JP6956942B2 - ゲル濾過クロマトグラフィーにおけるタンパク質の回収率を高める方法 - Google Patents

ゲル濾過クロマトグラフィーにおけるタンパク質の回収率を高める方法 Download PDF

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Description

本発明は、水溶性緩衝液を用いるゲルろ過クロマトグラフィーにおいて、ピークとして回収しにくいタンパク質を回収するために用いるゲルろ過クロマトグラフィー用展開溶媒液、前記タンパク質の回収率を高める方法、及び前記方法において使用する添加剤に関する。詳しくは、本発明は、展開溶媒に特定の物質を特定量添加した展開溶媒液、前記展開溶媒を用いることにより、抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドの回収率を高める方法、及び前記回収率を高めるための促進物質に関するものである。
タンパク質の各種クロマトグラフィーでは、分離基材(カラム充填剤)へのタンパク質の非特異的な結合や、クロマトグラフィー中のタンパク質会合凝集反応によって目的物が失われ、あるいは目的物と不純物との相互分離性の損なわれる問題がしばしば発生する。これらの問題を解決するために、たとえば本発明者らはゲルろ過クロマトグラフィー用の溶媒にアミノ酸の一種であるアルギニンを展開して、タンパク質の回収性や会合凝集体との分離性を有意に改善する方法を提案した(特許文献1)。しかし近年、抗体を薬剤で修飾した抗体薬剤複合体(Antibody Drug Conjugate、ADC)やTGF-β関連タンパク質などの、極めて疎水性の高いタンパク質が実用化されるに至り、それらの分離分析をより容易にする新たな技術が求められることとなった。
タンパク質の分離分析に最も頻繁に使用されるゲルろ過クロマトグラフィーでは、抗体薬剤複合体の溶出ピーク特性を改善するために、クロマトグラフィーの展開溶媒に15%のイソプロパノールを添加する方法が考案された(非特許文献1)。イソプロパノールの添加は、確かに抗体薬剤複合体の溶出ピーク形状を改善したが、展開溶媒の粘性を上昇させたため、使用するカラムの背圧が有意に上昇し、カラムの耐久性を下げるという新たな問題が発生した。よって、イソプロパノール添加とは異なる、より穏和な溶媒添加剤が期待された。
本発明者らは先に、疎水性タンパク質のクロマトグラフィーにおいて、アルギニンとエタノールとを混合して用いることで、溶出ピーク形状を改善できることを報告した(非特許文献2)。
特許第4941882号
Aditya Wakankarら、mAbs 3, 161-172 (2011) Journal of Chromatography A 1154, 81-6 (2007)
しかし、イソプロパノールの場合と同様に、エタノールの添加はゲルろ過クロマトグラフィーカラムの背圧を上昇させることとなり、解決策とはならなかった。したがって、本発明の課題は、商業的に入手できるゲルろ過クロマトグラフィーカラムと移動相である展開溶媒を用い、従来の方法ではピークとして検出することが困難であった抗体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのピークを回収すること、また、従来は存在しなかった抗体薬剤複合体やTGF-β関連タンパク質等の、従来存在した抗体や薬物よりも疎水性の増したタンパク質を回収すること、具体的には、展開溶媒に従来は用いられていなかった化合物を見出すことにより、タンパク質の回収率を高めることにある。
本発明者が鋭意検討した結果、タンパク質への相互作用が明瞭である尿素を、タンパク質を変性させることのない低濃度に限ってアルギニンと混合し、これをクロマトグラフィー展開溶媒に添加することで、アルギニンを単独で添加した場合よりも、溶出ピーク形状をより明瞭に改善できることが分かった。すなわち、本発明により、以下の発明を提供する。
1.会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質及び疎水性ペプチドの少なくとも一種を含む溶液中から、精製抗体、精製疎水性タンパク質、または精製疎水性ペプチドを回収するのに用いるゲルろ過クロマトグラフィー用展開溶媒液であって、
