JP7012343B2 - 光照射による水溶液の膜分離方法 - Google Patents

光照射による水溶液の膜分離方法 Download PDF

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Description

本発明は、太陽光等を利用した膜分離によって浄化水を得る方法に関する。
今日の世界的な水不足問題の深刻さのため、膜透過によって原水(地下水、湖沼水、または海水等の特に処理されていない天然の水)や汚染水を処理・浄化する技術は、その重要性を増している。水に溶解している溶質の濃度を低下させること、特に塩化ナトリウム等のイオン成分の濃度を減少させること、すなわち海水を脱塩して淡水を製造する海水淡水化は、大量の淡水の確保という観点から極めて重要である。また、飲料以外の用途でも、溶解成分の濃度が極めて低い純水は、医療分野や洗浄液等の工業分野、またはボイラーへの利用等の様々な分野で利用されており、その効率的な製造方法が必要である。
膜透過による水処理の方法としては、逆浸透膜(RO膜)等の様々な技術が知られている。膜透過による水処理技術には、疎水性膜を用いた膜蒸留法がある。膜蒸留では、疎水性の多孔質膜は、撥水効果により液体としての水を透過しないが水蒸気を透過する。膜蒸留は、膜で隔てられた二つの水相間の温度の違い、つまり蒸気圧の差を利用して、高蒸気圧側から低蒸気圧側に、すなわち高温側から低温側に水蒸気を膜透過させる。そして、水が水蒸気となって膜を透過するため、膜蒸留を蒸留処理とみなすことができる。膜蒸留では、水中の塩分等の不揮発成分を除去することができる。
膜蒸留のエネルギー源・ドライビングフォースは水の温度差であり、膜の一方の側の水の加熱にはエネルギーが必要となる。通常は、ヒーター等により50~100℃程度に加熱するが、省エネルギーを考えた場合には廃熱等を利用することがある。膜蒸留は、加熱温度がさほど大きくなく、また膜分離が常圧で行えるため、逆浸透膜(RO膜)法で必須の特殊な膜を必要とせず、膜の劣化が少ない等の利点がある。一方、地球温暖化等の対策として、再生可能エネルギーを利用した水の加熱技術が最近、多く検討されている。特に、太陽光エネルギーを利用した水の加熱技術が最も活発であり、膜蒸留への応用が行われている。
太陽光パネルによる水の加温装置と膜蒸留装置の二つの装置を連結させたシステムなどがその代表例である(非特許文献1)。例えば、太陽光パネルで温めた温水をそのまま膜蒸留装置へと導入できるように、太陽光パネルと膜蒸留装置の水路を連結したシステムが考案されている(特許文献1、特許文献2、および非特許文献2)。太陽光の吸収性を高めるため、太陽光パネル部を黒色に着色し、太陽光パネル部と膜蒸留とを連絡させた例もある(特許文献3)。太陽光を熱に効率的に変換するため、光熱変換樹脂を用いて温水を作り、こうして得られた温水を膜蒸留装置へと流し込む技術もある(特許文献4)。
膜蒸留部の疎水性膜を中空糸状やシート状にして、そこに太陽光で温めた温水を送り込んで膜蒸留を行う例もある(特許文献5から特許文献8)。しかしながら、これらの例は、太陽光による水の加熱・加温装置と膜蒸留部を水流管等で連結しているものの、両装置が一体となったものではない。また、ナノポーラスのグラフェンシートを水中に浮かべ、このシートの上面に太陽光を照射すると、加熱されたシート上面から水蒸気が放出される現象が報告されている(非特許文献3)。このシートを水溶液に浮かべて膜蒸留を行うことも原理的には可能だが、膜材料が高価である。
光照射によって分子の形が変化する光異性化能を持った化合物を膜材料に修飾し、修飾後の膜上の水に光を照射して、水蒸気を膜透過させて水を浄化する技術が最近報告された(非特許文献4および特許文献9)。この技術では、膜上に塩化ナトリウム水溶液を載せれば脱塩できる。非特許文献4および特許文献9では、多孔質膜に修飾された化合物がアゾベンゼン等の光異性化性化合物である。そして、正逆両方向の光異性化反応を起こす複数の光を同時に照射することによって、正逆両方向の光異性化反応を多孔質膜上で起こし、その激しい分子運動によって液体の水を気化させて水蒸気とし、膜材料中の細孔を水蒸気が通り抜ける。
この光異性化性化合物を利用する方法では、疎水性以外の膜も用いられているものの、膜透過の基本的原理は、膜蒸留の原理に類似していると考えられる。しかし、水が透過する膜上で水の加熱・加温が行われ、加熱・加温に必要なエネルギーが光によって賄われている点は、他の従来技術と大きく異なる。一方、この方法において、膜に修飾する化合物は光異性化を起こす化合物に限定されている。光異性化を起こす照射光の波長が限定的であるため、太陽光のような幅広い波長の光を効率的に利用する点では課題がある。また、光を吸収する特性を持っているが光異性化反応を起こさない化合物は対象とされておらず、そのような化合物を用いることの言及もない。
光を吸収する特性を持っているが光異性化反応を起こさない化合物としては、通常の色素等が例示できるが、非特許文献4および特許文献9では対象とされていない。また、膜蒸留法により色素が除去されて汚染水を浄化する例(特許文献10)があるものの、色素化合物等を光吸収剤として利用し、色素化合物等による光吸収や水の加熱・加温と、疎水性膜を融合させた膜技術、膜蒸留技術の例はこれまでなかった。
一方、太陽光エネルギーを用いて水を蒸発させて、海水淡水化や汚染水処理を行う方法では、処理する水をプールのような設備に溜めておき、上方より太陽光を当てて水を蒸発させる方法がほとんどである。その代表的設備であるソーラースティル(Solar Still)(特許文献11から特許文献16)では、水を溜めたプールを太陽光に直接さらし、蒸発した水をプール上方に設置した透明なプレート等で凝縮させて捕捉・回収する。また、光異性化反応を起こす色素化合物を修飾した多孔性の陽極酸化アルミナ膜上の水に光を照射し、水を膜透過させて浄化する最近報告された技術(特許文献9および非特許文献4)では、水を水蒸気として膜透過させてプール下部で捕捉・回収する。
これらの方法では、処理する水をプール等の貯水部に導入するためのエネルギーが必須で、通常はポンプ等を用いて海水等を汲み上げることとなり、電気エネルギーが必要である。今後の世界規模での水浄化処理において、浄化過程そのものに使用するエネルギーとともに、処理前水や海水等を水の浄化装置に導入するためのエネルギーも、化石燃料を用いずに太陽光エネルギー等を用いることが望まれるだろう。
水の蒸発によって発生する負圧を利用して水を汲み上げる効果は、植物では「蒸散」と呼ばれている。水を通す導管の上部空間を減圧にすることで水を吸い上げる場合、水は概ね10m以上の高さに上がらないことが知られている。導管内の水の上部が真空になった場合、水を上昇させるのは大気圧であり、この圧力に相当する分の水が上昇するだけだからである。
一方、木などの植物では、葉から水を蒸発・蒸散させることによって生じる水の負圧を利用して、水を地面から数十メートル以上の高さまで汲み上げている。この効果(蒸散流)を人工的に作り出す研究も始められている。例えば、基板上に葉の部分と根の部分を作り、その間を細い管で繋げた合成樹を作り、水を展開する。その後、葉の部分に気流を当てることで水を蒸発させて、葉部分に負圧を生じさせて、導管中の水を根部分から葉部分に輸送している(非特許文献5)。しかしながら、この場合は太陽光を用いていない。また、太陽光パネルで水を加熱することによる熱や、水を供給するシステムも報告されているが(特許文献17)、加熱された水を蒸発させるために真空ポンプを用いており、完全に太陽光のみの使用ではない。
一方、水を蒸発させる装置とその水の流通・導入装置を一体化して、共に外部からエネルギーを加えずに、太陽光のエネルギーのみを利用した技術が報告されている(特許文献18、特許文献19、非特許文献6)。この方法では、筒状の水の導入管の上部に多孔質体を設置し、その内側に太陽光を吸収する黒色の木炭を充填する。導入管下部はプールに差し込んで水の採取を行う。また、上部の多孔質体の外側には蒸発した水を凝縮させて回収する装置がある。この装置に水を充填し太陽光が照射されると、水は蒸発し再凝縮することで蒸発水は回収され、また、水は導入管下部のプールより供給される。
この装置では、太陽光を照射している間は、水の蒸発と導入管を通じた水の供給について、太陽光以外のエネルギーは必要としていない。しかしながら、照射された太陽光エネルギーに対し、実際に蒸発した水の量はかなり少なく、エネルギー効率が良くない(非特許文献6)。太陽光を吸収して水を蒸発させる機能が十分ではないためだと考えられる。この装置では、黒色の木炭によって太陽光が吸収されることになるが、単に黒色であるだけでは太陽光エネルギーを効率良く使えるわけではない。このように、水の蒸発と再凝縮による浄化、および処理前水の浄化部への水の導入を太陽光等のエネルギーのみで行い、かつ効率良く水を浄化できる装置・システムは存在しなかった。
特開2016-82763号公報 特開2013-34927号公報 特開2013-66881号公報 特開2012-145319号公報 特開2012-130882号公報 特開2012-130874号公報 特開2011-167597号公報 特開平7-50939号公報 特開2015-186794号公報 特開平11-293276号公報 特開2013-193013号公報 特開2013-155993号公報 特開2012-245426号公報 特開2011-177600号公報 特開2010-194500号公報 特開平8-134963号公報 特開2004-156818号公報 特開2010-58042号公報 特開2001-129538号公報
M. Khayet, Desalination, 208, 89-101 (2013) A. M. Elzahaby, A.E. Kabeel, M.M. Bassuoni, A. R. A. Elbar, Energy Conversion and Management, 110, 397-406 (2016) Y. Ito, Y. Tanabe, J. Han, T. Fujita, K. Tanigaki, M. Chen, Advanced Materials., 27, 4302-4307 (2015) M. Fujiwara, T. Imura, ACS Nano, 9, 5705-5712 (2015) T. D. Wheeler, A. D. Stroock, Nature, 455, 208-212 (2008) 市川寿人、高見晋一、関平和、生物と気象、11、23-30 (2011)
