対象物に所定力を作用させるアクチュエータにおいて火薬の燃焼エネルギーを動力源として効率的に使用するためには、発生した燃焼エネルギーを効率的にアクチュエータの出力ピストン部に伝える必要がある。そのためには、火薬の燃焼によって生じた燃焼生成物を一定の閉空間に封止しその内部の圧力を高めることが重要となる。
一方で、従来技術のように弾性変形可能な膜で、火薬の燃焼が行われる空間と、加圧の対象であるアクチュエータの出力部(コントロールメンバ)が配置される空間とを区別するとともに、火薬の燃焼エネルギーを膜の変形を介してコントロールメンバに伝える場合、燃焼時に膜が急激に弾性変形されることになる。一方で、コントロールメンバを必要とする距離だけ変位させるためには、火薬の燃焼によって膜がコントロールメンバに向かって大きく弾性変形する必要があり、場合によって膜の破損や開裂が懸念される。膜が破損等してしまうと、燃焼生成物を燃焼が行われる側の空間に封止できず、コントロールメンバの駆動が困難となる。
そこで、本発明は、上記した問題に鑑み、火薬燃焼により駆動されるアクチュエータにおいて、その出力ピストン部の駆動のためのエネルギーを好適に当該出力ピストン部に伝えることを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は、アクチュエータ本体内の空間を点火装置側と出力ピストン部側とに区分する封止部材が、点火装置により生成される燃焼生成物を、該点火装置側の空間内に封止する構成を採用した。このような構成により、点火装置側の空間内の圧力を好適に上昇させることができる。また、前記封止部材の固定力を摺動力よりも大きくするとともに、前記封止部材における、出力ピストン部との接触部が、点火装置での燃焼により、該封止部材の固定端部に対して点火装置側の始動位置から出力面側の作用位置に移動する構成を採用した。このような構成により、出力ピストン部の移動量を好適に確保しながら、封止部材の破れが発生し難くなり、以て、出力ピストン部への駆動エネルギーの伝達が好適なものとなる。
具体的には、本発明は、軸方向に形成された貫通孔を有するアクチュエータ本体と、前記貫通孔内を摺動可能に配置された出力ピストン部と、を備え、該出力ピストン部を該アクチュエータ本体の出力面から突出させることで対象物に対して所定力を作用させるアクチュエータであって、火薬を燃焼させる点火装置であって、該点火装置での火薬燃焼により前記出力ピストン部を摺動させるための駆動エネルギーを前記出力ピストン部に付与する点火装置と、前記アクチュエータ本体内の空間を、前記点火装置が配置される第1空間と、前記出力ピストン部が配置される第2空間とに区分し、該点火装置により生成される燃焼生成物を該第1空間内に封止する封止部材と、を更に備える。また、前記出力ピストン部は、前記対象物に作用する作用端部と、前記駆動エネルギーを受ける所定端面を有する所定端部と、を有し、そして、前記封止部材は、前記アクチュエータ本体内の空間を画定する内壁に固定される固定端部と、前記点火装置での火薬燃焼時に前記所定端部の前記所定端面と接触する接触部と、を有し、前記内壁に対する前記固定端部の固定力は、前記貫通孔での前記出力ピストン部の摺動力より大きくなるように構成される。更に、前記点火装置での火薬燃焼前の状態では、前記接触部は、前記固定端部に対して前記点火装置側の始動位置に位置し、前記点火装置での火薬燃焼により、前記接触部は、前記所定端面と接触し前記出力ピストン部の摺動とともに、前記固定端部に対して前記出力面側の作用位置に移動するように構成される。
本発明に係るアクチュエータでは、封止部材でアクチュエータ本体内を第1空間と第2空間に区分することで、点火装置での火薬燃焼時に第1空間内の圧力を効果的に上昇させることができる。そして、点火装置での火薬燃焼で生じた駆動エネルギーにより、封止部材が有する接触部が始動位置から作用位置に移動し、その移動の過程において出力ピストン部の所定端面と接触し、該出力ピストン部が貫通孔内を摺動することになる。また、出力ピストン部の摺動によりその作用端部が出力面から突出することで、対象物に所定力が作用することとなる。当該所定力は、対象物に作用させる目的に応じて適宜設定される。例えば、対象物を破壊するためには、その破壊に必要な力が所定力とされる。なお、封止部材における接触部の移動が火薬の燃焼に起因するものであれば、駆動エネルギーを接触部を介して出力ピストン部に直接的に作用させる構成や、駆動エネルギーを一旦別の気体、液体、固体等に伝播させてから、該接触部を介して出力ピストン部に間接的に作用させる構成等、適宜採用できる。
ここで、本発明に係るアクチュエータにおいて、火薬を燃焼させる点火装置とは、点火装置に収容される点火薬が点火装置の実行によって着火され、該点火薬の燃焼生成物が生成されるものであってもよいし、該点火薬の着火により公知のガス発生剤(例えば、シングルベース無煙火薬)が更に燃焼し、該点火薬及び該ガス発生剤の燃焼生成物が生成されるものであってもよく、本発明のアクチュエータでは、その具体的な点火装置の構成を限定するものではない。
このような点火装置において火薬が燃焼すると、その燃焼生成物がアクチュエータ本体内の第1空間に拡散し、その内部圧力が上昇することで出力ピストン部に駆動エネルギーを伝えることになり、当該エネルギーが上記の通り出力ピストン部の駆動のための動力源となる。ここで、本発明に係るアクチュエータには封止部が備えられるため、上記燃焼生成物は第1空間内に封止され、第2空間には入り込まない。そのため、燃焼生成物による駆動エネルギーがいたずらに拡散せず、出力ピストン部への伝達が期待される。そして、その封止効果をより高めるためには火薬の燃焼に対して封止部材がある程度の耐性を有する必要があり、一方で、封止部材が備えられることで、駆動エネルギーの出力ピストン部への伝達が阻害されるのは好ましくない。したがって、封止部材は、燃焼生成物の好適な封止と、出力ピストン部への駆動エネルギーの好適な伝達を両立する必要がある。