0.05M〜1.5Mのアルギニン、アルギニン誘導体(前記アルギニン誘導体は、アシル化アルギニン、アルギニンブチルエステル、アグマチン、及びアルギニン酸からなる群から選ばれる)又はこれらの酸付加塩と、
0.5M〜1.5Mの尿素とを含む、
前記展開溶媒液。
2.展開溶媒中のアルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩の濃度が0.1〜0.6Mであり、かつ、展開溶媒中の尿素濃度が0.75〜1.25Mである前記1項記載の展開溶媒液。
3.展開溶媒中のアルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩の濃度が0.2〜0.5Mであり、かつ、展開溶媒中の尿素濃度が1〜1.25Mである前記1項記載の展開溶媒液。
4.会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質及び疎水性ペプチドの少なくとも一種を含む溶液から、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、精製抗体、精製疎水性タンパク質、または精製疎水性ペプチドを製造する方法であって、展開溶媒中に、
0.05M〜1.5Mのアルギニン、アルギニン誘導体(前記アルギニン誘導体は、アシル化アルギニン、アルギニンブチルエステル、アグマチン、及びアルギニン酸からなる群から選ばれる)又はこれらの酸付加塩と、
0.5M〜1.5Mの尿素とを
含有させて展開することを含む、前記方法。
5.会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質及び疎水性ペプチドの少なくとも一種を含む溶液から、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、精製抗体、精製疎水性タンパク質、または精製疎水性ペプチドを回収する方法であって、展開溶媒中に、
0.05M〜1.5Mのアルギニン、アルギニン誘導体(前記アルギニン誘導体は、アシル化アルギニン、アルギニンブチルエステル、アグマチン、及びアルギニン酸からなる群から選ばれる)又はこれらの酸付加塩と、
0.5M〜1.5Mの尿素とを
含有させて展開することを含む、抗体、疎水性タンパク質、または疎水性ペプチドの回収方法。
6.会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドと、ゲルろ過クロマトグラフィー充填剤との間の相互作用緩和剤であって、アルギニン、アルギニン誘導体(前記アルギニン誘導体は、アシル化アルギニン、アルギニンブチルエステル、アグマチン、及びアルギニン酸からなる群から選ばれる)又はこれらの酸付加塩と尿素とを含む前記相互作用緩和剤。
展開溶媒にアルギニン、その誘導体又はそれらの酸付加塩と尿素とを添加するだけで、従来は大きな問題となっていたゲルろ過クロマトグラフィーの充填剤とタンパク質との間に発生する相互作用を緩和できる。アルギニンはタンパク質の安定性や構造に影響を与えないことが既に知られている。したがって、本発明は、タンパク質の構造や安定性に影響を与えることなく、抗体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドのゲルろ過クロマトグラフィーにおけるピーク回収率を高める(つまり、回収される抗体等の純度を高める)ことができる。これは、本発明の方法及び相互作用緩和剤を、タンパク質、ペプチドの分析だけでなく、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いるタンパク質製造法に適用できることを意味する。本発明によればまた、目的のタンパク質を短時間で回収することができる。
図1は、展開溶媒と回収率との関係を示す。 図2は、展開溶媒と回収率との関係を示す。 図3は、展開溶媒と抗体回収性との関係を示す。 図4は、展開溶媒と凝集体含量との関係を示す。 図5は、ゲルろ過クロマトグラフィーのチャートを示す。
