以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態により、本発明が限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
〔第1実施形態〕
(付加製造システムの全体構成)
まず、本実施形態の付加製造方法を行うための付加製造システムについて、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態の付加製造システムの全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、付加製造システム1は、複数の層が積層された三次元形状の構造物を製造するためのシステムであり、付加製造機(AM machine)10と、付加製造機10を制御可能な処理装置100と、付加製造機10を制御するためのソフトウェアや、構造物の形状及び製造工程に関する情報を示すデータを格納可能な記憶装置110を有する。付加製造機10は、三次元形状の構造物を造形するものであり、「造形装置」とも呼称される。
本実施形態において、付加製造システム1は、付加製造機10の操作者の入力を受け付ける入力装置120と、当該操作者に向けて各種の情報を表示する表示装置130とを有する。付加製造機10、処理装置100、記憶装置110、入力装置120及び表示装置130は、各種のデータを伝送可能な通信線Cを介して電気的且つ物理的に接続されている。処理装置100は、当該通信線Cを介して、付加製造機10、記憶装置110、入力装置120及び表示装置130と、各種のデータの授受が可能に構成されている。
入力装置120には、例えば、キーボードやマウス、タッチパネルが用いられ、上述した付加製造機10の操作者により操作される。表示装置130には、例えば、コンピュータ・ディスプレイが用いられる。これら処理装置100、記憶装置110、入力装置120及び表示装置130は、一体に結合されて付加製造機10の前面10aに配置されることも好適である。
処理装置100には、例えば、コンピュータにおいて各種の演算処理を行う中央演算処理装置及び主記憶装置(RAM)が用いられる。また、記憶装置110は、ハードディスクやEPROMを用いて実現することができ、各種のプログラム及びデータが予め格納されている。記憶装置110には、付加製造機10により製造される構造物の三次元形状や、当該構造物を形成する複数の層の形状を示すデータ(以下、単に「三次元データ」と記す)や、当該構造物の製造過程に関するデータが、予め格納されている。記憶装置に格納されているデータの詳細については、後述する。
(付加製造機の構成)
次に、本実施形態の付加製造機の要部構成について、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態の付加製造システムのうち付加製造機の要部構成を示す斜視図である。なお、図2において、矢印X,Y,Zは、付加製造機10の座標系を示している。本実施形態において、矢印Xは、水平方向のうち付加製造機10の前面10aに平行な所定の向きを示す。矢印Zは、鉛直方向のうち上側を示し、以下、単に「上側」と記す。また、矢印Yは、水平方向のうち矢印Z及び矢印Xに垂直な向きを示している。また、構造物を形成する複数の層が積層される方向のうち基盤に向かう向きを、特に「深さ方向」と記して矢印Dで示す。本実施形態において深さ方向Dは、鉛直方向の下側と一致している。
付加製造機10は、基盤11を有し、当該基盤11上に複数の層が積層されて、三次元形状の構造物が形成される。なお、以下の説明において、付加製造機10が製造する構造物、すなわち複数の層が積層され且つ互いに接合された三次元形状の構造物を、単に「構造物」と記す。
本実施形態においては、基盤11の表面11a上に、当該複数の層のうち最初の層が形成される。当該基盤11は、ビルド・プラットフォーム(build platform)とも呼称される。なお、当該基盤11の表面11a上に、構造物を支持するための部材、いわゆるサポート(図示せず)を配置し、当該サポート上に最初の層を形成するものとしても良い。
付加製造機10のうち基盤11より鉛直上側には、層を形成可能な空間12、すなわち構造物を製作可能な空間12が配置されている。当該空間12を、以下に「層形成空間」12と記し、その外縁を、図1に破線で示す。層形成空間12は、密閉された空間であるものとしても良い。層形成空間12は、ビルド・スペース(build space)とも呼称される。
付加製造機10は、基盤11の表面11a又は固化した層6上に一つの層を形成して構造物5に一層ずつ新たな層8を付加するためのヘッド(以下、層形成用ヘッドと記す)20を有する。層形成用ヘッド20は、基盤11より上側にある層形成空間12内に複数の層を形成可能である。層を構成する材料には、例えば、金属や合成樹脂が用いられる。本実施形態において、複数の層は、同一の材料で構成されている。なお、複数の層のうち、所定の層については、その材料を異ならせることも可能である。
層形成用ヘッド20は、基盤11又は他の層の上側に材料を供給すると共に当該材料を溶融させる。溶融した材料が固化することにより、新たな層が形成される。当該新たな層は、材料が固化する際に、その下側にある他の層と接合される。粉末状の材料の供給と、当該材料の加熱、具体的には、熱源としてのレーザ光の照射を、同時に行って新たな層を形成することが好適である。
なお、材料を溶融させるための熱源として、レーザに代えて、電子ビームを用いることも可能である。材料を溶融させるための熱源には、必要な熱量集光径及び輝度を得られるものであれば、様々な種類の光源を用いることが可能である。また、層形成用ヘッド20は、不活性ガスを吹き付けながら、他の層の上側に溶融した材料を供給することも好適である。
このようにして、層形成用ヘッド20は、製造中の構造物5のうち、基盤11の上側にある固化した層のうち最も上側にある層の上側の表面である「頂面」7上に、材料を供給すると共に溶融させて新たな一つの層8を形成し、当該層を構造物5に付加する。なお、基盤11の表面11a又は固化した層の頂面7上に新たな一つの層8を形成して当該層を構造物5に付加するステップを、以下に「層形成ステップ」と記す。