そこで、封止部材においては、固定端部の固定力が、貫通孔における出力ピストン部の摺動力より大きく設定される。これにより第1空間での封止効果に影響を及ぼす封止部材をアクチュエータ本体の内壁に好適に固定し続けることができるため、アクチュエータの組立の際に出力ピストン部を貫通孔で摺動させて、封止部材への接触状態、すなわち出力ピストン部の所定端面を封止部材の接触部に接触させた状態を安定して形成することができる。このような出力ピストン部と封止部材の安定した接触状態は、出力ピストン部への駆動エネルギーの好適な伝達のために重要な要素である。
更に、封止部材は、接触部が、アクチュエータ本体内の空間の内壁に固定される固定端部に対して、点火装置側の始動位置から出力面側の作用位置に、前記出力ピストン部の所定端面に接触して移動するように構成される。このような構成により、火薬燃焼後には封止部材は固定端部に対して接触部が裏返るよう変形することになり、出力ピストン部の摺動が推進されていくことになる。そのため、従来技術のように火薬燃焼時に封止部材が一方向のみに大きく延伸された状態となることがなくなり、該封止部材が破損し難くなる。さらに、上記裏返る変形構造を採用すると、出力ピストン部の摺動に当たって、接触部の移動範囲が、固定端部に対して点火装置側の始動位置から、出力面側の作用位置までとなり、対象物への所定力の作用のための出力ピストン部の摺動距離に対応した接触部の移動量を確保しながらも、封止部材が大きな変形をする必要がなく、以て封止部材が破損しにくくなる。これは、燃焼生成物の好適な封止と、出力ピストン部への駆動エネルギーの好適な伝達の両立に資するものである。
また、上記のアクチュエータにおいては、前記点火装置での火薬燃焼前において、前記出力ピストン部が前記作用端部側から前記貫通孔内に押し込み可能に構成されてもよい。このような構成により、点火装置による火薬燃焼の前に、出力ピストン部と封止部材の接触状態を好適に形成することができる。なお、出力ピストン部の押し込みは、作用端部からだけではなく出力ピストン部を変位可能な他の手段により行っても構わない。
更に、前記出力ピストン部が前記貫通孔内に押し込まれて前記所定端面が前記接触部に接触した状態で該出力ピストン部が押し込み状態から解放されても、該出力ピストン部の前記作用端部は、前記出力面と面一の位置か、又は該出力面よりも該貫通孔内の位置に保持されてもよい。これにより、出力ピストン部と封止部材の接触状態を形成させてからアクチュエータ本体の出力面を対象物に接触させ、アクチュエータをスタンバイ(作動待機)させることができ、作動時に対象物へ所定力を的確に作用させることができる。
また、本発明に係るアクチュエータにおいて、前記封止部材は、弾性部材で形成されてもよい。これにより、封止部材は、点火器での火薬燃焼時に伸長することで、より好適に、燃焼生成物の封止と、出力ピストン部への駆動エネルギーの伝達の両立が図られる。
更に、前記封止部材は、前記点火装置での火薬燃焼前の状態において前記出力ピストン部の摺動方向に沿った前記所定端部の側面部を覆い、前記固定端部と前記接触部との間に形成される中間部を、更に有してもよく、その場合、前記点火装置での火薬燃焼による前記出力ピストン部の摺動に伴い、前記中間部が該摺動方向に伸長しながら、前記接触部が前記始動位置から前記作用位置に移動するように構成される。このように構成されるアクチュエータでは、封止部材の中間部が出力ピストン部の摺動方向に伸長しながら、接触部が移動し、該出力ピストン部が推進されるので、該出力ピストン部には該伸長に対応した摺動量が与えられることになる。このような作用により、火薬燃焼による駆動エネルギーが、出力ピストン部を推進させるために好適に利用されることになり、該出力ピストン部の摺動量を好適に確保することが可能となる。また、出力ピストン部の摺動方向に伸長する中間部が弾性部材により形成されることにより、該中間部は柔軟に伸長することが可能となり、その結果、封止部材が破損し難くなる。
なお、上記アクチュエータにおいて、前記所定端部における前記出力ピストン部の外径は、前記貫通孔の内径よりも小さくてもよい。その場合、前記点火装置での火薬燃焼による前記出力ピストン部の摺動に伴い、前記中間部は、前記貫通孔の内壁面に沿って、前記摺動方向に伸長する。このような構成によれば、所定端部近傍では出力ピストン部は、貫通孔に対して径方向に隙間を有することになる。そして、火薬の燃焼により接触部が移動する際には、中間部は当該隙間を利用して伸長できるので、該中間部の伸長が円滑に行いやすくなる。その結果、出力ピストン部の摺動量を好適に確保することが可能となるとともに、封止部材の破損を回避できる。
また、上述までのアクチュエータにおいて、前記貫通孔内に更に摺動可能に、且つ前記第1空間側に配置された補助ピストン部であって、前記封止部材の前記接触部を前記出力ピストン部の前記所定端面とともに挟んで配置された補助ピストン部を、更に備えてもよい。その場合、前記補助ピストン部は、前記点火装置と対向し前記駆動エネルギーが入力される点火装置側端部と、該駆動エネルギーを前記接触部を介して前記出力ピストン部の前記所定端面に伝える出力ピストン部側端部と、を有する。
このように構成されるアクチュエータでは、補助ピストン部の点火装置側端部によって点火装置からの駆動エネルギーを受けるとともに、もう一方の端部である出力ピストン部側端部によって、出力ピストン部と補助ピストン部に挟まれた封止部材の接触部を介して該出力ピストン部の所定端面に駆動エネルギーを伝える。そのため、封止部材は、点火装置からの駆動エネルギーを直接受けるのではなく、補助ピストン部材を介して受けることになる。この結果、火薬燃焼時において、接触部は高温高圧の燃焼生成物に直接晒されることがなくなり、以て、接触部を含む封止部材が破損するのをより確実に回避することができる。また、接触部が出力ピストン部と補助ピストン部で挟まれているため、封止部材を上記のように裏返すための力を該封止部材に適切に掛けることができ、以て、円滑な出力ピストン部の摺動が期待できる。
