JP6923708B2 - 燃料電池エージング用プログラム、及び燃料電池システム - Google Patents

燃料電池エージング用プログラム、及び燃料電池システム Download PDF

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Description

本発明は、燃料電池エージング用プログラム、及び燃料電池システムに関し、さらに詳しくは、燃料電池スタックのエージングを効率良く行うための条件を探査することが可能な燃料電池エージング用プログラム、及び、このようなプログラムを実行するための手段を備えた燃料電池システムに関する。
固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両面に触媒を含む電極(触媒層及びガス拡散層)が接合された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)を備えている。MEAの両面には、さらに、ガス流路を備えた集電体(セパレータ)が配置される。固体高分子形燃料電池は、通常、このようなMEAと集電体からなる単セルが複数個積層された構造(燃料電池スタック)を備えている。
製造直後の固体高分子形燃料電池は、電解質膜や触媒層内電解質の含水率不足、触媒表面への被毒物質の吸着などの製造不良以外の原因により、設計通りの性能が得られないことが知られている。そのため、製造直後の固体高分子形燃料電池に対して、出荷検査を行う前に、慣らし運転(「エージング」、「コンディショニング」、「活性化」などとも呼ばれている)が行われている。しかしながら、慣らし運転には長時間を要するため、燃料電池の生産速度を上げる上でボトルネックとなっている。
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(a)アノード及びカソードにそれぞれ燃料及び酸化剤を供給し、燃料電池の発電を開始する工程と、
(b)電流密度を0.3mA/cm2から0.2mA/cm2の範囲(セル電圧を0.75Vから0.9Vの範囲)で周期的に変動させる工程と
を備えた燃料電池のエージング方法が開示されている。
同文献には、
(a)一定の負荷(電流密度:0.2mA/cm2)を8時間印加するエージング処理を行った場合、定常発電状態におけるセル電圧の低下度は−5.3mV/hであるのに対し、方形波状の負荷を15分間(1サイクルを1分として、15サイクル)印加するエージング処理を行った場合、定常発電状態におけるセル電圧の低下度は−0.7mV/h〜−1.3mV/hとなる点、及び、
(b)周期的な負荷を印加してエージングを行う際には、フラッディングを起こさない条件で行うのが好ましい点
が記載されている。
また、特許文献2には、
(a)開放電圧(OCV)状態で燃料電池スタックを運転し、スタックの内部に活性化のための液滴を導入する高加湿開放電圧運転段階と、
(b)水素と空気を遮断した状態でスタックに電流を流してスタック内部の残余ガスを消耗させ、これによりスタック内部を真空にして高分子電解質膜の表面を湿潤させる真空湿潤段階と
を交互に繰り返す燃料電池スタックの活性化方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、
(a)従来の活性化に必須であった高電流密度運転区間をなくすことができる点、
(b)水素を消耗させることなく、短時間で活性化を行うことができる点、及び、
(c)3分間の高加湿開放電圧運転段階と3分間の真空湿潤段階をそれぞれ9回繰り返すことによりスタックの活性化が可能となる点
が記載されている。
また、特許文献3には、
(a)燃料電池を、直流電源及び電子負荷が直列に接続された外部回路に接続し、
(b)温水を循環させることにより測定セルの温度を80℃まで昇温し、
(c)測定セルの温度を80℃に保持しつつ、外部回路に流す電流の電流密度を1.5A/cm2まで徐々に増加させ、
(d)電流密度を1.5A/cm2に保持したまま4時間コンディショニングを行う
固体高分子型燃料電池の起動方法が開示されている。
同文献には、通常運転時の電流密度(例えば、燃料電池を移動車両用電源として用いるときには、0.1〜1.0A/cm2)より高い電流密度(例えば、1.5A/cm2)でコンディショニングを施すと、触媒層中のイオン交換樹脂が短時間で含水状態となるので、発電時には高い出力電圧が得られる点が記載されている。
また、特許文献4には、
(a)セル電圧を開回路電圧に維持する第1段階と、
(b)空気極への空気供給を遮断する第2段階と、
(c)セル電圧を最低入力電圧まで下げる第3段階と、
(d)セル電圧を再度、開回路電圧まで上げる第4段階と、
(e)燃料電池を定電流又は定電圧運転モードで運転する第5段階と
を複数回繰り返す燃料電池の活性化方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、活性化時間を大幅に短縮させることができる点が記載されている。
さらに、特許文献5には、燃料電池の性能回復が必要と判断された場合において、0.3V以下の電圧で燃料電池の発電を行う燃料電池システムの運転方法が開示されている。
同文献には、このような方法により、触媒表面に吸着した硫酸イオンが触媒表面から離脱しやすくなる点が記載されている。
エージング効果を向上させるためには、電流及び電圧の双方の条件を考慮する必要がある。しかし、従来の方法は、いずれもいずれか一方のみを制御対象としている。そのため、エージング効果が弱い条件を設定してしまう可能性がある。
また、燃料電池スタックにおいては、単セルの上流から下流に向かって酸化剤ガスが供給されるために、酸化剤ガスの下流側では酸素濃度が低くなり、電流も小さくなる。そのため、電極面積の大きな単セルにおいて、面内すべての領域で電流及び電圧の双方をエージングに適した条件にするためには、ガスの条件(酸素濃度、流量)及び総電流を正しく制御する必要がある。しかしながら、このようなエージング時における面内ムラを解消するための方法が提案された例は、従来にはない。
さらに、燃料電池の性能低下は、触媒被毒以外の原因でも起こりうる。しかしながら、燃料電池の性能低下が触媒被毒によるものか否かを簡便に判定することが可能な方法が提案された例は、従来にはない。
特開2005−340022号公報 特開2013−026209号公報 特開2002−319421号公報 特開2009−277637号公報 特開2016−035910号公報
本発明が解決しようとする課題は、燃料電池のエージング(性能を回復するためのリフレッシュを含む。以下同じ。)を効率良く行うための条件を探査することが可能な燃料電池エージング用プログラムを提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、このようなプログラムを実行するための手段を備えた燃料電池システムを提供することにある。
(削除)
本発明に係る燃料電池エージング用プログラムは、コンピュータに以下の手順を実行させるためのものからなる。
(1)燃料電池スタックに含まれる1又は2以上の単セルであって、初回のエージングを行う前の単セル、又は、初回のエージングを行った後、前記燃料電池スタックをt時間使用した後の単セルを基準セルに設定し、メモリに記憶させる手順a。
(2)前記基準セルについて、酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度nとIV特性との関係を示すIV曲線IVΔEを求め、前記IV曲線IVΔEを前記メモリに記憶させる手順b。
(3)ある閾値Vc(高いエージング効果が得られるものとして予め定められている閾値)以下の任意のエージング電圧Veを設定し、前記IV曲線IVΔEを用いて、前記エージング電圧Veにおいて電流密度が閾値jc(高いエージング効果が得られるものとして予め定められている閾値)以上となる酸素濃度の下限値nLを求め、前記メモリに記憶させる手順c。