本発明は、多孔質膜部材を用いた水の膜分離技術と、色素化合物等が光を吸収して熱エネルギーまたは振動エネルギーを放出する技術を融合し、多孔質膜部材と色素化合物等を含有する部位に太陽光を含む種々の光を照射して、水溶液を膜分離する技術、特に水の浄化や海水淡水化等の水処理・造水技術を提供することを主な目的とする。
本発明者は、光異性化能を持たないが紫外線、可視光、および赤外線の中から選ばれる少なくとも一つの光の吸収性がある光吸収性非光異性化性物質を膜部材に導入した分離膜に、この光吸収性非光異性化性物質が吸収する光を照射することで、この光吸収性非光異性化性物質によって光エネルギーが熱エネルギーまたは振動エネルギーに変換され、水の蒸気圧が上昇し、気化した水蒸気がこの膜部材中の細孔を透過することを見出した。また、この分離膜を用いて塩化ナトリウム等を含む水溶液を膜分離した場合、透過した水分に溶質がほとんど含まれないこと、つまり脱塩されることを見出した。
また、膜部材に適切な光吸収性非光異性化性物質を融合させることで、地表に届く太陽光の幅広い波長域を利用して、水透過、水浄化、脱塩、および造水ができることを見出した。また、本発明者は、ガラス等でできた管の上部に、光吸収性が高い色素や顔料等を設置し、この設置部を透明容器で覆い、さらに管内部に水を十分充填したシステムを構成した。そして、このシステムの色素等が存在する部位に光を照射することで、管上部の水を蒸発させ、上部を覆った透明容器の内壁面に凝縮した水を回収するとともに、管内部の水位を上昇させることに成功した。
本発明の分離膜は、一方の面が水溶液と接触した状態で接触部に光が照射されて、水溶液に由来する水蒸気を透過し、少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材と、多孔質膜部材の表面の一部に設けられ、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質とを有する。
本発明の他の分離膜は、少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材と、多孔質膜部材の表面の一部に設けられた分離部材とを有し、分離部材が水溶液と接触した状態で接触部に光が照射されて、水溶液に由来する水蒸気を透過する分離膜であって、分離部材が、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質を含有する。
本発明の分離装置は、水溶液が流通する流通管と、流通管の端部に設けられた分離膜とを有し、分離膜が、多孔質膜部材と、多孔質膜部材に設けられ、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質とを備える。
本発明の分離部材は、少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材の表面の一部に設けられ、水溶液と接触した状態で接触部に光が照射されて、水溶液に由来する水蒸気が多孔質膜部材を透過するような分離部材であって、多孔質基材と、多孔質基材に導入または修飾され、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質とを有する。
本発明の水溶液の膜分離方法は、本発明の分離膜の光吸収性非光異性化性物質を水溶液と接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長を含む光を接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気が分離膜を透過するようにする。
本発明の他の水溶液の膜分離方法は、本発明の分離装置を用いた水溶液の膜分離方法であって、流通管に入れられた水溶液を、分離膜に下方から接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長を含む光をこの接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気を分離膜の上方に透過させる。
本発明の他の水溶液の膜分離方法は、光吸収性非光異性化性物質を含む水溶液を、少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材の表面の一部に接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光を接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気が多孔質膜部材を透過するようにする。
本発明の他の水溶液の膜分離方法は、光吸収性非光異性化性物質を含む水溶液を、多孔質膜部材に下方から接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気を多孔質膜部材の上方に透過させる。
本発明の浄化水の製造方法は、本発明の分離膜の光吸収性非光異性化性物質に水溶液を接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長を含む光を接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気が分離膜を透過するようにし、透過した水蒸気の凝縮水、または凝縮水を含むとともに、水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で溶質を含む膜分離水を得る。
本発明の他の浄化水の製造方法は、多孔質膜部材と、多孔質膜部材に設けられ、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質とを備える分離膜に、水溶液を下方から接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気を多孔質膜部材の上方に透過させて、透過した水蒸気の凝縮水、または凝縮水を含むとともに、水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で溶質を含む膜分離水を得る。この方法では、光の照射により、水溶液を自動的に汲み上げて分離膜に供給することができる。
本発明の他の浄化水の製造方法は、光吸収性非光異性化性物質を含む水溶液を、少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材の表面の一部に接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光を接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気が多孔質膜部材を透過するようにし、透過した水蒸気の凝縮水、または凝縮水を含むとともに、水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で溶質を含む膜分離水を得る。
本発明の他の浄化水の製造方法は、光吸収性非光異性化性物質を含む水溶液を、多孔質膜部材に下方から接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気を多孔質膜部材の上方に透過させて、透過した水蒸気の凝縮水、または凝縮水を含むとともに、水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で溶質を含む膜分離水を得る。
本発明によれば、様々な波長域の光を利用して水の浄化ができる。
本発明の実施形態に係る水溶液の膜分離方法を実施するための装置の模式図。 ローダミンBのメタノール溶液の可視吸収スペクトル。 ローダミンB水溶液に対する透過水の量、蒸発水の量、および分離膜上に残留した色素水溶液の温度を示すグラフ。 PTFE膜にディスパースブルー14を導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 PTFE膜に1-メチルアミノアントラキノンを導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 PTFE膜に1,5-ジアミノアントラキノンを導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 PTFE膜にキニザリングリーンSSを導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 PTFE膜にディスパースブルー14および1-メチルアミノアントラキノンを導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 PTFE膜に2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールを導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 PTFE膜にIR-813 p-トルエンスルホナートを導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 セルロース製ろ紙にディスパースブルー14を導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 セルロース製ろ紙に1,5-ジアミノアントラキノンを導入した分離膜の可視光拡散反射スペクトル。 本発明の実施形態に係る分離装置の模式図。
以下、本発明の分離膜、分離部材、分離装置、水溶液の膜分離方法、および浄化水の製造方法について、図面を参照しながら実施形態と実施例に基づいて説明する。なお、重複説明は適宜省略する。また、本願では、2つの数値の間に「~」を記載して数値範囲を表す場合、この2つの数値も数値範囲に含まれるものとする。
本発明の第一実施形態に係る分離膜は、一方の面が水溶液と接触した状態でこの接触部に光が照射されて、この水溶液に由来する水蒸気を透過する。本実施形態の分離膜は、多孔質膜部材と、光吸収性非光異性化性物質を備えている。多孔質膜部材は疎水性材料から構成されている。本実施形態では多孔質膜部材が疎水性材料から構成されているが、多孔質膜部材は、全体または全表面が疎水性でなくてもよく、少なくとも表面の一部が疎水性であればよい。少なくとも表面の一部は、多孔質膜部材の全表面のうち、ある面の表面全体であってもよいし、ある面の表面の一部であってもよい。多孔質膜部材の細孔内を水蒸気が透過することによって、水溶液中の水を分離する。