また、本発明のアクチュエータを利用して構成される所定の装置や機器も、本発明の範疇に属するものである。そのような装置等の一例として、電気回路の通電部分を切断してその通電状態を解消させる電気回路遮断装置が挙げられる。すなわち、本発明の電気回路遮断装置は、上述までのアクチュエータと、電気回路の一部を形成する前記対象物に対して、前記出力ピストン部が前記所定力としてのせん断力を作用させる位置に前記アクチュエータを固定する固定ハウジングと、外部からのトリガー信号を受信したときに、前記点火装置を作動させる制御部と、を備える。また上記装置等の別法として、注射目的物質を注射対象領域に注射する注射器が例示できる。すなわち、本発明の注射器は、上述までのアクチュエータと、前記注射目的物質を収容可能な収容室と、前記対象物であり且つ該収容室内の該注射液目的物質を加圧するプランジャと、該プランジャにより加圧された該収容室内の該注射目的物質が流れる流路を含み、該流路の先端に形成された射出口から該注射目的物質を射出するノズル部と、を有するシリンジ部であって、前記出力ピストン部の前記作用端部が前記プランジャに接触して配置されるように前記アクチュエータに対して取り付けられるシリンジ部と、を備える。また、本発明のアクチュエータを利用して構成される所定の装置等は、上記の電気回路遮断装置や注射器以外の装置等であってもよい。
本発明によれば、火薬燃焼により駆動されるアクチュエータにおいて、その出力ピストン部の駆動のためのエネルギーを好適に当該出力ピストン部に伝えることが可能となる。
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係るアクチュエータについて説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
<第1実施形態>
図1はアクチュエータ1を、その軸方向に切断した場合の断面図である。ここで、アクチュエータ1は、第1ハウジング3と第2ハウジング4とで構成されるアクチュエータ本体2を有しており、アクチュエータ本体2の先端側(第2ハウジング4の、第1ハウジング3と接続している端部とは反対側の端部側)が、アクチュエータ1による出力側、すなわち、所定力を作用する対象物が配置される側となる。また、第1ハウジング3と第2ハウジング4はネジで固定されて一体となる。ここで、第1ハウジング3の内部には、その軸方向に延在する内部空間である燃焼室31が形成されており、また、第2ハウジング4の内部には、同じようにその軸方向に延在する内部空間である貫通孔37が形成されている。燃焼室31と貫通孔37は、後述する封止部材8で区分されているものの、アクチュエータ本体2の内部において連続して配置される内部空間である。
また、アクチュエータ本体2の先端側、すなわち第2ハウジング4の先端側の面は、出力面4bを形成している。この出力面4bは、アクチュエータ1の使用時において、所定力が作用される対象物と対向する面となる。ここで、アクチュエータ本体2の第2ハウジング4内の貫通孔37には、金属製の出力ピストン6が配置され、該出力ピストン6は、貫通孔37内を摺動可能に保持されている。
ここで、出力ピストン6の詳細を第2ハウジング4との位置関係が把握できるように図2に示す。出力ピストン6は、貫通孔37の軸方向に沿って延在する概ね軸状に形成され、燃焼室31側の端部(以下、「第1端部」という)6aと、出力面4b側の端部、すなわち対象物に対して所定力を作用させる端部(以下、「第2端部」という)6bとを有し、また、出力ピストン6が貫通孔37内を円滑に摺動できるように出力ピストン6の周囲にOリング6cが配置されている。
ここで、第1ハウジング3(図2中では、点線で表示)と第2ハウジング4とが取り付けられてアクチュエータ本体2を形成し、後述の点火装置であるイニシエータ20で火薬燃焼が行われる前の状態(以下、「燃焼前状態」という)において、第1端部6aは、第1ハウジング3の燃焼室31内に嵌まり込んでいる第2ハウジング4の嵌入部4aの端面から、燃焼室31側に実質的に飛び出した状態となっている。また、第1端部6aの直径d1は、貫通孔37の直径d0よりも小さい。したがって、出力ピストン6が貫通孔37内を出力面4b側に摺動したときには、第1端部6aの側面(出力ピストン6の軸方向に沿った面)と貫通孔37の内壁面との間に一定の隙間が形成されることになる。また、燃焼前状態では、第2端部6bの端面は、出力面4bと面一となるか、又は、出力面4bより貫通孔37内に入り込んだ位置に置かれる。そのため、後述の図6に示すように、アクチュエータ1が使用される状態においては、所定力が作用される対象物に出力面4bを接触させて該アクチュエータ1を配置、固定する。
ここで、図1に示す燃焼前状態では、アクチュエータ本体2の内壁の一部である、第2ハウジング4の嵌入部4aの端面上に封止部材8が固定され、該封止部材8は、弾性材料で形成され、アクチュエータ本体2内の空間を、イニシエータ20側に位置する燃焼室31を含む空間(本発明に係る第1空間に相当する)と出力ピストン6側に位置する貫通孔37を含む空間(本発明に係る第2空間に相当する)とに区分し、それによりイニシエータ20での火薬燃焼により生成される燃焼生成物が、燃焼室31内に封止されるようになっている。なお、封止部材8の構造の詳細、及びイニシエータ20での火薬燃焼による動作については後述する。
ここで、イニシエータ20の例について図3に基づいて説明する。イニシエータ20は電気式の点火装置であり、表面が絶縁カバーで覆われたカップ21によって、点火薬22を配置するための空間が該カップ21内に画定される。そして、その空間に金属ヘッダ24が配置され、その上面に筒状のチャージホルダ23が設けられている。該チャージホルダ23によって点火薬22が保持される。この点火薬22の底部には、片方の導電ピン28と金属ヘッダ24を電気的に接続したブリッジワイヤ26が配線されている。なお、二本の導電ピン28は非電圧印加時には互いが絶縁状態となるように、絶縁体25を介して金属ヘッダ24に固定される。さらに、絶縁体25で支持された二本の導電ピン28が延出するカップ21の開放口は、樹脂カラー27によって導電ピン28間の絶縁性を良好に維持した状態で保護されている。
