モバイル端末における表示画像の拡大や縮小などは、多点同時接触による操作を行うことが一般的である。このため、モバイル端末に導入する接触検知式入力装置は、画面の多点同時接触点を個別に識別検知する機能を有することが必須である。これを可能にするため、従来の表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法は、検知容量変動型が用いられている。
検知容量変動型の接触検知式入力手法における接触事象の検知原理の概要について、以下で図面を参照しながら説明する。図1は、検知容量変動型の接触検知式入力装置の概略構造を示す平面図である。ガラス基板上に透明電極よりなる四角形の電極が隙間を空けて密に敷き詰められており、対角線が縦または横方向を成して隣接する電極が互いに接続されて一体化し、それぞれが独立した電極線を形成している。これにより、電極線は略格子状に配置され、各交差部では絶縁膜を介して重なる構造となっている。ここでは便宜的に、縦方向に一体化した電極線の番号をそれぞれX1、X2、・・・、Xnとし、横方向に一体化された電極線の番号をそれぞれY1、Y2、・・・、Ymとする。
各電極線Xj(j=1,2、・・・、n)およびYi(i=1、2、・・・、m)は、それぞれ独立に制御回路と接続されており、各電極線Xj(j=1,2、・・・、n)に接続された制御回路は電流の計測を常時行う。これに対して各電極線Yi(i=1、2、・・・、m)に接続された制御回路は、Y1、Y2、・・・、Ymの順番で時分割的に選択し、選択された電極線Yi(i=1、2、・・・、m)に対して交流電圧を印加する。
図2~図5は、検知容量変動型の接触検知式入力手法における接触検知原理を示す概念図であり、ここでは例として電極線X1と電極線Y1の交差部近傍においてそれぞれの電極部が隙間を空けて配置された箇所の断面を模式的に示している。電極線Y1は交流電源が接続されており、非選択期間には例えば接地電位が給電される。電極線X1は電流計を介して接地されており、電極線X1の電位は常に接地電位に固定されていると見なすことができる。この電流計は便宜的に配置したものであって、実際に当該部位に電流計が配置されるものではなく、制御回路によって当該部位を流れる電流を計測することを模式的に示すものである。ここで、当該部を流れる電流は、接触事象により変化するため、この電流の計測によって接触事象を検知することができるので、接触事象検知電流または単に検知電流と呼ぶことにする。
図2は、電極線Y1が非選択且つ指が非接触の場合を示す。この時、電極線X1の電極部と電極線Y1の電極部の電位は共に接地電位に等しいと見なすことができ、両電極部間に電気力線は発生しない。図3は、電極線Y1が選択されて交流電圧が印加され、且つ指がガラス基板に非接触の場合を示す。この時、電極線X1の電極部と電極線Y1の電極部の間に電位差が生じて両電極部間に電気力線が発生し、両電極部間に検知容量が形成される。この検知容量を介して電極線Y1に印加される交流電圧によって電極線X1に電流が流れる。図4は、電極線Y1が非選択且つ指がガラス基板に接触した場合を示す。人体は靴などを通じて地面と接地されていると見なすことができるため、指の電位は接地電位であると見なすことができる。この時、図2の場合と同様に電極線X1の電極部と電極線Y1の電極部の電位は共に接地電位に等しいと見なすことができる。即ち、両電極部および指の間に電位差は無く力線は発生せず、電極線X1に電流が流れない。図5は、電極線Y1が選択されて交流電圧が印加され、且つ指が接触した場合を示す。この時、図3の場合と同様に電極線X1の電極部と電極線Y1の電極部の間に電位差が生じて両電極部間に電気力線が発生するが、その電気力線の一部は指に向う。このため、指を接触しない図3の場合と比べて、両電極部間に形成される検知容量は小さくなり、電極線X1を流れる電流も低下する。
このように検知容量変動型の接触検知式入力手法では、指が接触していない場合でも、電極線Yi(i=1、2、・・・、m)の時分割的選択に対して電極線Xj(j=1、2、・・・、n)には交流電流が流れることになり、これを基本電流と呼ぶ。そして例えば電極線Yi(i=1、2、・・・、m)の電極部と電極線Xj(j=1、2、・・・、n)の電極部が隙間を介して対向する付近に指が接触した場合、電極線Yi(i=1、2、・・・、m)が選択された時にのみ電極線Xj(j=1、2、・・・、n)を流れる電流が基本電流から変位する。従って、この変位した電流を基本電流から分離して計測することで、接触検知を行う。これにより、指が多点同時接触した場合でも、接触位置を識別することができる。
ここで、電極線X1を流れる検知電流計測の基本原理、即ち制御回路においてガラス基板に指が接触したことによる電流の変位成分を分離する手法について、制御回路で処理された電流変化の段階を追って以下で図面を参照しながら説明する。先ず、ガラス基板に指が非接触の状態を考える。この場合の制御回路へ伝わった電極線X1を流れる電流、即ち基本電流を図6に示し、これは電極線Y1に印加された交流電圧に起因する電流であるため、交流電流となっている。この交流電流に対する処理の第一段階として、この交流電流に対して電流電圧変換により電圧信号への変換を行う。変換された電圧波形を図7に示す。続いて、整流処理を行う。整流処理が行われた後の電圧波形を図8に示す。次に、平滑化処理を行う。平滑化された電圧は直流となり、その電圧波形を図9に示す。この電圧は、基本電流を電圧信号に変換したものなので、基本電圧と呼ぶことにする。これに対してガラス基板に指が接触すると、上述したように検知電流が減少するので、平滑化処理を行った後の電圧波形は図10に示すようになる。即ち、図10の非接触期間では電極間に生じる電界によって形成される容量に起因した基本電流に対する電圧が図9と同じ電圧になっているが、接触期間では電極端から発する電気力線の一部が指に達して指と電極との間に新たな容量を生じるため、電極間に形成される容量が低減する。これにより、電極線X1を流れる電流が減少し、結果的に図10に示す接触期間の電圧が低下する。次に、平滑化された電圧から基本電圧を差引くことで、指の接触によって変位した電圧成分のみを分離することができ、この様子を図11に示す。続いて、分離した変位電圧成分に対して極性反転と増幅処理を行った状態を図12に示す。ここで、図11は基本電流を完全に差引くことができた場合を示している。この場合、任意の倍率で増幅しても図12に示すように接触事象に起因した変位電圧成分の増幅信号しか含まれていないため、接触事象に起因した電流にバラツキがあったとしても、それが極端に大きくない限りこの後の検知信号処理を容易に行うことが可能であり、複雑な処理回路を要することなく安価に高感度の接触事象検知を実現することが出来る。また、基本電流にバラツキが無い場合、画面全体で一律に同じ値の基本電流を差引くことができるので、更に低コストを実現できる。
しかしながら、基本電流にバラツキが有る場合は一律に同じ値の基本電流相当分の電圧を差引くことができないため、各電極部間容量に付随する各電極線に対する基本電流に相当する電圧を記録したルックアップテーブルを用いて差引くことになる。この場合、ルックアップテーブルの作成のために基本電流のバラツキを正確に測定し、これを電圧に変換してメモリーに保存し、これを制御回路内で適時正確に読み出した後、差引くための電圧を正確に再現することが必要となる。この過程で制御回路を構成する各素子の製造バラツキに起因した特性バラツキ等によって差引くための電圧を正確に再現することが難しく、差引いた差分が検知信号に残ることになり、この状態を図13に示す。この差引いた差分の電圧は、個々の電極部間容量毎に異なるため、新たなバラツキを含んだ状態の検知信号として、次ステップの検知信号処理回路へと伝達される。図14は基本電流に相当する電圧を差引いた差分のバラツキと接触事象に起因した電流にバラツキがある場合の変位電圧成分のバラツキを含んだ信号が、極性反転と増幅の処理が行われた後に次ステップの信号処理回路に伝達された様子を示し、太線はバラツキが無い場合の接触事象に起因した変位電圧成分を示す。図14より、接触事象に起因した電流にバラツキがなかった場合でも基本電流のバラツキがあると、変位電圧成分と基本電流に起因した差分電圧との差が小さい場合は、接触事象に起因した電圧圧変化として変位電圧成分を制御回路にて容易に検出することができず、更に複雑な信号処理を行う必要がり、制御回路のコストが増大する。また、両電圧の差が小さい場合は、複雑な処理を行う高価な回路を用いたとしても接触事象の検知ができない場合も起こり得る。特に、接触事象に起因した電流自体のバラツキが大きい場合にはこの状況が助長され、接触事象の検知が行えず、より一層の検知感度の低下を招くことになる。
ここで述べた変位電圧成分の分離手法は基本的な原理を記すものであり、ここで述べた手法に限られるものではなく様々な手法が提案されている。例えば、図12に示す段階で増幅処理を行う場合を例として述べたが、この増幅処理にはオペアンプなどを用いる必要があった。これに替わるものとして積算回路を用いることで制御回路の簡素化と低コスト化を図る手法が挙げられる。この場合、例えば、図7に示すように交流電圧信号に変換した後、先ず図15に示すように整流処理を行い、続いて電圧信号を正極性と負極性に分割し、負極性の電圧信号に対して極性反転を行う。このとき、図16に示すように、分割された二つの電圧信号は互いに半周期ずれている。次に、積算回路によって分割された二つの電圧信号を合成すると、図17に示すように選択期間において時間の経過と共に電圧が階段状に増幅される。この場合、検知容量に印加される印加交流電圧の周波数が高いほど増幅率が高くなる。増幅された電圧信号は、図6~図14を用いて説明した場合と同じ比率で基本電流も増幅されて含んでいるため、同様に非接触期間に増幅された電圧信号を基本電流に起因した電圧として差引く必要がある。即ち、図6~図14を用いて説明した場合と同様に、基本電流を完全に取り除くことができれば、接触事象に起因した電流に多少のバラツキがあっても高い検知感度が得ることができる。逆に基本電流バラツキがある場合などの基本電流を完全に取り除けない場合、基本電流に起因した差分電圧の増大と共に検知感度が低下と制御回路コストの増大を招き、更には接触事象に起因した電流のバラツキがある場合は、検知感度の低下と制御回路コストの増大を助長することになる。図6~図17を使って説明した、これらの変位電圧成分の分離手法は検知容量変動型に対して特有の手法ではなく、電流変化によって接触を検知する全ての手法に対して広く用いることができるものである。更には、変位電圧成分を分離した後に行われる接触事象検知のための信号処理手法についても様々な方式が提案されている。しかしながら、これらの信号処理手法は本発明に影響しないため、これ以上の説明は行わない。
また、図1~5を用いて説明した検知容量変動型の接触検知式入力手法では、検知容量を構成する一方の電極である電極線Yi(i=1、2、・・・、m)の電極部に交流電圧を印加し、他方の電極である電極線Xj(j=1、2、・・・、n)およびこれに接続された配線の電位を接地電位とし、接地電位の配線に流れる電流の計測を行う。これは、ローサイド電流検知と呼ばれるものであり、簡素な電流計測回路によって実施することができ、回路のコストを抑制することができる。
ところで、電極線Yi(i=1、2、・・・、m)の電極部と電極線Xj(j=1、2、・・・、n)の電極部は共に薄膜電極よりなるため両電極部が対向する面積は極めて小さく、両電極部間に形成される容量は小さい。また、ガラス基板に指を接触する場合、両電極間に発生する電気力線の一部はミクロンオーダーの両電極部間隔よりも大きいサブミリメートルオーダーの厚みを有するガラス基板を介して指に至るため、指が接触したことによって電極部間に形成される容量の変化は非常に小さいものとなる。このため、ガラス基板に指が接触したことによって生じる、電極線Xj(J=1,2、・・・、n)を流れる電流の変化量も非常に小さいものとなる。
一般に、容量に交流電圧を印加して配線に交流電流を流す場合、印加電圧の周波数の増大に伴って流れる電流も増大することが広く知られている。このため、指の接触検知に対する十分な感度を得るためには、選択された電極線Yi(i=1、2、・・・、m)に印加する交流電圧の周波数を大きく設定することが必要となる。
