JP6699045B2 - 高温下で使用される部材を保護するためのコーティングとその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ガスタービンの部材等の高温下で使用される部材を保護するためのコーティングとその製造方法に関する。
近年、原油価格の値上がり等によって燃費の良い航空機エンジンが求められており、軽量で耐熱性の高い新しい材料が望まれている。セラミックス繊維とセラミックスマトリックスとからなる、セラミック繊維で強靭化されたセラミックス基複合材料(CMC:Ceramic Matrix Composites)は、ニッケル合金等の耐熱合金よりも軽量で耐熱性に優れるため、ジェットエンジンのガスタービンの部材、例えば、タービン翼、燃焼器、アフターバーナー等に適用することによって、エンジンの軽量化および燃費の低減が期待される有望な材料である。
ガスタービンの部材は、水蒸気を含む高温ガス環境下で使用されることから、セラミックス基複合材料の表面に、耐環境コーティング(EBC:Environmental Barrier Coating)または遮熱コーティング(TBC:Thermal Barrier Coating)を施し、セラミックス基複合材料の耐水蒸気腐食性や遮熱性を向上させることも検討されている(特許文献1〜3等を参照)。
一方、ガスタービンの作動時には、ガスタービンに流入する高速の固体粒子や流体との衝突によって、ガスタービンの部材は摩耗(エロージョン)を起こし、表面が浸食され、ガスタービンの部材の性能が低下する可能性がある。そこで、ガスタービンの部材をエロージョンから保護する硬質なコーティングを施す技術も提案されている(特許文献4等を参照)。エロージョンから保護する硬質なコーティングを設ける技術としては、物理蒸着(PVD:Physical Vapor Deposition)や、大気プラズマ溶射(APS:Atmospheric Plasma Spraying)等が検討されている。
特開2013−248852号公報 特開2013−112562号公報 特開2008−247722号公報 特開2015−113255号公報
しかしながら、物理蒸着や大気プラズマ溶射よりも安価で、かつエロージョンを受けた後、その部分を修復するために再施工することが可能な技術が望まれていた。このような技術としては、硬質なコーティングを形成するための原料となる粉末を分散したスラリーを塗布、乾燥後、高温で焼成を行う湿式プロセスが考えられるが、硬さやガスタービンの部材への密着性が十分なコーティングを得ることは非常に困難である。
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、耐エロージョン性に優れたコーティングを安価に得ることができ、さらにエロージョンを受けた後に再施工することが可能なコーティングとその製造方法を提供することを課題としている。
上記の課題を解決するために、本発明のコーティングの製造方法は、高温下で使用される部材を保護するためのコーティングの製造方法であって、リン酸アルミニウム溶液中にセラミックス粉末を分散したスラリーを前記部材の表面に塗布、乾燥し、コーティング前駆体膜を形成する工程と、このコーティング前駆体膜を焼成する工程とを含むことを特徴としている。
本発明のコーティングは、高温下で使用される部材を保護するためのコーティングであって、セラミックス粉末の焼成体と、前記セラミックス粉末の焼成体間に充填されたリン酸アルミニウムの焼成体とを含むことを特徴としている。
本発明によれば、耐エロージョン性に優れたコーティングを安価に得ることができ、さらにエロージョンを受けた後に再施工することが可能である。
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明においてコーティングが表面に形成される部材は、高温下、例えば1000〜1200℃で使用され、高速の固体粒子や流体との衝突に曝される可能性のある部材であれば特に限定されるものではないが、本発明のコーティングは、ジェットエンジンのガスタービンの部材に好適である。
ガスタービンは、例えば、圧縮機と、燃焼器と、タービン部とを備えている。圧縮機は、燃焼用空気を圧縮し、燃焼器は、圧縮機から供給された圧縮空気に燃料を噴射して燃焼させ、燃焼ガスを生成する。タービン部は、燃焼器から供給された燃焼ガスにより駆動するタービン動翼と、整流を行うタービン静翼を備えている。また、ジェットエンジンの排気に対してもう一度燃料を吹きつけて燃焼させ、高推力を得る装置であるアフターバーナーを備えていてもよい。
ガスタービンの部材としては、例えば、タービン部、燃焼器、アフターバーナー等の部材を挙げることができ、その形状としては、これらの部材に適した立体形状や平面形状が挙げられる。
