本発明の塗工設備の概略の一例を図1にて説明する。
図1に示す塗工設備1は、基材2の送り方向に直交する方向であり、また、図1におけるY軸方向である、基材2の幅方向に沿って長く構成されたダイ10と、ダイ10に塗液3を供給する塗液供給手段4と、を備え、塗液供給手段4から供給された塗液3をダイ10に設けられた吐出口11から吐出することにより、基材2に塗液3を塗布する。
ダイ10において、その長手方向を本説明では幅方向といい、基材2の幅方向と同じ方向である。本実施例の塗工設備1では、ダイ10に対向する略円柱状のロール5が設置されており、ダイ10の幅方向とロール5の回転中心線の方向とは平行である。基材2は、このロール5に案内され、基材2とダイ10の間隔が一定に保たれ、この状態で塗液3の基材2への塗布が行われる。
ダイ10は、幅方向に長い塗液3の流路であるスリット13を有しており、スリット13は、幅方向にスリット13と同一の長さの開口である吐出口11と連通している。
塗液供給手段4から供給される塗液3は、スリット13を経由して、吐出口11から基材2に帯状に塗布される。
基材2上に塗布される塗膜の厚みは、基材2の送り速度や、塗液供給手段4による塗液3の供給量等の運転条件や、塗液3の特性や、ダイ10内部のスリット13等の塗液3の流路抵抗に起因する吐出口11からの幅方向の塗液3の吐出量の分布等の影響を受けるが、それらの運転条件等が、塗膜の厚みが変動しないように適切に設定されている場合、一般的にダイ10の吐出口11とロール5の外周面6に接する基材2の表面との距離を変化させると塗膜の厚みも同様に変化する。
ここで、基材2は、少なくともダイ10と対向する位置ではロール5に接しており、基材2の表面形状はその位置におけるロール5の表面形状にならった形状となっているので、ロール5の表面形状を調節することで塗膜の形状を調節できる。すなわち、ロール5の外周面6とダイ10の吐出口11との間隔である塗工隙間12を調節することで塗膜の形状を調節できる。
ここで、図示しない温度調節機構により、ロール5に温度変化を与え、ロール5の外周面6を変位させることにより、塗工隙間12の距離を調節することで、幅方向の塗膜の厚み分布を平均化するように調整する。
本発明の実施例1の塗工設備1について図2(A)、(B)にて説明する。図2(B)は、図1のa矢視を90度回転させた図であり、Y方向が幅方向である。図2(A)は、図2(B)のb矢視である。
図2(B)に示す本実施例1の塗工設備1のロール5は、例えば、炭素綱やアルミニウムのような温度変化で熱膨張・収縮する部材で構成されており、ロール5の外周面6の内側には、図2(A)に示すようなロール5の外周面6からの距離が円周方向に均等な配置で、図2(B)に示すように幅方向に渡って複数に分割されたヒータ20が設けられている。ここで、ヒータ20は、本説明の温度調節機構に相当する。
ここでヒータ20は、例えば、誘導加熱等の電気ヒータや熱媒ヒータ等である。また、ベルチェ効果を利用した加熱・冷却の両方の機能を備えたようなヒータでもよい。
ヒータ20にてロール5の外周面6とヒータ20との間である表層部7を加熱することにより、表層部7が熱膨張し、ロール5の直径が大きくなることにより、外周面6が、吐出口11に近づくように変位し、塗工隙間12がヒータ20による加熱前よりも狭くなる。
本実施例1では、ヒータ20は、幅方向に、端部(Z1、Z6)、中間部(Z2、Z4)、中央部(Z3、Z4)の6つのゾーンに分割されており、図示しない温度制御機構により、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)は個別に温度調節できる。それぞれのゾーン(Z1〜Z6)のヒータ20の温度を変化させることにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の表層部7が熱膨張・熱収縮し、それにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)において外周面6が変位する。そうすることで、塗工隙間12をそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)で調節できる。
