JP6978116B1 - セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法 - Google Patents

セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の生体適合性を向上させるための表面改質方法を提供することを目的とする。【解決手段】セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法であって、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させ、血管内皮細胞の血管新生を促進させ、骨埋入時の新生骨形成を促進させ、又は細胞接触時のROS発生を低減させることができる、表面改質方法。【選択図】なし

Description

本発明は、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法に関する。
従来、人工関節又は人工歯根(インプラント)には、主にチタン又はチタン合金が素材として使用されている。チタンは、生体安全性が高い金属であるが、金属アレルギーの発症が皆無ではなく、また、人工歯根として使用した場合に、金属の色が透けて見えることで、歯茎が黒く見えることがあり、審美性に関する課題も存在することから、チタンの代替材料としてセラミックスが使用され始めている。
セラミックス材料は、金属材料と比較して、硬度、耐摩耗性、耐熱性、耐蝕性等の優れた性能を有するが、人工関節、人工歯根等の生体材料部品等への実用化にあっては、さらに高い強度及び靭性を兼ね備えたセラミックス材料の開発が望まれている。近年、そのようなセラミックス材料として、種々の複合材料が提案されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1には、90体積%若しくはそれ以上の正方晶ジルコニアで構成され、安定化剤として10〜12モル%のセリアを含有するジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなることを特徴とするジルコニア−アルミナ複合セラミック材料(以下、「セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料」という)が記載されている。
しかしながら、このセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料では、チタン又はチタン合金と同等の生体適合性は得られなかった。
特開2005−306726号公報
本発明は、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料に対して、生体適合性を向上させるための表面改質方法を提供することを目的とする。
本発明者等は、上記課題に鑑みて、鋭意研究を行った。その結果、アルカリ処理を施したセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料に対して、さらに、ピエゾブラッシュを用いた短時間の大気圧プラズマ処理を施すことによって、ラット骨髄間葉細胞の硬組織分化誘導等を向上させることで、生体適合性を向上させることができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づき更に研究を行うことにより完成されたものである。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法であって、
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、
骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させ、血管内皮細胞の血管新生を促進させ、骨埋入時の新生骨形成を促進させ、又は細胞接触時のROS発生を低減させることができる、表面改質方法。
項2.
前記セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料が、90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアで構成され、
安定化剤として10〜12モル%のセリアを含有するジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、
前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなる、項1に記載の表面改質方法。
項3.
前記アルカリ処理が、前記セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を5〜15M水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬することにより行われる、項1又は2に記載の表面改質方法。
項4.
前記プラズマ処理が、大気圧低温プラズマ発生装置を用いて行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面改質方法。
項5.
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法であって、
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、
骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させることができる、項1〜4のいずれか一項に記載の表面改質方法。
項6.
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法であって、
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、
血管内皮細胞の血管新生を促進させるができる、項1〜4のいずれか一項に記載の表面改質方法。
項7.
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法であって、
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、
骨埋入時の新生骨形成を促進させることができる、項1〜4のいずれか一項に記載の表面改質方法。
項8.
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法であって、
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、
細胞接触時のROS発生を低減させることができる、項1〜4のいずれか一項に記載の表面改質方法。
項9.
項1〜8のいずれか一項に記載の表面改質方法によって表面が処理されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。
項10.
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させ、血管内皮細胞の血管新生を促進させ、骨埋入時の新生骨形成を促進させ、又は細胞接触時のROS発生を低減させることができる、表面が改質され、生体適合性を有するセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。
項11.
表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法であって、
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理する工程、及び、プラズマ処理する工程を備える、
骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させ、血管内皮細胞の血管新生を促進させ、骨埋入時の新生骨形成を促進させ、又は細胞接触時のROS発生を低減させることができるように表面が改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法。
項12.
項11に記載の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法によって得られた、表面が改質され、生体適合性を有するセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。
なお、現時点でこのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の構造を完全に特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって、物の発明を記載している。
