特許法第30条第2項適用 平成25年12月5日に日本音響学会第4回2013年12月6日開催<アコースティックイメージング研究会資料>のウェブサイト(http://www.e-kenkyu.com/asj_library/manu/274.html)にて掲載。 日本超音波医学会第87回学術集会プログラム・講演抄録集、S486(超音波医学 第41巻増刊号、平成26年4月15日発行、発行者:一般社団法人日本超音波医学会)にて発表。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同じ構成要素には同じ符号を用いて、重複する説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るイメージング装置の構成例を示すブロック図である。このイメージング装置は、計測対象から到来する電磁波、光、力学的な振動、音波、又は、熱波等の任意波動に基づいて、計測対象を撮像したり、又は、計測対象における変位等の物理量を非破壊で計測する装置である。
図1に示すように、イメージング装置は、少なくとも1つのトランスデューサ10と、イメージング装置本体20とを含んでいる。トランスデューサ10は、電磁波、光、力学的な振動、音波、又は、熱波等の任意波動を生成及び受信できるものであっても良い。その場合に、トランスデューサ10は、任意波動を計測対象1に送信すると共に、計測対象1内において反射された反射波又は散乱された散乱波等を受信することができる。例えば、任意波動が超音波である場合に、駆動信号に従って超音波を送信すると共に、超音波を受信して受信信号を生成する超音波トランスデューサを用いることができる。応用に合わせて、超音波素子(PZTや高分子圧電素子等)は異なり、トランスデューサの構造が異なることは良く知られている。
血流計測では歴史的に狭帯域の超音波を使用することが行われてきたが、本願発明者は、近年において実用化された軟組織の変位や歪(静的な場合を含む)、ずり波伝搬(速度)の計測の場合を含め、(エコー)イメージング用の広帯域トランスデューサを使用することを世界に先駆けて実現してきた。HIFU治療も然りで、連続波が使用されることもあるが、本願発明者は、高分解能な治療を実現すべく、広帯域型のデバイスを用いた開発を行っている。強力超音波を使用する場合には、加熱効果を来さない範囲で組織を刺激し、前記の如く計測対象1内に力源を生成することもあり、(エコー)イメージング用のトランスデューサが使用されることもある。加熱治療や力源生成、そして、(エコー)イメージングが同時に行われることもある。その他の波動源やトランスデューサにおいても然りである。トランスデューサには接触型と非接触型があり、各波動のインピーダンスマッチングが適切に行われて使用される。
あるいは、トランスデューサ10として、任意波動を生成する送信用トランスデューサと、任意波動を受信する受信用トランスデューサ(センサ)とが用いられても良い。その場合に、送信用トランスデューサは、任意波動を計測対象1に送信すると共に、センサは、計測対象1内において反射された反射波又は散乱された散乱波、又は、計測対象1内を透過した透過波等を受信することができる。
例えば、任意波動が熱波である場合に、太陽光や照明、生体内の代謝等の故意に生じさせることのない熱源が使用されることもあるが、赤外加温器やヒータ―等の比較的定常なものや、また、駆動信号に従って制御されることが多い加熱用の超音波を送信する超音波トランスデューサ(計測対象内1に力源を生成することもある)や電磁波トランスデューサ、レーザー等も使用される。また、熱波を受信して受信信号を生成する赤外線センサ、焦電センサ、マイクロ波やテラヘルツ波の検出器、光ファイバー等の温度センサ、超音波トランスデューサ(超音波の音速や体積変化等の温度依存性を用いて温度変化を検出)、又は、核磁気共鳴信号検出器(核磁気共鳴のケミカルシフトを用いて温度を検出)を用いることができる。各波動に関し、適切に受信できるトランスデューサが使用される。
トランスデューサ10は、駆動信号に従って能動的に波動を生成する際に、積極的に高調波を含む波動を生成しても良い。例えば、トランスデューサ10は、波動源又はそれを駆動する送信器21の回路の非線形特性に従って波動を生成する。また、トランスデューサ10は、1つの送信面又は受信面を有しても良く、複数の送信面又は受信面を有しても良い。トランスデューサ10の送信面には、生成された任意波動に対して非線形処理を施す非線形デバイス11が設けられても良い。トランスデューサ10の受信面には、計測対象1内から伝搬して来る任意波動に対して非線形処理を施す非線形デバイス11が設けられても良い。非線形デバイス11は、必ずしもトランスデューサ10の送信面や受信面に接している必要はなく、任意波動の伝搬経路の任意位置に設けられても良い。
また、計測対象1とトランスデューサ10の送信面又は受信面との間に、フィルタ(分光器等)、遮蔽物、増幅器、又は、減衰器等の作用デバイス12が設けられても良い。非線形デバイス11を用いる場合に、作用デバイス12は、非線形デバイス11の前後両側に設けられても良い。トランスデューサ10、非線形デバイス11、及び、作用デバイス12は、分離されている場合と、組み合わせにおいて一体となっている場合とがある。
図1においては、波動源が計測対象1内に設けられる場合も示しており、又は、それが制御部33によって直接的に制御可能である場合がある。また、トランスデューサ10によって生成した波動をレンズ等を用いて集中させたり、又は、複数のトランスデューサ10を用いてフォーカス送信等を行って、波動源を生じさせたりすることがある(力学的な波や熱波の源、又は、力学的な波や電磁波を用いて、例えば造影剤であることのある磁性体等を対象として新たに電磁波を生成したり、又は、波動間の物理的作用や物性への刺激により波動の強さや伝搬方向を制御する場合等を含む)。
無論、計測対象1内に、元より、波動源があることがある(例えば、脳や心臓の電気活動は電流源、心臓は力源となる)。また、波動源を制御可能な場合もあれば、波動源を制御できない場合もあり、計測対象1をin situの状態で観測することもあり、又は、それらの波動源そのものがイメージング対象や計測対象であることもある。あるいは、元より、その様な波動源が、計測対象1外に存在することもあり、同様に扱われ、計測対象となることもある。その様な波動源と計測対象1との間に、非線形デバイス11や作用デバイス12が適切に設けられる場合もある。
さらに、計測対象1内の少なくとも一部に、計測対象1内において非線形効果を得たり、又は、計測対象1内の非線形効果を積極的に増強するために、微小気泡等の造影剤(非線形増強剤)1aが注入されても良い。造影剤1aとしては、計測対象1内の特にターゲットとする病変や流体等に対して親和性を有するものが使用されることがある。この様に、波動を受信するトランスデューサには、複数の波動源により生成された波動が到来することがある。
トランスデューサ10は、有線又は無線によって、イメージング装置本体20から駆動信号を供給され、及び/又は、イメージング装置本体20に受信信号を出力する。無線による場合には、トランスデューサ10内に無線受信器及び/又は無線送信器が設けられ、イメージング装置本体20内にも無線送信器及び無線受信器が設けられる。
イメージング装置本体20は、パートAにおいて、送信器21と、受信器22と、フィルタ/ゲイン調整部23と、非線形素子24と、フィルタ/ゲイン調整部25と、検波器26と、AD(Analogue-to-digital)変換器27と、記憶装置28とを含んでも良い。また、イメージング装置本体20は、パートBにおいて、受信ビームフォーマ29と、演算部30と、画像信号生成部31と、計測部32と、制御部33と、表示装置34と、アナログ表示装置35とを含んでも良い。制御部33は、イメージング装置本体20の各部を制御する。
複数のトランスデューサ10が用いられる場合には、トランスデューサ10の数と同じチャンネル数のパートAが設けられるようにしても良い。後に、それらのトランスデューサ10がアレイを構成する場合についても説明する。図1に示すように、複数チャンネルのパートAが設けられる場合には、複数チャンネルのパートAの記憶装置28から出力される受信信号が、パートBの受信ビームフォーマ29に供給されることもある。あるいは、各々のパートAに縦続的にそれぞれのパートBが接続されて独立に処理されることもあり、その場合には、各チャンネルのパートAの記憶装置28から出力される受信信号が各チャンネルのパートBの受信ビームフォーマ29に供給される。なお、複数のトランスデューサ10は、異なる別の種類の波動に関するものであることがあり、その場合は、異なる種類の波動の非線形効果を同時に観測することがあるし、同一波動における非線形効果ではなくて異なる種類の波動間の非線形効果を観測することがある。
パートAにおいて、送信器21~検波器26は、アナログ回路によって構成されても良いし、それらの少なくとも一部は、デジタル回路で構成される場合もある。また、パートBにおいて、受信ビームフォーマ29~制御部33は、デジタル回路によって構成されても良いし、又は、中央演算装置(CPU)と、CPUに各種の処理を行わせるためのソフトウェアを記録した記録媒体とによって構成されても良い。記録媒体としては、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、CD-ROM、又は、DVD-ROM等を用いることができる。なお、受信ビームフォーマ29~制御部33の少なくとも一部は、アナログ回路で構成される場合もある。
送信器21は、制御部33から供給されるトリガー信号に従って駆動信号を生成するパルサー等の信号発生器を含んでいる。制御部33により、周波数やキャリア周波数、帯域幅、送信信号強度(アポダイゼーション)、又は、パルス波やバースト波等の波形や形状が制御されることがある。制御部33は、トリガー信号のタイミング又は遅延時間をチャンネル毎に設定しても良い。あるいは、制御部33から出力されるトリガー信号のタイミングを全てのチャンネルについて一定にしておき、送信器21が、制御部33によって設定された遅延時間に従ってトリガー信号を遅延させる遅延素子をさらに含んでも良い。
送信器21は、生成した駆動信号をトランスデューサ10に印加することにより、トランスデューサ10に任意波動を生成させる。例えば、送信器21は、送信される波動の強度や生成される高調波の強度を調整するべく、駆動信号の増幅器(アポダイゼーションを兼ね得る)を含み、制御部33によって遅延時間が設定される遅延素子をさらに含んでも良い。高調波を含む駆動信号が生成されて使用されることもある。共振ではなく、アポダイゼーションを行う、又は、強制振動させる場合に、チャープ波を生成する等、様々な波が生成されて使用される。複数チャンネルの送信器21によって生成された駆動信号を複数のトランスデューサ10に印加する場合には、制御部33による遅延時間の設定によって、送信ビームのフォーカシングやステアリング、及び、平面波の送信が可能である(平面波は、伝搬する方向と直交する方向には狭帯域の波であり、広帯域化されると効果的である)。
また、送信器21は、非線形効果が同様に設定される非線形素子(トランジスタやダイオードや非線形回路等のアナログデバイス、又は、非線形演算器等のデジタルデバイス)をさらに含んでも良い。予め用意されている周波数やキャリア周波数、帯域幅、アポダイゼーション、遅延、及び、非線形効果が設定される場合があるが、操作者により制御部33を介してそれらが制御されることもあり、また、演算部30において観測状況に合わせてそれらがアダプティブに決定されて制御されることもある。
複数のトランスデューサ10を駆動する場合は、各チャンネルの送信器の周波数やキャリア周波数、帯域幅、アポダイゼーション、遅延素子、及び、非線形素子が制御されるが、予め用意されているそれらのパターンに設定される場合もあれば、操作者により制御部33を介してそれらのパターンが制御されることもあり、演算部30において観測状況に合わせてそれらのパターンがアダプティブに決定されて設定されることもある。
受信器22は、例えば、受信信号を増幅する増幅器又は減衰させる減衰器(アポダイゼーションやフィルタを兼ね得る)を含み、制御部33によって遅延時間が設定される遅延素子をさらに含んでも良い。また、受信器22は、非線形効果を生む非線形素子(トランジスタやダイオードや非線形回路等のアナログデバイス、又は、非線形演算器等のデジタルデバイス)をさらに含んでも良い。複数のトランスデューサ10によって波動を受信する場合を含め、送信器21のそれらと同様に、それらは設定されることがある。受信器22は、任意波動を受信したトランスデューサ10によって生成される受信信号を増幅して、増幅された受信信号を、フィルタ/ゲイン調整部23及びAD変換器27に出力する。
フィルタ/ゲイン調整部23は、受信信号の周波数帯域を制限するフィルタ、又は、受信信号のゲインを調整する増幅器若しくは減衰器を含んでいる。フィルタ/ゲイン調整部23は、受信信号の周波数帯域又はゲインを調整し、その受信信号を非線形素子24に出力する。
非線形素子24は、例えば、トランジスタやダイオードや非線形回路等のアナログデバイスを含み、受信信号にアナログの非線形処理を施す。この非線形処理は、受信信号に含まれている少なくとも1つの周波数成分信号に対する冪乗演算であっても良いし、受信信号に含まれている複数の周波数成分信号に対する乗算演算であっても良い(ホール効果素子等を使用できる)。
