以下、本発明の一実施形態における電子鍵盤楽器について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下に示す実施形態は本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。なお、本実施形態で参照する図面において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号または類似の符号(数字の後にA、B等を付しただけの符号)を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率(各構成間の比率、縦横高さ方向の比率等)は説明の都合上実際の比率とは異なったり、構成の一部が図面から省略されたりする場合がある。
<第1実施形態>
[電子鍵盤楽器の構成]
図1は、本発明の第1実施形態における電子鍵盤楽器の構成を示す図である。電子鍵盤楽器1は、演奏操作子として複数の鍵70を有する電子楽器の一例である。ユーザが鍵70を操作すると、スピーカ60L、60R(以下、単にスピーカ60という場合がある)から音が発生する。発生する音の種類(音色)は、操作部21を用いて変更される。電子鍵盤楽器1は、ユーザによる鍵70への操作による音の減衰の影響を含んだ発音が可能になっている。続いて、電子鍵盤楽器1の各構成について、詳述する。
電子鍵盤楽器1は、複数の鍵70、筐体50およびペダル装置90を備える。複数の鍵70は、筐体50に回動可能に支持されている。筐体50には、操作部21、表示部23、スピーカ60が配置されている。筐体50の内部には、制御部10、記憶部30、鍵挙動測定部75および音源部80が配置されている。また、鍵70の表面には、圧力測定部73が配置されている。ペダル装置90は、ダンパペダル91、シフトペダル93およびペダル挙動測定部95を備える。筐体50内部に配置された各構成は、バスを介して接続されている。このバスには、ペダル挙動測定部95も接続される。なお、電子鍵盤楽器1は、外部装置と信号の入出力をするためのインターフェイスを含んでいてもよい。インターフェイスとしては、例えば、音信号を出力する端子、MIDIデータの送受信をするためのケーブル接続端子などである。
制御部10は、CPUなどの演算処理回路、RAM、ROMなどの記憶装置を含む。制御部10は、記憶部30に記憶された制御プログラムをCPUにより実行して、各種機能を電子鍵盤楽器1において実現させる。操作部21は、操作ボタン、タッチセンサおよびスライダなどの装置であり、入力された操作に応じた信号を制御部10に出力する。表示部23は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等の表示装置であり、制御部10による制御に基づいた画面が表示される。
記憶部30は、不揮発性メモリ等の記憶装置である。記憶部30は、制御部10によって実行される制御プログラムを記憶する。また、記憶部30は、音源部80において用いられるパラメータ、波形データ等を記憶してもよい。
スピーカ60(60L、60R)は、制御部10または音源部80から出力される音信号を増幅して出力することによって、音信号に応じた音を発生する。この例では、スピーカ60Lは、ユーザ側から見た場合における筐体50の左側(鍵70の低音側)に配置されている。スピーカ60Rは、ユーザ側から見た場合における筐体50の右側(鍵70の高音側)に配置されている。
鍵挙動測定部75は、複数の鍵70のそれぞれの挙動を測定し、測定結果を示す測定データを出力する。この測定データは、情報(KC、KS、KV)を含む。すなわち、複数の鍵70のそれぞれに対する押込操作に応じて、情報(KC、KS、KV)が出力される。情報KCは操作された鍵70を示す情報(例えば鍵番号)である。情報KSは鍵70の押込量を示す情報である。情報KVは鍵70の押込速度を示す情報である。情報KC、KS、KVが関連付けられて出力されることにより、操作された鍵70とその鍵70に対する操作内容とが特定される。