このように構成されるイニシエータ20においては、外部電源によって二本の導電ピン28間に電圧印加されるとブリッジワイヤ26に電流が流れ、それにより点火薬22が燃焼する。このとき、点火薬22の燃焼による燃焼生成物はチャージホルダ23の開口部から噴出されることになる。また、イニシエータ用キャップ14は、イニシエータ20の外表面に引っ掛かるように断面が鍔状に形成され、且つ第1ハウジング3に対してネジ固定される。これにより、イニシエータ20は、イニシエータ用キャップ14によって第1ハウジング3に対して固定され、以てイニシエータ20での点火時に生じる圧力で、イニシエータ20自体がアクチュエータ本体2から脱落することを防止できる。
ここで、アクチュエータ1において用いられる点火薬22として、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼性生物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。なお、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
ここで、図1に示す燃焼室31内には何も配置されていないが、点火薬22の燃焼によって生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させるガス発生剤を、燃焼室31内に配置するようにしてもよい。仮に燃焼室31内にガス発生剤を配置させる場合、その一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。このようなガス発生剤の併用は、上記点火薬22のみの場合と異なり、燃焼時に発生した所定のガスは常温においても気体成分を含むため、発生圧力の低下率は小さい。さらに、当該ガス発生剤の燃焼時の燃焼完了時間は、上記点火薬22と比べて極めて長いが、燃焼室31内に配置されるときの該ガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能である。このようにガス発生剤の量や形状、配置を調整することで、燃焼室31内での発生圧力を適宜調整できる。
ここで、燃焼前状態における封止部材8の詳細について説明する。図1に示すように、封止部材8は、燃焼室31側に飛び出して配置されている出力ピストン6の第1端部6aを覆うように形成されている。具体的には、封止部材8は、第2ハウジング4の嵌入部4a上に固定された固定端部35と、第1端部6aの端面に接触し当該端面を覆うように位置する接触部34と、接触部34と固定端部35との間に形成され第1端部6aの側面部を覆うように位置する中間部36とを有している。したがって、図1に示すように、アクチュエータ1の軸方向に沿った断面では、封止部材8はコの字状に形成され、その底面に相当する接触部34は、固定端部35に対してイニシエータ20側(図1に向かって左側)の始動位置に位置することになる。
また、上記の通り弾性部材で形成されている封止部材8は、第2ハウジング4の嵌入部4aの端面上に固定され、その固定された封止部材8の端部が固定端部35となる。この固定端部35の嵌入部4aの端面に対する固定力は、貫通孔37での出力ピストン6の摺動力より大きくなるように、固定端部35での固定力が決定されている。当該固定力は、第1空間に相当する燃焼室31における、燃焼生成物の封止性能が維持される範囲で封止部材8を第2ハウジング4から脱離させる外力に抗するための、固定端部35と嵌入部4aとの間の結合力である。当該離脱させる外力の一例としては、出力ピストン6が封止部材8を押す押圧力等が挙げられる。また、当該摺動力は、出力ピストン6を貫通孔37内で摺動させるために、その摺動方向に沿って出力ピストン6に対して印加する力である。上記の通り、出力ピストン6にはOリング6cが配置されているため、Oリング6cを介して出力ピストン6と貫通孔37との間に生じる摩擦力に抗する力が、概ね当該摺動力となる。なお、Oリング以外にも摩擦力を生じさせる要素がある場合には、その要素による摩擦力も考慮して摺動力が認定される。
ここで、固定端部35での固定力の設定については、例えば、封止部材8が出力ピストン6から受ける力に対して十分に安定して嵌入部4aの端面への固定が維持されるように、想定される出力ピストン6の摺動力に所定の安全率λを乗じた固定力を、固定端部35で生じさせてもよい。所定の安全率λとしては、例えば10と設定してもよい。例えば、出力ピストン6の直径が異なる、下記の表1に示す2つのケースにおいて(ケース1ではφ5.8mm、ケース2ではφ8.8mm)、出力ピストン6の摺動力の測定実験を3回行い、その平均値を各ケースにおける基準の摺動力とする(ケース1では0.28kgf、ケース2では0.51kgf)。そして、その基準の摺動力に安全率10倍を乗じて算出される力が、各ケースに対応する固定端部35での固定力とされ(ケース1では2.8kgf、ケース2では5.1kgf)、その固定力が実現されるように固定端部35と嵌入部4aの端面とが固定される。
次に、図4に基づいて、アクチュエータ1の組立方法について説明する。図4は、アクチュエータ1が組み立てられていく流れを、ステップ1~ステップ4の順で示している。
(ステップ1)
第2ハウジング4の内部に出力ピストン6を配置する。この状態では、出力ピストン6の第2端部6bが出力面4bよりも突出している。そして、第2ハウジング4の嵌入部4aの端面に封止部材8の固定端部35が接着剤によって固定される。この接着剤による固定力が、上述したように出力ピストン6の摺動力に所定の安全率λを乗じた値以上となるように、接着剤の種類や接着条件などが調整される。なお、固定端部35が嵌入部4aの端面に固定された直後の状態では、出力ピストン6の第1端部6aと封止部材8の接触部34とは、まだ接触していない。
(ステップ2)
