット>―<リユースに係るコスト・損失>
ここで、<リユースによるメリット>には経済的なメリットと環境負荷の低減効果を含み、<リユースに係るコスト・損失>にはプラントの停止による損失分を含む。
[数64]
rbyL(si,am,si’)=<リサイクルによるメリット>―<リサイクルに係るコスト・損失>
ここで、<リサイクルによるメリット>には経済的なメリットと環境負荷の低減効果を含み、<リサイクルに係るコスト・損失>にはプラントの停止による損失分を含む。
そして、処置am実施直前での状態に回復するものとして、当該劣化の進行期間全体における変化量を積分する
つまり、3Rの報酬関数rL(si,am,si’)21は、前記した3Rの処置種類における劣化回復度の総和であり、処置am実施直前での状態に回復するものとして、当該劣化の進行期間全体における変化量を積分して下記の[数65]で算出される。
[数65]
rL(si,am,si’)=rbpL(si,am,si’)+rbuL(si,am,si’)+rbyL(si,am,si’)

ここで3Rのうち処置方案に該当する項のみを採用し、該当しない項はゼロである。具体的な数値を挙げた算出は、後述する実施例において説明する。
なお、従来技術ではSDMの実施時期は、過去の経験などからトップダウン的に保全・補修計画にて決定しているので、運用開始時と当該計画したSDM実施直前時とのLC値の低下量を算出して、本発明でのLC値の低下量と比較することによって本発明の有効性を評価する。
(発明の実施例;蒸発式海水淡水化プラントを対象とする)
図14に蒸発式海水淡水化プラントの系統図を示す。
蒸発装置本体は、海水の蒸発・冷却・凝縮器として熱回収部1は3段、排熱部2は1段の合計4段からなる。ブライン(各段内で蒸発してゆくので、やや塩分濃度が高い海水を指す)は、ブラインヒータ3(B/Hと略す)にて最高温度Tmaxに加熱されたのち熱回収部1の初段下部へ流入する。B/H3では、ボイラー4からの加熱用蒸気が伝熱管の外面で凝縮することによって伝熱管内のブラインを加熱し、凝縮したドレンは、復水ポンプ8によってボイラー4へ戻される。当該蒸気流量Fsは、ブライン最高温度Tmaxが一定になるように蒸気流量制御弁9によって制御される。
熱回収部1の初段下部に流入したブラインの温度は、当該初段の段内圧力に相当する飽和温度より高いのでフラッシュ蒸発が起き、当該蒸気は段内上部にある冷却管群の外側で凝縮し、淡水としてトレイに集められる。残りのブラインは、やや温度が低下して次の第2段下部へ流入し、当該段内圧力に相当する飽和温度より高いのでフラッシュ蒸発が起き、初段と同様に蒸発した蒸気は凝縮して淡水に、残りのブラインは次の第3段内下部へ流入する。この処理が続いて最終段つまり排熱部2(第4段)にて淡水が集められ、淡水ポンプ7によって商品として系外へ送られる。また、残りのブラインは、海水の補給水12と混合されてブライン循環ポンプ5によって熱回収部の冷却管群(第3段の上部)へ送られる。このブライン循環流量は、プラントの負荷と関連して一定流量にブライン循環ポンプ5の出口にある流量制御弁10によって制御されている。
排熱部2では、海水ポンプ6によって海からくみ上げた海水を第4段上部の伝熱管群の管内へ冷却用海水として流入させ、当該伝熱管群の外側でフラッシュ蒸気が凝縮し、本伝熱量に応じて温度が上昇した海水は再び海へ放出される。この出口海水の一部が補給水として最終段内へ流入し、当該段内下部のブラインと混合した後、ブライン循環ポンプ5によって装置本体内を循環する。
そして、各段内下部でのブラインレベルは適切な範囲になるように、最終段(第4段)のブラインレベルが制御されている。これはブラインブロー量を制御弁11によって制御されている。各段内のブラインレベルが高くなるとフラッシュ蒸発する蒸気に、海水(ブライン)飛沫が同伴してしまい淡水純度が悪くなり、逆に規定以下にブラインレベルが低下してしまうと隣の段内とのシールが破れてしまい、当該段内の圧力が保持できず、各段に設計された蒸発量の分配がうまくいかなくなり、淡水製造量とB/Hでの蒸気消費量の比率、つまり造水効率が低下するといった性能低下が生じてしまう。
また、各段内の上部から気体を外気へ抜き出すためにベント管13やエジェクタ設備14が装備されている。これは、各段内でブラインがフラッシュ蒸発する際に、ブライン中に溶けている非凝縮性ガスが発生するわけであるが、この非凝縮性ガスの段内濃度が予めの目安より高くなると沸点上昇という現象のためにブラインからの蒸発効率を低下させるからである。上述したように、海水淡水化プラントでは、伝熱・フラッシュ蒸発・凝縮・流動・レベル・淡水純度といった多くの事象が絡み合っているために、様々な異常兆候の早期発見が難しいだけでなく、運転の熟練者でも最適な処置方案の選定は困難であった。
実施例1:クラス1 通常劣化による性能低下(ケース1)
蒸発式海水淡水化プラントの運転を継続してゆくと、蒸発装置本体の上部に設置されている伝熱管の内部に流れているブライン中の不純物や酸化物などが、当該伝熱管内面に汚れとして付着してゆくので、管外から管内へ伝達する熱の流れの抵抗が大きくなり熱伝達係数の低下となってしまう。このことから、当該蒸発段の下部にてフラッシュ蒸発した蒸気が、当該伝熱管外面にて凝縮する効率の低下を招き、造水効率の低下、及び、B/Hでの加熱蒸気量の増加となる。
また、B/Hでも伝熱管内部に汚れが付着してゆくので、管外での加熱蒸気の凝縮効率が低下してゆき、前記した蒸発装置本体と同様に伝熱効率低下から造水効率の低下となる。つまり、蒸発装置本体での造水効率の低下と合わせて、同じ造水量を得るために必要な加熱蒸気量が次第に増加してゆく。
図15に、運転開始時からの主な流量データを示す。造水量が一定となるようにブライン循環流量Fbrが制御されており、必要な海水流量Fseaは、ほぼ増減は見られないが、B/Hでの蒸気流量Fsは次第に増加しているのが分かる。なお、横軸は運転開始時からの時間経過をステップ数として60までを示している。
図16には、主な温度データの時間変化を示す。同じく造水量一定のためにブライン最高温度Tmaxは一定値95℃に制御される。蒸発装置本体の熱回収部1の初段(NO.1段)、NO.2段コンデンサー出口温度T1、T2が時間経過とともに少しずつ低下しており、またNO.3段コンデンサー入口温度T4は次第に上昇しており、蒸発装置全体の伝熱効率が次第に低下していることを示している。
図17には、性能数値としてB/H蒸気流量Fs、淡水純度Dist-A、造水倍率を示す。時間経過とともにB/H蒸気流量Fsは増加し造水倍率が低下しているのがわかる。なお、淡水純度Dist-Aはやや上昇はしているが造水効率の観点では特別なリスクは見られない。
図18に、統括DI値の最大値の推移を示す。運転開始時からステップ60までの状態は、特異的な劣化(クラス2)判定の閾値2.0未満であることからクラス1の通常劣化であると判定できる。
図19には、LC値であるコスト有効度Ecjと環境効率Vefjの、運転開始時での値を1.0とした低下比率の実測値を示す。本発明の実施例では、いずれかの小さいLC値低下比率が0.98未満に低下した時点、ステップ25を注意域突入時とし、状態予測・因果分析を介して状態価値関数を求め強化学習を開始し、LC値低下比率が0.92未満となる警告域ステップ51に達したら、蓄積してきた強化学習の結果を評価して最適処置方案aoptを決定する。なお、上記したLC値の低下比率に対する注意及び警告閾値は、プラント運用の方針から予め設定される。
各ステップの時間幅ΔTでのコスト有効度Ec(ΔT)、環境効率Vef(ΔT)は、それぞれ[数16]、[数17]に基づき生産高(淡水ton当り90円とした)・装置の取得コスト(取得価格を耐用年数で割ったものとした)・原材料(海水淡水化プラントでは海水なので無料とした)・その他固定費(本実施例ではコスト有効度の絶対値ではなく運開時からの低下比率に着目するため適用せず)・電気消費量と重油消費量とを加算してエネルギ消費量を算出、及び、当該電気消費量と重油消費量を間接的環境負荷としてCO2総量に換算し、さらに価格化した。なお、当該価格化については「二酸化炭素に対する価格設定について」 総合資源エネルギー調査会 発電コスト検証ワーキンググループ(第2回会合)資料8によった。
各ステップでのLC値の算出経過を運開後のステップ30までを[表10]、[表10-1]に示す。ただ、途中のステップ8から22までは省略している。ステップ25では環境効率Vefjの低下比率が0.978
となり、予め注意閾値を0.98と設定しているのでステップ25以降においてLC値警告域への到達時期の予測・各状態推定・因果分析などを行なって、各ステップでの状態価値関数NDVπ(s)を算出して強化学習を開始することになる。
Figure 0007054487000031
Figure 0007054487000032
図20には運開後からステップ30までの主な流量と圧力データを、図21には主な温度データを示し、これらは後述の処理に使用するデータ群である。
次に、現時刻ステップnにてLC値が警告域に到達する時期nLを予測した結果を図22に示す。これは、[数27]にてLC値の変化率を求め、[数28]にて警告域への直線近似によるステップ数を算出し、[数29]にて警告域到達時期nLを求めた結果であり、現時刻ステップn に対応した予測時期ステップnLの数値を表11に示す。予測開始後でのステップnが29、36では、到達予測時期nLが100、127と実際の到達時期ステップ51と大きく異なっているが、その後次第に実際の到達時期51に近づいているのが分かる。このように、当該直線近似でも、1ステップ時間が進むにつれて当該LC値の実測値にて変化率を更新することにより予測精度が向上していることが分かる。
クラス1の通常劣化(ケース1)における強化学習を1ステップ毎に実行してゆくわけであるが、ここからの説明としては5ステップ毎に、つまり、ステップ30,35,40,45,50についての状況、結果を示すものとする。図23に、各観測変数(21個)の関与度値の最大値の実測値を示す。B/H蒸気流量Fs、B/H蒸気温度Ts、各段コンデンサ出口温度T1、T2、T3、Tsea_oという観測変数群が、当該劣化に関する関与度が大きいことがわかる。
Figure 0007054487000033
上記した関連する観測変数群の関与度値の実測値に対応した、ステップnにて予測した警告域到達ステップnLでの最大関与度値の予測値を図24に示す。ステップnが35で予測した場合は到達時期nLが98と実際の到達時期51と大きく異なっているために、最も大きな関与度値は出口海水温度Tsea_oとなっている。しかし、ステップnが進むにしたがってB/H蒸気流量Fs、各段コンデンサ出口温度T1、T2、T3の関与度値の予測値が大きくなっており、当該実測値を示す前記の図23と同様な観測変数群に収束してゆくことが分かる。
なお、図25、図26には、運開時から時間経過(ステップ数n=30まで)における各観測変数の関与度値の実績値の推移を示す。図25では、時間経過とともにB/H蒸気流量Fs、B/H蒸気温度Ts、の関与度が増加し、図26ではNO.1~NO.3段コンデンサ出口温度T1、T2、T3の関与度が増加しているのが分かる。なお、運開時からブライン循環ポンプ吐出圧力Pbrpの関与度値が比較的大きく推移しているが、この傾向については後述のクラス1ケース2において考察する。