ここで、ロール5の表層部7の材質に金属を使用する場合、例えば、SUS304のように、通常の炭素鋼より、熱膨張しやすく、熱伝導しにくい材料にするとよい。
こうすることで、炭素鋼を使用する場合と比べて、ヒータ20にて、加熱されるそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)の表層部7の温度変化を、隣接するゾーンに伝えにくくできる。また、表層部7の熱膨張量も炭素鋼を使用する場合よりも大きくなる。これにより、幅方向の塗工隙間12の調節の感度をあげることができる。
ここで、例えば、ロール5の材質をSUS304とし、ヒータ20をロール内部2箇所に配置したロール中央部から半分のモデルでのロール5の外周面6の変位量のシミュレーション結果を図3(A)、(B)、(C)にて説明する。図3(A)は解析モデルを示し、図3(B)は、ヒータ20の配置を示し、図3(C)は、シミュレーション結果を示す。ここで、解析モデルのロール5のロール径は200mmであり、外周面6からロール回転中心に向かってヒータ20までの距離は、15mm、ロール中央部からの距離は、一つ目が20mm、2つ目が250mmであり、ヒータ20の設定温度は100℃である。図3(A)、(B)、(C)に示したケースでは、表層部7における変位量として、15〜25μmを得ることができた。例えば、LIB用電極用途向けの塗膜であれば、図2で示した塗工隙間12は、通常20μm〜250μmの範囲に設定されるが、必要とされる塗工隙間12の調節範囲は、設定された塗工隙間12の1%〜10%程度の変位量であればよく、図3(A)、(B)、(C)に示した解析モデルによるシミュレーションでは、必要とされる塗工隙間12の調節範囲において、十分な外周面6の変位量が得られている。尚、上記シミュレーションでは、一例として、LIB用電極用途向け塗膜の塗工隙間12の調整量について説明したが、異なる塗膜では、塗液3の種類や塗膜の厚み等が異なり、それに伴い必要とされる塗工隙間12の調整量も変わる。その塗膜の必要とされる塗工隙間12の調整量に応じて、ロール5の材質、寸法、ヒータ20の加熱温度等を選択し、必要とされる塗工隙間12の調整量を確保すればよい。
続いて、実施例1の塗工設備1を用いて、幅方向の塗膜の厚み分布を調整する方法について説明する。
基材2に塗布された幅方向の塗膜の厚み分布をみて、塗工隙間12を調節し、幅方向の塗膜の厚み分布を平均化する調整をする方法の一例について、図2(B)、(C)、(D)、図4(A)、(B)、(C)を用いて説明する。図2(B)、(C)、(D)は、塗工隙間12の調節状態を、図4(A)、(B)、(C)は、それに伴った幅方向の塗膜の分布状態を示す。
例えば、基材2に塗布された幅方向の塗膜の厚み分布において、図2(B)のロール形状では、図4(A)に示すように端部に比べて中央部の塗膜が厚くなっている場合、図2(B)において、たとえば、中央部(Z3、Z4)のヒータ20を加熱し、中間部(Z2、Z5)のヒータ20の加熱温度を中央部(Z3、Z4)より低い加熱温度で加熱するようにヒータ20を図示しない温度制御機構にて制御する。そうすることで、表層部7において中央部(Z3、Z4)が他のゾーンよりも大きく熱膨張し、基材2の送り方向から見たロール5の外周面6が山型形状に変位する。その結果、塗工隙間12は、中央部(12−Z3、12−Z4)で他のゾーンよりもヒータ20の加熱温度調節前に比べて最も狭く、端部(12−Z1、12−Z5)にいくほどヒータ20の加熱温度調節前に近くなる。この状態を図2(C)に示す。この塗工隙間12の調節により、幅方向の塗膜の厚み分布を、図4(A)の状態から図4(B)の状態に調整することができる。
また、幅方向の塗膜の厚み分布において、図2(B)のロール形状では、図4(C)に示すように端部の塗膜が他よりも厚くなっている場合、図2(B)において、たとえば、端部(Z1、Z6)を加熱するようにヒータ20の加熱温度を図示しない温度制御機構にて調節する。そうすることで、端部(Z1、Z6)の表層部7が熱膨張し、幅方向からみたロール5の外周面6が凹型形状に変位する。その結果、塗工隙間12は、端部(Z1、Z6)で、ヒータ20の加熱温度調節前より狭くなる。この状態を図2(D)に示す。この塗工隙間12の調節により、幅方向の塗膜の厚み分布を、図4(C)の状態から図4(B)の状態に調整することができる。
