以下、本発明の実施の形態の検査装置について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する場合の一例を示すものであって、本発明を以下に説明する具体的構成に限定するものではない。本発明の実施にあたっては、実施の形態に応じた具体的構成が適宜採用されてよい。
図1及び図2において、本実施形態による検査装置1の主要構成要素が立面及び平面で示されている。
本実施形態による検査装置1は、複数枚の試料を収納したカセットを保持するカセットホルダ10と、ミニエンバイロメント装置20と、ワーキングチャンバを画成する主ハウジング30と、ミニエンバイロメント装置20と主ハウジング30との間に配置されていて、二つのローディングチャンバを画成するローダハウジング40と、試料をカセットホルダ10から主ハウジング30内に配置されたステージ装置50上に装填するローダー60と、主ハウジング30に取り付けられた電子光学装置70と、光学顕微鏡3000と、走査型電子顕微鏡(SEM)3002と、を備え、それらは図1及び図2に示されるような位置関係で配置されている。検査装置1は、更に、真空の主ハウジング30内に配置されたプレチャージユニット81と、試料に電位を印加する電位印加機構と、電子ビームキャリブレーション機構と、ステージ装置50上での試料の位置決めを行うためのアライメント制御装置87を構成する光学顕微鏡871と、を備えている。
ここで試料とは、露光用マスク、EUVマスク、ナノインプリント用マスク(及びテンプレート)、半導体ウエハ、光学素子用基板、光回路用基板等である。これらは、パターンを有するものとパターンがないものとがある。パターンが有るものは、凹凸のあるものとないものとが有る。凹凸のないパターンは、異なった材料によるパターン形成がなされている。パターンがないものには、酸化膜がコーティングされているものと、酸化膜がコーティングされていないものとが有る。
<カセットホルダ>
カセットホルダ10は、複数枚(例えば25枚)の試料が上下方向に平行に並べられた状態で収納されたカセットc(例えば、アシスト社製のSMIF、FOUPのようなクローズドカセット)を複数個(この実施形態では2個)保持するようになっている。このカセットホルダとしては、カセットをロボット等により搬送してきて自動的にカセットホルダ10に装填する場合にはそれに適した構造のものを、また人手により装填する場合にはそれに適したオープンカセット構造のものをそれぞれ任意に選択して設置できるようになっている。カセットホルダ10は、この実施形態では、自動的にカセットcが装填される形式であり、例えば昇降テーブル11と、その昇降テーブル11を上下移動させる昇降機構12とを備え、カセットcは昇降テーブル上に図2で鎖線図示の状態で自動的にセット可能になっていて、セット後、図2で実線図示の状態に自動的に回転されてミニエンバイロメント装置20内の第1の搬送ユニット61の回動軸線に向けられる。また、昇降テーブル11は図1で鎖線図示の状態に降下される。このように、自動的に装填する場合に使用するカセットホルダ、或いは人手により装填する場合に使用するカセットホルダはいずれも公知の構造のものを適宜使用すればよいので、その構造及び機能の詳細な説明は省略する。
なお、カセットc内に収納される試料は、検査を受ける試料であり、そのような検査は、半導体製造工程中で試料を処理するプロセスの後、若しくはプロセスの途中で行われる。具体的には、成膜工程、CMP、イオン注入等を受けた試料、表面にパターンが形成された試料、又はパターンが未だに形成されていない試料が、カセット内に収納される。カセットc内に収容される試料は多数枚上下方向に隔ててかつ平行に並べて配置されているため、任意の位置の試料を第1の搬送ユニット61で保持できるように、第1の搬送ユニット61のアーム612を上下移動できるようになっている。
<ミニエンバイロメント装置>
図1及び図2において、ミニエンバイロメント装置20は、雰囲気制御されるようになっているミニエンバイロメント空間21を画成するハウジング22と、ミニエンバイロメント空間21内で清浄空気のような気体を循環して雰囲気制御するための気体循環装置23と、ミニエンバイロメント空間21内に供給された空気の一部を回収して排出する排出装置24と、ミニエンバイロメント空間21内に配設されていて検査対象としての試料を粗位置決めするプリアライナ25とを備えている。
ハウジング22は、頂壁221、底壁222及び四周を囲む周壁223を有し、ミニエンバイロメント空間21を外部から遮断する構造になっている。ミニエンバイロメント空間を雰囲気制御するために、気体循環装置23は、ミニエンバイロメント空間21内において、頂壁221に取り付けられていて、気体(この実施形態では空気)を清浄にして一つ又はそれ以上の気体吹き出し口(図示せず)を通して清浄空気を真下に向かって層流状に流す気体供給ユニット231と、ミニエンバイロメント空間21内において底壁222の上に配置されていて、底に向かって流れ下った空気を回収する回収ダクト232と、回収ダクト232と気体供給ユニット231とを接続して回収された空気を気体供給ユニット231に戻す導管233とを備えている。この実施形態では、気体供給ユニット231は供給する空気の約20%をハウジング22の外部から取り入れて清浄にするようになっているが、この外部から取り入れられる気体の割合は任意に選択可能である。気体供給ユニット231は、清浄空気をつくりだすための公知の構造のHEPA若しくはULPAフィルタを備えている。清浄空気の層流状の下方向の流れすなわちダウンフローは、主に、ミニエンバイロメント空間21内に配置された第1の搬送ユニット61による搬送面を通して流れるように供給され、搬送ユニットにより発生する虞のある塵埃が試料に付着するのを防止するようになっている。したがって、ダウンフローの噴出口は必ずしも図示のように頂壁に近い位置である必要はなく、搬送ユニットによる搬送面より上側にあればよい。また、ミニエンバイロメント空間全面に亘って流す必要もない。なお、場合によっては、清浄空気としてイオン風を使用することによって清浄度を確保することができる。また、ミニエンバイロメント空間内には清浄度を観察するためのセンサを設け、清浄度が悪化したときに装置をシャットダウンすることもできる。ハウジング22の周壁223のうちカセットホルダ10に隣接する部分には出入り口225が形成されている。出入り口225近傍には公知の構造のシャッタ装置を設けて出入り口225をミニエンバイロメント装置側から閉じるようにしてもよい。試料近傍でつくる層流のダウンフローは、例えば0.3ないし0.4m/secの流速でよい。気体供給ユニットはミニエンバイロメント空間21内でなくその外側に設けてもよい。
排出装置24は、第1の搬送ユニット61の試料搬送面より下側の位置で第1の搬送ユニット61の下部に配置された吸入ダクト241と、ハウジング22の外側に配置されたブロワー(図示せず)と、吸入ダクト241とブロワーとを接続する導管(図示せず)と、を備えている。この排出装置24は、第1の搬送ユニット61の周囲を流れ下り、第1の搬送ユニット61により発生する可能性のある塵埃を含んだ気体を、吸入ダクト241により吸引し、導管及びブロワーを介してハウジング22の外側に排出する。この場合、ハウジング22の近くに引かれた排気管(図示せず)内に排出してもよい。
ミニエンバイロメント空間21内に配置されたプリアライナ25は、試料に形成されたオリエンテーションフラット(円形の試料の外周に形成された平坦部分を言い、以下においてオリフラと呼ぶ)や、試料の外周縁に形成された一つ又はそれ以上のV型の切欠きすなわちノッチを光学的に或いは機械的に検出して試料の軸線O−Oの周りの回転方向の位置を約±1度の精度で予め位置決めしておくようになっている。プリアライナ25は検査対象の座標を決める機構の一部を構成し、検査対象の粗位置決めを担当する。このプリアライナ25自体は公知の構造のものでよいので、その構造、動作の説明は省略する。
なお、図示しないが、プリアライナ25の下部にも排出装置用の回収ダクトを設けて、プリアライナ25から排出された塵埃を含んだ空気を外部に排出するようにしてもよい。
<主ハウジング>
図1及び図2において、ワーキングチャンバ31を画成する主ハウジング30は、ハウジング本体32を備え、そのハウジング本体32は、台フレーム36上に配置された振動遮断装置すなわち防振装置37の上に載せられたハウジング支持装置33によって支持されている。ハウジング支持装置33は矩形に組まれたフレーム構造体331を備えている。ハウジング本体32はフレーム構造体331上に配設固定されていて、フレーム構造体上に載せられた底壁321と、頂壁322と、底壁321及び頂壁322に接続されて四周を囲む周壁323とを備えていてワーキングチャンバ31を外部から隔離している。底壁321は、この実施形態では、上に載置されるステージ装置50等の機器による加重で歪みの発生しないように比較的肉厚の厚い鋼板で構成されているが、その他の構造にしてもよい。この実施形態において、ハウジング本体32及びハウジング支持装置33は、剛構造に組み立てられていて、台フレーム36が設置されている床からの振動がこの剛構造に伝達されるのを防振装置37で阻止するようになっている。ハウジング本体32の周壁323のうち後述するローダハウジングに隣接する周壁には試料出し入れ用の出入り口325が形成されている。
なお、防振装置37は、空気バネ、磁気軸受け等を有するアクティブ式のものでも、或いはこれらを有するパッシブ式のもよい。いずれも公知の構造のものでよいので、それ自体の構造及び機能の説明は省略する。ワーキングチャンバ31は公知の構造の真空装置(図示せず)により真空雰囲気に保たれるようになっている。台フレーム36の下には装置全体の動作を制御する制御装置2が配置されている。
<ローダハウジング>
