JP6979338B2 - 配線構造の安全性評価システム - Google Patents
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Description
そこで、冗長性のある複数の指示系統を司る複数の電線を同じ束として束ねることなく、互いに異なった束に束ねて配線し、それら複数の束が物理的に分離隔離されたルートに艤装する必要がある。
ところが、束を持つハーネスの数、入力装置などの末端装置又は中継装置の数が多いシステムになると、複数にまたがる配線図から接続ルートの妥当性をチェックしたり、配線の安全性を確認したりするのは容易ではない。
そこで本発明は、容易に配線構造の安全性を定量的に評価できるシステムを提供することを目的とする。
本発明の電線の安全性評価システムは、配線構造において、イベントの識別情報であるイベントIDと、当該イベントIDに対応するゲートの種別を示すゲートタイプと、当該イベントIDがトップ事象であることの識別情報と、が対応付けられたフォルトツリー情報を記憶する記憶部と、トップ事象の発生確率を計算する処理部と、を備える。
本発明の配線構造の安全性評価システムにおいて、処理部は、ゲートタイプが、ORゲート及びANDゲートのいずれであるかを認識し、認識された全てのANDゲートをORゲートに置き換えて、トップ事象の第一発生確率を求める、ことを特徴とする。なお、条件付きゲートもANDゲートと同様、ORゲートに置き換えれば良いことは言うまでもない。
評価システム10は、複数のハーネスが接続される配線システムの設計データである電線、コネクタ等の接続情報を参照するとともに、フォルトツリー分析(FTA)を行うツールの情報であるフォルトツリー情報を用いて、配線システムの安全性を定量的に評価するものである。ここで、ハーネスとは、電気コネクタと電線の束(バンドル:Bundle)で構成されるアセンブリであり、各電線はコネクタのピン又は端子とそれぞれ電気的に接続されている。
図1のハーネスWH1は、コネクタC1、コネクタC2、コネクタC3及びコネクタC4の4つのコネクタを備え、これらコネクタの相互間がバンドルB1、バンドルB2、バンドルB3、バンドルB4及びバンドルB5を介して接続されている。バンドルB1、バンドルB2及びバンドルB3は中継点A1で接続され、バンドルB3、バンドルB4及びバンドルB5は中継点A2で接続されている。それぞれのバンドルB1〜バンドルB5は図示を省略する複数の電線を含んでいる。
ここでは、末端部分としてコネクタだけを示しているが、これらのコネクタC1〜C8は、通常、入力装置、制御装置及び出力装置などの機器に付随、或いは、複数のハーネスをお互いに接続する中継コネクタに接続される。また、中継点A1〜A4は、複数のバンドルが分岐、合流する位置の識別情報である。
同様に、中継点A1と中継点A2は、バンドルB3により接続され、バンドルB3は、一端が中継点A1に繋がれ、他端が中継点A2に繋がれている。
コネクタC3、コネクタC4、コネクタC5、コネクタC6、コネクタC7及びコネクタC8についても同様である。
次に、コネクタC5〜コネクタC8の部分について観ると、バンドルB6に属する電線は中継点A3を通ると、バンドルB8及びバンドルB9のいずれかに属し、バンドルB7に属する電線は中継点A4を通ると、バンドルB8及びバンドルB10のいずれかに属する。バンドルB8に属するこれらの電線が同束をなすことになり、冗長性を有する複数の電線がバンドルB8で同束をなすことを避けて独立性を有しなければならない。バンドルのそれぞれに属する電線は、図11の電線リストに示されている。
STEP−1:フォルトツリー情報に含まれる故障事象の「AND」ゲートの全てを「OR」ゲートに置き換えて、トップ事象の発生確率を計算する。計算結果が発生確率の要求値を超える場合には、次のSTEP−2を実施する。
ANDゲートの全てをORゲートに置き換えると、複数の配線同士の独立性を確認する必要がなく、また、ORゲートにして計算する方が、必ずANDゲートによる計算を上回る故障率が算出されるので、算出された数値が安全側にシフトし、その数値が要求値よりも小さければ、安全性が定量的に証明される。なお、条件付きゲートもANDゲートと同様、ORゲートに置き換えれば良いことは言うまでもない。
配線の独立性が確認できた故障事象については、置き換えたORゲートをANDゲートに戻して、発生確率を算出する。
一方、配線の独立性が有していないと評価されると、本来の発生確率を容易に定義できないので、安全側(最大値)となるORゲートのまま、発生確率を算出する。