ここで、図2~図5は電流検知原理の概念を示すものであるため、電極線X1の電極部と電極線Y1の電極部のみ図示している。しかし、実際にモバイル端末などに表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法として適用する場合、これらの電極線や電極部が表示機能のための配線や電極と絶縁膜を介して交差することになり、これらの交差部に容量を形成する。特に、電流を計測する側である電極線Xj(j=1,2、・・・、n)の容量が増大すると、交差部に形成された容量に起因した電流が増大、即ち基本電流が増大することになる。この結果、基本電流に対する変位電流の割合が更に小さくなって分離が難しくなり、更なる周波数の増大が必要となる。
しかしながら、一般に、印加電圧の周波数を上げていくとやがて電流は減少に転じ、配線の抵抗と容量によって決るCR時定数が増大すると電流が減少に転じる周波数が低下する。即ち、検知感度を高めるための周波数増大には限界がある。このため、検知容量変動型の検知式入力手法では、配線のCR時定数による制約を受けて画面サイズと画素数に対して適用可能な上限が存在する。表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法として検知容量変動型を適用する場合の画面サイズ上限は、画素数が1920×1080のフルスペックハイビジョンではおよそ7インチである。これにより、表示画面内蔵方式の検知容量変動型の接触検知式入力手法は、画面サイズが小さい一部のスマートフォンにのみ実施されている。
7インチを超える画面サイズに対して表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法を適用するには、検知容量変動型よりも大きな検知電流を得ることで印加電圧周波数の低減を図り、これにより検知電流が流れる電極線の時定数による制約条件を緩和する必要がある。このためには、検知容量変動型に替わって非接触での接触事象検知が可能なほど大きな検知電流が得られる検知容量適時形成型を導入することが挙げられる。
検知容量適時形成型の接触検知式入力手法における接触事象の検知原理の概要について、以下で図面を参照しながら説明する。図18は、検知容量適時形成型の接触検知式入力装置の概略構造を示す平面図である。これは、図1に示す検知容量変動型の接触検知式入力手法の概略構造平面図と同一であり、電極線Yi(i=1、2、・・・、m)に対して順次時分割的な選択を行わない点、即ち同一構造に対して制御方法のみ異なる。
図19~図20は検知容量適時形成型の接触検知式入力手法における接触検知原理を示す概念図であり、ここでは例として電極線X1と電極線Y1の交差部近傍においてそれぞれの電極部が隙間を空けて配置された箇所の断面を模式的に示している。電極線X1と電極線Y1は互いに同期した交流電源が接続され、電極線X1の電極部と電極線Y1の電極部の電位は常に等しくなるように設定されている。これにより、両電極間には電気力線が発生せず、容量は形成されない。また、電極線X1の電極部と電極線Y1の電極部は共に電流計を介して交流電源と接続されているように図示されているが、この電流計は便宜的に配置したものであって、実際に当該箇所にて検知電流の計測を行うのではなく、制御回路によって当該部位を流れる検知電流の計測を常時行うことを模式的に示すものである。
図19は、指がガラス基板に非接触の場合を示し、上述のように両電極部間に電気力線が発生せず、容量が形成されない。図20は、指がガラス基板に接触した場合を示す。この時、両電極部と指の電位が異なるため、両電極から指に向う電気力線が発生し、両電極と指との間に検知容量が形成され、電極線X1と電極線Y1には電流が流れる。このように検知容量適時形成型の検知容量は電極と指との重なる面積に略等しい領域に形成されるため、検知容量変動型の場合と比べて十分大きなものとなる。これにより、両電極に流れる検知電流も十分大きなものとなり、非接触でも検知できるほどの高い検知感度が得られる。よって、交流電源の周波数の低減を図ることができるので、電極線のCR時定数による適用画面サイズの上限を大きく引上げることが可能となる。
しかしながら、ここで述べた検知容量適時形成型の接触検知手法では両電極部の電位が常に等しくなるよう設定することで大きな検知容量を得ているため、各電極線を時分割的に順次選択する駆動を行うことができず、多点同時接触の場合の接触点を識別することができない。この問題を解決するためには、図21に示すように各電極部を電極線から切り離した検知電極120a、120b、120c、・・・とし、各検知電極と制御回路の接続端子とを1対1で接続する手法が挙げられる。センサー装置がセンサー以外の機能を備えている場合、各検知電極120a、120b、120c、・・・は、微細なセンサー電極の集合体となり、各センサー電極はそれぞれ他の機能を有する能動回路領域に配置される。即ち各検知電極120a、120b、120c、・・・は、能動回路領域の集合体である能動ユニットにおけるセンサー電極の集合体、あるいは各センサー電極が互いに電気的に接続して一体化電極を構成することになる。
ここで、図19~図20は電流検知原理の概念を示すものであるため、電極線X1の電極部と電極線Y1の電極部のみ図示している。しかし、実際にモバイル端末などに表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法として適用する場合、これらの電極線や電極部が表示機能のための配線や電極と絶縁膜を介して交差することになり、これらの交差部に容量を形成する。電極線Yi(i=1、2、・・・、m)と電極線Xj(j=1、2、・・・、n)に交流電圧が印加されるため、この交差容量を介して電極線Yi(i=1、2、・・・、m)と電極線Xj(j=1、2、・・・、n)から表示機能のための配線や電極に向かって電流が流れる。即ち、検知容量変動型の場合と同様に、ガラス基板に指が接触していない場合でも電極線Yi(i=1、2、・・・、m)と電極線Xj(j=1、2、・・・、n)に基本電流が流れることになる。このため、ガラス基板に指が接触することによって変位した電流を、基本電流から分離して計測することによって接触の検知を行うことになる。
また、ここで述べた検知容量適時形成型の接触検知式入力手法では、電極線Yi(i=1、2、・・・、m)と電極線Xj(j=1、2、・・・、n)は共に、交流電圧を印加する配線に流れる電流の計測を行っている。これは、ハイサイド電流検知と呼ばれる手法であって、ローサイド電流検知手法と比べて回路構成が複雑となり、大幅なコスト増大を伴うものである。
[1対1接続した検知容量適時形成型の接触検知式入力手法]
検知電極と制御回路接続端子を1対1で接続することによって多点同時接触位置の識別を可能にした検知容量適時形成型の接触検知式入力機能を、フリンジフィールドスイッチングモードの液晶表示装置の表示画面に適用した従来の実施例について、以下で図面を参照しながら説明する。フリンジフィールドスイッチングモードの液晶表示装置とは、液晶表示装置における代表的な高視野角化技術の一つとして今日では広く用いられているものであって、その技術は本発明とは無関係であり、また本発明を液晶表示装置に適用する場合はフリンジフィールドモードの液晶表示装置に限られるものではないため、フリンジフィールドモードの液晶表示装置についての詳細な説明は行わない。
先ず、第一のガラス基板上にMoW合金をスパッタリング法により300nm成膜した後、フォトリソグラフ工程により走査信号線100を所定の形状に加工する。このときの画素の平面図を図22に示す。次に、インジウムと錫の酸化物(以下、ITO)よりなる透明電極層をスパッタリング法により40nm成膜した後、フォトリソグラフ工程により画素電極101を所定の形状に加工する。このときの画素の平面図を図23に示す。次に、ゲート絶縁膜としてSiO2を化学的気相成長法により300nm成膜し、続いてInGaZnO4をスパッタリング法により10nm成膜した後、フォトリソグラフ工程によりInGaZnO4をトランジスタの半導体層102として所定の形状に加工する。このときの画素の平面図を図24に示す。その次に、SiO2を化学的気相成長法により200nm成膜した後、フォトリソグラフ工程により半導体層のチャネル保護層103として所定の形状に加工する。このときの画素の平面図を図25に示す。次に、フォトリソグラフ工程によりSiO2を所定の形状に加工して走査信号給電電極、即ち制御回路接続端子となる走査信号線端部のMoW合金層を露出し、また画素電極101とトランジスタとを接続するためのコンタクトホール104を形成する。このときの画素の平面図を図26に示す。次に、AlNd合金をスパッタリング法により300nm成膜した後、フォトリソグラフ工程により所定の形状に加工し、トランジスタのソースまたはドレインとなる電極105と電極106、および表示信号線107と検知信号を制御回路に伝えるための検知信号引出線108を形成する。このときの検知信号引出線を配置し且つ検知電極と検知信号引出線108を接続する画素の平面図を図27に示す。次に、層間絶縁膜としてSiO2を化学的気相成長法により300nmを成膜し、続いてアクリル樹脂を3um塗布成膜した後、フォトリソグラフ工程により所定の形状に加工して走査信号線100と表示信号線107及び検知信号引出線108それぞれの端に位置するそれぞれの給電電極部、即ち制御回路接続端子部の金属層を露出し、また検知信号引出線108と検知電極が接続するためのコンタクトホール109を形成する。このときの検知信号引出線を配置し且つ検知電極と検知信号引出線108を接続する画素の平面図を図28に示す。次に、ITOをスパッタリング法により40nm成膜した後、フォトリソグラフ工程により検知電極110を、フリンジフィールドスイッチングモードに対応したスリット112を有する所定の形状に加工する。このときの検知信号引出線を配置し且つ検知電極110と検知信号引出線108を接続する画素の平面図を図29に示す。最後に、第二のガラス基板上にカラーフィルターを配置した対向基板と共に液晶層を挟持し、制御回路を接続して出来上がる。従来技術の本実施例の製造方法は、ここで述べた方法に限られるものでないことは言うまでもない。
表示画面内蔵方式の検知容量適時形成型接触検知式入力手法では、接触検知の分解能にも依るが、およそ5mm角の能動ユニットに属する複数の画素に含まれる検知電極が電気的に接続されて一体化して一つの巨大な検知電極として機能する。図30は、一つの能動ユニット111を構成する画素の配置を示す概略平面図であり、各画素の検知電極110は上下左右に隣接する画素の検知電極と接続して一体化している。能動ユニット111内には検知信号引出線108が1本だけ配置され、一体化した検知電極110はコンタクトホール109を介して検知信号引出線108と接続されている。
図31は、能動ユニット内で電気的に一体化した検知電極が検知信号引出線によって制御回路接続端子と1対1で接続される様子を示す概念図である。液晶表示パネル125には画素がマトリクス状に配置されているので、能動ユニット何に配置された一点鎖線で示す電気的に一体化した検知電極120もマトリクス状に配置されている。電気的に一体化した検知電極120はそれぞれ、模式的に黒丸で示す電気的接続点122において検知信号引出線121の一端と接続され、他端は模式的に白丸で示す制御回路接続端子123と接続されている。各制御回路接続端子123は、制御回路124と接続されている。
画面の表示を1秒間に60回書き換えるフレーム周波数60Hzの場合、1画面の表示時間であるフレーム期間の長さは約16.7msである。表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法では、フレーム期間の75%程度を表示動作期間として画素を画面表示のために動作させ、残りの25%程度の期間をセンサー動作期間として画素を接触検知のために動作させる。図8において、特に両期間において検知電極110は、検知信号引出線108を介して制御回路によって機能を大きく切り替えられる。
表示動作期間では、検知電極110は表示動作のためにコモン電位が給電される。そして、検知電極110の電位と画素電極101の電位の差が所定の電圧となるように表示信号線107からトランジスタを介して画素電極101に表示信号電位が印加される。この時に発生する電界によって液晶分子の配向状態を所定の配向状態に変化させることで液晶層に入射した光の透過率を制御して表示動作を行う。