本発明の、会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質又は疎水性ペプチドと、ゲルろ過クロマトグラフィー充填剤との間の相互作用緩和剤は、アルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩と尿素との組合せである。
本発明における「アルギニン誘導体」としては、アセチルアルギニン、N-ブチロイルアルギニン等のアシル化アルギニン(アシル基の炭素数は例えば1〜20)、カルボキシル基を修飾したアルギニンブチルエステル、カルボキシル基を除去したアグマチン、αアミノ基の替わりに水酸基を導入したアルギニン酸等があげられる。
本発明における酸付加塩を形成し得る酸としては、塩酸等があげられる。
本発明において使用するアルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩のうち、アルギニン酸付加塩が好ましく、アルギニン塩酸塩が特に好ましい。
本発明において、アルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩及び尿素は、展開溶媒に含有させて展開する。アルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩は、濃度が0.05〜1.5M、好ましくは0.05〜1.25M、更に好ましくは0.10〜0.75M、特に好ましくは0.1〜0.6M、とりわけ好ましくは0.2〜0.5Mになるように展開溶媒に添加する。尿素は、濃度が0.5〜1.5M、好ましくは0.75〜1.25M、より好ましくは1〜1.25Mになるように展開溶媒に添加する。これにより、タンパク質ピークの回収率を改善することができるとともに、目的のタンパク質を短時間で回収することができる。
移動相である展開溶媒は、目的とする抗体や疎水性タンパク質、疎水性ペプチドの性質に合致したpHや緩衝能に調整されればよく、特別のpHや緩衝能を必要とするわけではない。pHの調整は通常の使用に供する緩衝液(例えば、リン酸ナトリウム緩衝液)を用いて実施すればよい。リン酸ナトリウム緩衝液を用いるのが好ましい。pHは6〜7に調整するのが好ましい。緩衝液濃度は、0.01〜0.5Mとするのが好ましい。特に、リン酸ナトリウム緩衝液を用いてpHを6〜7に調整し、緩衝液濃度を0.01〜0.2Mとするのが好ましい。このとき、分取に用いる場合にはリン酸ナトリウム緩衝液濃度を0.02〜0.05Mとするのがより好ましく、定量に用いる場合にはリン酸ナトリウム緩衝液濃度を0.1〜0.5Mとするのがより好ましい。
アルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩は、溶質すなわち、会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質、疎水性ペプチドを含有する溶液へ添加してもよい。添加する場合、溶質に添加したアルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩の濃度と、展開溶媒に添加したアルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩の濃度とが、前記範囲内になるように調整してもよい。
本発明の一形態として、展開溶媒は、0.1Mのリン酸ナトリウム、0.2Mのアルギニン塩酸塩、1.0Mの尿素を含み、pH6.8であることを特徴とする。
さらに、本発明の一形態として、展開溶媒は、0.02Mのリン酸ナトリウム、0.5Mのアルギニン塩酸塩、1.0Mの尿素を含み、pH6.8であることを特徴とする。
本発明で用いる会合凝集体等からの回収率を改善できるタンパク質として、会合凝集体を含む天然のヒト抗体、もしくは遺伝子組換え法で調製されたヒト化抗体、マウス等のモノクローナル抗体がある。抗体の種やサブクラスには関係なく、会合凝集体を含む抗体であれば全てに適用可能である。
