JP6658026B2 - フィルタ生成装置、フィルタ生成方法、及び音像定位処理方法 - Google Patents
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Description
本発明は、フィルタ生成装置、フィルタ生成方法、及び音像定位処理方法に関する。
音像定位技術として、ヘッドホンを用いて受聴者の頭部の外側に音像を定位させる頭外定位技術がある。頭外定位技術では、ヘッドホンから耳までの特性をキャンセルし、ステレオスピーカから耳までの4本の特性を与えることにより、音像を頭外に定位させている。
頭外定位再生においては、2チャンネル(以下、chと記載)のスピーカから発した測定信号(インパルス音等)を聴取者本人の耳に設置したマイクロフォン(以下、マイクとする)で録音する。そして、インパルス応答から頭部伝達関数を算出して、フィルタを作成する。作成したフィルタを2chのオーディオ信号に畳み込むことにより、頭外定位再生を実現することができる。
特許文献1には、個人化された室内インパルス応答のセットを取得する方法が開示されている。特許文献1では、聴取者の各耳の近くにマイクを設置している。そして、スピーカを駆動した時のインパルス音を、左右のマイクが録音する。
従来、スピーカなどの音源が設置された専用の測定室、及び専用の機材を用いて測定が行われていた。しかしながら、昨今のメモリ容量の増大や演算速度の高速化に伴い、受聴者がパーソナルコンピュータ(PC)等を用いて、インパルス応答測定を行うことが可能となっている。受聴者がPC等を用いてインパルス応答測定を行う場合、以下に示す問題点がある。
左右のバランスのよい音場を再生する適切なフィルタを生成するためには、左右の伝達特性のタイミングを揃えて切り出す必要がある。左右のスピーカからのインパルス音を左右のマイクでそれぞれ測定して、伝達特性を取得する。そして、左右の伝達特性を同じ時刻から等しいフィルタ長で切り出すことで、フィルタ係数を求めることができる。
PC等の汎用機器を音響デバイスとして用いた場合、音響デバイスの遅延量は、測定毎に毎回変化してしまう。これは、入力と出力が同期した音響デバイスをPC等の汎用機器に接続して用いた場合であっても同様である。すなわち、左のスピーカを用いた測定と、右のスピーカを用いた測定とで、測定開始から音がマイクに到達するまでの時間が異なってしまう場合がある。したがって、タイミングを揃えて切り出すことが困難になる。
また、測定する環境が受聴者の自宅などの場合、測定環境が左右非対称となることがある。例えば、部屋の形状が左右非対称である場合は、家具などの配置が左右非対称である場合がある。また、受聴者がPC等を利用して測定した場合には、ディプレイやPC等の本体が受聴者周辺に置かれる場合がある。さらに、受聴者の耳にマイクを装着した場合、左右の耳介の形状の違いにより、伝達特性が大きく異なる信号波形となってしまう。すなわち、左右の伝達特性の波形が大きく異なってしまい、左右同じタイミングで切り出すことが困難になってしまう。よって、適切にフィルタを生成することができず、左右のバランスの良い音場を得ることができないおそれがある。
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、適切なフィルタを生成することができるフィルタ生成装置、フィルタ生成方法、及び音像定位処理方法を提供することを目的とする。
本発明の一態様にかかるフィルタ生成装置は、左右のスピーカと、前記左右のスピーカから出力された測定信号を収音して、収音信号を取得する左右のマイクと、前記収音信号に基づいて、前記左右のスピーカから前記左右のマイクまでの伝達特性に応じたフィルタを生成するフィルタ生成部と、を備えたフィルタ生成装置であって、前記フィルタ生成部は、前記左のスピーカから前記左のマイクまでの第1の伝達特性と、前記右のスピーカから前記右のマイクまでの第2の伝達特性とのそれぞれにおいて、振幅の絶対値が最大となる時刻を用いて、直接音到達時刻を探索する探索部と、前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の前記振幅の符号が一致するか否かを判定する判定部と、前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の前記振幅の前記符号が異なる場合、切り出しタイミングを訂正する訂正部と、前記訂正部により訂正された切り出しタイミングで、前記伝達特性を切り出すことで、前記フィルタを生成する切り出し部と、を備えたものである。
本発明の一態様にかかるフィルタ生成方法は、左右のスピーカと、左右のマイクとの間に伝達特性を用いてフィルタを生成するフィルタ生成方法であって、前記左のスピーカから前記左のマイクまでの第1の伝達特性と、前記右のスピーカから前記右のマイクまでの第2の伝達特性とのそれぞれにおいて、振幅の絶対値が最大となる時刻を用いて、直接音到達時刻を探索する探索ステップと、前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の振幅の符号が一致するか否かを判定する判定ステップと、前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の前記振幅の前記符号が異なる場合、切り出しタイミングを訂正する訂正ステップと、前記訂正された切り出しタイミングで、前記伝達特性を切り出すことで、前記フィルタを生成するステップと、を備えたものである。
本発明によれば、適切なフィルタを生成することができるフィルタ生成装置、フィルタ生成方法、及び音像定位処理方法を提供することができる。
本実施の形態にかかるフィルタ生成装置で生成したフィルタを用いた音像定位処理の概要について説明する。ここでは、音像定位処理装置の一例である頭外定位処理について説明する。本実施形態にかかる頭外定位処理は、個人の空間音響伝達特性(空間音響伝達関数ともいう)と外耳道伝達特性(外耳道伝達関数ともいう)を用いて頭外定位処理を行うものである。本実施形態では、スピーカから聴取者の耳までの空間音響伝達特性、及びヘッドホンを装着した状態での外耳道伝達特性を用いて頭外定位処理を実現している。
本実施の形態では、ヘッドホン装着状態でのヘッドホンスピーカユニットから外耳道入口までの特性である外耳道伝達特性が利用されている。そして、外耳道伝達特性の逆特性(外耳道補正関数ともいう)を用いて畳み込み処理を行うことで、外耳道伝達特性をキャンセルすることができる。
本実施の形態にかかる頭外定位処理装置は、パーソナルコンピュータ、スマートホン、タブレットPCなどの情報処理装置であり、プロセッサ等の処理手段、メモリやハードディスクなどの記憶手段、液晶モニタ等の表示手段、タッチパネル、ボタン、キーボード、マウスなどの入力手段、ヘッドホン又はイヤホンを有する出力手段を備えている。
実施の形態1.
