以下、図1〜8を参照して、本発明に係る無線給電式電気機器の、第1実施形態について説明する。
図1に示すように、この無線給電式電気機器10は、外部から無線給電により電力を受電する受電部20を有し、受電した電力によって所定動作をなすものである。この実施形態における無線給電式電気機器10(以下、単に「電気機器10」ともいう)は、体内に配置される医療用機器であって、特に、温熱療法に用いられる治療具となっている。
なお、電気機器としては、例えば、カプセル型治療具や、留置型治療具、光免疫療法に用いる治療具(これらについて後述する実施形態で説明する)、更に、補聴器や、レーザーメス等の医療用機器であってもよく、更に、医療用機器のみならず、例えば、眼鏡型ウェアラブル端末や、携帯電話、パソコン、腕時計、ドローン等の、電気機器であってもよく、特に限定はされない。
また、図2及び図3に示すように、この電気機器10における受電部20は、導線21を巻回して筒状をなし、外部の送電アンテナ70(図6及び図7参照)から磁束を媒介して供給される電力を受電して発熱する、受電コイル25と、この受電コイル25の内側に配置され、温度上昇により透磁率が下がる特性を有する、感温磁性体部材30とを有している。
更に、この電気機器10においては、受電コイル25が電力を受電して発熱すると、受電コイル内側の感温磁性体部材30の温度が上昇して透磁率が下がり、受電コイル25の受電電力が低下する一方、受電コイル25の受電電力が低下して発熱量が低下すると、受電コイル内側の感温磁性体部材30の温度が低下して透磁率が上昇し、受電コイル25の受電電力が増大することにより、受電電力を所定範囲に保持しつつ、受電部20の温度上昇が所定範囲に抑制されるように構成されている。
なお、上記の所定範囲とは、電気機器が、体内に配置される医療用機器である場合は39〜44℃であり、温熱療法に用いられるものである場合は42.5〜43℃であり、体内で移動するカプセル型治療具の場合は41〜42℃であり、体内に留置される留置型治療具の場合は39℃であり、発光型治療具の場合は39〜42℃とされている。また、体外で使用される電気機器の場合は、近接して熱影響を受け得る部材等、例えば、接着剤や、樹脂部品、絶縁被覆等の、耐熱温度を考慮し、100〜150℃に設定するものである。
更に、この実施形態の電気機器10は、両端が開口した細長いチューブ状のチューブステント11を有している。このチューブステント11の外周に、シート状の感温磁性体部材30を巻き回して配置し、更に、その外周に円形断面の導線21を巻回(ヘリカル巻)して円筒状に形成された受電コイル25が配置されている。なお、感温磁性体部材30の内周は、チューブステント11の外周に密接して配置されている。
また、図1に示すように、チューブステント11の軸方向両端部には、フラップ状をなした係止部12がそれぞれ設けられており、体内の壁部1(例えば、乳頭Nの周縁の壁部1)に係止可能となっており、チューブステント11の位置ずれ防止が図られている。チューブステント11の両端は開口して、全体として流路の役割を果たしており、更に図3に示すように、チューブステント11の、感温磁性体部材30の両端部よりも外側のチューブ壁には、複数の流通孔13が形成されており、チューブステント11内を、流体(胆汁や血液、その他の体液等)が更に流れやすくなっている。
前記受電コイル25の導線21の線径は、0.05〜0.2mmであることが好ましく、0.1〜0.15mmであることがより好ましい。また、受電コイル25の外径は、3mm以下であることが好ましく、2〜2.5mm以下であることがより好ましい。更に、受電コイル25の軸方向長さは、10〜20mmであることが好ましい。
また、この実施形態の場合、受電コイル25は、Cuよりも抵抗値が高い材料からなり、例えば、Ni,W,Al,Fe,ニクロム(NiCr),Zn,Au,黄銅等の材料からなることが好ましい。
なお、この実施形態においては、図3に示すように、導線21が密巻きされて受電コイル25が形成されているが、導線21を所定ピッチで巻回して(すなわち、導線21どうしの間をあけて巻回)、受電コイル25を形成してもよく、導線21を多層巻としてもよい。