圧力測定部73は、複数の鍵70の表面に印加される圧力を測定し、測定結果を示す測定データを出力する。この測定データは、情報(KC、KP)を含む。すなわち、複数の鍵70のそれぞれに対する押込操作に応じて、情報(KC、KP)が出力される。情報KCは、上述したものと同様に、操作された鍵70を示す情報(例えば鍵番号)である。情報KPは鍵70の表面に印加された圧力を示す情報である。情報KC、KPが関連付けられて出力されることにより、操作された鍵70とその鍵70の表面に対する圧力とが特定される。なお、圧力センサは、鍵70の表面に貼りつけられる方法で配置されてもよいし、鍵70が完全に押下された状態で、鍵70の押下時の下限位置を規定する構成(ストッパ等)と鍵70との間に挟まれる位置に配置されてもよい。後者の場合には、鍵70を押下している途中段階では圧力は測定されない。
ペダル挙動測定部95は、ダンパペダル91およびシフトペダル93のそれぞれの挙動を測定し、測定結果を示す測定データを出力する。この測定データは、情報(PC、PS)を含む。情報PCは操作されたペダルがダンパペダル91であるかシフトペダル93であるかを示す情報である。情報PSはペダルの押込量を示す情報である。情報PC、PSが関連付けられて出力されることにより、操作されたペダル(ダンパペダル91またはシフトペダル93)とそのペダルに対する操作内容(押込量)が特定される。
音源部80は、入力された情報(KC、KS、KV、KP、PC、PS)に基づいて音信号を生成してスピーカ60に出力する。音源部80において生成される音信号は、鍵70の操作に応じた音であって演奏者が鍵へ接触することによる減衰が反映された音を含むものとなる。ここで、音源部80が生成する音信号は、鍵70への操作毎に得られる。そして、複数の押鍵によって得られた複数の音信号は、合成されて音源部80から出力される。音源部80の構成について詳述する。
[音源部の構成]
図2は、本発明の第1実施形態における音源部の機能構成を示す図である。音源部80は、変換部88、音信号生成部111、波形データ記憶部151および出力部180を備える。変換部88は、入力される情報(KC、KS、KV、PC、PS)を音信号生成部111において用いられるフォーマットの制御データに変換する。すなわち、それぞれ異なる意味を持つ情報が共通のフォーマットの制御データに変換される。制御データは、発音内容を規定するデータである。この例では、変換部88は、入力される情報をMIDI形式の制御データに変換する。
変換部88は、鍵挙動測定部75から入力される情報(KC、KS、KV)に基づいて、制御データを生成する。この場合に生成される制御データは、操作された鍵70の位置を示す情報(ノートナンバ)、押鍵したことを示す情報(ノートオン)、離鍵したことを示す情報(ノートオフ)および押鍵速度(ベロシティ)等を含む。また、変換部88は、ペダル挙動測定部95から入力される情報(PC、PS)に基づいて、ダンパペダル91の押込量を示す制御データおよびシフトペダル93の押込量を示す制御データを生成する。
変換部88は、圧力測定部73から入力される情報(KC、KP)に基づいて、各鍵70における圧力値に応じた調整データを調整部131に出力する。調整データは、音源部80が生成する音信号のエンベロープの調整するために用いられる。この例では、調整データは、エンベロープの調整の程度(調整量)を示す情報を含む。鍵70の表面に対する圧力が高いほど、また、圧力が印加された鍵70の数が多いほど、調整量が大きくなるように調整データが生成される。
調整データは、例えば、「0」から「1」の範囲で調整量を規定し、「0」の場合はエンベロープの調整をしない(調整量が最小でもよい)、「1」の場合は調整量が最大であるものとして、規定される。このとき、圧力が所定のしきい値を越えている場合に調整が生じ(調整データが「0」より大きい)、圧力が所定のしきい値を超えていなければ調整が生じない(調整データが「0」)ように調整データが生成されてもよい。
波形データ記憶部151は、少なくとも、ピアノ音波形データを記憶している。ピアノ音波形データは、アコースティックピアノの音(押鍵に伴う打弦によって生じた音)をサンプリングした波形データである。
音信号生成部111は、変換部88から入力される制御データに基づいて、音信号を生成して出力する。このとき、調整部131によって、音信号のエンベロープが調整される。出力部180は、音信号生成部111によって生成された音信号を、音源部80の外部に出力する。この例では、スピーカ60に音信号が出力されて、ユーザに聴取される。続いて、音信号生成部111の詳細の構成について説明する。
[音信号生成部の構成]