次のステップでは、出力面4bから突出している第2端部6bを第2ハウジング4内に押し込んで、コの字形状を有している封止部材8の凹部(中間部36と接触部34とで形成された凹部)に第1端部6aを嵌め込んでいく。なお、中間部36による当該凹部の直径は、第1端部6aの直径よりやや大きいため、第2端部6bを押し込む際に出力ピストン6に掛かる力は、概ね出力ピストン6と貫通孔37との間の摩擦力、すなわち摺動力となる。
(ステップ3)
そして、出力ピストン6の押し込みが進むと、第1端部6aが接触部34に接触する。このとき、上記の通り封止部材8の固定端部35での固定力は、出力ピストン6の摺動力の10倍に設定されているため接触と同時に出力ピストン6からの反力が急激に大きくなる。そのため、押し込み動作により第1端部6aと接触部34との接触状態が形成されたことを的確に且つ速やかに認識することができる。このことは、出力ピストン6押し込み過ぎることで出力ピストン6から封止部材8に過度な力が掛かり、封止部材8の適切な固定状態(すなわち、燃焼室31に燃焼生成物を封止し得るのに必要な固定状態)を毀損してしまうことを回避することができる。特に、封止部材8の内部は外部から見えないため、上記接触状態が形成されたときに出力ピストン6を押し込む力を急変させることは、接触部34と第1端部6aとの好適な接触状態の確保のために極めて有用である。なお、このように接触部34と第1端部6aとの好適な接触状態は、後述するようにアクチュエータ1による対象物への所定力の作用を確実なものとするために、極めて重要な要素である。また、接触部34と第1端部6aとが接触した状態となると、出力ピストン6の第2端部6bの端面は、出力面4bと面一の位置、又は、出力面4bより貫通孔37内の位置に保持される。
(ステップ4)
そして、接触部34と第1端部6aとを接触させた後は、第2ハウジング4を第1ハウジング3に対して螺合する。このとき、第2ハウジング4の嵌入部4aが、第1ハウジング3の内部に入り込んでいく。この結果、アクチュエータ1の組立が完了し、その内部において封止部材8によって燃焼室31が形成される。
なお、図4に示す組立方法では、第2端部6bを第2ハウジング4内に押し込んで封止部材8の凹部に第1端部6aを嵌め込み、第1端部6aと接触部34とを接触させた後に、第1ハウジング3と第2ハウジング4とを螺合させるが、その態様に代えて以下のように組立を行ってもよい。すなわち、ステップ1で第2ハウジング4に出力ピストン6を配置し封止部材8を取り付けた状態で、その第2ハウジング4を第1ハウジング3に対して螺合する(ステップ4を参照)。その後、ステップ2のように第2端部6bを第2ハウジング4内に押し込んで封止部材8の凹部に第1端部6aを嵌め込み、第1端部6aを封止部材8の接触部34に接触させる(ステップ3を参照)。このような組立の流れに従っても、上記の通り、第1端部6aと接触部34との接触と同時に出力ピストン6からの反力が急激に大きくなるため、その接触状態が形成されたことを的確に且つ速やかに認識することができる。
更に、別の態様では、封止部材8を先に第1ハウジング3に取り付け、すなわち、固定端部35を介して封止部材8を第1ハウジング3に固定し、その後、出力ピストン6が内部に配置された第2ハウジング4を、第1ハウジング3に対して螺合してもよい。この場合、接触部34と第1端部6aの接触状態が形成されるように出力ピストン6や第2ハウジング4の寸法・形状が調整されるとともに、封止部材8の固定が適切に行われるように、固定端部35を接合するための嵌め込み溝等の適切な構成が第1ハウジング3の内壁に形成されてもよい。
ここで、イニシエータ20の点火薬22が燃焼したときの封止部材8の動き、及びアクチュエータ1における注射液の射出状態について図5に基づいて説明する。図5は、上段に燃焼前状態のアクチュエータ1の構成を示し、下段には点火薬22の燃焼によりアクチュエータ1が作動した状態(以下、「作動状態」という)のアクチュエータ1の構成を示している。図5における燃焼前状態及び作動状態の比較においては、封止部材8の固定端部35の位置を揃えて、アクチュエータ1の軸方向に両状態を並べて表示している。そして、両状態に共通する固定端部35の位置をX0と表示し、位置X0を含む基準線をL0と表示している。
更に、燃焼前状態においては、接触部34の位置はX1で表示され、上記の通り位置X0に対してイニシエータ20側の位置となっている。また、このときの出力ピストン6の第2端部6bの端面の位置はF1で表示されている。ここで、点火薬22が燃焼すると、燃焼室31内に燃焼生成物が拡散し、燃焼室31内の圧力が上昇する。これにより、封止部材8にもその圧力が掛かることになるが、特に、出力ピストン6を出力面4b側に押圧する圧力は、封止部材8のうち接触部34を介して出力ピストン6に掛かる圧力である。したがって、接触部34が接触する出力ピストン6の第1端部6aの端面は、イニシエータ20からの駆動エネルギーを受ける端面となる。
このように接触部34は、封止部材8のうち、点火薬22の燃焼によって生成される駆動エネルギーを出力ピストン6側に伝達する部位である。その結果、封止部材8は、接触部34が出力面4b側に移動するとともに出力ピストン6が貫通孔37内を摺動していくことになる。それに伴い、出力ピストン6の第2端部6bが出力面4bより飛び出した状態となり、その飛び出し量は出力ピストン6の摺動量と連動する。この結果、出力面4b側に配置された対象物に対して、出力ピストン6が所定力を作用することができる。ここで、出力ピストン6の摺動が完了した作動状態では、貫通孔37のうち出力面4b近傍で内径が小さくなっている縮径部を形成する、第2ハウジング4のストッパ部4cに、出力ピストン6の一部が接触した状態となっており、出力ピストン6が貫通孔37から飛び出すことが防止されている。この状態における接触部34の位置は作用位置とされX2で表示されており、位置X0に対して出力面4b側の位置となっている。なお、第2端部6bの端面の位置はF2で表示されている。