細孔内を液体の水が透過しないで水蒸気が透過すれば、多孔質膜部材の材質は特に限定されない。多孔質膜部材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やPFA等のフッ素樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、またはポリプロピレン(PP)等の疎水性材料が例示できる。多孔質膜部材は、表面処理等によって、親水性の多孔質材料の少なくとも表面の一部を疎水性に変性し、液体の水が透過しないで水蒸気が透過するようにしたものでもよい。このような表面処理方法として、シランカップリング剤等を多孔質材料にグラフトする方法や、多孔質材料にフッ素コートする方法などが例示できるが、特に限定されない。
多孔質膜部材の材質は単一のものに限定されず、分離性能等を向上させるために多段状のものであってもよいし、複合材質であってもよい。また、多孔質膜部材の形状を維持する等のために、多孔質膜部材は、他の材料と組み合わせたものであってもよい。また、多孔質膜部材は微粒子が膜状に集合したものであってもよい。多孔質膜部材の形状としては、平面状、中空糸状、シート状、または微粒子集合体状等が例示できるが、特に限定されない。多孔質膜部材の膜厚は、膜としての強度や形状を維持できるものであれば特に限定されず、0.5μm~10mmが好ましく、1μm~5mmがより好ましく、5μm~2mmが特に好ましい。
多孔質膜部材の細孔サイズは、小さ過ぎると光吸収性非光異性化性物質の導入が困難になるとともに、光吸収性非光異性化性物質が細孔を塞いで水の透過性能が低下するおそれがある。このため、多孔質膜部材中の細孔サイズは、2nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上が特に好ましいが、特に限定されない。多孔質膜部材の細孔サイズの上限は、液体の水が重力や拡散により自然に染みこむことで透過することのない範囲であれば特に限定されない。多孔質膜部材中の細孔サイズの上限は、例えば30nm~20μm程度、好ましくは50nm~10μm程度、より好ましくは100nm~5μm程度である。
本実施形態の光吸収性非光異性化性物質は、光異性化能を持たない(非光異性化性である)が光吸収性能を持つ物質であり、多孔質膜部材の表面の一部に設けられている。また、光吸収性非光異性化性物質は、吸収した光エネルギーを、分離対象である水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する。光吸収性非光異性化性物質は、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する物質あれば特に限定されない。しかし、光吸収性非光異性化性物質は、幅広い波長の光を吸収し、吸収した光エネルギーを熱エネルギーや振動エネルギーに変換して、水溶液中の水の気化エネルギーとして多く放出するものがよい。なお、照射された光が効率的に水の気化エネルギーとして放出されるのであれば、光吸収性非光異性化性物質が蛍光や燐光等を発光するか否かは問わない。
光吸収性非光異性化性物質は、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スピロオキサジン類、またはスチルベン類などのような光異性化反応を起こす官能基を持たない物質である。光吸収性非光異性化性物質としては、非光異性化性の色素が挙げられる。なお、顔料や染料は色素に含まれる。光異性化反応を起こさない水溶性色素としては、ローダミンBの他に、フルオレセインに代表されるキサンテン系色素、アントシアニン系色素、アンカフラビンやモナスコブリン等のベニコウジ色素類、ベタレイン、メチレンブルー、シアニン・スクアリウム色素、ジピロメテン色素、アゾ色素等が例示できる。
また、光異性化反応を起こさない非水溶性の色素化合物としては、ディスパースブルー14やソルベントグリーン3等のアントラキノン類、ジケトピロロピロール類、カロテノイド類、フラボノイド類、アントシアニン類、メラニン類、インドール類、アザアズレン類、ナフトキノン類、キサンテン類、ペリレン類、フラボノイド類、アゾメチン類、トリアリールメタン類、クロロフィル類、キナクリドン類、コチニール類、クマリン類やポリメチン類等が例示できるが、特に限定されない。
これらの色素は、置換基によって水への溶解度が異なるが、色素の水への溶解度や、水溶性、非水溶性に関しても特に限定されない。上述の色素は可視光を主に吸収するが、可視光吸収能がない、または弱い色素であってもよい。紫外線を吸収する光吸収性非光異性化性物質としては、2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール類、ベンゾフェノン類、ヒンダードアミン類、トリアジン類等の紫外線吸収剤が例示できるが、これらに限定されない。他の紫外線を吸収する光吸収性非光異性化性物質としては、ピレン、アントラセン、フェナントレン、クマリン類等が例示できるが、これらに限定されない。
赤外線を吸収する光吸収性非光異性化性物質としては、近赤外線吸収剤が挙げられ、フタロシアニン類、スクアリウム色素、キノン系化合物類、ジインモニウム化合物類が例示できるが、特に限定されない。また、光吸収性非光異性化性物質は、光吸収域が紫外線と可視光にまたがる、または可視光と近赤外線にまたがるような物質であってもよく、さらに、紫外線から赤外線にまたがる物質であってもよく、特に限定されない。
光吸収性非光異性化性物質は、可視光を主に吸収する物質には特に限定されず、紫外線を吸収する物質や、近赤外線、赤外線、および遠赤外線を吸収する物質であってもよい。光吸収性非光異性化性物質は、水との反応や相互作用により光吸収性能が消失しない限り特に限定されず、水への溶解性、すなわち水溶性、非水溶性に関しても特に限定されない。後述するローダミンB水溶液の実施例からもわかるように、光吸収性非光異性化性物質の水溶液を用いても、水溶液の膜分離や浄化水の製造ができる。
本発明の第二実施形態に係る分離膜は、多孔質膜部材と、本発明の実施形態に係る分離部材を備えている。多孔質膜部材は少なくとも表面の一部が疎水性である。本実施形態の分離部材は、この多孔質膜部材のこの表面の一部に設けられている。そして、第二実施形態の分離膜は、分離部材が水溶液と接触した状態でこの接触部に光が照射されて、水溶液に由来する水蒸気を透過する。
本実施形態の分離部材は、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質を含有する。分離部材は、多孔質基材と、多孔質基材に導入または修飾された光吸収性非光異性化性物質を備えていてもよい。多孔質基材はろ紙等のセルロース膜であってもよい。各実施形態の分離膜および本実施形態の分離部材では、一種類の光吸収性非光異性化性物質を用いてもよいし、複数の種類の光吸収性非光異性化性物質を混合して用いてもよい。一種類の光吸収性非光異性化性物質を用いた分離膜および分離部材では、照射する光をより多く吸収することが難しいため、吸収する光の波長域が異なる複数の種類の光吸収性非光異性化性物質を用いた分離膜および分離部材が好ましい。
光吸収性非光異性化性物質は、多孔質膜部材または多孔質基材に導入または修飾することによって、多孔質膜部材または多孔質基材に固着することができる。複数の種類の光吸収性非光異性化性物質を多孔質膜部材または多孔質基材に導入または修飾する場合、多孔質膜部材または多孔質基材に複数の種類の光吸収性非光異性化性物質を同時に導入または修飾してもよいし、複数の種類の光吸収性非光異性化性物質を別々に導入または修飾した多孔質膜部材または多孔質基材を複合化して用いてもよい。水溶液を膜分離する状況に応じて、多孔質膜部材または多孔質基材が選択できる。
各実施形態の分離膜では、光吸収性非光異性化性物質が光を吸収し、吸収した光エネルギーを熱エネルギーや振動エネルギーに変換して、分離対象の水溶液の液温や水蒸気圧を向上させる。多孔質膜部材は、分離対象の水溶液が接触する部分が疎水性であるため、水を透過しないで水蒸気を透過する。このため、多孔質膜部材は水を浄化する役割を果たす。また、各実施形態の分離膜を用いて光照射で水溶液を分離した場合、膜透過した液体には溶質がほとんど含まれない。したがって、塩化ナトリウム水溶液や海水を膜分離することで脱塩することが可能である。多孔質膜部材の表面に光吸収性非光異性化性物質が設けられた態様として、多孔質膜部材と光吸収性非光異性化性物質が一体化したもの、光吸収性非光異性化性物質を包含する多孔質膜部材から構成されるもの、または多孔質膜部材の表面に光吸収性非光異性化性物質を導入したものが例示できる。
多孔質膜部材が疎水性膜で、光吸収性非光異性化性物質が色素化合物である場合を例として、多孔質膜部材の表面に光吸収性非光異性化性物質を導入した分離膜の作製方法を以下に記載する。まず、色素化合物が溶解した溶液を疎水性膜に塗布する。そして、この溶液の溶媒を除去する。こうして、色素化合物が導入された疎水性膜である分離膜が得られる。非水溶性の色素化合物を用いる場合、色素化合物が導入された疎水性膜に分離対象の原水を接触させても、色素化合物が原水に溶け出さないため、原水の色素化合物による汚染や、色素化合物量の減少による分離膜の性能劣化が防げる。このため、分離膜が繰り返し利用できる。
光吸収性非光異性化性物質が色素化合物である場合を例として、しばらく説明する。色素化合物を多孔質膜部材に導入または修飾する際に溶媒を用いる場合、その溶媒に溶解する、またはその溶媒によって著しく劣化するようなことがなければ、多孔質膜部材の材質は特に限定されない。また、水や水溶液に溶解する、または水や水溶液によって著しく劣化するようなことがなければ、多孔質膜部材の材質は特に限定されない。また、色素化合物を疎水性膜に直接導入せずに、色素化合物が修飾された色素化合物修飾部材を疎水性膜に設けてもよい。
この色素化合物修飾部材は、多孔質膜部材の疎水性部に設けられ、この状態で分離膜として用いられる。つまり、多孔質膜部材と色素化合物修飾部材で分離膜を構成している。この分離膜の色素化合物修飾部材に分離対象の水溶液を接触しながら、この接触部に光を照射すると、水蒸気が分離膜を透過する。また、多孔質であるシリカゲル粉体に、含浸等によって色素化合物を修飾し、疎水性膜上にこの色素化合物修飾粉体を薄く敷き詰めたものを分離膜とすることができる。この分離膜の色素化合物修飾粉体の部分に分離対象の水溶液を注いだ後、光を照射することで、分離膜の下に浄化水が得られる。