本実施の形態にかかる音場再生装置の一例である頭外定位処理装置100を図1に示す。図1は、頭外定位処理装置のブロック図である。頭外定位処理装置100は、ヘッドホン43を装着するユーザUに対して音場を再生する。そのため、頭外定位処理装置100は、LchとRchのステレオ入力信号XL、XRについて、音像定位処理を行う。LchとRchのステレオ入力信号XL、XRは、CD(Compact Disc)プレーヤなどから出力されるオーディオ再生信号である。なお、頭外定位処理装置100は、物理的に単一な装置に限られるものではなく、一部の処理が異なる装置で行われてもよい。例えば、一部の処理がパソコンなどにより行われ、残りの処理がヘッドホン43に内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)などにより行われてもよい。
本実施の形態にかかる音場再生装置の一例である頭外定位処理装置100を図1に示す。図1は、頭外定位処理装置のブロック図である。頭外定位処理装置100は、ヘッドホン43を装着するユーザUに対して音場を再生する。そのため、頭外定位処理装置100は、LchとRchのステレオ入力信号XL、XRについて、音像定位処理を行う。LchとRchのステレオ入力信号XL、XRは、CD(Compact Disc)プレーヤなどから出力されるオーディオ再生信号である。なお、頭外定位処理装置100は、物理的に単一な装置に限られるものではなく、一部の処理が異なる装置で行われてもよい。例えば、一部の処理がパソコンなどにより行われ、残りの処理がヘッドホン43に内蔵されたDSP(Digital Signal Processor)などにより行われてもよい。
頭外定位処理装置100は、頭外定位処理部10と、フィルタ部41、フィルタ部42、及びヘッドホン43を備えている。
頭外定位処理部10は、畳み込み演算部11〜12、21〜22、及び加算器24、25を備えている。畳み込み演算部11〜12、21〜22は、空間音響伝達特性を用いた畳み込み処理を行う。頭外定位処理部10には、CDプレーヤなどからのステレオ入力信号XL、XRが入力される。頭外定位処理部10には、空間音響伝達特性が設定されている。頭外定位処理部10は、各chのステレオ入力信号XL、XRに対し、空間音響伝達特性を畳み込む。空間音響伝達特性はユーザU本人の頭部や耳介で測定した頭部伝達関数HRTFでもよいし、ダミーヘッドまたは第三者の頭部伝達関数であってもよい。これらの伝達特性は、その場で測定してもよいし、予め用意してもよい。
空間音響伝達特性は、4つの伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを有している。4つの伝達特性は、後述するフィルタ生成装置を用いて求めることができる。
そして、畳み込み演算部11は、Lchのステレオ入力信号XLに対して伝達特性Hlsを畳み込む。畳み込み演算部11は、畳み込み演算データを加算器24に出力する。畳み込み演算部21は、Rchのステレオ入力信号XRに対して伝達特性Hroを畳み込む。畳み込み演算部21は、畳み込み演算データを加算器24に出力する。加算器24は2つの畳み込み演算データを加算して、フィルタ部41に出力する。
畳み込み演算部12は、Lchのステレオ入力信号XLに対して伝達特性Hloを畳み込む。畳み込み演算部12は、畳み込み演算データを、加算器25に出力する。畳み込み演算部22は、Rchのステレオ入力信号XRに対して伝達特性Hrsを畳み込む。畳み込み演算部22は、畳み込み演算データを、加算器25に出力する。加算器25は2つの畳み込み演算データを加算して、フィルタ部42に出力する。
フィルタ部41、42には外耳道伝達特性をキャンセルする逆フィルタが設定されている。そして、頭外定位処理部10での処理が施された再生信号に逆フィルタを畳み込む。フィルタ部41で加算器24からのLch信号に対して、逆フィルタを畳み込む。同様に、フィルタ部42は加算器25からのRch信号に対して逆フィルタを畳み込む。逆フィルタは、ヘッドホン43を装着した場合に、ヘッドホンユニットからマイクまでの特性をキャンセルする。すなわち、外耳道入口にマイクを配置したとき、ユーザ各人の外耳道入口とヘッドホンの再生ユニット間、あるいは鼓膜とヘッドホンの再生ユニット間の伝達特性をキャンセルする。逆フィルタは、ユーザU本人の耳介で外耳道伝達関数をその場で測定した結果から算出してもよいし、ダミーヘッド等の任意の外耳道伝達関数から算出したヘッドホン特性の逆フィルタを予め用意してもよい。
フィルタ部41は、補正されたLch信号をヘッドホン43の左ユニット43Lに出力する。フィルタ部42は、補正されたRch信号をヘッドホン43の右ユニット43Rに出力する。ユーザUは、ヘッドホン43を装着している。ヘッドホン43は、Lch信号とRch信号をユーザUに向けて出力する。これにより、ユーザUの頭外に定位された音像を再生することができる。
(フィルタ生成装置)
図2を用いて、空間音響伝達特性(以下、伝達特性とする)を測定して、フィルタを生成するフィルタ生成装置について説明する。図2は、フィルタ生成装置200の測定構成を模式的に示す図である。なお、フィルタ生成装置200は、図1に示す頭外定位処理装置100と共通の装置であってもよい。あるいは、フィルタ生成装置200の一部又は全部が頭外定位処理装置100と異なる装置となっていてもよい。
図2を用いて、空間音響伝達特性(以下、伝達特性とする)を測定して、フィルタを生成するフィルタ生成装置について説明する。図2は、フィルタ生成装置200の測定構成を模式的に示す図である。なお、フィルタ生成装置200は、図1に示す頭外定位処理装置100と共通の装置であってもよい。あるいは、フィルタ生成装置200の一部又は全部が頭外定位処理装置100と異なる装置となっていてもよい。
図2に示すように、フィルタ生成装置200は、ステレオスピーカ5とステレオマイク2を有している。ステレオスピーカ5が測定環境に設置されている。測定環境は、音響特性が考慮されていない環境(例えば部屋の形状が左右非対称等)や、ノイズとなる環境音が発生している環境となっている。より具体的には、測定環境は、ユーザUの自宅の部屋やオーディオシステムの販売店舗やショールーム等でもよい。また、測定環境が音響特性を考慮していないレイアウトとなっていることがある。自宅の部屋では、家具などが左右非対称に配置されていることもある。スピーカが部屋に対して左右対称に配置されていないこともある。さらに、窓、壁面、床面、天井面からの反射による不要な残響が発生することもある。本実施の形態では、理想的ではない測定環境であっても、適切な伝達特性を測定するための処理を行っている。
本実施の形態では、フィルタ生成装置200の処理装置(図2では不図示)が、適切な伝達特性を測定するための演算処理を行っている。処理装置は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)、タブレット端末、スマートホン等である。