図1及び図2において、ローダハウジング40は、第1のローディングチャンバ41と第2のローディングチャンバ42とを画成するハウジング本体43を備えている。ハウジング本体43は底壁431と、頂壁432と、四周を囲む周壁433と、第1のローディングチャンバ41と第2のローディングチャンバ42とを仕切る仕切壁434とを有していて、両ローディングチャンバを外部から隔離できるようになっている。仕切壁434には両ローディングチャンバ間で試料のやり取りを行うための開口すなわち出入り口435が形成されている。また、周壁433のミニエンバイロメント装置及び主ハウジングに隣接した部分には出入り口436及び437が形成されている。このローダハウジング40のハウジング本体43は、ハウジング支持装置33のフレーム構造体331上に載置されてそれによって支持されている。したがって、このローダハウジング40にも床の振動が伝達されないようになっている。ローダハウジング40の出入り口436とミニエンバイロメント装置20のハウジング22の出入り口226とは整合されていて、そこにはミニエンバイロメント空間21と第1のローディングチャンバ41との連通を選択的に阻止するシャッタ装置27が設けられている。シャッタ装置27は、出入り口226及び436の周囲を囲んで周壁433と密に接触して固定されたシール材271、シール材271と協働して出入り口を介しての空気の流通を阻止する扉272と、その扉を動かす駆動装置273とを有している。また、ローダハウジング40の出入り口437とハウジング本体32の出入り口325とは整合されていて、そこには第2のローディングチャンバ42とワーキンググチャンバ31との連通を選択的に密封阻止するシャッタ装置45が設けられている。シャッタ装置45は、出入り口437及び325の周囲を囲んで周壁433及び323と密に接触してそれらに固定されたシール材451、シール材451と協働して出入り口を介しての空気の流通を阻止する扉452と、その扉を動かす駆動装置453とを有している。更に、仕切壁434に形成された開口には、扉461によりそれを閉じて第1及び第2のローディングチャンバ間の連通を選択的に密封阻止するシャッタ装置46が設けられている。これらのシャッタ装置27、45及び46は、閉じ状態にあるとき各チャンバを気密シールできるようになっている。これらのシャッタ装置は公知のものでよいので、その構造及び動作の詳細な説明は省略する。なお、ミニエンバイロメント装置20のハウジング22の支持方法とローダハウジングの支持方法が異なり、ミニエンバイロメント装置20を介して床からの振動がローダハウジング40、主ハウジング30に伝達されるのを防止するために、ハウジング22とローダハウジング40との間には出入り口の周囲を気密に囲むように防振用のクッション材を配置しておけばよい。
第1のローディングチャンバ41内には、複数(本実施形態では2枚)の試料を上下に隔てて水平の状態で支持するサンプルラック47が配設されている。サンプルラック47は、矩形の基板471の四隅に互いに隔てて直立状態で固定された支柱を備え、各支柱472にはそれぞれ2段の支持部が形成され、その支持部の上に試料Wの周縁を載せて保持するようになっている。そして後述する第1及び第2の搬送ユニットのアームの先端を隣接する支柱間から試料に接近させてアームにより試料を把持するようになっている。
ローディングチャンバ41及び42は、図示しない真空ポンプを含む公知の構造の真空排気装置(図示せず)によって高真空状態(真空度としては10-5〜10-6Pa)に雰囲気制御され得るようになっている。この場合、第1のローディングチャンバ41を低真空チャンバとして低真空雰囲気に保ち、第2のローディングチャンバ42を高真空チャンバとして高真空雰囲気に保ち、試料の汚染防止を効果的に行うこともできる。このような構造を採用することによってローディングチャンバ41及び42内に収容されていて次に欠陥検査される試料をワーキングチャンバ31内に遅滞なく搬送することができる。このようなローディングチャンバ41及び42を採用することによって、欠陥検査のスループットを向上させ、更に保管状態が高真空状態であることを要求されるレーザ光源周辺の真空度を可能な限り高真空度状態にすることができる。
第1及び第2のローディングチャンバ41及び42には、それぞれ真空排気配管と不活性ガス(例えば乾燥純窒素)用のベント配管(それぞれ図示せず)が接続されている。これによって、各ローディングチャンバ内の大気圧状態は不活性ガスベント(不活性ガスを注入して不活性ガス以外の酸素ガス等が表面に付着するのを防止する)によって達成される。このような不活性ガスベントを行う装置自体は公知の構造のものでよいので、その詳細な説明は省略する。
<ステージ装置>
ステージ装置50は、主ハウジング30の底壁321上に配置された固定テーブル51と、固定テーブル上でY方向(図1において紙面に垂直の方向)に移動するYテーブル52と、Yテーブル上でX方向(図1において左右方向)に移動するXテーブル53と、Xテーブル上で回転可能な回転テーブル54と、回転テーブル54上に配置されたホルダ55とを備えている。そのホルダ55の試料載置面551上に試料を解放可能に保持する。ホルダは、試料を機械的に或いは静電チャック方式で解放可能に把持できる公知の構造のものでよい。ステージ装置50は、サーボモータ、エンコーダ及び各種のセンサ(図示せず)を用いて、上記のような複数のテーブルを動作させることにより、載置面551上でホルダに保持された試料を電子光学装置70から照射される電子ビームに対してX方向、Y方向及びZ方向(図1において上下方向)に、更に試料の支持面に鉛直な軸線の回り方向(θ方向)に高い精度で位置決めできるようになっている。なお、Z方向の位置決めは、例えばホルダ上の載置面の位置をZ方向に微調整可能にしておけばよい。この場合、載置面の基準位置を微細径レーザによる位置測定装置(干渉計の原理を使用したレーザ干渉測距装置)によって検知し、その位置を図示しないフィードバック回路によって制御したり、それと共に或いはそれに代えて試料のノッチ或いはオリフラの位置を測定して試料の電子ビームに対する平面位置、回転位置を検知し、回転テーブルを微小角度制御可能なステッピングモータなどにより回転させて制御したりする。ワーキングチャンバ内での塵埃の発生を極力防止するために、ステージ装置50用のサーボモータ521、531及びエンコーダ522、532は、主ハウジング30の外側に配置されている。なお、ステージ装置50は、例えばステッパー等で使用されている公知の構造のものでよいので、その構造及び動作の詳細な説明は省略する。また、上記レーザ干渉測距装置も公知の構造のものでよいので、その構造、動作の詳細な説明は省略する。
電子ビームに対する試料の回転位置やX、Y位置を後述する信号検出系或いは画像処理系に予め入力することで、検査の際に得られる試料の回転位置やX、Y位置を示す信号の基準化を図ることもできる。更に、このホルダに設けられた試料チャック機構は、試料をチャックするための電圧を静電チャックの電極に与えられるようになっていて、試料の外周部の3点(好ましくは周方向に等隔に隔てられた)を押さえて位置決めするようになっている。試料チャック機構は、二つの固定位置決めピンと、一つの押圧式クランプピンとを備えている。クランプピンは、自動チャック及び自動リリースを実現できるようになっており、かつ電圧印加の導通箇所を構成している。
なお、この実施形態では図2で左右方向に移動するテーブルをXテーブルとし、上下方向に移動するテーブルをYテーブルとしたが、同図で左右方向に移動するテーブルをYテーブルとし、上下方向に移動するテーブルをXテーブルとしてもよい。
図1及び図2に示すように、本実施の形態のステージ装置1は、第1及び第2の試料Wを載置して連続的に移動し、第1の電子光学装置701の一次光学系76が第1の試料Wに一次ビームを照射している間に、第2の電子光学装置702の一次光学系は第2の試料に一次ビームを照射するようになっている。このような態様によれば、複数の試料Wの検査に要する時間を大幅に短縮することができる。
<ローダー>
ローダー60は、ミニエンバイロメント装置20のハウジング22内に配置されたロボット式の第1の搬送ユニット61と、第2のローディングチャンバ42内に配置されたロボット式の第2の搬送ユニット63とを備えている。
第1の搬送ユニット61は、駆動部611に関して軸線O1−O1の回りで回転可能になっている多節のアーム612を有している。多節のアームとしては任意の構造のものを使用できるが、この実施形態では、互いに回動可能に取り付けられた三つの部分を有している。第1の搬送ユニット61のアーム612の一つの部分すなわち最も駆動部611側の第1の部分は、駆動部611内に設けられた公知の構造の駆動機構(図示せず)により回転可能な軸613に取り付けられている。アーム612は、軸613により軸線O1−O1の回りで回動できると共に、部分間の相対回転により全体として軸線O1−O1に関して半径方向に伸縮可能になっている。アーム612の軸613から最も離れた第3の部分の先端には、公知の構造の機械式チャック又は静電チャック等の試料を把持する把持装置616が設けられている。駆動部611は、公知の構造の昇降機構615により上下方向に移動可能になっている。
この第1の搬送ユニット61は、アーム612がカセットホルダ10に保持された二つのカセットcの内いずれか一方の方向M1又はM2に向かってアームが伸び、カセットc内に収容された試料をアームの上に載せ、或いはアームの先端に取り付けたチャック(図示せず)により把持して取り出す。その後アームが縮み(図2に示すような状態)、アームがプリアライナ25の方向M3に向かって伸長できる位置まで回転してその位置で停止する。するとアーム612が再び伸びてアーム612に保持された試料をプリアライナ25に載せる。プリアライナ25から前記と逆にして試料を受け取った後は、アーム612は更に回転し第2のローディングチャンバ41に向かって伸長できる位置(向きM4)で停止し、第2のローディングチャンバ41内のサンプルラック47に試料を受け渡す。なお、機械的に試料を把持する場合には試料の周縁部(周縁から約5mmの範囲)を把持する。これは試料には周縁部を除いて全面にデバイス(回路配線)が形成されており、この部分を把持するとデバイスの破壊、欠陥の発生を生じさせるからである。
第2の搬送ユニット63も第1の搬送ユニット61と構造が基本的に同じであり、試料の搬送をサンプルラック47とステージ装置50の載置面上との間で行う点でのみ相違するだけであるから、詳細な説明は省略する。
上記ローダー60では、第1及び第2の搬送ユニット61及び63は、カセットホルダ10に保持されたカセットからワーキングチャンバ31内に配置されたステージ装置50上への及びその逆の試料の搬送をほぼ水平状態に保ったままで行い、搬送ユニットのアームが上下動するのは、単に、試料のカセットからの取り出し及びそれへの挿入、試料のサンプルラックへの載置及びそこからの取り出し、及び、試料のステージ装置50への載置及びそこからの取り出しのときだけである。したがって、大型の試料、例えば直径30cmや45cmの試料の移動もスムースに行うことができる。
<試料の搬送>
次にカセットホルダ10に支持されたカセットcからワーキングチャンバ31内に配置されたステージ装置50までへの試料の搬送について、順を追って説明する。
カセットホルダ10は、上述したように人手によりカセットをセットする場合にはそれに適した構造のものが、また自動的にカセットをセットする場合にはそれに適した構造のものが使用される。この実施形態において、カセットcがカセットホルダ10の昇降テーブル11の上にセットされると、昇降テーブル11は昇降機構12によって降下されカセットcが出入り口225に整合される。
カセットが出入り口225に整合されると、カセットcに設けられたカバー(図示せず)が開き、また、カセットcとミニエンバイロメントの出入り口225との間には筒状の覆いが配置されてカセットc内及びミニエンバイロメント空間21内を外部から遮断する。これらの構造は公知のものであるから、その構造及び動作の詳細な説明は省略する。なお、ミニエンバイロメント装置20側に出入り口225を開閉するシャッタ装置が設けられている場合にはそのシャッタ装置が動作して出入り口225を開く。