本発明の表面改質方法によれば、生体適合性が向上したセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を得ることができる。具体的には、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させ、血管内皮細胞の血管新生を促進させ、骨埋入時の新生骨形成を促進させ、又は細胞接触時のROS発生を低減させることができ、それにより生体適合性を向上させることができる。
図1は、本発明で用いるセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料に分散されるコンポジット粒子を示すSEM写真である。 図2は、実施例1及び比較例2のナノジルコニア板のALP活性評価の結果を示す図である。 図3は、実施例1及び比較例2のナノジルコニア板のカルシウム析出量の結果を示す図である。 図4は、実施例1及び比較例2のナノジルコニア板の遺伝子解析の結果を示す図である。 図5は、実施例1及び比較例2のナノジルコニア板の血管新生遺伝子発現量の結果を示す図である。 図6は、実施例1、比較例1及び比較例3のナノジルコニア板の細胞接触時のROS発生量の測定結果を示す図である。 図7は、実施例2及び比較例4のナノジルコニアスクリューを埋入した大腿骨をマイクロフォーカスX線CTで撮影したCT画像である。 図8は、実施例2及び比較例4のナノジルコニアスクリューのCTを利用した海綿骨形態計測の結果を示す図である。 図9は、実施例2及び比較例4のナノジルコニアスクリューを埋入した大腿骨の切片をビエヌエバ染色した後にオールインワン蛍光顕微鏡で撮影した画像である。 図10は、実施例2及び比較例4のナノジルコニアスクリューの病理組織学的解析の結果を示す図である。 図11は、実施例2及び比較例4のナノジルコニアスクリューを埋入した大腿骨の切片を共焦点レーザー顕微鏡で撮影した画像である。 図12は、実施例2及び比較例4のナノジルコニアスクリューの病理組織学的解析(ビラヌエバ染色)の結果を示す図である。
<セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法>
本発明は、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法(以下、「本発明の表面改質方法」ということもある。)に関する。
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料
表面改質の対象であるセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料(以下、「複合セラミック材料」ともいう。)は、前述した特許文献1に記載されている複合セラミック材料のことである。詳細には、90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなることを特徴とするジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であり、
好ましくは、90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなり、前記複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、前記コンポジット粒子内に存在し、かつ内部に微細ジルコニア粒子を含有するアルミナ粒子の数の比が0.3%又はそれ以上であることを特徴とするジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であり、
より好ましくは、90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアで構成され、安定化剤として10〜12モル%のセリアを含有するジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなることを特徴とするジルコニア−アルミナ複合セラミック材料のことである。
本発明で用いるセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、高いアルミナ量の下で、強度と靱性との良好なバランスを維持しつつ、耐摩耗性及び硬度が向上したジルコニア−アルミナ複合セラミック材料である。
すなわち、本発明で用いるセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアで構成されるジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されている。
上記した複合セラミック材料において、ジルコニア相は、安定化剤として10〜12モル%のセリアを含有する。また、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、上記コンポジット粒子内に存在し、かつ内部に微細ジルコニア粒子を含有するアルミナ粒子の数の比が0.3%又はそれ以上であることが好ましい。この比は、本発明で用いる複合セラミック材料におけるコンポジット粒子の好ましい量を定義する。
また、複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の比である第1分散率が1.5%又はそれ以上であることが好ましい。厳密に言えば、第1分散率は、内部に微細ジルコニア粒子を有するとともに、ジルコニア粒子内に取り込まれるコンポジット粒子を構成するアルミナ粒子の数と、ジルコニア粒子内に取り込まれるが微細ジルコニア粒子を内部に有していないアルミナ粒子の数の合計の複合セラミック材料中に分散されるすべてのアルミナ粒子の数に対する割合を定義する。第1分散率が1.5%又はそれ以上である場合は、ジルコニア粒子内に分散されたアルミナ粒子によって複合セラミック材料がより効果的に強化される。結果として、本発明で用いる複合セラミック材料の機械的性質がさらに向上する。
また、上記複合セラミック材料中に分散される全ジルコニア粒子の数に対する、アルミナ粒子内に分散されるジルコニア粒子の数の比である第2分散率が4%又はそれ以上であることが好ましい。厳密に言えば、第2分散率は、コンポジット粒子を構成するアルミナ粒子内に分散された微細ジルコニア粒子の数と、コンポジット粒子を構成しないアルミナ粒子内に分散されているジルコニア粒子の数の合計の複合セラミック材料中に分散されるすべてのジルコニア粒子の数に対する割合を定義する。第2分散率が4%又はそれ以上である場合は、後述するように、アルミナ粒子内に取り込まれた正方晶の微細ジルコニア粒子によって形成されるZTA(zirconia toughened alumina)の量を増やすことができる。結果として、本発明で用いる複合セラミック材料はより高い信頼性でもって優れた機械的性質を発揮する。
本発明で用いる複合セラミック材料の製造方法は、前記ジルコニア相を提供するための第1粉末と前記アルミナ相を提供するための第2粉末とを前記複合セラミック材料中の前記アルミナ相の量が20〜70体積%になるように混合する工程と、得られた混合粉末を所望の形状に成形して圧粉体を得る工程と、前記圧粉体を酸素含有雰囲気下で焼結して、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなる前記複合セラミック材料を得る工程とを含んでいる。
上記方法における好ましい第2粉末の調製プロセスは、比表面積50〜400m/gのγ−アルミナ粉末、及びθ−アルミナ粉末から選択される少なくとも1種にジルコニア粉末を添加して混合粉末を得るステップを含む。また、アルミニウム塩の水溶液、又はアルミニウムアルコキシドの有機溶液にジルコニア粉末を添加し、得られた混合物を加水分解して沈殿物を得た後、この沈殿物を乾燥するステップを含む調製プロセスも好ましい。あるいは、アルミニウム塩の水溶液、又はアルミニウムアルコキシドの有機溶液にジルコニウム塩の水溶液を添加して混合物を得、この混合溶液を加水分解して沈殿物を得た後に、この沈殿物を乾燥するステップを含む調製プロセスが好ましい。これらの調製プロセスにおいては、混合粉末又は沈殿物を酸素含有雰囲気下800℃以上、かつ1300℃以下の条件で仮焼することが好ましい。
前記複合セラミック材料中に上記コンポジット粒子を効率よく分散させる観点から、第2粉末は、平均粒径0.3μm以下の主としてα−アルミナ粒子からなり、内部に微細なジルコニア粒子を有することが特に好ましい。この場合は、焼結過程におけるコンポジット粒子の形成を促し、結果として複合セラミック材料中のZTAの量を増やすことができる。
前記複合セラミック材料の機械的性質の改善は、複合セラミック材料中にコンポジット粒子を積極的に分散させることによって、結果的にZTAの形成量を増加させて達成される。理論による制約を意図するものではないが、前記複合セラミック材料における機械的性質の顕著な改善は以下のメカニズムによるものと考えられている。上記したように、本発明で用いるジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、微細(正方晶)ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子が(より大きな)ジルコニア粒子内に取り込まれたコンポジット粒子が分散されている。アルミナ粒子内に取り込まれた微細(正方晶)ジルコニア粒子は、ZTAを提供するので、アルミナ粒子の靭性は微細ジルコニア粒子の存在によって顕著に改善される。このように靭性強化されたアルミナ粒子が(より大きな)ジルコニア粒子内に取り込まれると、そのジルコニア粒内にサブグレインバウンダリーが形成される。このサブグレインバウンダリーの形成は、アルミナ粒子を取り込んだジルコニア結晶粒を仮想的にさらに細分化する役割を担う。