なお、複数の層が積層された製造中の構造物のうち、最も上側(矢印Z)にある固化した層6の頂面7から、矢印Dで示す深さ方向(矢印Dで示す)に向かう距離を、以下の説明において、単に「深さ」と記す。
本実施形態の層形成ステップにおいては、層形成用ヘッド20は、他の層の頂面7上に材料を供給すると同時に、集光した熱源により当該材料を溶融させて層を形成し、構造物に付加する「ダイレクト・エナジー・デポジション」(Direct energy deposition、いわゆる指向性エネルギー堆積)を行う場合について説明する。本実施形態において、金属粉末の噴射と同時にレーザ光の照射を行う「レーザー・メタル・デポジション」を行って頂面7上に新たな層8を形成して構造物5に付加する。
本実施形態の付加製造機10において、層形成用ヘッド20は、基盤11の上側を、三次元的に移動可能に構成されており、具体的には、矢印X,Y、Zのそれぞれに沿って移動可能に構成されている。付加製造機10は、層形成用ヘッド20を移動させるための機構(図示せず)を有する。層形成用ヘッド20は、固化した他の層の頂面7の上側に位置しており、当該頂面7に沿って移動しながら、新たな層を構成する材料を供給すると共に当該材料を溶融させる。
新たに付加される層のうち、層形成用ヘッド20により材料の供給及び加熱がなされている部分を、以下に「層加工点」と記して、各図にハッチングで示す。層形成用ヘッド20の移動に伴って層加工点も移動する。層加工点を所定の三次元データに従って移動させることにより、層形成用ヘッド20は、所定の形状の層を付加することができる。層形成用ヘッド20すなわち層加工点の移動と、材料の供給及び加熱は、処理装置100(図1参照)により制御される。
以上のように構成された付加製造機10は、層形成用ヘッド20により層加工点8aを、他の層の頂面7に沿って移動させる、いわゆる「走査」を行うことにより、当該頂面7上に新たな層を付加的に形成することができる。このような層を一層ずつ付加する、すなわち層の形成を繰り返し行うことにより、付加製造機10は、複数の層が積層された三次元形状の構造物を製造する。
付加製造機10により構造物を製造する過程すなわち構造物を形成する層を、一層ずつ付加する過程においては、最も上側にある新しく付加された層を含む所定の領域について、きずを調べ、当該きずについて所定の基準に従って欠陥であるか否かを判定する「インプロセス検査」を行う必要がある。
ここで、「きず」とは検査で検出可能な最小の大きさ以上の大きさを有する構造物中のき裂、ひび、組織に内在する欠陥(内在欠陥)、又は空隙等を意味し、「欠陥」とはこれらの「きず」のうち構造物に悪影響を及ぼす恐れのあるものを意味する。すなわち、例えば、「欠陥」はその代表長さなどの値が予め定めた閾値よりも大きい「きず」である。ただし、「きず」を「欠陥」と判定するための閾値を検査で検出可能な最小の大きさとすることで、全ての検査可能な「きず」を「欠陥」とすることも可能であり、各実施形態は、このように全ての「きず」が「欠陥」となる場合にも適用可能である。
インプロセス検査には、層の形成・付加に関係しない物質、例えば、水や油等の接触媒質や、磁粉、浸透液、現像剤を、使用しない方法を用いることが必要であり、層の表面だけでなく層の内部にあるきず、例えば、層の表面から数mm程度の深さにある内在欠陥等のきずを検出可能な探傷技術を用いる必要がある。このような探傷技術には、コイルを用いて導体に、時間的に変化する磁場を与え、導体に生じた渦電流が、きず等によって変化することを利用してきずの検出を行う「渦電流探傷」や、超音波を弾性体中に伝搬させたときに当該弾性体が示す音響的性質を利用して弾性体の表面又は弾性体内にあるきずを検出する「超音波探傷」がある。
超音波探傷は、弾性体の表面に衝撃力を与えることにより、弾性体の表面に沿って伝搬する弾性波(以下、表面波と記す)や、弾性体の表面から深さ方向に伝搬する弾性波(以下、バルク波と記す)を発生させる。このような弾性波が、欠陥等のきず、詳細には、きずを画定する内面で反射された反射波を、プローブ等により検出する。このような超音波探傷には、弾性体の表面にレーザ光を照射することにより、当該弾性体に衝撃力を与える、いわゆる「レーザ超音波」がある。なお、衝撃力を与える方法には、空気の力や電磁力を用いる方法もある。
本実施形態のインプロセス検査においては、「レーザ超音波」を用いた超音波探傷を行う。付加製造システムは、当該超音波探傷を行うための探触子(以下、単に「プローブ」と記す)30を有する。図3は、本実施形態のプローブの構成例を示す図であり、層の表面にレーザ光を照射して超音波探傷を行う場合を示している。図3に示すように、プローブ30は、層の頂面7に衝撃力を与えて超音波を励起するためのレーザ光(以下、送信レーザと記す)L1と、反射波による層の頂面7の変位(変動)を検出するためのレーザ光(以下、受信レーザと記す)L3との双方を送出可能に構成されている。送信レーザL1が頂面7に照射されることにより、表面波S及びバルク波Bが生じる。
プローブ30は、表面波S及びバルク波Bが、きずにより反射されて頂面7に到達した反射波を、受信レーザL3を用いて検出可能である。例えば、プローブ30は、受信レーザL3が層の頂面7で散乱及び反射されたレーザ光を干渉計測することにより、頂面7に到達した反射波を検出する。なお、「レーザ超音波」を用いた超音波探傷を行う場合、プローブ30は、材料を溶融させるためにレーザ光を照射する層形成用ヘッド20と同じレーザ発振源(光源)からのレーザ光を、チョッパ等を用いてパルス化することも好適である。また、レーザ発振源から層の頂面7に至るまでの光路のうち、少なくとも一部分を、プローブ30と層形成用ヘッド20で共通化することも可能である。
本実施形態の付加製造方法は、頂面7のうち予め設定された検査点33から、当該頂面7に沿って又は当該頂面7から深さ方向に伝搬する弾性波を発生させるステップ(以下、弾性波発生ステップと記す)を含む。具体的には、プローブ30により、送信レーザL1を頂面7のうち所定の検査点33(詳細には、弾性波発生点33a)に照射することにより、当該検査点33から当該頂面7に沿って又は当該頂面7から深さ方向に伝搬する弾性波を発生させる。このような弾性波発生ステップを行った後、当該頂面7に沿って又は当該頂面7から下側に伝搬した弾性波は、欠陥と判定されるきず、詳細には、層内にある当該きずを画定する内面で反射されて反射波となる。