一方、第1の搬送ユニット61のアーム612は方向M1又はM2のいずれかに向いた状態(この説明ではM2の方向)で停止しており、出入り口225が開くとアームが伸びて先端でカセット内に収容されている試料のうち1枚を受け取る。なお、アーム612と、カセットcから取り出されるべき試料との上下方向の位置調整は、この実施形態では第1の搬送ユニット61の駆動部611及びアーム612の上下移動で行うが、カセットホルダ10の昇降テーブル11の上下動で行ってもよいし、或いはその両者を行ってもよい。
アーム612による試料の受け取りが完了すると、アーム612は縮み、シャッタ装置を動作して出入り口を閉じ(シャッタ装置がある場合)、次にアーム612は軸線O1−O1の回りで回動して方向M3に向けて伸長できる状態になる。すると、アーム612は伸びて、先端に載せられ或いはチャックで把持された試料をプリアライナ25の上に載せ、プリアライナ25によって試料の回転方向の向き(試料表面に垂直な中心軸線の回りの向き)を所定の範囲内に位置決めする。位置決めが完了すると第1の搬送ユニット61はアーム612の先端にプリアライナ25から試料を受け取った後、アーム612を縮ませ、方向M4に向けてアーム612を伸長できる姿勢になる。するとシャッタ装置27の扉272が動いて出入り口226及び436を開き、アーム612が伸びて試料を第1のローディングチャンバ41内のサンプルラック47の上段側又は下段側に載せる。なお、前記のようにシャッタ装置27が開いてサンプルラック47に試料が受け渡される前に、仕切壁434に形成された開口435はシャッタ装置46の扉461により気密状態で閉じられている。
第1の搬送ユニット61による試料の搬送過程において、ミニエンバイロメント装置20のハウジング22の上に設けられた気体供給ユニット231からは清浄空気が層流状に流れ(ダウンフローとして)、搬送途中で塵埃が試料の上面に付着するのを防止する。搬送ユニット61周辺の空気の一部(この実施形態では供給ユニットから供給される空気の約20%で主に汚れた空気)は排出装置24の吸入ダクト241から吸引されてハウジング外に排出される。残りの空気はハウジング22の底部に設けられた回収ダクト232を介して回収され再び気体供給ユニット231に戻される。
ローダハウジング40の第1のローディングチャンバ41内のサンプルラック47内に第1の搬送ユニット61により試料が載せられると、シャッタ装置27が閉じて、ローディングチャンバ41内を密閉する。すると、第1のローディングチャンバ41内には不活性ガスが充填されて空気が追い出された後、その不活性ガスも排出されてそのローディングチャンバ41内は真空雰囲気にされる。この第1のローディングチャンバ41の真空雰囲気は低真空度でよい。ローディングチャンバ41内の真空度がある程度得られると、シャッタ装置46が動作して扉461で密閉していた出入り口435を開き、第2の搬送ユニット63のアーム632が伸びて先端の把持装置でサンプルラック47から1枚の試料を受け取る(先端の上に載せて或いは先端に取り付けられたチャックで把持して)。試料の受け取りが完了するとアーム632が縮み、シャッタ装置46が再び動作して扉461で出入り口435を閉じる。なお、シャッタ装置46が開く前にアーム632は予めサンプルラック47の方向N1に向けて伸長できる姿勢になる。また、前記のようにシャッタ装置46が開く前にシャッタ装置45の扉452で出入り口437、325を閉じていて、第2のローディングチャンバ42内とワーキングチャンバ31内との連通を気密状態で阻止しており、第2のローディングチャンバ42内は真空排気される。
シャッタ装置46が出入り口435を閉じると、第2のローディングチャンバ42内は再度真空排気され、第1のローディングチャンバ41内よりも高真空度で真空にされる。その間に、第2の搬送ユニット63のアーム632はワーキングチャンバ31内のステージ装置50の方向に向いて伸長できる位置に回転される。一方ワーキングチャンバ31内のステージ装置50では、Yテーブル52が、Xテーブル53の中心線X0−X0が第2の搬送ユニット63の回動軸線O2−O2を通るX軸線X1−X1とほぼ一致する位置まで、図2で上方に移動し、また、Xテーブル53は図2で最も左側の位置に接近する位置まで移動し、この状態で待機している。第2のローディングチャンバ42がワーキングチャンバ31の真空状態と略同じになると、シャッタ装置45の扉452が動いて出入り口437、325を開き、アーム632が伸びて試料を保持したアーム632の先端がワーキングチャンバ31内のステージ装置50に接近する。そしてステージ装置50の載置面551上に試料を載置する。試料の載置が完了するとアーム632が縮み、シャッタ装置45が出入り口437、325を閉じる。
以上は、カセットc内の試料をステージ装置50上に搬送するまでの動作について説明したが、ステージ装置50に載せられて処理が完了した試料をステージ装置50からカセットc内に戻すには前述と逆の動作を行う。また、サンプルラック47に複数の試料を載置しておくため、第2の搬送ユニット63でサンプルラック47とステージ装置50との間で試料の搬送を行う間に、第1の搬送ユニット61でカセットcとサンプルラック47との間で試料の搬送を行うことができ、検査処理を効率良く行うことができる。
具体的には、サンプルラック47に、既に処理済の試料Aと未処理の試料Bがある場合、(1)まず、ステージ装置50に未処理の試料Bを移動し、処理を開始し、(2)この処理中に、処理済試料Aを、アーム632によりステージ装置50からサンプルラック47に移動し、未処理の試料Cを同じくアーム632によりサンプルラック47から抜き出し、プリアライナ25で位置決めした後、ローディングチャンバ41のサンプルラック47に移動する。このようにすることで、サンプルラック47の中は、試料Bを処理中に、処理済の試料Aが未処理の試料Cに置き換えることができる。
また、検査や評価を行うこのような装置の利用の仕方によっては、ステージ装置50を複数台並列に置き、それぞれの装置に一つのサンプルラック47から試料を移動することで、複数枚の試料を同時処理することもできる。
上記の実施形態によれば、次のような効果を奏することが可能である。
(A)電子線を用いた写像投影方式の検査装置の全体構成が得られ、高いスループットで検査対象を処理することができる。
(B)ミニエンバイロメント空間内で検査対象に清浄気体を流して塵埃の付着を防止すると共に清浄度を観察するセンサを設けることによりその空間内の塵埃を監視しながら検査対象の検査を行うことができる。
(C)ローディングチャンバ及びワーキングチャンバを、一体的に振動防止装置を介して支持したので、外部の環境に影響されずにステージ装置50への検査対象の供給及び検査を行うことができる。
<電子光学装置>
図3は、電子光学装置70の構成を示す図である。図4は、電子光学装置70におけるビーム経路を説明するための図である。電子光学装置70の検査対象(試料)は、試料Wである。試料Wは、シリコンウエハ、ガラスマスク、半導体基板、半導体パターン基板、又は、金属膜を有する基板等である。本実施の形態に係る電子線検査装置は、これらの基板からなる試料Wの表面上の異物の存在を検出する。異物は、絶縁物、導電物、半導体材料、又はこれらの複合体等である。異物の種類は、パーティクル、洗浄残物(有機物)、表面での反応生成物等である。
図3及び図4に示すように、電子光学装置70は、電子ビームを生成する一次光学系72と、試料Wからの二次放出電子又はミラー電子の拡大像を結像させる二次光学系74と、それらの電子を検出する検出器761と、を備えている。検出器761には、検出器761からの信号を処理する画像処理部763が接続されている。
一次光学系72は、電子ビームを生成し、試料Wに、検出器761の検出サイズをカバーする領域を一括照射する構成である。一次光学系72は、電子銃721と、レンズ722と、アパーチャ723と、ウィーンフィルター726と、レンズ727を有している。電子銃721は、レーザ光源7211と電光面カソード7212とを有しており、電子銃721により電子ビームが生成される。生成された電子ビームは加速され、レンズ722及びアパーチャ723によって整形される。そして、ウィーンフィルター726にて、電子ビームは、磁界によるローレンツ力と電界によるクーロン力の影響を受け、斜め上方から入射して、鉛直下方向に偏向され、試料Wに向かう。レンズ727は、ウィーンフィルター726付近に形成された中間像を試料Wに投影する。一次ビームは、試料W付近で減速され、試料Wに入射する、もしくは試料W近傍で反射される。
一次光学系72は、プレチャージの帯電用電子ビームと撮像電子ビームの双方の照射を行う。一次ビームの試料Wへの入射エネルギー(ランディングエネルギー)は、試料電位と電子銃の加速電位との差で定義されるが、実験結果では、プレチャージのランディングエネルギーLE1と、撮像電子ビームのランディングエネルギーLE2との差異は、好適には5〜20〔eV〕である。
この点に関し、試料Wの表面21上の異物と周囲との電位差があるときに、プレチャージのランディングエネルギーLE1を負帯電領域で照射したとする。LE1の値に応じて、チャージアップ電圧は異なる。LE1とLE2の相対比が変わるからである(LE2は上記のように撮像電子ビームのランディングエネルギーである)。LE1が大きいとチャージアップ電圧が高くなり、これにより、異物の上方の位置(検出器761により近い位置)で反射ポイントが形成される。この反射ポイントの位置に応じて、ミラー電子の軌道と透過率が変化する。したがって、反射ポイントに応じて、最適なチャージアップ電圧条件が決まる。また、LE1が低すぎると、ミラー電子形成の効率が低下する。このLE1とLE2との差異は、望ましくは5〜20〔eV〕である。また、LE1の値は、好ましくは0〜40〔eV〕であり、更に好ましくは5〜20〔eV〕である。
ウィーンフィルター726の電界と磁界の条件を調整することにより、一次電子ビームの試料Wへの入射角を定めることができる。例えば、一次ビームが、試料Wに対して垂直に入射するように、ウィーンフィルター726の条件を設定可能である。更に感度を増大するためには、例えば、試料Wに対する一次光学系の電子ビームの入射角度をわずかに傾けることが効果的である。適当な傾き角は、0.05〜10度であり、好ましくは0.1〜3度程度である。
このように、異物に対してわずかな入射角を持って電子ビームを照射させることにより、異物からの信号を強くし、同時に、ミラー電子の軌道が二次光学系光軸中心から外れない条件を形成することができるためにミラー電子の透過率を高めることができる。したがって、異物をチャージアップさせて、ミラー電子を導くときに、傾いた電子ビームが大変有利に用いられる。