(4)前記下限値nLを用いて、前記基準セルの最下流での電流密度jが前記閾値jc以上となる時の、供給ガス酸素濃度N、供給ガス流量v、及び総電流Iからなる少なくとも1つの組み合わせを求め、前記組み合わせを前記メモリに記憶させる手順d。
(5)前記エージング電圧Ve、並びに、前記供給ガス酸素濃度N、前記供給ガス流量v、及び前記総電流Iからなる前記組み合わせの1つを用いて前記燃料電池スタックのエージングを実行する手順e。
さらに、本発明に係る燃料電池システムは、本発明に係る燃料電池エージング用プログラムが記憶されたコンピュータを備えていることを要旨とする。
初回のエージングを行った後、燃料電池スタックをt時間使用すると、種々の原因により燃料電池スタックの性能が低下する。触媒被毒により性能が低下した場合、通常、ターフェルプロットEtが低電位側にほぼ平行にシフトする。一方、クロスリークにより性能が低下した場合、ターフェルプロットEtが低電位側にシフトするというよりむしろ、低電流密度領域でのターフェルプロットEtの傾きの絶対値|At|が小さくなる。
そのため、t時間経過後にターフェルプロットEtのシフト幅ΔE及び傾きの絶対値|At|を算出し、これらが共に臨界値(ΔEc、Ac)以上であるか否かを判別すれば、触媒被毒の有無を容易に知ることができる。
また、面積の大きな単セルでは、酸化剤ガスの下流側において酸素濃度が低下する。そのため、下流域においては、局所的な電流密度jが閾値jc未満となり、十分なエージング効果が得られないことが多い。
これに対し、IV曲線IVΔEを用いると、最下流での電流密度jが前記閾値jc以上となる時の、エージング電圧Ve、供給ガス酸素濃度N、供給ガス流量v、及び総電流Iの組み合わせを求めることができる。このようなVe、N、v及びIを用いてエージングを行うと、大面積の単セルを備えた燃料電池スタックであっても、短時間でエージングを完了させることができる。
本発明に係る触媒被毒判定用プログラムのフローチャートである。 ポテンシャルが最大限発揮できる単セルのターフェルプロットE0、触媒が不純物に被毒された単セルのターフェルプロットEt(被毒)、及び電解質膜のリークが生じた単セルのターフェルプロットEt(リーク)である。 本発明に係る燃料電池エージング用プログラムのフローチャートである。 供給ガス酸素濃度N、供給ガス流量v、及び総電流Iの組み合わせを探査するためのプログラムのフローチャートである。
総発電時間に対するスモール単セルの性能値の変化を示す図である。 スモール単セルの性能向上に及ぼすセル電圧の影響を示す図である。 スモール単セルの性能向上に及ぼす平均電流の影響を示す図である。 触媒被毒がないスモール単セルの酸素濃度2〜21%(ストイキ比10以上)におけるIV特性である。 触媒被毒が生じたスモール単セルの推定IV曲線IVΔEである。 セル電圧が0.5Vである時の酸素濃度と電流密度との関係を示す図である。
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 触媒被毒判定用プログラム]
図1に、本発明に係る触媒被毒判定用プログラム(以下、単に「判定用プログラム」ともいう)のフローチャートを示す。本発明に係る判定用プログラムは、以下の手順A〜手順Eを備えている。
[1.1. 手順A: 基準セルの設定]
まず、ステップ1(以下、単に「S1」という)において、燃料電池スタックに含まれる1又は2以上の単セルであって、初回のエージングが終了した直後の単セルを基準セルに設定し、メモリに記憶させる(手順A)。
本発明において、燃料電池の構造は特に限定されるものではなく、触媒被毒が問題となるあらゆるタイプの燃料電池に対して適用することができる。本発明が適用可能な燃料電池としては、例えば、固体高分子形燃料電池、リン酸形燃料電池、アルカリ形燃料電池、直接形燃料電池などがある。
本発明に係る判定用プログラムにおいて、「基準セル」とは、そのポテンシャルが最大限発揮できる状態にある単セル、すなわち、初回のエージングが終了した直後の単セルをいう。初回のエージング方法は、特に限定されない。例えば、後述する燃料電池エージング用プログラムを用いて初回のエージングを行っても良く、あるいは、それ以外の方法で初回のエージングを行っても良い。一般に、エージング条件が不適切であっても、長時間エージングを行えば、燃料電池スタックを活性化することができる。
燃料電池スタックには、複数個の単セルが含まれる。基準セルは、それらの単セルのいずれか1つであっても良く、あるいは、2以上であっても良い。また、基準セルは、燃料電池スタックのいずれの部位にある単セルであっても良い。触媒被毒の有無を正確に判定するためには、基準セルは、燃料電池スタック全体の性能を代表している単セルが好ましい。通常、燃料電池スタックの中心付近にある単セルは、燃料電池スタック全体の性能を代表している場合が多いので、基準セルとして好適である。
[1.2. 手順B: E0の測定]
次に、S2において、前記基準セルについて、予め定められた基準測定条件下においてIV特性を測定し、空気極触媒の初期の触媒活性(ターフェルプロット:E0=A0×log|J|+B0、Jは電流密度)を求め、前記ターフェルプロットE0を前記メモリーに記憶させる(手順B)。
「基準測定条件」とは、触媒被毒の有無を判定するための条件をいう。一般に、単セルの電圧及び電流は、ガス流量、酸化剤ガス中の酸素濃度、セル温度、加湿条件などにより異なる。本発明において、基準測定条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。E0は、電流密度の全域で測定しても良く、あるいは、低電流密度領域近傍のみで測定しても良い。
[1.3. 手順C: Etの測定]
次に、S3に進み、t時間が経過したか否かが判断される。「t時間」とは、触媒被毒の判定を実行する時間間隔をいう。時間間隔は、等間隔に設定しても良く、あるいは、状況に応じて異なる時間間隔を設定しても良い。例えば、燃料電池スタックの総発電時間が短い時は時間間隔を相対的に長く設定し、総発電時間が長くなるにつれて時間間隔を段階的又は連続的に短くしても良い。
燃料電池スタックの運転を開始した直後は、t時間が経過していない(S3:NO)ので、そのまま待機する。一方、t時間が経過した時(S3:YES)は、S4に進む。
次に、S4において、燃料電池スタックをt時間使用した後、前記基準セルについて、前記基準測定条件下においてIV特性を測定し、前記空気極触媒のt時間経過後の触媒活性(ターフェルプロット:Et=At×log|J|+Bt)を求め、前記ターフェルプロットEtを前記メモリーに記憶させる(手順C)。
基準セルとして複数個の単セルを選択した場合、すべての基準セルについてターフェルプロットEtを測定する。また、E0とEtとを対比する必要があるため、Etを測定する際の基準測定条件は、E0を測定する際の基準測定条件と同一である必要がある。Etの測定範囲は、E0のそれと同一であるのが好ましい。
[1.4. 手順D: ΔE及び|At|の算出]
次に、S5において、低電流密度領域における前記ターフェルプロットEtのシフト幅ΔE及び前記ターフェルプロットEtの傾きの絶対値|At|を算出し、前記メモリーに記憶させる(手順D)。
[1.4.1. 低電流密度領域]
「低電流密度領域」とは、酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度ngに対する、ngと触媒表面の酸素濃度nsとの差の絶対値の割合(=|ng−ns|×100/ng)が15%未満である領域をいう。
一般に、電流密度が高い領域では、触媒表面への酸素の拡散が律速となるために、触媒表面の酸素濃度nsは、触媒近傍にある酸化剤ガス中の酸素濃度ngより低くなる。
一方、電流密度が低い領域では、nsとngとがほぼ一致する。また、この領域では、セル電圧Eと電流密度の絶対値の対数log|J|とがほぼ比例する。換言すれば、「低電流密度領域」とは、Eとlog|J|との間にほぼ比例関係が成り立つ領域をいう。
ΔE及び|At|を算出する際の基準となる低電流密度領域の範囲は、ΔE及び|At|を正確に判定することが可能な限りにおいて、任意に設定することができる。一般に、低電流密度領域の上限値が大きくなりすぎると、低電流密度領域には、ターフェルプロットEtが直線から大きく乖離した領域が含まれることになる。そのため、ΔE及び/又は|At|の誤差が大きくなる。