また、上記の(より大きな)ジルコニア粒内に形成された残留応力場は、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態の臨界応力を高める。さらに、上記したコンポジット粒子(本明細書においては、このコンポジット粒子の構造を「トリプル型相互ナノコンポジット構造」と呼ぶ)の分散が、複合セラミック材料を構成するジルコニア粒子、及びアルミナ粒子の平均粒径を大幅に低減することができる。このように、ナノメートルレベルでの独特の組織制御により、40〜70体積%というより多くのアルミナ量の下で、強度と靭性との良好なバランスを維持しつつ、優れた耐磨耗性と硬度とを備えたセリア安定化ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を提供することができる。
本発明で用いるセリア安定化ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料のジルコニア相は、90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアで構成される。このような多量の正方晶ジルコニアを得るため、ジルコニア相は安定化剤として10〜12モル%のセリアを含む。好ましくは、ジルコニア相は、90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアと、残りの単斜晶ジルコニアとで構成される。
前記複合セラミック材料は、20〜70体積%、好ましくは40〜60体積%のアルミナ相を含有することを本質とする。アルミナ量が40〜60体積%の範囲内である時は、強度と靭性との間の良好なバランスを有する高信頼性複合セラミック材料を提供することができる。
前記複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、上記コンポジット粒子内に存在し、かつ内部に微細ジルコニア粒子を有するアルミナ粒子の数の比が0.3%以上であることが好ましい。換言すると、この比が0.3%より大きくなると、ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の強度、及び靭性のより高い改善効果が得られる。
また、前記複合セラミック材料中に分散される全アルミナ粒子の数に対する、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数の比である第1分散率は1.5%以上であることが好ましい。第1分散率の上限は特に限定されない。理論的には第1分散率が増加するにつれて複合セラミック材料の機械的特性はさらに改善される。コンポジット粒子内に存在するアルミナ粒子の数は、ジルコニア粒子内に分散されるアルミナ粒子の数に含まれる。
前記複合セラミック材料中に分散される全ジルコニア粒子の数に対する、アルミナ粒子内に分散されるジルコニア粒子の数の比として定義される第2分散率は4%以上であることが好ましい。第2分散率の上限は特に限定されない。理論的には第2分散率が増加するにつれて、複合セラミック材料の機械的特性がさらに改善される。
コンポジット粒子の微細ジルコニア粒子の大きさは、アルミナ粒子内に取り込まれるのであれば限定されない。例えば、数十ナノメートルサイズの平均粒径を有する微細な正方晶ジルコニア粒子がアルミナ粒子内に取り込まれることが好ましい。コンポジット粒子のアルミナ粒子内に取り込まれた微細ジルコニア粒子の数は、アルミナ粒子内に分散されるジルコニア粒子の数に含まれる。
前記複合セラミック材料のアルミナ粒子は0.1〜0.5μmの平均粒径を有することが好ましい。
コンポジット粒子のジルコニア粒子の粒径は、このジルコニア粒子内にアルミナ粒子が取り込まれるように決定されるが、ジルコニア粒子の粗大化は複合セラミック材料の強度低下の原因となるおそれがある。この観点から、複合セラミック材料のジルコニア粒子の平均粒径は、0.1〜1μmの範囲内であることが好ましい。この平均粒径は、アルミナ粒子内に取り込まれた微細なジルコニア粒子以外のジルコニア粒子に基づくものである。
ところで、数ミクロンレベルの平均粒径を有し、ジルコニア粒子とアルミナ粒子が単に混合されてなる組織の従来の複合セラミック材料の場合、アルミナ量が30体積%を超えると、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相転移は、もはや複合セラミックス材料の主要な強化機構ではなくなり、結果として強度、及び靭性が徐々に減少する傾向がある。また、アルミナ量が50体積%を超えると、それは複合セラミック材料のマトリックス相がアルミナ相で構成されることを意味する。これは、従来の複合セラミック材料の機械的性質の著しい劣化を招く。
トリプル相互ナノコンポジット構造のコンポジット粒子が分散されたセリア安定化ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料によれば、アルミナ粒子内に分散された微細ジルコニア粒子、及びジルコニア粒子内に分散されたアルミナ粒子が、結晶粒内での転位のパイルアップ、及びサブグレインバンダリーの形成に寄与し、複合セラミック材料の強度、及び耐磨耗性が顕著に改善される。特に、アルミナ相の量が40〜60体積%である場合は、アルミナ粒子内に均一に分散された微細な正方晶ジルコニア粒子によってZTA(zirconia toughened alumina)構造が実現され、その結果アルミナ粒子が顕著に強化される。換言すれば、アルミナ量が50体積%を超えても、正方晶ジルコニア粒子によって効果的に強化された微細結晶粒組織の形成によって高い強度及び靭性を維持できる。これらの理由から、アルミナの量が50体積%を超え、もはやマトリックス相がアルミナ相でなる条件下で得られたセリア安定化ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、ジルコニア相をマトリックス相とする従来のジルコニア−アルミナセラミック材料に匹敵する優れた強度及び靭性を発揮する。
理論による制約を意図するものではないが、本発明で用いる複合セラミック材料における機械的性質は、以下のメカニズムによって改善されるものと考えられる。すなわち、内部に微細な正方晶ジルコニア粒子を有するアルミナ粒子が正方晶ジルコニア粒子内に取り込まれた構造のコンポジット粒子が複合セラミック材料中に分散されると、焼結後の冷却過程においてアルミナとジルコニアとの間の熱膨張係数差により正方晶ジルコニア粒子内のアルミナ粒子周囲、及びアルミナ粒子内の微細ジルコニア粒子周囲には局所的に残留応力場が形成される。この残留応力場の影響により、それぞれの結晶粒子内には転位が発生しやすくなる。転移は互いにパイルアップされ、最終的にジルコニア粒子、及びアルミナ粒子内にサブグレインバインダリーが形成される。サブグレインバインダリーは微粒化組織をもたらし、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの応力誘起相変態の臨界応力を高める働きを有する。その結果、本発明で用いる複合セラミック材料が、高い強度及び靭性に加えて優れた耐摩耗性及び硬度を発揮する。
図1のSEM写真を参照しながら、セリア安定化ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の構造をより具体的に説明する。このSEM写真は、内部にアルミナ粒子を有していない普通の正方晶ジルコニア粒子と、内部にジルコニア粒子を有していない普通のアルミナ粒子が均一に混在する組織の中に、上記したコンポジット粒子が存在している様子を示している。また、このコンポジット粒子を構成する大きなジルコニア粒子内には、内部に微細ジルコニア粒子を有するアルミナ粒子と、内部に微細ジルコニア粒子を有しない微細アルミナ粒子が分散されている。さらに、コンポジット粒子以外に微細ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子が複合セラミック材料中に存在している。単一のジルコニア粒子内のアルミナ粒子の数、及び単一のアルミナ粒子内の微細ジルコニア粒子の数は限定されない。例えば、単一のジルコニア粒子内に複数のアルミナ粒子が取り込まれてもよく、又は、単一のアルミナ粒子内に複数の微細ジルコニア粒子が取り込まれてもよい。