また、図5に示すように、上記感温磁性体部材30は、温度上昇により透磁率が下がる特性を有しており、この実施形態のように、体内に配置される医療用機器である場合には、透磁率が下がり始める温度Tsが39〜44℃となるように設定されている。更に、この実施形態のように、電気機器10が温熱療法に用いられる場合には、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下する(感温磁性体部材の磁気が消失する)キュリー温度Tcが、42.5〜43℃とされていることが好ましい。
また、前記感温磁性体部材30の外径は、2.5mm以下であることが好ましく、1.5〜2.0mmであることがより好ましく、内径は、1mm以上であることが好ましい。更に図3に示すように、感温磁性体部材30の軸方向長さは、前記受電コイル25の軸方向長さよりも長く形成されていることが好ましい。具体的には、感温磁性体部材30の軸方向長さは、15〜25mmであることが好ましい。
また、感温磁性体部材30としては、例えば、Mn−Cu系、Ni−Zn系、Mn−Zn系、Fe−Ni系、Ni−Cu系、Fe−Ni−Cr−Si系の感温磁性材料を用いることができる。なお、感温磁性体部材としては、強磁性材料である、フェライトや、Fe、酸化鉄、酸化Cr、Ni、アモルファス、パーマロイ等に、上記のような、感温磁性材料を混合して形成してもよい。また、図5に示すように、感温磁性体部材の全体に占める、感温磁性材料の配合比が大きいと、K1に示すような傾向となり、キュリー温度Tcで急激に透磁率が下がるようになっている。なお、図5中におけるK0は、感温磁性体部材の全体に占める、感温磁性材料の配合比が100%とした場合であり、また、配合比が小さいと、K2,K3に示すような傾向となる。
また、この実施形態における感温磁性体部材30は円筒状をなしているが、例えば、角筒状や、中実の円柱状・角柱状等であってもよく、特に限定はされない。更に、感温磁性体部材30を形成するには、シート状のものを巻回したり、或いは、粉末冶金法等によって、予め所定形状に成形したりしてもよい。
更に、チューブステント11の外周であって、感温磁性体部材30の軸方向一端には、共振コンデンサ35が接触した状態で配置されている(図2及び図3参照)。すなわち、この無線給電式電気機器10における受電部20は、共振コンデンサ35を、ヘリカル巻された受電コイル25の軸心方向において、感温磁性体部材30の端部に当接させて配置するように構成されている。なお、共振コンデンサ35は、感温磁性体部材30の軸方向両端に接触状態で配置してもよく、特に限定はされない。
また、図3に示すように、チューブステント11の外周に密接状態で配置された感温磁性体部材30と、該感温磁性体部材30の外周に密接状態で巻回された受電コイル25と、感温磁性体部材30に接続された共振コンデンサ35との外周は、エポキシ樹脂等からなる被覆層15によって、滑らかになるように被覆されている。
そして、この実施形態の電気機器10においては、感温磁性体部材30に受電コイル25と共振コンデンサ35とが接触するように配置され、感温磁性体部材30を介して受電コイル25と共振コンデンサ35とが互いに接続された構造となっており、図4の回路図に示すように、いわゆるLC回路を構成している。
この際の、受電部20の共振周波数f(Hz)は、受電コイル25のインダクタンスをL(H)と、共振コンデンサ35の静電容量をC(F)としたとき、下記(数式1)のように表されるようになっている。
なお、この実施形態における電気機器10は、チューブステント11を基体として、その外周に、感温磁性体部材30及び受電コイル25を有する受電部20が配置された構造となっているが、例えば、金属線材を編んだり組んだり絡ませたりして、メッシュ状の開口を有する筒状に形成したステントや、金属円筒をレーザー加工やエッチング等によりメッシュ状の開口を形成したステント等の外周に、感温磁性体部材や受電コイルを有する受電部を設けてもよく、特に限定はされない。
上記構造をなした電気機器10へは、外部の送電アンテナ70から電力が供給されるようになっている。図6(a)に示すように、この実施形態の送電アンテナ70は、導線71が平面渦巻形状に巻かれた形状をなしている。ここでは、導線71を、所定間隔をあけて、平面的に渦巻形状をなすように巻かれており(スパイラル巻)、中央に空所を有する円環状をなしている。