図3は、本発明の第1実施形態における音信号生成部の機能構成を示すブロック図である。音信号生成部111は、波形読出部113(波形読出部113−1、113−2、・・・113−n)、EV(エンベロープ)波形生成部115(115−1、115−2、・・・、115−n)、乗算器117(117−1、117−2、・・・117−n)および波形合成部119を備える。上記の「n」は、同時に発音できる数(同時に生成できる音信号の数)に対応し、この例では32である。すなわち、この音信号生成部111によれば、32回の押鍵まで発音した状態が維持され、33回目の押鍵があった場合には、最初の発音に対応する音信号が強制的に停止される。
波形読出部113−1は、変換部88から得られた制御データに基づいて、波形データ記憶部151から読み出すべき波形データを選択して読み出して、ノートナンバに応じた音高の音信号を生成する。この例では、ピアノ音波形データが読み出される。EV波形生成部115−1は、変換部88から得られた制御データおよび予め設定されたパラメータに基づいて、エンベロープ波形を生成する。生成されるエンベロープ波形は、調整部131によって一部が調整される。エンベロープ波形の生成方法およびその調整方法については、後述する。乗算器117−1は、波形読出部113−1において生成された音信号に対して、EV波形生成部115−1において生成されたエンベロープ波形を乗算する
n=1の場合について例示したが、乗算器117−1から音信号が出力されているときに次の押鍵がある度に、n=2、3、4・・・と順に押鍵に応じた制御データが適用されていく。例えば、次の押鍵であれば、n=2の構成に制御データが適用されて、上記と同様に乗算器117−2から音信号が出力される。波形合成部119は、乗算器117−1、117−2、・・・、117−32から出力される音信号を合成して出力部180に出力する。
[エンベロープ波形]
EV波形生成部115において生成されるエンベロープ波形について説明する。まず、一般的なエンベロープ波形およびパラメータについて説明し、調整部131によるエンベロープ波形の調整方法について説明する。
図4は、一般的なエンベロープ波形の定義(図4(a))およびピアノ音のエンベロープ波形の例(図4(b))を説明する図である。図4(a)に示すように、エンベロープ波形は、複数のパラメータで規定される。複数のパラメータは、アタックレベルAL、アタックタイムAT、ディケイタイムDT、サスティンレベルSLおよびリリースタイムRTを含む。ノートオンがあると、アタックタイムATの時間でアタックレベルALまで上昇する。その後、ディケイタイムDTの時間でサスティンレベルSLまで減少し、サスティンレベルSLを維持する。ノートオフ(Koff)があると、サスティンレベルSLから消音状態(レベル「0」)まで、リリースタイムRTの時間で減少する。サスティンレベルSLまで到達する前、すなわち、アタックタイムATの期間およびディケイタイムDTの期間においてノートオフ(Koff)があると、その時点からリリースタイムRTの時間で消音状態に至る。なお、サスティンレベルSLをリリースタイムRTで除算した減衰率で消音状態に至るようにしてもよい。
ディケイレートDRは、上述のパラメータから算出できる値であって、アタックレベルALとサスティンレベルSLとの差をディケイタイムDTで除算することによって得られる。このパラメータは、ノートオン状態での音の自然減衰の程度(減衰率)を示している。なお、ディケイタイムDTにおいてディケイレートDRの減衰率は一定(傾斜が直線)である例を示したが、必ずしも一定でなくてもよい。すなわち、減衰率が予め決められた変化をすることで、傾斜が曲線上で定義されてもよい。
一般的なピアノの音は、図4(b)に示すように定義される。この例では、サスティンレベルSLは「0」に設定され、ディケイタイムDTは比較的長く(ディケイレートDRは小さく)設定される。この状態は、ダンパが弦から離れた状態を示している。ディケイタイムDTにおいてノートオフ(Koff)があると、ダンパが弦に接触した状態となり、点線のとおり急激に減衰する。この例におけるEV波形生成部115は、図4(b)に示すエンベロープ波形を生成し、調整部131によってディケイレートDRが調整される。この調整について説明する。
図5は、本発明の第1実施形態におけるディケイレートの調整処理を示すフローチャートである。操作部21を介して演奏者の接触による減衰の影響を反映させる機能をオンにした場合等において、調整部131によるディケイレートDRの調整処理が開始される。調整処理が開始されると、調整部131は、調整データの受信を待つ(ステップS101;No)。なお、演奏中においては、ほぼ鍵70に対する圧力の印加が存在するため、調整データは順次送信される。そのため、調整データが受信されないときは、ほとんどの場合、押鍵が行われていない。