好ましくは、ジルコニア相は、セリアの他に、マグネシア、カルシア、チタニア、及び/又はイットリアのような他の安定化剤を含有してもよい。例えば、10〜12モル%のセリアに加えてジルコニア相の全量に関して0.01〜1モル%のチタニア、及び/又は0.01〜0.5モル%のカルシアを含有することが好ましい。この場合、チタニアの添加はジルコニア相の粒成長を適度に促進させて、ジルコニア粒子内にアルミナ粒子を分散させやすくする。また、応力誘起相転移を起こす臨界応力を高めることができる。
カルシアの添加は、ジルコニアの異常粒成長を抑制して強度と靭性とのバランスを改善する。特に、高強度で耐磨耗性に優れたジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を得るのに効果的である。なお、ジルコニア相は微量の不純物を含んでもよい。例えば、不純物の量をジルコニア相の全量に対して0.5モル%以下とすることが望ましい。
本発明で用いるセリア安定化ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、従来のジルコニア−アルミナセラミック材料の強度、及び靭性を維持しながら、アルミナ量を増加させることによって期待される優れた耐摩耗性を必要とする用途に好適である。例えば、本発明で用いる複合セラミック材料を国際公開第02/11780号パンフレットに開示されている人工関節に使用することが好ましい。すなわち、人工関節の関節部がポリエチレンと複合セラミック材料との間の摺動接触によって提供される場合、ポリエチレンの摩耗量を減らすことができる。また、人工関節の関節部が複合セラミック材料同士の摺動接触によって提供される場合は、特に優れた耐摩耗性を達成できる。このように、本発明で用いる複合セラミック材料の使用により、生体内の過酷な条件下で長期間にわたりスムーズな関節運動を安定して提供できる人工関節を得ることができる。
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法
前記セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、特許文献1に記載の方法に従って製造することができる。詳細な製造方法は以下のとおりである。
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法は、ジルコニア相を提供するための第1粉末と、アルミナ相を提供するために第2粉末とを前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量が20〜70体積%になるように混合する工程と、得られた混合粉末を所望の形状に成形して圧粉体を作製する工程と、前記圧粉体を酸素含有雰囲気下、得られた複合セラミック材料中に、微細ジルコニア粒子を内部に有するアルミナ粒子がジルコニア粒子内に取り込まれた構造のコンポジット粒子が分散されるように焼成する工程とを含む。
90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアで構成されたジルコニア相を得るために、第1粉末は、ジルコニア相が10〜12モル%のセリアを安定化剤として含有するように調製される。また、第1粉末として、セリアに加えて、所定量のチタニア、及び/又はカルシアを含有する正方晶ジルコニア粉末を用いることも好ましい。第1粉末の調製方法は制限されない。例えば、以下の調製方法が推奨される。
すなわち、セリウム塩等のセリウム含有化合物をジルコニウム塩の水溶液に添加する。必要に応じて、チタニウム塩、及び/又はカルシウム塩の水溶液、又は、チタン含有化合物又はカルシウム含有化合物としてチタン又はカルシウムのアルコキシドの有機溶液を添加してもよい。次いで、得られた混合溶液にアンモニア水等のアルカリ性水溶液を加えて加水分解し、沈殿物を得る。この沈殿物を乾燥し、大気のような酸素含有雰囲気中で仮焼し、湿式ボールミル等により粉砕することにより、所望の粒度分布を有する正方晶ジルコニア粉末が得られる。
正方晶ジルコニア粉末を用いる場合は、十分な密度を有する圧粉体を得るために、10〜20m/gの比表面積を有することが好ましい。そのような圧粉体は、常圧焼結により焼結しやすい。
複合セラミック材料内にトリプル型相互ナノコンポジット構造を有するコンポジット粒子を均一に分散させるためには、アルミナ粒子の内部に微細ジルコニア粒子を有してなるコンポジット粉末を第2粉末として使用することが特に好ましい。例えば、アルミナ粉末に所定量の第1粉末を混合し、得られた混合粉末を酸素含有雰囲気下800℃以上、かつ1300℃以下、より好ましくは1000℃以上、かつ1200℃以下の条件で仮焼することによりコンポジット粉末が得られる。この場合、アルミナ粉末としては、比表面積50〜400m/gのγ−アルミナ粉末、及びθ−アルミナ粉末から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。このアルミナ粒子の比表面積は、第1粉末の比表面よりも非常に大きい、換言すれば、コンポジット粉末を調製するために用いられるアルミナ粉末は第1粉末に比べて非常に細かいので、上記混合粉末は、超微細なアルミナ粒子で囲まれたジルコニア粒子を含む。
次に、仮焼工程中に混合粉末のγ−アルミナ、及び/又はθ−アルミナのα−アルミナへの相転移が起こる。この時、相転移によって得られ、増大した粒子径を有するα−アルミナ粒子内に、混合粉末中のジルコニア粒子が閉じ込められる。このようにして得られたコンポジット粉末は、γ−アルミナ又はθ−アルミナ粉末を用いる場合に比べて成形性において優れる。また、複合セラミック材料中に分散するアルミナ粒子の平均粒径を0.1〜0.5μmの範囲内に制御しやすいという長所もある。
上記した方法によって調製されるコンポジット粉末は、平均粒径0.3μm以下の主としてα−アルミナからなる粉末であり、その内部に微細なジルコニア粉末を有してなることが好ましい。ただし、コンポジット粉末中のα−アルミナの量は特に限定されない。すなわち、仮焼によってγ−アルミナ、及び/又はθ−アルミナの一部がα−アルミナに相転移していればよく、α−アルミナとγ−アルミナとが混在していても構わない。
第2粉末を調製する方法は、限定されない。例えば、アルミニウム塩の水溶液又はアルミニウムのアルコキシドの有機溶液にジルコニア粉末を添加し、得られた混合物を加水分解して沈殿物を得た後、この沈殿物を乾燥する。乾燥した沈殿物を、酸素含有雰囲気中、800〜1300℃で仮焼し、湿式ボールミル等により粉砕すれば所望の粒度分布を有する第2粉末が得られる。また、上記方法において、ジルコニア粉末の代わりに、例えば、ジルコニウム塩の水溶液を用いてもよい。
第2粉末としてコンポジット粉末を調製する場合、アルミナとジルコニアとの混合比は限定されない。微細なジルコニア粒子を内部に有するα−アルミナ粒子を効率よく得るために、コンポジット粉末におけるアルミナとジルコニアとの体積比を95:5〜50:50の範囲内とすることが好ましい。なお、上記体積比を90:10〜60:40の範囲内とする場合は、微細なジルコニア粒子を内部に有するα−アルミナ粒子をさらに効率よく得ることができ、それにより、本発明で用いる複合セラミック材料の製造に最適な高品質のコンポジット粉末を提供することができる。
なお、必要に応じて、焼結工程後に酸素含有雰囲気下で熱間静水圧加圧(HIP)処理を実施してもよい。HIP処理の効果を最大限に得るため、常圧焼結によって得られた複合セラミック材料の焼結体は95%以上の相対密度を有することが好ましい。酸素含有雰囲気中の酸素濃度は制限されない。アルゴン等の不活性ガスと酸素との混合ガスを用いてもよい。この場合、酸素濃度は、混合ガス全量に対しておよそ5体積%以上であることが好ましい。
セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料のより具体的な製造方法は以下のとおりである。例えば、複合セラミック材料のジルコニア相を提供するための第1成分として、安定化剤としての11モル%のセリアと、0.05モル%のチタニアと、0.16モル%のカルシアを含有する比表面積が15m/gの正方晶ジルコニア粉末を用いる。一方、複合セラミック材料のアルミナ相を提供するための第2成分として、比表面積が300m/gのγ−アルミナ粉末と、前記した正方晶ジルコニア粉末の一部との混合物でなる複合粉末を用いる。なお、γ−アルミナ粉末と正方晶ジルコニア粉末との混合比は、体積比で70:30である。
所定量の正方晶ジルコニア粉末とγ−アルミナ粉末とをエタノール溶媒中で24時間ボールミルを用いて混合し、乾燥して混合粉末を得る。次いで、この混合粉末を大気中1000℃で2時間仮焼する。このようにして得られた仮焼粉末をエタノール溶媒中で24時間ボールミルを用いて粉砕し、乾燥することによって複合粉末を得る。残りの正方晶ジルコニア粉末及び複合粉末を、複合セラミック材料中のアルミナ量が10〜80体積%の範囲となるように混合する。得られた混合物をエタノール溶媒中で24時間ボールミルを用いて混合した後、乾燥して焼結用粉末を得る。
