本発明の実施形態によれば、本発明の実施形態の燃料電池用触媒(本明細書では、「触媒」、「電極触媒」とも称する)を含む触媒層を備える、電解質膜−電極接合体(MEA)が提供される。かかる実施形態によって、活性(面積比活性)の劣化を抑制できる、燃料電池用の電解質膜−電極接合体(MEA)を提供することができる。また、本発明の実施形態によれば、かかる電解質膜−電極接合体を用いてなる、燃料電池が提供される。かかる実施形態によれば、活性(面積比活性)の劣化を抑制できる、燃料電池を提供することができる。
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の実施形態の触媒を含む触媒層を備える、電解質膜−電極接合体(MEA)および燃料電池の一実施形態である固体高分子形燃料電池を詳細に説明する。なお、各図面は説明の便宜上誇張されて表現されており、各図面における各構成要素の寸法比率が実際とは異なる場合がある。また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で行う。
<固体高分子形燃料電池>
図1は、本発明の一実施形態に係る固体高分子形燃料電池(PEFC)1の基本構成を示す概略図である。PEFC1は、まず、固体高分子電解質膜2と、これを挟持する一対の触媒層(アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3c)とを有する。そして、固体高分子電解質膜2と触媒層(3a、3c)との積層体はさらに、一対のガス拡散層(GDL)(アノードガス拡散層4aおよびカソードガス拡散層4c)により挟持されている。このように、固体高分子電解質膜2、一対の触媒層(3a、3c)および一対のガス拡散層(4a、4c)は、積層された状態で電解質膜−電極接合体(MEA)10を構成する。本発明においては、アノード触媒層3aおよびカソード触媒層3cの少なくとも一方が、燃料電池用触媒の欄で後述する、本発明の実施形態の触媒を含む。
PEFC1において、MEA10はさらに、一対のセパレータ(アノードセパレータ5aおよびカソードセパレータ5c)により挟持されている。図1において、セパレータ(5a、5c)は、図示したMEA10の両端に位置するように図示されている。ただし、複数のMEAが積層されてなる燃料電池スタックでは、セパレータは、隣接するPEFC(図示せず)のためのセパレータとしても用いられるのが一般的である。換言すれば、燃料電池スタックにおいてMEAは、セパレータを介して順次積層されることにより、スタックを構成することとなる。なお、実際の燃料電池スタックにおいては、セパレータ(5a、5c)と固体高分子電解質膜2との間や、PEFC1とこれと隣接する他のPEFCとの間にガスシール部が配置されるが、図1ではこれらの記載を省略する。
セパレータ(5a、5c)は、例えば、厚さ0.5mm以下の薄板にプレス処理を施すことで図1に示すような凹凸状の形状に成形することにより得られる。セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凸部はMEA10と接触している。これにより、MEA10との電気的な接続が確保される。また、セパレータ(5a、5c)のMEA側から見た凹部(セパレータの有する凹凸状の形状に起因して生じるセパレータとMEAとの間の空間)は、PEFC1の運転時にガスを流通させるためのガス流路として機能する。具体的には、アノードセパレータ5aのガス流路6aには燃料ガス(例えば、水素等)を流通させ、カソードセパレータ5cのガス流路6cには酸化剤ガス(例えば、空気等)を流通させる。一方、セパレータ(5a、5c)のMEA側とは反対の側から見た凹部は、PEFC1の運転時にPEFCを冷却するための冷媒(例えば、水)を流通させるための冷媒流路7とされる。さらに、セパレータには通常、マニホールド(図示せず)が設けられる。このマニホールドは、スタックを構成した際に各セルを連結するための連結手段として機能する。かような構成とすることで、燃料電池スタックの機械的強度が確保されうる。なお、図1に示す実施形態においては、セパレータ(5a、5c)は凹凸状の形状に成形されている。ただし、セパレータは、かような凹凸状の形態のみに限定されるわけではなく、ガス流路および冷媒流路の機能を発揮できる限り、平板状、一部凹凸状等の任意の形態であってもよい。
上記した説明中では固体高分子形燃料電池を例に挙げて説明したが、燃料電池の種類としては、特に限定されず、この他にも、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池等が挙げられる。なかでも小型かつ高密度・高出力化が可能であるから、固体高分子形燃料電池(PEFC)が好ましく挙げられる。また、前記燃料電池は、搭載スペースが限定される車両等の移動体用電源の他、定置用電源等として有用である。なかでも、比較的長時間の運転停止後に高い出力電圧が要求される自動車等の移動体用電源として用いられることが特に好ましい。燃料電池を運転する際に用いられる燃料は特に限定されない。例えば、水素、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール等が用いられうる。なかでも、高出力化が可能である点で、水素やメタノールが好ましく用いられる。
また、燃料電池の適用用途は特に限定されるものではないが、車両に適用することが好ましい。本発明の実施形態の電解質膜−電極接合体は、耐久性に優れる。このため、本発明の実施形態の燃料電池は、車載性の点から、車両に該燃料電池を適用した場合、特に有利である。
以下、本発明の実施形態の燃料電池を構成する部材について簡単に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに制限されない。
(電解質膜)
電解質膜は、例えば、固体高分子電解質膜から構成される。この固体高分子電解質膜は、例えば、燃料電池(PEFC等)の運転時にアノード触媒層で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード触媒層へと選択的に透過させる機能を有する。また、固体高分子電解質膜は、アノード側に供給される燃料ガスとカソード側に供給される酸化剤ガスとを混合させないための隔壁としての機能をも有する。固体高分子電解質膜を構成する電解質材料としては特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、以下の触媒層にて高分子電解質として説明するフッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質を同様にして用いることができる。この際、触媒層に用いた高分子電解質と必ずしも同じものを用いる必要はない。電解質膜の厚さは、得られる燃料電池の特性を考慮して適宜決定すればよく、特に制限されない。電解質膜の厚さは、通常は5〜300μm程度である。電解質膜の厚さがかような範囲内の値であると、製膜時の強度や使用時の耐久性および使用時の出力特性のバランスが適切に制御されうる。
(触媒層)
触媒層は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード触媒層では水素の酸化反応が進行し、カソード触媒層では酸素の還元反応が進行する。本発明において、カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方には、電解質と、燃料電池用触媒の欄で後述する、本発明の実施形態の触媒が含まれる。本発明の実施形態の触媒は、カソード触媒層およびアノード触媒層の少なくとも一方に含まれればよいが、本発明の実施形態では、カソードが性能律速であるとの観点で、少なくともカソード触媒層に含まれることが好ましい。かかる実施形態においては、他方の触媒層は従来と同様の触媒が使用できる。
また、触媒層で使用される電解質は、特に制限されないが、イオン伝導性の高分子電解質であることが好ましい。上記高分子電解質は、燃料極側の触媒活物質周辺で発生したプロトンを伝達する役割を果たすことから、プロトン伝導性高分子とも呼ばれる。当該高分子電解質は、特に限定されず従来公知の知見が適宜参照されうる。高分子電解質は、構成材料であるイオン交換樹脂の種類によって、フッ素系高分子電解質と炭化水素系高分子電解質とに大別される。
