JP6565453B2 - 塩化ニトロシルの製造方法 - Google Patents

塩化ニトロシルの製造方法

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Description

本発明は、塩化ニトロシルの製造方法に関する。
塩化ニトロシルは、王水の高い酸化力の源となる成分である。塩化ニトロシルは、高い反応性を有することから、多くの有機合成に利用されている(特許文献1〜3)。また、塩化ニトロシルの反応性に関する基礎的な試験研究を行うためには、所定の濃度で塩化ニトロシルを含むガスボンベを製造する必要がある。
現在、工業的な塩化ニトロシルの製造方法としては、ニトロシル硫酸と塩化水素を反応させる方法(特許文献4)、塩化ナトリウムと硝酸とを反応させる手法(特許文献5〜7)、塩化ナトリウムと二酸化窒素(非特許文献1)を反応させる方法、塩化カリウムと二酸化窒素を反応させる方法(特許文献8)が知られている。
また、特許文献8には、塩化カリウム以外の塩化物と二酸化窒素との反応を、塩化ニトロシルの製造に利用する可能性について示唆されている。しかし、特許文献8には、上記の反応を塩化ニトロシルの製造に利用することを、実際に検討した報告はない。
特開2001−2625号公報 特開2006−52163号公報 特開平6−306017号公報 特開平11−278813号公報 特開昭61−048401号公報 特開昭62−065923号公報 特開昭62−065924号公報 仏国特許発明第1333767号明細書
Schroeder,W.H.,&Urone,P.(1974).Formation of nitrosyl chloride from salt particles in air.Environmental Science & Technology,8(8),756−758.
しかしながら、ニトロシル硫酸と塩化水素とを反応させる、または塩化ナトリウムと硝酸とを反応させて、塩化ニトロシルを得る方法では、不純物ガスである塩素が副生するという問題があった。
また、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムと、二酸化窒素とを反応させて塩化ニトロシルを得る手法では、反応速度が非常に遅いため、二酸化窒素と塩化物との接触時間を長時間にする必要があった。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、塩素ガスを副生させずに、効率よく塩化ニトロシルを製造できる製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、塩素ガスを副生させずに、効率よく塩化ニトロシルを製造する方法を開発するために、塩化ナトリウムと二酸化窒素との反応による塩化ニトロシルの製造法に着目して検討した。
塩化ナトリウムと二酸化窒素との反応は、以下の(反応式1)で示すことができる。
NaCl+2NO→NaNO+NOCl(反応式1)
(反応式1)で示される反応では、原料ガスとして導入した二酸化窒素以外に気相に不純物が混入しない。しかし、(反応式1)で示される反応は、反応速度が非常に遅い。
そこで、本発明者は、(反応式1)で示される反応における原料ガス以外の不純物ガスが混入しない利点を利用しつつ、反応速度を速くして二酸化窒素のほぼ全量を塩化ニトロシルへと変化させる製造方法を検討した。
その結果、塩化物として、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の無水物を選択すればよいことを見出した。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
(1)塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の水和物を風解して前記塩化物の無水物を得る工程を有し、前記工程で得られた、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の無水物と、二酸化窒素とを、−11℃以上90℃未満の反応温度で反応させて製造することを特徴とする塩化ニトロシルの製造方法。
(2)前記塩化物の無水物と前記二酸化窒素とを21℃未満の温度で接触させて反応させることを特徴とする(1)に記載の塩化ニトロシルの製造方法。
(3)塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の水和物を風解して前記塩化物の無水物を得る工程を有し、前記工程で得られた、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の無水物と、二酸化窒素とを、−11℃以上10℃以下の反応温度で反応させて製造することを特徴とする塩化ニトロシルの製造方法。
(4)前記塩化物が、塩化ストロンチウムを含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の塩化ニトロシルの製造方法。
(5)前記塩化物が、塩化コバルト(II)を含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の塩化ニトロシルの製造方法。
(6)前記塩化物の無水物を充填して形成した充填層を有する反応管と、前記反応管内に二酸化窒素を供給する供給装置とを有する反応装置を用い、前記充填層に前記二酸化窒素を流通させることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の塩化ニトロシルの製造方法。
本発明の塩化ニトロシルの製造方法によれば、塩素ガスを副生させずに、効率よく塩化ニトロシルを製造できる。