また、色素化合物を導入した膜材料を疎水性膜上に置き、十分に接触させて分離膜とし、この色素化合物導入膜材料に分離対象の水溶液を注いだ後、光を照射することで、分離膜の下に浄化水が得られる。このとき、色素化合物が導入される膜材料は、疎水性である必要が特にない。例えばポリエーテルサルホン膜やセルロース製ろ紙等の親水性の膜材料であってもよい。水に溶解する色素化合物を用いる場合には、分離対象の原水中に色素化合物が溶け出さないように、水に溶解しない固体材料等に共有結合等で色素化合物をグラフトすることが有効である。
疎水性膜へのグラフトが困難な色素化合物を用いる場合には、グラフト処理を行いやすい基材に色素化合物を導入した色素化合物導入基材と、多孔質膜部材である疎水性膜を組み合わせて、分離膜とすることができる。しかし、色素化合物が水に不溶であること、または色素化合物を固定化して不溶化しなければならないことは必須ではなく、後述するように、水に溶解する色素化合物を用いてもよい。
光吸収性非光異性化性物質を多孔質膜部材に修飾または導入する方法としては、多孔質膜部材合成時に光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入する方法や、多孔質膜部材に光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入する方法等が例示できる。多孔質膜部材合成時に光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入する方法としては、重合等の多孔質膜部材合成時に、原料分子等に共有結合等で光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入しておく、または光吸収性非光異性化性物質を共存させておく等の方法が例示できるが、特に限定されない。多孔質膜部材に光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入する方法としては、多孔質膜部材に光吸収性非光異性化性物質を直接導入する方法や、光吸収性非光異性化性物質を導入した種々の材料や溶液を多孔質膜部材に接触させる方法等がある。
多孔質膜部材に修飾または導入する光吸収性非光異性化性物質は一種類である必要がなく、その種類数は特に限定されない。ただし、一種類の光吸収性非光異性化性物質で波長域の広い光を無駄なく吸収することは困難であり、二種類以上の光吸収性非光異性化性物質を同一の多孔質膜部材に導入することは、分離膜の性能を向上させるために有効である。多孔質膜部材に導入される光吸収性非光異性化性物質の種類数は、一種類~十種類程度が想定され、照射光と使用する光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長域を考慮して、最善の組み合わせを選択すればよい。この際、吸収する波長は可視光のみに限定されない。
複数種の光吸収性非光異性化性物質を多孔質膜部材に修飾または導入する際の方法も特に限定されず、全ての光吸収性非光異性化性物質を同時に導入する、別々の光吸収性非光異性化性物質を数段階に分けて導入する等の方法が想定されるが、特に限定されない。また、光吸収性非光異性化性物質を多孔質膜部材に修飾または導入する方法も単一である必要がなく、塗布、グラフト、多孔質膜部材合成時に修飾しておく等の方法を組み合わせてもよい。多孔質膜部材に光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入する量は、水蒸気の分離膜透過性能が得られれば特に限定されない。光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入する質量/多孔質膜部材の質量は、0.01~10%程度が好ましく、0.05~10%がより好ましい。
光吸収性非光異性化性物質は多孔質膜部材に直接導入する必要がなく、導入方法も特に限定されない。光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入した物質と多孔質膜部材を組み合わせた分離膜、例えばこの物質を多孔質膜部材上に載せた分離膜に、水溶液を展開して水溶液の膜分離または浄化水の製造を行ってもよい。この光吸収性非光異性化性物質を修飾または導入した物質としては、光吸収性非光異性化性物質の粉体、または他物質に光吸収性非光異性化性物質を含んだ粉体、糸状体、シート状体、膜状体、ゲル状体、エマルジョン、溶液などが挙げられる。この他物質としては、シリカ等の無機材料、ポリマー・プラスチック等の有機材料、またはこれらの複合材料が挙げられる。この他物質は、親水性や疎水性の性質が特に限定されない。
光吸収性非光異性化性物質は、可視光を吸収する物質に限定されない。例えば、可視光吸収能はないが紫外線を吸収する光吸収性非光異性化性物質を疎水性膜に導入または修飾することで、紫外線によって誘起された水溶液の膜分離を行うことができる。分離膜および分離部材に、紫外線を吸収する光吸収性非光異性化性物質を用いた場合、この光吸収性非光異性化性物質が紫外線を吸収して熱を出すことで、水の蒸気圧が向上して、水蒸気が多孔質膜部材を透過する。太陽光や照明光にほとんど含まれない光によって水溶液を膜分離することは、例えば人工的な紫外線照射によって、必要な量の新鮮な浄化水を必要な時に得ることを可能にする。
蒸留水等の浄化された水は、塩素等の雑菌繁殖を抑制する薬剤を含まないため、保存中等に大気中の雑菌等の混入が起きると、急速に汚染される等の問題がある。蒸留水や純水を必要な時に必要量のみを製造することで、蒸留水や純水の雑菌汚染のリスクを抑えることができる。同時に、分離対象の原水の紫外線照射による殺菌処理も期待できる。さらに、光を照射した領域のみで水の膜透過が起きるため、本発明は、浄化された水を必要な時に必要な場所にのみ必要量を供給する技術への応用も可能である。
図13は、本発明の実施形態に係る分離装置を示している。図13(a)は光照射前を、図13(b)は光照射後をそれぞれ示している。本実施形態の分離装置は、水または水溶液が流通する流通管と、流通管の端部に設けられた分離膜とを備えている。分離膜は、多孔質膜部材と、多孔質膜部材に設けられ、吸収した光エネルギーを水または水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質とを備えている。分離膜は照射光を受光して水を蒸発させる。
流通管の端部への分離膜の設置方法は特に限定されない。流通管の端部を多孔質体にし、この多孔質体に色素等を導入してもよいし、色素等が表面に修飾され、水蒸気が透過する多孔質体を流通管の端部に充填してもよい。多孔質膜部材の材料としては、ガラス、樹脂材料、無機材料、有機無機ハイブリッド材料、生体材料、金属材料類が例示できる。光をより多く吸収するためには、分離膜の面積を拡げることが効果的であり、照射光に近づくほど拡がる構造になっていること好ましい。この構造によれば、蒸発した水を即座に空気中に拡散できる。ただし、単位面積あたりの水処理量に大きな影響はない。
流通管は、水または水溶液を汲み上げて流通させ、分離膜に輸送する。流通管は、水の凝集力によって気泡を形成せずに水または水溶液が円滑に流通できるものであり、重力によって水が落下する等の現象を起こさないものであれば、形状や材質等には特に制限がない。流通管の内径は概ね5mm以下が望ましい。流通管の材質としては、ガラス、ビニール等のポリマー材料、有機無機ハイブリッド材料、生体材料、金属材料類が例示できる。流通管の光透過性も特に制限がなく、流通管は透明、半透明、または不透明のいずれであってもよい。また、複数の流通管が設けられていてもよく、これらは独立していてもよいし、内部で連結していてもよい。
また、本実施形態の分離装置は、内部に空間が形成されるように端部を覆う透光性部材をさらに備えている。透光性部材は、光の照射によって蒸発した水を凝縮させて回収する水回収部として機能する。透光性部材と分離膜は一対で存在するのが好ましいが、複数対の透光性部材と分離膜が存在してもよい。また、分離膜が流通管の端部以外に存在してもよい。透光性部材は、分離膜を覆うように設置されることが好ましい。
ただし、透光性部材が密閉状態で分離膜を覆うと、透光性部材の内部圧力が上昇して、分離膜での水の蒸発を抑制する。このため、透光性部材の一部が外気等の外部に開放されていることが好ましい。その際、水の回収効率を向上させるため、自然の風を取り入れる等によって内部空間を流動させてもよい。また、光エネルギーのみの作動にこだわらない場合は、ポンプ等を用いて透光性部材の内部を減圧状態にしてもよい。水を回収する部位、透光性部材の内壁面でもよいし、外気や減圧等に開放された透光性部材の出口近傍でもよい。透光性部材の材料としては、照射光が効果的に透過するものであれば特に限定されないが、ガラスや透明プラスチック等が例示できる。
本実施形態の分離装置によれば、多孔質膜部材に光を照射することで、流通管に充填された水が分離膜から蒸発するとともに、この水の蒸発によって生成する水の負圧によって多孔質膜部材の方向に水が移動する(水位上昇)。蒸発した水は、透光性部材の内壁で凝縮して、浄化水として回収できる。また、水または水溶液は、重力の方向と無関係に移動し、分離膜に随時供給されて、蒸発し浄化される。
本発明の実施形態に係る水溶液の膜分離方法は、各実施形態の分離膜の光吸収性非光異性化性物質を水溶液と接触させた状態で、この接触部に光を照射して水溶液に由来する水蒸気が分離膜を透過するようにした方法である。また、本発明の他の実施形態に係る水溶液の膜分離方法は、実施形態の分離装置を用い、流通管に入れられた水溶液を、分離膜に下方から接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長を含む光をこの接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気を分離膜の上方に透過させる。
なお、この光は、光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長の光を含んでいる。このとき、分離対象のこの水溶液は、不揮発性の無機物や有機物等の溶質を含有していてもよい。本実施形態の水溶液の膜分離方法によれば、これら溶質を含んだ水溶液から水または極めて低濃度の溶質含有水溶液を分離できる。この溶質が塩化ナトリウムの場合、塩化ナトリウム水溶液から水または極めて低濃度の塩化ナトリウム水溶液を分離できる。