フッ素系高分子電解質を構成するイオン交換樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマー、エチレンテトラフルオロエチレン−g−スチレンスルホン酸系ポリマー、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオリド−パーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー等が挙げられる。耐熱性、化学的安定性、耐久性、機械強度に優れる観点からは、これらのフッ素系高分子電解質が好ましく用いられ、特に好ましくはパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマーから構成されるフッ素系高分子電解質が用いられる。
炭化水素系電解質として、具体的には、スルホン化ポリエーテルスルホン(S−PES)、スルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、ホスホン化ポリベンズイミダゾールアルキル、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリフェニレン(S−PPP)等が挙げられる。原料が安価で製造工程が簡便であり、かつ材料の選択性が高いといった製造上の観点からは、これらの炭化水素系高分子電解質が好ましく用いられる。なお、上述したイオン交換樹脂は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、上述した材料のみに制限されず、その他の材料が用いられてもよい。
プロトンの伝達を担う高分子電解質においては、プロトンの伝導度が重要となる。ここで、高分子電解質のEWが大きすぎる場合には触媒層全体でのイオン伝導性が低下する。したがって、本形態の触媒層は、EWの小さい高分子電解質を含むことが好ましい。具体的には、本形態の触媒層は、好ましくはEWが1500g/eq.以下の高分子電解質を含み、より好ましくは1200g/eq.以下の高分子電解質を含み、特に好ましくは1000g/eq.以下の高分子電解質を含む。一方、EWが小さすぎる場合には、親水性が高すぎて、水の円滑な移動が困難となる。かような観点から、高分子電解質のEWは600g/eq.以上であることが好ましい。なお、EW(Equivalent Weight)は、プロトン伝導性を有する交換基の当量重量を表している。当量重量は、イオン交換基1当量あたりのイオン交換膜の乾燥重量であり、「g/eq.」の単位で表される。
また、触媒層は、EWが異なる2種類以上の高分子電解質を発電面内に含み、この際、高分子電解質のうち最もEWが低い高分子電解質が流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いることが好ましい。このような材料配置を採用することにより、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能の向上を図ることができる。流路内ガスの相対湿度が90%以下の領域に用いる高分子電解質、すなわちEWが最も低い高分子電解質のEWとしては、900g/eq.以下であることが望ましい。これにより、上述の効果がより確実、顕著なものとなる。
さらに、EWが最も低い高分子電解質を冷却水の入口と出口の平均温度よりも高い領域に用いることが望ましい。これによって、電流密度領域によらず、抵抗値が小さくなって、電池性能のさらなる向上を図ることができる。
さらには、燃料電池システムの抵抗値を小さくするとする観点から、EWが最も低い高分子電解質は、流路長に対して燃料ガスおよび酸化剤ガスの少なくとも一方のガス供給口から3/5以内の範囲の領域に用いることが望ましい。
触媒層には、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等の撥水剤、界面活性剤等の分散剤、グリセリン、エチレングリコール(EG)、ポリビニルアルコール(PVA)、プロピレングリコール(PG)等の増粘剤、造孔剤等の添加剤が含まれていても構わない。
触媒層の膜厚(乾燥膜厚)は、好ましくは0.05〜30μm、より好ましくは1〜20μm、さらに好ましくは2〜15μmである。なお、上記は、カソード触媒層およびアノード触媒層双方に適用される。しかしながら、カソード触媒層およびアノード触媒層は、同じであってもあるいは異なってもよい。
(ガス拡散層)
ガス拡散層(アノードガス拡散層、カソードガス拡散層)は、セパレータのガス流路を介して供給されたガス(燃料ガスまたは酸化剤ガス)の触媒層への拡散を促進する機能、および電子伝導パスとしての機能を有する。
ガス拡散層の基材を構成する材料は特に限定されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、炭素製の織物、紙状抄紙体、フェルト、不織布といった導電性および多孔質性を有するシート状材料が挙げられる。基材の厚さは、得られるガス拡散層の特性を考慮して適宜決定すればよいが、30〜500μm程度とすればよい。基材の厚さがかような範囲内の値であれば、機械的強度とガスおよび水等の拡散性とのバランスが適切に制御されうる。
ガス拡散層は、撥水性をより高めてフラッディング現象等を防止することを目的として、撥水剤を含むことが好ましい。撥水剤としては、特に限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等のフッ素系の高分子材料、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。
また、撥水性をより向上させるために、ガス拡散層は、撥水剤を含むカーボン粒子の集合体からなるカーボン粒子層(マイクロポーラス層;MPL、図示せず)を基材の触媒層側に有するものであってもよい。
カーボン粒子層に含まれるカーボン粒子は特に限定されず、カーボンブラック、グラファイト、膨張黒鉛等の従来公知の材料が適宜採用されうる。なかでも、電子伝導性に優れ、比表面積が大きいことから、オイルファーネスブラック、チャネルブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックが好ましく用いられうる。カーボン粒子の平均粒径は、10〜100nm程度とするのがよい。これにより、毛細管力による高い排水性が得られるとともに、触媒層との接触性も向上させることが可能となる。
カーボン粒子層に用いられる撥水剤としては、上述した撥水剤と同様のものが挙げられる。なかでも、撥水性、電極反応時の耐食性等に優れることから、フッ素系の高分子材料が好ましく用いられうる。
カーボン粒子層におけるカーボン粒子と撥水剤との混合比は、撥水性および電子伝導性のバランスを考慮して、質量比で90:10〜40:60(カーボン粒子:撥水剤)程度とするのがよい。なお、カーボン粒子層の厚さについても特に制限はなく、得られるガス拡散層の撥水性を考慮して適宜決定すればよい。
電解質膜−電極接合体の作製方法としては、特に制限されず、従来公知の方法を使用できる。例えば、電解質膜に触媒層をホットプレスで転写または塗布し、これを乾燥したものに、ガス拡散層を接合する方法や、ガス拡散層の微多孔質層側(微多孔質層を含まない場合には、基材層の片面に触媒層を予め塗布して乾燥することによりガス拡散電極(GDE)を2枚作製し、固体高分子電解質膜の両面にこのガス拡散電極をホットプレスで接合する方法を使用することができる。ホットプレス等の塗布、接合条件は、固体高分子電解質膜や触媒層内の高分子電解質の種類(パ−フルオロスルホン酸系や炭化水素系)によって適宜調整すればよい。
(セパレータ)
セパレータは、固体高分子形燃料電池等の燃料電池の単セルを複数個直列に接続して燃料電池スタックを構成する際に、各セルを電気的に直列に接続する機能を有する。また、セパレータは、燃料ガス、酸化剤ガス、および冷却剤を互に分離する隔壁としての機能も有する。これらの流路を確保するため、上述したように、セパレータのそれぞれにはガス流路および冷却流路が設けられていることが好ましい。セパレータを構成する材料としては、緻密カーボングラファイト、炭素板等のカーボンや、ステンレス等の金属等、従来公知の材料が適宜制限なく採用できる。セパレータの厚さやサイズ、設けられる各流路の形状やサイズ等は特に限定されず、得られる燃料電池の所望の出力特性等を考慮して適宜決定できる。