本発明に係る塩化ニトロシルの製造方法の一例により得られたガスの赤外分光スペクトルを示すグラフである。 本発明に係る塩化ニトロシルの製造方法の他の例により得られたガスの赤外分光スペクトルを示すグラフである。 本発明に係る塩化ニトロシルの製造方法の他の例により得られたガスの赤外分光スペクトルを示すグラフである。
以下、本発明の塩化ニトロシルの製造方法について詳細に説明する。
本発明者は、まず初めに、上記の(反応式1)で示される反応において、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムと、二酸化窒素との反応速度が遅い理由を検証した。そして、反応速度が遅い主な理由は、以下に示す第一の理由〜第三の理由であると推定した。
第一の理由は、塩化物表面に付着した水分の影響である。塩化ニトロシルは水と反応して亜硝酸に変化することが知られている(Magi,L.,George,C.,&Mirabel,P.(1997).Uptake of nitrosyl chloride(NOCl)by aqueous solutions.The Journal of Physical Chemistry A,101(49),9359−9366.)。
また、塩化ナトリウムと二酸化窒素との反応速度は、相対湿度が高くなるほど遅くなり、硝酸ナトリウムが生成しにくくなることが報告されている(Karlsson,R.,&Ljungstrom,E.(1995).Nitrogen dioxide and sea salt particles−a laboratory study.Journal of aerosol science,26(1),39−50.)。
こうした水分の影響によって原料である塩化物と二酸化窒素との反応が妨げられた可能性がある。よって、原料から水を除くことにより反応速度が速くなると考えた。具体的には、塩化物と二酸化窒素とを反応させる前に、原料から水を除く前処理を実施すれば反応速度が速くなると予想した。
第二の理由は、原料である塩化物と生成物である硝酸塩との相対的な安定性である。(反応式1)で示される反応は、塩化物と硝酸塩との相対的な安定性により、進行し易さが変化する。具体的には、生成物である硝酸塩が安定であるほど、反応速度が速くなることが期待される。よって、反応式の熱力学的な計算を実施し、生成物(硝酸塩)が熱力学的により有利となる塩化物を選択することで、反応速度を高めることができると推察した。
第三の理由は、原料である塩化物の比表面積の大きさである。固体である塩化物と気体または液体である二酸化窒素との反応は、塩化物粒子の表面で進行する。このため、塩化物粒子の比表面積が小さいと、反応速度が遅くなる。塩化ナトリウムおよび塩化カリウムは、工業的には水溶液から析出させて製造されている。塩化ナトリウムおよび塩化カリウムは、非常に溶解度が高いため、水溶液から析出させると、粒径が大きく、比表面積が小さい粒子となる。よって、反応速度を速くするには、塩化物の比表面積が大きくなる工夫を施すことが効果的であると推察した。
以下、本発明を実施する際に重要となる事項について順次説明を行う。
まず、二酸化窒素との反応に用いる原料である塩化物を選択する際の基準について述べる。そして、選択した塩化物と二酸化窒素とを反応させる手順について説明を行う。最後に、発生したガス中に含まれる塩化ニトロシルの濃度を決定する手順について述べる。
本実施形態で用いる塩化物は、以下の(反応式2)で示される一般式に従って二酸化窒素と反応し、塩化ニトロシルとなる。
ACl+2nNO→A(NO+nNOCl(反応式2)
およそあらゆる塩化物が(反応式2)に適用可能である。実際に本実施形態の反応に用いる塩化物の選択にあたっては、(反応式2)の反応のエンタルピー変化が負に大きく、より発熱であるものを選ぶと好ましく、また、反応の際のギブスの自由エネルギー変化が負に大きいほど生成物が有利となり好ましい。
(反応式2)の反応のエンタルピー、エントロピーの計算には、様々なデータベースで提供される数値を利用できる。例えば、NIST Chemistry WebBook (http://webbook.nist.gov/chemistry/)に記載の数値を利用できる。そうしたデータベースにないものは論文などに記載の数値を利用できる。
表1に、塩化ニトロシル1モル当たりのエンタルピー変化量(ΔH)およびギブスの自由エネルギー変化量(ΔG)の一例を示す。
表1に示すように、周期表の第1族元素(アルカリ金属)では、塩化リチウムを用いた場合に発熱量が大きく(−ΔHおよび−ΔGが大きく)、(反応式2)の反応において塩化ニトロシル生成の反応速度が速くなることが期待される。同様に、周期表の第2族元素では、塩化カルシウム、塩化ストロンチウムが有利であると予想できる。また、遷移金属元素では塩化コバルト(II)が好ましいと考えられる。
実際に塩化ニトロシルを生成した際の転化率が、概ね上記の予想通りの序列となることは、後の実施例に示す通りである。したがって、熱力学的に(反応式2)の反応が有利となる塩化物を選択することは、塩化ニトロシル生成の反応速度を速くするには、有効である。
Figure 0006565453
本実施形態で用いる原料である塩化物としては、副反応が生じやすい塩化物は避けるべきである。例えば、後述する実施例に示す通り、塩化物として塩化鉄(II)を利用した場合には、導入した二酸化窒素が全て塩化物に吸収され、塩化ニトロシルの生成が確認できなかった。これは、二酸化窒素の酸化力によって、二価の鉄が三価に酸化されてしまったことによるものと考えられる。したがって、塩化物として、塩化物に含まれる金属元素の酸化数が最大数であるものを選ぶか、二酸化窒素によって金属元素の酸化が生じないものを選択することが好ましい。
また、塩化物として、取扱いが難しい試料も避けるべきである。例えば、塩化チタンは、大気に触れると酸化物に分解してしまう。塩化亜鉛、塩化ニッケルは、水和物の乾燥時に加水分解してしまい、酸化物が生成してしまう。