また、本実施形態の付加製造方法は、頂面7に沿って又は頂面7から深さ方向に伝搬した弾性波が、欠陥等のきずで反射されて、当該きずから当該頂面7に沿って又は上側に伝搬する弾性波である反射波を、当該検査点33において検出するステップ(以下、反射波検出ステップと記す)を含む。具体的には、プローブ30により、受信レーザL3を頂面7のうち検査点33(詳細には、信号取得点33c)に照射しながら、当該きずから当該頂面7に沿って又は上側に伝搬する反射波を、当該検査点33において検出する。なお、弾性波発生点33aは、信号取得点33cの近傍に設定され、弾性波発生点33aと信号取得点33cは、一つ(単数)の検査点33とみなすことができる。
なお、図4に示す変形例のように、プローブ30Bが、頂面7のうち所定の検査点33を通して層内に時間的に変化する磁場いわゆる印加磁界M1を与えて、層内に生じた渦電流が、きず等によって変化することを利用してきずの検出することも可能である。
また、図5に示すように、本実施形態の付加製造システム1は、層形成空間12内に形成可能な頂面7の全てと対向する位置にプローブ30を移動させる機構(以下、走査機構と記す)40を有する。走査機構40は、基盤11の上側において、単数のプローブ30を三次元的に移動させるものである。本実施形態において、走査機構40は、X方向、Y方向及びZ方向のそれぞれに単数のプローブ30を直線的に移動させることが可能である。これにより、層形成空間12内に形成可能な頂面7の全てと対向する位置にプローブ30を移動させることができ、当該頂面7の全てに検査点33を設定することができる。当該走査機構40によるプローブ30すなわち検査点33の移動は、処理装置100により制御される。
なお、上述したプローブ30が複数である場合には、図6に示す変形例のように、複数のプローブ30が配列されたアレイ3Aを、走査機構44が所定の方向に移動させることも好適である。この変形例において、アレイ3Aは、X方向に配列された複数のプローブ30を有し、走査機構44は、これら複数のプローブ30をY方向及びZ方向のそれぞれに直線的に移動させる。この態様によっても、頂面7の全てと対向する位置にプローブ30を移動させて、当該頂面7の全てに検査点33を設定することができる。
なお、上述した例において、走査機構40,44により、頂面7の全てと対向する位置にプローブ30を移動可能なものとしたが、頂面7の全てに検査点33を設定可能にする手法は、これらの態様に限定されるものではない。例えば、図7に示す変形例のように、ガルバノミラーを用いた走査装置46を用いることも好適である。走査装置46は、上述したプローブ30と略同一の機能を有する探傷装置31と共に、付加製造機10に固定されており、いわゆるガルバノスキャナを構成している。
図7に示す探傷装置31は、レーザ超音波を用いた超音波探傷を行うための装置であり、送信レーザL1及び受信レーザL3とを送出可能に構成され、頂面7に到達した反射波を受信レーザL3を用いて検出可能なものである。走査装置46は、探傷装置31からの送信レーザL1及び受信レーザL3を、ガルバノミラーにより反射し、その向きを変えて、頂面7のうち所望の検査点33に照射する。走査装置46は、頂面7の全てに検査点33を設定することが可能である。
また、上述した例においては、走査機構40,44又は走査装置46を用いて、頂面7の全てに検査点33を設定するものとしたが、頂面7の全てに検査点33を設定可能にする手法は、これらの態様に限定されるものではない。例えば、図8に示す変形例のように、プローブ30が層形成用ヘッド20と一体に結合されており、層形成用ヘッド20と共に移動することも好適である。層形成用ヘッド20を三次元的に移動させるための機構を利用して、頂面7の全てと対向する位置にプローブ30を移動させることができる。また、層形成用ヘッド20により新たに付加された層加工点の近傍の部分、すなわち固化した直後の部分に検査点33を設定することができる。
また、図9に示す付加製造機10は、基盤11の上側に形成された複数の層すなわち製造中の構造物の形状を取得する装置(以下、形状取得装置と記す)48を有する。形状取得装置48は、付加製造機10のうち、層形成空間12の少なくとも一部を俯瞰する位置に配置される。形状取得装置48には、構造物の形状を撮像可能なカメラや、構造物の表面にレーザ光を照射して、その反射波を検出するレーザスキャナ等を用いることができる。
なお、製造中の構造物の形状を取得する手法は、カメラやスキャナ等の形状取得装置48によるものに限定されるものではない。例えば、記憶装置110に予め格納されている三次元データ及び製造過程に関するデータに基づいて、現在、基盤11上に形成された製造中の構造物の形状を算出するものとしても良い。
(付加製造方法における検査ステップ)
以上のように構成された付加製造システム1を用いて本実施形態の付加製造方法が行われる。当該付加製造方法には、上述したように、基盤11より上側において固化した他の層の頂面7上に新たな層を「一層ずつ」付加する複数の層形成ステップを含んでいる。なお、複数の層形成ステップのうち最初に行われる層形成ステップにおいては、基盤11の表面11a又は基盤11上に配置された構造物を支持するためのサポート上に最初の層が形成される。各層形成ステップは、層形成用ヘッド20及びこれを移動させる走査機構40により行われる。層形成用ヘッド20及び走査機構40は、記憶装置110に予め格納された三次元データ及び製造過程に関するデータに従って処理装置100により制御される。
また、付加製造方法は、上述した複数の層形成ステップに加えて、少なくとも一つの層形成ステップと交互に行われ、当該層形成ステップにより層が付加された構造物のうち、予め設定された検査領域を検査するステップ(以下、検査ステップと記す)を複数含んでいる。複数の検査ステップは、上述した処理装置100により実行される。各検査ステップは、製造中の構造物に対して行われるものであり、複数の層形成ステップと交互に行われる。以下に、検査ステップの一例について、図10−1〜図12−4を参照して説明する。