前記した図23に示す各観測変数の関与度値実績に基づき、実時刻ステップnが30、35,40,45,50の場合の、関与度値を正規化後、5段階に離散化した結果を[表12]に示し、図24に示す各観測変数の関与度値予測に基づき、同じくn=30,35,40,45,50での予測した関与度値を正規化後、5段階に離散化した結果を[表13]に示す。なお、全観測変数群の離散化値を当該ステップでの「関与度値パターン」と称す。
Figure 0007054487000034
Figure 0007054487000035
上記した[表12]と[表13]の中の離散化した結果、段階3以上に相当する観測変数群を、当該劣化に関連する観測変数であると抽出する。本実施例では、正規化値の大きさにより、0~0.2:1、0.2~0.4:2、0.4~0.6:3、0.6~0.8:4、0.8~1:5、と離散化している。
さて、次に、前記の[表6]に示したように、クラス1の通常劣化における劣化要因ノウハウ集の観測変数群との関連度合いを、5段階に点数化した要因―観測変数間の関連度合いを[表14]に示す。f1~f12までの12個の要因と、21個の観測変数群との5段階表示の関連度を「関連度パターン」と称す。
Figure 0007054487000036
前記の[表12]及び[表13]の中の、現時刻n=30及び警告域予測時刻nL=51での離散化した「関与度値パターン」と、[表14]の「関連度パターン」との距離を算出する。ここで、パターン間距離は対
応する離散化した数値の差の2乗と定義する。
[表15]には、各要因fiに対応した各観測変数vjでのパターン間距離と、すべての観測変数vjにおける当該パターン間距離の総計を[表15]の右端の欄に示す。そして、当該パターン間距離の総計が小さい
要因fiから3個の要因f1、f3、f5を選択する。なぜならば、n=30における観測変数群vjの関与度パターンが、劣化要因ノウハウ集の要因fiに関連する観測変数群vjの離散化パターンに近いほど真の要因
fiである確度が高いからである。
関連する観測変数群vjは、まず[表12]にて得た実時刻nでの関与度値パターンにおいて段階3以上の観測変数v1、v5、v8、v9、v13、v14、v15を抽出し、かつ、[表15]の3個の要因に対応するパターン
間距離が最小の観測変数を、要因fiと関連した観測変数群と特定する。つまり、f1はv1、v8と、f3はv5、v9と、f5はv5、v8、v9、v13、v14、v15と因果関係があるものとする。なぜならば、観測変数の
関与度値の離散化値と、劣化要因ノウハウ集での離散化値と近い方が、当該要因との関連性が高い観測変数であるからである。
前記した[表12]と[表15]とから要因群fiと関連した観測変数群vjが特定され、因果モデルを構築する。なお、[表14]の劣化要因ノウハウ集の下部記載の要因間の関係が規定されており因果モデルの構
築に適用する。
以上に記載した経緯により、要因f1、f3、f5と、関連する観測変数群v1、v5、v8、v9、v13、v14、v15との選定結果から構築した、現時刻n=30における因果モデルを図27に示す。また、当該因果モデ
ルに対して、[数34]を用いて算出した各要因f1、f3、f5からの因果効果CE(f1)、CE(f3)、CE(f5)を[表17]に記載している。これらの因果効果の大きさから、要因f3(0.091)より要因f1(0.343)とf5(0.566)
の影響度が、相対的に大きいと推定できる。なお、因果分析については、例えば特許第6154523号の中の[数12]の構造方程式を適用することで可能である。
次に、図8の状態空間モデル&因果モデルによる現時刻nでの状態変化率Fnの算出12についての実施例を説明する。状態変化率Fnは、[数43]によって算出する。その中の、Pr(xn)は[数44]で、Pr(yn)
は[数45]にて算出するわけであるが、具体的に現時刻nにおいては前記した[表16]に記載しているように、[表15]に示す観測変数群の関与度値パターン距離から得られるxn及びvjの生起確率から算
出することができる。
Figure 0007054487000037
Figure 0007054487000038
Figure 0007054487000039
また、[数43]右辺分子の右側のPr(yn|yn-1)は[数46]により統括DI値の比率から算出され、右辺分母のPr(xn-1|yn-1)は[数47]により[数34]に記載の因果効果CE(f)から算出されるが、課題は比例
係数であるγが不明であるが、次に記述する幾何平均化により解決する。
一方、最終的には[数48]に示す、現時刻nにおける状態変化率Fnと、LC値警告域に到達する予測時刻nLにおける状態変化率FnLとの幾何平均値を求めるので、[数47]の比例係数γは相殺されるこ
とから、γ=1とおいて解決する。
警告域到達予測時期nLにおける状態変化率FnLの算出について説明する。前記した現時刻nにおける要因群と関連する観測変数群の抽出・関与度パターンと劣化要因ノウハウの関連度パターンとの距離
に基づき因果モデルの構築と因果分析の実行、因果効果の算出、及び、各生起確率の算出手順と同様に、[表12]の代わりに[表13]に示す関与度値(予測値)の離散化結果を用い、現時刻nでの[表15]、
[表16]、[表17]の代わりに、それぞれ[表18]の関与度値パターンとの距離、[表19]の各生起確率の算出を行い、nL=51での因果モデル図28を構築・因果分析を経て、[表20]要因毎の因果効果
CE(fi)を用いることによって予測時刻nLにおける状態変化率FnLを得ることができる。
以上から、[数48]により現時刻nと予測時刻nLでの幾何平均値を算出することが可能となり、現時刻nが30,35,40,45,50におけるFn(fi)、FnL(fi)を求めて得た状態変化率の幾何平均値
を[表21]に示す。
Figure 0007054487000040
Figure 0007054487000041
Figure 0007054487000042
Figure 0007054487000043
ここで、幾何平均値の算出は、現時刻nと予測時期nLとにおいて要因fiが共通して存在する場合にのみ適用する。以上にて、図8に示す状態変化率Fn、FnLの算出12の実施例を記述した。次に、当該
状態変化率、さらに幾何平均値の更新についての実施例を説明する。
現時刻n=30、nL=51の場合に得た状態変化率の幾何平均値を、次の時刻n=31でのデータや状態推定に基づいて更新する。[表22]には、現時刻n=30での各観測変数の関与度値の実績値とその下
段に予測値、及び、次の時刻n=31における当該関与度値の実績値を示す。表中に双方矢印で示している。
Figure 0007054487000044
前記した現時刻nでのデータ同化前における分析手順と同じく、n=31での[表23]、[表24]から各生起確率の算出と図29の因果モデルを得る。そして[表25]に示す因果効果CE(fi)を用いて状態変
化率Fn(fi)を算出する。次に予測時刻nL=40での[表26]、[表27]から各生起確率の算出と図30の因果モデルを得る。そして、[表28]に示す因果効果CE(fi)を用いて状態変化率FnL(fi)を算出するこ
とによって、状態変化率のn=31とnL=40における幾何平均値が求められ、同化前の幾何平均値を更新する。
Figure 0007054487000045
Figure 0007054487000046
Figure 0007054487000047
Figure 0007054487000048
Figure 0007054487000049
Figure 0007054487000050
実時刻n=30で得た状態変化率の幾何平均値に対して、次のステップn=31における状態予測、因果分析などを介したデータ同化による状態変化率の幾何平均値の更新結果を[表29]に示す。ここでは、要
因f1とf5の幾何平均値は同じ値であったが、f3についての幾何平均値は1.056から1.003へ更新された。
Figure 0007054487000051
前記した幾何平均値のデータ同化前と同化後での更新結果を、[表30]に示す。なお、[表30]ではステップ5個おきの幾何平均値について示しているが、状態変化率などの検討は1ステップ毎に実施し
ている。そして、同化前後において共通した要因fiが存在する場合にのみ状態変化率Fn及びFnLを適用して状態推移を行う。以上にて、図8の状態変化率Fn、FnLの算出・更新12の実施例の説明を完了
する。
Figure 0007054487000052
次に、図8のLC値警告域到達時期nLでの性能・機能予測13の実施例を説明する。[表31]にデータ同化前の、[表32]にデータ同化後の各予測ステップnLにおける要因fiの状態変化率の幾何平均値を、要因fiごとの関連観測変数群とともに示す。なお、LC値が警告域に到達した時期nL=50における因果モデルを図31に示す。図27に示すLC値注意領域に入った時期n=30での因果モデルを構成している要因f1,f3,f5と同等の要因群であり、時間経過において安定した要因推定が出来ていることが確認できた。
Figure 0007054487000053
Figure 0007054487000054
前記した[数49]に基づき、[表31]及び[表32]に示すnLでの状態変化率の幾何平均値を用い、[表33]に示す当該nでの状態実測値xnとから予測時刻nLでの状態xn_nLを算出する。主な性能である
造水量(これは一定に制御)、B/H蒸気量Fs(要因f1に関連する場合と要因f3、f5に関連する場合)、造水倍率(関連する観測変数群の違いにより2種類)、及びポンプ総消費電力とを、データ同化前を
[表34]及び、図32に、データ同化後を[表35]及び、図33に示す。
Figure 0007054487000055
Figure 0007054487000056
データ同化による効果は、例えばデータ同化前の図32の造水倍率の状態予測の結果が、予測したステップn=30,35,40辺りの二重線で囲んだ部分では設計性能値3.0を大きく超えたまま推移しており、後述する強化学習における報酬関数を介して誤差が大きくなってしまうが、データ同化後の図33に示す造水倍率の予測結果では、予測したステップn=30から大きく変動することもなく、通常劣化であることから妥当な状態推定となっていることが挙げられる。データ同化前[表34]とデータ同化後の[表35]とにおいて太線で囲んだ造水倍率の部分を比較すれば、データ同化の効果が数値で確認できる。
Figure 0007054487000057
次に、図8の処置シナリオamの設定14についての実施例を説明する。[表5]の海淡プラントでの構造変数、通常劣化項目、要因及び処置候補に記載している推定要因fiと処置候補名及び処置内容amとの部分を抜粋して[表36]に示す。[表32]のnLでの各要因fiに関する状態変化率の幾何平均値(データ同化後)に示す要因fiに対応する処置シナリオ(候補)amを、[表36]にしたがって選択、設定する。
Figure 0007054487000058
次に、図8の報酬関数rs(s,am,s’)20を求める。まず、[表35]に示した各警告域予測時期nLにおける通常劣化した性能状態xn_nLと、当該処置amを実施した後の状態は運転開始時n=1の性能状態に回復するので、当該回復状態との差異をnL時点での回復度合いと定義する。そして、ステップ数nLまでの劣化度合いの積分量を各警告域到達予測時刻nL(現時刻n)について算出した結果を劣化回復量として[表37]に示す。
Figure 0007054487000059