一方、低電流密度領域の上限値が小さくなりすぎると、情報が局所的となるために、やはりΔE及び/又は|At|の誤差が大きくなる。
高い判定精度を得るためには、低電流密度領域は、少なくとも、限界電流密度の1%以上10%以下に相当するコア領域を含むのが好ましい。低電流密度領域は、ΔE及び/又は|At|の誤差が過度に大きくならない限りにおいて、コア領域の下限値より小さい電流密度領域(開回路電圧を含む)、及び/又は、コア領域の上限値より大きい電流密度領域を含んでいても良い。
[1.4.2. シフト幅ΔE]
「シフト幅ΔE」とは、前記低電流密度領域内の、ある電流密度での前記ターフェルプロットE0と前記ターフェルプロットEtとの差(=E0−Et)をいう。
ΔEの算出方法は、特に限定されない。ΔEの算出方法としては、例えば、
(a)メモリに記憶された生のデータをそのまま用いて、ある電流密度でのE0とEtとの差を求める方法、
(b)低電流密度領域内又はコア領域内のE0及びEtをそれぞれ直線で近似し、ある電流密度でのE0の近似直線とEtの近似直線との差を求める方法
などがある。
ΔEを算出する際の基準となる電流密度(以下、「基準電流密度」という)は、低電流密度領域内の値である限りにおいて、特に限定されない。但し、燃料電池の性能劣化が進行すると、ターフェルプロットEtが低電位側にシフトする。この時、EtとE0とは必ずしも平行ではないため、基準電流密度が異なると、ΔEの値が大きく異なる場合がある。そのため、基準電流密度は、目的に応じて最適な値を選択するのが好ましい。
ΔEとしては、例えば、
(A)前記低電流密度領域における前記ターフェルプロットE0と前記ターフェルプロットEtとの差の最大値(=(E0−Etmax)、
(B)前記基準セルの、触媒被毒の無い状態での開回路電圧E0'と、t時間経過後の開回路電圧Et'との差(=E0'−Et'
などがある。
[1.4.3. 傾きの絶対値|At|]
「傾きの絶対値|At|」とは、前記低電流密度領域内において前記Etを直線近似したときの直線の傾きの絶対値をいう。
|At|の算出方法は、特に限定されない。|At|の算出方法としては、例えば、
(a)低電流密度領域内の各データを最小自乗法で直線近似する方法、
(b)コア領域の下限の電流・電圧(JL1、VL1)及びコア領域の上限の電流・電圧(JU1、VU1)の2点を通る直線の傾きを求める方法
(c)低電流密度領域の下限の電流・電圧(JL2、VL2)及び低電流密度領域の上限の電流・電圧(JU2、VU2)の2点を通る直線の傾きを求める方法
などがある。
[1.5. 手順E: 被毒の判定]
次に、S6において、少なくとも1つの前記基準セルが以下の2条件:(a)及び(b)を同時に満たすか否かが判断される。
(a)前記シフト幅ΔEが、ある臨界値ΔEc以上である。
(b)前記傾きの絶対値|At|が、ある臨界値Ac以上である。
上記の2条件:(a)及び(b)を同時に満たす基準セルがない場合(S6:NO)には、S3に戻り、上述したS3〜S6の各ステップを繰り返す。
一方、少なくとも1つの前記基準セルが上記の2条件:(a)及び(b)を同時に満たす場合(S6:YES)には、S7に進む。S7では、前記空気極触媒が被毒されたと判断し、触媒被毒の発生を前記メモリーに記憶させる(手順E)。
[1.5.1. ΔEc及びAc
ΔEcは、燃料電池スタックの性能低下が発生したと判断する際のΔEの臨界値を表す。一方、Acは、性能低下が触媒被毒によるものか、あるいは、触媒被毒以外の原因(例えば、クロスリーク)によるものかを判断する際の|At|の臨界値を表す。
上記条件(a)及び(b)を同時に満たすことは、触媒被毒により性能低下が生じた可能性が高いことを表す。一方、条件(a)を満たすが条件(b)を満たさないことは、触媒被毒以外の原因により性能低下が生じた可能性が高いことを表す。
臨界値ΔEcは、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、触媒被毒が進行するほど、シフト幅ΔEが大きくなる。そのため、多少の被毒が許される場合には、ΔEcを相対的に大きく設定するのが好ましい。一方、僅かな被毒でも許容されない場合には、ΔEcを相対的に小さく設定するのが好ましい。
但し、ΔEcが過度に小さくなると、必要以上に触媒被毒を解消するための措置が講じられることになり、実益がない。従って、ΔEcは、2mV以上が好ましい。ΔEcは、好ましくは、5mV以上、さらに好ましくは、10mV以上である。
一方、ΔEcが過度に大きくなると、効率の悪い状態で燃料電池スタックを運転し続けることになる。従って、ΔEcは、30mV以下が好ましい。ΔEcは、好ましくは、25mV以下、さらに好ましくは、20mV以下である。
同様に、臨界値Acは、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、クロスリークが大きくなるほど、傾きの絶対値|At|が小さくなる。そのため、多少のクロスリークが許容される場合には、Acを相対的に小さく設定するのが好ましい。一方、僅かなクロスリークでも許容されない場合には、Acを相対的に大きく設定するのが好ましい。
但し、Acが過度に小さくなると、電解質膜の深刻な劣化を見落とすことになる。従って、Acは、30mV/decade以上が好ましい。Acは、さらに好ましくは、40mV/decadeである。
一方、Acが過度に大きくなると、触媒被毒が性能低下の主要因であるにもかかわらず、そうでないと判定されることになる。従って、Acは、55mV/decade以下が好ましい。Acは、さらに好ましくは、50mV/decadeである。
[1.5.2. 判定後の処理]
空気極触媒の被毒が確認された時は、被毒を解消するための種々の手順が実行される。このような手順としては、例えば、
(A)警告画面の表示、警告音の発生、警告ランプの点灯などによる操作者に対する被毒発生の告知、
(B)後述する燃料電池エージング用プログラムの起動、
などがある。
なお、S6において、条件(a)を満たすが条件(b)満たさないと判断された場合、触媒被毒以外の原因により性能低下が生じた可能性が高い。本発明に係る判定用プログラムは、このような場合に性能低下を操作者に告知する手順をさらに備えていても良い。
[1.6. ターフェルプロットの具体例]
図2に、ポテンシャルが最大限発揮できる単セルのターフェルプロットE0、触媒が不純物に被毒された単セルのターフェルプロットEt(被毒)、及び被毒は起こっていないが、電解質膜のリークが生じた単セルのターフェルプロットEt(リーク)を示す。
触媒被毒が生じた単セルのターフェルプロットEt(被毒)は、初期のターフェルプロットE0を低電圧側に平行移動させたようなプロファイルを示す。これは、どの電圧で見ても、被毒物質の被覆率の分だけ、一定割合で電流が低下しているためである。
これに対し、電解質膜のリークが生じた単セルのターフェルプロットEt(リーク)は、E0を低電位側にシフトさせたというよりは、E0の勾配を小さくしたようなプロファイルを示す。これは、クロスリークが生じた場合、Et(リーク)は、E0のプロットに一定値のクロスリーク電流を上乗せした形のプロファイルとなるため、低電圧域より高電圧域の方が電流低下の割合が大きくなると理解すれば良い。
以上から、ターフェルプロットE0、Etを測定し、ΔE及び|At|を算出することで、燃料電池の性能低下の要因が、触媒被毒などの触媒活性の低下によるものか、あるいはクロスリークなどの他の要因によるものかを判断することが可能となる。
なお、図2に示す「Et(被毒)」のような性能低下は、触媒被毒の場合だけでなく、触媒劣化(シンタリングなど)によっても起こる。後述するエージング方法は、触媒被毒の解消には効果があるが、劣化した触媒を劣化前の状態に戻す効果はない。しかし、触媒に悪影響を及ぼすこともないので、たとえ触媒劣化が原因で性能が低下していたとしても、後述するエージング方法は、そのまま実施してかまわない。