フィルタ/ゲイン調整部25は、受信信号の周波数帯域を制限するフィルタ、又は、受信信号のゲインを調整する増幅器若しくは減衰器を含んでいる。フィルタ/ゲイン調整部25は、受信信号の周波数帯域又はゲインを調整し、その受信信号を検波器26及びAD変換器27に出力する。
上記のフィルタ/ゲイン調整部23及び25と非線形素子24とは、制御部33により、予め用意されているものに設定される場合があるが、操作者により制御部33を介してそれらが制御されることもあり、また、演算部30において観測状況に合わせてアダプティブにそれらが決定されて制御されることもある。複数のトランスデューサ10を駆動する場合は、それらは各チャンネルにおいて独立に制御されるが、予め用意されているパターンに設定される場合もあれば、操作者により制御部33を介してそれらのパターンが制御されることもあり、演算部30において観測状況に合わせてアダプティブにそれらのパターンが決定されて設定されることもある。
検波器26は、例えば、受信ビームフォーミングを行わない場合に、受信信号に包絡線検波処理又は二乗検波処理等を施すことにより、アナログの画像信号を生成する。また、直交検波を通じて、変位計測が行われることがある。アナログ表示装置35は、検波器26によって生成された画像信号や計測結果に基づいて、計測対象1又は波動源の画像を表示する。
AD変換器27は、受信信号にアナログの非線形処理を施す場合に、フィルタ/ゲイン調整部25から出力される受信信号を選択し、受信信号にアナログの非線形処理を施さない場合に、受信器22から出力される受信信号を選択する。AD変換器27は、アナログの受信信号をデジタルサンプリングすることにより、デジタルの受信信号に変換する。AD変換器27によって得られるデジタルの受信信号は、記憶装置28に出力される。記憶装置28は、例えば、RAM等のメモリによって構成され、受信信号を記憶する。
記憶装置28に記憶された受信信号は、受信ビームフォーマ29に供給される。なお、受信ビームフォーマ29によって信号が処理される間、一時的に、処理中の信号を記憶装置28又は外部記憶装置40に格納することがあり、それらの信号は必要に応じて読み出される。単一又は複数のトランスデューサ10が用いられる場合において、受信ビームフォーマ29において、パルス・インバージョン法や多項式フィッティング法等による高調波の分離等が行われることがある(演算部30において同処理が行われることもある)。
また、複数のトランスデューサ10が用いられる場合に、受信ビームフォーマ29は、複数チャンネルの記憶装置28から供給される受信信号に対して、受信ビームフォーミング処理を施す。例えば、受信ビームフォーマ29は、制御部33によって設定される遅延時間に従って複数チャンネルの受信信号を遅延させて整相処理した後に、加算又は乗算の演算を施すことによって受信信号を合成して、焦点が絞り込まれた新たな受信信号を生成する。
あるいは、受信器22が遅延素子を含む場合には、複数チャンネルの受信器22が、制御部33によって設定される遅延時間に従ってそれぞれの受信信号を遅延させても良い。受信ビームフォーマ29は、複数チャンネルの受信信号に加算又は乗算の演算を施すことによって受信信号を合成する。受信ビームフォーミングの際に、受信ビームフォーマ29は、アポダイゼーションを行っても良い。
その他、(多次元)高速フーリエ変換器をイメージング装置本体20に搭載して受信信号のスペクトルを得ることにより、スペクトルの処理に基づいて、フィルタリングやビーム又は波動の特性(周波数やキャリア周波数、帯域幅、いずれかの方向における周波数やキャリア周波数、いずれかの方向における帯域幅、波形、ビーム形状、ステアリング方向、又は、伝搬方向等)を調整しても良い。スペクトル周波数分割(非特許文献10を参照)により、単一の受信信号から複数の受信信号(疑似の複数の異なるビームフォーミングに対応)を得る等して、さらに、これらに非線形処理を施すことがある。非線形処理が施された信号に対して、これらの処理が行われることもある。
このイメージング装置においては、単一又は複数のトランスデューサを用いて生成された上記の複数の波動信号(非線形効果を受けたもの又は受けていないもの)が記憶装置28又は外部記憶装置40に格納され、ビームフォーマ29又は演算部30において、それらの結果を読み出して加算(重ね合わせ、線形処理)や乗算(非線形処理)の演算が行われ、これがイメージングや各種計測に使用されることもある。その場合には、適切に整相処理が施される。
演算部30は、主として、受信ビームフォーマ29から出力されるデジタルの受信信号にデジタルの非線形処理を施す。この非線形処理は、受信信号に含まれている少なくとも1つの周波数成分信号に対する冪乗演算であっても良いし、受信信号に含まれている複数の周波数成分信号に対する乗算演算であっても良い。なお、演算部30がビームフォーマ29を兼ねることがあることは前記の通りである。その場合を含め、信号が処理される間、一時的に、処理中の信号を記憶装置28又は外部記憶装置40に格納することがあり、それらの信号は必要に応じて読み出される。
ここで、送信器21及びトランスデューサ10が、少なくとも1つの波動を送信する送信装置を構成している。トランスデューサ10は、駆動信号に従って第1の波動を送信する第1の波動源に相当する。図1に示すように、複数のトランスデューサ10が送信装置に設けられても良い。送信装置は、少なくとも1つのトランスデューサ10から送信される少なくとも1つの第1の波動を、計測対象内、媒体内、第2の波動源内、又は、第2の波動源によって生成されて伝搬する第2の波動内の少なくとも1つの関心位置に照射して、媒体において生じる冪乗又は乗算に該当する非線形効果により、倍音、和音、差音、又は、検波の成分を生成する。同一の周波数成分の冪乗又は乗算の効果による倍音、又は、複数の異なる周波数成分の乗算の効果による和音又は差音の結果として、非線形効果を受けない場合に比べて、高周波数化された成分又は低周波数化された成分を含み、広帯域化及び低サイドローブ化された波動が生成される。それにより、送信装置は、波動の強度、焦点、伝搬方向、ステアリング角度、複数の波動の交差角度、伝搬方向若しくは其れとは別の方向における波形、ビーム形状、伝搬方向若しくは其れとは別の方向における周波数、伝搬方向若しくは其れとは別の方向における帯域幅、又は、メインローブとサイドローブとの強度比に関して単一の波動又は複数の波動の重ね合わせでは直接的に実現できない特徴を有する第3の波動を生成する。
この送信装置は、第3の波動を生成する際に、少なくとも1つの第1の波動の強度、焦点、伝搬方向、ステアリング角度、複数の波動の交差角度、伝搬方向若しくはそれとは異なる方向における波形、ビーム形状、伝搬方向若しくはそれとは異なる方向における周波数、伝搬方向若しくはそれとは異なる方向における帯域幅、及び、メインローブとサイドローブとの強度比の内の少なくとも1つを調整しても良い。
また、トランスデューサ10~作用デバイス12、及び、受信器22~演算部30の少なくとも一部が、計測対象1内から伝搬して来る任意波動又はその任意波動を受信して得られる受信信号に対して非線形処理等の受信処理を施す受信処理部(非線形受信処理部)を構成している。非線形受信処理部において、非線形デバイス11、非線形素子24、及び、演算部30の内の少なくとも1つが、計測対象1内から伝搬して来る任意波動又はその任意波動を受信して得られる受信信号に対して非線形処理を施す。その他において、非線形効果を得ることがあることは上記の通りである。
即ち、非線形受信処理部は、計測対象1内から伝搬して来る任意波動に対し、(i)伝搬経路の任意位置において非線形デバイス11を用いて非線形処理を施した上でトランスデューサ10によって受信して受信信号を生成する処理を施しても良い。また、非線形受信処理部は、計測対象1内から伝搬して来る任意波動に対し、(ii)トランスデューサ10によって受信してアナログの受信信号を生成し、アナログの受信信号に、例えば、アナログの非線形素子24を用いてアナログの非線形処理を施す処理を施しても良い。また、非線形受信処理部は、計測対象1内から伝搬して来る任意波動に対し、(iii)トランスデューサ10によって受信してアナログの受信信号を生成し、アナログの受信信号をデジタルサンプリングして得られるデジタルの受信信号に、例えば、デジタルの演算部30を用いてデジタルの非線形処理を施しても良い。その他において、非線形効果を得ることがあることは上記の通りである。
画像信号生成部31及び計測部32は、受信信号にデジタルの非線形処理を施す場合に、演算部30から出力される受信信号を選択し、受信信号にデジタルの非線形処理を施さない場合に、受信ビームフォーマ29から出力される受信信号を選択する。
画像信号生成部31は、非線形受信処理部によって得られる受信信号に基づいて、計測対象1の画像を表す画像信号を生成する。あるいは、画像信号生成部31は、非線形処理によって得られる受信信号と共に、非線形処理が施されていない受信信号に基づいて画像信号を生成しても良い。また、画像信号生成部31は、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号を選択的に用いて、計測対象1の画像を表す画像信号を生成しても良い。例えば、画像信号生成部31は、受信信号に包絡線検波処理又は二乗検波処理等を施すことにより、画像信号を生成する。表示装置34は、画像信号生成部31によって生成された画像信号に基づいて、計測対象1の画像を表す画像信号を生成する。
計測部32は、非線形処理によって得られる複数の信号の内の少なくとも1つを用いて計測対象1内の変位等を計測する。例えば、計測部32は、力学的又は電磁的波の伝搬を観測するにあたり、自らの波動又は別の波動の任意の波動伝搬によって生じる粒子変位又は粒子速度を計測された変位に基づいて計測する。その場合に、画像信号生成部31は、計測部32によって計測された粒子変位又は粒子速度に基づいて、波動伝搬を表す画像信号を生成する。複数の波動が到来する場合においては、予め波動を分離しておくか、又は、受信後にアナログ処理又はデジタル処理により分離する処理を通じて計測が行われることがある。
あるいは、計測部32は、熱力学的な波動の伝搬を観測するにあたり、トランスデューサ10として、赤外線センサや焦電センサ、マイクロ波やテラヘルツ波の検出器、光ファイバー等の温度センサ、超音波トランスデューサ(超音波の音速や体積変化等の温度依存性を用いて温度変化を検出)、又は、核磁気共鳴信号検出器(核磁気共鳴のケミカルシフトを用いて温度を検出)とを用いて熱波を計測しても良い。その場合に、画像信号生成部31は、計測部32によって計測された熱波に基づいて、熱力学的な波動の伝搬を表す画像信号を生成する。画像信号生成部31によって生成された画像信号、及び、計測部32によって得られた計測データは、外部記憶装置40に格納することが可能である。
以上において、非線形受信処理部は、計測対象1内から伝搬して来る任意波動に対する非線形処理によって冪乗演算の結果を得るか、又は、非線形処理が冪乗演算であることにより、任意波動に基づいて、和音及び差音、及び、倍音の結果として、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号に比べて高周波化又は低周波化された受信信号を得るようにしても良い。また、非線形処理は、乗算演算であっても良い。非線形処理は、高次の非線形処理でも良く、その効果から、主として冪乗演算や乗算演算の結果を得ることが行われることがある。
これにより、受信信号は、任意波動が複数の異なる周波数成分を有する場合に、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号に比べて広帯域化されたものとなる。又は、高周波化された受信信号が、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号に比べて、高周波化、高空間分解能化、低サイドローブ化、又は、高コントラスト化された高調波信号となる。又は、低周波化された受信信号が、高調波信号を略直交検波して得られる直流を含む帯域の信号となる。画像信号生成部31は、非線形処理によって得られる少なくとも1つの信号に基づいて画像信号を生成する。
あるいは、計測対象1内から伝搬して来る複数の任意波動が、計測対象1内において、伝搬方向、ステアリング角度、周波数、キャリア周波数、パルス形状、ビーム形状、いずれかの方向における周波数やキャリア周波数、又は、帯域幅の内の少なくとも1つが異なる場合において、重なって到来する複数の任意波動に対し、非線形受信処理部が、上記(i)~(iii)の処理の内の少なくとも1つを施しても良い。画像信号生成部31は、非線形受信処理部によって得られる受信信号に基づいて画像信号を生成する。
ここで、非線形受信処理部が、複数の任意波動の受信前において、複数の任意波動を作用デバイス12としてのアナログ遅延デバイス及びアナログ記憶デバイスの内の少なくとも1つに通過させることにより、複数の任意波動が計測対象1内の各位置において重なったものとなる様にしても良い。いわゆる収差補正である。
また、非線形受信処理部が、計測対象1内から伝搬して来る複数の任意波動の重ね合わせに対する非線形処理によって冪乗演算の結果を得るか、又は、非線形処理が冪乗演算であることにより、複数の任意波動に基づいて、和音及び差音、及び、倍音の結果として、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号に比べて高周波化又は低周波化された受信信号を得ても良い。これによっても、上記と同様の効果が得られる。画像信号生成部31は、非線形受信処理部によって得られる少なくとも1つの信号に基づいて画像信号を生成する。