本実施形態の検査ステップにおいては、図10−1〜図10−4に示すような「レーザ超音波」プローブ30を用いた表面波探傷が行われる。図10−1には、表面波探傷において、欠陥と判定されるきずが無い場合における構造物中の表面波の伝搬を示している。送信レーザL1によって弾性波発生点33aに生じた表面波Sは、頂面7に沿って伝搬する。この場合、受信レーザL3が照射される信号取得点33cにおいては、図10−2に示すように、表面波Sのみが検出される。表面波Sのみが検出される場合、表面波Sの伝搬経路には、欠陥等のきずや組織変化のような連続性が途切れる部分、いわゆる不連続部(discontinuity)が存在しないことを示している。
一方、図10−3に示すように、例えば、欠陥等のきずFがある場合、表面波Sのうち一部は、当該きずFにより反射されて反射波Rとなる。当該反射波Rは、頂面7に沿って伝搬して信号取得点33cに到達する。信号取得点33cにおいては、図10−4に示すように、表面波Sの後に、当該表面波Sに比べて振幅Aの小さい反射波Rが検出される。当該反射波Rは、構造物の頂面7の近傍であって、当該頂面7に沿って信号取得点33cから離れた位置に、欠陥等のきずF等の不連続部の存在を示している。
また、本実施形態の検査ステップにおいては、図11−1〜図11−4に示すような「レーザ超音波」プローブ30を用いたバルク波探傷が行われる。図11−1には、バルク波探傷において、欠陥と判定されるきずが無い場合における構造物中のバルク波の伝搬を示している。送信レーザL1によって弾性波発生点33aに生じたバルク波Baは、頂面7から深さ方向に伝搬する。バルク波Baは、当該深さ方向において頂面7と反対側にある構造物の底面4において反射される。底面4において反射されたバルク波Bcは、構造物中を頂面7に向けて伝搬する。この場合、受信レーザL3が照射される信号取得点33cにおいては、図11−2に示すように、底面4において反射されたバルク波Bcのみが検出される。
一方、図11−3に示すように、欠陥と判定されるきずF1がある場合、底面4に向けて深さ方向に伝搬するバルク波Baのうち一部Ba1は、当該きずF1により反射されて反射波R1となる。当該反射波R1は、頂面7に向けて伝搬して信号取得点33cに到達する。信号取得点33cにおいては、図11−4に示すように、底面4において反射されたバルク波Bcの前に、振幅Aが比較的大きい反射波R1が検出される。当該反射波R1は、構造物のうち信号取得点33cから深さ方向に離れた位置に、きずF1等の不連続部が存在することを示している。
なお、上述した「レーザ超音波」プローブ30を用いた超音波探傷においては、欠陥等のきずの存在だけでなく、当該きずの大きさや、当該きずの信号取得点33cからの距離も調べることができる。例えば、表面波探傷を行う場合、図12−1に示すように、信号取得点33cに近い距離に欠陥と判定される小さなきずF2がある場合、弾性波発生点33aからの表面波S2の一部は、当該きずF2により反射されて反射波R2となり、信号取得点33cにおいて検出される。当該反射波R2は、図12−2に示すように、きずF2が比較的小さいものであるため、表面波S2に比べて振幅Aが小さい。また、当該反射波R2は、信号取得点33cから比較的近い距離にあるため、表面波S2からさほど時間をあけずに、比較的早いタイミングで検出される。
一方、図12−3に示すように、信号取得点33cから遠い距離に欠陥と判定される大きな傷F3がある場合、弾性波発生点33aからの表面波S2のうち比較的多くの部分が、当該きずF3により反射されて反射波R3となる。当該反射波R3は、図12−4に示すように、きずF3が比較的大きいものであるため、図12−2に示す反射波R2に比べて振幅Aが大きい。また、当該反射波R3は、信号取得点33cから比較的遠い距離にあるため、表面波S2からかなりの時間をあけて、比較的遅いタイミングで検出される。
欠陥等のきずF2,F3の大きさと反射波R2,R3の振幅の大きさとの関係、及び、当該きずF2,F3の信号取得点33cからの距離と、表面波S2に対する反射波R2,R3のタイミングとの関係は、適合実験やシミュレーションにより予め求められており、定数として記憶装置110(図1参照)に予め格納されている。処理装置100は、プローブ30により信号取得点33cにおいて検出された信号と、当該記憶装置110から読み出した定数に基づいて、プローブ30により検出されたきずの大きさ及び信号取得点33cからの距離を推定することが可能となる。
製造中の構造物、すなわち検査対象となる層における超音波の伝搬速度(音速)は、その温度に応じて変化する。このため、処理装置100は、検査点33(弾性波発生点33a及び信号取得点33c)の近傍の温度を示すデータを取得し、温度データに基づいて、きずF2,F3の大きさ及び信号取得点33cからの距離を補正することが好ましい。この場合、付加製造機10には、信号取得点33c近傍の温度を測定可能な温度測定装置を設けて、測定された温度データを、処理装置100が取得することが好適である。このような温度測定装置は、放射温度計(非接触温度計)を用いて実現することができる。なお、既知の大きさの人工きずが加工された構造物を用いてプローブ30及び処理装置100の校正を行うことも好ましい。
上述した例においては、レーザ超音波を用いた超音波探傷を行う場合について説明したが、他の探傷方法、例えば、空気の力や電磁力を用いて、弾性波発生点33aから表面波やバルク波を発生させる方法についても同様に、欠陥等のきずの存在、大きさ及び位置を検出することができる。また、超音波探傷に代えて、渦電流探傷(図4参照)を行う場合についても、欠陥等のきずを検出できる点において同様である。
以上に説明した検査ステップにおいて、プローブ30は、構造物のうち検査点33(弾性波発生点33a及び信号取得点33c)が設定される頂面7を有する層だけでなく、当該層より下側すなわち深さ方向にある複数の層が積層(接合)された部分についても、欠陥等のきずを検出することが可能である。本実施形態においては、複数の層形成ステップにより製造中の構造物に予め設定された数(以下、連続積層数と記す)の層を付加した後、上述した検査ステップにより構造物のうち予め設定された検査領域を検査対象として検査を行う。つまり、予め設定された連続積層数の層の付加と、予め設定された検査領域の検査とを、交互に行う。連続積層数及び検査領域の設定は、処理装置100により行われる。なお、連続積層数は、数十ないし数百に設定される。以下の説明においては、理解を容易にするために、実際よりも少ない連続積層数が4である場合について説明する。