センサー動作期間では、図31に示すようにマトリクス状に配置された能動ユニットが一行ずつ時分割的に順次選択される。即ち、選択された同一の行方向に配置されている各一体化検知電極120は、制御回路接続端子123および検知信号引出線121を介して制御回路124から交流電圧が印加される。これにより、図19~図20を用いて説明したように、一体化検知電極120が接触事象によって指などとの間に形成する検知容量に応じて検知信号引出線121に電流が流れ、制御回路接続端子123を介して制御回路124でこの電流を計測することで接触事象の検知を行う。また、非選択行に配置された各一体化検知電極120には、それぞれ対応する検知信号引出線121および制御回路接続端子123を介してコモン電位が給電され、表示期間と同じ表示動作を行う。
図32~図33は、センサー動作期間に選択された行に配置された画素について、図19~図20に倣って本実施例の検知動作原理を示す画素の概略断面図である。フリンジフィールドスイッチングモードに対応してスリットを有する検知電極110が、ゲート絶縁膜を始めとする絶縁膜層132を挟んで画素電極101の上に配置されており、その上方に液晶層131とガラスよりなる対向基板130が配置されている。そして、検知信号引出線135には電流計と交流電源が直列に接続されているが、これは制御回路によってハイサイド電流検知を行うことを便宜的に示すものである。ここで、画素電極101の電位は表示動作期間と同一且つ検知電極110の電位と異なるため両電極間には電気力線が発生するが、図の煩雑化を回避するために省略している。
図32は指が非接触の場合であり、既に述べたように検知信号引出線135と検知電極110には交流電圧が印加されるため、検知電極110と画素電極101の間に形成される容量などを介して電流が流れる。即ち検知信号引出線135には基本電流が流れることになる。図33は指が接触した場合であり、指136、即ち人体は接地電位と見なすことができ、検知電極110から発した電気力線133は指136に集中して検知電極110と指136の間に検知容量134が形成される。これにより、検知電極110と指136の間に形成される検知容量134に応じて検知信号引出線135に流れる電流が変位する。この電流変位を制御回路にて計測することで接触事象の検知を行う。
ここで、フレーム周波数を60Hzかつセンサー動作期間が25%の場合、センサー動作期間は、液晶分子が白表示の配向状態から黒表示の配向状態への変位に起因した表示輝度変化の緩和時間とほぼ同じ約4msである。中間調の階調間における表示輝度変化の緩和時間は更に長くなることが広く知られている。そして、各行方向に配置された能動ユニットの選択期間は、列方向の能動ユニット配置数でセンサー動作期間を割ったもの相当する。即ち、各能動ユニットの選択期間は液晶層印加電圧の変化による表示輝度変化の緩和時間よりも十分短く、選択期間における表示輝度の変化は十分小さく無視することができる。即ち、画質への影響は無いと見なすことができる。
以上述べたように本実施例は、検知容量適時形成型を用いることで従来の適用限界であった7インチを超える画面サイズに対して、多点同時接触位置の識別が可能な表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法の適用を可能にする技術を提供するものである。
しかしながら、能動ユニット111内の一体化検知電極120と制御回路接続端子123を1対1で接続しなければならないため、非常に多くの制御回路接続端子123が必要となる。例えば、能動ユニットのサイズを5mm角としたとき、画面サイズ7インチのフルスペックハイビジョンでは制御回路接続端子123の数は500個を越え、専用のドラバーICが1つ必要になる。そして、御回路接続端子123の数は画面サイズの二乗に比例して増大することになる。更には、低コスト化のためにドライバーICの使用数を1つでも減らすことを強く求められているディスプレイ業界にとって、御回路接続端子123の数が増える技術の製品化は現実的ではない。
更には、図31では煩雑化を回避するために図示していないが、実際には制御回路接続端子123の配置の隙間には少なくとも表示信号線107の給電電極が配置される。即ち、制御回路接続端子123の数の増大に伴い、制御回路接続端子123および表示信号線107の給電電極のピッチが小さくなってそれぞれの制御回路との接続歩留りの低下や、あるいは制御回路接続端子123および表示信号線107の給電電極の配置場所を確保するために液晶表示パネル125の外形サイズを広げる必要が生じるなどの不具合が顕在化する。これにより、本実施例で示す技術の実用性は益々低下する。
能動ユニット111内の一体化検知電極120と制御回路接続端子123を1対1で接続することによる制御回路接続端子123の数の増大抑制および低減を図る手段として、マルチプレクサの導入が考えられる。マルチプレクサは、複数の入力信号の中から選択した信号のみを出力する素子回路であり、信号の選択はスイッチング素子としてトランジスタが用いられる。
[マルチプレクサを導入した検知容量適時形成型の接触検知式入力手法]
図31において一体化検知電極120がマトリクス状に配置された領域と制御回路接続端子123が配置された領域との間にマルチプレクサを配置することによって、制御回路接続端子数の低減を図った多点同時接触位置の識別が可能な検知容量適時形成型の接触検知式入力機能を、フリンジフィールドスイッチングモードの液晶表示装置の表示画面に内蔵した従来技術の実施例について、以下で図面を参照しながらその概要を説明する。
図34は本実施例の動作原理を示す概略平面図であり、トランジスタ141で構成されるマルチプレクサ140部分のみ等価回路で示している。ここでは例として能動ユニットが3行3列に配置されており、マルチプレクサ140は能動ユニットと同数のトランジスタ141で構成されている。各能動ユニットには一体化検知電極120が配置されている。行方向に配列した各能動ユニットに対応するトランジスタ141それぞれのゲート電極は選択信号線145に接続され、選択信号線145の終端はマルチプレクサの制御回路接続端子146に接続されている。列方向に配置された能動ユニットに対応する各選択信号線145は、マルチプレクサの制御回路接続端子146を介して制御回路から時分割的に順次選択信号が給電され、同一の選択信号線145に接続された各トランジスタ141は同期してON状態とOFF状態の切替えが行われる。各能動ユニット内の一体化検知電極120は検知信号引出線121の一端と電気的接続点122において接続され、検知信号引出線121の他端は対応するトランジスタ141のソースまたはドレインとして機能する一方の電極144と接続されている。各トランジスタのソースまたはドレインとして機能する他方の電極143は、列方向に配置された各能動ユニット内の一体化検知電極120が共用する制御回路接続端子123と接続されている。
同一の制御回路接続端子123を共有する列方向に配置された各能動ユニット内の一体化検知電極120は、それぞれ対応するトランジスタ141がON状態になったときに制御回路接続端子123を介して制御回路124から交流電圧が印加され、同時に対応する検知信号引出線121に流れる電流の計測に基づいた接触事象の検知が行われる。これにより、マルチプレクサの導入によって制御回路接続端子123の数は能動ユニットの列の数と同数に大幅な低減が可能となる。
しかしながら本実施例では、マトリクス状に配置された各能動ユニット内の一体化検知電極120とマルチプレクサ140を構成する各トランジスタ141とは1対1で接続される。特に、列方向に配置された能動ユニットに対応してトランジスタ141も同方向に同数が配置される。これにより、マルチプレクサ140を導入するためには能動ユニットの列方向にトランジスタ141を配置するための領域を新たに確保しなければならない。即ち、マルチプレクサ140を能動ユニットの配置領域と制御回路接続端子123の配置領域との間の領域である額縁領域に配置すると、額縁領域幅が増大することになる。筐体サイズを少しでも縮小すること、或は同一の筐体サイズに対して少しでも表示画面サイズを拡大することが強く求められるモバイル端末等において、額縁幅の増大は極めて深刻な問題である。
額縁幅の増大を伴うことなくマルチプレクサを導入する手段として、図35に示すようにマルチプレクサを構成するトランジスタを画素内部に配置することが挙げられる。図35では、トランジスタ151を介して一体化検知電極150と検知信号引出線152とが電気的接続点155において電気的に接続されている。行方向の能動ユニットに配置されたトランジスタ151が、トランジスタ制御配線154によって時分割的に順次選択され、選択されてON状態となったトランジスタ151を介して一体化検知電極150から制御回路接続端子153へ向かって検知電流が流れることになる。これにより、額縁領域幅の増大を伴うことなく制御回路接続端子153の数を能動ユニットの列の数と同数に大幅に低減することが可能となる。しかし、この場合は表示機能に無関係なパターンであるトランジスタ151を画素に配置することになるため、開口率が低下するなど表示能力の低下が避けられない。このため、設計に際しては、開口率の低下を極力抑制する必要がある。
また、一体化検知電極150および検知信号引出線152は表示動作のための画素電極101や走査信号線100等と交差し、それぞれの交差部には容量が形成される。このため、制御回路接続端子153を介して一体化検知電極150および検知信号引出線152に制御回路から交流電圧が印加されると、一体化検知電極150および検知信号引出線152からこれらの交差部等に形成された容量へ電流が流れ、これが基本電流となる。検知信号引出線152と接続されたトランジスタ151の電極とトランジスタ151のゲート電極との間に形成されるトランジスタ151の容量が検知信号引出線152と電気的に接続された構造となっており、この容量も基本電流を生じる。即ち、マルチプレクサを導入すると基本電流が増大すると考えられる。上述のように基本電流が流れると接触事象の検知感度が低下する。基本電流にバラツキがある場合は、接触事象の検知感度がより一掃低下する。あるいは感度低下を抑制するために制御回路のコスト増大を招くことになる。更には、検知感度を向上させるためにマルチプレクサを構成するトランジスタ151のサイズを大きくすることで検知電流の増大を図る場合は開口率の低下を助長するだけでなく、交差容量の増大を伴うためより一層の基本電流増大を招くことにもなる。
この対策として、基本電流を低減する手法の導入が必要である。この手法として、制御回路の内部に差動回路を導入し、隣接する2本の検知信号引出線を流れる電流の差分を取ることで基本電流を取り除く方法が挙げられる。即ち、指が接触していない場合に隣接する2本の検知信号引出線121を流れる電流の差分を取ることで基本電流を取り除き、この差分の電流値に対して指が接触した場合の電流の変化を計測することで指の接触事象の検知を行うものである。しかしながら、この手法では基本電流のバラツキを取り除くことができないので、各検知信号引出線に流れる基本電流にはバラツキがないことが必要である。上述のように、基本電流にバラツキがある場合は検知電流自体のバラツキを許容することが困難になるため、基本電流のバラツキは極力小さいことが望ましく、好ましくは1%以下が望ましいと考えている。
例えば、検知信号引出線が構成する個々の交差容量の面積にバラツキがある場合は基本電流にバラツキが生じることになる。交差容量のバラツキ要因は幾つかあるが何れもなだらかに分布するため、5mm隔てた交差部に形成される容量の間に極端な差は生じない。しかしながら、本特許の発明者の経験に拠れば、例えばアルミニウム系の膜をウエットエッチングした場合に5mm隔てた二本の配線の幅は±0.1~0.2μm程度のバラツキが頻繁に生じる。近年のモバイル端末向け表示画面用基板の表示信号線幅は3μm程度となっている。配線幅3μmに対して0.1μm変動すると、交差面積は約3%変動することになり、配線の交差容量が基本電流の主要因である場合は基本電流のバラツキも同程度となる。