上記送電アンテナ70には、共振コンデンサ73と、インバータ回路75とが接続されている。また、送電アンテナ70の外径は、200mm以上であることが好ましく、250〜350mmであることがより好ましい。更に図7に示すように、この実施形態における送電アンテナ70は、治療対象者の下方に配置されるようになっており、また、図示しない移動手段(マニュピュレーター等)によって、X軸方向及びY軸方向に移動可能となっている。
そして、図示しない電源から供給された電力が、インバータ回路75を介して交流電流に変換され、該交流電流が共振コンデンサ73を通して送電アンテナ70に供給されると、送電アンテナ70に磁界が発生して、その磁束Bが、電気機器10の受電コイル25へと電磁誘導されて無線給電されるようになっている。このような、無線給電する際の状態が、図7に示されている。
このとき、この実施形態においては、受電コイル25は、共振コンデンサ35と接続されて、図4に示すようなLC回路を構成しており、受電コイル25が受電した電力によって、受電コイル25自体が発熱するので、例えば、胆管V2の内壁に形成されたがん組織等の患部3に、温熱療法を施すことができるようになっている。
すなわち、この実施形態においては、受電コイル25自体が、受電コイル25によって受電した電力によって、治療に必要な動作をなす、本発明における「駆動部」をなしている。また、上記のように、送電アンテナ70によって受電部20の受電コイル25に電力を無線給電する場合には、送電アンテナの70発振周波数f(Hz)と、上述した(数式1)で示す受電部20の共振周波数f(Hz)とが一致するように設定されていることが好ましい。このように、送電アンテナの70発振周波数f(Hz)と、受電部20の共振周波数f(Hz)とを一致させることで、受電コイル25の上記回路を磁界共鳴させることが可能となっている。
そして、本発明の電気機器においては、受電コイル25の内側に配置される、感温磁性体部材30が、温度上昇により透磁率が下がる特性を有しているので(図5参照)、図6(a)に示すように、送電アンテナ70から電力が受電部20に向けて電力が供給されると、送電アンテナ70からの磁束Bは、感温磁性体部材30の温度によって、図6(b),(c)に示すように変化するようになっている。
すなわち、感温磁性体部材30の温度が所定値よりも低い状態の場合(キュリー温度Tcが任意の値よりも低い状態の場合)、図6(b)に示すように、感温磁性体部材30の透磁率は低下せず所定値に維持されるので、送電アンテナ70からの磁束Bが、感温磁性体部材30に引き寄せられやすくなり、その結果、受電コイル25に電力が、効率的に十分な量で供給されて、当該電気機器10は十分な機能を発揮することができる。このとき、受電コイル25は、自身によって発生した熱によって、発熱することになる。
こうして、受電コイル25は自身の発熱により、徐々に温度が上昇していき、その熱は受電コイル25の内周に当接する感温磁性体部材30に伝わるので、それにつられて感温磁性体部材30も温度上昇していく。そして、感温磁性体部材30の温度が所定値よりも高くなった場合(キュリー温度Tcが任意の値よりも高くなった場合)、図5に示すように感温磁性体部材30の透磁率が低下するので、送電アンテナ70からの磁束Bが、図6(c)に示すように感温磁性体部材30に引き寄せられにくくなり、その結果、受電コイル25の電力の受電量が低下するか又は「0」になり、受電コイル25が発熱しにくくなるか又は全く発熱しなくなり、受電部20の過温度が防止される。
すなわち、感温磁性体部材30の温度が、キュリー温度Tcよりも低いと、受電コイル25を通過する磁束密度が高く、キュリー温度Tcを超えた場合には、受電コイル25を通過する磁束密度が低下し、送電アンテナ70からの磁束Bの分布(磁束分布)が変化するようになっている。
また、上述したように、送電アンテナ70から受電部20に電力を無線給電する際に、送電アンテナの70発振周波数f(Hz)と受電部20の共振周波数f(Hz)とが一致するように設定されていることと、受電コイル25の内側に配置する部材を、感温磁性体部材30とすることの組合わせが好ましい理由について、感温磁性体部材30の温度の変動と関連して、より具体的に説明する。
一般的に、透磁率μとインダクタンスLの関係は、感温磁性体部材30の平均磁路長をl、その磁路断面積をS、巻き数をNとしたとき、下記(数式2)のように表される。