あるいは、計測対象1内から伝搬して来る複数の任意波動が、計測対象1内において、伝搬方向、ステアリング角度、周波数、キャリア周波数、パルス形状、ビーム形状、及び、いずれかの方向における周波数やキャリア周波数、又は、帯域幅の内の少なくとも1つが異なる場合において、重なって到来する複数の任意波動に対し、非線形受信処理部が、上記(i)~(iii)の処理の内の少なくとも1つを施すと共に、複数の任意波動の受信後の任意の時点において、アナログ又はデジタルのデバイスを用いて、又は、アナログ又はデジタルの信号処理に基づいて、受信信号を複数の信号に分離しても良い。画像信号生成部31は、非線形受信処理部によって分離された複数の信号の内の少なくとも1つに基づいて、前記計測対象の画像を表す画像信号を生成する。非線形演算では、乗算効果を得ることが行われる。また、アナログ又はデジタルの収差補正が行われた上で、それらの信号が再度加算されて、冪乗効果を得ることもある。
あるいは、計測対象1内から伝搬して来る複数の任意波動が、計測対象1内において、伝搬方向、ステアリング角度、周波数、キャリア周波数、パルス形状、ビーム形状、及び、いずれかの方向における周波数やキャリア周波数、又は、帯域幅の内の少なくとも1つが異なる場合において、重ならずに到来する波動、作用デバイス12を用いて遮蔽して重ならない様にされた波動、及び、デバイス(アナログ又はデジタル)やアナログ又はデジタルの信号処理を用いて分離された波動の内の少なくとも1つの波動に対し、非線形受信処理部が、上記(i)~(iii)の処理の内の少なくとも1つを施しても良い。画像信号生成部31は、非線形受信処理部によって得られる受信信号に基づいて画像信号を生成する。
ここで、非線形受信処理部が、複数の任意波動の受信前において、複数の任意波動を作用デバイス12としてのアナログ遅延デバイス及びアナログ記憶デバイスの内の少なくとも1つに通過させることにより、複数の任意波動が計測対象1内の各位置において重なったものとなる様にしても良い。いわゆる収差補正である。
あるいは、非線形受信処理部が、アナログの受信信号をアナログ遅延デバイス及びアナログ記憶デバイスの内の少なくとも1つに通過させ、又は、デジタルの受信信号にデジタル演算によりディレイを掛け、若しくは、デジタルの受信信号をデジタル記憶デバイスに通過させることにより、複数の任意波動が計測対象1内の各位置において重なったもとなる様にするようにしても良い。
また、非線形受信処理部が、計測対象1内から伝搬して来る複数の任意波動の各々に対する非線形処理によって冪乗演算の結果を得るか、又は、非線形処理が冪乗演算であることにより、複数の任意波動の各々に基づいて、和音及び差音、及び、倍音の結果として、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号に比べて高周波化又は低周波化された受信信号を得ても良い。これによっても、上記と同様の効果が得られる。画像信号生成部31は、非線形受信処理部によって得られる少なくとも1つの信号に基づいて画像信号を生成する。
あるいは、非線形受信処理部が、計測対象1内から伝搬して来る複数の任意波動の各々に対する非線形処理によって乗算演算の結果を得るか、又は、非線形処理が乗算演算であることにより、複数の任意波動に基づいて、和音及び差音、又は、倍音の結果として、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号に比べて高周波化又は低周波化された受信信号を得ても良い。
これにより、受信信号は、複数の任意波動が複数の異なる周波数成分を有する場合に、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号に比べて広帯域化されたものとなる。又は、高周波化又は低周波化された受信信号が、非線形処理を施さない場合に得られる受信信号に比べて、高空間分解能化、低サイドローブ化、又は、高コントラスト化され、少なくとも任意の1方向に略直交検波されて直流を含み、別の少なくとも1方向には高調波の周波数を含む帯域の信号となる。画像信号生成部31は、非線形処理によって得られる少なくとも1つの信号に基づいて画像信号を生成する。
以上において、画像信号生成部31は、非線形処理によって得られる複数の信号の内の少なくとも1つに任意の検波処理を施し、又は、複数の信号を重ね合わせたものに任意の検波処理を施し、又は、複数の信号に任意の検波処理を施した上で複数の信号を重ね合わせることにより、画像信号を生成しても良い。
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図2は、本発明の第2の実施形態及びその変形に係るイメージング装置の構成例を示すブロック図である。第2の実施形態及びその変形に係るイメージング装置は、複数のトランスデューサ10又はトランスデューサアレイを駆動して波動を生成するか、又は、それらにより波動を受信してイメージングを行う装置であり(図2にはトランスデューサアレイを示す)、構成要素としては、第1の実施形態における構成要素と同じ性能を有するものを使用できる。
図2(a)に示す第2の実施形態に係るイメージング装置においては、図1に示す第1の実施形態に係るイメージング装置において複数のトランスデューサ10又はトランスデューサアレイを使用する場合と同様に、複数のトランスデューサ10又は素子が複数の送信器21又は受信器22にそれぞれ接続されている。ただし、イメージング装置本体20aにおいて、1つのパートA’内に複数の送信器21又は受信器22が設けられている。
複数のトランスデューサ10又はトランスデューサアレイから出力され、受信器22内の遅延素子を使用して整相されるか、又は、未整相のアナログの受信信号に対して、加算処理部が加算(線形処理)のアナログ処理を施し、又は、乗算処理部が乗算(非線形処理、ホール効果素子等が使用される)のアナログ処理を施す。これにより、受信ビームフォーミングが行われるので、パートBにおいて、受信ビームフォーマ29(図1)は不要となる。
その上で、AD変換器27を通じて得られたデジタルの受信信号が、記憶装置28に格納される。イメージング装置本体20aのパートBは、その受信信号に基づいて、第1の実施形態によって実現できる全ての非線形効果をも得るべく、制御部33が各部を制御することにより、第1の実施形態と同様にイメージングや計測イメージングを行う。なお、図2においては、制御部33から受信器22等への配線は省略されている。
第2の実施形態においても、第1の実施形態における送信器や受信器と同様に、各トランスデューサの駆動信号又は受信信号に対して遅延を与えることができ、送信又は受信のフォーカシングやステアリング等の処理を施すことも可能である。第2の実施形態においては、チャンネル数と同じ数のAD変換器27及び記憶装置28が必要とされる第1の実施形態と比べて、1つのAD変換器27と1つの記憶装置28とを設ければ良いので、装置を簡単化できる。
一方、図2(b)に示す第2の実施形態の変形に係るイメージング装置においては、イメージング装置本体20bのパートA'’において、送信遅延素子21a及び受信遅延素子22aが、送信器21及び受信器22の外部に設けられている。図2(b)に示すイメージング装置は、図2(a)に示すイメージング装置とは異なり、受信遅延素子22aにおいて整相されるか、又は、未整相のアナログの受信信号に対して、加算処理部が加算(線形処理)のアナログ処理を施し、又は、乗算処理部が乗算(非線形処理)のアナログ処理を施した後に受信器22で受信する。従って、1つの送信器21と1つの受信器22とを設ければ良いので、装置を格段に簡単化でき、第1の実施形態におけるのと同じ非線形効果を得ることもできる。
図1に示す第1の実施形態に係るイメージング装置、図2(a)に示す第2の実施形態に係るイメージング装置、及び、図2(b)に示す第2の実施形態の変形に係るイメージング装置、又は、その他の型のイメージング装置や、それらの構成要素を同時に使用することもできる。例えば、複数の型の装置を用いて得られたコヒーレント又はインコヒーレントの画像信号や計測結果の各々を表示することもできるし、同時に並べて表示することもできるし、それらを重畳したものや乗算したものを表示することもできる。基本的には、同一の時刻又は同一の時相の受信信号より得られたものを対象とすることができる。同一のイメージング装置においても、同一の時刻又は同一の時相において受信された信号を用いて、複数の画像信号や計測結果が得られる場合において同処理が行われることもある。対象となる信号は、整相後のアナログ信号又はデジタル信号であり、その加算や乗算は、アナログ処理(ホール効果素子等を使用)又はデジタル処理(計算機や演算器等を使用)により実施される。
本発明の第1又は第2の実施形態に係るイメージング装置は、各種デバイスのアナログ演算器、デジタル演算器、計算機、又は、これに類するデバイス(FPGAやDSP等)を用いて、信号に非線形計算を施すことを基礎とする。後に詳述する通り、非線形演算は、冪乗や乗算の効果を得ることが中心であるが、演算そのものは、この限りではなく、他の非線形特性を有する高次の計算であることもある。多項式フィッティング、スペクトル解析、パルス・インバージョン法、数値計算、又は、信号処理等を通じ、それらの効果を抽出したり、分離することができる。信号に対してだけでなく、波動に対しても非線形演算を施すことがあるし、受信前において、波動をデバイス(時間又は空間、又は、それらの周波数のフィルタや分光器等)を用いて抽出したり、分離することもできる。専用デバイスを使用できる可能性がある。
上記のように、このイメージング装置は、任意波動用のトランスデューサ10、送信器21、及び、受信器22を備えると共に、非線形デバイス11、非線形素子24、又は、演算部30を備えるものであり、必要に応じて、データ記憶装置(メモリ、ハードディスク、写真、CD-RW、又は、その他の記録媒体)や表示装置等を備える。汎用のそれらの各デバイスを組み上げて構成することもできるし、非線形デバイス11、非線形素子24、演算部30、又は、その他の非線形デバイスを搭載していない既存の装置に、本発明の非線形処理を行うデバイスを加えて、非線形処理を実施することもできる。
波動源となる送信器21又はトランスデューサ10から送信される波動としては、パルス波、バースト波、又は、位相変調等のコーディングされた波動等が使用されて、空間分解能を有するイメージングや計測が可能である。ただし、空間分解能を必要とせずに計測が可能である場合には、この限りでは無く、連続波が使用されることもある。
生成される波動は、トランスデューサ10における電気信号(駆動信号)から波動への変換特性で決まり、適切に設計されたデバイス及び駆動信号が使用される。例えば、光波の場合には様々な光源(コヒーレント又はインコヒーレント、発光ダイオード(LED)、光混合LED、(可変波長)レーザー、又は、光発振器等)が使用され、音波の場合には音源として電気音響変換器や振動子等が使用される。また、振動波の場合にはアクチュエータベースの振動源が使用され、熱波の場合には熱源等が使用される。このように、本実施形態においては、各種の波動を生成するトランスデューサ10が使用可能である。
使用されるトランスデューサ10は、上記の各種波動を対象とするにあたり、代表的なトランスデューサを含み、また、非線形特性を有するゆえに通常では使用されないトランスデューサを積極的に使用することも可能である。通常、超音波素子においては、高圧をかけると非線形現象により高調波を含む超音波が生成されるが、パルス・インバージョン法により、媒体内で生じた非線形成分を抽出するハーモニックイメージングが行われているし、高調波成分をフィルタリングして除いて基本波帯域の信号のみを使用する場合もある。
本実施形態においても、非線形波動を積極的に生成させて使用することがある。即ち、送信時に非線形特性が現れる場合には、送信波動が高調波を含む状態にあるが、本発明においては、これを有効的に応用することがある。一方、非線形成分を含まない波動を生成して、計測対象物内の非線形現象を探ることも行われる。
また、非線形成分を有する波動においては、高調波にも非線形現象を生じることがある。送波した波動が元より高調波を含む場合や交差する複数の波が存在する場合(周波数やキャリア周波数、パルス形状、ビーム形状、又は、各方向に見た周波数やキャリア周波数、又は、帯域幅も異なる場合がある、即ち、伝搬方向やステアリング角度以外の波動パラメータが異なる)は、後述の通り、受信信号についてパルス・インバージョン法、時空間フィルタリング、スペクトルフィルタリング、若しくは、多項式フィッティングを含めてアナログ処理により、又は、それらや信号処理等のデジタル処理により、分離を図った上で本発明が実施されることもあるし、分離が行われずに本発明が実施されることもある。また、伝搬過程に、障害物等の遮蔽物、フィルタデバイス、又は、分光器(時間又は空間、又は、それらの周波数のもの)、物理的な刺激を与えて媒質の屈折率を変化させる(光学スイッチ)等を使用して、波動を予め分離した状態で各々を受信することもある。各々の波動の源を制御できる場合には、各波動を独立に生成させ、各々を観測することもある。
また、トランスデューサ10において波動を生成した後に、波動が計測対象物に伝搬する前において、波動に対して直接的に非線形現象を生じさせるデバイスを使用することにより、非線形成分を含む波動を計測対象物に伝搬させることもある。また、計測対象内の伝搬後又は伝搬中において、非線形現象を生じさせるデバイスを使用することも可能である。波動又は信号を結合させたり、又は、混合(mix)する等して乗算効果を得ることもある。