なお、水そのものに色素等を添加して、水溶液の膜分離をすることができる。その際、色素類は水に溶解していることは必須ではないが、膜分離効率を考慮すれば、溶解していることが好ましい。すなわち、本発明の他の実施形態に係る水溶液の膜分離方法は、吸収性非光異性化性物質を含む水溶液を、少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材の表面の一部に接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気が多孔質膜部材を透過するようにしている。また、本発明の他の実施形態に係る水溶液の膜分離方法は、光吸収性非光異性化性物質を含む水溶液を、多孔質膜部材に下方から接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気を多孔質膜部材の上方に透過させる。
本発明の実施形態に係る浄化水の製造方法は、各実施形態の分離膜の光吸収性非光異性化性物質を水溶液と接触させた状態で、この接触部に光を照射して水溶液に由来する水蒸気が分離膜を透過するようにして、透過した水蒸気の凝縮水、またはこの凝縮水を含むとともに、水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で溶質を含む膜分離水を得る方法である。
また、本発明の他の実施形態に係る浄化水の製造方法は、多孔質膜部材と、多孔質膜部材に設けられ、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質とを備える分離膜に、水溶液を下方から接触させた状態で、光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、水溶液に由来する水蒸気を多孔質膜部材の上方に透過させて、透過した水蒸気の凝縮水、または凝縮水を含むとともに、水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で溶質を含む膜分離水を得る方法である。膜分離水は、分離膜の上流にある水溶液に含まれていた溶質の濃度よりかなり低い濃度の溶質しか含んでいない。なお、この光は、光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長の光を含んでいる。
水溶液の膜分離や浄化水の製造に太陽光を用いる場合、太陽光に含まれる紫外線と可視光を吸収できる光吸収性非光異性化性物質とともに、近赤外線を吸収できる光吸収性非光異性化性物質を併せて導入することが有効である。これにより、太陽光を無駄なく利用することができる。水溶液の膜分離や浄化水の製造に太陽光以外の光を用いる場合、この光を吸収する光吸収性非光異性化性物質を多孔質膜部材に修飾または導入してもよい。例えば、地表にほとんど届かない300nm以下の紫外線を人工光により照射する場合には、この紫外線を有効に吸収できる光吸収性非光異性化性物質を導入すればよい。
色素等の光吸収性非光異性化性物質が溶解している水溶液を多孔質膜部材に接触させ、この水溶液に光を照射することによっても、この水溶液に由来する水蒸気が多孔質膜部材を透過する。この多孔質膜部材を透過した水蒸気を凝縮した液体には、この光吸収性非光異性化性物質がほとんど含まれない。このように、疎水性の多孔質膜部材と光吸収性非光異性化性物質を組み合わせた水溶液の膜分離方法および浄化水の製造方法は、上述の方法に特に限定されず様々な方法が可能であり、水溶液を膜分離する状況に応じて選択できる。
水溶液の膜分離または浄化水の製造の際に照射する光は特に限定されない。太陽光の他には、蛍光灯、ハロゲンランプ、クリプトンランプ、キセノンランプ、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、LEDランプ、もしくはソーラシュミレータ等、またはこれらを組み合わせた人工光でもよい。太陽光を用いる場合、水溶液の膜分離または浄化水の製造が天候に左右され、かつ日中しか行えないが、人工光を用いることで様々な応用が可能となる。照射される光の波長は可視光域に限定されず、紫外線や可視光の他に、近赤外線、赤外線、または遠赤外線等の光照射が例示できる。分離膜に光を照射する方法は特に限定されず、直接分離膜に当てる方法、鏡等を介して間接的に照射する、レンズ等で集光する、もしくは乱反射させた光を照射する等の方法、またはこれらを組み合わせた方法でもよい。
また、汚染水の浄化や海水淡水化等では処理する水溶液量が膨大であるため、エネルギーの観点からは太陽光を用いることが望ましい。この場合、可視光を吸収する光吸収性非光異性化性物質とともに、太陽光に含まれる紫外線や近赤外線を吸収する光吸収性非光異性化性物質の利用も重要である。一方、少量の水を短時間で処理するような場合は、太陽光に含まれていない紫外線をあえて使用することも可能である。自然光や電灯等に含まれていない波長の光で水が透過・浄化されるならば、本発明は、この光をトリガーとした水処理への応用が可能となり、純水等のオンデマンド型の供給システム技術となる。また、生体物質を溶解した水溶液を必要に応じて少量蒸留するという技術分野では、自然光および電灯等に含まれていない波長の光を利用することが有効である。
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
実施例1 PTFE膜上に展開したローダミンB水溶液の光照射による水透過
色素化合物が溶解している水溶液を疎水性膜上に展開して、この水溶液に光を照射して水溶液の膜分離を行うことにより、色素化合物の量と水蒸気の膜透過性能の関係が説明できる。水溶性色素が溶解している水溶液を用いて、色素化合物の濃度と水蒸気の膜透過量との相関を評価した。疎水性の多孔質膜部材であるPTFE膜上に、水溶性色素であるローダミンBが溶解している水溶液を展開し、この水溶液全体に波長385~740nmの可視光を1時間照射した後に、PTFE膜を透過した水(透過水)の量と、PTFE膜上にある透明ガラス(時計皿)の下面に凝縮して回収できた水(蒸発水)の量を調べた。このとき、PTFE膜上に残留したローダミンB水溶液の温度も測定した。この色素水溶液の光照射膜透過実験は、図1に示す装置で行った。以下で詳しく述べる。
市販のローダミンBの粉末を所定の濃度で蒸留水に溶解した。得られた水溶液500μLを、アドバンテック社製PTFE製メンブレンフィルター(直径47mm、細孔径0.8μm)上に展開した。ローダミンBの濃度の上昇とともに、ローダミンB水溶液は濃い紫色になった。朝日分光社製の光化学反応用光源MAX-301を用いて光照射した。Vis用ミラーモジュール(朝日分光社製)を用いて、照射した光の波長を主に385~740nmの範囲に限定した。分離膜の上方約30mm地点から、水溶液全体に当たるように真下に光照射した。1時間の光照射後、上方の透明ガラス下面およびPTFE膜の下部のシャーレ上面の液量を、マイクロシリンジで吸い取ることによって量った。また、ローダミンB水溶液の温度は、照射終了直後に温度計を液中にさし込んで測定した。上方の透明ガラス下面およびPTFE膜のシャーレ上面に得られた液体は、ともに無色透明であり、ローダミンBが含まれていなかった。ローダミンBの分子構造を下記に示す。
Figure 0007012343000001
図2は、ローダミンBのメタノール溶液の可視吸収スペクトルである。ローダミンBのメタノール溶液は、波長554nmの光を最大で吸収する紫色の溶液で、波長500~600nmの光をよく吸収することがわかる。図3は、ローダミンB水溶液の濃度に対し、透過水の量(膜下水量1)、蒸発水の量(膜上水量1)、および膜上に残留した水または水溶液の温度をそれぞれプロットしたグラフである。図3に示すように、蒸留水(ローダミンB濃度0mM)では水の膜透過が起きなかった。1時間の光照射後、膜上に残留した蒸留水の温度は26.6℃であり、光照射前の水温とほぼ同じだった。
一方、ローダミンB水溶液は、低濃度でも水の膜透過が起きた。ローダミンBの濃度が1mM以下では、濃度増加とともに、透過水の量、蒸発水の量、および膜上に残留した水溶液の温度がほぼ単調に増加した。しかしながら、1mM以上の濃度では、透過水の量と蒸発水の量の増加は鈍化し、さらに濃度が高くなるとほぼ横ばいになった。膜上に残留した水溶液の温度上昇も同様で、1mMまでは28℃へと単調に増加したものの、その後の温度上昇は低く、高濃度になると逆に低下した。
透過水や蒸発水は無色透明であり、ローダミンBが全く含まれておらず、全ての場合でローダミンB水溶液の浄化が達成された。水へのローダミンBの添加・溶解によって膜透過や蒸発が起きること、および色素は必ずしも膜に修飾されていなくてもよいことがわかった。透過水の量、蒸発水の量、および膜上に残留した水溶液の温度は、ローダミンBの添加量が少量の場合は濃度に応じて増加するが、濃度が1mM以上になると、透過水の量および蒸発水の量の増加は頭打ちになり、膜上に残留した水溶液の温度は逆に低下する傾向にある。
濃度10mMのローダミンB水溶液への照射時間を2倍の2時間にした場合、透過水の量が50μL、蒸発水の量が22μLとなり、1時間照射の場合のほぼ2倍となったが、膜上に残留した水溶液の温度は27.6℃でありほとんど変わらなかった。したがって、高濃度のローダミンB水溶液で、ローダミンBが疎水性膜中の細孔に詰まり、透過水の量が減少したとは考えられない。
ローダミンB水溶液の濃度上昇による透過水の量の増加の鈍化の理由として、ローダミンBの溶解による水蒸気圧降下が考えられる。膜蒸留における水の疎水性膜透過は、膜両面間の水蒸気圧差によって起きるため、濃度が低いローダミンB水溶液の場合には、ローダミンBによる光エネルギーの熱エネルギーへの変換に伴う温度上昇により膜透過が起こる。このことは、膜上に残留した水溶液の温度の上昇によっても裏付けられる。しかしながら、ローダミンB濃度の更なる増加は、水蒸気圧の低下をもたらし、膜両面間の水蒸気圧差が少なくなり、膜透過が起きづらくなる。その結果、透過水の量の増加が著しく鈍化したと考えられる。
また、ローダミンB濃度の増加によって水溶液の色が濃くなり、水溶液中の光透過が妨げられ、疎水性膜部分に光が到達しにくくなって、水の膜透過が抑制されたとも考えられる。水の膜透過をもたらす水蒸気圧上昇は、膜近傍で起きた方がよいが、照射光が到達しにくくなることによって、膜近傍での水蒸気圧上昇が起きなくなり、透過水の量の増加が鈍化したと考えられる。
以上の結果は、光異性化反応を起こさない色素化合物であっても、光照射によって水の膜透過を誘起できることを示している。光異性化反応を起こさない色素化合物は、吸収した光エネルギーを蛍光等のエネルギーの低い光として放出するか、または熱緩和という形で光エネルギーを熱エネルギーへと変換して放出する。ローダミンBは蛍光性物質であるが、緩和による熱放出も起こす。この熱放出によって、水温とともに蒸気圧も上昇し、水が水蒸気となって疎水性膜の細孔を透過したものと考えられる。