発生確率の計算結果が、発生確率の要求値を満足しない場合は、STEP−3を実施する。
図2に示すように、評価システム10は、入力部1と、処理部2と、第一記憶部3と、第二記憶部4と、表示部5と、を備えている。評価システム10は、パーソナルコンピュータ、その他のコンピュータ装置により構成することができる。
評価システム10は配線描画システム20と接続されている。配線描画システム20もまた、コンピュータ装置により構成される。
処理部2は、第一記憶部3に記憶されたフォルトツリー情報、その他の情報を読み出して、後述する手順を実行し、その結果を第二記憶部4に記憶させたり、表示部5に表示させたりする。その他の情報については、追って説明する。
表示部5は、処理部2により処理された結果を表示する。コンピュータの表示装置としての液晶表示装置により表示部5を構成できる。
配線描画システム20は、CAD(Computer Aided Design)21を備える。CAD21は、配線設計作業にともなうコネクタ、ケーブル及び機器に関する接続情報を取得して、結線図(Wiring Diagrams、以下単にWDということがある)を作成する。WDは図1に示すハーネスWH1,WH2に属する電線とコネクタとの接続関係が図示されたものである。WDに基づく接続情報は、ハーネスの識別情報(ハーネスID)と、電線の識別情報(電線ID)と、コネクタ及びピンの識別情報(コネクタID,ピンID)と、が対応付けられている。CAD21は、取得した接続情報を評価システム10の第一記憶部3に提供する。第一記憶部3は、CAD21から提供される接続情報を記憶する。
図3及び図4に、フォルトツリー(Fault Tree:FT)の一例を示す。なお、図3、図4は、配線を含むシステムにおける故障事象の一部のみを示しており、実際のシステムは数十枚あるいは数百枚におよぶフォルトツリーで構成される。また、フォルトツリーは、公知のFTAを行うソフト(FTAツール)により作成できる。
図5(a),(b)は、端末装置に属するコネクタC1及びC2のFMEAによる故障モードの影響評価情報の一例を示す。図5(a)に示すFMEAは、コネクタC1の、例えば、P13のピンに接続される電線、コネクタのショート故障あるいは断線故障により、図4のフォルトツリーのイベントW11が発生することを示している。同様に、図5(b)に示されるFMEAは、コネクタC2の、例えば、P23のピンに接続される電線のショート故障により、図3のフォルトツリーのイベントW12が発生することを示している。このように、影響評価情報は、当該コネクタに属する複数のピンとイベントIDが対応付けられており、第一記憶部3に記憶されている。なお、図5には、故障率の情報は記載されていないが、端末装置に属するコネクタと電気的に繋がる電線、又は、コネクタの少なくともいずれか一方の故障率を全て算出し、当該イベントの故障率として設定し、第一記憶部3に記憶しておけば、前述のFTAツールを用いて、トップ事象の発生確率を定量的に解析、評価できる。
図3のフォルトツリーにおいて、電線に関するイベントW12が生じるとトップ事象AAAが発生する。一方、図4のフォルトツリーにおいて、電線に関するイベントW11が生じると中間事象CDCが発生することが判る。今、図4において、中間事象CDCの上位事象CCDが発生する論理記号はANDゲートであるため、イベントW11とW12の組合せが同時に発生するとトップ事象であるイベントCCCが発生することが判る。
ただし、本実施形態のSTEP−1は、後述するようにANDゲートを全てORゲートに置き換えて、トップ事象の発生確率(第一発生確率)の計算を行う。なお、図3及び図4のように、一方のトップ事象(AAA)が他方の中間事象になることを入れ子構造と称している。
図6は、トップ事象の発生確率を計算するのに用いられるフォルトツリー情報を示す。このフォルトツリー情報は、あらかじめ第一記憶部3に記憶されている。
フォルトツリー情報は、上位に位置するイベントの識別情報(親ID)、イベントごとの識別情報(イベントID)及びイベントIDと下位に位置するイベントとの間のゲートに関する識別情報(ゲートタイプ)が対応付けられたテーブル形式の情報である。なお、フォルトツリー情報は、親ID、イベントID及びゲートタイプ以外の情報を含んでいるが、ここでは本実施形態の評価に必要な情報のみを掲げている。