[2. 燃料電池エージング用プログラム]
図3に、本発明に係る燃料電池エージング用プログラム(以下、単に「エージング用プログラム」ともいう)のフローチャートを示す。本発明に係るエージング用プログラムは、以下の手順a〜手順eを備えている。
[2.1. 手順a: 基準セルの設定]
S11において、燃料電池スタックに含まれる1又は2以上の単セルであって、初回のエージングを行う前の単セル、又は、初回のエージングを行った後、前記燃料電池スタックをt時間使用した後の単セルを基準セルに設定し、メモリに記憶させる(手順a)。
本発明に係るエージング用プログラムにおいて、「基準セル」とは、
(a)初回のエージングを行う前の単セル、又は、
(b)初回のエージングを行った後、燃料電池スタックをt時間使用した後の単セル
をいう。
すなわち、本発明に係るエージング用プログラムは、製造直後の燃料電池スタックの慣らし運転(狭義のエージング)、及び性能劣化が生じた燃料電池スタックの性能回復(リフレッシュ)のいずれに対しても適用することができる。また、上述した判定用プログラムを実行した後、さらにエージング用プログラムを実行する場合、エージング用プログラムの基準セルは、判定用プログラムのそれと同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。基準セルに関するその他の点については、判定用プログラムと同様であるので、説明を省略する。
[2.2. 手順b: IVΔEの測定又は推定]
次に、S12において、前記基準セルについて、酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度nとIV特性との関係を示すIV曲線IVΔEを求め、前記IV曲線IVΔEを前記メモリに記憶させる(手順b)。
[2.2.1. IVΔE
「IV曲線IVΔE」とは、酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度nとIV特性との関係を示す一群のデータであって、現時点における基準セルの特性を表すデータをいう。また、ここでいう「酸素濃度n」とは、セルの入口側の濃度ではなく、酸化剤ガスの局所的な濃度をいう。IVΔEは、面積の大きな基準セルの平均的な特性を表すデータではなく、酸化剤ガスの濃度が一定値とみなせる領域における局所的な特性を表すデータを意味する。
IV曲線IVΔEは、後述するように、高いエージング効果が得られる酸素濃度の下限値nLを算出するために用いられる。そのため、IV曲線IVΔEのデータ構造は、下限値nLを算出することが可能な限りにおいて、特に限定されない。
基準セルのIV特性は、酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度nにより大きく異なる。そのため、例えば、複数の酸素濃度n1、n2…について、それぞれ、ターフェルプロットE1、E2…を求め、これらのデータそのもの又はその近似曲線をメモリに記憶させても良い。この場合、nk<n<nk+1となる酸素濃度nに対するターフェルプロットについては、例えば、EkとEk+1のデータを内挿することにより算出することができる。
あるいは、酸素濃度nkとこれに対応する電流密度Jk及び電圧Ekの関係を一覧表にまとめ、この一覧表をメモリに記憶させてもよい。
[2.2.2. 測定又は推定の方法]
IV曲線IVΔEは、実際に測定しても良く、あるいは、計算により推定しても良い。
すなわち、手順bは、
(a)前記初回のエージング前又は前記燃料電池スタックをt時間使用した後において、前記基準セルについて、前記IV曲線IVΔEを測定する手順b1、又は、
(b)前記基準セルと同一仕様であり、前記基準セルよりもサイズが小さく、かつ、触媒被毒のないスモール単セルについて、予め測定された前記酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度nとIV特性との関係を示す初期IV曲線IV0を前記メモリに記憶させておき、前記初期IV曲線IV0をシフト幅ΔEだけ低電位側にシフトさせることにより、前記初回のエージング前又はt時間使用後の前記IV曲線IVΔEを推定する手順b2
のいずれであっても良い。
燃料電池システムがIVΔEの実測に必要な手段及び環境を備えている場合(例えば、酸化剤ガスの下流側における酸素濃度の低下を無視することができる場合)、手順b1を用いてIVΔEを実測しても良い。しかし、通常、そのような手段及び/又は環境を備えていない場合が多いので、手順b2を用いてIVΔEを推定するのが好ましい。IVΔEの推定方法の詳細については、後述する。
「スモール単セル」とは、基準セルと同一仕様であり、基準セルよりもサイズが小さいセルをいう。スモール単セルの大きさは、面内での酸素濃度の低下の懸念がない大きさであれば良い。IV0の測定には、触媒被毒のないセルが用いられる。
「シフト幅ΔE」とは、低電流密度領域内の、ある電流密度での初期のターフェルプロットE0と、前記初回のエージング前又はt時間使用後のターフェルプロットEtとの差(=E0−Et)をいう。すなわち、エージング用プログラムにおいて、Etには、初回のエージング前のターフェルプロットが含まれる。
初回のエージングが終了した直後のE0が既知である場合、上述した判定用プログラムと同様にして、シフト幅ΔEを求めることができる。一方、E0が既知でない場合には、基準セルと同一仕様のフルサイズセル又はスモール単セルについて予めE0を測定しておき、これを用いてシフト幅ΔEを求めることができる。
エージング用プログラムのシフト幅ΔEに関するその他の点については、判定用プログラムと同様であるので、説明を省略する。
「低電流密度領域」とは、酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度ngに対する、ngと触媒表面の酸素濃度nsとの差の絶対値の割合(=|ng−ns|×100/ng)が15%未満である領域をいう。エージング用プログラムにおける低電流密度領域は、判定用プログラムと同様であるので、詳細な説明を省略する。
[2.3. 手順c: Veの設定及びnLの算出]
次に、S13において、ある閾値Vc(高いエージング効果が得られるものとして予め定められている閾値)以下の任意のエージング電圧Veを設定する。さらに、S14において、前記IV曲線IVΔEを用いて、前記エージング電圧Veにおいて電流密度が閾値jc(高いエージング効果が得られるものとして予め定められている閾値)以上となる酸素濃度の下限値nLを求め、前記メモリに記憶させる(手順c)。
エージングに要する時間は、エージング電圧Ve及びエージング時の電流密度jに依存する。一般に、Veがある閾値Vc以下であり、かつ、電流密度jがある閾値jc以上である場合に、高いエージング効果が得られる。
cは、基準セルの仕様や目標とするエージング時間などにより異なるので、基準セルと同一仕様のフルサイズセル又はスモール単セルを用いて、予め求めておく。後述の例では、Vcとして、0.6Vが設定されている。
同様に、jcは、基準セルの仕様や目標とするエージング時間などにより異なるので、基準セルと同一仕様のフルサイズセル又はスモール単セルを用いて、予め求めておく。
上述したように、IVΔEは、酸素濃度n−エージング電圧Ve−電流密度jの関係を表す一群のデータである。そのため、Ve及びjcが決まると、IVΔEを用いて、これらに対応する酸素濃度の下限値nLを一義的に求めることができる。
[2.4. 手順d: N、v、Iの設定]
次に、S15において、前記下限値nLを用いて、前記基準セルの最下流での電流密度jが前記閾値jc以上となる時の、供給ガス酸素濃度N、供給ガス流量v、及び総電流Iからなる少なくとも1つの組み合わせを求め、前記組み合わせを前記メモリに記憶させる(手順d)。