ここで、会合凝集体を含む抗体であるが、抗体は製造過程(濃縮、酸性pH暴露、加温操作)や保存過程(溶液、凍結溶液、凍結乾燥)において分子間で会合した、いわゆる会合凝集体を形成することが知られており、これが作用の低下や副作用の発現に関係しているといわれる(Monoclonal Antibodies, Principles and Applications., p.231-265, London: Wiley Liss, Inc., 1995)。会合凝集体の定量や分離除去は抗体を産業応用する上で極めて重要である。会合凝集体の形成メカニズムは一様ではないが、一度形成されたら容易には単量体へ解離することはない。会合凝集体は単量体よりも疎水性を増しており、クロマトグラフィーでの回収率の低くなることが知られている。
また、抗体以外のタンパク質であっても、疎水性が高く、水溶性緩衝液を用いるだけではピークとして回収しづらいタンパク質やペプチドにも適用可能である。本発明の方法は、天然からの抽出、あるいは遺伝子組み換え技術で調製されたものなど、タンパク質やペプチドの調製方法に関係なく、どのようなタンパク質及びペプチドにも適用可能である。
「タンパク質」と「ペプチド」との違いであるが、一般的にタンパク質とペプチドを区別する明確な規定は存在していない。構成アミノ酸が50個以上であれば、これをタンパク質とみなす考えもあるが、一般的ではない。本発明では、一般にペプチドあるいはタンパク質とみなされる可溶性化合物のことを意味するものとする。
また、「疎水性タンパク質」及び「疎水性ペプチド」についても一般的に明確に規定することはできないが、本発明においてはそれらの構成アミノ酸に疎水性アミノ酸(例えば、トリプトファン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、アラニン)の含有量が多いものを意味するものとする。疎水性アミノ酸の比率が高まると、クロマトグラフィー担体との疎水性相互作用に起因する相互作用が強まり、溶出時間の延長が認められている(プロテインバイオテクノロジー、pp. 67、培風館、1996)。本発明は、疎水性相互作用に起因するクロマトグラフィーでの回収率低下を改善することに寄与する。
本発明の疎水性タンパク質としてはまた、抗体薬剤複合体が挙げられ、本発明の方法は、抗体薬剤複合体にも適用可能である。ここで、「抗体薬剤複合体」は、モノクローナル抗体と医薬(低分子医薬)を適切なリンカーを介して結合させた医薬群(Antibody Drug Conjugate、ADC)をいう。ADCを形成する医薬は主に炭素原子と水素原子から構成されているため、抗体と一緒になると、抗体単独よりも疎水性が高くなる。これまでに上市されたADCとしては、カドサイラ(登録商標、ヒト化抗体トラズツマブ(ハーセプチン)に抗ガン低分子医薬エムタンシンを結合)、アドセトリス(登録商標、キメラ抗体ブレンツキシマブに微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンEを結合)等が知られている。40以上のADCが臨床試験段階にあるとの報告もある。
本発明の疎水性タンパク質はしてはまた、TGF-β関連タンパク質が挙げられ、本発明の方法はまた、TGF-β関連タンパク質にも適用可能である。TGF-β関連タンパク質としては、アクチビン、インヒビン、増殖分化因子(Growth & differentiation factors, GDF)、骨形成タンパク質(bone morphogentic protein, BMP)、TGF-β等があげられる。
本発明で用いる溶出方法は、一種類の展開溶媒を移動相とする、いわゆるイソクラチック溶出法を用いるのが好ましい。
本発明で用いるゲルろ過クロマトグラフィーカラムには市販品を用いればよく、例えばSuperdex 200HR10/30、Superdex75HR10/30(いずれもアマシャムバイオサイエンス製)、TSKG3000SWXL(東ソー製)、waters BEH(waters製)、AdvanceBio SEC3000(アジレント・テクノロジー製)等がある。
会合凝集体を60%含む抗体をゲルろ過クロマトグラフィーで分析する場合、リン酸緩衝液のみを展開溶媒に用いると、抗体ピークの回収率は検出されたピークすべてを合計しても、カラムに供された抗体量の20%に満たない場合が多い。更にこの場合、会合凝集体の組成比率は本来の60%を大きく下回る20%程度と誤った解釈をする場合が多い。ところが、展開溶媒に特定量のアルギニンと尿素を添加したリン酸緩衝液を用いると、特許第4941882号においてアルギニンを用いたときと同様、その他の条件を一切変更することなく、回収される抗体ピークはカラムに供された抗体量のほぼ100%に達し、会合凝集体の組成比率は正しい60%を示す。