詳しくは後述するが、フォルトツリー情報の中で電線に関するイベントを選択して、ゲートタイプの種別に応じてより上位に位置するイベントに達するか否かを順に評価して、トップ事象に達するか否かを確認し、評価する。STEP−2により選択される同束をなしているハーネス、バンドル、コネクタは、例えば、イベント(W11,W12)であることが検索、特定される。電線に関するイベント(W11,W12)の組合せ、あるいは、電線に関するイベント(W11,W12の少なくとも1つ)と電線以外のイベントとの組み合わせによってトップ事象に達することが確認されれば、当該電線の配線経路を変更する必要がある。
図7は、第一記憶部3に記憶される接続情報の一例を示す。
この接続情報は、図1に示されるハーネスWH1,WH2のそれぞれに属する電線の識別情報(電線ID)とコネクタの識別情報(コネクタID)の接続関係を対応付ける電線−コネクタ接続情報を示している。
ハーネスWH1について説明すると、電線IDがW101,W102の電線はコネクタC1とコネクタC2に接続され、電線IDがW103,104の電線はコネクタC1とコネクタC3に接続され、電線IDがW105,106の電線はコネクタC1とコネクタC4に接続されることが示されている。その中で、電線IDがW101,102の電線は、コネクタC1とはピンIDがP11,P12のピンと接続され、コネクタC2とはピンIDがP21,P22のピンと接続されることが示されている。他の電線及びハーネスWH2についても同様である。
なお、ここでは配線システムの中の一部のハーネスについてのみ示しているが、実際の配線システムにおいては、含まれる全てのハーネスに関する電線−コネクタ接続情報を備える。
図8(a),(b)は、第一記憶部3に記憶される故障パラメータ情報の一例を示す。この故障パラメータ情報は、電線に関する基本イベントの発生確率を計算するのに用いられる。
故障パラメータ情報は、図8(a)に示される電線の種別情報(WIRE CODE)と故障率要素としての材質Mw、線径d、被覆の種類Mi、温度T、振動Vとが対応付けられたものと、図8(b)に示されるコネクタの種別情報(CON. CODE)と故障率要素としての材質Mcとが対応付けられたものの二種類がある。
図8は、例えば、種別が♯W1の電線は故障率要素としての材質がMw1であり、線径dがd1であること、種別が♯C1のコネクタは故障率要素としての材質がMc1であることを示している。
なお、ここでは電線及びコネクタの故障率要素として材質のMw,Mcと簡潔に示している。実際の故障率の計算は、複数のパラメータを所定の式に代入することで求められており、また、電線の故障率については、断線に関するものとショート(短絡)に関するものが存在している。したがって、発生確率又は故障率は、材質Mwにより決まる電線の個別の柔軟性、可撓性等を考慮したパラメータ、及び、ハーネスを敷設する場所の振動や温度などの使用環境条件を考慮したパラメータを用いて算出される。
次に、図9は、ハーネスWH1,WH2において、互いに嵌合されるコネクタ同士の接続情報であるコネクタ−コネクタ接続情報を示している。コネクタ-コネクタ接続情報は、第一記憶部3に記憶されている。
図1に示すように、ハーネスWH1とハーネスWH2において、コネクタC3とコネクタC5が嵌合され、また、コネクタC4とコネクタC6が嵌合されている。コネクタ−コネクタ接続情報は、ピン同士の接続関係も含めたこの嵌合の関係を示している。
コネクタC3とコネクタC5について観ると、図9に示すように、コネクタC3はP31〜P36のピンIDで特定される6つのピンを備え、コネクタC5がP51〜P56というピンIDで特定される6つのピンを備え、さらに、コネクタC3のP31〜P36のピンと嵌合するコネクタC5のP51〜P56のピンの接続関係のそれぞれが示されている。
コネクタC4とコネクタC6についても同様であり、例えば、図9は、コネクタC3のピンP31とコネクタC5のピンP55が嵌合し、コネクタC4のピンP41とコネクタC6のピンP61が嵌合することを示している。
また、図7において、電線W107は、コネクタC2のピンP23とコネクタC3のピンP33に接続されており、図9において、コネクタC3のピンP33はコネクタC5のピンP53と接続されており、さらに、図7において、コネクタC5のピンP53にはコネクタC7のピンP71との間に電線W203が接続されている。
このように、図7の電線−コネクタ接続情報及び図9のコネクタ-コネクタ接続情報を参照すれば、複数のハーネスに属する電線がどのような経路をたどるのかの配線経路を探索できる。
次に、図10は、ハーネスWH1,WH2に関するバンドル接続情報を示している。バンドル接続情報は第一記憶部3に記憶されている。