塩化物として、比表面積が大きい粒子を選択すると、固体である塩化物と気体または液体である二酸化窒素とが反応する場所が増加するため、反応速度の増大が期待できる。しかし、塩化物は、水への溶解度が高いため、水溶液を経由する一般的な製造過程を用いて、粒径が小さく、比表面積の大きい粒子を得ることは難しい。そこで、安定な水和物を生成する塩化物を選択し、塩化物の水和物を風解して、比表面積の大きい粒子を得ることが有効である。
具体的には、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、塩化鉄(III)は、安定な水和物を形成し、水和物を加熱・乾燥することにより風解し、大きな比表面積が得られるため、好ましい。これに対し、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウムは、安定な水和物を作らないため好ましくない。
本発明者らが、塩化カルシウムの水和物と塩化リチウムの水和物とを、それぞれ200℃で加熱する風解処理を行って得た無水物では、塩化カルシウムの比表面積は、塩化リチウムの比表面積と比較して10倍以上大きい値であった。
また、塩化物は、水への溶解度が高く、塩化物に吸着した吸着水は、塩化物に残存しやすい性質がある。塩化物に吸着した吸着水が、塩化物と二酸化窒素との反応により生成した塩化ニトロシルと反応すると、塩化ニトロシルの分解が進行してしまう。
以上より、本実施形態では、塩化物として、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の無水物を用いる。これらの中でも、塩化物として、塩化ニトロシルの生成効率が高い塩化カルシウムまたは塩化ストロンチウムの無水物を用いることが好ましい。
本実施形態では、前記群より選択される1種以上の塩化物の水和物を風解して前記塩化物の無水物を得る工程を有することが好ましい。
特に、塩化ニトロシルの生成速度が大きく、塩化ニトロシルを効率よく生成できるため、塩化カルシウムの水和物または塩化ストロンチウムの水和物を風解して得た無水物を用いることが好ましい。
本実施形態では、塩化物として、複数の塩化物の混合物を利用しても構わない。塩化物として、複数の塩化物の混合物を用いる場合、塩化ストロンチウムの無水物および/または塩化コバルト(II)の無水物を必ず含むことが好ましい。複数の塩化物の混合物の好ましい例としては、例えば、塩化ストロンチウムの無水物と塩化コバルト(II)の無水物との混合物、塩化カルシウムの無水物と塩化ストロンチウムの無水物との混合物などが挙げられる。
塩化ストロンチウムは、塩化ニトロシルを最も効率よく発生させることが可能であり、塩化ニトロシルを生成させる反応に用いる塩化物として、好ましい。しかし、塩化ストロンチウムは、環境を汚染する恐れのある物質であるため、使用量を抑制することが好ましい。塩化物として、塩化ストロンチウムの無水物を含む複数の塩化物の混合物を用いることで、塩化ストロンチウムと二酸化窒素との反応を利用して塩化ニトロシルを効率よく生成でき、しかも塩化ストロンチウムの使用量を抑制できる。
また、塩化物として、複数の塩化物の混合物を用いる場合、塩化コバルト(II)を必ず含むことが好ましい。大部分の塩化物および硝酸塩は白色であるため、二酸化窒素と塩化物との反応が進行しても充填層の外見に変化が無く、充填した塩化物のどの部分がどの程度まで反応に利用されたのかを簡便に判断することが困難である。
そこで本発明者らは、コバルト塩の持つ特徴的な色変化に着目した。無水塩化コバルト(II)と無水硝酸コバルト(III)とでは、大きく色が異なる。無水塩化コバルト(II)は青色であり、無水硝酸コバルト(III)は淡い赤色である。よって、塩化コバルト(II)を用いて充填層を形成すれば、塩化コバルト(II)と二酸化窒素とが反応して硝酸コバルト(III)に変化したことを、色の変化で確認できる。
続いて、実際に反応管内に充填した塩化物と二酸化窒素とを反応させる際の注意点について述べる。
本実施形態においては、塩化物を充填して形成した充填層を有する反応管と、反応管内の充填層に二酸化窒素を供給する供給装置とを有する反応装置を用いて、塩化ニトロシルを製造する場合を例に挙げて説明する。本実施形態では、反応装置の充填層に供給装置を用いて二酸化窒素を供給し、充填層に二酸化窒素を流通させて、塩化物と二酸化窒素とを接触させることにより、塩化ニトロシルを製造する。
本実施形態では、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の無水物を反応管に充填して充填層を形成する。
塩化物として、塩化ストロンチウムの無水物を含む複数の塩化物を用いる場合、反応管の上流側に塩化カルシウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の無水物を充填し、下流側に塩化ストロンチウムを充填して充填層を形成することが好ましい。この充填層を有する反応管の上流側から二酸化窒素を通過させると、上流側に充填された塩化物と二酸化窒素の一部とが反応し、塩化ニトロシルに変換される。そして、反応管の上流側を通過した後に残留する二酸化窒素が反応管の下流側を通過することにより、塩化ストロンチウムと二酸化窒素とが反応し、塩化ニトロシルに変換される。その結果、充填層全体が塩化ストロンチウムを充填したものである場合と比較して、使用する塩化ストロンチウムの使用量が少なくても、塩化ニトロシルを効率よく生成できる。
また、塩化物として、塩化コバルト(II)を含む複数の塩化物を用いる場合、例えば、充填層として、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物を充填して形成された第1領域と、第1領域内に部分的に形成された塩化コバルト(II)からなる第2領域とを有するものを形成することが好ましい。このことによって、充填層を形成している塩化物と二酸化窒素との反応の進行を、第2領域の色変化により容易に目視確認できる。したがって、充填層を形成している塩化物の交換時期の判断が非常に容易となる。