手順dでは、燃料電池スタック(フルサイズスタック)を用いて、設定されたエージング電圧Veにおいて、高いエージング効果が得られる(すなわち、基準セルの最下流での電流密度jがjc以上となる)供給ガス酸素濃度N、供給ガス流量v、及び総電流Iの組み合わせを求める。このようなN、v、及びIの組み合わせは、通常、複数個存在する。手順dでは、このような組み合わせを少なくとも1つ求めても良く、あるいは、すべての組み合わせを求めても良い。組み合わせを求める具体的方法については、後述する。
手順dにおいて1つの組み合わせのみを求める場合であっても、複数個の基準セルを設定した時は、各基準セル毎に、N、v、及びIの組み合わせが異なる場合がある。すなわち、手順dを実行することにより、複数個の解が導かれる場合がある。このような場合、得られた解の中から、操作者がエージングに用いる組み合わせを選択しても良い。あるいは、組み合わせの序列に関する基準を予め設定しておき、最上位にある組み合わせを自動的に選択しても良い。
[2.5. 手順e: エージングの実行]
次に、S16において、前記エージング電圧Ve、並びに、前記供給ガス酸素濃度N、前記供給ガス流量v、及び前記総電流Iからなる前記組み合わせの1つを用いて前記燃料電池スタックのエージングを実行する(手順e)。
このようにして求められたエージング条件は、フルサイズセルの面内での酸素濃度の低下が考慮されているため、エージング効果の面内ムラが少ない。そのため、従来の方法に比べて、短時間でエージングを完了させることができる。
[2.6. 手順f: 判定用プログラムの併用]
本発明に係る燃料電池エージング用プログラムは、
本発明に係る触媒被毒判定用プログラムと、
前記触媒被毒判定用プログラムにより前記基準セルの触媒被毒が検出された時に、前記手順a〜前記手順e又は前記手順b〜前記手順eを実行する手順fと
をさらに備えていても良い。
エージング用プログラムの基準セルは、判定用プログラムに用いた基準セルと同一であっても良く、あるいは、異なっていても良い。同一の基準セルを用いる時には、手順b以降を実行する。一方、エージング用プログラムを実行するための基準セルを新たに設定する時には、手順aから実行する。
エージングを過度に行ったとしても、燃料電池スタックを劣化させることはない。そのため、総発電時間や総発電量などを監視し、これらが所定の値に達したときに、エージング用プログラムを実行しても良い。しかし、必要以上のエージングは、システムの停止時間が増大し、あるいは、燃料消費量が増大する。
これに対し、判定用プログラムを用いて触媒被毒の有無を判定し、次いで、エージング用プログラムを用いてエージングを実行すると、エージングの回数を必要最小限に抑制することができる。
[2.7. 手順dの具体例: N、v、Iの設定方法]
エージングに適したN、v、Iの組み合わせは、種々の方法により設定することができる。図4に、供給ガス酸素濃度N、供給ガス流量v、及び総電流Iの組み合わせを探査するためのプログラムのフローチャートの一例を示す。
[2.7.1. 手順d1: 初期値の設定]
S14において酸素濃度の下限値nLを算出した後、S31に進む。S31では、供給ガス流量の初期値v0を設備許容値の100%以下の任意の値に設定し、かつ、供給ガス酸素濃度の初期値N0を前記下限値nL以上許容値の100%以下の任意の値に設定し、これらを前記メモリに記憶させる(手順d1)。また、繰り返し数k、m、pに、それぞれ、初期値として1を代入する。
一般に、供給ガス流量が多くなるほど、酸素濃度の面内ムラは少なくなる。しかし、実際の燃料電池システムにおいては、供給ガス流量を無制限に増大できるわけではなく、設備上、許容される上限値がある。一方、供給ガス酸素濃度が高すぎ、かつ、システムの許容電流が小さい場合において、供給ガス流量が多すぎる時には、セル電圧をVe以下にできない場合がある。そのため、供給ガス流量の初期値v0は、これらの点を考慮して、設備許容値の100%以下の任意の値に設定するのが好ましい。
同様に、供給ガス酸素濃度は、無制限に増大できるわけではなく、酸化剤ガスの種類に応じて許容される上限値がある。例えば、酸化剤ガスとして大気を用いる場合、供給ガス酸素濃度の許容値は21%である。一方、酸素濃度の面内ムラが相対的に小さい場合、供給ガス酸素濃度として、下限値nLより僅かに高い値を選択することができる。そのため、供給ガス酸素濃度の初期値N0は、これらの点を考慮して、nL以上許容値の100%以下の任意の値に設定するのが好ましい。さらに、同一仕様の燃料電池スタックの場合、エージング条件の最適値が同一である可能性が高い。このような場合には、v0及びN0として、推定される最適値近傍の値に設定しても良い。
[2.7.2. 手順d2: 供給ガス流量及び/又は供給ガス酸素濃度の設定]
次に、S32において、
第m供給ガス流量vm(m≧1)を、前記設備許容値の100%以下の範囲内において、vm=vm-1+βm(βmは、任意)に設定し、
第k供給ガス酸素濃度Nk(k≧1)を、前記下限値nL以上前記許容値の100%以下の範囲内において、Nk=Nk-1+αk(αkは、任意)に設定し、
これらを前記メモリに記憶させる(手順d2)。
手順d2以降の手順においては、第m供給ガス流量vm及び/又は第k供給ガス酸素濃度Nkを順次変更し、各条件下において、それぞれ、総電流I(k,m)を測定する操作を繰り返す。この場合、同一条件下での総電流I(k.m)の測定を複数回繰り返すのは実益がないため、同一条件を繰り返すことなく、すべての組み合わせを探査できるように、vm及びNkを設定するのが好ましい。
すなわち、vmの増分βmは、vr≠vs(r≠s)となる限りにおいて、任意に設定することができる。βmは、正の値(流量の増加)でも良く、あるいは負の値(流量の減少)でも良い。また、各βmは、同一であっても良く、あるいは異なっていても良い。
同様に、Nkの増分αkは、Nr≠Ns(r≠s)となる限りにおいて、任意に設定することができる。αkは、正の値(酸素濃度の増加)でも良く、あるいは負の値(酸素濃度の減少)でも良い。また、各αkは、同一であっても良く、あるいは異なっていても良い。
[2.7.3. 手順d3、d4: I(k,m)の測定及びn(k,m)の算出]
次に、S33において、前記第m供給ガス量vm及び前記第k供給ガス酸素濃度Nkを一定に保った状態で、総電流Iを0[A]から増加させていき、セル電圧が前記エージング電圧Ve以下となるときの電流値を測定し、これを第(k、m)総電流I(k,m)として前記メモリに記憶させる(手順d3)。なお、総電流Iが設備上許容される上限値に達してもセル電圧がVe以下にならなかった時は、そのNk及びvmではエージング効果の高いセル電圧となるIは存在しないとして、次のステップに進む。
次に、S34に進み、前記第(k、m)総電流I(k,m)において、ストイキ比から最下流での第(k、m)酸素濃度n(k,m)を算出する(手順d4)。第(k、m)酸素濃度n(k,m)の算出方法の詳細については、後述する。
[2.7.4. 手順d5、d6: j(k,m)の算出及びその繰り返し]
次に、S35において、前記IV曲線IVΔEから、最下流での前記第(k、m)酸素濃度n(k,m)及び前記エージング電圧Veに対応する第(k、m)電流密度j(k,m)を求める。次いで、S36において、前記第(k、m)電流密度j(k,m)が前記閾値jc以上であるか否かを判断する(手順d5)。
前記第(k、m)電流密度j(k,m)が前記閾値jc未満である時(S36:NO)は、S37に進む。S37では、探査が終了したか否かが判断される。探査は、少なくとも1つの組み合わせ(N、v、I)が発見されるまで行っても良く、あるいは、すべての組み合わせ(N、v、I)が発見されるまで行っても良い。
探査が終了していない場合(S37:NO)には、S38に進み、繰り返し数k及び/又はmに1を加算する。この場合、vmを固定した状態で、Nkを変更しても良く、あるいは、その逆でも良い。また、vm及びNkを同時に変更しても良い。その後、S32に戻り、前記閾値jc以上となる少なくとも1つの前記第(k、m)電流密度j(k,m)が発見されるまで、S32〜S37の各ステップを繰り返す(手順d6)。
[2.7.5. 手順d7: (N、v、I)pの設定及びその繰り返し]