バンドル接続情報は、ハーネスWH1,WH2に属する電線の束であるバンドルの識別情報(バンドルID)とバンドルの両端のコネクタ又は中継点の識別情報(ITEM1,ITEM2)とを対応付けた情報である。例えば、図10において、バンドルB1は、コネクタC1と中継点A1の間に配置されることが示されている。
このバンドル接続情報と図7の電線−コネクタ接続情報を照合することにより、それぞれのバンドルに属する電線を特定することができる。例えば、図7のコネクタC1とコネクタC2を例にすると、コネクタC1とコネクタC2を接続するのは電線W101及びW102であり、一方、図10に示すようにコネクタC1とコネクタC2の間には、中継点A1を介して、バンドルB1とバンドルB2がつながっている。したがって、図7及び図10を参照することにより、電線W101及びW102のいずれもバンドルB1とバンドルB2に属することを特定できる。
以上のように、バンドル接続情報は、それぞれのバンドルB1〜B10の単位で、その両端に接続されるコネクタ及び中継点がバンドルと対応付けられたものであるが、バンドル単位の長さ(Length)も対応付けられている。
以下、評価システム10を用いた配線システムにおける評価手法の手順を、図15を参照しながら、STEP−1、STEP−2及びSTEP−3の順で説明する。以下のSTEP−1〜STEP−3は、処理部2が第一記憶部3に記憶されている情報を参照することにより行われる。
STEP−1は、まず、図3及び図4に示されるフォルトツリーの基本イベント(基本事象)のそれぞれについて故障率を計算する(図15 S101)。例えば、図3のフォルトツリーについていえば、トップ事象であるAAA事象、及び、中間イベント(中間事象)であるABA事象、BBA事象などを除くBBB事象、BAB事象などの6つの事象のそれぞれについて故障率を計算する。
故障率の計算方法については後述するが、STEP−1,2で計算される故障率はSTEP−3よりも大きい値であるワースト条件(第一故障率)に基づいて計算される。
発生確率の計算は、フォルトツリーの最下段の基本事象から最上段のトップ事象に向けて行われる。基本事象の発生確率Pは、故障率λに暴露時間Trを乗じることにより計算される。ORゲートで繋がる中間事象の発生確率Pは、その下位に繋がる全ての事象の発生確率の和として求められる。ここでいうORゲートは、もともとORゲートであるもの、およびANDゲートをORゲートに置き換えたものの双方を含む。図4を例にすると、以下の通りである。なお、ANDゲートに繋がる中間事象の発生確率Pは、一般的に、その下位に繋がる全ての事象の発生確率の積として求められる。ただし、例えば、中間事象のイベントCCDにおいては、W11とW12に関わる配線が1つのバンドルをなす場合、または、コネクタで同束となる場合には、互いに独立とはならないため、発生確率を積として求めることはできない。
P10=P5+P6+P8+P9
=P1+P2+P3+P4+P5+P6
トップ事象の発生確率P10が要求値Psに適合していれば(図15 S107 YES)、その旨が表示部5に表示される。この表示は、設計変更を必要としない旨を含むことができる。S209、S305も同様である。
トップ事象の発生確率P10が要求値Psに適合していなければ(図15 S107 NO)、次のSTEP−2が行われる。
次に、STEP−2について説明する。
STEP−2においては、はじめに、配線システムを構成する複数の配線の独立性を評価する(図15 S201,S203)。この評価は、ORゲートからANDゲートに置き換えられた部分について行われる。例えば、図4のフォルトツリーを例にすると、CDC事象とAAA事象の上位に存在するORゲート(Gate2)を元のANDゲートとみなして、複数の配線の独立性が評価される。独立性の評価手順については追って説明する。
その後、STEP-1と同様の手順であるが、ANDゲートについては、ANDゲートの下位に繋がる全ての事象の発生確率の積として、トップ事象の発生確率(第二発生確率)を計算する(図15 S207)。
トップ事象の発生確率が要求値に適合していれば(図15 S209 YES)、その旨が表示部5に表示される。トップ事象の発生確率が要求値に適合していなければ(図15 S209 NO)、次のSTEP−3が行われる。
STEP-3は、図15に示すように、基本事象の故障率の計算(図15 S301)及びトップ事象の発生確率の計算(図15 S303)を行う点は、STEP-1と共通する。しかし、STEP-3は、基本事象の故障率をSTEP-1,2よりも下げた条件として、第一故障率よりも低い第二故障率、又は、実機条件の第三故障率に基づいて、トップ事象の第三発生確率を計算する。
STEP−2において行われる配線の独立性の評価について説明する。
