JP6848173B2 - 含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置 - Google Patents

含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置 Download PDF

Info

Publication number
JP6848173B2
JP6848173B2 JP2015201575A JP2015201575A JP6848173B2 JP 6848173 B2 JP6848173 B2 JP 6848173B2 JP 2015201575 A JP2015201575 A JP 2015201575A JP 2015201575 A JP2015201575 A JP 2015201575A JP 6848173 B2 JP6848173 B2 JP 6848173B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
fiber
crystal
fibers
crystals
drug
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2015201575A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2017071590A (ja
Inventor
中林 伊織
伊織 中林
弘至 土倉
弘至 土倉
厚司 桑原
厚司 桑原
安達 宏昭
宏昭 安達
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Toray Industries Inc
Original Assignee
Toray Industries Inc
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Toray Industries Inc filed Critical Toray Industries Inc
Priority to JP2015201575A priority Critical patent/JP6848173B2/ja
Priority to CN201680058945.6A priority patent/CN108137647B/zh
Priority to US15/766,955 priority patent/US10640886B2/en
Priority to EP16853468.3A priority patent/EP3360883B1/en
Priority to PCT/JP2016/078588 priority patent/WO2017061314A1/ja
Publication of JP2017071590A publication Critical patent/JP2017071590A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6848173B2 publication Critical patent/JP6848173B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C30CRYSTAL GROWTH
    • C30BSINGLE-CRYSTAL GROWTH; UNIDIRECTIONAL SOLIDIFICATION OF EUTECTIC MATERIAL OR UNIDIRECTIONAL DEMIXING OF EUTECTOID MATERIAL; REFINING BY ZONE-MELTING OF MATERIAL; PRODUCTION OF A HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; SINGLE CRYSTALS OR HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; AFTER-TREATMENT OF SINGLE CRYSTALS OR A HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; APPARATUS THEREFOR
    • C30B29/00Single crystals or homogeneous polycrystalline material with defined structure characterised by the material or by their shape
    • C30B29/54Organic compounds
    • C30B29/58Macromolecular compounds
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C07ORGANIC CHEMISTRY
    • C07KPEPTIDES
    • C07K1/00General methods for the preparation of peptides, i.e. processes for the organic chemical preparation of peptides or proteins of any length
    • C07K1/14Extraction; Separation; Purification
    • C07K1/30Extraction; Separation; Purification by precipitation
    • C07K1/306Extraction; Separation; Purification by precipitation by crystallization
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C30CRYSTAL GROWTH
    • C30BSINGLE-CRYSTAL GROWTH; UNIDIRECTIONAL SOLIDIFICATION OF EUTECTIC MATERIAL OR UNIDIRECTIONAL DEMIXING OF EUTECTOID MATERIAL; REFINING BY ZONE-MELTING OF MATERIAL; PRODUCTION OF A HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; SINGLE CRYSTALS OR HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; AFTER-TREATMENT OF SINGLE CRYSTALS OR A HOMOGENEOUS POLYCRYSTALLINE MATERIAL WITH DEFINED STRUCTURE; APPARATUS THEREFOR
    • C30B7/00Single-crystal growth from solutions using solvents which are liquid at normal temperature, e.g. aqueous solutions
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N15/00Mutation or genetic engineering; DNA or RNA concerning genetic engineering, vectors, e.g. plasmids, or their isolation, preparation or purification; Use of hosts therefor
    • C12N15/09Recombinant DNA-technology

Landscapes

  • Chemical & Material Sciences (AREA)
  • Organic Chemistry (AREA)
  • Crystallography & Structural Chemistry (AREA)
  • Engineering & Computer Science (AREA)
  • Materials Engineering (AREA)
  • Metallurgy (AREA)
  • Biophysics (AREA)
  • Medicinal Chemistry (AREA)
  • Life Sciences & Earth Sciences (AREA)
  • Biochemistry (AREA)
  • Analytical Chemistry (AREA)
  • General Health & Medical Sciences (AREA)
  • Genetics & Genomics (AREA)
  • Health & Medical Sciences (AREA)
  • Molecular Biology (AREA)
  • Proteomics, Peptides & Aminoacids (AREA)
  • Sampling And Sample Adjustment (AREA)
  • Crystals, And After-Treatments Of Crystals (AREA)
  • Peptides Or Proteins (AREA)
  • Materials For Medical Uses (AREA)
  • Analysing Materials By The Use Of Radiation (AREA)