そして、感温磁性体部材30が所定温度を超えて、その透磁率が低下すると、上述したように、(1)送電アンテナ70からの磁束分布が変化して、受電コイル25を通過する磁束密度が低下する影響に加えて、(2)受電コイル25のインダクタンスLが、前記(数式2)で示すように、透磁率μに比例して小さくなり、また、前記(数式1)のインダクタンスLが小さくなるので、受電部20の共振周波数fは逆に大きくなる。例えば、透磁率μが10%小さくなると、インダクタンスLが同じく10%小さくなり、受電部20の共振周波数fは、1/√(1−0.1)となり、1/√0.9=1/0.95で、1.05倍となり、つまり受電部20の共振周波数fは5%高くなる。そして、受電部20の共振周波数fがそれまで一致して共鳴していた、送電アンテナ70の発振周波数fから、5%もずれると、もはや共鳴は生じえず、受電部20が受電する電力は、数十分の一程度に急落するのである。
次に、上記構成からなる電気機器10の、使用方法の一例について説明する。なお、この使用方法は一例であり、特に限定はされない。
図1に示すように、この実施形態における電気機器10は、体内に配置される医療用機器であって、温熱療法に用いられる治療具となっている。具体的には、この電気機器10は胆管V2内に留置されて、その内壁に形成されたがん組織等の患部3の、温熱療法に用いられるものである。また、図1に示すように、胆管V2は、十二指腸V1の下部に設けられた乳頭Nから伸びており、乳頭Nからは膵管V3も分岐して伸びている。なお、体内としては、上記の胆管V2以外にも、胃等の臓器や、大腸、十二指腸V1、膵管V3等の管状器官等であってもよく、特に限定はされない。
そして、電気機器10を、例えば、図示しない内視鏡を介して挿入していき、そのチューブステント11の一端側を、胆管V2の奥方向に配置し、フラップ状の係止部12を乳頭Nの入口近傍の壁部1に係止させることで、胆管V2内に、電気機器10を位置ずれを防止した状態で留置する。
その状態で、図7に示すように、治療対象者の下方に送電アンテナ70を設置して、同送電アンテナ70に図示しない電源から電力を供給する。すると、インバータ回路75を介して変換された交流電流が、共振コンデンサ73を通して、送電アンテナ70の導線71に供給されて磁界が発生して、図6(a)に示すように、その磁束Bが、電気機器10の受電部20の受電コイル25へと電磁誘導されて無線給電される。
このとき、感温磁性体部材30の温度が所定値よりも低く、感温磁性体部材30の透磁率が低下していない状態では、図6(b)に示すように、磁束Bが感温磁性体部材30を通過しやすくなるので、受電コイル25に電力が効率的に供給され、受電コイル25自体が発熱して、胆管V2内に形成された、がん組織を温熱療法(ハイパーサーミア)によって治療することができる。
一方、感温磁性体部材30の温度が所定値よりも高くなると、感温磁性体部材30の透磁率が低下するので、図6(c)に示すように、送電アンテナ70からの磁束Bが、感温磁性体部材30を通過しにくくなり、受電コイル25の電力の受電量が低下するため、受電コイル25が発熱しにくくなり、受電部20(受電コイル25や感温磁性体部材30)が所定温度以上に温度上昇すること(過温度となること)が防止される。
このように、この電気機器10においては、受電部20として、受電コイル25と、その内側に配置され、温度上昇により透磁率が下がる特性を有する、感温磁性体部材30とを有しており、受電コイル25が電力を受電して発熱すると、受電コイル内側の感温磁性体部材30の温度が上昇して透磁率が下がり、受電コイル25の受電電力が低下する一方、受電コイル25の受電電力が低下して発熱量が低下すると、受電コイル内側の感温磁性体部材30の温度が低下して透磁率が上昇し、受電コイル25の受電電力が増大することにより、受電電力を所定範囲に保持しつつ、受電部20の温度上昇が所定範囲に抑制されるように構成されているので、受電コイル25による電力の受電に伴って、受電部20の温度が所定値以上になろうとしても、感温磁性体部材30の透磁率が下がって、受電コイル25の受電量を減らすため、受電部20が所定温度以上になること(過温度)を確実に防ぐことができる。