なお、固体高分子形燃料電池の製造方法は、特に制限されることなく、燃料電池の分野において従来公知の知見が適宜参照されうる。
<燃料電池用触媒>
本発明の実施形態の燃料電池用触媒は、触媒担体と、前記触媒担体に担持されている触媒金属とを含む、燃料電池用触媒であって、前記触媒金属が、白金原子と非白金金属原子との合金粒子であり、前記非白金金属原子の酸化度が、0%超30%以下である、燃料電池用触媒である。かかる実施形態であることによって、触媒の活性(面積比活性)の劣化を抑制できる技術的効果がある。つまり、非白金金属原子の酸化度が所定の範囲であることによって耐久性が向上する技術的効果がある。
非白金金属原子の酸化度に由来する酸素原子としては、空気中の酸素原子や、後述の燃料電池用触媒の製造方法の欄で説明する、白金前駆体含有液、非白金金属前駆体含有液の溶液等に含まれる酸素原子等が挙げられる。
本発明者らは、触媒金属内に通常取り込まれてしまう酸素原子が触媒の耐久性に悪影響を及ぼしていることを知見した。そこで、触媒金属における非白金金属原子の酸化度を0%超30%以下とすることによって、触媒活性の劣化を抑制することができた。本発明の実施形態の燃料電池用触媒が、かような技術的効果を奏することができるメカニズムは明らかではないが以下のとおりと推測される。無論、かかるメカニズムによって本発明の技術的範囲が制限されることはない。すなわち、燃料電池における触媒を含む触媒層は、実際に電池反応が進行する層である。この反応が進行する触媒表面あるいはその直下に酸素原子が多く存在すると、酸素原子の吸着エネルギーが増加して、酸化還元反応(ORR)の活性が低下してしまう。また、酸素原子が多く存在することによって、触媒表面に存在しうる白金原子と、触媒内部に存在する白金原子および非白金金属原子との相互作用エネルギーが低下し、触媒表面に存在しうる白金原子が不安定化されてしまう。これに対し、非白金金属原子の酸化度を30%以下とすることによって、酸素原子の吸着エネルギーを低下させ、触媒金属における相互作用エネルギーを向上させることができるため、本発明の所期の効果を奏することができる。また非白金金属原子の酸化度が30%以下ということは、すなわち、非白金金属原子に存在する酸素原子が、非白金金属原子の表面のみならず内部からも低減されているということと考えられる。このように非白金金属原子の表面のみならず内部からも酸素原子を低減させることで本発明の所期の効果を奏しているものと推測される。一方、本発明の実施形態において、非白金金属原子の酸化度は、0%超である。その理由は、非白金金属原子の酸化度が0%であること自体が現実的ではなく、また非白金金属原子の酸化度が0%である触媒を作製しようとすると触媒担体のメタネーションが進み耐久性が悪化する虞があるからである。また、実施例の欄で説明するが、触媒金属における非白金金属原子の酸化度を30%以下とすることによって、そこを臨界点として、触媒活性の劣化を著しく抑制することができる。30%以下にするとかような技術的効果が得られる理由は不明であるが、換言すれば、それが、当業者にとっても予期しない結果と言える。
本発明の実施形態では、前記酸化度が、28%以下であることが好ましく、25%以下であることがより好ましい。かような実施形態であることによって、触媒粒子が安定することによって、触媒の活性劣化をさらに抑制することができる。また、本発明の実施形態では、前記酸化度が、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがよりさらに好ましい。このように白金合金粒子内に一定量の酸素濃度が存在することで、電位サイクル時における酸素の潜り込みと潜り込み時における酸素の白金合金粒子内への拡散を緩和することができ、その結果、白金合金粒子表層の高活性構造が保たれ、活性が維持されるものと考えられる。一方、上記のように、酸素が閾値を超えると(酸化度が30%超となると)酸化還元反応の活性が低下したり、また、白金合金粒子内に存在する非白金金属原子の酸化物等と、触媒表面に存在しうる白金原子との相互作用エネルギーが低下したりする。よって活性は維持されない。
上記を鑑みると、本発明の好ましい実施形態は、前記酸化度が、15〜25%である。かかる実施形態によって、触媒の活性劣化をさらに抑制することができる。なお、酸化度の測定方法は、実施例記載の方法による。
ここで、非白金金属(非白金金属原子)は、特に制限されないが、触媒活性等の観点から、遷移金属原子であることが好ましい。すなわち、本発明の実施形態によると、非白金金属原子が遷移金属原子である。ここで、遷移金属原子とは、第3族元素から第12族元素を指し、遷移金属原子の種類もまた、特に制限されない。触媒活性等の観点から、遷移金属原子は、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびジルコニウム(Zr)からなる群より選択されることが好ましい。より好ましくは、遷移金属原子は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)および銅(Cu)からなる群より選択される。本発明の実施形態では、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)および銅(Cu)からなる群より選択されることが好ましい。かかる実施形態であることによって、触媒の劣化をさらに抑制できる。とりわけ、コバルト(Co)であることが好ましい。
上記遷移金属原子は、白金(Pt)と金属間化合物を形成しやすいため、白金の使用量を低減しつつも、触媒活性や耐久性をより向上できる。また、上記遷移金属原子と白金との合金は、より高い活性を達成できる。なお、上記遷移金属原子は、単独で白金と合金化されても、あるいは2種以上が白金と合金化されても、いずれでもよい。
触媒金属(合金粒子)の大きさは、特に制限されない。例えば、合金粒子の平均粒子径は、好ましくは7nm以下、より好ましくは2〜7nm、特に好ましくは3〜5nmである。
かような範囲であれば、触媒活性の耐久性をより向上できる。触媒金属(合金粒子)の平均粒子径(nm)は、以下のようにして測定される値である。まず、n個の粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、各粒子の投影面積よりその面積が真円であった場合の粒子径(等価円直径)を逆算して、各粒子の粒子径(d(nm))を測定する。このようにして得られた粒子の粒子径(d(nm))を用いて、下記式(A)よって、粒子の平均粒子径(nm)を算出する。なお、粒子の測定数(n)は、特に制限されないが、統計学的に信頼性のある数であることが好ましく、少なくとも300個である。
また、本発明の実施形態によれば、前記触媒金属の表面が、白金層で覆われている。かかる実施形態によって、溶出耐性が高く、酸性条件下、例えば、強酸性の電解質(例えば、PEFCで一般的に使用されているパーフルオロスルホン酸のような電解質)に接触した状態であっても、非白金金属の連鎖的溶出を抑制・防止できる。すなわち、当該構成によると、触媒金属は、耐溶解性の高い白金層が、耐溶解性に劣る非白金金属原子を含むコア部を被覆している。このため、電位サイクル環境や酸性条件下での非白金金属の溶出を抑制・防止し、触媒粒子は活性を長期間にわたって維持できる。ゆえに、非白金金属による効果を長期間にわたって発揮でき、触媒の活性劣化をさらに抑制することができる。
ここで、白金層は、触媒金属の少なくとも一部を被覆すればよいが、非白金金属の溶出の抑制・防止効果の向上を考慮すると、触媒金属の全表面を被覆することが好ましい。また、白金層は、単層であってもあるいは複数の層の積層であってもよいが、0を超えて6白金原子層から構成されることが好ましく、1〜5白金原子層から構成されることが好ましく、1〜3白金原子層から構成されることがより好ましい。このような数であると、電位サイクル環境や酸性条件下での非白金金属の溶出を十分抑制・防止できる。