例えば、光に関しては、(i)非線形光学素子(例えば、レーザー光の短波長領域への波長変換等に使用される光高調波発生デバイス)、(ii)光混合デバイス、(iii)光パラメトリック発生、誘導ラマン散乱、コヒーレントラマン散乱、誘導ブリュアン散乱、誘導コンプトン散乱、又は、四光波混合等の光パラメトリック効果を生じさせるデバイス、(iv)通常のラマン散乱(自然放出ラマン散乱)等の多光子遷移を生じさせるデバイス、(v)非線形屈折率変化を生じさせるデバイス、及び、(vi)電場依存屈折率変化を生じさせるデバイス等を使用することができる。カプラや光ファイバー等も有効に使用できる。多点観測(多チャネル)もできるし、信号処理を行う上でも適している。
光を使用する場合は、光の発生、制御、又は、測定等についての光エレクトロニクス、非線形光学効果、又は、レーザー工学等の幅広い分野に関連する。通常に使用される光デバイスは、作用デバイス12や非線形デバイス11として使用でき、専用に実現されたものが使用されることもある。これらには、光増幅器(フォトンマルチチューブ等)、吸収体(減衰材)、反射体、鏡、散乱体、コリメータ、(焦点可変)レンズ、偏向器、偏光器、偏光フィルタ、NDフィルタ、偏向ビームスプリッター(分離)、遮蔽物、光導波路(フォトニクス結晶を使用したもの等)、光ファイバー、光カー効果デバイス、非線形光ファイバー、光混合光ファイバー、変調用光ファイバー、光閉じ込めデバイス、光メモリ、結合器(カップラ)、方向結合器、分配器、混合分配器、分光器、分散シフト光ファイバー、バンドパスフィルタ、位相共役器(縮退4光波混合やフォトリフラクティブ効果によるもの等)、強誘電半導体の光制御によるスイッチ、位相遅延デバイス、位相補正デバイス、時間の反転器、光スイッチ、又は、光学的マスク等による符号化等を、単独で使用する場合もあれば、併用することもある。また、この限りではない。光制御(波長変換・スイッチング・ルーチング)の下で、光ノード技術、光クロスコネクト(OXC)、光分岐挿入多重(OADM)、光多重・分離装置、又は、光スイッチ素子が使用され、デバイスそのものが光伝達網や光ネットワークを構成している場合もあり、光信号処理が行われることがある。
検出には、CCDカメラ、光ダイオード、混合型の光ダイオード、又は、本願明細書に記載の仮想源(波動源としても)、即ち、仮想的な受信器又は送信器を使用することもできる。光信号処理には、時間や空間フィルタ、相関演算やマッチドフィルタ処理、信号抽出、ヘテロダインやスーパーヘテロダイン(低周波信号を得てAD、復調させることもできる)、及び、ホモダイン等があり、電磁波検出器が使用される場合もある。
また、特に非線形媒質に関して例を揚げると、二硫化炭素、ナトリウム蒸気、シリコンやガリウムヒ素などの半導体、量子井戸、及び、フルオレセインやエリトロシンなどの有機色素等があり、多種多様である。またチタン酸バリウムなどの結晶では、外部からポンプ波を供給することなく4光波混合を行わせる自己ポンプもある。
可視光線、赤外線、マイクロ波やテラヘルツ波、及び、放射線等の他の波動に関しても、各々の汎用デバイスを使用できるが、専用デバイスを実現して使用されることもある。SAWのみならず、振動系と電磁系との関係を有するデバイス等も重宝する。また、非線形デバイスも使用することができる。熱伝導において非線形性を提示するものに、アルミナとジルコニア合成、はんだ、及び、層状コバルト酸化物等様々なものがある。熱は光デバイスに作用し、非線形性を生み出すこともあり、それらの応用を広く考えることも可能になる。
なお、トランスデューサ10は、計測対象に対して、接触型と非接触型があるが、作用デバイスとして、各波動のインピーダンスマッチングデバイスが必要であることがある。装置内のデバイス間や電気回路内においても然りであるが、計測空間において、各デバイス間にマッチングデバイスが使用されることがある。例えば、超音波によって生体組織を観測する場合には、ジェル又は水がマッチング材として使用される。RF波に対しては、アンテナが使用されるし、生体組織電位や磁場の各々の観測には、電解質ジェルと電極、又は、SQUID計等が使用されるが、計測対象の大きさに合わせて、小型化されたものが使用されることがある(顕微鏡など)。微弱な信号は、非線形性を持たない場合があり、その様な場合には、非線形性を疑似的に生成したり、仮想的に生成したりすることがある。非線形信号が微弱で観測できない場合には、非線形性を増強することも行われる。
非線形デバイスが送信器21又はトランスデューサ10と一体化されている場合もあり、また、非線形デバイスを別個に組み上げて使用する場合もある。この様に、非線形デバイスは、高周波化や広帯域化等を行うことを含め、受信後の信号に対してだけでなく、任意位置において非線形デバイスを用いることにより、波動そのものに非線形演算を施すことができる。
また、受動的に波動を観測する場合において、波動源を制御できない場合を含めて、本発明が適用されることもある。各種方法又はデバイスを用いて、信号源位置や到来方向を求めて本発明が適用されることもあるし、本発明が適用されて信号源や波動源の位置や到来方向が求められる場合もある。その際、それらは波動や信号を分離して求められることがあるし、信号や波動の源や到来方向が求められた上で波動や信号が分離されることもあるし、両者が同時に求められることもある。波動源や到来方向が求まると、受信ビームフォーミングの精度が向上する。信号にはアナログ処理又はデジタル処理等の信号処理が施され、波動には、時間又は空間、又は、それらの周波数のフィルタや分光器等を使用できる。
計測対象物を含む媒体を伝搬した波動をトランスデューサにおいて受信するに当たり、送信に使用されたトランスデューサが受信にも使用される場合がある(反射信号を観測する場合)。一方、送信に使用されたトランスデューサとは別のトランスデューサが受信に使用されることもある。その場合に、送信トランスデューサと受信トランスデューサとが近傍位置にある場合(反射信号を観測する場合)や、送信トランスデューサと受信トランスデューサとが異なる位置にある場合(例えば、透過波や屈折波等を観測する場合)もある。
また、トランスデューサ10は単一開口のものが使用されることもあるし、複数のトランスデューサ10を密に隣接した状態でアレイ状(1次元アレイ又は2次元アレイ、3次元アレイ)に並べて使用することもあるし、スパース配列、若しくは、離れた位置に設置されたものが同時に使用されることもある。開口の形状には様々なものがあり(円形、矩形、平型、凹型、及び、凸型等など)、それらの指向性は様々である。複数方向に開口を有する状態で一体となっている素子もあり、同一位置で多方向の指向性を有するものもある。電位や圧、又は、温度等のスカラー計測の他、電磁波や電界ベクトル等のベクトル計測を行うものもある。偏波するものもある。無論、同一の波動に関しても、素子の材料や構造は多様である。また、それらを用いた配置も様々であり、例えば、多方向に開口が向いているもの等もある。
図3は、複数のトランスデューサの配置例を示す模式図である。図3において、(a1)は、1次元アレイ状に密に配列化された複数のトランスデューサ10を示しており、(b1)は、1次元状に疎に存在する複数のトランスデューサ10を示している。(a2)は、2次元アレイ状に密に配列化された複数のトランスデューサ10を示しており、(b2)は、2次元状に疎に存在する複数のトランスデューサ10を示している。(a3)は、3次元アレイ状に密に配列化された複数のトランスデューサ10を示しており、(b3)は、3次元状に疎に存在する複数のトランスデューサ10を示している。
トランスデューサの開口部においてレンズ等を用いてアナログ的にビームが生成されたり、又は、調整されたりすることがあるが、上記の駆動信号によって調整されることもある。また、本実施形態に係るイメージング装置は、最大で6自由度(並進3方向及び回転3方向の自由度)を有する機械走査デバイスを備え、機械走査デバイスが少なくとも1つのトランスデューサ10又は少なくとも1つのトランスデューサアレイを少なくとも1つの方向に機械的に移動させることにより、計測対象1の走査や焦点位置の調整やステアリングが行われることがある。
一方、複数のトランスデューサ10を使用する場合には、駆動するトランスデューサ10の数と等しい数の駆動信号を生成すべく、トランスデューサ10の数と等しいチャンネル数の送信器21が設けられる。又は、遅延素子群を使用して、限られた数の生成信号から複数の駆動信号を生成することにより、所望のビームフォーミング(所望する位置に焦点を形成する、又は、所望する方向にステアリングする)が行われることがある。
通常のアナログ又はデジタルのビームフォーマを使用することもできる。上記のビームフォーミング(受信時のみの場合を含む)を並列処理的に行って、計測対象を走査する際の実時間性を向上させることがある。
また、同一時刻において、複数のトランスデューサ10を駆動して、複数のビームフォーミングを同時に行うこともある。あるいは、送信器21を切り替えて使用する場合を含めて、同時相の信号を受信することが許される時間内において、異なる時刻に異なるトランスデューサ10を用いてビームフォーミングが複数回行われることもある。同一のトランスデューサに機械走査を施し、複数回のビームフォーミングが行われることがある。
各ビームフォーミングにおいては、機械走査を行う場合を含めて、古典的な開口面合成が行われることがあり、通常の遅延加算(Delay-and-Summation)、又は、本発明に基づく遅延乗算(Delay-and-Multiplication)が行われる(いずれも、モノスタティック型又はマルチスタティック型)。送信時において、フォーカシングをせずに、平面波が生成されることもあり、その場合には、広い領域を一度に短時間で観測することも可能である。その際に、平面波がステアリングされることもある。波動が平面波として受波されることがあるし、ダイナミックフォーカシングされることもある(送信時にステアリングしている時は、受信時もステアリングした方が良い)。平面波は、伝搬する方向と直交する方向には狭帯域の波であり、広帯域化されると効果的である。
図4は、1次元トランスデューサアレイを用いた場合における波動の形態を説明するための図である。図4において、(a)は、波動のフォーカシングを示しており、送信時又は受信時において、遅延時間の設定によって定まるフォーカスの位置に絞り込まれた波動ビームが形成される。(b)は、波動のステアリングを示しており、送信時又は受信時において、遅延時間の設定によって定まる方向に偏向された波動ビームが形成される。(c)は、平面波の送信又は受信を示しており、遅延時間の設定によって定まる方向に向けた平面波が形成される。平面波は、伝搬する方向と直交する方向には狭帯域の波であり、広帯域化されると効果的である。
なお、トランスデューサ10による受信前において、波動をアナログ遅延デバイス及びアナログ記憶デバイスの少なくとも1つに通過させることにより、複数の波動が計測対象1内の各位置において重なったものとなる様にすることがある。また、トランスデューサ10による受信後において得られるアナログ信号をアナログ遅延デバイス及びアナログ記憶デバイスの少なくとも1つに通過させたり、又は、受信後に得られるデジタルサンプリングされたデジタル信号にデジタル演算によりディレイを掛けたり、又は、デジタル記憶デバイスに通過させることを通じて、複数の波動が計測対象内の各位置において重なったもとなる様にすることもある。いわゆる位相収差補正を、上記の様に実施したり、上記のビームフォーミングの整相に関連して実施することもある。様々なデバイスがあるが、例えば、光においては、光ファイバーは遅延線にもなるし、光閉じ込めデバイスは遅延デバイスや記憶装置にもなる。
一方、計測対象に関し、計測対象内を伝搬した結果として非線形現象を強く受けた信号を観測することになる場合もあるが、逆に、非線形成分が得られない場合もある。一般に、波動の強度が強いときに非線形現象が観測され易く、強度が弱いときには非線形現象が観測され難い。いずれの場合においても、本発明を実施することができる。受信信号は、適切な信号処理を行う等により、独立した信号に分離されて、本発明が実施されることがある。
信号の分離には、各種波動のアナログデバイス(時間又は空間、又は、それらの周波数のフィルタや分光器等)が使用されることもあり、また、信号処理に基づいて、アナログ処理又はデジタル処理(上記のコーディングに対してデコーデングする処理、スペクトル解析を通じてスペクトルの重心を求める処理、解析信号を求めて瞬時周波数を求める処理、MIMO、SIMO、MUSIC、又は、独立信号分離処理等)されることもある。受動的な場合においては、各種方法又はデバイスを用いて、信号源位置や到来方向を求めて処理されることもあるし、本発明が実施された後に信号源位置や到来方向が求められることがある。ビームフォーミングと同時に信号源位置や到来方向が求められることがある。
図5は、2次元計測の場合の空間領域及び周波数領域におけるビーム方向や波動の到来方向の角度とスペクトルの重心を示す図である。図5において、(a)は、空間領域において、関心点(x,y)におけるビーム1及びビーム2のビーム方向角度θ1及びθ2を示している。また、(b)は、周波数領域において、ビーム1及びビーム2のスペクトルの重心と、ビーム1の瞬時周波数(fx, fy)とを示している。
