JP6583606B2 - Dna傷害抑制剤 - Google Patents
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Description
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、及び
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を有するアミノ酸配列
(2)(1)に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
(3)以下の(a)〜(d)で示すいずれかの塩基配列からなる、(2)に記載の遺伝子。
(a)配列番号2に示す塩基配列、
(b)配列番号2に示す塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列、
(c)配列番号2に示す塩基配列に対して95%以上の同一性を有する塩基配列、及び
(d)配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列の一部と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列
(4)(2)又は(3)に記載の遺伝子を発現可能な状態で包含する遺伝子発現ベクター。
(5)(1)に記載のタンパク質からなるDNA傷害抑制剤。
(6)(4)に記載の遺伝子発現ベクターからなるDNA傷害抑制剤。
(7)(1)に記載のタンパク質、(2)又は(3)に記載の遺伝子、又は(4)に記載の遺伝子発現ベクターを有効成分とする医薬組成物。
(8)(1)に記載のタンパク質を有効成分とする化粧品。
(9)(4)に記載の遺伝子発現ベクターを包含する形質転換体。
1−1.概要
本発明の第1の態様は、Dsup(Damage suppressor)タンパク質である。このタンパク質は、既知タンパク質とのアミノ酸相同性が全くない新規DNA結合タンパク質であり、細胞内に導入することで、放射線照射等により生じる活性酸素の障害から細胞内のDNAを保護することができる。
本発明のDsupタンパク質は、図2に示すように、中央部にαへリックス構造を、そしてC末端側には本願実施例で明らかとなったDNA結合領域を有するDNA結合タンパク質である。既知のいかなるタンパク質とも相同性がなく、核内に局在してゲノムDNAに結合し、活性酸素等によるDNA切断等の傷害活性からDNAを保護する機能を有する。
本発明のDsupタンパク質は、高線量の放射線照射等の外的ストレスによって細胞内で発生する活性酸素から核内DNA、すなわちゲノムDNAを保護し、DNA切断や塩基への傷害を抑制することができる。したがって、本発明のDsupタンパク質を動物細胞、植物細胞又は真菌細胞に導入することで、その細胞に対して活性酸素に対するDNA傷害耐性能を付与することができる。また、DNA傷害を原因とする細胞死、染色体異常、遺伝子突然変異による発癌や腸管及び骨髄損傷を抑制することができる。
2−1.概要
本発明の第2の態様は、Dsup遺伝子である。本発明のDsup遺伝子は、宿主細胞内に導入して、発現させることによって、その宿主細胞のDNAを放射線や活性酸素による障害から保護することができる。
本発明のDsup遺伝子は、第1態様に記載のDsupタンパク質をコードする。Dsup遺伝子の具体例として、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるヨコヅナクマムシのDsupタンパク質をコードする遺伝子(ヨコヅナクマムシDsup遺伝子)が挙げられる。より具体的には、配列番号2で示される塩基配列からなる遺伝子である。本明細書においてもヨコヅナクマムシDsup遺伝子の塩基配列を以下で示しておく。
本発明のDsup遺伝子を動物細胞、植物細胞内又は真菌細胞に導入し、発現を誘導させることによって、第1態様のDsupタンパク質と同様の効果を得ることができる。すなわち、導入した細胞に対して活性酸素に対するDNA傷害耐性を付与し、またDNA傷害を原因とする細胞死、染色体異常、遺伝子突然変異による発癌、腸管損傷及び骨髄損傷を予防又は抑制することができる。
3−1.概要
本発明の第3の態様は、Dsup遺伝子発現ベクターである。本発明のDsup遺伝子発現ベクターは、宿主細胞内においてDsup遺伝子の発現制御を容易に行うことができる。
本発明の「Dsup遺伝子発現ベクター」は、第2態様に記載のDsup遺伝子を包含する遺伝子発現ベクターである。
Dsup遺伝子の構成は、第2態様で詳述した通りである。本発明のDsup遺伝子発現ベクターにおいて、Dsup遺伝子は、原則として1ベクターあたりに1遺伝子を包含するが、2以上の同一の又は異なるDsup遺伝子を含んでいてもよい。その場合、各Dsup遺伝子は、単一のプロモーター制御下に配置されていてもよいし、それぞれが異なるプロモーター制御下に配置されていてもよい。