本実施形態においては、塩化物の無水物と二酸化窒素とを反応させる前に、塩化物の水和物を風解して塩化物の無水物を得る工程を行うことが好ましい。具体的には、例えば、反応管内に塩化物の水和物を充填した後、反応管内に乾燥させた窒素や空気をフローさせながら反応管を加熱昇温し、水蒸気の発生がなくなるまで反応管を100〜350℃で加熱する風解処理を行うことが好ましく、200〜300℃で加熱する風解処理を行うことがより好ましい。反応管の加熱温度を100℃以上、より好ましくは200℃以上とした場合、塩化物の水和水としての水分および塩化物に吸着した吸着水が残存してしまうことがなく、好ましい。また、反応管の加熱温度を350℃以下、より好ましくは300℃以下にすると、加熱コストを抑制できるとともに、反応管を加熱することによって融点の低い塩化物の比表面積が低下することを防止できる。
本実施形態においては、風解処理等して製造した塩化物の無水物と二酸化窒素とを反応させる前に、塩化物の無水物に吸着している吸着水を除くための乾燥処理を行ってもよい。乾燥処理としては、例えば、反応管内に塩化物の無水物を充填した後、反応管内に乾燥させた窒素や空気をフローさせながら反応管を加熱昇温し、水蒸気の発生がなくなるまで反応管を加熱する方法や、充填後に反応管内を減圧処理して吸着水を除く方法等が挙げられる。
本実施形態の製造方法では、当然のことながら、必ずしも反応管内にて塩化物の水和物の風解処理を行う必要はなく、予め別の場所で風解処理した塩化物の無水物を反応管に充填してもよい。
また、市販品として塩化物の無水物が入手可能である場合には、それを利用することにより、塩化物の水和物の風解処理を省略でき、製造工程を簡略化できる。
本実施形態においては、固体である塩化物の表面と、気体または液体である二酸化窒素との接触効率を高めることで、塩化物と二酸化窒素との反応速度を速くできる(非特許文献1)。具体的には、圧力損失が大きくなりすぎない範囲で、利用する塩化物の粒子径をできるだけ小さくし、塩化物の比表面積を大きくすることが好ましい。
また、反応装置の反応管内に充填した塩化物の充填密度にむらがあり、充填層の一部の塩化物が反応に寄与しにくい状態であると、反応効率が低下してしまう。このため、塩化物として、必要に応じて粒子を整粒したものを用いることが好ましい。整粒した塩化物の粒子を用いると、反応管内に充填した塩化物の充填密度が均一になるため、充填された塩化物全体が反応に寄与するようになり、良好な反応効率が得られる。
塩化物を充填して形成した充填層に供給する二酸化窒素は、窒素などの希釈ガスで希釈されたものであってもよい。希釈された二酸化窒素の濃度は、10ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましく、200ppm以上であることがより一層好ましい。充填層に導入する二酸化窒素の濃度に上限はなく、二酸化窒素のみであってもよい。充填層に導入する二酸化窒素の濃度が、10ppm以上であると、塩化物上に二酸化窒素が十分に付着するため、塩化ニトロシルの生成効率が良好となる。
充填層に希釈された二酸化窒素を導入する場合、二酸化窒素の濃度を制御する方法としては、以下に示す方法が挙げられる。
例えば、反応管に、希釈された二酸化窒素の収容されたガスボンベが接続されている場合、二酸化窒素濃度の異なる複数のガスボンベを用意し、ガスボンベを適時選択する方法を用いることができる。また、所定の割合で窒素などの希釈ガスと二酸化窒素(または希釈ガスで希釈された二酸化窒素)とを所定の流量で反応管に供給することにより、希釈ガスと二酸化窒素との混合ガスを反応管に供給する方法を用いてもよい。
反応管の充填層に供給する二酸化窒素(または希釈された二酸化窒素)は、気体であってもよいし、一部または全部が液体であってもよい。充填層に供給する二酸化窒素の一部または全部が液体である場合、塩化物と二酸化窒素との接触がより一層促進され、さらに反応速度が向上する。よって、塩化ニトロシルの生成効率がより一層良好となる。
本実施形態の製造方法では、塩化物と二酸化窒素とを、−11℃以上90℃未満の反応温度で反応させて塩化ニトロシルを発生させる。上記の反応温度とすることにより、反応速度が速くなり、塩化ニトロシルの生成効率を上げることができる。
本実施形態の製造方法では、塩化物の無水物と二酸化窒素とを、90℃未満、好ましくは23℃(室温)以下の温度で接触させて反応させることが好ましい。反応温度を23℃以下とすることで、塩化ニトロシルの生成効率が著しく向上する。
また、本実施形態の製造方法では、塩化物の無水物と二酸化窒素とを21℃未満の温度で接触させて反応させることがより好ましい。一般に気体は、各温度での飽和蒸気圧に対する相対圧力が高いほど、固体の表面に吸着されやすくなる。二酸化窒素の沸点は21℃であり、反応温度を沸点(21℃)未満にすることで、塩化物表面への二酸化窒素の吸着が促進され、反応速度が上昇し、塩化ニトロシルの生成効率がより一層向上する。
また、塩化物の無水物と二酸化窒素とを5℃以下の温度で接触させて反応させることがさらに好ましい。この場合、塩化物表面への二酸化窒素の吸着がさらに促進され、より一層、塩化ニトロシルの生成効率が向上する。
また、本実施形態の製造方法では、塩化物の無水物と二酸化窒素とを−11℃以上の温度で接触させて反応させる。二酸化窒素の融点は−11℃であることから、塩化物の無水物と二酸化窒素とを接触させる温度(反応温度)を−11℃以上とすることにより、二酸化窒素の固体が析出して、塩化ニトロシルの生成効率が低減することを防止できる。上記温度を−11℃以上とした場合であっても、導入する二酸化窒素の濃度によっては、塩化物表面に二酸化窒素が一部凝縮することも予想されるが、その場合には塩化物と二酸化窒素との接触がさらに促進されるため、反応速度が上昇すると考えられる。