Description

本発明は、含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置に関する。より詳細には、本発明は、機械的強度が優れ、高精度な構造解析を実施し得る含繊維結晶、および、このような含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置、ならびにこのような含繊維結晶を用いた薬剤ソーキング装置に関する。
従来、タンパク質、核酸等の生体物質の立体構造の解析が進められている。生体物質の立体構造を解明することは、たとえばその生体物質と結合し得る新規の医薬品等を開発するうえで重要である。生体物質の立体構造を解析する手法として、たとえば、結晶構造解析が知られている。結晶構造解析は、生体物質の結晶を準備し、結晶格子でX線等を回折させ、回折結果を解析して構造を明らかにする手法である。
ところで、生体物質の結晶は、無機化合物の結晶とは異なり、極めて脆い。そのため、取り扱いが難しい。そこで、生体物質をゲル中で結晶化させる技術が提案されている(特許文献1)。
国際公開第2009/091053号
特許文献1に記載の結晶製造方法は、溶液中から結晶を析出させるよりも、結晶を簡便に製造することが可能である点で有用であるが、ゲルが乾燥しやすく、乾燥に対するケアが求められる。また、ゲル中に形成された結晶を取り出す作業は、いくらかの熟練を要する。そのため、特許文献1に記載の方法は、さらなる改善の余地がある。
本発明は、このような従来の方法とは異なり、機械的強度が優れ、取り扱いやすく、高精度な構造解析を行うことのできる含繊維結晶、および、このような含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置、ならびにこのような含繊維結晶を用いた薬剤ソーキング装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、複数の繊維を取り込ませることにより、得られる結晶の機械的強度が優れ、取り扱いやすく、高精度な構造解析を行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、上記課題を解決する本発明の含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置には、以下の構成が主に含まれる。
(1)生体物質の結晶である結晶本体と、前記結晶本体に少なくとも一部が取り込まれた複数の繊維とを含む、含繊維結晶。
このような構成によれば、含繊維結晶は、結晶本体と、結晶本体に一部が取り込まれた複数の繊維とを含む。結晶本体が、脆い結晶を形成しやすい生体物質からなる場合であっても、得られる含繊維結晶は、取り込まれた複数の繊維によって機械的強度が高められる。また、このような含繊維結晶は、結晶が析出する面(析出面)に対して、繊維が点接触し得る。そのため、結晶本体そのものが析出面に対して面接触する場合と比較して、たとえばクライオループを用いて掬い取るように抽出する際に、析出面から抽出しやすい。その結果、得られる含繊維結晶は、破壊されることなく、抽出されやすい。また、複数の繊維は、いずれも結晶本体中において、不規則な方向に取り込まれ得る。そのため、これらの繊維は、たとえば結晶構造解析を行う際に、回折点として認識されにくく、構造解析結果に影響しにくい。その結果、高精度の構造解析が行われ得る。仮に規則的であり、回折点を生じる場合でも、規則的な繊維のみで回折点を計測し、それを含繊維結晶の回折結果から除去することで構造解析を行ない得る。
(2)易崩壊性の結晶である結晶本体と、前記結晶本体に少なくとも一部が取り込まれた複数の繊維とを含む、含繊維結晶。
このような構成によれば、含繊維結晶は、結晶本体と、結晶本体に一部が取り込まれた複数の繊維とを含む。そのため、易崩壊性の結晶であっても、得られる含繊維結晶は、取り込まれた複数の繊維によって機械的強度が高められている。また、このような含繊維結晶は、結晶が析出する面(析出面)に対して、繊維が点接触し得る。そのため、結晶本体そのものが析出面に対して面接触する場合と比較して、たとえばクライオループを用いて掬い取るように抽出する際に、析出面から抽出しやすい。その結果、得られる含繊維結晶は、破壊されることなく、抽出されやすい。また、複数の繊維は、いずれも結晶本体中において、不規則な方向に取り込まれ得る。そのため、これらの繊維は、たとえば結晶構造解析を行う際に、回折点として認識されにくく、構造解析結果に影響しにくい。その結果、高精度の構造解析が行われ得る。仮に規則的であり、回折点を生じる場合でも、規則的な繊維のみで回折点を計測し、それを含繊維結晶の回折結果から除去することで構造解析を行ない得る。
(3)前記生体物質は、生体高分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸または糖鎖である、(1)または(2)記載の含繊維結晶。
このような構成によれば、これらの生体物質の構造は、高精度で解析され得る。そのため、これらの生体物質に作用し得る医薬品等を開発する際の利便性が向上し得る。
(4)前記生体物質は、天然タンパク質、合成タンパク質、人工タンパク質、天然ペプチド、合成ペプチド、人工ペプチド、天然核酸、合成核酸、人工核酸、天然糖鎖、合成糖鎖および人工糖鎖から選択される、(3)記載の含繊維結晶。
このような構成によれば、これらの生体物質の構造は、高精度で解析され得る。そのため、これらの生体物質に作用し得る医薬品等を開発する際の利便性が向上し得る。
(5)前記繊維の太さが、1nm〜0.1mmである、(1)〜(4)のいずれかに記載の含繊維結晶。
このような構成によれば、このような寸法の繊維は、結晶本体内に一部が取り込まれやすい。そのため、得られる結晶は、より取扱われやすく、かつ、高精度の構造解析が行われやすい。
(6)前記繊維は、アラミド繊維、セルロース系繊維、または、ポリアリレート繊維である、(1)〜(5)のいずれかに記載の含繊維結晶。
このような構成によれば、繊維は、微細に加工されやすい。また、繊維は、結晶本体内に取り込まれやすい。さらに、繊維は、強度や弾性等の力学的特性が優れる。加えて、得られる含繊維結晶中の繊維は、構造解析結果に影響しにくい。
(7)構造解析用である、(1)〜(6)のいずれかに記載の含繊維結晶。
このような構成によれば、得られる含繊維結晶は、従来の結晶よりも機械的強度が高められており、かつ、取り扱いやすい。そのため、含繊維結晶は、構造解析用途として特に有用である。
(8)前記構造解析は、X線結晶構造解析、中性子結晶構造解析、または、電子顕微鏡観察である、(7)記載の含繊維結晶。
このような構成によれば、得られる含繊維結晶は、充分な機械的強度を有しているため、これらの構造解析を行う場合であっても、破壊されにくく、結晶品質を維持できるため、信頼性の高い解析データが得られやすい。
(9)含繊維結晶の製造方法であり、複数の繊維を準備する準備工程と、生体物質が溶解した溶液を、前記複数の繊維上に添加する添加工程と、前記溶液中における前記生体物質の濃度を高めて、結晶を析出させる結晶化工程と、得られた結晶のうち、内部に複数の繊維の一部が取り込まれた含繊維結晶を抽出する抽出工程とを含む、含繊維結晶の製造方法。
このような構成によれば、準備工程では、複数の繊維が準備される。そのため、たとえば従来のゲルを用いる場合と比較して、ゲルの乾燥等の問題が発生しない。また、添加工程では、このような繊維の上に、生体物質の溶解した溶液を添加すればよく、簡便である。また、抽出工程では、結晶は破壊されにくく、抽出されやすい。
(10)抽出された前記含繊維結晶を、薬剤が溶解した薬剤溶液に浸漬させる薬剤浸漬工程をさらに含む、(9)記載の含繊維結晶の製造方法。
このような構成によれば、得られた結晶に対して、活性を示し得る薬剤を容易に探索することができる。そのため、薬剤ソーキングの利便性が著しく向上し得る。
(11)前記抽出工程後の前記含繊維結晶を凍結する凍結工程をさらに含む、(9)記載の含繊維結晶の製造方法。
このような構成によれば、得られた結晶は、適宜凍結され得る。本発明の結晶は、複数の繊維を含んでいる。このような結晶は、凍結される際に、結晶構造が破壊されにくい。そのため、凍結された結晶は、たとえばX線結晶構造解析等の各種構造解析を行いやすい。
(12)前記薬剤浸漬工程後の前記含繊維結晶を凍結する凍結工程をさらに含む、(10)記載の含繊維結晶の製造方法。
このような構成によれば、得られた結晶は、薬剤と結合した状態で、適宜凍結され得る。本発明の結晶は、複数の繊維を含んでいる。このような複合体結晶は、凍結される際に、結晶構造が破壊されにくい。そのため、凍結された複合体結晶は、たとえばX線結晶構造解析等の各種構造解析を行いやすい。その結果、含繊維結晶中の生体物質と薬剤との結合様式等が解析されやすい。
(13)前記凍結工程は、前記含繊維結晶を、抗凍結剤に浸漬した後に凍結する工程である、(11)または(12)記載の結晶の製造方法。
このような構成によれば、含繊維結晶中の水は、アモルファス状に凍結される。その結果、含繊維結晶中の水分は、構造解析の結果に影響しにくい。
(14)含繊維結晶の製造装置であり、複数の繊維が敷設された繊維保持部と、生体物質が溶解した溶液が保持された溶液保持部と、前記溶液保持部から前記溶液を抽出し、前記繊維保持部に敷設された前記複数の繊維上に添加する溶液添加部と、所定時間経過後に前記溶液中において析出した結晶のうち、内部に前記複数の繊維の一部が取り込まれた含繊維結晶を抽出する抽出部とを含む、含繊維結晶の製造装置。
このような構成によれば、複数の繊維の一部が取り込まれた含繊維結晶が製造される。得られる結晶は、取り込まれた複数の繊維によって機械的強度が高められている。また、このような結晶は、結晶が析出する面(析出面)に対して、繊維が点接触し得る。そのため、結晶そのものが析出面に対して面接触する場合と比較して、析出面から抽出しやすい。その結果、得られる結晶は、破壊されることなく、抽出されやすい。また、複数の繊維は、いずれも結晶本体中において、不規則な方向に取り込まれ得る。そのため、これらの繊維は、たとえば結晶構造解析を行う際に、回折点として認識されにくく、構造解析結果に影響しにくい。その結果、高精度の構造解析が行われ得る。
(15)生体物質の結晶である結晶本体と、前記結晶本体に少なくとも一部が取り込まれた複数の繊維とを含む、含繊維結晶が保持された結晶保持部と、薬剤が溶解した薬剤溶液が保持された薬剤保持部と、前記薬剤保持部から前記薬剤を抽出し、前記含繊維結晶に添加する薬剤添加部とを備える、薬剤ソーキング装置。
このような構成によれば、複数の繊維の一部が取り込まれた含繊維結晶に対して、薬剤が添加される。そのため、得られた結晶に対して、活性を示し得る薬剤を容易に探索することができる。そのため、薬剤ソーキングの利便性が著しく向上し得る。
(16)前記薬剤は、種類の異なる複数の薬剤からなり、前記結晶保持部は、前記含繊維結晶がそれぞれ収容された複数のウェルを備え、前記薬剤添加部は、それぞれの前記ウェルに収容されたそれぞれの前記含繊維結晶に対して、それぞれ異なる前記薬剤を滴下する、(15)記載の薬剤ソーキング装置。