ステレオスピーカ5は、左スピーカ5Lと右スピーカ5Rを備えている。例えば、受聴者1の前方に左スピーカ5Lと右スピーカ5Rが設置されている。左スピーカ5Lと右スピーカ5Rは、インパルス応答測定を行うためのインパルス音等を出力する。
ステレオマイク2は、左のマイク2Lと右のマイク2Rを有している。左のマイク2Lは、受聴者1の左耳9Lに設置され、右のマイク2Rは、受聴者1の右耳9Rに設置されている。具体的には、左耳9L、右耳9Rの外耳道入口又は鼓膜位置にマイク2L、2Rを設置することが好ましい。マイク2L、2Rは、ステレオスピーカ5から出力された測定信号を収音して、収音信号を取得する。マイク2L、2Rは収音信号を後述するフィルタ生成装置に出力する。受聴者1は、人でもよく、ダミーヘッドでもよい。すなわち、本実施形態において、受聴者1は人だけでなく、ダミーヘッドを含む概念である。
上記のように、左右のスピーカ5L、5Rで出力されたインパルス音をマイク2L、2Rで測定することでインパルス応答が測定される。フィルタ生成装置は、インパルス応答測定に基づいて取得した収音信号をメモリなどに記憶する。これにより、左スピーカ5Lと左マイク2Lとの間の伝達特性Hls、左スピーカ5Lと右マイク2Rとの間の伝達特性Hlo、右スピーカ5Lと左マイク2Lとの間の伝達特性Hro、右スピーカ5Rと右マイク2Rとの間の伝達特性Hrsが測定される。すなわち、左スピーカ5Lから出力された測定信号を左マイク2Lが収音することで、伝達特性Hlsが取得される。左スピーカ5Lから出力された測定信号を右マイク2Rが収音することで、伝達特性Hloが取得される。右スピーカ5Rから出力された測定信号を左マイク2Lが収音することで、伝達特性Hroが取得される。右スピーカ5Rから出力された測定信号を右マイク2Rが収音することで、伝達特性Hrsが取得される。
そして、フィルタ生成装置は、収音信号に基づいて、左右のスピーカ5L、5Rから左右のマイク2L、2Rまでの伝達特性Hls〜Hrsに応じたフィルタを生成する。具体的には、フィルタ生成装置200は、伝達特性Hls〜Hrsを所定のフィルタ長で切り出して、頭外定位処理部10の畳み込み演算に用いられるフィルタとして生成する。図1で示したように、頭外定位処理装置100が、左右のスピーカ5L、5Rと左右のマイク2L、2Rとの間の伝達特性Hls〜Hrsを用いて頭外定位処理を行う。すなわち、伝達特性をオーディオ再生信号に畳み込むことにより、頭外定位処理を行う。
ここで、様々な測定環境で伝達特性を測定した場合に生じる問題について説明する。まず、理想的な測定環境において、インパルス応答測定した場合の収音信号の信号波形を測定例1として、図3、図4に示す。なお、図3、図4、及び後述の図に示す信号波形において、横軸がサンプル数であり、縦軸が振幅となっている。なお、サンプル数は測定開始からの時間に対応するものであり、測定開始タイミングを0としている。振幅は、マイク2L、2Rで取得した収音信号の信号強度、あるいは音圧に対応するものであり、正または負の符号を有する。
測定例1では、反響がない無響室に人頭とみなした剛球を配置して、測定を行っている。測定環境となる無響室において、剛球の前方には、左右対称に左右のスピーカ5L、5Rが配置されている。また、剛球に対して左右対称にマイクを設置している。
このような理想的な測定環境でインパルス測定を行った場合、図3、図4に示すような伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsが測定される。図3は、測定例1の伝達特性Hls、Hlo、すなわち、左スピーカ5Lを駆動した時の測定結果を示している。図4は、測定例1の伝達特性Hro、Hrs、すなわち右スピーカ5Rを駆動した時の測定結果を示している。図3の伝達特性Hlsと、図4の伝達特性Hrsとは、略同じ波形となっている。すなわち、伝達特性Hlsと、伝達特性Hrsとでは、ほぼ同じタイミングにほぼ同じ大きさのピークが現われる。すなわち、左スピーカ5Lから左マイク2Lまでのインパルス音の到達時刻と、右スピーカ5Rから右マイク2Rまでのインパルス音の到達時刻が一致している。
実際の測定が行われる測定環境で測定した伝達特性を測定例2、3として、図5〜図8に示す。図5は、測定例2の伝達特性Hls、Hloを示し、図6は、測定例2の伝達特性のHro、Hrsを示している。図7は、測定例3の伝達特性Hls、Hloを示し、図8は、測定例3の伝達特性Hro、Hrsを示している。測定例2、3はそれぞれ異なる測定環境で行われた測定であり、受聴者周辺の物や、壁面、天井、床からの反響がある測定環境で行われている。
実際の測定環境が、受聴者1の自宅などの場合、パーソナルコンピュータやスマートホン等によって、ステレオスピーカ5からインパルス音を発生する。すなわち、パーソナルコンピュータやスマートホン等の汎用の処理装置が音響デバイスとして用いられる。このような場合、音響デバイスの遅延量が測定毎に異なるおそれがある。例えば、音響デバイスのプロセッサでの処理や、インターフェースでの処理により信号遅延が生じる。
よって、ステレオスピーカ5の中央に剛球を設置したとしても、音響デバイスでの遅延により、左スピーカ5Lの駆動時と、右スピーカ5Rの駆動時で、応答位置(ピーク位置)が異なる。このような場合、測定例2、3に示すように、最大振幅(絶対値が最大となる振幅)が同じ時刻となるように、伝達特性を切り出している。例えば、測定例2では、伝達特性Hls、Hrsの最大振幅Aが30サンプル目となるように、伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを切り出している。なお、測定例2で、最大振幅は、負のピークとなっている(図5、図6のA)。
しかしながら、受聴者1の左右の耳介形状が異なる場合がある。この場合、受聴者1が左右のスピーカ5L、5Rに対して左右対称な位置にいたとしても、左右の伝達特性が大きく異なってしまう。また、測定環境が左右非対称である場合も、左右の伝達特性が大きく異なってしまう。
さらに、実際の測定環境において測定を行う場合、図9、図10に示す測定例4のように、最大振幅を取るピークが2つに割れてしまうことがある。測定例4では、図10に示すように伝達特性Hrsの最大振幅Aが2つに割れている。
また、図11、図12の測定例5のように、左右の伝達特性Hls、Hrsで、最大振幅を取るピークの符号が異なる場合がある。測定例5では、伝達特性Hlsの最大振幅Aは正のピークとなり(図11)、伝達特性Hrsの最大振幅Aは負のピークとなっている(図12)。
このように、左右の伝達特性Hls、Hrsの信号波形が大きく異なると、左右のスピーカ5からの音の到達時間がずれてしまう。よって、頭外定位処理部10において畳み込み演算を行った場合、左右のバランスの良い音場を得ることができない場合がある。例えば、測定例4、測定例5の伝達特性Hls、Hrsが最大振幅を示すサンプル位置(または時刻)で揃えて切り出した伝達特性を図13、図14に示す。図13は、測定例4の伝達特性Hls、Hrsを示し、図14は、測定例5の伝達特性Hls、Hrsを示している。