報酬関数rs(s,am,s’)は、[数67]に示すように、生産高・投入エネルギ・原材料・損害リスク・間接的環境負荷コストの変化分と設備取得コストと廃棄コストと処置実施コスト及び監視・評価コストの合計
である。本実施例では、造水量は一定であるので生産高の変化分はゼロ、原材料は海水であるのでコストは無し、もしくは変化分は無し、特異的な劣化ではなく通常劣化であるので故障・事故発生のリスク
は無視できるとした。また、設備取得コストは取得総額を耐用年数で割るものとし、廃棄コストは考慮せず、処置実施コストは処置候補am毎に見積り、監視・評価コストも予め見積もるものとした。
本実施例では、処置候補amにより通常劣化が回復し、性能の回復による投入エネルギの減少(劣化前の状態に戻る)、当該処置候補amの実施のためにプラント停止などが必要な場合の損失、当該処置実
施のコスト、監視・評価のためのコストを、1ステップ毎の報酬関数として算出し、[表38]に示す。
Figure 0007054487000060
上記の報酬関数のみを[表39]に示し、処置候補am毎の報酬関数の総和を[表40]に示す。
Figure 0007054487000061
Figure 0007054487000062
次に、各現時刻nにおけるパターン距離の小さい方から3個のパターン間距離の合計に対する、fi 毎のパターン間距離の比率q1、q2、q3を要因fiの関与度値とし、[数60]により各上位3個のfiの関与
度値の逆数の和を算出し、[数59]によって図8の要因fi(si)毎の状態遷移確率P(si’|si)17を求める。その結果を[表41]に示す。
Figure 0007054487000063
次に、図8の処置選択確率π(ak|s)の実施例18を説明する。まず、当該初期値は[表5]にて設定されており、次の時刻からは[数66]に基づき、前記にて求めた各処置候補amの報酬関数である[表39]
と、当該報酬関数の総和である[表40]と、を用いて算出する。その結果を[表42]に示す。
Figure 0007054487000064
以上にて算出した[表41]の状態遷移確率P(si’|si)と、[表42]の処置選択確率π(ak|s)と、[表39]の報酬関数rjとを[数55]に適用することによって、各n(nL)での状態価値関数NDVπ(fi)を得る。そ
の結果を[表43]に示す。カッコ表示はマイナスであることを示す。
Figure 0007054487000065
前記した各時刻での状態価値関数NDVπ(fi) の、n=30からn=50までの期待値を[表44]及び図34に示す。つまり、各nに対応した、LC値が警告域に到達すると予測した時期nLにおいて当該処置を実施した場合の状態価値関数の期待値の合計を示す。同じく、カッコ表示はマイナスを表しており、処置候補a1の処置(つまり、蒸発装置本体の伝熱管内をスポンジボール洗浄)が最適であることが分か
る。
Figure 0007054487000066
なお、本実施例では通常劣化(クラス1ケース1)のみの場合でReduce、Reuse、Recycleを検討対象としていないので、[数57]で示す統合価値関数TVπ(s) は、3RVπ(s)の項が無く、つまりβ=0、α
=1とし、状態sを各要因fiとおいて[数66]となる。
[数66]
TVπ(fi) = NDVπ(fi)
以上にて、図8に示す通常劣化(クラス1_ケース1)に対する一連の処理の実施例の説明を完了した。本発明の全体フローチャートである図3における処置方案決定11に続き、前記した図8での処理内
容と強化学習の結果を含んだ処置最適化の情報を企業体A,Mに伝達する12。
企業体A,Mは、前記にて処置決定したスポンジボール洗浄を実施する際の、具体的な工程、準備等について実施計画を行い適切に実施する。そして、図3に示すように当該処置の実施経過や結果と、上記
した実施計画内容との相違点や不具合内容などの照合13を行う。
前記した処置実施においてプラント停止が必要であった場合には運転再開後14、プラント状態の回復度合いなどの性能・機能の確認15を行うが、本実施例ではスポンジボール洗浄であるから運転継続しながら、処置実施13、及び性能・機能確認15を行うことになる。
図35に、海水淡水化プラントに設置したスポンジボール洗浄装置の系統図を示す。スポンジボール洗浄運転装置15にて設定した個数のスポンジボールが、ブライン循環ポンプ(BRP)5の出口配管の
専用座から、配管内へ供給され、本体1のNO.1~NO.3段のコンデンサーの伝熱配管群の内部を通過しながら、内面に付着したスラッジやスケールを除去する。
そして、ブラインヒータ(B/H)3の伝熱配管群の内面に付着したスラッジやスケールを除去した後、ボール捕集器16にてスポンジボールを回収して、スポンジボール洗浄運転装置15に送られて、2
回目の洗浄のために前記したブライン循環ポンプの出口配管内へスポンジボールを供給する。
上記したスポンジボールによる伝熱配管内の洗浄を繰り返し、前記洗浄運転装置15にて予め設定した回数に達し時点で当該スポンジボール洗浄処置を終了する。なお、適用するスポンジボールの種類と
しては、管内面に付着するスケール種類であるスラッジ(海水汚れ等)、ソフトスケール(CaCO3、Mg(OH)2)、及びハードスケール(CaSO4)に対応してそれぞれ、標準スポンジボール、樹脂コーティング
ボール、及び、全面カーボランダム(炭素珪素)ボールが適用される。
当該スポンジボール洗浄では、ボール個数BM個とボール循環回数REのパラメータは、企業体Mのノウハウ等によって標準値が決められているが、プラントの今までの運転状況や海水性状によって修正することが必要になる場合がある。
図36には、前記企業体Mが有する標準スポンジボールの場合の洗浄におけるデータベースの中の、スケール除去率を洗浄時間を横軸にとって示す。ボール個数BMを200個から400個、600個、800個
へ増やすと、洗浄開始後のスケール除去率の増加程度は大きくなる。一方、ボール個数BMが200個くらいで少ない場合には洗浄時間を増やしても、スケール除去率は0.7~0.8より大きくはならない。
図37には、同じく企業体Mが有するデータベースに保存している標準スポンジボールで洗浄した場合の造水倍率の回復率を、横軸に洗浄時間をとり、ボール個数BMをパラメータとして示している。洗
浄時間が経過するにしたがい回復し、やがて収斂してゆく。
さて、本実施例では、対象の海水淡水化プラント規模からボール個数BMを400個として標準スポンジボールを使用した洗浄を行った場合の造水倍率の回復率を、前記した図37に示す回復率データベー
スとともに図38に示す。ボール個数BMは400個であるが、洗浄時間が約40分までは、当該回復率は前記データベースのボール個数BMが200個と400個の中間を推移し、その後はBMが200個の場
合の回復率とほぼ同様の推移を示しており、食い違ったパターンを示した。
そこで、前記した標準スポンジボールではなく、樹脂コーティングボールによる洗浄に対する造水倍率の回復率の時間推移と、本実施例の標準スポンジボールで洗浄した場合の造水倍率の回復率の時間推移とを比較してみた。樹脂コーティングボールの場合のデータベースから引用したスケール除去率の推移を図39に、造水倍率の回復率の推移を図40
に示す。
前記した図40で示すボール個数BM=200とBM=400での造水倍率の回復率と、本実施例での造水倍率の回復率とを図41に比較表示する。ほぼ樹脂コーティングボールのBM=400でのパターンと、よ
く一致していることが分かることから、本実施例でのスケール除去率の推移に基づきデータベースを修正もしくは追加する必要がある。
つまり、図42に示すように、既存のスラッジに対する標準スポンジボール使用における除去率の推移パターンに、ソフトスケールに対する樹脂コーティングボール使用における推移パターンを追加する。
前記した、本実施例の海水淡水プラントの運転条件および海水性状に対するスポンジボール洗浄の効果である造水倍率の回復率に関するデータベースの追加による更新が、図3の事後情報の確定16、及
び、フィードバック情報の確定20に相当する。そして、次回のSDMでの実施内容の見直しとなる。
以上にて、実施例―クラス1ケース1通常劣化による性能低下の説明を完了する。
(実施例2 クラス1(ケース2):ポンプの過剰性能の環境負荷への対応)
蒸発式海水淡水化プラントの重要な回転機械であるブライン循環ポンプBRPの製作において、当該プラントオーナーもしくはエンジニアリング会社では、当該海水淡水化プロセスに必要かつ十分な性能や
機能を発揮すべく基本設計を行い、当該基本設計に対して、ある余裕を持たせた要求仕様を外注先の機械メーカに課す。そして、当該BRPの設計、製造を担当する機械メーカにおいては、前記したオーナー
もしくはエンジニアリング会社から与えられた要求仕様に、さらなる余裕を持った詳細設計を行っている。
したがって、BRPの運転においては出口配管に設置する流量制御弁を絞ることによって流体のブライン(濃縮海水)の流路・流動抵抗と、当該BRPの性能カーブにおける流量・圧力とをバランスさせるわ
けだが、この大きな余裕のエネルギ分は前記した流量制御弁での絞りにより消耗され、投入エネルギの無駄となるばかりではなく、BRPの機構上の損傷や部品の摩耗を早めたり、前記流量制御弁の内部摩耗
を早めて寿命を短くするという欠点を有する。
また、一方、前記したBRPの大きな設計余裕度合いを、どの程度小さくし ていけば良いのか、機能維持とともに環境負荷を考慮した最適な処置方案はどうすべきか、など実際の運転データから得られる状
態予測、劣化要因の推定及び処置実行により得られる情報抽出に基づき設計条件の更新手法も大きな課題となっている。
図43には、運転開始時からの主な流量データの時間変化を示し、図44には各ポンプの出口圧力の推移を示す。同じく、造水量が一定になるように運転制御されており、BRPによるブライン循環流量Fbr
は安定して推移しているが、出口圧力Pbrpは他のポンプの場合とは異なり、運転開始後から変動が比較的大きく、ステップ数が約55くらいからは一意的に上昇しているのが分かる。(図44の中、丸枠で
囲んでいる部分)
図45に、統括DI値の最大値の推移を示しているように、運転開始時からステップ数55までクラス2の閾値2.0未満であることから、クラス1の状態、つまり、通常劣化の状態が継続していることが確
認できる。
図46には、LC値であるコスト有効度Ecjと環境効率Vdfj の、運転開始時での値を1.0とした低下比率の実測値を示す。前記した実施例クラス1ケース1の場合と同様に、いずれかの小さいLC値低下比
率が0.98に低下した時点、ここではステップ24を注意域突入時とし、状態予測・因果分析を介して状態価値関数を求め強化学習を開始し、LC値低下比率が0.92未満となる、ここではステップ55の警告
域に達したら、蓄積してきた強化学習の結果を評価して最適処置方案aoptを決定する。
各ステップの時間幅ΔTでのコスト有効度Ec(ΔT)、環境効率Vef(ΔT)は、それぞれ[数16]、[数17]に基づき生産高(淡水ton当り90円とした)・装置の取得コスト(取得価格を耐用年数で割ったもの
とした)・原材料(海水淡水化プラントでは海水なので無料とした)・その他固定費(本実施例ではコスト有効度の絶対値ではなく運開時からの低下比率に着目するため適用せず)・電気消費量と重油消費
量とを加算してエネルギ投入費用を算出、及び、当該電気消費量と重油消費量をCO2総量に換算し、さらに価格化した。