このような構成によれば、1回的な操作により、結晶に対して、複数の薬剤の活性が確認され得る。そのため、結晶に対して活性を示し得る薬剤を容易かつ迅速に探索することができる。そのため、薬剤ソーキングの利便性が著しく向上し得る。
本発明によれば、機械的強度が優れ、取り扱いやすく、高精度な構造解析を行うことのできる含繊維結晶、および、このような含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置、ならびにこのような含繊維結晶を用いた薬剤ソーキング装置を提供することができる。
図1は、本発明の一実施形態の含繊維結晶の顕微鏡写真である。 図2は、凍結工程において、抗凍結剤に120秒間浸漬した含繊維結晶の回折像である。 図3は、凍結工程において、抗凍結剤に120秒間浸漬した従来の結晶の回折像である。 図4は、凍結工程において、抗凍結剤に300秒間浸漬した含繊維結晶の回折像である。 図5は、実施例2で得られた含繊維結晶の顕微鏡写真である。 図6は、実施例3で得られた含繊維結晶の顕微鏡写真である。 図7は、実施例4で得られた含繊維結晶の顕微鏡写真である。 図8は、実施例5で得られた含繊維結晶の顕微鏡写真である。 図9は、参考例1および参考比較例1の上澄み液の外観写真である。 図10は、実施例8で得られた含繊維結晶の顕微鏡写真である。
<含繊維結晶>
本発明の一実施形態の含繊維結晶は、結晶本体と、結晶本体に一部が取り込まれた複数の繊維とを含む。以下、それぞれの構成について説明する。
(結晶本体)
結晶本体は、生体物質の結晶であるか、または、易崩壊性の結晶である。なお、以下の説明において、生体物質の結晶および易崩壊性の結晶の両方に共通する記載に関しては、これらをまとめて「生体物質等」の結晶と称する場合がある。
生体物質は、本実施形態の含繊維結晶を主に構成する物質である。生体物質としては特に限定されない。一例を挙げると、生体物質は、生体高分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖、糖脂質、糖タンパク質、ベクター、抗体または抗原等である。
本実施形態において、「生体物質」とは、生体由来の物質であってもよく、同一の構造を有する合成物質であってもよく、類似の構造を有する誘導体や人工物質であってもよい。すなわち、たとえば生体物質が生体高分子化合物である場合、生体高分子化合物は、生体由来の高分子化合物であってもよく、同一の構造を有する合成高分子化合物であってもよく、類似の構造を有する誘導体や人工高分子化合物であってもよい。また、生体物質がタンパク質である場合、タンパク質は、生体由来(天然由来)のタンパク質(天然タンパク質)であってもよく、合成タンパク質であってもよく、天然に存在しない人工タンパク質であってもよい。生体物質がペプチドである場合、ペプチドは、生体由来(天然由来)のペプチド(天然ペプチド)であってもよく、合成ペプチドであってもよく、天然に存在しない人工ペプチドであってもよい。生体物質が核酸である場合、核酸は、生体由来(天然由来)の核酸(天然核酸)であってもよく、合成核酸でもあってもよく、天然に存在しない人工核酸であってもよい。生体物質が糖鎖である場合、糖鎖は、生体由来(天然由来)の糖鎖(天然糖鎖)であってもよく、合成糖鎖であってもよく、天然に存在しない人工糖鎖であってもよい。
本実施形態の含繊維結晶は、後述するように、取り込まれた複数の繊維によって機械的強度が高められ得る。そのため、生体物質が生体高分子化合物、タンパク質、ペプチド、核酸または糖鎖のような本来脆い結晶を形成する物質であっても、充分に機械的強度の高められた含繊維結晶が形成され得る。その結果、これらの生体物質は、高精度で解析され得る。
生体物質の分子量は、特に限定されない。すなわち、生体物質の分子量は、生体物質の種類によって異なる。一例を挙げると、生体物質の分子量は、生体物質が生体高分子化合物である場合、たとえば5000以上である。また、生体物質の分子量は、生体物質がペプチドである場合、たとえば1000以上である。
易崩壊性の結晶は、易崩壊性の物質から構成される結晶である。易崩壊性の物質は、本実施形態の含繊維結晶を主に構成する。本実施形態において、易崩壊性の結晶は、物理的な応力、溶媒等の化学物質との接触により、崩壊しやすい結晶形を形成する結晶をいう。易崩壊性結晶には、タンパク質、ペプチド、核酸、糖鎖等の生体物質の結晶のように結晶中に比較的大きな隙間を有し、その結晶を形成する結合が比較的弱い結晶が含まれる。また、同様の形態を有する結晶であれば、易崩壊性結晶は、これら生体物質に限定されず、それらを含めて本実施形態では易崩壊性の結晶と称する。以下の説明では、易崩壊性の結晶を形成する典型例である生体物質を主に説明する。本実施形態の易崩壊性結晶は、生体物質の結晶に特に限定されず、易崩壊性の結晶体であれば、同様に扱われ得る。具体的には、易崩壊性の物質の結晶は、「JIS Z 2244:2009 ビッカース硬さ試験」によって測定されるビッカース硬さが10HV以下である結晶であり、より好ましくは5HV以下である結晶である。なお、ビッカース硬さの下限は特に限定されない。上記試験法に用いる測定機器において測定不能レベルのビッカース硬さであってもよい。例えば、自己組織化するような有機化合物の超巨大分子は結晶化が難しく、結晶ができても易崩壊性である場合があり、本実施形態において有用に用いることができる。このような易崩壊性の結晶である結晶本体は、後述するように、取り込まれた複数の繊維によって機械的強度が高められ得る。具体的には、ビッカース硬さが0.05HV以上に高められ、より好ましくは0.1HV以上に高められ得る。そのため、結晶本体が易崩壊性の物質からなる場合であっても、充分に機械的強度の高められた含繊維結晶が形成され得る。その結果、これらの易崩壊性の物質は、高精度で解析され得る。
結晶本体全体の説明に戻り、結晶本体の寸法は特に限定されない。結晶本体の寸法は、使用の目的に応じて適宜決定すればよい。含繊維結晶をX線構造解析に用いる場合、5μm角以上の大きさがあることが好ましく、X線自由電子レーザーであれば、ナノサイズの結晶でも構造解析が可能であるので、下限値としては50nm角以上であってもよい。上限としても特に制限はなく、結晶本体は、所望のサイズに成長されればよい。中性子線回折に用いる場合には比較的大きな結晶であることが望ましく、10mm角程度あれば充分である。上記において、「5μm角以上」等の表現は、形状を限定するものではなく、概ねその程度の大きさがあればよいことを意味する。
(繊維)
繊維は、結晶本体に一部が取り込まれる繊維である。本実施形態の含繊維結晶は、複数の繊維が結晶本体に取り込まれている。繊維は、結晶本体の内部に完全に取り込まれてもよく、一部が結晶本体の表面から外部に露出するように取り込まれてもよい。本実施形態の含繊維結晶は、少なくとも複数の繊維が、結晶本体の表面から露出した状態で取り込まれている。
繊維の種類は特に限定されない。一例を挙げると、繊維は、ポリエチレン等ポリオレフィン系繊維、ナイロン系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、アラミド(全芳香族ポリアミド)繊維、セルロース系繊維、ポリアリレート(全芳香族ポリエステル)繊維等が使用され得る。より具体的には、繊維は、アラミド繊維(メタアラミド繊維、パラアラミド繊維)、ポリテトラフルオロエチレン繊維、セルロース系繊維、ポリアリレート(全芳香族ポリエステル)繊維等である。これらの中でも、繊維は、微細に加工しやすく、結晶本体に取り込まれやすく、強度や弾性等の力学的特性が優れる点から、アラミド繊維、セルロース系繊維、ポリアリレート繊維であることが好ましい。
繊維の長さは特に限定されない。繊維が直線状に存在するか、湾曲して存在するかによって、あるいは成長させる結晶のサイズによって異なる。長すぎると結晶本体の表面から露出した繊維が取り込まれなかった繊維と絡まり、抽出しにくくなる傾向がある。そこで、繊維の長さは、結晶のサイズに応じて適宜選択されればよい。一例を挙げると、繊維の長さは、100nm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましい。また、繊維の長さは、10mm以下であることが好ましく、1mm以下であることがより好ましく、得ようとする結晶サイズの1/10程度以下であることがさらに好ましい。繊維の長さが100nm〜1mmであり、かつ、得ようとする結晶サイズの1/10程度以下のものが多く含まれる場合、結晶化に際して、結晶本体の表面から露出する繊維が長くなりすぎず、得られる結晶は、取扱性が優れる。
繊維の太さ(径)は特に限定されない。一例を挙げると、繊維の太さは、1nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましい。また、繊維の太さは、100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。繊維の太さが10nm〜10μmである場合、このような繊維は、結晶化に際して、少なくとも一部が結晶本体の表面から露出した状態で取り込まれやすい。また、このような繊維は、結晶本体の機械的強度を高めやすい。繊維の形態は、一本の線形のものでも、一本の太い繊維がフィブリル化して複数本に枝分かれたパルプ形状のものでも良い。
また、繊維の太さ(径)は、上記した実際の寸法に代えて、または、上記した実際の寸法とともに、結晶全体の寸法との関係に基づいて定義されてもよい。すなわち、繊維の太さ(径)は、結晶の径の1/1000以上であることが好ましく、1/500以上であることがより好ましい。また、繊維の太さ(径)は、結晶の径の1/10以下であることが好ましく、1/20以下であることがより好ましい。繊維の太さ(径)が上記範囲内である場合、繊維は、結晶本体内に一部が取り込まれやすい。そのため、得られる結晶は、より取扱われやすく、かつ、高精度の構造解析が行われやすい。
繊維の形態としては、結晶に複数の繊維を取り込ませることができる限り特に制限はない。繊維の形態は、何らかの形状(たとえば螺旋状、波状等)に縮れて湾曲するか、または、複数の繊維が互いに交差するか、絡まるかによってウェブが形成されていてもよく、繊維が螺旋形状を形成されていてもよく、さらには織編物等その他の三次元のネットワークが形成されていてもよい。このようなネットワークを形成する繊維の少なくとも一部が結晶本体に取り込まれることにより、結晶本体は、周囲を流動する溶液によって加えられるわずかな外力や、含繊維結晶を抽出する際の負荷から保護され得る。その結果、含繊維結晶は、より崩壊しにくい。なお、本発明において、「結晶本体に少なくとも一部が取り込まれた複数の繊維」の「複数の繊維」とは、結晶本体に複数の繊維が取り込まれている状態をいい、結晶本体から突出した繊維が再びループを描いて再度結晶本体に含まれる場合も複数と理解するものとする。より具体的には、繊維の形態は、パルプ状あるいは、繊維(好ましくは繊維径1μm以下の繊維として定義されるナノファイバー)の凝集体、不織布、織布等の形態であってよい。