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
1.実験の概要
(実験例1)高疎水性タンパク質であるヒトアクチビンAのゲルろ過クロマトグラフィーでは、アクチビンA回収性がアルギニンと尿素との効果添加によって高められることが見出された。
(実験例2)ヒト化抗体やマウス抗体のゲルろ過クロマトグラフィーでは、それらの凝集体の分離回収性が、アルギニンと尿素との混合添加によって、アルギニン単独添加やNaCl添加緩衝液よりもきわめて明瞭に高まることが見出された。また、アルギニンと尿素の混合添加による影響を比較例と対比すると、凝集体でない抗体の回収率は低下していないことから、アルギニンと尿素の混合添加は、抗体そのものの分離回収性になんら悪影響をもたらさないことが確認された。
(実験例3)遺伝子組み換え大腸菌に産生させた変性TGF-β3を試験内のフォールディング反応に供し、大腸菌由来の不純物や副産物であるTGF-β3凝集体を含んだまま、アルギニンと尿素を混合添加したゲルろ過クロマトグラフィーに供したところ、適切な混合条件下でのみ、TGF-β3の効果的な分離回収に成功した。
以上、タンパク質のゲルろ過クロマトグラフィーにおけるアルギニンと尿素との混合添加効果の有効性が示された。
2.実験の詳細
(実験例1)
50 mM酢酸ナトリウム、pH 4.6に溶解されたヒトアクチビン(米国特許US6084076、及びUS6756482)、0.277 mg/mlの10 μlを、図1、2中に示した各展開溶媒(20 mMリン酸ナトリウム、pH 6.8を基本条件とし、ここへ各種添加剤を添加)で予め平衡化したSuperdex75 10/300 GLカラム(GEヘルスケア製)に負荷し、各溶媒で展開した。波長280 nmの紫外吸収を求め、標品との比較によって、各展開溶媒で回収されたアクチビンA量を比較した。
0.2 M NaClのみの添加では、アクチビンAを満足に回収できず、そのピーク溶出時間が塩類のピークと重なったため、ゲルろ過クロマトグラフィーは実質的に実行されなかったことがわかった。0.2 Mアルギニン塩酸塩を添加することで、アクチビンA回数率は89%に上昇し、ピーク溶出時間も15.3分に短縮された、塩類の位置と明確に区別された。0.2 Mアルギニン塩酸塩に尿素を05 M、1.0 Mと混合添加することで、アクチビンA回収率は91%、92%へと上昇し、ピーク溶出時間も14.8分、14.4分にまで短縮され、分離回収性はより高まった。
図2に示したとおり、同様のゲルろ過クロマトグラフィーを0.5 Mアルギニン塩酸塩を添加して実施したところ、アクチビンA回収率は92%、ピーク溶出時間は14.2分となり、0.2 Mアルギニン塩酸塩の添加よりも分離回収性の改善されたことがわかった。ここへ0.5 M尿素を混合添加することで、アクチビンA回収率は94%に、1.0 M尿素を混合添加することで95%にまで上昇した。アクチビンAピーク溶出時間は、それぞれ14.2分、13.9分へと短縮され、0.2 Mアルギニン塩酸塩の場合よりも分離回収性の更に高まったことがわかった。
(実験例2)
抗体凝集体は以下の方法で調製した。等張リン酸ナトリウム緩衝液に溶解された精製済みの抗フォンビルブランド因子マウスモノクローナル抗体(WO96/17078)、6.80 mg/mlの10 mlに0.5 Mクエン酸ナトリウム、pH 2.7の2.5 mlを添加し、pH 3以下に調整した。ここへ0.5 Mクエン酸、pH 4.50を5 ml添加して、pH 3.0に調整されたことを確認した。ここへ2.5 Mアルギニン塩酸塩、pH 4.5を25 ml添加し、4 M NaOH水溶液を用いてpH 4.5に調整した。この溶液を45 ℃で20分間加温した後、1 Mトリス塩酸塩、pH 8.5を6 ml添加し、pH 6に調整されたことを確認した。最後に45 ℃で10分間加温した。直ちに冷却後、分光光度計を用いて上清に残留する抗体濃度を測定した。抗体濃度は、波長280 nmにおける吸光度1.4を1 mg/mlとして算出した。