図13、図14に示すように、左右の伝達特性Hls、Hrsの波形の形状が大きく異なる場合、左右のバランスの良い音場を得ることができなってしまうおそれがある。例えば、センターに定位すべきボーカル音像が左右に偏ってしまう。このように、異なるインパルス応答測定で得られた伝達特性から適切に切り出すことができない場合がある。すなわち、適切にフィルタを生成することができない場合がある。そこで、本実施の形態では、フィルタ生成装置200が以下の処理を行うことで適切な切り出しを行っている。
フィルタ生成装置200の処理装置210の構成について、図15を用いて、説明する。図15は、処理装置210の構成を示すブロック図である。処理装置210は、測定信号生成部211、収音信号取得部212、同期加算部213、直接音到達時刻探索部214、左右直接音判定部215、エラー訂正部216、及び波形切り出し部217を備えている。例えば、処理装置210は、パーソナルコンピュータ、スマートホン、タブレット端末などの情報処理装置であり、音声入力インターフェース(IF)と音声出力インターフェースを備えている。すなわち、処理装置210は、ステレオマイク2、及びステレオスピーカ5に接続される入出力端子を有する音響デバイスである。
測定信号生成部211は、D/A変換器やアンプなどを備えており、測定信号を生成する。測定信号生成部211は、生成した測定信号をステレオスピーカ5にそれぞれ出力する。左スピーカ5Lと右スピーカ5Rがそれぞれ伝達特性を測定するための測定信号を出力する。左スピーカ5Lによるインパルス応答測定と、右スピーカ5Rによるインパルス応答測定がそれぞれ行われる。
ステレオマイク2の左マイク2L、右マイク2Rがそれぞれ測定信号を収音し、収音信号を処理装置210に出力する。収音信号取得部212は、左マイク2L、右マイク2Rからの収音信号を取得する。なお、収音信号取得部212は、A/D変換器、及びアンプなどを有しており、左マイク2L、右マイク2Rからの収音信号をA/D変換、増幅などしてもよい。収音信号取得部212は、取得した収音信号を同期加算部213に出力する。
左スピーカ5Lの駆動により、左スピーカ5Lと左マイク2Lとの間の伝達特性Hlsに応じた第1の収音信号と、左スピーカ5Lと右マイク2Rとの間の伝達特性Hloに応じた第2の収音信号が同時に取得される。また、右スピーカ5Rの駆動により、右スピーカ5Rと左マイク2Lとの間の伝達特性Hroに応じた第3の収音信号と、右スピーカ5Rと右マイク2Rとの間の伝達特性Hrsに応じた第4の収音信号が同時に取得される。
同期加算部213は収音信号を同期加算する。同期加算は、複数回のインパルス応答測定により取得された収音信号を同期して、加算するものである。同期加算を行うことで、突発的な騒音の影響を軽減することができる。例えば、同期加算回数は10回とすることができる。このように、同期加算部213は収音信号を同期加算することで、伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを取得する。
次に、直接音到達時刻探索部214が、同期加算された伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻を探索する。直接音とは、左のスピーカ5Lから左のマイク2Lに直接到達する音、及び、右のスピーカ5Rから右のマイク2Rに直接到達する音である。すなわち、直接音とは、壁、床、天井、外耳等の周囲の構造物で反射せずに、スピーカ5L、5Rからマイク2L、2Rに到達した音である。通常、直接音はマイク2L、2Rに最も早く到達する音である。直接音到達時刻は測定開始から直接音が到達するまでに経過した時間に相当する。
より具体的には、直接音到達時刻探索部214は、伝達特性Hls、Hrsの振幅が最大となる時刻に基づいて、直接音到達時刻を探索する。なお、直接音到達時刻探索部214における処理については後述する。直接音到達時刻探索部214は、探索した直接音到達時刻を左右直接音判定部215に出力する。
直接音到達時刻探索部214が探索した直接音到達時刻を用いて、左右直接音判定部215は、左右の直接音の振幅の符号が一致するか否かの判定を行う。例えば、左右直接音判定部215は、直接音到達時刻における伝達特性Hls、Hrsの振幅の符号が一致するか否かを判定する。さらに、左右直接音判定部215は、直接音到達時刻が一致するか否かを判定する。左右直接音判定部215は、判定結果をエラー訂正部216に出力する。
直接音到達時刻における伝達特性Hls、Hrsの振幅の符号が一致しない場合、エラー訂正部216は、切り出しタイミングを訂正する。そして、波形切り出し部217は、訂正された切り出しタイミングで伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsの波形を切り出す。所定のフィルタ長で切り出された伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsがフィルタとなる。すなわち、波形切り出し部217は、先頭位置をずらして伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsの波形を切り出す。直接音到達時刻における伝達特性Hls、Hrsの振幅の符号が一致する場合、波形切り出し部21は、切り出しタイミングを訂正せずに、そのままのタイミングで切り出す。
具体的には、伝達特性Hls、Hrsの振幅の符号が異なる場合、エラー訂正部216は、伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻を揃えるように、切り出しタイミングを訂正する。伝達特性Hls、Hrsの直接音が同じサンプル数に位置するように、伝達特性Hls、Hlo、又は伝達特性Hro、Hrsのデータを移動する。すなわち、伝達特性Hls、Hloと、伝達特性Hro、Hrsとで、切り出しの先頭サンプル数を異ならせている。
そして、波形切り出し部217は、切り出した伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsからフィルタを生成する。すなわち、波形切り出し部217は、伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsの振幅をフィルタ係数とすることで、フィルタを生成する。波形切り出し部217で生成された伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsがフィルタとして、図1に示す畳み込み演算部11、12、21、22に設定される。これにより、左右のバランスの良い音質で頭外定位されたオーディオをユーザUが受聴することができる。
次に、処理装置210によるフィルタ生成方法について、図16を用いて詳細に説明する。図16は、処理装置210におけるフィルタ生成方法を示すフローチャートである。