繊維は、市販品が使用されてもよく、調製されてもよい。繊維は、好ましくは、メタアラミド繊維パルプ、パラアラミド繊維パルプ等のアラミド繊維パルプ、ポリアリレート繊維パルプ、ポリテトラフルオロエチレン繊維パルプ、セルロース繊維パルプ、クラフトパルプ、古紙パルプ、機械パルプ等が例示でき、より好ましくはアラミド繊維パルプ、セルロース系繊維パルプ、または、ポリアリレート繊維パルプである。市販品としては、繊維は、東レ・デュポン製“ケブラー(登録商標)”パルプ、テイジン・アラミド製“トワロン(登録商標)”パルプ等が好適に使用される。調製される場合、繊維の調製方法は特に限定されない。一例を挙げると、繊維は、短くカットした繊維、織布または不織布を叩解するか、または、微細に切断することによって調製される。具体的には、繊維は、適宜叩解された後、あるいは微細に切断された後、たとえばエタノール等の溶媒中に懸濁され、遠心分離される。その結果、上澄みには、より長さが短く、径の小さな繊維が含まれることとなる。このような上澄みは、回収され、必要に応じて乾燥される。これにより、長さおよび太さが上記範囲内に調整された繊維が調製され得る。
含繊維結晶全体の説明に戻り、図1は、本実施形態の含繊維結晶の顕微鏡写真である。図1では、リゾチームの結晶本体に、複数のメタアラミドパルプが取り込まれた含繊維結晶が例示されている。図1に示されるように、本実施形態の含繊維結晶は、取り込まれた複数の繊維のうち、一部が結晶本体の表面から外部に露出している。繊維の太さは微細であるため、柔軟である。そのため、含繊維結晶は、結晶が析出する面(析出面)に対して、繊維が点接触し得る。このような析出面に対して点接触している含繊維結晶は、結晶本体そのものに触れることなく、露出した繊維の部分を掬うようにして抽出することができる。あるいは、複数の繊維を取り込みながら成長した含繊維結晶は、結晶中に含まれなかった残余の繊維(含繊維結晶中に含まれず、同結晶に接している繊維)が点接触した上に結晶を形成した形になっている。このような析出面に対して点接触している含繊維結晶は、露出した繊維の部分を掬うようにして容易に抽出することができる。その結果、結晶そのものが析出面に対して面接触する場合と比較して、含繊維結晶は、析出面から抽出しやすい。したがって、得られる含繊維結晶は、破壊されにくい。
また、図1に示されるように、結晶本体の外周において、結晶本体から露出した複数の繊維は、それぞれの繊維が何らかの形状(たとえば螺旋状、波状等)に縮れて湾曲するか、または、複数の繊維が互いに交差するか、絡まるかによって、三次元のネットワーク(またはウェブ)を形成している。このようなネットワークの少なくとも一部を結晶内に含む含繊維結晶本体は、その内部を複数の繊維によって補強されるので、結晶本体は、周囲を流動する溶液によって加えられるわずかな外力や、含繊維結晶を抽出する際の負荷から保護され得る。その結果、含繊維結晶は、より崩壊しにくい。
さらに、図1に示されるように、複数の繊維は、いずれも結晶本体中において、不規則な方向に取り込まれている。そのため、これらの繊維は、たとえば結晶構造解析を行う際に、回折点として認識されにくく、構造解析結果に影響しにくい。その結果、含繊維結晶は、高精度の構造解析が行われ得る。
本実施形態の含繊維結晶の構造を解析する際の手法は特に限定されない。一例を挙げると、含繊維結晶の構造は、X線結晶構造解析、中性子結晶構造解析、電子顕微鏡観察等の手法により構造を解析し得る。含繊維結晶は、複数の繊維が取り込まれることによって機械的強度が高められているため、これらいずれの構造解析を行う場合であっても、破壊されにくく、信頼性の高い解析データが得られやすい。
<含繊維結晶の製造方法>
本発明の一実施形態の含繊維結晶の製造方法は、複数の繊維を準備する準備工程と、生体物質等が溶解した溶液を、複数の繊維上に添加する添加工程と、溶液中における生体物質等の濃度を高めて、結晶を析出させる結晶化工程と、得られた結晶のうち、内部に複数の繊維の少なくとも一部が取り込まれた含繊維結晶を抽出する抽出工程とを含む。以下、それぞれの構成について説明する。
(準備工程)
準備工程は、複数の繊維を準備する工程である。繊維は、含繊維結晶の実施形態において上記した繊維と同様である。準備工程によれば、複数の繊維が、プレート内に敷設される。プレートの形状は特に限定されない。プレートは、後述する添加工程において溶液を添加しやすい点から、扁平な有底筒状のプレート(たとえばシャーレ)であることが好ましい。
準備工程では、このように、繊維が使用される。そのため、たとえば従来のゲルを用いる場合と比較して、ゲルの乾燥等の問題が発生しない。繊維を含む液をプレートに滴下するなどして、プレートに添加し、乾燥させることが、取扱性の点から好ましい。また、本実施形態の含繊維結晶の製造方法において乾燥した繊維を敷設して使用されるプレートは、プレートに敷設された繊維が乾燥しているので、保管や流通における取扱性に優れる。なお、繊維の乾燥は、たとえば80℃の乾熱機によって12時間以上乾燥させることにより実施し得る。
(添加工程)
添加工程は、生体物質等が溶解した溶液を、複数の繊維上に添加する工程である。生体物質等は、含繊維結晶の実施形態において上記した生体物質等と同様である。生体物質等は、あらかじめ適宜の溶媒に所定濃度となるよう溶解されている。このような溶液は、プレートに敷設された繊維上に、添加される。添加方法は特に限定されない。一例を挙げると、添加方法は、吸引装置(たとえば吸引チップを取り付けたピペット装置)によって溶液を吸引し、その後、繊維上に滴下するように添加する方法を採用し得る。
添加工程は、このように、繊維上に生体物質等が溶解した溶液を滴下するという簡便な操作により実施され得る。そのため、添加工程は、作業に熟練を要することが無く、かつ、再現性が高い。
溶液を構成する溶媒としては特に限定されない。一例を挙げると、溶媒は、公知の結晶製造方法に用いる溶媒であってもよい。より具体的には、溶媒は、水、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、アニソール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ジエチルアミン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トルエン、ブタノール、ブチルメチルエーテル、ヘキサン、ベンゼン、メチルエチルケトン等が例示される。
溶液中における生体物質等の濃度は特に限定されない。一例を挙げると、生体物質等の濃度は、0.2mg/mL以上であることが好ましく、0.5mg/mL以上であることがより好ましく、1.0mg/mL以上であることがさらに好ましい。また、生体物質等の濃度は、300mg/mL以下であることが好ましく、100mg/mL以下であることがより好ましく、50mg/mL以下であることがさらに好ましい。生体物質等の濃度が上記範囲内である場合、調製が比較的容易であり、かつ、後述する結晶化工程において、結晶が析出しやすい。なお、溶媒には、適宜、pH調整剤等が配合されてもよい。
(結晶化工程)
結晶化工程は、溶液中における生体物質等の濃度を高めて、結晶を析出させる工程である。結晶化を行う方法は特に限定されない。結晶化は、単に溶液を静置し、生体物質等の結晶が析出するのを待ってもよい。また、溶液に、沈殿化剤溶液を添加してもよい。沈殿化剤としては特に限定されない。一例を挙げると、沈殿化剤は、公知の結晶製造方法に用いる沈殿化剤であってもよい。より具体的には、沈殿化剤は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酒石酸カリウムナトリウム、クエン酸ナトリウム、PEG(ポリエチレングリコール)、塩化マグネシウム、カコジル酸ナトリウム、HEPES(2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸)、MPD(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)、Tris−HCl(塩酸トリスヒドロキシメチルアミノメタン)等である。沈殿化剤溶液の溶媒は特に限定されない。沈殿化剤溶液の溶媒は、上記した生体物質等の溶液の溶媒と同じであってもよい。沈殿化剤の濃度は特に限定されない。一例を挙げると、沈殿化剤の濃度は、0.0001M以上であることが好ましく、0.0005M以上であることがより好ましい。また、沈殿化剤の濃度は、10M以下であることが好ましく、8M以下であることがより好ましく、6M以下であることがさらに好ましい。沈殿化剤の濃度が上記範囲内である場合、生体物質等の結晶が生成されやすい傾向がある。なお、沈殿化剤には、適宜、pH調整剤等が配合されてもよい。
(抽出工程)
抽出工程は、得られた結晶のうち、内部に複数の繊維の少なくとも一部が取り込まれた含繊維結晶を抽出する工程である。抽出工程は、たとえば観察装置(光学顕微鏡等)によってプレート内を観察し、所望の含繊維結晶を選定し、その後、抽出する。
含繊維結晶の選定は、観察者が目視によって行ってもよく、あらかじめ結晶の形状等が記憶されたプログラムを実行するコンピュータ等によって自動的に選定されてもよい。選定された含繊維結晶は、添加工程において上記した吸引装置によって抽出されてもよく、ループ状のマウント器具(クライオループ)によって周囲の溶液ごと抽出されてもよい。
含繊維結晶は、上記のとおり、取り込まれた複数の繊維のうち、一部が結晶本体の表面から外部に露出している。繊維の太さは微細であるため、柔軟である。そのため、含繊維結晶は、結晶が析出する面(析出面)に対して、繊維が点接触し得る。このような析出面に対して点接触している含繊維結晶は、たとえばループ状のマウント器具を用いて抽出する際に、マウント器具そのものが結晶本体に触れることなく、露出した繊維の部分を掬うようにして抽出することができる。その結果、結晶そのものが析出面に対して面接触する場合と比較して、含繊維結晶は、析出面から抽出しやすい。したがって、得られる含繊維結晶は、破壊されにくい。
抽出された含繊維結晶は、薬剤ソーキングが行われることなく構造解析が行われてもよく、薬剤ソーキングが行われてから構造解析が行われてもよい。以下、それぞれについて説明する。
<薬剤ソーキングが行われることなく構造解析が行われる場合の工程>
(凍結工程)
薬剤ソーキングが行われることなく構造解析が行われる場合、本実施形態の含繊維結晶の製造方法は、抽出工程後の含繊維結晶を凍結する凍結工程をさらに含むことが好ましい。また、凍結工程は、含繊維結晶を、抗凍結剤に浸漬した後に実行されることがより好ましい。これにより、結晶中の水が氷の結晶となることが防がれる。
抗凍結剤としては特に限定されない。一例を挙げると、抗凍結剤は、グリセロール(グリセリン)、MPD(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、PEG(ポリエチレングリコール)、酢酸リチウム等である。これらは、そのまま用いられてもよく、適宜水で希釈された水溶液が用いられてもよい。