以上により、ダイ10を変形させるような構造を必要とせず、幅方向の塗膜の厚み分布を、高精度に、容易に調整することができる。
また、ダイ10を変形させずに基材2上に塗布された幅方向の塗膜の厚み分布を調整する塗布方法として、特開2015−176822公報にて、塗液3をダイ10内部の流路の途中で流出または流入させる発明が開示されているが、本実施例の塗工方法では、塗液3をダイ10内部の流路の途中で流出または流入させないため、塗液3のロスやコンタミネーションの問題もない。
ここで、図2で示したセンサ16で基材2に塗布された幅方向の塗膜の厚み分布を測定し、その数値を用いてヒータ20を制御する制御装置17を設けてもよい。これにより、幅方向の塗膜の厚み分布の結果から、塗工隙間12の調節をし、幅方向の塗膜の厚みの調整および塗膜の厚み分布を平均化する調整が自動化できる。そうすることで、例えば、長時間の連続運転時に、塗液3の成分がダイ10の塗液3の流路内で滞留し、吐出口11から吐出される塗液3の幅方向の流量分布が変化することで、幅方向の塗膜の厚み分布が変化する等の経時変化に対しても自動で対応することができる。これにより、長時間の連続運転にも対応できる。
本発明の実施例2の塗工設備1について、図5を用いて説明する。実施例2の塗工設備1は、図1の塗工設備1において、塗工隙間12を直接測定するセンサ18を更に有している。センサ18にて塗工隙間12を測定した数値に基づいて、塗工隙間12を調節することにより、幅方向の塗膜の厚み分布を平均化するように調整できる。
実際の塗工隙間12を測定した数値に基づいて、塗工隙間12を調節し、幅方向の塗膜の厚み分布を平均化する調整の調整方法の一例について、図6(A)、(B)を用いて説明する。図6(A)、(B)は、図5のc矢視を90度回転させた図であり、図6(A)は、塗工隙間12の調節前、図6(B)は、塗工隙間12の調節後の状態をそれぞれ表している。
図5のセンサ18にて測定した実際の塗工隙間12において、図6(A)に示すような中央部(12−Z3、12−Z4)および中間部(12−Z2、12−Z5)が、端部(12−Z1、12−Z6)に比べて狭い、すなわち、基材2の送り方向から見たロール5の外周面6が山型形状に反った状態になっていた場合、端部(Z1、Z6)のヒータ20を加熱するようにヒータ20を制御装置17にて制御する。ここで、制御装置17は、センサ18にて測定した実際の塗工隙間12の数値を用いてヒータ20を制御する制御装置である。そうすることで、表層部7において端部(Z1、Z6)が他のゾーンよりも大きく熱膨張し、幅方向から見たロール5の外周面6が山型形状から図6(B)に示すような平坦な形状に変位する。その結果、塗工隙間12は、幅方向の範囲(12−Z1〜12−Z6)において、ヒータ20の加熱温度調節前より平均化した分布になる。
この塗工隙間12の調節により、ロール5にそりやたわみがあっても、塗工隙間12の幅方向の分布を平均化できる。たとえば、吐出口11からの塗液3の幅方向の吐出流量分布が均一な場合、この塗工隙間12の調節によって塗工隙間12を平均化することにより、幅方向の塗膜の厚み分布を、図4(B)で示した状態に調整することができる。
また、塗工運転開始前に塗工隙間12を調節できるので、塗工運転開始時の立上げ調整が容易になり立上げ調整時間を短縮できる。
更に実施例1で設けたのと同様に、図5に示す基材2に塗布された幅方向の塗膜の厚み分布を測定するセンサ16を設け、幅方向の塗膜の厚み分布を測定し、その数値を用いてヒータ20の制御をしてもよい。事前にロール5のそりやたわみの塗工隙間12への影響を調整できるため、幅方向の塗膜の厚み分布の結果から、塗工隙間12の調節をし、幅方向の塗膜の厚みの調整および塗膜の厚み分布を平均化する調整が、更に容易にできる。
