JP6876632B2 - 手術中のシトルリン静脈内投与 - Google Patents
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Description
内因性一酸化窒素(NO)は、肺血管緊張の調節に役割を果たす。Nelin, et al. Pediatr Res (1994) 35:20-24;Lipsitz, et al. J Pediatr Surg (1996) 31:137-140。一酸化窒素は、様々なアイソフォームの酵素、一酸化窒素シンターゼ(NOS)により合成される。内皮型NOS(eNOS)は、ベースラインレベルのNOのカルシウム−カルモジュリン依存性産生を担う構成酵素である。誘導型NOS(iNOS)は、ある特定のサイトカイン及び炎症刺激に反応して大量のNOのカルシウム非依存性産生を触媒する。NOSの第3の形は、神経型NOS(nNOS)であり、これは中枢神経系及び抹消神経系の両方で神経伝達物質として働く。内皮細胞は、アルギニンから内因性NOを生成させる。Palmer, et al. Biochem Biophys Res Commun (1988) 153:1251-6;Moncada, et al. N Engl J med (1993) 329:2002-12。
尿素サイクル酵素であるアルギニノコハク酸シンセターゼ(AS)及びアルギニノコハク酸リアーゼ(AL)は、内皮組織でのNO再生経路に参加する(図1)。このNO経路のための基質供給は、正常な尿素サイクル機能の一部としてシトルリンの産生からのものである。
手術後の肺血管緊張(PVT)の上昇は、血管壁の平滑筋の収縮の上昇である。PVTの上昇は、様々な先天性心疾患の修復後の一般的な合併症である。Steinhorn, et al. Artificial Organs (1999) 23:970-974;Schulze-neick, et al. J Thorac Cardiovasc Surg (2001) 121:1033-1039。手術後PVTの上昇の病態生理は、肺血管内皮細胞の機能障害が関与すると考えられている。Steinhorn, et al. Artificial Organs (1999) 23:970-974。心肺バイパス手術(CPB)が肺内皮機能に対して有する効果については、限られた研究しか行われてきていない。先天性欠損を修復するためCPBを受けた乳幼児10人の研究では、NO前駆体であるアルギニンの補充が、肺内皮機能障害を緩和した。Schulze-neick, et al. Circulation (1999) 100:749-755。動物実験では、内皮細胞によるNO産生は、心肺バイパス手術後に減弱するが、肺血管運動神経性緊張に関して依然として主要制御因子である。Kirshbom, et al. J thorac Cardiovasc Surg (1996) 111:1248-1256。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
心臓欠損のための手術を受けた患者の肺血管緊張を維持する方法であって:
(a)この手術開始時に、この患者にシトルリンを投与する段階;
(b)この手術中に、この患者にシトルリンを投与する段階;及び
(c)この手術後に、この患者にシトルリンを輸液する段階、
から成る方法。
(項目2)
前記心臓欠損が、過剰な肺血流を伴う項目1に記載の方法。
(項目3)
前記心臓欠損が、心房中隔欠損症である項目1に記載の方法。
(項目4)
前記心房中隔欠損症が、大動脈の中隔欠損症である項目3に記載の方法。
(項目5)
前記心臓欠損が、心室中隔欠損症である項目1に記載の方法。
(項目6)
前記心室中隔欠損が、巨大非拘束型の心室中隔欠損症(VSD)である項目5に記載の方法。
(項目7)
前記心臓欠損が、単心室病変である項目1に記載の方法。
(項目8)
前記単心室病変が、グレン及びフォンタン手術により修復される項目7に記載の方法。
(項目9)
前記手術が、大血管転換手術である項目1〜8のいずれか一項に記載の方法。
(項目10)
前記手術が、心肺バイパス手術である項目1〜8のいずれか一項に記載の方法。
(項目11)
前記心肺バイパス手術が、部分型又は完全型房室中隔欠損(AVSD)を修復するためのものである項目10に記載の方法。