ここで、従来の結晶の製造方法によれば、抗凍結剤によって結晶が損傷される場合があった。そのため、抗凍結剤を添加する際には、抗凍結剤の量(濃度)を微調整し、最適な条件をスクリーニングする必要があった。また、生体物質等の種類に応じて、最適な抗凍結剤を探索する必要があった。しかしながら、本実施形態の含繊維結晶は、結晶本体に取り込まれた繊維によって強度が高められている。そのため、抗凍結剤の濃度が特に制限されない。一例を挙げると、本実施形態によれば100%のグリセロール、DMSO、PEG等、または、これらの高濃度水溶液(たとえば50〜60質量%)に結晶を直接浸漬し得る。また、グリセロール、DMSO、PEG等の低濃度水溶液(たとえば10〜50質量%)に結晶を長時間浸漬し得る。より具体的には、本実施形態の含繊維結晶は、25%グリセロール溶液に浸漬する場合において、たとえば120秒以上浸漬しても結晶構造が破壊されず、300秒以上浸漬しても結晶構造が破壊されない。
なお、含繊維結晶の凍結方法は特に限定されない。一例を挙げると、含繊維結晶は、液体窒素に浸漬する方法や、窒素を吹き付ける方法等により凍結させ得る。凍結時の温度は特に限定されない。一般に、たとえばX線結晶構造解析を行う場合、結晶は、100K以下に凍結される。これにより、含繊維結晶中の水は、アモルファス状に凍結される。その結果、含繊維結晶中の水分は、構造解析の結果に影響しにくい。
凍結工程が行われた含繊維結晶は、その後、後述する構造解析工程が行われる。
<薬剤ソーキングが行われてから構造解析が行われる場合の工程>
(薬剤浸漬工程)
薬剤ソーキングが行われる場合、本実施形態の含繊維結晶の製造方法は、抽出工程によって抽出された含繊維結晶を薬剤が溶解した薬剤溶液に浸漬させる薬剤浸漬工程をさらに含むことが好ましい。本実施形態において、薬剤ソーキングとは、含繊維結晶を、薬剤が溶解した薬剤溶液に浸漬することで複合体の結晶を作製する方法である。一例を挙げると、薬剤浸漬工程によれば、複数のウェル(凹部)が形成されたプレートが使用される。それぞれのウェルには、種類や濃度の異なる複数の薬剤が、それぞれ貯留される。それぞれのウェルに対して、含繊維結晶が添加される。その後、結晶化工程において上記した方法と同様の方法により生体物質等および薬剤の濃度が高められると、含繊維結晶を構成する生体物質等と薬剤とが結合した複合体が生じ得る。生じた複合体は、抽出工程において上記した方法と同様の方法により複合体結晶として抽出される。
生体物質等と薬剤との結合は、いずれの結合様式であってもよい。一例を挙げると、生体物質等と薬剤との結合は、共有結合、イオン結合、キレート結合、配位結合、疎水結合、水素結合、ファンデルワールス結合、静電力による結合等である。
(凍結工程)
凍結工程は、薬剤浸漬工程後の含繊維結晶を凍結する工程である。凍結工程は、「薬剤ソーキングが行われることなく構造解析が行われる場合」において上記した凍結工程と同様である。凍結工程は、含繊維結晶を、抗凍結剤に浸漬した後に実行されることがより好ましい。凍結工程によれば、凍結された複合体結晶が得られる。
本実施形態の含繊維結晶の製造方法によれば、以上の工程が行われることにより、含繊維結晶(または含繊維結晶と薬剤との複合体結晶)が製造される。得られる含繊維結晶は、取り込まれた複数の繊維によって機械的強度が高められている。また、複数の繊維は、いずれも結晶本体中において、不規則な方向に取り込まれ得る。そのため、これらの繊維は、たとえば結晶構造解析を行う際に、回折点として認識されにくく、構造解析結果に影響しにくい。その結果、高精度の構造解析が行われ得る。
(構造解析工程)
含繊維結晶の構造解析は、従来から周知の種々の構造解析の手法により行われ得る。一例を挙げると、構造解析は、X線結晶構造解析、中性子結晶構造解析、電子顕微鏡観察等の手法により構造を解析し得る。含繊維結晶は、複数の繊維が取り込まれることによって機械的強度が高められているため、これらいずれの構造解析を行う場合であっても、破壊されにくく、信頼性の高い解析データが得られやすい。以下に、上記結晶化工程および抽出工程が行われた含繊維結晶を、X線結晶構造解析の手法により構造を解析する場合について例示する。
抽出工程によって抽出された含繊維結晶は、プレート上に載置され、適宜、抗凍結剤に浸漬される。本実施形態の含繊維結晶は、強度が高められているため、抗凍結剤に長時間(たとえば0.2M酢酸ナトリウム−5%NaCl−25%グリセロール水溶液に300秒間)浸漬された場合であっても、含繊維結晶が崩壊しない。その後、含繊維結晶は、ループ状のマウント器具によって掬い取られる。掬い取られた含繊維結晶は、たとえば液体窒素に浸漬され、凍結される(上記した凍結工程を参照)。凍結された含繊維結晶は、X線結晶構造解析装置によって構造が解析される。なお、上記記載における抗凍結剤に浸漬されることによる含繊維結晶の「崩壊」とは、X線結晶構造解析が実施できない程度に構造が変化することをいう。
具体的には、含繊維結晶は、単色化されたX線が当てられ、X線の回折像(回折データ)が取得される。得られた回折データからは、生体物質等の電子密度が取得される。さらに、得られた電子密度からは、生体物質等の構造座標が取得される。そして、得られた構造座標に基づいて、生体物質等の三次元構造が解析される。本実施形態の含繊維結晶には、複数の繊維が含まれる。しかしながら、これらの繊維は、いずれも結晶本体において不規則に取り込まれているため、回折点として認識されにくく、構造解析結果に影響しにくい。その結果、得られる解析結果は、高精度である。また、仮に規則的であり、回折点を生じる場合でも、規則的な繊維のみで回折点を計測し、それを含繊維結晶の回折結果から除去することで良好な構造解析が行われ得る。
より具体的には、本実施形態の含繊維結晶の回折像は、図2および図4に示されるように、充分に解析可能である。図2は、凍結工程において、抗凍結剤(0.2M酢酸ナトリウム−5%NaCl−25%グリセロール水溶液)に120秒間浸漬した含繊維結晶(リゾチームの結晶本体に、アラミドパルプ繊維を遠心分離して得られた上澄み液に含まれる繊維を取り込ませた結晶)の回折像である。なお、図3は、凍結工程において、抗凍結剤(0.2M酢酸ナトリウム−5%NaCl−25%グリセロール水溶液)に120秒間浸漬した繊維を含まない従来の結晶(リゾチームの結晶)の回折像である。図2に示されるように、本実施形態において製造された含繊維結晶は、抗凍結剤に120秒間浸漬した場合であっても、結晶が崩壊せず、良好な回折像が得られる。一方、従来の結晶は、抗凍結剤に120秒間浸漬することにより、結晶が崩壊し、図3に示されるように、解析可能な回折像が得られない。
また、図4は、凍結工程において、抗凍結剤(0.2M酢酸ナトリウム−5%NaCl−25%グリセロール水溶液)に300秒間浸漬した含繊維結晶(リゾチームの結晶本体に、アラミドパルプ繊維を取り込ませた結晶)の回折像である。図4に示されるように、本実施形態において製造された含繊維結晶は、抗凍結剤に長時間浸漬した場合であっても、結晶が崩壊せず、良好な回折像が得られる。このように、本実施形態の含繊維結晶は、120秒間や300秒間といった長時間に渡って抗凍結剤に浸漬されても、結晶構造が崩壊しない。そのため、短時間(たとえば10秒間程度)の浸漬にしか耐えられない従来の結晶と比較して、含繊維結晶の製造方法は、充分な操作時間を確保でき、かつ、含繊維結晶に対して充分に抗凍結剤を作用させることができる。
<含繊維結晶の製造装置>
本発明の一実施形態の含繊維結晶の製造装置は、複数の繊維が敷設された繊維保持部と、生体物質等が溶解した溶液が保持された溶液保持部と、溶液保持部から溶液を抽出し、繊維保持部に敷設された複数の繊維上に添加する溶液添加部と、所定時間経過後に溶液中において析出した結晶のうち、内部に複数の繊維の少なくとも一部が取り込まれた含繊維結晶を抽出する抽出部とを含む。以下、それぞれの構成について説明する。
(繊維保持部)
繊維保持部は、複数の繊維が敷設される部位である。一例を挙げると、繊維保持部は、乾燥した複数の繊維が敷設されるプレートである。プレートの形状は特に限定されない。プレートは、後述する溶液添加部が溶液を添加しやすい点から、扁平な有底筒状のプレート(たとえばシャーレ)であることが好ましい。
上記繊維保持部に敷設する繊維としては、上記した繊維が好ましく用いられる。中でも、繊維は、特に叩解された繊維を溶媒に分散させ、遠心分離して得られた上澄み液を塗布または滴下して乾燥させたものがより好ましく用いられる。上記塗布または滴下は1回のみでなく、複数回行ってもよい。
(溶液保持部)
溶液保持部は、生体物質等が溶解した溶液が保持される部位である。一例を挙げると、溶液保持部は、生体物質等が溶解した溶液が貯留された容器である。容器の形状は特に限定されない。容器は、後述する溶液添加部が溶液を添加または抽出しやすい点から、上面が開口した広口の容器(たとえばビーカー)であることが好ましい。
(溶液添加部)
溶液添加部は、溶液保持部から溶液を抽出し、繊維保持部に敷設された複数の繊維上に添加する機構である。一例を挙げると、溶液添加部は、吸引装置(たとえば吸引チップを取り付けたピペット装置)、吸引装置を駆動する駆動装置、駆動装置を制御する制御装置を含む。制御装置によって駆動装置が駆動されることにより、吸引装置は、溶液保持部から所定量の溶液を吸引する。その後、吸引装置は、制御装置および駆動装置によって駆動され、繊維保持部の上方に移動される。次いで、制御装置および駆動装置によって駆動され、吸引装置は、溶液を繊維上に滴下する。
溶液が滴下されることにより、繊維保持部内において、複数の繊維と生体物質等とが混合される。これらは、結晶化工程において上記したとおり、所定時間経過後に含繊維結晶が生成され得る。
(抽出部)
抽出部は、所定時間経過後に、溶液中において析出した結晶のうち、内部に複数の繊維の少なくとも一部が取り込まれた含繊維結晶を抽出する機構である。一例を挙げると、抽出部は、含繊維結晶を観察するための観察装置(光学顕微鏡等)と、含繊維結晶を抽出するための抽出装置(たとえば吸引チップを取り付けたピペット装置)とを含む。
含繊維結晶の抽出は、これら観察装置や抽出装置を観察者が操作することによって行われてもよく、あらかじめ結晶の形状等が記憶されたプログラムを実行するコンピュータ等によって自動的に行われてもよい。本実施形態において製造される含繊維結晶は、取り込まれた複数の繊維によって機械的強度が高められている。また、このような含繊維結晶は、結晶が析出する面(析出面)に対して、繊維が点接触している。そのため、抽出装置によって抽出する際に、結晶本体と直接接触することなく、容易に抽出し得る。その結果、得られる結晶は、破壊されることなく、抽出されやすい。抽出された含繊維結晶は、上記した凍結工程や構造解析工程が適宜行われ得る。
<薬剤ソーキング装置>
本発明の一実施形態の薬剤ソーキング装置は、含繊維結晶が保持された結晶保持部と、薬剤が溶解した薬剤溶液が保持された薬剤保持部と、薬剤保持部から薬剤を抽出し、含繊維結晶に添加する薬剤添加部とを主に備える。以下、それぞれの構成について説明する。
(結晶保持部)
結晶保持部は、含繊維結晶が保持される部位である。含繊維結晶は、含繊維結晶の製造装置において上記した繊維保持部であってもよく、上記した含繊維結晶の製造方法または含繊維結晶の製造装置において抽出された含繊維結晶が載置された異なる部位であってもよい。繊維保持部が結晶保持部を兼ねる場合、含繊維結晶の製造装置と薬剤ソーキング装置とは、一連の装置として一体化され得る。一方、結晶保持部が異なる部位である場合、結晶保持部に残存する余剰の繊維による影響が除外され得る。異なる部位である場合、一例を挙げると、結晶保持部は、別途準備されたプレートである。プレートは、複数のウェル(凹部)が形成されたプレートであることが好ましい。それぞれのウェルには、含繊維結晶が収容され得る。