一方、前記閾値jc以上となる前記第(k、m)電流密度j(k,m)が発見された時(S36:YES)は、S39に進む。S39では、そのときの第k供給ガス酸素濃度Nk、第m供給ガス流量vm、及び第(k、m)総電流I(k,m)をそれぞれ、前記供給ガス酸素濃度N、前記供給ガス流量v、及び前記総電流Iに設定し、これらをp番目の組み合わせ(N、v、I)pとして、前記メモリに記憶させる(手順d7)。
次に、S40に進み、探査が終了したか否かが判断される。複数個の組み合わせ(N、v、I)が発見されるまで探査を行うよう設定されている場合、現時点では1組目の(N、v、I)が発見されただけである(S40:NO)。この場合は、S41に進み、繰り返し数pに1を加算する。さらに、S38に進み、m及び/又はkに1を加算し、vm及び/又はNkを変えて次の探査を行う。そして、予め設定された個数の組み合わせ(N、v、I)が発見されるまで、S32〜S41の各ステップを繰り返す。
m及びNkに関して全幅探査を行った場合において、最後のvm及びNkの組み合わせに対応するj(k,m)がjc以上である時(S36:YES)には、S39に進み、最後の組み合わせ(N、v、I)pをメモリに記憶させる。さらに、S40に進み、探査が終了したか否かが判断される。この場合、探査が終了している(S40:YES)ので、S42に進み、発見された複数の組み合わせの中から一つを選択する。さらに、S16に進み、エージングを実行する。
一方、最後のvm及びNkの組み合わせに対応するj(k,m)がjc以上でない時(S36:NO)には、S37に進む。S37では、探査が終了したか否かが判断される。この場合、探査が終了している(S37:YES)ので、S43に進む。
S43では、p>1であるか否か(すなわち、少なくとも1つの組み合わせ(N、v、I)が発見されたか否か)が判断される。p>1である場合(S43:YES)には、S42に進む。
一方、p>1でない場合(S43:NO)には、j(k,m)がjc以上となる組み合わせ(N、v、I)が1つも発見されなかったことを意味するので、S44に進み、その旨を操作者に告知する。
なお、(N、v、I)の組み合わせが1つも発見されなかった原因が、設定されたエージング電圧Veが不適切であったことによる可能性も考えられる。このような場合は、エラー表示(S44)に代えて、S13に戻ってエージング電圧Veを再設定し、上述した各手順を再度繰り返しても良い。
[3. 燃料電池システム]
本発明に係る燃料電池システムは、
(a)本発明に係る触媒被毒判定用プログラム、又は、
(b)本発明に係る燃料電池エージング用プログラム
が記憶されたコンピュータを備えている。
燃料電池システムは、通常、燃料電池スタックの電流、電圧、ガス流量等をコンピュータにより制御している。このコンピュータに内蔵されているメモリに本発明に係る判定用プログラム及び/又はエージング用プログラムを記憶させておくと、マニュアル操作により、あるいは、所定の条件を満たしたときに自動的に、プログラムを実行させることができる。
なお、エージング用プログラムを実行する場合において、供給ガス酸素濃度Nを一定に保った状態で供給ガス流量vを変えることで、エージングに適した組み合わせ(N、v、I)を発見できる場合もある。しかし、供給ガス酸素濃度Nを一定に保った状態では、最適な組み合わせ(N、v、I)を発見できない場合がある。そのため、燃料電池システムは、供給ガス酸素濃度Nを可変にする手段を備えているのが好ましい。
例えば、酸化剤ガスとして大気を用いる場合、燃料電池システムは、大気を窒素で希釈する手段を備えているのが好ましい。あるいは、酸化剤ガスとして純酸素を用いる場合、純酸素を大気又は窒素で希釈する手段を備えているのが好ましい。
[4. 作用]
初回のエージングを行った後、燃料電池スタックをt時間使用すると、種々の原因により燃料電池スタックの性能が低下する。触媒被毒により性能が低下した場合、通常、ターフェルプロットEtが低電位側にほぼ平行にシフトする。一方、クロスリークにより性能が低下した場合、ターフェルプロットEtが低電位側にシフトするというよりむしろ、低電流密度領域でのターフェルプロットEtの傾きの絶対値|At|が小さくなる。
そのため、t時間経過後にターフェルプロットEtのシフト幅ΔE及び傾きの絶対値|At|を算出し、これらが共に臨界値(ΔEc、Ac)以上であるか否かを判別すれば、触媒被毒の有無を容易に知ることができる。
また、面積の大きな単セルでは、酸化剤ガスの下流側において酸素濃度が低下する。そのため、下流域においては、局所的な電流密度jが閾値jc未満となり、十分なエージング効果が得られないことが多い。
これに対し、IV曲線IVΔEを用いると、最下流での電流密度jが前記閾値jc以上となる時の、エージング電圧Ve、供給ガス酸素濃度N、供給ガス流量v、及び総電流Iの組み合わせを求めることができる。このようなVe、N、v及びIを用いてエージングを行うと、大面積の単セルを備えた燃料電池スタックであっても、短時間でエージングを完了させることができる。
[1. 経緯]
従来技術では、効果的なエージング方法として、
(1)電圧を低下させること、又は、
(2)発電を行うこと、
の2つが主に用いられている。ただし、これらによりエージング効果が向上するメカニズムについては、統一的な解釈がなされていない。
本願発明者らは、別途行ったエージングのメカニズムに関する検討から、セル内の不純物の除去が重要な要因の一つであることを発見し、上記(1)及び(2)が働くメカニズムについて以下の仮説を立てた。
(a)(1)により、空気極の電位が低下し、触媒(Pt)上の水素吸着や荷電状態の変化によりPt表面と被毒物質との相互作用が弱まり、被毒物質が脱離する。
(b)(2)により、生成水によって被毒物質がセルの外へ排出される。
(1)の手段の一例としては、燃料極に水素、空気極に窒素を流すことで、燃料極からの水素のクロスオーバーにより、空気極の電位を低下させるといった、非発電方式での方法が考えられる。しかし、電圧降下手段として非発電方式のみを用いた場合、あるいはこれに発電のステップを加えた場合において、発電ステップ中の空気極電位が高い時には、非発電での低電位状態と発電状態との間にはタイムラグが生じる。そのため、低電位で一旦脱離した被毒物質の一部が、発電開始までに触媒表面に再吸着してしまう可能性がある。そこで、本発明に係るエージング方法(及び、触媒被毒後の性能回復方法)には、脱離した被毒物質を直ちにセル外は排出することを狙い、低電位の状態で同時に発電を行うステップ(以下、「低電位発電」という)を含めた。
[2. 実験1: 低電位発電の有用性]
以下では、最大性能が既知であるMEAを用いてエージングを実施し、その効果が高い条件を探索した。
[2.1. 実験方法]
[2.1.1. 実施例1]
Ptを触媒とした固体高分子形燃料電池であって、サイズの小さいもの(スモール単セル)において、アノードに水素、カソードに酸素と窒素との混合ガス(酸素濃度:5%)を流した。セル電圧を0.1Vに保持した状態で、所定の時間(2.5〜40分)発電を行うことで、エージングを行った。セル温度は65℃、アノード加湿温度は46℃、カソード加湿温度は85℃、背圧は両極とも0.14MPa(abs.)とした。エージング後、カソードへの供給ガスを空気に切り替え、1A/cm2の定電流保持を10分間行い、その際のセル電圧の平均値を性能値とした。
[2.1.2. 比較例1]
実施例1と同じ構成、温度、湿度条件において、アノードに水素、カソードに空気を流し、1A/cm2の定電流保持を10分間行う工程と、カソードの供給ガスを窒素に切り替えた後、セル電圧を0.1V以下まで降下させる工程とを所定の回数繰り返すことでエージングを行った。エージング後、カソードへの供給ガスを空気とし、1A/cm2の定電流保持を10分間行い、その際のセル電圧の平均値を性能値とした。なお、この方法は、特許文献2及び4のエージング方法を部分的に模擬している。
[2.1.3. 比較例2]