このようにアクチュエータ1では、点火薬22の燃焼の過程において、封止部材8の接触部34は、燃焼前状態の始動位置X1から作動状態の作用位置X2へと移動することになる。この接触部34の移動による移動距離(X2-X1)は、所定力作用のための出力ピストン6の移動距離(F2-F1)に相当する。そして、この移動に伴って、封止部材8は裏返るように変形することになる。すなわち、所定力を作用するために必要な出力ピストン6の移動距離は、封止部材8の当該裏返る変形によって確保されることになる。このように封止部材8が裏返る変形を行う場合、封止部材8自体は大きく弾性変形する必要はなく、固定端部35を除く中間部36や接触部34の変位が主体となる。仮に、点火薬22の燃焼で生じた駆動エネルギーによって接触部34が出力面4b側に大きく変位した結果、中間部36が伸長する場合であっても、中間部36は、先ず、図5の上段に示す始動位置から出力面4b側に移動し、その後接触部34の変位にともなって伸長していくことになる。そのため、中間部36そのものの弾性変形量を小さく抑えることが可能となり、所定力作用のための出力ピストン6の移動距離を十分に確保しながらも封止部材8の破損を抑制することができる。これにより、燃焼による駆動エネルギーを出力ピストン6に好適に伝達でき、以てアクチュエータ1の作動を効率的に行うことができる。
また、上記の通り、出力ピストン6の第1端部6aの直径d1は、貫通孔37の内径d0よりも小さく構成されている。そのため、上述の封止部材8の裏返る変形が行われる際に、中間部36が第1端部6aと貫通孔37との間の隙間に入り込み、貫通孔37の内壁面に沿ってその裏返る変形及び伸長を円滑に行うことが可能となる。なお、接触部34は、作用位置にあるときに出力ピストン6の第1端部6aの端面に必ずしも接触している必要はない。
(適用例1)
ここで、図6に、アクチュエータ1を適用した第1の例として、電気回路遮断装置100を示す。電気回路遮断装置100は、固定ハウジング62を介して、アクチュエータ1が導体片50に対して固定されることで形成されている。
導体片50は、電気回路遮断装置100を電気回路に取り付けたとき、電気回路の一部を形成するものであり、両端側の第1接続部51と、第2接続部52と、両接続部間の切断部53からなる板片である。第1接続部51と第2接続部52のそれぞれには、電気回路において他の導体(例えば、リードワイヤ)と接続するための接続穴51a、52aが設けられている。なお、図6に示す導体片50は、第1接続部51及び第2接続部52と、切断部53とが段状になるように形成されているが、第1接続部51、第2接続部52、切断部53が概ね同一直線状に配置されるように形成されてもよい。そして、切断部53は、アクチュエータ1の出力面4bに接触するように固定されている。したがって、アクチュエータ1内の出力ピストン6の端面(第2端部6bの端面)は、切断部53と対向する状態となっている。このように形成される導体片50が、上記実施例における対象物であり、特に、切断部53がアクチュエータ1からの所定力が作用する、対象物上の部位となる。
更に、固定ハウジング62において、切断部53を挟んでアクチュエータ1の反対側には、合成樹脂からなる箱形状の絶縁部63が形成され、その内部には絶縁空間61が形成されている。
このように構成される電気回路遮断装置100では、外部からの衝撃等により電気回路での通電状態を直ちに停止させる必要があると判断される場合に、例えば当該衝撃を検出するセンサからのトリガー信号を制御部70で受信する。そして、トリガー信号を受信した制御部70はイニシエータ20に対して動作指令を発し、この結果イニシエータ20が作動する。イニシエータ20が作動すると、上述したように出力ピストン6が摺動し、その運動エネルギーにより切断部53に対してせん断力を作用させ、以て切断部53が切断される。これにより、電気回路遮断装置100が取り付けられた電気回路の一部を形成する導体片50において、第1接続部51と第2接続部52との間の導通が遮断されることになる。なお、出力ピストン6によって切断された切断部53の切断片は、絶縁部63内の絶縁空間61に収容されるため、上記導通遮断をより確かなものとすることができる。
以上より、本発明に係るアクチュエータ1が適用された電気回路遮断装置100では、アクチュエータ1を効率よく駆動することができ、これは、必要時において確実な導通遮断を実現すべき電気回路遮断装置100において極めて有用である。また、アクチュエータ1の適用例としては、その他に、対象物に孔を開ける穿孔機等が例示できる。
(適用例2)
ここで、図7に、アクチュエータ1を適用した第2の例として、注射器200を示す。注射器200は、注射針を介することなく注射目的物質を射出し、注射対象領域に送り込む無針注射器である。図7は注射器200の断面図であり、本願の以降の記載においては、注射器200によって対象物の注射対象領域に注射される注射目的物質を「注射液」と総称する。しかし、これには注射される物質の内容や形態を限定する意図は無い。注射目的物質では、皮膚構造体に届けるべき成分が溶解していても溶解していなくてもよく、また注射目的物質も、加圧することでノズル部209から皮膚構造体に対して射出され得るものであれば、その具体的な形態は不問であり、液体、ゲル状、粉末状等様々な形態が採用できる。
ここで、注射器200は、図8に示すようにアクチュエータ1にシリンジ部205が螺合されて構成される。なお、本適用例のアクチュエータ1は、シリンジ部205の螺合のための機構を有するため、これまでに記載の構成と一部異なっており、その点について説明する。本適用例では、第2ハウジング4に形成されている貫通孔37に出力ピストン6が配置されているが、貫通孔37には上記までのようにストッパ部4cは設けられていない。そのため、注射器200の組立においては、図4のステップ1のように第2ハウジング4の内部に出力ピストン6を配置した状態で封止部材8を第2ハウジング4に固定せずに、封止部材8を第2ハウジング4に固定した後に、封止部材8に出力ピストン6の第1端部6aが対向するように、貫通孔37内に出力ピストン6を挿入してもよい。この場合も、上述のように、封止部材8の固定端部35での固定力が、貫通孔37での出力ピストン6の摺動力より大きく設定されていることから、封止部材8に過度な力を掛けずに接触部34と出力ピストン6の第1端部6aとの好適な接触状態を形成することができる。