このような製造工程における加工精度による線幅バラツキが基本電流のバラツキ要因となるだけではなく、同時に検知信号引出線の容量と抵抗、トランジスタ151のサイズバラツキによる容量と抵抗、および検知電極のバラツキによる検知容量のバラツキも生じるため、検知電流自体のバラツキを伴うことになる。上述のように、基本電流を完全に差引くことができない状態で検知電流自体にバラツキがある場合、検知感度の低下やこれを補償するための制御回路コストの増大など招くことになる。検知電流自体のバラツキ要因として、その他の重要なものにトランジスタ特性バラツキが挙げられる。トランジスタの半導体層とソース及びドレイン電極との界面の抵抗は、界面状態に対して非常に敏感であるが、製造工程において界面状態を精密に制御することが極めて困難である。このため、隣り合う画素に配置されたトランジスタの特性を、互いに完全に一致させることは難しく、ある程度の幅を持ったバラツキの範囲内に収めることしかできず、差動回路にてこのバラツキは取り除くことができない。
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、7インチを超える画面サイズに対して安価に実現可能な表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法に基づいたセンサー装置を、従来よりも基本電流および基本電流のバラツキを低減することで大幅な感度の向上を図って提供することにある。詳しくは、これを実現するための設計条件を新たに導出し、提供することにある。
7インチを超える画面サイズに対して適用可能な表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法を実現するためには、先ず画面サイズに由来する電流検知経路の抵抗と容量で決る時定数に起因した制約を緩和することが必要である。そこで、非接触での検知が可能なほど検知感度が高く大きな検知電流が得られる検知容量適時形成型を用いることで印加交流電圧の周波数を低減し、時定数の制約を緩和する。検知容量適時形成型において多点同時接触位置の識別を行うため、検知電極と制御回路接続端子を1対1で接続する。この手法の問題点である制御回路接続端子数の増大を低減するために、マルチプレクサを導入する。更には、マルチプレクサを構成するトランジスタの容量に起因した基本電流の増大による接触事象検知感度の低下抑制対策として、基本電流の低減機構を導入する。基本電流は電流検知経路に交流電圧を印加することに起因して生じるため、基本電流の発生を根本的に解消する手法として本発明の共同研究者によって提案されている筐体電圧印加法を用いる。
筐体電圧印加法は、例えば一方の手が触れるモバイル端末等の筐体を通じて人体に交流電位を印加することで、画面に触れる他方の指に交流電位を与えるものである。これにより、電流検知経路を構成する検知電極や検知信号引出線などの電位を基準電位、例えば接地電位に固定することが可能となり、基本電流の発生を根本的に解消することができる。更には、固定電位側の経路を流れる電流を計測するローサイド電流検知を実現することができるため、制御回路の簡素化によるコスト低減を図ることができる。
図36に、本発明に至る研究に際して用いた等価回路図を示す。第一の領域200は指を表し、指には筐体を通じて交流電位Vが印加されている。第二の領域201は検知電極を表し、容量C4は表示画面表面のガラス基板に指が触れることによって指と検知電極の間に形成される容量である。第三の領域202と第四の領域203は、何れか一方は検知信号引出線を他方はマルチプレクサを構成するトランジスタを表し、それぞれの領域における容量C1とC2及び抵抗R1とR2は互いに伝送線路状に接続されている。第五の領域204は制御回路接続端子を表し、第四の領域203における抵抗R2を流れる電流I3が検知電流として制御回路へ到達することを表現しており、ローサイド電流検知により抵抗R2が接地されている。
本研究の初期段階において、例えば第三の領域202と第四の領域203における容量と抵抗の配置順序を始めとする時定数回路モデルの設定方法など、実デバイスとして考え得るあらゆるパラメータに対して様々回路構成の解析モデルについて検討を行った。図36に示す等価回路は、これら一連の検討により、本研究に対する解析モデルとして最適な等価回路として帰結したものである。
第一の領域200における印加交流電位の角周波数をω、虚数単位をjとすると、図36に示す等価回路における電流I1,I2,I3について、次の三つの式、式(1)~式(3)が成り立つ。
V={1/(jωC4))I1+{1/(jωC1)}(I1-I2) ・・・・・・(1)
{1/(jωC1)}(I1-I2)=R1I2+{1/(jωC2)}(I2-I3) ・・・・・(2)
{1/(jωC2)}(I2-I3)=R2I3 ・・・・・・(3)
式(1)~(3)より、制御回路に伝わる検知電流I3は、次の式(4)で表される。
I3=α/(β+γ+1) ・・・・・・・(4)
α=C4V〔{(C1+C4)R1+(C1+C2+C4)R2}ω^2+{ω―C2(C1+C4)R1R2ω^3}〕j
β=(C2^2){(C1+C4)^2}(R1^2)(R2^2)ω^4
γ=〔{(C1+C4)^2}(R1^2)+{(C1+C2+C4)^2}(R2^2)+2{(C1+C4)^2}R1R2〕ω^2
式(4)より、検知電流I3の大きさ|I3|は次の式(5)で表される。
|I3|=C4ωV/(β+γ+1)^(1/2) ・・・・・・(5)
ここで、「^」はべき乗記号を表し、例えばX^2はXの二乗を、X^(1/2)はXの平方根を表す。
図37は、C4が1pF、C1とR1がそれぞれ1pFと1MΩ、C2とR2がそれぞれ100pFと100Ωの場合について、導出した式(5)とSpiceによるシミュレーションによって求めた検知電流I3の大きさ|I3|の印加交流電圧の周波数依存性を示すグラフであり、黒太実線は式(5)から求めた結果を、白破線はSpiceによるシミュレーション結果を示す。検知電流I3の大きさ|I3|はデシベル表記としている。Spiceは高い解析精度を有する回路シミュレータとして、世界的に広く用いられているものである。両者の結果が完全に一致していることから、式(5)は正しく導出されたと言える。
ここで、図36の等価回路に対してハイサイド電流検知を行う場合を考える。このとき、図36の第一の領域200における交流電源は第五の領域に移動し、指を現す第一の領域は接地することになる。この場合の等価回路を図38に示す。図36に示すローサイド電流検知における電流I3の大きさLow-|I3|と、図38に示すハイサイド電流検知における電流I1の大きさHigh-|I1|および電流I3の大きさHigh-|I3|それぞれの印加交流電圧周波数依存性について、Spiceによるシミュレーション結果を図39に示す。図39において、黒太実線はローサイド電流検知における電流I3の大きさLow-|I3|を示し、細白破線はハイサイド電流検知における電流I1の大きさHigh-|I1|を示し、一点鎖線はハイサイド電流検知における電流I3の大きさHigh-|I3|をそれぞれ示す。ハイサイド電流検知における電流I3の大きさHigh-|I3|は制御回路にて計測される電流に相当し、容量C1および容量C2を介して接地先へ流れ出す基本電流を含んでいるため、基本電流が生じないローサイド電流検知における制御回路での計測電流に相当する電流I3の大きさLow-|I3|よりも周波数に拠らず大きくなっている。これに対してハイサイド電流検知における電流I1の大きさHigh-|I1|は基本電流を除いたものであり、差動回路等の基本電流低減機構の導入によって基本電流を差し引いた電流に相当する。このハイサイド電流検知における電流I1の大きさHigh-|I1|とローサイド電流検知における電流I3の大きさLow-|I3|の電流-印加交流電圧周波数特性が完全に一致している。即ち、検知電極と制御回路接続端子の間に検知信号引出線とトランジスタが配置された電流検知回路に対してハイサイド電流検知を行う際に、差動回路等の基本電流低減機構の導入によって計測電流から基本電流を取り除く場合、基本電流を取り除いた後の計測電流の電流─印加交流電圧周波数依存性は、同一の電流検知回路に対してローサイド電流検知によって計測される電流の電流─印加交流電圧周波数依存性と一致する。これにより、検知電流I3の大きさ|I3|を表す導出式(5)は、差動回路等の基本電流低減機構の導入によって基本電流を計測電流から取り除くハイサイド電流検知の場合にも成り立つことになる。
次に、図36に示すローサイド電流検知の等価回路において、第三の領域202をトランジスタとし且つ第四の領域203を検知信号引出線とした場合、即ちトランジスタを画素に配置した場合と、第三の領域202を検知信号引出線とし且つ第四の領域203をトランジスタとした場合、即ちトランジスタを額縁領域に配置した場合それぞれの検知電流I3の大きさ|I3|の印加交流電圧周波数依存性について、式(5)より求めた結果を図40に示す。図40において、実線はトランジスタを画素に配置した場合、破線はトランジスタを額縁領域に配置した場合について示し、検知電流I3の大きさ|I3|はアンペア表記としている。ここで、検知容量C4を1pF、トランジスタの容量と抵抗をそれぞれ1pFと1MΩ、検知信号引出線の容量と抵抗をそれぞれ100pFと100Ωとしている。即ち、トランジスタを画素に配置する場合はC1=1pF,R1=1MΩ、C2=100pF,R2=100Ωとし、トランジスタを額縁領域に配置する場合はC1=100pF,R1=100Ω、C2=1pF,R2=1MΩとした。図40では、トランジスタを画素に配置した方が検知電流I3の大きさ|I3|の最大値が大きくなっており、トランジスタのサイズ即ちトランジスタの容量と抵抗が同一であれば、トランジスタを画素に配置した方が額縁領域に配置するよりも接触事象に対する高い検知感度が得られることを示している。この理由を次ぎに説明する。
先ず、図37や図40に示したように、検知電流I3の大きさ|I3|の印加交流電圧周波数依存性のグラフは、周波数の増加に対して検知電流I3の大きさ|I3|が単調増加する低周波数領域と、周波数の増加に対して検知電流I3の大きさ|I3|の変化が小さい中周波数領域と、周波数の増加に対して検知電流I3の大きさ|I3|が単調減少する高周波数領域に分けて考えることができる。これは、検知電流I3の大きさ|I3|を表す式(5)において、検知電流I3の大きさ|I3|に対する印加交流電圧の周波数依存性が各周波数領域によって大きく異なることを示唆する。
研究の結果、式(5)より、検知電流I3の大きさ|I3|の印加交流電圧周波数依存性のグラフにおける低周波数領域は次の式(6)で、
|I3|=C4ωV ・・・・・・(6)
中周波数領域は次の式(7)で、
|I3|=C4V/{φ^(1/2)} ・・・・・・(7)
φ=〔{(C1+C4)^2}(R1^2)+{(C1+C2+C4)^2}(R2^2)+2{(C1+C4)^2}R1R2〕ω^2
高周波数領域は次の式(8)で、
|I3|=C4V/{C2(C1+C4)R1R2ω} ・・・・・・(8)
それぞれ近似できることが分かった。
ここで、「^」はべき乗記号を表し、例えばX^2はXの二乗を、X^(1/2)はXの平方根を表す。
第三の領域202がトランジスタであり且つ第四の領域が検知信号引出線である場合は、R1≫R2という関係が成り立つ。このとき、中周波数領域に対する近似式(7)は、次の式(9)のように簡略化することができることが研究により導かれた。
|I3|=C4V/{(C1+C4)R1} ・・・・・・(9)
同様に、第三の領域202が検知信号引出線であり且つ第四の領域がトランジスタである場合は、R1≪R2という関係が成り立ち、このとき中周波数領域に対する近似式(7)は次の式(10)のように簡略化することができる。
|I3|=C4V/{(C1+C2+C4)R2} ・・・・・・(10)
式(9)におけるC1とR1および式(10)におけるC2とR2は共にトランジスタの容量と抵抗を表しているのでそれぞれの値は一致し、式(10)におけるC1は検知信号引出線の容量である。このため、式(9)と式(10)の違いは分母における検知信号引出線の容量の有無であり、検知信号引出線の容量を有する式(10)の方が検知電流I3の大きさ|I3|の値が小さくなる。従って、マルチプレクサを構成するトランジスタを検知信号引出線と制御回路接続端子との間に配置する場合、即ち額縁領域に配する場合よりも、検知電極と検知信号引出線の間に配置する場合、即ち画素に配置する場合の方が大きな検知電流が得られ、接触事象の検知感度が高くなる。