基本的には、ビームフォーミングを波動に対してアナログ的に行うか、あるいは、複数のトランスデューサ10を使用する場合においては、ビームフォーミング(フォーカシング又はステアリング)が行われる。上記の通り、信号の分離を行った上で、ビームフォーミングされることもあるが、ビームフォーミング後に信号分離が行われることもある。
また、開口面合成処理を行う場合においては、受信した同一の信号セットから、異なる複数位置のフォーカシング信号や異なる複数方向のステアリング信号を生成できる(Delay-and-Summation、又は、本発明に基づくDelay-and-Multiplication)。また、それらの生成された信号に対して本発明を実施することもできる。送信器21と受信器22とは、一体型であっても良く、分離型であっても良い。
非線形素子24には、様々なものがあり、トランスデューサ10において受信した後の電気的なアナログ信号に対しては、ダイオードやトランジスタを使用することができる。その他、超電導現象を応用するもの等を含め、回路によって信号に非線形現象を施す如何なる非線形素子も使用することができる。また、分布定数系の非線形素子を使用することもできる。波動(信号)の周波数に合わせて、適切なものが使用される。各種増幅器や減衰器を用いて、波動又は信号が適切にゲイン調整されることもある。
非線形演算は、トランスデューサ10において受信する前に、波動に対して直接的に非線形現象を生じさせる非線形デバイスを使用して行われることもある。例えば、光に関しては、上記の(i)非線形光学素子、(ii)光混合デバイス、(iii)光パラメトリック効果、(iv)通常のラマン散乱(自然放出ラマン散乱)等の多光子遷移、(v)非線形屈折率変化、又は、(vi)電場依存屈折率変化等を使用することができる。その他の波動に関しても、同様に、非線形デバイスを使用することができる。それらの非線形デバイスがトランスデューサ10と一体化されている場合もあり、また、非線形デバイスを別個に組み上げて使用されることもある。また、受信時に使用するトランスデューサ10における波動から電気信号への変換時の非線形現象そのものが使用されることもある。
以上のいずれの場合においても、波動そのものにアナログ演算(非線形処理)が施される場合と、受信後の信号にアナログ演算が施される場合があるが、信号のAD変換後において、デジタル演算器や計算機、又は、それに類するデバイス(FPGAやDSP等)を用いて信号に非線形演算が施されることもある。
本発明の一実施形態に係るイメージング装置に関し、アナログ型と称した場合には、演算が上記の如くアナログ処理によるものをいい、例えば、非線形効果を受けたアナログ信号をブラウン管ディスプレイやオシロスコープ(アナログ又はデジタル)等の表示機器によって表示し、必要に応じて写真(アナログ又はデジタル)やホログラフィ等の記憶媒体に記録される。あるいは、AD変換を通じてデジタル化されて、必要に応じてメモリ、ハードディスク、又は、CD-RW等のデジタルデータ記憶媒体に記録され、表示機器を用いて表示が行われることもある。
一方、デジタル型と称した場合には、適切なアナログ処理(ゲイン調整やフィルタリング)後にアナログ信号がAD変換され、信号が記録媒体であるメモリやハードディスク等に蓄えられる場合を含み、デジタル非線形演算処理が施され、必要に応じてデータ記憶装置(上記の写真やデジタル記録媒体等)にデータが格納され、表示装置に表示される。
上記の構成において、計測対象物内の非線形現象が受信信号に含まれることがあり、その場合、上記のアナログ装置又はデジタル装置を用いて、その効果を増強することもできるが、非線形成分を含まない受信信号においては、新たに非線形効果を生成したり、非線形効果を模擬したり、又は、仮想的に実現することが可能である。また、計測対象内において生じた非線形効果(高調波成分)と、信号源において生成された非線形成分(高調波成分)と、非線形演算の効果を分離することが行われることがある。例外的に、非線形演算を施さない場合を含み、前2者の非線形効果(非線形成分)を分離するべく、上記のデバイスや信号処理が使用されることもある。
なお、イメージング装置に関する上記の説明においては、観測する波動に対する変換器(トランスデューサ)を使用する場合について述べたが、例えば、振動波の伝搬は、レーザードプラや光学画像処理に基づいて光学的に観測することもできるし、ヒト組織において周波数の低い振動波として支配的になるずり波の伝搬は、同じく振動波である超音波のドプラ効果を用いて観測することができる。
また、可聴音波や超音波等の音の伝搬を光学的に捉えることも可能である。熱波に関しては、輻射に基づく赤外線カメラ、マイクロ波やテラヘルツ波や超音波の音速変化や対象の体積変化、核磁気共鳴のケミカルシフト、又は、光ファイバーを使用する等によって観測することもできる。これは、コヒーレント信号処理、又は、画像処理等のインコヒーレント処理による。他の波動を使用して関心のある波動の挙動を観測できる事例は、それらに限られず、いずれにしても計測結果はアナログ信号又はデジタル信号となる。従って、本発明は、それらの観測された波動(信号)に対しても実施することができる。
また、イメージング装置に関する上記の説明において、電磁波、音を含む振動、熱の波動、又は、それらに該当する信号の非線形演算装置について述べたが、異なる種類の物理エネルギー間の非線形効果を増強したり、非線形効果を模擬したり、又は、非線形効果を仮想的に実現することも可能であり、その場合には、使用される複数種類の波動に関するデバイスを同時に使用して波動を受信することにより、又は、同時相であれば異なる時刻において受信された信号を基礎として、本発明を実施することもできる。即ち、本発明は、複数種類の波動が同時に発生している場合と、1種類の波動が単独に発生している場合とを扱うことができる。
また、電磁波や音を含む振動や熱の波動において、周波数が異なると各計測対象物(媒体)に依って支配的な挙動は異なり、名称が異なる(種類が異なると考えても良い)。例えば、電磁波に関しては、マイクロ波、テラヘルツ波、X線等の放射線等が存在し、振動に関しては、ヒト軟組織を対象とした場合に、メガHz帯域においてずり波は減衰の影響により波動として伝わらず、超音波が支配的であるが、100Hz等の低周波においては非圧縮性の特徴が強く、ずり波が支配的である。
本発明は、その様な挙動を異にする波動同士の非線形効果を増強したり、非線形効果を模擬したり、又は、仮想的に実現することも可能である。その場合には、複数種類の波動に関するデバイスを同時に使用して波動を受信したり、又は、同時相であれば異なる時刻において受信された信号を基礎として、本発明を実施することもできる。無論、それらの波動の減衰、散乱、又は、反射等の現象が分散特性を有し、受信信号のSN比を考慮して、適切に使用されなければいけないという限界がある。しかしながら、物理的に高周波成分を生成したり、捉えることのできない高周波成分を生成できることを含め、本発明の応用範囲は非常に広い。
なお、計測対象物内の非線形効果を積極的に観測する場合と、本発明による非線形処理を積極的に施す場合とにおいて、両者を切り替えて使用したり、両者を同時に使用したり、積極的な演算を通じて、計測対象物内の非線形効果を解明することが行われることもある。
次に、上記のイメージング装置の構成を用いて、本発明を超音波エコー信号に適用した一実施形態について説明する。超音波伝搬過程における高調波の生成は、乗算又は冪乗によって表される。特に、和音や差音は、伝搬する方向又は周波数が異なる波同士の乗算で表され(非特許文献6を参照)、高調波は、一般的に同一周波数の波の冪乗で表される(非特許文献4を参照)。物理現象として、波の強度が大きいときに生じ易い。また、波の歪は、高強度成分に関して伝搬と共に大きくなる効果があるが、伝搬の間に、基本波に比べて減衰の影響を受け易い。一方で、強度がさほど強くない場合には、波の干渉として、重ね合わせ(和又は差)のみが強く観測され、これを応用したものに、本願発明者の開発した横方向変調法がある(非特許文献9及び10等を参照)。
図6は、横方向変調法に用いる2つの偏向ビームを2次元空間において示す図である。図6において、横軸は横方向位置yを示しており、縦軸は深さ方向位置xを示している。ここでは、代表的な例として、任意の1方向(図中における角度θの方向)にビームフォーミングした場合と、任意の1方向を軸(X軸)として横方向変調を行った場合との2つの場合について、受信ビームフォーミング後の非線形演算の効果を確認する。なお、この計算は、容易に3次元空間に拡張でき、3次元空間においても同様の効果が得られることを確認できる。以下において、「λ」は、超音波の重心周波数に対応する波長である。また、深さ方向における距離x及び横方向における距離yは、原点から送信された超音波がある点において反射されて原点に戻るまでの時間をtとして、時間t/2において超音波が伝搬する距離を表している。
<0>横方向変調:角度θ1及びθ2方向の2つのビーム又は波(平面波等)の重ね合わせ(同時送受信又は各々の送受信の重ね合わせ)
2つのRFエコー信号の重ね合わせ(加算、即ち、和)は、次式によって表される。
A(x,y)cos[2π(2/λ)(xcosθ1+ysinθ1)]
+A’(x,y)cos[2π(2/λ)(xcosθ2+ysinθ2)] ・・・(0’)
ここで、反射又は散乱が等しく、A(x,y)=A’(x,y)と仮定すると、2波の伝搬方向の中央の方向のX軸、及び、それと直交するY軸から成る座標(X,Y)において、2つのRFエコー信号の重ね合わせは、次式によって表される。
A(x,y)cos{2π(2/λ)cos[(1/2)(θ2-θ1)]X}
×cos{2π(2/λ)sin[(1/2)(θ2-θ1)]Y} ・・・(0)
このように、(X,Y)座標系において、横方向変調が実現される。2波は異なる周波数でもよい。例えば、以下の<2>や<3>において、これに非線形処理が施される。なお、3次元空間において、横方向変調する場合は、変調する方向が2方向あり、従って、少なくとも3本の交差ビームを生成する必要がある(非特許文献9及び10を参照)。
<1>θ方向の1ビーム又は1波の冪乗計算
RFエコー信号は、次式によって表される。
A(x,y)cos[2π(2/λ)(xcosθ+ysinθ)]
この場合に、例えば、その二乗は、次式によって表される。
(1/2)A2(x,y)×{1+cos[2π(2・2/λ)(xcosθ+ysinθ)]} ・・・(1)
このように、第2次高調波成分が直流成分と同時に生成され、ベースバンデッド信号も同時に得られる(包絡線信号も直接的に得られる)。計算された二乗エコー信号は、帯域内の異なる周波数同士の積の効果により、基本波のスペクトルよりも帯域幅が広くなり、パルス長とビーム幅が短くなって空間分解能が高い。
さらに分かり易い例として、例えば、深さ方向xの位置におけるRFエコー信号が周波数f1とf2を有するとき、二乗の演算により、二乗エコー信号は、次式で表される。
eI(x;f1,f2)2 =eII(x;0,2f1,2f2,f1+f2,f1-f2)
このように、二乗エコー信号は、直流(周波数0)と、周波数2f1、2f2、f1+f2、f1-f2の信号成分を有することになる。
即ち、冪乗演算により生成されるそれらの信号は、波動が複数の異なる周波数の信号成分を有する場合には非線形演算を施さない場合に受信される波動に比べて其の複数の異なる周波数信号成分を有する方向に関して広帯域化されたものであり、高調波は、非線形演算を施さない場合に受信される波動に比べて、高周波化、又は、高空間分解能化、又は、低サイドローブ化、又は、高コントラスト化の少なくとも1の効果を得た信号であり、直流を含む帯域に生成された信号(ベースバンデッド信号)は高調波を略直交検波した信号であり、非線形演算を通じて得られるこれらの信号の少なくとも1つに基づいて、波動を画像化することができる。
さらに高次の冪乗の計算を行うと、n乗によって基本波のn倍の高周波数の信号成分が得られ、また、空間分解能がさらに高くなる。ベースバンデッド信号は、厳密には、その第2次高調波を直交検波したもの(通常のベースバンド信号)とは異なり、その計算結果は純粋に直流を含むが、その処理の有無に関わらず元のエコー画像に比べて高分解能な画像が簡単に得られる。なお、非線形演算により生じる直流成分は、同時に生成される高周波、低周波、高調波等の強度から求まり、ベースバンデッド信号に含まれるその直流成分は基本的には除く。時に、計算を簡略化して、ベースバンデッド信号の直流を全て除くこともある。
倍角又は分角の定理により、高調波信号や低周波信号は様々な形(正弦波や余弦波の四則演算)で表され、必要なときはデジタル・ヒルベルト(Hilbert)変換(非特許文献9を参照)を通じて計算できる。実測高調波も使用することができる。これらは、任意強度の波に対して、非線形信号を各位置で計算により求めたものであり、伝搬過程において物理的に蓄積されて減衰の影響を受ける非線形成分とは異なり、新しい高調波又は低周波イメージングを実現するものでる。
<2>横方向変調エコー信号の冪乗計算
例えば、式(0)の二乗は、次式によって表される。
A(x,y)2×cos2{2π(2/λ)cos[(1/2)(θ2-θ1)]X}
×cos2{2π(2/λ)sin[(1/2)(θ2-θ1)]Y}
=A(x,y)2×[1+cos{2π(2・2/λ)cos[(1/2)(θ2-θ1)]X}
+cos{2π(2・2/λ)sin[(1/2)(θ2-θ1)]Y}
+cos{2π(2・2/λ)cos[(1/2)(θ2-θ1)]X}
×cos{2π(2・2/λ)sin[(1/2)(θ2-θ1)]Y}] ・・・(2)