(項目12)
前記心肺バイパス手術が、一次孔欠損型心房中隔欠損症(primum ASD)を修復するためのものである項目10に記載の方法。
(項目13)
前記手術開始時のシトルリンのボーラス投与量が、100〜300mg/kgである項目1〜12のいずれか一項に記載の方法。
(項目14)
前記手術開始時のシトルリンのボーラス投与量が、150mg/kgである項目12に記載の方法。
(項目15)
前記手術中に投与される前記シトルリンが、濾過液に加えられる項目1〜14のいずれか一項に記載の方法。
(項目16)
前記手術中に投与される前記シトルリンが、血液濃縮交換液に加えられる項目1〜14のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記シトルリンが、100〜300μmol/Lで加えられる項目1〜14のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
前記シトルリンが、200μmol/Lで加えられる項目1〜14のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
シトルリンのボーラス投与量が、前記手術から15〜45分後に投与される項目1〜18のいずれか一項に記載の方法。
(項目20)
シトルリンのボーラス投与量が、前記手術から30分後に投与される項目19に記載の方法。
(項目21)
前記シトルリンのボーラス投与量が、20mg/kgである項目20に記載の方法。
(項目22)
シトルリンのボーラス投与量が、心肺バイパス手術(CPB)カニューレ抜去から30分後に投与される項目1〜21のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
手術後、シトルリンを48時間、患者に輸液する項目1〜22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記輸液が、9mg/kg/時間である項目23に記載の方法。
(項目25)
シトルリンが、静脈内投与される項目1〜24のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
シトルリンが、手術前後に投与される項目1〜24のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
シトルリンのボーラス投与量が、前記外科手術の開始時に投与される項目1〜24のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
前記シトルリンのボーラス投与量が、150mg/kgである項目1〜24のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記シトルリンが、前記手術中に使用される前記濾過及び血液濃縮液に200μmol/Lで加えられる項目1〜24のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
20mg/kgのシトルリンのボーラス投与量が、心肺バイパス手術からカニューレ抜去後に投与される項目1〜24のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
心肺バイパス手術からカニューレ抜去後、シトルリンの9mg/kg/時間での連続輸液が、任意に48時間、投与される項目1〜24のいずれか一項に記載の方法。
(項目32)
150mg/kgのシトルリンのボーラス投与量が、前記手術開始時に投与され、続いて手術から4時間後に9mg/kg/時間のシトルリン連続輸液が行われる項目1〜24のいずれか一項に記載の方法。
(項目33)
前記患者が、CPSI遺伝子について、CC、AC、AA、又はそれらの組み合わせのT1405N遺伝子型を有する項目1〜32のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
前記患者が、CPSI遺伝子について、CCのT1405N遺伝子型を有する項目33に記載の方法。
(項目35)
前記患者の血漿シトルリンレベルが、37μmol/Lより高い項目1〜34のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記患者の血漿シトルリンレベルが、100μmol/Lより高い項目1〜34のいずれか一項に記載の方法。
