本発明は、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接合する異材接合方法に関する。
従来より、2つの被接合部材を接合する方法として種々の方法が知られている。
例えば、2つの被接合部材を接合する方法として、リベットを用いた方法が知られている。例えば、特許文献1では、リベットが座金を介して2つの積層板材(CFRP)を接合している。座金は、リベットを打ち込む際の衝突力を受け止めて、積層板材の層間剥離を抑制するために用いられている。また、2つの被接合部材を接合する方法としては、リベット以外にも、ボルト等を用いる方法も挙げられる。
しかしながら、リベットやボルトを用いる方法では、被接合部材同士の接合部における重量が増大し得る。とりわけ、2つの被接合部材のうちの少なくとも一方が、軽量化を目的として樹脂材料で形成されている場合には、リベットやボルトを用いることは、軽量化の目的に反してしまうという問題が生じる。
そこで、2つの被接合部材を接合する方法として、摩擦撹拌接合を用いる方法が知られている(例えば、特許文献2〜5参照)。摩擦撹拌接合は、上述したリベットやボルトを用いないため、接合部の重量が増大することを防止できる。
摩擦撹拌接合は、摩擦熱を利用して2つの被接合部材を接合する方法である。特許文献2、3では、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを重ね合わせて、回転する接合ツールを被接合金属部材に押し当てる。すると、接合ツールと被接合金属部材との間の摩擦によって摩擦熱が発生し、この摩擦熱が被接合金属部材と被接合樹脂部材との界面を通じて被接合樹脂部材に伝達され、被接合樹脂部材が融点以上に加熱されて局部的に溶融する。その後、接合ツールを被接合金属部材から離して冷却させると、被接合樹脂部材の溶融部分が硬化し、被接合金属部材との界面に溶着される。このことにより、被接合金属部材が被接合樹脂部材に接合される。
また、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接合する他の方法として、接着剤を用いて被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接着する方法もある。一般に機械構造用に使用される高強度接着剤の多くは、せん断強度が高い一方で剥離強度が低いことが知られている。このため、接着剤を用いて被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接着させた場合や、特許文献2、3に示すような方法で被接合金属部材の金属材料を被接合樹脂部材に溶着させた場合、被接合金属部材と被接合樹脂部材の接合部におけるせん断強度は確保することができるが、剥離強度を確保することは困難である。
更に、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接合する他の方法として、レーザリベット接合法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。これは、被接合金属部材と金属座金との間に、貫通孔が形成された被接合樹脂部材を挟み込み、貫通孔を介して被接合金属部材と金属座金とをレーザ光で溶接することにより、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接合する方法である。被接合金属部材と金属座金とをレーザ光で溶接させるためには、被接合金属部材と金属座金とのギャップが設けられていないか、またはギャップは小さい方が好ましい。このため、被接合金属部材と金属座金は、貫通孔内に入り込むような形状にそれぞれ形成されている。
特許第5838537号公報
特開2015−131443号公報
特許第5817140号公報
特許第3429475号公報
特許第5854451号公報
Development of High Power Direct Diode Laser Equipped Remote Laser Welding Robot System "LAPRISS" and Welding Process、川本 溶接学会誌 第85巻 (2016) 第8号 PP.7-9
しかしながら、非特許文献1に示す方法では、上述した形状への被接合金属部材と金属座金の加工には高い精度が要求される。一方、被接合金属部材と金属座金との間にある程度のギャップが形成されると、被接合金属部材と金属座金との溶接が不十分になり、十分な強度が得られなくなるおそれがある。このため、ギャップの管理にコストと労力を費やされ、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接合することが困難になると考えられる。
本発明はこのような点を考慮してなされたものであり、剥離強度を向上させることができるとともに、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを容易に接合することができる異材接合方法を提供することを目的とする。
本発明は、
被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接合用金属部材を用いて接合する異材接合方法であって、
第1面と、前記第1面とは反対側に設けられた第2面と、前記第1面から前記第2面にわたって形成された貫通孔と、を有する前記被接合樹脂部材を準備するとともに、前記被接合金属部材および前記接合用金属部材を準備する工程と、
前記被接合樹脂部材の前記貫通孔が前記第1面の側から前記被接合金属部材で覆われるとともに、前記第2面の側から前記接合用金属部材で覆われるように、前記被接合金属部材、前記被接合樹脂部材および前記接合用金属部材を重ね合わせる工程と、
回転する接合ツールで前記接合用金属部材を前記貫通孔内に押し込み、前記被接合金属部材に摩擦撹拌接合させる工程と、を備えた、異材接合方法、
を提供する。
上述した異材接合方法において、
前記接合用金属部材は、前記被接合樹脂部材の側に設けられた平坦状の第1面と、前記第1面とは反対側に設けられた平坦状の第2面と、を有している、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合金属部材は、前記被接合樹脂部材とは反対側に設けられた平坦状の第1面と、前記被接合樹脂部材の側に設けられた平坦状の第2面と、を有している、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合金属部材が、鋼、銅、銅合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金またはチタン合金で形成されている、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合樹脂部材が、繊維強化プラスチック材料で形成されている、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合樹脂部材が、熱硬化性樹脂で形成されている、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合樹脂部材が、熱可塑性樹脂で形成されている、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合金属部材、前記被接合樹脂部材および前記接合用金属部材を重ね合わせる工程において、前記被接合金属部材と前記被接合樹脂部材との間、および前記被接合樹脂部材と前記接合用金属部材との間の少なくとも一方に、絶縁性部材がそれぞれ介在されている、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記絶縁性部材は、接着剤、シール材または樹脂シートである、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合樹脂部材の前記貫通孔の平面形状は、円形である、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合金属部材は、前記被接合樹脂部材とは反対側に設けられた第1面と、前記被接合樹脂部材の側に設けられた第2面と、を有し、