「母核ベクター」は、本発明のDsup遺伝子発現ベクターのベース部分であって、本発明のDsup遺伝子発現ベクターがベクターとして機能する上で必要な構成を有する。ベクターの種類は、特に限定はしない。プラスミドベクター、ウイルスベクター(ファージベクターを含む)、コスミド、バクミド、フォスミド、BAC、YAC等が挙げられる。プラスミドベクター又はウイルスベクターが好ましい。
母核ベクターは、Dsup遺伝子発現ベクターを導入する宿主に応じて適宜選択すればよい。例えば、Dsup遺伝子発現ベクターを導入する宿主が大腸菌の場合には、pBI系、pPZP系、pSMA系、pUC系、pBR系、及びpBluescript系(Agilent technologies)等の大腸菌由来のプラスミドベクターやλgt11及びλZAP等のλファージベクターを利用することができる。Dsup遺伝子発現ベクターを導入する宿主が枯草菌の場合には、pUB110、pTP5等のプラスミドベクターを利用することができる。Dsup遺伝子発現ベクターを導入する宿主が酵母の場合には、YEp13、YEp24、及びYCp50等のプラスミドベクターを利用することができる。Dsup遺伝子発現ベクターを導入する宿主が昆虫細胞の場合には、バキュロウイルス等の昆虫ウイルスベクターを用いることができる。Dsup遺伝子発現ベクターを導入する宿主がヒト等の哺乳類動物の場合には、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクター、あるいは非ウイルスベクターを母核とする公知の発現ベクターを使用することができる。また、導入する宿主が植物の場合には、pBI系若しくはpRI系のバイナリーベクター等のプラスミドベクターやカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)、インゲンマメゴールデンモザイクウイルス(BGMV)、タバコモザイクウイルス(TMV)等のウイルスベクターを利用することができる。さらに、大腸菌、枯草菌又は酵母内でも複製可能なシャトルベクター、染色体中に相同又は非相同組換え可能なベクター、又は各メーカーから市販されている様々な宿主専用発現ベクターを利用してもよい。
「プロモーター」は、遺伝子発現ベクターを導入した細胞において、下流(3’末端側)に配置された遺伝子の発現を制御することのできる遺伝子発現調節領域である。
プロモーターの種類は、特に限定はしない。当該分野で公知のプロモーターを用いればよい。例えば、宿主が大腸菌であれば、作動可能なプロモーターとして、lac、trp若しくはtacプロモーター、又はファージ由来のT7、T3、SP6、PR若しくはPLプロモーター等が挙げられる。宿主が酵母であれば、作動可能なプロモーターとして、例えば、酵母解糖系遺伝子のプロモーター、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモーター、TPI1プロモーター、ADH2-4cプロモーター等が挙げられる。宿主が昆虫細胞であれば、作動可能なプロモーターとして、例えば、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーター、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモーター、バキュロウイルス即時型初期遺伝子1プロモーター、バキュロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモーター等が挙げられる。宿主がヒトをはじめとする動物細胞であれば、作動可能なプロモーターとして、RNAポリメラーゼII(PolII)系遺伝子プロモーター、RNAポリメラーゼIII(Pol III)系遺伝子プロモーター、U6snRNA遺伝子及びH1遺伝子のプロモーター等が挙げられる。宿主が植物細胞であれば、作動可能なプロモーターとして、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター(Pnos)、トウモロコシ由来ユビキチンプロモーター、イネ由来のアクチンプロモーター、タバコ由来PRタンパク質プロモーター等が挙げられる。