本発明においては、ガスタービンの部材として、セラミックス基複合材料を母材として含むものが好ましく使用される。セラミックス基複合材料は、無機粒子、金属粒子、ウィスカ、短繊維、長繊維等とセラミックスとを複合化することで強度を向上させた材料であり、より具体的には、セラミックス繊維とセラミックスマトリックスとからなるセラミックス基複合材料が挙げられる。
セラミックス基複合材料におけるセラミックス繊維およびセラミックスマトリックスの材質としては、特に限定されるものではないが、例えば、SiC、C、Si、Al、ZrO等が挙げられる。セラミックス繊維とセラミックスマトリックスとは同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。これらの中でも、本発明のコーティングはセラミックス繊維とセラミックスマトリックスがSiCであるセラミックス基複合材料(SiC/SiC)に好適である。
セラミックス基複合材料の構造は、特に限定されるものではないが、例えば、3次元構造を備える繊維織物等が挙げられる。3次元構造の織物は、例えばセラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって得られる。また、セラミックス基複合材料は2次元構造を備えるものであってもよい。
セラミックス基複合材料を製造する方法としては、例えば、気相含浸(CVI:Chemical VaporInfiltration)法、固相含浸(SPI:Solid Phase Infiltration)法、液相含浸(PIP:Polymer Impregnation and Pyrolysis)法、溶融含浸(MI:Melt Infiltration)法等が挙げられる。
例えば、セラミックス繊維を数百〜数千本程度束ねて繊維束とした後、この繊維束をXYZ方向に織ることによって3次元の織物繊維を得て、さらにCVI法によって処理することで、セラミックス基複合材料を製造することができる。また、例えば前記繊維束をマンドレル上にブレード織りして所望の立体形状とし、さらにCVI法によって処理してセラミックス基複合材料を得ることができる。ブレード織りは、円柱形状等のマンドレルの周りにマンドレルの長手方向に延在する複数の中央糸(繊維束)と、螺旋状に巻回される組糸(繊維束)とを編み込むことによって、中空織物を形成する方法である。
また、例えば、縦糸と横糸からなる通常の平織り、ロービングを一方向に並列したプリプレグシート、3軸織物等を用意し、さらにCVI法によって処理して、平面形状のセラミックス基複合材料を得ることができる。
繊維とマトリックスの界面には、両者の固着を防ぐインタフェースコーティングと呼ばれる界面層が施されてもよい。インタフェースコーティングはマトリックスに生じたクラックの進展をそらし、クラックの繊維への伝播を防ぐ働きをもつ。このような働きをもつ物質としては、BN等が挙げられる。
本発明のコーティングは、SiCベースの材料との密着性に特に優れていることから、SiCを材質とするセラミックス基複合材料の表面に設けることに適しているが、セラミックス基複合材料の表面には、セラミックス基複合材料の耐水蒸気腐食性を向上させるための、従来公知の耐環境コーティング、およびセラミックス基複合材料の遮熱性を向上させるための、従来公知の遮熱コーティングから選ばれる少なくとも1種のコーティングが施されていてもよい。例えば、ガスタービンの部材の表面がこれらの耐環境コーティングまたは遮熱コーティングを含むコーティング構造で形成されている場合、ガスタービンに流入する高速の固体粒子や流体との衝突によって、コーティング構造が剥離したり、コーティング構造に亀裂が発生したりする可能性があり、その結果、耐水蒸気腐食性や遮熱性が低下する可能性があるが、これらのコーティング構造の表面に本発明のコーティングを施すことによって、耐水蒸気腐食性や遮熱性の低下を抑制できる。
本発明のコーティングの製造方法では、リン酸アルミニウム溶液中にセラミックス粉末を分散したスラリーを前記部材の表面に塗布、乾燥し、コーティング前駆体膜を形成した後、このコーティング前駆体膜を焼成する。
硬い粒子からエロージョンを受ける脆性材料のエロージョン速度Eは様々な破壊モデルに基づいた理論解析および実験式が提案されている。一般的に、エロージョン速度Eは破壊靭性Kと硬さHの関数として
と与えられる。aは負値であり、この式によれば耐エロージョン性を向上させるためには、破壊靭性、硬さをともに上昇させなければならない(ただ、多くの場合、硬さと靱性はトレードオフの関係にあるため、エロージョン条件に応じて最適解を与える硬さと靱性のバランスが存在する)。さらに硬さと破壊靭性の両立に加え、保護コーティングには、
1) 基板との密着性が良好であること
2) 熱膨張係数のミスマッチが少ないこと
3) 緻密でありながら厚さ方向の貫通割れの生じないこと
4) 安価な材料系で構成されること