まず、同期加算部213が収音信号を同期加算する(S101)。すなわち、同期加算部213は、伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrs毎に収音信号を同期加算する。これにより、突発的なノイズの影響を低減することができる。
次に、直接音到達時刻探索部214が伝達特性Hlsにおける直接音到達時刻Hls_First_idxと、伝達特性Hrsにおける直接音到達時刻Hrs_First_idxとを取得する(S102)。
ここで、直接音到達時刻探索部214における直接音到達時刻の探索処理について、図17を用いて詳細に説明する。図17は、直接音到達時刻の探索処理を示すフローチャートである。なお、図17は、伝達特性Hls、伝達特性Hrsのそれぞれに対して行われる処理を示している。すなわち、直接音到達時刻探索部214が、図17に示す処理を伝達特性Hls、Hrsのそれぞれに対して実行することで、直接音到達時刻Hls_first_idxと、直接音到達時刻Hls_first_idxとをそれぞれ取得することができる。
まず、直接音到達時刻探索部214が、伝達特性の振幅の絶対値が最大となる時刻max_idxを取得する(S201)。すなわち、直接音到達時刻探索部214は、図9〜図12に示したように最大振幅Aを取る時刻を時刻max_idxと設定する。時刻max_idxは、測定開始からの時間に対応するものである。また、時刻max_idx、及び後述する各種の時刻は測定開始からの絶対時間として表してもよいし、測定開始からのサンプル数として表してもよい。
次に、直接音到達時刻探索部214が時刻max_idxにおけるdata[max_idx]が0より大きいか否かを判定する(S202)。data[max_idx]は、max_idxにおける伝達特性の振幅の値である。すなわち、直接音到達時刻探索部214は、最大振幅が正のピークか負のピークであるかを判定する。data[max_idx]が負の場合(S202のNO)、直接音到達時刻探索部214は、zero_idx=max_idxと設定する(S203)。図12に示す振幅Hrsでは、最大振幅Aが負であるため、max_idx=zero_idxとなる。
ここで、zero_idxは直接音到達時刻の探索範囲の基準となる時刻である。具体的には、時刻zero_idxは、探索範囲の終端に対応する。直接音到達時刻探索部214は、0〜zero_idxの範囲内で、直接音到達時刻を探索する。
data[max_idx]が正の場合(S202のYES)、直接音到達時刻探索部214は、zero_idx<max_idx、かつ、振幅が最後に負となる時刻zero_idxを取得する(S204)。すなわち、直接音到達時刻探索部214は、時刻max_idxの直前で振幅が負となる時刻をzero_idxとして設定する。例えば、図9〜図11に示す伝達特性では、最大振幅Aが正であるため、時刻max_idxよりも前にzero_idxが存在する。時刻max_idxの直前で、振幅が負となる時刻を探索範囲の終端としているが、探索範囲の終端はこれに限られるものではない。
ステップS203、又はS204において、zero_idxが設定されると、直接音到達時刻探索部214は、0〜zero_idxまでの極大点を取得する(S205)。すなわち、直接音到達時刻探索部214は、探索範囲0〜zero_idxにおいて、振幅の正のピークを抽出する。
直接音到達時刻探索部214は、極大点の個数が0より大きいか否かを判定する(S206)。すなわち、直接音到達時刻探索部214は、探索範囲0〜zero_idxにおいて、極大点(正のピーク)が存在するか否かを判定する。
極大点の個数が0以下の場合(S206のNO)、すなわち、探索範囲0〜zero_idxに極大点が無い場合、直接音到達時刻探索部214は、first_idx=max_idxとする。first_idxは、直接音到達時刻である。例えば、図11、図12に示す伝達特性Hls、Hrsでは、0〜zero_idxの範囲に、極大点が存在しない。よって、直接音到達時刻探索部214は、直接音到達時刻first_idx=max_idxとする。
極大点の個数が0より大きい場合(S206のYES)、すなわち、探索範囲0〜zero_idxに極大点がある場合、直接音到達時刻探索部214は、極大点の振幅が(|data[max_idx]|/15)よりも大きくなる最初の時刻を直接音到達時刻first_idxとする(S208)。すなわち、探索範囲0〜zero_idxにおいて、最も早い時刻にある正のピークであって、閾値(ここでは、最大振幅の絶対値の15分の1)よりも高いピークを直接音とする。例えば、図9、図10に示す伝達特性では、0〜zero_idxの範囲に、極大点C、Dが存在する。そして、最初の極大点Cの振幅が、閾値よりも大きい。したがって、直接音到達時刻探索部214は、極大点Cの時刻を直接音到達時刻first_idxに設定する。
ここで、極大点の振幅が小さいと、ノイズ等によるものであるおそれがある。すなわち、極大点が、ノイズによるものか、スピーカからの直接音によるものであるかを判別する必要がある。したがって、本実施の形態では、(data[max_idx]の絶対値)/15を閾値として、閾値よりも大きい極大点を直接音としている。このように、直接音到達時刻探索部214は、最大振幅に応じて閾値を設定している。
そして、直接音到達時刻探索部214が、極大点の振幅と、閾値とを比較することで、極大点がノイズによるものか、直接音によるものかを判別している。すなわち、極大点の振幅が最大振幅の絶対値に対する所定の割合未満である場合、直接音到達時刻探索部214は、極大点をノイズと判別する。極大点の振幅が最大振幅の絶対値に対する所定の割合以上である場合、直接音到達時刻探索部214は、極大点を直接音と判別する。このようにすることで、ノイズの影響を除去できるため、直接音到達時刻を正確に探索することができる。
もちろん、ノイズを判別するための閾値は、上記の値に限られるものではなく、測定環境や測定信号に応じて適切な割合を設定することができる。また、最大振幅に関わらず、閾値を設定することも可能である。
このように、直接音到達時刻探索部214は、直接音到達時刻first_idxを求めている。具体的には、直接音到達時刻探索部214は、振幅の絶対値が最大となる時刻max_idxよりも前において、振幅が極大点を取る時刻を直接音到達時刻first_idxとする。すなわち、直接音到達時刻探索部214は、最大振幅よりも前において、最初にある正のピークを直接音と判定する。最大振幅よりも前に極大点が無い場合、最大振幅を直接音と判定する。直接音到達時刻探索部214は探索した直接音到達時刻first_idxを左右直接音判定部215に出力する。
図16の説明に戻る。上記のように、左右直接音判定部215が伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻Hls_first_idx、Hrs_first_idxをそれぞれ取得する。そして、左右直接音判定部215は、伝達特性Hls、Hrsの直接音の振幅の積を求める(S103)。すなわち、左右直接音判定部215は、直接音到達時刻Hls_first_idxにおける伝達特性Hlsの振幅と、直接音到達時刻Hrs_first_idxにおける伝達特性Hroの振幅とを乗算し、HlsとHrsの最大振幅の正負の符号がそろっているか否かを判定する。