なお、当該CO2量の価格化については、実施例クラス1ケース1の場合と同様、「二酸化炭素に対する価格設定について」 総合資源エネルギー調査会 発電コスト検証ワーキンググループ(第2回会合)
資料8によった。
各ステップでのLC値の算出経過を運開後のステップ30までを[表45]に示す。ただ、途中のステップ7から22までは省略している。ステップ24ではコスト有効度Ecjの低下比率は0.978、環境効率
Vefjの低下比率は0.976となり、予め注意閾値を0.98と設定しているのでステップ24以降においてLC値警告域への到達時期の予測・状態推定・因果分析などを行なって、各ステップでの状態価値関数
NDVπ(s)を算出して強化学習を開始することになる。
次に、現時刻ステップnにおいてLC値が警告域に達する時期nLを予測した結果を図47に示す。これは[数27]にてLC値の変化率を求め[数28]にて警告域への直線近似によるステップ数を算出し、[数
29]にて警告域到達の予測時期nLを求めた結果を図示したものである。予測開始後でのステップnが32、42では到達予測時期nLが118、112となっており、実際の警告域到達時期ステップ55
と大きく異なっているが、その後次第に実際の到達時期55に近づいているのが分かる。このように、当該直線近似でも、1ステップ時間が進むにつれて当該LC値の実測値にて変化率を更新することによ
り予測精度が向上していることが分かる。これは実施例クラス1ケース1の場合の図22と同様である。
クラス1ケース2(通常劣化時におけるBRP過剰性能による環境負荷対応)における強化学習を1ステップ毎に実行してゆく。ここからの説明としては、5ステップ毎に、つまり、ステップ30,35,4
0,45,50、55についての解析・推定状況、及び、その結果を示すものとする。図48に、各観測変数(造水量も加えて22個)の関与度値の最大値の実測値を示す。B/H蒸気流量Fs、ブライン循環
流量Fbr、NO.1ブラインレベルL1、及びBRP吐出圧力Pbrpという観測変数群が当該LC値低下の事象に関する関与度が大きいことがわかる。
一方、現時刻のステップnにて予測した警告域到達ステップnLでの観測変数群の最大関与度値の予測値を図49に示す。図48に示しているステップnでの実測値による最大関与度値の観測変数群と同じ観測変数群となっており、LC値警告域到達予測時nLにおいても関連する変数群を抽出できており、予測の信頼性が高いことが分かる。
当該実施例クラス1ケース2の場合は、通常劣化の進展に並行してBRPの過剰性能下での運用経過における環境負荷を考慮しており、前記した関与度値の大きい観測変数群についての意味を吟味する。
Figure 0007054487000067
まず、B/H蒸気流量Fsが抽出された背景は、通常劣化の進展により当該海水淡水化プラントの伝熱性能の低下により必要な加熱用蒸気流量が次第に増加していることにある。また、ブライン循環流量Fbr、
及び、BRP吐出圧力Pbrpが抽出された背景は、BRPの過剰性能、つまりプロセスに必要十分な全揚程や流量に対して大きな余裕をもって設計製造されていることにある。なお、前記したBRP吐出圧力Pbrp
の関与度値が比較的大きいのは、前記の実施例クラス1ケース1(通常劣化)での関与度値を示す図25でも現れていたものである。
次に、NO1ブラインレベルL1が抽出された背景は、前記したBRPの過剰性能と、ブライン循環系統(以降、BR系と略す)での流量制御との関連から流動が不安定傾向にあることに基づき、当該海水淡水
化装置本体の初段(NO.1段)へのブライン流入の変動が大きくなることにある。
前記の図48に示す各観測変数の関与度値実績に基づき、実時刻ステップnが30、35、40、45、50、55の場合の、関与度値を正規化後、5段階に離散化した結果を[表46]に示し、前記の図4
9に示す各観測変数の関与度値予測に基づき、予測時期ステップnLが48、37、47、49、55、60での関与度値の予測値を正規化後、5段階に離散化した結果を[表47]に示す。なお、全観測変数
群の離散化値を「関与度値パターン」と称す。
上記した[表46]と[表47]の中の、正規化関与度値を5段階に離散化した結果、段階3以上に相当する観測変数群を、当該劣化等に関連する観測変数であると判断する。なお、本実施例おいても、正規化値
の大きさにより、0~0.2:1、0.2~0.4:2、0.4~0.6:3、0.6~0.8:4、0.8~1:5、と離散化している。
Figure 0007054487000068
Figure 0007054487000069
さて、次に、クラス1の通常劣化(環境負荷考慮)における劣化要因ノウハウ集(簡易版)の観測変数群との関連度合いを、5段階に点数化した要因―観測変数間の関連度合いを[表48]に示す。f1~f7までの7個の要因と、14個の観測変数群との5段階表示の関連度を「関連度パターン」と称す。
Figure 0007054487000070
前記の[表46]及び[表47]の中の、現時刻n=30及び警告域予測時刻nL=48での離散化した「関与度値パターン」と、[表48]の「関連度パターン」との距離を算出する。ここで、パターン間距離は対応する離散化した数値の差の2乗と定義する。
[表49]には、各要因fiに対応した各観測変数vjでのパターン間距離と、すべての観測変数vjにおける当該パターン間距離の総計を当該[表49]の右端の欄に示す。そして、当該パターン間距離の総計が小
さい要因fiから3個の要因f1、f3、f7を選択する。なぜならば、n=30における観測変数群vjの関与度パターンが、劣化要因ノウハウ集の要因fiに関連する観測変数群vjの離散化パターンに近いほど真の要因fiである確度が高いからである。
関連する観測変数群vjは、まず[表46]にて得た実時刻nでの関与度値パターンにおいて段階3以上の観測変数v1、v2、v4、v5、v6、v7、v8、v9、v12を抽出し、かつ、[表49]の3個の要因に対応する
パターン間距離が最小の観測変数を、要因fiと関連した観測変数群と特定する。つまり、f1はv1、v5、v6、v8、v9と、f3はv4、v6、v7、v8と、f7はv2、v5、v9、v12と因果関係があるものとする。なぜ
ならば、観測変数の関与度値の離散化値と、劣化要因ノウハウ集での離散化値と近い方が、当該要因との関連性が高い観測変数であるからである。
前記した[表46]と[表49]とから要因群fiと関連した観測変数群vjが特定され、因果モデルを構築する。なお、[表48]の劣化要因ノウハウ集の下部記載の要因間の関係が規定されており因果モデルの
構築に適用する。
以上に記載した経緯により、要因f1、f3、f7と、関連する観測変数群v1、v2、v4、v5、v6、v7、v8、v9、v12との選定結果から構築した、現時刻n=30における因果モデルを図50に示す。また、当該
因果モデルに対して[数34]を用いて算出した各要因f1、f3、f7からの因果効果CE(f1)、CE(f3)、CE(f7)を[表51]に記載している。なお、因果分析については、例えば特許第6154523号の中の[数12]の
構造方程式を適用することで可能である。
次に、図8の状態空間モデル&因果モデルによる現時刻nでの状態変化率Fnの算出12についての実施例を説明する。状態変化率Fnは、[数43]によって算出する。その中の、Pr(xn)は[数44]で、
Pr(yn)は[数45]にて算出するわけであるが、具体的に現時刻nにおいては前記した[表50]に記載しているように、[表49]に示す観測変数群の関与度値パターン距離から得られるxn及びvjの生起確率
から算出することができる。
また、[数43]のPr(yn|yn-1)は[数46]により統括DI値の比率から算出され、Pr(xn-1|yn-1)は[数34]に記載の因果効果CE(f)から[数47]を用いて算出される。比例係数であるγが不明であるが次に
記述する幾何平均化により解決するのは、実施例クラス1ケース1の場合と同様である。
Figure 0007054487000071
Figure 0007054487000072
Figure 0007054487000073
Figure 0007054487000074
Figure 0007054487000075
次に、前記した現時刻n=30の場合と同様に、前記した[表47]の関与度値パターン(予測時)と[表52]のパターン間距離(予測時)とから要因群fiと関連した観測変数群vjが特定され、LC警告域到達時
期nL=48の場合の因果モデルを構築し図51に示す。実時刻n=30では、要因群はf1,f3,f7であったが予測時期nL=48での要因群はf3,f6,f7と変化し、要因f1(ベント不良)は無くなりf3(各段管内汚れ偏
り)が現れている。ベント不良という特異的劣化ではなく、管内汚れという通常劣化の進展に対応していることから予測時期での因果モデルでは、物理的に妥当な状態遷移を行っていることが分かる。
そして、LC値警告域へ到達する時刻n=55における因果モデルを図52に、n=55にて到達予測時期nL=60における因果モデルを図53に示す。この時期に来れば、因果モデルを構成する要因群f2,f6,f7は
確定していることが分かる。
さて、前記の実施例クラス1ケース1の場合と同様の手順によって、現時刻nが30,35,40,45,50,55におけるFn(fi)、FnL(fi)を求めて得た状態変化率の幾何平均値を[表55]に示す。
Figure 0007054487000076
次に、図8の処置候補amの設定14について、実施例クラス1ケース2の場合を説明する。[表5]の海淡プラントでの構造変数、通常劣化項目、要因及び処置候補に記載している推定要因fiと処置候補名及び処置内容amとの部分を抜粋して[表56]に示す。
前記した[数49]に基づき、[表57]に示すnLでの状態変化率の幾何平均値を用い、[表58]に示す当該nでの状態実測値xnとから予測時刻nLでの状態予測値xn_nLを算出する。
Figure 0007054487000077
Figure 0007054487000078
Figure 0007054487000079
本実施例クラス1ケース2における主な性能・機能の状態予測結果xn_nLを[表59]に示す。
Figure 0007054487000080
[表59]に示す主な性能・機能の状態予測結果xn_nLについて、海水淡水化装置本体の性能に関する状態推定値の推移を図54に、ポンプ消費電力量の状態推定値の推移を図55に示す。実施例クラス1ケ
ース1の場合と同様、造水量は一定で、特に実時刻n=35(nL=37)ではB/H蒸気流量FsやBR系制御不安定は大きくなっているが、時間経過とともに警告域到達時期に近づくにつれて安定した推定値とな
っていることが確認できた。
次に、図8の報酬関数rs(s,am,s’)20を求める。まず、[表59]に示した各警告域予測時期nLにおける低下した性能状態xn_nLと、処置am実施後の運転開始時n=1の状態への回復程度と、の差異を基本と
して、nL時刻までの劣化度合いの積分量を、各警告域到達予測時刻nLについて算出した劣化回復量を[表60]に示す。なお、各処置特有の初期有効度を[表60]下部枠内に示している。
Figure 0007054487000081