白金層を構成する白金原子層数は、公知の方法によって測定されうる。例えば、電子線照射により発生する各元素固有の特性X線を検出し、エネルギーで分光することによって、元素分析や組成分析を行うエネルギー分散型X線分光(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy;EDX)等が使用できる。本明細書において、白金層を構成する白金原子層数は、STEM−EDX分析によりにより測定される。詳細には、STEM−EDX分析器(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、商品名:HD−2700)を用いて、白金層を有する触媒金属の表面から中心に向かって、白金金属元素および非白金金属元素に特有の特性X線を検出し、その強度を測定する。ここで、非白金金属元素に特有の特性X線を初めて検出した際の厚みが白金層厚(nm)となる。この白金層厚を、白金の原子直径(0.27nm)で除し、得られた値が白金層を構成する白金層白金原子層数となる。例えば、白金−コバルト合金粒子をSTEM−EDX分析すると、表面から0.68nmの地点で初めてコバルト元素を検出した場合には、白金原子層数は、約2.5(=0.68/0.27)層となる。なお、本明細書では、上記方法によって5個以上の触媒粒子について白金原子層数を測定し、その平均を「白金層を構成する白金原子層数」とする。なお、各粒子にエラーバー(誤差)があるため、算出される白金原子層数が範囲を持つ場合がある。
触媒金属の表面が、白金層で覆われている触媒の作製方法としては、例えば、本明細書に記載の酸処理工程を行うことが好適である。
(触媒担体)
触媒担体は、導電性担体でありうる。
触媒担体は、触媒金属(合金粒子)を担持するための担体、および触媒金属と他の部材との間での電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。触媒担体としては、触媒金属を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、集電体として十分な電子導電性を有しているものであればよく、主成分がカーボンであるのが好ましい。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、実質的に炭素原子からなるとは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されることを意味する。
触媒担体としては、具体的には、アセチレンブラック、チャンネルブラック、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック(例えば、バルカン)、ランプブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック;ブラックパール;黒鉛化アセチレンブラック;黒鉛化チャンネルブラック;黒鉛化オイルファーネスブラック;黒鉛化ガスファーネスブラック;黒鉛化ランプブラック;黒鉛化サーマルブラック;黒鉛化ケッチェンブラック;黒鉛化ブラックパール;カーボンナノチューブ;カーボンナノファイバー;カーボンナノホーン;カーボンフィブリル;活性炭;コークス;天然黒鉛;人造黒鉛等を挙げることができる。また、触媒担体として、ナノサイズの帯状グラフェンが3次元状に規則的に連結した構造を有するゼオライト鋳型炭素(ZTC)も挙げることができる。
触媒担体のBET比表面積は、触媒金属を高分散担持させるのに十分な比表面積であればよいが、好ましくは10〜5000m2/g担体、より好ましくは50〜2000m2/g担体、さらに好ましくは400〜1000m2/g担体とするのがよい。このようなBET比表面積であれば、触媒担体に十分な触媒金属を担持(高分散)して、十分な発電性能を達成できる。なお、担体の「BET比表面積(m2/g担体)」は、窒素吸着法により測定される。
また、触媒担体の大きさは、特に限定されないが、担持の容易さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御する等の観点からは、平均粒子径が5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするのがよく、20〜60nm程度とするのがよい。なお、「担体の平均粒子径」は、X線回折(XRD)における担体粒子の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡(TEM)により調べられる担体の粒子径の平均値として測定されうる。本明細書では、「担体の平均粒子径」は、統計上有意な数(例えば、少なくとも200個、好ましくは少なくとも300個)のサンプルについて透過型電子顕微鏡像より調べられる担体粒子の粒子径の平均値である。ここで、「粒子径」とは、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味するものとする。
本発明の実施形態によれば、前記触媒担体が、細孔を有する。細孔を有することで、触媒金属が細孔内に担持され、電解質との接触・被毒による活性低下を抑制することができる。また細孔内に粒子が存在することにより、粒子の粗大化を抑制することができる。かような細孔を有するものとしては、特に制限されないが、主成分がカーボンであることが好ましく、具体的には、上記のうち、カーボンブラック(ケッチェンブラック、オイルファーネスブラック、チャンネル、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラックなど)、活性炭などからなるカーボン粒子が挙げられる。
<燃料電池用触媒の製造方法>
本発明の実施形態の燃料電池用触媒の製造方法は、触媒担体に担持されている、酸素原子を含む、白金原子と非白金金属原子との合金粒子を加熱する、加熱処理工程を有し、前記加熱処理工程が、還元性ガス雰囲気下で、かつ、1200℃超1800℃以下の温度範囲内で行われる、燃料電池用触媒の製造方法である。かかる実施形態によって、触媒金属が、白金原子と非白金金属原子との合金粒子であり、前記非白金金属原子の酸化度が、0%超30%以下である、燃料電池用触媒を効率よく製造することができる。
以下、燃料電池用触媒の製造方法の好ましい実施形態を説明する。
1.触媒担体に担持されている、酸素原子を含む、白金原子と非白金金属原子との合金粒子の準備
酸素原子を含む、白金原子と非白金金属原子との合金粒子を触媒担体に担持する方法は、特に制限されない。例えば、白金前駆体由来の白金イオンおよび非白金金属前駆体由来の非白金金属イオンを順次触媒担体上に担持・還元してもよい(順次還元)。または、白金前駆体および非白金金属前駆体を含む混合液を調製し、この混合液に還元剤を添加し、白金前駆体由来の白金イオンおよび非白金金属前駆体由来の非白金金属イオンを同時に触媒担体上で還元・担持してもよい(同時還元)。このうち、同時還元の方法は、国際公開第2015/020079号の[触媒粒子/触媒(電極触媒)の製造方法]の(工程(1))および(工程(2))ならびに必要であれば(工程(3))に記載されるのと同様の方法が採用できる。よって、以下では順次還元の方法について説明する。
白金前駆体由来の白金イオンおよび非白金金属前駆体由来の非白金金属イオンを順次触媒担体上に担持、還元させる方法は特に制限されない。好ましい形態では、下記の方法がある。すなわち、白金前駆体を溶媒に添加して、白金前駆体含有液を調製する。この白金前駆体含有液に触媒担体および還元剤を添加し、白金前駆体由来の白金イオンを触媒担体上で還元、担持して、白金担持前駆粒子を含む液を得る。この白金担持前駆粒子を含む液に、非白金金属前駆体および還元剤を添加して、非白金金属前駆体由来の非白金金属イオンを触媒担体上で還元、担持して、触媒前駆粒子を含む液を得る。この触媒前駆粒子を加熱して合金化処理して、触媒を製造する。
以下、上記方法を詳述する。なお、本発明は、下記方法に限定されない。
(1)白金粒子担持担体の作製工程