前記接合ツールは、ツール本体と、ツール本体の先端から突出する球状のプローブと、を有しており、
前記プローブのツール半径をr、前記被接合金属部材の厚さをt
1、前記被接合樹脂部材の厚さをt
2、前記接合用金属部材の厚さをt
3、摩擦撹拌接合時における前記プローブの押込深さをD、前記プローブが前記押込深さDで押し込まれている押込位置に押し込まれた前記プローブの先端と前記被接合金属部材の前記第1面との距離をd、前記ツール本体の径をφ
S、前記貫通孔の半径をRとしたとき、前記貫通孔の径φ
Mは、
を満たしている、
ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合金属部材は、前記被接合樹脂部材とは反対側に設けられた第1面と、前記被接合樹脂部材の側に設けられた第2面と、を有し、
前記接合ツールは、ツール本体と、ツール本体の先端から突出する円錐台状のプローブと、を有しており、
前記プローブは、平坦状の先端面と、前記ツール本体から前記先端面に向かって縮径する傾斜面と、を含み、
前記プローブのツール半径をr
1、前記被接合金属部材の厚さをt
1、前記被接合樹脂部材の厚さをt
2、前記接合用金属部材の厚さをt
3、摩擦撹拌接合時における前記プローブの押込深さをD、前記プローブが前記押込深さDで押し込まれている押込位置における前記プローブの先端と前記被接合金属部材の前記第1面との距離をd、前記プローブの前記先端面の半径をr
2、前記押込位置に押し込まれた前記プローブの前記被接合樹脂部材の前記第2面における半径をr
3、前記押込位置に押し込まれた前記プローブと前記貫通孔の壁面との前記被接合樹脂部材の前記第2面における距離をr
4、前記プローブの突出寸法をL、前記貫通孔の半径をR、前記ツール本体の径をφ
Sとしたとき、前記貫通孔の径φ
Mは、
を満たしている、ようにしてもよい。
上述した異材接合方法において、
前記被接合樹脂部材の前記貫通孔の平面形状は、長手方向を有している、
ようにしてもよい。
本発明によれば、剥離強度を向上させることができるとともに、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを容易に接合することができる。
図1は、本実施の形態による異材接合方法により得られた接合構造体を示す断面図である。
図2は、図1の接合構造体の平面図である。
図3は、本発明の実施の形態による異材接合方法を実施するための接合装置一例を示す模式図である。
図4は、図3の接合装置の接合ツールを示す拡大図である。
図5(a)は、本実施の形態における異材接合方法において、金属板、樹脂板および金属座金を準備する工程を示す図であり、図5(b)は、金属板、樹脂板および金属座金を重ね合わせる工程を示す図であり、図5(c)は、接合ツールを金属座金に押し付ける前の状態を示す図であり、図5(d)は、接合ツールを押し込んだ状態を示す図であり、図5(e)は、接合ツールを上昇させた状態を示す図である。
図6は、図5(b)に示す工程の変形例を示す図である。
図7は、図1の接合構造体の変形例を示す断面図である。
図8は、図7の接合構造体の平面図である。
図9は、図4の接合ツールの変形例を示す図である。
図10(a)は、実施例1としての接合構造の断面を示す写真であり、図10(b)は、図10(a)の断面の一部を拡大して示す写真である。
図11は、比較例1−1としての接合構造体の断面の一部を拡大して示す写真である。
図12(a)は、引張せん断強度試験で使用する試験片を示す平面図であり、図12(b)は、図12(a)の試験片を用いた引張せん断強度試験方法を説明するための図である。
図13は、実施例1における引張せん断強度と、比較例1−2における引張せん断強度を示すグラフである。
図14(a)は、十字引張強度の試験方法で使用する試験片を示す平面図であり、図14(b)は、図14(a)の試験片を用いた十字引張強度試験方法を説明するための模式図である。
図15は、実施例1および比較例1−3における引張せん断強度および十字引張強度を示すグラフである。
図16は、実施例1および比較例1−3における単位接合面積当たりの引張せん断強度および単位接合面積当たりの十字引張強度を示すグラフである。
図17は、実施例2−2としての接合構造体の断面の一部を拡大して示す写真である。
図18は、実施例2における引張せん断強度を示すグラフである。
図19は、実施例3における引張せん断強度を示すグラフである。
図20は、実施例4における引張せん断強度を示すグラフである。
図21は、実施例5における引張せん断強度を示すグラフである。
図22は、実施例6における引張せん断強度を示すグラフである。
図23は、実施例3〜実施例6により得られた引張せん断強度試験結果をまとめた表である。
図24は、図23に示す試験結果をプロットしたグラフである。
図25は、図23および図24に示す貫通孔の予測値を求めるための幾何学モデルを示す図である。
図26は、図9に示す接合ツールについての幾何学モデルを示す図である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図8を参照して、本発明の実施の形態における異材接合方法について説明する。本実施の形態における異材接合方法は、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを接合用金属部材を用いて接合するための方法である。ここではまず、本実施の形態による異材接合方法により得られる接合構造体10について図1を用いて説明する。本実施の形態による接合構造体10は、金属板11(被接合金属部材)と樹脂板12(被接合樹脂部材)とを接合した構造体であって、より具体的には、金属板11と金属座金13(接合用金属部材)とを、樹脂板12を挟み込んだ状態で摩擦撹拌接合することにより得られる構造体である。摩擦撹拌接合とは、接合ツールの回転力により生じる摩擦熱によって部材を軟化させて撹拌し、硬化させることで複数の部材を接合することをいう。
図1および図2に示すように、接合構造体10は、金属板11と、金属板11上に直接的に重ね合わされた樹脂板12と、樹脂板12上に直接的に重ね合わされた金属座金13と、を備えている。このうち金属板11は、樹脂板12とは反対側に設けられた第1面11aと、第1面11aとは反対側(樹脂板12の側)に設けられた第2面11bと、を有している。第1面11aおよび第2面11bはいずれも平坦状に形成されており、金属板11は、平板状に形成されている。樹脂板12は、金属板11の側に設けられた第1面12aと、第1面12aとは反対側に設けられた第2面12bと、貫通孔14と、を有している。第1面12aおよび第2面12bはいずれも平坦状に形成されており、樹脂板12は、平板状に形成されている。金属座金13は、樹脂板12の側に設けられた第1面13aと、第1面13aとは反対側に設けられた第2面13bと、を有している。第1面13aおよび第2面13bはいずれも平坦状に形成されており、金属座金13は、平板状に形成されている。そして、金属板11の第2面11bに樹脂板12の第1面12aが重ね合わされ、樹脂板12の第2面12bに、金属座金13の第1面13aが重ね合わされている。このようにして、金属板11と樹脂板12と金属座金13は、この順番で積層されている。