その結果、電気機器10の雰囲気温度に応じて、電気機器10に対する送電アンテナ70からの距離や、送電アンテナ70の出力等を変更して、受電コイル25の受電量を逐次調整する必要がなく、受電部20の過温度を防止しつつ、受電コイル25によって効率的に電力を受電して、電気機器10の所定動作を確実に行わせることができる。また、受電部20の過温度が防止されるので、電気機器10を長期に亘って連続的に使用することが可能となり、使い勝手のよい電気機器10を得ることができる。更に、電気機器10の構造を簡素化することができると共に、電気機器10のコンパクト化を図ることができ、かつ、電気機器10の緒性能を十分に発揮させることができる。
また、この実施形態においては、送電アンテナ70から受電部20に電力を無線給電する際に、送電アンテナ70の発振周波数fと、受電部20の共振周波数fとが一致するように設定されているので、次のような作用効果を奏する。すなわち、送電アンテナ70の共振周波数fと受電部20の共振周波数fとが異なる、一般的な電磁誘導においても、上述した作用効果(受電部20が所定温度以上になると、感温磁性体部材30の透磁率が下がって、受電部20の過温度を防止する効果)を奏するが、感温磁性体部材30と、送電アンテナ70の共振周波数fと受電部20の共振周波数fとを一致するように設定して、受電コイル回路を磁界共鳴させる構成としたことによって、感温磁性体部材30が所定温度を超えて、その透磁率が低下すると、それまで磁界共鳴していた受電コイル回路が磁界共鳴しなくなり、受電部20が受電する電力が急減するので、受電部20の過温度防止効果をより一層高めることができる。
なお、この実施形態においては、図2や図3に示すように、受電部20は、共振コンデンサ35を、ヘリカル巻された受電コイル25の軸心方向において、感温磁性体部材30の端部に当接させて配置するように構成されている。このような構成を採用すると、(1)受電部20の外径を小さくできるので、体内に配置される医療用機器に用いる場合に、患者の負担を軽減することができると共に、(2)受電コイル25よりは、穏やかとはいえ、共振コンデンサ35も発熱するので、この共振コンデンサ35の温度上昇も感温磁性体部材30に反映されて、感温磁性体部材30が暖められることとなり、感温磁性体部材30の温度を、身体への影響を考慮しつつ、より適切に調整することができる。
更に、この実施形態における電気機器10のように、体内に配置される医療用機器であり、感温磁性体部材30の透磁率が下がり始める温度が39〜44℃となるように設定されている場合には、例えば、ステント(ここではチューブステント11)や、カプセル内視鏡やペースメーカー等(これらについては後述の実施形態で説明する)の、体内に配置される医療用機器に好適に用いることができる。
また、この実施形態における電気機器10は、受電コイル25によって受電した電力によって、治療に必要な動作をなす駆動部(ここでは受電コイル25)を有しているので、体内における、治療に必要な動作、例えば、発熱や、薬液投与、発光等(これらについては後述の実施形態で説明する)の諸動作を、確実に行わせることができる。
更に、この実施形態における電気機器10は、受電した電力によって発熱する受電コイル25自体を、駆動部として、温熱療法に用いられる治療具であるので、がん組織の熱感受性(正常組織によりも熱に弱く、所定温度で死滅する性質)を利用した、温熱療法(ハイパーサーミア)に好適に用いることができる。
また、この実施形態における電気機器10は、図3に示すように、感温磁性体部材30の外周に、受電コイル25と共振コンデンサ35とが接触するように配置されていると共に、受電コイル25は、Cuよりも抵抗値が高い材料からなる。そのため、受電コイル25自体を抵抗体として、発熱させやすくすることができ、温熱療法により好適に用いることができる。
更に、この実施形態の電気機器10においては、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度Tcが42.5〜43℃とされているので、温熱療法に一層好適に用いることができ、がん組織をより死滅させやすくすることができる。
図8には、本発明に係る無線給電式電気機器の、第2実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
この実施形態の無線給電式電気機器10A(以下、「電気機器10A」ともいう)は、駆動部を有し体内に留置される留置型治療具であり、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度Tcが39℃とされたものである。