まず、白金前駆体を溶媒に添加して、白金前駆体含有液を調製する。ここで、白金前駆体としては、特に制限されないが、白金塩および白金錯体が使用できる。より具体的には、塩化白金酸(典型的にはその六水和物;H2[PtCl6]・6H2O)、ジニトロジアンミン白金等の硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、テトラアンミン白金およびヘキサアンミン白金等のアンミン塩、炭酸塩、重炭酸塩、塩化白金等のハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸等の無機塩類、ギ酸塩等のカルボン酸塩ならびに水酸化物、アルコキサイド等を使用することができる。なお、上記白金前駆体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。
上記白金前駆体含有液の調製に使用される溶媒は、特に制限されず、使用される白金前駆体の種類によって適宜選択される。なお、上記白金前駆体含有液の形態は特に制限されず、溶液、分散液および懸濁液を包含する。均一に混合できるという観点から、白金前駆体含有液は溶液の形態であることが好ましい。具体的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の有機溶媒、酸、アルカリ等が挙げられる。これらのうち、白金前駆体を十分に溶解する(白金を効率よくイオン化する)という観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
白金前駆体含有液における白金前駆体の濃度は、特に制限されないが、金属換算で0.1〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5〜45質量%であり、さらに好ましくは0.6〜10質量%であり、よりさらに好ましくは0.7〜5質量%である。
次に、上記白金前駆体含有液に触媒担体および還元剤を添加し、白金前駆体由来の白金イオンを触媒担体上で還元、担持して、白金担持前駆粒子を製造する。ここで、触媒担体および還元剤の白金前駆体含有液への添加順序は特に制限されないが、白金粒子の触媒担体上への分散のしやすさ等を考慮すると、触媒担体をまず白金前駆体含有液に添加した後、還元剤を添加することが好ましい。
触媒担体の白金前駆体含有液への添加量は、特に制限されないが、白金の担持濃度(担持量)が、担体の全量に対して、2〜70質量%となるような調節することが好ましい。担持濃度をこのような範囲にすることで、粒子同士の凝集が抑制され、また、電極触媒層の厚さの増加を抑制できるため好ましい。より好ましくは5〜60質量%、さらにより好ましくは10〜50質量%である。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP atomic emission spectrometry)や誘導結合プラズマ質量分析(ICP mass spectrometry)、蛍光X線分析(XRF)等の、従来公知の方法によって調べることができる。
触媒担体を添加した後、撹拌してもよい。これにより、白金前駆体および触媒担体を均一に混合するため、白金粒子を触媒担体上に均一に分散可能である。なお、触媒担体は、触媒担体のみを添加してもよいし、懸濁液の形態で添加してもよい。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザ等の適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置等超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間としては分散が十分に行われるように適宜設定すればよく、通常、1〜60分であり、好ましくは5〜50分である。
また、還元剤としては、特に制限されず、従来と同様の還元剤が使用できる。例えば、エタノール、メタノール、プロパノール、ギ酸、ギ酸ナトリウムやギ酸カリウム等のギ酸塩、ホルムアルデヒド、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等のクエン酸塩、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)およびヒドラジン(N2H4)等が使用できる。これらは水和物の形態になっていてもよい。また、2種類以上を混合して使用してもよい。
還元剤の添加形態は特に制限されず、そのまま白金前駆体含有液に添加されても、または予め溶媒に溶解した還元剤溶液の形態で、白金前駆体含有液に添加されてもよい。溶液の形態であると、容易に均一に混合できるため、好ましい。ここで、溶媒としては、還元剤を溶解できるものであれば特に制限されず、還元剤の種類によって適宜選択される。具体的には、上記白金前駆体含有液の調製に使用される溶媒と同様の溶媒が使用できる。ただし、還元剤溶液に使用される溶媒と、混合液の調製に使用される溶媒とは同じである必要はないが、均一な混合性等考慮すると、同じであることが好ましい。
還元剤の添加量としては、白金イオンを還元させるのに十分な量であれば特に制限されない。具体的には、還元剤の添加量は、白金イオン1モル(金属換算)に対して、好ましくは5〜90モルである。このような量であれば、白金イオンを十分還元できる。なお、2種以上の還元剤を用いる場合には、これらの合計の添加量が上記範囲であることが好ましい。
還元剤を添加した後、撹拌してもよい。これにより、白金前駆体および還元剤を均一に混合するため、均一な還元反応が可能になる。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザ等の適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置等超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。また、撹拌温度は、好ましくは0〜50℃、より好ましくは5〜40℃である。また、撹拌時間としては分散が十分に行われるように適宜設定すればよく、通常、1〜60分であり、好ましくは5〜40分である。
白金前駆体含有液に触媒担体および還元剤を添加した後、白金前駆体由来の白金イオンを触媒担体上で還元、担持して、白金担持前駆粒子を含む液を得る。
白金前駆体の還元反応条件は、白金前駆体由来の白金イオンを十分触媒担体上に還元、担持できる条件であれば特に制限されない。例えば、還元反応温度は、白金前駆体含有液、触媒担体および還元剤の混合物の沸点付近(混合物の沸点±10℃、より好ましくは混合物の沸点±5℃)であることが好ましい。なお、上記混合物の沸点は、混合物中に含まれる溶媒の沸点であり、溶媒が2種以上含まれる場合にはこれらの溶媒混合物の沸点である。または、還元反応温度は、好ましくは40〜150℃、より好ましくは50〜100℃である。また、還元反応時間は、白金前駆体および還元剤を均一に混合できる時間であれば特に制限されないが、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは1〜8時間である。このような条件であれば、白金を触媒担体により高分散・担持できる。
上記還元反応により、白金前駆体由来の白金イオンが触媒担体上に還元、担持され、白金担持前駆粒子を含む液(白金担持前駆粒子含有液)が得られる。ここで、必要であれば、白金担持前駆粒子を上記白金担持前駆粒子含有液から単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、白金担持前駆粒子を濾過、乾燥すればよい。なお、必要であれば、白金担持前駆粒子を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)を行ってもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、白金担持前駆粒子を乾燥してもよい。ここで、白金担持前駆粒子の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜50時間程度の範囲で行うことができる。
(2)酸素を含む、白金粒子と非白金金属粒子の担持担体の作製工程