以上より、光異性化能を持たない色素化合物であっても、照射された光エネルギーを熱エネルギーに変換し、水の蒸気圧を上昇させて膜透過、すなわち膜蒸留を起こすことができることがわかった。一方、色素化合物水溶液の濃度増加は、水蒸気圧降下や光の透過性の低下をもたらし、必ずしも水の膜透過を促進させない。したがって、水の膜透過や膜蒸留を効果的に行うには、水蒸気圧降下や色素化合物への光照射を妨げないようにすることが有効であり、色素化合物は疎水性膜近傍部分にのみ存在する方が効果的ということになる。
実施例2 ディスパースブルー14のPTFE製膜への塗布による導入
PTFE製メンブレンフィルターに、概ね0.2mLの最小量のアセトンまたはイソプロパノールを染みこませ、直後にディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約1mLを全面に塗布した後、4~5日間静置した。このフィルターを40℃で一晩熱処理し、得られたフィルターを200mLの蒸留水中に一晩浸漬して洗浄した。その後、40℃で乾燥して、濃青色をしたディスパースブルー14導入PTFE膜を得た。ディスパースブルー14の分子構造を下記に示す。
Figure 0007012343000002
図4は、ディスパースブルー14導入PTFE膜の可視光拡散反射スペクトルである。ディスパースブルー14導入PTFE膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、ディスパースブルー14導入PTFE膜は、波長450~750nmの範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。なお、ディスパースブルー14のエタノールの希薄溶液のスペクトルは、642nmと595nmに可視光の吸収ピークを持つ。
実施例3 ディスパースブルー14のポリプロピレン製膜への塗布による導入
ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約500μLを、ワットマン社製ポリプロピレンメンブレンフィルター(直径47mm、細孔径0.45μm)全面に塗布した後、4~5日間静置した。このフィルターを40℃で一晩熱処理し、得られたフィルターを200mLの蒸留水中に一晩浸漬して洗浄した。その後、40℃で乾燥して、濃い青色をしたディスパースブルー14導入ポリプロピレン膜を得た。
実施例4 1-メチルアミノアントラキノンのPTFE製膜への塗布による導入
ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約1mLに代えて、1-メチルアミノアントラキノンのDMF溶液(0.05g/mL)約500μLを用いた点を除いて、実施例2と同様にして、赤色の1-メチルアミノアントラキノン導入PTFE膜を得た。1-メチルアミノアントラキノンの分子構造を下記に示す。
Figure 0007012343000003
図5は、1-メチルアミノアントラキノン導入PTFE膜の可視光拡散反射スペクトルである。1-メチルアミノアントラキノン導入PTFE膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、1-メチルアミノアントラキノン導入PTFE膜は、波長400~600nmの範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。なお、1-メチルアミノアントラキノンのエタノールの希薄溶液のスペクトルは、506nmに可視光の吸収ピークを持つ。
実施例5 1,5-ジアミノアントラキノンのPTFE製膜への塗布による導入
ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約1mLに代えて、1,5-ジアミノアントラキノンのDMF溶液(0.05g/mL)約500μLを用いた点を除いて、実施例2と同様にして、赤紫色の1,5-ジアミノアントラキノン導入PTFE膜を得た。1,5-ジアミノアントラキノンの分子構造を下記に示す。
Figure 0007012343000004
図6は、1,5-ジアミノアントラキノン導入PTFE膜の可視光拡散反射スペクトルである。1,5-ジアミノアントラキノン導入PTFE膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、1,5-ジアミノアントラキノン導入PTFE膜は、波長400~600nmの範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。なお、1,5-ジアミノアントラキノンのエタノールの希薄溶液のスペクトルは、491nmに可視光の吸収ピークを持つ。
実施例6 キニザリングリーンSSのPTFE製膜への塗布による導入
ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約1mLに代えて、キニザリングリーンSSのDMF溶液(0.05g/mL)約500μLを用いた点を除いて、実施例2と同様にして、青緑色のキニザリングリーンSS導入PTFE膜を得た。キニザリングリーンSSの分子構造を下記に示す。
Figure 0007012343000005
図7は、キニザリングリーンSS導入PTFE膜の可視光拡散反射スペクトルである。キニザリングリーンSS導入PTFE膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、キニザリングリーンSS導入PTFE膜は、波長500~800nmの範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。なお、キニザリングリーンSSのエタノールの希薄溶液のスペクトルは、600nmと640nmに可視光の吸収ピークを持つ。
実施例7 ディスパースブルー14および1-メチルアミノアントラキノンのPTFE製膜への塗布による導入
ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約1mLに代えて、ディスパースブルー14と1-メチルアミノアントラキノンを同じ質量で溶解したDMF混合溶液(両者合計で0.05g/mL)約500μLを用いた点を除いて、実施例2と同様にして、濃茶色のディスパースブルー14および1-メチルアミノアントラキノン導入PTFE膜を得た。
図8は、ディスパースブルー14および1-メチルアミノアントラキノン導入PTFE膜の可視光拡散反射スペクトルである。ディスパースブルー14および1-メチルアミノアントラキノン導入PTFE膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、ディスパースブルー14および1-メチルアミノアントラキノン導入PTFE膜は、波長400~750nm程度の広範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。
実施例8 2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールのPTFE製メンブレンフィルターへの塗布による導入
ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約1mLに代えて、紫外線吸収剤である2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールのアセトン溶液(0.1g/mL)1mLを用いた点、および40℃での一晩熱処理に代えて、50℃で一晩熱処理した点を除いて、実施例2と同様にして、無色の2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール導入PTFE膜を得た。2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールの分子構造を下記に示す。
Figure 0007012343000006
図9は、2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール導入PTFE膜の可視光拡散反射スペクトルである。2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール導入PTFE膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール導入PTFE膜は、波長300~400nmの範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。なお、2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールのエタノールの希薄溶液のスペクトルは、299nmと336nmに紫外線の吸収ピークを持つ。
実施例9 IR-813 p-トルエンスルホナートのPTFE製メンブレンフィルターへの塗布による導入
ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約1mLに代えて、近赤外線吸収材料であるIR-813 p-トルエンスルホナートのDMF溶液(0.01g/mL)約500μLを用いた点を除いて、実施例2と同様にして、濃緑色のIR-813 p-トルエンスルホナート導入PTFE膜を得た。IR-813 p-トルエンスルホナートの分子構造を下記に示す。
Figure 0007012343000007
図10は、IR-813 p-トルエンスルホナート導入PTFE膜の可視光拡散反射スペクトルである。IR-813 p-トルエンスルホナート導入PTFE膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、IR-813 p-トルエンスルホナート導入PTFE膜は、波長600~850nmの可視光から近赤外線の範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。なお、IR-813 p-トルエンスルホナートのエタノールの希薄溶液のスペクトルは、821nmに近赤外線の吸収ピークを持つ。
実施例10 ディスパースブルー14のシリカゲルへの含浸による導入
メルク社製のカラムクロマトグラフ用シリカゲル(シリカゲル60)0.5gに、ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)1mLを含浸し、室温で5日間静置した。その後、DMF溶液の上澄みを除去し、色素含浸シリカゲルを80℃で一晩加熱処理した。得られた色素含浸シリカゲルを100mLの水に浸漬して洗浄し、濃い青色をしたディスパースブルー14導入シリカゲルの粉体を得た。