この評価は始めに、図3及び図4に示されるフォルトツリーに含まれる全ての電線に関するイベントIDについて、故障モードの影響評価情報(図5)を参照することにより、当該イベントIDに対応するピンを特定する。次いで、電線−コネクタ接続情報(図7)、コネクタ−コネクタ接続情報(図9)及びバンドル接続情報(図10)を参照するなどして、当該イベントIDに関連する電線IDで同束のものを抽出する。詳しくは以下の通りである。
例えば、取得したコネクタIDがコネクタC1及びコネクタC3であったとすれば、図10より、コネクタC1とコネクタC3の間には中継点A1、A2を介してバンドルB1、バンドルB3及びバンドルB4が配置されている。したがって、電線W103がバンドルB1、バンドルB3及びバンドルB4の3つのバンドルに属することが特定される。
このバンドルを特定する処理を、取得された全てのコネクタIDについて行うことにより、すべてのバンドルB1〜B10に属する電線IDを特定することができる。処理部2は、特定された電線IDと属するバンドルIDとを対応付けることにより、図11に示される電線リストを生成し、第一記憶部3に記憶させる。
また、前述したイベントW11について特定されたピンP13に間接的に接続される電線W205と、イベントW12について特定されたピンP23に間接的に接続される電線W203について注目する。電線W205は、バンドルB6,B8,B10に属するのに対して、電線W203は、バンドルB6,B9に属するので、電線W205と電線W203は、バンドルB6において同束をなしており、独立性を有していないものと評価される。なお、ここでは、それぞれのバンドルは、必要な隔離距離を確保し、配線・艤装されていることを前提としている。必要な隔離距離を確保できていないバンドルの組合せがある場合は、それらバンドルの組合せ条件で、配線の独立性を同様に実施すればよいことは言うまでもない。
次に、それぞれの事象の故障率の算出手順について説明する。
はじめに、図16を参照して、故障率算出の処理手順の概要を説明する。
一連の手順は、故障率の算出を行うハーネスの識別情報(以下、ハーネスID)が入力されることで処理が開始される(図16 S401)。ハーネスIDは、それぞれのハーネスを識別するために付与された情報であり、ここでは、図2の配線例にしたがって「WH1」というハーネスIDが入力されるものとする。入力されたハーネスIDは、処理部2に送られる。
処理部2は、ハーネスIDを取得すると、第一記憶部3から当該ハーネスID(WH1)に対応する電線−コネクタ接続情報を読み出す(図16 S403,図7)。また、処理部2は、読み出した電線−コネクタ接続情報と照合することにより、第一記憶部3から、故障パラメータ情報(図8)を読み出す。この故障パラメータ情報は、前述したように、ハーネスWH1に属するコネクタC1〜C4の種別情報(#C1〜#C4)及び電線W101〜W112の種別情報(#W1〜#W3)とそれぞれの材質や線径などの故障率要素とが対応付けられた情報である(図16 S405,図8)。
図10に示すように、バンドル接続情報は、それぞれのバンドルB1〜B5の単位で、その両端に接続されるコネクタ及び中継点がバンドルと対応付けられたものであり、さらに、バンドル単位の長さ(Length)もバンドルと対応付けられている。
複数種:D=1.154×(d2 ANA+d2 BNB+d2 CNC…)1/2
D;バンドルの束径
dA,dB,dC…;電線A,B,C…のそれぞれの線径(直径)
NA,NB,NC…;電線A,B,C…のそれぞれの本数
同一種:
D=2d(2本の場合),D=2.155d(3本の場合)
D=2.414d(4本の場合),D=3d(5本,6本の場合)
D=1.154×(d2N )1/2(7本以上の場合)
d;電線の線径(直径)
N;電線の本数
故障率λij=λ(Mwi,di,Mii,Tj,Vj,Dj)×Lj
λ(x):単位長当りの故障率関数
Mwi:電線iの材質
di:電線iの線径
Mii:電線iの被覆の材質
Tj:バンドルjが使用される環境の温度
Vj:バンドルjが使用される環境の振動
Dj:バンドルjの束径
Lj:バンドルjの長さ
λij:バンドルj区間内の電線iの故障率
そして、例えば、電線iの故障率λiは、各バンドルの電線iに関する故障率を求め、その合計として算出する(図16 S411,図14)。
故障率λi=Σ_j( λ(Mwi,di,Mii,Tj,Vj,Dj)×Lj); j=1, 2, …n