抗フォンビルブランド因子ヒト化モノクローナル抗体(US6228360)、11.38 mg/mlについても、同様の調製法で抗体凝集体を調製した。2種のモノクローナル抗体、およびそれらから調製された凝集体を含む抗体の各10 μgを、図3、図4中に示した展開溶媒液で予め平衡化したゲルろ過クロマトグラフィーカラムに0.8 ml/minの流速で負荷し、波長280 nmの紫外吸収を指標にピーク溶出性を比較した。波長280 nmにおける吸光度1.4を用いて濃度を決めた抗体標品で1 μgあたりのピークエリアを別途求めておき、このエリアに対する相対回収率で各展開溶媒におけるピーク回収率を算出した。比較条件として、0.2 M NaClを単独添加した溶媒、および等張リン酸緩衝液(Ca-、Mg- PBS)を溶媒としたクロマトグラフィーを実施した。
凝集体を含まないマウス抗体、ヒト化抗体のピーク回収率(図3)は、比較した5種の展開溶媒液の間で殆ど同じ結果を与えた。しかし、抗体凝集体のピークについては、0.2 M NaClを単独添加した溶媒、および等張リン酸緩衝液において、残りの3条件に比較して顕著に低い回収率を示した。アルギニンを添加した3種について比較すると、ヒト化抗体、マウス抗体のいずれについても、0.5 Mアルギニン塩酸塩と1 M尿素を混合添加した場合が最も高いピーク回収性を示し、0.2 Mアルギニン塩酸塩と1 M尿素を混合添加した条件、0.2 Mアルギニン塩酸塩単独添加の順番で効果を確認できた。結果を各サンプルの凝集体含量(全ピークにおける凝集体の存在比率;%)で比較しても(図4)、アルギニン塩酸塩と尿素の混合添加効果を確認することができた。
(実験例3)
大腸菌BL21株(DE3)を生産宿主とした、ヒトTGF-β3(配列情報Ueda et al, Gene. 1993, 129, 129-34;Lin, Y. et al, Cancer Res. 2006, 66, 3884-3892, Accession# 10600 Ala301-Ser412)発現生産系を構築した。構築した生産菌を、常法に従って坂口フラスコを用い、LB培地中で、37℃において2時間振とう培養後、IPTG 1mMを添加した。さらに4時間培養し、大腸菌の菌体内に不溶性顆粒としてヒトTGF-β3を蓄積させた。0.8Lの培養液より菌体を集め、20mMトリス塩酸塩、30 mM NaCl、5 mM EDTA、pH 7.5に懸濁し、超音波破砕に供した。得られた不溶性顆粒懸濁液を、6500g、10分間の遠心分離に供し、不溶性顆粒を含む沈殿物を回収した。同じ緩衝液で沈殿物を懸濁した後、同じ条件で遠心分離し、沈殿物を洗浄回収した。同じ操作をもう一度繰り返し、最終的に0.266 gの沈殿物を回収した。この沈殿物を、8 M尿素、50 mM DTTに溶解し、37℃で1時間の変性還元抽出に供し、4.5 mlの抽出液を得た。これを、予め40 mMのHClを含む7.8 Mの尿素で平衡化されたセファデックスG-25カラム(29 ml;GEヘルスケア製)に5℃下で負荷し、同尿素溶液で展開して、7 mlのヒトTGF-β3変性還元液(4.57 mg/ml)を得た。これを、定法に従ってリフォールディング反応に供し(Tao Huang and Andrew P. Hinck "Production, Isolation, and Structural Analysis of Ligands and Receptors of the TGF-β Superfamily". Methods in Molecular Biology 1344, 63-92 (2016))、粗TGF-β3溶液を得た。3 mgの変性還元TGF-β3から調製されたリフォールディング液の2.5 mlを、図5に示した展開溶媒液で予め平衡化されたHiLoad 16/600 Superdex75 pgカラム(GEヘルスケア製)に室温下で負荷し、同じ展開溶媒液で展開し、280 nmでの吸光度を指標にTGF-β3ピークを回収した。回収した画分を、実験例1に示したSuperdex75 10/300 GLカラムと0.2 Mアルギニン塩酸塩、1 M尿素を混合添加したゲルろ過クロマトグラフィーに供し、精製TGF-β3標品(Peprotech製、カタログ番号100-36E)を用いて別途求めた1 μgあたりのTGF-β3ピークエリアを用いて回収量を算出した。