次に、左右直接音判定部215は、(伝達特性Hls、Hrsの直接音の振幅の積)>0であり、かつ、Hls_first_idx=Hrs_first_idxとなるか否かを判定する(S104)。すなわち、左右直接音判定部215は、伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻における振幅の符号が一致するか否かを判定する。さらに、左右直接音判定部215は、直接音到達時刻Hls_first_idxが直接音到達時刻Hrs_first_idxと一致するか否かを判定する。
直接音到達時刻における振幅が同じ符号であり、かつHls_first_idxが直接音到達時刻Hrs_first_idxと一致する場合(S104のYES)、エラー訂正部216は、直接音が同じ時刻となるように一方のデータを移動する(S106)。なお、伝達特性の移動が不要の場合は、データの移動量は0となる。例えば、ステップS104でYESと判定された場合、データの移動量が0となる。この場合、ステップS106を省略して、ステップS107に移行してもよい。そして、波形切り出し部217が、同じ時刻から伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsをフィルタ長で切り出す(S107)。
伝達特性Hls、Hrsの直接音の振幅の積が負である場合、又は、Hls_first_idx=Hrs_first_idxとならない場合(S104のNO)、エラー訂正部216が伝達特性Hls、Hrsの相互相関係数corrを算出する(S105)。すなわち、左右の直接音到達時刻が揃っていないため、エラー訂正部216が切り出しタイミングを訂正する。そのため、エラー訂正部216が伝達特性Hls、Hrsの相互相関係数corrを算出する。
そして、エラー訂正部216は、相互相関係数corrに基づいて、直接音が同じ時刻となるよう、一方のデータを移動する(S106)。具体的には、直接音到達時刻Hls_first_idxが直接音到達時刻Hrs_first_idxと一致するように、伝達特性Hrs、Hroのデータを移動する。ここで、伝達特性Hrs、Hroのデータの移動量は、相関が最も高くなるオフセット量に応じて決定される。このように、エラー訂正部216は、伝達特性Hls、Hrsの相関に基づいて、切り出しタイミングを訂正する。波形切り出し部217は、伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsをフィルタ長で切り出す(S107)
ここで、ステップS104〜ステップS107の処理の一例について、図18を用いて説明する。図18は、ステップS104〜ステップS107の処理の一例を示すフローチャートである。
まず、左右直接音判定部215が、ステップS104と同様に、左右音の判定を行う。すなわち、左右直接音判定部215が、伝達特性Hls、Hrsの直接音の振幅の積>0であり、かつ、Hls_first_idx=Hrs_first_idxとなるか否かを判定する(S301)。
伝達特性Hls、Hrsの直接音の振幅の積>0であり、かつ、Hls_first_idx=Hrs_first_idxとなっている場合(S301のYES)、Hls_first_idx=Hrs_first_idxが同じ時刻となるよう、エラー訂正部216が伝達特性Hrs、Hroのデータを移動する(S305)。なお、伝達特性の移動が不要の場合は、データの移動量は0となる。例えば、ステップS301でYESと判定された場合、データの移動量が0となる。この場合、ステップS305を省略して、ステップS306に移行してもよい。そして、波形切り出し部217が、同じ時刻からフィルタ長で伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsをフィルタ長で切り出す(S306)。すなわち、エラー訂正部216が、直接音到達時刻を揃えるように、伝達特性Hro、Hrsの切り出しタイミングを訂正する。そして、エラー訂正部216で訂正された切り出しタイミングで波形切り出し部217が伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを切り出す。
伝達特性Hls、Hrsの直接音の振幅の積<0の場合、又は、Hls_first_idx=Hrs_first_idxとならない場合(S301のNO)、エラー訂正部216は、伝達特性Hlsのstart=(first_idx−20)をオフセットとし、+30サンプルのデータを取得し、平均値、分散を算出する(S302)。すなわち、エラー訂正部216は、直接音到達時刻first_idxの20サンプル前を開始点startとして連続する30サンプル分のデータを抽出する。そして、エラー訂正部216は、抽出した30サンプルの平均値、及び分散を算出する。平均値及び分散は、相互相関係数を標準化するために用いられるため、標準化が不要の場合は算出しなくてもよい。なお、抽出するサンプル数は30サンプルに限られるものではなく、エラー訂正部216は、任意のサンプル数を抽出することができる。
そして、エラー訂正部216は、伝達特性Hrsの(start−10)から(start+10)までオフセットを1ずつずらし、伝達特性Hlsとの相互相関係数corr[0]〜corr[19]を取得する(S303)。なお、エラー訂正部216は、伝達特性Hrsの平均値、及び分散を求め、伝達特性Hls、Hrsの平均値及び分散を用いて、相互相関係数corrの標準化を行うことが好ましい。
図19を用いて、相互相関係数の求め方について説明する。図19(b)には、伝達特性Hls、並びに、伝達特性Hlsから抽出された30サンプルが太枠Gで示されている。また、図19(a)には、伝達特性Hrs、並びに、(start−10)をオフセットとした場合の30サンプルが太枠Fで示されている。first_idx−20=startであるため、図19(a)では、first_idx−30を先頭とする30サンプルが太枠Fに含まれている。
また、図19(c)には、伝達特性Hrs、並びに、(start+10)をオフセットとした場合の30サンプルが太枠Hで示されている。first_idx−20=startであるため、図19(a)では、first_idx−10を先頭とする30サンプルが太枠Fに含まれている。太枠Fに含まれる30サンプルと太枠Gに含まれる30サンプルとの相互相関を算出することで、相互相関係数corr[0]が求められる。同様に、太枠Gと太枠Hとの相互相関を算出することで、相互相関係数corr[19]が求められる。相互相関係数corrが高いほど、伝達特性Hls、Hrsの相関が高くなる。