DOT/FAA/AR-09/47では、各パラメータについて、ワースト条件、ノーマル条件などの複数のレベルがそれぞれ設定されている。全ての電線に対し、実機に対応するレベルをバンドル毎にそれぞれ設定し、故障率をそれぞれ計算するのは非常に煩雑である。本実施形態においては、この計算を簡略化するために、基準故障率(第一故障率)に基づいた故障率の差分計算式を導入する。この故障率の差分計算式については、後述する。
実機条件における故障率(第三故障率)を計算する場合は、設定した基準値に基づき、後述する差分計算式を用いて計算する。
λi=α×λav×LENi
LENi:電線iの長さ
α:マージン(安全率)
[電線−コネクタ接続情報の読み出し(図16 S403,図7)]
故障率算出を行う際に、処理部2が読み出す電線−コネクタ接続情報は、それぞれのハーネスに属する電線と、それぞれの電線の両端に直接接続されるコネクタと、それぞれの電線が他の電線及びコネクタを介して最終的に接続されるコネクタと、が対応付けられた情報である。
図7は、ハーネスWH1に関する電線−コネクタ接続情報を示している。
図7の例は、ハーネスWH1に12本の電線が属している。その中で、「W101」という電線IDが付与された電線の両端に接続される一対のコネクタには、それぞれ、「C1」、「C2」というコネクタIDが付与されている。
電線−コネクタ接続情報は、それぞれの電線W101〜W112が、コネクタC1〜C4のいずれのピン(端子)に接続されるのかの情報(PIN−IDの欄)を含んでいる。
また、電線−コネクタ接続情報は、それぞれの電線W101〜W112の長さ情報(Leng.の欄)、電線の種別情報(WIRE CODE)及びコネクタの種別情報(CON. CODE)を含んでいる。
図8に示すように、第一記憶部3から読み出される故障パラメータ情報は、電線の種別情報(WIRE CODE)と故障率要素としての材質Mw,線径d,とが対応付けられたものと、コネクタの種別情報(CON. CODE)と故障率要素としての材質Mcとが対応付けられたものの二種類がある。
例えば、図8(a)において、種別が♯W1の電線は故障率要素としての材質がMw1であり、線径dがd1であること、図8(b)において、種別が♯C1のコネクタは故障率要素としての材質がMc1であることを示している。
なお、ここでは電線及びコネクタの故障率要素として材質のMw,Mcと簡潔に示している。しかるに、実際の故障率の計算は、前述の通り、複数のパラメータを所定の式に代入することで求められており、また、電線の故障率については、断線に関するものとショート(短絡)に関するものが存在している。すなわち、材質Mwにより決まる電線の個別の柔軟性、可撓性等を考慮したパラメータ、及び、ハーネスを敷設する場所の振動や温度などの使用環境条件を考慮したパラメータを用い故障率を算出する。
前述したように、電線W101〜W112に関する故障率は、バンドルB1〜B5の束径を考慮する必要がある。そこで、電線−コネクタ接続情報(図7)とバンドル接続情報(図10)とを照合し、各バンドルを形成する電線の種別と本数を求めた後に、バンドルB1〜B5の束径を算出する。
バンドル接続情報は、図10に示すように、それぞれのバンドルB1〜B5の単位で、その両端に接続されるコネクタ及び中継点がバンドルと対応付けられたものである。図10において、例えばバンドルB1は、コネクタC1と中継点A1の間に配置されることが示されている。
処理部2は、対象となるバンドルの束径を算出したならば(図16 S409)、例えば、イベントW11に関わる電線の故障率を計算する場合には、イベントW11に関わる電線の各バンドルにおける故障率をそれぞれ求め、その合計として算出する(図16 S411)。この故障率の算出には、図14(a)に示す、イベントW11に属するそれぞれの電線の故障率及び当該電線が属するバンドルの長さ(Length)に関する情報を用いる。なお、図14(b)は、イベントW12に関する同様の情報が示されている。
Case1は、バンドルの単位でそれぞれ故障率を算出してその合計(λtotal)を求めるものであり、実機条件に基づく故障率の計算になるが、前述したように、計算が非常に煩雑になる。Case1で算出したλtotalが、第三故障率に該当する。なお、Case1で算出するλtotalは、設計変更により配線構造が改善されれば、さらに低い故障率にできることは言うまでもない。
Case2は、ハーネスの単位で故障率を算出してその合計(λtotal)を求めるものであり、差分計算式を適用することにより実機条件に近い故障率を簡略化して計算できる。Case2で算出したλtotalが、第二故障率に該当する。安全率αを適用するため、Case1で算出される第三故障率よりも高い故障率となる。Case2で算出したλtotalを、第一故障率として適用できることは、言うまでもない。