(薬剤保持部)
薬剤保持部は、薬剤が溶解した薬剤溶液が保持される部位である。一例を挙げると、薬剤保持部は、薬剤が溶解した溶液が貯留された複数のウェル(凹部)が形成されたプレートである。それぞれのウェルには、種類や濃度の異なる複数の薬剤が収容され得る。
(薬剤添加部)
薬剤添加部は、薬剤保持部から薬剤を抽出し、含繊維結晶に添加する機構である。一例を挙げると、薬剤添加部は、吸引装置(たとえば吸引チップを取り付けたピペット装置)、吸引装置を駆動する駆動装置、駆動装置を制御する制御装置を含む。制御装置によって駆動装置が駆動されることにより、吸引装置は、薬剤保持部の所定のウェルから所定量の薬剤を吸引する。その後、吸引装置は、制御装置および駆動装置によって駆動され、結晶保持部の上方に移動される。次いで、制御装置および駆動装置によって駆動され、吸引装置は、薬剤を含繊維結晶に対して滴下する。
薬剤添加部は、上記操作を複数回繰り返すことにより、それぞれのウェルに収容された含繊維結晶に対して、種類や濃度の異なる複数の薬剤を添加し得る。また、たとえば吸引装置を、同時に複数の薬剤を取り扱えるよう設計変更することにより、種類や濃度の異なる複数の薬剤を一回的に、複数のウェルに収容されたそれぞれの含繊維結晶に添加し得る。
薬剤が滴下されることにより、結晶保持部内において、含繊維結晶と薬剤とが混合される。これらは、結晶化工程において上記したとおり、所定時間経過後に生体物質等と薬剤との複合体が生成され得る。生成された複合体は、上記した抽出部によって適宜、複合体結晶として抽出され、次いで、上記した凍結工程や構造解析工程が適宜行われ得る。
以上、本実施形態によれば、含繊維結晶に対して、活性を示し得る薬剤を容易に探索することができる。そのため、薬剤ソーキングの利便性が著しく向上する。特に、複数の含繊維結晶に対して1回的な操作により、複数の薬剤を添加する場合には、活性を示し得る薬剤を容易かつ迅速に探索することができる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。
<特性値の算出方法>
(繊維径)
80倍の実体顕微鏡で観察される繊維について、測定が可能な程度に明確に観察できる繊維10(±1)本を不作為に抽出して繊維径を測定し、その算術平均値を求め、繊維径を求めた。
<実施例1、比較例1>
(含繊維結晶の製造)
・準備工程
パルプ状のメタアラミド繊維を乾燥させた後、0.02gを1mlのエタノール中に懸濁し、1800rpm、10秒の条件で遠心分離し、上澄み液を回収した。深さ4mm、直径8mmのウェル(タンパク質溶液を入れるウェル、タンパク質ウェルともいう)と、深さ16mm、直径17mmのウェル(リザーバー溶液を入れるウェル、リザーバーウェルともいう)が形成されたプレートを準備し、調製したリザーバー溶液(0.2M酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)−5%NaCl)200μlをリザーバーウェルに入れた。タンパク質ウェル内に、上記で得られた上澄み液をタンパク質ウェルのプレート底部に2μl滴下して乾燥させ、繊維を敷設した。敷設した乾燥した繊維(メタアラミドパルプ)は、太さ(径):約2μm、約1.2mgであった。比較のために繊維を敷設していないウェルにも同様にリザーバー溶液を入れ、以下同様の操作を行った。
・添加工程
生体物質(リゾチーム)が溶解した溶液(0.2M酢酸ナトリウム緩衝液 濃度:20mg/ml)を、1μL、タンパク質ウェルの繊維上に添加し、リザーバー溶液1μLを添加後、繊維と溶液とを適宜混合した。
・結晶化工程
上記生体物質を添加したタンパク質ウェルと当該のリザーバーウェルをテープで密閉し、20℃のインキュベータで24時間以上静置した。倍率80倍の実体顕微鏡にて観察したところ、寸法が200μm程度の結晶が2〜3個程度生成されたことを確認した。図1はその含繊維結晶の顕微鏡写真である。結晶は繊維があるところに結晶が析出しやすく、繊維が多い方がたくさん繊維を取り込んだ結晶ができやすい傾向を示した。
・抽出工程
生成した結晶のうち、含繊維結晶のみをクライオループ(半径0.2〜0.4mm)で抽出した。
・構造解析工程
次いで、含繊維結晶を、クライオループ(半径0.2〜0.4mm)で結晶の周囲にある繊維ごと結晶をすくい取り、(株)リガク製のX線結晶構造解析装置Micro Max(X線源はCu−Kα、イメージングプレート検出器はR−AXIS VII)にマウントした。解析の前に、予め最終濃度が0.2M酢酸ナトリウム−5%NaCl−25%グリセロール水溶液になるように調整したクライオプロテクタント溶液(抗凍結剤)に10秒間浸漬し、その後、液体窒素を用いて−196℃で瞬間凍結させた(凍結工程)。その後、凍結した結晶を低温環境下(−173℃)で暴露時間15秒、距離85mm、振動角0.5〜1.0°という条件でX線回折測定を行ったところ、良好な回折像が得られた。また、回折像を用いた構造解析の結果、繊維が含まれていても、従来法と同じタンパク質の構造が得られていることを確認した。なお、回折像の評価は、HLK2000(販売者:(株)リガク)を用いて行った。また、回折点の評価は、分解能2オングストロームを切ることと、スポットが明瞭であることを基準とした。
また、クライオプロテクタントへの浸漬時間を変化させて、X線の照射を行った。すなわちクライオプロテクタント溶液の浸漬時間を120秒、300秒に変え、結晶の強度比較を行った。図2は凍結工程において、抗凍結剤に120秒間浸漬した含繊維結晶の回折像である。図4は、凍結工程において、抗凍結剤に300秒間浸漬した含繊維結晶の回折像である。なお、繊維を敷設せず形成した結晶の評価は浸漬時間120秒の際には、回折点は見られなかった。図3は、凍結工程において、抗凍結剤に120秒間浸漬した比較例1の結晶の回折像である。さらに繊維を敷設して形成した結晶は900秒以上でも回折点が現れることも判明した。
<実施例2〜5>
実施例1で得られた繊維の上澄み液のウェルへの滴下量を0.5μl(実施例2)、1.0μl(実施例3)、1.5μl(実施例4)、2.0μl(実施例5)とした以外は実施例1と同様の方法で含繊維結晶を作製した。結晶化は20℃のインキュベータ中、約0.2mmの結晶が得られるまで1〜3日間静置する方法で行った。結果を図5〜図8に示す。図5〜図8は、それぞれ実施例2〜5で得られた含繊維結晶の顕微鏡写真である。
得られた結晶を用いて以下のソーキング試験を行った。ソーキング試験には0.2M酢酸ナトリウム−5%NaCl−ジメチルスルホシキド(DMSO)40%水溶液を用いた。ウェル中に形成したそれぞれの結晶をクライオループですくい、0.2M酢酸ナトリウム−5%NaCl−DMSO40%水溶液に浸漬した。これらについて倍率80倍の実体顕微鏡を用いて観察し、外観崩壊が観察されるまでの時間を計測し、強度の比較をした。結果を表1に示す。なお、本評価における「外観崩壊」とは、上記した抗凍結剤に浸漬した際の崩壊とは異なり、結晶の外観に変化が生じることをいう。
Figure 0006848173
表1に示されるように、繊維が全く入っていないSolution結晶は20秒で外観崩壊が見られたのに対して、繊維を用いて結晶化することで繊維を結晶内に取り込んだ結晶の多くは40秒程度で外観崩壊が見られた。しかし、その中でも繊維を極端に多く取り込んでいるもの(表1の実施例4の例)は外観崩壊までの時間が40秒よりも長く、100秒を要した。実施例5では40秒で外観崩壊が見られたが、これは観察される繊維が極めて少ない場所で結晶が結晶化したことが原因である可能性があった。それでも繊維を敷設して形成しなかった場合(Solution結晶)に比較して強度は向上していた。
<実施例6、7、比較例2、参考例1、参考比較例1>
同じ量の繊維を敷いたプレート上でも取り込む繊維の量の異なる結晶が得られたので、これらに関しても同様にソーキング試験を行った。すなわち、ウェル上で形成させた含繊維結晶のうち、倍率80倍の実体顕微鏡下で観察し、比較的多くの繊維を含んだ含繊維結晶(実施例6)と、繊維が観察されない含繊維結晶(実施例7)を抽出し、実施例2と同様にソーキング試験を行った。また、比較例2として、比較例1で得られた繊維を含まない結晶を抽出し、同様にソーキング試験を行った。その結果、結晶が外観崩壊するまでの時間はそれぞれ100秒(実施例6)、40秒(実施例7)、20秒(比較例2)であった。
すなわち、倍率80倍の実体顕微鏡で観察できる繊維を多く含む含繊維結晶の方がソーキング耐性が優れ、強度が上がっていると推察された。しかし、繊維が一切入っていない比較例1の結晶と繊維を敷設した上に形成したが、倍率80倍の実体顕微鏡観察によっては繊維が観察できなかった実施例7の結晶と比較すると、後者の方が結晶の外観崩壊に時間を要していたことから、倍率80倍の実体顕微鏡では観察できない微細な繊維が存在し、それが強度を上げていると推察された。
上記微細な繊維の存在について、以下の方法で確認を行った。すなわち、実施例1に記載の方法と同様の方法で得られた上澄み液1mlについて、さらに1800rpmで10秒間の遠心分離を行い、比較的太い繊維を沈めた後の上澄み液を回収した(参考例1)。この上澄み液は肉眼で繊維の有無は確認できなかった。この上澄み液を1mlのバイアル瓶に入れ、波長532nmのレーザーを照射し、レイリー散乱とミー散乱により粒径を求めた。その結果50nm前後と500nm前後の粒径が確認できた。参考比較例1として上記上澄み液をエタノールに変えた以外は同様のバイアル瓶を用意し、レーザー照射した結果、散乱による輝点は確認できなかった。これらの結果を図9に示す。撮影条件としては、一眼レフカメラ((株)ニコン製)にてシャッター速度を1/10秒、絞り値(F値)を20、露出補正を−5とした。図9は、参考例1および参考比較例1の上澄み液の外観写真である。左が参考比較例1の上澄み液であり、右が参考例1の上澄み液である。なお、図9では、以下の画像処理を行った。まず、View NXで撮影した画像をJpegに変換し、その後、easy accessを用いて、輝度情報を得た。レイリー散乱およびミー散乱における輝点数の平均値を以下に示す。なお、輝点数は200×180ピクセルの範囲でカウントした。
<レイリー散乱>
比較参考例1:5.5
参考例1:52
<ミー散乱>
比較参考例1:1.2
参考例1:21.8
参考例1の上澄み液は、粒子の存在が確認できたことから、実施例1における上澄み液には肉眼で確認できない微細な繊維が懸濁していると考えられ、実体顕微鏡観察によっては繊維が観察できない部分に形成した結晶が繊維を敷設せずに形成した結晶よりもソーキング強度が高いのは微細な繊維を取り込んで結晶が成長したためと考えられた。
<実施例8>
パルプ状メタアラミド繊維の代わりにパルプ状パラアラミド繊維(東レ・デュポン製“ケブラー(登録商標)”パルプ)を使用した以外は実施例1と同様に結晶化を行った。図10は、実施例8の含繊維結晶の顕微鏡写真である。図10に示されるように、パルプ状のパラアラミド繊維を用いた場合であっても、実施例1と同様に含繊維結晶が得られた。