ステージ装置50上には試料Wがあり、試料Wの上に異物がある。一次ビームは、ランディングエネルギーLE5〜10〔eV〕で試料Wの表面21に照射される。予めチャージアップされた異物によって一次ビームの電子が異物に接触せずに跳ね返される。こうして生成されたミラー電子が二次光学系74により検出器761に導かれる。同時に、チャージアップされていない試料Wの表面21に照射された一次ビームによる二次放出電子も生成される。しかし、ランディングエネルギーLE5〜10〔eV〕程度の電子照射による二次電子放出効率は0に近い上、二次電子は、試料Wの表面21からLambertのcos則に近い角度分布で放出されるため、二次電子は二次電子光学系のアパーチャ742によりそのほとんどがカットされ、検出器761に到達する二次電子割合は、低い値であり、例えば、0.5〜4.0%程度である。一方、一次電子に対するミラー電子の割合はほぼ1であり、かつ、散乱は二次電子の角度分布よりも少ないので、ミラー電子は、高い透過率で検出器761に到達する。したがって、異物由来の信号が、高いコントラストで検出される。
また、異物由来のミラー電子の像は、チャージアップした異物が形成する局所電界の効果によって、実際の大きさよりも大きく検出器761に投影される。拡大率は5〜50倍に及ぶ。典型的な条件では、拡大率が20〜30倍であることが多い。拡大された異物のサイズが、検出器761の画素サイズの3倍以上あれば、異物として検出可能であるから、二次光学系74の投影倍率を小さくして検出器761の画素サイズを大きくして一度に検出できる面積を大きくすることにより、高速・高スループットな検査が実現できる。
例えば、異物のサイズが直径20〔nm〕である場合に、検出器761の画素サイズが60〔nm〕、100〔nm〕、500〔nm〕等でよい。この例ように、異物の3倍以上の検出器761の画素サイズを用いて異物の撮像及び検査を行うことが可能となる。このことは、SEM方式等に比べて、高スループット化のために著しく優位な特徴である。
二次光学系74は、試料Wから反射した電子もしくは試料Wの表面21から放出された二次電子の分布を、検出器761に拡大投影する手段である。二次光学系74は、レンズ727、740、741、と、NAアパーチャ742と、検出器761と、を有している。電子は、試料Wから反射して、対物レンズ727及びウィーンフィルター726を再度通過する。そして、電子は二次光学系74に導かれる。二次光学系74においては、レンズ740、NAアパーチャ742、レンズ741を通して試料W由来の電子信号を検出器761に結像させる。
NAアパーチャ742は、二次系の透過率・収差を規定する役目を持っている。異物からの信号(ミラー電子等)と周囲(正常部)の信号の差異が大きくなるようにNAアパーチャ742のサイズ及び位置が選択される。あるいは、周囲の信号に対する異物からの信号の割合が大きくなるように、NAアパーチャ742のサイズ及び位置が選択される。これにより、S/Nを高くすることができる。
例えば、φ50〜φ3000〔μm〕の範囲で、NAアパーチャ742が選択可能であるとする。検出される電子には、ミラー電子と二次放出電子が混在しているとする。このような状況でミラー電子像のS/Nを向上するために、アパーチャサイズの選択が有利である。この場合、二次放出電子の透過率を低下させて、ミラー電子の透過率を維持できるようにNAアパーチャ742のサイズを選択することが好適である。
例えば、一次電子ビームの入射角度が3°であるとき、ミラー電子の反射角度がほぼ3°である。この場合、ミラー電子の軌道が通過できる程度のNAアパーチャ742のサイズを選択することが好適である。例えば、適当なサイズはφ250〔μm〕である。NAアパーチャ(径φ250〔μm〕)に制限されるために、二次放出電子の透過率は低下する。したがって、ミラー電子像のS/Nを向上することが可能となる。例えば、アパーチャ径をφ2000からφ250〔μm〕にすると、バックグランド階調(ノイズレベル)を1/2以下に低減できる。
異物は、任意の種類の材料で構成されてよく、例えば半導体、絶縁物、金属等でよく、又はそれらが混在してもよい。異物表面には自然酸化膜等が形成されるので、異物は絶縁材料で覆われることになる。よって、異物の材料が金属であっても、酸化膜にてチャージアップが発生する。このチャージアップが本例に好適に利用される。
検出器761は、二次光学系74により導かれた電子を検出する手段である。検出器761は、二次元イメージセンサ7611を含んでいる。二次元イメージセンサ7611には、二次元方向に複数の画素が配列されている。
二次元イメージセンサ7611には、EB(Electron Bombardment)半導体センサを適用することができる。例えば、二次元イメージセンサ7611には、EB−CMOSセンサが適用されてよい。EB−CMOSセンサは、電子ビーム(二次ビーム)をそれに直接入射させることができる。したがって、光電変換機構や光伝達機構による分解能の劣化が無く、高いMTF(Modulation Transfer Function)及びコントラストを得ることが可能となる。また、EB−CMOSを用いると、小さい異物の弱い信号のS/Nを上げることが可能である。したがって、より高い感度を得ることができる。S/Nの向上は1.2〜2倍に達する。なお、二次元イメージセンサとして、EB−CCDセンサが用いられてもよく、EB−TDIセンサが用いられてもよい。
また、二次元イメージセンサ7611には、CCD(Charge Coupled Device)またはTDI(Time Delay Integration)−CCDが適用されてよい。これらは、電子を光に変換してから信号検出を行うセンサである。そのため、光電変換等の手段が必要である。よって、光電変換やシンチレータを用いて、電子が光に変換される。光の像情報は、光を検知するTDIに伝達される。こうして電子が検出される。
なお、二次元イメージセンサ7611の画素数は、2k×2k〜10k×10kとすることができる。また、二次元イメージセンサ7611のデータレートは、10GPPS以下とすることができる。さらに、二次元イメージセンサ7611の画素サイズは1〜15μmとすることができる。
画像処理部763は、検出器761で得られた二次ビーム像に対して、ノイズリダクション処理、積算処理、サブピクセルアライメント等の画像処理を行う。この画像処理部763の処理速度は、10GPPS以下とすることができる。
電子光学装置70について、さらに説明する。試料Wは、x、y、z、θ方向に移動可能なステージ装置50に設置される。ステージ装置50と光学顕微鏡871により、高精度のアライメントが行われる。そして、写像投影光学系が電子ビームを用いて試料Wの異物検査及びパターン欠陥検査を行う。ここで、試料Wの表面21の電位が重要である。表面電位を測定するために、真空中で測定可能な表面電位測定装置がメインチャンバ160に取り付けられている。この表面電位測定器が、試料W上の二次元の表面電位分布を測定する。測定結果に基づき、電子像を形成する二次光学系74においてフォーカス制御が行われる。試料Wの二次元的位置のフォーカスマップが、電位分布を元に製作される。このマップを用いて、検査中のフォーカスを変更制御しながら、検査が行われる。これにより、場所による表面電位の変化に起因する像のボケや歪みを減少でき、精度のよい安定した画像取得及び検査を行うことが可能となる。
また、異物の検査では、異物からのミラー信号を効率よく取得することが重要である。NAアパーチャ742の位置は、信号の透過率と収差を規定するので、大変に重要である。試料Wの表面21の一点から出射した二次放出電子は、概ねLambertのコサイン則に従い放出され、NA位置では均一に広い領域(例えば、φ3〔mm〕)に到達する。したがって、二次放出電子は、NAアパーチャ742の位置に鈍感である。これに対し、ミラー電子の場合、試料Wの表面21での反射角度が、一次電子ビームの入射角度と同程度となる。そのため、ミラー電子は、小さな広がりを示し、小さなビーム径でNAアパーチャ742に到達する。例えば、ミラー電子の広がり領域は、二次放出電子の広がり領域の1/20以下となる。したがって、ミラー電子は、NAアパーチャ742の位置に大変敏感である。NA位置でのミラー電子の広がり領域は、通常、φ10〜100〔μm〕の領域となる。よって、ミラー電子強度の最も高い位置を求めて、その求められた位置にNAアパーチャ742の中心位置を配置することが、大変有利である。
このような適切な位置へのNAアパーチャ742の設置を実現するために、好ましい実施の形態では、NAアパーチャ742が、電子コラムの真空中で、1〔μm〕程度の精度で、x、y方向に移動される。NAアパーチャ742を移動させながら、信号強度が計測される。そして、信号強度が最も高い位置が求められ、その求められた座標位置にNAアパーチャ742の中心が設置される。
信号強度の計測には、EB−CCD745が大変有利に用いられる。これにより、ビームの二次元的な情報を知ることができ、検出器761に入射する電子数を求めることができるので、定量的な信号強度の評価が可能となるからである。
あるいは、NAアパーチャ742の位置と検出器761の検出面の位置とが共役の関係を実現するように、レンズ741の条件が設定されてよい。この構成も大変有利である。これにより、NAアパーチャ742の位置のビームの像を、検出器761の検出面に結像される。したがって、NAアパーチャ742の位置におけるビームプロファイルを、検出器761を用いて観察することができる。
また、NAアパーチャ742のNAサイズ(アパーチャ径)も重要である。上述のようにミラー電子の信号領域が小さいので、効果的なNAサイズは、10〜200〔μm〕程度である。
この点に関し、電子の像は、ミラー電子と二次放出電子により形成される。上記のアパーチャサイズの設定により、ミラー電子の割合をより高めることが可能となる。これにより、ミラー電子のコントラストを高めることができ、つまり、異物のコントラストを高めることができる。
更に詳細に説明すると、アパーチャの孔を小さくすると、アパーチャ面積に反比例して二次放出電子が減少する。そのため、正常部の階調が小さくなる。しかし、ミラー信号は変化せず、異物の階調は変化しない。よって、周囲の階調が低減した分だけ、異物のコントラストを大きくでき、より高いS/Nが得られる。
また、x、y方向だけでなく、z軸方向にアパーチャの位置調整を行えるように、アパーチャ等が構成されてよい。この構成も有利である。アパーチャは、ミラー電子が最も絞られる位置に好適に設置される。これによりミラー電子の収差の低減、及び、二次放出電子の削減を、大変効果的に行うことができる。したがって、より高いS/Nを得ることが可能となる。
<電子像追従方式>
電子光学装置70について、さらに説明する。図3に示すように、一次光学系72は、一次ビームの経路に沿って、その経路を囲うように設けられた第1の高圧基準管701を備えている。なお、一次光学系72において、エミッション電流は10μA〜10mAとすることができ、透過率は20〜50%とすることができ、スポットサイズはφ1〜φ100μmとすることができ、照射領域のサイズ(照野サイズ)はφ10〜φ1000μmとすることができ、光学系倍率は10〜1/10とすることができる。