実施例11 ディスパースブルー14のセルロース製ろ紙への塗布による導入
セルロース製ろ紙(桐山製作所製桐山ロート用ろ紙、直径40mm、No.5A)の全面に、ディスパースブルー14のDMF溶液(0.1g/mL)約1mLを塗布し、4~5日間静置した。得られたろ紙を50℃で一晩熱処理した。この塗布・静置・熱処理をもう一度行った。得られたろ紙を200mLの蒸留水中に一晩浸漬し洗浄した後、50℃で乾燥させた。その後、この浸漬・乾燥をもう一度行い、濃青色のディスパースブルー14導入セルロース膜を得た。図11は、ディスパースブルー14導入セルロース膜の可視光拡散反射スペクトルである。ディスパースブルー14導入セルロース膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、ディスパースブルー14導入セルロース膜は、波長450~800nmの範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。
実施例12 1,5-ジアミノアントラキノンのセルロース製ろ紙への塗布による導入
実施例11と同様の方法で、1,5-ジアミノアントラキノン導入セルロース膜を作製した。図12は、1,5-ジアミノアントラキノン導入セルロース膜の可視光拡散反射スペクトルである。1,5-ジアミノアントラキノン導入セルロース膜の拡散反射スペクトルでは吸収が強過ぎるため正確に評価できないものの、1,5-ジアミノアントラキノンは、波長350~600nmの範囲で光を強く吸収する膜であることがわかった。
実施例13 IR-813 p-トルエンスルホナートのセルロース製ろ紙への塗布による導入
実施例11と同様の方法で、IR-813 p-トルエンスルホナート導入セルロース膜を作製した。
実施例14 2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールのセルロース製ろ紙への塗布による導入
ディスパースブルー14に代えて、2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールのアセトン溶液を用いた点、静置時間4~5日間に代えて約2時間静置した点、および浸漬・乾燥2回に代えて浸漬・乾燥を1回とした点を除いて、実施例11と同様にして、2-(5-tert-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール導入セルロース膜を得た。
実施例15 色素等を導入したPTFE膜を用いた膜透過
ソーダ石灰ガラス製シャーレの中に外径約38mm、内径約29mm、厚さ約3mmのフッ素樹脂製リングを置き、このリング上に実施例2~実施例9で作製した分離膜を載せた。この分離膜のほぼ中心部に、500μLの蒸留水または溶液を上からゆっくりと展開した。シャーレにフタをするようにホウケイ酸ガラス製(実験例26のみ)またはソーダ石灰ガラス製の時計皿を乗せ、その後、外光が入らないように箱の中に入れ、分離膜上の溶液の全面に光が当たるように、この箱上部に設けた小さな穴から光を照射した(図1参照)。
光照射方法を下記に示す。
光照射A
朝日分光社製の光化学反応用光源MAX-301を用いた。Vis用ミラーモジュール(朝日分光社製)によって、照射光の波長を主に385~740nmに制御した。分離膜の直上約30mm地点から真下に照射した。
光照射B
三永電機製作所製ソーラーシミュレータXES-300S1を用いた。擬似太陽光の強度を1SUNとして照射した。分離膜の直上約220mm地点から真下に照射した。
光照射C
LEDランプ(RED DRAGON RDT11)を用いた。光照射角度を狭めて、分離膜の直上約50mm地点から真下に照射した。
光照射D
UV用ミラーモジュール(朝日分光社製)によって、照射光の波長を主に250~385nmに制御した点を除き、光照射Aと同じである。
光照射E
IR用ミラーモジュール(朝日分光社製)によって、照射光の波長を主に750~1050nmに制御した点を除き、光照射Aと同じである。
そして、分離膜を透過してシャーレ上に析出した液体(透過液)、および分離膜の上方の時計皿下面に凝縮した液体(蒸発液)の液量を、マイクロシリンジで吸い取ることによって量った。また、分離膜上に残留した液体(残留液)の液量を、マイクロシリンジで吸い取ることによって、回収できる範囲内で量った。溶液として、市販の特級塩化ナトリウムを超純水に溶かした擬似海水である3.5%塩化ナトリウム水溶液(以下「擬似海水」ということがある)、および富田製薬製マリンアートSF-1を指定の方法で超純水に溶かして作製した人工の海水(以下「人工海水」ということがある)を用いた。
擬似海水および人工海水の分離膜では、電気伝導率計(堀場製作所製、コンパクト電気伝導率計LAQUAtwin B-771)を用いて、透過液の電気伝導率を測定した。透過液が電気伝導率計の測定最小量に満たない場合は、100μLの蒸留水を添加した後の電気伝導率を測り、その希釈度に応じて電気伝導率を補正して、塩濃度を算出した。なお、実験例1、実験例14、および実験例25は比較例である。結果を表1に示す。
Figure 0007012343000008
実験例2と実験例3では同じ実験を行った。淡水とされる塩分濃度は0.05%以下であることから、実験例4、実験例6、実験例8、実験例15、実験例21、実験例22、および実験例27では、海水淡水化に成功した。特に、実験例16に示すように、海水中の成分を厳密に再現した人工海水の淡水化にも成功した。実験例10では、分離膜上で蒸留水が拡がったため、残留液の量が計量できなかった。実験例19から実験例22では、光照射後に分離膜上の残留液が拡がっていたため、残留液を完全には回収できなかった。この場合でも、光照射により水が膜透過した。
紫外線吸収剤を修飾したPTFE膜である実施例8の分離膜を用いた場合、可視光を照射した実験例23では水の膜透過がほとんど起きないが、実験例24、実験例26、および実験例27で紫外線を照射すると水が膜透過した。一方、PTFEを用いた実験例25の場合、紫外線を照射しても水が全く膜透過しなかった。また、ソーダ石灰ガラスと比べて紫外線透過能が高いホウケイ酸ガラス(ショット社製、DURAN3.3ガラス)を時計皿として用いた実験例26の場合、水の透過量が増加した。
また、紫外線吸収剤導入セルロース膜をPTFE膜上に置いた積層膜を用いた実験例28の場合、セルロース膜に水を吸い込ませて紫外線を照射したら水が膜透過した。近赤外線吸収剤導入PTFE膜を用いた実験例29の場合、385~740nmの可視光を照射すると良好に水が膜透過した。図10に示すように、実施例9の分離膜が長波長の可視光を吸収するためだと考えられる。また、ソーラシュミレータによる近赤外線を多く含む擬似太陽光を照射した実験例30では、条件が異なるものの、可視光を照射した実験例29よりも水が多く膜透過した。一方、主に近赤外線領域である750~1050nmに照射光波長を制御する赤外線用ミラーモジュール(朝日分光社製)を用いて行った実験例31では、水の透過量がさらに増加した。
膜透過した水の塩分濃度は約0.01%以下であった。淡水の塩濃度は通常0.05%以下であるため、海水の膜分離によって淡水が得られる。そして、照射する光として太陽光を用いることが可能である。つまり、色素化合物、紫外線吸収剤、または赤外線吸収剤を導入した疎水性膜に膜分離すべき原水を接触させ、この接触部に太陽光を直接照射することで、原水の膜透過が起き、透過水の塩分濃度が0.01%未満となるため、太陽光の直接利用による海水淡水化が実現できる。
実施例16 色素粉体とPTFE膜を用いた膜透過
実施例2から実施例9の分離膜に代えてPTFE製メンブレンフィルターを用いた点を除いて、実施例15と同じ装置で膜透過を行った。まず、このPTFE製メンブレンフィルター上の中心部に、色素粉体約0.015gをなるべく薄くなるように拡げ、この粉体に蒸留水500μLを染みこませた。その後の工程は実施例15と同様にして、PTFE製メンブレンフィルターを用いて水を透過させた。結果を表2に示す。
Figure 0007012343000009
水が色素粉体に吸い込まれたため、残留液の量が計量できなかった。色素粉体そのものをPTFE膜上に敷くことでも、光照射によって水がPTFE膜を透過した。ピグメントレッド254の分子構造を下記に示す。
Figure 0007012343000010
実施例17 色素導入シリカゲルとPTFE膜を用いた膜透過
実施例16と同じ装置を用い、PTFE製メンブレンフィルター上の中心部に、実施例9のディスパースブルー14導入シリカゲル0.1gまたはシリカゲル0.1gを、薄さ約1mm、直径約15mmとなるように均等に展開した。そして、この色素導入シリカゲルまたはシリカゲルに、蒸留水または擬似海水500μLを染みこませた。その後の工程は実施例16と同様にして、蒸留水または擬似海水を膜透過させた。なお、擬似海水の膜透過は、実施例15と同様の方法で行った。なお、実験例35は比較例である。結果を表3に示す。
Figure 0007012343000011
水が色素導入シリカゲルまたはシリカゲルに吸い込まれたため、残留液の量が計量できなかった。シリカゲルとPTFE膜を組み合わせた膜では、溶液等が全く膜透過しなかったが、色素導入シリカゲルとPTFE膜を組み合わせた膜では、かなりの量の水が膜透過した。また、擬似海水の透過液の電気伝導度は65μS/cmであり、塩濃度が0.01%未満となるから、色素導入シリカゲルとPTFE膜を組み合わせた膜によって、海水淡水化に成功した。
実施例18 色素等を導入したセルロース膜とPTFE膜を用いた膜透過
実施例17と同じ装置を用い、PTFE製メンブレンフィルター上に、実施例11から実施例14の色素等を導入したセルロース膜を十分に接触するように重ねた。その後の工程は実施例17と同様にして、色素等導入セルロース膜とPTFE膜を組み合わせた膜を用いて、水または擬似海水を透過させた。なお、実験例37、実験例42、および実験例47は、セルロース膜とPTFE膜を組み合わせた膜を用いた比較例である。結果を表4に示す。
Figure 0007012343000012