5) 修復可能な施工プロセスであること
が求められる。
このような点から、本発明のコーティングの製造方法では、分散媒としてリン酸アルミニウム溶液を使用し、この溶液中に、分散質のセラミックス粉末を分散したスラリーを用いたことを特徴としている。リン酸アルミニウム溶液を調製する方法は特に限定されず、リン酸アルミニウム溶液は、例えば水を溶媒に用いた場合には、Al(HPO)、Al(H3(PO2・3HO、Al(HPO)等を含んでいる。分散媒としてリン酸アルミニウム溶液を使用することで、分散媒として従来の湿式コーティングで用いられているアルミナシリカ系ゾルと比べても、SiCベースの材料との密着性が高く、かつ弾性率の大きい強度に優れたコーティングが得られる。
セラミックス粉末は、耐エロージョン性をコーティングに付与できるとともに、焼成時や、高温下での使用時においても剥離や亀裂が発生しないように、スラリー原料の成分を調整することで、基材である高温下で使用される部材との熱膨張係数差を小さく(例えば、2×10−6/K以下)できるものが使用される。
セラミックス粉末は、酸化物、窒化物、および炭化物から選ばれる少なくとも1種の粉末であることが好ましい。
酸化物としては、例えば、AlSi13(ムライト)、ZrO、Al、SiO、Fe、Cr等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
窒化物としては、例えば、Si、AlN、BN等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
炭化物としては、例えば、SiC、TiC等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
セラミックス粉末の粒径は、特に限定されるものではないが、コーティングの密着性、焼結性、強度等を考慮し、例えば、0.1〜40μm程度とすることができる。
リン酸アルミニウム溶液は、スラリーの粘度等を考慮し、リン酸アルミニウム濃度を例えば20〜50質量%とすることができる。
リン酸アルミニウム溶液の溶媒は、特に限定されるものではないが、安価で容易に入手できることや、沸点、リン酸アルミニウムの溶解度、セラミックス粉末の分散性等を考慮し、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。アルコールとしては、例えば、エタノール等、炭素数が1〜5程度のものが挙げられる。
スラリーにおけるセラミックス粉末とリン酸アルミニウム溶液との質量比は、特に限定されるものではないが、リン酸アルミニウム焼成体がバインダとなってセラミックス粉末焼成体を保持することによるコーティングの強度や、基材である高温下で使用される部材へのコーティングの密着性等を考慮し、例えば1:1〜4:1とすることができる。
基材である高温下で使用される部材にスラリーを塗布する方法としては、特に限定されるものではないが、塗布時の作業性、部材形状に応じた修復作業の容易性、得ようとするコーティングの厚さ等を考慮し、ブレードや刷毛により塗布する方法、スプレー噴霧等を用いることができる。
コーティング前駆体膜の厚さは、特に限定されるものではないが、耐エロージョン性に優れたものとすることから、例えば、焼成後に得られるコーティングの厚さが20〜150μmとなるような厚さが好ましい。ここで厚さは、コーティングの断面を光学顕微鏡を用いて200倍で観察し、10mm幅の試験片からコーティングの任意の5箇所について厚さを測定して、それらの単純平均値を算出して求めた値を意味するものとする。
本発明のコーティングの製造方法では、このコーティング前駆体膜を焼成する。焼成温度は、コーティングに剥離や亀裂が発生せず、かつ、基材である高温下で使用される部材に熱的損傷を与えない温度領域で行うことが望ましい。例えば、大気、真空、またはアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で、1100〜1300℃、30〜240分の条件で行うことができる。焼成により、セラミックス粉末同士が焼結すると同時に、リン酸アルミニウム溶液が加熱脱水等により様々な結晶構造のリン酸アルミニウム、例えば、AlPO、Al(PO33などに変化し、セラミックス粉末および基材と結合する。これにより、セラミックス粉末の焼成体と、セラミックス粉末の焼成体間に充填されたリン酸アルミニウムの焼成体とを含むコーティングが得られる。このコーティングにおけるセラミックス粉末の焼成体の体積率は、例えば、75〜95%である。
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