(項目37)
前記患者の血漿シトルリンレベルが、手術後、100μmol/Lより高い項目1〜34のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記患者の血漿シトルリンレベルが、手術後、100〜200μmol/Lに上昇している項目1〜34のいずれか一項に記載の方法。
(項目39)
前記患者の血漿シトルリンレベルが、手術後、最長48時間まで上昇する項目1〜34のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)
前記患者の年齢が、6歳未満である項目1〜39のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)
前記患者が、生後10日未満である項目1〜39のいずれか一項に記載の方法。
(項目42)
前記患者に、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)のリスクがある項目1〜39のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
前記患者に、急性肺損傷のリスクがある項目1〜39のいずれか一項に記載の方法。
(項目44)
心臓欠損のための手術を受けた患者の肺血管緊張を維持する方法であって:
(a)この手術開始時に、この患者に150mg/kgのシトルリンを投与する段階;
(b)この手術中使用される濾過及び血液濃縮液にシトルリンを200μmol/L含ませて、この患者にシトルリンを投与する段階;及び
(c)この手術後4〜48時間に、この患者に9mg/kg/時間のシトルリンを輸液する段階、
から成る方法。
(項目45)
心臓欠損のための手術を受けた患者の血漿シトルリンレベルの維持方法であって:
(a)この手術開始時に、この患者に150mg/kgのシトルリンを投与する段階;
(b)この手術中使用される濾過及び血液濃縮液にシトルリンを200μmol/L含ませて、この患者にシトルリンを投与する段階;及び
(c)この手術後4〜48時間に、この患者に9mg/kg/時間のシトルリンを輸液する段階、
から成る方法。
複数の因子が、肺を、心肺バイパス手術(CPB)中の損傷のリスクにさらす。それらの中でも主要なものは、好中球及び他の白血球、とりわけ補体、及びサイトカイン(炎症促進性及び抗炎症性)の表面活性化、ならびに関連する全身性炎症カスケードである。Apostolakis et al. (2010) Journal of Cardiac Sugery 25(1):47-55; Schure (2010) Southern African Journal of Anesthesia and Analgesia 16(1):46-51。体外循環中の白血球の接触活性化が仲介する炎症性反応により肺がどの程度損傷を受けるかは、臨床上重要性のない微視的変化から毛細血管漏出症候群まで、すなわち、最悪の場合には、急性呼吸不全まで、重篤度が様々である可能性がある。
先天性心疾患(CHD)の手術を受けた小児は、炎症反応における年齢による差、及び小児の未成熟臓器系が損傷に対してより敏感であること、ならびに小児心肺バイパス手術(CPB)と成人CPBとの間の明確な差のため、CPB誘導型急性肺損傷を特に起こしやすい。Kozik & Tweddell (2006) The Annals of Thoracic Surgery 81(6):S2347-S2354。新生児及び乳幼児は、相対的に大きい体外回路の寸法、血液プライミング、及び流速を上昇させる必要がある結果、異種表面に血液がより多く接触するため、特に影響を受ける。Schure (2010) Southern African Journal of Anesthesia and Analgesia 16(1):46-51。
成人心肺バイパス手術(CPB)と小児CPBとの間の違いを、表Aに示す。