得られた焼結用粉末を15MPaの圧力で一軸加圧成形して直径約120mmの円盤状の成形体を得る。245MPaの圧力で成形体をCIP(冷間静水圧加圧)処理した後、試験片の形状に切削加工し、大気中、焼成温度1450℃で3時間の条件下、成形体を常圧焼結により焼成することにより、焼結体が得られる。また、別法として、焼結体は、混合粉末を仮焼結させてセラミックス仮焼結体を得る工程、前記仮焼結体を切削加工して成形体を得る工程、及び前記成形体を焼結させてセラミックス焼結体を得る工程を経て製造することもできる。
得られた焼結体(本発明で用いるセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料)には、酸化セリウムが70体積%中に10mol%、酸化ジルコニウムが70体積%中に90mol%、及び酸化アルミニウムが30体積%含まれている。
複合セラミック材料には、市販されている材料を使用することも可能である。市販品としては、商品名ナノジルコニア(YAMAKIN株式会社製)等が挙げられる。
アルカリ処理
本発明の表面改質方法は、前記セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理することを含んでいる。
アルカリ処理は、前記セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料をアルカリ水溶液に浸漬することにより行うことができる。
アルカリ水溶液は、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)等のアルカリ金属イオン;カルシウムイオン(Ca2+)等のアルカリ土類金属イオン等の金属イオンを1種以上含有する水溶液である。アルカリ水溶液として、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液、水酸化カリウム(KOH)水溶液等を用いることができる。
アルカリ水溶液における金属イオンの濃度は、0.1M(モル濃度)以上20M以下が好ましく、5M以上15M以下がより好ましく、8M以上12M以下がさらに好ましい。
アルカリ水溶液の液温は、特に限定はなく、例えば、0〜50℃であり、20℃〜40℃程度が好ましく、25℃〜35℃程度がより好ましい。
基材のアルカリ溶液への浸漬時間は、特に限定はなく、例えば、1時間以上120時間であり、12時間以上96時間以下が好ましく、18時間以上32時間以下がより好ましい。
アルカリ処理は、前記複合セラミック材料を、通常0.1〜20M、好ましくは5〜15M、より好ましくは8〜12M、特に10M水酸化ナトリウム水溶液中に、30℃で24時間浸漬することにより行うことが好ましい。
アルカリ処理は、1回又は2回以上に分けて行うことができる。
アルカリ処理の後、水で洗浄し、自然乾燥させてもよい。
プラズマ処理
本発明の表面改質方法は、アルカリ処理したセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をプラズマ処理することを含んでいる。
プラズマ処理に用いられるプラズマ発生源としては、特に限定されるものではなく、例えば、水素、ヘリウム、希ガス、酸素、窒素、ハロゲン、アンモニア、二酸化炭素、水蒸気等が挙げられる。これらのガスは、1種単独で使用することができ、又はこれらの任意の2種以上のガスを混合した混合ガスを使用することもできる。プラズマ処理は、1回又は複数回行うことができる。
供給ガスの圧力は、通常0.001〜10MPa、好ましくは0.01〜1MPa、より好ましくは0.05〜0.25MPa、さらに好ましくは0.1〜0.2MPaとすることができる。プラズマ照射1回当たりの供給ガス流量は、任意の流量とすることができ、例えば、安定的にプラズマを発生させるために、通常2〜30L/分、好ましくは3〜20L/分、より好ましくは5〜15L/分、さらに好ましくは8〜12L/分、特に好ましくは10L/分とすることができる。プラズマ照射口と基材表面との距離は、通常1〜30mm、好ましくは3〜20mm、より好ましくは5〜15mm、さらに好ましくは8〜12mm、特に好ましくは10mmとすることができる。
また、プラズマ照射時間は、通常1〜500秒間、好ましくは2〜300秒間、より好ましくは3〜200秒間、さらに好ましくは5〜160秒間とすることができる。プラズマ照射は、大気圧下で行うことができる。
プラズマ処理は、市販のプラズマ発生装置を用いて行うこともできる。市販のプラズマ発生装置として、例えば、ピエゾブラッシュ(登録商標)(アルス社製)等が挙げられる。ピエゾブラッシュ(登録商標)は、大気圧低温プラズマ発生装置であり、手作業で、低温のエアープラズマによる表面改質が可能な装置である。
本発明の表面改質方法は、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料に対してアルカリ処理した後、プラズマ処理を行う方法である。該表面改質方法を行うことで、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面における骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させ、血管内皮細胞の血管新生を促進し、骨埋入時の新生骨形成を促進し、又は細胞接触時のROS発生を低減させることができる。よって、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理及びプラズマ処理で改質することで、優れた骨誘導能を獲得することが可能となり、よって生体適合性が向上する。
本発明の表面改質方法によって得られたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料(以下、「本発明のセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料」又は「本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料」ということもある。)は、骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させることができる。骨髄間葉細胞の硬組織への分化は、ALP活性量、カルシウム析出量、及び硬組織分化誘導能に関する遺伝子マーカー(Runx2 mRNA、ALP mRNA、OPN mRNA、及びBMP mRNA)の発現量を測定することで評価することができる。
中でも初期の硬組織分化は、測定されたALP活性量で評価することができ、ALP活性量が多いほうが、初期の硬組織分化が促進されたということができる。
ALP活性量としては、通常1.3μmol/mL以上、好ましくは1.4〜3.0μmol/mL、より好ましくは2.0〜2.5μmol/mLである。
例えば、7日後のALP活性量としては、通常1.3μmol/mL以上、好ましくは1.4〜3.0μmol/mL、より好ましくは2.0〜2.5μmol/mLである。
また、14日後のALP活性量としては、通常2.0μmol/mL以上、好ましくは2.1〜3.0μmol/mL、より好ましくは2.0〜2.5μmol/mLである。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、ALP活性量増大材、又はALP活性促進材と言い換えることができる。
また、培養後期の石灰化は、測定されたカルシウム析出量で評価することができ、カルシウム析出量が多いほうが、培養後期の石灰化が促進されたということができる。
カルシウム析出量としては、通常11mg/dL以上、好ましくは11〜30mg/dL、より好ましくは16〜25mg/dLである。
例えば、21日後のカルシウム析出量としては、通常11mg/dL以上、好ましくは11〜30mg/dL、より好ましくは16〜25mg/dLである。
また、28日後のカルシウム析出量としては、通常11mg/dL以上、好ましくは11〜30mg/dL、より好ましくは16〜25mg/dLである。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、カルシウム析出量増大材、又はカルシウム析出促進材と言い換えることができる。
骨髄間葉細胞の硬組織への分化は、測定された硬組織分化誘導能に関する遺伝子マーカー(Runx2 mRNA、ALP mRNA、OPN mRNA、及びBMP mRNA)の発現量で評価することができ、各遺伝子マーカーの発現量が多い方が、骨髄間葉細胞の硬組織への分化が促進されたということができる。なお、これらの発現量は、相対的な物理単位として、任意単位(a.u.)で表すことができる。
Runx2 mRNAの発現量(3日後)としては、通常1以上、好ましくは1.2〜2.0、より好ましくは1.3〜1.6である。
ALP mRNAの発現量(7日後)としては、通常1以上、好ましくは1.2〜2.0、より好ましくは1.3〜1.6である。
OPN mRNAの発現量(14日後)としては、通常1以上、好ましくは1.2〜2.0、より好ましくは1.3〜1.6である。
BMP mRNAの発現量(21日後)としては、通常1以上、好ましくは1.2〜2.0、より好ましくは1.3〜1.6である。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、