「標識遺伝子」は、選抜マーカー又はレポータータンパク質とも呼ばれる標識タンパク質をコードする遺伝子である。「標識タンパク質」とは、その活性に基づいて標識遺伝子の発現の有無を判別することのできるポリペプチドをいう。活性の検出は、標識タンパク質の活性そのものを直接的に検出するものであってもよいし、色素のような標識タンパク質の活性によって発生する代謝物を介して間接的に検出するものであってもよい。検出は、生物学的検出(抗体、アプタマー等のペプチドや核酸の結合による検出を含む)、化学的検出(酵素反応的検出を含む)、物理的検出(行動分析的検出を含む)、又は検出者の感覚的検出(視覚、触覚、嗅覚、聴覚、味覚による検出を含む)のいずれであってもよい。標識遺伝子は、Dsup遺伝子発現ベクターを保有する宿主細胞又は形質転換体を判別する目的、及び/又はDsupタンパク質等をモニタリングする目的で用いられる。
「ターミネーター」は、前記プロモーターにより発現したDsup遺伝子の転写を終結できる配列である。ターミネーターの種類は、特に限定はしない。好ましくはプロモーターと同一生物種由来のターミネーターである。例えば、大腸菌であれば、リポポリプロテインlppの3’ターミネーター、trpオペロンターミネーター、amyBターミネーター、ADH1遺伝子のターミネーター等が使用できる。カイコ等の昆虫であれば、hsp70ターミネーター、SV40ターミネーター等が使用できる。植物であれば、ノパリン合成酵素(NOS)ターミネーター、オクトピン合成酵素(OCS)ターミネーター、CaMV 35Sターミネーターが挙げられる。一遺伝子発現制御においてゲノム上で前記プロモーターと対になっているターミネーターは特に好ましい。
「エンハンサー」は、ベクター内の遺伝子又はその断片の発現効率を増強できるものであれば特に限定はされない。
本発明のDsup遺伝子発現ベクターは、宿主細胞内でDsup遺伝子の発現場所や発現時期を制御すると共に、宿主細胞内での発現を容易に行うことができる。
4−1.概要
本発明の第4の態様は医薬組成物である。本態様の医薬組成物は、細胞内に投与することで、その細胞に活性酸素による障害抵抗性を付与することができる。この薬効により、過度の活性酸素の発生により生体内で生じる障害、例えば、高線量の放射線被曝による細胞死やDNA損傷を抑制し、骨髄や腸管等の組織損傷や発癌を軽減又は阻止することができる。
(1)有効成分
本態様の医薬組成物は、第1態様に記載のDsupタンパク質、第2態様に記載のDsup遺伝子、又は第3態様に記載のDsup遺伝子発現ベクターを有効成分として含有する。医薬組成物に含まれるこの有効成分は、複数種の組み合わせであってもよい。例えば、Dsupタンパク質とDsup遺伝子発現ベクターの2つを一つの医薬組成物に含むこともできる。
「被験体」とは、本態様の医薬組成物又は第5態様に記載の化粧品の適用対象となる動物個体をいう。動物個体には、脊椎動物、好ましくは哺乳類動物、例えばヒトをはじめとする霊長類、イヌ、ネコ、フェレット及びウサギ等の愛玩動物、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ及びラクダ等の家畜(競走馬を含む)、マウス、ラット及びモルモット等の実験動物が該当する。特に好ましい被験体はヒトである。また、「被験体の情報」とは、医薬組成物又は化粧品を適用する被験体の様々な個体情報であって、例えば、被験体の年齢(月齢、週齢)、体重、性別、全身の健康状態、薬剤感受性、併用薬物の有無等を含む。有効量、及びそれに基づいて算出される適用量は、個々の被験体の情報等に応じて決定される。この決定は、通常、医師又は獣医師の診断により決定される。
本態様の医薬組成物は、前記有効成分に加えて、薬学的に許容可能な担体を包含することができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、送達担体、溶媒及び賦形剤が該当する。
本明細書において「送達担体」とは、有効成分であるDsupタンパク質等を細胞内に送達するDDS粒子として機能する担体である。DDS(ドラッグデリバリーシステム:薬剤送達システム)は、薬剤投与経路の最適化を目的とする医薬品の効果をよりよく発揮させるために設計された投与形態で、体内の薬物分布を量的、空間的、時間的に制御し、コントロールすることができる。
溶媒には、例えば、水若しくはそれ以外の薬学的に許容し得る水溶液、薬学的に許容される油又は薬学的に許容される有機溶剤が挙げられるが、そのいずれであってもよい。水溶液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助剤を含む等張液、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液が挙げられる。補助剤としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム、その他にも低濃度の非イオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。薬学的に許容される油としては、小麦胚芽油、杏子油、オリーブオイル、椿油、イブニングプリムローズオイル、アロエベラオイル等の植物油が挙げられる。薬学的に許容される有機溶剤としては、エタノール等が挙げられる。