特定の理論に固執するつもりはないが、本発明者らは、患者が心肺バイパス手術(CPB)を受ける場合、心血管及び肺機能の変更を臨床上の特徴とする全身性炎症反応が誘導されるものと提案する。この反応の一部として、肺及び全身脈管構造は、収縮して、右心室及び左心室作業負荷の増加を招く。また、炎症反応は、肺浮腫ならびに肺コンプライアンス及び手術後肺機能の悪化を招く。こうした手術後合併症の標準治療として、肺機能が正常に戻るまでの機械式人工呼吸、ならびに肺及び全身性血管緊張が正常に戻るまで、その結果として右心室及び左心室作業負荷が減少するまでの強心療法が挙げられる。
補充に関する試験では、経口シトルリンを、1用量あたり1.9g/m2の投薬量で用い、心肺バイパス手術前、手術後集中治療室に入る際、ならびに12、24、及び36時間の時点で12時間ごとに、投与した。Smith 2006。経口シトルリンは、耐用性が良く、著しい有害事象(全身低血圧など)のエビデンスがなかった。また、12時間の血漿シトルリンレベルが>37μmol/L(正常レベルより上側の範囲)であった患者は、肺血管緊張(PVT)の上昇を起こさなかったことが指摘された。残念ながら、経口シトルリンを投与された患者全員がこのようなレベルに到達したのではなかった。これらの知見は、その後の静脈内シトルリンを用いた試験の計画に役立った。Barr et al. (2007) The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery 134(2):319-326。
先天性心臓手術を受けた小児の大規模前向き観察研究では、シトルリン及びアルギニンの血漿中レベルは、術後、大幅に低下し、最長で48時間まで手術前ベースラインレベルに戻らなかった。
手術前後の静脈内シトルリン補充は、アルギニン及び一酸化窒素(NO)代謝産物の手術後血漿中レベルを上昇させ、手術後の肺血管緊張の上昇を回避し、手術後の侵襲的機械式人工呼吸の期間の縮小を招く。本発明者らは、手術中及び後の肺血管緊張を維持するための改良プロトコルを開発した。このプロトコルは、心肺バイパス手術(CPB)の開始時に150mg/kgの静脈内シトルリンのボーラス投与量の投与、心肺バイパス手術中に使用される濾過又は血液濃縮交換液に200μmol/Lの濃度でL−シトルリンを添加、CPBカニューレ抜去の30分後に20mg/kgのシトルリンのボーラス投与、続いて直ちに9mg/kg/hrの連続輸液48時間を開始する投与を含む。
シトルリン(2−アミノ−5−(カルバモイルアミノ)ペンタン酸)[C6H13N3O3]は、アミノ酸である。静脈内投与用のシトルリン溶液は、当該分野で既知の方法により製造することができる。例えば、Kakimoto, et al. (1971) Appl Microbiol 22(6):992-999を参照されたい。
シトルリンは、手術手術中に投与することができる。適切な投薬量として、心肺バイパス手術の開始時に、150mg/kgの静脈内シトルリンのボーラス投与、心肺バイパス手術中に使用される濾過及び血液濃縮液に200μmol/Lの濃度でL−シトルリンを添加、心肺バイパス手術からカニューレ抜去の30分後、20mg/kgのボーラス投与、続いて直ちに9mg/kg/hrの連続輸液48時間を開始することが挙げられる。濾過又は血液濃縮交換液は、シトルリン濃度が200μmol/Lとなるようにシトルリンを加えた標準液(例えば、Plasmalyte)として提供することができる。用量は、麻酔導入後に設置される中心静脈内カテーテル又はバイパス回路を介して与えることができる。
静脈内シトルリンで治療された患者の臨床上の予後は、以下により評価することができる:手術後機械式人工呼吸の必要性及び長さ、心エコー図による手術後の肺血管緊張(PVT)の増加の発生率、血清クレアチニン及び肝臓酵素のレベル、変力物質スコア、胸腔チューブドレナージの長さ及び体積、ICU滞在の長さ、入院の長さ、及び/又は生存率。
ドーパミン(mcg/kg/分)×1
+ドブタミン(mcg/kg/分)×1
+ミルリノン(mcg/kg/分)×10
+エピネフリン(アドレナリン)(mcg/kg/分)×100
+フェニレフリン(mcg/kg/分)×100
+ノルエピネフリン(ノルアドレナリン)(mcg/kg/分)×100
=合計変力物質スコア
例えば、Hoffman, et al. Circulation (2003) 107:996-1002を参照されたい。変力物質スコアの低下は、手術後予後が良好であろうことを示す。
実施例1
アルギニン、シトルリン、及び血漿硝酸イオンのレベルとPPHNのリスク