貫通孔14は、図1に示すように、樹脂板12の第1面12aから第2面12bにわたって形成されており、樹脂板12を貫通している。また、貫通孔14は、図2に示すように、金属板11と樹脂板12とが重なり合う領域よりも小さな形状であって、金属座金13と樹脂板12とが重なり合う領域よりも小さな形状を有している。すなわち、貫通孔14の全体が、樹脂板12の第1面12aの側から金属板11で覆われている。また、貫通孔14の全体が、樹脂板12の第2面12bの側から金属座金13で覆われている。言い換えると、金属座金13は、樹脂板12の貫通孔14の全体を覆うことができる平面形状を有している。貫通孔14の平面形状は、任意であるが、例えば、図2に示すように、円形であってもよい。この場合、金属板11と金属座金13とは、摩擦撹拌点接合される。
金属座金13の一部は、樹脂板12の貫通孔14に入り込んで、摩擦撹拌接合部15の一部を形成している。摩擦撹拌接合部15は、貫通孔14内に押し込まれた金属座金13の軟化部分と、金属板11の軟化部分とによって構成されている。この摩擦撹拌接合部15は、金属板11と金属座金13とを接合して一体化している。また、金属座金13は、後述する接合ツール42によって樹脂板12の第2面12bに押圧されている。このようにして、樹脂板12は金属板11に接合されている。すなわち、金属板11と樹脂板12との間で作用する摩擦力および樹脂板12と金属座金13との間で作用する摩擦力によって、積層方向および積層方向に直交する方向(図2における左右方向および上下方向)のそれぞれに、金属板11と樹脂板12が相対移動不能になり、互いに固定されている。ここで、金属板11と樹脂板12とが接合するという説明は、金属板11を形成する金属材料と樹脂板12を形成する樹脂材料とが互いに直接的に接合しているか否かに関わるのではなく、金属座金13が金属板11に接合することにより、接合構造体10の強度よりも小さな力が付加された場合であっても、金属板11と樹脂板12とが3次元的に任意の方向に相対移動不能に固定されていることを意味するものとして扱う。なお、図1においては、摩擦撹拌接合部15が、樹脂板12の貫通孔14に嵌合している例が示されているが、これに限られることはない。
図1に示すように、摩擦撹拌接合部15には連続状の凹面16が形成されている。この凹面16は、下方に向かって凸となるように湾曲状に形成されている。すなわち、凹面16は、後述するプローブ44で押圧されたことにより形成される面であり、プローブ44の湾曲面44aに沿うように形成されている。摩擦撹拌接合時、プローブ44が金属板11に入り込むことにより、凹面16の一部は、樹脂板12の第1面12aよりも金属板11の側に入り込むように形成されている。
金属板11に用いる材料は、金属座金13と好適に摩擦撹拌接合することができれば特に限られることはない。例えば、金属板11は、鋼、銅、銅合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金またはチタン合金で形成されていてもよい。金属板11の板厚(接合前の厚さ)は、例えば、0.1mm〜50mm、好ましくは、0.5mm〜5mmである。
樹脂板12に用いる材料は、特に限られることはないが、樹脂板12は、例えば、繊維強化プラスチック材料で形成されていてもよい。繊維強化プラスチック材料は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であってもよい。また、繊維強化プラスチック材料は、熱硬化性樹脂を含浸していてもよく、熱可塑性樹脂を含浸していてもよい。また、樹脂板12は、繊維を含まずに、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂で形成されていてもよい。樹脂板12の板厚(接合前の厚さ)は、例えば、0.1mm〜10mm、好ましくは、0.5mm〜5mmである。
金属座金13に用いる材料は、金属板11と好適に摩擦撹拌接合することができれば特に限られることはない。例えば、金属座金13は、鋼、銅、銅合金、アルミニウム合金、マグネシウム合金またはチタン合金で形成されていてもよい。金属座金13の板厚(接合前の厚さ)は、例えば、0.1mm〜10mm、好ましくは、0.5mm〜3mmである。
次に、このような接合構造体10を形成するための接合装置30の一例について、図3を用いて説明する。
図3に示すように、接合装置30は、ベース31と、ベース31上に固定された筐体32と、を備えている。筐体32内にはサーボモータ33が設けられている。このサーボモータ33から上方にボールねじ34が延びている。ボールねじ34にはボールナット35が螺合しており、ボールナット35にはスライダー36が固定されている。筐体32には上下方向に延びるガイドレール37が設けられており、スライダー36は、このガイドレール37に案内されて上下方向に移動可能になっている。
スライダー36にはインダクションモータ38が固定されている。インダクションモータ38から下方に出力軸39が延びている。出力軸39は、スライダー36に固定された軸受部材40に回転可能に支持されている。軸受部材40の下方にはツール保持部41が設けられている。このツール保持部41は、出力軸39に固定されており、接合ツール42を保持するようになっている。
このような構成により、サーボモータ33が駆動されるとボールねじ34が回転し、スライダー36が上昇または下降する。スライダー36の上昇または下降に応じて、ツール保持部41に保持された接合ツール42が上昇または下降する。そして、インダクションモータ38が駆動されることにより、接合ツール42が回転するようになっている。
図4に示すように、ツール保持部41に保持された接合ツール42は、上下方向に延びる軸線に沿って形成された円筒状のツール本体43と、ツール本体43に取り付けられたプローブ44と、を有している。ツール本体43は、平坦状のショルダー面43aを含んでいる。このショルダー面43aは、ツール本体43の先端面(下端面)を構成しており、ショルダー径φSを有している。プローブ44は、図4に示すツール径φTを有しており、ショルダー面43aから下方に突出(図25に示す突出寸法L参照)している。プローブ44は、球状に形成されており、球面状の湾曲面44aを含んでいる。すなわち、本実施の形態によるプローブ44のツール径φTは、湾曲面44aによって構成される球体の直径に相当している。湾曲面44aは、金属座金13に押し当てられるようになっている。図4に示す接合ツール42は、球面状の湾曲面44aを含むプローブ44を有していることから、球形ツールとも称される。
プローブ44に用いる材料は、摩擦撹拌接合時の温度上昇に耐え得る材料であれば特に限られることはない。例えば、プローブ44は、セラミックス(例えば、窒化珪素)や超硬合金(例えば、タングステン合金)、耐熱合金(例えば、コバルト合金、ニッケル合金)、立方晶窒化ホウ素(PCBN)で形成されていてもよい。ツール本体43は、プローブ44と同様の材料で形成されていてもよく、温度上昇に耐え得れば、鋼材で形成されていてもよい。