図8(b)に示すように、この第2実施形態の電気機器10Aは、前記第1実施形態のように、チューブステント11を備えるものではなく、受電コイル25と、その内側に配置された感温磁性体部材30と、感温磁性体部材30の軸方向一端部に接続された共振コンデンサ35とからなり、また、受電コイル25自体が発熱する本発明における「駆動部」をなしている。更に、電気機器10Aは、超音波内視鏡80の先端開口から突出される生検針81の内部を通過できる大きさ及び形状とされている。なお、超音波内視鏡80の先端には、超音波照射用及び探知用の超音波プローブ(探触子)82が設けられている。
そして、例えば、胃の壁部1に隣接する膵臓等の臓器Zの患部3に、治療具10Fを留置する際には、口から挿入された超音波内視鏡80の先端部を、胃の内部に配置して、胃の壁部1の内面側から、超音波プローブ82で超音波を照射して、隣接する膵臓等の臓器Zにおける、電気機器10Aを留置すべき目的の患部3を探知する。その後、図8(a)に示すように、超音波内視鏡80の先端開口から生検針81を突出させて、胃の壁部1を貫通して、膵臓等の臓器Zの患部3に生検針81を穿刺する。更にその後、図示しないチューブやシース、プッシャ等によって、生検針81の針内部を通して、患部3に電気機器10Aを埋め込むように留置する。なお、電気機器10Aが留置される臓器Zとしては、膵臓以外であってもよく、特に限定はされない。
そして、この実施形態における電気機器10Aは、駆動部を有し体内に留置される留置型治療具であって、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度が39℃とされているので、体内の正常な組織に影響を与えない範囲で、がん組織等に効率的に治療(ここでは温熱療法)を施すことができる。
図9及び図10には、本発明に係る無線給電式電気機器の、第3実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
この実施形態の無線給電式電気機器10B,10C(以下、「電気機器10B」,「電気機器10C」ともいう)は、駆動部として、受電コイル25によって受電した電力によって発熱する発熱体37を有すると共に、感温磁性体部材30に接続される共振コンデンサ35を有し、温熱療法に用いられる治療具である。すなわち、第1実施形態の電気機器10や、第2実施形態の電気機器10Aが、受電コイル25自体が発熱する構造であるのに対し、この第3実施形態の電気機器10B,10Cは、受電コイル25とは別体の、発熱体37を有しており、この発熱体37が発熱する構造となっている。
具体的に説明すると、図9(a)に示す電気機器10Bは、発熱体37は、受電コイル25及びその内側に配置された感温磁性体部材30の間に、それらに接触するように配置された構造となっている。一方、図9(b)に示す電気機器10Cは、発熱体37は、受電コイル25の外側に接触するように配置された構造となっている。なお、図10に示すように、これらの構造は、いわゆるRLC回路を構成しており、受電部20の共振周波数f(Hz)は、前記(数式1)と同様に、で表されるものとなる。
そして、この実施形態における電気機器10B,10Cにおいては、送電アンテナ70からの電力を、受電コイル25が受電すると、発熱体37が発熱して、その温度が感温磁性体部材30によって調整されるため、温熱療法に好適に用いることができる。
図11には、本発明に係る無線給電式電気機器の、第4実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
この実施形態の無線給電式電気機器10D(以下、「電気機器10D」ともいう)は、受電部20及び駆動部を収容するカプセル40を有し、体内で移動するカプセル型治療具であり、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度がTc41〜42℃とされたものである。