エラー訂正部216は、相互相関係数が最大値を取るcorr[cmax_idx]を取得する(S304)。ここで、cmax_idxは、相互相関係数が最大値を取るオフセット量を相当する。すなわち、cmax_idxは、伝達特性Hlsと伝達特性Hrsの相関が最も大きい時のオフセット量を示す。
そして、エラー訂正部216は、cmax_idxに応じて、Hls_first_idxとHrs_first_idxが同じ時刻となるよう伝達特性Hrs、Hroのデータを移動する(S305)。エラー訂正部216は、オフセット量だけ、伝達特性Hrs、Hroのデータを移動する。これにより、伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻が揃う。なお、ステップS305は、図16のステップS106に相当する。また、エラー訂正部216は、伝達特性Hrs、Hroを移動するのではなく、伝達特性Hls、Hloを移動してもよい。
そして、波形切り出し部217は、同じ時刻からフィルタ長で伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを切り出す。このようにすることで、直接音到達時刻が揃ったフィルタを生成することができる。よって、左右のバランスの良好な音場を生成することができる。これにより、ボーカル音像をセンターに定位させることができる。
次に、図20を用いて直接音到達時刻を揃える意義について説明する。図20(a)は、直接音到達時刻を揃える前の伝達特性Hls、Hloを示す図である。図20(b)は、伝達特性Hrs、Hroを示す図である。図20(c)は、直接音到達時刻を揃えた後の伝達特性Hls、Hloを示す図である。図20において、横軸がサンプル数であり、縦軸が振幅となっている。サンプル数は測定開始からの時間に対応し、測定開始時刻をサンプル数0としている。
例えば、左スピーカ5Lからのインパルス応答測定と右スピーカ5Rからのインパルス応答測定で、音響デバイスでの遅延量が異なる場合がある。この場合、図20(b)に示す伝達特性Hrs、Hroに比べて、図20(a)に示す伝達特性Hls、Hloの直接音到達時刻が遅れてしまう。このような場合、直接音到達時刻のタイミングを揃えずに、伝達特性Hls、Hlo、Hro、Hrsを切り出すと、左右のバランスが悪い音場が生成されてしまう。そこで、図20(c)のように、処理装置210が、相関に基づいて、伝達特性Hls、Hloを移動している。これにより、伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻を揃えることができる。
そして、処理装置210は、直接音到達時刻を揃えて伝達特性を切り出すことで、フィルタを生成している。すなわち、波形切り出し部217が、直接音到達時刻が一致するように揃えられた伝達特性を切り出することで、フィルタを生成している。よって、左右のバランスが良好な音場を再生することができる。
本実施の形態では、左右直接音判定部215が直接音の符号が一致しているか否かを判定する。左右直接音判定部215の判定結果に応じて、エラー訂正部216がエラー訂正を行っている。具体的には、直接音の符号が一致していない場合、又は、直接音到達時刻が一致していない場合に、エラー訂正部216が相互相関係数に基づいて、エラー訂正を行っている。直接音の符号が一致しており、かつ、直接音到達時刻が一致している場合は、エラー訂正部216が相互相関係数に基づくエラー訂正を実行しない。エラー訂正部216がエラー訂正を行う頻度は少ないため、不要な計算処理を省略することができる。すなわち、直接音の符号が一致しており、かつ、直接音到達時刻が一致している場合は、エラー訂正部216が総合相関係数を算出する必要がなくなる。よって、計算処理時間を短縮することができる。
通常、エラー訂正部216によるエラー訂正を行わなくてよい。しかしながら、左右のスピーカ5L、5Rの特性が異なっていたり、周囲の反射の状況が左右で大きく異なっていたりする場合がある。あるいは、左耳9L、右耳9Rでマイク2L、2Rの位置がずれていることもある。また、音響デバイスの遅延量が異なることもある。このような場合、測定信号を適切に収音することができず、左右でタイミングがずれることがある。本実施の形態では、エラー訂正部216がエラー訂正を行うことで、適切にフィルタを生成することができる。よって、左右のバランスのよい音場を再生することができうる。
また、直接音到達時刻探索部214が直接音到達時刻を探索している。具体的には、直接音到達時刻探索部214は、最大振幅となる時刻よりも前において、振幅が極大点を取る時刻を直接音到達時刻としている。さらに、直接音到達時刻探索部214は、最大振幅となる時刻よりも前において、極大点が無い場合に、最大振幅となる時刻を直接音到達時刻としている。このようにすることで、適切に直接音到達時刻を探索することができる。そして、直接音到達時刻に基づいて伝達特性を切り出すことで、より適切にフィルタを生成することができる。
左右直接音判定部215が、直接音到達時刻における伝達特性Hls、Hrsの振幅の符号が一致しているか否かを判定している。そして、符号が異なっている場合、エラー訂正部216が切り出しタイミングを訂正している。このようにすることで、適切に切り出しタイミングを調整することができる。さらに、左右直接音判定部215が、伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻が一致しているか否かを判定している。そして、伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻が一致していない場合に、エラー訂正部216が切り出しタイミングを訂正している。このようにすることで、適切に切り出しタイミングを調整することができる。
直接音到達時刻における伝達特性Hls、Hrsの振幅の符号が一致し、かつ、伝達特性Hls、Hrsの直接音到達時刻が一致している場合は、伝達特性の移動量は0となる。この場合、エラー訂正部216は切り出しタイミングを訂正する処理を省略してもよい。具体的には、ステップS104がYESの場合、ステップS106を省略することができる。あるいは、ステップS301がYESの場合、ステップS305を省略することができる。このようにすることで、不要な処理を省き、計算時間を短縮することができる。
エラー訂正部216は、伝達特性Hls、Hrsの相関に基づいて、切り出しタイミングを訂正することが好ましい。このようにすることで、直接音到達時刻を適切に揃えることが可能となる。よって、左右のバランスの良好な音場を再生することができる。
なお、上記の実施形態では、音像定位処理装置として、ヘッドホンを用いて頭外に音像を定位する頭外定位処理装置について説明したが、本実施の形態は頭外定位処理装置に限られるものではない。例えば、スピーカ5L、5Rからステレオ信号を再生することで、音像を定位させる音像定位処理装置に用いてもよい。すなわち、本実施の形態は、伝達特性を再生信号に畳み込む音像定位処理装置にて適用することが可能になる。例えば、バーチャルスピーカ、ニアスピーカサラウンド等における音像定位用フィルタを生成することも可能である。