また、実施例2の塗工設備1は、塗布幅が広幅化する場合にも対応できる。これについて、図7(A)、(B)、(C)を用いて説明する。図7(B)は、図1の塗工装置1を90°回転させて、図1のダイ10をロール5の上方に配置した場合のa矢視である。図7(A)は、図7(B)のe矢視であり、図7(C)は、図7(B)の塗工隙間12の調節状態を示している。
一般的に、塗布幅が広幅化すると、ロール幅も広くなり、ロールの自重によるたわみの影響が発生する。図7(A)に示すように、ダイ10をロール5の上方に配置するような塗工装置では、塗布幅が広幅化し、ロール5が広幅になるほど、図7(B)に示すようにロール5のたわみにより、ロール5の幅方向の中央部(12−Z3、12−Z4)と端部(12−Z1、12−Z6)で、塗工隙間12の差が大きくなる問題があったが、本実施例2の塗工装置1を用いて、たとえば、図7(C)に示すようにロール5の外周面6の幅方向の中央部(Z3、Z4)のヒータ20を他のゾーンより高い温度に調節し、中間部(Z2、Z5)のヒータ20を中央部(Z3、Z4)より低い温度に調節する。これにより、中央部(Z3、Z4)の表層部7が大きく熱膨張し、中間部(Z2、Z5)の表層部7が中央部(Z3、Z4)の表層部7より小さく熱膨張し、図7(C)に示すように、外周面6が部分的に変化する。こうすることで塗工隙間12の幅方向の分布を平均化させることができるため、ロール5のたわみが幅方向の塗膜の厚み分布へ与える影響を低減できる。
本発明の実施例3の塗工設備1について、図8を用いて説明する。実施例3の塗工設備1は、図1の塗工設備1において、ロール5の外周面6の凹凸を直接測定するセンサ19とセンサ19にて測定した数値を用いて塗工隙間12を制御する制御装置17を更に有している。ここでセンサ19は、例えば、画像センサのように、仮想の位置からのロール5の外周面までの距離を測定できるセンサである。センサ19にてロール5の外周面6の凹凸を測定した数値に基づいて、塗工隙間12を調節することにより、幅方向の塗膜の厚み分布を平均化するように調整できる。ここで、センサ19が測定するロール5の外周面6の位置は、塗工隙間12の外周面6の位置と180°反対の位置が望ましい。こうすることで、ロール5のたわみの影響を塗工隙間12の調節に考慮しなくてよい。
ここでの実施例2で説明した塗工隙間12の調節方法と同じような調節方法を用いて幅方向の塗膜の厚み分布を調整する。
センサ19にて、基材2が接触しない範囲のロール5の外周面6の凹凸を測定することにより、塗工運転中においても、塗工隙間12を調節し、幅方向の塗膜の厚み分布を平均化するように調整できる。
また、実施例1で説明したような基材2に塗布された幅方向の塗膜の厚み分布を測定するセンサ16を更に設け、幅方向の塗膜の厚み分布を測定し、その数値を用いてヒータ20の制御してもよい。
これにより、センサ19にてロール5の外周面6の凹凸を測定した数値とセンサ16にて基材2に塗布された幅方向の塗膜の厚み分布を測定した数値とを用いて、最適な塗工隙間12の調節ができる。
本発明の実施例4の塗工設備1について図9(A)、(B)、(C)にて説明する。図9(A)は、図1の塗工設備1においてのロール5を90度回転させた図であり、Y方向が幅方向である。図9(B)は、図9(A)のf矢視であり、図9(C)は、図9(A)のg矢視である。
図9(B)に示す本実施例4の塗工設備1は、基材2と接し、ダイ10の吐出口11と対向する外周面6を形成し、図示しないモータに同じく図示しないカップリング等で接続されて回転するロール5と、ロール5の幅方向の外周面6の少なくとも基材2の接触する範囲において、ロール5の内壁面を温度調節する、加熱部21および冷却部22と、加熱部21および冷却部22を支持する固定の支持部9とを備える。ロール5は、例えば、炭素綱やアルミニウムのような温度変化で熱膨張・収縮する部材で構成されている。加熱部21は、例えばラジエーションヒータ等の輻射型の加熱ヒータや熱風を対象物に当てて対象物を加熱する加熱ヒータであり、ロール5の円周方向の一部の範囲を加熱するように支持部9に固定されており、図9(B)に示すように幅方向に渡って複数に分割されている。冷却部22は、例えば、冷媒を通したプレートに風を当て、冷風を対象物に当てるような冷却器であり、加熱部21と同様に、ロール5の円周方向の一部の範囲を冷却するように支持部9に固定されており、図9(C)に示すように幅方向に渡って複数に分割されている。ここで加熱部21は、本説明の加熱機構に相当し、冷却部22は、本説明の冷却機構に相当する。