具体的に説明すると、この電気機器10Dは、光透過性材料で形成されたカプセル40を有しており、その内部の一端部側には、カメラ41及び自走用駆動装置43が配置され、他端部側には、受電コイル25と、その内側に配置された感温磁性体部材30と、感温磁性体部材30の内側に配置された、薬液注入装置45とが配置された構造となっている。また、受電コイル25で受電された電力は、カメラ41や、自走用駆動装置43、薬液注入装置45に供給される。そして、この電気機器10Dは、消化器官等の管状器官に入り込んで、自走用駆動装置43によって管状器官内を移動し、カメラ41によって管状器官内を撮影可能で、更に薬液注入装置45によって、抗がん剤等の薬液を注入可能となっている。なお、上記の、カメラ41、自走用駆動装置43、薬液注入装置45が、本発明における「駆動部」をなしている。
そして、この実施形態における電気機器10Dは、受電部20及び駆動部(カメラ41,自走用駆動装置43,薬液注入装置45)を収容するカプセル40を有し、体内で移動するカプセル型治療具であり、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度が41〜42℃とされているので、カプセル型治療具が41〜42℃に維持されつつ体内を移動するため、体内の正常な組織に影響を与えない範囲で、がん組織等を効率的に治療することができる。
図12及び図13には、本発明に係る無線給電式電気機器の、第5実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
この実施形態の無線給電式電気機器10E(以下、「電気機器10E」ともいう)は、駆動部を有し体内に留置される留置型治療具であり、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度Tcが39℃とされたものである。
図12に示すように、この電気機器10Eは、心不全等の治療のために、体内に埋め込まれて留置されるペースメーカーに適用されるものである。なお、体内に留置される留置型治療具としては、例えば、人工心臓や、人工補助心臓、人工腎臓、その他の人工臓器に適用することができ、特に限定はされない。
図13に示すように、この電気機器10Dは、受電コイル25及びその内側に配置される感温磁性体部材30を有する受電部20と、該受電部20によって受電した電力を蓄える二次電池51と、該二次電池51によって駆動される駆動装置53とを有しており、それらがケース50内に収容配置されている。また、駆動装置53には、トランジスタや集積回路、抵抗、コンデンサ等の、各種回路部品が実装された基板55が配置されている。そして、電気機器10Eには、心臓5の心房や心室に接続されたリード56,57が接続されており、駆動装置53を介して制御されて、センシングやペーシングがなされるようになっている。なお、上記駆動装置53が、本発明における「駆動部」をなしている。
そして、この実施形態においては、電気機器10Eは、駆動部を有し体内に留置される留置型治療具であり、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度Tcが39℃とされているので、体内の正常な組織に影響を与えない範囲で、体内に留置されるペースメーカーや、人工心臓等の留置型治療具を動作させて、各種治療を効率的に行うことができる。
図14及び図15には、本発明に係る無線給電式電気機器の、第6実施形態が示されている。なお、前記実施形態と実質的に同一部分には同符号を付してその説明を省略する。
この実施形態の無線給電式電気機器10F(以下、「電気機器10F」ともいう)は、駆動部として、受電コイル25から電力が供給され、特定波長の光を発光する発光体60を有する、発光型治療具であり、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度Tcが39〜42℃とされたものである。
図14に示すように、この実施形態の電気機器10Fは、受電コイル25と、その内側に配置された感温磁性体部材30と、感温磁性体部材30の軸方向一端側に配置され、受電コイル25の導線21を介して接続された共振コンデンサ35と、この共振コンデンサ35に連設され、受電コイル25からの電力供給により、特定波長の光を発光する発光体60と、これらを収容するカプセル61とを備えている。
なお、発光体60により発光する光の波長は、モノクローナル抗体に結合される感光物質が吸収して化学変化を起こすことが可能な波長を選択する。例えば、感光物質としてIR700(フタロシアンニン)を用いる場合には、波長680〜710nmの近赤外線が採用される。