一般にトランジスタの抵抗は、トランジスタを構成する半導体層における電荷輸送経路となるチャネルの長さLと幅Wに対してL/Wに比例すると見なすことができる。また、トランジスタの容量を極力小さくするため、チャネル長Lは製造プロセスの最小加工寸法に設定される。研究により、図40においてトランジスタを額縁領域に配置した場合に得られる検知電流の最大値がトランジスタを画素に配置した場合の最大値と同等となるためには、チャネル長Lを固定した状態でWの変化による容量の変化を考慮すると、額縁領域に配置するトランジスタのチャネル幅Wはトランジスタを画素に配置する場合の約100倍にする必要があるという結果を得た。例えば、トランジスタを画素に配置する場合のチャネル幅が10μmの場合、額縁領域にトランジスタを配置する場合に必要なチャネル幅は1mmとなる。このため、マルチプレクサを構成するトランジスタを額縁領域に配置する場合は額縁領域幅の著しい増大が避けらず、現実的ではない。特に額縁幅を少しでも細くしたいモバイル端末において極めて重大な問題となる。このことは、マルチプレクサを構成するトランジスタは、画素に配置することが好ましいことを示すものである。このため、以降の説明において特に断りが無い限りマルチプレクサを構成するトランジスタは画素に配置するものとし、C1とR1はマルチプレクサを構成するトランジスタの容量と抵抗を、C2とR2は検知信号引出線の容量と抵抗をそれぞれ表すものとする。
ここで、マルチプレクサを構成するトランジスタを画素に配置した場合として、C4=1pF、C1=1pF,R1=1MΩ、C2=100pF,R2=100Ωとした場合について、式(5)と、各周波数領域に対する近似式である式(6)と式(8)および式(9)から求めた検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性を図19に示す。図41において、灰色太実線は式(5)から求めた電流─印加交流電圧周波数依存性を、短破線は低周波数領域に対する近似式(6)を、点線は中周波数領域に対する簡略化近似式(9)を、長破線は高周波数領域に対する近似式(8)をそれぞれ示しており、各近似式はそれぞれ良い精度で近似できていることが分かる。特に中周波数領域において、R1≫R2という関係が成り立っていることから簡略化近似式(9)と非常によい精度で一致しているが、簡略化近似式(9)は周波数に対して一定値となっていることから、中周波数領域における周波数依存性は式(5)により上に凸であるものの周波数の変化に対する電流値の変化が極めて小さいことが分かる。このことから、中周波数領域における検知電流I3の大きさ|I3|の印加交流電圧周波数依存性は、中周波数領域全体に渡って略一定と見なすことができ、且つ最大値と見なして差し支え無いことを示している。即ち、中周波数領域に対する検知電流I3の大きさ|I3|の近似式は、検知電流の最大値|I3|maxを表していると見なして差し支え無い。
しかしながら、常にR1≫R2という関係、或はR1≪R2という関係が成り立つとは限らない。このため、中周波数領域に対する検知電流I3の大きさ|I3|の近似式として、一般的には簡略化していない式(7)を用いる必要がある。また、中周波数領域における簡略化近似式が成り立つ場合、簡略化近似式と非簡略化近似式は一致する。ここで、図41における一点鎖線は低周波数領域と中周波数領域に対する近似式の交点における周波数を、二点鎖線は中周波数領域と高周波数領域に対する近似式の交点における周波数をそれぞれ示し、これらの意味については後ほど説明する。
次に、得られた検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性のグラフにおいて設計ポイントを設定する手法について説明する。実際の設計においては、様々な設計条件を同時に満たした最適設計を行う必要がある。本発明の適用対象であるセンサー装置、詳しくは7インチを越える画面サイズに対して安価に実現可能な表示画面内蔵方式の接触検知式入力手法に基づいたセンサー装置の設計に際して特に要求されることは、接触事象の検知感度を極力向上させることである。このためには、先ず検知電流が極力大きくなるように設定する必要があり、次に基本電流を極力低減する必要がある。また、消費電力を極力低減するために、検知容量に印加する交流電圧の周波数を極力低減することも強く求められる。更には、表示性能の維持あるいは向上を図るための開口率向上、及び生産性向上による製造コストの低減を図るための歩留り向上も強く求められる。
実際の設計では、検知信号引出線の線幅は細くすると開口率が増大するが断線不良率の増加による歩留り低下を招くというトレードオフの関係にあり、開口率と歩留りのどちらを優先するかは製品仕様や製造工程の加工精度や断線修復設備の稼働状況により決まる。また、基本電流を低減する手段の導入によって検知電流に含まれる基本電流成分が小さくなるほど、検知電流が多少低下しても検知信号として重要な接触事象に起因した変位電圧成分を増幅することで容易に高い検知感度を得ることができるようになる。従って、このような状況の下で最適設計を行うには、既に導出した検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性を明確に表す式(5)及び各周波数領域に対する近似式(6)~(8)を用いて、これらの各条件をバランスよく満たしながら少しでも大きな検知電流が得られる設計ポイントを探し出して設定することになる。この結果、設定された設計ポイントが低または高周波数領域にあり、得られる検知電流が|I3|の最大値よりも大幅に小さくなる場合も十分に有り得る。
このようなことから、検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性において、各周波数領域の境界を明示する手法が必要となるが、検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性を表す式(5)は、全周波数範囲において上に凸であり、且つなだらかに連続であるため、周波数領域の境界となる明確な極値や屈曲点などが存在しない。そこで、これに替わるものとして、各周波数領域に対する近似式の交点を擬似屈曲点とすることにする。具体的には、低周波数領域に対する近似式(6)と中周波数領域に対する近似式(7)の交点を第一擬似屈曲点とし、中周波数領域に対する近似式(7)と高周波数領域に対する近似式(8)の交点を第二擬似屈曲点とする。このとき、第一擬似屈曲点の周波数に対する角周波数をω1、第二擬似屈曲点の周波数に対する角周波数をω2とすると、ω1およびω2はそれぞれ次の式(11)と式(12)で表されることが分かった。
ω1=φ^(-1/2) ・・・・・・(11)
ω2={φ^(1/2)}/{C2(C1+C4)R1R2} ・・・・・・(12)
ここで、「^」はべき乗記号を表し、例えばX^2はXの二乗を、X^(1/2)はXの平方根を表す。またφは次式で表される。
φ={(C1+C4)^2}(R1^2)+{(C1+C2+C4)^2}(R2^2)+2{(C1+C4)^2}R1R2
図41において、一点鎖線は第一擬似屈曲点に対する角周波数ω1を周波数に換算した値を、二点鎖線は第二擬似屈曲点に対する角周波数ω2を周波数に換算した値をそれぞれ表す。これにより、高い検知感度を得るためには検知電流を大きく設定することが好ましく、これを最優先設計条件とする場合は中周波数領域に設計ポイント設定することになるので、設計ポイントの角周波数をωとすると、ωの設定範囲はω1≦ω≦ω2となる。しかしながら、他の設計条件による制約が強く中周波数領域に設計ポイントを設定できない場合は、低周波数領域または高周波数領域に設定することになるが、両領域は中周波数領域に対して略対称であり、検知電流が取り得る範囲も両領域で同等である。即ち、同一の検知電流を得るための印加交流電圧周波数を低周波数領域と高周波数領域の二つの領域から選択することになる。一般に周波数が高くなると消費電力が増大するため、低消費電力化の要求が強い場合には、得られる検知電流が同じであれば周波数の低い低周波数領域に設計ポイントを設定することが好ましい。
逆に高周波数領域に設計ポイントを設定する場合、同一の検知電流を得るために高い消費電力を要することに加え、更なる弊害が発生する。本来は、検知電極の真上に位置しない指との間に形成される検知容量が小さく、且つこの検知容量に起因して流れる検知電流が十分に小さいことが望ましい。しかし、この小さな検知容量に高い周波数の電圧が印加されると、この小さな検知容量に起因して流れる検知電流が増大して無視できなくなる。この結果、センサー感度の分解能が低下することになるため、特段の事情が無い限り高周波数領域に設計ポイントを設定することは好ましくない。以上により、設計ポイントの角周波数ωはω≦ω2となる範囲に設定することが望ましい。
次に、検知電流を大きくするためには、中周波数領域に対する近似式(7)より、マルチプレクサを構成するトランジスタの抵抗R1を低減する必要がある。既に述べたように、トランジスタの容量を低減するために、トランジスタのチャネル長Lは製造工程における最小加工寸法に設定されることが一般的であるため、トランジスタの抵抗R1を低減するためにはチャネル幅Wを拡幅する必要がある。しかしながら、チャネル長Lを固定したままチャネル幅Wを拡幅することは、トランジスタ容量C1の増大を必然的に伴うため、検知電流増大効果が低くなる。更には、トランジスタのサイズを拡大することになるため開口率の低下を招くので、表示能力の低下が避けられない。そこで、マルチプレクサを構成するトランジスタを複数の画素に分散配置して検知信号引出線に対してそれぞれを並列に接続することで、トランジスタの抵抗を低減する方法が考えられる。この場合、分散配置する個々のトランジスタサイズを縮小することが可能となるため、開口率向上の観点でも非常に有効な手段となる。更には、すでに述べたようにトランジスタの半導体層と電極との界面状態の不均一性に起因したトランジスタ特性のバラツキによる検知電流のバラツキは、差動回路などの基本電流低減機構を導入しても取り除くことが出来ないが、トランジスタを分散配置して互いに並列接続することで、トランジスタ特性のバラツキを平均化する効果が期待できる。そこで、マルチプレクサを構成するトランジスタを複数の画素に分散配置した場合の検知電流の計算法について以下で説明する。
先ず、一本の検知信号引出線に対して、マルチプレクサを構成する複数のトランジスタを分散配置する場合を考える。研究の結果、この場合の等価回路は図42に示す等価回路で表すことができる。図42は、図36における電位振幅がVの交流電源と、指と検知電極とで構成される検知容量C4と、トランジスタの容量C1および抵抗R1より成る組をn個、検知信号引出線に接続したものである。即ち、検知容量C4と、トランジスタの容量C1および抵抗R1がそれぞれ同一の値を有する均一な画素をn個配置したことに相当する。
図42において、各組における容量C1と容量C4は互いに異なるノードに接続されているため並列接続ではないので、それぞれの容量について単純に合成容量を求めることはできない。しかしながら、図36および図42における各組の対応するノードの電位は等しいので、図42における電流I11、I12、・・・、I1nは互いに等しく、図36における電流I1と一致するので、
I11=I12=・・・=I1n=I1
と表すことができる。
同様に、図42における電流I21、I22、・・・、I2nも互いに等しいので、これをI20と置き換えると、
I21=I22=・・・=I2n=I20
と表すことができる。
このとき、電流I2とI20の間には
I2=nI20
という関係が成り立つことになる。
これらの式より、式(1)~(3)は次に示す式(13-1)~式(13-3)のように変形できる。
V={1/(jωC4)}I1+{1/(jωC1)}(I1-I20)・・・・・・・(13-1)
{1/(jωC1)}(I1-I20)=R1I20+{1/(jωC2)}(nI20-I3)・・・・・・・(13-2)
{1/(jωC2)}(nI20-I3)=R2I3 ・・・・・・・(13-3)
式(13-1)~(13-3)より、検知電流I3は次の式(14)で表される。
I3=α1/(β+γ1+1)
α1=nC4V〔{(C1+C4)R1+(nC1+C2+nC4)R2}ω^2+{ω―C2(C1+C4)R1R2ω^3}〕j
γ1={(C1+C4)^2}(R1^2)+〔{(nC1+C2+nC4)^2}(R2^2)+2n{(C1+C4)^2}R1R2〕ω^2 ・・・・・・・(14)
ここで、式(14)は、式(4)のC1、C4、R1について、それぞれ