調整部131は、調整データを受信すると(ステップS101;Yes)、ディケイ期間に属するEV波形生成部115を特定する(ステップS103)。ディケイ期間とは、ディケイタイムDTの制御下にある期間に対応する。したがって、ディケイ期間に属するEV波形生成部115とは、ディケイタイムDTにおけるエンベロープ波形を出力しているEV波形生成部115を示す。
調整部131は、特定したEV波形生成部115に対して、調整データに基づいたディケイレートDRの調整を行い(ステップS105)、次の調整データの受信を待つ(ステップS101)。上記の通り、ステップS103において複数のEV波形生成部115が特定されることもあるため、ディケイレートDRの調整が、複数のEV波形生成部115に対して行われることもある。すなわち、鍵70の操作によって生成される音信号は、その操作以降における操作(他の鍵70に対する操作を含む)に応じて減衰率が調整されることになる。続いて、ディケイレートDRの調整の具体例について説明する。
図6は、本発明の第1実施形態におけるディケイレートの調整例を説明する図である。この例では、鍵70の押下が2回行われて、EV波形生成部115−1、115−2において順次エンベロープ波形の生成が開始されている。そして、調整部131が調整データをt1、t2のタイミングで受信した場合を示している。2回目の調整データの方が、1回目の調整データよりも調整量が少ない場合の例である。Konは、押鍵(ノートオン)があったタイミングを示している。
図に示すディケイレートDRは、予め決められた初期値であり、時刻t1までは、DRに応じた減衰率でエンベロープ波形が生成される。時刻t1において調整データが受信されると、調整部131は、EV波形生成部115−1、115−2のディケイレートを、調整データに応じて減衰率を増加させたディケイレートDRc1に調整する。時刻t2において調整データがさらに受信されると、調整部131は、EV波形生成部115−1、115−2のディケイレートを、調整データに応じて減衰率を減少させたディケイレートDRc2に調整する。
ディケイレートDRc2は、ディケイレートDRc1を基準とすると減衰率が減少しているが、ディケイレートDRを基準とすると減衰率が増加している。言い換えると、エンベロープ波形におけるディケイレートDRc2における傾きは、ディケイレートDRにおける傾きと、ディケイレートDRc1における傾きとの間になっている。したがって、鍵70への圧力の印加によって、ディケイレートが調整されると、図6に示す2つのエンベロープ波形からわかるようにディケイレートDRのまま減衰するよりも、より大きい減衰率のエンベロープ波形が得られる。これによって、演奏者に対して発音のエネルギが伝達されて、速く減衰する音を再現することができる。
なお、調整データに基づくディケイレートの調整は、対象となる音信号の音高によらず同じ調整量であってもよいが、発音されている音高に応じて調整量が変化するようにしてもよい。この場合には、EV波形生成部115−kに対するエンベロープ波形の調整は、これに対応する波形読出部113−kに適用された制御データが示すノートナンバを調整部131が取得するようにすればよい。そして、調整部131は、ノートナンバに応じた調整量を算出すればよい。
一般的には低音側の発音の方が、演奏者に対してエネルギが伝達されやすい。例えば、調整量の音高依存性を持たせることで、その影響を音信号生成部111において再現できるようにしてもよい。このとき、ある鍵70の操作に応じて生成される音信号に対する減衰率よりも、さらに低い音高(低音側)のいずれかの鍵70の操作に応じて生成される音信号に対する減衰率が大きくなる調整が含まれるようにすることが望ましい。
図7は、本発明の第1実施形態におけるディケイレートの調整係数の音高依存性を説明する図である。調整係数DPは、調整データにおける調整量に対して音高依存性を与えるための係数であって、例えば、調整データの値に乗算される。調整係数DPの音高依存性について、図7(a)、(b)、(c)の3つを例示する。なお、いずれの関係においても、縦軸は調整係数DPを示し、横軸は音高(ノートナンバ:1〜88)を示している。
