[第1の実施形態]
《造形物製造装置の構成及び動作》
図1aは本発明の造形物製造装置10の構成を示す図である。図2は造形物製造方法のフローチャートである。以下、図1及び図2を参照して、造形物製造装置10の構成及び動作を説明する。造形物製造装置10は画像取得部11・画像処理部12・材料取得部13・加工部14・仕上げ部15を具える。図1bは加工部14の構成例である。また、造形物製造方法は画像取得工程S11・画像処理工程S12・材料取得工程S13・加工工程S14・仕上げ工程S15よりなる。
画像取得部11は、加工に用いる平面的パターンのデータ等である画像1を取得又は生成する(S11)。画像取得部11は例えば周知のコンピュータを有し、記憶媒体に記憶されたデータを読み出して使用してもよく、加工のつど外部からデータを取得してもよく、取得したデータをもとに別のデータを生成してもよく、演算等によってデータを新たに生成してもよく、カメラやスキャナ等を具えデータ入力を受けてもよく、それらを合成してもよい。画像1は単純な平行線や格子柄や幾何学模様でもよく、図3aのような画像化された文字やロゴ、写真画像・イラスト・CG・各種図形・地図・模様等でもよく、CAD等による三次元画像データでもよく、数式等によって記述されてもよい。造形物製造装置10はアナログ工程処理もでき、その場合画像1はアナログ画像信号や、フィルム・紙焼き等の物理的媒体も含み、画像取得部11はそれらを扱うことができる。
画像処理部12はコンピュータ等により、画像取得部11から送られた画像1に適宜変更を加えることができる(S12)。例えば、画像処理部12は画像1をラスタ画像からベクタ画像に変換する等、加工に適した形式に変換したり、画像1のサイズを変倍したりする。画像処理部12は画像1に含まれる輪郭の抽出等により画像1を複数の部分領域に分割することができ、各部分領域にそれぞれ異なる万線を配置してもよい。画像処理部12は、図3aのような画像1を、各種加工方法に適したピッチ等の、例えば図3b・図3cのような万線画像に変換してもよく、画像取得部11がはじめから万線画像の状態で取得してもよい。画像処理部12は画像1を、図3dのように網点等の複数のドットによる画像・図3e・fのように複数の方向の線が集合した画像・自由な線による線画等に変換してもよく、図3eのような輪郭の抽出をさらに図3dの処理と組み合わせて図3hのようにしてもよい。また、画像処理部12は図3e等のように部分領域の一部に万線等を配置しなくてもよい。そして、画像処理部12は加工に最適化された画像1を加工部14に渡す。なお、本明細書では、画像取得部11が取得する画像と、画像処理部12が変更を加えた画像を区別せず、一律に画像1として扱う。
本明細書において万線画像とは、複数の線が平面上で互いに略平行に配置された画像である。線は方向及び長さを有し、幅を有してもよい。線の方向に垂直な方向を幅の方向とする。線の間にも幅及び幅の方向が適用される。線の間は線とは異なる色であってもよい。複数の線は、幅方向における数mm・数cm・数インチといった単位区間において複数本が配置されてもよく、その単位区間が複数反復されてもよい。その場合万線の最小数は4となる。複数の線のピッチが一定でもよい。また、μmオーダー以下、特に数100nm程度のピッチの溝部では、可視光線の干渉により、例えばコンパクトディスクのように、元の素材にはない構造色が発生することが知られている。さらに、10μmオーダー程度以下のピッチの溝部で光の回折が顕著となる。後述のように本発明は可視光線の直進・屈折及び反射という光学的現象を利用しているため、そのように線ピッチが微細すぎる場合には、これらの現象が観察されず本発明の効果が得られない可能性がある。よって本発明の線ピッチの下限は0.1mmが好ましく、0.2mmがより好ましく、0.5mmがさらに好ましく、1mmが一層好ましい。線ピッチの上限は、造形物の板厚と重量から、実用上は50mm又は100mm程度であるが、重量の制限がなければそれ以上でもよい。線が平行に送られていて、送り幅が一定であるか、複数の送り幅からなる一定の組合せが繰り返されていればピッチが一定である。また線は直線に限られず、図3gのような波線、曲線、平行曲線、同心円、螺線、連続しない点線・破線、放射状、あるいは図3fのXの文字部分のような入れ子状又は等高線状の図形の輪郭線等を含む。このように、互いに相似又は大きさや各部の太さが異なり骨格や構造といった基本的特徴が同様である複数の図形を入れ子状に繰り返して内包する形状を、本明細書では入れ子繰り返し形状と記載する。また、1以上の図形的要素が一定の送り幅又は一定の移動量で繰り返されてもよく、複数の送り幅又は複数の移動量からなる一定の組合せで規則的に繰り返されてもよい。これらの図形の共通点は、幾何学模様のように無限に反復可能な繰り返しパターンであることである。万線が波線・ジグザグ線又はそれらの組合せで、個々の部分では線の方向がまちまちであるが、線全体としては一定の方向を向いているならば、その一定の方向を波線等の方向としてもよい。また、波線等の万線では、図3gのように線方向に線が移動してもよい。図3gのように、隣接する波線どうしの距離が波線の各部で異なっていても、複数の線の組み合わせからなるパターンが周期的に反復したり、隣接する波線における同じ位相の点どうしの距離が一定であれば、ピッチが一定である。万線が放射状の場合、均等な異方性視覚効果を得るためには、1つの線の幅や複数の線どうしの間隔の変化の度合が制限されることにより、平行線に近似した放射状である方がよい。例えば幅又は間隔が最も狭い部分と最も広い部分の比が1:4以下又は1:2以下であるか、両端の線がなす角度が30°以下又は15°以下が好ましい。上記様々な万線は自由に組み合わされてよい。なお、万線において線は単数でもよく、例えば螺旋状の万線は単数である。
材料取得部13は、加工に供する材料2を外部から取得又は製造する(S13)。以下、本明細書ではABS・EP・FRP・PA・PC・PCL・PE・PET・PES・PLA・PMMA・PP・PS・PVC等の透明樹脂製の材料2を中心に記載するが、本発明にはそれ以外の材料、例えば金属・木材・紙・各種繊維・ガラス・セラミック・カーボン素材等の固形物及び固化する液状物や、それらをもとに材料取得部13が積層等を行って製造した、複数の色を有する材料2も採用可能である。ABS・PLA等は3Dプリンティングの加工性、PCは耐衝撃性、PMMAは透明度・耐光性、PP等は防汚性等からそれぞれ適する。PVCのレーザ加工は塩化水素・ダイオキシン等を発生させるため採用できないことがある。
本発明が提供する造形物は立体物でもよく、表面が曲面でもよいが、本明細書では、説明の都合上、比較的容易かつ低コストで製造可能な平面的板状造形物を中心に記載する。また、本発明が提供する造形物の表面の形状は様々である。表面は平滑でもよく、部分的に凹凸・突起・うねり・反射・発光等があってもよい。造形物が凹凸を有する場合、表面は凸部の先端の平面をさすこともあり、複数の凸部の先端によってなる仮想的な平面又は平面の集合又は曲面をさすこともある。
加工部14は、機械加工・プレス加工・電気的加工・化学加工・砥粒吹付加工・光学的加工・溶断・ウォータージェット切断・接着・3Dプリンティング・印刷・射出成形及び多色成形等、材料の一部の除去又は破壊あるいは材料からの形成等による各種の材料加工の1つ以上を用いることができる。加工部14は画像1に基づき、上記加工設備等により、材料取得部13から送られた材料2に例えば断面が図4のような溝部Gを加工し、造形物3とする(S14)。溝部Gは、例えば厚さ10mmの透明板に彫刻された幅0.4mm深さ8mmの微細な溝であり、板を貫通してもよく、裏側から加工され、開口部の反対側から観察されてもよい。ただし、溝部Gが板を貫通する場合、溝部Gの着色ないし充填部Fiの形成・加工時の変形の抑制・使用時の雨水等の進入の防止がいずれも困難又はコスト増要因であり不利である。また、板状体が溝部Gごとに断ち切られ、連続する部分がないと、造形物3の強度が下がり、充填部Fiとの間に段差が発生する。よって溝部Gは少なくとも片側で露出していない方がよく、溝部Gの深さはその部分の造形物3の厚さより小さい方がよい。板を貫通する溝部の開口部が塗装やシート等の薄膜で塞がれる場合には剥がれやすく、耐候性は改善されない。段差も残る。なお、本明細書の具体的説明では、加工された面であり、多くの場合開口部ができる側を表面部S、その反対側を裏面部Rとする。ただし、この定義が適当でない場合(3Dプリンティング等)もあり、文脈に応じて観察される側を表面部Sとすることもある。表面と裏面とは相互の関係で成立するので、それらが反転することもある。また、より広範に造形物3を定義する場合には、周囲のあらゆる方向から観察される造形物3も含めるため、表面・裏面を区別せず、造形物3の外側の露出部分をすべて表面とすることもある。
溝部Gの幅wは、画像1における幅と同様、溝の方向に垂直かつ表面と平行な方向の長さで、図4a・b・cのように溝部Gの各部で太さが異なる場合には、最も広い部分の幅である。溝の方向(溝部の方向)は画像1における線の方向に基づく方向であり、表面部Sに平行である。溝部Gの開口部の肩部は、図4aのように丸みを帯びて角ではないことがあるが、幅wは表面部Sと溝側面Fとが交わる仮想的位置を基準として測定される。また、溝部Gの深さは、表面部Sに垂直な方向の、表面部Sから溝部の先端までの距離である。ただし、後述のように溝部Gの過半が着色されている場合には、幅w及び溝部Gの深さはその色の部分で測定される。また、溝部Gが表面部S及び裏面部Rに露出していない場合には、溝部Gの深さは、溝部Gのうち裏面部Rの側の端部から溝部Gのうち表面部Sの側の端部を通り表面部Sと平行な面に下ろした垂線又は法線の長さである。裏面部Rの側の端部の1点から表面部Sと平行な面への垂線又は法線が複数ある場合には、溝部Gの深さはそのうち最も短い垂線又は法線の長さである。加工部14が表面部Sに対して垂直に加工すれば、表面部Sと溝部Gのなす角度は略90°となる。溝部Gの両側の溝側面Fは図4dのように平行でもよいが、加工法によっては溝側面Fに傾斜がつき、溝部Gがテーパー状になることがある。例えば射出成形では抜き勾配が必要となる。特に微細かつ深さの大きい溝部Gでは、図4a・b・cのような楔状の方が容易に生産性高く仕上がりよく加工可能である。溝部Gの両側の溝側面Fがなす二面角の角度を本明細書では溝部楔角θGと記載する。後述する溝部Gへの着色の都合や耐久性、反射範囲・出射可能入射角の広さ等の理由から、楔状の溝部Gでは0<θG≦10が好ましく、0.5≦θG≦7がより好ましく、1≦θG≦5がさらに好ましい。このような楔状の溝部Gは、特定条件下のレーザ加工等により得られる。特定条件とは、レーザ加工機等の機種や仕様、使用によって低下する最大出力、また材料の性質やその他の環境条件によって異なり、一概に述べることはできない。例としては、深さ8mmの溝部Gを得るには、厚さ6mm程度の材料を切断する場合に近い条件で加工してもよい。また、楔状の溝部Gの先端は、微視的には図4aのような完全な二面角状ではなく、図4bのような曲面や、図4cのような凹凸が溝の方向につれて変化する乱雑な形状等であることが多い。レーザ加工の場合には、溝側面Fにパルスを反映した波状の凹凸が現れ、熱により材料2が溶解して溝側面Fが特有の平滑状態を呈し、溝部Gの始点と終点に出力の変動による深さのばらつきが生じ、それ以外にも楔状の溝部Gの先端部分に微細な凹凸ができることがある。この凹凸の変化は溝部の方向につれて略周期的に反復することが多い。このような楔状の溝部Gの先端部分の幅weは無視できるほど狭い。なお、図4bの場合のweは溝部G断面の先端部分の曲線に近似した円の直径とする。溝部Gが鋭利なほど先端部分を二面角状に加工するのが難しく、楔の角度が広がれば幅に比して先端部分の幅を狭くする必要があるため、weとwの比率は溝部楔角θGに応じて変動する。本明細書ではwe/wを溝部楔率と記載する。楔状の溝部Gでは溝部楔率は0〜1/(3+θG)が好ましく、θGが5°なら0〜1/8、7°なら0〜1/10である。このような楔状の溝部Gにおいて、両側の溝側面Fがなす二面角を二等分する面(本明細書では二分面と記載し、両側の溝側面Fから推測可能な仮想的面であるため原則として図示しない)はこの場合表面部Sに対し垂直であり、本明細書ではこれを溝部Gが表面部Sに直交すると記載する。その場合、溝部Gが表面部Sと交わらなくてもよい。加工部14は、この角度を垂直以外にしてもよい。そのために、加工部14は例えば加工方向傾斜機構1411及び回転軸補正機構1412を用いることができる。ただし、加工方向が傾斜可能なレーザ加工機等は特殊かつ高価であるため、溝部Gが表面部Sに直交する造形物の方が格段に低コストで製造でき、大型かつ高精度な加工が容易である。
加工部14は、図4aのように溝側面Fを塗料等で溝部色CGに着色してもよく、さらに図4b・c・dのように溝部Gの全部又は一部を透明又は不透明の樹脂等で埋め充填部Fiとしてもよい。なお、本明細書において造形物3の色には色相・明度・彩度・透過率・光沢といった視覚的特性が含まれ、無色透明も色の1つである。加工部14は、着色後に表面部Sの塗料等を拭き取る、表面を研磨して塗料等を除去する、着色時に一部を隠す等により造形物3の一部のみを選択的に着色することができる。加工部14は塗料等を充填部Fiとしてもよく、溝側面Fと充填部Fiの両方に着色してもよい。溝部色CGは真空蒸着等の金属でもよく、充填部がそのような金属の溝部色CGを挟まずに直接溝側面Fに密着してもよい。着色された充填部Fiに透過性があれば、溝部G各部の厚みの差により溝部色CGの明度が変化する。また図4aのように溝側面Fのみが着色された場合でも、溝部Gの開口部寄りの上部と奥の下部とで、塗料の厚さの差等により、溝部色CGの色味は同じ傾向ながら、明度が異なることがある。後述のように複数の溝部が並ぶ場合、同じ溝部Gにおいて深さが異なる各部で溝部色CGの明度が異なれば、斜め方向から見た時に、複数の溝部Gが波打つような独特の効果が得られる。明度の差はマンセル表色系において2〜10が好ましく、3〜10がより好ましく、4〜10がさらに好ましい。この効果は、溝部色CGが急に切り替わるのでは得られず、溝部Gの中でグラデーション状に徐々に移行することで得られる。複数の溝部色CGは溝部Gの深さ方向又は溝側面Fの面沿いの深さ方向の全体で変化するのが最も好ましいが、深さ方向の1/2までの変化でそれに準じた効果が得られる。すなわち溝部色CGが溝部Gの深さの1/2から全体にかけての範囲で連続的に変化してもよい。また、溝部G内に全く異なる色相、具体的にはマンセル色相環において近い側が25〜50歩度分離れた色相の溝部色CGが混在していれば、複数の溝の層が重なって徐々に浸潤するかのような別種の効果を呈する。測色には例えばコニカミノルタ株式会社製CM−5等の分光測色計やCR−5等の色彩色差計が用いられるが、測色範囲が狭い等の理由で測定が困難な場合には、目視比較が併用されてもよい。色を定量化した本明細書の他の記載でも同様である。溝側面Fと底面部Bの色又は色調が同じ、又は溝部Gの開口部を除く部分の色又は色調が同じでもよく、それらが異なってもよい。なお、溝側面F・二分面・底面部B・充填部Fiは溝部Gの一部であり、溝部Gはそれらを含む。溝側面F・底面部B等は境界面であるから溝部G以外の部分の一部でもある。
加工部14は、さらに図4dのように、充填部Fiの露出部分に溝部色CGと異なる色の充填被覆部CFiを重ねて溝部Gを目立たなくしてもよい。充填被覆部CFiの色は彩度の低いグレーか、溝部色CG等が透明の場合には溝部色CGの補色系が好適であり、後者の場合には、例えば正面からは溝部色CGと混色されることで溝部Gがグレーに近く見える。逆に、充填被覆部CFiが溝部色CGと色相が同等で明度や彩度が低い色であれば、正面等からは溝部色CGが隠れ、斜めからは充填被覆部CFiと溝部色CGの差が目立ちにくい。図4aのように充填部Fiのない溝側面Fの溝部色CGが不透明で、さらに別の色が重ねて着色されても同様の効果となる。溝部色CGは鏡面状でもよく、蓄光塗料・可塑性発光体・電気的発光物等の充填部Fiにより溝部Gが光ってもよい。
図5V1のように、観察者が造形物3を充分な距離をとって正面から見た場合、溝部Gは幅が狭いため見えないか、又は略見えない。なお、この図は概念図であり、この図の溝部Gと同じスケールの造形物3と視点との距離はより大きいことが多い。以下の図面でも同様である。
次に図5V2のように、観察者が造形物3に対する視線方向を傾けて斜めから見ると、溝部Gの溝側面Fが見えるようになる。これにより、正面から見た場合とは色が変化して見える。
図5V3のように、観察者が造形物3に対する視線方向をより傾けて横に近い斜めから見ると、溝側面Fがより広く見えることでさらに色味が変化する。このように、溝部Gの見え方が視線方向で異なることにより、造形物3が示す色合が一変する。これが本発明の目的とする異方性視覚効果の一種、異方性カラーリング効果である。
画像1が図3bのような万線状である場合、これに基づき加工部14が加工した造形物3には、無数の互いに平行な(より正確には、二分面が互いに平行な)溝部Gが造形される。このような造形物3では、観察者の視点が図5V3のような位置にあると透明な部分が見えなくなり、一面溝部色CGに見えることがある。そのような溝部Gが多数並ぶことで、観察者が斜めから見た造形物3は、単なる溝部色CGの縞模様ではない、独特の幻覚感を醸成するひとかたまりの色の面として見える。この幻覚感の理由の一つは以下である。等幅等ピッチの要素が並ぶ繰り返しパターンでは、類似した形状の反復が、左右両眼の視線方向の制御に迷いを起こさせる。つまり、観察者が左右の眼でそれぞれ別の部分を見ているにもかかわらず同一のターゲットと誤認しがちである。さらに、表面が視線に対して傾いているため、各要素との距離がまちまちであり、左右両眼の焦点調整機能が一時的に失調する。これらが錯視にも似た眩惑感をもたらす。
造形物3が平面的板状の場合、図6aに示すように、視点V4の観察者が造形物3を正面から見ている場合でも、視線が表面部Sに垂直であるのは造形物3の一点に対してのみであり、そこから遠い部分ほど視線の傾きは大きくなっていく。つまり、造形物3の中心を正面から見ているなら、造形物3の外周に近くなるほど溝側面Fが見える。これは、造形物と目の距離が大きければ無視できるが、近接すると目立つようになる。そして、前段落記載の効果と合わせて、造形物3の各部に複雑な色合が浮かび上がる。例えば、造形物3の中心部に比較的近い部分は略透明に見え、その周囲では一部が溝部色CGに、その間が透明に見え、その外側では溝部色CGのみが見え、さらに外側では前後の溝側面Fが重なって見え、溝部色CGの濃い部分と薄い部分が交互に見える、というように、位置によって見え方が変化する。加えて、観察者が視点V4を移動させたり造形物3を傾けたりすると、そのような異方性カラーリングの中心が造形物3の別の箇所へと移動し、その点を中心とした異方性カラーリングの関係が出現する。こうして各部の色合が微妙に変化することで、造形物3は特有の視覚的効果を発揮する。
加工部14は、溝側面Fが表面部Sとなす角度を、造形物3の各部で変更することができる。例えば加工部14は、ガルバノ式等のレーザヘッドが固定された加工機を用いることで、図6bのように、溝部Gが、造形物3の中心部では表面部Sに略直交するが、周辺部では表面部Sから奥に向かって放射状に広がるように加工できる。これにより、加工時にレーザ照射方向が交わっていた位置V5から観察者が見た時に、図6aとは異なり、造形物3全体の溝側面Fが見えないという効果が得られる。加工部14は、3Dプリンタを用いて、溝側面Fが表面部Sとなす角度を造形物3各部でより複雑に変更することもできる。
仕上げ部15は、表面等の研磨、別の部材との組合せ、追加着色、保護のための処理、加工後の洗浄、検品等を行い、造形物3を製品として完成させる(S15)。仕上げ部15は、照明光の拡散性の向上、色の変更、造形物の保護・補強等の目的で、造形物3の裏面ないし表面に樹脂板等を装着又は接着することもできる。造形物3の全面に透過性のない板等が装着されてもよい。樹脂板はフィルム・塗膜等の薄膜でもよく、厚さが均等でなくてもよく、その色は様々でよく、光を反射してもよい。接着により傷や凹凸を隠蔽することもできる。仕上げ部15は、造形物に照明器具等を装着又は組み合わせ造形物照明設備5としてもよい。
以上、造形物製造装置10が画像取得部11・画像処理部12・材料取得部13・加工部14・仕上げ部15の順に実行する形態を説明したが、造形物製造装置10がそれらを実行する順序は任意であり、ある処理を別の工程部が行ってもよく、ある処理を複数の工程部で分担して行ってもよく、ある工程部に進んだのちに元の工程部に戻ってもよい。例えば材料取得部13・仕上げ部15を加工部14が兼ねてもよい。
《造形物の実施形態の諸条件》
造形物3が異方性視覚効果を得るための条件を、溝部深間隔率・溝部幅ピッチ率・溝部狭長率等として以下に定式化する。