実施例1と同じ構成、温度、湿度条件において、アノードに水素、カソードに酸素を流し、4A/cm2の定電流保持を10分間行う工程と、カソードの供給ガスを窒素に切り替えた後、セル電圧を0.1V以下まで降下させる工程とを所定の回数繰り返すことでエージングを行った。なお、この場合の発電中のセル電圧は0.6V以上であった。エージング後、カソードへの供給ガスを空気に切り替え、1A/cm2の定電流保持を10分間行い、その際のセル電圧の平均値を性能値とした。
[2.2. 結果]
図5に、総発電時間に対するスモール単セルの性能値の変化を示す。なお、図5中の破線は、種々の条件でエージングを行った際に最終的に到達した性能であり、今回検討に用いたセルの最大性能と考えられる。
比較例1の場合、総発電時間70分でも最大性能に達していない。一方、実施例1の場合は20分で最大性能に達しており、エージングが完了している。従って、実施例1の方法により、エージングにかかる時間を従来法の1/4以下に短縮できたといえる。この結果は、低電位発電状態では狙い通り、触媒から脱離した被毒物質が直ちにMEAの外へ排出され、被毒物質の除去が効率的に進んだことを示唆している。
また、実施例1(低電位発電)によるエージングの方が、比較例2(純酸素発電)によるそれより性能を速く向上させている。従って、エージング効果を高めるためには、単に発電時の電流を大きくして被毒物質を排出する力を強くするより、発電状態と低電位状態とのタイムラグを無くすことで、触媒から脱離した被毒物質を直ちに排出させる方が重要であると考えられる。
[3. 実験2: 電流・電圧条件の詳細な検討]
前節の検討で、被毒除去の効果を向上させる上で低電位発電が有効であることがわかった。本節では、被毒除去に最適な電流・電圧条件をより詳細に検討する。なお、これらの条件を調べる手段として、今回は、一定電圧での発電を5分間行った後に性能を評価するという手法をとったが、条件を見出すことが可能であれば別の方法でも良い。
[3.1. 実験方法]
スモール単セルのアノードに水素、カソードに酸素と窒素の混合ガスを流し、種々の酸素濃度、電圧で発電エージングを5分間行い、5分後の性能に対するエージング中の電圧及び電流の影響を調べた。電圧の影響を調べる際には、電流密度が約1A/cm2になるように供給ガス酸素濃度を調整した。電流の影響を調べる際には、セル電圧を0.1Vに固定し、酸素濃度を変えることで、エージング中の平均電流を変えた。加湿条件は、アノード45℃、カソード85℃とした。なお、エージング後の性能評価は、実験1と同じく、アノード供給ガスを水素(加湿:46℃)、カソード供給ガスを空気(加湿:85℃)、セル温度65℃とし、1A/cm2で10分間発電することで行った。
[3.2. 結果]
図6に、スモール単セルの性能向上に及ぼすセル電圧の影響を示す。図6より、電圧が0.6V以下でエージング効果が高いことがわかる。
図7に、スモール単セルの性能向上に及ぼす平均電流の影響を示す。図7より、電流がある閾値以下ではエージング効果が弱まることがわかる。
[4. フルサイズセルの面内すべての領域で被毒除去効果を高めるための条件設定]
以上から、今回用いたMEAの場合、被毒除去効果を高めるためには、電圧が0.6V以下であるとともに、電流がある閾値以上であることが必要といえる。この条件がフルサイズセルの面内すべての領域で満たされているかどうかは、以下の手順で確認する。
[4.1. 手順の概要]
まず、セル電圧をモニタしながら、電圧が0.6V以下になるよう総電流を調整する。この時点では、電圧に関しては被毒除去効果が高まる条件が満たされたことになる。しかし、電流については総量しかモニタできず、酸素濃度が低下する空気極供給ガスの最下流で閾値以上になっているかどうかは直接は確認できない。そこで、供給酸素のストイキ比から最下流での酸素濃度を見積もり、その値から電流密度を推定することにする。
酸素濃度から電流密度を推定するには、事前にそれらの関係を調べておく必要がある。これには、面内での酸素濃度の低下の懸念がないよう、電極面積の小さなスモール単セルに、十分なストイキ比にて種々の濃度の希釈酸素を供給し、IV曲線のデータセットを得ておけば良い。このようにすれば、どの電圧における酸素濃度と電流密度との関係も、事前にわかっていることになる。
以上が本発明に係る方法の概要であるが、以下では具体例を示しつつ説明を行う。なお、今回用いたMEAでは被毒除去効果が高まる条件は、電圧が0.6V以下、電流がある閾値以上であった。しかし、他のMEAの場合、条件は異なるかもしれない。その場合でも下記と同様の手順で、対象とするMEAにおいて被毒除去効果が高まる条件に値を置き換えた上で、性能回復操作を行えば良い。
[4.2. IVΔEの取得]
ポテンシャルが最大限発揮できる状態のMEAであって、サイズの小さいもの(スモール単セル)について、十分なストイキ比となるガス流量にて、種々の酸素濃度でIV特性を測る。なお、温度・加湿条件・ガス圧力は、実際の燃料電池スタック(フルサイズスタック)にてエージング又は性能回復操作を行う際と同じにする。
図8に、触媒被毒がないスモール単セルの酸素濃度2〜21%(ストイキ比10以上)におけるIV特性を示す。酸素濃度が高いほど、IV曲線が高電流側に伸び、同じ電圧でも、得られる電流が増加していることがわかる。図8のIV曲線は、被毒のない状態のものであり、エージングあるいは性能回復操作を行う対象のセル、すなわち実際に被毒が起こっている状態のIV曲線ではない。しかし、後者の推定IV曲線は、図8の各プロットを、シフト幅ΔEだけ低電位側にシフトすることによって得られる。図9に、このようにして得られた推定IV曲線IVΔEを示す。
[4.3. 酸素濃度と電流密度との関係]
種々の酸素濃度のIVΔEにおいて、上記で明らかになった被毒除去効果が高い電圧範囲内の任意の電圧における電流値を読み取り、電流と酸素濃度との関係をプロットする。ここでは、その電圧として、エージング効果が高い電圧範囲の上限である0.6Vより十分に低い0.5Vを選んだ。図10に、セル電圧が0.5Vである時の酸素濃度と電流密度との関係を示す。図10より、今回検討したケースでは、電流密度が閾値jc以上となるためには、酸素濃度を8%以上とする必要があることがわかる。
[4.4. 総電流の確認]
フルサイズスタックにおいて、任意の単セル(中心付近が好ましい)の電圧をモニターしながら、設備仕様から許容される酸素濃度及びガス流量で総電流を増加させていき、電圧が、上記の被毒除去効果が高い電圧範囲となる総電流を確認する。
ここでは、酸素濃度と電流との関係をプロットする際に用いた電圧(0.5V)における総電流を確認する。例えば、面積300cm2の30枚のセルにおいてエージング又は性能回復操作を実施するとする。供給ガスを空気(酸素濃度21%、0.0094mol/L)、流量を360L/minとする。この場合、ガスが均一に分配されるとすると、1枚当たりの流量は、12L/min(0.2L/s)となる。この時、セル電圧が0.5Vになる総電流が700Aであったとする。
[4.5. 最下流での酸素濃度の算出]
総電流を確認した後、その総電流において、ストイキ比から最下流での酸素濃度CO2_outを見積もる。この関係式は、以下のように導かれる。
発電により酸素は消費されるので、ガスの下流に行くほど、酸素濃度は低下する。その際、マスバランスから式(1)が成り立つ。ここで、式(1)の各項は、式(2)〜(4)のように表すことができる。
Figure 0006923708
従って、出口(最下流)での酸素濃度CO2_outは、式(5)のように表すことができる。ここで、供給ガス流量Jgas_inと流出ガス流量Jgas_outが等しいと仮定すると、式(5)から、式(6)が導かれる。
Figure 0006923708
以上から、供給ガス流量、供給ガス酸素濃度、総電流より、最下流での酸素濃度CO2_outが見積もられる。[4.4.]で述べた例では、最下流での酸素濃度CO2_outは0.7%(0.0003mol/L)と見積もられる。
[4.6. 電流密度の判定]