(検査ステップにおける検査領域の設定手法)
本実施形態の付加製造方法において行われる複数の検査ステップにおける検査領域の設定手法について、図13〜図15を参照して説明する。図13は、本実施形態の付加製造方法において行われる複数の検査ステップのうち、最初の検査ステップを説明する断面図である。
図14は、本実施形態の付加製造方法において行われる複数の検査ステップのうち、中間の検査ステップを説明する断面図である。図15は、本実施形態の付加製造方法において行われる複数の検査ステップのうち、最後の検査ステップを説明する断面図である。
また、構造物の製造過程において行われる複数の検査ステップのうち、最初に行われるものを「最初の検査ステップ」と記し、最後に行われるものを「最後の検査ステップ」と記す。さらに、当該複数の検査ステップのうち、最初の検査ステップ、最後の検査ステップとの間に行われる検査ステップ、以下に「中間検査ステップ」と記す。
なお、本実施形態の付加製造方法において、層形成ステップにより付加される一つの層の厚さ(以下、層厚さと記す)は、例えば、数mm以下とすることが可能である。なお、層厚さは、層形成ステップごとに異ならせるものとしても良い。すなわち、製造する構造物の形状に応じて層厚さを異ならせるものとしても良い。
図13に示すように、基盤11の上側には、複数(連続積層数)回の層形成ステップを行うことにより、連続積層数の層51,52,53,54が付加されている。これらの層51,52,53,54は、材料の溶融、固化により、一体に結合され、製造中の構造物5Aを形成する。最も上側の層54が固化した後、最初の検査ステップを行う。本実施形態においては、プローブ30を用いた超音波探傷を行って、欠陥等のきずを検出する。
製造中の構造物5Aのうち最初の検査ステップにおいて検査対象とする検査領域E1を設定する。具体的には、検査領域E1のうち最も下側を画定する最大深さE1a(図13に破線で示す)と、最も上側を画定する最小深さE1c(図13に点線で示す)とを設定する。検査領域E1は、最大深さE1aと最小深さE1cとの間にある領域であり、当該最大深さE1a及び最小深さE1cを含んでいる。
最大深さE1aは、製造中の構造物5Aのうち最も上側にある頂面71から、連続積層数と層厚さ(図13に寸法Tで示す)との積以上、基盤11側すなわち下側の位置に設定される。なお、製造中に形成される層厚さが一層ごとに異なる場合も踏まえると、最大深さE1aは、積層される複数の層のそれぞれの層厚さの合計以上、深い位置(下側の位置)に設定されることとなる。本実施形態において、最初の検査ステップにおける最大深さE1aは、最初に付加された層51と基盤11との界面、すなわち基盤11の表面11aと略同一の位置に設定される。なお、最大深さE1aは、表面11aより僅かに下側に設定されるものとしても良い。一方、最小深さE1cは、頂面71から連続積層数と層厚さとの積だけ下側の深さである最大深さE1aと、当該頂面71との間に設定される。本実施形態においては、図13に点線で示すように、最も上側にある層54と、その下側に隣接する層53との界面81より僅かに下側に設定される。
最初の検査ステップにおいては、設定された最大深さE1aと最小深さE1cとの間にある検査領域E1内を検査する。処理装置100は、当該検査領域E1内においてプローブ30により検出された「きず」について欠陥であるか否かを判定し、当該欠陥の大きさや、その位置情報、例えば、信号取得点33cからの距離を推定する。なお、最大深さE1aより下側や、最小深さE1cより上側の領域については、今回の検査ステップ、すなわち最初の検査ステップにおいて検査対象とならない。最小深さE1cより上側の領域については、次回の検査ステップ、すなわち中間検査ステップの検査対象となる。
最初の検査ステップが行われた後、本実施形態においては連続積層数の層形成ステップが行われ、図14に示すように、連続積層数の層55,56,57,58が、さらに付加される。8つの層51〜58は、一体に結合されて製造中の構造物5Bを形成する。構造物5Bのうち最も上側にある層58が固化した後、中間検査ステップを行う。具体的には、最初の検査ステップと同様に、プローブ30を用いた超音波探傷を行う。
製造中の構造物5Bのうち中間検査ステップにおいて検査対象とする検査領域E2を設定する。具体的には、検査領域E2のうち最も下側を画定する最大深さE2a及び最小深さE2cを設定する。今回の検査ステップ(中間検査ステップ)における最大深さ(以下、今回の最大深さと記す)E2aは、前回の検査ステップ(最初の検査ステップ)における最小深さE1cより下側すなわちより深い位置に設定する。すなわち、今回の検査領域E2のうち下側の部分は、前回の検査領域E1のうち上側の部分と重なっている。一方、最小深さE2cは、最大深さE2aに対して、連続積層数と各層の層厚さ(図13に寸法Tで示す)との積以上、上側の位置に設定される。
このように今回の最大深さE2aを、前回の最小深さE1cより深い位置に設定する、すなわち前回の検査領域E1と今回の検査領域E2とを部分的に重ねることにより、これら2つの検査領域E1,E2の間に、検査されない領域が生じることを防止することができる。なお、今回の検査領域E2は、一層以上の厚さ、前回の検査領域E1と重なるように設定されることも好適である。例えば、層形成ステップにおいて層を構成する溶融した材料の熱や重量により、その下側にある固化した層が変形したり、当該層の表面が下側に変位しても、当該変位又は変形が生じた部分を、確実に検査領域に含めることができ、当該部分に生じたきずについて欠陥であるか否かの判定及びその大きさや位置の推定を行うことができる。
以上に説明した単数の中間検査ステップと連続積層数の層形成ステップは、交互に繰り返される。複数の中間検査ステップが行われた後、さらに複数(連続積層数)回の層形成ステップが行われて、図15に示す構造物5Cが完成する。なお、図14及び図15には、単数の中間検査ステップを行う場合について、説明している。構造物5Cのうち最も上側の層62が固化した後、最後の検査ステップを行う。具体的には、最初の検査ステップ及び中間検査ステップと同様の超音波探傷を行う。