このように、直流(上記のベースバンデッド信号)と、異なる一方向には検波された第2次高調波の2つの信号と、第2次高調波の横方向変調信号とが得られる。<1>と同様に、高分解能化も行われる。ベースバンデッド信号や他の高次高調波信号も、<1>と同様に計算できる。
分かり易い例として、位置(x,y)における交差エコー信号が、e1((x,y);(f0,f1))、及び、e2((x,y);(f0,f2))と表され、y方向に対称であるとき、重ね合わせ信号の二乗信号は、次式によって表される。
[e1((x,y);(f0,f1))+e2((x,y);(f0,f2))]2
=e1((x,y);(f0,f1))2+2 e1((x,y);(f0,f1))e2((x,y);(f0,f2))+e2((x,y);(f0,f2))2
=e1’((x,y);(0,0),(2f0,2f1))+e12’((x,y);(2f0,0),(0,2f1),(0,2f2))
+e2’((x,y);(0,0),(2f0,2f2))
このように、重ね合わせ信号の二乗信号は、周波数(0,0)、(2f0,2f1)、(2f0,2f2)、(2f0,0)、(0,2f1)、(0,2f2)の信号成分を有することを理解することができる。
即ち、冪乗演算により生成されるそれらの信号は、線形の重ね合わせされた各々の信号(交差した波動に対応する信号)の高調波信号とベースバンデッド信号(少なくとも1方向の直流を含む帯域の信号)であり、波動が複数の異なる周波数の信号成分を有する場合には非線形演算を施さない場合に受信される波動に比べて其の複数の異なる周波数信号成分を有する方向に関して広帯域化されたものであり、高調波は、非線形演算を施さない場合に受信される対応する波動に比べて、高周波化、又は、高空間分解能化、又は、低サイドローブ化、又は、高コントラスト化の少なくとも1の効果を得た信号であり、ベースバンデッド信号は高調波を各方向又は複数方向に直交検波又は略直交検波した信号であり、それらの信号の少なくとも1つに基づいて、波動を画像化することができる。交差する波動やビームが異なる周波数を有する場合や座標軸に対して対称でない場合に同処理が施されると、多次元空間において、和音や差音が得られるが、同様に、それらはイメージングや計測に用いられる。他のパラメータが異なる状況においてもそれらは作用する。
3次元空間においては、横方向変調は、上記の通り、少なくとも3本の交差ビームを生成する必要があるが、この場合、得られるベースバンデッド信号として、各ビームの高調波を同様にほぼ直交検波した信号(直流を含む近傍の信号)の他、任意の1方向のみ又は任意の2方向に直交検波された信号が得られる。即ち、対称となる軸に対し、対称な方向の周波数の極性が逆であるがため、その和が零になる。全ての波動やビームが座標軸に対して対称に生成されることもあるが、その限りではない。また、周波数や他のパラメータが異なることもある。
<3>横方向変調エコー信号の2波の乗算
例えば、(0’)式内の2波は分離して扱えるので、その積を考えるに当たり、分かり易い式を示すために、伝搬方向が、x軸に対して対称な2方向とすると、θ1=-θ2であり、2つのRFエコー信号の乗算(積)は、次式によって表される。
A(x,y)cos[2π(2/λ)(xcosθ1+ysinθ1)]
×A’(x,y)cos[2π(2/λ)(xcosθ1-ysinθ1)]
=A(x,y) A’(x,y)×{cos[2π(2・2/λ)cosθ1]x
+cos[2π(2・2/λ)sinθ1]y} ・・・・(3)
これにより、異なる一方向には検波された第2次高調波の2つの信号が得られる。これらは、式(2)においても得られた信号成分である。
分かり易い例として、位置(x,y)における交差エコー信号が、e1((x,y);(f0,f1))、及び、e2((x,y);(f0,f2))と表され、y方向に対称であるとき、信号の乗算は、次式によって表される。
e1((x,y);(f0,f1))×e2((x,y);(f0,f2))
=e12’((x,y);(2f0,0),(0,2f1),(0,2f2))
このように、信号の乗算は、周波数(2f0,0)、(0,2f1)、(0, 2f2)の信号成分を有することを理解することができる。
即ち、乗算演算により生成される信号は、線形の重ね合わせされた各々の信号(交差した波動に対応する信号)に対してベースバンデッド信号(少なくとも1方向の直流を含む帯域の信号)であり、波動が複数の異なる周波数の信号成分を有する場合には非線形演算を施さない場合に受信される波動に比べて其の複数の異なる周波数信号成分を有する方向に関して広帯域化されたものであり、ベースバンデッド信号は、非線形演算を施さない場合に受信される対応する波動に比べて、高周波化、又は、高空間分解能化、又は、低サイドローブ化、又は、高コントラスト化の少なくとも1の効果を得た高調波信号を各方向又は複数方向に直交検波した信号であり、それらの信号の少なくとも1つに基づいて、波動を画像化することができる。交差する波動やビームが異なる周波数を有する場合や座標軸に対して対称でない場合に同処理が施されると、多次元空間において、和音や差音が得られるが、同様に、それらはイメージングや計測に用いられる。他のパラメータが異なる状況においてもそれらは作用する。
3次元空間においては、横方向変調は、上記の通り、少なくとも3本の交差ビームを生成する必要があるが、この場合、得られるベースバンデッド信号として、任意の1方向のみ又は任意の2方向に直交検波された信号が得られる。即ち、対称となる軸に対し、対称な方向の周波数の極性が逆であるがため、その和が零になる。全ての波動やビームが座標軸に対して対称に生成されることもあるが、その限りではない。また、周波数や他のパラメータが異なることもある。
なお、上記の交差ビームの様に各ビームや波動の伝搬方向やステアリング角度が異なる場合の他、別のパラメータが異なり、例えば、周波数やキャリア周波数、パルス形状、ビーム形状、各方向に見た周波数やキャリア周波数、又は、帯域幅が異なる場合もある。これらのパラメータの内の少なくとも1つが異なるビーム又は波動においても、重ね合わさった状態、又は、分離された状態において、同非線形効果を得ることもでき、有効に使用されることがある。理論又は演算を通じ、線形効果のみならず、非線形効果により生成される波動やビームを設計し(伝搬方向等の波動やビームのパラメータ)、そして、制御できることを理解できる。
これらの非線形演算により生成される高調波信号や和音や差音、又は、倍音等は、上記の特徴を持って、エコーイメージングの画質を向上させる。通常のハーモニックイメージングにおいて生じる減衰の影響もない。本発明は、仮想的に各位置において非線形成分を生成する、物理的に生じた非線形信号を解釈するためにも有効である。また、本発明は、微弱で観測できない場合にも有効である。さらに、変位計測においては、高周波化は歓迎されるものであり、位相の回転が速くなるので、高精度計測が可能となると期待されるが、以下に示すファントム実験では、空間分解能は高くなるが、そのままで高空間分解能を計測すると、雑音が増加する傾向があった。
この様な場合には、正則化(例えば、非特許文献11を参照)が有効となる。例えば、<2>及び<3>において得られる異なる一方向には検波された第2次高調波の2つの信号は、通常の一方向変位計測法を用いて各方向の変位計測に使用することができる。異なる時相間に生じた変位または変位ベクトルを計測するべく、任意の1方向にのみキャリア周波数を持つ信号に対し、関心点の各々において、その時相間に生じた瞬時位相の変化を瞬時周波数、重心周波数、又は、公称周波数等で除して、その方向の変位を計測でき、さらには、異なる方向における計測に基づいて、変位ベクトルを合成できる。過去に、多次元自己相関法(非特許文献9を参照)に比べて計算量を要するものの、通常の1方向変位計測法を用いた変位ベクトル計測を実現するべく、横方向変調エコー信号のデジタル復調法を考案して報告した(解析信号の積と共役積を計算する:非特許文献10等を参照)。本発明によれば、各段に少ないメモリと計算量で横方向変調エコー信号を復調でき、しかも、得られる信号は高調波信号である。
以上においては、超音波イメージング又は超音波計測に本発明を適用した幾つかの例を提示した。本発明によって計算されて生成された信号成分の帯域が他の信号の帯域と重なる場合には、周波数領域では両者を分離することができない。その場合には、パルス・インバージョン法又は多次元項の分離を用いるが、本願発明者は、重畳した状態のスペクトルを扱ったり、分割して処理したりすることを過去に報告している(非特許文献10を参照)。また、元の信号よりも高い周波数の信号を生成する場合において、計算を行うのに先行して、予め、計算可能な帯域幅を広くしておく必要がある。そのために、スペクトルの零詰めは、近似を伴わずに有効であるが(非特許文献10を参照)、時空間において直接的に補間近似に基づいてサンプリング間隔を短くすることもある。
近年、非線形伝搬を低コストでシミュレーションすることが可能となった。従って、本発明の非線形計算やその様なシミュレーション技術を未ビームフォーミング信号(平面波等)や開口面合成用エコー信号に対して施して非線形信号を生成することも可能である。また、これらを基礎として、実測された非線形信号を逆問題的アプローチに基づいて解析(逆解析)し、組織診断に応用することも可能である。
例えば、超音波を対象とした場合において、生体の組織性状として、音速、体積弾性率、音響インピーダンス、反射、レーリー散乱、後方散乱、多重散乱、又は、減衰等を評価し、診断に応用されることもある。他の波動に関しても、関連する現象や物性値の逆解析が有効となる(光におけるミー散乱、放射線における散乱、又は、コンプトン散乱等)。
また、加熱や加温による治療においては、対象の受熱特性(例えば、強力超音波の音圧に対する特性や、造影剤の効果等)や温度上昇の特性を明らかにすることが必要とされ、一般的な理解が求められる場合や現場で理解することが必要になることがあるが、その様な場合においても非線形計算を含む計算が有効になる。また、治療において、本発明による非線形効果のイメージングに基づいて、その効果を評価して応用することは有用である。その他としては、物理的に非線形効果を受けた受信信号や、分離されたベースバンデッド信号や複数の高調波に、本発明を用いて、エコーイメージングや組織変位計測を行うことも可能である。
本発明は、超音波の他にも、電磁波、光、放射線、力学的な振動、超音波以外の音波、及び、熱波等の任意波動のコヒーレント信号に対して乗算や冪乗等の非線形演算を施すことにより、信号の高周波化、広帯域化、又は、高コントラスト化を行うイメージング装置に関するものである。本発明によれば、高調波信号を増強したり、模擬したり、新たに生成することができる。さらに、高調波信号を仮想的に実現することもできる。
また、通常の検波処理に比べて少ない計算量で、ベースバンド帯域信号と高調波信号の任意方向の検波信号とを同時に得ることもできる。結果的に、例えば、高周波化及び広帯域化、高コントラスト化、又は、サイドローブの抑圧を達成することができ、高SN比の非線形イメージングが可能となる。また、通常の1方向の変位計測法を用いて、少ない計算量で変位ベクトルを容易に計測できる様になる。和音や差音、倍音等を生成するという観点においては、波動やビームの周波数やキャリア周波数、ステアリング方向、又は、伝搬方向等が異なる場合を含めて、高周波信号や低周波信号が得られるわけであり、これらがイメージングや計測に有効に使用されることもある。理論又は演算を通じ、線形効果のみならず、非線形効果により生成される波動やビームを設計し(伝搬方向等の波動やビームのパラメータ)、そして、それらを制御することもできる。
一方、画像計測の分野では、コヒーレント信号に対して各種の検波(単に波形の絶対値を取るもの等を含む)を施すことによってインコヒーレントにした信号(結果表示は画像)を用いて、動きの観測が行われることもよく知られている。相互相関処理、オプティカルフロー、又は、SAD(Sum and Difference)法に準ずる方法等が使用されることがある。また、インコヒーレント信号に本発明を適用しても、広帯域化(高分解能化)することもできる。本発明により得られる上記の高分解能な検波信号も使用することができる。広帯域化を通じてデータが高密度になった状況はそれらの処理に適しており、動きの計測精度も向上する。なお、上記の方法は、コヒーレント信号に適用させることも可能であり、同広帯域化は、精度を向上させるために有効である。即ち、本発明は、任意のコヒーレント信号及びインコヒーレント信号に適用することが可能である。
その他としては、本発明によれば、波動(レーザー、超音波、又は、焦点型強力超音波等)を用いて行われる任意対象の加温、加熱、冷却、冷凍、溶接、修復、医療における癌病変等の加熱、冷凍治療、又は、任意対象(眼鏡等)の洗浄等において、それらの効果を、非線形現象を通じて増強すること、高分解能にすること、また、その効果の予測(例えば、強力超音波を用いた加熱時のべき乗効果や、交差ビームを用いて効果を増強させる場合の加算だけでなく乗算の効果等)を通じてその効果を向上させることが可能となる。