上記信号処理のうちの一部又は全部は、コンピュータプログラムによって実行されてもよい。上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non−transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD−ROM(Read Only Memory)、CD−R、CD−R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
U ユーザ
1 受聴者
2L 左マイク
2R 右マイク
5L 左スピーカ
5R 右スピーカ
9L 左耳
9R 右耳
10 頭外定位処理部
11 畳み込み演算部
12 畳み込み演算部
21 畳み込み演算部
22 畳み込み演算部
24 加算器
25 加算器
30 測定部
41 フィルタ部
42 フィルタ部
43 ヘッドホン
100 頭外定位処理装置
200 フィルタ生成装置
210 処理装置
211 測定信号生成部
212 収音信号取得部
213 同期加算部
214 直接音到達時刻探索部
215 左右直接音判定部
216 エラー訂正部
217 波形切り出し部
1 受聴者
2L 左マイク
2R 右マイク
5L 左スピーカ
5R 右スピーカ
9L 左耳
9R 右耳
10 頭外定位処理部
11 畳み込み演算部
12 畳み込み演算部
21 畳み込み演算部
22 畳み込み演算部
24 加算器
25 加算器
30 測定部
41 フィルタ部
42 フィルタ部
43 ヘッドホン
100 頭外定位処理装置
200 フィルタ生成装置
210 処理装置
211 測定信号生成部
212 収音信号取得部
213 同期加算部
214 直接音到達時刻探索部
215 左右直接音判定部
216 エラー訂正部
217 波形切り出し部
Claims (11)
- 左右のスピーカと、
前記左右のスピーカから出力された測定信号を収音して、収音信号を取得する左右のマイクと、
前記収音信号に基づいて、前記左右のスピーカから前記左右のマイクまでの伝達特性に応じたフィルタを生成するフィルタ生成部と、を備え、
前記フィルタ生成部は、
前記左のスピーカから前記左のマイクまでの第1の伝達特性と、前記右のスピーカから前記右のマイクまでの第2の伝達特性とのそれぞれにおいて、振幅の絶対値が最大となる時刻を用いて、直接音到達時刻を探索する探索部と、
前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の前記振幅の符号が一致するか否かを判定する判定部と、
前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の前記振幅の前記符号が異なる場合、前記第1の伝達特性または前記第2の伝達特性の切り出しタイミングを訂正する訂正部と、
前記訂正部により訂正された切り出しタイミングで、前記第1の伝達特性または前記第2の伝達特性を切り出すことで、前記フィルタを生成する切り出し部と、を備えたフィルタ生成装置。 - 前記探索部は、前記振幅の絶対値が最大となる時刻よりも前において、前記伝達特性が極大点を取る時刻を直接音到達時刻とすることを特徴とする請求項1に記載のフィルタ生成装置。
- 前記探索部は、前記振幅の絶対値が最大となる時刻よりも前において、前記極大点が無い場合に、前記振幅の絶対値が最大となる時刻を直接音到達時刻とすることを特徴とする請求項2に記載のフィルタ生成装置。
- 前記判定部が、前記第1及び第2の伝達特性の直接音到達時刻が一致しているか否かを判定し、
前記第1及び第2の伝達特性の直接音到達時刻が一致していない場合に、前記訂正部が切り出しタイミングを訂正し、
前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の振幅の符号が一致し、かつ、前記第1及び第2の伝達特性の直接音到達時刻が一致している場合に、前記訂正部が前記切り出しタイミングを訂正しないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルタ生成装置。 - 前記訂正部は、前記第1の伝達特性と前記第2の伝達特性の相関に基づいて、前記切り出しタイミングを訂正することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルタ生成装置。
- 左右のスピーカと、左右のマイクとの間に伝達特性を用いてフィルタを生成するフィルタ生成方法であって、
前記左のスピーカから前記左のマイクまでの第1の伝達特性と、前記右のスピーカから前記右のマイクまでの第2の伝達特性とのそれぞれにおいて、振幅の絶対値が最大となる時刻を用いて、直接音到達時刻を探索する探索ステップと、
前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の振幅の符号が一致するか否かを判定する判定ステップと、
前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の前記振幅の前記符号が異なる場合、前記第1の伝達特性または前記第2の伝達特性の切り出しタイミングを訂正する訂正ステップと、
前記訂正された切り出しタイミングで、前記第1の伝達特性または前記第2の伝達特性を切り出すことで、前記フィルタを生成するステップと、を備えたフィルタ生成方法。 - 前記探索ステップでは、前記振幅の絶対値が最大となる時刻よりも前において、前記振幅が極大点を取る時刻を直接音到達時刻とすることを特徴とする請求項6に記載のフィルタ生成方法。
- 前記探索ステップでは、前記振幅の絶対値が最大となる時刻よりも前において、前記極大点が無い場合に、前記振幅の絶対値が最大となる時刻を直接音到達時刻とすることを特徴とする請求項7に記載のフィルタ生成方法。
- 前記判定ステップでは、前記第1及び第2の伝達特性の直接音到達時刻が一致しているか否かを判定し、
前記第1及び第2の伝達特性の直接音到達時刻が一致していない場合に、前記切り出しタイミングを訂正し、
前記直接音到達時刻における前記第1及び第2の伝達特性の振幅の符号が一致し、かつ、前記第1及び第2の伝達特性の直接音到達時刻が一致している場合に、前記切り出しタイミングを訂正しないことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のフィルタ生成方法。 - 前記訂正ステップでは、前記第1の伝達特性と前記第2の伝達特性の相関に基づいて、前記切り出しタイミングを訂正することを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載のフィルタ生成方法。
- 請求項6〜10のいずれか1項のフィルタ生成方法でフィルタを生成するステップと
前記フィルタを、再生信号に畳み込むステップを備える音像定位処理方法。
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