C1→nC1
C4→nC4
R1→R1/n
と置き換えたものに等しい。この置き換えは、C1とC4及びR1がそれぞれ互いに並列接続されている場合の並列和として求めた合成容量と合成抵抗に置き換えることに相当する。従って、一本の検知信号引出線に接続する各組のC4とC1及びR1がそれぞれ互いに等しい場合、それぞれの合成容量と合成抵抗を便宜的にそれぞれの並列和として扱ってよいと言える。
次に、一つの能動ユニットに複数の検知信号引出線を配置し、各検知信号引出線にマルチプレクサを構成するトランジスタと検知電極を配置した同一形状の画素一つずつ配置する場合を考える。研究の結果、この場合の等価回路は図43に示す等価回路で表すことができる。図43は、図36における電位振幅がVの交流電源と、指と検知電極とで構成される検知容量C4と、トランジスタの容量C1および抵抗R1より成る組1個ずつ、m本の検知信号引出線のそれぞれに接続したものである。即ち、検知容量C4と、トランジスタの容量C1および抵抗R1がそれぞれ同一の値を有する均一な画素1個を、それぞれの検知信号引出し線に配置し、更には各検知信号引出線が互いに均一でそれぞれ同一の容量と抵抗を有することに相当する。
図43では、m本の検知信号引出線を流れる電流が合わさってI30となり、制御回路へ伝達されている。また図42の場合と同様に、各検知信号引出線において互いに対応する容量や抵抗はそれぞれ異なるノードに接続されているため並列接続ではないので、単純にそれぞれの合成容量と合成抵抗を求めることはできない。しかしながら、図36および図43における各組の対応するノードの電位は互いに等しいので、図36に示す電流I1と電流I2および電流I3を用いて
I11=I12=・・・=I1m=I1
I21=I22=・・・=I2m=I2
I31=I32=・・・=I3m=I3
と、おくことができる。これにより検知電流I30は次の式(15)で表される。
I30=mI3 ・・・・・・(15)
式(15)を展開して式(4)と比較すると、式(15)は式(4)のC1、C2、C4、R1、R2について、それぞれ
C1→mC1
C2→mC2
C4→mC4
R1→R1/m
R2→R2/m
と、置き換えたものに等しいことが分かった。この置き換えは、C1、C2、C4及びR1とR2について、それぞれ互いに並列接続されている場合の並列和である合成容量と合成抵抗に置き換えることに相当する。従って、複数の検知信号引出線にトランジスタを分散配置した場合、これに付随する各トランジスタの容量C1と抵抗R1及び検知容量C4と、検知信号引出し線の容量C2と抵抗R2がそれぞれ互いに等しい場合、それぞれの合成容量と合成抵抗を便宜的にそれぞれの並列和として扱ってよいと言える。そして、検知電流は、分散配置する引出線の本数に比例することになる。
次に、分散配置したトランジスタの容量C1と抵抗R1や検知信号引出線の容量C2と抵抗R2及び検知容量C4が不均一な場合の合成容量と合成抵抗の求め方について説明する。設計の観点で検知電流の計算手法を考える場合、厳密な検知電流値を求めるよりも、多少計算精度が劣っていたとしても実際に流れる電流値よりも確実に低い電流値を算出できる計算手法の方が重要な場合がある。何故ならば、厳密な計算値は様々な条件を固定した状態での値であり、これは製造プロセスの加工精度に起因したバラツキ等を含まない値であるため、電流値のバラツキを別途計算によって求めなければならないからである。即ち、実際に流れる電流値よりも確実に小さい計算値を基に設計すると、その差は設計マージンとなる。この観点に立つと、分散配置したそれぞれの容量や抵抗の中で最大の値をC1、R1、C2、R2それぞれの代表値とし、C4については最小の値を代表値として各C1、R1、C2、R2、C4がそれぞれの代表値を有するものとして均一化近似する手法が考えられる。しかしながら, この手法では不必要に設計マージンを大きく見込み過ぎたために開口率の大幅な低下を招くなど、最適設計からかけ離れた好ましくない設計となる可能性がある。このため、適切なマージンを見込んだ代表値の選定が重要となる。そこで、適切なマージンを見込んだ代表値の選定法について説明する。
各容量や抵抗を均一化近似するための代表値の選定手法として、次の3通りの手法が挙げられる。 1つ目は、C1、R1、C2、R2については分散配置したそれぞれの値の中で最大の値を、C4については最小の値を代表値とするもので、3つの手法の中で検知電流が最小且つ設計マージンが最大となる手法であり、これを検知電流最小化近似と呼ぶことにする。この場合、極少数の素子の値が他と比べて大きく異なる場合、マージンを大きく見込み過ぎることになるため、不必要に開口率を大幅に低減させる可能性があるため、慎重に用いる必要がある。2つ目は、分散配置された容量や抵抗C1、R1、C2、R2、C4のそれぞれの中で極端に値が異なるものがある場合、その特異性を無視して他と同等の値に置き換える手法であり、これを特異要素除外近似と呼ぶことにする。この場合、極端に異なる値を除外することの妥当性の検討を慎重に行う必要がある。また、置き換える値として非除外値の相加平均値とすることが考えられる。3つ目は、分散配置された容量や抵抗C1、R1、C2、R2、C4のそれぞれの中で極端に値が異なるものが含まれていたとしても除外せずにそれぞれの相加平均値を代表値とすることが考えられる。これを相加平均近似と呼ぶことにする。
実際の設計において、検知電流のバラツキを低減することが望ましいため、これらの容量と抵抗C1、R1、C2、R2、C4は均一にすることが求められ、積極的に不均一にすることは考え難い。これらを不均一にする場合としては、例えば製品仕様により画素サイズが不均一な場合が考えられる。即ち、近年のディスプレイでは光の三原色に相当する赤、緑、青のそれぞれの光を発する画素のサイズや開口率が、色毎に異なることが一般的になりつつある。例えば、人間にとって視認性が高い緑の画素サイズを小さくして開口率を下げることで緑の輝度を低下させ、変わりに視認性が低い青の画素サイズを大きくして開口率を高くすることで青の輝度を増加することで、視認輝度の向上を図るものである。画素サイズが均一の場合に無理して開口率の増大による画面輝度の向上を図る場合には歩留低下などの弊害を伴う場合があるが、画素の色毎に画素サイズを変えることで歩留り低下を抑制することが可能となり、歩留りを維持したままで人間が感知する画面輝度の向上を図ることができる。しかしながら、色毎に極端に画素サイズが異なる訳ではないので、このような場合でも結果的に各容量と抵抗C1、R1、C2、R2、C4も互いに近い値となる。このため、3つの均一化近似法の中で、最も適切な手法は相加平均近似であると考えられる。
もし、各容量と抵抗C1、R1、C2、R2、C4のバラツキが大きく、相加平均近似を適用することが好ましくない場合に対して相加平均近似を適用した場合、設計で想定した検知電流の値と実際に流れる検知電流の値が異なることになる。実際に流れる検知電流が設計想定値より大きい場合は、設計で見込んだよりも高い検知感度が得られることになるので、特に問題は生じない。逆に実際に流れる検知電流が設計想定値よりも小さい場合でも、基本電流低減機構の導入により基本電流が十分に低減されていれば、検知電流から分離した検知信号としての変位電圧成分に基づいて十分な検知感度を得ることができる。そして、この場合は不必要に多少の開口率の低下や歩留りの低下を招く可能性があるが、各容量と抵抗C1、R1、C2、R2、C4のバラツキが極端に大きくなることはないので、問題になるほど開口率や歩留りが低下することはない。
また、トランジスタを構成する半導体層と電極の界面状態に起因したトランジスタ特性のバラツキについては、トランジスタに印加される電圧が同じであっても電流が10%程度のバラツキが発生することは珍しくなく、この電流値のバラツキは基本電流の低減機構を備えない場合には大きな問題になると考えられる。しかしながら、本発明においては基本電流の低減機構を備えているので、検知感度に影響は生じない。実際の製造工程においては、トランジスタの特性が一定範囲内に納まるように管理されているため、個々のトランジスタ特性にバラツキがあっても、合成されて制御回路に至る電流は平均化されて略一定となると考えられ、やはり検知感度に問題は生じない。このため、製造工程起因で生じる半導体層と電極の界面状態に起因したトランジスタ特性のバラツキ要因であるトランジスタ抵抗のバラツキに関しては設計に見込む必要はないと考える。
以上により、画素に分散配置されたマルチプレクサを構成する個々のトランジスタの容量をCtft、抵抗をRtft、個々の検知容量をCsenと改めて置き、CtftとRtftおよびCsenそれぞれが均一化近似されている場合、解析対象とする能動ユニット内の分散配置数をNとすると、画素に分散配置されたマルチプレクサを構成するトランジスタの合成容量C1と合成抵抗R1及び検知容量の合成値C4はそれぞれ次に示す式(16)~式(17)のように表されることになる。
C1= NCtft ・・・・・・(16)
R1= Rtft/N ・・・・・・(17)
C4= NCsen ・・・・・・(18)
ここで検知容量を構成する検知電極が複数の画素に渡って一体化され且つ複数のトランジスタが接続されている場合、一体化された検知電極が構成する検知容量を接続されたトランジスタの数で割った値、即ち1個のトランジスタが担う検知容量をCsenとする。
次に、検知信号引出線の容量C2の合成抵抗について説明する。これまでの説明では、マルチプレクサを構成するトランジスタの容量C1は、一つの容量として扱ってきた。しかし、トランジスタ容量C1は、トランジスタのゲート電極と、ゲート電極上に絶縁膜を介して配置された半導体層および半導体層と接続されたソース電極とドレイン電極によって構成される。本発明の発明者による長年の研究より、トランジスタがON状態であっても半導体層は高抵抗体であるため、半導体層における電流経路であるチャネルを抵抗で表し、その両端をぞれぞれソース電極とドレイン電極とし、ゲート電極とソース電極の間にそれぞれの電極で構成されるゲート・ソース間容量が接続され、且つゲート電極とドレイン電極の間にそれぞれの電極で構成されるゲート・ドレイン間容量が接続された等価回路でトランジスタを表現することができる。この場合、ゲート・ソース間容量とゲート・ドレイン間容量の境界を、チャネル中央に設定して差し支え無い。本来、ソースとドレインは電極名ではなく機能を表すものであり、トランジスタを流れる電流の源である電荷の移動元がソース、移動先がドレインと呼ばれる。このため、トランジスタの3つの電極に印加される電圧関係により、ソースとドレインは随時入れ替わることになる。そこで、検知信号引出線と接続されるソース又はドレインとして機能する電極とゲート電極との間に構成される容量を改めてCglとする。このトランジスタの等価回路モデルにおいて、容量Cglは、検知信号引出線が様々な電極配線などと交差する領域に形成される各交差容量と並列に検知信号引出線と接続されることになる。即ち、マルチプレクサを構成するトランジスタの容量C1を構成する容量Cglは、検知信号引出線容量C2の一部として機能することになる。これにより、マルチプレクサを構成するトランジスタを画素に分散配置する場合における解析対象能動ユニットの検知信号引出線の容量C2の合成値は次の式(19)で表されることを見出した。
C2=Σ(i=1…m){Nsy Cline-s+n_i Cgl(Nsy-1)}+Cline_b ・・・・・・(19)
ここで、Σ(i=1…m)は、i=1~mまでの和を表す記号であり、mは解析対象の能動ユニットに配置される検知信号引出線の数を、n_iは解析対象の能動ユニットにおいてi番目の検知信号引出線に接続されるトランジスタの数を、Cline-sは検知信号引出線方向の能動ユニット一つ分の長さに相当する検知信号引出線の非トランジスタ部の容量を、Nsyは検知信号引出線方向に配列された能動ユニットの数を、Cline_bは額縁領域における検知信号引出線の容量をそれぞれ表す。また、Cline-sとCglおよびCline_bはそれぞれ均一化近似された値である。特に、n_iが一定値nの場合、式(19)は次の式(19-2)で表される。
C2=m{Nsy Cline-s+nCgl(Nsy-1)}+Cline_b ・・・・・・(19-2)