加熱部21または冷却部22にてロール5の少なくとも基材2の接触する幅方向の範囲を加熱または冷却することにより、ロール5の表層部7の温度変化を与えられた箇所が熱膨張または収縮し、ロール5の外周面6が変位し、塗工隙間12の距離が変化する。
本実施例4では、図9(B)に示すように、加熱部21は、幅方向に、端部(Z1、Z6)、中間部(Z2、Z4)、中央部(Z3、Z4)の6つのゾーンに分割されており、図示しない温度制御機構により、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)は個別に温度調節できる。冷却部22は、図9(C)に示すように、加熱部21と同様に、幅方向に、端部(Z1、Z6)、中間部(Z2、Z4)、中央部(Z3、Z4)の6つのゾーンに分割されており、図示しない開閉機構にて、冷風のON−OFFをそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)において切り替えできる。ここで、図示しない冷媒の温度調節手段により、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の冷風の温度を個別に調節できてもよい。実施例1と同様にそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度を変化させることにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の表層部7が、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度変化によって、熱膨張・収縮し、それにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)において外周面6が変位する。そうすることで、塗工隙間12をそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)で調節できる。
ロール5の内側に加熱部21と冷却部22をそれぞれ別に設けることにより、基材2が通るロール5の外周面6の周囲に新たに付属物を設けることなく、ロール5の表層部7への加熱と冷却を切り替えをスムーズにできるので、実施例1に比べて、ロール5の温度変化を早くすることができ、塗工隙間12の調節性を向上させることができる。
また、加熱部21でのロール5の表層部7への加熱を停止することなく、冷却部22にてロール5の表層部7を冷却することもできるし、その逆もできる。こうすることで、加熱と冷却の切り替え時の加熱部21または冷却部22の立ち上がり時間が短縮できる。
また、加熱部21での加熱範囲は、塗布後の基材2が接触するロール5の外周面6の範囲まで広げてもよい。これにより、塗布後の塗液3の乾燥を補助することができる。
本発明の実施例5の塗工設備1について図10(A)、(B)にて説明する。図10(B)は、図1のa矢視を90度回転させた図であり、Y方向が幅方向である。図10(A)は、図10(B)のh矢視である。
図10(A)、(B)に示す本実施例5の塗工設備1は、図2で示した実施例1の塗工設備1に対して、ロール5の外周面6の外側からロール5の表層部7を冷却する冷却部22を更に有する。冷却部22は、例えば、冷媒を通したプレートに風を当て、冷風を対象物に当てるような冷却器であり、基材2が搬送されている状態で、ロール5の円周方向で基材2が接触していない側に、ロール5の外周面6に向けて外周面6の外側から冷風を当てるように配置されており、冷却部22は、図10(B)に示すように、幅方向に渡って複数に分割されている。
ヒータ20にてロール5の外周面6とヒータ20との間である表層部7を外周面6の内側から加熱することにより、表層部7が熱膨張し、外周面6が、ダイ10の吐出口11に近づくように変位し、塗工隙間12が加熱前よりも狭くなる。また、冷却部22にてロール5の外周面6の外側から表層部7を冷却することにより、表層部7が収縮し、外周面6が、吐出口11に対して遠ざかるように変位し、塗工隙間12が冷却前よりも広くなる。