図7(a)に示す第1の例によれば、音高が高くなるほど、徐々に調整係数DPが減少していく例が開示される。この例ではノートナンバknにおいて調整係数DPが「0」となり、ノートナンバkn以上の音高では、エンベロープ波形の調整が行われない。なお、knを「89」以上に設定すれば、最高音においてもエンベロープ波形の調整が行われることになる。また、音高の増加に対する調整係数DPの減少率は、図示のとおり一定に限らず、変化してもよい。
図7(b)に示す第2の例によれば、ノートナンバknに対して低音側では同じ調整係数DPでエンベロープ波形の調整が行われる。一方、ノートナンバknに対して高音側ではエンベロープ波形の調整が行われない。この例においてノートナンバknが「88」である場合には、音高依存性のない調整が行われる例と同じである。
図7(c)に示す第3の例によれば、調整係数DPは、ノートナンバknにおいて最も大きく、低音側および高温側において減少している。なお、低音側と高温側とで変化率が異なっていてもよい。例えば、低音側では、調整係数DPが一定値(例えば、「1」)であってもよい。
このように、第1実施形態に係る電子鍵盤楽器1は、鍵70への操作に応じてエンベロープ波形を調整することによって、アコースティック楽器の演奏者の鍵への接触による減衰の影響を含んだ発音を再現することができる。
<第2実施形態>
アコースティック楽器の演奏者の鍵への接触による減衰の影響を含んだ発音を再現するために、特許5664185号公報に開示される物理モデルを用いた演算処理を用いる例を、第2実施形態として説明する。
図8は、本発明の第2実施形態における音源部の機能構成を示す図である。音源部80Aは、変換部88A、物理モデル演算部100および出力部180を備える。変換部88Aは、鍵挙動測定部75から入力される情報(KC、KS、KV)およびペダル挙動測定部95から入力される情報(PC、PS)を、物理モデル演算部100において用いられる信号に変換して出力する。また、変換部88Aは、圧力測定部73から入力される情報(KC、KP)についても、物理モデル演算部100において用いられる信号に変換して出力する。物理モデル演算部100は、特許5664185号公報に開示される楽音信号合成部100に対応する。
物理モデル演算部100に入力される信号は、離散時間軸(t=nΔt;n=0,1,2,・・・)上で表される入力信号1〜5を含む。入力信号1(ek(nΔt))は、鍵の押込量に対応する信号であり、鍵挙動測定部75から入力される情報KC、KSに基づいて生成される。入力信号2(VH(nΔt))は、ハンマ速度に対応する信号であり、鍵挙動測定部75から入力される情報KC、KVに基づいて生成される。入力信号3(ep(nΔt))は、ダンパペダルの押込量(踏込量)に対応する信号であり、ペダル挙動測定部95から入力される情報PC、PSに基づいて生成される。入力信号4(es(nΔt))は、シフトペダルの押込量(踏込量)に対応する信号であり、ペダル挙動測定部95から入力される情報PC、PSに基づいて生成される。入力信号1〜4は、変換部88Bから出力される。入力信号1〜4は、特許5664185号公報に開示されているものと同じである。一方、入力信号5(Fv(nΔt))は、各鍵70に印加された圧力に対応する信号であり、圧力測定部73から入力され得る情報KC,KPに基づいて生成される。
図9は、本発明の第3実施形態における変換部の処理例を示す図である。この例では、情報KCによって指定される鍵に対応する入力信号1(ek(nΔt))に、情報KSが変換される場合を示す。具体的には、ある特定のタイミングにおける情報KSが示す鍵の位置(レスト位置(rest)からエンド位置(end)の範囲)と、ekの値との関係を示している。この変換テーブルによれば、ekは、鍵がレスト位置から一定量押し込まれると、「1」から減少し始め、エンド位置に至る一定量前の段階で「0」に至るように決められている。このような変換テーブルは、入力信号1〜4に対応して設けられている。
物理モデル演算部100は、入力信号1〜5に基づいて、グランドピアノを想定した複数のモデル(ダンパモデル、ハンマモデル、弦モデル、本体モデル、空気モデル)を含む物理モデルにより演算し、疑似ピアノ音を示す音信号を生成する。生成された音信号は、出力部180に出力され、音源部80Aの外部に出力される。物理モデル演算部100の構成について説明する。