図7は万線状の画像1に基づく溝部Gの溝方向に直交する断面の図である。造形物3の溝部G以外の部分である基材部M(本明細書において基材部は基体部の意味も含む。)に透過性がある場合、溝部Gが深いほど溝部色CGが連続して見える視点の範囲が広くなり、異方性カラーリング効果が向上する。図7aにおいて、深さがdeで、表面部Sと直交し(又は表面部Sに垂直であり)、隣接する溝部Gとの幅方向の中心どうしの間隔di及び溝部Gの幅wが一定で、溝側面Fが平面で、底面部Bの幅weが0で、互いに平行な複数の溝部Gを、充分な距離を隔てた観察者V6が溝方向に表面部S上で直交する方向から観察する場合を考える。基材部Mの屈折率をn、空気の屈折率を1とすると、表面部Sに対する垂線又は法線と視線のなす角度(以下視線角度と記載)すなわち基材部Mへの入射角θVと、基材部M中の屈折角θrとの関係は、スネルの法則より1・sinθV=n・sinθrであるから、溝部Gの屈折像の表面部Sにおける見かけの深さdehは
ここで、複数の溝部Gが隙間なくつながって見えるためには、dehがdi−w/2以上であればよく、
となり、この時のde/(di−w/2)は、
であり、de/(di−w/2)を本明細書では溝部深間隔率と記載する。溝部深間隔率が大きいほど所期の効果が高い。ソーダガラス等の一般的なガラスの屈折率は、波長にもよるが1.5前後、樹脂の屈折率は、PCで1.6、PMMAで1.49、PVCで1.54前後であるから、n=1.5とし、θV=45°とすれば、数3より溝部深間隔率が1.87083…以上であればよい。つまり、深さdeが間隔diから幅wの半分を減じた値の1.87倍以上であれば、表面方向において溝側面Fと視線が直交する場合に、視線角度が45°以上で、複数の溝側面Fが連続して見えることで、その部分の略全域が溝部色CGに見える。これは、その部分の基材部Mがそれのみでは見えず、必ず溝部Gを通して見えているということでもある。さらに視線角度θVが60°なら、溝部深間隔率が2
1/2以上で、造形物3に対してとりうる視線角度の範囲180°の1/3において、当該部分の一面が溝部色CGに見える。なお、we>0の場合には、溝部深間隔率はde/(di−w/2−we/2)である。
また、溝部Gが隙間なくつながって見えるための最小の溝部深間隔率は、θV=90°の場合で、cot[arcsin(1/n)]である。造形物3の基材部Mの屈折率に応じて一意に定まるこの値を最小溝部深間隔率と記載する。n=1.5なら1.1180…である。ただし、視線角度90°では実際には溝部Gは表面からは見えないので、ある部分が一面溝部色CGに見えるためには、溝部Gの深さは隣接する溝部Gとの幅方向の中心どうしの間隔から幅wの半分を減じた値と最小溝部深間隔率との積より大きくなければならない。
図7bにおいて、溝側面Fが平面で、互いに平行な複数の溝部Gを、充分な距離を隔てた観察者V6が溝方向に直交する方向から観察する場合を考える。複数の溝部Gの上端を通る面P1と直交し、面P1と溝側面F1との交線を通る直線L1と、L1と平行で、溝側面F1とは別の溝部Gに属し溝側面F1と対向する溝側面F2の下端を通る直線のうち直線L1と最も近い直線L2との間隔di2及び溝部Gの深さdeは一定である。面P1に対する垂線又は法線と視線のなす角度は、溝側面F2の下端と直線L2との交点からの光が基材部Mを通って空気との界面に入射角θrで入射し、観察者V6めがけて空気へ出射する際の屈折角θVと絶対値が等しい。溝部Gの屈折像の面P1における見かけの深さdeh2は
ここで、複数の溝部Gが隙間なくつながって見えるためには、deh2がdi2以上であればよく、
となり、この時のde/di2は、
であり、de/di2を本明細書では溝部深間隔率2と記載する。溝部深間隔率2がcot[arcsin(1/n)]より大きければ、溝側面F1と溝側面F2とが隙間なくつながって見える。
本構成の要点は、観察者が造形物3を例えば斜め方向から見た時、複数の溝部Gのそれぞれで手前の溝部Gの上部と奥の溝部Gの下部とが隙間なく接して見えれば、観察者からは奥の風景が隠れて見えない、という点にある。図7cにおいて、造形物3のある部分における任意の溝部G0の片側の溝側面をF0、溝側面F0に基材部Mを挟んで対向する溝側面をF11、溝側面F0の裏面部R側の端部における点をPo1、Po1から表面部Sを含む面に下ろした垂線又は法線をPe、垂線又は法線Peを含む直線をL0,溝側面F11の表面部S側の端部のうちL0に最も近い点をPo2とする。裏面部R(表面部S)側の端部とは、溝側面Fの周囲の輪郭部分のうち裏面部R(表面部S)の側の一部である。垂線又は法線Peの長さは溝部G0の深さdeに等しい。直線L0と点Po2との最短距離をdi3とすると、de/di3>cot[arcsin(1/n)]であれば、表面部Sにおいて溝部G0の見かけの深さdeh3がdi3より大きくなり、観察者V0からの視線角度θVによっては溝側面F0と溝側面F11とが接して見える。このような関係にある複数の溝部Gの繰り返しパターンにより、造形物3の各部が所期の効果を呈する。上記の条件は所期の効果の必要十分条件である。すなわち、透明な基材部M中の互いに離れた複数の溝部Gが斜め方向等から観察された場合に互いに隙間なく接して見えるなら、複数の溝部Gのその部分は、深さdeがdi3等のcot[arcsin(1/n)]倍より大きいという条件を満たしている。なお、図7cのPe・L0は作図上の都合により途中で切れているが、本来はPo1まで届いている。図7bのL2等も同様である。
出願時点で加工可能な造形物3における最大の溝部深間隔率及び溝部深間隔率2は、深さdeが28mm、幅wが0.2mm、間隔diが0.8mm、間隔di2が0.7mmであるから40であり、これが溝部深間隔率及び溝部深間隔率2の上限である。ただし、今後の材料の改良や製造技術の向上等により、この上限値は改善される可能性がある。本発明の技術的範囲は出願時に実施可能な範囲に限定されないのであり、後述の溝部幅ピッチ率・溝部狭長率の下限等においても同様に変更の可能性があるか、同じ理由から各種条件の上限又は下限が明示されないことがある。
なお、図7a・bの造形物3外の2本の一点鎖線は同一視点V6からの視線を示し、実際の視点V6は図7に示すより遠方にあるので、各溝部Gに向かう視線は実用上略平行である。また、図7dV8に示すように、溝部Gが面P1又は表面部Sに直交しない場合にも、見る方向によっては同様に溝部深間隔率等が適用できる。この場合溝部Gの片側から見た時しか所期の効果が得られないことがあるので、図7a・b・cのように溝部Gが面P1又は表面部Sに直交する場合の方が両側で効果が得られ有利である。観察者が溝部Gの開口部と逆の側から見る場合も上記があてはまる。面P1又は表面部Sや裏面部Rが曲面であっても、溝部Gが面P1又は表面部Sとなす角度が一定であるか溝部Gが互いに平行であれば同様である。溝部Gが波状等で、間隔di等が複数の場合には、例えば1単位の波のうち間隔di等が最も長い部分の溝部深間隔率等が最小溝部深間隔率より大であれば、その一帯全部で所期の効果が得られるので好ましい。さらに、波状の溝部Gや、段落0018に記載の放射状の万線に基づく溝部G等、隣り合う複数の溝部Gが互いに平行でない場合でも、一部で溝部深間隔率等が最小溝部深間隔率より大きければ、その部分はつながって見え、また段落0048に後述のように、異なる方向から観察した場合に、その都度対応する方向の溝部Gの部分に異方性視覚効果が現れ、そのような部分が規則的に繰り返されることにより、段落0066に後述の効果も得られる。
図7dのように、面P1の上に、反射防止フィルム又はより厚い板等が加工されている場合、面P1と表面部Sとが一致せず、溝部Gは開口部を持たず基材部M中に浮いた状態となる。これにより溝部Gが紫外線・雨水・有害ガス等から遮断され、屋外での耐久性及び強度が向上する。また、表面側の防汚性及びメンテナンス性が裏面側に等しくなる。さらに、溝部Gの肩部の凹凸が平滑となって、向こうがゆがまずに見える部分が広くなることがある。この場合、面P1及び溝部Gの上の板等の部分に面P1から入射し表面部Sから出射する複数の光線の光路において、複数の入射する位置相互の関係と複数の出射する位置相互の関係とは同一である。溝部深間隔率等は面P1及び溝部G上の基材部Mにより変化しないので、溝部深間隔率等は溝部Gが露出している場合と同様に適用される。本発明はこのように溝部Gが開口部を持たない場合を含む。以上は本明細書の他の記載でも同様である。ただし、説明の都合上、面P1と表面部Sとが一致することを前提に記載することがある。
図7V6・V8のように、観察者が造形物3への視線を傾ければ、溝部色CGで略埋め尽くされて見える。一方図7V7・V9のように、観察者が造形物3を正面等から見れば、溝部色CGがほとんど見えない。この対比によって異方性カラーリング効果が得られる。ここで、溝部Gの幅wが隣接する溝部Gとの幅方向の中心どうしの間隔すなわち溝部Gのピッチpiに対して充分に狭ければ、観察者が正面から見た時にその部分が略透明に見え、溝部色CGがほとんど見えない。そこで本明細書ではw/piを溝部幅ピッチ率と記載し、その値を溝部色CGが最も目立たない時とより目立つ時とを比較する尺度とする。また、溝部Gが面P1に直交しない場合にも、同様にw/piが適用できる。ところで、図4a・bのCrのように、溝部Gからさらに微細な溝ないしヒビが枝分かれしてもよい。この微細溝Crは溝部とは異なる角度の光を反射して装飾効果を付与する。微細溝Crが溝部Gの深さ方向とは異なる方向に延び、溝部Gと比較して長さや幅が短く具体的には1/5以下で、溝の位置・長さ等が不規則、の少なくともいずれかであれば、溝部Gと比較して全体への視覚的影響が小さいので、wやpi等には含まない。
溝部幅ピッチ率は、溝部色CGが最も目立たない時とより目立つ時とを比較する尺度であるから、後述のように溝部Gの底面部Bが溝側面Fと異なる色の場合には、底面部Bの幅をwから差し引く必要がある。その場合、溝側面Fの幅、すなわち溝部Gの幅から底面部Bの幅を減じた値をwFとし、wF/piを溝側面幅ピッチ率とする。また、溝部幅ピッチ率と溝側面幅ピッチ率が一致する場合、それらを併せて溝幅ピッチ率とする。溝部幅ピッチ率についての記載は溝側面幅ピッチ率及び溝幅ピッチ率にも適用される。
溝部幅ピッチ率及び溝幅ピッチ率は小さいほどよい。基材部Mが不透明で、溝部Gの断面が等脚台形状で表面に近い部分の幅より底面に近い部分の幅の方が広い場合、wは0又は負の値となるが、いずれにせよ視点の位置によっては溝部色CGが全く見えないことがあるので、異方性カラーリング効果は高い。また、基材部Mに透過性があって溝部Gが面P1に直交し、溝部Gが着色されている場合、正面から見た時に着色されていない部分が着色された部分と少なくとも同じかそれより広く見えることが、異方性カラーリング効果のために好ましい。また、溝部Gが無色透明であっても、楔状かつ溝部楔角θGが10°以下であることにより、正面からは溝部Gを通して造形物3の向こう側が見えない場合、正面から見た時に向こう側が透過して見える平らな部分が向こう側の見えない部分より広ければ、後述の異方性透過効果等のために好ましい。異方性視覚効果が発揮されるためには、造形物3の反対側が少なくとも溝部Gと同じ量見える必要がある。また、加工部14が溝部楔角θGが10°以下の溝部Gを加工するには、溝部Gの間は幅wと少なくとも同じだけ離れている必要があり、また強度上も溝部Gのピッチはpi≧2wの必要がある。よって面P1において溝部Gがなく透過する部分の幅が溝部Gの幅より広いほうがよく、溝部幅ピッチ率は1/2以下か1/2未満が好ましい。本願発明者による試験では、例えば6mm厚の透明板に直交する溝部Gにおいて、溝部Gの幅w約0.4mm、ピッチpiが4mmで、溝部幅ピッチ率が約1/10であったが、発明者が正面から観察して溝部色CGがあまり目につかず、良好な異方性カラーリング効果を得られた。別の例では、8mm厚の透明板に溝部Gの幅w約0.4mm、ピッチpiが6mmで溝部幅ピッチ率が約1/15、発明者が正面から観察して溝部色CGがほとんど目につかず、より良好な結果であった。また、アルミ板上に橙のアクリル塗料の層を重ねて0.6mm厚とし、その上に青のアクリル塗料をごく薄く重ねた材料では、ピッチpiが1.6mmに対し溝部深間隔率が約1/4で、正面から橙がやや見え、異方性カラーリング効果は限定的であった。発明者は、このような試作を多数積み重ね、いずれも異方性カラーリング効果という有利な効果を得られるものではあるが、溝部幅ピッチ率は1/6以下で所期の効果が認められ、1/8以下で差が明らかなので好ましく、1/10以下でより好ましいとの結論を得た。基材部Mに透過性がある場合、wを0にすることは難しいが、diは無制限に広げることができるので、溝部幅ピッチ率は0より大である。
図8は造形物3に含まれる溝部Gを示す。溝部Gの両側の溝側面Fがなす二面角を二等分する、又は溝部Gの両側の互いに平行な溝側面Fからの距離が等しい平面P2と、平面P2及び複数の溝部Gの上端を通る面P1と直交する平面P3との交線において、溝部G及び面P1で区切られた線分をL3、その長さをl3とし、平面P2に直交し2つの溝側面Fに区切られた線分のうち最も長い線分をL4、その長さをl4とする。溝側面Fが平面の場合、溝部狭長率はl4/l3の値である。溝側面Fが曲面の場合、溝方向の長さが無限小である溝部Gの連続を想定し、そのうちの最大のl4に上記を適用する。
溝部Gが表面部Sに直交する場合、基材部Mの屈折率が1.5で視線角度が45°の場合に、溝部狭長率が溝部Gの幅が0.4mmに対して深さが4mm以上、すなわち溝部狭長率が1/10以下であれば溝部Gの屈折像の表面部Sにおける見かけの深さdehが幅wの10/1.87≒5.4倍に見える。深さが6mm以上、溝部狭長率が1/15であればdehが幅wの15/1.87≒8.0倍に見え、視線角度が45°の時の溝部Gの深さに比して、正面から見た時の溝部Gの幅が無視できる程度に狭く見え、所期の効果が得られる。溝部狭長率が1/19でdehが幅wのほぼ10倍に見え、より好ましい。他の条件が同一であれば溝部狭長率は低いほどよい。出願時に製造可能な溝部狭長率の下限は、大型の造形物3では1/140、微細な造形物3では1/200である。
造形物3は屋外設置も可能であるから、屋外も含む様々な環境下での耐久性が要求される。そこで最大の問題が耐光性である。溝部Gが着色されている場合、溝部色CGの褪色の可能性がある。この問題は、無機顔料等の紫外線に強い色材の採用により改善が見込まれるが、色の選択の幅が狭まり、また無機顔料でも長期の直射日光照射による劣化は避けられない。それゆえ、溝部色CGが直接露出する部分の縮小という対策も併用されなければならない。造形物3の開口部側を透明の被膜・保護層・保護板等で覆うという方法もあるが、コスト・板厚・透明の層の反射による溝部Gの見えづらさといった理由で、この方法が望ましくない局面もある。そのため、室内外を問わず、長期にわたり造形物3の装飾性を維持するためには、溝部狭長率を低く抑え、溝部Gの開口部を極力狭くする必要がある。また、それにより雨水等の影響を含む耐候性全般が向上する。図4cのように溝部Gに充填部Fiがあればそれにより保護される。図4aのように溝部Gに充填部Fiがない場合、あるいは充填部Fiの紫外線透過率が高い場合には、上部近辺の経年劣化が激しく、一方溝部Gの奥は紫外線の到達量が減るため元の色合いを維持する。紫外線及び短波長光は散乱して各方向から溝部Gに入射するが、特に影響が大きいのは溝側面Fの上部近辺に対し略45〜90°で入射する紫外線である。これにより、溝部G上部の、上端から幅と略同じ深さの部分が徐々に色褪せ、奥の元の色との対比で老朽感を醸す。この特に色褪せやすい部分が目立たないためには、溝部Gの幅wは深さdeの1/10以下がよく、1/20以下なら褪色部分が略目につかない。この点からも、溝部狭長率は1/10以下が好ましい。この効果は、溝部楔角θGが0.5〜15、好ましくは1〜8°より好ましくは2〜4°となることによっても、同様に開口部が狭くなることで得られる。
造形物3は、溝部Gを除き、又は裏面部Rと溝部Gを除き、少なくとも一部で略同じ色でもよい。略同じ色とは、一般的な使用において識別されない程度に近い色ということであり、例えば無色透明のPCに無色透明のPVCを貼り合わせた材料2では、それぞれの層の色は厳密には互いに異なるが、実用上同じと見なしてよい。この場合の色差を本明細書では許容色差と記載し、これはΔE*ab25.0以下が好ましく、ΔE*ab13.0以下又はそれと略同等のマンセル表色系における1歩度差以下がより好ましく、ΔE*ab6.5以下がさらに好ましい。下限は測定限界値であり、基材部Mが同一の材料からなる場合等には0である。
《造形物の実施形態の展開と条件》
図3bのような万線状の画像1に基づく溝部Gによってなる造形物3では、溝の方向と視線の方向の関係によって色の見え具合が多様に変化する。図9には、溝部Gと視線の方向が直交する視点V10と、溝部Gと視線が同一平面上にある視点V11とが示されている。V10では、V11と比較して、溝部Gが広く見え、無色透明に見える部分は狭い。V11では全体が無色透明に見え、溝部Gがあまり見えない。つまり、例えば、造形物3が垂直に壁にかけられている場合、正面から見た場合と斜めから見た場合とで色が異なって見えるだけでなく、横側の斜めから見た場合と下側の斜めから見た場合とでも色が異なって見える。
〈異方性ライティング効果〉
図9においてV10及びV11が視点ではなく光源位置であると考えると、V10に光源がある場合には溝部Gが明るく照らされるが、V11に光源がある場合には溝部Gにはあまり光が当たらないため、観察者が正面以外の視点、例えばV10から見た場合でも溝部色CGが見えにくい。一方、溝部Gが少なくとも一部の光を吸収するなら、前者では溝部Gの影が一部にできるが、後者ではほとんど影ができずにまんべんなく照明が当たる。このような、照明の方向等が異なると造形物3の形状等を反映して各部の明るさが異なる効果も、異方性視覚効果の一種であり、これを本明細書では異方性ライティング効果と記載する。
〈異方性反射効果〉
溝側面Fが光を反射する場合、異方性視覚効果の一種である異方性反射効果がさらに得られる。つまり、光が当たる角度や見る方向の差により各部で輝き具合が変化し、より意匠性が向上する。その反射が正反射に近ければ、反射が生じる部分と反射がない部分とのコントラストが向上するので、溝側面Fの平滑度や反射率が高くてもよい。反射が乱反射に近ければ、照明の位置にかかわらず、溝側面が見える広い範囲の視点から様々な方向の溝部Gに万遍なく反射が観察できるので、溝側面Fが微粒面・粗面等でもよい。この異方性反射効果は溝部色CGが無色透明でも得られるので、溝部Gが特に着色されず、基材部Mと同じ色又は略同じ色でもよい。溝側面Fが反射を起こすためには、それが界面である必要がある。すなわち、溝側面Fに密着しているのが何であるかにより反射状態が変わる。溝側面Fに空気が接していれば全反射が起きやすい。一方、溝部Gが基材部Mと同じ屈折率の樹脂等によってなる充填部Fiを有していれば界面での反射は略起こらない。ただし、溝側面Fに樹脂が充填されずに嵌合されているような場合、それらの間は互いの界面ではなく、極めて薄い空気の層があるので、臨界角以上の角度では全反射する。従って、溝部Gは充填部Fiのない空隙か、充填部Fiがあれば基材部Mと屈折率が大きく異なれば反射が起きやすい。つまり溝部Gの屈折率及び透過率により、透明度・反射効果・明度・コントラスト・遮蔽効果等が変化する。少なくとも一部の入射角の入射光に対し、可視光のうち少なくとも一部の波長域における溝側面Fの反射率又は分光反射率は40〜100%が好ましく、60〜100%がより好ましく、80〜100%がさらに好ましい。なお、溝部Gが充填部Fiを有し、それらの屈折率が略同じ(具体的には屈折率の差が0.2以下、好ましくは0.1以下)であるか、溝側面Fが金属膜等に密着せず金属光沢を有しないか、溝側面Fに反射防止加工が施される等により、溝側面Fが拡散反射面であってもよい。その場合、異方性反射効果が乏しい代わりに、溝部Gのぎらつきが起こらないため、溝部色CGが視線角度に関わらず見えやすい、という効果が得られる。可視光のうち一部の波長域における溝側面Fの反射率又は分光反射率が20%以下、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であれば、異方性反射効果が保たれつつ溝部色CGが鮮明に見える。溝部Gは溝状でなくともよく、透明樹脂板やガラス板の内部にレーザ加工等で形成されたクラック・微小な破壊面等でもよい。溝部Gの一部に凹凸があればさらに細かく光って見える。溝部Gが万線に基づいていれば、複数の溝側面F間や表面部S及び裏面部Rと複雑に反射しあうことで、造形物3各部に多様な効果が発生する。
以下、溝部Gが反射を返すための条件を検討する。造形物3の表面部Sと裏面部Rとが互いに平行であり、溝部Gが表面部Sに直交し、充填部Fiがないものとし、基材部Mの屈折率をnとする。なおここでは観察面側が表面部Sである。基材部Mは透過率が高く、具体的には、後述のように全光線透過率が80%以上である。図10は、xyz座標空間において、裏面部Rがyz平面と平行であり、溝部Gの二分面がzx平面と平行であるような造形物3の、xy平面と平行な断面の図である。x軸正方向が0°、時計回りが正の向き、矢印が光の進行方向で、光路は断面と平行である。溝部Gの上側の溝側面Fによる光の反射に着目する。
I 溝部Gの開口部の反対側から光が入射する場合(θG1≦0)