Case3は、ワースト条件で故障率を算出してその合計(λtotal)を求めるものである。Case3で算出したλtotalが、第一故障率に該当する。ワースト条件を適用するため、Case2で算出される故障率よりも高い故障率となる。以下のMw_worst、d_worst、Mi_worst、T_worst、V_worst及びD_worstがワースト条件である。
λtotal = (λW103-B1 * Len1) + (λW103-B3 * Len3) + (λW103-B4 * Len4)
+ (λW205-B6 * Len6) + (λW205-B8 * Len8) + (λW205-B10 * Len10)
λtotal = α × (λWH1 * (Len1 + Len3 + Len4) + λWH2 * (Len6 + Len8 + Len10) )
Case2において、以下に示すように、単位長当たりの故障率の基準値として、代表値を適用することもできるし、前述した電線単位長当りの平均故障率λavを適用することもできる。
・基準値として代表値を適用する場合
λWH1 = λWxxx-Bx λWH2 = λWyyy-By
・基準値にλavを適用する場合
λWH1 = {(λB1 * Len1) + (λB2 * Len2) + (λB3 * Len3) + (λB4 * Len4) + (λB5 * Len5)} / (Len1 + Len2 + Len3 + Len4 + Len5)
λWH2 = {(λB6 * Len6) + (λB7 * Len7) + (λB8 * Len8) + (λB9 * Len9) + (λB10 * Len10) / (Len6 + Len7 + Len8 + Len9 + Len10)
λtotal = λWORST * (Len1 + Len3 + Len4 + Len6 + Len8 + Len10)
λWORST = λ(Mw_worst, d_worst, Mi_worst, T_worst, V_worst, D_worst)
さて、本実施形態における故障率は、以下に示される簡略化された差分計算式により算出することができる。なお、前述したDOT/FAA/AR-09/47は環境ファクタπE(本実施形態の単位長当たりの故障率関数λ(x)と同義)を指数関数で規定しているので、以下の説明はDOT/FAA/AR-09/47にしたがって故障率関数λ(x)を指数関数で示している。
単位長当りの故障率関数λ(x)において、定数 a0,a1,a2,…,an、及び、変数 x1,x2,…,xnを用いることにより、下記の(1)式の通りに一般化する。
例えば、本実施形態では、STEP−1、STEP−2を経てSTEP−3を実行することにしているが、評価対象である電線を他の手立てで絞り込み、又は、評価対象である電線の数が多くはない場合には、STEP−1及びSTEP−2を経ることなくSTEP−3を実行できる。
評価システム10は、例えば、航空機に搭載される多数のワイヤハーネスの配線構造の安全性を評価する際に好適に用いられる。
2 処理部
3 第一記憶部
4 第二記憶部
5 表示部
10 安全性評価システム
20 配線描画システム
A1〜A4 中継点
B1〜B10 バンドル
WH1,WH2 ハーネス
Claims (12)
- ワイヤハーネスに属する複数の電線の各々が、中継要素を介して末端に位置する一対のコネクタに接続される配線構造の安全性評価システムであって、
前記配線構造において、イベントの識別情報であるイベントIDと、当該イベントIDに対応するゲートの種別を示すゲートタイプと、当該イベントIDがトップ事象であることの識別情報と、が対応付けられたフォルトツリー情報を記憶する記憶部と、
前記トップ事象の発生確率を計算する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記ゲートタイプが、ORゲート及びANDゲートのいずれであるかを認識し、認識された全ての前記ANDゲートを前記ORゲートに置き換えて、前記トップ事象の第一発生確率を求める、
ことを特徴とする配線構造の安全性評価システム。 - 前記処理部は、
前記フォルトツリー情報における最下段の基本事象から最上段の前記トップ事象に向けて前記第一発生確率を計算し、
前記第一発生確率の計算は、
前記ORゲートに繋がる事象の発生確率を、その下位に繋がる全ての前記事象の発生確率の和として求める、