図10は、本発明の第2実施形態における物理モデル演算部の機能構成を示す図である。物理モデル演算部100は、比較部101、ダンパモデル計算部102−1、102−2、ハンマモデル計算部103、弦モデル計算部104−1、104−2、本体モデル計算部105、空気モデル計算部106および化粧音生成部200を備える。ダンパモデル計算部102−1、102−2を区別しない場合には、ダンパモデル計算部102という。弦モデル計算部104−1、104−2を区別しない場合には、弦モデル計算部104という。いずれも特定の鍵において、対応する弦が2本(iw=1、2)である場合の物理モデルを想定している。弦が3本以上であれば、本体モデル計算部105に対して並列に接続される弦モデル計算部104およびダンパモデル計算部102を増やせばよい。
以下に各構成についての説明をする。なお、ダンパモデル計算部102、ハンマモデル計算部103、弦モデル計算部104、本体モデル計算部105および空気モデル計算部106における物理モデル演算方法は、特許5664185号公報に開示されているものと同じである。また、物理モデル演算に用いられるパラメータを含む様々な計算上のパラメータについても特許5664185号公報に開示されているものと同じである。したがって、本明細書においては、その説明については、特許5664185号公報が参照されることによって、詳細の説明を省略する。
比較部101は、入力信号1(ek(nΔt))および入力信号3(ep(nΔt))を取得する。比較部101は、小さい方の値をeD(nΔt)として、ダンパモデル計算部102−1、102−2に出力する。
ダンパモデル計算部102は、ダンパについて計算する。ダンパモデル計算部102は、比較部101から出力されるeD(nΔt)および弦モデル計算部104から出力されるuk(xD,nΔt)(k=1,3)を取得する。u1(xD,nΔt)は、止音点における弦中心軸のz方向変位を示す。u3(xD,nΔt)は、止音点における弦中心軸のy方向変位を示す。ここで、z方向(k=1)は、ハンマ重心の打弦時運動方向である。x方向(k=2)とは弦の中心軸に沿った方向である。y方向(k=3)はx方向およびz方向に垂直な方向である。以下の説明においても同じである。ダンパモデル計算部102は、これらの情報を用いてfDk(nΔt)を計算して、弦モデル計算部104に出力する。fDk(nΔt)は、ダンパの抵抗力を示す。
ハンマモデル計算部103は、ハンマについて計算する。ハンマモデル計算部103は、比較部101から出力される入力信号2(VH(nΔt))および入力信号4(es(nΔt))を取得する。ハンマモデル計算部103は、これらの情報を用いて、fH(nΔt)を計算して、弦モデル計算部104に出力する。fH(nΔt)は、ハンマ先端が弦表面に及ぼす力を示す。
弦モデル計算部104は、弦の振動について計算する。弦モデル計算部104は、ダンパモデル計算部102から出力されるfDk(nΔt)、ハンマモデル計算部103から出力されるfH(nΔt)および本体モデル計算部105から出力されるuBk(nΔt)(k=1,2,3)を取得する。uBk(nΔt)は、弦支持端のz方向(k=1)、x方向(k=2)、y方向(k=3)の変位を示す。弦モデル計算部104は、これらの情報を用いて、uk(xD,nΔt)(k=1,3)、u1(xH,nΔt)、fBk(nΔt)(k=1,2,3)を計算する。fBk(nΔt)は、弦が弦支持端に及ぼすz方向(k=1)、x方向(k=2)、y方向(k=3)の力を示す。u1(xH,nΔt)は、打弦点における弦中心軸のz方向変位を示す。uk(xD,nΔt)(k=1,3)は、ダンパモデル計算部102に出力される。u1(xH,nΔt)は、ハンマモデル計算部103に出力される。fBk(nΔt)(k=1,2,3)は、本体モデル計算部105に出力される。
本体モデル計算部105は、本体の振動について計算する。本体モデル計算部105は、弦モデル計算部104から出力されるfBk(nΔt)(k=1,2,3)を取得する。このfBk(nΔt)(k=1,2,3)には、化粧音生成部200から出力されるFBk(nΔt)(k=1,2,3)が加算されている。FBk(nΔt)(k=1,2,3)は、化粧音により弦支持端に及ぼすz方向(k=1)、x方向(k=2)、y方向(k=3)の力を示す。本体モデル計算部105は、これらの情報を用いて、Ac(nΔt)、uBk(nΔt)(k=1,2,3)を計算する。Ac(nΔt)は、本体の固有振動モードのモード座標上での変位を示す。Ac(nΔt)は、空気モデル計算部106に出力される。uBk(nΔt)(k=1,2,3)は、弦モデル計算部104に出力される。