二次光学系74における二次ビームの経路の途中には、高速偏向器749が設けられている。具体的には、高速偏向器749は、NAアパーチャ742よりも検出器761側に設けられている。この高速偏向器749は、多極子(本実施の形態では、12極)から構成され、二次ビームを任意の方向に偏向すると同時に、4極子場、6極子場および8極子場を重畳して印加することにより、偏向に伴って発生する収差を低減することができる。この偏向方向(偏向量)は、偏向制御装置90として機能する制御装置2によって制御される。高速偏向器749の構成についてはさらに後述する。なお、高速偏向器749に用いる多極子は、8極、4極等の多極子であってもよい。
なお、二次光学系74の結像倍率は10〜10000倍とすることができ、二次元イメージセンサ7611の1画素で捉える試料のサイズを1〜1000nm(1〜1000nm/pixel)とすることができ、NAアパーチャ742の透過率を10〜50%とすることができ、最小欠陥感度を1〜200nmとすることができる。
制御装置2は、上述のように高速偏向器749の偏向方向を制御する偏向制御装置として機能するとともに、電子光学装置70のその他の動作を制御する電子光学制御装置、ステージ装置50を制御するステージ制御装置、試料Wを搬送するための構成を制御する搬送制御装置、二次元イメージセンサ7611の撮像を制御する撮像制御装置等としても機能する。特に、本実施の形態では、検査中にステージ装置50によって試料Wが一定速度で移動するが、制御装置2は、ステージ装置50を制御して、この試料Wの移動制御を行う。なお、図3では、図1及び図2における固定テーブル51、Yテーブル52、Xテーブル53及び回転テーブル54の組に符号56を付して示している。
図5(a)は、二次ビームが試料Wの移動に追従するように二次ビームを偏向する高速偏向器749の動作を説明する図である。図5(a)に示すように、試料Wが右方向に連続的に移動している場合において、高速偏向器749は、試料W上の位置A1からの二次ビームが二次元イメージセンサ7611に二次ビーム像を結像するように二次ビームを偏向し、この試料Wが右方向に移動していく間、その移動に伴って、位置A1にあった試料Wの部分の二次ビーム像が常に二次元イメージセンサ7611上の同じ位置に結像するように、タイムステップdt毎に二次ビームの偏向方向と偏向量を変更する。即ち、高速偏向器749は、二次元イメージセンサ7611から見ると二次ビーム像が一定時間静止しているように、動作させる。なお、タイムステップdtは、試料Wの移動速度vと二次光学系74の結像倍率の絶対値Mとを積算した二次元イメージセンサ7611上の移動速度(像面移動速度)とdtとの積が、二次元イメージセンサ7611の1画素の大きさを超えない程度である事が望ましく、動作周期としては100kHz〜100MHzが好適である。
このような二次ビームの偏向方向と偏向量の変更(追従)によって、位置A1にあった試料Wの部分が移動によって位置A2の位置に到達するまでの間、二次元イメージセンサ7611には、常に、最初に位置A1にあった試料Wの部分からの二次ビームが入射することになり、この期間(一周期)は、二次元イメージセンサ7611は試料Wの同じ領域について、二次ビーム像を撮像することになる。位置A1にあった試料Wの部分が位置A2に達すると、高速偏向器749は、視野領域を再び位置A1に戻す。これによって、現在位置A1にある試料Wの先の撮像領域の隣接領域の二次ビーム像を撮像する。二次元イメージセンサ7611の視野領域が位置A2から位置A1に戻った後は、同様にして、試料Wの移動に追従して、試料Wの部分の二次ビーム像が常に二次元イメージセンサ7611上の同じ位置に結像するように、高速偏向器749によって二次ビームの偏向方向と偏向量をタイムステップdt毎に変更させる。
上記のように二次元イメージセンサ7611の視野領域は、位置A1と位置A2との間を往復するが、視野領域には常に一次ビームが照射されていなければならない。これを実現するためには、図5(b)に示すように、一次ビームの照射領域EFが、位置A1における視野領域VF1と位置A2における視野領域VF2とをすべてカバーするように一次ビームを試料Wに照射すればよく、すなわち、照射領域EFが視野領域2個分の大きさを有していればよい。この場合には、一次ビームの照射領域EFは常にこの位置に固定しておくことができる。
また、図5(c)に示すように、一次ビームの照射領域を試料W及び視野領域の移動に追従させて、位置A1における照射領域EF1から位置A2における照射領域EF2まで移動させてもよい。このときの一次ビームの照射領域の変更は、ウィーンフィルター726より電子銃721側に配置した高速偏向器(図示せず)によって一次ビームの偏向方向と偏向量を変更することによって行うことができる。
二次光学系74には、試料である試料Wに近い方から順に第2の高圧基準管702、第3の高圧基準管703、及び第4の高圧基準管704が、それぞれ二次ビームの経路に沿って、この経路を囲うように設けられている。第2の高圧基準管702は、試料Wとビーム分離器としてのウィーンフィルター726との間に設けられ、第3の高圧基準管703は、ウィーンフィルター726よりも二次元イメージセンサ7611側に設けられ、第4の高圧基準管704は、第3の高圧基準管703と検出器761との間に設けられる。NAアパーチャ742は第3の高圧基準管703の内部に設けられ、高速偏向器749は第4の高圧基準管704の内部に設けられる。
第1の高圧基準管701、第2の高圧基準管702、第3の高圧基準管703、第4の高圧基準管704には、それぞれ第1の電圧V1、第2の電圧V2、第3の電圧V3、第4の電圧V4が印加される。実施の形態では、試料Wを接地電位、検出器761における検出電圧をV5とすると、これらの電圧は、V1=V2=V3、V3>V4、V4=V5の関係にある。検出器761への電子ビームの好適入射エネルギーはその設計段階で予め決まっており、例えば、5keVとすると、V5は5kVである。V1(=V2=V3)は、一次ビームや二次ビームの空間電荷効果の影響や取扱の容易さから決定され、20〜50kVが望ましい。また、NAアパーチャ742に於いて二次ビームの過半はカットされるので、NAアパーチャ742から検出器761までの光路中の空間電荷効果の影響は軽微であるから、第3の高圧基準管703と第4の高圧基準管704の接続部はNAよりも検出器761側に設けられる。このことは、第4の高圧基準管704内に配置される高速偏向器749の電圧電源の高速応答性を確保する上でも好適である。
一方で、異なる2つの電位が接することにより、バイポテンシャルレンズが形成される。この電位差は強いレンズ作用を起こし、また、接する2つの高圧基準管の電位差によって決まるがゆえに固定焦点距離であるので、このレンズ要素の電子光学設計に於ける取扱いが非常に難しい。
そこで、本実施の形態では、第3の高圧基準管703と第4の高圧基準管704との間に、中間電極750を設けて、この中間電極にV3ともV4とも異なる電位を印加する。多くはV3よりも小さくV4よりも大きい電位であるが、V3より大きくても良いし、V4より小さくても良い。また、V3もしくはV4と同電位でも良い。これによって、異なる電位が接することによって発生するレンズ作用を調整することができる。さらに、中間電極750を、投影レンズ741の物面付近に配置して、投影レンズ741のフィールドレンズとして用いた。
図6は、高速偏向器と結像レンズと中間電極との組み合わせユニットの構成を示す図である。中間電極750は、例えば40kVの第3の電圧を印加される第3の高圧基準管703と、例えば5kVの第4の電圧を印加される第4の高圧基準管704との間に、第3の高圧基準管703及び第4の高圧基準管704に接することなく配置され、例えば5kV〜20kVの中間電圧を印加される。
高速偏向器749は、二次ビームの偏向を高精度で行うため、上述のように12極子構造を用いている。12極は、光軸に対して周方向に等角度間隔で配置されており、制御装置2によって個別に電圧を印加することが可能である。第4の高圧基準管によって第4の電圧V4に重畳された高速偏向用の電源及びアンプを用いることで、高速偏向器749の電圧精度を向上させている。
投影レンズ741には、ダブルギャップ型磁場レンズを採用している。上側コイル7411と下側コイル7412の磁束方向を逆にすることで、二次ビームの像をほぼ無回転で投影させることができる。また、上側コイル7411と下側コイル7412の磁束の比を変化させることで、像の回転を微調整し、S字歪と呼ばれる磁場レンズ特有の歪を低減することができる。また、この磁場レンズ用コイル7411、7412は、2配線方式であり、これによって一定電力で温度を安定化させることができる。
高速偏向器749は、投影レンズ741の像側焦点位置付近に配置されることが望ましい。
高速偏向器749は、試料Wの移動に追従するための偏向だけでなく、上述のような二次ビーム像の歪補正や、後述の位置変動補正も行うが、これらの機能は制御装置2によって本来の位置とのずれを元に算出された偏向場を重畳して印加することで実現される。
図3に戻って、位置変動補正について説明する。上述のように、試料Wはステージ装置50によって連続的に一定速度で移動し、高速偏向器749は、この試料Wの移動に追従して視野領域が移動するように二次ビームの偏向方向を変更するが、このとき、ステージ装置50による試料Wの移動に、意図しない位置変動が加わることがある。上述のように、視野領域の移動の一周期の間には、二次元イメージセンサ7611は常に試料Wの同一の部分の二次ビーム像を撮像しているが、試料Wに意図しない位置変動が加わると、二次元イメージセンサ7611の各画素に、試料Wの他の部分からの二次ビームが入射するというコンタミネーションが生じる。
上述のように、ステージ装置50は、サーボモータ、エンコーダ及び各種のセンサ(図示せず)を用いて、複数のテーブルを動作させることにより、ホルダ55に保持された試料WをX方向、Y方向及びZ方向(図1において上下方向)に、更に試料の支持面に垂直な軸線の回り方向(θ方向)に高い精度で位置決めする。このための構成として、ホルダ55にはミラー571が固定され、主ハウジング30の内壁にはミラー571にレーザビームを照射して、ミラー571から反射して戻ってきたレーザが入射されるレーザ干渉計572が設けられる。