接合ツール42の下方には、金属板11、樹脂板12および金属座金13を保持するワーク保持部45が設けられている。ワーク保持部45は、上述したベース31に固定されている。また、筐体32には、上述したサーボモータ33およびインダクションモータ38を制御する制御盤46が設けられている。
次に、本実施の形態による異材接合方法、すなわち、金属板11と樹脂板12を接合する方法について図5を用いて説明する。
まず、第1ステップとして、図5(a)に示すように、金属板11と樹脂板12と金属座金13とを準備する。このうち樹脂板12には、上述した貫通孔14を下穴として予め機械加工などによって形成しておく。金属座金13は、樹脂板12の貫通孔14を覆うことができる平面形状を有しており、平板状に形成されていることが好適である。
続いて、第2ステップとして、図5(b)に示すように、金属板11、樹脂板12および金属座金13を重ね合わせる。この場合、まず、接合装置30のワーク保持部45(図3参照)上に金属板11を載置する。続いて、貫通孔14が第1面12aの側から金属板11で覆われるように樹脂板12を金属板11上に重ね合わせる。次に、貫通孔14が第2面12bの側から覆われるように金属座金13を樹脂板12に重ね合わせる。そして、互いに重ね合わされた金属板11、樹脂板12および金属座金13が、図示しない固定手段でワーク保持部45に固定される。
次に、第3ステップとして、接合装置30の回転する接合ツール42で、金属座金13を貫通孔14内に押し込み金属板11に摩擦撹拌接合させる。
この場合、まず、図5(c)に示すように、制御盤46からの指令によりインダクションモータ38(図3参照)を回転駆動させる。このことにより、出力軸39とともにツール保持部41に保持された接合ツール42が所望の回転数で回転する。
続いて、制御盤46からの指令によりサーボモータ33を回転駆動させる。このことにより、ボールねじ34が回転し、スライダー36とともに接合ツール42が下降する。この間、インダクションモータ38が回転駆動され続け、接合ツール42が回転し続けている。
接合ツール42が下降すると、金属座金13の第2面13bにプローブ44の先端が達し、回転するプローブ44が押し当てられる。このことにより、金属座金13とプローブ44との間の摩擦によって摩擦熱が発生する。発生した摩擦熱により、金属座金13のうちプローブ44の近傍の部分(貫通孔14に重なり合う部分)が軟化する。
接合ツール42は回転しながら下降し続ける。このことにより、図5(d)に示すように、金属座金13の軟化した部分が、接合ツール42の下降に伴って樹脂板12の貫通孔14内に押し込まれる。貫通孔14内に押し込まれた軟化部分は、貫通孔14内で押し広げられるとともに、金属板11に向かって押し下げられる。金属座金13の軟化部分は、押し下げられることにより金属板11に接触する。この軟化部分が金属板11に接触すると、発生した摩擦熱が金属座金13から金属板11に伝わり、金属板11のうちプローブ44の近傍の部分も軟化する。
プローブ44は、所望の押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ、例えば、プローブ44の先端が、金属板11の第2面11bよりも下方に達するまでの深さ)となる押込位置まで押し込まれる。この押込位置で、制御盤46からの指令によってサーボモータ33の回転駆動を停止させることにより接合ツール42は押込位置で停止する。この停止状態は所定時間(以下、押込保持時間と記す)維持される。この間、プローブ44の回転の遠心力によって、金属座金13の軟化部分がプローブ44の先端から押しのけられ、プローブ44の湾曲面44aに沿って周囲に移動する。そして、金属板11の軟化部分の一部がプローブ44の先端から押しのけられ、プローブ44の湾曲面44aに沿って周囲に移動する。このようにして、プローブ44の湾曲面44aに沿うように、摩擦撹拌接合部15の凹面16(図1参照)が形成される。なお、プローブ44が押込位置よりも下降しないことにより、金属板11のうち樹脂板12とは反対側の部分(下側部分)は残存する。
なお、プローブ44は、押込位置に達した後、樹脂板12の第1面12a(または第2面12b)に沿う方向(図2における左右方向および上下方向)には移動しない。このため、本実施の形態により得られる摩擦撹拌接合は、より正確には摩擦撹拌点接合となる。
また、プローブ44が押込位置に位置付けられている間、ツール本体43のショルダー面43aが金属座金13の第2面13b(とりわけ、金属座金13の軟化部分)に当接するようにしてもよい。このことにより、ショルダー面43aが金属座金13を下方に押圧し、金属座金13の軟化部分が上方に盛り上がることを抑制できる。また、このように金属座金13の軟化部分の盛り上がりを抑制するように金属座金13を樹脂板12の第2面12bに押圧することができ、金属板11と樹脂板12との間で摩擦力を作用させるとともに樹脂板12と金属座金13との間で摩擦力を作用させて、樹脂板12を金属板11と金属座金13とによって強固に挟持することができる。なお、図5(d)においては、図面を簡略化するために、ショルダー面43aと金属座金13の第2面13bとが離間した状態で示しているが、上述のように、ショルダー面43aが金属座金13の第2面13bまたは金属座金13の軟化部分に当接させるようにしてもよい。
プローブ44を押込位置で押込保持時間が経過した後、図5(e)に示すように、制御盤46からの指令によってサーボモータ33を逆方向に回転させることにより、接合ツール42を上昇させる。このことにより、プローブ44が金属板11および金属座金13から離れる。その後、金属座金13の軟化部分および金属板11の軟化部分が冷却されて硬化し、金属板11と金属座金13とを接合する摩擦撹拌接合部15(図1参照)が形成される。
このようにして金属板11と金属座金13とが摩擦撹拌接合される。金属座金13は樹脂板12の第2面12b(上面)に押圧されて金属板11と接合されている。このことにより、金属板11と樹脂板12は、3次元的に任意の方向に相対移動不能になり、互いに固定される。このようにして、金属板11と樹脂板12とが接合され、図1に示す接合構造体10が得られる。
このように本実施の形態によれば、樹脂板12の貫通孔14が第1面12aの側から覆われるように金属板11が樹脂板12に重ね合わされるとともに、貫通孔14が第2面12bの側から覆われるように金属座金13が樹脂板12に重ね合わされて、回転する接合ツール42で金属座金13が貫通孔14内に押し込まれる。このことにより、接合装置30の接合ツール42が摩擦熱によって金属座金13を軟化させて押し込み、樹脂板12を挟み込むようにして金属板11と金属座金13とを摩擦撹拌接合することができる。この場合、金属材料同士で摩擦撹拌接合された金属板11と金属座金13とが樹脂板12を挟み込んでいるため、金属板11と樹脂板12との剥離強度を向上させることができる。
また、本実施の形態によれば、金属座金13と金属板11とが摩擦撹拌接合されて、金属板11と金属座金13で樹脂板12を挟み込んでいる。このことにより、リベットやボルトによる締結と比較すると、金属板11と樹脂板12とを接合するために追加される部材(本実施の形態では金属座金13)の質量を低減することができる。このため、金属板11と樹脂板12との接合部の質量が増大することを抑制でき、樹脂板12を用いて軽量化を図るという目的に反することを抑制できる。