空気モデル計算部106は、音響放射について計算する。空気モデル計算部106は、本体モデル計算部105から出力されるAc(nΔt)を取得し、P(nΔt)を計算して出力する。P(nΔt)は、物理モデル演算部100において生成される音信号に対応する。したがって、この音信号は、出力部180に出力される。
化粧音生成部200は、入力信号2(VH(nΔt))、入力信号4(es(nΔt))および入力信号5(Fv(nΔt))を取得する。また、この例では、本体モデル計算部105から出力されるAc(nΔt)についても取得される。化粧音生成部200は、これらの情報を用いてFBk(nΔt)(k=1,2,3)を計算し、fBk(nΔt)(k=1,2,3)に加算する。なお、k=2,3については、fBk(nΔt)=0として、k=1のみ加算の対象としてもよい。また、単純に加算するのではなく、減算、重み付けをした加算、積算、除算などにより合成するようにしてもよい。
なお、化粧音生成部200は、入力信号2(VH(nΔt))および入力信号4(es(nΔt))に基づいて、棚板音に相当するFBk(nΔt)(k=1,2,3)が出力される点では、特許5664185号公報に開示された化粧音生成部200と同様である。一方、この例においては、FBk(nΔt)(k=1,2,3)には、本体モデル計算部105から出力されるAc(nΔt)および入力信号5(Fv(nΔt))に基づいて生成される、アコースティック楽器の演奏者の鍵への接触による減衰の影響に相当する情報も含まれる。以下、化粧音生成部200について詳細を説明する。
図11は、本発明の第2実施形態における化粧音生成部の機能構成を示す図である。化粧音生成部200は、生成制御部210、波形データ読出部220、DCA(Digital Controlled Amplifier)230、DCF(Digital Controlled Filter)240、減衰演算部250および波形データ記憶部252を備える。
生成制御部210は、入力信号2(VH(nΔt))および入力信号4(es(nΔt))を取得し、これらの信号に基づいて、波形データ読出部220、DCA230およびDCF240を制御する。なお、化粧音生成部200は、これらの信号ではなく、鍵挙動測定部75およびペダル挙動測定部95から取得される情報(Fv、KC、KS、KV、PC、PS)を取得するようにしてもよい。
波形データ読出部220は、波形データ記憶部252に記憶されている波形データのうち、生成制御部210の制御により選択される波形データを読み出して出力する。波形データ記憶部252に記憶されている波形データは、棚板音に相当する波形データ(以下、棚板音波形データ)を含む。
棚板音波形データは、グランドピアノにおいて鍵を押下したときに生じる棚板音の振動波形を示すデータである。棚板音波形データは、例えば、以下のように生成される。鍵を押下したときに弦が振動しない状態にしておき、特定の鍵を特定の速度で押下したときに生じた棚板音を、全ての鍵について弦支持端における変位として検出する。検出した変位から離散時間軸上における弦支持端に与える力FBk(nΔt)(k=1,2,3)が算出される。この情報は、上記の特定の鍵が特定の速度で押下された場合の棚板音波形データに対応する。なお、鍵の押下位置は、シフトペダルの踏み込みによって変化する。したがって、各鍵に対応する棚板音波形データについては、シフトペダルの押込量(踏込量)との組み合わせとして記憶されている。
波形データ読出部220は、生成制御部210の制御により、入力信号2(VH(nΔt))および入力信号4(es(nΔt))に基づいて棚板音波形データSbを読み出してDCA230に出力する。
DCA230は、生成制御部210の制御により、入力信号2(VH(nΔt))に応じた増幅率で棚板音波形データを増幅する。この例では、入力信号2(VH(nΔt))が示すハンマ速度が速いほど、この増幅率が大きくなるように制御される。
DCF240は、生成制御部210の制御により、入力信号2(VH(nΔt))に応じたカットオフ周波数で棚板音波形データの高周波成分を減衰させる。この例では、入力信号2(VH(nΔt))が示すハンマ速度が速いほど、このカットオフ周波数が高周波数になるように制御される。