図10aにおいて、溝部楔角θG1・基材部Mへの光の入射角θ1・屈折角θ2・溝側面Fへの入射角θ3・反射角θ4・空気との界面への入射角θ5・出射角θ6の関係は、sinθ1=n・sinθ2、θ2−θ3+90−θG1/2=180、−θ3=θ4、θ4−θ5+90+θG1/2=180、n・sinθ5=sinθ6であるから、次の式が導かれる。
(1)−2arcsin(1/n)<θG1≦0の場合(図10a・b)
光が上側の溝側面Fに反射するためにはθ2≧θG1/2、出射光が光源と反対側の観察者に見えるためにはθ6>−90であるから、観察者に反射が見えるθ1の範囲は
となり、θG1が大きいほどθ1の範囲は溝側面Fの下側で広がり、上側で狭まることがわかる。θ1が数8の範囲を上回ればθ5≧arcsin(1/n)となり臨界角を超えるのでθ6の出射は起こらず基材部M内での全反射となり、観察者からは溝側面Fの反射が直接には見えない。θ1が数8の範囲を下回れば上側の溝側面Fにθ2の屈折角の光が届かない。またθ6のとりうる範囲は
である。例えばn=1.5、θG1=−10であれば、−7,512…≦θ1<52.248…、−90<θ6≦−7,512…となり、光源(図示しない)からのある溝側面Fに対する入射光θ1がθ1>52.248となる位置に光源が置かれると、その溝側面Fには反射が見えない。また45≦θ1≦52といった範囲の時、θ6が水平方向に近ければ(θ6及び視線角度の絶対値が0°に近ければ)、視線が造形物3に正対する部分周辺では反射がほとんど見えず、後述のように奥の景色がよく見え、θ6が水平方向から遠ければ(θ6及び視線角度の絶対値が90°に近ければ)、視線方向と入射角が正面衝突に近い状態にならず、反射部分と光源が観察者の視野内で重なることが少ない(つまり反射光がよく見える。いずれにおいても、反射せずに溝部Gの間の部分を透過してくる光源からの光の方向が視線方向と大きくずれるため、奥の景色や反射が光源からの直接の光のために見えづらくなることがない)。θG1=−3であれば、−2.250…≦θ1<70,071…、−90<θ6≦−2.250…という広い範囲から観察者が異方性反射効果を観察できる。特に造形物3が比較的周辺部から見られる時に反射が見える必要がある用途には有用である。観察者(図示しない)はθ6の反対の方向の視線によりθ1の入射角で入射した光の反射を観察することができる。
図10bのように、θG1が大きいほど全反射する範囲が広がり、外から反射を観察可能な範囲が狭くなる。数9の範囲の入射光は観察者に見えるが、その範囲は図10aより狭く、図10bの点線前後のわずか数度である。この条件では、観察者から見た光源と反射する部分の方向が正面衝突に近い(観察者から見て近い方向にある)ために見づらい。また、反射面の溝側面Fが視線に対して平行に近い側に傾斜しているため溝側面Fが狭く見え、しかも溝側面Fへの入射角が大きいため反射光が暗く不鮮明である。
(2)2arcsin(1/n)−180<θG1≦−2arcsin(1/n)の場合(図10c)
溝側面Fからの反射光のすべてで空気との界面への入射角が臨界角を超え、基材部Mの内部で全反射を繰り返す。反射光が別の溝側面Fに当たれば、その角度によっては外から観察できることもあるが、光量の減衰等により所期の効果が得られないことが多い。n=1.5であればθG1≦−83.349…である。
(3)−180<θG1≦2arcsin(1/n)−180の場合(図10d)
溝側面Fで反射した光が裏面部R側に向かい、空気との界面への入射角の絶対値がarcsin(1/n)未満なら光源と同じ側に反射光が見え、それ以上なら基材部Mの内部で全反射する。溝部楔角θGが大きいため、得られる異方性視覚効果は限定的である。
なお、arcsin(1/n)≧45すなわちn≦2
−2の場合には、(2)がなくθG1≦−2arcsin(1/n)で(3)となる。
II 溝部Gの開口部側から光が入射する場合(θG2≧0)
図10eにおいて、溝部楔角θG2・基材部Mへの光の入射角θ7・屈折角θ8・溝側面Fへの入射角θ9・反射角θ10・空気との界面への入射角θ11・出射角θ12の関係より、同様に次の式が導かれる。
(4)0≦θG2<2arcsin(1/n)の場合(図10e)
光源の反対側の観察者に反射が見えるθ7の範囲は
であり、θ12のとりうる範囲は
である。なお入射角θ7が
の範囲の入射光は上下いずれの溝側面Fにも当たらないので、開口部側から光が入射する実施形態は水平方向の入射光には不向きである。
例えばn=1.5、θG2=10であれば、7,512…≦θ7<90、−52.248…<θ12≦7,512…となる。光源(図示しない)が例えば70<θ7<90になるような外側に置かれた場合、視線方向と入射角とがぶつかることがなく、反射部分と光源とが観察者の視野内で視覚的に干渉することが少ないので好ましい。また観察者(図示しない)は造形物3の中心部の比較的近くで反射を観察できる。θG2=3であれば、2.250…≦θ7<90、−70,071…<θ12≦2.250…となり、観察者が反射を観察可能な範囲がより広がる。この場合、反射面の溝側面Fは視線に対して直交する側に傾斜しているため、上記(1)より反射面が広く見えて有利である。
加工法によっては、溝部Gの底面部Bが微細な凹凸状等に荒れていることがある。溝部Gの開口部の反対側から見る場合には、その部分が目につきやすく、その部分に当たる光の角度次第では見栄えが下がる。この点では(1)の方が好ましい。
(5)2arcsin(1/n)≦θG2<180の場合(図10f)
裏面部Rから基材部Mに入射するあらゆる方向の光が、溝側面Fで反射することなく、表面部S側へ透過する。溝部Gに直接入射した光は、溝内部で反射するなどして光源と同じ側の観察者から見えることがある。
なお、基材部M内の入射角が臨界角未満の場合には、全反射は起こらず一部の光が溝部Gの外へ出射する。図10fの溝側面Fでの反射でも一部の光は透過する。
したがって、光源が造形物3に対して観察者の反対側に位置する場合、溝側面Fの反射光が異方性反射効果を伴って見える溝部楔角θGの範囲は−2arcsin(1/n)<θG<2arcsin(1/n)である。θGがこの範囲でない時には、溝側面Fは開口部側から基材部Mを通しては見えない。
上記では溝部Gの上側の溝側面Fが表面部Sに対する垂線又は法線となす小さい側の角度θFをθG=2θFとしてθG1及びθG2に代えることができる。したがって、下側の溝側面Fの角度にかかわらず、−arcsin(1/n)<θF<arcsin(1/n)で上記の関係が数13等を除いて成り立ち、溝部Gが表面部Sと直交しなくてもよい。溝部Gの向きを考えず角度の絶対値をとらえるならば、上記範囲は0≦|θG|<2arcsin(1/n)又は0≦|θF|<arcsin(1/n)である。下側の溝側面Fの反射についても同様に扱うことができる。上記(1)の場合の数8の範囲の光の入射角θ1及び上記(4)の場合の数11の範囲の入射角θ7を合わせて本明細書では出射可能入射角と記載する。さらに、上記(3)のθG1≦2arcsin(1/n)−180に上記θG=2θFを代入すれば|θF|≧90−arcsin(1/n)となり、この条件を満たす溝側面Fからの反射光が裏面部Rに出射する角度が臨界角未満となり、観察者がこの反射光を観察できることがある。つまり、図10dにおいて図示しない観察者が図の左側から観察する場合、左上から入射し左水平方向に出射する矢印に示されるように、溝側面Fからの反射光を観察できる。
光路は図10のようにxy平面と平行でなくともよい。様々な方向からの入射光による光路は、例えば図10のようなxy平面への正射影及びzx平面への正射影の組合せで記述できる。前者には数7又は数10が適用できる。後者ではθ1=θ6、θ2=θ5、θ3=θ4であり、−90°より大きく90°未満の入射角の入射光が同じ出射角で出射される。
〈異方性屈折効果〉
透明の溝部Gは反射と透過の性質を併せ持つ。つまり、斜めから見た時、光源方向と視点方向に対応する部分の溝側面Fが光って見えるが、それ以外の溝側面Fは手前の風景を反射し、また向こうの背景を透過・反射する。その際、溝部G・基材部M・造形物3の外部で屈折率が異なるために屈折現象が発生し、背景が複雑かつ多様に変容して見える。これは、造形物3を正面から見た時に単なる透明ガラスを通したように見えるのとは異質の世界の見え方であり、異方性視覚効果の一種であるこの効果を、本明細書では異方性屈折効果と記載する。さらに視点の移動による変化や、条件によっては屈折に伴う分光による虹状の発色も加わり、これまでにない視覚的異化作用を発揮する。そのためには溝部幅ピッチ率が小さく、基材部Mの透過率及び溝側面Fの平滑度が高いと同時に、溝部Gの透明の度合も高い方がよい。
〈異方性透過効果〉
基材部Mが透明で溝部Gが不透明なら、例えば正面からは造形物3の背景が透過して見えるが、斜めからは不透明な溝部Gの連続により背景が見えず、溝部Gが透明なら、視線角度によっては背景からの光をほとんど透過しないか別の方向の光を反射することで背景が見えにくい、という効果が得られる。裏面部Rの一部が文字等の形状に着色されていれば、正面からはこの文字等が見え、斜めからは見えないか見えにくい。これも異方性視覚効果の一種であり、本明細書では異方性透過効果と記載する。
造形物3が異方性透過効果を得るためには、次の条件を満たす必要がある。溝部Gどうしの間の表面部Sが幅を有する(pi>wである)、すなわち、溝部Gが曲面であったり表面部Sと直交しない場合等も含めると、複数の溝部Gの少なくとも一部のうち互いに隣接する溝部の間を通して表面部S及び裏面部Rの一方の側から他方が見える;溝部幅ピッチ率が小さい;基材部Mの透過率が高い。さらに、幅を有する複数の表面部Sが、裏面部Rと平行であるか、同一の平面に含まれることで、複数の表面部Sを通して背景がゆがまずに見える。前者では表面部Sと裏面部Rとの距離が各部で異なっても、すなわち造形物3の厚みが異なってもよい。その場合には正面から見た場合のみ背景がゆがまずに見え、やや斜めから見た場合には、それぞれの表面部Sを通して見える背景の屈折の度合いが異なることにより、表面部Sのつなぎ目で背景がデコボコして見える。後者では複数の表面部Sを含む平面と裏面部Rとが平行でなくともよい。その場合には背景はつながって見えるが、表面部Sと裏面部Rとがなす角度及び見る方向によっては背景が変形して見え、色収差が生じることがある。複数の表面部Sが裏面部Rと平行かつ1つの平面に含まれていれば、通常の板ガラスのように自然に背景が透過して見える。また、加工法によっては、表面部Sのうち溝側面Fに接する部分の近辺が図4aのように凹むか盛り上がっていることがあり、そのような部分では背景がややゆがんで見える。表面部Sすなわち複数の溝部Gの間に、上記前後者の少なくともいずれかであるような部分が0より大きい幅を有していれば、少なくともその部分を通して見える背景だけはゆがまない。その幅が、溝部Gの幅wより大きければ、造形物3を正面から見た時に背景をゆがまずに透過する部分がそうではない部分より広いので好ましい。また、材料加工において肩部の凹凸のような設計上の形状又は理想的な形状からの誤差が生じるのは不可避であるから、表面部Sの幅はそれを見越した値に設定される必要がある。よってw<pi/2<pi−w≦piが好ましい。異方性反射等が見えるためにもこの条件があてはまる。異方性反射等が溝部Gを通して明瞭かつゆがみなく見えることは少ないからである。造形物3は円筒の一部のような曲面状でもよく、その場合には曲面の裏面部Rと各々の表面部Sとが平行である。
平面的板状の基材部Mは、加工により反り・たわみが発生することがある。反っただけなら裏面部Rと表面部Sとは互いに平行であるが、基材部Mの反りが残ったまま、図7dのようにさらに板が接着された場合、裏面部Rと表面部Sとが厳密には平行ではなくなる。しかし、造形物3の変形が、溝部Gの間から見える像がゆがんでいると識別可能なほどではなく、誤差の範囲内程度であれば、所期の効果への影響はないので、無視してよい。具体的には、板状の造形物3において、理想的な形状からのずれが局部的ではなく全体又は全体の半分以上に及ぶ大きなものであり、裏面部Rと表面部Sがなす角度が最大で5°、好ましくは2°、より好ましくは1°未満であれば、この裏面部R及び表面部Sは実用上平面かつ互いに平行とみなしてよい。その場合、厳密には複数の溝部Gの二分面が互いに平行ではなくなるが、これについても同様である。
基材部Mの全光線透過率(以下JIS K 7375に準拠する。これに対応する国際規格は出願時点で未制定であるが、JIS K 7375はISO 13468−1と同じ規格を含み、さらに厚さが10mmを超える材料や不透明な材料等の測定も可能となっている。また、本発明の材料は本規格の対象に限定されるものではない。例えばガラスでも上記全光線透過率に相当する透過度を有していれば材料2として用いることができる)は、基材部Mが厚い場合でも70%以上がよく、基材部Mを通して見る背景が素抜けの状態と比較して見劣りしないために、PVC等の無色透明樹脂10〜30mm板に相当する80%以上が好ましく、よりクリアに見えるために、PC・PET等の無色透明樹脂厚板並の85%以上がより好ましく、90%以上ならソーダガラス等の一般的なガラス同様に見えるのでさらに好ましい。これは高いほどよく、上限は理想的には100%だが、実際には多層膜コート処理された特に透過性が高い材料でも高々99%台か98%程度である。基材部M又は溝部Gが蛍光色を含む場合には、その影響分は除外される。同時に拡散性が低い方がいいので、基材部Mのヘーズ(ISO 14782)は0〜5%が好ましく、0〜2%がより好ましく、0〜1%がさらに好ましい。上記2点は基材部Mを通して溝部Gが鮮明に見え、また充分な反射や屈折が起きるための条件でもある。一方溝部Gは背景を透過しないほど異方性透過効果に寄与する。不透明な溝部Gは、光を透過しにくい金属等の真空蒸着・メッキ・ホットスタンプ・スパッタリング・コーティング等で薄膜形成された溝側面F、無機顔料等の隠蔽力の強い色材を用いた製品や不透明塗料として供給される製品で着色された充填部Fi等により実現される。一般にスリガラスや曇りガラスを不透明ガラスとも呼ぶように、不透明とは向こう側が見えないことである。本明細書での不透明の定義もこれに準じ、この場合には、溝部Gの溝側面Fに入射した光線が、同じ溝部Gの反対側の溝側面Fまでの溝部G中を直進できないことを指す。透過率や遮光性は不透明かどうかとは別の問題である。溝部Gの幅が狭ければ100%の遮光は困難であり、また光の回り込みがあるのでその必要もない。溝部Gが光線を散乱させ、溝部Gの奥が透けて見えなければ、溝部Gの可視光の透過率が10%であれ20%であれ、その溝部Gは不透明である。造形物3が上記を満たすことで、斜めから見た時と正面から見た時との差異が大きくなり、顕著な異方性透過効果が得られる。
隣接する複数の溝部Gの溝部色CGが互いに異なると、互いの反射光等が影響し合い、隣の色が映って見える等さらに複雑な効果が得られる。直接観察された光だけでなく、周囲に投影された光も意匠性に富む。
上記各効果のためには、表面部S・裏面部R・溝側面Fは平坦又は平滑であることが望ましい。しかし、加工精度の限界等により、溝側面Fにわずかな凹凸や歪みが生じることがある。理想的な基準面からの溝側面Fの誤差、つまり溝部の方向と直交する溝部の断面における溝部の側面の全部が直線である場合からの前記側面のずれの量は、溝部Gの幅wの0〜1/4が好ましく、0〜1/8がより好ましく、0〜1/12がさらに好ましい。また表面部S・裏面部R・溝側面Fの表面粗さRzは200未満が好ましく、50未満がより好ましく、12.5未満がさらに好ましい。下限は測定限界値である。
〈複数の方向の溝部〉
画像1が図3eのように複数の方向の線を有する場合や図3bのように複数の方向の万線によってなる複数の部分領域を有する場合、これに基づく造形物3には複数の方向の溝部Gが造形される。このような造形物3では、1つの造形物の中で溝部色CGの見え具合が様々に異なる状態が同居し、さらに照明光の方向に応じて各部の明るさが変化する異方性ライティング効果等も働き、より複雑で変化に富んだ効果が得られる。図3bのように画像1の複数の部分領域の間で万線の方向が異なれば、異方性視覚効果により造形物3上で画像が表示される。溝部Gの方向が多いほど、視線を傾けた状態で360°どの方向から見ても、いずれかの部分で溝部色CGがはっきりと見え、別の部分では溝部色CGがそれほど見えない、というふうに各種異方性視覚効果の差を同時に観察可能なので好ましい。これは造形物3表面における複数の溝部Gの方向の対比によるので、そのためには溝部Gの方向の数が2以上である必要がある。溝部Gの方向の数が3以上であれば、反対側から見た場合も含めて6方向から、つまり平均して60°ごとに上記の効果が得られるので好ましい。溝部Gの異なる方向の数が4以上であれば、8方向から、平均して45°ごとに上記の効果が得られ、どの角度から見ても上記の効果が得られる状態に近くなるため、より好ましい。画像1の少なくとも一部が曲線であれば上記の効果が連続的に得られ、さらに例えば円のように360°すべての方向を有する曲線を含んでもよい。なお、溝部Gの方向の数は、造形物の拡大や複雑化に伴い無制限に増加する可能性があり、また溝側面Fが曲面の場合には無限と考えられるので、上限を定めない。
互いに異なる方向の溝部Gの組合せで最も有効なのは、それらが90°の角度をなす場合である。図11のように、溝部G1と溝部G2とが直交している(又は垂直である)場合、視点V12からの視線が溝部G1と略平行なら、溝部G1が最も見えない(なお本明細書において、例えば溝部Gでは、末尾に数字等を付さない符号は一般的な溝部Gを指し、溝部Gを区別する必要がある場合に末尾に数字等を付す)。同時に、同じ視線の方向が溝部G2の方向と直交しており、溝部G2が最もよく見える。溝部Gの反射率が高ければ、異方性反射についても視点又は1つの光源に対して同様の関係が成り立つ。視点V13からは溝部G1及びG2との関係がそれぞれ逆になる。つまり、図9のV10及びV11と溝部Gとの関係が、1つの視点に対して同時に起こっていることになる。この際、溝部G1及びG2のなす角度は90°前後である88°から92°が効果的であり、85°から95°でもほとんど同等の効果が得られるが、80°から100°まではそれに準ずる効果が得られ、72°から108°まではそれに近似した効果が得られる。そのような角度をなす溝部Gの方向の組合せが、造形物3に複数含まれてもよい。このような90°前後の角度は本明細書の他の記載にも適用される。なお、後述のように溝部Gどうしが交差してもよいが、造形物3が互いに平行な溝部Gによってなる複数の部分領域を有し、それぞれの部分領域において前記溝部Gの方向が異なる場合、個々の溝部Gが図11のように交差しない方が上記の効果が高い。
造形物3において、複数の互いに平行な溝部Gからなる複数の部分領域の溝部Gの方向が互いに異なる場合、複数の方向の万線によってなる複数の部分領域による画像の表示や、それに類似した効果が必要ならば、上記複数の部分領域の境界線がその画像の輪郭となるため、上記複数の部分領域の間の距離が狭い方がよい。その距離が0であり、それらが互いに直に接していれば、それぞれの領域が明確に識別され、最も好ましい。上記距離がピッチpiの0〜2倍であれば、上記複数の部分領域が見かけ上連続して見えるので実用上充分な効果が得られる。上記距離がピッチpiの0〜4倍であれば、上記複数の領域が明確に分割されているのではなく、輪郭をぼかした状態で描き分けられているという効果が得られる。このように、互いに異なる方向の溝部Gからなる複数の部分領域の距離がピッチpiの4倍以下であることで互いに略接していてもよい。ピッチpiが均等ではない場合には、溝部Gのピッチpiの平均値が用いられてもよい。本明細書の他の記載においても同様である。
一方で、溝部G等の色が互いに異なる複数の部分領域が隣接している場合、それらの間は図3gの画像1に基づく造形物3のようにある程度離れていた方がよい。例えば赤の部分領域と青の部分領域が近接しすぎていると、観察者が斜め方向から見た時、青の溝部Gが裏面部Rに反射して映り込んだ像と赤の溝部Gとが重複して見えるために混色することがあるからである。また、図12のようにある溝部Gの端部が別の溝部Gとつながっている場合、これらを互いに異なる色で塗り分けるのは、加工法によっては困難である。さらに、図11のように複数の溝部GがT字型に接している場合や交差している場合、諸方向の応力が交点に集中し破壊されやすい。よって互いに異なる方向の溝部Gはやや離れている方がよいが、前段落の理由で離れすぎない方がよい。具体的には、それらの距離はピッチpiの0〜4倍が好ましく、1/2〜3倍がより好ましく、1〜2倍なら溝部深間隔率が1.87の造形物3を表面部Sに対して45°の方向から見た時に異なる色の溝部Gが略重ならずに見え、しかもそれぞれの色の部分領域が近接して見えるのでさらに好ましい。また、溝部Gが短すぎると、本実施形態で望まれる効果が識別不能になることがある。溝部Gの長さは、ピッチpiの1/2倍以上が好ましく、1倍以上がより好ましく、2倍以上がさらに好ましく、また、幅の4倍以上が好ましく、8倍以上がより好ましく、12倍以上がさらに好ましい。別の効果が求められる際にはこの限りではない。上限は造形物3のサイズによるので特に設けない。
《造形物の変形・応用及び造形物展示体》
〈変形例1〉