賦形剤には、例えば、乳化剤、pH調整剤、充填剤、硬化調節剤、滑沢剤等が挙げられる
乳化剤としては、界面活性剤(例えば、ポリエチレングリコール、ポロキサマー、酢酸グリセリル、イソステアラミド、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル)が例として挙げられる。
本態様の医薬組成物の剤形は、有効成分であるDsupタンパク質等を不活化させず、投与後に細胞内でその薬理効果を発揮し得る形態であれば、特に限定しないが、通常、剤形は、医薬組成物の投与法や処方条件等に左右され得る。一般に医薬組成物の投与法は、経口投与と非経口投与に大別できるので、それぞれの投与法に適した剤形にすればよい。例えば、経口投与に適した剤形としては、固形剤(錠剤、丸剤、舌下剤、カプセル剤、ドロップ剤、トローチ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤、液剤(内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤を含む)等が挙げられる。固形剤は、さらに、必要に応じて当該技術分野で公知の剤皮を施した剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠にすることができる。また、非経口投与は、全身投与及び局所投与に細分され、局所投与は組織内投与、経表皮投与、経粘膜投与及び経直腸的投与にさらに細分されるので、それぞれの投与法に適した剤形にすればよい。例えば、全身又は組織内投与に適した剤形としては、液剤である注射剤が挙げられる。経表皮投与又は経粘膜投与に適した剤形としては、液剤(塗布剤、点眼剤、点鼻剤、吸引剤を含む)、懸濁剤(乳剤、クリーム剤を含む)、粉剤(点鼻剤、吸引剤を含む)、ペースト剤、ゲル剤、軟膏剤、硬膏剤等を挙げることができる。経直腸的投与に適した剤形としては、坐剤等を挙げることができる。各剤形の形状、大きさについては、いずれも当該分野で公知の剤型の範囲内にあればよく、特に限定はしない。
本態様の医薬組成物は、細胞内の活性酸素障害による様々な症状を緩和又は改善させる目的で使用することができる。
本態様の医薬組成物によれば、高線量の放射線被曝等の様々な外的ストレスにより細胞内に過度に発生する活性酸素から、細胞死やDNA損傷等の障害を抑制し、骨髄や腸管等の組織損傷や発癌を軽減又は阻止することができる。
5−1.概要
本発明の第5の態様は化粧品である。本態様の化粧品は、皮膚表面に投与することで、活性酸素による障害抵抗性を皮膚細胞に付与することができる。この薬効により、過度の活性酸素の発生により皮膚で生じる障害、例えば、細胞死やDNA損傷を抑制し、皮膚の老化を軽減又は遅延させることができる。
(1)有効成分
本態様の化粧品は、有効成分として第1態様で記載したDsupタンパク質を有効成分とする。有効成分の基本構成は、第4態様の有効成分の構成と同じであることから、ここではその説明を省略する。
本態様の化粧品は、前記有効成分に加えて、薬学的に許容可能な担体を包含することができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、送達担体、溶媒及び賦形剤が該当する。これらの構成も第4態様で記載した担体の構成に準ずる。
本態様の化粧品は、有効成分であるDsupタンパク質の活性酸素の障害活性抑制作用に基づき、紫外線が原因で生じる皮膚の老化抑制を目的としたアンチエイジングスキンケア化粧品として使用することができる。
本態様の化粧品の有効成分であるDsupタンパク質は、活性酸素による細胞死を抑制し、細胞の代謝を活性化させることから、外的ストレスによる変性から皮膚を保護し、健康的な肌を保つ効果も有する。
6−1.概要
本発明の第6の態様は、第3態様のDsup遺伝子発現ベクターを宿主細胞内に導入した形質転換体である。本発明の形質転換体は、Dsup遺伝子の発現により、活性酸素の細胞障害活性に対して抵抗性を獲得している。それ故に、高線量の放射線被曝等の外的ストレスに対しても耐性を有し、細胞死やDNA障害を抑制することができる。
本明細書において「形質転換体」とは、第3態様のDsup遺伝子発現ベクターを含む細胞である。具体的には、第3態様のDsup遺伝子発現ベクターの導入により形質転換された形質転換体の第1世代、及び第2世代以降の後代をいう。
第3態様のDsup遺伝子発現ベクターを宿主細胞内に導入して本発明の形質転換体を調製する方法は、当該分野で公知の形質転換方法に準じて行えばよい。
(目的)