そして、第2ハウジング4の注射器先端側(シリンジ部205が配置される側)に、シリンジ部205が取り付けられる取付空間204cが形成されている。取付空間204cの底面が出力面204bとして形成され、アクチュエータ1でのイニシエータ20の作動により、出力ピストン6がこの出力面204bより突出するように構成されている。また取付空間204cを形成する側壁204dの内壁面には、シリンジ部205と螺合し取り付けるためのねじ山が形成されている。
また、シリンジ部205は、注射液MLを収容する収容室233を内部に有するシリンジ部本体211と、注射液が流れる流路が形成されたノズル部209と、ノズル部209が設けられたノズルホルダー210を有している。ノズルホルダー210は、ガスケット213を挟んでホルダー用キャップ212によってシリンジ部本体211に取り付けられている。また、シリンジ部本体211には、第2ハウジング4の取付空間204cに螺合されるようにねじ山が形成されている。なお、シリンジ部205が第2ハウジング4に取り付けられた状態において、第2ハウジング4内の貫通孔37と、シリンジ部本体211内の収容室233とは連続した空間となる。その取付状態では、注射液MLは、プランジャ207によって収容室233内に液密に収容されており、このプランジャ207が貫通孔37側に露出した状態となっている。ここで、プランジャ207は、収容室233内を摺動可能に配置され、さらに、摺動することにより注射液MLを加圧し、ノズル部209からの注射液の射出が行われることになる。また、プランジャ207は、円滑に収容室233内を摺動できるように、表面にシリコンオイルを薄く塗布したゴム部材により形成される。
なお、第2ハウジング4へのシリンジ部205の取り付け前の状態(図8に示す状態)では、出力ピストン6の第2端部6bが出力面204bより貫通孔37の内部寄りの位置に保持されており、一方で、シリンジ部205のプランジャ207の端部(注射液MLに接していない端部)は、シリンジ部本体211の端面より若干外側に飛び出した状態となっている。これにより、第2ハウジング4に対してシリンジ部205を螺合し取り付けると、第2ハウジング4内に配置されている出力ピストン6の第2端部6bにプランジャ207が接触した状態が形成される。なお、封止部材8の固定端部35での固定力は、収容室233に収容されている注射液MLをプランジャ207によって押し出し得る力よりも大きく設定されているため、仮に螺合時にプランジャ207が出力ピストン6により大きく干渉し得る場合でも、結果的に注射液MLが排出されやすくなっているため封止部材8に過度な力が掛かり破損してしまうのを回避することができる。
なお、ノズル部209は、ノズルホルダー210に複数形成されてもよく、または、一つ形成されてもよい。複数のノズル部が形成される場合には、各ノズル部に対して解放された注射液MLが可及的に均等に送り込まれるように、各ノズル部に対応する流路が形成される。さらに、複数のノズル部209が形成される場合には、注射器200の中心軸の周囲に等間隔で各ノズル部が配置されるのが好ましい。また、ノズル部209の流路径は、貫通孔37の内径よりも細くなるように構成されている。これにより、射出時の注射液の射出圧力を好適に上昇させることができる。
ここで、イニシエータ20が作動したときの封止部材8の動き、及び注射器200における注射液の射出状態について図9に基づいて説明する。図9は、上段に点火前状態の注射器200の構成を示し、下段には点火薬22の燃焼により注射液の射出が完了した状態(以下、「射出完了状態」という)の注射器200の構成を示している。図9における点火前状態及び射出完了状態の比較においては、封止部材8の固定端部35の位置を揃えて、注射器200の軸方向に両状態を並べて表示している。そして、両状態に共通する固定端部35の位置をX10と表示し、位置X10を含む基準線をL10と表示している。
更に、燃焼前状態においては、接触部34の位置はX11で表示され、上記の通り位置X10に対してイニシエータ20側の位置となっている。また、このときのプランジャ207の位置はP11で表示されている。ここで、イニシエータ20の点火薬22が燃焼すると、アクチュエータ1の燃焼室31内に燃焼生成物が拡散し、燃焼室31内の圧力が上昇する。これにより、封止部材8にもその圧力が掛かることになるが、特に、出力ピストン6をシリンジ部205側に押圧する圧力は、封止部材8のうち接触部34を介して出力ピストン6に掛かる圧力である。したがって、接触部34が接触する出力ピストン6の第1端部6aの端面は、イニシエータ20からの射出エネルギーを受ける端面となる。
このように接触部34は、封止部材8のうち、点火薬22の燃焼によって生成される射出エネルギーを出力ピストン6側に伝達する部位である。その結果、封止部材8は、接触部34がシリンジ部205側に移動するとともに出力ピストン6が貫通孔37内を摺動していくことになる。また、接触部34と出力ピストン6とは上記の通り好適に接触しているため、接触部34から出力ピストン6への射出エネルギーの伝達が好適に行われる。そして、出力ピストン6が摺動していくと、プランジャ207が注射液MLを押圧し、その結果、注射液MLはノズル部209より注射対象領域に対して射出されることになる。ここで、注射液MLの射出が完了した射出完了状態では、図9の下段に示すように接触部34が出力ピストン6の第1端部6aの端面と接触しているが、プランジャ207がノズル部209が形成されているノズルホルダー210の内壁面に当接しているため、出力ピストン6の摺動は制限されている。この状態における接触部34の位置は射出位置とされX12で表示されており、位置X10に対してシリンジ部205側の位置となっている。なお、プランジャ207の位置がP12で表示されている。