造形物3の各部で溝部色CGが異なってもよい。さらに、溝部Gの方向の変更と溝部色CGの変更が組み合わされてもよい。例えば図12aでは、造形物3に複数の部分領域があり、内側の部分領域では溝部色CGが橙O、外側の部分領域では溝部色CGが黄Yであり、加えて溝部Gの方向が内側と外側とでは90°異なっている。この場合、視線が橙Oと平行である左手前上の視点V14からは外側の部分領域の黄Yが見え、視線が黄Yと平行である右手前上の視点V15からは内側の部分領域の橙Oが見える。つまり、左からは絵柄の地の部分が黄に、図の部分は透明に見え、右からは絵柄の図の部分が橙に、その周囲は透明に見える。これにより、見る方向で図−地関係が反転し色も変わる効果が得られる。なお、橙O及び黄Yは透明でも不透明でもよい。また、複数の部分領域の間で、溝部Gの方向と同様に、曲率・溝部の形状・ピッチ・幅・深さ・面粗さ・波長・波の振幅・位相・表面部Sや裏面部Rや基材部Mの色等が異なってもよい。これらの少なくともいずれかと溝部色CGの変更が組み合わされてもよい。
〈変形例2〉
造形物3の裏面部Rが着色されてもよい。その場合、溝部色CGが不透明であれば、正面等からは裏面部Rの色が見えるが、一部の斜め方向からは溝部色CGのみが見えて裏面部Rの色は溝部Gに隠れる、という異方性透過効果が得られる。例えば図12bでは、裏面部Rに着色された四角形Qが視点V16からは見えるが、視点V17からは略見えない。溝部色CGが透明であれば、視点V17からは溝部色CGと四角形Qの色が重なって見える。図12aと図12bが組み合わされると、図12cのように、溝部Gの方向と溝部色CGと裏面部Rの色とが同じ画像に基づいて変更されていれば、ある部分領域と別の部分領域とで、溝部Gの方向と、溝部色CG・裏面部Rの色・裏面部R以外の基材部Mの色の少なくともいずれかとが共に異なり、図12aの効果が強調される。図12dのように、溝部Gの方向及び溝部色CGと裏面部Rの色とが互いに異なる画像に基づいて変更されていれば、見る方向により絵柄が変化して見える。例えば溝部色CGが部分領域aと部分領域bとで青、部分領域cで赤、裏面部Rの色が部分領域aで緑、部分領域bと部分領域cとで黄というように、部分領域ごとに一部のみが異なってもよい。
上記では、ある部分領域では他の部分領域より各色の明度が一律に高いとか各色が等しく青みがかるといった単調な色の変更ではなく、例えばある部分領域では裏面部Rの色が赤で溝部色CGが青、別の部分領域では裏面部Rの色が青で溝部色CGが赤、のように互い違いの組合せや、ある部分領域では裏面部Rの色が赤で溝部色CGが青、別の部分領域では裏面部Rの色が緑で溝部色CGが黄、のようにそれぞれの色相が全く異なる組合せで、しかも各色の彩度が高いと、部分領域どうしのメリハリがついて効果的である。具体的には、色相については、マンセル色相環において近い側が25〜50歩度分離れていれば明らかに別の色と識別できるので好ましく、35〜50なら主要原色のいずれかの色の色相の差に相当するのでより好ましく、45〜50なら補色どうしに近いのでさらに好ましい。又は複数の溝部色CGがHSV色空間のH値において離れている小さい側の角度が、90〜180°なら明らかに別の色と識別できるので好ましく、120〜180°ならRGB系又はCMY系の一方の原色系等のいずれかの色の色相の差に相当するのでより好ましく、150〜180°なら補色どうしに近いのでさらに好ましい。溝部色CGの彩度は、色相にもよるが、概してマンセル表色系における彩度で4以上が好ましく、6以上がより好ましく、8以上がさらに好ましい。溝部色CGの明度は、3〜10が好ましく、4〜10がより好ましく、5〜9がさらに好ましい。さらに上記の組合せとして、溝部色CGは彩度4以上かつ明度3以上が好ましく、彩度6以上かつ明度3以上がより好ましく、彩度6以上かつ明度4以上がさらに好ましく、彩度8以上かつ明度4以上が一層好ましい。なおマンセル表色系では、将来の新しい色材の開発等により安定的色再現域が広がることで、色票が彩度方向に拡張されていく可能性が提唱されている。また、JIS Z 8721において7.5PBの彩度として34や38が示されているが、蛍光色の場合にはこれを超える可能性がある。したがって、彩度の上限は示さない。この溝部色CGの条件は、溝部Gの個別の細部にもあてはまる。同様に、溝部Gの分光透過率又は分光反射率は、可視光のうち一部の波長域において0〜30%が好ましく、0〜20%がより好ましく、0〜10%がさらに好ましい。また、溝部色CGが複数の場合に限らず、溝部色CGが有色の場合には一般に、溝部色CGの彩度又は明度等が上記の条件を満たしていれば、背景の色等にかかわらず溝部Gの色が際立つので、異方性カラーリング効果が向上する。
〈変形例3〉
図12eのように、造形物3の複数の溝部Gが互いに平行で、裏面部Rの一部が着色され、溝部色CGが不透明で、部分領域ごとに溝部色CGが異なれば、例えば正面からは裏面部Rによる文字が見えるが、横からは裏面部Rが溝部Gで隠れ、別の文字が複数の溝部色CGによって見える。裏面部Rがディスプレイ等の表示装置で、表示内容を変更してもよい。
〈変形例4〉
分光性塗料・干渉性塗料・偏光性塗料のように、見る方向により色が変わる色材は、造形物に玉虫色のような効果をさらに付加するが、そのような特殊な塗料によらずに同様の効果を得ることもできる。つまり、例えば、左側から見た場合と右側から見た場合とで溝側面Fが別の色に見える造形物3も製造可能である。例えば3Dプリンティングによる造形物3において、図13aのように縦方向の溝部Gの左側の溝側面F3が不透明の青に、右側の溝側面F4が不透明の橙に着色されれば、左側からは青に見え、右側からは橙に見える。また、複数の溝側面F3が画像1に基づいて赤と青で塗り分けられ、複数の溝側面F4が別の画像1aに基づいて緑と黄で塗り分けられれば、複数の色で絵柄が表示され、見る方向により全く別の色の組合せによる別の絵柄に変わる効果が得られる。
溝部色CGが不透明の場合、図13bのように隣接する2つの溝部G3と溝部G4とで溝部色CGが互いに異なれば、左側からは青に見え、右側からは橙に見える効果に近い効果が得られ、溝側面F3及びF4を異なる色で塗り分けるよりも製造が容易である。これは、図13aのような溝部Gを異なる色の2つの溝部Gに分割したものであり、2つの溝部Gで一組とみなされるので、溝部Gのピッチpiは溝部G3及び溝部G4の一組の幅の中央から、それらに隣接する別の溝部G3及び溝部G4の幅の中央までの距離である。また、この場合の溝部Gの幅wはw1及びw2の和である。後述のように、溝部G3の反対側の面から溝部G4が加工されてもよい。
さらに、溝部Gがドットに基づく穴状等の場合、図13c・dのように溝部Gの上側の溝側面F5・右側の溝側面F6・下側の溝側面F7・左側の溝側面F8がそれぞれ別の色で着色されれば、4方向で異なる色に見える。溝部Gは図13cのような円や楕円に基づく円柱状等、図13dのような多角形に基づく多角柱状等でもよく、途中まででなく板の裏まで貫通していてもよい。
〈変形例5〉
変形例1のような効果は異方性ライティング及び異方性反射によっても得られる。例えば図12aの造形物3の溝部色CGがすべて無色透明であれば、図12aの橙Oと平行に黄の照明が当たると、黄Y部分が黄に光るのをV14の観察者が観察でき、図の黄Yと平行に橙の照明が当たると、橙O部分が橙に光るのをV15の観察者が観察できる。溝部色CGは有色透明でもよく、それぞれの照明が交互に発光してもよく、両方が同時に光ってもよく、照明光の色が切り替わってもよく、周期的にそれらが反復してもよい。そのような照明器具Iが造形物3に追加又は併設されることで、造形物照明設備5となる。光が拡散光であれば黄Y部分がやや赤く、橙O部分がやや黄になり、また全体にムラなく光が行き渡る。光が平行光線であれば混色が少なくなり、光源の像が溝側面Fに見える。溝部Gが不透明で乱反射性が高ければ、溝部Gと平行に180°反対の2方向からそれぞれ別の色の光が当たっても、透明の場合と異なり光が混ざらずに、直交する溝部Gのそれぞれの側の溝側面Fに当たって見えるので、溝部Gの方向の2倍の数の光の色が使い分けられ、図13aと類似の効果が得られる。さらに、照明器具Iが複数方向の溝部Gに異なる色の照明を照射することで、着色より容易に、別方向の溝部色CGを別の色にでき、またその色を自由に変更できる。造形物3と照明器具Iの少なくとも一方が動くことで照明効果に変化を与えてもよい。溝部色CGが有色の造形物でも、複数の色の照明を照射することで色が変化して見える。造形物照明設備5では、造形物3と照明器具Iが一体であってもよく、それらが別個で、組合せて用いられてもよい。
〈変形例6〉
造形物照明設備5において、照明器具I・造形物3・観察者のなす位置関係は3通りである。なお、ここでは造形物3のうち観察者に向かい合う面を表面部S、その反対の面を裏面部Rとする。第1では、図14aのように、照明器具Iが、造形物3の裏面部Rを含む平面に対して観察者Vと異なる側に位置する、つまり造形物3に対して観察者Vの反対側にある。裏面部Rに対する入射光IRの入射角の絶対値は90°未満である。この時、照明器具Iが造形物3を通して観察者のほぼ正面にあると、照明器具Iから造形物3内を反射せずに直進した透過光が直接視野に入り、反射光の効果が同じ色の光によって減殺されてしまう。よって、視点が想定される範囲からは照明器具Iが直接見えないような位置に照明器具Iが設置されることが望ましい。照明器具Iは、そこからの造形物3各部への入射光IRの入射角が出射可能入射角又は段落0042に記載の範囲内にあり、かつ観察者から見えにくいような、例えば斜め上方の位置に設置されてもよい。第2では、照明器具Iが、造形物3の表面部Sを含む平面に対して、図14aとは逆の観察者Vと同じ側に位置する。表面部Sに正面から(図14aでは右方向から)入射する光の入射角を0°とすると、第2の場合の表面部Sに対する光の入射角の絶対値も90°未満である。照明器具Iが観察者の比較的近くにあると、表面部Sの反射率次第では、照明器具Iの像が表面部Sに映ることで、やはり溝部Gからの反射光の効果が打ち消される。またこの場合、観察者と造形物3の間に照明器具Iが位置すると造形物3の一部が照明器具Iに隠れて見えないことがある。照明器具Iが遠方に位置し、観察者が造形物3と照明器具Iの間に位置すると、観察者の動きにつれてその影が造形物3に投影されることとなり見苦しい。よって、この場合でも照明器具Iは造形物3の中心を通る垂直軸(表面部S又は裏面部Rに直交する直線)から離れた斜め方向から光を照射するのがよい。第3では、照明器具Iが造形物3の表面部Sと裏面部Rの間から光を照射する。つまり、造形物3が周知技術の導光板のように働く。裏面部R及び表面部Sに対する照明器具Iからの光の入射角の絶対値は90°以上である。この場合、溝部楔角θGが90°以上の大きな角度であれば導光板としてある程度機能するが、通常の導光板と異なり、光源から離れた部分での光量低下が大きい。溝部楔角θGが小さくなるほどその傾向が強く、溝部楔角θGが10°以下の溝部Gでは、基材部Mを通るほとんどの光が光源近くの数本の溝部Gによって反射されてしまい、光源から離れた溝部Gまでは届かないため、造形物3の各部で著しい光量ムラが発生し、使用に耐えない。この光量ムラは、造形物3各部で溝部楔角θGが135°から180°近くまで大きければ解消可能であるが、これは所期の効果を損なう。したがって、照明器具Iは、造形物3の中心付近から外れた周辺部であり、かつ表面部S又は裏面部Rに対する光の入射角の絶対値が90°未満であるか、入射角が溝部Gに対して出射可能入射角又は段落0042に記載の範囲となる位置に設置されるのがよい。ただし、光量ムラが問題とならない場合等には、導光板状に板の端面から照明されてもよい。溝部Gが表面部Sとなす角度の調整により、特定の位置からのみ反射が見えるようにすることもできる。想定される観察者の位置は、造形物照明設備5の用途や規模、使用条件に応じてその都度定められてよい。
図14では、造形物3への入射光IRと造形物3からの出射光ORとが実線・点線・破線・一点鎖線で示され、同じ線種の入射光IR及び出射光ORがそれぞれ対応している。さらに観察者Vが造形物3の前を矢印方向に水平に行き来するさまが上から示される。同じ線種の間の狭い側が、同じ照明器具Iからの入射光IR及び出射光ORが届く範囲であり、観察者Vは出射光ORのその範囲内でそれぞれの出射光ORを観察可能である。複数の照明器具Iが同じ高さ(観察者Vの視点より高く、その視野には直接入らない)の異なる位置から造形物3の同じ高さに向けて、異なる線種で示される2以上の異なる色の入射光IRを照射すれば、観察者Vの動きにつれて造形物3の色が多様に切り替わったり連続して徐々に変化したりして見える。異なる色の入射光IRが、図14a・bのように造形物3の同じ部分に当たっていればその部分が、図14cのように造形物3のそれぞれ別の部分に当たっていれば順次別の部分が、観察者Vの動きに伴い異なる色になる。また、溝部Gの方向が、図14a・cのように垂直(観察者Vの移動方向と直交又は垂直、鉛直)であれば出射光ORの範囲が水平方向に狭く垂直方向に広くなり、図14bのように水平(観察者Vの移動方向と平行)であれば逆になる。前者では、溝部楔角θGが狭ければ溝側面Fと入射光IRが平行に近い部分で反射がほとんど見えない。なお出射光ORは、造形物3から遠ざかると図14a・cで示すような方向にいったん収束するが、その後再度発散する。
これにより、照明の色が同一のままで色の変化が得られる。また、街頭のような場所で多数の観察者が同時に行きかっていても、個々の動きにシンクロした変化を各々が観察できる。色を変更するための人感センサ等の大掛かりな仕掛けが不要でコストを抑えられるが、コストの制約がなければ、各照明器具Iの光の色の変更や照射方向及び位置の移動といった動作の追加により更なる効果が得られる。それぞれの光の指向性が高ければ明確に色が切り替わり、拡散光等であれば各色が切れ目なく自然に移行する。図14各図のように複数の照明器具Iが水平等の直線状に並び、それらの照射範囲の高さも同じで、つまりそれらの照射方向が同一平面に含まれることで、例えば同じ視線の高さの観察者に色の変化が見える。一般的なフラッドライトやスポットライトにおいて、照明の照度が最大の部分の1/2になる範囲を照明器具Iから見込む角度又は造形物3全体を照明器具Iから見込む角度のうち小さい方を照射角度とすると、同一平面からの照射方向の差が照射角度の1/2以内であり、効果を意図する範囲が照射されていれば、照明器具Iの照射方向が多少異なったり、高さが多少異なったりしても、ほぼ同一平面上にある。そうではなく、照射範囲の高さをまちまちにして色もばらばらにすることで、背の異なる観察者には別の色が見えるようにしてもよい。
このように溝部Gの方向及びそれと観察者の視線の方向との関係によっても異方性ライティング効果は変化するので、図14のように観察者が水平に歩行しながら造形物3を観察する用途や、エスカレーターの壁面に造形物3が設置され、観察者が斜めに移動しながら観察する用途といった、観察者との位置関係の変化等の条件も踏まえた上で、造形物3各部の溝部Gの方向が決められてもよい。異方性ライティング効果だけでなく、異方性カラーリング効果等の他の効果にもこれが当てはまる。また、溝部Gが波線等に基づく曲面状なら、溝部Gの方向の変化による効果の変化が連続して発生し、さらに、光源が少なくとも溝部Gの各部に反射が見える。
図15のように溝部Gが表面部Sとなす角度が複数であれば、観察者Vが移動するにつれて、造形物3のある角度の溝部Gが一瞬だけ照明光を反射して光り、次に別の角度の溝部Gが、さらに別の角度の溝部Gが光って見える、という効果が得られる。照明光の色も複数であれば、造形物3の各部が次々と異なる色に光って見える。図15aのように造形物3の部分領域ごとに複数の溝部Gが表面部Sとなす角度が異なってもよく、図15bのようにそれぞれの溝部Gごとに表面部Sとなす角度が異なってもよい。これらが図11のような溝部Gの方向の変更と併用されてもよい。
図15aの照明器具Iはライトカッターを具えているが、このようにバーンドアやレンズ等により照射範囲が制限され、狭い部分にスポットライト状に投光するよう調節されれば、色のコントラストが向上する。また照射範囲の制限により、観察者に直接光源が見えず、まぶしさが軽減される。ある色の照明が特定の部分領域のみに当たり、それ以外の部分に当たらないよう、その部分領域の形状に沿ったマスク等で照射範囲が制限されてもよい。照明器具Iが平面的板状や球状等の造形物3に照明を照射し、不要な照射範囲が遮光されるなら、照明の照射角は180°未満であり、実際上は90°以下である。
照明光の収束性等の特性によっても造形物照明設備5の見え方が変わる。図16は図14bの造形物照明設備5をSVの方向から見た図である(ただし照明器具Iの形状・特性等は一部異なる)。照明器具Iが図16aのような点光源に近ければ、入射光IRが発散光となり、出射光ORが届く範囲内の視点からは造形物3の広い部分で反射が見える。例えば造形物照明設備5が飲食店の通路に設置され、観察者の目の高さが数10cm程度の限られた範囲内にあり、造形物3との距離もほぼ一定であれば、これが適用されてもよい。さらに、溝部楔角θG又はθFの調整、あるいは造形物3全体の設置角度の調整によって、反射が見える位置が目標とする目の高さの範囲に適合されてもよい。図16bのように入射光IRが平行光に近ければ、ある視点において反射が見える範囲は狭くなるが、観察者(図示しない)は出射光ORが届く広い範囲から反射を観察できる。例えば造形物照明設備5が広い空間に設置され、幅のある年齢層で様々な身長の観察者に遠近多様な距離から観察されるなら、これが適用されてもよい。図16cのように入射光IRが様々な方向の成分を含むなら、造形物3の各部で反射が観察でき、ある視点において反射が見える範囲は広がるが、それぞれの位置の溝部Gに異なる色の光を当てようとしても混色しがちである。なお、造形物3の照明器具Iから遠い部分で近い部分より光量が低下する場合には、光量が全域で均一に近づくようグラデーションフィルター等により補正されてもよい。照明器具Iの照射範囲周辺部の光量低下と距離に応じた光量低下との相殺により光量が均一化されてもよい。造形物3各部での照度差はΔ200lx以下が好ましく、Δ100lx以下がより好ましく、Δ50lx以下がさらに好ましい。また造形物3の照度は、色にもよるが200〜2000lxが好ましく、300〜1000lxがより好ましい。1000lxを超える明るい照明下で周囲が暗く照度差が大きいと、明るすぎてまぶしく、溝部G間での二次反射が顕在化し、また入射角が90°に近いほど裏面部R及び表面部Sの埃や傷が目立ち、効果が損なわれることがある。
さらに、上記の造形物照明設備5において、入射光IRの指向性が高く、照射範囲はきわめて狭いことにより、例えば60mmといった短い区間ごとに出射光ORの色が切り替わって見えれば、造形物3の同じ個所の色が、観察者Vの左右の目にそれぞれ異なった色で見えることになる。同一対象の色が両眼に別の色として知覚され、しかも観察者Vの移動に伴ってそれぞれの色が様々に変化することで、観察者Vの立体視と空間認識が揺るがされ、これまでにない視覚体験となる。例えばある調査https://www.dh.aist.go.jp/database/head/index.html(2018年5月29日閲覧)によれば、日本人の成人の瞳孔間距離(瞳孔間幅)の平均は、男性で約64mm、女性で約61mmであるという。よって、各色の幅が、観察者の視点が想定される位置において60〜65mm程度、対象とする身体的条件をより広げて50〜70mm又は40〜70mmで出射光ORの色が切り替われば、この効果が得られる。入射光IR及び出射光ORが図16bのような平行光に近ければ、観察者の位置にかかわらず色の幅が略一定となるので、広い範囲で上記の効果が得られる。主な観察者の年齢層・性別・民族等により、瞳孔間距離の平均が異なることがあり、それに合わせて色が切り替わる距離が設定されてもよい。例えば、児童向けの施設に設置される造形物照明設備では、50mm程度の短い間隔にされる等である。各色の幅が両眼の間隔より狭くとも、両眼に異なる色が常に見えればよい。例えば色の幅30mmの赤・緑・青の光が繰り返されれば、瞳孔間距離が30mmより大きく90mm未満の、ほとんど全ての人が上記の効果を享受できる。また色が切り替わる幅も重要であり、観察位置において各色の間の光が届かない範囲又は各色の光が混色する範囲は、瞳孔間距離平均の1/2又は30mm以下が好ましく、1/4又は15mm以下がより好ましい。
なお、上記を含む異方性反射効果等は、基材部Mを有さず、短冊状の反射面が平行に並んだ造形物によっても得られる。ただし、基材部Mを有する造形物3の方が、薄い反射面をたわみや歪みなく保持可能であること、複雑かつ自由な形状・方向の反射面が配置可能であること、反射面が雨水・風・外力等から保護されること等の点において有利である。
造形物3が表面部Sと裏面部Rの両側あるいはそれ以上から観察される場合は、両側かそれ以上から照明を当てればそれぞれの側から反射が見える。その場合、それぞれの側で照明の色が異なってもよい。
溝部Gの方向が複数でなくとも、照明が点滅すれば、溝部Gによる文字等が見えたり見えなかったりするという効果が得られる。この効果は、複数の平行な溝部Gでも得られる。