また、塩化物の無水物と二酸化窒素とを接触させる温度を0℃以上とすることにより、冷却に必要なコストを抑制でき、好ましい。
本実施形態の製造方法により生成した塩化ニトロシルガスは、未反応の残留する二酸化窒素が存在する場合、残留する二酸化窒素とともに塩化ニトロシル含有ガスとして、反応管から排出される。また、二酸化窒素として、希釈ガスで希釈された二酸化窒素を用いた場合には、希釈ガスを含む塩化ニトロシル含有ガスが反応管から排出される。排出管から排出された塩化ニトロシル含有ガスは、必要に応じて、窒素などの希釈ガスを用いて希釈してもよい。
続いて、上記手順に従って発生させた塩化ニトロシル含有ガス中の塩化ニトロシルの濃度を見積もる手順について述べる。塩化ニトロシルの濃度を調べる手段は少なく、本発明者の実施した文献調査では、赤外吸収分光測定による測定が最も簡便でかつ信頼のできるものであると結論された。
塩化ニトロシルの赤外分光スペクトルや、詳細な吸収波数については、以下に示す文献に記載されている(非特許文献1および、吸収スペクトルの帰属:Landau,L.,&Fletcher,W.H.(1960).The infrared spectrum and potential function of nitrosyl chloride.Journal of Molecular Spectroscopy,4(1),276−283.)。
いずれのピークも水蒸気の吸収スペクトルと重なる位置にあるが、測定で得られたスペクトルと、水蒸気の吸収スペクトルとの差スペクトルを計算することで、二酸化窒素と塩化ニトロシルのスペクトルをそれぞれ取得することが可能である。
しかしながら、赤外分光測定にて発生させた塩化ニトロシルの濃度を決定するにはいくつかの課題がある。すなわち、同じ濃度の塩化ニトロシル含有ガスを測定する場合でも、用いる赤外分光装置や、ガス分析用セルの種類によって、その検出値は大きく変動する。さらに、同じ装置を用いた場合でも、測定を実施する日毎に検出値が変動してしまう。このため、一度作成した検量線が必ずしも信頼できないという問題がある。
そこで、本発明者は、二つの手法を用いて、発生した塩化ニトロシルの濃度を見積もった。
一つ目の方法は、塩化物と反応させる直前に二酸化窒素濃度に対する赤外スペクトルのピーク強度の検量線を作成し、反応前後で減少した二酸化窒素濃度が塩化ニトロシルに変化したと見積もるものである。
二つ目の方法は、導入した二酸化窒素ガスの濃度と、赤外分光測定結果における二酸化窒素と塩化ニトロシルの検出ピーク強度の相対値とを用いて、発生した塩化ニトロシルの濃度の計算を行うものである。以下でそれぞれについてその詳細を述べる。
一つ目の方法では、二酸化窒素の検出量の変化を用いて、発生した塩化ニトロシルの量を見積もる。二酸化窒素の濃度を測定する手段は多数存在し、導入する二酸化窒素ガスの濃度は正確に決定可能である。上記の反応式2に従って反応が進行すると仮定すると、消費された二酸化窒素は全て塩化ニトロシルとなる。よって、反応管通過後の塩化ニトロシル含有ガスに残存する二酸化窒素の濃度を測定することで、発生した塩化ニトロシルの濃度を計算することが可能となる。
ただし、既述の通り、二酸化窒素の濃度は、赤外スペクトルのピーク強度と必ずしも一対一に対応しないため、測定の直前に検量線を作成し、それに従って濃度の計算を行うことが重要である。また、反応開始後しばらくの間は、赤外分光装置の位置まで二酸化窒素が到達せず、二酸化窒素の残存濃度を過少評価する恐れがあるため、二酸化窒素と塩化ニトロシルの双方のピーク強度が安定するまで、評価を見送るべきである。
二つ目の方法は、既知の濃度の二酸化窒素ガスを原料に利用し、反応管通過後の塩化ニトロシル含有ガスの赤外スペクトルにおける二酸化窒素の検出強度と、塩化ニトロシルの検出強度との比を利用するものである。前述の一つ目の方法では、測定の度毎に検量線を作成する必要が生じ、非常に手間がかかる。測定の日程による検出強度の違いは、日毎の大気状態の違いと、半導体検出器の検出感度の不安定性とに由来すると予想される。したがって、同一のスペクトル内での相対強度は、信頼できる値となると考えられる。上記の(反応式2)に従って二酸化窒素の消費と塩化ニトロシルの発生が進行するという前提であれば、塩化ニトロシルと二酸化窒素のモル濃度は以下の式に従う。
導入NO濃度(モル)=2×反応装置通過後NOCl濃度(モル)+反応装置通過後NO濃度(モル)
よって、反応管通過後の塩化ニトロシル含有ガス中に含まれる塩化ニトロシルと二酸化窒素の濃度の相対比が分かれば、各ガスの濃度を決定することが可能である。
二酸化窒素と塩化ニトロシルは、別種の分子であるため、各ピーク位置における赤外線の吸収断面積が異なる。そこで、初めに各分子種について、校正線を作成する必要がある。二酸化窒素の校正線の作成は、標準ガスを用いて実施する。塩化ニトロシルの校正線の作成は、上述の一つ目の方法で見積もった塩化ニトロシル濃度を用いて実施する。得られた校正線を用いて、反応管通過後の塩化ニトロシル含有ガス中に含まれる二酸化窒素と塩化ニトロシルの濃度をそれぞれ見積もる。導入した実際の二酸化窒素の濃度は既知であるから、計算結果と導入した二酸化窒素の濃度とが矛盾しなくなるように、各成分の濃度を、比例して増加させる。これによって、一度正確な検量線を作成して以降は、簡便に塩化ニトロシルの量を見積もることが可能となる。
本実施形態の塩化ニトロシルの製造方法では、固体の塩化物の無水物と、気体または液体の二酸化窒素とを反応させることにより、塩化ニトロシルを生成できる。このため、水を不可避的に不純物として含有する、液体状原料を用いた塩化ニトロシル製造法と異なり、水が不純物として混入することがなく、さらに、生成した塩化ニトロシルが加水分解することがなく、好ましい。また、ニトロシル硫酸などのより反応性が高い試薬を用いた反応で副生する塩素が発生しないため、好ましい。