Runx2 mRNAの発現量増大材若しくはRunx2 mRNAの発現促進材、
ALP mRNAの発現量増大材若しくはALP mRNAの発現促進材、
OPN mRNAの発現量増大材若しくはOPN mRNAの発現促進材、又は
BMP mRNAの発現量増大材若しくはBMP mRNAの発現促進材と言い換えることができる。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、血管内皮細胞の血管新生を促進させることができる。血管内皮細胞の血管新生は、血管新生に関与するICAM1、von Willebrand facter、及びThorombomodulinの各遺伝子の発現量を測定することで評価することができる。各遺伝子の発現量が多い方が、血管内皮細胞の血管新生が促進されたということができる。なお、これらの発現量は、相対的な物理単位として、任意単位(a.u.)で表すことができる。
ICAM1の発現量(3日後)としては、通常1以上、好ましくは1.1〜2.0、より好ましくは1.2〜1.6である。
von Willebrand facterの発現量(5日後)としては、通常1以上、好ましくは1.1〜2.0、より好ましくは1.2〜1.6である。
Thorombomodulinの発現量(7日後)としては、通常1以上、好ましくは1.1〜2.0、より好ましくは1.2〜1.6である。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、
ICAM1の発現量増大材若しくはICAM1の発現促進材、
von Willebrand facterの発現量増大材若しくはvon Willebrand facterの発現促進材、又は
Thorombomodulinの発現量増大材若しくはThorombomodulinの発現促進材と言い換えることができる。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、細胞接触時の活性酸素(ROS)発生を低減させることができる。
ROS発生量(レベル)としては、通常5000(a.u.)以下、好ましくは4000(a.u.)以下、より好ましくは3500(a.u.)以下である。なお、ROS発生量は、相対的な物理単位として、任意単位(a.u.)で表すことができる。
本発明の表面改質方法されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、ROS発生量減少材又はROS発生低減材と言い換えることができる。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、骨埋入時の新生骨形成を促進させることができる。
新生骨形成は、新生骨の骨量(BV/TV)、骨梁幅(Tb. Th)、骨梁数(Tb. N)、及び骨梁と骨梁との間隔(Tb. Sp)を測定することで評価することができる。新生骨の骨量(BV/TV)、骨梁幅(Tb. Th)、及び骨梁数(Tb. N)は、各数値が大きい方が、新生骨形成が促進されたということができる。一方、骨梁と骨梁との間隔(Tb. Sp)は、数値が小さい方が、新生骨形成が促進されたということができる。
新生骨の骨量(BV/TV)(埋入8週間後)としては、通常30%以上、好ましくは40〜70%、より好ましくは50〜60%である。
骨梁幅(Tb. Th)(埋入8週間後)としては、通常100μm以上、好ましくは120〜180μm、より好ましくは140〜160μmである。
骨梁数(Tb. N)(埋入8週間後)としては、通常3/mm以上、好ましくは3.5〜7.0/mm、より好ましくは4.0〜5.0/mmである。
骨梁と骨梁との間隔(Tb. Sp)(埋入8週間後)としては、通常300μm以下、好ましくは20〜250μm、より好ましくは50〜150μmである。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、
新生骨形成増大材若しくは新生骨形成促進材、
新生骨の骨量増大材若しくは新生骨の骨量促進材、
骨梁幅増大材若しくは骨梁幅促進材、又は
骨梁と骨梁との間隔減少材若しくは骨梁と骨梁との間隔低減材と言い換えることができる。
また、本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料が、骨埋入時の新生骨形成を促進していることを、病理組織学的解析で確認することができる。
病理組織学的解析は、新生骨の形成量(BA)、及び、試料(ナノジルコニアスクリュー)が新生骨と接触している量(BIC)を測定することで評価することができる。
新生骨の形成量(BA)(8週間後)としては、通常20%以上、好ましくは30〜60%、より好ましくは35〜50%である。
試料(ナノジルコニアスクリュー)が新生骨と接触している量(BIC)(8週間後)としては、通常30%以上、好ましくは40〜80%、より好ましくは50〜70%である。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、
新生骨の形成量増大材若しくは新生骨の形成促進材、又は
試料(ナノジルコニアスクリュー)が新生骨と接触している量(BIC)増大材若しくは試料(ナノジルコニアスクリュー)が新生骨と接触している量(BIC)促進材と言い換えることができる。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、LBA(Labeled Bone Area)を増大させることができる。
LBA(4週間後)としては、通常20%以上、好ましくは22〜40%、より好ましくは25〜30%である。
LBA(8週間後)としては、通常20%以上、好ましくは30〜50%、より好ましくは35〜45%である。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、LBA増大材又はLBA促進材と言い換えることができる。
さらに、本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行うことにより、骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させ、血管内皮細胞の血管新生を促進させ、骨埋入時の新生骨形成を促進させ、又は細胞接触時のROS発生を低減させることができる、表面が改質され、かつ生体適合性を有するセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料と言い換えることができる。
<表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法>
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ということもある。)は、上述のセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理する工程、及び、プラズマ処理する工程を備えている。
そして、本発明の製造方法によって得られた表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、骨髄間葉細胞の硬組織への分化を向上させ、血管内皮細胞の血管新生を促進させ、骨埋入時の新生骨形成を促進させ、又は細胞接触時のROS発生を低減させることができるように表面が改質された材料である。
本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、歯科用インプラント、人工関節等の生体適合性を必要とする用途に有効に使用することができる。
また、本発明の表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料は、特に生体適合性を必要としない、例えば、光コネクタ用フェルール、軸受け、ダイス等の産業機械部品;ハサミ、鋸、その他種々の刃物類等の事務又は理化学用品;メカニカルシール、粉砕メディア等の化学部品;スポーツ用品に用いることもできる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
実施例1(アルカリ処理後にプラズマ処理を実施したナノジルコニア板)
市販のYAMAKIN株式会社製の円板状ナノジルコニア仮焼結体(直径約98mm)を切削加工し、次いで、特許文献1に記載の本焼結方法に準拠して、ナノジルコニア板(直径約10mm、厚み約2mm)を得た。この得られたナノジルコニア板を、鏡面研磨し、10M 水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に浸漬した状態で、30℃で24時間反応させた(アルカリ処理)。次いで、ナノジルコニア板を取り出し、イオン交換水で導電率が5μS/cm以下になるまで洗浄し、自然乾燥させた。その後、アルカリ処理したナノジルコニア板を、大気圧下でプラズマ処理を行った。プラズマ処理には、ピアゾフラッシュ(登録商標)PZ2(アルス社製)を用い、前記ナノジルコニア板の表面から10mmの間隔をあけて30秒間プラズマを照射した。得られたナノジルコニア板を実施例1(試料1)とした。