また、本実施の形態によれば、金属板11は、樹脂板12に重ね合わせる際、樹脂板12の貫通孔14を第1面12aの側から覆い、金属座金13は、樹脂板12に重ね合わせる際、樹脂板12の貫通孔14を第2面12bの側から覆う。そして、金属座金13と金属板11とが、接合ツール42によって金属座金13を軟化させて貫通孔14内に押し込むことができる。このことにより、金属板11および金属座金13を貫通孔14に入り込むような形状に予め形成しておくことを不要にできる。すなわち、本実施の形態によれば、金属座金13は平板状に形成されているとともに金属板11は平板状に形成されている。この場合であっても、貫通孔14内において金属座金13と金属板11とを摩擦撹拌接合することができる。このため、金属板11と金属座金13の準備工程を簡素化することができ、金属板11と樹脂板12とを容易に接合することができる。
また、本実施の形態によれば、樹脂板12に貫通孔14が設けられているため、樹脂板12を形成する樹脂材料が、金属座金13の軟化部分と撹拌されることを防止できる。このことにより、樹脂板12が変形したり変質したりすることを防止できる。とりわけ、樹脂板12が、繊維強化プラスチック材料で形成されている場合、強化繊維が、プローブ44の回転によって変形したり破断したりすることを防止できる。このため、繊維強化プラスチック材料の強度を維持することができ、樹脂板12の強度が低下することを防止できる。
また、本実施の形態によれば、樹脂板12に貫通孔14が設けられて金属板11が金属座金13と摩擦撹拌接合することにより、樹脂板12を形成する樹脂材料が撹拌することを不要にできる。このため、樹脂板12が熱硬化性樹脂であっても、金属板11と樹脂板12とを容易に接合することができる。
また、本実施の形態によれば、樹脂板12が熱可塑性樹脂で形成されている場合には、金属板11と金属座金13とを摩擦撹拌接合する際に発生した熱により、熱可塑性樹脂が溶融する。このことにより、冷却後には金属板11は樹脂板12の第1面12aに溶着することができるとともに、金属座金13は樹脂板12の第2面12bに溶着することができる。このため、金属板11と樹脂板12との引張せん断強度を向上させることができる。
また、本実施の形態によれば、樹脂板12の貫通孔14の平面形状は、円形になっている。このことにより、金属板11と金属座金13とは、接合装置30のプローブ44によって摩擦撹拌点接合される。すなわち、プローブ44を所定の押込位置まで押し込んだ状態では、プローブ44を含む接合ツール42を、樹脂板12の第1面12aまたは第2面12bに沿う方向に移動させることを不要にできる。このため、作業効率を向上させて、金属板11と樹脂板12とを容易に接合することができる。また、接合装置30の構成を簡素化させることができる。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明してきたが、本発明による異材接合方法は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
例えば、上述した本実施の形態においては、金属板11に樹脂板12が直接的に重ね合わされ、樹脂板12に金属座金13が直接的に重ね合わされている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはない。例えば、図6に示すように、金属板11、樹脂板12および金属座金13を重ね合わせる際、金属板11と樹脂板12との間におよび樹脂板12と金属座金13との間の少なくとも一方に、絶縁性部材50が介在されるようにしてもよい。図6に示す例では、金属板11と樹脂板12との間におよび樹脂板12と金属座金13との間の両方に、絶縁性部材50がそれぞれ介在されている。この場合、金属板11と樹脂板12とを電気的に絶縁することができるとともに、樹脂板12と金属座金13とを電気的に絶縁することができる。例えば、樹脂板12が炭素繊維強化プラスチック材料で形成されている場合には、電食を防止することができる。
絶縁性部材50は、接着剤、シール材または樹脂シートであってもよい。このうち接着剤には、絶縁性を有しつつ、金属板11と樹脂板12とを接着するとともに樹脂板12と金属座金13とを接着する機能を有していれば、任意の材料を用いることができるが、例えば、ウエルドボンド用接着剤を用いることができる。絶縁性部材50に接着剤を用いる場合には、摩擦撹拌接合による接合力と接着剤による接合力との相乗効果で、金属板11と樹脂板12との剥離強度を含む接合強度を増大させることができる。シール材には、絶縁性を有しつつ、金属板11と樹脂板12とを密着させるとともに樹脂板12と金属座金13とを密着させる機能を有していれば、任意の材料を用いることができるが、例えば、スポット溶接時に使用するスポットシーラーを用いることができる。絶縁性部材50にシール材を用いる場合には、摩擦撹拌接合による接合力とシール材による防水効果との相乗効果で、金属板11と樹脂板12との電食を防止することができる。樹脂シートとしては、絶縁性を有していれば任意の材料を用いることができるが、例えば、フッ素樹脂フィルムを用いることができる。
絶縁性部材50に液状の接着剤を用いる場合には、金属板11の第2面11bまたは樹脂板12の第2面12bに接着剤を塗布するとともに、樹脂板12の第1面12aまたは金属座金13の第1面13aに接着剤を塗布して絶縁性部材50をそれぞれ形成してもよい。絶縁性部材50に液状のシール材を用いる場合も同様である。
また、上述した本実施の形態においては、樹脂板12の貫通孔14が、円形の平面形状を有している例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、貫通孔14は、図7および図8に示すように、長手方向dLを有していてもよい。図7および図8においては、貫通孔14は、紙面の左右方向に延びる長手方向dLを有している。貫通孔14は、この長手方向dLに沿うように長孔(長円または楕円など)で形成されていてもよい。接合装置30にプローブ44を平面方向に移動させる機能を持たせることにより、プローブ44を金属板11に押し込んだ際に、貫通孔14の長手方向dLに移動させることができる。このため、摩擦撹拌接合の領域を増大させることができ、金属板11と樹脂板12との接合強度をより一層向上させることができる。
また、上述した本実施の形態においては、接合ツール42のプローブ44が、球状に形成されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、図9に示すように、接合ツール42のプローブ44は、円錐台状に形成されていてもよい。この場合、プローブ44は、図9に示すツール径φT(ツール根元径、ショルダー面43aにおける直径)を有しており、ショルダー面43aから下方に突出(図26に示す突出寸法L参照)している。プローブ44は、平坦状の先端面44bと、ツール本体43のショルダー面43aから先端面44bに向かって次第に縮径する傾斜面44cと、を含んでいる。図9に示す接合ツール42は、円錐台状のプローブ44を有していることから、円錐形ツールとも称される。
また、上述した本実施の形態においては、金属座金13が平板状に形成されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、金属座金13は、平坦状の第1面13aに凸部が設けられて、この凸部が貫通孔14内に入り込むように形成されていてもよく、あるいは、第1面13aの一部が貫通孔14内に入り込むように金属座金13が折れ曲がるように形成されていてもよい。後者の場合、貫通孔14内に入り込む第1面13aの部分は、湾曲状に形成されていてもよく、若しくは、貫通孔14内に平坦部が位置付けられるように第1面13aが段差を有するように形成されていてもよい。