活動状態においても高線量の放射線に対して高い耐性能を有するヨコヅナクマムシから、活性酸素の障害活性からDNAを保護、修復する新規機構に関与するタンパク質を同定する。
材料には、YOKOZUNA-1株を用いた。この株は、Horikawaら(Horikawa D.D., et al., 2008, Astrobiology, 8: 549-556)に記載のヨコヅナクマムシの単一個体に由来する株である。
配列番号1で示すアミノ酸配列からなるDsupタンパク質を同定した。アミノ酸解析の結果、445個のアミノ酸残基からなるこのタンパク質には、既知のタンパク質やドメイン若しくはモチーフと相同性を示さないことが判明した。
(目的)
実施例1で同定されたDsupタンパク質がDNA結合タンパク質であることをゲルシフトアッセイにより検証する。
Dsupリコンビナントタンパク質を作製するため、実施例1で同定した塩基配列をもとに配列番号3及び配列番号4で示す塩基配列からなるプライマーペアを設計し、ヨコヅナクマムシの成体から抽出したmRNAを逆転写して作製したcDNAを鋳型としてPCR(98℃ 30秒×1サイクル; 98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 30秒×30サイクル)でDsupのコード領域全長を増幅した。増幅産物をコールドショック発現ベクターpColdI(TaKaRa)のNdeIサイト及びXbaIサイト間にIn-Fusion HD Cloning Kitを用いて挿入し、N末端にHis6-タグの融合したDsupタンパク質の発現コンストラクト(pColdI-Dsup)を構築した。作製した発現コンストラクトを大腸菌BL21(DE3)株に導入し、対数増殖期に終濃度0.1mMのIPTGを添加後、15℃で24時間振盪培養し、発現を誘導した。菌体を8M Urea buffer (8M Urea、250mM イミダゾール、100mM NaH2PO4、10mM Tris-Cl)にて溶解後、Ni-NTA HisBind Superflow Resin(Novagen)を用いたアフィニティクロマトグラフィにより、N末端にHis6-タグの融合したDsupタンパク質を精製した。250mMイミダゾールを含む8M Urea bufferで溶出した精製タンパク質は、微量透析器マイクロダイアライザー(日本ジェネティクス)を用いた透析法によりDNA結合バッファ (20mM HEPES pH 7.4、100mM KCl、10mM MgCl2、1mM DTT、4 % glycerol) に置換した。
図1に結果を示す。Dsupタンパク質を添加したレーン(Dsup)では、pBluescriptII由来の直鎖状DNAバンドは、予想される3kbpの位置には検出されず、著しく高い位置(矢印)で確認された。一方、対照区としてBSAタンパク質及びGSTタンパク質を添加したレーン(BSA及びGST)では、そのようなバンドシフトは確認されなかった(矢頭)。この結果から、Dsupタンパク質はDNA結合タンパク質であることが示唆された。
(目的)
実施例2の結果からDsupタンパク質がDNA結合タンパク質であることが示唆された。そこで、Dsupタンパク質においてDNA結合に寄与する領域を、欠失変異体を用いた細胞内局在解析により確認する。
Dsupタンパク質の欠失変異体を作製し、各変異体の細胞内局在性を検証した。図2で示すように、Dsupタンパク質は中央部に存在する両親媒性αへリックス領域を境として、それよりもN末端側の領域(N末端側領域)とC末端側の領域(C末端側領域)の3領域に分類した。まず、Dsup全長(Dsup-full)について、ヨコヅナクマムシ成体から抽出したRNAを逆転写して作製したcDNAを鋳型として、配列番号5及び配列番号6で示す塩基配列からなるプライマーペアを用いたPCR(98℃ 30秒×1サイクル;98℃ 10秒、55℃ 5秒、72℃ 8秒×30サイクル)でDsupのコード領域全長を増幅後、In-Fusion HD cloning kit(Takara)を用いてGFPのN末端側に融合するように発現ベクターpAcGFP1-N1 (Clontech)のAsp718サイト及びBamHIサイト間に挿入して作製した。得られた全長Dsupタンパク質とGFPのキメラタンパク質(Dsup-full-GFP)をコードする遺伝子発現コンストラクトを「pDsup-full-AcGFP1」とした。
図3に結果を示す。Dsup-full-GFP、DsupΔN-GFP、及びDsupΔαH-GFPでは、いずれもGFP蛍光シグナルが核ゲノムDNAと一致した。これは、Dsupタンパク質がDNA結合タンパク質であるという実施例2の結果を支持している。一方、DsupΔC-GFPは、GFP蛍光シグナルが核内ではなく細胞質で検出された。この結果から、Dsupタンパク質が核内でDNAと結合するためにはC末端側領域が必要であることが示唆された。