実施例2(アルカリ処理後にプラズマ処理を実施したナノジルコニアスクリュー)
市販のYAMAKIN株式会社製の円板状ナノジルコニア仮焼結体(直径約98mm)を切削加工し、次いで、特許文献1に記載の本焼結方法に準拠して、ナノジルコニアスクリュー(直径約1.2mm、長さ約17.0mm)を得た。得られたナノジルコニアスクリューを用いて、実施例1と同様にアルカリ処理及びプラズマ処理したものを実施例2(試料2)とした。
比較例1(無処理)
上記実施例1に記載した鏡面処理した後のナノジルコニア板を、比較例1(比較試料1)とした。
比較例2(アルカリ処理)
上記比較試料1に、実施例1と同様のアルカリ処理だけを行い、プラズマ処理は行わなかったものを比較例2(比較試料2)とした。
比較例3(アルカリ処理+UV処理)
上記比較試料1に、アルカリ処理を行った後、UV処理を行ったものを比較例3(比較試料3)とした。
ここで、UV処理は、UV照射装置としてHL-2000 HybriLinker(フナコシ株式会社製)を用いて、波長254nm、30秒間の条件で行った。
比較例4(アルカリ処理)
上記実施例2で使用したナノジルコニアスクリューに、実施例1と同様のアルカリ処理だけを行い、プラズマ処理は行わなかったものを比較例4(比較試料4)とした。
実施例1のナノジルコニア板、及び比較例1〜3のナノジルコニア板を用いて、以下の実験を行った。
実験例1
細胞培養及び試験材料への播種
生後8週齢のSD雄性ラットの両側大腿骨より骨髄間葉細胞を採取し、初代培養を確立した。培地にはE−MEM(和光純薬工業株式会社製)、10%牛胎児血清(FBS;Invitrogen,Life Technologies, USA)、ペニシリン(500U/ml, Cambrex Bio Science Walkersville, USA)、ストレプトマイシン(500μg/ml, Cambrex Bio Science Walkersville)、及びファンギゾン(1.25μg/ml, Cambrex Bio Science Walkersville)を含む培養液を使用した。培地の交換は3日ごとに行い、以下の実験は37℃、5%COの気相の培養条件下で行った。各試料を培養プレートに配置し、継代3代目の細胞を1wellあたり4万個播種した後、培地を分化誘導培地(10%FBS及び骨分化誘導剤(10 mMβ-グリセロリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)、80 μg/ml アスコルビン酸(ナカライテスク株式会社製),10-8 Mデキサメタゾン含有)に交換し、細胞刺激を開始した。なお、培地交換は2日毎に行った。一定期間が経過した後、以下の初期骨形成評価試験を行った。
(1)ALP活性
ALP活性は、初期の硬組織分化を示すものである。
培養開始7日後及び14日後における各々の培養細胞をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、0.2%トライトン(登録商標)(Sigma,St. Louis, MO, USA)にて抽出及び溶解した。ALP活性は、Alkali Phosphatase Luminometric ELIsa Kit(登録商標)(Sigma,St. Louis, MO, USA)を用い、メーカーの指示書に従って測定した。DNAの定量を、Pico green Double standard DNA Assay Kit(DSファーマバイオメディカル株式会社製)を用い、メーカーの指示書に従って行った。DNAを定量した後、DNAの定量あたりのALP活性を算出した。その結果を表1及び図2に示す。
Figure 0006978116
(2)カルシウム析出量
カルシウム析出量は、培養後期の石灰化に関与している。
培養21日後及び28日後における細胞外マトリックスに析出したカルシウム量を、10%ギ酸を用いて抽出した。カルシウム析出量は、Calcium E-test Kit(和光純薬工業株式会社製)を用いて定量した。その結果を表2及び図3に示す。
Figure 0006978116
(3)遺伝子解析
3日後、7日後、14日後、及び21日後の培養細胞より逆転写した後、mRNAを抽出し、StepOne PlusTM Real-Time PCR System (アプライドバイオシステム社製)を用いて硬組織分化誘導能に関する遺伝子マーカー(Runx2 mRNA、ALP mRNA、OPN mRNA、及びBMP mRNA)を定量した。ここで、Runx2 mRNA(Runt-related transcription factor 2 mRNA)は骨芽細胞への分化を決定づける因子であり、ALP mRNA(Alkaline phosphatase mRNA)は初期の分化に関与する因子であり、OPN mRNA(Osteopontin mRNA)は石灰化調節因子であり、BMP mRNA(Bone morphogenetic protein mRNA)は石灰化に関与する因子である。それぞれ、以下の式に従って、算出した。なお、解析方法は、デルタデルタ(ΔΔ)CT法とする。また、下記のGAPDH mRNAは、Glyceraldehyde-3-Phosphate Dehydrogenase mRNA(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ mRNA)を意味する。
Runx2 mRNA(3日後) = Runx2 mRNA 発現量 / GAPDH mRNA 発現量
ALP mRNA(7日後) = ALP mRNA 発現量 / GAPDH mRNA 発現量
OPN mRNA(14日後) = OPN mRNA 発現量 / GAPDH mRNA 発現量
BMP mRNA(21日後) = BMP mRNA 発現量 / GAPDH mRNA 発現量
その結果を表3及び図4に示す。
Figure 0006978116
結果
表1〜3及び図2〜4より、以下のことがいえる。
各試料上でラット骨髄間葉細胞を培養したところ、実施例1のナノジルコニア板(アルカリ処理後にプラズマ処理を実施)は、比較例2のナノジルコニア板(アルカリ処理のみ)と比較して、初期の硬組織分化を示すALP活性、及び培養後期の石灰化に関与するカルシウム析出量、硬組織分化誘導能に関する遺伝子マーカー(Runx2 mRNA、ALP mRNA、OPN mRNA、及びBMP mRNA)の発現が有意に高い値を示した。
これらの結果から、実施例1のように、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面にアルカリ処理及びプラズマ処理を行うことにより、硬組織分化誘導能が向上されることがわかった。
実験例2
血管内皮細胞の血管新生
前記実験例1の遺伝子解析と同様に、3日後及び5日後の培養細胞より逆転写した後、mRNAを抽出し、StepOne PlusTM Real-Time PCR System (アプライドバイオシステム社製)を用いて、血管新生に関与するICAM1、von Willebrand facter、及びThorombomodulinの各遺伝子の発現量を測定した。ここで、ICAM1(Intercellular adhesion molecule-1)は、初期付着関連遺伝子であり、von Willebrand facter(VWF)及びThorombomodulin (TM)は、いずれも接着後の創傷治癒関連遺伝子である。
その結果を表4及び図5に示す。
Figure 0006978116
結果
表4及び図5において、実施例1のナノジルコニア板(アルカリ処理後にプラズマ処理を実施)は、比較例2のナノジルコニア板(アルカリ処理のみ)と比較して、ICAM1(初期付着関連遺伝子)、von Willebrand facter及びThorombomodulin(いずれも接着後の創傷治癒関連遺伝子)の発現量が有意に高い値を示した。
この結果から、実施例1のように、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面にアルカリ処理及びプラズマ処理を行うことにより、インプラント埋入時において血管新生が促進されることがわかった。
実験例3
細胞接触時のROS発生
実施例1、比較例1及び比較例3のナノジルコニア板上にラット骨髄細胞を播種し、培養3日後、蛍光性酸化ストレス検出薬CellROXTM Deep Red Reagent, for oxidative stress detection(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を使用し、細胞内のROS(Reactive Oxygen Species;活性酸素)レベルを測定した。
その結果を表5及び図6に示す。
Figure 0006978116
結果
表5及び図6より、実施例1のROS発生の値は、比較例1及び3のROS発生の値よりも小さかった。これより、実施例1のナノジルコニア板は、細胞接触時のROSの発生が少ないことが確認された。