さらに、上述した本実施の形態においては、金属板11が平板状に形成されている例について説明した。しかしながら、このことに限られることはなく、金属板11は、平坦状の第2面11bに凸部が設けられて、この凸部が貫通孔14内に入り込むように形成されていてもよく、あるいは、第2面11bの一部が貫通孔14内に入り込むように金属板11が折れ曲がるように形成されていてもよい。後者の場合、貫通孔14内に入り込む第2面11bの部分は、湾曲状に形成されていてもよく、若しくは、貫通孔14内に平坦部が位置付けられるように第2面11bが段差を有するように形成されていてもよい。
上述した本発明によれば、剥離強度を向上させることができるとともに、被接合金属部材と被接合樹脂部材とを容易に接合することができる異材接合方法を提供することができる。このため、本発明は産業上利用可能な発明である。例えば、本発明は、各種機械等の工業製品や、構造物等において、被接合金属部材と被接合樹脂部材との接合に広く利用可能である。
上述した本実施の形態による異材接合方法によって得られた金属板11と樹脂板12を備えた接合構造体10の強度試験を、種々の条件下で行った。各実施例および各比較例共に、金属板11の材料は冷間圧延鋼板とし、樹脂板12の材料は熱硬化性樹脂(ポリアミド6)含浸の炭素繊維強化プラスチックとし、金属座金13の材料は冷間圧延鋼板とした。接合ツール42には、図4に示す球形ツールを用いた。
(実施例1)
実施例1では、以下の条件で接合構造体10を得た。
・金属板11の板厚:1mm
・樹脂板12の板厚:1mm
・金属座金13の板厚:1mm
・プローブ44のツール径φT:9.53mm(3/8インチ)
・貫通孔14の径φM:10mm
・押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ):2.6mm
実施例1によって得られた接合構造体10の断面写真を図10に示す。図10(a)は、接合構造体10を示す断面写真であり、図10(b)は、図10(a)の摩擦撹拌接合部15を拡大して示す断面写真である。
図10(a)、(b)に示すように、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分とによって構成される摩擦撹拌接合部15において、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との間に、後述する図11に示すような樹脂板12の樹脂材料は介在されていないとみなせる。このことにより、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分とは直接的に良好に接合されていることが確認できた。このため、金属板11と樹脂板12との剥離強度を含む接合強度を向上させることができていると言える。
また、図10(a)、(b)に示すように、樹脂板12の断面には、左右方向に延びる強化繊維が示されているが、貫通孔14の近傍において、強化繊維の配向は乱れていないと言うことができ、少なくとも摩擦撹拌接合によって強化繊維は破断されていないとみなせる。このことにより、繊維強化プラスチック材料の強度を維持し、樹脂板12の強度低下が防止できていることが確認できた。
ここで、比較例1−1について説明する。比較例1−1では、以下の条件で、接合構造体を得た。
・金属板11の板厚:1mm
・樹脂板12の板厚:1mm
・金属座金13の板厚:1mm
・プローブ44のツール径:12.70mm(1/2インチ)
・貫通孔14の径:−(貫通孔14は形成されていない)
・押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ):2.6mm
比較例1−1によって得られた接合構造体の拡大断面写真を図11に示す。
図11に示すように、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分とによって構成される摩擦撹拌接合部15において、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との間に、樹脂板12の樹脂材料の介在が見られた。このことにより、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との直接的な接合が阻害されていることが確認できた。樹脂板12に貫通孔14が設けられていないため、摩擦撹拌接合時に、樹脂材料の軟化した部分が、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との間に残存したためと考えられる。
また、図11に示すように、貫通孔14の近傍において、強化繊維の配向は乱れ、強化繊維の破断が確認できた。このことにより、樹脂板12に貫通孔14が設けられていないため、摩擦撹拌接合時に回転するプローブ44の影響を受けて、強化繊維が破断したと考えられる。
また、実施例1による接合構造体10の引張強度を得るために、引張せん断強度試験を行った。すなわち、実施例1と同様の条件で、図12(a)に示すような平面形状を有する試験片(接合構造体10)を作製した。また、プローブ44のツール径を9.53mm(3/8インチ)とした点以外では比較例1−1と同様の条件で、同様の平面形状を有する試験片を作製した(比較例1−2)。そして、両者の引張せん断強度試験を行った。引張せん断強度試験では、図12(b)に示すように、金属板11を左右方向の一方(図12(b)では右側)に引っ張るとともに、樹脂板12を左右方向の他方(図12(b)では左側)に引っ張り、破断荷重値を測定した。その結果を、図13に示す。
図13に示すように、実施例1(貫通孔14有り)の方が、比較例1−2(貫通孔14無し)よりも引張せん断強度が大きくなることが確認できた。上述した図10および図11の断面写真で示されていたように、実施例1では、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との間に樹脂材料の介在が見られなかったため、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分とは直接的に良好に接合されている。一方、比較例1−2では、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との間の一部に、樹脂板12の樹脂材料が介在していると考えられ、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との接合が不十分になっている。このため、比較例1−2よりも実施例1の方が、接合構造体10の引張せん断強度が高くなっていると言える。
また、実施例1による接合構造体10の剥離強度を得るために、十字引張強度試験を行った。すなわち、実施例1と同様の条件で、図14(a)に示すような十字状の平面形状を有する試験片(接合構造体10)を作製した。また、比較例1−3として、同様に十字状の平面形状を有するように、摩擦撹拌接合せずに接着剤によって金属板11と樹脂板12とを接着した試験片を作製した。比較例1−3では、単なる接着試験片となるため、金属座金13は用いていない。比較例1−3で用いた接着剤は、機械構造用の高強度エポキシ接着剤である。そして、両者の十字引張強度試験を行った。十字引張強度試験では、図14(b)に示すように、金属板11を下方に引っ張るとともに、樹脂板12を上方に引っ張り、破断荷重値を測定した。その結果を、図15に示す。図15には、引張せん断強度も示す。