(目的)
Dsupタンパク質のDNA結合に寄与する領域がC末端側領域であることをゲルシフトアッセイにより確認する。
Dsupタンパク質のC末端側領域のみ(Dsup-C)のリコンビナントタンパク質と、C末端側領域全体を欠失したDsupタンパク質(DsupΔCA)のリコンビナントタンパク質を作製するために、実施例2で使用したDsup全長の発現コンストラクトである「pColdI-Dsup」を鋳型として、一部領域を欠失した発現コンストラクトを実施例3に記載のインバースPCR法に準じて構築した。Dsup-C発現コンストラクト「pColdI-Dsup-C」は配列番号13及び配列番号14で示すプライマーを用いて、DsupΔCA発現コンストラクト「pColdI-DsupΔCA」は配列番号15及び配列番号12で示す塩基配列からなるプライマーペアを用いて作製した。
図4に結果を示す。全長Dsupタンパク質を添加したレーン(Dsup-full)では、pBluescriptII由来の直鎖状DNAのバンドは、実施例2と同様に、矢印で示す位置にシフトし、ほとんど移動していないことが確認された。また、C末端側領域のみからなるDsup変異体タンパク質変異体(Dsup-C)においても全長Dsupタンパク質と同様のバンドシフトが確認された。
(目的)
Dsupタンパク質のDNA保護機能について検証する。
まず、Dsupタンパク質を定常的に発現するHEK293細胞を作出した。具体的には、pCAGGS(Niwa H, et al., 1991, Gene, 108: 193-200)を改変したpCXN2KSのKpnIサイト及びNotIサイト間にDsupタンパク質の全長をコードする塩基配列(Dsup遺伝子)を挿入してDsup遺伝子発現コンストラクト(pCXN2-Dsup)を構築した。構築に使用したDsup遺伝子の全長DNAは、実施例2で作製したpColdI-Dsupを鋳型として配列番号16及び配列番号17で示す塩基配列からなるプライマーペアを用いたPCRによって増幅して得た。
図5に結果を示す。X線照射区において、Dsup定常発現HEK293細胞(Dsup)では、HEK293細胞(Cont.)と比較してDNAの断片化が有意に抑制された。この結果は、Dsupタンパク質がDNAに結合し、X線等の高線量放射線による障害からDNAを保護していることを示唆している。
(目的)
Dsupタンパク質が高線量の放射線照射によるDNA損傷からDNAを保護していることを確認する。
実施例5に記載のDsup定常発現HEK293細胞にX線を照射した後、DNA損傷箇所を反映するγ-H2AXを免疫染色法により検出して、細胞当たりのFoci数(γ-H2AXの集積箇所数)を定量した。まず、X線発生装置Pantak HF 350(島津製作所)を用いて、1GyのX線をDsup定常発現HEK293細胞と対照用HEK293細胞に照射した。照射1時間後の細胞を、4%ホルムアルデヒドを含むPBSで15分間固定した。固定後に細胞を0.5% Triton X-100を含むPBSで15分間膜透過処理し、10%のヤギ血清を含むPBSで1時間ブロッキングした。その後、細胞を1次抗体である抗リン酸化ヒストンH2A.X(Ser139)モノクローナル抗体JBW301(Merck Millipore)と1時間反応させ、続いて、PBSで3回洗浄した後、2次抗体のAlexa Fluor 488標識抗マウスIgG抗体(Molecular Probes, A-11001)と45分間反応させた。核DNAは、DAPI(Life technologies)で対比染色した。全ての工程は、基本的に室温で行った。蛍光シグナルは、共焦点顕微鏡LSM710 (Carl Zeiss)を用いて観察し、各細胞につき1.00 μm間隔のZ軸光学切片画像10枚を撮影した。ImageJ version 1.47を用いて、10枚の画像を重ねあわせた後2値化した。γ-H2AXのfoci数は、Caiら(Cai, Z., et al., 2009, Int. J. Radiat. Biol., 85: 262-271)に記載の方法に準じて2値化画像をもとにカウントした。各群につき少なくとも70個の核について評価した。
図6にDsup mRNAの定量的RT-PCRの結果を示す。shDsupを発現しているDsup定常発現HEK293細胞では、shDsup未処理のDsup定常発現HEK293細胞と比較して、細胞中のDsup mRNAの発現量が約25%にまで有意に低下しており、Dsupに対するRNAiが機能していることが示された。
(目的)
Dsup定常発現HEK293細胞における放射線照射後の細胞の代謝活性を検証する。