本実施例5でも、実施例1〜4で説明したような方法と同様に幅方向に分割されたそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度を変化させることにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の表層部7が、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度変化によって、熱膨張・収縮し、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)において外周面6が変位する。そうすることで、塗工隙間12をそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)で調節できる。
ロール5の表層部7を収縮させる冷却部22をロール5の外周面6の外側に、ロール5の表層部7を膨張させるヒータ20をロール5の外周面6の内側にそれぞれ分けて設けることにより、冷却部22とヒータ20間の相互の熱影響が減少するため、ロール5の表層部7の温度変化を実施例4に比べて更に早くすることができ、塗工隙間12の制御性を向上させることができる。
本発明の実施例6の塗工設備1について図11(A)、(B)にて説明する。図11(B)は、図1のa矢視を90度回転させた図であり、Y方向が幅方向である。図11(A)は、図11(B)のi矢視である。
本実施例6の塗工設備1は、図11(A)、(B)に示すように、ロール5の外周面6の外側からロール5の表層部7を加熱する加熱部21を有し、ロール5の外周面6の内側からロール5の表層部7を冷却する冷却部22を有する。ここで、加熱部21は、例えばラジエーションヒータ等の輻射型の加熱ヒータや熱風を対象物に当てて対象物を加熱する加熱ヒータであり、基材2が搬送されている状態で、ロール5の円周方向で基材2が接触していない側に、ロール5の外周面6に向けて外周面6の外側からロール5の表層部7を加熱するように配置され、図11(B)に示すように幅方向に渡って複数に分割されている。ロール5は、例えば、炭素綱やアルミニウムのような温度変化で熱膨張・収縮する部材で構成されており、ロール5の外周面6の内側には、図11(A)に示すようなロール5の外周面6からの距離が円周方向に均等な配置で、幅方向に渡って複数に分割された冷却部22が設けられている。ここで冷却部22は、例えば、ロール5の内部に設けられた流路に冷媒を通すようなものである。すなわち、本実施例6の塗工設備1は、実施例5の塗工設備1に対して、ロール5の表層部7への加熱と冷却の位置を逆にした実施例である。
冷却部22にてロール5の外周面6と加熱部21との間である表層部7を外周面6の内側から冷却することにより、表層部7が収縮し、外周面6が、ダイ10の吐出口11から遠ざかるように変位し、塗工隙間12が冷却前よりも広くなる。また、加熱部21にてロール5の外周面6の外側から表層部7を加熱することにより、表層部7が熱膨張し、外周面6が、ダイ10の吐出口11に対して近づくように変位し、塗工隙間12が加熱前よりも狭くなる。
本実施例6でも、実施例1〜4で説明したような方法と同様にそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度を変化させることにより、各ゾーン(Z1〜Z6)の表層部7が、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度変化によって、熱膨張・収縮し、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)において外周面6が変位する。そうすることで、塗工隙間12をそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)で調節できる。