強力超音波を用いた加熱治療等においては、組織の非線形効果により高調波を生成し、高周波であるがゆえ、その熱エネルギーとしての吸収効果が強いので、組織における発熱を簡単に理解し、予測することも可能である。同観点において、高周波信号を送波したり、広帯域信号を送波したり、高調波を送波したり、重畳ビームを生成したり、又は、交差ビームを生成したりすることは治療に有効であり、やはり、その理解と予測が容易に可能である。具体的には、音場をシミュレーションしたり、又は、受信信号を得ることのできるシステムにおいては自己相関関数を評価することを基礎にして音圧形状や点拡がり関数を推定することができ、直接的に高調波信号に関して評価することもできれば、基本波信号に対して非線形演算を施すことも有効である。他の波動に関しても同様である。
また、本発明は、物理的に非線形効果が得られない物理的条件下(例えば、計測対象に対して強度を高くできない場合や高周波ゆえに高い強度が得られない場合等)において非線形効果を得ることにも有効である。逆に、例えば、超音波エコーイメージング、変位計測、又は、治療の際に、マイクロバブル等の造影剤を使用して非線形効果を増強した条件下で本発明を実施することもできる。組織に染み渡った状態で組織を対象とすることもあるが、血管や心腔内の血液を対象とした計測やイメージングにも適している。即ち、本発明は、非線形効果を増強することもできるし、模擬したり、新たに生成することができる。さらに、本発明は、非線形効果を仮想的に実現することもできる。上記に記載した如く、非線形効果を評価することも可能である。造影剤は、加熱治療の効果を増強するために使用されることもある。他の波動に関しても同様である。
また、単一の信号源では実現できない高周波の信号を生成する場合には、より高分解能なイメージングや高精度なドプラ計測が可能となる。通常、減衰の影響は高周波成分に強く、例えば、減衰の影響を受けやすい顕微鏡では、高い周波数で極力深部まで観測できると良い。例えば、100MHzの超音波トランスデューサを複数台使用すると、物理的にその台数倍の高い超音波を生成でき、通常のトランスデューサでは生成することのできない高周波数を実現できる。また、単純には高周波数の信号(和音)を生成できる。本発明によれば、そのような高周波数を演算によっても実現することができる。従って、本発明によれば、物理的に実現できない高周波な波動や信号(単一の波動又は複数の波動の重ね合わせよりも優れた特徴を有する波動)も生成することができる。同様にして、低周波数のイメージングや低周波数の信号(例えば、差音)を用いた計測を実現することもできる。また、単一の信号源では物理的に実現できない低周波数の信号を生成することも可能である。これらの信号を理論的に又は演算を基礎として実現し、生成される波動を制御することもできる。
以下においては、本発明の効果を立証するために、実験データ、シミュレーション結果、及び、写真等の資料について説明する。これらは、超音波シミュレーションや寒天ファントム実験を通じ、超音波エコーイメージングや計測イメージングを行って本発明の有効性を実証するものである。本発明は、超音波エコー法以外の任意の信号(身近なものでレーザー、光波、OCT、電気、磁場信号、X線等の放射線、及び、熱波等)や異なる信号間にも応用できるものである。これは、生のコヒーレント信号又は信号処理後のインコヒーレント信号において応用される。
非特許文献10に開示されている寒天ファントムの開口面合成用エコーデータ(リニアアレイ型探触子、7.5MHz)に対し、正面方向のビームフォーミングと、横方向に3.5MHzの横方向変調を行った際のそれぞれのエコー信号を用いて、上記<1>~<3>の処理を行った。
図7は、本発明の一実施形態によるエコー信号のスペクトルの変化を示す図である。図7において、横軸は横方向周波数[MHz]を示しており、縦軸は深さ方向周波数[MHz]を示している。図7において、(a1)及び(a2)は、ステアリング無しの場合において、オリジナルのエコー信号のスペクトル、及び、エコー信号の二乗のスペクトルをそれぞれ示している。(b1)、(b2)、及び、(b3)は、横方向変調時において、オリジナルのエコー信号のスペクトル、1方向ステアリングエコー信号の二乗のスペクトル、及び、横方向変調エコー信号の二乗のスペクトルをそれぞれ示している。(c)は、交差ステアリングビームエコー信号の積のスペクトルを示している。図7から、上記の理論で導出した各信号のスペクトルを確認することができる。いずれのエコー信号においても、二乗又は乗算の結果、第2次高調波のスペクトルが生成され、その帯域幅は元のスペクトルよりも広くなっている。
図8A~図8Cは、本発明の一実施形態によるエコー信号の自己相関関数の変化を示す図である。ここで、横軸は横方向位置[mm]を示しており、縦軸は正規化された自己相関関数を示している。図8Aは、ステアリング無しの場合において、オリジナルのエコー信号の自己相関関数とエコー信号の二乗による第2次高調波の自己相関関数との比較を示している。図8Bは、横方向変調時において、オリジナルの横方向変調エコー信号の自己相関関数と横方向変調エコー信号の二乗による第2次高調波の自己相関関数との比較を示している。図8Cは、交差ビームエコー信号の積、及び、横方向変調エコー信号の二乗について、横方向成分及び深さ方向成分の自己相関関数を示している。自己相関関数に基づいて、音圧や点拡がり関数の横方向のプロファイルを評価することができる(関心領域の中央の深さ19.1mmの場合)。ここでは省略するが、この2次元エコー信号に対して、2次元の自己相関関数を求めると、音圧や点拡がり関数の2次元分布を推定でき、3次元エコーに対しては3次元自己相関関数を求めると良い。
図9~図11は、本発明の一実施形態によるBモードエコー画像の変化を示す図である。これらのエコー画像の深さは10.0mm~28.1mm、であり、横幅は20.7mmである。寒天ファントムにおいては、ずり弾性率が周囲に比べて約3.29倍高い円柱状(直径10mm)のつめものが、深さ19mmを中心として存在する。
図9~図11において、(a1)、(a2)、及び、(a3)は、ステアリング無しの場合において、オリジナルのエコー信号に基づくエコー画像、ベースバンデッド信号に基づくエコー画像、及び、エコー信号の二乗による第2次高調波に基づくエコー画像をそれぞれ示している。左右に2つの画像がある場合に、左側の画像は包絡線検波によるものであり、右側の画像は二乗検波によるものである。
(b1)、(b2)、(b3)、(b4)、及び、(b5)は、横方向変調時において、オリジナルの横方向変調エコー信号に基づくエコー画像、ベースバンデッド信号に基づくエコー画像、横方向変調エコー信号の二乗による第2次高調波に基づくエコー画像、横方向変調エコー信号の二乗による第2次高調波の横方向成分に基づくエコー画像、及び、横方向変調エコー信号の二乗による第2次高調波の深さ方向成分に基づくエコー画像をそれぞれ示している。
また、(c1)及び(c2)は、交差ビームエコー信号の積による第2次高調波について、横方向成分に基づくエコー画像、及び、深さ方向成分に基づくエコー画像をそれぞれ示している。複数波が存在する場合については、コヒーレント信号の重ね合わせの検波も過去に報告しているが、ここでは、各々の検波信号の重ね合わせの結果が示されている。
図7に示すスペクトルの広帯域化に対応して、図8A~図8C及び図9~図11から、空間分解能が高くなったことを確認することができる(ここでは、ベースバンデッドされたデータの直流を切っていない)。図8A~図8Cからは、サイドローブが低くなったことを確認できる。これらに対応して、図9~図11からは、コントラストが大きくなる効果も確認できる(強散乱体等に注目)。元のエコー信号において減衰の補正をしていないので、処理後の信号から得られた画像は、未補正によるコントラストが増大した結果として、元信号の画像に比べて、深い位置の信号強度が浅い位置のそれに比べて極度に低い。
元信号を用いたイメージングにおいては、いわゆる波動の伝搬過程における減衰の補正はコヒーレント信号又は検波後のインコヒーレント信号に対して施されるが、本装置においては、予め元のコヒーレント信号に補正を施した上でコヒーレント信号に非線形処理が施されたり、又は、非線形処理後にコヒーレント信号又はインコヒーレント信号が補正される。補正処理そのものは、通常の補正と同様に、受信ビームフォーミングの前又は後、又は、画像化後において、主に信号強度を基礎として実施されることがある。ランバート(Lambert)の法則に従って、補正が施されることがある。
その場合に、平均的な減衰係数が使用されることがあるが、波動又はビームのパス上の各位置における減衰係数が演算部30において信号処理又は逆解析的に算出され、補正が高精度に実施されることもある。すなわち、アダプティブに、又は、自動的に行われることがある。若しくは、操作者が、生成された画像を見ながら、制御部33を介して、各深さにおいて所定の範囲で強度の調整を行うこともある。計測対象により、選択できるパターンが用意されている場合もある。
受信部22、フィルタ/ゲイン調整部23若しくは25内の増幅器や減衰器、受信ビームフォーマ29内の増幅器や減衰器若しくはデジタル処理、又は、演算部30におけるアナログ処理若しくはデジタル処理により、ゲイン調整は行われる。送信機21において、送信されるビームや波動の強度が調整されることもある。また、作用デバイス12として、増幅器や減衰器が使用され、波動そのものの強度が調整されることもある。造影剤1aは、それらの決定に大きく影響を与えるので注意を要する。
上記の実験における横方向変調エコー信号の二乗計算(<2>)において、異なる一方向に検波された第2次高調波の2つの信号の内の横方向に検波されたスペクトルと第2次高調波のそれが重なったため、本願発明者が目見当でスペクトルを分割した。その結果と、横方向変調エコー信号の2波の乗算(<3>)の結果とを、自己相関関数(図8Cを参照)において比較したが、若干、高調波周波数が低くなったこと以外に違いは無かった。
これらの実験に加えて、多次元自己相関法を用いて、変位ベクトル計測、歪テンソル計測、及び、ずり弾性率再構成を行った。その内の結果として、ここでは、<3>において異なる一方向のみに検波された第2次高調波信号の2つを用いて各方向の変位計測を行った結果を図12に示す。
図12は、本発明の一実施形態によって寒天ファントムにおいて計測された変位ベクトル、歪テンソル、及び、相対的ずり弾性率の画像を示す図である。図12の一部においては、つめものの中央において評価された平均値とばらつき(括弧内)も示されている。同横方向変調エコーデータにデジタル復調を施した結果に比べて雑音が増加する傾向があったが(横方向(y)における歪のばらつきが、3.08×10-3から9.52×10-3に増加)、空間分解能は2倍に高くなり、ずり弾性率再構成に関して正則化を施した結果では、精度が向上した(3.37から3.23に向上)。
また、凹型開口HIFUアプリケータ(シミュレーション、周波数5MHz、開口直径12mm、焦点深さ30mm)を用いた場合(単一開口と二開口を用いた場合)の点拡がり関数の冪乗や乗算を計算した。上記の通り、この種の計算は、加熱効果の考察に効果的である。実験データを収集することにより、音圧(点拡がり関数)と高調波の音圧、受熱の関係等を定式化することが可能であり、アプリケータや放射音圧(超音波パラメータ)の設計等を通じて加熱治療の高効率化に役立てることができる。他の波動を用いた場合も同様である。
図13は、凹型HIFUアプリケータを用いた際の本発明の一実施形態による音圧変化を示す図である。図13において、(a1)及び(a2)は、1つの開口の使用時において、オリジナルの信号による音圧の画像、及び、二乗信号の音圧の画像を示している。(b1)及び(b2)は、2つの開口の使用時(交差角度は深さ方向に対して±5°)において、オリジナルの信号による音圧の画像、及び、乗算信号の音圧の画像をそれぞれ示している。画像は包絡線検波によるものであり、画像サイズは3.8×12.8mm2である。二乗と乗算の各々により得られた第2次高調波成分において、その音圧が所望の領域に集中してコントラストが高くなっていることを確認できる。
以上においては、本発明の実施形態に係るイメージング装置に関し、主として、電磁波、音を含む振動、熱の波動、又は、該当する信号の非線形演算装置について述べたが、異なる種類の物理エネルギー間の非線形効果を増強したり、非線形効果を模擬したり、又は、仮想的に実現することも可能である。その場合には、使用される波動に関するデバイスを同時に使用して波動を受信したり、又は、同時相であれば異なる時刻において受信された信号を基礎として、本発明を実施することもできる。即ち、本発明は、複数の波動が同時に発生している場合と、波動が単独に発生している場合とを扱うことができる。
また、電磁波、振動、又は、熱において、周波数が異なると各計測対象物(媒体)に依って支配的な挙動は異なり、名称を異とするのは然りであるが(例えば、電磁波に関しては、マイクロ波、テラヘルツ波、X線等の放射線等、振動に関しては、例えば、ヒト軟組織を対象とした場合に、メガHz帯域においてずり波は減衰の影響により波として伝わらず超音波が支配的であるが、100Hz等の低周波においては非圧縮性の特徴が強くずり波が支配的である)、本発明は、その様な挙動を異とするもの同士の非線形効果を増強したり、非線形効果を模擬したり、又は、仮想的に実現することも可能である。
その場合には、使用される波動に関するデバイスを同時に使用して波動を受信したり、又は、同時相であれば異なる時刻において受信された信号を基礎として、本発明を実施することもできる。無論、各波の伝搬速度や減衰、散乱、反射等の現象が分散特性を有し、受信信号のSN比を考慮して、適切に使用されなければいけないという限界がある。しかしながら、物理的に生成したり、又は、捉えることのできない高周波信号や低周波信号を生成できることを含め、本発明の応用範囲は非常に広い。