換言すると、本実施形態の付加製造方法は、基盤11の表面又は固化した層の頂面71上に少なくとも一層からなる第1の層を高さ方向に付加する第1の層形成ステップと、上述した深さ方向Dや層の厚さ方向に対応する高さ方向(本実施形態において、矢印Zで示す鉛直方向)において前記第1の層の少なくとも一部を含むように設定された第1の検査領域を検査する第1の検査ステップと、前記第1の検査ステップの後に前記第1の層の頂面71上に少なくとも一層の第2の層を形成する第2の層形成ステップと、深さ方向Dに対応する高さ方向において前記第1の検査領域の少なくとも一部と前記第2の層の少なくとも一部をそれぞれ含むように設定された第2の検査領域を検査する第2の検査ステップと、を含むことを特徴とする。
この場合、第1の検査ステップは上記の「最初の検査ステップ」または「中間検査ステップ」のいずれかに相当し、第2の検査ステップは当該「最初の検査ステップ」又は「中間検査ステップ」が行なわれた後に行なわれる次の「中間検査ステップ」又は「最後の検査ステップ」のいずれかに相当する。
例えば、第1の検査ステップが上記の「最初の検査ステップ」であり、第2の検査ステップが「最初の検査ステップ」の後に行なわれる次の「中間検査ステップ」である場合、第1群の層51,52,53および54を第1の層として高さ方向に付加する工程が第1の層形成ステップに相当し、設定された最大深さE1aと最小深さE1cとの間にある検査領域E1が第1の検査領域に相当する。そして、第2群の層55,56,57および58を第2の層として高さ方向付加する工程が第2の層形成ステップに相当し、最大深さE2a及び最小深さE2cとの間にある検査領域E2が第2の検査領域に相当する。
図14に示す例においては、第1の層形成ステップにおける第1群の層51,52,53および54の付加、第1の検査ステップにおける検査領域E1の検査、第2群の層形成ステップにおける第2群の層55,56,57および58の付加、第2の検査ステップにおける検査領域E2の検査、の順に行われている。なお、上述した第1群及び第2群の層は、それぞれ少なくとも一つの層を含むものであれば良く、それぞれ単数(一つ)の層からなるものとしても良い。すなわち、第1及び第2の層形成ステップは、ぞれぞれ単数(一つ)の層を付加する工程であるものとしても良い。
なお、図15示す完成した構造物5Cは、理解を容易にするため、実際に製造される構造物に比べて層の数が少ないものを示している。実際に製造される構造物は、図15に示す構造物5Cに比べて層の数が多く、中間検査ステップは、連続積層数の層形成ステップと交互に複数回行われる。図13〜図15においては、実際には複数回行われる中間検査ステップを、単数の中間検査ステップに省略して説明している。基盤11より上側には、実際には、図14及び図15に示すよりも多数の層が構造物に付加され、多数の中間検査ステップが行われる。これら中間検査ステップの間に行われる層形成ステップの回数、すなわち連続積層数は、構造物5の製造に要する時間や効率の観点から、一定であることが好ましい。この場合、各中間検査ステップにおける最大深さE2aと最小深さE2cとの間の深さ方向Dの距離、すなわち検査領域E2の厚さは、一定であること好適である。
製造が完了した構造物5Cのうち最後の検査ステップにおいて検査対象とする検査領域E3を設定する。具体的には、検査領域E3のうち最も下側を画定する最大深さE3a及び最小深さE3cを設定する。最大深さE3aは、前回の検査ステップすなわち中間検査ステップにおける最小深さE2cより下側の位置に設定する。このように最後の検査ステップの検査領域E3と、中間検査ステップの検査領域E2とを部分的に重ねて、2つの検査領域E2,E3の間に、検査されない領域が生じることを防止することができる。
一方、最後の検査ステップにおける最小深さE3cは、完成した構造物5Cの頂面73に設定することが好ましい。なお、当該頂面73について検査する必要が無い場合には、最小深さE3cは、頂面73より下側の深い位置に設定するものとしても良い。このような場合には、例えば、当該最後の検査ステップより後に、頂面73を除去するステップや、当該頂面73を検査するステップを有する場合や、頂面73に欠陥が存在しても構造物5Cの強度及び外観上問題ない場合がある。
本実施形態の付加製造方法において、連続積層数及び検査領域の厚さは、構造物5内を検査するための装置の性能、例えば、プローブ30等により検査可能な範囲や、構造物5を構成する材料等に応じて設定される。処理装置100は、各検査ステップの前に連続して行われた層形成ステップの回数すなわち連続積層数と、各層の層厚さに応じて、検査領域の厚さ、すなわち最小深さと最大深さとの間の距離を設定している。
なお、連続積層数及び検査領域の厚さは、構造物の形状等に応じて変化させるものとしても良い。上述した各中間検査ステップにおいて、深さ方向Dの検査領域の厚さは、その前に連続して行われた層形成ステップの回数、すなわち連続積層数に応じて変化させることが好適である。例えば、製造中の構造物内に超音波等が伝搬できない空洞等がある場合、当該空洞よりも下側に最小深さが位置するよう検査領域を設定して検査し、その後、当該空洞の周辺部分について、別の検査領域を設定して検査することが好ましい。加えて、空洞の周辺部分においては、複数の検査領域が重なるように設定し、当該周辺部分については重ねて検査することも好適である。
なお、本実施形態の付加製造方法においては、連続積層数の層形成ステップを行って付加された新たな層が完全に固化した後に、検査ステップを行うものとしたが、本発明に係る検査ステップは、この態様に限定されるものではない。検査ステップは、複数の層形成ステップと、交互に繰り返されるものであれば良く、例えば、連続積層数の層形成ステップのうち一部と、検査ステップが時間的に並行して行われるものとしても良い。例えば、図16に示すように、層形成用ヘッド20により新たな層を形成しながら、当該層のうち固化した部分の上側にプローブ30を配置して、上述した検査ステップを行うものとしても良い。
また、本実施形態の付加製造方法は、各検査ステップが行われる前に、プローブ30が対向する頂面を平滑なものにするためのステップ(以下、平滑化ステップと記す)を含んでいる。上述した付加製造機10は、上述した検査点33(弾性波発生点33a及び信号取得点33c)が設定される頂面7を平滑なものとするための平滑化用ヘッドを備える。