新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)を発症した新生児は、PPHNを発症しない乳幼児に比べて、アルギニン、シトルリン、及び血漿硝酸イオンレベルが低い。10人の新生児で、血漿NO代謝産物(NOx)を、改変グリース反応を用いて測定した;5人はPPHN+であり、5人はPPHN−であった。PPHN+症例では、NOxの平均レベルが有意に低かった(p=0.006)(図4)。PPHNの新生児では、アミノ酸分析でアルギニン及びシトルリンの血漿中レベルが有意に低かった(図4)。2つの群間で、その他の各アミノ酸のレベルに有意差はなかった。患者数が少なすぎるため、NOx及びアミノ酸のレベルと遺伝子型の間の関連性を評価することができなかった。このデータは、PPHNの乳幼児では、尿素サイクル中間体及び産物が減少することを示す。
先天性心疾患を矯正するための心肺バイパス手術を受けた乳幼児及び小児での尿素サイクル機能
心臓手術を受けた乳幼児及び小児について手術後の肺血管緊張の上昇の有症率ならびに尿素サイクル機能の状態を調べた。20ヶ月期を超える、先天性心疾患を矯正するための6つの特定外科手術のうちの1つを必要とした乳幼児及び小児169人についてその後を調べた。表1を参照されたい。保護者の同意後、患者全員から、手術前に遺伝子型を調べるための血液を採取し、またアミノ酸分析のため5つの異なる時点(手術前、手術直後、手術から12時間、24時間、及び48時間後)で血液採取した。ステージIノーウッド手術を受けた患者を除く全ての患者を、平均肺動脈(PA)圧>20mmHgとして定義される手術後の肺血管緊張の上昇(PVT+)についてモニタリングした。ステージIノーウッド手術を受けた乳幼児は、適正な全身圧で動脈飽和<60%とするために使用される吸入NOが臨床上必要であった場合に、PVT+であると定義された。
心肺バイパス手術が尿素サイクル機能及びNO利用度を低下させるかどうか試験するため、手術前後の尿素サイクル中間体及び血漿一酸化窒素代謝産物を分析した。患者169人それぞれから、手術前後の5つの時点で血漿試料を採取し、Beckmann7300アミノ酸分析機(Beckmann、Palo Alto、CA)を用いてカチオン交換クロマトグラフィーにより分析した。アルギニン及びシトルリンを、尿素サイクル流束の主要マーカーとして使用した。血漿一酸化窒素代謝産物レベルを、NO利用度の間接的物差しとして使用し、改変グリース試薬での比色アッセイを用いて540nm吸光度を読んだ。患者は全員、心臓欠損を矯正するために心肺バイパス手術を必要とした。試験集団内において、心肺バイパス手術は、手術後時点の全てにおいて、手術前レベルと比較して平均アルギニンレベルの有意な低下を引き起こした(図5)。同様な低下は、平均シトルリンレベルでも見られた(図6A〜B)。血漿NO代謝産物レベルも、手術直後は低下したが、12時間及び24時間の時点で部分的な回復を示し、その後48時間の時点で手術前に戻った(図7)。対照的に、尿素サイクルに関与しない合計アミノ酸に対してバイパス手術の影響はなかった。尿素サイクルに関与しないアミノ酸は影響されなかったため、このデータは、尿素サイクル機能及びNO基質合成に対する影響は、手術後最長で約48時間続く可能性があることを示唆する。
この試験結果は、先天性心疾患を矯正するために使用される心肺バイパス手術が、尿素サイクル機能の顕著な減少を、一酸化窒素合成の前駆体の利用度の大幅な低下と共に引き起こすことを示している。先天性心疾患の外科的矯正にために使用される心肺バイパス手術は、尿素サイクルの一酸化窒素前駆体の利用度及び血漿NO代謝産物から間接的に測定した一酸化窒素レベルにかなり顕著な低下を引き起こした。尿素サイクルに関与しないアミノ酸は影響を受けなかったため、尿素サイクル機能及びNO基質合成に対する影響は、手術後最長で約48時間続く可能性がある。手術後の肺血管緊張が上昇した患者は、アルギニンレベルが、正常緊張の患者よりも顕著に低下した。
静脈内シトルリン補充は、血漿アルギニンレベルを上昇させる