ロール5の表層部7を収縮させる冷却部22をロール5の外周面6の内側に、ロール5の表層部7を膨張させる加熱部21をロール5の外周面6の外側にそれぞれ分けて設けることにより、冷却部22と加熱部21間の相互の熱影響が減少するため、ロール5の温度変化を実施例4に比べて更に早くすることができ、塗工隙間12の制御性を向上させることができる。
本発明の実施例7の塗工設備1について図12(A)、(B)、(C)にて説明する。図12(B)は、図1のa矢視を90度回転させた図であり、Y方向が幅方向である。図12(A)は、図12(B)のj矢視であり、図12(C)は図12(A)のc矢視である。
図12(A)に示すような本実施例7の塗工設備1は、実施例1の塗工設備1に対して、ロール5の外周面6の外側からロール5の表層部7を加熱する加熱部21と、ロール5の外周面6の外側からロール5の表層部7を冷却する冷却部22を更に有する。加熱部21は、例えば、ラジエーションヒータ等の輻射型の加熱ヒータであり、基材2が搬送されている状態で、ロール5の円周方向で基材2が接触していない側に、ロール5の外周面6に向けて外周面6の外側からロール5の表層部7を加熱するように配置され、図12(B)に示すように、幅方向に渡って複数に分割されている。冷却部22は、例えば、冷媒を通したプレートに風を当て、冷風を対象物に当てるような冷却器であり、図12(A)に示すように、基材2が搬送されている状態で、ロール5の円周方向で基材2が接触していない側に、加熱部21と干渉しない範囲で、ロール5の外周面6に向けて外周面6の外側から冷風を当てるように配置されており、冷却部22は、図12(C)に示すように、幅方向に渡って複数に分割されている。ロール5は、表層部7が、例えば、炭素綱やアルミニウムのような温度変化で熱膨張・収縮する部材で構成されている非中実のロールである。
加熱部21にてロール5の外周面6と加熱部21との間である表層部7を外周面6の外側から加熱することにより、表層部7が熱膨張し、外周面6が、ダイ10の吐出口11に近づくように変位し、塗工隙間12が加熱前よりも狭くなる。また、冷却部22にてロール5の外周面6の外側から表層部7を冷却することにより、表層部7が収縮し、外周面6が、ダイ10の吐出口11に対して遠ざかるように変位し、塗工隙間12が冷却前よりも広くなる。
本実施例7でも、実施例1〜4で説明したような方法と同様にそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度を変化させることにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の表層部7が、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度変化によって、熱膨張・収縮し、それにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)において外周面6が変位する。そうすることで、塗工隙間12をそれぞれのゾーンで調節できる。
ロール5の外周面6の外側に加熱部21と冷却部22をそれぞれ設けることにより、実施例1〜6に比べてロール5を小径化することができる。
また、ロール5を非中実にすることにより、温度変化させる部材のボリュームが中実ロールよりも減少し、加熱部21または冷却部22から同じ熱量の温度変化を与えた場合、中実ロールの場合よりもロール5の外周面6を容易に変位させることができるため、反応よく塗工隙間12の調節ができる。これにより、幅方向の塗膜の厚み分布の調整時間の短縮が図れる。
ができる。
ここで、加熱部21は図12(D)に示すような熱風を対象物に当てて対象物を加熱する加熱ヒータでもよいし、他の方式でもよい。
本発明の実施例8の塗工設備1について図13(A)にて説明する。図13(A)は、図1のa矢視を90度回転させた図であり、Y方向が幅方向である。
本実施例8の塗工設備1は、ロール5と、ロール5の外周面6を変位させる加熱部21および冷却部22と、を有する。ロール5は、外周面6を有する薄い肉厚の一つの筒状の部材からなる外筒部8と、軸部23と、幅方向に互いに隙間を空けた配置で、軸部23の外周に固定され、外筒部8の内壁面に密着し、幅方向に分割された複数の円盤形状の温度変化で変位する部材である伸縮部24と、で構成されている。ここで軸部23は伸縮部24および外周面6に回転を伝える。加熱部21は、複数の伸縮部24のそれぞれの内部に設けられており、複数の伸縮部24をそれぞれ加熱する。冷却部22は、複数の伸縮部24のそれぞれの内部に設けられており、複数の伸縮部24をそれぞれ冷却する。