さらに、本実施形態の塩化ニトロシルの製造方法では、塩化物として、塩化ナトリウムまたは塩化カリウムを用いた先行技術と比較して、高純度の塩化ニトロシルを生成できる。したがって、本実施形態の塩化ニトロシルの製造方法により生成した塩化ニトロシル含有ガスは、精製することなく、試験研究に利用したり、有機反応に利用したりできる。
また、本実施形態の塩化ニトロシルの製造方法では、二酸化窒素の使用量(モル数)を制御することによって、簡便に、任意の生成量(モル数)で塩化ニトロシルを発生させることができる。また、塩化物の無水物と反応させる二酸化窒素の濃度を希釈ガスで制御することによって、任意の濃度で塩化ニトロシルを含有する塩化ニトロシル含有ガスが得られる。
よって、塩化物の無水物を充填して形成した充填層を有する反応管と、反応管内に二酸化窒素を供給する供給装置とを有する反応装置を用い、充填層に二酸化窒素を流通させる方法を用いた場合には、充填層に流通させる二酸化窒素の供給量を制御することで、製造段階であっても容易に生成させる塩化ニトロシルの生成量を調整できる。また、充填層に流通させる二酸化窒素として、希釈ガスで希釈された二酸化窒素を用い、希釈ガスと二酸化窒素との混合比を制御することで、製造段階であっても容易に生成させる塩化ニトロシル含有ガス中の塩化ニトロシル濃度を調整できる。
本実施形態の塩化ニトロシルの製造方法では、導入する二酸化窒素の濃度によらず、二酸化窒素と塩化物とを量論的に反応させることによって、モル量換算で二酸化窒素の半分量の塩化ニトロシルを発生させることが可能である。よって、導入する二酸化窒素のモル量(モル濃度)を適時選択することにより、任意のモル量(モル濃度)の塩化ニトロシルガスを製造できる。
本実施形態によれば、従来技術で生じることがあった下記の問題点も解消することが可能となる。
(i)ニトロシル硫酸と塩化水素を反応させて塩化ニトロシルを得る従来手法では、副生物として塩素と窒素酸化物を多量に含む濃硫酸が発生してしまう他、原料のニトロシル硫酸が湿度に対して不安定であり、高い腐食性を持つために保存が困難であるという問題点。
(ii)塩化ナトリウムと硝酸を反応させる従来手法では、塩化ニトロシルと等モル量の塩素が発生してしまう他、水溶液として反応を進行させるために、不純物として水が混入し、塩化ニトロシルが一部加水分解してしまうという問題点。
(iii)塩化ナトリウムや塩化カリウムと二酸化窒素を反応させる従来手法は、反応速度が非常に遅く、二酸化窒素と塩化物との接触時間を長くする必要があるほか、未反応の二酸化窒素が多量に残存してしまうために精製を行う必要があるという問題点。
(iv)従来の方法で製造された塩化ニトロシルは、製造の段階で濃度を制御することが困難であるという問題点。
(v)(iv)のため、高い毒性と高い腐食性を持つ塩化ニトロシルガスを、ドライアイス温度などに冷却して液体状態にて保存する必要が生じてしまいコストがかかり、安全面でも対策にコストがかかったという問題点。
また、本実施形態によれば、窒素酸化物や塩化水素、塩素などの反応性を有する不純物の含有量が少ない高純度な塩化ニトロシルガスを、任意の濃度で、必要な量だけ簡便に製造することも可能となる。
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、当該実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例1、実施例5は、参考例である。
[室温での反応における塩化物の種類と塩化ニトロシルの発生]
(実施例1〜4、比較例1〜4)
表2および以下に示す実施例1〜4、比較例1〜4の塩化物を、以下に示す質量で秤取り、それぞれ反応用の石英ガラス管(反応管)に充填し、塩化物の上下をシリカウールで固定した。
(実施例1)塩化カルシウム・2水和物(関東化学、特級、純度99.0−103.0%)0.30g
(実施例2)塩化ストロンチウム・6水和物(関東化学、特級、純度99.0%)0.40g
(実施例3)塩化コバルト(II)・6水和物(関東化学、高純度試薬、純度99.95%以上)0.40g
(実施例4)塩化鉄(III)無水物(和光純薬)0.40g
(比較例1)塩化リチウム(和光純薬、特級、純度99.0%以上)0.30g
(比較例2)塩化ナトリウム(関東化学、容量分析用、純度99.95%以上)0.30g
(比較例3)塩化カリウム(関東化学、特級、純度99.5%以上)0.30g
(比較例4)塩化鉄(II)・4水和物(関東化学、特級、純度99.0−102.0%)0.40g
実施例1〜4、比較例1〜4の塩化物の充填された石英ガラス管内に、供給装置を用いて窒素ガス(純度99.9999%以上)を70cm/分でフローさせながら、マントルヒーターを用いて200℃まで石英ガラス管を昇温加熱し、石英ガラス管からの水蒸気の発生が確認されなくなるまで乾燥処理(実施例1〜3においては風解処理)を行った。乾燥処理後、窒素フローを継続したまま反応温度である室温(23℃)まで冷却し、31ppmの二酸化窒素を含む窒素ガス(反応ガス)を石英ガラス管に50cm/分で流通させて、反応試験を行った。
赤外分光装置(Thermo Scientific、Nicolet iS50FT−IR)にガス分析用セルを設置し、反応試験により得られたガスを分析して二酸化窒素の転化率および純度を計算した。二酸化窒素の転化率および純度は、石英ガラス管に30分以上反応ガスを流通し、石英ガラス管から発生するガス中の塩化ニトロシルの濃度と未反応で残留する二酸化窒素の濃度とがそれぞれ安定したことを確認したうえで、以下に示す式を用いて計算した。実施例1〜4、比較例1〜4の試験結果を表2に示す。
転化率(%)=[A×2/(B+A×2)]×100
純度(%)=A/(B+A)×100
転化率および純度を示す上記式において、Aは反応試験により石英ガラス管(反応管)通過後のガス中の塩化ニトロシルの濃度(モル%)を示し、Bは反応試験により石英ガラス管(反応管)を通過後のガス中の二酸化窒素の濃度(モル%)を示す。