目的は、子ブタでの静脈内シトルリンの安全性及び血清アルギニンレベルに対するその効果を評価することであった。目的最小体重4kgで5〜21日齢のデュロックスワイン種を、合計9匹使用した。子ブタは全て、麻酔導入及び気管開口術を受けた。大腿動脈及び大腿静脈に中心ラインを置き、血行動態を連続してモニタリングした。5匹の子ブタにシトルリン(600mg/kg、静脈内)を投与した。対照動物には生理食塩水を投与した。血清アミノ酸を、シトルリン投与前及び投与後1時間ごとに採取した。
先天性心臓手術を受けた小児での手術前後の経口シトルリン補充
この試験の目的は、静脈内シトルリンの代替可能品としての経口シトルリンの吸収を評価し、安全性を実証することであった。上記に同定される外科診断5つのうち1つを受けた患者40人を無作為に分け、5回用量の経口シトルリン(1.9グラム/kg)対プラセボを投与した。最初の用量は手術直前、第二の用量は手術後、小児ICUに到着次第、その後12時間ごとに3回の用量を投与した。血漿シトルリンレベルは、シトルリン群のほうが有意に高かった(36対26μmol/L、p=0.013)ことから、適切な吸収が実証された。
手術中のシトルリン投与
最初の目的は、特定先天性心疾患の外科的修復を受けた小児における3回用量の静脈内シトルリンの安全性及び薬物動態を試験することであった。静脈内シトルリン投与は、理論上、全身性動脈性低血圧のリスクがあった。平均動脈圧の有害な低下は、ベースラインから20パーセントを超える低下として定義された。手術後平均動脈血圧のベースラインを、手術後用量の投与又は輸液を行った直後から30分間、5分ごとに集めた平均動脈血圧測定値の平均として計算した。次いで、ベッドサイドモニターのアラームを、48時間の試験期間中いつの時点でも20%の低下が起こったら鳴るように設定した。
先天性心臓手術を受けた小児の手術前後の静脈内L−シトルリン薬物動態
静脈内シトルリンの単回ボーラス投与量の消失及び最適投薬頻度を求めるため、3種の濃度の静脈内シトルリン投与:50、100、及び150mg/kgを用いる用量漸増計画を使用した。この用量のシトルリンを、手術室でカニューレ挿入及び心肺バイパス手術開始の直後に投与した。全体的な目標は、最初の投薬から最長4時間、シトルリンレベルを100μmol/L以上に持続させることであった。4時間という時点は、外科手術を完了させることができ、患者が手術後、さらに投薬される前にICUに戻ることができるように選択された。複合シトルリンデータを図12に示す。
静脈内シトルリン試験
行った静脈内シトルリン試験は、無作為化、プラセボ対照、二重盲検試験であり、主要臨床評価項目は、手術後の機械式人工呼吸の長さであり、副臨床評価項目は、2つの治療群(シトルリン対プラセボ)間の手術後肺高血圧の発生率であった。
心臓手術用のシトルリンの投与プロトコル
当初の薬物動態モデルは、閉鎖系を推定していた。手術中の顕著な代謝及び尿排出の不在下で、このモデルは、当初のシトルリンのボーラス投与により到達した治療上レベルが手術期間中維持されることを推定していた。しかしながら、試験過程初期の不明な時点で、灌流の実行を変更して、手術全体を通じて積極的限外濾過及び晶質交換を組み込むことにした。これは、限外濾過によりシトルリンが循環から効果的に除去されて、シトルリンレベルを再調査すると、治療的薬物レベルを達成した患者が事実上いなかったことを意味した。
試験過程の初期に、2カ所の参加施設のうち1カ所が、定常的に、手術室で、心肺バイパス手術後直ちに、全ての患者から抜管していたことがわかった。このため、機械式人工呼吸の期間をエンドポイントとして使用することから除外した。そのかわり、全ての形態の換気補助の期間を可能なエンドポイントとして使用する事後分析を適用した。図16は、プラセボ対照群が人工呼吸器時間のおおまかな二峰型分布を有することを示し、小児の中には、長期間呼吸補助を受けたままのものがいた。対照的に、シトルリン治療された小児は、1つの異常値を除いて、単峰型分布を示し、呼吸補助の期間も減少した。図15を参照されたい。プラセボ群とシトルリン群との間の差は、有意とはならなかったが、サタスウェイト検定を適用した場合、傾向を強く示した。対照的に、表5に示す分割表解析から、境界領域の有意性が得られた。全体として、これらの結果は、傾向を強く示していると考えられる。
シトルリン配合物