ここで加熱部21は、例えば、誘導加熱等の電気ヒータや、熱媒を利用した熱媒ヒータであり、伸縮部24を加熱し、伸縮部24を熱膨張させる。また、冷却部22は、例えば、伸縮部24内に設けられた流路に冷媒を通すような構造からなり、伸縮部24を冷却し、伸縮部24を収縮させる。伸縮部24は、例えば、炭素綱やアルミニウムのような温度変化で熱膨張・収縮する部材からなる。外筒部8は、例えば、金属性の薄板属等の外力で変形可能な部材からなる。
加熱部21または冷却部22にて、伸縮部24を加熱または冷却することにより、伸縮部24が熱膨張または収縮し、外筒部8の内壁面と密着する密着面25が変位する。伸縮部24の密着面25が温度変化で変位することにより、密着面25の変位に合わせて外筒部8が変形し、ロール5の外周面6が変位する。
すなわち、加熱部21にて伸縮部24を加熱することにより、伸縮部24が熱膨張し、密着面25と密着する外筒部8を突き上げ、ロール5の外周面6がダイ10の吐出口11に近づくように変位し、塗工隙間12が加熱前よりも狭くなる。また、冷却部22にて伸縮部24を冷却することにより、伸縮部24が収縮し、密着面25と密着する外筒部8を引っ張り、ロール5の外周面6が、ダイ10の吐出口11に対して遠ざかるように変位し、塗工隙間12が冷却前よりも広くなる。
本実施例8でも、実施例1〜4で説明したような方法と同様にそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度を変化させることにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の伸縮部24が、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の温度変化によって、熱膨張・収縮し、それにより、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)において外周面6が変位する。そうすることで、それぞれのゾーン(Z1〜Z6)の塗工隙間(12−Z1〜12−Z6)をそれぞれのゾーン(Z1〜Z6)で調節できる。
複数の伸縮部24を設けることで、伸縮部24を一つとすることに比べて、温度変化で変位する部材を分割でき、隣り合う部材からの変位の影響を低減できるため、ロール幅方向において、表層部7の変位を容易に調節できる。
また、外筒部8を一つの筒状の部材とすることにより、隣り合う伸縮部24による外周面6の部分的な変位をロール表面上で滑らかにつなぐことができる。
ここで、外筒部8は、例えば、樹脂のように伸縮部24の部材よりも温度を伝えにくい部材であってもよい。これにより、温度変化で変位する伸縮部24からの外周面6への伝熱を低減し、基材2への熱伝導を押さえることができる。基材2への熱影響(変質)や塗膜への熱影響(乾燥ムラ)等が低減できる。
本実施例において、隣り合う伸縮部24の隙間に断熱機能を有する部材を設けてもよい。隣り合う伸縮部24間を断熱することで、他の伸縮部24からの熱影響がなくなる。これにより、ロール5の幅方向において、外周面6の変位を更に容易に調節できる。
また、本実施例において、加熱部21および冷却部22は、伸縮部24の内部になくてもよい。例えば、加熱部21および冷却部22が伸縮部24に接触していても良いし、接触していなくても伸縮部24を加熱または冷却できればよい。
以上で説明したような本発明の塗工装置および塗工方法を用いることにより、ダイを変形させるような構造を必要とせず、塗布後の塗膜の厚みを、高精度に、容易に調整することができる。
本発明の塗工装置は、以上で説明した形態に限らず、本発明の範囲内において他の形態であってもよい。例えば、熱風と冷風を切り替えバルブ等で切り替え、ロールの外周面の外側からロールに温度変化を与えるような形態であってもよい。また、加熱部や冷却部は幅方向に分割されていなくてもかまわない。