また、Rline-sを検知信号引出線方向の能動ユニット一つ分の長さに相当する検知信号引出線の均一化近似された抵抗、Rline_bを額縁領域における検知信号引出線の抵抗とし、それぞれ均一化近似されているとすると、解析対象能動ユニットの検知信号引出線の合成抵抗R2は次の式(20)で表される。
R2=(Nsy Rline-s/m)+Rline_b ・・・・・・(20)
以上により、マルチプレクサを構成するトランジスタを画素に分散配置する場合、検知電流I3の大きさ|I3|を表す式(5)や各周波数領域に対する近似式(6)~(8)において、トランジスタの容量C1と抵抗R1はそれぞれ式(16)と式(17)で、検知容量C4は式(18)で、解析対象とする能動ユニットに対する検知信号引出線の容量C2とR2をそれぞれ式(19)と式(20)で置き換えることになる。
ここで、検知信号引出線の合成容量C2と合成抵抗R2を求める式(19)と式(20)より、解析対象の能動ユニット位置が制御回路接続端子から離れるほどC2とR2が増大することになる。これにより、C2R2の増大により、検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性のグラフは左下、即ち低電流側且つ低周波数側へシフトすることになる。図22は、この様子を示すグラフであり、太実線は検知信号引出線方向に配列された能動ユニットの列において検知信号引出線の制御回路接続端子から最も遠い能動ユニットにおける検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性を、細実線は検知信号引出線の制御回路接続端子から最も近い能動ユニットにおける検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性を、太一点鎖線は検知信号引出線の制御回路接続端子から最も遠い能動ユニットに対する第一擬似屈曲点の角周波数ω1を周波数に換算した値を、細二点鎖線は検知信号引出線の制御回路接続端子から最も近い能動ユニットに対する第二擬似屈曲点の角周波数ω2を周波数に換算した値を、それぞれ式(5)を始めとする既出の解析式より求めた結果である。ここでは、分散配置されたそれぞれの容量と抵抗は均一であるとし、マルチプレクサを構成するトランジスタ1個の容量Ctftを50fFおよびソース又はドレインとゲートとの間に容量の中で検知信号引出線と接続された側の容量Cglを25fF、トランジスタ1個の抵抗Rtftを1MΩとし、検知信号引出線方向の能動ユニット1つ分の長さに相当する検知信号引出線の非トランジスタ部の容量Cline-sを1.25pF、検知信号引出線方向の能動ユニット1つ分の長さに相当する検知信号引出線の抵抗を500Ωとし、検知容量の合成値を1pFとし、能動ユニットに配置される検知信号引出線の数mを10、一つの能動ユニットにおいて1本の能動ユニットに接続されるトランジスタの数を10、検知信号引出線方向の能動ユニット配置数を20とし、印加交流電位Vの振幅を1Vとした。また、額縁領域における検知信号引出線の容量Cline_bと抵抗Rline_bを共にゼロとしているが、何れも実際には検知信号線全体の値に対して十分小さい値であるので、発明の効果を説明する上で差し支えない。
図44において、検知容量C4が等しいため両能動ユニットの低周波数領域は一致しているが、制御回路接続端子から最も遠い能動ユニットの中および高周波数領域は左下へシフトしている。検知電流のバラツキが小さく且つ印加交流電圧の周波数低減を重視する場合、制御回路接続端子から最も遠い能動ユニットの第一擬似屈曲点に対する角周波数ω1_fと制御回路接続端子から最も近い能動ユニットの第一擬似屈曲点に対する角周波数ω1_nの間付近に設計ポイントの角周波数ωを設定することが望ましいといえる。また、検知信号として重要な検知電流から分離した変位電圧成分を積算回路などによって増幅処理を行う場合は高周波数側に設定することが望ましいので、制御回路接続端子から最も近い能動ユニットの検知電流が最大値近傍から低下し始める第二擬似屈曲点に対する角周波数ω2_nが設計ポイントの上限とみることができる。従って、設計ポイントに対する角周波数ωは少なくともω≦ω2_nとすることが望ましく、その他の設計条件によりωの値が具体的に決定されることになる。しかしながら、設計ポイントに対する角周波数ωを制御回路接続端子から最も近い能動ユニットの第二擬似屈曲点に対する角周波数ω2_nに設定する場合、制御回路接続端子から最も遠い能動ユニットの検知電流は制御回路接続端子から最も近い能動ユニットの検知電流よりも低くなるが、上述のように、基本電流低減機構の導入によって基本電流が低減されている場合は検知電流の大きさやバラツキに対する制約が緩和され、特に筐体電圧印加法によって基本電流が完全に抑えられている場合は検知感度や制御回路コストなどに大きく影響せず、設計として許容できる。また、この観点に立った場合、角周波数ω2_nは全能動ユニットにおける第二擬似屈曲点に対する角周波数ω2の中で最大の値ω2_maxと捉えることができる。即ち、複数配置された能動ユニットの第二擬似屈曲点に対する角周波数ω2の中で最大のものをω2_maxとしたとき、設計ポイントに対する角周波数ωは少なくともω≦ω2_maxと設定することが望ましいことになる。
また、基本電流の低減機構を備えている場合であっても検知電流のバラツキが小さいことが好ましいことは言うまでもない。中周波数領域に対する近似式(7)及び高周波数領域に対する近似式(8)に分散配置した場合の各容量と抵抗の式(16)~式(20)を代入すると、各能動ユニット内の分散配置数Nが同じであっても配列の仕方によって検知電流の値が変化する。特に、能動ユニット内においてトランジスタが接続された検知信号引出線の数をm、各検知信号引出線に接続するトランジスタの数をnとしたとき、mの増大に伴って中及び高周波数領域に対する近似式の値が増大することが研究により導かれた。これは、能動ユニット内の分散配置数Nを固定した場合、能動ユニット内に配置する検知信号引出線の数mの増大に対して検知電流I3の大きさ|I3|の電流─印加交流電圧周波数依存性のグラフが右上方向にシフトすることを意味する。実際の設計において、各検知信号引出線に接続されるトランジスタの数nは常に一定になると限られる訳ではないので、能動ユニット内の分散配置数Nと能動ユニット内においてトランジスタが接続された検知信号引出線の数をmとの関係に置き換えて、能動ユニットが制御回路接続端子から離れるにつれてNに対するmの比m/Nを増大することで、検知電流I3の大きさ|I3|の電流─周波数依存性関係のグラフのバラツキを低減することができる。このとき、能動ユニット内の分散配置数Nと能動ユニット内においてトランジスタが接続された検知信号引出線の数mは共に整数であるため、制御回路接続端子からの距離に応じてm/Nの値が必ずしも変化せず、複数の能動ユニットでm/Nが同じ値を有する場合も有り得ることは言うまでも無い。
また、検知電流の増大を重視する場合には、m/Nの値を大きく設定することが望ましく、Nの平方根の整数部をNsqrt_intと表すとき、少なくともm≧Nsqrt_intとなる能動ユニットを有することが望ましいということが研究により分かった。
或は、各周波数領域に対する近似式(6)~式(8)より、能動ユニットが制御回路接続端子から離れるほど合成検知容量C4が増大するように設定することも有効である。
次に、マルチプレクサを構成するトランジスタの容量と抵抗、検知信号引出線の容量と抵抗および検知容量の算出方法について説明する。設計とは、客からの要望事項である製品仕様を満たすだけでなく、製品仕様で求められる以上に少しでも高い性能を得ることや、製造工程における製造歩留りを少しでも高くすること、及び、少しでもコストを下げることを同時に満たした最適な組合せを見出すことである、と言える。これを実現するため、設計に際しては、非常に多くの設計条件を満たさなければならない。このため、設計者は、全ての設計条件における膨大な数のパラメータを一つずつ調整して最適な解である最適設計に到達しなければならない。例えば、本発明を表示装置に組み込むためには、元々の表示装置としての様々な設計条件に加えてセンサー機能を付与するための新たな設計条件を満たす必要がある。即ち、本発明はこの新たな設計条件を提供するものである。このため、他の多くの設計条件と同様に設計の途中段階では、本発明が与える設計条件を満たすことの確認を逐一繰り返す必要がある。そこで、本発明の設計パラメータであるマルチプレクサを構成するトランジスタの容量と抵抗、検知信号引出線の容量と抵抗および検知容量の算出方法として、簡易的な方法ではあるものの、最適設計に至る過程において十分な精度を有する算出方法が求められる。近年では、コンピュータとシミュレータの性能向上により、表示デバイス全体を解析対象として、各部の容量や抵抗を抽出するソフトウェアが市場に投入されている。もし、設計の最終段階においてこのような容量や抵抗を抽出するソフトウェアを利用する環境にあれば、これを用いて抽出した容量や抵抗に基づいて本発明が提供する設計条件の適合性をチェックすると、より一層の最適設計に至ることが期待できる。しかしながら、このようなシミュレータを用いた容量や抵抗の抽出には時間をようする。特に、トランジスタの抵抗をシミュレータで厳密求める場合、トランジスタを微細なメッシュに分割し、各時刻毎にトランジスタ内部のポテンシャル解析とキャリア密度解析をセルフコンシステントに行って収束を図る必要があるため、膨大な時間を要するため、設計の途上でこれを行うことは現実的ではない。このため、設計の途中段階用いることは難しく、設計の仕上げとして最終確認の位置付けで実施することになる。よって、マルチプレクサを構成するトランジスタの容量と抵抗、検知信号引出線の容量と抵抗および検知容量の算出方法として、簡易的な方法ではあるものの、最適設計に至る過程において十分な精度を有する算出方法の制定が重要となる。
先ず、容量については、各電極や配線の幅に対して金属層や絶縁膜層の厚さが非常に薄いため、並行平板モデルとして扱っても差し支え無い。即ち、金属などの導体層同士の交差面積に絶縁膜層の比誘電率と真空の誘電率を乗算して絶縁膜層の厚みで割るというものである。特に、マルチプレクサを構成するトランジスタの容量については、本発明ではトランジスタがON状態を対象としているので、半導体層とこれに接続されたソースおよびドレイン電極が同電位と見なして一体化した仮想電極を考え、この仮想電極と絶縁膜を介して配置するゲート電極と交差する面積を容量領域と見なして差し支え無い。また、このトランジスタ容量をソース電極とドレイン電極の中央で二分割し、二分割した容量の中で検知信号接続線側に位置する容量が検知信号引出線の量として機能すると見なして差し支え無い。また、並行平板モデルで算出した容量に、近傍の導体層との間に形成されるカップリング容量を足し合わせることで精度がより一層向上することは言うまでもない。
検知信号引出線の抵抗については、一般的な手法であるシート抵抗に抵抗算出領域の長さを乗算し、抵抗算出領域の幅で割ることにより算出する。場所によって線幅が異なる場合は、線幅が異なる部分ごとに分割して抵抗を算出した後に、それぞれを足し合わせても差し支え無い。また、抵抗算出領域の形状が複雑な場合、設計マージン確保の観点から、電流が流れる方向に対して最も幅が細い部分の幅を代表値としても差し支え無い。
次に、マルチプレクサを構成するトランジスタの抵抗の算出法について説明する。トランジスタは、これを構成する3つの電極であるゲートとソース及びドレインに印加される電位の相対的な大小関係で抵抗が変わる可変抵抗と見なすことができ、検知容量に印加される交流電圧に起因してトランジスタ抵抗は変動する。図45は回路シミュレータのSpiceを用いて検知容量に印加される交流電圧とトランジスタ抵抗の関係を解析するための等価回路図を示し、トランジスタ抵抗Rtftは固定抵抗としているが、トランジスタ容量が変動するタイミングや抵抗が最大になる場合の電極間の相対的な電位関係の特徴について把握することができるモデルである。図45は、図36と等価な解析モデルであり、トランジスタ容量Ctftにはゲート電極電位Vgが接続されている。検知容量Cfとトランジスタ容量Ctftが接続されたノード、即ち検知電極に相当するノード210の電位をVtft-fとし、検知信号引出線の容量Clineと抵抗Rtftが接続されたノード211の電位をVtft-lとする。検知電流が流れる選択期間のトランジスタはON状態であるためVgを15Vとし、検知容量Cfに印加する交流電圧Vfは振幅5V、パルス幅10μs、周期20μsの矩形パルスとし、検知信号引出線の容量Clineを100pF、検知信号線の抵抗Rlineを100Ωとする。基本電流低減機構として筐体電圧印加法の適用を想定し、検知信号引出線抵抗Rlineの終端側は接地している。検知容量Cfを1pF、トランジスタ容量Ctftを0.02pF、トランジスタ抵抗Rtftを1MΩとした場合のノード210の電位Vtft-fとノード211の電位Vtft-lのSpiceによる解析結果と検知容量Cfに印加される印加交流電位Vfを図46に示す。