図15に、荷重値としての引張せん断強度と十字引張強度を実測値でそれぞれ示している。引張せん断強度については、比較例1−3よりも実施例1の方が小さい値になっているが、これは接合面積の違いによるものと考えられる。実施例1における接合面積は、図1に示すように、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との重なり合っている領域で示される。この領域は、図1に示す直径φJを有する円形になっていると考えられ、同条件で作製された接合構造体10を示す図10の断面写真から177mm2と求められる。比較例1−3における接合面積は、単に金属板11と樹脂板12とが重なり合っている領域の面積となる。引張せん断試験用の試験片では、接合面積は750mm2と求められ、十字引張強度試験用の試験片では、接合面積は、2500mm2と求められる。
実施例1における接合面積と図15に示す引張せん断強度とに基づいて、単位接合面積当たりの引張せん断強度(平均応力に相当)が得られる。また、実施例1における接合面積と図15に示す十字引張強度とに基づいて、単位接合面積当たりの十字引張強度(平均応力に相当)が得られる。その結果を図16に示す。図16においては、実施例1と同様にして比較例1−3による単位接合面積当たりの引張せん断強度と、単位接合面積当たりの十字引張強度を示す。
図16に示すように、比較例1−3よりも実施例1の方が、単位接合面積当たりの引張せん断強度および単位接合面積当たりの十字引張強度が大きくなることが確認できた。とりわけ、単位接合面積当たりの十字引張強度は、比較例1−3よりも実施例1の方が、著しく大きくなっていることがわかる。このことにより、実施例1では、金属板11と樹脂板12とを接合した接合構造体10の剥離強度が大いに向上したと言える。
(実施例2)
実施例2では、図6に示す接合構造体10について引張せん断強度を測定した。すなわち、実施例2−1として、絶縁性部材50を用いずに図12(a)に示すような平面形状を有する試験片(すなわち、図1に示す接合構造体10に相当する試験片)を作製し、実施例2−2として、絶縁性部材50にウエルドボンド用接着剤を用いた同様の試験片(すなわち、図6に示す接合構造体10に相当する試験片)を作製した。比較例2として、摩擦撹拌接合せずにウエルドボンド用接着剤を用いて同様の試験片を作製した。比較例2では、単なる接着試験片となるため、金属座金13は用いていない。ここで実施例2−2および比較例2で用いたウエルドボンド用接着剤は、自動車産業でスポット溶接と併用して使用される接着剤である。ウエルドボンド用接着剤は、金属板11の第2面11bに塗布し、実施例2−2では金属座金13の第1面13aにも塗布した。
絶縁性部材50以外の点では、実施例2−1、2−2の接合構造体10は、以下の条件で作製した。
・金属板11の板厚:1mm
・樹脂板12の板厚:1mm
・金属座金13の板厚:1mm
・プローブ44のツール径:9.53mm(3/8インチ)
・樹脂板12の貫通孔14の径:10mm
・押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ):2.6mm
比較例2では、実施例2−1、2−2と同様の板厚を有する金属板11と同様の板厚を有する樹脂板12とを用いた。
実施例2−2によって得られた接合構造体10の拡大断面写真を図17に示す。図17に示すように、ウエルドボンド用接着剤からなる絶縁性部材50を用いた場合であっても、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分とが良好に接合されていることが確認できた。すなわち、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との間に、絶縁性部材50の材料は介在されていないとみなせる。
実施例2−1、2−2、比較例2により得られた各接合構造体10について、引張せん断強度試験を行った。引張せん断強度試験は、実施例1と同様の方法で行った。結果を図18に示す。
図18に示すように、ウエルドボンド用接着剤を用いていない単なる摩擦撹拌接合で作製された試験片を用いた実施例2−1よりも、単なる接着継手試験片を用いた比較例2の方が、荷重値としての引張せん断強度が大きくなっており、図15と同じ傾向が示されている。ウエルドボンド用接着剤を用いた摩擦撹拌接合で作製された試験片を用いた実施例2−2の方が、実施例2−1や比較例2よりも、引張せん断強度が大きくなっていることが確認できた。これは、実施例2−2では、金属板11と樹脂板12がウエルドボンド用接着剤で接合されているとともに、樹脂板12と金属座金13がウエルドボンド用接着剤で接合されていることにより、摩擦撹拌接合による接合力とウエルドボンド用接着剤による接合力との相乗効果で、金属板11と樹脂板12との接合強度が増大したためと言える。
(実施例3)
実施例3では、以下の条件で、図12(a)に示すような試験片(すなわち、図1に示す接合構造体10に相当する試験片)を作製し、引張せん断強度試験を行った。
・金属板11の板厚:1mm
・樹脂板12の板厚:1mm
・金属座金13の板厚:0.6mm
・プローブ44のツール径:6.35mm(1/4インチ)
・貫通孔14の径:4mm、6mm、8mm、10mm
・押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ):2.2mm
引張せん断強度試験は、実施例1と同様の方法で行った。結果を図19に示す。
図19に示すように、貫通孔14の径を4mm以上にすることにより、引張せん断強度を高めることができることが確認できた。すなわち、図19に示す結果によれば、貫通孔14の径を4mm以上にすることで、引張せん断強度を大きく高められることがわかる。これは、貫通孔14の径が大きくなればなるほど、金属座金13の軟化部分と金属板11の軟化部分との間に、樹脂板12の樹脂材料の介在が少なくなる、若しくは無くなるためと考えられる。また、貫通孔14の径が4mm、6mmの場合には、引張せん断試験時の破断が摩擦撹拌接合部15での破断であったが、貫通孔14の径が8mm、10mmの場合には、引張せん断試験時の破断が樹脂板12の母材破断であった。後者の場合、摩擦撹拌接合部15における接合強度としては、図19に示す数値よりも高いと考えられる。
(実施例4)
実施例4では、以下の条件で、図12(a)に示すような試験片(すなわち、図1に示す接合構造体10に相当する試験片)を作製し、引張せん断強度試験を行った。
・金属板11の板厚:1mm
・樹脂板12の板厚:1mm
・金属座金13の板厚:1mm
・プローブ44のツール径:9.53mm(3/8インチ)
・貫通孔14の径:3mm、6mm、10mm、12mm
・押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ):2.6mm
引張せん断強度試験は、実施例1と同様の方法で行った。結果を図20に示す。
図20に示すように、貫通孔14の径を6mm以上にすることにより、引張せん断強度を高めることができることが確認できた。すなわち、図20に示す結果によれば、貫通孔14の径を6mm以上にすることで、貫通孔14の径が3mmの場合よりも引張せん断強度を大きく高められることがわかる。また、貫通孔14の径が6mm以上の場合には、引張せん断試験時の破断が樹脂板12の母材破断であり、摩擦撹拌接合部15における接合強度としては、図20に示す数値よりも高いと考えられる。
(実施例5)