このように注射器200では、点火薬22の燃焼の過程において、封止部材8の接触部34は、燃焼前状態の始動位置X11から射出完了状態の射出位置X12へと移動することになる。この接触部34の移動による移動距離(X12-X11)は、注射液MLの射出のためのプランジャ207の移動距離(P12-P11)に相当する。そして、この移動に伴って、封止部材8は裏返るように変形することになる。すなわち、注射液MLを射出するために必要な出力ピストン6やプランジャ207の移動距離は、封止部材8の当該裏返る変形によって確保されることになる。このように封止部材8が裏返る変形を行う場合、封止部材8自体は大きく弾性変形する必要はなく、固定端部35を除く中間部36や接触部34の変位が主体となる。仮に、点火薬22の燃焼で生じた射出エネルギーによって接触部34がシリンジ部205側に大きく変位した結果、中間部36が伸長する場合であっても、中間部36は、先ず、図9の上段に示す状態からシリンジ部205側に移動し、その後接触部34の変位にともなって伸長していくことになる。そのため、中間部36そのものの弾性変形量を小さく抑えることが可能となり、注射液MLの射出のためのプランジャ207の移動距離を十分に確保しながらも封止部材8の破損を抑制することができる。これにより、燃焼生成物が注射液に混入することを、封止部材8によって十分に抑制し続けることが可能となる。
<第2実施形態>
図10は本発明のアクチュエータ1の第2実施形態を示す。上記第1実施形態は、イニシエータ20による駆動エネルギーを封止部材8を介して出力ピストン6に作用させる構成であり、該封止部材8は燃焼ガスに直接曝されることになる。一方本実施形態では、駆動エネルギーを一旦補助ピストン60に伝播させてから、封止部材8を介して出力ピストン6に間接的に作用させる構成であり、該封止部材8が燃焼生成物に直接暴露されるのを抑制することができる。なお、本実施形態では、アクチュエータ本体2は、第1ハウジング3Aと第2ハウジング4によって形成され、また、上記第1実施形態と実質的に同一の構成については、同一の参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
第1ハウジング3A内には燃焼室31が形成されており、燃焼室31にはイニシエータ20による燃焼生成物が拡散するように構成されている。ここで、燃焼室31に金属製の補助ピストン60が更に配置され、燃焼室31内を摺動可能に保持されている。補助ピストン60は、一方の端部がイニシエータ20と対向し、且つ、他方の端部が、封止部材8の接触部34を出力ピストン6の第1端部6aと挟むように配置されている。したがって、イニシエータ20の作動によって点火薬22が燃焼すると、駆動エネルギーが補助ピストン60におけるイニシエータ20と対向する端部に入力され、その後、封止部材8の接触部34を介して出力ピストン6に伝達されていく。そのため、点火薬22の燃焼により、補助ピストン60とともに出力ピストン6が摺動していくことになる。このときも、封止部材8は、上記の第1の実施形態と同じように裏返る変形を行うことになる。特に、本実施形態では、接触部34が出力ピストン6と補助ピストン60とに挟まれた状態となるため、封止部材8の変形が特定の方向に制限されることになり、以て上記裏返る変形が円滑に行われやすくなる。また、本実施形態では、駆動エネルギーを一旦補助ピストン60に入力させているため、封止部材8が燃焼生成物に直接暴露されるのを抑制することができ、その結果、封止部材8に掛かる熱ストレスを軽減でき、その破損をより確実に抑制することが可能となる。
このように本実施形態に係るアクチュエータ1も、図6に示す電気回路遮断装置や図7に示す注射器等にも好適に適用することができる。
<実施例1>
上記第1の実施形態に係るアクチュエータ1において、イニシエータ20での火薬燃焼の際の、封止部材8による封止が達成されるか否かを確認する確認実験を行った。封止部材8の材料は、ゴム材料としてNBR(ニトリルゴム)を採用するとともに、ゴム材料の硬度及び作動時のアクチュエータ1の温度条件をそれぞれ変化させた場合の、封止部材8における破損等を目視により確認した。
具体的には、ゴム材料の硬度は、50度、70度の2種類である。また、アクチュエータ1の温度条件は、高温(50度)、常温(20度)、低温(0度)の3種類である。更に、火薬燃焼時の燃焼室31内の圧力は、ピーク値で30MPaであり、封止部材8の厚さは1mmである。各硬度及び温度条件において、イニシエータ20の火薬燃焼を3回ずつ行い、封止部材8に破損等が認められた回数を確認した結果、全ての条件において破損は認められなかった。
<実施例2>
上記第2の実施形態に係るアクチュエータ1において、イニシエータ20での火薬燃焼の際の、封止部材8による封止が達成されるか否かを確認する確認実験を行った。封止部材8の材料は、ゴム材料としてクロロプレンとNBRをそれぞれ採用するとともに、各ゴム材料において、作動時のアクチュエータ1の温度条件をそれぞれ変化させた場合の、封止部材8における破損等を目視により確認した。
具体的には、ゴム材料にクロロプレンを採用した場合のその硬度は65度であり、NBRを採用した場合のその硬度は70度である。また、アクチュエータ1の温度条件は、高温(50度)、常温(20度)、低温(0度)の3種類である。更に、火薬燃焼時の燃焼室31内の圧力は、ピーク値で30MPaであり、封止部材8の厚さは1mmである。各ゴム材料及び温度条件において、イニシエータ20の火薬燃焼を3回ずつ行い、封止部材8に破損等が認められた回数を確認した結果、全ての条件において破損は認められなかった。
以上より、何れの実施形態においても、封止部材8を形成するゴム材料としてNBRを好適に採用することが可能であることが理解できる。また、第2の実施形態においては、当該ゴム材料として更にクロロプレンの採用も可能である。なお、上記実施例の結果は、あくまでも一例であり、ゴム材料の硬度を調整したり、アクチュエータ1の温度条件を限定したりすることで、第1の実施形態においても、クロロプレンを当該ゴム材料として採用することも可能と考えられる。