Claims (4)

  1. 生体物質の結晶である結晶本体と、前記結晶本体に少なくとも一部が取り込まれた複数の繊維とを含み、
    前記繊維は、
    ポリオレフィン系繊維、ナイロン系繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、アラミド繊維、セルロース系繊維、ポリアリレート繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含み(ただし、前記繊維が中空繊維である場合を除く)、
    一部が前記結晶本体の表面から外部に露出するように取り込まれており、
    前記生体物質は、天然タンパク質、合成タンパク質、人工タンパク質、天然ペプチド、合成ペプチドおよび人工ペプチドから選択される、含繊維結晶。
  2. 前記繊維の太さが1nm〜0.1mmである、請求項記載の含繊維結晶。
  3. 構造解析用である、請求項1または2記載の含繊維結晶。
  4. 前記構造解析は、X線結晶構造解析、中性子結晶構造解析、または、電子顕微鏡観察である、請求項記載の含繊維結晶。
JP2015201575A 2015-10-09 2015-10-09 含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置 Active JP6848173B2 (ja)

Priority Applications (5)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2015201575A JP6848173B2 (ja) 2015-10-09 2015-10-09 含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置
CN201680058945.6A CN108137647B (zh) 2015-10-09 2016-09-28 含纤维晶体、含纤维晶体的制造方法、含纤维晶体的制造装置和化学试剂浸泡装置
US15/766,955 US10640886B2 (en) 2015-10-09 2016-09-28 Fiber-containing crystal, method of preparing fiber-containing crystal, apparatus for preparing fiber-containing crystal, and medicine soaking apparatus
EP16853468.3A EP3360883B1 (en) 2015-10-09 2016-09-28 Fiber-containing crystal, method for preparing fiber-containing crystal, apparatus for preparing fiber-containing crystal, and medicine soaking apparatus
PCT/JP2016/078588 WO2017061314A1 (ja) 2015-10-09 2016-09-28 含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2015201575A JP6848173B2 (ja) 2015-10-09 2015-10-09 含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2017071590A JP2017071590A (ja) 2017-04-13
JP6848173B2 true JP6848173B2 (ja) 2021-03-24