また、カプセル61の発光体60とは反対側の端部には、紐状体62を介して、体内の壁部1を係止可能なクリップ65が取付けられている。このクリップ65は、開閉可能で常時は開く方向に付勢された一対の把持片66,66と、これらの把持片66,66の外周にスライド可能に装着され、把持片66の先端側にスライドさせることにより、一対の把持片66,66を閉じさせることができるスライダ67とを有している。
そして、クリップ65の一対の把持片66,66を開いた状態で、アウターシースやインナーシース等からなる搬送装置によって、大腸等に電気機器10Fを搬送して、スライダ67を把持片先端側にスライドさせることで、一対の把持片66,66を閉じて、壁部1の目的箇所1aが挟持されて、電気機器10Fを吊り下げるようにして配置することができる。この状態で、送電アンテナ70から電力が供給されて、受電コイル25が受電すると、電力が発光体60へ供給されるので、所定波長の光を発光させることができ、壁部1内に生成された患部3に光免疫療法を施すことが可能となる。
このとき、この実施形態における電気機器10Fは、駆動部として、受電コイル25から電力が供給され、特定波長の光を発光する発光体60を有する、発光型治療具であり、感温磁性体部材30の透磁率が急激に低下するキュリー温度Tcが39〜42℃とされているので、体内の正常な組織に影響を与えない範囲で、例えば、がん組織等の治療が必要な箇所に、光を照射することができ、光免疫療法に好適に用いることができる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で、各種の変形実施形態が可能であり、そのような実施形態も本発明の範囲に含まれる。
本発明の電気機器を用いたことによる、受電コイルの受電量の増減を確認した。
<実施例1>
感温磁性体部材として、中実で外径が9mm、長さが3mmの、円筒状のものを用い、その外周にヘリカル巻した受電コイル(ヘリカルコイル)を配置して、実施例1を作製した。なお、受電コイルは、線径が0.2mmの線材を、ピッチを0.6mmとして、ヘリカル巻で5巻して形成されたものであって、その外径は10mm、長さは3.2mmである。
<実施例2>
感温磁性体部材として、外径が9mm、長さが10mmの、円柱状のものを用いた以外は、実施例1と同様の条件で、実施例2を作製した。
<実施例3>
感温磁性体部材として、外径が9mm、内径が1mm、長さが10mmの、円筒状のものを用いた以外は、実施例1と同様の条件で、実施例3を作製した。
<試験1>
上記実施例1に、ヘリカル巻した送電アンテナから電力を供給して、(1)キュリー温度Tc以下の場合、(2)キュリー温度とほぼ一致した温度の場合、(3)キュリー温度Tc以上の場合のそれぞれについて、感温磁性体部材の比透磁率と、受電コイルの誘電起電力との関係を、周知の電磁誘導のシミュレーションソフトによって測定した。なお、(1)キュリー温度Tc以下の場合は、比透磁率が10000、1000、100について、それぞれ測定した。その結果を下記表1に示す。なお、送電アンテナは、線径が0.5mmの線材を、ピッチを1.0mmとして、ヘリカル巻で10巻して形成されたものであって、その外径は11mm、内径は10mmである。
上記表1に示すように、実施例1の感温磁性体部材が、キュリー温度Tc以上となると、キュリー温度Tc以下と比べて、電磁誘導の条件下では、誘電起電力を33%程度減少することを確認できた。
<試験2>
上記実施例2及び実施例3に、スパイラル巻した送電アンテナから電力を供給して、(1)キュリー温度Tc以下の場合、及び、(2)キュリー温度Tc以上の場合のそれぞれについて、感温磁性体部材の比透磁率と、受電コイルの誘電起電力との関係を、周知の電磁誘導のシミュレーションソフトによって測定した。その結果を下記表2に示す。なお、送電アンテナは、線径が2mmの線材を、ピッチを5mmとして、スパイラル巻で10巻して形成されたもので、その外径は250mm、内径は156mmである。また、送電アンテナの中心に、実施例2,3の端部との距離を、10.0mm離して配置した。
上記表2に示すように、実施例2においては、感温磁性体部材が、キュリー温度Tc以上となると、キュリー温度Tc以下と比べて、誘電起電力を46%程度減少することを確認できた(212mVに対して115mV)。なお、キュリー温度Tc以下の場合の誘電起電力は、実施例2が実施例3と比べて、電磁誘導の条件下で13%程高いことが確認できた。