報酬関数rs(s,am,s’)は、[数61]に示すように生産高・投入エネルギ・原材料・損害リスク・間接的環境負荷コストの変化分と、設備取得コストと廃棄コストと処置実施コスト及び監視・評価コストの合計である。本実施例では、原材料は海水であるのでコストは無し、特異的な劣化ではないので故障・事故発生のリスクは無視できるとした。また、設備取得コストは取得総額を耐用年数で割るものとし、廃棄コストは考慮せず、処置実施コストは候補am毎に見積り、監視・評価コストも予め見積り算出した。各予測時期nLでの報酬関数rs(s,am,s’)を[表61]に示す。
Figure 0007054487000082
次に、各現時刻nにおいて[数54]により各上位3個のfiの関与度値の逆数の和を算出し、[数53]によって要因fi(si)毎の状態遷移確率P(si’|si)を求めた結果を[表62]に示す。
Figure 0007054487000083
次に、処置選択確率π(ak|s)の当該初期値は[表5]にて設定されており、次の時刻からは[数60]に基づき、前記にて求めた各処置候補amの報酬関数である[表61]を用いて算出し、また、前記の表62
の状態遷移確率P(si’|si)とから、各n(nL)での状態価値関数NDVπ(fi)を得る。その結果を[表63]の中の点線で囲んだ部分に、横に処置候補ak(k=1,・・16)を、縦に時刻=30,35,40,45,50,55に対して示す。
Figure 0007054487000084
そして、前記の[表63]の下部に、各処置akの実時刻30,35,40,45,50,55での状態価値関数NDVπ(fi) もしくは3RVπ(fi)の期待値を算出し、各要因fi及び各処置候補akに対して図56に示す。当該結果から通常劣化の状態価値関数NDVπ(f2)の最大期待値を有する処置はa3(ブライン循環流量を減少)であり、一方、環境負荷に関する状態価値関数3RVπ(f6) の最大期待値を有する処置は、a12(BRPのインペラカット等修正後、リユース)であることが分かる。
図8のam毎の、2つの状態価値関数NDVπ(s)と3RVπ(s)とから統合価値関数24を適用して、統合価値関数TVπ(s)の期待値が最大となる処置方案を選択するわけであるが、前記した通常劣化(NDVπ)に対しては処置a3が好適であり、環境負荷を考慮した(3RVπ)に対しては処置a12が好適であることから、統合価値関数TVπ は、それぞれの重み係数αとβとを変化させて最大値となるのは図57に示すように処置a12の単独実施の場合であることが分かる。
前記した強化学習により最適な処置方案aoptは、a12(BRPのインペラカット等正後、リユース)となった。図3における企業体A,Mでは当該BRPのメーカへ処置a12の実施を発注し12、当該メーカは処置a12を実施する13とともに、処置後の運転再開14、及び性能・機能の確認15を行う。
さて、製造企業体Aでは、一般的にポンプの全揚程や吐出流量の基本設計を行い、ポンプメーカB1-1に発注する際の要求仕様では、必要な全揚程や吐 出流量に対して15~20%の余裕を持った機能として
いる。また、当該ポンプメ ーカB1-1でも、さらに10~15%程度の余裕を持たせた機能としているので、製造した当該ポンプの機能は、前記の基本設計時に必要な機能に対して25~35%の余裕を持つこと
になる。特に、汎用ポンプでは1ランク上の型式を選定する。
図58にポンプメーカが製品を出荷する場合の性能曲線を、全揚程Hを縦軸に、吐出流量Qを横軸にとって示している。前記した当該ポンプメーカが独自に余裕(10~15%)を持たせた全揚程HAと吐出流量QAは、ポンプ系における様々な流動抵抗や静圧差を加えた抵抗曲線Rと、点Aで性能曲線PAと交わる。そして、実際のポンプ運転においては、性能曲線PEと抵抗曲線Rとの交点Eとなる全揚程HE、吐出流量QEとなる。つまり、性能曲線PAとPEとの差異が、当該ポンプメーカが有する機能上の余裕度である。ここでは定格流量QA=25.0の10% が余裕度となり、性能曲線PEでの流量QEは、22.5である。
ここで、渦巻ポンプの基本動作を図59にて説明する。主軸1の回転によって流体吸込み2から流入した流体は、羽根車(インペラ)3の回転により昇圧され、渦巻室ケーシング4との間を流れて吐出口5から流出する。インペラ3とケーシング4との間隔や形状は、インペラ出口での速度成分や流出角度に影響を及ぼし流動特性を規定するもので、ポンプの特性上の重要な要素である。
次に、前記した全揚程HAや吐出流量QAというポンプ性能の大きな余裕分を削減するためのインペラカットについて、図60を用いて説明する。インペラ先端の外径部分をΔDだけカットし、製造時のインペラ直径D1をD2に短くすることによって所要動力を軽減するわけであるが、このカット分ΔDをどれくらいにすれば、必要十分であるかが課題となる。
前記したインペラ外径をカットして直径を小さくしたときに、ポンプの性能がどのように変わるかについては、加工前後における相似則を仮定して定格の吐出流量QAと、減少させたい吐出流量QCとの比率から、[数67]を用いてカット後のインペラ外径DCを算出するか、あるいは各メーカでの狭い範囲内の経験を基にした加工方式にて個別の対応を行っている。あるいは、寺田 進が提案している[数68]に基づき(“渦巻ポンプの羽根外径加工による性能変化に就いて”、日立評論 第35巻 10号 pp.51-56 1953)、カット後のインペラ外径DBを得ているが、加工後のインペラ出口での流体の流出角度やインペラ出口幅の変化による影響は分からないのが現実である。

[数67]
DC/DA = QC/QA
ここで、QA:定格吐出流量、QC:インペラカット後の吐出流量、DA、DC:カット前、後のインペラ直径を示す。
[数68]
DB/DA = (0.5*(1+DA/DC)1/2) * DC/DA
ここで、DB:[数67]のDCを補正した加工後のインペラ外径を示す。
さて、前記した本実施例のクラス1ケース2における運転開始時からのLC値の低下比率の経過と、BRPインペラカットの処置を実施した場合の当該低下比率の回復状況を図61に、同じく運転開始時からのCO2排出量、及び、ポンプ消費電力量の増加推移と、当該インペラカットの処置後の低減度合いを図62に示す。ここでは、当該BRPの定格流量の有する余裕度として製造企業体Aが設定していた余裕度10%と、前記したポンプメーカB1-1独自の余裕度10%を合算した20%の定格流量を削減することとした。
図61に示すように、LC値の低下比率は、当該処置BRPインペラカットの実施により0.90~0.91から0.97~0.98に上昇しているが、運転開始時の1.0にまでは回復せず、LC値低下による注意領域を脱していない。これは、通常劣化である伝熱管内汚れの除去の処置(a3)を併用実施することよりも、当該BRPインペラカットの単独処置(a12)を優先する方が、強化学習による最適化探索の結果 から統合価値関数が大きいことによるものである。
図62に示すCO2排出量の低減状況では、当該処置後にほぼ運転開始時の値に回復しているが、ポンプ消費電力量の処置後は、運転開始時の消費電力量よりもさらに低減出来ていることが分かる。前記した余裕度の大きなBRPの所要動力が、当該処置a12により適切に軽減できたからである。つまり、運転時にはBRP出口の制御弁にて調整を実施することで、適切な流量に制御するので無駄な流量分のエネルギーが削減できたものである。
ところで、定格流量QAを20% 削減してQBとするために、当該インペラカット後のインペラ外径DBは、図65中の実線で示す定格流量の低下比率に対するインペラ外径のカット比率のデータベースに基づきDB/DA=0.848となる。また、インペラカット前後の性能変化については[数68]に基づきインペラ外径DAをDBへカットした場合の性能曲線PBを、インペラ外径DAでの性能曲線PAとともに、DB/DA=0.848の場合での例を、図63に示す性能曲線データベースとして、図3のLCMデータベース17に保存されている。なお、図65の実線で示す定格流量の低下比率に対するインペラ外径のカット比率も同じく前記データベース17に保存されている。
さて、本実施例クラス1ケース2における最適処置aoptである処置a12を実施13後、運転を再開14し、当該BRPの性能・機能確認15を行った。図64には、図63に示すデータベースの例である設計条件の性能曲線PA;実線部分と、インペラ外径のカット比率をDB/DA=0.848にてインペラカットの処置を行った場合の性能曲線PB;点線部分とに加えて、BRPの運転再開後に運転条件を4件(△印でプロット)流量や圧力データを変化させて得た性能曲線をPC;一点鎖線部分にて示している。
当該BRPの吐出流量が定格流量QAの80%であるQBに減少するように、[数67]に基づきインペラ外径をDAからDBへのインペラカットを実施したが、実データによる性能曲線はPBではなく、PCに沿って全揚程と吐出流量が変化することが判明した。つまり、当該性能曲線群と抵抗曲線Rとの交点となる運転点は、図64の点Aから点Bへ移行するのではなく、実際には点Cへ移行することになった。
したがって、前記運転点Cでは、設計上の吐出流量QA=25.0m3/hrの80% の目標流量QB=20.0 m3/hrより大きいQC=20.9 m3/hrの83.6% に、全揚程HA=10.4kg/cm2 は目標揚程HB=7.0 kg/cm2より大きいHC =8.5kg/cm2になった。インペラ外径をDA からDB(=0.848*DA)に小さくしても、性能曲線はPAから目標のPBにまでは低下せず、PBよりも相対的に高い性能PCになることが分かった。
本実施例では、図65に基づき、定格流量に対する目標の低下比率は0.80であるから、インペラ外径の低下比率は0.848の割合としたが、当初の目標である性能曲線PB を達成するためには、点線で示す割合である0.80の低下比率に近づけた、さらなるインペラカットが必要である。
前記した当該BRPの性能・機能確認15において、目標の所要動力の低減が不十分であった背景は、インペラカットの加工後のインペラ出口での流体の流出角度やインペラ出口幅の変化による影響は、想定ほど大きくはなかったものと考える。
つまり、当該補正の対象は狭い範囲を考えるので、流量低下率とカット比率は比例するとしても差し支えないため、補正後のインペラ外径のカット比率は0.848*0.80/0.836=0.811 となることが分かった(図65の■印で示す)。この知見を図3のフィードバック情報の確定20として、図1のネットワーク5を介し企業体A,M,Bにて共有するとともに、LCMデータベース13に保存する。
(実施例3 クラス2特異的劣化の発生事例・・・ベント不良)
本実施例では、第2段でのベント不良により第2段での蒸発・伝熱性能が低下する事例を特異的劣化事象とし、「クラス2」として劣化進展を追跡しながら、処置方案を最適化する場合をとり挙げて説明する。
図66は、図14と同様に、第2段からのベント不足が生じた場合の、蒸発式海水淡水化プラントの系統図を示しており、主な異常事象として第1段出口温度の低下、ブラインヒータでの必要蒸気量の増大、同蒸気温度の上昇、ブラインレベルの変動などが発生する。第2段において、段内からのベント不良などにより非凝縮性ガスの濃度が上昇し、フラッシュ蒸発が抑制されることが根本的な事象である。
図67に、第2段上部の冷却管群の温度分布の変化を示す。ブラインがフラッシュ蒸発する際には、沸点上昇のために蒸気温度Ts2が設計時より低下するので、冷却側との平均温度差が小さくなり当該段における蒸発量の低下を招き、冷却側のブラインの温度上昇(T2-T3)が小さくなってしまう。
また、第2段冷却部出口温度T2は、正常時標準化後0.48~0.53であった値がベント不良時には0.37~0.42へ低下している。このことは第2段における蒸発量の減少、冷却管群での温度上昇不足となり、造水量、造水倍率の減少という性能低下を招くこととなる。