表1に示す原料にて、充填剤とバインダを混合しスラリーを調製した。得られたスラリーを用いて、基板に塗布を行った。基板は、直径12.7mm、厚さ1.8mmのα−SiC、直径12.7mm、厚さ1.8mmのSiC/SiC、平板(40×30×3mm)のSiC/SiCのいずれかを用いた。基板の密着性を向上させるため、アセトンにて超音波洗浄後プラズマエッチングを行い、基板表面を洗浄した。塗布はドクターブレード法を用いて行った。塗布後、室温、大気中で24h以上乾燥させ、管状炉を用い1300℃、N雰囲気で2h焼結を行った。
<焼結後のコーティングの観察>
焼結後のコーティングの表面および断面を光学顕微鏡および走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。
焼結後のコーティングは目視で観察できる厚さ方向の貫通亀裂は存在せず、均一な膜が形成されていた。コーティングと基板はよく密着しており、界面に剥離や空孔は観察されなかった。SEMレベルの観察では基板とコーティング間の反応は確認されず、基板表面の損傷は観察されなかった。コーティング内部では粉末が均一に分散していた。粉末の空隙はバインダが充填されており、緻密なコーティングが得られた。粉末部の体積率は、Aは80%、Bは81%であった。コーティング厚さはほぼ均一で約80μmであった。
<インデンテーション>
インデンテーション法で弾性率を測定した結果、ムライト粉末とアルミナ・シリカゾルバインダを原料とするコーティングの弾性率と比較して、Aは1.61倍、Bは1.76倍の値が得られた。
<引張り密着強度>
基板との引張り密着強度はAが33.5MPa、Bが14.5MPaであった。
<エロージョン試験>
ふるい分級した8号珪砂(粒径45μm〜53μm、平均約50μm)を1150℃に加熱した試験体に衝突させ、エロージョン試験を行った。粒子投入量は3g、粒子投入時間は2min(砂流量1.5g/min)とし、粒子速度は600m/s、衝突角度は最もエロージョンレートが高いと予測される90deg.とした。
エロージョン試験の結果、A、Bとも試験後もコーティングが残存し基材まで損傷が到達しておらず、コーティングによる基板の保護効果が確認された。なお、本実施例とは一部異なる条件で行ったエロージョン試験では、耐熱ガラスのエロージョン量を基準(1.0)とすると、ムライト粉末とアルミナ・シリカゾルバインダを原料とするコーティングのエロージョン量は2.1であったが、本実施例では、同じくムライト粉末を用いたBのエロージョン量は耐熱ガラスコーティングを基準(1.0)とすると0.59であった。

Claims (10)

  1. ガスタービンの部材を保護するための耐エロージョン性コーティングの製造方法であって、
    リン酸アルミニウム溶液中にセラミックス粉末を分散したスラリーを前記部材の表面に塗布、乾燥し、コーティング前駆体膜を形成する工程と、
    このコーティング前駆体膜を焼成し、前記セラミックス粉末同士を焼結し、前記セラミックス粉末の焼成体および前記部材とリン酸アルミニウムの焼成体とを結合する工程とを含むことを特徴とするコーティングの製造方法。
  2. 前記セラミックス粉末が、酸化物、窒化物、および炭化物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のコーティングの製造方法。
  3. 前記リン酸アルミニウム溶液の溶媒が、水およびアルコールから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のコーティングの製造方法。
  4. 前記部材が、セラミックス基複合材料を母材として含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のコーティングの製造方法。
  5. ガスタービンの部材を保護するための耐エロージョン性コーティングであって、セラミックス粉末の焼成体と、前記セラミックス粉末の焼成体間に充填されたリン酸アルミニウムの焼成体とを含むことを特徴とするコーティング。
  6. 前記コーティングにおける前記セラミックス粉末の焼成体の体積率が、75〜95%であることを特徴とする請求項5に記載のコーティング。
  7. 前記セラミックス粉末が、酸化物、窒化物、および炭化物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5または6に記載のコーティング。
  8. 前記部材が、セラミックス基複合材料を母材として含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のコーティング。
  9. 請求項〜8のいずれか一項に記載のコーティングが表面に形成された部材であることを特徴とするガスタービンの部材。
  10. 請求項9に記載のガスタービンの部材を含むことを特徴とするガスタービン。
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