最下流での酸素濃度CO2_outが見積もられたときは、その酸素濃度において、電流密度が、被毒除去効果が高まる閾値jc以上となるかどうかを図10より判定する。電流密度が閾値jc以上となる場合は、その総電流I、供給ガス酸素濃度N(CO2_in)、及び供給ガス流量vをエージングあるいは性能回復操作の条件とする。図10より、上記の例では、最下流の酸素濃度CO2_outが0.7%であることから、電流密度が閾値jcよりかなり小さくなり、被毒除去効果が弱い条件になっていることがわかる。
[4.7. 最適条件の探査]
一方、電流密度が閾値jc以上とならない場合は、供給ガス酸素濃度を変えるか、あるいは、供給ガス流量を上げるなどして、[4.4.]に戻る。例えば、上記条件からガス流量を1800mL/min(1枚当たりの流量は、60L/min(1L/s))に増加させ、供給ガス酸素濃度を10%(0.0045mol/L)に低下させたとする。この時、セル電圧が0.5Vになる総電流が330Aであったとする。
この場合、酸素濃度が低いため、図9から分かる通り、より低い電流密度でセル電圧は0.5Vとなる。また、最下流での酸素濃度CO2_outは、式(6)より、8.1%(0.0036mol/L)であり、被毒除去効果が高い閾値jc以上の電流密度が最下流でも保たれることが分かる。従って、設備のスペックとして、流量1800m/L、酸素濃度10%の酸化剤ガスが供給可能であれば、この条件でエージングあるいは性能回復操作を実施すれば良い。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
本発明に係る触媒被毒判定用プログラムは、固体高分子形燃料電池の性能低下が触媒被毒によるものか否かを判定する際に使用することができる。
本発明に係る燃料電池エージング用プログラムは、製造直後の固体高分子形燃料電池のエージングや、使用中に性能が低下した固体高分子形燃料電池の性能回復(リフレッシュ)に使用することができる。

Claims (8)

  1. コンピュータに以下の手順を実行させるための燃料電池エージング用プログラム。
    (1)燃料電池スタックに含まれる1又は2以上の単セルであって、初回のエージングを行う前の単セル、又は、初回のエージングを行った後、前記燃料電池スタックをt時間使用した後の単セルを基準セルに設定し、メモリに記憶させる手順a。
    (2)前記基準セルについて、酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度nとIV特性との関係を示すIV曲線IVΔEを求め、前記IV曲線IVΔEを前記メモリに記憶させる手順b。
    (3)ある閾値Vc(高いエージング効果が得られるものとして予め定められている閾値)以下の任意のエージング電圧Veを設定し、前記IV曲線IVΔEを用いて、前記エージング電圧Veにおいて電流密度が閾値jc(高いエージング効果が得られるものとして予め定められている閾値)以上となる酸素濃度の下限値nLを求め、前記メモリに記憶させる手順c。
    (4)前記下限値nLを用いて、前記基準セルの最下流での電流密度jが前記閾値jc以上となる時の、供給ガス酸素濃度N、供給ガス流量v、及び総電流Iからなる少なくとも1つの組み合わせを求め、前記組み合わせを前記メモリに記憶させる手順d。
    (5)前記エージング電圧Ve、並びに、前記供給ガス酸素濃度N、前記供給ガス流量v、及び前記総電流Iからなる前記組み合わせの1つを用いて前記燃料電池スタックのエージングを実行する手順e。
  2. 前記手順dは、前記組み合わせのすべてを求め、前記組み合わせを前記メモリに記憶させる手順を含む請求項1に記載の燃料電池エージング用プログラム。
  3. 前記手順bは、
    (a)前記初回のエージング前又は前記燃料電池スタックをt時間使用した後において、前記基準セルについて、前記IV曲線IVΔEを測定する手順b1、又は、
    (b)前記基準セルと同一仕様であり、前記基準セルよりもサイズが小さく、かつ、触媒被毒のないスモール単セルについて、予め測定された前記酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度nとIV特性との関係を示す初期IV曲線IV0を前記メモリに記憶させておき、前記初期IV曲線IV0をシフト幅ΔEだけ低電位側にシフトさせることにより、前記初回のエージング前又はt時間使用後の前記IV曲線IVΔEを推定する手順b2
    を含む請求項1又は2に記載の燃料電池エージング用プログラム。
    但し、「シフト幅ΔE」とは、低電流密度領域内の、ある電流密度での初期のターフェルプロットE0と、前記初回のエージング前又はt時間使用後のターフェルプロットEtとの差(=E0−Et)をいう。
    「低電流密度領域」とは、酸化剤ガス中に含まれる酸素濃度ngに対する、ngと触媒表面の酸素濃度nsとの差の絶対値の割合(=|ng−ns|×100/ng)が15%未満である領域をいう。
  4. 前記低電流密度領域は、限界電流密度の1%以上10%以下に相当するコア領域を含む請求項3に記載の燃料電池エージング用プログラム。
  5. 前記シフト幅ΔEは、
    (A)前記低電流密度領域における前記ターフェルプロットE0と前記ターフェルプロットEtとの差の最大値(=(E0−Etmax)、又は、
    (B)前記基準セルの、触媒被毒の無い状態での開回路電圧E0'と、t時間経過後の開回路電圧Et'との差(=E0'−Et'
    である請求項3又は4に記載の燃料電池エージング用プログラム。
  6. 前記手順dは、以下の手順を含む請求項1から5までのいずれか1項に記載の燃料電池エージング用プログラム。
    (1)供給ガス流量の初期値v0を設備許容値の100%以下の任意の値に設定し、かつ、供給ガス酸素濃度の初期値N0を前記下限値nL以上許容値の100%以下の任意の値に設定し、これらを前記メモリに記憶させる手順d1。
    但し、「許容値」とは、前記酸化剤ガスの種類に応じて許容される前記供給ガス酸素濃度の上限値をいう。
    (2)第m供給ガス流量vm(m≧1)を、前記設備許容値の100%以下の範囲内において、vm=vm-1+βm(βmは、任意)に設定し、
    第k供給ガス酸素濃度Nk(k≧1)を、前記下限値nL以上前記許容値の100%以下の範囲内において、Nk=Nk-1+αk(αkは、任意)に設定し、
    これらを前記メモリに記憶させる手順d2。
    (3)前記第m供給ガス量vm及び前記第k供給ガス酸素濃度Nkを一定に保った状態で、総電流Iを0[A]から増加させていき、セル電圧が前記エージング電圧Ve以下となるときの電流値を測定し、これを第(k、m)総電流I(k,m)として前記メモリに記憶させる手順d3。
    (4)前記第(k、m)総電流I(k,m)において、ストイキ比から最下流での第(k、m)酸素濃度n(k,m)を算出する手順d4。
    (5)前記IV曲線IVΔEから、最下流での前記第(k、m)酸素濃度n(k,m)及び前記エージング電圧Veに対応する第(k、m)電流密度j(k,m)を求め、前記第(k、m)電流密度j(k,m)が前記閾値jc以上であるか否かを判断する手順d5。
    (6)前記第(k、m)電流密度j(k,m)が前記閾値jc未満である時は、前記vm及び/又は前記Nkを変更し、前記閾値jc以上となる少なくとも1つの前記第(k、m)電流密度j(k,m)が発見されるまで、前記手順d2〜手順d5を繰り返す手順d6。
    (7)前記閾値jc以上となる前記第(k、m)電流密度j(k,m)が発見された時は、そのときの第k供給ガス酸素濃度Nk、第m供給ガス流量vm、及び第(k、m)総電流I(k,m)をそれぞれ、前記供給ガス酸素濃度N、前記供給ガス流量v、及び前記総電流Iに設定し、これらをp番目(p≧1)の前記組み合わせとして前記メモリに記憶させる手順d7。
  7. 前記手順dは、前記閾値jc以上となるすべての前記第(k、m)電流密度j(k,m)を探査する手順を含む請求項6に記載の燃料電池エージング用プログラム。
  8. 請求項1〜7までのいずれか1項に記載の燃料電池エージング用プログラムが記憶されたコンピュータを備えた燃料電池システム。
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