次に、図68の上部には、正常運転時の各段のブラインレベルを、同図下部には、第2段からのベント不良が生じた場合のブラインレベルの変化を示す。第2段の室内圧力Ps2は、設計値より小さくなるので第1段内圧力Ps1との圧力差ΔPs12は大きくなり、逆に、第3段内との圧力差ΔPs23は小さくなる。なお、蒸気温度Tsに対応する飽和圧力が室内圧力Psとなる。
一方、最終段である第4段のブラインレベルは、設計通り当該段の床からの高さが50cmに制御されており、第3段と第4段レベルは50cmでほぼ安定している。第2段からのベント不良が生じた場合には第2段と第3段との圧力差が小さくなるので、第2段から定格のブライン量を次の第3段へ流すためには第2段のブラインレベルは高くならざるを得ない。室間の圧力差が小さくなったことを、レベル差が大きくなって補おうとするからである。
そして、第2段レベルが高くなるにつれて、第1段のブラインレベルも高くなる。しかし一般的な海水淡水化プラントでは、最終段以外の各段のブラインレベルは自動計測・制御されてはいないので制御下の最終段第4段のレベルにも微妙な変動が生じる。なお、各段のブラインレベルを知るには現場にレベルゲージが付けてあるので運転員が目視・計測している。
また、第1 , 2段のブラインレベル上昇によりフラッシュ蒸発した蒸気に海水飛沫が同伴してしまうために淡水純度はやや低下する。さらに、最終段ブラインレベルは制御されているとはいえ、第2段、第1段でのブラインレベルが上昇し、かつ不安定となるために第3、第4段のレベルも若干の変動を生じる。これらの一連のレベル変動に対して、最終段第4段のレベルを一定に保とうとして、ブラインレベル制御弁11にてブロー量を調節するので、ブライン循環ポンプ5の出口圧力が若干ではあるが変動する。
つまり、当該実施例クラス2の特異的劣化事象の発生事例(第2段のベント不良)では、熱回収部冷却管群出口すなわち第1段出口温度が低下し、ブラインヒータ3への入り口温度の低下となること、したがってブラインヒータ3での必要蒸気量の増大とその影響による蒸気温度の上昇、最終段ブラインレベルの変動、ブライン循環ポンプ5の出口圧力の変動、そして当該ポンプ主軸軸受部での振動変動が生じる、といった関連事象が同時発生、あるいは時間遅れを伴いながら継続的に観察される。
図69には、運転開始後からのコスト有効度Ec、及び、Vefの低下割合を示す。通常劣化が進み、ステップ25では運転開始時でのLC値が2%低下し、クラス1での「LC値低下有」と判定された。一方、図70には、運転開始時からの統括DI値の最大値の推移を示しており、ステップ37では判定閾値2.0を超えており、特異的劣化であるクラス2に入ったことが分かる。
図71にB/H蒸気温度とNO.1段コンデンサ出口温度を,図72にB/H蒸気流量を、図73に各段のコンデンサ出口温度及びNO.3段コンデンサ入口温度の実測値を示す。特に、ステップ37からはB/H蒸気温度、B/H蒸気流量の上昇が明確であることが分かる。
また、図74にBRP吐出圧力と最終段のNO.4段ブラインレベルを示すが、ステップ37辺りから次第に吐出圧力の上昇、もしくはNO.4段ブラインレベルの変動が観察される。
運転開始時からの観測変数群のデータ実測値の推移を[表64]に示す。
前記した[表64]は、後述する強化学習にて決定した最適処置を実施するまでのステップ60までを示す。なお、途中のデータ表は省略している。また、[表65]には、運転開始時から5ステップ毎のLC値の詳細な計算結果を示しており、クラス2に入ったステップ37(ベント不良)時点ではLC値は0.956であり、警告時期閾値の0.92までには低下しておらず、通常劣化の進展中に特異的劣化が発生したことを示している。
次に、現時刻ステップnでの統括DI値の最大値が、警告域に到達する時期nLを予測した結果を図75に示す。これは、[数30]にて統括DI値の変化率を求め、[数31]にて警告域到達時期nLを求めた結果である。予測開始後でのステップnが41、42、46では、到達予測時期nLが93、93、85と実際の到達時期ステップ60と大きく異なっているが、ステップ47以降、次第に実際の到達時期60に近づいているのが分かる。このように、当該直線近似でも、1ステップ時間が進むにつれて当該統括DI値の実測値にて変化率を更新することにより予測精度が向上していることが分かる。
クラス2の特異的劣化における強化学習を1ステップ毎に実行してゆくわけであるが、ここからの説明としては、ほぼ5ステップ毎に、つまり、ステップ39,40,45,50,56についての状況、結果を示すものとする。図76に、各観測変数の関与度値の最大値の実測値を示す。B/H蒸気流量Fs、各段コンデンサ出口温度T1、T2、T3とNO.1、NO.2段ブラインレベルの観測変数群が、当該劣化に関する関与度が大きいことがわかる。
Figure 0007054487000085
Figure 0007054487000086
クラス2からのステップ数にて予測した最大関与度値の予測値を図77に示す。ステップnが進むにしたがってB/H蒸気流量Fs、各段コンデンサ出口温度T1、T2、T3、NO.1、NO.2段ブラインレベルの関与度値の予測値が大きくなっており、当該実測値を示す前記の図76と同様な観測変数群を抽出できていることが分かる。
前記した図76に示す各観測変数の関与度値実績に基づき、実時刻ステップnが39、45,40,50,56の場合の、関与度値を正規化後、5段階に離散化した結果を[表66]に示し、図77に示す各観測変数の関与度値予測に基づき、同じくnが39、45,40,50,56での予測した関与度値を正規化後、5段階に離散化した結果を[表67]に示す。同じく、全観測変数群の離散化値を当該ステップでの「関与度値パターン」と称す。
Figure 0007054487000087
Figure 0007054487000088
さて、次に、前記の[表6]に示したように、クラス2の特異的劣化における劣化要因ノウハウ集の観測変数群との関連度合いを、5段階に点数化した要因―観測変数間の関連度合いを[表68]に示す。f1~f6までの6個の要因と、14個の観測変数群との5段階表示の関連度を「関連度パターン」と称す。
前記の表66及び表67の中の、現時刻n=39及び警告域予測時刻nL=73での離散化した「関与度値パターン」と、[表68]の「関連度パターン」との距離を算出する。ここで、パターン間距離は対応する離散化した数値の差の2乗とすることはクラス1の場合と同様である。
Figure 0007054487000089
[表69]には、各要因fiに対応した各観測変数vjでのパターン間距離と、すべての観測変数vjにおける当該パターン間距離の総計を[表69]の右端の欄に示す。そして、当該パターン間距離の総計が小さい要因fiから3個の要因f1、f3、f4を選択する。なぜならば、n=56における観測変数群vjの関与度パターンが、劣化要因ノウハウ集の要因fiに関連する観測変数群vjの離散化パターンに近いほど真の要因fiである確度が高いからである。
関連する観測変数群vjは、まず[表66]にて得た実時刻nでの関与度値パターンにおいて段階3以上の観測変数v1,v5,v6,v7,v8,v9,v10を抽出し、かつ、[表68]の3個の要因に対応するパターン間距離が最小の観測変数を、要因fiと関連した観測変数群と特定する。つまり、f1はv1,v5,v6,v7,v9,v10と、f3はv1と、f4はv1,v8との因果関係があるものとする。なぜならば、観測変数の関与度値の離散化値と、劣化要因ノウハウ集での離散化値と近い方が、当該要因との関連性が高い観測変数であるからである。
前記した[表66]と[表68]とから要因群fiと関連した観測変数群vjが特定され、因果モデルを構築する。なお、[表68]の劣化要因ノウハウ集の下部記載の要因間の関係が規定されており因果モデルの構築に適用する。
以上に記載した経緯により、要因f1、f3、f4と関連する観測変数群v1,v5,v6,v7,v8,v9,v10との選定結果から構築した、現時刻n=56における因果モデルを図78に示す。また、当該因果モデルに対して[数34]を用いて算出した各要因f1、f3、f4からの因果効果CE(f1)、CE(f3)、CE(f4)を[表71]に記載している。これらの因果効果の大きさから、要因f3(0.069)、及び、要因f4(0.193)よりも要因f1(0.738)の影響度が、相対的に大きいと推定できる。なお、因果分析については、例えば特許第6154523号の中の[数12]の構造方程式を適用することで可能である。
Figure 0007054487000090
Figure 0007054487000091
Figure 0007054487000092
前記した現時刻n=56に対応する警告域到達予測時期nL=59における要因ノウハウ集の関連度と関与度パターンとの距離を[表72]に、状態変化率Fnを求めるための各生起確率 Pr(xn),Pr(yn)の算出結果を[表73]に、因果効果を[表74]に示す。前記した現時刻n=56の場合と同様の手順にて抽出した因f1,f4,f6と、関連する観測変数群v1,v3,v5,v6,v7,v8,v9,v10とから構築した因果モデルを図79に示す。
Figure 0007054487000093
Figure 0007054487000094
Figure 0007054487000095
これらの因果効果の大きさから、要因f4(0.230)、及び、要因f6(0.194)よりも要因f1(0.659)の影響度が大きいと推定され、現時刻n=56の場合と比較して要因f3が消えて新たに要因f6(BRP不安定)が現れているが、要因f1のベント不良の影響度が最大であることに変わりはないことが分かる。
次に、図8の状態空間モデル&因果モデルによる現時刻nでの状態変化率Fnの算出12についての当該実施例を説明する。状態変化率Fnは、[数43]によって算出する。その中の、Pr(xn)は[数44]で、Pr(yn)は[数45]にて算出するわけであるが、具体的に現時刻nにおいては前記した[表70]に記載しているように、[表69]に示す観測変数群の関与度値パターン距離から得られるxn及びvjの生起確率から算出することができる。
また、数43右辺分子の右側のPr(yn|yn-1)は[数46]により統括DI値の比率から算出され、右辺分母のPr(xn-1|yn-1)は[数47]により[数34]に記載の因果効果CE(f)から算出されることはクラス1の場合と同様である。
一方、最終的には[数48]に示す、現時刻nにおける状態変化率Fnと、LC値警告域に到達する予測時刻nLにおける状態変化率FnLとの幾何平均値を求めることになる。
警告域到達予測時期nLにおける状態変化率FnLの算出について説明する。前記した現時刻nにおける要因群と関連する観測変数群の抽出・関与度パターンと劣化要因ノウハウの関連度パターンとの距離に基づき因果モデルの構築と因果分析の実行、因果効果の算出、及び、各生起確率の算出手順と同様に、[表66]の代わりに[表67]に示す関与度値(予測値)の離散化結果を用い、現時刻nでの[表69]、[表70]、[表71]の代わりに、それぞれ[表72]の関与度値パターンとの距離、[表73]の各生起確率の算出を行い、nL=59での因果モデル図79を構築・因果分析を経て、[表74]要因毎の因果効果CE(fi)を用いることによって予測時刻nLにおける状態変化率FnLを得ることができる。