次に、上記白金担持前駆粒子を含む液に、非白金金属前駆体および還元剤を添加して、非白金金属前駆体含有液を調製する。ここで、白金担持前駆粒子を含む液は、白金担持前駆粒子を含むものであればよく、上記還元反応後の液(白金担持前駆粒子含有液)であってもよい。または、上記したように、この白金担持前駆粒子含有液から白金担持前駆粒子を単離した後、白金担持前駆粒子を別途溶媒に分散することによって調製した白金担持前駆粒子を含む液を使用してもよい。後者の場合に使用できる溶媒は、特に制限されないが、使用される非白金金属前駆体が溶解できるものが好ましい。このため、好ましい溶媒は、使用される非白金金属前駆体の種類によって適宜選択されうる。具体的には、上記白金前駆体含有液で例示したのと同様の溶媒を使用できる。これらのうち、非白金金属前駆体を十分に溶解する(非白金金属を効率よくイオン化する)という観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。なお、白金担持前駆粒子含有液および白金前駆体含有液の調製に使用される溶媒は、それぞれ、同じであってもまたは異なってもよい。
また、非白金金属前駆体および還元剤の白金担持前駆粒子を含む液への添加順序は特に制限されないが、非白金金属粒子の触媒担体上への分散のしやすさおよび白金との合金化のしやすさ等を考慮すると、非白金金属前駆体をまず白金担持前駆粒子含有液に添加した後、還元剤を添加することが好ましい。
非白金金属前駆体としては、特に制限されないが、非白金金属塩および非白金金属錯体が使用できる。より具体的には、非白金金属の、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、アミン、炭酸塩、重炭酸塩、臭化物および塩化物等のハロゲン化物、亜硝酸塩、シュウ酸等の無機塩類、ギ酸塩等のカルボン酸塩ならびに水酸化物、アルコキサイド、酸化物等を用いることができる。つまり、非白金金属が、純水等の溶媒中で金属イオンになれる化合物が好ましく挙げられる。これらのうち、非白金金属の塩としては、ハロゲン化物(特に塩化物)、硫酸塩、硝酸塩がより好ましい。なお、上記非白金金属前駆体は、1種を単独で使用してもあるいは2種以上の混合物として使用されてもよい。また、非白金金属前駆体は、水和物の形態であってもよい。
非白金金属前駆体含有液における非白金金属前駆体の濃度は、特に制限されないが、金属換算で0.01〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜5質量%である。または、非白金金属前駆体の濃度は、白金前駆体と非白金金属前駆体との混合比(白金前駆体:非白金金属前駆体の混合比(モル比))が下記に示される触媒(合金)粒子の組成になるような濃度であることが好ましい。すなわち、触媒前駆粒子の非白金金属原子に対する白金の割合(原子比)(白金/非白金金属のモル比)は、1.0以下であることが好ましく、0.8〜0.1であることがより好ましく、0.7〜0.3であることが特に好ましい。このような量であれば、白金原子と非白金金属原子の割合を適切に制御して、得られる電極触媒の活性の耐久性をさらに向上できる。
また、還元剤としては、特に制限されず、上記白金前駆体の還元反応の際に例示したのと同様の還元剤を上記と同様の形態で使用できる。
還元剤の添加量としては、非白金金属イオンを還元させるのに十分な量であれば特に制限されない。具体的には、還元剤の添加量は、非白金金属イオン1モル(金属換算)に対して、好ましくは1モル超50モル以下であり、2〜20モルである。このような量であれば、非白金金属イオンを十分還元できる。なお、2種以上の還元剤を用いる場合には、これらの合計の添加量が上記範囲であることが好ましい。
白金担持前駆粒子を含む液に非白金金属前駆体および還元剤を添加した後、非白金金属前駆体由来の非白金金属イオンを触媒担体上で還元、担持して、触媒前駆粒子を含む液を得る。
非白金金属前駆体の還元反応条件は、非白金金属前駆体由来の非白金金属イオンを十分触媒担体上に還元、担持できる条件であれば特に制限されない。例えば、還元反応温度は、好ましくは10〜60℃、より好ましくは15〜40℃である。また、還元反応時間は、非白金金属前駆体および還元剤を均一に混合できる時間であれば特に制限されないが、好ましくは0.1〜12時間、より好ましくは0.5〜4時間である。このような条件であれば、非白金金属を触媒担体により高分散・担持できる。また、未還元の白金前駆体や非白金金属前駆体を還元剤でさらに還元できるため、白金および非白金金属を触媒担体により効率的に高分散・担持できる。なお、上記還元反応は、撹拌しながら行ってもよい。これにより、非白金金属前駆体および還元剤を均一に混合するため、均一な還元反応が可能になる。ここで、撹拌条件は、特に均一に混合できる条件であれば特に制限されない。例えば、スターラーやホモジナイザ等の適当な攪拌機を用いる、あるいは、超音波分散装置等超音波を印加することによって、均一に分散混合できる。
上記還元反応により、非白金金属前駆体由来の非白金金属イオンが触媒担体上に還元、担持して、触媒前駆粒子(白金/非白金金属担持前駆粒子)を含む液(触媒前駆粒子含有液)が得られる。ここで、必要であれば、触媒前駆粒子を上記触媒前駆粒子含有液から単離してもよい。ここで、単離方法は、特に制限されず、触媒前駆粒子を濾過、乾燥すればよい。なお、必要であれば、触媒前駆粒子を濾過した後に、洗浄(例えば、水洗)を行ってもよい。また、上記濾過ならびに必要であれば洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、触媒前駆粒子を乾燥してもよい。ここで、触媒前駆粒子の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、1〜60時間、好ましくは5〜50時間程度の範囲で行うことができる。
上記のように、白金粒子と非白金金属粒子の担持担体の作製をすることによって、この白金粒子と非白金金属粒子は、空気中の酸素原子や、白金前駆体含有液、非白金金属前駆体含有液の溶液等に含まれる酸素原子由来の酸素原子を含むことになる。
(3)合金化工程
上記によって得られた触媒前駆粒子を加熱して合金化処理する。これにより、触媒担体に担持されている合金粒子が得られる。
ここで、加熱(合金化)条件は、白金および非白金金属が十分合金化できる条件であれば特に制限されず、白金や非白金金属の担持量、非白金金属の種類等によって適宜選択すればよい。具体的には、加熱(合金化)温度は、好ましくは200〜1000℃、より好ましくは500〜900℃である。また、加熱(合金化)時間は、好ましくは0.5〜10時間、より好ましくは0.6〜4時間であり、さらに好ましくは0.7〜2時間である。
また、加熱(合金化)は、いずれの雰囲気中で行ってもよいが、白金や非白金金属への還元をより進行させるために、非酸化性雰囲気下で行うことが好ましい。非酸化性雰囲気下としては、不活性ガス雰囲気または還元性ガス雰囲気が挙げられる。ここで、不活性ガスは、特に制限されないが、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、および窒素(N2)等が使用できる。上記不活性ガスは、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合ガスの形態で使用されてもよい。また、還元性ガス雰囲気は、還元性ガスが含まれていれば特に制限されず、還元性ガス単独、または還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気のいずれであってもよい。ここで、還元性ガスは、特に制限されないが、水素(H2)ガス、一酸化炭素(CO)ガスが好ましい。また、不活性ガスに含有される還元性ガスの濃度も、特に制限されないが、不活性ガス中の還元性ガスの含有量が、好ましくは10〜100体積%、より好ましくは50〜100体積%である。このような濃度であれば、合金(白金および非白金金属)の酸化を十分抑制・防止できる。上記のうち、熱処理は、還元性ガス雰囲気で行われることが好ましい。このような条件であれば、担体上での触媒金属の凝集を抑制し、活性を向上できる。
ここで、触媒金属の組成は、特に制限されない。触媒活性の向上効果、コストの低減等の観点から、触媒金属の非白金金属原子に対する白金原子の割合(原子比)(白金/非白金金属のモル比)は、1.0以下であることが好ましく、0.8〜0.1であることがより好ましく、0.7〜0.3であることが特に好ましい。
上記のように、触媒担体に担持されている合金粒子の準備をすることによって、合金粒子は、空気中の酸素原子や、白金前駆体含有液、非白金金属前駆体含有液の溶液等に含まれる酸素原子由来の酸素原子を含むことになる。