滅菌シトルリンは、最初に、アルギニンの細菌(Streptococcus faecalis)発酵、続いて分離及び抽出段階というプロセスを利用して、非滅菌バルク粉末として製造することができる。次いで、非滅菌バルク粉末を、再構築して、エンドトキシン還元及び滅菌濾過段階を施し、続いて、無菌環境中で、結晶化、乾燥、及び微粒子化を行う。次いで、滅菌バルク粉末を、ガラスバイアルに無菌充填するための「原材料」として使用して、最終製剤を製造する。これは、使用前に、滅菌希釈剤で再構築を行う。
先天性心疾患の外科的修復のための心肺バイパス手術(CPB)を受けた小児及び乳幼児に対する静脈内L−シトルリン投与の薬物動態(PK)及び安全性
多施設、第IBフェーズ単純盲検、無作為化、プラセボ対照試験を行って、先天性心疾患の外科的修復のための心肺バイパス手術(CPB)を受けた小児及び乳幼児に対する静脈内L−シトルリン投与の薬物動態(PK)及び安全性を調べた。
Claims (13)
- 心臓欠損のための手術を受ける患者の肺血管緊張の維持に使用するための医薬であって、前記医薬はシトルリンを含み、前記医薬は、
(a)前記手術開始時に、前記患者に100〜300mg/kgのシトルリンを投与する段階;
(b)前記手術中に、血液濃縮交換液を介して前記患者に100〜300μmol/Lのシトルリンを投与する段階であって、前記シトルリンは、100〜300μmol/Lで血液濃縮交換液に添加される、段階;
(c)心肺バイパス手術後のカニューレ抜去の15〜45分後に10〜30mg/kgシトルリンのボーラスを投与する段階;及び
(d)前記手術後に、6〜48時間の間5〜15mg/kg/時間で前記患者にシトルリンを輸液する段階、
を含む方法において使用されることを特徴とし、
ここで、前記患者の血漿シトルリンレベルが少なくとも100μmol/Lに上昇する、医薬。 - 前記心臓欠損が、過剰な肺血流、心房中隔欠損症、大動脈の中隔欠損症、心室中隔欠損症、巨大非拘束型の心室中隔欠損症、単心室病変、部分型房室中隔欠損、完全型房室中隔欠損、または、一次孔欠損型心房中隔欠損症を伴う請求項1に記載の医薬。
- 前記手術が、大血管転換手術、または、グレン手術およびフォンタン手術を含む請求項1〜2のいずれか一項に記載の医薬。
- 段階(a)における前記手術開始時のシトルリンのボーラス投与量が、150mg/kgのシトルリンである請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬。
- 段階(b)における前記シトルリンが、200μmol/Lで加えられる請求項1、3、または、4のいずれかに記載の医薬。
- シトルリンのボーラス投与量が、前記手術から30分後に投与される請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬。
- 段階(c)における前記シトルリンのボーラス投与量が、20mg/kgシトルリンである請求項6に記載の医薬。
- 段階(c)におけるシトルリンのボーラス投与量が、心肺バイパス手術からのカニューレ抜去から30分後に投与される請求項1〜7のいずれか一項に記載の医薬。
- 段階(d)におけるシトルリン輸液が48時間、9mg/kg/時間で前記患者に輸液される請求項1〜8のいずれか一項に記載の医薬。
- 前記患者の年齢が、6歳未満であるか、生後10日未満であるか、新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)のリスクがあるか、急性肺損傷のリスクがあるか、または、これらの組み合わせである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の医薬。
- 前記患者の血漿シトルリンレベルは、手術後48時間、100〜200μmol/Lに上昇する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬。
- 段階(c)において、前記シトルリンの輸液が、シトルリンのボーラス投与の5〜10分以内に開始する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の医薬。
- 段階(a)の終了から段階(d)の開始までを測定した場合に、前記手術が4時間以内に終了する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の医薬。
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