減衰演算部250は、入力信号5(Fv(nΔt))および本体モデル計算部105から出力されるAc(nΔt)を取得する。減衰演算部250は、Ac(nΔt)からd/dt(Ac(nΔt))を得て、入力信号5(Fv(nΔt))に応じた係数を乗算することによって、離散時間軸上における弦支持端に与える力に相当する波形データが算出される。各鍵70に印加された圧力が大きいほど、弦支持端に与える力の大きさが大きくなるように、波形データが算出される。この波形データを弦支持端に反力として与えることによって、入力信号5(Fv(nΔt))に応じた係数に対応する減衰の効果が、本体モデル計算部105から出力されるAc(nΔt)に含まれることになる。
DCF240で処理された棚板音波形データと減衰演算部250において演算して得られた波形データとが合成されて、FBk(nΔt)として化粧音生成部200から出力される。このように出力される。FBk(nΔt)は、弦モデル計算部104から出力されたfBk(nΔt)に加算されることにより、弦支持端に及ぼす力には,弦の振動による力だけなく、棚板音の振動による力、および音を減衰させるための力が含まれることになる。その結果、入力信号5(Fv(nΔt))に応じた係数、すなわち、鍵70に印加された圧力に対応する減衰の効果が、本体モデル計算部105から出力されるAc(nΔt)、さらに空気モデル計算部106から出力されるP(nΔt)にも含まれる。そして、出力部180から出力される音信号にも鍵70に印加された圧力に対応する減衰の効果が含まれるものとなる。
<変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は以下のように、様々な態様で実施可能である。
(1)上記の実施形態では、電子鍵盤楽器に本発明を適用した場合の説明であったが、電子鍵盤楽器以外の電子楽器にも適用される。すなわち、鍵70以外の演奏操作子を用いた電子楽器であってもよい。例えば、演奏操作子は、ウインドシンセサイザ(管楽器型のコントローラ)のキーであってもよい。そして、圧力測定部73は、このような演奏操作子に印加される圧力を測定すればよい。
(2)第2実施形態において、特許5664185号公報に開示された物理モデル演算方法の一例に、本体部への衝撃音を生成する構成を適用する場合について説明した。特許5664185号公報に開示された物理モデル演算方法は、その他にも複数の例が開示されているが、いずれの例に対しても化粧音生成部を利用した方法により適用可能である。また、同様の思想(鍵に印加される圧力による音の減衰を再現する思想)を用いれば、その他の公知となっている物理モデル演算に対しても、鍵に印加される圧力による音の減衰を再現するための構成を適用することができる。
(3)上述の実施形態において、圧力測定部73を用いない構成であってもよい。すなわち、圧力測定部73における測定結果に応じて、鍵70に印加される圧力に応じた音の減衰を再現する場合に限らない。例えば、鍵挙動測定部75における測定結果に応じて、アコースティック楽器の演奏者の鍵への接触による減衰の影響を含んだ発音を再現してもよい。
(3−1)第1実施形態では、変換部88が、圧力測定部73から入力される情報(KC、KP)に基づいて、各鍵70における圧力値に応じた調整データを調整部131に出力していた。一方、圧力測定部73を用いない場合には、例えば、鍵挙動測定部75から入力される情報に基づいて、押下された鍵70の数に応じた調整データを調整部131に出力してもよい。この場合には、押鍵時の圧力とは関係なく、押鍵数によってエンベロープ波形の調整量が決まるように、調整データが生成されればよい。
(3−2)第2実施形態に適用する場合においても同様に、化粧音生成部200(減衰演算部250)に入力される入力信号5(Fv(nΔt))を鍵挙動測定部75から入力される情報に基づいて、各鍵70に印加された圧力に対応する信号ではなく、押鍵数(押下された鍵70の数)に対応する信号とすればよい。
(4)第2実施形態において、アコースティック楽器の演奏者の鍵への接触による減衰の影響を含んだ発音は、Ac(nΔt)に基づいて算出された力を弦支持端に反力として与えることによって再現されていたが、これ以外の演算を用いて再現されてもよい。例えば、空気モデル計算部において、入力信号5(Fv(nΔt))など各鍵70に印加された圧力または押鍵数などの情報に応じて、音信号が減衰されるような演算を施せばよい。