本実施の形態の検査装置1では、このホルダ55に固定されたミラー571とレーザ干渉計572を位置変動検出手段として用いて、位置変動補正を行う。レーザ干渉計572にて検出された試料Wの意図しない位置変動は、制御装置2に入力される。制御装置2には、試料Wが意図しない位置変動をせずに移動した場合の高速偏向器749による二次ビームの偏向方向の変更が指示されているが、制御装置2は、本来の試料Wの移動だけでなく、レーザ干渉計572にて検出された試料Wの意図しない位置変動も考慮して、高速偏向器749による二次ビームの偏向方向を決定して、高速偏向器749を制御する。なお、制御装置2に、試料Wが意図しない位置変動をせずに移動した場合の高速偏向器749による二次ビームの偏向方向の変更が指示されていなくてもよく、この場合には、制御装置2は、レーザ干渉計572にて検出された、試料Wの意図しない位置変動も含む試料W(を保持したホルダ55)の位置を検出して、この位置に基づいて高速偏向器749による二次ビームの偏向方向を決定して、高速偏向器749を制御してもよい。
以上のように、本実施の形態の電子光学装置70を含む検査装置1では、試料Wが移動している間に、試料Wの移動に同期して、試料Wの同じ部分の二次ビームが二次元イメージセンサ7611の同じ部分に入射するように、二次ビームを偏向する高速偏向器749が、試料Wの意図しない位置変動によるコンタミネーションを補正する位置変動補正器としても機能するので、二次元イメージセンサ7611では精度の高い二次ビーム像が得られる。
なお、第1の電圧V1、第2の電圧V2、第3の電圧V3、第4の電圧V4、検出電圧V5は、上記の例に限られず、例えば、V1<V2、V2=V3、V3>V4、V4=V5の関係であってもよく、すなわち、第1の電圧V1を第2の電圧V2及び第3の電圧V3より小さくしてもよい。一次光学系72における第1の高圧基準管701に印加する電圧V1を小さくすると、第1の高圧基準管701における放電リスクを低減できる。即ち、一次光学系は、第1の高圧基準管701内にアパーチャ723があり、このアパーチャ723において電子銃721からのエミッションの50%以上を吸収するので、リーク電流量は大きく、また、リーク電流量の変動も大きい。これに対して、第1の高圧基準管701に印加する第1の電圧V1を小さくすることで、放電のリスクを低減ないし解消できる。
また、上記の検査装置1において、第4の高圧基準管704に印加する第4の電圧V4を調整する電圧制御装置を設け、第4の電圧V4をV5と同調して可変としてもよい。このとき、第4の電圧V4(とV5)は、例えば、±1kVの範囲で調整可能としてよい。このように第4の電圧V4(とV5)を調整することで、検出器761への入射する二次ビームの電子エネルギー(入射エネルギー)を調整できることになる。これによって、二次元イメージセンサ7611のゲイン(すなわち、二次ビーム像の輝度)を調整できる。
<ソフトウェアによる再検査シミュレーション>
図3に戻って、上述したように、電子光学装置70は、ステージ装置50に保持された試料である試料Wに面ビームである一次ビームを照射して、それによって試料Wから発生した二次ビームを検出器761に導く。検出器761は、図示しない二次元イメージセンサによって二次ビームを捕捉して二次ビーム像の画像を生成し、画像処理部763に出力する。
画像処理部763は、検査処理装置として、検出器761から入力された二次ビーム像に対して、像処理フィルタ(平均値(Mean)フィルタ、ガウシアン(Gaussian)フィルタ、中央値(Median)フィルタ等)を用いて画像処理を施し、シェーディング補正をした上で、セル−セル比較、ダイ−ダイ比較、ダイ−データベース比較等の比較処理によって検査を行う。具体的には、画像処理部763は、比較処理において差分が所定の閾値を超える部分を欠陥として検出して、欠陥画像を生成する。
画像処理部763は、設定された検査条件パラメータに従って検査を行う。この検査条件パラメータには、セル−セル比較の場合のセル周期、ダイ−ダイ比較の場合のエッジ許容値、欠陥を検出するための閾値、画像処理フィルタ、シェーディング補正値、ダイ−データベース比較のパラメータ、検出したくない欠陥の分類情報が含まれる。なお、この検出したくない欠陥の分類情報は、検査後にSEMでの撮像を行って分類した結果として得られる。
ところで、試料に生じている欠陥を検査する検査装置において、真の欠陥を確実に検出し、かつ、欠陥でない箇所(疑似欠陥)を検出しないようにするためには、検出閾値等の検査条件を変えながら何度も検査を繰り返し、最適な検査条件を決定する必要がある。
しかしながら、検査を繰り返すと、検査条件の最適化に時間がかかるという問題がある。また、検査を繰り返すことで、試料にダメージが蓄積したり、試料が汚染されたりするといった問題も生じる。
そこで、試料に与えるダメージや試料の汚染を回避して少ない検査回数で検査条件を決定するために、本実施の形態の検査装置1には、シミュレーション装置200が設けられている。画像処理部763は、欠陥画像とそれを生成するのに用いた未処理画像(二次ビーム像)をシミュレーション装置200に出力する。
シミュレーション装置200は、シミュレーション処理部201と、入力部202と、モニタ203と、を備えており、例えば入力手段とモニタと演算処理ユニット、メモリ、記憶装置、入出力ポート等を備えた汎用のコンピュータによって構成される。シミュレーション処理部201は、本実施の形態の検査結果レビュープログラムが演算処理ユニットによって実行されることで実現される。この検査結果レビュープログラムは、ネットワークを通じてシミュレーション装置200に提供されてもよく、シミュレーション装置200が記憶媒体に記憶された検索結果レビュープログラムを読み出すことでシミュレーション装置200に提供されてもよい。このようにして提供された検索結果レビュープログラムは、シミュレーション装置200の記憶装置に記憶され、そこから読み出されて実行されることで、シミュレーション処理部201が構成される。
シミュレーション処理部201は、検査装置100から入力した二次ビーム像に対して、検査条件パラメータを変更しながら、再検査シミュレーションを行い、最適な検査条件パラメータを決定する。シミュレーション処理部201が再検査シミュレーションのために変更する検査条件パラメータには、セル−セル比較の場合のセル周期、ダイ−ダイ比較の場合のエッジ許容値、欠陥を検出するための閾値、画像処理フィルタ、シェーディング補正値、ダイ−データベース比較のパラメータ、検出したくない欠陥の分類情報等が含まれる。
図17は、シミュレーション装置200の動作を示すフロー図である。まず、電子光学装置70は検査を行い、画像処理部763は検査結果をシミュレーション装置200に出力する(ステップS331)。このとき、画像処理部763は、検査結果とともに、その検査結果を得るのに用いた未処理画像(二次ビーム像)、及び検出したくない欠陥の分類情報もシミュレーション装置200に出力する。シミュレーション装置200では、シミュレーション処理部201がこの検査結果を読み込んで、欠陥画像を生成し、モニタ203に表示する(ステップS332)。
次に、シミュレーション処理部201は、検査条件を変更して再検査シミュレーションを実行し(ステップS333)、それによって得られた再検査結果を出力する(ステップS334)。この再検査シミュレーションでは、電子光学装置70における検査と同様に、検出したくない欠陥の分類情報にある欠陥については検出しないようにする。シミュレーション処理部201は、ステップS334で得られた再検査結果を読み込んで、欠陥画像を生成し、モニタ203に出力する(ステップS335)。
次に、この再検査によって得られた欠陥画像を評価することで、検査条件が最適であるかが判断され(ステップS336)、検査条件が最適でなければ(ステップS336でNO)、ステップS333に戻って、検査条件を変更して再検査シミュレーションを実行する(ステップS333)。このように検査条件パラメータを変えながらの再検査シミュレーションを繰り返して、検査条件が最適になったときは(ステップS336でYES)、その最適になった検査条件を電子光学装置70で採用する検査条件として決定し(ステップS337)、処理を終了する。シミュレーション処理部201は、検索条件が最適であるか否かは、例えば、入力部202からの入力に基づいて判断してよい。
以上のように、本実施の形態によれば、電子光学装置70において実際の検査を行ったうえで、シミュレーション装置200で電子光学装置70から出力された欠陥画像及び未処理画像を用いて、検査条件を変えながら検査結果レビューソフトウェアによって再検査シミュレーションを行うので、少ない検査回数で検査条件の最適化が可能となり、検査条件を最適化するための時間を短縮できる。また、電子光学装置70による実際の検査を繰り返す必要がないので、試料へのダメージを減少させることができ、試料の汚染を減少できる。
(第1の実施形態)
次に、図3および図4に示したウィーンフィルター726について詳しく説明する。ウィーンフィルター726は、そこで発生する直交する平行磁界と平行電界の効果により、一次光学系72からの一次ビームを偏向して下方の試料Wに導くとともに、試料Wで発生した二次ビームを上方の検出器761に導くものである。まずは、比較例を説明する。
図13は、比較例に係るウィーンフィルター726’の断面図である。図13(a)に示すウィーンフィルター726’は、複数の電磁極90’と、個々の電磁極90’に巻回されたコイル(図示せず)と、シールド部材91’とを有する。
シールド部材91’は、電磁極90’とコイルを覆うように配置され、シールド部材91’内に磁界及び電界を閉じ込める。シールド部材91’には、入射孔92’と、中間孔93’と、出射孔94’とが形成されている。入射孔92’に一次ビームが入射する。この一次ビームは電磁極90’が発生する磁界と電界の作用で偏向し、中間孔93’から出射する。さらに、試料Wから発生した二次ビームは中間孔93’に入射し、直進して出射孔94’から出射する。
ここで、図3及び図4に示すように一次ビームは斜め上方から(より正確には、鉛直方向とはずれた角度から)入射されるので、入射孔92’は一次ビームの入射角度に沿った斜めの孔となっている。そして、比較例においては、入射孔92’の出口面92b’は水平面上にある。
図13(b)に示すように、入射孔92’に入射される一次ビームは空間的な拡がりを持っている。ここでは、一次ビーム光軸を中心に30°ピッチで配置されたビームB1〜B4が、一次ビーム光軸と平行に入射孔92’からウィーンフィルター726’の内部に入射する様子を示す。
図14は、比較例に係るウィーンフィルター726’において、図13(b)に示した一次ビームB1〜B4の電界方向及び磁界方向の、一次光学系の光軸に対する相対距離の推移を示す図である。同図の横軸は一次光学系の光軸の進行方向距離である。また、同図の縦軸は、一次光学系の光軸との相対位置である。