造形物3の裏側に乳白状樹脂板が設置されれば拡散光照明に近い効果が得られる。さらに導光板等の照明器具Iが装着され造形物照明設備5とされてもよい。可搬的な造形物照明設備5においても、照明器具I・環境光や使用状況との関係に応じて造形物3及び照明器具Iの諸パラメータが調整可能である。例えば、装身具に埋め込まれた造形物3が向きにより一瞬だけ光って見える、といった演出がありうる。
このように、造形物3の屈折率、造形物3の溝部の方向・θG又はθF、造形物3全体の方向、並びに照明器具Iの位置及び照射方向・照射範囲・色・造形物3各部に与える光量・光の収束や拡散の特性等が調整されることで、様々な条件に応じた異方性視覚効果を有する造形物3及び造形物照明設備5の提供が可能である。
〈変形例7〉
LED等により、例えば複数の平行な溝部Gのうち1本おきのグループを同時に光らせ、残りの1本おきのグループは暗くし、それぞれのグループが一定周期ごとに点滅を繰り返すようにして、それぞれのグループごとに色や複数の部分を組み合わせてなる絵柄を別にしてもよい。
異なる色どうしの境界部分では、色が明確に異なってもよく、徐々に連続的に変化してもよい。例えば、溝部色CGと周囲の基材部Mとの境界部分がグラデーション状に移行してもよい。また、複数並んだ溝部Gの溝部色CGが、それぞれは単一の色でありつつ、1本ごとに次第に変化することで総体としてグラデーションとなってもよい。1本の溝部Gの溝部色CGが溝方向に徐々に変化し、それが複数並んでもよい。隣り合う溝部Gの溝部色CGが異なり、その分布状態が変化することでグラデーションとなってもよい。
〈変形例8〉
溝部Gが図3dのようなドットに基づく柱状等の場合、図17aのように円錐状・角錐状・半球状・多角形状等に大きくテーパーがついた形状でもよい。その場合、各方向から別の色の照明が照射された造形物を任意の方向から見る観察者には、各溝部Gの一部にいずれかの色の光が反射することで、一帯が見る方向に応じた色に見える。つまり、図13c・dと同様の効果が異方性ライティング及び異方性反射によって得られる。溝部Gは他にも、螺旋状・開口部より底面部の方が広がった形状・中心軸に対して又は対向する面が非対称な孔状等様々な形状が可能である。観察者が視点を移動させれば、造形物3の同じ一帯に別の色の反射光が見える。このような造形物3は正面等から光を投映するためのスクリーンとしても使用できる。正面以外から映像等が投映される場合、投映機が造形物3の周辺部やその面の延長に対して正対するように設置され、レンズにアオリがかかる、つまりシフトによってレンズ光軸が平行移動されることで、投映機は斜め方向から投射しながら、造形物3の中心に正対したのと同じように、遠近法の歪みなく、全面にピントが合った状態で投映することができる。このようにして1つの造形物3に多方向から複数の像等を投映し、観察者が見る位置によって像が変化するという造形物照明設備5も可能である。図17aに示すように表裏の両側から溝部Gが加工されれば、溝部Gの分布の密度が上がり、反射の輝度及びコントラストが向上する。溝部Gの充填部Fiが金属粉等の反射材でもよく、充填部Fiが蛍光塗料・特殊発光塗料等で、照明光が紫外線等でもよい。
図13dのように多角形等の溝側面Fや図3d・g・hのような曲線に基づく形状を含む溝側面Fでは、段落0048に記載の通り、それぞれの溝側面Fに対応した多様な方向からの視線及び光線に対し異方性カラーリング・透過及び反射効果等が得られる。さらにそれぞれの溝部Gの溝部深間隔率が最小溝部深間隔率より大きければ、段落0024・0030等に記載の、斜め等から見た場合に複数の溝部Gがつながって見える効果も得られる。
加えて、多角形等の溝側面Fが図3d・gのように規則的に反復して並ぶことで、段落0016から0018に記載のパターンや幾何学模様となり、複数の溝部Gがつながって見える効果が単発的に発生するにとどまらず、本段落に上記のように見る方向に応じて一帯で繰り返し見える。また、そのような一帯が広い面積にわたっていれば、段落0025に記載の現象が複合した装飾効果を呈する。さらに、互いに平行な万線では線どうしの距離は常に一定であるが、図3g等では各部での線の間の距離はまちまちである。そのような画像1に基づく造形物3では、段落0023及び図5に記載のV1・V2・V3の事態が、随所で隣接して同時に観察可能であるから、それらの混在による効果も得られる。しかも視線角度の変更によりV1・V2・V3が同時に変化する。図3i・jに基づく溝部Gでも同様である。
〈変形例9〉
基材部Mが透明の造形物3において、複数の方向の溝部Gが同じ部分で重なる場合、造形物3の同じ面で格子状に交差してもよいが、図17bに断面を示すように、例えば加工部14が材料2の片面から垂直方向の複数の平行な溝部Gを加工し、逆の面から水平方向の複数の平行な溝部Gを加工し、両者を貫通させなければ、それぞれを別の色に着色し分けるのが容易である。これにより、同じ部分領域において、見る方向により異なる色が見える効果を呈する。さらに造形物3の表裏の溝部Gがそれぞれ別の画像に基づいていれば、見る方向や光の方向次第で異なる絵柄が見える。
表面と裏面の両側からの加工には、片側であれば加工精度等の理由から連続して行う必要があった工程を両側の各部に分散させることで、加工部14の時間的・装置的負荷等を小分けできる利点がある。また、隣接する部分領域が表面と裏面とに分かれていれば、加工部14は複数の色を容易に塗り分けできる。さらに、上記加工は視覚的効果にも寄与をもたらす。表面から加工した溝部Gと裏面から加工した溝部Gとで表面ないし裏面からの距離が異なることで、それらが同居する造形物3は、各種異方性視覚効果の重層化・奥行き感の強調・浮遊感の演出といった効果を得る。平行な面状の溝部Gの場合、同じ位置で複数の方向の溝部Gが交差していると、それぞれの方向の溝部Gが別の方向の溝部Gに分断されて効果が低下することがあるが、複数の方向の溝部Gが両面に分かれて加工されていれば、直接には交差しないので、そのような問題がない。
〈変形例10〉
さらに、溝部Gが造形物3の複数の面から加工されてもよい。造形物3が立方体状であれば、6面全部に溝部Gの開口部があってもよい。溝部Gの深さの方向が複数の造形物3、このような板状造形物が積層された多層構造の造形物3、透明等のパーツが追加されたり切削等により変形した複雑な形状の造形物3、多面体又は曲面で構成された造形物3等も可能である。図17cのように、同じ位置に両面から溝部Gが向かい合わせに加工され、それぞれの側で色を変更して、溝部色CGが途中で別になってもよく、色がグラデーション状に変化してもよい。また、図17dのように、無数のドットや万線で構成された画像1が両面から別の2色で重ならないように加工され、各部で2色の比率が異なることで画像の階調再現が可能である。階調の調整は、ドットの数や分布、網点のようなドットの面積の増減、ドットの深さ、それらの併用のいずれで行われてもよい。片面から加工した溝部Gがシアンで着色され、さらにこの面に同様にマゼンタの溝部Gが加工され、その後に表面を研磨するなどしてシアンの上にマゼンタが重ならないようにし、裏面にも同様に加工すれば、3色以上のカラー画像の加工もできる。これにより連続階調の写真等が加工された造形物3は、異方性反射によって輝き、奥行き方向に広がって見えるという、通常の平面的な写真では得られない効果を奏する。
〈変形例11〉
加工部14は、平面的板状の材料2に溝部Gを形成した後に加熱するなどして変形させ、表面が曲面の造形物3を製造してもよい。その場合、加工部14は、溝部Gの開口部側が凸面となるように曲げてもよく、溝部Gを図17aのようにテーパー状とし、開口部側が凹面となるように曲げてもよい。そのような溝部Gが複数方向に交差していれば、より複雑な曲げ加工も可能となる。
〈変形例12〉
複数の造形物3が重ねられた造形物展示体4も可能である。それぞれの造形物3の溝部Gが、立体を輪切りにした断面図状の画像1に基づいていれば、これらを並べた造形物展示体4では溝部Gが積層型の立体地図のように元の立体を再現する。これに溝部Gの方向に対応した照射方向から光が当たれば、それぞれの溝部Gが輝く光の彫刻が実現する。複数の造形物3は密着又は接着されても距離があってもよい。なお、本変形例及び次変形例の図は複雑になりすぎ、簡明な図示が困難であるため、省略する。
〈変形例13〉
複数の造形物3が重なっていると溝部Gどうしのモアレが発生することがあり、各種異方性視覚効果が相乗的に作用する。少なくとも一方の溝部Gが互いに平行な曲面状か、両方のピッチpiが同じか整数比、あるいはそれらに近似し、その差が狭い方の25%以下か好ましくは12%以下だとさらに効果が大きい。それぞれの色が異なると特有の効果を奏し、少なくとも一方が上下左右前後に動いたり回転したりすると(例えばスライド式自動ドアの前後透明板への施工)、際立った動的変化を示す。造形物展示体4の各部が独立して動いてもよく、ある造形物3の表面と別の造形物3の溝部Gとのなす角度が変化するように動いてもよい。
〈変形例14〉
造形物3の例えば裏面部Rが鏡面であれば、透明な基材部Mを通して観察者の側の景色が映って見える。また、観察者の側に光源があれば鏡面で光が反射して、裏面側に光源や風景がなくてもそれらがあるのと同様の異方性反射効果・異方性透過効果等が得られる。
〈変形例15〉
複数の角柱状の基材部Mが並び、それらの間が溝部Gである造形物3も可能である。それぞれがモーター等により回転してもよく、柔軟な材料2が用いられれば曲面でも回転可能である。それぞれが固定されてもよい。
なお、以下の実施形態の記載の一部は本実施形態にもあてはまる。また、造形物3を斜めから見た時に複数の溝部Gどうしの距離又は重なり具合が手前と奥とで同等になるよう、造形物3が湾曲状でもよく、溝部Gが互いに平行でなく、表面部S又は裏面部Rとなす角度が一定であってもよい。湾曲がわずか、具体的には湾曲の凸または凹の量が、造形物3が湾曲する方向の長さの10%以下又は20%以下であれば、複数の溝部Gの二分面は互いに平行とみなしてよい。
[第2の実施形態]
図18aのように、溝部Gの底面部Bが広く、凹部分の幅と凸部分の幅とが比較的近くてもよい。その場合の基材部Mが透明な造形物3を斜めから見ると、対向する2つの溝側面Fの片側が透明部分を通さずに見えるので、屈折で縮まずに長く見える。表面部Sを通して見える溝側面Fは屈折により短く見えるので、斜めから見た場合に一帯の溝側面Fがつながって見える効果を効率的に得るために、表面部Sの幅を底面部Bの幅より狭くしてもよい。溝側面F・底面部Bは透明でも不透明でもよい。
図18bのように、この造形物3が不透明であれば、底面部B及び表面部Sの色が溝側面Fの色と異なってもよい。底面部Bの色と表面部Sの色とは異なっても同じでもよい。溝側面Fは表面部Sより光を吸収する色であってもよい。底面部Bも同様である。第1の実施形態に記載の構成・効果・変形例等の一部は、本実施形態にもあてはまる。例えば、溝側面Fが表面部Sに対して略垂直であれば、正面から見た場合に溝側面Fが略見えず、第1の実施形態と同様に異方性カラーリング効果が得られる。
不透明な造形物3では、表面部Sの幅と長さの少なくとも一方を各部で変更することで、表面部Sと、溝側面F又は底面部Bの少なくとも一方との、視野内の一定の範囲における面積比を変化させることができ、これにより、表面部Sの色と溝側面F又は底面部Bの少なくとも一方の色の少なくとも2色の配合を様々に変更して階調を表し、写真画像・CG・イラスト等の画像を表示することができる。表示される画像が文字や線画の場合には、例えば階調数が2階調でもよく、写真の場合には3階調以上の多階調でもよく、それが2階調化された画像でもよい。具体的には、画像処理部12等は、画像1が多階調画像の場合、万線・曲線状の万線・網点・ディザパターンドット等の様々なスクリーンやパターン等を使用して、例えば図3cのように面積比で階調を表示する2階調画像にすることができる。このスクリーンやパターン等は、画像処理部12等が記憶しているデータを読み出してもよく、処理の都度新たに取得してもよい。このような画像1に基づき、加工部14は、少なくとも2層が互いに異なる色で着色された3層以上の材料2の一部を除去する工程、2層2色の板材を抜き加工し第3層を貼り合わせる工程、透明等の材料で凹凸の形状を造形後に表面部S・溝側面F・底面部Bに2以上の異なる色で着色する工程・3Dプリンティング等で造形物3を製造する。このような造形物3は、表面部Sの色と底面部Bの色とが異なる場合にはその2色の組合せの比率により、例えば正面から見た場合に階調を表してもよく、表面部Sの色と溝側面Fの色とが異なる場合にはその組合せにより、例えば斜めから見た場合に階調を表してもよく、表面部Sの色と溝側面Fの色と底面部Bの色がすべて異なる場合には、それら3色すべての組合せを使ってもよい。また、画像処理部12等は、万線や網点の幅又は長さの少なくとも一方を一定とし、その数や密度や分布量の増減により階調を変化させてもよいし、面積の調整と数や分布状態の調整とを併用してもよい。
[第3の実施形態]
3Dプリンティングによる造形物3では、溝部Gが溝状でなく、ごく薄い膜状で、2面の溝側面Fがきわめて近接していてもよい。それと同様に、例えば薄手の透明等のフィルムが一定の幅で裁断され、その片面又は両面に着色された複数の帯が、一方の切り口を基底材上に固定する形で並べられ溝部Gとされた造形物3も可能である。この帯の立った状態での保持と保護のため、帯の間に透明又は半透明の樹脂等が充填され図12と同様の外観とされてもよく、帯が樹脂内に浮いた状態でもよく、その際、樹脂等から帯の一部が露出してもしなくてもよい。フィルムの切り口は正面から見えるが、切り口が目立たないよう溝側面Fとは別の色で着色されてもよい。フィルム全体が同じ色でもよく、溝側面Fの色の変化が詳細で、複数の溝側面Fにより複雑な画像が表示されてもよい。それぞれの溝側面Fに文字や模様等が形成されてもよく、複数の溝側面Fがつながって見えることで連続した模様等となってもよく、フィルム等が不透明で、両側の溝側面Fの絵柄が異なってもよい。これは、3Dプリンティング等により溝側面Fに形成された凹凸が光の反射によって絵柄を表示することで、第1の実施形態等においても実施可能である。3Dレーザ彫刻でも類似の効果が得られる。さらに互いに隣り合う複数の溝部Gの方向が複数でもよく、溝部Gが曲面でもよく、互いに平行でなく自由に多様な方向を向いてもよい。溝部色CGが溝部Gごとに異なってもよく、各溝側面Fの各部でさらに異なってもよい。また、造形物3が高可塑性ないし高可撓性の薄いフィルム状でもよい。これが裏面部Rに粘着層を有していれば、例えば円柱に容易に施工可能である。第1及び第2の実施形態に記載の構成・効果・変形例等の一部は、本実施形態にもあてはまる。
[第4の実施形態]
溝部Gの先端部分は、図4cに示す底面部Bのように凹凸状になることがある。この凹凸が、数mから数10cmまでの通常の観察距離では肉眼で識別できない程度の微細なものであれば、実用上溝部Gの深さは一定とみなすことができる。そのような溝部Gの仕上りの均一さにより造形物3の装飾効果が向上する。一方、凹凸の深さの差が数mm以上であれば、数10cmの距離からの目視でも充分に目立つ。こうした溝部の深さの際立った変化による加飾性が目的とされてもよい。
例えば、画像処理部12が、図3のような画像1のそれぞれの線分を同じ位置で10本重ね、それぞれの線分の長さを変更して10%ずつ短くなるようにし、加工部14がそれに基づき、通常の溝部Gの1/10程度の出力でレーザ加工する。同一箇所への10回のレーザ照射の長さが各々異なることで、溝部Gが深さ方向に谷型(図19のように開口部がある表面部Sを下にすれば山型)の形状となる。レーザのスポット径が充分に小さければ、溝部Gの幅は、始点と終点のごく一部を除き略一定となる。画像処理部12は線分を重ねずに複数のレイヤーや10枚の画像に分けてもよい。画像処理によってではなく加工部14側の動作によっても、同様の加工が可能である。レーザの熱により溶解した材料2の一部が流れながら硬化するため、直角の階段状にはならない。また、それぞれの長さの各線分の加工順序によって溶解及び硬化の状態も変化するため、溝部の形状が別の結果となる。10回分の加工方向が同一か往復かでも形状が異なる。加工部14が、同じ位置の10回の加工を順次行い、1回目の加工によって熱を持っているままの材料2の同じ部分にすぐに2回目以降を加工するか、1回目の加工後に別の箇所の加工を行い、1回目の部分が除熱された状態で2回目、という具合に間歇的に加工するか、によっても形状が異なる。
また、例えば、加工部14は、一定の深さで加工する時の出力を80%とすると、線に基づき溝部Gを加工する際に始点から80%で加工せずに、0%に近い出力から80%に漸近するように加工することができる。その間スキャンが行われて加工位置が移動するので、加工された溝部Gでは、加工が1回であっても、始点の深さは浅く、徐々に深さが増す、という形状になる。終点でその逆が可能である。深さの変化による傾斜の度合も変更できる。パルス数等の設定によっては、溝部Gの深さが波線状等に変化して溝側面Fも大きく波打つこともあり、波が次第に減衰することもある。加工部14は、レーザの照射方向を、垂直だけでなく溝部の方向や幅の方向に傾斜させてもよい。あるいは、樹脂製の材料2は品種ごと、さらにはロットごとに融点又はガラス転移点等が異なるため、気化・溶解・流動・硬化等の挙動がまちまちであり、気温や湿度も影響して多様な形状変化を示す。このような材料2の特性及び加工部14の機能に応じて、画像1等において線分の数・長さ・方向・幅等が調整され、加工部14において加工の出力・速度・方向・順序・周波数・パルス数・解像度・オフセット量・レンズの焦点距離・スポット径・フォーカス位置・給排気量等の各種パラメータが最適に設定される等により、複数の部分において深さが互いに異なる溝部Gが加工可能である。以下、このような溝部Gを変深溝部Zと記載する。なお、オープンな溝部Gは始点と終点を1個ずつ有する。始点及び終点は溝部Gの両端であり、通常は深さが0である。溝部Gの途中に深さが0の部分があれば、溝部Gはその部分で分かれている。クローズドな溝部Gは始点及び終点を有しない。
変深溝部Zの二分面を断面とした時の輪郭の形状(以下、変深溝部Zの形状と記載する。)は、半円状・半楕円状・台形状・三角形状・それらが複数連なることで深さの山を複数有し、その間に谷を有するフタコブラクダ型や連峰型・それらに基づくより複雑な形状等様々である。繰り返し精度及び再現性が高い加工部14は、複数の変深溝部Zを略同一の形状にできる。略同一の形状とは、溝部の方向の違い等によってそれぞれの変深溝部Zの形状がごくわずかに異なることがあるが、一般の観察者が通常の状態で目視する限り区別がつかない程度、という意味である。そして、例えば図3i・jの一部のような画像1に基づく造形物3は、略同一の形状の変深溝部Zの反復繰り返しにより、例えば図19aのように、斜め等からは鱗状に見える立体模様を呈し、リズミカルで踊るような視覚効果をもたらす。なお図19aでは、各変深溝部Zの形状が同一であることを示すため、図の溝部の方向及び深さ方向における変深溝部Zの遠近法上の変形は行われていない。また、溝側面Fが、略平面状ではありながら、外形を反映してごく緩やかに湾曲したり、層状・年輪状・入れ子繰り返し形状等の縞を有したりすることがある。変深溝部Zの底面部Bは各部で方向を変化させるため、多様な方向及び形状の線状の反射を示す。第1の実施形態では、複数の溝部Gの複合による異方性視覚効果と、複数の溝部Gにより表示される絵柄に大きな特徴があり、造形物3が比較的遠方からの観察に適していることが多い。一方本実施形態では、個々の変深溝部Zの複雑な形状と、それにより見る方向次第でダイヤモンドのように変化する輝きが着目される。とりわけ、底面部Bの微細な線状の反射が特徴的である。よって変深溝部Zはより近接して観察されるのが一般的には効果的である。このような変深溝部Zが幾重にも重畳し、深さが一定の溝部Gでは得られない複雑で繊細な異方性反射効果を発揮する。光の方向や周囲の明るさによっては、例えば裏面部R側から観察された時には表面部Sに変深溝部Zの反射像が映ることがある。観察者の側及び反対側の両側から照明される場合にこの効果が顕著である。変深溝部Zが斜めから見て半円状であれば、反射像はその線対称の半円状となり、それらが合わさって略円状に見える。画像1の幾何学模様等の調整により、複数の長さ又は複数の形状の変深溝部Zが組み合わされば、より変化に富んだ造形となる。図19bのように、略平行に並ぶ略同じ形状の変深溝部Zの方向が交互に反転してもよい。さらに、第1の実施形態等の記載は本形態にもあてはまり、例えばこの溝部の一部の溝部深間隔率が最小溝部深間隔率より大きければ、斜め等から見た時に複数の溝部がつながって見える箇所が規則的に繰り返されて見える。ただし、本形態では、前後の変深溝部Zどうしが重なって見えると変深溝部Zの形状が見えなくなって効果が低減することがあるので、第1の実施形態の一部等と異なり、必ずしも溝部深間隔率が大きくなくてもよい。また、変深溝部Zは一定パターンの繰り返しでなく、例えばそれぞれランダムな方向の複数の変深溝部Zが、各々の中心が等間隔である等規則的に配置されてもよい。複数の変深溝部Zが規則的に配列されていなくても、ある程度密集していればよく、密集の度合が造形物3の各部でまちまちでもよい。変深溝部Zの二分面と表面部Sとの角度が各部で異なってもよい。その角度が複数で、それぞれの角度の変深溝部Zに異なる色の照明が当たることにより、変形例5のような効果が得られる。この応用により、造形物3のほぼ同じ部分で複数の別の画像等が切り替え可能となる。表面部Sとなす角度がそれぞれ異なる変深溝部Zは、例えば後述の加工方向傾斜機構1411及び回転軸補正機構1412を有する造形物製造装置10によって加工できる。