図5に示したとおり、アルギニン塩酸塩を単独添加したゲルろ過クロマトグラフィーでは、TGF-β3の溶出位置を確定することができず、分離回収できなかった。0.2 Mアルギニン塩酸塩と1 M尿素とを混合添加したゲルろ過クロマトグラフィーでは、TGF-β3ピークを観察でき、43 μgを分離回収できた。0.5 Mアルギニン塩酸塩と1 M尿素とを混合添加したゲルろ過クロマトグラフィーでは、他の2条件とは違い、TGF-β3の明瞭なピークを観察できたため、341 μgのTGF-β3を分離回収できた。原料の変性還元TGF-β3、3 mgから総回収率11%で精製TGF-β3を獲得できたこととなり、アルギニン塩酸塩と尿素の混合添加によるゲルろ過クロマトグラフィーの効果が示された。

Claims (6)

  1. 会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質及び疎水性ペプチドの少なくとも一種を含む溶液中から、精製抗体、精製疎水性タンパク質、または精製疎水性ペプチドを回収するのに用いるゲルろ過クロマトグラフィー用展開溶媒液であって、
    0.05M〜1.5Mのアルギニン、アルギニン誘導体(前記アルギニン誘導体は、アシル化アルギニン、アルギニンブチルエステル、アグマチン、及びアルギニン酸からなる群から選ばれる)又はこれらの酸付加塩と、
    0.5M〜1.5Mの尿素とを含む、
    前記展開溶媒液(ただし、前記展開溶媒中には塩化ナトリウムを含有させない)。
  2. 展開溶媒中のアルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩の濃度が0.1〜0.6Mであり、かつ、展開溶媒中の尿素濃度が0.75〜1.25Mである請求項1記載の展開溶媒液。
  3. 展開溶媒中のアルギニン、アルギニン誘導体又はこれらの酸付加塩の濃度が0.2〜0.5Mであり、かつ、展開溶媒中の尿素濃度が1〜1.25Mである請求項1項記載の展開溶媒液。
  4. 会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質及び疎水性ペプチドの少なくとも一種を含む溶液から、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、精製抗体、精製疎水性タンパク質、または精製疎水性ペプチドを製造する方法であって、展開溶媒中に、
    0.05M〜1.5Mのアルギニン、アルギニン誘導体(前記アルギニン誘導体は、アシル化アルギニン、アルギニンブチルエステル、アグマチン、及びアルギニン酸からなる群から選ばれる)又はこれらの酸付加塩と、
    0.5M〜1.5Mの尿素とを
    含有させて展開することを含む、前記方法(ただし、前記展開溶媒中には塩化ナトリウムを含有させない)。
  5. 会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質及び疎水性ペプチドの少なくとも一種を含む溶液から、ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、精製抗体、精製疎水性タンパク質、または精製疎水性ペプチドを回収する方法であって、展開溶媒中に、
    0.05M〜1.5Mのアルギニン、アルギニン誘導体(前記アルギニン誘導体は、アシル化アルギニン、アルギニンブチルエステル、アグマチン、及びアルギニン酸からなる群から選ばれる)又はこれらの酸付加塩と、
    0.5M〜1.5Mの尿素とを
    含有させて展開することを含む、前記方法(ただし、前記展開溶媒中には塩化ナトリウムを含有させない)。
  6. 会合凝集体を含む抗体、疎水性タンパク質または疎水性ペプチドと、ゲルろ過クロマトグラフィー充填剤との間の相互作用緩和剤であって、アルギニン、アルギニン誘導体(前記アルギニン誘導体は、アシル化アルギニン、アルギニンブチルエステル、アグマチン、及びアルギニン酸からなる群から選ばれる)又はこれらの酸付加塩と尿素とを含むが、塩化ナトリウムを含まない前記相互作用緩和剤。
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