細胞の代謝活性は、細胞の示す還元力を指標として測定した。Dsup定常発現HEK293細胞及び対照用のHEK293細胞をそれぞれPLLコート24ウェルプレート(Iwaki)に1ウェル当たり1000細胞を播種した。24時間インキュベーションした後(1dps: days post seeding)、X線発生装置Pantak HF 350(島津製作所)を用いて前述の条件で4GyのX線を照射した。放射線照射を行わない実験区(0Gy)を対照区とした。放射線照射後8dpsまでの期間、24時間ごとに代謝活性を測定した。代謝活性の測定は、PrestoBlue Cell Viability Reagent (Invitrogen)を用い、添付のプロトコルに従って同試薬を細胞に添加して2時間インキュベートした後に、Spectra max Gemini EM(Molecular Devices)を用いて、蛍光量として代謝活性を測定した。最初の2日間は、反応時間を24時間に延長し、少数の細胞による比較的弱い代謝活性を検出した。各条件について3つのウェルを用いて実験を行った。
結果を図8に示す。図8は細胞の代謝活性を示す。AはOGy(X線非照射)、Bは4Gy(X線照射)の図である。A及びB共にDsup細胞(Dsup)では、HEK293細胞(Cont.)よりも有意に高い代謝活性を示した。特にBの4GyのX線を照射したHEK293細胞は代謝活性が顕著に減少したのに対して、Dsup定常発現HEK293細胞は、代謝活性がX線照射の時間経過と共に増加した。この結果は、Dsupタンパク質を発現している細胞では、放射線照射後も細胞群の総代謝活性が増加する能力を維持することを示唆している。
(目的)
Dsupタンパク質のDNA保護による放射線照射に対する細胞増殖能の維持について検証する。
基本的な操作は、実施例7に準じて行った。8dps及び10dpsに、細胞をPBSで緩やかに洗浄した後、トリプシン処理によって懸濁して、回収した。各dpsの細胞数を自動細胞カウンターZ1 Particle Counter(Beckman Coulter)を用いてカウントし、8dpsの総細胞数を1としたときの10dpsの総細胞数から細胞増殖率を算出した。
結果を図9に示す。放射線被照射細胞群において、Dsup定常発現HEK293細胞(Dsup)では、4GyのX線照射後も細胞の増殖が維持された。一方、Dsup定常発現HEK293細胞内でshDsupを発現する細胞株(shDsup)では細胞増殖率は減少し、HEK293細胞(Cont.)と大きな差が見られなかった。この結果は、Dsupタンパク質により細胞に放射線耐性が付与されたことを示している。
Claims (9)
- 以下の(a)〜(c)で示すいずれかのアミノ酸配列からなり、DNA傷害に対する抑制作用を有するタンパク質。
(a)配列番号1に示すアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示すアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、及び
(c)配列番号1に示すアミノ酸配列に対して95%以上の同一性を有するアミノ酸配列 - 請求項1に記載のDNA傷害に対する抑制作用を有するタンパク質をコードする遺伝子。
- 以下の(a)〜(d)で示すいずれかの塩基配列からなる請求項2に記載の遺伝子。
(a)配列番号2に示す塩基配列、
(b)配列番号2に示す塩基配列において1若しくは複数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列、
(c)配列番号2に示す塩基配列に対して95%以上の同一性を有する塩基配列、及び
(d)配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列と高ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列 - 請求項2又は3に記載の遺伝子を発現可能な状態で包含する遺伝子発現ベクター。
- 請求項1に記載のDNA傷害に対する抑制作用を有するタンパク質からなるDNA傷害抑制剤。
- 請求項4に記載の遺伝子発現ベクターからなるDNA傷害抑制剤。
- 請求項1に記載のDNA傷害に対する抑制作用を有するタンパク質、請求項2又は3に記載の遺伝子、又は請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを有効成分とする医薬組成物。
- 請求項1に記載のDNA傷害に対する抑制作用を有するタンパク質を有効成分とする化粧品。
- 請求項4に記載の遺伝子発現ベクターを包含する形質転換体。
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