以上から、[数48]により現時刻nと予測時刻nLでの幾何平均値を算出することが可能となり、現時刻nが39,45,45,50,56におけるFn(fi)、FnL(fi)を求めて得た状態変化率の幾何平均値を[表75]に示す。
Figure 0007054487000096
前記した[数49]に基づき、[表75]に示す状態変化率の幾何平均値を用い、当該nでの状態実測値xnとから予測時刻nLでの状態xn_nLを算出した結果を[表76]に示す。主な性能である造水倍率(関連する観測変数群の違いにより2種類)と淡水純度との状態予測値を図80に、NO.1,NO.2段ブラインレベルの実測値と予測値とを図81に示す。
図80では、性能保証値である造水倍率3.0以上、淡水純度3.0ppm以下に対して、ステップnが50で予測したnL=60辺りからは前記保証値を確保するのが不確実であることが分かる。図81では、最終段(NO.4段)ブラインレベルの制御値である50cmに対して、NO.1段、NO.2段ブラインレベルの実測値が60cm前後に上昇しており、予測値でもステップnL=59(n=56)では大きく上昇し、70cmを超えることが危惧される。
Figure 0007054487000097
前記したNO.1段、NO.2段ブラインレベルを、運転開始から警告時期直前のステップ59までの実測値の推移を図82に示す。クラス2になってから制御値50cmを超えて運転が継続されており、NO.1段、NO.2段内でのフラッシュ蒸発時に海水飛沫が同伴されて、図83に示すように淡水純度が上昇していったことが分かる。
次に、図8の処置シナリオamの設定14についての当該実施例を説明する。[表5]の海淡プラントでの構造変数、通常劣化項目、要因及び、処置候補(例)に記載している推定要因fiと処置候補名及び処置内容amとの部分を抜粋して、要因fiに対応する処置シナリオ(候補)amを[表77]に示す。そして、当該[表77]に沿って処置シナリオを設定する。
Figure 0007054487000098
報酬関数rs(s,am,s’)は、[数61]では、生産高・投入エネルギ・原材料・損害リスク・間接的環境負荷コストの変化分と設備取得コストと廃棄コストと処置実施コスト及び監視・評価コストの合計としたが、本実施例では、特異的劣化と通常劣化が混在するので当該[数61]の右辺第一項は変化分ではなく、各項の絶対値とする。原材料は海水なのでコストは無し、故障・事故発生による損害リスクは、淡水純度不良に関する対策コストから算出するものとした。また、設備取得コストは取得総額を耐用年数で割るものとし、廃棄コストは考慮せず、処置実施コストは処置候補am毎に見積り、監視・評価コストも予め見積もるものとした。
本実施例では、処置候補amの中で通常劣化が対応する場合は、性能の回復による投入エネルギの減少(劣化前の状態に戻る)、及び、特異的劣化が対応しないので前記した損害リスクを考慮する。当該処置候補amの実施のためにプラント停止などが必要な場合の損失、処置実施のコスト、監視・診断にかかる費用を1ステップ毎の報酬関数として算出し、現時刻n=39、45、50,56について[表78]に内訳を、[表79]にまとめた報酬関数rs(s,am,s’)を示す。
Figure 0007054487000099
Figure 0007054487000100
次に、各現時刻nにおけるパターン距離の小さい方から3個のパターン間距離の合計に対する、fi 毎のパターン間距離の比率q1、q2、q3を要因fiの関与度値とし、[数54]により各上位3個のfiの関与度値の逆数の和を算出し[数59]によって、図8の要因fi(si)毎の状態遷移確率P(si’|si)17を求め、その結果を[表80]に示す。
Figure 0007054487000101
次に、図8の処置選択確率π(ak|s)の実施例18を説明する。まず、当該初期値は[表5]にて設定されており、次の時刻からは[数60]に基づき、前記にて求めた各処置候補amの報酬関数と、当該報酬関数の合計とから[表79]を用いて算出する。その結果を[表81]に示す。
Figure 0007054487000102
以上にて算出した[表80]の状態遷移確率P(si’|si)と、[表81]の処置選択確率π(ak|s)と、[表79]の報酬関数rjとを[数55]に適用することによって、各n(nL)での状態価値関数SDVπ(fi)を得る。そして、当該状態価値関数の期待値を求めて、その結果を表82と図84に示す。なお、[表82]には前記した状態遷移確率と処置選択確率とともに示す。
Figure 0007054487000103
なお、本実施例では特異的劣化(クラス2)のみの場合でReplace、Reuse、Recycleを検討対象としていないので、[数63]で示す統合価値関数TVπ(s) は、3RVπ(s)の項が無く、つまりβ=0、α=1とし、状態sを各要因fiとおいて[数69]となる。
[数69]
TVπ(fi) = SDVπ(fi)
前記した統合価値関数TVπ(fi)の期待値が最大値となる処置方策a2(プラント停止後にベントオリフィスの調整)を最適処置方案と決定する。なお、クラス2においては、通常劣化に対する処置a1(ブライン流量の低下),a3(スポンジボール洗浄),a7(温度分布の調整)には、特異的劣化であるベント不良から生じる淡水純度が高くなった場合の装置内や配管内の洗浄となるリスクを評価した。その結果を[表83]に示す。ここでも、前記した[表82]の状態遷移確率Pr(s’|s)を適用することによって、確度の高いリスク評価が可能となる。
Figure 0007054487000104
前記した[表78]各処置候補における報酬関数rs(s,am,s’)の内訳において、現時刻nでの各項目の実測・算出値の、各処置方案に対する処置後の算出値、及び、LC値の評価値を[表84]に示す。
Figure 0007054487000105
さて、NO.2段からのベントオリフィスの調整を行い、当該海水淡水化プラントを起動して性能試験を行った結果を[表85]および図85に示す。処置前のステップ60での性能と比較してB/H蒸気流量、造水倍率の回復が確認できた。また、NO.1段、NO.2段ブラインレベルは、処置前に比べて目標値の50cmに低下したことにより淡水純度も低下したことが分かる。
Figure 0007054487000106
ただ、本実施例2では、クラス2でのベント不良という特異的劣化に対する処置であって、通常劣化についての処置は行っていないので、B/H蒸気流量や造水倍率の値は、低下しても初期状態の性能までには回復しておらず、コスト有効度、及び環境効率でも初期状態には回復していないことからも分かる。したがって、引き続きLC値低下に基づいてクラス1での監視・要因推定・処置項目・同実施時期等の対応が継続される。
ベントオリフィスにおけるベント量Qvは、以下の[数70]によって算出される。
[数70]
Qv = α*πd2/4*SQRT(2*Δp/ρ)

ここで、Qv:オリフィス部を通過する流量 (m3/sec)
α :流量係数 d:オリフィス孔径(mm)
Δp:オリフィス部前後での圧力差(kg*sec2/m4)
ρ:流体密度(kg/m3) なお、SQRTは平方根を示す。

前記の流量係数αは、配管内のオリフィス部の絞り面積比mによって求める。この絞り面積比mと流量係数αとの関係は、以下の[数71]によって示されている。
[数71]
α=0.598-0.003*m+0.404*m3
本実施例3では、設計時のベントオリフィスでは、オリフィス前後の差圧デルタP =0.04 MPa、配管内径 d1=100 mm、オリフィス孔径d=50mmである。前記した絞り面積比mは、m = (d/d1)2 = (0.05/0.1)2 = 0.25となり、[数71]から流量係数α=0.616が得られるので、ベント量Qvは、[数70]から0.0107 m3/secとなる。
運転時間が経過するうちに、次第にオリフィス孔部に汚れが付着し、開口面積が次第に小さくなりベント量が減少するものと考えられ、当該プラントを停止して調査した結果では、やはりオリフィス孔径は当初の50mmから40mmに減少していた。
前記したベント量Qvは、[数70]に示すようにオリフィス孔径dの2乗で効くから、前記したオリフィス孔径の減少により、設計(運転開始)時0.0107m3/secから0.0069m3/secへ、約65%に減少したことが原因であることが判明したので、当該オリフィス開口部の清掃を実施することした。
そこで、本実施例3におけるフィードバック情報として以下の3項目を従来の設計指針に追加することとした。
1.ベントするためのエジェクタ-(図14、図66の14)からの吸引能力をデルタPとして1.5倍(オリフィス孔径としては1.2倍)に強化させることにより、前記した[数70]で示すベント量を増大
できるような設備とする。
2.オリフィス孔径を1.2倍(50mm⇒60mm)としておき、エジェクターの圧力設定を修正してデルタPを0.8倍にした運転とする。
3.固定したオリフィスではなく、バルブによるベント量調整機構とする。
以上の新たな設計指針においては、当該プラントの運転パターン、コスト、保守の容易さなどの観点から決定することとした。
上記発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、
本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。

Claims (15)

  1. 商品を製造する製造企業体Aと、当該商品を製造するための製造用プラントもしくは生産ライン(以降、総称してプラントと略す)に関する要求仕様や基本設計条件等を記載した発注書に基づき当該プラントを構成する設備類及び部品類を、当該製造企業体Aへ納入する複数の設備メーカ群B1と、複数の部品メーカ群B2と、当該プラントの運用において劣化した設備類及び部品類の保全・処置を行うメンテナンス企業Mと、を合わせて製造関連企業群とし、また最終顧客へ当該商品を販売する販売企業体Uは商品の種類、販売量、機能・品質のレベル、単価、納期などの要求事項の最新情報を製造企業体Aに伝達、発注し、当該製造企業体Aは、受注した商品を製造するプラントの運転状態とメンテナンスの要求度合いとを勘案し、かつ、ライフサイクルメンテナンス(以降、LCMと略す)を実現するための循環型・低炭素型生産システムにおいて、