また、各反応試験にて得られたガスについて、オルトトリジン法を用いた塩素濃度分析も実施した。
Figure 0006565453
表2に示すように、実施例1〜4では、比較例1〜比較例3と比較して、転化率および純度が高く、効率よく塩化ニトロシルが生成することが確認された。
また、塩化ストロンチウムを用いた実施例2は、塩化カルシウムを用いた実施例1と比較して、転化率および純度が高く、塩化ニトロシルの生成効率が高いことが確認された。
塩化カルシウムを用いた場合と塩化ストロンチウムを用いた場合の反応のエンタルピーは、表1に示す通りほぼ同程度であるにも関わらず、表2に示すように塩化ニトロシルの生成効率に非常に大きな違いが現れている。このことから、塩化ストロンチウムが特異的に高い塩化ニトロシル発生効率を示すことが確認された。
また、いずれの反応試験においても、反応後に得られたガスから塩素ガスは検出されなかった。
また、塩化物としてアルカリ金属塩化物を用いた比較例1〜3では、塩化物として塩化リチウムを用いた比較例1の転化率が最も高く、表1に示す生成エンタルピーの序列と合致する傾向がみられた。
塩化物として塩化鉄(II)を用いた比較例4では、二酸化窒素も塩化ニトロシルも検出されなかった。また、比較例4では、反応試験を行うことにより石英ガラス管内の塩化物が変色し、薄紫に着色していることが確認された。これは、塩化鉄(II)中のFe2+が、酸化力を持つ二酸化窒素と接触することでFe3+に酸化され、硝酸鉄(III)が生成した結果、石英ガラス管に導入した二酸化窒素が塩化物表面に固着したためと推察される。
[塩化物量が塩化ニトロシル発生反応に与える影響]
(実施例5)
塩化カルシウム・2水和物(関東化学、特級、純度99.0−103.0%)を3.0g秤取り、塩化物として用いたこと以外は、実施例1と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。実施例5の試験結果を表3に示す。
表3には、比較のために、塩化カルシウム・2水和物の量を0.3gとして実施した実施例1の結果も併せて示す。
Figure 0006565453
表3に示すように、塩化物を3.0g用いた実施例5では、塩化物を0.3g用いた実施例2と比較して塩化物の量が多いため、塩化物と二酸化窒素とが十分に接触し、転化率および純度が高くなり、効率よく塩化ニトロシルが生成したことが確認された。
[反応温度が塩化ニトロシル発生反応に与える影響]
(実施例6)
石英ガラス管を恒温水槽に入れて反応温度を10℃としたこと以外は、実施例5と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
(実施例7)
石英ガラス管を氷冷して反応温度を0℃としたこと以外は、実施例5と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
(実施例8)
石英ガラス管をチラーで冷却し、反応温度を−11℃としたこと以外は、実施例5と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
(実施例9)
石英ガラス管をヒーター加熱して反応温度を80℃としたこと以外は、実施例5と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
(比較例5)
石英ガラス管をヒーター加熱して反応温度を90℃としたこと以外は、実施例5と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
実施例6〜実施例9、比較例5の試験結果を表4に示す。
表4には、比較のために、反応温度が室温(23℃)である実施例5の結果も併せて示す。
Figure 0006565453
表4に示すように、塩化物として塩化カルシウムを用いた場合、反応温度によって塩化ニトロシルの生成速度が大きく変化することが確認された。具体的には、反応温度が室温(23℃)である実施例5、反応温度が10℃である実施例6、反応温度が0℃である実施例7、反応温度が−11℃である実施例8、反応温度が80℃である実施例9では、反応温度90℃である比較例5と比較して、転化率および純度が高く、効率よく塩化ニトロシルが生成したことが確認された。特に、反応温度が−11℃である実施例8、反応温度が0℃である実施例7、反応温度が10℃である実施例6では、塩化ニトロシルの生成量が多かった。
(実施例10)
石英ガラス管を恒温水槽に入れて反応温度を10℃としたこと以外は、実施例2と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
(実施例11)
石英ガラス管を氷冷して反応温度を0℃としたこと以外は、実施例2と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
実施例10、実施例11の反応試験の結果を表4に示す。
表4には、比較のために、反応温度が室温(23℃)である実施例2の結果も併せて示す。
表4に示すように、塩化物として塩化ストロンチウムを用いた場合、反応温度によって塩化ニトロシルの生成速度が大きく変化することが確認された。また、反応温度が室温(23℃)である実施例2と比較して、反応温度が10℃である実施例10、反応温度が0℃である実施例11では、転化率および純度が高く、効率よく塩化ニトロシルが生成したことが確認された。
反応温度が0℃であって塩化物として塩化ストロンチウムを用いた実施例11において、反応試験により得られたガスの赤外分光スペクトルを測定した。その結果を図1に示す。図1に示すように、実施例11では、未反応で残留する二酸化窒素に由来するピークが弱く、塩化ニトロシルに由来するピークの強度が強く、塩化ニトロシルの生成効率が高いことが確認された。
[塩化ストロンチウムを用いた高純度な塩化ニトロシルの生成]
(実施例12)