加工部14が3Dプリンティング等を用いれば、変深溝部Zが深さ方向の奥で一旦狭まってから再度広がる糸巻き型・その逆の樽型・図20cのようにオーバーハングした形状・変深溝部Zが一度途切れてより奥で再開する飛び地型・変深溝部Zの中に基材部Mがつながった部分が取り残された中州型・人や動植物等の形状・文字・飾り罫といった自由な造形が可能となる。変深溝部Zが途中で幅方向に折れ曲がってもよい。第5の実施形態にて後述の捩れ溝部状に変深溝部Zが捩れてもよい。変深溝部Zと表面部Sとの角度が漸次変化することにより、複数の変深溝部Zの連続が捩れ溝部状となってもよい。変深溝部Zの各部で色が異なってもよく、例えば飛び地状の部分や中州状の部分のみ他の各部と色が異なってもよく、それが略同一の形状の複数の変深溝部Zで反復されてもよい。また、変深溝部Zが幅方向に膨らみを有することで、球状や三角錐状等の立体形状となってもよい。ただしこの場合、上記の略平面状の溝側面Fを基礎とする形状と比較して反射が弱いことがある。第3の実施形態と同様、樹脂注型等が用いられてもよい。加工部14は、小型のサーキュラーソー等の切削工具と化学研磨等を用いてもよい。飛び地型・中州型・オーバーハング形状の変深溝部Z等では、溝の深さ方向に複数の底面部Bが重なるため、光の方向と観察方向によっては光る線がそれぞれの部分で2重3重等に見える。
変深溝部Zは深さの変化により特有の装飾効果を示すが、矩形の形状の溝部Gでは深さの変化が小さく、その効果は乏しい。よって、溝部の深さが各部で連続して変化していることが、所期の効果のための条件の一つである。つまり、変深溝部Zは深さが一定でなくてもよく、一定の深さの部分が充分に狭くてもよい。例えば台形状の変深溝部Zで、最も深い底部又は頂部に深さの変化がわずかな部分があっても、一定の範囲までは溝部全体の変化の一部として許容される。具体的には、まず条件Aとして、ある溝部の一部における深さの差が、溝部の最大の深さの1/20以下、好ましくは1/10以下であれば、この一部では溝部の深さが一定であるとする(下限は0又は測定限界値で、特記の場合を除き以下同様である。)。なお、条件Aが最大の深さに応じて変動する値である理由は、浅い溝部は近くから観察されるのに適しているので深さの変化が識別されやすく、深い溝部は遠くから観察される用途で必要とされるので深さの変化が比較的目立たないことが多い、という点である。ところで、一般に肉眼の分解能は30cmの距離で0.1mmとされ、これ以下では識別が難しくなるので、変深溝部Zの深さによらず、深さの差が0.1mm以下なら深さは一定としてもよい。さらに、表面部Sに直交する又は垂直な溝部が斜め方向から観察される場合、屈折により、見かけの深さは最大でも実際の深さの1/2弱程度となり、凹凸の差も実際の半分程度に見えるので、深さの差が0.2mm以下なら深さは一定としてもよい。次に条件Bとして、ある変深溝部Zにおいて、条件Aを満たす連続した部分の溝部の方向における長さが、この変深溝部Zの溝部の方向の長さの1/5以下、好ましくは1/10以下、又は1mm以下、好ましくは0.5mm以下であれば、この変深溝部Zの一部の深さは連続して変化していると考えられる。長い変深溝部Zも含む場合には、条件Bは、条件Aを満たす部分の長さが変深溝部Zの長さの1/5以下かつ深さの1/5以下、又は長さの1/10以下かつ深さの1/5以下である。ここで、条件Bが同じであれば、条件Aの深さの差の最大許容値が大きいほど、適合する溝部は減少し、範囲が狭い。すなわち、条件Aが1/10以下の場合は、1/20以下の場合より厳しく、条件A+Bに含まれる溝部の数がより少ない。
例えば、条件Aが1/10以下、条件Bが1/5以下の場合、最大の深さが4mm、長さが3mmの変深溝部Zにおいて、深さの差が0.4mm以下である連続した部分の長さが0.6mm以下であれば、この変深溝部Zは形状に充分な変化を有し、所期の効果を呈する。図20は二分面を断面とする変深溝部Zの断面図である。図20aは等脚台形状の変深溝部Zである。図20aの変深溝部Zにおいて、深さが一定である連続した部分の長さは変深溝部Zの長さの1/5である。すなわち頂部の長さ(図のイタリック体のj)と変深溝部Zの長さ(図のイタリック体のk)との関係はj=k/5である。また変深溝部Zの深さを図のイタリック体のlとするとk=lである。片側の脚部分の辺の長さ(図のイタリック体のm)は頂部の長さjの29−2≒5.385倍であり、jが変深溝部Zの底面部B全体の長さ(j+2m)に占める割合は約8.5%である。ゆえに、この変深溝部Zの底面部Bのうち、深さが一定である部分は無視できるほど短いということができる。上記の割合は、深さlが同じならkが短いほど小さくなり、k=l/2なら約4.7%となる。
さらに、条件Aを満たす連続した部分の溝部の方向における長さが、変深溝部Zの溝部の方向における長さの1/30以上か1/20以上、又は0.1mm以上か0.2mm以上であれば平坦な部分であるとすると、1つの変深溝部Zにおいて、平坦な部分が複数ある場合には、それらの溝部の方向の長さの合計が前記いずれかの範囲でもよく、例えば変深溝部Zの溝部の方向における長さの1/3以下でもよく、それぞれが前記いずれかの範囲でもよく、平坦な部分の数は3以下でもよく、2以下でもよく、1のみでもよい。1つの変深溝部Zにおける複数の平坦な部分の深さは同じでもよいが、異なっているほうが所期の効果は高い。
また変深溝部Zの深さの変化の度合は総和勾配sgで表せる。図20bのように、変深溝部Zと、その二分面を含み、溝部の方向をx方向、x方向に垂直な方向をy方向とするxy平面を考える。通常、変深溝部Zの溝部の方向は溝部Gと同じく表面部Sに平行であり、変深溝部Zに開口部があればそれにも平行である。総和勾配sgとは、変深溝部Zをx方向にN個に分割し、それぞれの分割区間のy方向の深さの差y
i+1−y
iの絶対値の総和を、x方向の長さの差x
i+1−x
iの総和の絶対値で除した商の百分率表示である。
x
iはi番目(i=1、2…N)の分割線と始点x
1(特記の場合には終点等)との距離の、またy
iはi番目の分割位置における変深溝部Zの深さの測定値である。これらの測定値は、変深溝部Zの断面・造形物3の端面から見える透過像・それらの画像・斜め方向から撮影され屈折による変形及び必要があれば遠近法的歪曲が補正された画像等で測定される。測定値は、画像等に重ねられた例えば0.1mm単位のグリッドから割り出されてもよい。始点x
1及び終点x
N+1は変深溝部Zの開口部の始点及び終点に基づき、開口部がない場合には直線部分に基づき、直線部分もない場合には変深溝部Zの溝部の方向の両端であるが、その場合には溝部各部の深さ方向の上端と下端との距離が深さとなる。変深溝部Zが開口部を有する場合、及び始点x
1と終点x
N+1とで表面部Sからの距離が等しい場合にはy
1=y
N+1=0である。
図20bは分割区間の幅が均等の場合の例である。ここではN=8である。Nは例えば8・10・12・16・20・24・30・32のいずれかでもよく、あるいはx方向の長さの差xi+1−xiが0.1mm・0.2mm・0.5mm等の固定値でもよい(変深溝部Zの終点等に残る端数分は適宜処理される。)。オーバーハング形状の変深溝部Zでは、1本の分割線につき底面部Bとの交点が複数生じるので、特記の場合を除きy方向の複数の測定値のうち最大値がその箇所におけるyiとされる。
図20cは分割区間の幅が不均等の場合の例である。分割位置が変深溝部Zの形状の山又は谷の頂点Veであれば、変深溝部Zがジグザグ状に近い場合に、深さの変化をよりよく反映する。頂点Veとは、y方向については、変深溝部Zの深さの変化が増加から減少に、あるいはその逆に転じる位置であり、特記の場合を除き、分割位置は頂点Veである。加えて、複数の頂点Veのx方向における中間位置でも分割したり、傾斜の変化の度合が定められた値以上となる部分でも分割するというように、分割位置が増えれば(Nが大きければ)変深溝部Zの形状に対する追従度が増し、形状をより緻密に反映する。さらに、変深溝部Zがオーバーハング形状であれば、x方向の頂点Veでも分割され、ここでもxの値が増加ないし減少に転じる位置で分割される。xiの順序は、図20cのように変深溝部Zの底面部Bを始点x1から終点xN+1まで辿っていく順に従う。円状等、変深溝部Zの形状に開口部及び直線部分がない場合には、総和勾配sgは、それぞれの分割区間のy方向の深さの差の絶対値の総和の、x方向における最も長い部分の長さに対する割合である。始点x1は終点xN+1に一致しない。また、変深溝部Zの凹凸に対する計測精度の下限は例えば0.1mm・0.05mm・0.01mm・0.005mm・0.001mmのいずれかでもよく、この下限以下の凹凸は無視してよい。その上限は変深溝部Zの長さ又は深さのいずれか短い方である。総和勾配sg等は、特記の場合を除き、変深溝部Zの分割が不均等の場合である。総和勾配sgは、100%であれば底面部Bの傾斜角度の絶対値の算術平均が45°以上、すなわちx方向の幅とy方向の凹凸量の総和が等しいと見込まれ、200%以上なら屈折後のx方向の幅とy方向の凹凸量の総和が等しく見かけの傾斜角度の絶対値の平均が略45°以上となりあらゆる視線角度から底面部Bの反射が見え、400%以上なら斜め方向から見た時にy方向の凹凸量の総和がx方向の幅の2倍以上に見える。
変深溝部Zの長さに対する深さの割合が大きいほど、概して総和勾配sgの値が大きくなる。深さの影響を除外するため、総和勾配sgにおけるy方向の深さの差の絶対値の総和から深さの最大値y
maxの2倍を減じた実質変動総和勾配rsgが用いられてもよい。
この値は、台形・三角形等の基礎となる形状の単純な傾斜を反映せず、それに付加された凹凸の量を表す。特記の場合、y
iの最大値がy
maxとして用いられ、分割区間の幅が不均等の場合にはそれらは原則として等しい。
あるいは、N個の分割区間のうち両端部分を含まない中間変動総和勾配msgが用いられてもよい。
これは、図20bでは、y
1からy
2まで及びy
8からy
9までの分割区間の深さの変化を除いたy
2からy
8までの間の勾配を示す。これにより、総和勾配sgにおける始点x
1直後の急上昇成分と終点x
N+1直前の急下降成分とが除外され、変深溝部Zの中間部分の正味の変化が表される。特記の場合、y
3からy
7までに限るというように、除外される分割区間が変更されてもよい。
図20aの場合にはrsg=msg=0である。平坦な部分をもたないV字形状の変深溝部Zでは、rsg=0であり、中間変動総和勾配msgの適用対象外である。また、rsg>0又はmsg>0であれば、その変深溝部Zは複数の頂部Veを有するか、オーバーハングを有する。つまり、実質変動総和勾配rsg及び中間変動総和勾配msgは、変深溝部Zの深さが一定でないかどうかではなく、その形状の複雑さの度合を示す指標である。
実質変動総和勾配rsg・中間変動総和勾配msgは、100%であれば始点x1及び終点xN+1付近を除く底面部Bの中間部分の傾斜角度の絶対値の算術平均が45°以上、すなわち中間部分のx方向の幅とy方向の凹凸量の総和が等しいと見込まれ、50%でy方向の凹凸量がx方向の幅の半分となり、200%であれば、斜め方向から見た時にx方向の幅とy方向の凹凸量の総和が等しく見えるので、好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上、さらに好ましくは200%以上、一層好ましくは400%以上で、上限はないが2000%程度までが現実的である。
造形物3における単位面積あたりの変深溝部Zの数が多いほど、深さ方向の起伏の頻度及び傾斜の度合が増え、所期の効果が顕著となる。そのためには、それぞれの変深溝部Zが短いほうがよく、具体的には、変深溝部Zの長さは深さ(あるいはピッチ・隣り合う変深溝部Zの間の部分の最も狭い部分の幅)の2倍以下が好ましく、1倍以下がより好ましく、0.5倍以下がさらに好ましい。その反面、溝部の方向の長さが短すぎても、形状が単純すぎて深さの変化が乏しく、所期の効果は得にくい。変深溝部Zの深さの変化は溝部の方向で起こるのであり、溝部の始点と終点とが離れていることが望ましい。よって、溝部の方向の長さは幅より大きい方がよい。より具体的には、変深溝部Zの幅に対する長さが好ましくは2倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは8倍以上でもよい。
変深溝部Zが最も深く見える斜め方向から見た時の変深溝部Zの長さと深さとが略同一であればバランスがよい。そのための変深溝部Zの深さは、基材部Mの屈折率が1.5前後の場合、変深溝部Zの長さの1倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、1.8倍以上がさらに好ましく、また、3倍以下が好ましく、2.5倍以下がより好ましく、2.2倍以下がさらに好ましい。上記の奥の面への映り込みが特に鮮明に観察可能な用途では、それらのそれぞれ1/2が良好である。
変深溝部Zの深さの変化が周期的である場合には、それは加工精度の低さからくる単なる粗い仕上り等にすぎず、所期の効果をもたらさないことがある。この場合、1つの変深溝部Zにおいて、略同じ深さと長さの変化が複数回連続して繰り返され、波のようにうねる形状となっている。このような波形状の変深溝部Zが特有の装飾効果を呈することもある。しかし、そうした変深溝部Zは、独立した複数の変深溝部Zに分断されていない分、深さの起伏に乏しい。また、溝部の方向における間の部分が少ないために、図19aをより大きい視線角度で見た時のように間の部分を通して奥の変深溝部Zが見える効果も少ない。さらに、変深溝部Zの長さが比較的長くなる分、画像1に基づく変深溝部Zのパターンも含めた形状が単調になりがちである。
図20cにおいて、変深溝部Zの底面部Bのうち、その接線Taが表面部Sへの垂線又は法線となす小さい側の角度θZ(以下接線角度θZと記載する。)の絶対値がarcsin(1/n)未満の部分では、段落0042の記載より、造形物3を挟んで奥の光源からの入射光のその部分による反射光が造形物3の手前で観察可能となる。図20cのようなオーバーハング形状の変深溝部Zでは、少なくともオーバーハング部分の2カ所の頂点Veがそのようになる。この場合、単一の変深溝部Zの複数の部分を通過する、溝部の方向に垂直な直線(例えば図20cのx3を示す線)が存在する。なお、飛び地型の変深溝部Zにおいて、溝部の方向に垂直な同じ直線が通過する複数の部分は、共に単一の変深溝部Zの一部である。変深溝部Zは、完全な矩形状の溝部Gと異なり、溝部の方向(図20におけるx方向)及び溝部の方向に垂直かつ二分面に平行な方向(図20におけるy方向)とは別の方向の接線Taを含む。変深溝部Zにおける接線Taの方向は2より多くてもよい。
オーバーハング形状の変深溝部Zには、図20bのように、一部が終点又は始点の先に張り出している場合もある。この場合には、単一の変深溝部Zの複数の部分を通過する、溝部の方向に垂直な直線は存在しないことがある。この場合、表面部S側に開口部又は直線部分を有する変深溝部Zにおいて、開口部又は直線部分より裏面部Rに近い一部が、開口部又は直線部分の始点を通り溝部の方向に垂直な平面に対して、開口部又は直線部分の終点の反対側に位置するか、前記終点を通り溝部の方向に垂直な平面に対して、前記始点の反対側に位置するか、の少なくとも一方である。それらの両方である変深溝部Zは、例えば樽型である。
また、図20bのようなy方向の増減の転換点である頂点Veを複数有する変深溝部Zにおいて、底面部Bが、接線角度θZの絶対値がarcsin(1/n)未満である部分を有してもよく、複数の頂点Veの間の底面部Bがその部分を有してもよく、始点及び終点と複数の頂点Veとに挟まれたそれぞれの底面部Bの一部すべてがその部分を有してもよい。なおこの場合、単一の変深溝部Zの複数の部分を通過する、溝部の方向に平行な直線(例えば図20bのy8を示す線)が存在する。また、このような変深溝部Zは頂点Veを3以上有する。
造形物3に対して光源が観察者と同じ側に位置する場合には、光源の位置にもよるが、一般にθZ=90°に近い方が、特に視線角度が小さい視点からは反射光が見えやすい。つまり図20bの頂点Veの部分が有利である。一方、光源が観察者の反対側に位置する場合には、θZ<|arcsin(1/n)|の部分、さらにθZ=0°に近い部分で広い範囲の反射光が見える。つまり図20cの頂点Veの部分が有利である。単一の変深溝部Zにつきこれらの部分が多いほど、各方向からの入射光を受けて反射する部分が増え、ブリリアント・カットのダイヤモンドのように、観察方向に応じて多様に輝く。つまり、変深溝部Zの形状が複雑なほど反射効果が高い。この場合、側面部Fによる光の反射が見える範囲よりもはるかに広い範囲から光の反射が観察可能である。θZ=90°の部分とθZ=0°の部分が交互にあれば、接線角度θZの変化の度合が大きく、視点のわずかな移動に際して反射が起こったり消えたりが何回も繰り返される。そのため光源が観察者の反対側に位置する場合、観察者が少し動くだけで反射が点滅するように頻繁に起こり、照明効果が特に大きい。観察者が手指をかざして部分的に照明を遮ると、上記の効果が見える部分と見えない部分との対比をリアルに体感でき、溝側面Fへの手指の映り込みも手伝って興趣ある効果を得る。つまり、想定される観察者(時には子供等)の手が届く程度に近接した位置で観察されるのが、通常の変深溝部Zを有する造形物3では最適である。ただし、造形物3の板厚等の制限がなければ、遠くから観察しても効果的な変深溝部Zも実現可能である。
変深溝部Zは曲線よりも直線に基づく方がよく、曲線に基づく場合は曲率が小さく、緩やかな曲線の方がよい。また、絵柄や多角形の角の部分等で変深溝部Zの方向が変わり、途中で折れ曲がるのは好ましくないことがある。図3i・jのように、変深溝部Zは角の部分では同じ溝部としてつながらずに、別の溝部として互いに離れているほうがよい。そのことで、変深溝部Zの凹凸の差と頻度が増える。方向の異なる複数の変深溝部Zでは底面部Bの方向が異なり、特に端部での反射の方向が互いに異なるため、それぞれがまったく別の反射状態を呈する。その効果が、複数の変深溝部Zの端部が重なると端部が減ることで逸失する。
変深溝部Zから突出した部分を突起部Prとする。突起部Prでは、当該突起部Pr及び同じ変深溝部Zの別の部分の両方を、基材部Mを間に挟んで通過する直線(図20bではy8を示す線)が存在してもよく、あるいは、互いに対向する2つの溝側面Fの少なくとも一部のなす角度及び互いに対向する2つの底面部Bの少なくとも一部のなす角度が60°以下、好ましくは45°以下、より好ましくは30°以下、かつ0°より大でもよい。ある突起部Prにおいて、互いに対向する2つの溝側面F及び互いに対向する2つの底面部Bを通る複数の断面が略円状又は略楕円状でもよい。略円又は略楕円とは、周状に囲まれ全体に丸みを帯びた平面図形を指し、数学上の円又は楕円とは厳密に一致しなくてもよい。つまり、突起部Prが円錐・円柱・楕円錐・楕円柱に近い形状又はそれが湾曲した形状でもよい。それにより広い範囲から突起部Prの反射光が観察可能となる。突起部Prの前記複数の断面の複数の中心点を結んだ直線又は曲線を突起部Prの軸とする。突起部Prの軸に垂直な複数の断面が略円状でもよい。複数の断面が略円状又は略楕円状である突起部Prでは、底面部Bと溝側面Fとが曲面として連続する。そのため、より広い範囲から連続して反射光が見える。突起部Prの軸が曲線であれば、その範囲がさらに広いことが多い。
また、突起部Prの軸の方向を突起部Prの方向とする。突起部Prの軸が曲線や折れ線等の場合には、突起部Prは複数の方向を有するが、特記の場合を除き、そのうち突起部Prの先端における軸の接線の方向を突起部Prの方向とする。突起部Prの少なくとも一部の方向が表面部S又は裏面部Rの少なくとも一方に垂直でなくてもよい。そのような突起部Prを有する略同じ形状の複数の変深溝部Zの方向が図19bのようにそれぞれ異なれば、突起部Prの方向が変深溝部Zごとに異なるので、全体として多様な反射方向を呈する。また、単一の変深溝部Zが突起部Prを複数有すれば、反射光が観察可能な範囲がより広くなる。複数の突起部Prが図20bのように互いに隣り合っていれば、複数の突起部Prとその間の頂点Veにまたがる部分及びそれらと略平面状の溝側面Fにかけての入り組んだ曲面が複雑な反射の変化をもたらす。複数の突起部Prの数の上限は、それぞれの変深溝部Zにおいて、軸に垂直な断面が略円状である複数の突起部Prが、その突起部Prの半分以上間隔を開けて配置されるような数である。さらに単一の変深溝部Zが有する複数の突起部Prの方向又はその先端の方向が互いに異なれば、反射光が見える範囲が一層広がる。平坦な部分が多い通常の溝部Gが突起部Prを有してもよく、その部分では上記の効果等が得られる。
突起部Prでは、2つの底面部B(及び2つの溝側面F)が互いに近接して対向しているため、変深溝部Zの輪郭の視認性が向上し、変深溝部Zの形状の視認性が向上することがある。そのような変深溝部Zが無数に配列されれば加飾性がさらに向上する。突起部Prの軸に垂直な断面の幅又は長さの少なくとも一方が0.2mm以下又は0.1mm以下、かつ0mmより大であれば、対向する2つの底面部B(又は溝側面F)が略1本の線のように見え、特にこの効果が高い。