2.酸処理工程
本発明の実施形態によれば、後述する加熱処理工程の前に、前記触媒担体に担持されている前記合金粒子に対して予め、酸処理を行っておくことを有する。かかる実施形態によって、非白金金属を溶出して余分な非白金金属を低減させることができるので、触媒の耐久性が向上する。
本工程において、酸溶液を構成する酸は、非白金金属を溶出できるものであれば特に制限されず、非白金金属原子の種類に応じて適宜選択される。例えば、硫酸、硝酸、塩酸、リン酸、亜リン酸、酢酸、炭酸、シュウ酸、ホウ酸、弗酸、過マンガン酸カリウム、過酸化水素、塩素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、クロム酸、過塩素酸等が挙げられる。これらのうち、硫酸、硝酸、塩酸、過塩素酸が好ましく、硫酸、硝酸、塩酸がより好ましく、硝酸が特に好ましい。すなわち、好ましい形態によると、酸溶液の酸は硝酸である。このような酸で処理すると、非白金金属を選択的にかつより効率よく溶出できる。また、ハロゲン化物イオン等の不純物の吸着を抑制・防止できる。上記酸は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、酸溶液を調製するために使用される溶媒もまた、特に制限されず、使用される酸の種類に応じて適宜選択される。例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。これらのうち、酸の溶解しやすさ、非白金金属の溶出しやすさ等の観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
ここで、酸溶液の酸濃度は、特に制限されない。酸溶液の酸濃度は、好ましくは0.1モル/L以上7モル/L以下、より好ましくは0.5モル/L以上5モル/L以下、特に好ましくは1モル/Lを超えて4モル/L以下である。このような濃度であれば、余剰な非白金金属を選択的にかつより効率よく溶出できる。ゆえに、得られる電極触媒は、活性の耐久性をさらに向上できる。
酸処理工程における処理方法は、特に制限されないが、例えば、スプレー塗布、浸漬(ディッピングコート)、フローコート、アプリケート法等が挙げられる。このうち、操作性、触媒金属等と酸溶液との接触のしやすさ(非白金金属の溶出しやすさ)等を考慮すると、浸漬(ディッピングコート)が好ましい。
酸処理工程における温度については、特に制限はないが、本発明の所期の効果を効率よく発揮させる観点からは、10〜90℃程度が考えられる。
酸処理工程における時間については、特に制限はないが、1時間を超えて24時間未満であり、より好ましくは1.5〜20時間であり、さらに好ましくは1.8〜15時間であり、よりさらに好ましくは2〜6時間である。このような条件であれば、上記の効果をより効率的に奏することができる。
上記酸処理後に、必要であれば、触媒金属を単離し、洗浄することが好ましい。すなわち、本発明のより好ましい形態によると、触媒金属を酸溶液中に浸漬した後、洗浄して前記酸を除去する。このような操作を行うことによって、触媒金属等がさらに酸処理されることを防止し、酸処理を所定条件により正確に制御できる。ここで、単離方法は、特に制限されず、濾過等が好適である。また、洗浄液は、特に制限されないが、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールが使用できる。これらのうち、酸をより効率的に除去できるという観点から、水が好ましく、純水または超純水を用いることが特に好ましい。上記溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。なお、上記濾過および洗浄工程は、繰り返し行ってもよい。また、濾過または洗浄後、触媒金属等を乾燥してもよい。ここで、触媒金属等の乾燥は、空気中で行ってもよく、また減圧下で行ってもよい。また、乾燥温度は特に限定されないが、例えば、10〜100℃、好ましくは室温(25℃)〜80℃程度の範囲で行うことができ、40〜70℃程度の範囲で行うことができる。また、乾燥時間もまた、特に限定されないが、例えば、5〜60時間、好ましくは10〜50時間程度の範囲で行うことができ、20〜30時間程度の範囲で行うことができる。
上記酸処理により、表面から非白金金属が溶出して、内部には十分量の非白金金属が白金と共に存在し、かつ表層部には白金が実質的に存在する触媒金属が得られる。つまり、触媒金属の表面が、白金層で覆われている触媒を得ることができる。
3.加熱処理工程
加熱処理工程は、触媒担体に担持されている、酸素原子を含む、白金原子と非白金金属原子との合金粒子を、還元性ガス雰囲気下で、かつ、1200℃超1800℃以下の温度範囲内で加熱することを有する。本発明の実施形態による熱処理を施すことによって、非白金金属原子の酸化度を0%超30%以下とすることができる。また、本発明の実施形態による加熱処理を施すことによって、触媒金属の表面に存在する酸素原子のみならず、触媒金属の内部に存在する酸素原子をも除去することができる。よって本発明の所期の効果を奏することができる。
ここで1200℃超という高温に触媒金属を曝すことは通常当業者は行わない。それは、このような高温は触媒金属の劣化に繋がって寧ろ触媒の耐久性が劣化すると考えるからである。これに対して、本発明の実施形態によれば、1200℃超という高温に触媒金属を曝すことによって当業者が予想もしない、却って触媒の耐久性を向上させることに成功した。
本発明の実施形態においては、加熱処理工程の加熱温度は、1200℃超1500℃以下であることが好ましく、1200℃超1450℃以下であることがより好ましく、1200℃超1300℃以下であることがさらに好ましい。かような温度とすることによって、より効率的に非白金金属原子の酸化度を0%超30%以下とせしめることができる。よって、本発明の実施形態によれば、前記加熱処理工程が、1200℃超1300℃以下で行われる。かような実施形態であることによって、より効率的に非白金金属原子の酸化度を0%超30%以下とせしめることができる。
本発明の実施形態の加熱処理工程は、還元性ガス雰囲気下にて行われる。かかる実施形態によって、白金や非白金金属の還元を進行させることができる。還元性ガス雰囲気は、還元性ガスが含まれていれば特に制限されず、還元性ガス単独、または還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気のいずれであってもよく、不活性ガス中の還元性ガスの含有量が、好ましくは80〜100体積%、より好ましくは90〜100体積%である。このような濃度であれば、本発明の所期の効果を十分に奏することができる。還元性ガスや、不活性ガスの説明については上記の説明が同様に妥当する。
本発明の実施形態によれば、前記加熱処理工程の前の昇温処理を、不活性ガス雰囲気で行う。かような実施形態であることによって、メタネーションによる触媒担体の劣化を抑制することができる。よって、触媒担体に担持されている触媒金属を含む、触媒の活性の劣化を抑制できる。不活性ガスの説明については上記の説明が同様に妥当する。
また、本発明の実施形態において、昇温処理の速度としては、1〜100℃/分であることが好ましく、5〜50℃/分であることがより好ましく、10〜30℃/分であることがさらに好ましい。かような温度であることによって、粒径増大の防止や均一反応の促進との技術的効果がある。
また、本発明の実施形態においては、加熱処理工程の加熱時間は、0.7〜10時間であることが好ましく、0.8〜5時間であることがより好ましく、1〜3時間であることがさらに好ましい。かような時間とすることによって、より効率的に非白金金属原子の酸化度を0%超30%以下とせしめることができる。
本発明の実施形態によれば、前記加熱処理工程の後の降温処理を、不活性ガス雰囲気で行う。かような実施形態であることによって、メタネーションによる触媒担体の劣化を抑制することができる。よって、触媒担体に担持されている触媒金属を含む触媒の活性の劣化を抑制できる。不活性ガスの説明については上記の説明が同様に妥当する。また、降温処理の速度は、上記の昇温処理と異なり特に設定する必要はなく、自然放冷を行えばよい。その理由は、加熱処理工程において酸素が除去されているからであるからである。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限りは、各操作は、室温(25℃)で/相対湿度40〜50%RHの条件で行われた。