図示のように、電界方向に対しては、入射孔92’の中心から外れた位置から一次光学系の光軸と平行に入射した一次ビームB1〜B4は、入射孔92’を通過した後一次光学系の光軸に近づき、やがて特定の距離zoで一点に集束する。しかしながら、磁界方向に対しては、入射孔92’の中心から外れた位置から一次光学系の光軸と平行に入射した一次ビームB1〜B4は入射孔92’を通過後一旦一次光学系の光軸から遠ざかり、中間孔93’の手前付近から一転一次光学系の光軸に近づくようになる。このような一次ビームの軌道が何故発生するかについては、まだ明確にはわかっていないが、おそらく、一次ビーム入射側に位置する電磁極90’の電位(正に大)とシールド部材91’の間に発生する電界(ポテンシャルの変化)により、軌道の位置による偏向特性に差が生じてこのような結果になっているものと思われる。いずれにせよ、このような極端な非スティグマティックな集束特性は、光学設計の難易度が増し、また、この非スティグマティックな集束特性を補正するための新たな光学要素を追加する必要が生じる。
そこで、本実施形態では次のようにする。
図8は、本実施形態に係るウィーンフィルター726の断面図である。図8(a)に示すように、ウィーンフィルター726は、複数(8つ以上)の電磁極90と、電磁極90を覆うように配置されたシールド部材91とを有する。電磁極90は一次ビームを偏向させ、二次ビームを直進させるための磁界及び電界を発生させる。シールド部材91は、例えばパーマロイCのような軟磁性体から成る。シールド部材91には、入口面92a及び出口面92bを有する入射孔92と、中間孔93と、出射孔94とが設けられる。なお、入射孔92に物理的な入口面92a及び出口面92bがあるわけではないが、仮想的な面を想定してこのように呼ぶ。入射孔92は、一次ビームを通過させる用途として1か所あれば良いが、電場および磁場の対称性を考慮して、二次ビームの光軸に対して回転対称に複数か所開いていても良い。
図9は、複数の電磁極90を模式的に示す斜視図である。本ウィーンフィルター726は二次ビームの光軸に対して周方向に等間隔に並んだ8つの導電材料かつ軟磁性材料からなる電磁極90から構成される。また、各電磁極90にはコイル90aが巻回されている。個々の電磁極90は、それぞれ異なる電位を印加可能であり、一次ビームが入射する方向を基準として、個々の電磁極90の配置位相角の余弦に電圧VEをかけた電位を各電磁極90に印加すると、電磁極90で囲まれた二次ビーム光軸近傍に均一平行電界が発生する。また、個々のコイル90aには、それぞれ異なる電流を与える事が可能であり、一次ビームが入射する方向を基準として、個々の電磁極90の配置位相角の正弦に電流IBをかけた電流を各コイル90aに与える事で、先述の均一平行電界と直交する均一平行磁界が二次ビームの光軸近傍に発生する。この電界及び磁界により、8つの電磁極90の内側の空間(以下、ビーム通過孔90bという)を通る一次ビームが偏向される。さらに、電圧VEと電流IBを調整する事によって、入射孔92から入射した一次ビームが偏向されて中間孔93から出射し、かつ中間孔93から入射した二次ビームが直進して、出射孔94から出射する。
図10は、シールド部材91の断面を斜めから見た図を模式的に示す図である。図8(a)および図10を参照して、シールド部材91の形状について説明する。なお、本実施形態では、一次ビームが斜め45度上方から(より詳しくは、鉛直方向から45度傾けた角度)入射されることを想定している。
シールド部材91は、シールド部材91中の磁束密度がその材料の飽和磁束密度の例えば半分以下で使用するように厚さや配置を考慮して設計される。また、電磁極90で発生される均一平行電界と均一平行磁界が限られた領域にのみ存在するようにするため、シールド部材91の電子の出入孔に於いては、電子軌道に沿って一定度の長さを持つシールド形状にする事が肝要である。
シールド部材91下部は、中央が鉛直上向きに屈曲しており、この屈曲した面91aにより中間孔93が形成される。同じ中間孔93形状は、シールド部材91下部の中央を鉛直下向きに屈曲させても、シールド部材91下部の板厚を大きくしても実現できるが、いずれも電磁極90との距離が小さくなり、シールド部材91内の磁束密度が大きくなるので、本構成が望ましい。
シールド部材91上部の上面に於いて、一次ビームの軌道と概ね直交する面91bを形成し、そこに入射孔92を形成する。さらに、シールド部材91上部の上面の中央を鉛直下向きに屈曲させ、この屈曲した面91cに出射孔94が形成される。面91bは、一次ビームの軌道に沿ったシールドの長さが例えば入射孔92の直径の5倍以上あれば、一次ビームとの交差角が概ね直角でなくても構わない。
シールド部材91上部の下面は、ほぼ鉛直方向の面91dを形成し、そこに入射孔の出口面92bが設けられる。鉛直方向の面の上端は水平方向に屈曲して延び、その後鉛直下向きに伸びている。
入射孔92の入口面92aは一次ビームと直交しており、より詳しくは水平方向から45度傾けて設けられる。また、入射孔92は一次ビームの入射角度に合わせて、斜め45度に傾いている。また、本実施形態では、比較例と異なり、入射孔92の出口面92bは非水平であり、より詳しくは鉛直である。この出口面92bから出射した一次ビームが、電磁極90によって発生した電界及び磁界内に入射する。
中間孔93は、電磁極90におけるビーム通過孔90bの下方にあり、電磁極90により偏向された一次ビームが、ウィーンフィルター726の下方に置かれた試料Wに向かって出射する。また、中間孔93には試料Wから発生した二次ビームが入射する。二次ビームは、電磁極90が発生する平行電界によるクーロン力と平行磁界によるローレンツ力の釣り合いによって、偏向されることなく鉛直上向きに進む。
出射孔94は、電磁極90におけるビーム通過孔90bの上方にあり、二次ビームがウィーンフィルター726の上方に配置された検出器に向かって出射する。
なお、図8(b)に示すように、入射孔92に入射される一次ビームは空間的な拡がりを持っている。ここでは、一次ビーム光軸を中心に30°ピッチで配置されたビームB1〜B4が、一次ビーム光軸と平行に入射孔92の入口面92aからウィーンフィルター726の内部に入射する様子を示す。
図11は、本実施形態に係るウィーンフィルター726における一次ビームB1〜B4の電界方向及び磁界方向の、一次光学系の光軸に対する相対距離の推移を示す図である。同図の縦軸および横軸は図14と同様である。本実施形態によれば、ビームB1〜B4のいずれも、電界方向及び磁界方向のいずれにも、特定の距離zoで集束している。
このように、比較例(図13および図14)と本実施形態(図8〜図11)とで集束特性が異なる理由は、シールド部材91の形状が異なり、そのためシールド部材91内に形成される電位分布、電界、磁界、並びにその端面への入射角が異なるためである。より詳しく説明する。
裏克己著「ナノ電子光学」(共立出版)163〜165ページにあるとおり、磁界端面へ非垂直に電子ビームが入射すると、電子ビームに対して、入射角に応じて、集束する方向に力が作用したり、発散する方向に力が作用したりする。同様な事が電界端面に於いても起こり得る。ただし、端面斜め入射により発生する力は、比較例に於いて、電界方向に発散方向、磁界方向に集束方向であり、軌道計算の結果とは逆方向である。よって、別の効果、例えば、電子ビームの持つポテンシャルとウィーンフィルター内の軌道周辺の空間電位の違いによって発生する力、が支配的に作用している可能性もある。
いずれにせよ、シールド部材91の形状、特に入射孔92における出口面92bの角度(つまり、電磁極90によって発生した電界及び磁界への入射角度)は、数値解析を利用して、入射される一次ビームの電界方向の集束特性、及び、磁界方向の集束特性に応じて適宜定めればよい。より具体的には、出口面92bの角度は、電界方向の集束特性と、磁界方向の集束特性とのずれが減少するような(望ましくは一致するような)角度に設定される。言い換えると、出口面92bの角度は、電界方向の集束位置と、磁界方向の集束位置とのずれが減少するような(望ましくは一致するような)角度に設定される。
図12は、変形例に係るウィーンフィルター726の断面図であり、図8との相違点を中心に説明する。本変形例では、一次ビームが斜め35度上方から入射されることを想定している。ウィーンフィルター726においても、入射孔92における出口面92bは非水平である。
シールド部材91上部の下面の形状、および、シールド部材91上部の上面の形状は、図8とほぼ同様であるが、面91bの傾斜角度が異なる。
シールド部材91上部の下面は、ほぼ55°に傾斜した面91dを形成し、そこに入射孔の出口面92bが設けられる。傾斜した面91dの上端は水平方向に延び、その後鉛直下向きに屈曲している。
入射孔92の入口面92aは一次ビーム入射角とほぼ直交するように傾斜して設けられる。また、入射孔92は一次ビームの入射角度に合わせて、斜め35度になっている。入射孔92の出口面92bはやはり傾いており、この出口面92bから出射した一次ビームが、電磁極90によって発生した電界及び磁界に入射される。
このように、一次ビームが45以外の角度で入射される場合も、その入射角度に合わせてシールド部材91の形状、特に入射孔92における出口面92bの角度を上述したように適宜定めればよい。
このように、本実施形態では、入射孔92の出口面92bを非水平とし、一次ビームの入射角度に合わせて適切な角度に設定する。すると、入射孔92から一次ビームの光軸と平行に入射した一次ビームは、磁界方向と電界方向でほぼ同じ進行距離で一点に集束する。したがって、新たな光学要素を付加することなく、一次ビームの二方向集束を達成できる。また、シールド部材の形状を変化させるだけであり、電極や磁極の形状を非対称に変化させる必要がないので、より簡便に二方向集束が実現でき、同時に二次ビームの直進性を損ないがちな要因がない。
本実施形態で、8極以上の電磁極90で構成する理由は、単に、ビーム通過孔90bに亘って広い範囲で均一平行電界と均一平行磁界を形成する、というだけではない。単純に直交する均一平行電界と均一平行磁界を与えただけでは、二次ビームに於いて、例えビーム直進条件に調整してビームを通過させても、電界方向のみに集束作用が発生する。これは、通過ビームのポテンシャルと、空間の電位分布の差異によって発生する作用であり、なくす事はできない。これにより、ウィーンフィルターの電子ビーム進行方向下流側に開口アパーチャを配置する際、電界方向と磁界方向で最適位置が異なってしまうため、最適位置に配置できないという問題があった。
本実施形態の電磁極90であれば、四極子電界や四極子磁界をビーム通過孔90bに重畳して発生させる事が可能であり、発生した四極子電界や四極子磁界によって、電界方向のビーム集束作用を緩和させ、同時に磁界方向に新たに集束作用を付与する事で、直進通過ビームの二方向集束が達成でき、開口アパーチャも最適位置に配置可能となる。
重畳して発生させる四極子電界や四極子磁界は、両方発生してもよいが、どちらか片方でも二方向集束は達成可能である。
(第2の実施形態)
次に説明する第2の実施形態は、より具体的な実施例である。
図15は、電子発生源としての電子銃721、一次光学系72、二次光学系74および検出器761の概略構成を示す図である。
一次光学系72は照射系であり、ガンレンズ1021(図3のレンズ722に対応)、E×Bフィルタ1022(ビームセパレータ、図3のウィーンフィルター726に対応)、対物レンズ1023(図3のレンズ727に対応)およびカソードレンズ1024などから構成される。