変深溝部Zの異方性反射効果の向上のためには、溝側面Fの少なくとも一部が鏡面に近い方がよい。すなわち前述のように、溝側面Fの表面粗さRz(最大高さRz、JIS B 0601−2001又はISO 4287−1997)は200未満が好ましく、50未満がより好ましく、12.5未満がさらに好ましい。また、溝側面Fは略平面であり、具体的には、溝側面Fの平面からのズレ量の上限は幅の1/5が好ましく、1/10がより好ましい。下限は測定限界値又は0である。さらに、溝部Gと基材部Mとの屈折率の差が大きい方が溝側面Fの反射率が向上し、そのためには溝部Gが空洞でもよく、基材部Mが空間でもよい。
溝側面Fが略平面状である溝部Gでは、反射光が見える範囲が限られがちである。入射光が1カ所の点光源のみによる場合、平面状の溝側面Fからの反射光は1点でしか見えない。ところが、変深溝部Zの底面部Bの方向は位置により変化するので、さまざまな視点から反射光を観察できる。図4bのように溝の先端(底面部B)の断面が曲線であれば、反射を観察可能な範囲がより拡大する。変深溝部Zの底面部Bでの反射はごく狭い範囲で起こるが、図19のように多数の変深溝部Zが密集することで、蜘蛛の巣のように、あるいは大気中の水蒸気が昇華したダイヤモンドダストのように、微細な反射が遍在して広範囲で見える。特に、変深溝部Zが溝部Gより近距離から観察される際には、底面部Bの糸状の反射であっても充分に視認可能である。さらに、視点の移動に対しても、個々の変深溝部Zの反射状態の変化が、溝部Gより広い範囲まで追随して見える。
溝側面Fが略平面状ではあるものの、微量の凹凸があれば、完全な平面である場合よりも広い範囲から光の反射が見え、また反射光がある部分とない部分とのコントラストにより溝側面Fの内部でも模様状パターンが見え、加飾性が向上する。凹凸の高さは、0より大きく溝部Gないし変深溝部Zの幅の1/2以下、好ましくは1/4以下、より好ましくは1/8以下、又は0.2mm以下、好ましくは0.1mm以下である。凹凸は連続した縞状であれば視認性が高く、縞は溝部の方向に略平行が好ましい。突起部Prを有する変深溝部Zであれば、突起部Prと略同じ方向にその延長の線状の凸部が見えてもよい。溝部の方向に略平行の凸部と溝部の方向に略垂直の凸部又は突起部Prと略同じ方向の線状の凸部が交差していれば、格子状の表情が溝側面Fの反射に付加される。
図4cのように底面部Bが乱雑な変深溝部Zでは、底面部Bは入射光を乱反射して白い輪郭に見えることがある。その場合、底面部Bが見えるほとんどの方向から底面部Bが白く見え、識別性が高い。
従来、特開2003−020235のような、凹凸による立体模様を有するガラス等が知られている。これらでは単に凹凸のエンボスがタイル状に並べて形成されているにすぎず、立体造形というより平面に近かった。そのため、観察者がこのガラス等を斜めから見ても、正面ないし裏面から見た場合と外観に大きな差はなかった。本実施形態に係る造形物3は、xyz空間において、造形物3の表面部Sがxy平面に平行である場合、視覚的には略平面状の図形が、z軸に平行かz軸とそれぞれの角度をなして、xy平面の方向に規則的に並ぶ、という全く別種のものである。また、本実施形態に係る造形物3では、変深溝部Zが表面部S側に開口している場合、隣り合う変深溝部Zの間の表面部Sから溝側面F及び底面部Bが見える。そのためには溝側面F又は底面部Bが表面部Sに対する垂線又は法線となす小さい側の角度の絶対値がarcsin(1/n)未満でなければならない。ガラスによる凹凸ではこれを満たすことが難しく、凹部が開口する側の表面部Sを通して凹部の側面が見えることはなく、アクリルやガラスを隔てた光源からの光を凹部の側面が反射するさまも見えない。本実施形態に係る造形物3は、透明3D幾何学模様というべき斬新な外観を呈し、ランプシェード・店舗装飾・展示用什器等広い範囲の装飾用途に利用可能である。
[第5の実施形態]
本発明における第5の実施形態は、第3の実施形態と同様、3Dプリンティングや、フィルム・金属・紙・布・ゴム等からなる薄いテープ状の材料2が埋め込まれた透明樹脂成型等で実現されるが、第1の実施形態に記載のそれら以外の加工手段で加工されてもよい。本形態が提供する造形物3が有する捩れ溝部Tでは、図21a・bのように、溝側面F9とその裏側の溝側面F10とが途中で互いに反転しており、溝側面F9及びF10が1つの視点Vから同時に見える。捩れ溝部Tの長さ方向と直交する平面と幅が最も広い溝側面Fとが交わる部分の両端部を結ぶ線分LMと、線分LMの中点MPを考える。任意の位置の線分LM1の中点MP1と別の位置の線分LM2の中点MP2とから等距離の中点を捩れ中心CPとし、それを含む線分LMをLMCとする。線分LM1及びLM2のなす角度を捩れ角θTとする。捩れ溝部TはθT≒0°の部分を有する。つまり捩れ溝部Tでは、線分LM1及びLM2をそれぞれ含む複数の直線が、互いに平行でなく交わらない(いいかえれば捩れの位置にある)。θT>360°、すなわち捩れが連続する場合、θT=360°となる線分LM1及びLM2に挟まれた範囲が捩れの1周期である。また、θT≒0°である線分LM1及びLM2が連続している範囲において、θT≒0°である線分LM1及びLM2に挟まれた最も広い範囲が捩れの範囲である。捩れ溝部Tにおいて、最大の捩れ角θTがθT<180°である場合、捩れの範囲の両端の線分LM1及びLM2をそれぞれ含み捩れ中心CPを通る2つの平面に挟まれ、かつ線分LMCを含む範囲(図21aにおけるLM1及びLM2の間の捩れの範囲に限れば、図21bのθTで示される角度の範囲)が、溝部Gの表裏が同時に見える視点Vの範囲である。この範囲は捩れ角θTが大きいほど広がる。視点Vが捩れ溝部Tを向きつつ捩れ溝部Tの長さ方向を軸として回転する時、θT=90°で視点Vが回転する全周の半分で表側と裏側が同時に見え、θT=180°で前記全周のどこに視点Vがあっても表裏が同時に見える。捩れ溝部Tのこのような効果を、本明細書では捩れ効果と記載する。表裏の交代が見える範囲が広いほど捩れ効果は大きいので、表裏が同時に見える範囲の広さが表側又は裏側の片面のみしか見えない範囲の広さ以上であるθT≧90°が好ましく、θT≧180°がより好ましく、θT≧360°なら捩れが繰り返し見えてさらに好ましい。造形物3及び捩れ溝部Tのサイズに応じて捩れの回数は無制限に増やすことができるから、捩れ角θTの上限はない。複数の中点MP及び複数の捩れ中心CPを結ぶ線を捩れ軸Aとする。捩れ軸A及び捩れ溝部Tの方向は、溝部の方向(溝部Gの方向・溝の方向・溝方向)と同様に、画像1の線の方向に基づくが、捩れ溝部Tが画像1に基づかないこともある。捩れ軸Aは曲線でもよいが、その場合複数の線分LMを含む複数の直線が、捩れ軸Aが曲がることによって交わることがあるので、捩れ溝部Tの少なくとも一部において、異なる線分LMをそれぞれ含む3以上又は全ての直線が同じ点で交わらなければよい。なお、図21bでは簡略化のため線分LM・溝側面F・捩れ軸Aが重なっているが、実際には、これらは捩れ溝部Tの厚さやたわみのために一致しないことが多い。
捩れ溝部Tは、線分LMで区切られた面が捩れ軸Aと直交しながら捩れ軸A上を一方の端部から他方の端部まで進み、かつ、捩れ軸Aを中心とし、進む距離あたりの回転角が一定で回転、つまり進む速度に応じた一定の角速度で回転した軌跡と捉えられる。角速度は一定でなくてもよく、規則的に変動してもよく、一部で回転せずに進んでもよい。回転方向が変わってもよい。線分LMの長さが一定でも変化しても、線分LMで区切られた面の中心が捩れ中心CPと一致してもしなくてもよい。線分LMで区切られた面が捩れ軸Aと直交せずに別の角度で交わってもよく、交わらずに垂直でもよく、交わらず垂直でなくてもよく、それらのなす角度が変化してもよい。例えば、図21cのように、線分LM3で区切られた面が捩れ軸Aと互いに平行で、一定の距離を保ちながら、あるいは距離を変化させながら回転しつつ進む軌跡は螺旋溝部Hとなる。ただし、螺旋溝部Hでは線分LM3が捩れずに平行移動しているため、捩れ溝部Tのような反射面の捩れはなく、捩れ効果は弱い。中心線の周りを回転する線分LMをそれぞれ含む3以上又は全ての直線が同じ点で交わる場合も同様である。さらに、複数の捩れ溝部Tが捩れ軸Aを共有し、それぞれの位相又は捩れ周期が異なってもよく、さらにそれぞれの回転方向が異なってもよい。また、図21a・bのような標準的な捩れ溝部Tでは、線分LMの長さが常に一定で、線分LMで区切られた面の中心が捩れ中心CPと一致し、角速度が一定であるが、これは幅が均等な金属テープ等を数回ひねることで製造できる。一方、そのような標準的な捩れ溝部Tが具える要素が欠けるほど、その造形物3の製造コストが増大しがちである。捩れ溝部Tの幅は、例えば最小1〜2mm、最大30〜50mm程度であれば、一般的な観察距離において所期の効果が充分に得られる。
材料取得部13等が材料2を製造する際、薄いテープ状の材料を捩ったまま、まっすぐにするために引っ張ると、張力によりたわみ、捩れ軸Aと直交する方向に湾曲することがある。このようなたわみは捩れ効果を打ち消すので、軽減されるのが望ましい。そのためには、捩れ溝部Tの材料2が、捩れ軸Aの方向には曲がりやすいことで捩れ加工しやすく、線分LMの方向には曲がりにくいことでたわみにくい、という弾性異方性を具えればよい。紙は漉き目方向とそれに直交する方向とで弾性異方性を有しており、紙等の繊維由来等の材料2が採用されてもよい。なお、捩れ溝部T・溝部G・変深溝部Zが網状繊維等によってなり、その内部に基材部Mが浸潤すれば、基材部Mと溝側面Fとの剥離が起きにくい。また、図21aの捩れ溝部T3のように、線分LMと略同じ方向にリブ状の補強材Riが設けられれば、補強材Riを有する部分と有しない部分との組合せで弾性異方性が実現できる。補強材Riは、例えば厚さ0.1mm、長さ方向に1〜2mmの鋼材であり、色が互いに異なる2枚のフィルムに挟まれた状態で接着・圧着等の後、フィルムごと所要幅に裁断されてもよい。ただし、このように製造された捩れ溝部Tでは補強材Riが両側の溝側面Fの間から見えることがあるので、補強材Riが露出しないよう、その幅方向の長さが材料2の幅より狭くてもよい。補強材Riが埋め込まれる頻度は、捩れ周期1回につき1個以上が好ましく、2個以上がより好ましく、4個以上がさらに好ましく、繊維状の補強材Riを含めれば上限はない。補強材Riは、長さ以下の間隔で連続して並んでもよい。図21aでは、補強材Riの厚みのために溝側面F10に凹凸が生じ、陰影となっているさまが示されている。しかし、補強材Riはなるべく目立たないほうが捩れ効果が上がるので、このような事態の回避のために、補強材Riの端部がテーパー加工されてもよい。また、補強材Riがない部分には補強材Riと同じ厚さでより低弾性の緩衝材が挟まれる等により、捩れ溝部Tの厚さが均一化されてもよい。また、例えば補強材RiがワイヤーゲージSWG30以上又は40以上のワイヤーであり、2mm等の狭いピッチで密集してもよい。ワイヤーの凹凸が溝側面Fに露出することで、テクスチャーによる装飾性がもたらされる。造形物3は弾性又は塑性を有してもよく、これはアール壁等に有用である。弾性異方性を有する捩れ溝部Tは、造形物3が曲げ加工される際、捩れの形状を維持しやすい。
観察者が視点Vを移動すると両側の溝側面Fのうち見える部分が変化する効果も、捩れ効果に含まれる。視点Vの移動に伴い、各部の異方性反射効果等もより複雑に変化する。さらに、両側の溝側面Fが互いに異なる色で着色されていれば、移動により色も変化して見える。視点Vのわずかな移動でこれらの変化が見えれば、観察者は捩れ効果を顕著に感じとる。そのため、1)捩れの周期が短いほど捩れ効果が高く、2)視線方向を変更するには観察者がぐるりと回り込まなければならず、平行移動と回転移動が複合した複雑かつ大きな移動を要するので、表面部Sに平行な方向の、縦横斜めといった単純な移動だけで弁別できる捩れが望ましい。1)により、捩れがなだらかであったり周期が長すぎると効果が低下する。捩れの周期が線分LMの長さの32倍以下、好ましくは16倍以下、より好ましくは8倍以下、さらに好ましくは4倍以下で良好な捩れ効果が得られる。ただし捩れが急すぎても、表裏の反転が見分けにくく、また非伸縮性の材料2では製造上不利である。よって捩れの周期は線分LMの長さの1/2倍以上、好ましくは1倍以上、より好ましくは2倍以上がよい。次に、2)により、捩れ軸Aが直線に近い方が、視点の移動と変化の方向が合致しやすいため効果が高い。また、捩れ軸Aの曲率によっては捩れが捩れ溝部T全体の湾曲に埋没してしまい、捩れそのものが視認されにくくなる。したがって、捩れ軸Aは直線に近いほうがよい。具体的には、複数の中点MPとその間の捩れ中心CPが同じ直線に含まれればもっとも効果が高く、捩れの範囲の両端の中点MPを結ぶ線分とその間の捩れ中心CPとの最短距離が、線分LMの長さの8倍以下、好ましくは4倍以下、より好ましくは2倍以下、さらに好ましくは1倍以下、又は捩れの周期の1倍以下、好ましくは1/2倍以下、より好ましくは1/4倍以下、さらに好ましくは1/8倍以下で良好な捩れ効果が得られる。
捩れ溝部Tが複数並ぶことで、第1の実施形態等に記載の様々な効果が得られる。ただし、それらの溝部深間隔率が最小溝部深間隔率より大となり、かつ捩れ溝部Tの間の部分の幅が捩れ溝部Tの幅以上となるためには、特殊な条件が満たされる必要がある。すなわち、基材部Mの屈折率が通常の樹脂より高い、線分LMの長さが方向によって異なり捩れ溝部Tの幅より深さが大きい、図21aの捩れ溝部T及び捩れ溝部T2のように、互いに隣り合う捩れ溝部Tの位相が捩れの周期の1/2程度ずつずれる、等の条件である。また、捩れ溝部Tの位相がずれることで、図3gに基づく溝部Gのような装飾性も得られる。複数の捩れ溝部Tがずれた位相で配列され、かつ捩れ溝部Tの間の隙間が少なければ、正面から見た時に奥がほとんど見えず、しかも光は通す。この特徴は気密性を要する目隠し用途に好適である。複数の捩れ溝部Tの複数の捩れ軸Aが同一平面に含まれてもよく、例えば一列おきに異なる平面に含まれてもよく、捩れ軸Aと直交する断面において波線状となるように配置されてもよい。また、溝側面Fが平坦な溝部Gでは、溝側面Fが見える視線の方向が限られるが、捩れ溝部Tの溝側面Fはより広い方向から見ることができる。例えば立方体状の造形物3が、θT≧180°で捩れ軸Aが直線である捩れ溝部Tを内部に含み、その捩れ軸Aの方向が立方体の4面に平行なら、その4面全てで溝側面Fの一部が正面から見える。そのような捩れ溝部Tが複数で立体的に重なっている造形物3は、様々な方向に対して異方性視覚効果を呈する。さらに、薄膜状の捩れ溝部Tだけでなく、断面が3角形・4角形等の多角形、星型多角形、円、楕円等の捩れ溝部Tも可能であり、隣接する面ごとに溝部色CGが異なってもよい。
加工部14は、照射中のレーザヘッドを二次元的に移動させつつ、加工方向傾斜機構1411により同時に進行方向に平行な直線等を回転軸として連続的に回転させることができる。それにより、溝側面FのθFの範囲が例えば−90<θF<90の捩れ溝部Tが加工可能となる。例えば加工方向傾斜機構1411は、図21aに示すxy又はxzの2軸を有してもよく、xzの2軸であればx軸ごとz軸を中心に回転可能としてyz2軸も兼ね、いずれも任意のレーザヘッド進行方向に対して一定の又は自由な方向にレーザ照射方向を傾斜可能である。加工方向傾斜機構1411は、xの1軸のみの回転で、x方向への平行移動時に捩れ溝部Tを加工可能でもよい。加工部14はさらに、このような加工時に捩れ軸Aを直線・波打ちのない曲線等に近づけることができる回転軸補正機構1412を有してもよい。回転軸補正機構1412は、例えばレーザヘッドを進行方向に垂直な方向にも連続的に移動させて、レーザの傾斜に伴って加工位置が左右に振れる分を打ち消すことができ、つまり回転と平行移動の組合せにより仮想的な回転軸を移動させて捩れ軸Aに一致させることができる。より具体的には、回転軸補正機構1412は、加工方向傾斜機構1411と共に駆動ユニット141に内蔵されてもよく、駆動ユニット141がレーザヘッドを加工台のx方向及びy方向へ移動させる通常の第一次駆動系とは独立して、レーザヘッドをその進行方向x’に垂直な方向y’へ(加工方向傾斜機構1411と同期しつつ)移動させる第二次駆動系を有する多重駆動機構14121を有してもよく、第一次駆動系のみで同様の動作を実現可能とする回転軸補正プログラム14122によって制御されてもよい。回転軸補正プログラム14122は、加工方向傾斜機構1411の制御や、加工ユニット142との連携による出力の調整等も行うことができる。これらにより、例えば図21aに記載の捩れ溝部T・T2・T3のように線分LMが1方向に回転するのではなく、捩れ溝部T4のようにθTが一定の回転角に達するごとに線分LMが回転方向を反転させる形状が加工可能である。図の捩れ溝部T4では|θT|≦90°で、加工可能な最大の範囲は例えば|θT|<180°であり、溝側面Fが1回転してひっくり返るのとは異なり、ひっくり返る前に逆回転し、線分LMの両端が交互に左右に揺れて波打つ。加工部14は、捩れ溝部T4の深さやLMの長さ等を調整することができる。つまり例えば、図21bの方向の断面での捩れ溝部T4では裏面部Rの側の底面部Bが円弧状で表面部Sの側は直線で開口しており、図21aの捩れ溝部T4でもそれを反映してそれぞれの周期ごとに上下の形状が異なるが、そうではなく、図21bの捩れ溝部T4の深さが一定で、図21bの方向の断面に見える捩れ溝部T4の底面部Bが直線状でもよい。また、加工方向傾斜機構1411及び回転軸補正機構1412を具えた加工部14を有する装飾体製造装置10又は造形物製造装置10は、捩れ溝部Tだけでなく、一般的な切り文字等の切断加工品に新形態を導入できる。例えば、従来は切断部の側面が表面に略垂直であった(θF≒0)ところ、傾斜面(θF≠0)や波状面等が可能となる。傾斜面では、表面に垂直な断面が台形状・平行四辺形状の切り文字や、正面から見ても斜め方向にせり出して見える切り文字等の製造を可能にする。回転軸補正機構141が仮想的な回転軸を材料2の表面部Sの高さとし、|θT|<45°といった適切な値で加工すれば、切り文字の表面は通常の文字で、裏面に近づくにつれて波打ちが大きくなるような造形や、さらに進んで厚い材料2を用いて表面と裏面とで別のフォントや文字等にするような造形が可能である。エンドミル等の切削工具を用いる加工部14が加工方向傾斜機構141及び回転軸補正機構141を有してもよい。ただし、その場合には溝部楔角θGが10°以下のように深さに対し幅が狭い捩れ溝部T等の加工は不可能である。加工部14は、レーザヘッドを回転させる代わりに円柱状等の材料2を回転させながら加工してもよく、その周囲に透明等の層を形成してもよく、加工済の柱状等の材料2を複数配列してもよく、さらにそれを板状等に成型してもよい。なお、本形態に係る造形物製造装置10は、例えば同一形状かつ同一色の複数の捩れ溝部Tが等ピッチで並ぶような単純な形状の装飾体3を、画像1に基づかずに製造することもできる。このような造形物製造装置10は加工部14のみからなってもよい。装飾体製造方法又は造形物製造方法も同様である。
加工方向傾斜機構1411及び回転軸補正機構1412は、図3のような二次元画像データによる加工を可能にする。つまり、加工方向傾斜機構1411及び回転軸補正機構1412を具える加工部14が加工のために用いる画像1には深さや高さの情報が含まれていなくてもよく、平面上の複数の線の方向の情報が含まれていればよい。そのような画像1と斜面の設定等が与えられれば、加工部14は、上記の切り文字等を加工できる。斜面の設定は、例えば斜面の傾斜角と傾斜方向といったパラメータからなり、傾斜角がθF=30°・傾斜方向が−45°であれば、表面に垂直な断面形状が平行四辺形でその内角の最小値が30°で左上に向かってせり出す切り文字等が加工され、傾斜角がθF=45°・傾斜方向が外周に沿うであれば、表面に垂直かつ外周の接線に垂直な断面の形状が等脚台形でその裏面部Rの側の内角が常に30°の切り文字等が加工される。側面の一部を波状にする加工は、底部の波の波長と振幅の設定で可能となる。波長は、加工の始点と終点で波がスムーズにつながるよう、自動的に調整されてもよい。このようなパラメータは数種類のプリセットから作業者により選択されてもよく、パラメータが加工途中でランダムに切り替わってもよい。このように簡単な設定と比較的単純な画像1から複雑な加工が可能となるので、3Dソフト等によって複雑な3Dデータを作成するための時間やスキルが必要なく、作業者の負担が軽減される。