また、非線形演算や計測対象内の非線形効果を画像化したり、又は、他計測に応用することを記載し、積極的に高調波を計測対象に伝搬させることがあることも記載したが、元の基本波をそれらにおいて積極的に併用することもある。また、優決定(Over-determinedシステム)を生成することもできる。基本波も高調波と同様に処理される。
さらに、非線形演算を通じて得られる複数の信号の内の少なくとも1つに任意検波処理を施したり、又は、基本波を含むことのある複数の信号に任意検波処理を施した上で重ね合わせたり、又は、基本波を含むことのある複数の信号をそのままに重ね合わせたものに任意検波処理を施し、画像化又は変位等のその他の計測が行われることがある。上記の如く、複数のビームや波動を生成した場合やスペクトルの周波数分割を通じて得られる信号も処理対象に含まれる。
変位計測は、例えば、上記の通りに応用できる。レーダー、ソナー、その他、環境計測等など、応用範囲は計り知れない。変位の他、例えば、温度を測ることもある。直接に温度センサを用いて温度センシングを行うこともあれば、波動伝搬特性の温度依存性を検出して、例えば、超音波を用いたときには、温度変化による音速の変化と体積変化を反映した熱歪計測を目的とした信号処理に基づいて温度分布が計測されることもある。核磁気共鳴周波数のケミカルシフトを信号処理に基づいて検出することもある。熱波が観測され、その非線形をイメージングしたり、加熱治療の高効率化に応用することも可能である。
なお、計測対象物内の非線形効果を積極的に観測する場合と、本発明による非線形処理を積極的に施した場合において、両者を切り替えて使用したり、両者を同時に使用したり、積極的な演算を通じて、計測対象物内の非線形効果を解明することが行われることもある。即ち、信号源の非線形性や造影剤、使用するアナログ又はデジタルの非線形演算を駆使することにより、計測対象内の非線形性効果を高精度に計測し、画像化することができる。
上記のイメージングや計測は、適切なビームフォーミングを行うことを基礎としており、適切な検波方法や組織変位計測法等も重要である。本願発明者は、過去に、特に多次元信号の検波方法として、直交検波や包絡線検波の他に二乗検波等、ビームフォーミング法として、交差ビームを用いた横方向変調法(非特許文献9及び10を参照)、スペクトル周波数分割法(非特許文献10を参照)、スペクトルのフィルタリングに依る波動又はビーム形状の調整、多くの交差ビームを使用する方法、及び、優決定(Over-determined)システム法等、また、変位ベクトル計測法として、多次元自己相関法、多次元ドプラ法、多次元クロススペクトラム位相勾配法、及び、位相マッチング法等(非特許文献9及び10を参照)を開発しており、その他、変位や歪計測に基づいて(粘)ずり弾性率分布や熱物性分布を再構成イメージングすることもできる。元の波動や信号のみならず、複数の波動や信号の重ね合わせ、又は、非線形効果により生成された波動やビーム(疑似のものを含むことがある)に対し、スペクトル周波数分割においては疑似の波動やビームを生成することができ、スペクトルのフィルタリングにおいては波動やビームの形状を調整することができる。
基本波を含むことのある複数の信号を重ね合わせて得られる信号、又は、基本波を含むことのある複数の信号の内の少なくとも1つを周波数領域においてスペクトル分割やフィルタリングして得られる信号(非特許文献10を参照)、又は、これらの処理を施していない元の信号、又は、これらを併用して、優決定(Over-determined)システムを実現し、上記の処理により、画像化すしたり、又は、変位等のその他の計測が行われることもある。
以上述べたように、本発明は、任意波動の透過波、反射波、又は、散乱波をセンサによって検出して得られるコヒーレント信号に対し、波動伝搬中における高強度に対する非線形反応や波が重ね合わさる際の乗算や冪乗等の非線形効果(高調波や和音、差音等の生成)を、例えば、アナログ演算又は計算機を用いたデジタル演算を施すことにより得ることにより、元の信号を用いたイメージングに比べて、高周波且つ広帯域、高コントラスト且つ高空間分解能なイメージングを実現する。高周波化ではなく低周波化されたイメージングを行うこともできる。また、同効果の下で、元の信号を用いたドプラ計測に比べ、高空間分解能且つ高精度に、変位、速度、加速度、歪、又は、歪率の計測を実現するものである。
その波の重ね合わせとは、物理的に、ビームフォーミング中や、ビームフォーミングされた波、ビームフォーミングされていない波等の間において実現されるものを意味する。波の強度が弱いときは線形則で成立する重ね合わせの理が主として観測されるが、強度が強いときは重ね合わせの他に乗算や冪乗等の非線形の影響を受けた信号(即ち、高調波や和音、差音)が観測され、本発明は、この後者の現象に着目するものである。本発明は、これらの波成分や重ね合わされた波の全てに対して、それらの強度に寄らずに使用できることも特徴とする。無論、基本波と人工的に放射された、又は、伝搬中に生成された高調波成分を含む波にも適用される。伝搬中に生成される高調波の例として、例えば、超音波ハーモニック信号等が挙げられる。
これに対し、本発明は、例えば、ビームフォーミング(アポダイゼーション、遅延処理、若しくは、加算処理からなる物理的なもの、又は、計算によるもの)により生成されたビームや、ビームフォーミングが施されていない波そのもの(平面波や開口面合成用の受信信号群等を含む)、透過波、反射波、又は、散乱波等の任意波動に関し、高強度による非線形効果と、同一方向又は異なる方向に伝搬する複数の波動(同一物理量の同一の波で方向のみ異なる、同一物理量の異なるパラメータを有する波、異なる種類の物理量の波)が重なる場合等により生じる乗算や冪乗等の非線形効果を高精度に計測したり、又は、模擬するべく、例えば、信号をトランスデューサにより検出した後に積極的にアナログ演算器やデジタル演算器を用いて信号にそれらの演算を施すものであり、広帯域化された高調波や和音、差音を得ることができる。また、複数の検波信号を同時に得ることができる。その他、物理作用を受けて生成されたベースバンデッド信号の応用も本発明に含まれる(受信信号からパルス・インバージョン法やフィルタリング法等により求められた高調波を除去したり、また、上記の演算や計算により推定された信号を応用する等)。
本願発明者は、過去に、線形則に基づいて交差波(平面波等)や交差ビームを用いた横方向変調法を開示しているが(深さ方向と横方向にキャリア周波数を有する)、本発明によれば、この横方向変調においても冪乗の効果を得ることができ、また、交差波間の乗算効果を得ることもできる。また、通常は、波の強度を強くすることにより、べき乗効果や積の効果を得ることができるが、本発明によれば、その強度に寄らずに、それらの非線形効果を得ることができる。
また、本発明によれば、通常の直交検波や包絡線検波の代わりに少ない計算量で容易に実施できる新しい検波処理によりベースバンデッド信号を得ることができて、エコーイメージングやドプラ計測において、その効果が得られる。但し、その検波信号は、通常にいうベースバンド信号とは異なり、直流を含むので、そのまま使用されるか、あるいは、アナログ処理又はデジタル処理によって直流を除いてから使用される。その他、物理作用を受けて得られるベースバンデッド信号の応用も、本発明に含まれる。なお、演算により生成されるベースバンド帯域の信号もベースバンデッド信号と称す。
例えば、医用超音波やソナーの分野では、生体内の超音波の伝搬過程における非線形現象(音圧が高い場合、体積弾性率が高く作用するため、音速が速く、波形が歪み、伝搬過程において蓄積される)により生じるハーモニック(高調波)エコーイメージングと称して臨床応用されているが、物理的に生成されるベースバンデッド信号を応用することは開示されていない。その他の非線形現象により物理的に生成されるベースバンデッド信号を応用することも開示されていない。なお、ベースバンド信号、ベースバンデッド信号、及び、包絡線検波又は二乗検波等のなされたインコヒーレント信号も、本発明の処理対象に含まれる。
特に、ドプラ計測に関して、本願発明者は、多次元信号を使用することにより、波の伝搬方向の変位を計測する通常のドプラ計測とは異なり、任意方向の変位ベクトルや速度ベクトル、加速度ベクトル、歪テンソル、又は、歪率テンソルを高精度に計測することを可能にした。本発明によれば、通常の検波とは異なり、多次元信号から任意の1方向に検波した信号(ベースバンデッド信号)を同時に求めることができ、通常の1方向の変位計測法を用いて、少ない計算量で短時間に容易にそれらの計測を行うことも可能である。この場合においても、同時に得られる高調波や上記のベースバンデッド信号を用いたエコーイメージングが可能である。その他、サイドローブの抑圧と、高コントラスト化も可能である。温度計測が行われることも上記の通りである。
基本は、異なる単一周波数の正弦、余弦信号間の乗算を行うと和音と差音を生じること、冪乗計算を施すと信号の周波数が冪乗数だけ倍の高さになること(倍角だけでなく分角も可能)と、複数の周波数成分を有する信号(歪波)においては高周波化されるだけでなく広帯域化されることにある。これに加え、いわゆるサイドローブが抑圧される効果も得られ、コントラストが増加する。これらの効果は、特に強度の強い波動の伝搬中の効果として観測されることが多いが、本発明では、強度に寄らず、任意信号に対してアナログ又はデジタル演算処理を施して非線形効果を増強や模擬したり、又は、新たに生成するものである。仮想的に実現することもできる。空間分解能を有する場合に限らず、連続波においても、同様に、高調波や検波信号を物理的に又は人工的に得ることができる。物理的に生成されるベースバンデッド信号を本発明の下で理解できると、その応用も工学的に有用となる。
その他、本発明は、波動(レーザー、超音波、又は、焦点型強力超音波等)を用いて行われる任意対象の加温、加熱、冷却、冷凍、溶接、修復、医療における癌病変等の加熱、冷凍治療、又は、任意対象(眼鏡など)の洗浄等において、それらの効果を、非線形現象を通じて増強することや、高分解能にすることや、また、その効果の予測(例えば、強力超音波を用いた加熱時のべき乗効果や、交差ビームを用いて効果を増強させる場合の加算による高空間分解能化だけでなく乗算の効果としての高周波化と高空間分解能化等)を通じて、その効果を向上させることが可能となる。これらにおいても、連続波が使用されることもあり、同効果が得られる。
本発明は、物理的に非線形効果の得られない物理的条件下(例えば、計測対象に対して強度を高くできない場合や高周波ゆえに高い強度が得られない場合等)において非線形効果を得ることにも有効であるが、逆に、例えば、超音波エコーイメージング、変位計測、温度計測、又は、治療の際にマイクロバブル等の造影剤を使用して非線形効果を増強した条件下で本発明を実施することも有効である。即ち、本発明は、非線形効果を増強することもできるが、模擬したり、新たに生成したり、仮想的に実現することもできる。また、本発明は、イメージングや変位計測、治療等において、純粋に高分解能化と高精度化、高効率化を目的に実施することもできる。
本発明によれば、ハーモニックイメージングと同様に、高周波化と広帯域化、高コントラスト化、又は、サイドローブを抑圧することができ、高SN比の非線形イメージングが可能となる。その他、メモリや計算を多くに必要とすることなく、アナログ検波又はデジタル検波を同時に行うことができる。
本発明の有効性は、シミュレーションや寒天ファントム実験を通じて、超音波エコーイメージングや計測イメージングを行って実証されている。本発明は、超音波エコー法以外の任意のコヒーレント信号(身近なものでは、光波、OCT、電気、磁場信号、X線等の放射線、及び、熱波等)や、異なる種類のコヒーレント信号間にも応用できるものである。
一方、画像計測の分野では、コヒーレント信号に対して各種の検波(物理現象又は通常の信号処理)を通じてインコヒーレント信号(結果表示は画像)にしたものを用いて動きの観測が行われることも良く知られている(相互相関処理やオプティカルフロー等々様々)。インコヒーレント信号に本法を用いると広帯域化(高分解能化)することもできる。本発明により得られる上記の高分解能な検波信号も使用できる。それらの動きの計測精度も向上する。即ち、本発明は、任意のコヒーレント又はインコヒーレント信号に適用される。
上記のコヒーレント信号やインコヒーレント信号を用いたイメージングや動き等計測は、上記の例等を含めて様々な分野で行われ、非常に長い歴史があるが、本発明による非線形効果を用いて、高周波又は低周波を含む広帯域な高分解能且つ高コントラストなイメージングを行うことや、高精度に変位等を計測することは、有効且つ有用である。多次元信号処理ならではの工学的効果のあることを含めて有効である。また、治療等の上記の他の応用において、非線形効果のイメージングに基づいてその効果を評価して応用することも有効且つ有用である。
イメージング装置において、乗算又は冪算を施して高調波成分とベースバンデッド信号(上記の新しい検波信号)を生成し、それらに基づいて画像信号を生成することは、有用であるが、乗算と冪算に限らずに高次の非線形処理を実施した場合においても同効果が得られる。コスト等の兼ね合いで、従来技術と選択的に採用されたり、又は、併用されることがある。
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、当該技術分野において通常の知識を有する者によって、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。