請求項1に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 前記処理部は、
求められた前記第一発生確率が要求値を満足するか否かを評価し、前記要求値を満足しないものと評価すると、
前記ORゲートに置き換えられた前記ANDゲートに対して前記電線の独立性を評価し、独立性が確認されると、前記ORゲートを前記ANDゲートに戻して、前記トップ事象の第二発生確率を求める、
請求項2に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 前記処理部は、
前記フォルトツリー情報における最下段の基本事象から最上段の前記トップ事象に向けて前記第二発生確率を計算し、
前記第二発生確率の計算は、
前記ANDゲートに繋がる事象の発生確率を、その下位に繋がる全ての前記事象の発生確率の積として求める、
請求項3に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 前記トップ事象に直接的又は間接的に繋がる複数の前記事象のそれぞれの発生確率が、第一故障率に基づいて計算される、
請求項2又は請求項4に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 前記処理部は、
求められた前記第一発生確率が要求値を満足するか否かを評価し、前記要求値を満足しないものと評価すると、
前記ORゲートに置き換えられた前記ANDゲートに対して前記電線の独立性を評価し、独立性が確認されると、前記ORゲートを前記ANDゲートに戻して、前記トップ事象の第二発生確率を求めかつ、
前記処理部は、
求められた前記第二発生確率が前記要求値を満足するか否かを評価し、前記要求値を満足しないものと評価すると、
前記第一故障率よりも低い第二故障率、又は、第三故障率に基づいて、前記トップ事象の第三発生確率を求める、
請求項5に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 前記処理部は、
前記第三発生確率が、前記要求値を満足するか否かを評価し、前記要求値を満足しないものと評価すると、
前記配線構造の設計を変更するように促すか、又は、
前記配線構造の点検・整備の間隔を変更するように促す、
請求項6に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 前記処理部は、
前記第一発生確率、前記第二発生確率又は前記第三発生確率を求めるのに、
前記電線に関する前記イベントに関わる故障率を、前記ワイヤハーネスに属するバンドルの単位でそれぞれ求め、その合計として算出する、
請求項6に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 前記処理部は、
前記第一発生確率、前記第二発生確率又は前記第三発生確率を求めるのに、
前記電線に関する前記イベントに関わる故障率を、前記ワイヤハーネスの単位でそれぞれ求め、その合計として算出する、
請求項6に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 電線単位長当たりの前記故障率の基準値として、代表値、又は、電線単位長当たりの平均故障率が適用される、
請求項9に記載の配線構造の安全性評価システム。 - 前記電線に関する前記イベントに関わる前記故障率は、複数の故障率要素の関数として与えられ、
前記処理部は、
複数の定数及び複数の変数で一般化された前記関数の基準値と、一般化された前記関数における任意条件によるそれぞれの前記変数の差分と、に基づいて前記故障率を算出する、
請求項8〜請求項10のいずれか一項に記載の配線構造の安全性評価システム。 - ワイヤハーネスに属する複数の電線の各々が、中継要素を介して末端に位置する一対のコネクタに接続される配線構造の安全性評価システムであって、
前記配線構造において、イベントの識別情報であるイベントIDと、当該イベントIDに対応するゲートの種別を示すゲートタイプと、当該イベントIDがトップ事象であることの識別情報と、が対応付けられたフォルトツリー情報を記憶する記憶部と、
前記トップ事象の発生確率を計算する処理部と、を備え、
前記処理部は、
前記ゲートタイプが、ORゲート及びANDゲートのいずれであるかを認識し、前記ゲートタイプを適宜切り替えて、あるいは、更に、前記電線の独立性を評価し、前記ゲートタイプを適宜切り替えて、前記トップ事象の発生確率を段階的に求める、
ことを特徴とする配線構造の安全性評価システム。
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