材料表面に各種細胞が接着し、増殖を行うためには、材料表面の酸化ストレスが関与しているとされる。よって、実施例1のように、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面にアルカリ処理及びプラズマ処理を行うことで、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面のROSを減少させ、細胞が生育するのに良好な環境を作成することができることがわかった。
実験例4
In vivo評価
実施例2及び比較例4のナノジルコニアスクリューを使用して、以下のin vivo評価を行った。生後8週齢のSD系雄性ラット(清水実験材料株式会社)の大腿骨にダイヤモンドポイントで穿孔させた後、実施例2又は比較例4のナノジルコニアスクリューを即時に埋入した。この際、スクリューの先端部を含む数カ所で穿孔部に接触させ、初期固定が得られるように埋入した。
CTを利用した海綿骨形態計測
実施例2又は比較例4のナノジルコニアスクリューを生後8週齢のSD系雄性ラットの大腿骨に埋入し、埋入8週間後に麻酔薬を腹腔内に過剰投与することにより安楽死させ、その後大腿骨を摘出した。摘出した大腿骨をマイクロフォーカスX線CT SMX−130CT(株式会社島津製作所製)を用いて撮影した。撮影部位はインプラント埋入周囲500μm、高さ2mmとした。得られた画像を図7に示す。
新生骨の骨量(BV/TV)、骨梁幅(Tb. Th)、骨梁数(Tb. N)、及び骨梁と骨梁との間隔(Tb. Sp)を、骨梁構造計測ソフトとしてTRI/3D-BON(Ratoc System Engineering社製)を用いて解析した。その結果を表6及び図8に示す。
なお、新生骨の骨量、骨梁幅、及び骨梁数については、数値が大きいほど骨の形成が多いことを示しており、骨梁と骨梁との間隔については、数値が小さいほど骨が密になっているため、骨の形成が多いことを示している。
Figure 0006978116
病理組織学的解析
10%ホルマリンにより固定した後、大腿骨を摘出した。採取した大腿骨をスクリュー挿入部に沿って矢状断面の非脱灰切片を作製した後にビラヌエバ染色を行い、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-9000, Keyence社製)を用いて組織学的観察を行った。撮影部位はインプラント埋入周囲500μm、高さ2mmとした。得られた画像を図9に示す。
新生骨の形成量(BA)、及び、試料(ナノジルコニアスクリュー)が新生骨と接触している量(BIC)をソフトウェア(画像処理ソフトImageJ/開発元:アメリカ国立衛生研究所(NIH))を用いて解析を行った。その結果を表7及び図10に示す。
Figure 0006978116
実施例2又は比較例4のナノジルコニアスクリューを生後8週齢のSD系雄性ラットの大腿骨に埋入した後、1週間後にテトラサイクリン(青色色素)、4週間後にアリザリンレッド(赤色色素)、8週間後にカルセイン(緑色色素)を注射し、埋入後8週間生育した。その後安楽死させ、10%中性緩衝ホルマリンによる灌流固定後に大腿骨を摘出した。採取した大腿骨をスクリュー挿入部に沿って、矢状断方向の約5−7μmの厚さの切片を作製し、共焦点レーザー顕微鏡(LSM700, Carl Zeiss社製)を用いて撮影を行った。撮影部位はインプラント埋入周囲500μm、高さ2mmとした。得られた画像を図11に示す。
標識した新生骨量(LBA)をソフトウェア(画像処理ソフトImageJ/開発元:アメリカ国立衛生研究所(NIH))を用いて解析した。その結果を表8及び図12に示す。
Figure 0006978116
結果
表6、図7及び図8に示すCTを利用した海綿骨形態計測の結果、実施例2のナノジルコニアスクリュー(アルカリ処理後にプラズマ処理を実施)は、比較例2のナノジルコニアスクリュー(アルカリ処理のみ)と比較して、周囲の新生骨形成が多く認められた。
また、表7、図9及び図10に示す病理組織学的解析においても、実施例2のナノジルコニアスクリューは比較例4のナノジルコニアスクリューよりも新生骨の形成量(BA)及び接触量(BIC)のいずれも多いことが明らかとなった。
さらに、表8、図11及び図12に示すビラネバ染色を行った病理組織像においては、実施例2のナノジルコニアスクリューにおいて埋入初期の1週間後では良好な成果を示さなかったものの、埋入4週目以降では新生骨の形成が多く認められた。また、埋入4週目及び8週目のいずれにおいても、実施例2のナノジルコニアスクリューは比較例4のナノジルコニアスクリューより高い新生骨形成量を示した。
以上の結果から、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面にアルカリ処理及びプラズマ処理を行うことで、無処理又は従来のアルカリ処理だけを行う表面改質方法と比較して、骨髄間葉細胞の硬組織(骨)への分化の向上、血管内皮細胞の血管新生の促進、骨埋入時の新生骨形成の促進、及び細胞接触時のROS発生の低減が認められた。これより、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面にアルカリ処理及びプラズマ処理を行うことで、優れた骨誘導能、血管新生能等を獲得することができることから、生体適合性を向上させることができるといえる。

Claims (9)

  1. 人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法であって、
    前記表面改質方法が、人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行う工程を含む、表面改質方法。
  2. 前記人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料が、90体積%又はそれ以上の正方晶ジルコニアで構成され、
    安定化剤として10〜12モル%のセリアを含有するジルコニア相と、アルミナ相とを含むジルコニア−アルミナ複合セラミック材料であって、
    前記複合セラミック材料中のアルミナ相の量は20〜70体積%であり、前記複合セラミック材料は、微細ジルコニア粒子を内部に含有するアルミナ粒子をジルコニア粒子内に取り込んだコンポジット粒子が分散されてなる、請求項1に記載の表面改質方法。
  3. 前記アルカリ処理が、前記人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料を5〜15M水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬することにより行われる、請求項1又は2に記載の表面改質方法。
  4. 前記プラズマ処理が、大気圧低温プラズマ発生装置を用いて行われる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面改質方法。
  5. 人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面改質方法であって、
    前記表面改質方法が、セリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行う工程を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の表面改質方法。
  6. 請求項1〜のいずれか一項に記載の表面改質方法によって表面が処理された人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。
  7. 人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理した後、プラズマ処理を行う工程により、表面が改質され、生体適合性を有する、人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。
  8. 人工関節又は人工歯根に使用するための表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法であって、
    人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の表面をアルカリ処理する工程、及び、プラズマ処理する工程を備える
    面が改質された人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法。
  9. 請求項に記載の人工関節又は人工歯根に使用するための表面改質されたセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料の製造方法によって得られた、表面が改質され、生体適合性を有する、人工関節又は人工歯根に使用するためのセリア安定型ジルコニア−アルミナ複合セラミック材料。
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