塩化ストロンチウム・6水和物(関東化学、特級、純度99.0%)を1.0g秤取り、塩化物として用いたことと、石英ガラス管を氷冷して反応温度を0℃としたこと以外は、実施例1と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
(実施例13)
200ppmの二酸化窒素を含む窒素ガス(反応ガス)を石英ガラス管に10cm/分で流通させたこと以外は、実施例12と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。
実施例12、実施例13の反応試験の結果を表5に示す。
表5には、比較のために、塩化ストロンチウム・6水和物を0.40g用いた実施例11の結果も併せて示す。
Figure 0006565453
表5に示す実施例11と実施例12の結果から、塩化ストロンチウムの量を増大させることで、転化率および純度が高くなり、二酸化窒素の残留量が大きく低減されることが確認された。
また、実施例12と実施例13の結果から、二酸化窒素の濃度を増大させることによって、転化率および純度が高くなり、効率よく塩化ニトロシルが生成したことが確認された。これは、二酸化窒素の濃度が高まることで、二酸化窒素の飽和蒸気圧に対する相対圧が上昇し、塩化ストロンチウム表面に付着する二酸化窒素の量が増大したことや、より反応性の高い四酸化二窒素の生成が促進されたことによって、反応速度が向上したことによるものと予想される。
実施例12および実施例13において、反応試験により得られたガスの赤外分光スペクトルを測定した。図2は、実施例12の製造方法により得られたガスの赤外分光スペクトルを示すグラフである。図3は、実施例13の製造方法により得られたガスの赤外分光スペクトルを示すグラフである。
表5、図2、図3より、実施例12および実施例13では、二酸化窒素の残存量が低く、高純度であることが確認された。
[塩化コバルトと塩化ストロンチウムを混合した試験]
(実施例14)
塩化物として、塩化ストロンチウム・6水和物(関東化学、特級、純度99.0%)1.0gと、塩化コバルト・6水和物(関東化学、高純度試薬、純度99.95%以上)0.1gとを混合して用いたことと、石英ガラス管を氷冷して反応温度を0℃とし、200ppmの二酸化窒素を含む窒素ガス(反応ガス)を石英ガラス管に10cm/分で流通させたこと以外は、実施例1と同様にして反応試験を行ない、転化率および純度を求めた。試験結果を表5に示す。
表5に示すように、塩化物として、塩化ストロンチウムと塩化コバルトとを用いた実施例14では、塩化ストロンチウムのみを用いた実施例13と同等の結果であった。このことから、塩化ストロンチウムと塩化コバルトとの混合物を用いることで、塩化ストロンチウムと二酸化窒素との反応を利用して塩化ニトロシルを効率よく生成でき、しかも塩化ストロンチウムの使用量を抑制できることが確認できた。
また、コバルトは化合物毎に大きく色が異なることが知られている。塩化コバルト水和物は赤色、塩化コバルト無水物は青色であり、硝酸コバルト無水物は淡い赤色である。実施例14の反応試験では、石英ガラス管内の色の変化を観察することで、充填した塩化物の状態を確認できた。
即ち、塩化コバルトの色が赤から青に変化したことを以て、乾燥処理の完了が確認できた。さらに、塩化ニトロシルの反応試験後、充填した塩化コバルトのうち、反応ガス上流側の一部が淡い赤色に変化していた。この色の変化をみることで、充填した塩化物のうち塩化ニトロシル発生の為に消費された塩化物の割合を見積もることができた。
塩化コバルトを除く塩化物では、このような明瞭な色変化を示すものは少なく、特に塩化コバルトを混合することで、反応の進行程度を見積もることが容易になると考えられる。

Claims (6)

  1. 塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の水和物を風解して前記塩化物の無水物を得る工程を有し、
    前記工程で得られた、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の無水物と、二酸化窒素とを、−11℃以上90℃未満の反応温度で反応させて製造することを特徴とする塩化ニトロシルの製造方法。
  2. 前記塩化物の無水物と前記二酸化窒素とを21℃未満の温度で接触させて反応させることを特徴とする請求項1に記載の塩化ニトロシルの製造方法。
  3. 塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の水和物を風解して前記塩化物の無水物を得る工程を有し、
    前記工程で得られた、塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、塩化コバルト(II)、及び塩化鉄(III)からなる群より選択される1種以上の塩化物の無水物と、二酸化窒素とを、−11℃以上10℃以下の反応温度で反応させて製造することを特徴とする塩化ニトロシルの製造方法。
  4. 前記塩化物が、塩化ストロンチウムを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の塩化ニトロシルの製造方法。
  5. 前記塩化物が、塩化コバルト(II)を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の塩化ニトロシルの製造方法。
  6. 前記塩化物の無水物を充填して形成した充填層を有する反応管と、前記反応管内に二酸化窒素を供給する供給装置とを有する反応装置を用い、前記充填層に前記二酸化窒素を流通させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の塩化ニトロシルの製造方法。
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