ガンレンズ1021は、電子銃721からの光電子(以下、1次ビームという)の形状を5倍程度に拡大するとともに、1次ビームを20〜30kVまで加速する。E×Bフィルタ1022は光電子を45度偏向して、1次ビームをEUVマスクなどの試料Wに向ける。対物レンズ1023は光電子の形状を1/5倍程度に縮小する。カソードレンズ1024は1次ビームを減速する。以上により、ランディング電圧0〜1kVで試料Wの表面に1次ビームが照射される。
二次光学系74は投影系であり、カソードレンズ1024、対物レンズ1023、E×Bフィルタ1022、転送レンズ1031(図3のレンズ740に対応)、開口絞り1032(図3のNAアパーチャ742に対応)、ズームレンズ1033(図3のレンズ741に対応)、投影レンズ1034、静電偏向器1035(図3の高速偏向器749に対応)などから構成される。なお、カソードレンズ1024、対物レンズ1023およびE×Bフィルタ1022は一次光学系72と共用される。
カソードレンズ1024は試料Wから放出された電子(以下、2次放出電子という)を20〜30kVに加速する。対物レンズ1023は2次放出電子による像(以下、電子像という)を5倍程度に拡大する。E×Bフィルタ1022は2次放出電子を直進させる。転送レンズ1031は電子像を2倍程度に拡大する。ズームレンズ1033は電子像を回転角度一定で2.29〜5倍(可変)に拡大する。投影レンズ1034は電子像を10倍程度に拡大する。静電偏向器1035は電子像を偏向する。以上により、2次放出電子は検出器761上で結像し、試料Wの電子像が検出される。
図16は、二次光学系74における2次放出電子の軌道を模式的に示す図である。図示のように、軸上の2次放出電子は、ズームレンズ1033の倍率に関わらず検出器761の中心に結像する。一方、軸外の2次放出電子は、検出器761上のズームレンズ1033の倍率に応じた位置に結像する。より具体的には、倍率が大きいほど、検出器761の中心から離れた位置に結像する。
ここで、検出器761におけるセンサとして、検査の高スループット化にはCMOSセンサが好適である。この場合、所定時間継続してCMOSセンサ上に2次放出電子を結像させる必要がある。そこで、本検査装置は以下に説明するイメージトラッキング機能を搭載する。
図17A〜図17Dは、イメージトラッキング機能を説明する図である。試料Wはステージ装置50(より正確には、ステージ装置50上のホルダ)に保持され、同図ではステージ装置50が左方向に移動する例を示している。ただし、照射領域50aは静止している。また、検出器761の一部が投影領域761aであるとする。
図17Aに示すように、試料W上の画像取得領域W1の撮像開始時には、画像取得領域W1は検出器761における投影領域761aの右側下方に位置している(より正確には、画像取得領域W1の中心は投影領域761a中心の右側下方に位置している)。そこで、2次放出電子が左に偏向するよう、静電偏向器1035の左側の電極35aに正電圧(例えば60V)を、右側の電極35bに負電圧(例えば−60V)を印加する。これにより、画像取得領域W1からの2次放出電子は検出器761中心に結像する。
ステージ装置50が左に移動するにつれて、電極35a,35bに印加する電圧の絶対値を小さくしていく。2次放出電子の偏向量を小さくするためである。
図17Bに示すように、ステージ装置50がさらに左に移動して、画像取得領域W1が投影領域761aの直下に位置した場合、電極35a,35bに印加する電圧を0Vとする。2次放出電子を偏向する必要がないためである。
ステージ装置50がさらに左に移動するにつれて、左側の電極35aには負電圧を、右側の電圧35bには正電圧を印加し、徐々にその絶対値を大きくしていく。2次放出電子を右に偏向させるためである。
図17Cに示すように、画像取得領域W1の撮像終了時には、電極35a,35bに印加される電圧の絶対値が最大となり、例えば左側の電圧に−60V、右側の電圧に60Vが印加される。
以上のようにして、ステージ装置50が移動しても、試料Wにおける画像取得領域W1は検出器761の投影領域761a上に固定して結像される。
図17Cにおいて画像取得領域W1の撮像が終了すると、隣接する画像取得領域W2の撮像が開始される。そのため、図17Dに示すように、電極35a,35bに印加する電圧の符号を高速に切り替えて図17Dと同様の電圧とする。
このように、ステージ装置50の移動に合わせて静電偏向器1035の電極35a,35bに印加する電圧を制御することで電子像を偏向し、検出器761上の一定の位置に所定期間継続して電子像を結像させることができる。なお、ステージ装置50の移動量と、電極35a,35bに印加すべき電圧との関係は予め実験や計算で把握しておく。そして、図1の装置2がステージ装置50の移動と電圧の制御とを連動させて行えばよい。
このようなイメージトラッキングにおいて、結像される電子像に歪が発生しないようにするためには、静電偏向器1035の電極35a,35bに印加する電圧のみならず、2次放出電子がE×Bフィルタ1022を正確に直進することも重要であり、そのためにはE×Bフィルタ1022においてウィーン条件を確立させる必要がある。
図18Aおよび図18Bは、E×Bフィルタ1022のそれぞれ模式的断面図および模式的上面図である。また、図8Cは、E×Bフィルタ1022における電磁極の模式的断面図である。
E×Bフィルタ1022は、例えば等間隔に並んだ8個の電磁極1221a〜1221gと、これらを覆う例えば純鉄製のヨーク1222とを有する。ヨーク1222の上面および下面には穴1223が形成されており、ヨーク1222の上面の穴1223、電磁極1221a〜1221gの間およびヨーク1222の下面の穴1223をこの順に1次ビームが通過するとともに、ヨーク1222の下面の穴1223、電磁極1221a〜1221gの間およびヨーク1222の上面の穴1223をこの順に2次放出電子が通過する。
電磁極1221a〜1221gに電圧が印加されることで、電子の通過経路に電界が形成される。また、電磁極1221a〜1221gにはコイル1224が巻回されており、電流が供給されることで、電子の通過経路に磁界が形成される。適切な電界および磁界を形成することにより、1次ビームを45度偏向させ、かつ、2次放出電子を直進させることができる。
そのためには、電子の通過経路に沿って互いに等しい電界および磁界を形成してウィーン条件を確立する必要がある。
図19Aおよび図19Bは、図18Aにおける破線部分(E×Bフィルタ1022の中心Aから下端B)の正規化した電界および磁界を模式的に示す図である。図19Aに示すように、電界および磁界が一致しない場合、ウィーン条件が確立せず、2次放出電子が直進しない。これに対し、図19Bに示すように、電界および磁界をできるだけ一致させることでウィーン条件が確立し、2次放出電子を直進させることができる。
そのためには、E×Bフィルタ1022の形状、例えばヨーク1222の形状を適切に設計すればよい。より具体的には、図18Aに示すように、ヨーク1222の形状として、上面および下面の穴1223の径D、上面および下面の厚さt、上面あるいは下面の電磁極1221a〜1221gとの距離Lの少なくとも1つを調整することができる。ヨーク1222における穴1223の近傍はシールドフランジとも呼ばれ、シールドフランジを適切に設計すればよいとも言える。
実際には、穴1223の径D、電界および磁界を計測あるいはシミュレーションしながら厚さtおよび距離Lを試行錯誤することでこれらを最適化することができる。例えば、電磁極1221a〜1221gに印加される電圧により距離Lをそれほど小さくできないため、距離Lを固定し、最適な穴の径Dおよび厚さtを探ってもよい。
電界と磁界とが完全に一致するのが望ましいが、ほぼ一致していればよく、その基準として、特定の位置における電界と磁界との差の最大値が所定値以下となるようにしたり、電界と磁界との差の積算値が所定値以下となるようにしたりすればよい。
このように、本実施形態では、E×Bフィルタ1022の形状、特にヨーク1222の形状を設計することで、精度よく1次ビームを45度偏向し、かつ、2次放出電子を直進させることができる。その結果、検出器761に結像される電子像の歪を抑えることができる。このようなE×Bフィルタ1022を用いることで、検出器761としてCMOSセンサを適用することができ、検査のスループットを向上できる。
図20Aおよび図20Bは、検出器761に投影される電子像の歪を計算したシミュレーション結果である。図20Aは、図17Bに示すように、画像取得領域W1が投影領域761aの直下に位置し、静電偏向器1035による偏向がない場合である。図示のように、ほぼ歪はない。図20Bは、図17Aに示すように、画像取得領域W1が投影領域761aの右側下方に位置し、静電偏向器1035により2次放出電子が左に偏向される場合である。図示のように画像取得領域W1が投影領域761aの直下にない場合でも歪を小さくできている。
本実施形態に基づいて、以下のような偏向器(E×Bフィルタ、ウィーンフィルタ)、より具体的には、斜め上方から入射した一次ビームの向きをほぼ鉛直下方向に変えて出射し、かつ、鉛直上向きに入射した二次ビームの向きをほとんど変えずに出射させる偏向器が想到される。
[1]
コイル(1224)が巻回された複数の電磁極(1221a〜1221g)と、
穴(1223)が設けられ、前記複数の電磁極(1221a〜1221g)を覆うヨーク(1222)と、を有し、
前記複数の電磁極(1221a〜1221g)の間および前記ヨーク(1222)の穴(1223)を電子が通過する偏向器(1022)であって、
前記電磁極(1221a〜1221g)に印加される電圧によって生じる電界と、前記コイル(1224)に流れる電流によって生じる磁界と、が前記電子の通過経路に沿って略一致する形状である偏向器(1022)。
[2]
前記電磁極(1221a〜1221g)に印加される電圧によって生じる電界と、前記コイル(1224)に流れる電流によって生じる磁界と、が前記電子の通過経路に沿って略一致するよう、前記ヨーク(1222)の穴(1223)の径、前記ヨーク(1222)と前記電磁極(1221a〜1221g)との距離、前記ヨーク(1222)の厚さが設計される、[1]記載の偏向器(1022)。
上述した実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明を実施できることを目的として記載されたものである。上記実施形態の種々の変形例は、当業者であれば当然になしうることであり、本発明の技術的思想は他の実施形態にも適用しうることである。したがって、本発明は、記載された実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲によって定義される技術的思想に従った最も広い範囲とすべきである。