    商品を製造する製造企業体Aにおけるプラントの運転状態を把握するセンサデータ(観測変数群)と、当該プラントのシステム制御の目標値及び実データ(観測変数群)と、販売企業Uからの商品の要求事項等の最新情報と、を得るデータ等収集・情報取得ステップと、当該収集・取得されたデータ・情報等をネットワークへ通信する通信ステップと、当該通信されたデータ・情報等を、セキュリティレイヤーを介してクラウドもしくはエッジコンピュータにて蓄積するビッグデータ化ステップと、当該センサデータ及びシステムの実データを時間分割し、少なくとも3つの時間帯単位において特徴抽出を行い、当該プラントの運転継続における当該特徴量の乖離度の大きさ(統括DI値)と当該判定閾値との比較により、通常劣化であるか、あるいは特異的劣化であるかを判別する大局的劣化判定ステップと、前記した通常劣化もしくは特異的劣化のいずれかに劣化有と判定された場合には、当該劣化状態が警告域に到達する時期を予測し、前記した劣化有と判定した時点から当該劣化の警告域到達予測時までにおける状態変化率を推定する状態予測ステップと、当該劣化事象に潜在する要因群、及び、当該要因群に関連する観測変数群を抽出して因果モデルを構築し、因果分析を行って劣化要因群を特定する因果分析ステップと、当該因果分析ステップにより特定した劣化要因群に関係する観測変数群と、前記ネットワーク上のLCMデータベースにある通常劣化要因集、もしくは特異的劣化に対する劣化要因ノウハウ集との照合により、処置候補群及び処置対象の設備もしくは部品を選定する処置候補群選定ステップと、当該処置候補群に基づき、前記複数の設備メーカ群B1もしくは複数の部品メーカ群B2の中から当該処置候補群に関連する設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"を選定する劣化関連メーカ選定ステップと、環境的にも経済的にも持続可能な循環型・低炭素型生産システムを実現するというLCMの観点、及び、当該プラントの運転状態とメンテナンスの要求度合いとを勘案する観点において、最適な処置方案を探索し、当該最適処置方案を実行するための意思決定を支援する運用最適化ステップと、当該運用最適化ステップにて決定した処置方案に関する物理的、機能的、経済的かつ環境的方案情報、及び、当該処置の実施結果に基づく物理的、機能的、経済的かつ環境的事後情報と、を製造企業体Aもしくはメンテナンス企業Mから前記ネットワークへ伝達することにより、前記の販売企業U、及び当該劣化に関連する設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"との間で、上記した方案情報と事後情報とを共有し、当該販売企業U、及び当該設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"内にて、当該事後情報に基づき当該商品に関する要求仕様、設計仕様、生産技術等を見直し、改良して構築したフィードバック情報を、前記ネットワークを介して販売企業体U、製造企業体A及びメンテナンス企業Mと共有・連携する情報連携ステップと、前記したすべてのステップの処理の実行統括、及び、前記ネットワークの管理を行うLCM統括センターとからなることを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  2. 前記請求項1に記載の大局的劣化判定ステップにて通常劣化に劣化有と判定する基準は、経済的なコスト有効度と、環境的な環境効率と、を評価するライフサイクルコスト評価値(以降、LC値と略す)を、LC値の低下率が、予め設定したLC値低下率閾値未満に低下した場合とすることを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  3. 前記請求項1に記載の状態予測ステップにおける警告域を、通常劣化の場合には前記した請求項2に記載のLC値に対して設定し、特異的劣化の場合には前記した当該プラントの運転継続における当該特徴量の乖離度の大きさ(統括DI値)に対して設定することを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  4. 前記請求項1に記載の状態予測ステップにおいて、状態空間モデルと、因果分析結果による因果効果と、ベイズ推論と、を組み合わせて当該時間帯nでの状態と1ステップ(時間帯)後の状態との比率である状態変化率Fnを算出し、一方、前記した通常劣化に対する警告域もしくは特異的劣化に対する警告域に到達予測時期nLでの状態変化率FnLを算出し、上記にて算出したFnを初期値とし、FnLを終端値とした幾何平均値を用いることにより、前記した各警告域到達予測時における状態を推定することを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  5. 前記請求項4に記載の状態予測ステップにおいて、当該時間帯nにて得られた状態変化率Fnにより推定した1ステップ(時間帯)先の状態値と、実際に1ステップ(時間帯)後に得られた状態値と、を比較することによって前記した状態変化率の幾何平均値を更新することを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  6. 前記請求項4に記載の状態予測ステップにおける状態変化率Fnを求める際の、データ群を得たもとで、物理的に関連する状態が生起している条件付確率は、当該因果モデルにおける平均的な因果効果と比例関係にあることを利用して前記状態変化率Fnを推定することを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  7. 前記請求項1に記載の因果分析ステップにおいて、劣化要因である潜在変数群から関連する観測変数群への平均的な因果効果を算出し、当該因果効果の大きさに基づき、当該潜在変数に対応する要因の生起可能性に順位付けを行うことを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  8. 前記請求項1の運用最適化ステップにおいて、プラントの運転状態として通常劣化有と判定された時点、もしくは特異的な劣化有と判定された時点から、状態遷移確率と処置選択確率と報酬関数との積で定義される状態価値関数を、各処置方案候補について、当該通常劣化もしくは特異的劣化の進展に沿って各時間帯において算出してゆき、プラント運転状態の通常劣化が当該警告閾値に達した時点、もしくは特異的劣化状態が当該警告閾値に達した時点において、前記状態価値関数の期待値が最大となる処置方案を最適な処置方案として選択することを特徴とした循環・低炭素型生産システム。
  9. 前記請求項1に記載の運用最適化ステップにおいて、同請求項1記載の大局的劣化判定ステップにて算出した統括DI値の大小に基づき通常劣化の程度を推定し、また当該統括DI値が最大値となっている次数での固有ベクトルと、関連するデータとの積により求めた関与度値が大きい観測変数群を、当該通常劣化の進展特性を反映する構造変数群とみなし、当該構造変数群の中から、SDMの実施結果により判明した損傷項目等の情報と合致する構造変数群を抽出し、当該構造変数群を当該通常劣化により生じた損傷項目等との関連情報として、設備、部位もしくは部品に対して、予め計画していたSDMの実施項目を見直すことを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  10. 前記請求項8の運用最適化ステップにおける状態価値関数を算出する場合の報酬関数において、少なくとも、当該プラントでの商品の生産高などの経営関連指標と、性能・機能の低下による損失や処置実行のために当該プラントの停止による損失といった損失関連と、故障もしくは事故発生による損害リスク関連と、処理実行時のコストやライフサイクルコストとしての当該プラントの取得コスト・運用コスト・廃棄コストといったコスト関連と、処置実行による性能・機能の回復メリット、前記劣化設備・部品のリユースもしくはリサイクルによる再資源化率の向上もしくは環境負荷の低減メリット、省エネルギによるコストおよび間接的環境負荷低減のメリットといったメリット関連とからなることを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  11. 前記請求項10の報酬関数の中の故障もしくは事故発生による損害リスクの算出において、各時間帯での当該プラントの運転状態として、物理的な、もしくは機能的な特異的劣化度合いの時間的な推移に基づき、時間帯が進行する、その都度、警告閾値に到達するまでの経過時間を予測し、別途のLCMデータベースに予め登録された故障もしくは事故発生時の損害額を、運用開始時から前記警告閾値到達への予測時刻までの経過時間にて除して得る、時間当たりの損害リスクを各時間帯において算出することを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  12. 前記請求項8の運用最適化ステップの状態価値関数の算出において、前記請求項1記載の処置候補群選定ステップによって決定した処置候補群及び処置対象の設備もしくは部品の中に、別途当該製造企業体Aが設定したライフサイクルオプションにより指定されたリユースもしくはリサイクル等のEnd of Life(以降、EoLと略す)もしくは環境負荷を考慮するLife Cycle Assessment(以降、LCAと略す)などLCMの対象となる処置対象の設備もしくは部品が含まれている場合には、当該処置対象の設備もしくは部品に対する環境面状態価値関数を含むことを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  13. 前記請求項8の運用最適化ステップの状態価値関数は、前記請求項12に記載の環境面状態価値関数と、通常劣化に対する、もしくは特異的劣化に対する物理的・機能的・経済的状態価値関数と、からなる統合価値関数とすることを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  14. 前記請求項1に記載の情報連携ステップにおいて、前記の運用最適化ステップにて決定した処置方案に基づき当該製造企業体Aおよびメンテナンス企業Mが実施した処置・保全の方案詳細と、当該処置の実施結果とを合わせた事後情報を、前記ネットワークを介して、当該通常劣化もしくは特異的劣化に関連する設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"が受け取る際に、少なくとも運用開始時からの運転時間・負荷等の経過履歴と当該劣化度合いの進展との関係性を示す劣化関係情報1と、上記運転経過の履歴と、通常劣化有もしくは特異的劣化有と判定してからの要因群の変遷とを示す因果関係情報2と、通常劣化もしくは特異的な劣化程度の予測において最適化した処置方案と、各警告閾値に達した時点以降にて実施した処置結果との比較を示す裏付関係情報3と、を示す情報を含み、そして、当該設備メーカB1"もしくは部品メーカB2"が受け取った上記事後情報に基づき、少なくとも各メーカB1"、B2"が、当該商品に関する設計仕様や製造方法等の改善等の再検討を行い、および製造企業体Aが当該プラントの運用における最適条件等を見直して得た再検討結果の情報と、当該再検討結果の情報に基づき当該商品の要求仕様を見直した情報と、をフィードバック情報として前記ネットワークを介して製造関連企業群および販売企業体Uにおいて共有することを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
  15. 前記請求項1に記載のLCM統括センターにおいて、少なくとも2個のサーバを有し、サーバ1では請求項1に記載の大局的劣化判定ステップと、状態予測ステップと、因果分析ステップと、処置候補選定ステップと、劣化関連メーカ選定ステップと、運用最適化ステップと、により当該プラントにおける物理的、機能的、経済的、環境的寿命に関連した経時的な推移を把握するとともに、特異的な劣化進展に対処しつつ、運用の全体最適化を図り、サーバ2では請求項1に記載の情報連携ステップにて、前記サーバ1における大局的劣化判定からの一連のステップ実行により得た、前記請求項14に記載の事後情報及びフィードバック情報を、当該製造関連企業群や販売企業体U、及び、最終顧客を含めたサプライチェーン全体の連携を行うことを特徴とした循環型・低炭素型生産システム。
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