実施例5では、以下の条件で、図12(a)に示すような試験片(すなわち、図1に示す接合構造体10に相当する試験片)を作製し、引張せん断強度試験を行った。
・金属板11の板厚:1mm
・樹脂板12の板厚:1mm
・金属座金13の板厚:1mm
・プローブ44のツール径:12.70mm(1/2インチ)
・貫通孔14の径:3mm、6mm、10mm、12mm
・押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ):2.6mm
引張せん断強度試験は、実施例1と同様の方法で行った。結果を図21に示す。
図21に示すように、貫通孔14の径を6mm以上にすることにより、引張せん断強度を高めることができることが確認できた。すなわち、図21に示す結果によれば、貫通孔14の径を6mm以上にすることで、貫通孔14の径が3mmの場合よりも引張せん断強度を大きく高められることがわかる。また、貫通孔14の径が6mm以上の場合には、引張せん断試験時の破断が樹脂板12の母材破断であり、摩擦撹拌接合部15における接合強度としては、図21に示す数値よりも高いと考えられる。
(実施例6)
実施例6では、以下の条件で、図12(a)に示すような試験片(すなわち、図1に示す接合構造体10に相当する試験片)を作製し、引張せん断強度試験を行った。
・金属板11の板厚:2mm
・樹脂板12の板厚:1mm
・金属座金13の板厚:1mm
・プローブ44のツール径:12.70mm(1/2インチ)
・貫通孔14の径:3mm、6mm、8mm、10mm、13mm、14mm
・押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ):3.6mm
引張せん断強度試験は、実施例1と同様の方法で行った。結果を図22に示す。
図22に示すように、貫通孔14の径を6mm以上にすることにより、引張せん断強度を高めることができることが確認できた。すなわち、図22に示す結果によれば、貫通孔14の径を6mm以上にすることで、貫通孔14の径が3mmの場合よりも引張せん断強度を大きく高められることがわかる。また、貫通孔14の径が6mm以上の場合には、引張せん断試験時の破断が樹脂板12の母材破断であり、摩擦撹拌接合部15における接合強度としては、図22に示す数値よりも高いと考えられる。
上述した実施例3〜実施例6で得られた引張せん断強度試験結果をまとめて表にしたものを図23に示す。ここでは、実施例毎に、比較的高い引張せん断強度が得られた貫通孔14の径を有する接合構造体10を良品(図23ではOKと記す)とし、それ以外の接合構造体10を不良品(図23ではNGと記す)とした。そして、図24に示すようなグラフに、良品を○印でプロットし、不良品を×印でプロットした。図24の縦軸は、貫通孔14の径φM(いずれも図4参照)とした。横軸は、貫通孔14の予測径φEを示している。以下に、予測径φEについて図25を用いて説明する。ここでは、接合ツール42が球形ツールである場合について説明する。
予測径φ
Eは、接合ツール42のプローブ44の形状と、金属板11、樹脂板12および金属座金13の板厚から、貫通孔14の径φ
Mを幾何学的に求めた予測値である。この予測値は、図25に示す断面における貫通孔14の壁面と樹脂板12の第2面12bとの交点Pからプローブ44の湾曲面44aまでの距離が金属座金13の板厚t
3に等しいと仮定した場合の予測値である。より具体的には、図25に示すように、プローブ44のツール半径をr(=φ
T/2)、金属板11の板厚をt
1、樹脂板12の板厚をt
2、金属座金13の板厚をt
3、プローブ44の押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ)をD、押込位置に押し込まれたプローブ44の先端と金属板11の第1面11aとの距離(残深さ)をdとしたとき、貫通孔14の予測半径R(=φ
E/2)は、以下の式で表わされる。
貫通孔14の予測径φE(=2×R)は、幾何学的には式(1)および式(2)から予測することができる。図23および図24の横軸に示す予測径φEは、このようにして求められている。
図24に示すように、各実施例において貫通孔14の径φMが大きい方が、良品と判定されていることがわかる。すなわち、貫通孔14の径を大きくすることにより、引張せん断強度を高めることができると言える。また、図24に示すように、プロットされた各接合構造体10のうち、良品と判定された接合構造体10のグループが存在するエリアと、不良品と判定された接合構造体10のグループが存在するエリアとは、明確に区分けされていることがわかる。より具体的には、φM=0.4×φEで示す直線を境界にして、良品のグループと不良品のグループが区分けされていると言え、当該直線よりも上方(貫通孔14の径φMが大きくなる側)のエリアにおいて、良品と判定された接合構造体10が存在している。
一方、貫通孔14の径φMを、ツール本体43の径(ショルダー径φS、図4参照)よりも小さくすると、摩擦撹拌接合時に、ショルダー面43aで金属座金13(とりわけ、金属座金13の軟化部分)を押圧することができる。このことにより、貫通孔14の径φMは、ショルダー径φSよりも小さいことが好ましい。
従って、好ましい貫通孔14の径φ
Mは、
で表わすことができる。この式(3)を満たしている場合には、引張せん断強度をより一層高めることができるとともに、金属座金13の軟化部分が上方に盛り上がることを抑制した接合構造体10を得ることができると言える。
また、接合ツール42が図9に示す円錐形ツールである場合の予測径φEについて、図26を用いて以下に説明する。
図26に示す予測径φ
Eも、接合ツール42のプローブ44の形状と、金属板11、樹脂板12および金属座金13の板厚から、貫通孔14の径φ
Mを幾何学的に求めた予測値である。この予測値は、図26に示す断面における貫通孔14の壁面と樹脂板12の第2面12bとの交点Pからプローブ44の傾斜面44cまでの距離が金属座金13の板厚t
3に等しいと仮定した場合の予測値である。より具体的には、図26に示すように、プローブ44のツール半径(ツール根元半径、ショルダー面43aにおける半径)をr
1(=φ
T/2)、金属板11の板厚をt
1、樹脂板12の板厚をt
2、金属座金13の板厚をt
3、プローブ44の押込深さ(金属座金13の第2面13bからの深さ)をD、押込位置に押し込まれたプローブ44の先端と金属板11の第1面11aとの距離(残深さ)をdとする。そして、ツール本体43のショルダー径をφ
S、プローブ44の先端面44bの半径(ツール先端半径)をr
2、押込位置に押し込まれたプローブ44の傾斜面44cの、樹脂板12の第2面12b(または金属座金13の第1面13a)における半径をr
3、押込位置に押し込まれたプローブ44の傾斜面44cと貫通孔14の壁面(交点P)との、第2面12bにおける距離をr
4、プローブ44の突出寸法をLとしたとき、貫通孔14の予測半径R(=φ
E/2)は、以下の式で表わされる。
貫通孔14の予測径φE(=2×R)は、幾何学的には式(4)および式(5)から予測することができる。そして、上述した球形ツールの場合と同様にして、円錐形ツールを用いる場合においても、好ましい貫通孔14の径φMは、上述した式(3)で表わすことができる。
11 金属板
11a 第1面
11b 第2面
12 樹脂板
12a 第1面
12b 第2面
13 金属座金
13a 第1面
13b 第2面
14 貫通孔
42 接合ツール
43 ツール本体
44 プローブ
44a 湾曲面
44b 先端面
44c 傾斜面
50 絶縁性部材
dL 長手方向