Family

ID=58487606

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2015201575A Active JP6848173B2 (ja) 2015-10-09 2015-10-09 含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置

Country Status (5)

Country Link
US (1) US10640886B2 (ja)
EP (1) EP3360883B1 (ja)
JP (1) JP6848173B2 (ja)
CN (1) CN108137647B (ja)
WO (1) WO2017061314A1 (ja)

Family Cites Families (10)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP4601111B2 (ja) * 2000-01-02 2010-12-22 日本コーンスターチ株式会社 生分解性のモデルの製作方法
DE50212333D1 (de) * 2001-10-23 2008-07-10 Innogel Ag Netzwerk auf polysaccharidbasis und verfahren zu dessen herstellung
WO2003053998A1 (fr) * 2001-12-11 2003-07-03 Mitsubishi Rayon Co., Ltd. Reseau pour cristalliser des proteines, dispositif pour cristalliser des proteines et procede pour cribler une cristallisation de proteine par utilisation de ceux-ci
JP4323258B2 (ja) * 2003-08-11 2009-09-02 三菱レイヨン株式会社 蛋白質結晶化剤およびその調製方法
JP2007254415A (ja) * 2006-03-24 2007-10-04 Gunma Univ 巨大分子結晶及びその製造方法並びにそれに用いる製造装置
CN101161871B (zh) * 2006-10-11 2012-05-30 博亚捷晶科技(北京)有限公司 蛋白质结晶板及结晶方法
WO2009091053A1 (ja) * 2008-01-17 2009-07-23 Sosho, Inc. 結晶製造方法、凍結結晶製造方法、結晶、結晶構造解析方法、結晶化スクリーニング方法、結晶化スクリーニング装置
WO2011113446A1 (en) * 2010-03-17 2011-09-22 Amsilk Gmbh Method for production of polypeptide containing fibres
CN102887939B (zh) * 2011-07-19 2015-08-19 江苏同庚电子科技有限公司 用生物玻璃促使蛋白质结晶的方法
CN203229482U (zh) * 2013-05-09 2013-10-09 西北工业大学 一种新型蛋白质结晶装置

Also Published As

Publication number Publication date
CN108137647B (zh) 2022-03-15
EP3360883B1 (en) 2020-12-02
CN108137647A (zh) 2018-06-08
US20190177877A1 (en) 2019-06-13
US10640886B2 (en) 2020-05-05
EP3360883A1 (en) 2018-08-15
EP3360883A4 (en) 2019-06-19
WO2017061314A1 (ja) 2017-04-13
JP2017071590A (ja) 2017-04-13

Similar Documents

Publication Publication Date Title
Politi et al. A spider's fang: how to design an injection needle using chitin‐based composite material
Hepperla et al. Minus-end-directed Kinesin-14 motors align antiparallel microtubules to control metaphase spindle length
Gaill et al. The chitin system in the tubes of deep sea hydrothermal vent worms
Sun et al. Spherulitic growth of coral skeletons and synthetic aragonite: nature’s three-dimensional printing
Ashton et al. Silk tape nanostructure and silk gland anatomy of trichoptera
Yang et al. Hierarchical, self-similar structure in native squid pen
Bullard et al. Structural characterization of tick cement cones collected from in vivo and artificial membrane blood-fed Lone Star ticks (Amblyomma americanum)
Fuller The structure and properties of down feathers and their use in the outdoor industry
Weston et al. Towards native-state imaging in biological context in the electron microscope
Mielańczyk et al. Transmission electron microscopy of biological samples
Ris et al. High-resolution field emission scanning electron microscope imaging of internal cell structures after Epon extraction from sections: a new approach to correlative ultrastructural and immunocytochemical studies
Ambele et al. Synthetic hemozoin (β-hematin) crystals nucleate at the surface of neutral lipid droplets that control their sizes
Kreitschitz et al. “Sticky invasion”–the physical properties of Plantago lanceolata L. seed mucilage
Vitha et al. Steedman’s wax for F-actin visualization
O’Neill Structure and mechanics of starfish body wall
Pascucci et al. Imaging extracelluar vesicles by transmission electron microscopy: Coping with technical hurdles and morphological interpretation
Yin et al. Influence of Gelatin–Agarose Composites and Mg on Hydrogel-Carbonate Aggregate Formation and Architecture
JP6848173B2 (ja) 含繊維結晶、含繊維結晶の製造方法、含繊維結晶の製造装置および薬剤ソーキング装置
Donaldson et al. Ultrastructure of iodine treated wood
Melzer et al. Methods to study organogenesis in decapod crustacean larvae II: analysing cells and tissues
Stokes et al. Structural and wetting properties of nature's finest silks (order Embioptera)
Fonta et al. Analysis of acute brain slices by electron microscopy: A correlative light–electron microscopy workflow based on Tokuyasu cryo-sectioning
Flori et al. Imaging plastids in 2D and 3D: confocal and electron microscopy
Maco et al. Nuclear pore complex structure and plasticity revealed by electron and atomic force microscopy
JP2009229339A (ja) 顕微鏡観察用サンプル作製方法、及びそれに用いるキット

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20181001

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20190924

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20191119

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20200428

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20200616

A02 Decision of refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A02

Effective date: 20201117

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20201203

C60 Trial request (containing other claim documents, opposition documents)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: C60

Effective date: 20201203

A911 Transfer to examiner for re-examination before appeal (zenchi)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A911

Effective date: 20201210

C21 Notice of transfer of a case for reconsideration by examiners before appeal proceedings

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: C21

Effective date: 20201215

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20210202

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20210215

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 6848173

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151