例えば、図17−1に示す平滑化用ヘッド65は、頂面7に形成された凹凸を除去するためのものであり、パルス状のレーザ光を頂面7に照射することにより、当該頂面7の一部を昇華させて凹凸を除去する、いわゆるレーザ・アブレーションを行うものとすることができる。また、当該ヘッド65は、連続的にレーザ光を頂面7に照射して、当該頂面7を再溶融させるものとしても良い。また、当該ヘッド65は、エンドミルのように頂面7を機械加工することにより、当該頂面7の凹凸を除去するものとしても良い。これらの平滑化ヘッド65の作用により、頂面7は平滑化される。
また、図17−2に示す平滑化用ヘッド66は、圧縮された空気を頂面7に向けて噴射することにより、頂面7に付着した塵埃、例えば、層を構成する粉末材料を除去するものとすることができる。また、当該平滑化用ヘッド66は、ブラシを備えて、当該ブラシにより粉末材料等の塵埃を除去するものとしても良い。
このような、平滑化用ヘッド65,66は、層形成空間12内に形成可能な頂面7の全てと対向する位置に移動可能に構成することが好ましい。平滑化用ヘッド65,66は、例えば、層形成用ヘッド20と同様に、走査機構40(図5参照)により三次元的に移動させるものとしても良い。このような平滑化用ヘッド65,66を用いて上述した各検査ステップの前に平滑化ステップを行うことにより、構造物5の内部にある欠陥等のきずの検出精度をより高いものにすることができる。
(付加製造方法における欠陥推定ステップ)
また、本実施形態の付加製造方法において、上述した複数の検査ステップのうち、各検査ステップは、上述した弾性波発生ステップ及び反射波検出ステップに加えて、検査点33において検出された反射波に基づいて、欠陥等のきずの深さ、位置及び大きさのうち少なくとも一つを推定するステップ(以下、欠陥推定ステップと記す)を含んでおり、以下に、図2、図18〜図20を参照して説明する。なお、以下に説明する欠陥推定ステップは、各検査ステップ(すなわち、最初の検査ステップ、中間検査ステップ及び最後の検査ステップ、又は、第1の検査ステップ及び第2の検査ステップ)のすべてに含めてもよく、またこれらの検査ステップのいずれか一つ以上に含めても構わない。
図18は、欠陥推定ステップを説明するX−Y平面図であり、図2に矢印Zで示す鉛直方向すなわち深さ方向に垂直な平面図である。図18において、層形成空間12の外縁を破線で示しており、プローブ30により所定の強度以上の反射波が検出された領域をスマッジングで示している。頂面のうちプローブ30と対向する検査点33(詳細には、信号取得点33c)から深さ方向(下側)に反射波の発生源が存在した場合に、処理装置100は、プローブ30を通して、図18に示すような結果を取得することが可能である。
本実施形態の欠陥推定ステップにおいて、処理装置100は、図18に示すように、検査点において検出された反射波が、構造物5内又はその頂面7にある欠陥等のきずにより反射された反射波であるか、構造物5の側面5e又は頂面7の縁7e(いわゆるエッジ部)により反射された反射波であるかを、判定する。すなわち本実施形態の欠陥推定ステップでは、構造物の形状を示す三次元データに基づいて、検査点において検出された信号(反射波を示す信号)が、構造物のきずによる反射波を示すものか、構造物の形状よる反射波を示すものかを判定する。具体的には、処理装置100は、反射波が検出された領域Rd,Reのうち、製造中の構造物5の側面5e又は当該構造物5の頂面7の縁7eに沿う領域Reにおいて検出された反射波を、当該側面5e又は縁7e等、いわゆる層のエッジ部分により反射された反射波であると推定する。一方、当該X−Y平面において側面5e又は縁7eより内側にある領域Rdにおいて検出された反射波を、構造物5内にある反射波の発生源(以下、反射源と記す)により反射された反射波であると推定する。このような構造物5内の反射源には、欠陥等のきずが含まれている。
処理装置100は、記憶装置110に予め格納されている構造物5及びこれを形成する複数の層の形状を示す三次元データ、又は形状取得装置48(図9参照)により取得された製造中の構造物5の形状を示す三次元データに基づいて、検出された反射波が、側面5e又は縁7e等のエッジ部分により反射された反射波であるか、構造物5内にある欠陥等の反射源により反射された反射波であるかを判定する。図18に示す領域Rdにおいて検出された反射波は、構造物5内にある欠陥等のきずにより反射されたものであると判定する。一方、領域Reにおいて検出された反射波は、欠陥等のきずによるものではなく、側面5eや縁7e等のいわゆるエッジ部分により反射されたものであると判定する。このようにして、処理装置100は、プローブ30により検出された反射波を示す信号から、欠陥等のきずにより反射された反射波を示す信号を識別することができる。
図19は、欠陥推定ステップを説明するX−Y平面図であり、図2に矢印Zで示す鉛直方向すなわち深さ方向に垂直な平面図である。図19において、検査点33(弾性波発生点33a及び信号取得点33c)を中心とする円周状の位置36は、表面波を反射する反射源が存在する可能性がある位置を示している。
例えば、レーザ超音波を用いた超音波探傷のうち、検査点33から頂面7に沿って伝搬する表面波を発生させる表面波探傷のように、検査点33(信号取得点33c)と反射波の発生源が、X−Y平面上の同じ位置に存在しない場合、図19に示すように、検査点33(信号取得点33c)を中心として円周状をなしている位置(座標)36に、反射波の発生源である反射源が存在する可能性がある。当該円周状の位置36の径の大きさrは、検査点33(弾性波発生点33a)における表面波の発生から、反射源により反射された反射波が検査点33(信号取得点33c)において検出されるまでの時間(以下、伝搬時間と記す)を示している。換言すれば、伝搬時間は、検査点33における表面波発生に対する反射波到達の時間差(位相)を示している。
欠陥推定ステップにおいて、処理装置100は、一つの検査点33(信号取得点33c)において検出された反射波の伝搬時間(表面波発生に対する反射波到達の位相)に基づいて、X-Y平面上において当該検査点33を中心に円周状をなす「反射源が存在する可能性がある位置」を推定する。この「反射源が存在する可能性がある位置」は、当該円周状の位置(座標)36のうち、どこかに反射源があることしか示されておらず、反射源の位置が特定されていない。