<実施例>
(実施例1)
(1)白金粒子担持担体の作製工程
白金濃度0.8重量%のジニトロジアンミン白金硝酸水溶液1000g(白金含有量:8g)に、カーボン担体を19g浸漬させ、室温(25℃)で40分間、撹拌後、還元剤として100%メタノールを100ml添加した。なお、カーボン担体として、ケッチェンブラック(登録商標)KetjenBlackEC300J(平均粒子径:40nm、BET比表面積:800m2/g担体、ライオン株式会社製)を使用した。この溶液を沸点(約95℃)で7時間、撹拌、混合し、白金をカーボン担体に担持させた。そして、濾過、乾燥することにより白金粒子担持担体を得た。
(2)酸素原子を含む、白金粒子と非白金金属粒子の担持担体の作製工程
上記で得られた白金粒子担持担体20gを2Lの水に分散させ、コバルト前駆体(硫酸コバルト、コバルト含有量1.2g(白金1モルに対して0.5モル相当))を投入した。これに、別途調製した還元剤溶液(水素化ホウ素ナトリウム10gを純水1Lに溶解)を全量投入し、室温(25℃)で1時間、スターラーで撹拌・混合し、還元析出させた後、濾過、乾燥することで触媒前駆粒子Aを製造した。なお、当該触媒前駆粒子Aは、触媒担体に対して白金が45.8質量%であってコバルトが5.1質量%であった。
(3)合金化工程
得られた触媒前駆粒子Aを100体積%水素ガス雰囲気中で、800℃、1時間の熱処理を実施し、粉末を得た。
(4)酸処理工程
得られた粉末を80℃に調整した3M 硝酸水溶液に2時間浸漬して、触媒含有溶液を得た。この触媒含有溶液を濾過した後、純水で洗浄した。洗浄後、大気中で60℃で24時間乾燥させ、酸処理済粉末を得た。
(5)加熱処理工程(還元処理工程)
得られた酸処理済粉末を水素ガス雰囲気中で、炉内温度が1205℃となるように設定し、1205℃を1時間維持する処理を行うことにより電極触媒Aを製造した。なお、炉内温度が1205℃に達するまではアルゴン雰囲気にて、20℃/分で昇温を実施した。1時間の1205℃の熱処理後、アルゴン雰囲気で降温した。降温速度は制御せず、自然放冷とした。
(実施例2)
前記酸処理済粉末を炉内温度が1405℃となるように設定して加熱処理(還元処理)した以外は、実施例1と同様にして、電極触媒Bを製造した。
<比較例>
(比較例1)
前記触媒前駆粒子Aへの熱処理温度(800℃)を、600℃に変更した以外は、実施例1と同様に粉末を得、実施例1と同様の方法で酸処理済粉末を得、当該酸処理済粉末に対して、加熱処理(還元処理)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、電極触媒Cを得た。
(比較例2)
前記酸処理済粉末に対して加熱処理(還元処理)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、電極触媒Dを得た。
<評価>
(非白金金属原子の酸化度の測定)
非白金金属原子の酸化度は以下に示す装置を用いて、XPS計測により算出した。
装置名:X線光電子分光分析装置 アルバック・ファイ株式会社(ULVAC−PHI, Inc.)製 Quantum−2000、
X線源:Monochromated Al Kα線(1486.6eV) 20W、
光電子取り出し角度:45゜(測定深さ:約4nm)、
測定エリア:φ200μm 楕円形。
計測されたスペクトルに対して、非白金金属原子由来のスペクトル面積(A-M)と、酸化された非白金金属原子由来のスペクトル面積(AMO)を分離・算出し、酸化度(XMO)は以下式の様に求めた。
例えば非白金金属原子としてCoを例に挙げると、CoにおいてはCo2pスペクトルを算出に用いる。Co2pスペクトルはCo(778.3eV)、CoO(780.9eV)、CoxOy(779.7eV)のスペクトルに分離される。CoOとCoxOyとの合算したスペクトル面積をAMO、Coのみのスペクトル面積をAMとすると、酸化度XMOを算出することができる。
(白金層の形成確認)
実施例1の触媒の白金層の形成状態の確認にはSTEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)/EDX(Energy Dispersive X−ray spectrometry)による、元素ライン分析により行った(日立ハイテクノロジー社製、HD−2700)。結果を、図2に示す。図2に示されるように、表層には1nm程度の白金のみで構成される層が存在することが分かる。よって、白金原子層が3〜5原子層であることが確認された。また、図3は、実施例1の電極触媒AのTEM暗視野像である。図3に示すように、粒子表層部はコントラストが強いため、白金層が形成されていることが分かる。
(耐久試験)
電極触媒A〜Dについて、次の試験を行った。
N2ガスで飽和した60℃の0.1M過塩素酸中において、可逆水素電極(RHE)に対して電極電位を0.6Vに3秒間保持した後、瞬時に1.0Vに電位を上げ、1.0Vを3秒間保持した後、0.6Vに瞬時に戻すというサイクルを1万サイクル繰り返した。なお、電圧をかけるために、耐久試験を行う際も、下記のように、回転ディスク電極に担持させている。
(面積比活性の測定)
電極触媒A〜Dを、それぞれ、直径5mmのグラッシーカーボンディスクにより構成される回転ディスク電極(幾何面積:0.19cm2)上に34μg・cm−2となるように均一にNafionと共に分散担持し、性能評価用電極を作製した。
各実施例および各比較例の電極に対して、N2ガスで飽和した25℃の0.1M過塩素酸中において、可逆水素電極(RHE)に対して0.05〜1.2Vの電位範囲で、50mVs−1の走査速度でサイクリックボルタンメトリーを行った。得られたボルタモグラムの0.05〜0.4Vに現れる水素吸着ピークの面積より、電極触媒A〜Dの電気化学的表面積(cm2)を算出した。
次に、電気化学計測装置を用い、酸素で飽和した25℃の0.1M過塩素酸中で、0.2Vから1.2Vまで速度10mV/sで電位走査を行った。さらに、電位走査によりに得られた電流から、物質移動(酸素拡散)の影響をKoutecky−Levich式を用いて補正した上で、0.9Vでの電流値を抽出した。そして、得られた電流値を上述の電気化学的表面積で除した値を面積比活性(μAcm−2)とした。Koutecky−Levich式を用いた方法は、例えば、Electrochemistry Vol.79, No.2, p.116−121 (2011) (対流ボルタモグラム(1)酸素還元(RRDE))の「4 Pt/C触媒上での酸素還元反応の解析」に記載されている。抽出した0.9Vの電流値を電気化学表面積で除算することで面積比活性が算出される。
耐久試験前後の電極触媒について面積比活性を測定し、以下の計算式:
(耐久試験前の面積比活性(μAcm−2)−耐久試験後の面積比活性(μAcm−2))/耐久試験前の面積比活性(μAcm−2)×100
により劣化率として記載した。
<考察>
実施例の電極触媒によれば、劣化率が、7.2%、15.5%と低く、活性(面積比活性)の劣化を抑制できていることが示唆される。これに対し、比較例の電極触媒では、劣化率が、30.1%、25.2%と高く、活性(面積比活性)の劣化を抑制できないことが示唆される。また、図2、3に示されるとおり、実施例の電極触媒においては、触媒金属の表面が、白金層で覆われていることが示されている。
ここで特筆すべき点は、酸化度が54%であると劣化率が25.2%と大きいにも関わらず、酸化度が22%になると劣化率が7.2%と、急激に低くなる点である。
このように、「非白金金属原子の酸化度が30%以下である」との構成によって、酸化度が30%を臨界点として、活性(面積比活性)の劣化を著しく抑制できるということが言える。
なお、活性(面積比活性)の劣化を抑制することができる触媒を含む触媒層を組み込んだ燃料電池を車両に適用することによって、活性劣化を補助し、長きに亘って一律の性能を発揮させるための複雑なシステム等の構築を行う必要がなくなることも期待される。