水がセルロース膜に吸い込まれたため、残留液の量が計量できなかった。セルロース膜とPTFE膜を組み合わせた膜では水が全く透過しなかったが、色素等導入セルロース膜とPTFE膜を組み合わせた膜では水が透過した。また、擬似海水の透過液の電気伝導度は約88μS/cmまたは約15μS/cmであり、いずれも塩濃度が0.01%未満となるから、色素等導入セルロース膜とPTFE膜を組み合わせた分離膜によって、海水淡水化に成功した。また、セルロース膜を用いた実験例47の場合、紫外線照射によっても水が全く膜透過しなかった。しかし、紫外線吸収剤導入セルロース膜を用いた実験例48の場合、紫外線照射によって水が膜透過した。
実施例19 ガス噴射管を用いたローダミンB水溶液の膜分離
噴射部が一端に設けられた市販のガス噴射管(全長190mm、足部分内径3.5mm、噴射部外径10mm、噴射部長さ10mm)に、濃度0.002~20mMのローダミンB水溶液を充填し、内部に気泡が生成しないように、噴射部が上になるようにガス噴射管を立てた。このガス噴射管の上方30mm地点から、朝日分光社製キセノンランプMAX-303を用いて可視光(波長375~740nm)を10分間照射した。ガス噴射管の下部の水位の上昇高さと、上昇水位の換算水量を表5に示す。表5に示すように、水位の上昇高さは、ローダミンB水溶液の濃度に概ね比例して増加した。
Figure 0007012343000013
また、ガス噴射管に濃度20mMのローダミンB水溶液を充填し、噴射部が上になるようにガス噴射管を立てた。そして、ガス噴射管にプラスチック製ビーカーをかぶせた。このビーカーの外側の50mm上方地点から、上記と同じ可視光を20分間照射した。なお、噴射部とビーカーの内壁面との距離を20mmとした。ビーカーの内壁面で回収された水の量は50μLであり、水位上昇は9mmであった。また、回収された水は無色透明であり、ローダミンBは含まれておらず浄化されていた。
実施例20 ディスパースブルー14を導入したガス噴射管を用いた膜分離
ディスパースブルー14の10g/Lのアセトン溶液に、実施例19で用いたガス噴射管を10分間浸漬し、その後60℃で熱処理した。この一連の浸漬・熱処理を合計10回行った後、蒸留水への浸漬洗浄と超音波洗浄をそれぞれ30分間行った。その後、40℃で乾燥させて、ディスパースブルー14で修飾されたガス噴射管を得た。
実施例19と同様にして、このディスパースブルー14で修飾されたガス噴射管の内部に蒸留水を充填し、水がこぼれ落ちないように立てた。このガス噴射管の上部に何も設置せず、実施例19と同じ可視光を距離30mmで30分間照射した。その結果、ガス噴射管の下部の水位が約4mm上昇した。また、照射距離を50mmとし、ガス噴射管の上部に実施例19と同様にプラスチック製ビーカーを設置して光を照射した。ビーカーの内壁面に回収された水の量は約80μLであった。
実施例21 ディスパースブルー14を導入したシリカゲルと足長ロートを用いた膜分離
ディスパースブルー14の500mg/Lのアセトン溶液に2gのメルク社製シリカゲル60を浸漬し、ロータリーエバポレーターで30分間撹拌した後、減圧下でアセトンを留去した。その後、80℃で10時間熱処理し、水による洗浄、80℃での乾燥処理を行うことで、ディスパースブルー14で修飾されたシリカゲルを得た。
開口部が上になるように、ガラス製の足長ロート(全長212.5mm、足部分内径3.5mm、開口部外径47mm、開口部長さ31.5mm)を設置した。開口部の下部にグラスウールを敷き、この上にディスパースブルー14で修飾されたシリカゲルを0.5g充填し、蒸留水を上からゆっくり加えて、気泡を作らずに足長ロートの足管の下部まで水を充填した。
この足長ロートの上部に何も設置せず、ディスパースブルー14で修飾されたシリカゲルの全面に、実施例19と同じ可視光を距離50mmで20分間照射した。その結果、足長ロートの足管の下部の水位の上昇高さは12mmであった。また、実施例19と同様にして、足長ロートの開口部にプラスチック製ビーカーを設置して光を照射した。ビーカーの内壁面で回収された水の量は55μLであり、長ロートの足管の水位の上昇高さは7.5mmであった。

Claims (17)

  1. 少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材と、前記多孔質膜部材の前記表面の一部に設けられた分離部材とを有し、前記分離部材が水溶液と接触した状態でこの接触部に光が照射されて、前記水溶液に由来する水蒸気を透過する分離膜であって、
    前記分離部材が、粉体である多孔質基材と、前記多孔質基材に導入または修飾され、吸収した光エネルギーを前記水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質備える分離膜。
  2. 請求項1において、
    前記光吸収性非光異性化性物質が色素である分離膜。
  3. 水溶液が流通する流通管と、
    前記流通管の端部に設けられた分離膜と、
    を有し、
    前記分離膜が、多孔質膜部材と、前記多孔質膜部材に設けられ、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質とを備える分離装置。
  4. 請求項において、
    内部に空間が形成されるように前記端部を覆う透光性部材をさらに有する分離装置。
  5. 少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材の前記表面の一部に設けられ、水溶液と接触した状態でこの接触部に光が照射されて、前記水溶液に由来する水蒸気が前記多孔質膜部材を透過するような分離部材であって、
    粉体である多孔質基材と、
    前記多孔質基材に導入または修飾され、吸収した光エネルギーを前記水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質と、
    を有する分離部材。
  6. 請求項において、
    前記光吸収性非光異性化性物質が色素である分離部材。
  7. 請求項1または2に記載の分離膜の前記光吸収性非光異性化性物質を水溶液と接触させた状態で、前記光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを前記水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長を含む光をこの接触部に照射して、前記水溶液に由来する水蒸気が前記分離膜を透過するようにした水溶液の膜分離方法。
  8. 請求項またはに記載の分離装置を用いた水溶液の膜分離方法であって、
    前記流通管に入れられた水溶液を、前記分離膜に下方から接触させた状態で、前記光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを前記水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長を含む光をこの接触部に照射して、前記水溶液に由来する水蒸気を前記分離膜の上方に透過させる水溶液の膜分離方法。
  9. 請求項またはにおいて、
    前記水溶液が塩化ナトリウムを含有する水溶液の膜分離方法。
  10. 光異性化反応を起こさない水溶性色素を含む水溶液を、少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材の前記表面の一部に接触させた状態で、前記水溶性色素が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、前記水溶液に由来する水蒸気が前記多孔質膜部材を透過するようにした水溶液の膜分離方法。
  11. 光吸収性非光異性化性物質を含む水溶液を、多孔質膜部材に下方から接触させた状態で、前記光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、前記水溶液に由来する水蒸気を前記多孔質膜部材の上方に透過させる水溶液の膜分離方法。
  12. 請求項1または2に記載の分離膜の前記光吸収性非光異性化性物質に水溶液を接触させた状態で、前記光吸収性非光異性化性物質が吸収した光エネルギーを前記水溶液中の水の気化エネルギーとして放出するような波長を含む光をこの接触部に照射して、前記水溶液に由来する水蒸気が前記分離膜を透過するようにし、
    前記透過した水蒸気の凝縮水、または前記凝縮水を含むとともに、前記水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で前記溶質を含む膜分離水を得る浄化水の製造方法。
  13. 多孔質膜部材と、前記多孔質膜部材に設けられ、吸収した光エネルギーを水溶液中の水の気化エネルギーとして放出する光吸収性非光異性化性物質とを備える分離膜に、前記水溶液を下方から接触させた状態で、前記光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、前記水溶液に由来する水蒸気を前記多孔質膜部材の上方に透過させて、
    前記透過した水蒸気の凝縮水、または前記凝縮水を含むとともに、前記水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で前記溶質を含む膜分離水を得る浄化水の製造方法。
  14. 請求項13において、
    前記光の照射により、前記水溶液が自動的に汲み上げられて前記分離膜に供給される浄化水の製造方法。
  15. 請求項13または14において、
    前記水溶液が塩化ナトリウムを含有する浄化水の製造方法。
  16. 光異性化反応を起こさない水溶性色素を含む水溶液を、少なくとも表面の一部が疎水性である多孔質膜部材の前記表面の一部に接触させた状態で、前記水溶性色素が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、前記水溶液に由来する水蒸気が前記多孔質膜部材を透過するようにし、
    前記透過した水蒸気の凝縮水、または前記凝縮水を含むとともに、前記水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で前記溶質を含む膜分離水を得る浄化水の製造方法。
  17. 光吸収性非光異性化性物質を含む水溶液を、多孔質膜部材に下方から接触させた状態で、前記光吸収性非光異性化性物質が吸収する波長を含む光をこの接触部に照射して、前記水溶液に由来する水蒸気を前記多孔質膜部材の上方に透過させて、
    前記透過した水蒸気の凝縮水、または前記凝縮水を含むとともに、前記水溶液に含まれていた溶質の濃度より低い濃度で前記溶質を含む膜分離水を得る浄化水の製造方法。
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