そこで、本実施形態の欠陥推定ステップにおいて、処理装置100は、図20に示すように、同一の頂面7上において異なる位置にある複数の検査点33,33B,33Cにおいて、頂面7に沿って伝搬する表面波の反射波を検出する。図20は、欠陥推定ステップを説明するX−Y平面図である。図20のうち、(a)は、第1検査点33を中心とする反射源が存在する可能性がある位置36を示しており、(b)は、第2検査点33Bを中心とする反射源が存在する可能性がある位置37を示しており、(c)は、第3検査点33Cを中心とする反射源が存在する可能性がある位置38を示している。
処理装置100は、同一頂面7上のうち異なる位置にある複数の検査点33,33B,33Cのそれぞれを中心とする複数の円周状の位置36,37,38を算出する。そして、図20(e)で示すように、これらる複数の円周状の位置(すなわち反射源が存在する可能性がある位置)36,37,38の交点39の位置を、反射源が存在する位置として特定する。具体的には、当該交点39のX−Y平面上における座標を算出し、当該座標に、欠陥等の反射源があるものとみなす。当該交点39の位置(座標)が、頂面7内の位置(座標)であれば、当該交点39の位置に、欠陥等の反射源があるものと判定し、当該反射源の位置が特定される。
なお、このように特定された反射源の位置39(図20(e)参照)と、検査点33と反射源との距離r(図19参照)、及び各検査点33,33B,33Cにおいて検出された反射波の振幅(図12−1〜図12−4参照)に基づいて、当該反射源、例えば欠陥等のきずの大きさを推定することができる。加えて、特定された反射源の位置39において、例えば、上述したバルク波探傷(図11−1〜図11−4参照)を行うことにより、当該欠陥の頂面7からの深さを推定することができる。
以上に説明したように本実施形態の付加製造方法は、図2に示すように、基盤11の表面11a又は固化した層6の頂面7上に新たな層8を形成して当該層8を構造物5に付加する複数の層形成ステップを有する。当該付加製造方法は、図14に示すように、少なくとも一つの層形成ステップと交互に行われ、当該層形成ステップにより層が付加された構造物5Bのうち、予め設定された検査領域(E1,E2,E3、図13〜図15参照)を検査する複数の検査ステップを有する。例えば、図13に示す最初の検査ステップ、図14に示す中間検査ステップ、図15に示す最後の検査ステップがある。これら検査ステップは、今回の検査領域E2を、前回の検査領域E1と深さ方向において部分的に重ねて検査する少なくとも一つの中間検査ステップ(図14参照)を含むものとした。
また、図1に示すように、本実施形態の付加製造システム1は、基盤11の表面11a又は固化した層6の頂面7上に新たな層8を形成して構造物に層を一層ずつ付加するための層形成用ヘッド20と、層が付加された構造物5のうち、予め設定された検査領域(図13〜図15参照)を検査する検査ステップを実行可能な処理装置100とを有する。当該処理装置100は、図14に示すように、今回の検査領域E2を、頂面72から基盤11に向かう深さ方向Dにおいて前回の検査領域E1と部分的に重ねて検査する少なくとも一つの中間検査ステップを、実行するものとした。本実施形態によれば、付加製造により製造中の構造物5内又は当該構造物5の頂面7に生じたきずを調べ、当該きずについて欠陥であるか否かを判定する検査、いわゆるインプロセス検査を、より高精度且つ効率的に行うことができる。
[他の実施形態]
なお、上述した実施形態において、図2に示す構造物5を形成する複数の層のうち、最初に形成される層6は、基盤11の表面11a上に形成されるものとしたが、本発明は、この態様に限定されるものではない。基盤11の表面11a上に構造物を支持するためのサポートを配置し、当該サポート上に最初の層6を形成するものとしても良い。この場合、処理装置100が実行する最初の検査ステップ(図13参照)の検査領域E1の最大深さE1aは、当該サポートと最初に形成される層との界面と同一又は当該界面より僅かに下側に設定される。
上述した本実施形態の付加製造方法のうち層形成ステップにおいては、層形成用ヘッド20を用いて、いわゆる「ダイレクトエナジーデポジション」を行うことにより、頂面上に層を形成し、当該層を製造中の構造物に付加するものとしたが、本発明に係る層形成ステップは、この態様に限定されるものではない。例えば、粉末材料を、一層ずつ敷き詰めた後、レーザ光の照射により敷き詰められた材料のうち所定の部分を溶融させて当該部分を選択的に固化させる、いわゆる「パウダー・ベッド・フュージョン(Powder bed fusion 、「粉末床溶融結合」とも称される)」を行うものとして良い。
なお、層形成ステップにおいて、層形成用ヘッド20は、例えば、光硬化性樹脂(感光性樹脂)材料に紫外線等の光を照射し、当該材料を光重合反応により選択的に固化(硬化)させる、いわゆる「光造形(液槽光重合)を行うものとしても良い。また、層形成用ヘッド20は、粉末状の材料を一層ずつ敷き詰めた後、敷き詰められた材料のうち所定の部分に液体の結合剤(結着材)を供給して、当該部分を選択的に固化させる結合剤噴射(Binder jetting)を行うものとしても良い。
また、本実施形態の付加製造方法において、処理装置100は、製造する構造物5の形状等に応じて、連続積層数、各層の層厚さ、検査領域の厚さ(最小深さと最大深さとの間の深さ方向の距離)を変化させるものとしたが、これらはを一定の値に設定するものとしても良い。なお、各検査ステップにおいては、今回の最大深さを、前回の最小深さより深い位置に設定して、前回の検査領域と今回の検査領域とを部分的に重ねるものとしたが、検査領域の設定手法は、この態様に限定されるものではない。今回の最大深さを前回の最小深さとほぼ同じ位置に設定し、2つの検査領域が深さ方向において隣接させることも可能である。
また、本実施形態の付加製造方法は、各検査ステップが行われる前に、平滑化用ヘッド65,66を用いて、頂面を平滑なものにするための平滑化ステップを行うものとしたが、本発明は、この態様に限定されるものではない。平滑化ステップは、省略することも可能である。
本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態はその他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。