上記のような加工方向傾斜機構1411及び回転軸補正機構1412を具えた造形物製造装置10等に係る課題は、二次元画像データから、平面的な輪郭加工等にとどまらない立体物を加工することである。従来、5軸といった多軸制御で三次元加工を行うマシニングセンタ等の工作機械が知られている。これらの工作機械が材料加工を行うために、作業者は3DCADデータを準備する必要があった。しかし、高精度の加工が可能な3DCADデータを作成できる、例えばDassault Syste`mes社製のCATIAシリーズ等のソフトウェアは高価であり、また習熟に相当の期間を要するため、そのソフトウェアを操作できる者が限られていた。さらに、作業者はCADデータを工作機械に送るためにCAMソフトで処理する必要があった。一方、Adobe IllustratorやCorelDRAW等の二次元ベクター形式画像編集ソフトウェア、いわゆるドローソフトは、一般に、3DCADソフトと比較して、安価で普及しており、操作が簡易で、高さ方向のない平面データである分、短時間でデータを作成できる。また、ドローソフトで作成された画像データを用いて材料加工を行う加工装置は、一般に画像データをそのまま読み込んで加工できるため、誰でも容易に使用可能である。しかし、そのような加工装置は、平面的な輪郭加工程度しかできず、加工軸を傾けることができなかった。加工装置側が加工軸の傾斜機能を有していても、データにその情報が含まれていないために対応のしようがなかった、そのため、加工部を二次元的に平行移動させることで、直柱を基本とした単純な形状の加工ができるのみであった。なお、直柱とは、平面図形がその平面と垂直な方向に平行移動してなる空間図形であり、角柱・円柱等を含む。ところが、本形態に係る発明の一部は、ドローソフトで作成されたAI形式やSVG形式のデータあるいは2DCADデータ等の二次元ベクター形式である画像1から、従来とは異なる複雑な形状の立体文字等の立体物を加工できる加工装置、及びその加工物の提供を目的の一部とする。また、本形態に係る発明の一部において、課題を解決するための手段は、捻れ補正であり、具体的には回転軸補正機構1412等である。これは、加工面の捩れ軸Aがxy方向のみを有する画像1と一致するように加工方向傾斜機構1411を含む駆動ユニット141の移動を制御して、画像1が加工面の傾きの度合等の情報を含まなくても、加工装置側でその情報を補完して、画像1が有する情報以上の複雑な形状を有する立体を加工できる。つまり、元となる二次元ベクター形式等の画像1における加工形状をベースとして、三次元加工によらずに、側面等の形状に多様な変化を加えた造形物3を製造することができる。従来の2.5D加工等では、このようなことはできない。本形態が提供する造形物3の形状は、例えば、2つの底面を有する空間図形であって前記2つの底面のうち一方の底面が該底面に垂直な方向に平行移動されると他方の底面に一致しない空間図形であり、前記2つの底面は、互いに平行でもそうでなくてもよく、一方を空間内で平行移動すれば他方に一致してもしなくてもよく、互いに合同でもそうでなくてもよく、平面でも曲面でもよい。あるいはそれは、互いに平行な複数の断面のうち一方の断面が該断面に垂直な方向に平行移動されると他方の断面に一致しない空間図形である。前記複数の断面は、前記空間図形の底面の一部と平行でもよい。これは具体的には、直柱以外の柱体、例えば斜柱・正反角柱等の反角柱(捩れ角柱)や、錐体を含む。また、その造形物3は例えば捩れ溝部Tを有する。造形物製造装置10が反角柱を加工する場合、例えば正反五角柱であれば、一方の五角形の底面の5つの辺に沿って、加工部の傾斜角が底面への垂線又は法線となす角度θPで5つの三角形状の側面の加工を行い、さらに、他方の五角形の底面の5つの辺に沿って、加工部の傾斜角が底面への垂線又は法線となす角度を−θPとして残りの5つの三角形状の側面の加工を行う。この場合、加工部14は底面の周囲を2周する。ところが、θPの数を増やして周回の回数も増やす設定により、正十二面体や正二十面体のようなより複雑な多面体の加工も可能である。造形物製造装置10はこのような加工を、材料2の表面側と裏面側にそれぞれ有する加工部により両側から行ってもよく、加工部分の周囲を複数周回せず、1つの側面の加工ごとにθPを変更して1周で行ってもよく、登録されたプログラムにより自動的に行ってもよい。また、多面体を加工するための画像1として造形物製造装置10に与えられるのは、2つの底面の形状でもよく、多面体の断面のうち長さ又は幅又は面積の少なくともいずれかが最大の断面でもよく、複数の断面とそれら相互の距離でもよい。さらに、例えば操作者は、材料2の厚さを入力し、厚さと多面体の形状から算出された複数通りの加工可能な側面数から希望の値を選択し、あるいはθPの値等を設定することで、多面体の形状を定義することができる。このように、造形物製造装置10は、加工の基礎となる二次元ベクター形式等の画像1と操作者による選択・設定といった単純な要素のみに基づいて複雑な形状の造形物3を製造でき、高度なプログラミング等を要しない。本形態に係る造形物製造装置10は、材料に対して任意の仮想面を設定し、この仮想面において所与の画像1に基づき材料2を加工し、かつ、少なくとも一部において加工方向が仮想面に垂直でないことを特徴としてもよい。前記仮想面が材料2の表面に平行でもよく、材料2が板状でもよく、その表面が平面でもよく、仮想面が材料2の表面又は裏面に一致してもよい。上記造形物製造装置10は、5軸の工作機械等に比較して構造の単純さにより安価に製造可能である。また、回転軸補正プログラム14122は、組み込みプログラムに限定されない。既存の各種加工機に対応した回転軸補正プログラム14122が、単体のCAMソフトとして提供されてもよいが、一般的なCAMソフト等と異なり、二次元画像に基づく簡易な立体造形という本形態の趣旨から、単純化されたユーザインタフェースにより多様な形状の加工が行えるよう自動化されることが望ましい。造形物製造装置10は、3DCADデータからの立体加工と本形態に係る加工とを併用してもよい。
捩れ溝部Tを内蔵する円柱状の造形物3が捩れ軸Aを中心として回転すれば、理容店のサインポールのように、捩れ溝部Tが長さ方向に移動しているかに見える。また、捩れ溝部Tでは、視点Vの位置や視線方向が動くと溝側面Fのうち見える部分も変動するが、この特徴は装飾用途以外にも応用可能である。例えば、捩れ軸Aの方向に細分化された各部ごとに異なる色や指示が加工された複数の捩れ溝部Tは、虹彩認証機器や医療機器の被験者等をあるべき視点に導くこともできる。また、捩れ溝部Tは広い範囲の方向からの入射光を広い範囲の方向に反射できる。θT≧360°であれば、捩れ軸Aに直交する平面上の360°すべての方向からの入射光に対して反射面を有し、表面となす出射角が臨界角未満となる方向に反射を返すことができる。これを利用し、自転車や歩行者が夜間の安全のために用いる反射材や交通標識等、光の反射による視認性向上及び注意喚起の目的にも使える。
従来、特開2012−026195のように、捩り加工により装飾性等が与えられた複数の細長い板材を、一定間隔で並べて柵状とした建材等が知られている。これらは建材としての強度を保つために鉄板等を材料とするが、その鉄板自体が支持体となって自重を支えるという構造から、ある程度の板の厚みが必要であった。そのために捩り加工が容易ではなく、単位長さ当たりの捩れの回数等に制限があった。また、材料がむき出しで屋外に設置されるため、錆止め加工等により地味な配色となり、鮮明な発色や金属光沢による装飾性の付与が難しかった。本形態では、捩れ構造を有する部材(捩れ溝部T)が透明樹脂等の内部に埋め込まれるか、捩れ溝部Tが空洞であるため、外側の樹脂が支持体として荷重を担い、さらに捩れ溝部T表面を保護する。これにより、捩れ溝部Tの素材の制限が緩和され、薄い金属テープや着色フィルム、捩れ溝部Tに充填された塗料といった脆弱な素材が使用可能となることで、造形の自由度と色彩選択の幅が拡張され、装飾効果が向上する。また、工業的量産や、製品の切断・接着・曲げ加工も金属製装飾品より格段に容易である。従来の樹脂装飾板と比較しても、本形態に係る造形物3は立体的な異方性視覚効果を有し、太陽光が当たる場合には光源の移動により異なる表情を見せ、板厚による防音効果等も発揮するので、壁面や室内の間仕切り等に有用である。
[第6の実施形態]
本発明における第6の実施形態が実現するディスプレイ7では、例えば有機EL等の薄型で細長い短冊状のディスプレイモジュールD(以下DMDと略記する)が溝側面Fとなっている。図22のように、複数のDMDが互いに平行かつ一定ピッチで配置されてもよい。また、表示コントローラCがDMDと有線又は無線で接続されるかDMD等に内蔵され、この表示コントローラCにより画像や動画が短冊状に分断されるなどして、各々のDMDに振り分けられて表示されてもよい。これにより、斜め横方向からは動画等(図22では「A」の文字)が見え、正面からは見えない、という効果が得られる。DMDは両面で同じ動画等を表示してもよいが、両面で互いに異なる動画等を表示可能なら、観察者が左右から見た時にそれぞれ別の動画等を鑑賞でき、正面からは向こうの景色を透過して見ることができる。DMDは、携帯端末用等の小型ディスプレイモジュールが縦に並べられ繋がれたもの、あるいはその2枚が背中合わせに張り合わせられたものでもよい。その際、強度向上のため表裏の継ぎ目が重ならないほうがよい。両側の画面は互いに平行でもよく、表面部S側あるいはその逆側を頂角とし底辺側が開いた楔状でもよい。
複数のDMDの固定方法には、例えば以下の3通りがある。方法1:図22aのように、複数のDMDの間が、第3の実施形態同様透明の樹脂等の基材部Mで埋められている。基材部Mを通して見ることで屈折が発生し、DMDの高さhが小さく見える分、これを大きくする必要がある。放熱等のため、DMDの少なくとも一部が基材部Mから露出した状態でもよい。また、各要素の熱膨張率を近づける等の温度対策が必要である。方法2:図22bのように、基材部Mが板状であって、その上にDMDが固定されている。基材部Mとの固定部分がDMDの幅をはみ出さないほうが目立たない。基材部Mに溝が彫られ、DMDの一部がそこに差し込まれてもよい。ディスプレイ7の表面部Sは複数のDMDの正面側を通る仮想的な面である。図22bの前後とは反対に、基材部Mが表面部Sとなってもよい。2枚の基材部MがDMDを挟むように両側を支持してもよい。方法3:図22cのように、複数のDMDが上端付近又は下端付近の少なくとも一方にある基材部Mで連結されていて、それ以外のDMDどうしの間は空間である。各DMDが芯材等により補強されてもよい。透明の基材部Mが表面部Sとなれば保護板の機能を果たす。1枚のDMDがつづら折れ状に曲がり、両端が互い違いにつながった形状でもよい。ディスプレイ7は平面状でもよく、斜め方向から見た際のそれぞれのDMDの見え方が改善するよう、中心部がくぼんだ又は凸状の弧状等でもよい。弧状の場合、複数のDMDは、互いに平行でもよく、それらを含む複数の面が1つの線で交差してもよく、DMDと表面部Sとの角度が一定、例えば90°でもよい。ディスプレイ7は駆動電源を内蔵してもよく、外部から固定部分等経由で電力供給を受けてもよい。
本形態はマルチビューディスプレイ技術に関する。旧来、特開2008−527440号公報・特開2008−513807号公報・特開2008−164702号公報のようなマルチビューディスプレイ技術が知られている。これらでは視差バリアや光学系等を用いて、1つのディスプレイ上で複数の画像や動画を表示することができるが、それぞれの表示の視野角が狭く、例えば観察者が略真横に近いような側方から見ると表示がほとんど見えないという問題があった。本実施形態ではこのような問題を解決し、画面への垂線又は法線と視線とのなす角度が75°以上90°未満といったきわめて深い角度から観察者が見た場合にも表示が見えるディスプレイを提供可能である。また、DMDの視野角が充分に広ければ、DMDの高さhや複数のDMDの間隔の変更によって、表示が見える範囲が、正面近くまで拡張されたり、逆に側方のみに限られたりといった調整も可能である。
本実施形態は、例えば、街中において通行人が店先に設置されたディスプレイ7の前を通過する際、遠くからディスプレイ7の正面に向かって歩いてくる途上ではディスプレイ7の表示内容が見え、ディスプレイ7の正面では店の中が見え、ディスプレイ7の正面を通り過ぎて振り返ると再度ディスプレイ7の表示が見える、という効果を奏する。そのように通行する観察者が遠方からディスプレイ7の正面に近づき、ディスプレイ7に対する視線角度が小さくなるにつれ、それぞれのDMDの表示内容のうち視線から見える範囲が変化する。つまり、図22のようにディスプレイ7に複数のDMDが単純に並んだだけでは、ディスプレイ7の正面に対する視線角度が大きい(DMDに対する視線角度は小さい)視点からは、DMDが重なって見える。そのため、図23aのように、観察者が図の向かって左側の斜め方向からディスプレイ7を見た際、文字の輪郭がなめらかにつながらずにジャギー状に見える。図23bのように、ディスプレイ7に対する視線角度がより大きければ、DMDの表示内容のより多くの部分がそれぞれの手前のDMDに隠れてしまい、さらにガタついて見える。この問題を解決するため、各DMDが視線角度に応じて表示内容を変更してもよい。つまり、DMDが異なる複数の画像を同時に表示し、観察者の視線角度に応じてそのうちの1つのみが見えてもよい。以下具体的に説明する。図24はDMDの水平方向の断面図である。DMDの右側は垂直方向に例えば3つの画素列PL1・PL2・PL3に分割され、これら3つが反復して配置されている。画素列PL1・PL2・PL3は複数の画素よりなり、複数の色・輝度域等の画素よりなってもよい。画素列PL1・PL2・PL3は、DMDの表示面に対する視線角度が、例えばそれぞれ30〜45°(又は30°以上)、15〜30°、15°未満の時のみ見えるように、スリット・フィルタ・バリア・シリンドリカルレンズ・液晶等を用いて一部が遮蔽される。図24では、スリットSl及びルーバーLからなるマスクにより、各画素列の視野角が制限されている。それぞれの視線角度からの視線に画素列PLが正対するように画素列PLが傾けられてもよく、プリズムやミラー等で光路が曲げられてもよい。スリットSl及びルーバーLは図24のように組み合わせて用いられれば視野角の制御精度が向上し、単独で用いられれば、隣接する画素列とのクロストークが発生し、観察者の移動に応じて、各視線角度ごとの画素Pがシームレスに移行して見えることがある。シリンドリカルレンズ等により各画素列の像が制限されることなくつながって見えてもよい。スリットSlは図24のように各画素列で共用でもよく、それぞれの画素列専用でもよい。DMDの中央部は縦方向に画素列PL1・2の反復で構成される。DMDの左側は画素列PL1の反復で構成される。表示コントローラCは、画素列PL1・PL2・PL3による表示がそれぞれ連続して見えるように動画等を処理して伝送する。これにより、移動する観察者は、図23cのように滑らかに連続する、観察者の位置に応じて最適化された画面を見ることができる。視線角度の範囲を狭くしてより細かく制御することで、移動に伴う画像の変化が自然に移行するように見える。さらに、DMDにおいて動画等を表示できる部分の深さと複数のDMDのピッチとに上記溝部深間隔率を適用した際、数1から数2においてdehがdi未満となるようなθVの時、つまり各DMDの表示の間に隙間が見える程度にディスプレイ7に対する視線角度が小さい時、例えば図22b・cのようにn=1で溝部深間隔率が1の場合にDMDに対する視線角度が45°より大きい時、DMDの表示が見えず、背景が透過して見えてもよい。これは表示とマスクの視野角が狭ければ実現可能である。例えば、マスクが液晶によってなり、視線角度が大きい場合にマスクが消えてもよい。
図24ではDMD全体で各画素列のピッチが一定であるが、中央部及び左側では画素列の間が空いている分、右側より画素列が高密度に配列されてもよく、あるいはピッチが一定のまま画素列の幅が拡大されてもよい。ただし、各部で輝度差等が調節される必要がある。本実施形態専用ではない、各画素がすべて同じ表示性能で広い視野角を有する汎用のDMDがベースとされ、その前面の適切な位置に適切なマスクが取り付けられ、DMDが表示コントローラCにより制御可能であれば、より低コストで本実施形態が実現可能である。ディスプレイ7に対する視線角度が大きいほど動画等の横幅が狭く細長く見えるので、表示コントローラCは各ユニットごとにこれを補正してもよい。さらに、ディスプレイ7を斜めから見た時、近くのDMDは大きく、遠くのそれは小さく見えるので、図23a・bのように、観察者には遠近法的歪みが知覚される。これを視線角度ごとに逆遠近法的に補正し、図23dのように各部が見かけ上正しい比率に見えるような処理も、表示コントローラCには可能である。この遠近法的歪みの度合はディスプレイ7と観察者との距離によっても異なり、この距離が小さい時に正しい比率で見えるように補正すると、距離が大きい時には過補正となり、遠い表示部分ほど大きく見えてしまう。これを防ぐためには、想定される最も大きな観察距離が補正の基準となる距離とされるか、レンズ等により、観察距離に応じて表示が調整されてもよい。
上記DMDの構造を一般的なフラットディスプレイに適用することもできる。つまり、図23eのように1枚のDMDによってなり、正面からは通常の表示が見え、側方からも、一般的なディスプレイのように遠近法的に歪んだ台形状の表示ではなく、遠近法的歪みのない矩形の表示が見えるディスプレイである。また、これらの構造により、見る方向次第で別の動画等が見えるディスプレイも実現できる。
ディスプレイ7を製造するディスプレイ製造装置20は、図25のように管理部21・組立部22・配線部23・固定部24・仕上げ部25・検査部26を具える。ディスプレイ7を製造するディスプレイ製造方法は、図26のように管理工程S21・組立工程S22・配線工程S23・固定工程S24・仕上げ工程S25・検査工程S26よりなる。管理部21はディスプレイ7の部品配置や作業手順等を記述した指示データ6を取得し、それに基づきディスプレイ製造装置20の各部を制御する(S21)。組立部22はDMDや基底材等の材料2を取得し、管理部21の制御に従ってDMD等の配置を行う(S22)。配線部23は管理部21の制御に従って各種配線を行う(S23)。固定部24は管理部21の制御に従ってDMD等の間に樹脂を充填して基材部Mとする等動作し、ディスプレイ7の構造を形成する(S24)。仕上げ部25はディスプレイ7の表面の研磨等を行い完成品とするが、さらに別の部品を追加してディスプレイ集合体8としてもよい(S25)。検査部26は完成品の動作確認等を行う(S26)。管理部21及び組立部22はDMDを製造等してもよい。各部は別の工程部を含んでもよく、各部の動作順が変更されてもよい。
第1から第5の実施形態に記載の構成・効果・変形例等の一部は、本実施形態にもあてはまる。例えば、ディスプレイ製造装置20は、ディスプレイ7の裏面に大型のディスプレイモジュールD1を装着し、正面と斜め方向とで互いに異なる動画等を表示可能な、図22dのようなディスプレイ集合体8を製造してもよい。ディスプレイ7とディスプレイモジュールD1とは固定されずに設置されてもよい。ディスプレイ集合体8では、基材部Mの代わりに、ディスプレイモジュールD1に複数のDMDが直接固定されてもよい。また、DMDが不透明であれば、異方性透過効果が得られるだけでなく、異方性カラーリング効果に相当する効果が得られ、これを本明細書では異方性表示効果と記載する。さらにまた、ディスプレイ7の一部の方向が図12aのように他と異なることで、例えば視点V14から見た場合にDMDが見える部分領域と見えない部分領域が存在し、これらにより、ディスプレイの表示内容とは別にロゴ等が表示されてもよい。複数のDMDの互いに異なる複数の方向のなす角度が図11のように90°又は72〜108°であれば、この効果がより向上する。
本形態が提供する1態様は、複数のディスプレイモジュールを有するディスプレイであって、前記ディスプレイの少なくとも一部において前記複数のディスプレイモジュールの表示面の方向が前記ディスプレイの表面に平行でないディスプレイである。前記複数のディスプレイモジュールの少なくとも一部が互いに平行かつ一定ピッチでもよく、前記複数のディスプレイモジュールの少なくとも一部が前記表面となす角度が一定でもよく、前記ディスプレイの少なくとも一部が透過性を有してもよく、前記ディスプレイのうち前記複数のディスプレイモジュール以外の部分の少なくとも一部が透過性を有してもよい。前記複数のディスプレイモジュールの方向が複数でもよく、前記ディスプレイにおける複数の部分領域ごとに前記複数の方向が異なってもよく、前記複数の部分領域が画像に基づいてもよく、画像に基づいて調整されてもよい。また、前記複数のディスプレイモジュールが1つの画像又は映像を複数に分けてそれぞれを表示してもよい。前記複数のディスプレイモジュールは、それぞれが複数の動画等を同時に表示してもよく、さらに観察される方向又は距離の少なくとも一方に応じてそのうち1つが観察されるように表示してもよい。本形態が提供する別の態様は、前記ディスプレイの表面と異なる側に前記複数のディスプレイモジュールに平行ではないディスプレイモジュールを具えるディスプレイ集合体である。さらに別の態様は、複数のディスプレイモジュールを含む材料から、複数のディスプレイモジュールを有するディスプレイであって、前記ディスプレイの少なくとも一部において前記複数のディスプレイモジュールの表示面の方向が前記ディスプレイの表面に平行でないディスプレイを製造する組立部を具えるディスプレイ製造装置である。さらに別の態様は、上記組立工程を具えるディスプレイ製造工程である。
本発明の技術的範囲は上記各実施形態に記載の範囲には限定されない。上記各実施形態に多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。