図46において、破線は印加交流電位Vfを、実線はノード210の電位Vtft-fのSpiceによる解析結果を示す。ノード211の電位Vtft-lのSpiceによる解析結果は接地電位、即ち0Vで一定となり、グラフの煩雑化を回避するため図示していない。ノード210の電位Vtft-fは、印加交流電位Vfパルスの電位変化ΔVfに伴うカップリングによって変位し、その後は次のVfパルスの電位が変化するまでの期間に充放電によって指数関数的に接地、電位即ち0Vへ近づく。特に、Vfパルスの立ち上がりにおけるノードTFT-fの電位Vtft-fの変化量ΔVtft-fは次の式(21)で表され
ΔVtft-f={Cf/(Cf+Ctft)}ΔVf ・・・・・・(21)
図24においてΔVtft-fは4.9Vとなっており、式(21)による計算値と一致する。
トランジスタのソースとドレインは、チャネルの電子輸送理論において電子の移動元側、 即ち電位の低い側がソースとして機能し、他方がドレインとして機能する。このため、本解析モデルのように交流電位が印加されている場合はソースとドレインが刻々と反転する。ソース電位をVs、ドレイン電位をVdすると、図46に示す解析結果より求めたVsとVdをぞれぞれ図47に示す。図47において、破線はソース電位Vsを、実線はドレイン電位Vdをそれぞれ表す。このときのゲート・ソース間電圧Vgsとソース・ドレイン間電圧Vdsをそれぞれ図48に示す。図48において、細線はゲート・ソース間電圧Vgsを、太線はソース・ドレイン間電圧Vdsをそれぞれ表す。図47および図48はトランジスタの抵抗Rtftを固定した場合の解析結果であるが、図48よりゲート・ソース間電圧Vgsとソース・ドレイン間電圧Vdsは共に一定値ではないため、実際のトランジスタトランジスタの抵抗Rtftも一定ではなく時間と共に変化することになる。即ち、図47および図48に示すソース電位Vsとドレイン電位Vdおよびゲート・ソース間電圧Vgsとソース・ドレイン間電圧Vdsそれぞれの解析結果は実際の値を正確に再現したものではない。しかしながら、それぞれの電位変化のタイミングやカップリングによる瞬間的な電位変化などの特徴は正確に再現できていると考えられる。
ここで、トランジスタのソース・ドレイン間に流れる電流Idsは、線形領域(Vds<Vgs-Vth)の場合は次の式(22)で、
Ids=(W/L)μCox{(Vgs―Vth)Vds-(1/2)(Vds^2)} ・・・・・・(22)
飽和領域(Vds>Vgs-Vth)の場合は次の式(23)で、
Ids=(1/2)(W/L)μCox(Vgs―Vth)^2 ・・・・・・(23)
表されることが広く知られている。
式(22)および式(23)において、Wはチャネル幅、Lはチャネル長、μは電界効果移動度、Coxは単位面積容量、Vthは閾値電圧を表す。トランジスタの半導体層としてIGZOを考えた場合、閾値電圧Vthは0.2V程度若しくはそれ以下であり、検知容量への印加交流電圧の振幅が5V程度、トランジスタをON状態にするゲート電位が15V程度であれば、トランジスタのソース・ドレイン間には線形領域の電流のみが流れることになる。ソース・ドレイン間電流Idsはゲート・ソース間電圧Vgsとソース・ドレイン間電圧Vdsによって決まるチャネル抵抗に対してソース・ドレイン間電圧Vdsを印加することで流れるので、チャネルの抵抗、即ちトランジスタの抵抗Rtftは次の式(24)で表すことができる。
Rtft=Vds/Ids ・・・・・・(24)
改めて、ゲート・ソース間電圧Vgsとソース・ドレイン間電圧Vdsが図48で与えられると仮定し、トランジスタから検知信号引出線へ流れるソース・ドレイン間電流Idsの向きを正とすると、ソース・ドレイン間電流Idsは線形領域に対する式(22)より図49に示すようになる。図49において、細実線はゲート・ソース間電圧Vgsを、太実線はソース・ドレイン間電圧Vdsを、細破線はソース・ドレイン間電流Idsをそれぞれ表す。このときのトランジスタの抵抗Rtftは式(24)より図50のようになる。図50において、細実線はゲート・ソース間電圧Vgsを、太実線はソース・ドレイン間電圧Vdsを、細破線はトランジスタ抵抗Rtftをそれぞれ表す。図49において、ゲート・ソース間電圧Vgsは、Vgs>15Vのためトランジスタは常にON状態であり、ソース・ドレイン間電圧VdsがVds≠0のときにソース・ドレイン間電流Idsが流れている。そして、ゲート・ソース間電圧Vgsが大きい期間はチャネルの抵抗が低下するため、Idsが増大している。従って、印加交流電位Vfの一周期の間に2回流れる電流Idsの中で低い方、即ちゲート・ソース間電圧Vgsがフラット且つソース・ドレイン間電圧VdsがVds≠0となる期間、即ち印加交流電位Vfが低い電位からから高い電位への変化に起因して検知電極電位Vtft-fが一旦上昇した後に接地電位へ戻る期間に流れる電流Idsが、検知感度を律速すると考えられる。この期間のトランジスタの抵抗Rtftは、図50において他の期間の抵抗よりも大きくなっている。これらの状況は、印加交流電位Vfの振幅Vf_ampが20V程度に極端に大きくなってIdsが線形領域と飽和領域が混在する場合でも同様であることを確認した。そこで、ノード211の電位Vtft-lは検知信号引出線の電位であるので、これをVlineとおくと、トランジスタの抵抗Rtftが最大値となるときのドレイン電位Vdは次の式(25)で、
Vd=Vline+{Cf/(Cf+Ctft)}Vf_amp ・・・・・・(25)
ソース電位Vsは次の式(26)で、
Vs=Vline ・・・・・・(26)
それぞれ表すことができる。 これにより、ゲート・ソース間電圧Vgsは次の式(27)で、
Vgs=Vg―Vline ・・・・・・(27)
ソース・ドレイン間電圧Vdsは次の式(28)で、
Vds={Cf/(Cf+Ctft)}Vf_amp ・・・・・・(28)
それぞれ表すことができる。
従って, 式(27)と式(28)で与えられるVgsとVdsを、線形領域の場合には式(22)に、飽和領域の場合には式(23)にそれぞれ代入してIdsを求め、式(24)よりトランジスタの抵抗Rtftを求めることになる。
基本電流低減機構として筐体電圧印加法を用いる場合、検知信号引出線の電位Vlineは接地電位に等しいと見なすことができる。筐体電圧印加法を用いない場合、VfとVlineを入れ替えた場合と等価なので、式(27)においてVlineをVfに、即ち接地電位に置き換えればよい。以上を踏まえて具体的な発明内容を以下に示す。
本発明のセンサー装置は、少なくとも能動ユニットと、検知信号引出線と、スイッチング素子と、制御回路と、基本電流低減機構を有し、前記能動ユニットは略マトリクス状に配置され且つ少なくとも1個以上の検知電極として機能する電極を備えた能動回路領域を備えたセンサー装置であって、被検知物体が前記能動ユニットに接近または接触することによって前記検知電極と被検知物体との間に容量が適時形成され、前記適時形成された容量に前記制御回路または前記制御回路と前記基本電圧低減機構によって交流電圧が印加されることで前記検知電極に発生した電気信号が、1本又は複数本が互いに電気的に接続されてなる前記検知信号引出線と1個または複数個の前記スイッチング素子を介して選択的に前記制御回路へ伝えられ、前記制御回路における信号処理によって被検知物体の接近または接触事象を検知するセンサー装置において、前記の各能動ユニットにおけるトランジスタの配置数をNとし、前記スイッチング素子の相加平均した容量と抵抗をそれぞれCtftとRtftとし、前記適時形成容量の相加平均値をCsenとしたとき、前記スイッチング素子の合成容量C1を式(1A)とし、
C1= NCtft ・・・・・・(1A)
前記スイッチング素子の合成抵抗R1を式(1B)とし、
R1= Rtft/N ・・・・・・(1B)
前記適時形成容量の合成容量C4を式(1C)とし、
C4= NCsen ・・・・・・(1C)
前記能動ユニットにおいて前記スイッチング素子が接続された前記検知信号引出線の数をmとし、前記能動ユニットにおいてi番目の前記検知信号引出線に接続される前記スイッチング素子の数をn_iとし、前記検知信号引出線方向の前記能動ユニット一つ分の長さに相当する前記検知信号引出線の非トランジスタ部の相加平均容量をCline-sとし、前記検知信号引出線方向に配列された前記能動ユニットの数をNsyとし、額縁領域における前記検知信号引出線の相加平均容量をCline_bとし、前記検知信号引出線と接続されるソース又はドレインとして機能する電極とゲート電極との間に構成される相加平均容量をCglとし、Σ(i=1…m)は、i=1~mまでの和を表す記号としたとき、前記制御回路と接続する前記検知信号引出線の接続端子から前記能動ユニットまでの前記検知信号引出線の合成容量C2を式(1D)とし、
C2=Σ(i=1…m){Nsy Cline-s+n_i Cgl(Nsy-1)}+Cline_b ・・・・・・(1D)
前記検知信号引出線方向の前記能動ユニット一つ分の長さに相当する前記検知信号引出線の相加平均抵抗をRline-sとし、額縁領域における前記検知信号引出線の相加平均抵抗をRline_bとしたとき、前記制御回路と接続する前記検知信号引出線の接続端子から前記能動ユニットまでの前記検知信号引出線の合成抵抗R2を式(1E)とし、
R2=(Nsy Rline-s/m)+Rline_b ・・・・・・(1E)
「^」はべき乗記号を表すものとして当該能動ユニットに対するω2を式(1F)とし、
ω2={φ^(1/2)}/{C2(C1+C4)R1R2} ・・・・・・(1F)
φ={(C1+C4)^2}(R1^2)+{(C1+C2+C4)^2}(R2^2)+2{(C1+C4)^2}R1R2
前記略マトリクス状に配置された各能動ユニットに対するω2の中で最大のものをω2_maxとしたとき、
前記適時形成された容量に印加される交流電圧の角周波数ωが、
ω≦ω2_max
とする。
前記略マトリクス状に配置された能動ユニットにおいて、一つの能動ユニットにおける前記トランジスタの配置数をN、および前記トランジスタが接続された前記検知信号引出線の本数をmとし、Nの平方根の整数部をNsqrt_intと表すとき、少なくともm≧Nsqrt_intとなる能動ユニットを有する。
前記能動ユニット位置が前記制御回路接続端子から離れるほど前記Nに対する前記mの比m/Nの値が増大する。
前記能動ユニット位置が前記制御回路接続端子から離れるほど前記C4が増大する。
前記基本電流低減機構がセンサー装置の筐体に交流電位を印加する機能を備え、且つ前記制御回路接続端子に基準電位を印加する機能を備える。
接触事象により前記適時形成容量に印加される交流電圧の振幅をVf_ampとし、前記交流電位が印加される側の前記適時形成容量の電極電位をVfとし、選択期間における前記トランジスタのゲート電極電位をVgとし、前記検知信号引出線の電位をVlineとしたとき、Vdsを式(2A)とし、
Vds={Csen/(Csen+Ctft)}Vf_amp ・・・・・・(2A)
前記Vlineが基準電位である場合はVgsを式(2B)とし、
Vgs=Vg―Vline ・・・・・・(2B)
前記Vlineが基準電位でない場合はVgsを式(2C)とし、
Vgs=Vg―Vf ・・・・・・(2C)
前記トランジスタの閾値電圧をVth、電界効果移動度をμ、単位面積容量をCox、チャネル長をL、チャネル幅をWとし、「^」をべき乗記号としたとき、Vds≦Vgs―Vthの場合はIdsを式(2D)とし
Ids=(W/L)μCox{(Vgs―Vth)Vds-(1/2)(Vds^2)} ・・・・・・(2D)
Vds>Vgs―Vthの場合はIdsを式(2E)としたとき、
Ids=(1/2)(W/L)μCox(Vgs―Vth)^2 ・・・・・・(2E)
前記トランジスタの相加平均抵抗Rtftを
Rtft=Vds/Ids
とする。